第5章 | 一時保護 |
1. | 一時保護の目的は何か 一時保護の第一の目的は子どもの生命の安全を確保することである。単に生命の危険にとどまらず、現在の環境におくことが子どものウェルビーイング(子どもの権利の尊重・自己実現)にとって明らかに看過できないと判断されるときは、まず一時保護を行うべきである。 一時保護を行い、子どもの安全を確保した方が、子どもへの危険を心配することなく虐待を行っている保護者への調査や指導を進めることができ、また、一時的に子どもから離れることで、保護者も落ち着くことができたり、援助を開始する動機付けにつながる場合もある。 子どもの観察や意見聴取においても、一時保護による安全な生活環境下におくことで、より本質的な情報収集を行うことが期待できる。 以上の目的から必要とされる場合は、まず一時保護を行い、虐待の事実・根拠はそれから立証するという方が子どもの最善の利益の確保につながりやすい。 |
2. | 一時保護の速やかな実施 緊急一時保護が必要か否かは、第3章通告・相談への対応及び、第4章調査および保護者・子どもへのアプローチとの一連の流れの中で判断しなければならない。 児童虐待防止法では、児童虐待に係る通告(児童虐待防止法第6条第1項)又は市町村等からの送致(児童福祉法第25条の7第1項第1号等)を受けた場合、子どもの安全の確認を行うよう努めるとともに、必要に応じ一時保護(児童福祉法第33条第1項)を行うものとされ、その実施に当たっては、速やかに行うよう努めなければならないとされている(児童虐待防止法第8条)。 この場合の「速やかに」は、何時間以内などのといった具体的な期限を示すものではないが、事例によっては直ちに安全の確認、緊急保護の必要な場合もある。 通告の段階で特に緊急性が予測される場合などには、直ちに対応すべきであるが、生命に関わるなど重大な事件が発生する前の対応を進める上で、休日や夜間に関わりなくできる限り速やかに対応する事を原則とすべきである。 これまでも児童相談所においては早期の安全確認及び一時保護の努力がなされているが、児童虐待防止法に基づく努力義務が課せられていることに留意しなければならない。 |
3. | 虐待が疑われる事例への対応の流れ 虐待が疑われる事例の場合、緊急かつ組織的な対応が必要である。ことに、通告があったにも関わらず、安全の確認、一時保護などの対応の遅れにより子どもの生命に危険が及ぶようなことがあってはならない。そこで、通告から一時保護の要否を判断するまでの対応の流れを示したのが図5−1「子ども虐待対応・アセスメントフローチャート」である。 |
(1) | 通告及び当面の方針決定 虐待については、子ども本人や虐待を行っている保護者からの相談と近隣等個人や関係機関等からの文書又は口頭による通告のほか、匿名の通告もある。 通告者が個人の場合には、「虐待でなかったらどうしよう」と通告することを躊躇する気持ちや、「恨まれたり、責任を問われるのではないか」と通告後の事態への危惧感から不安な心理状態で通告してくることが多い。一方で、児童相談所や市町村が、すぐに虐待をやめさせて問題を解決してくれると期待して、通告してくる場合もある。 いずれの場合であっても、通告を受理した場合の対応の方法や情報源の秘匿について十分理解を求めるなど、不安や不信感を相手に与えない対応によって、通告・相談の内容を聴取し、確認しなければならない。 虐待相談・通告受付票(表5−1)の記入方法や当面の方針を決定する緊急受理会議の持ち方については、第3章通告・相談への対応を参照のこと。 |
(2) | 情報収集 一般の相談援助の場合でも始めからすべての情報が得られるわけではないが、児童虐待が疑われる事例では特に、最初は不確実な情報から出発することが多い。したがって、児童相談所や市町村内部で情報を集約できる体制を整えることはもちろん、関係機関とも早い時期から情報を共有することが重要である。このため、子どもや保護者との面接だけでなく、子どもの通園・通学先、地域の民生・児童委員や主任児童委員、各専門機関など多面的な情報収集を行う。特に、子どもについては、所属集団への訪問など、把握しやすい方法を優先することを考慮する。 家庭訪問にあたっては、複数の職員で行うとともに関係機関の職員に同行を依頼するなど、調査の客観性を確保する。子どもや保護者との面接では、事情聴取的な情報収集は避け、カウンセリングマインドを心がける。 収集した情報は、情報を得た日時、調査者、同行者、調査先、具体的内容などを克明に記録に残す。また、口頭で得られる情報だけでなく、観察によって得られる情報も重要な判断材料となるので、観察結果を記録にとどめるように努める。法的対応をとる際の証拠資料・参考資料となる場合もあるので、調査結果は事実等について、具体的かつ克明に記録するとともに可能な限り文書や写真等を収集することも必要である。 |
