概要情報
事件名 |
伊丹産業 |
事件番号 |
東京地裁平成19年(行ウ)第279号 |
原告 |
全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部 |
被告 |
国(処分行政庁:中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
伊丹産業株式会社 |
判決年月日 |
平成20年6月23日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
X組合は、平成14年5月27日及び同年12月5日、大阪府労委に対し、①Y会社が、X組合との間に行われた同年4月24日、同年5月16日を始めとする4回の団体交渉において誠実に交渉に応じなかったり、交渉を拒否したこと、②Y会社が、X組合の組合員であるX1に対して、雇用更新を拒絶したこと、③Y会社が上記③に関する団体交渉に誠実に応じなかったことが、いずれも不当労働行為に当たるとして救済命令を申し立てた。大阪府労委は上記①の一部についてのみ労働組合法7条2号の不当労働行為に該当するとして、文書手交の救済命令を発したところ、Y会社及びX組合ともにこの命令を不服として、中労委に再審査を申立てた。 中労委は、X組合からの再審査申立てについては、これを棄却し、Y会社の再審査申立てについては、大阪府労委の救済命令を取消し、X組合の救済申立てを棄却した(以下「本件命令」という。) 本件は、X組合が本件命令を不服としてその取消しを求めた事案である。
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判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,補助参加によって生じた費用を含め,原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
① 団体交渉は、双方が譲歩を重ねつつ、労働者の待遇ないし労使関係上のルールについて合意を形成することを目指して行うものであるから、使用者には、合意を求める組合の努力に対して誠実に対応し、合意達成の可能性を模索すべき義務があり、この誠実交渉義務に反した場合には、労働組合法7条2号の団体交渉拒否に当たり、不当労働行為となる。しかし、使用者には、上述の範囲を超えて、組合の要求を受け入れたり、譲歩したりするまでの義務はないのであって、結果として組合の意向を受け入れなかったとしても、直ちに誠実交渉義務違反になるものではない。そして、団体交渉が双方の歩み寄りによる合意形成の場である以上、使用者の態度が誠実交渉義務に反するかどうかは、他方当事者たる組合の態度と相関的な関係により判断されるべきであり、組合の合意を求める努力の有無、程度、要求の具体性や追求の程度、これに応じた使用者の回答や反論、その具体的根拠についての説明の有無、程度等を考慮して決せられるものである。 ② 上記の観点から、争いのない事実等に沿って検討すると、Y会社とX組合との間に行われた同年4月24日、同年5月16日の団体交渉時のY会社の説明や説得が不十分であるとはいえず、誠実交渉義務違反であるとはいえないものである。また、X組合は、労働基準監督署から指導等を受けたことを根拠に、Y会社では労働基準法違反の就労実態がまかり通っていたのに、調査を始めとする4回の団体交渉においてY会社が会社内の他の組合に対しては事務所等を貸与しながら、X組合分会に対しては貸与しないという異なる取扱いをすることに合理的な理由があるとはいえない。したがって、Y会社がX組合分会に対して事務所等を貸与しないことは、これによってX組合分会の組合活動に支障をもたらし、その弱体化を図ろうとする意図を推認させるものとして、支配介入に当たるというべきである。そして、本件会社分割により、Y会社とX組合分会との労働契約関係は、分割Y1会社に継承されたというべきであるから、分割Y1会社はY会社の支配介入に関する不当労働行為を継承したというべきである。 ③ 労組法上の使用者性を基礎づける労働契約関係は、必ずしも現実の労働契約関係のみをいうのではなく、これに近接する過去の時点における労働契約関係の存在もまた、労組法上の使用者性を基礎づける要素となると解するのが相当であるから、本件会社分割前後で法人格に何ら変動もないY会社とX組合の分会の分会員との間に、本件会社分割前おいて労働関係が存在し、事務所等の貸与問題も、労働関係が存在した時期において生起したものである以上、分割後の新Y会社が使用者たる地位を失うことはないと解するのが相当である。 ④ Y会社は、分割Y1会社事業部関連の債務の負担、分割Y1会社に対する設備投資及び研究開発投資、労働条件の不変更、経常利益の見込み等については説明しているものの、X組合分会らの要求にもかかわらず、財務諸表等の客観的な資料に基づいて、分割Y1会社の収益見込みの根拠を具体的に説明していないのであるから、Y会社のかかる対応は、労組法7条2号の不誠実な団体交渉に当たるというべきである。
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