事件名 |
国民生活金融公庫 |
事件番号 |
東京地裁平成 7年(行ウ)第105号
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原告 |
国民生活金融公庫 |
被告 |
東京都地方労働委員会 |
被告参加人 |
個人19名 |
判決年月日 |
平成12年 2月 2日 |
判決区分 |
救済命令の一部取消し |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、組合内の反主流派組合員19名が、役職位への任用及び昇
給・昇格について、組合活動を理由に差別されたことが不当労働行為であるとして争われた事件である。初審東京地労委(平成7
年4月4日決定)は、各申立人の職位・給与を、それぞれの同期者の中位に位置する者の職位・給与への是正及び既支給額との差
額の支給(年5分の金員の付加)、文書掲示を命じたところ、金庫はこれを不服として行政訴訟を提起した。東京地裁は、組合員
19名の職位・給与の是正命令のうち、組合員X13ら16名についての職位・給与の是正を命じた部分及び組合員X14ら3名
の昭和59年4月1日における職位・給与の是正を命じた部分を取り消した。 |
判決主文 |
1 被告が都労委昭和61年不第90号及び昭和63年不第24号事
件について平成7年4月4日付けで発した命令中次の部分はこれを取り消す。
1 申立人X1ら16名に関する部分。
2 申立人X2ら3名に関し、主文1項において、被申立人が、昭和59年度の同年4月1日における職位及び給与につき、別
表「賃金等是正一覧」のとおり是正し、既支給額との差額を支払わなければならないと命じた部分及び同2項において、被申立人
が右3名に対する右差額の支払が完了するまでの間、年5分の割合による金員を支払わなければならないと命じた部分。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、これを19分し、その3を原告の負担とし、その余は被告の負担とし、補助参加によって生じた訴訟費用は、原
告と被告補助参加人X2ら3名との間においては、被告補助参加人X2ら3名に生じた費用の4分の3を原告の負担とし、その余
は各自の負担とし、原告とその余の被告補助参加人らとの間においては、全部その余の被告補助参加人らの負担とする。 |
判決の要旨 |
5200 除斥期間
5201 継続する行為
昇給に関する考課査定において差別的な査定があった場合に、その賃金上の差別的取扱いの意図は、賃金の支払いによって具体的
に実現されるのであって、右査定とこれに基づく毎月の賃金の支払いとは一体として1個の不当労働行為となるとみるべきである
から、昭和60年1月の査定に基づき、同年4月1日に発令された同年度の賃金の最終支払時期は、同61年3月31日であり、
本件申立ては同年9月13日になされているから、賃金支払いの継続中に救済命令の申立てがなされたことになり、労組法二七条
二項の定める期間内にされたものとして適法であるとした例。
5200 除斥期間
5201 継続する行為
昭和61年度分の昇給・昇格差別に関する申立ても(1)と同様の理由から、労組法二七条二項の定める期間内にされたものとし
て適法であるとした例。
5200 除斥期間
5201 継続する行為
昭和62年度分の昇給・昇格差別に関する申立ては、同63年3月31日になされていることから、(1)と同様の理由から、労
組法二七条二項の定める期間内にされたものとして適法であるとした例。
5200 除斥期間
5201 継続する行為
昭和59年度分の昇給・昇格差別に関する申立ては、同61年9月13日になされていることから、1年を徒過したもので不適法
であるとして、同59年度分の昇格・昇給についての是正を命じた救済命令を取り消した例。
1202 考課査定による差別
6342 不利益取扱いに関する不当労働行為の成否の判断の誤り
組合員X13ら16名の昭和60年から同62年にかけての勤務状況等は、基本的能力や事務処理に対する意欲に欠ける等問題が
あり、このことに照らせば、同61年度ないし同63年度における同人らの格付けは不当に低いとは認め難く、金庫が同人らの組
合活動等を決定的動機として不利益に取り扱ったものとは認められないとして、同人らの同60年度から同62年度分の昇給・昇
格についての是正を命じた救済命令を取り消した例。
1202 考課査定による差別