(3) | 速やかな安全確認および面接 安全確認は、原則として伝聞でなく、児童相談所又は市町村の職員が直接子どもに会って確認することをを基本とする。 この段階の訪問は子どもの安全確認や一時保護の要否判断など、緊急かつ客観的な判断が必要なため、児童相談所の心理職や管理職など、あるいは福祉事務所の職員等を交え複数の職員が立ち会うこととする。男女の職員を組み合わせることが対応に有効な場合もある。地区担当の枠にこだわらずに役割を分担することも重要である。 通告受理後速やかに安全を確認することは、生命に関わるような事件が発生する前に対応する観点が重要である。したがって、通告の段階で特に緊急性が予測される場合など、特に早い対応が必要である。とりわけ乳幼児については速やかな対応が必要となる。 また、休日や祝日に関わりなく対応すべきことは言うまでもない。 |
(4) | 居所の情報欠落・不明への対応 通告によっては、保護者や子どもの居所に関する情報が欠落していたり不明な場合もある。そのような時でも、記録は残すとともに、住所がわからなくても地域が判明している場合は、主任児童委員や民生・児童委員、警察、市町村児童福祉主管課、保健所・保健センターなど、必要と思われる機関には通告内容を伝え、注意を促すとともに、該当事例に関して情報を得た場合には速やかな連絡を依頼する。他の機関に、似たような訴えがなされる場合もしばしばあるからである。 なお、情報収集における留意点や調査に際しての他機関との連携方法、調査に拒否的な親へのアプローチ、子どもからの事実確認の方法等について、本手引き第4章「調査および保護者・子どもへのアプローチ」を参照のこと。 |
(5) | 立入調査 事前に同行する職員や関係機関とで綿密な打ち合わせを行い、立入調査の目的や役割分担を明確にしておく。 特に、保護者からの加害行為等に迅速に対応し、子どもや職員等の安全確保を図るため、必要があると認めるときは、警察に援助を依頼して事前協議を行い、これに基づく連携を図るよう努める。 このほか、立入調査に当たっての留意点等については、本手引き第4章「調査および保護者・子どもへのアプローチ」を参照のこと。 |
(6) | アセスメントシートによる保護の要否判断 表5−2および図5−2を参照のこと。 |
(7) | 保護・安全確保の実施 一時保護に際しての留意点等については、本手引き第5章「一時保護」を、また在宅指導における留意点等については同手引き第8章「援助(在宅指導)」を参照のこと。 |
4. | リスクアセスメントシートによる一時保護の要否判断 |
(1) | 客観的判断の必要性 一時保護の要否判断は、子どもや家族の生活に大きな影響を与える。誤った判断により子どもの生命を守れずに終わる危険性もあるが、一方、必要のない親子分離により子どものトラウマの原因になったり、家族が子育てをする力を弱めてしまう危険性もある。過不足のない介入や援助のあり方を的確に判断しなければならない。 保護の要否判断については、担当児童福祉司個人の判断であってはならず、所内会議等を通じた機関決定は無論のこと、外部との連携も含め、できる限り客観的で合理的な判断をしなければならない。そのためには、系統的かつ専門的な情報収集と情報整理、そして情報評価が必要である。 具体的には、判断の客観性、的確性を高めるため、あらかじめ用意されたリスク度判定のための客観的尺度(リスクアセスメント基準)に照らし合わせて緊急介入の必要性や緊急保護の要否判断等を行うことにより、対応の遅れや判断の躊躇等を防止し、児童福祉の専門機関としての客観的な判断を定着させなければならない。 平成9年度から取り組まれていた厚生科学研究「子ども虐待・ネグレクトリスクマネージメントモデルの作成に関する研究」(分担研究者 高橋重宏)において、虐待対応の先進国であるカナダ、オーストラリアにおけるリスクアセスメントやアメリカでの対応方法、国内研究等を参考に、日本版のリスク・アセスメントモデルが児童相談所での適用研究を経て示された。 上記研究を参考に、リスクアセスメントシートによる保護の要否判断の方法を児童相談所での適用の参考として以下に示す。 |
