労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名 南労会(紀和病院)
事件番号 東京地裁平成18(行ウ)194号
原告 全国金属機械労働組合港合同
全国金属機械労働組合港合同南労会支部
被告 国 (裁決行政庁:中央労働委員会)
被告補助参加人 医療法人南労会
判決年月日 平成20年3月26日
判決区分 棄却
重要度  
事件概要 X組合らは、Y病院に対し、①X組合K分会(以下「分会」という。)の分会長X1の退職が強要によるものであること、②病院の敷地内の建物2階部分にある組合事務所が破壊された事件の調査委員会のよる調査を打ち切ったこと、③平成4年6月30日付けでX2書記長を懲戒解雇したことは、いずれも労働組合法7条1号、3号の不当労働行為に当たるとして、大阪地労委に救済を申し立てた。大阪地労委は、上記③については、不当労働行為に当たるとして救済を命じ、その他の申し立てを棄却する命令を発した。これを不服としてX組合らは中労委に再審査を申し立てた。中労委は大阪地労委の上記③についての救済命令を取消し、X組合らの再審査申立てを棄却した(以下「本件命令」という。)。
 本件は、X組合らが本件命令の取消しを求めた事件である。
判決主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,補助参加により生じたものを含めて,原告らの負担とする。
判決の要旨 争点1 X2に対する懲戒解雇の不当労働行為該当性
  X2が踊り場で階段を背に対峙していた調査委員会メンバーであるY1事務長の体を押したことにより、同事務長が階段側へ転倒した本件転倒事件については、階段上部にいたY2総務部長がY1事務長の体躯を支えたため、幸いにも転落を免れたといえる。すなわち、X2の行為は重大な人身事故を発生させる危険の高いものであって、これを正当化することは困難というほかない。なお、X組合らは、Y1事務長が負った傷害は全治約5日のものにとどまったことを指摘するが、これは結果論にすぎないから、この点がX2の行為自体についての評価を左右する要素となるものではない。したがって、本件転倒事件に係るX2の行為が就業規則懲戒規定に当たるとした法人の判断には合理的な理由がある。
 また、年次有給休暇の未消化分の繰り越しについての運用変更を周知するため連絡会議へ向かうY3事務長及びY2総務部長を阻止するべく、X2が立ちはだかった本件阻止事件については、X2の行為は、実際にY3事務長の出席を妨げ、しかも、これにより会議の開催時刻に遅れを生じさせている以上、職場秩序違反を構成すると評さざるを得ないから、これが就業規則に当たるとしたY法人の判断にも合理的な理由はあるといえる。そして、併せて、①事務室長においてY3事務長と組合分会長等で団交再開の事務折衝を行っている際、X2がテーブルの天板を足で踏みつけて破損させた事件について、X2は処分(譴責及び弁償)を受けたにもかかわらず、始末書を提出せず、また、テーブルの弁償をしていないこと、②本件阻止事件及び本件転倒事件につき謝罪をしていないばかりか、特に本件転倒事件については、一貫して、Y法人の側に非があるとの見解を堅持していること、さらには、③テーブル破損事件、本件阻止事件及び本件転倒事件を通じて観察すると、労使紛争の場におけるX2の言動には、有形力の行使を伴う傾向が認められることをも勘案するならば、本件懲戒解雇が合理的な理由を欠くとはいえない。
 X組合らは、本件転倒事件及び本件阻止事件に係るX2の行動は、労使紛争の過程で生じたものである以上、組合活動として保護され、懲戒事由に当たらないと主張するが、前述のとおり、X2の行為は、正当な組合活動と評するのは、困難であるから、X組合らの主張は採用できない。その他のX組合らの解任手続に瑕疵があるなどの主張も、これを認めるに足りる的確な証拠もない。
  以上によれば、本件懲戒解雇が不当労働行為意思によりされたとは、認められないから、同解雇は労組法第7条第1号、3号には当たるとはいえない。
争点2 本件調査打切りの不当労働行為該当性
 本件調査委員会による調査では、X組合らの指摘に沿って、通常、想定される範囲の関係者に対する事情聴取が行われたといえる。また、本件調査打切りがされた平成4年3月時点では、病院営繕部職員やドアの修理業者などからはドアに付着していたとされる靴跡の存否は確認できず、また、対立していた別組合の組合員Aからも本件組合事務所破壊事件当日には問題とされている靴を所持していなかったことを示す納品書が提出されていたという状況にあったことからすると、任意の協力を基調とする本件調査ではこれ以上の事案解明を期待することは困難であったとみるのが相当である。したがって、Y法人が、警察などの捜査機関による調査に委ね、本件調査を終了させたことが不相当であったとはいえない。
 これに対し、X組合らは、別組合の組合員Aの上記納品書が虚偽のものであったとし、証拠を提出しているか、虚偽のものであったことを窺わせる事情も見いだすことは困難であるといわざるを得ないから、X組合らの主張は、上記判断を左右しない。
 また、X組合らは、本件調査が事件から3ヶ月経過後にされたことを問題視し、別組合の組合員Aの証拠のねつ造を主張するが、これを裏付けるに足りる証拠は見当たらない。X組合らのその他の主張も上記判断を左右しない。
 以上によれば、本件調査打切りは労組法第7条第3号の不当労働行為には当たらない。
争点3 X1に対する退職強要の有無
  平成元年10月、Y法人はX1を常勤職員として雇用したが、当時X1は、病院でパートとして稼働する傍ら学習塾経営にも携わっていたため、Y3事務長は、兼業禁止規定の関係で問題があるとして、平成2年3月までに学習塾の活動を整理しておくよう伝えた。平成2年4月、X1は、学習塾の活動につき、学習塾運営者として自身の名を残すが、実質的な運営は別の人物に委ね、自身は学習塾から収入を得ずに、ボランティアのような地位で参加するにとどめたい旨を報告し、Y3事務長もこれを了承していた。その後、平成2月10月X1は分会執行委員長に就任し、平成3年7月中旬、前記学習塾が配付した広告にX1が指導者として記載されていること知ったY1事務長は、X1に報告書の提出を求めた。このことに関して、分会は、突然問題視するのは極めて不可解であると抗議した。このような中、X1は退職した。これらの事実認定からすれば、X1とY3事務長とのやりとりの後、Y1事務長が問題視するまでの間、病院において、X1の学習塾に関する活動が問題とされたことはなかったことは当事者間に争いがない。そして、組合は法人がX1に退職を強要したと主張し、これと同旨を述べる証拠も存在するが、同分会長の退職の経緯の認定・判断につき最も重要なX1自身による事情説明はなく、また、本件全証拠によっても、その信用性を裏付けるに足りる的確な証拠も見当たらない以上、前掲の証拠を採用することはできない。
 よって、X1の退職が法人により強要されたことによるものであるとは認めるに足りない。

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成3年(不)第36号、平成4年(不)第9・28号 一部救済 平成11年10月6日
中労委平成11年(不再)第39・40号 一部変更 平成17年8月29日
東京高裁平成20年(行コ)第201号 棄却 平成20年11月27日
 
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