昇格について、組合員以外の職員を特段の事情のない限り全員昇格させるという年功管理的な運用が行われている場合には、昇格
の時期についてはなお検討を要するものの、特段の事情が認められないのに組合員がいつまでたっても昇格しないことは、原告の
組合員の活動に対する嫌悪とあいまって、原告の不当労働行為意思に基づくものであると推認することができるとされた例。
1202 考課査定による差別
昇格するものについては、入社からの年次がおおむね一致しているという意味での年功管理的な運用が行なわれている場合、昇格
する年次に到達したにもかかわらず昇格しなかったことが不当労働行為となるというためには、前提として昇格してしかるべきで
あるという事実が認められなければならず、昇格年次への到達は昇格への必要条件であるに過ぎず昇格の十分条件であるとはいえ
ないとされた例。
1202 考課査定による差別
昇格の十分条件を満たしたというには、(1)まず、組合員以外については特段の事情のない限り最終的には全員を昇格させると
いう運用が行われていること、(2)そのような運用が認められないとしても、組合員が昇格した者と比較して能力、勤務成績等
について劣らないこと、(3)さらに、(2)が直接証明されないとしても、原告が人事考課において組合員の勤務実績等を無視
し又は虚偽の事実を根拠として殊更に低く評価している事実が証明され、それと他の具体的事実とを併せ考えると、原告が昇格さ
せないために意図的に低く評価していると推認できること、が必要であるとされた例。
1202 考課査定による差別
昇給・昇格において組合員を不利益に取扱うために殊更に低く評価しているという事実の証明は困難であるが、長い年数をかけて
能力等を見極めて昇格させるか否かが決定されており、運用上同期、同学歴の職員の大多数の者が昇格しているという事実が存す
るときには、それにもかかわらず昇格していない労働者は、端的に自らの勤務状況、勤務実績、能力が劣悪とはいえない具体的事
実を立証すれば足りる。この場合使用者は、その職員の能力、勤務成績が相当劣悪であることを裏付ける具体的事実を立証する実
際上の必要が生ずる、とされた例。
5004 管理職への登用の請求
調査役は、直属の長を補佐して部下を指揮監督し、特に高度な判定的業務を行うとともに、必要に応じて直属の長を代理する職務
を遂行する能力に達していることが昇格基準とされているが、人事考課権はなく、出退勤の時間拘束を受け、その任用数は業務量
に基づき各支店ごとに定めるものとされているから、労働委員会が救済方法として調査役への任用を命じても、原告の管理監督権
限、指揮命令権限の系統上、特に支障はないものと考えられる、とされた例。
1202 考課査定による差別
組合員X14ら3名の昭和60年から同62年にかけての勤務状況等に、取り立てて人事考課上低く評価する根拠が見出し難く、
同人らに対する格付けは不当に低いものというべきであり、金庫が組合活動等に対して嫌悪を示す発言をしたこと等を考慮する
と、金庫が同人らの組合所属あるいは組合活動のゆえに不利益に取扱い、支配介入を行ったものとして、労組法七条一号及び三号
の不当労働行為に当たるとした救済命令を維持した例。
6230 主張・立証の制限
いわゆるチャンピオン方式で立証が行われた本件及び労働委員会において人証の対象とされなかった組合員らの立証につき、使用
者が勤務成績等に関する書証を提出することは時機に後れて提出された攻撃防御方法に当たるとはいえないとされた例。
6320 労委の裁量権と司法審査の範囲
金庫が組合員を昇格させないために意図的に低く評価していると推認できるときには、組合員を昇格させるべき時期及び格付けに
関し、比較の対象となる同期、同学歴の職員の能力、勤務実績等が明らかにされていない限り、労働委員会が裁量により同期、同
学歴の職員の中位者と同等の格付けをすることも適法であると解されることから、組合員X14ら3名について、同期中位者と少
なくとも同等の格付けとする労働委員会の命令は、裁量の範囲内にあるとした例。
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業種・規模 |
金融業、保険業 |
掲載文献 |
労働委員会関係裁判例集35集24頁 |
評釈等情報 |
労働判例 2001年8月1日-15 783号 116頁
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