(2) | 情報収集 一般の相談援助の場合でも始めからすべての情報が得られるわけではないが、児童虐待が疑われる事例では特に、最初は不確実な情報から出発することが多い。したがって、児童相談所や市町村内部で情報を集約できる体制を整えることはもちろん、関係機関とも早い時期から情報を共有することが重要である。たとえば、福祉事務所と保健所と児童相談所が把握している情報を総合化すれば、子どもの生命に危険があることが判ったはずなのに、それぞれが断片的な情報しか持っていなかったために判断を誤ったというようなことがあってはならない。情報の共有化を図るためには、電話連絡だけでなく、文書による連絡やネットワーク会議の開催など、様々な連携方法を工夫する必要がある。 なお、お互いに守秘義務を持った専門家としての信頼関係に基づき情報を共有するのであり、交換した情報を不必要に外に漏らすことがあってはならない。 虐待が疑われる場合、情報収集に許される時間が限られている場合もある。このため、当面の判断に必要な情報を優先して集める。表5−2に示した「一時保護決定に向けてのアセスメントシート」は、加藤曜子等が作成している「保護決定アセスメント指標」をもとに、項目を8群に分けて再編成したものであるが、どのような情報を優先的に集めるかを計画する際にも参考となるものである。 緊迫した状況などで、児童相談所や市町村の職員が情報を聞き漏らしたり、尋ね忘れたりすることも起こりやすい。必要な情報を漏れの無いように収集するためにもこのアセスメントシートを活用すべきである。ただし、このシートは情報の整理と判断を目的としているので、情報収集のためには充分な記述欄が備えられてはいない。シートには要点のみを記すこととし、詳細な情報は別に記録する必要がある。 |
(3) | 情報整理(アセスメントシートの記入) 持ち寄った断片的な情報を一つに統合するためには、情報整理の枠組みが必要である。 シートに記入する際には、まず、各群の中の小項目から記入する。それぞれの小項目について該当すれば□の中にチェックをつける。チェックを付けるかどうか迷うような場合は、まずはチェックを付けておいて、[4]の判断をする段階で十分に協議する。 小項目に「例」が掲げられている場合には、該当するものを○で囲む。例に示されていない場合は( )内に記述する。 各群の中で、一つでもチェックが付いた項目がある場合、その群の見出しとなっている質問について「はい」の方にチェックを付ける。たとえば、「外傷」という項目にチェックがあれば、その群の見出しとなっている「すでに虐待により重大な結果が生じている?」という質問に対し、「はい」の方にチェックを記入する。 右側の自由記述欄には、小項目や見出し項目に関してチェックがついた状況を理解するのに必要な情報を記入する。 |
(4) | 情報評価(アセスメントシートを用いた判断) 上記のように記入すると、第1群から第8群までの各見出し項目に「はい」または「いいえ」のチェックが記入された状態となる。この結果に基づき、図5−2「一時保護決定に向けてのフローチャート」をたどる。 以下、図5−2について解説する。
表5−2および図5−2は、一時保護の必要性をできるだけ客観的に判断するための補助的な道具として用いられるべきものであり、機械的に判断すべきではない。それぞれ、チェックが付いた項目について、基となった情報に戻り状況を十分に理解、分析することが的確な判断につながる。そして、表5−2および図5−2を参考にしつつ、児童相談所や市町村内で協議して一時保護の要否を判断し、決定する必要がある。 また、一時保護の要否判定をできる限り的確に判断するためには、できる限り幅広く情報を集め、総合的な判断をすることが重要である。仮に第[1]群から第[5]群で「はい」にチェックがついた場合であっても、時間の許す限り、第(8)群までの項目を含めて情報収集に努めなければならない。しかし、一方で、緊急を要する状況なのに第[8]群までの情報がすべて集まっていないことを理由にして介入を遅らせるべきでもない。 たとえば、乳幼児が頭部に外傷を負って複数回目の入院をしたとすれば、表5−2の第[3]群と第[4]群、[5]群に「はい」のチェックが記入されることになり、リスクアセスメントの結果としては、一時保護まで考える必要がある重大事態であることを示唆している。 しかし、少なくとも退院までの時間的な余裕があるので、その間、関係機関へ照会するなどして、子どもや家族の状況についての情報収集を継続し、より的確な結論を出せるように努めるべきである。しかし、子どもが退院する時点で、保護者の生育歴に被虐待歴があるかどうか分からないなどリスクアセスメントが未完了だという理由で、判断を遅らせてはならない。 いずれにしても、リスクアセスメントをすることにより、情報収集を綿密に行うことと、速やかに判断することとのバランスについても、的確な判断が必要である。 |
5. | 職権による一時保護の留意点は何か |
(1) | 基本的留意事項 職権による一時保護をするに当たって、まず留意すべきは、それが非常に強力な行政権限であるという認識を踏まえて適切に運用しなければならない、ということである。 児童福祉法においては、従来一時保護の期間は定められていなかったが、児童虐待防止法において、児童福祉法に基づく一時保護の期間を原則として2月に限ることとされた。もっとも、施設入所のように児童福祉法第27条第4項のような保護者の同意を要する旨の規定はなく(すなわち職権で実施できる)、(児童福祉法第27条の3の規定からして、子どもの行動の自由を制限できると解されるので)子どもの意思にも反して実施できる。関係者の意思に反して行う強制的な制度は、通常は裁判所の判断を必要とするが、児童福祉法の一時保護については裁判所の事前事後の許可も不要である。このような強力な行政権限を認めた制度は、諸外国の虐待に関する制度としても珍しく、日本にも類似の制度は見当たらない。 このような強力な制度であるがゆえに、職権一時保護は虐待を受けている子どもの救出のためには非常に有効であり、必要な場合には積極的に活用することが期待されているのであるが、同時にあまりに強力であるがゆえに保護者の反発も大きいことは避けられない。 これまではややもすると、保護者の反発を怖れるあまり、職権一時保護を控える傾向があったことは否定できないが(例えば、職権一時保護は警察からの身柄を伴った通告の場合に限る、という運用をしていた児童相談所もあった)、それは誤りであって、あくまでも子どもの保護を重視しつつ、具体的な運用に配慮する、という姿勢が重要である。 子どもが保護者と離れて学校や保育所にいる時に保護することもできるが、できれば敷地外で保護する等の配慮が必要なこともあり、また保護者への告知も速やかに(同時である必要はないであろう)行う必要がある。 |
(2) | 一時保護の期間 従来、期間の定めがないことから、保護者は「いつまで保護されるのかわからず、児童相談所に聞いても答えてくれない」と反発することが多かった。また保護者の不安を緩和するとともに、子どもとその保護者を引き離すという強制力を伴う措置を行う際に人権に配慮する必要があった。このため、一時保護の具体的期間については、原則として2月という期間が設けられた。このような背景を踏まえ、児童相談所としても短期の目標を設定し、それを保護者に告知するような運用が望ましい。 一時保護の延長が必要な場合の例としては、
また、一時保護の期間を延長する際には、原則として、その理由を子どもや保護者に説明するものとする。 |
(3) | 広域的な対応や委託一時保護の活用 一時保護が必要な子どもについては、その年齢も乳幼児から思春期まで、また一時保護を要する背景も非行、虐待あるいは発達障害など様々である。一時保護に際しては、こうした一人ひとりの子どもの状況に応じた適切な援助を確保することが必要である。 しかしながら、近年、地域によっては一時的に定員を超過して一時保護所に子どもを入所させる事態が見られ、またこうした様々な背景等を有する子どもを同一の空間で援助することが一時保護所の課題として指摘されている。 このため、一時保護については、
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(4) | 警察との関係 具体的な執行の場面でも、保護者の同意が得られそうもないときに児童相談所の責任ある決断として行うのであるから、保護者が抱きかかえているような時に単独でも執行できそうか、警察の協力が必要か等を的確に判断して、協力が必要と判断したら直ちに明確な要請をすべきである。保護者が家の中に閉じ込めているような時に立入調査と連動させて保護することもできるので、具体的な立入方法についても児童相談所の責任で決めるべきである。(なお、建物内部で暴行、傷害などの犯罪が行われていると警察が判断した場合には、警察の犯罪捜査が主になることもあり得る。) また、警察が先に警察官職務執行法によって保護し、児童相談所に電話で通告をしてきたものの、直ちに一時保護できないときには、暫時警察に一時保護を委託する場合があるが、どの時点で一時保護を決めて委託したのか、を明確にするべきである。 なお、児童相談所においては、児童福祉施設等への一時保護委託の活用、広域的な対応等により、虐待を受けた子どもと非行児童の混合での援助等を回避し、すべての子どもに適切な援助を行うことが必要である。 警察のもとにある子どもについて通告が行われた場合、一時保護所に虐待を受けた子どもと非行児童を共同で生活させないことを理由に、非行児童の身柄の引継を拒否することはできない。しかし、一時保護委託や広域的な対応等には一定の時間を要することや、児童相談所が遠隔地にある場合などやむを得ない事情により、児童相談所が直ちに引き取ることができないときは、警察に一時保護を委託することも考えられる。 こうした警察が行う一時保護の取扱いについては、警察庁生活安全局少年課より平成13年3月8日付で各都道府県警察本部等宛に通知されている。 |
(5) | 教育・学習指導 一時保護している子どもの中には、学習をするだけの精神状況にない、あるいは学業を十分に受けていないために基礎的な学力が身についていない子どもなどがいる。このため、子どもの状況や特性、学力に配慮した指導を行うことが必要であり、在籍校と緊密な連携を図り、どのような学習を展開することが有効か協議するとともに、取り組むべき学習内容や教材などを送付してもらうなど、創意工夫した学習を展開する必要がある。 また、特にやむを得ず一時保護期間が長期化する子どもについては、特段の配慮が必要であり、都道府県又は市町村の教育委員会等と連携協力を図り、具体的な対策について多角的に検討し、就学機会の確保に努めること。 |
6. | 一時保護について子ども、保護者にどう説明するか 一時保護の判断は、子ども自身の意思に反しても、あるいは保護者の同意が得られない場合にもこの処置は可能であるとされている。 しかし、虐待事例が一時保護だけで解決することはまずなく、その後の保護者との関係を考えれば、当然同意を得るよう最大限の努力をすべきである。また、子ども自身も、親子分離の局面に立たされて明確に意思表示ができなかったり、同意しようとしない場合もあり、一時保護に当たって子どもおよび保護者にどう説明するかということは、その後の援助に大きな影響を及ぼす重要なポイントである。 |
(1) | 子どもへの説明
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(2) | 保護者への説明
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7. | 保護者への一時保護告知について 一時保護は施設入所と異なり、保護者の意思は要件とはなっていない。すなわち児童相談所の職権で実施することができる。したがって、意思を確かめ、同意を求めた上で、一時保護を行うことが原則であるが、法的には保護者の意思を確かめる必要はない。 他方で一時保護は行政処分として行政不服申立ての対象となり、保護者には不服申立権があるので、児童相談所としては、保護者に一時保護の事実を告知する必要がある。その場合には、一時保護所の具体的な所在地までも記載するのが原則である。(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針の改定について」告知書面のひな型参照) 他方で、実際問題として、職権一時保護をしたような時は、保護者も興奮しており、一時保護所から子どもを取り戻そうという気配を示すことも多い。取戻しの危険について言えば、一時保護所は福祉施設に比して閉鎖的な構造になっているところが多く、かつ公の施設であるという点で、保護者としても容易には取戻しに踏み切れない。しかし、小規模な一時保護所の場合には宿直体制も弱く、危険がないとは言えない。 したがって、取り戻す危険が大きい時には、一時保護を決定した児童相談所所在地以外にある一時保護所に保護した上、告知事項から一時保護所の所在地を省略する、という扱いもありえよう。 また、遠方の福祉施設に一時保護委託をした上、同様に施設所在地を告知事項から省略する、という扱いも許されるであろう。一定の場合には具体的所在場所を告知しないことも許容されるべきとした判決も出ており、この判決は確定している(平成11年2月22日大阪地方裁判所第17民事部)。
なお、告知は必ず両親あてにしなければならないか、という問題がある。例えば、母親と子どもが父親の暴力から逃れて家出している場合に、母親の希望(一時保護願)によって一時保護する時には、児童相談所としては、わざわざ父親にも告知する必要があるだろうか。告知した場合に父親は子の所在ひいては母親の所在を知って追及するであろう。告知するにせよしないにせよ、児童相談所としては父母のいずれかに加担せざるを得ない立場に置かれる。 一時保護の制度が、保護者すなわち現に子どもを監護している者から子どもを分離する制度であって、上記の場合には母親のみを保護者として扱えば足りる、という考えをとれば、不服申立権も母親のみに認めればよく、その方が子どもの安全に資することになる。しかし、従来から父親と母子が別居していればともかく、上記のような場合であれば父親に不服申立権がないとは言いがたいので、父親にも一時保護を告知した上、一時保護所または一時保護委託先の所在地を告知事項から省略する、という扱いにとどめるのが相当であろう。 |
8. | 一時保護中の子どもに対する援助はどうあるべきか 一時保護所に入所することは、子どもにとって家族から分離されて新しい環境に入ることである。とりわけ、虐待を受けた子どもにとっては、緊急避難場所として安心して生活できる場であるとともに、親子関係を見つめなおし、その後の生活の方向を決定する場でもあり、一時保護所での生活は非常に重要な役割を担っている。 一時保護所では、ゆるやかで規則正しい生活の中での保育や学習、スポーツやレクリェーション等を通して、行動面の観察や生活指導を行うが、この間に、児童福祉司の面接や心理職員による心理検査、精神科医の診察なども並行して実施する。 |
(1) | 入所時の対応 入所時は、即座に子どもの健康・身体状況を把握しておくことが重要である。
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(2) | 子どもに援助を行う際の留意点
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9. | 保護者が一時保護中に面会を希望する場合の対応について |
(1) | 対応上の留意点 虐待事例の一時保護は、保護者と分離して子どもの生命および安全の確保と情緒的な安定等を図る目的がある。一時保護して問題となるのは保護者の面会や引取要求への対応である。 面会は子どもの福祉を最優先して実施する。保護者の強引な面会要求には、子どもの福祉と権利を守る公的機関としての児童相談所の立場を伝えて対応する。
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(2) | 面会に対する基本的な考え方 一時保護の目的として[1]緊急保護、[2]行動観察、[3]短期入所指導などがあるが、いずれの場合でも子どもの生活の場所を保護者の家庭から分離することが基本的な要請であり、それ以上に親子の接触をどの程度制限するかは、各々の目的によって異なる。 本来、親子はともに生活する権利があり、やむを得ず分離される場合でも親子の交流は保障されなければならない。 一時保護制度は、行政機関だけの権限で実施できる強大な制度であるだけに、具体的な運用においては、子どもにとっても保護者にとっても過剰な制限にならないように、十分配慮すべきである。犯罪被疑者を拘束するための勾留制度においても、第三者との面会を禁止するには裁判所の別個の許可が必要であることも留意すべきであろう。 ところで、虐待の場合の一時保護は[1]に該当し、子どもの安全の保障が第一目的となることはいうまでもない。生活の場の物理的分離はもちろん必要であるが、子どもとしては保護者への怯えなど虐待による精神的動揺や不安が強く、これらを治療することも一時保護の重要な課題であるから、保護者との接触(面会・電話・手紙)をある程度制限することはやむを得ない。精神科医、児童福祉司、心理職員、一時保護所の職員の協議により、面会が子どもに精神的なマイナスを及ぼすおそれがあれば、禁止することもやむを得ない。 また、保護者は「子どもに『会いたいかどうか』の意見を聞いてほしい」と要求することもあるが、「子どもの意見を聞いた結果、面会させない」という対応をすることは避けるべきである。子どもに聞くにしても、その回答は保護者にはそのままは伝えない、という形で子どもに安心感を保障してやる必要があるからである。 したがって、保護者に対しては、「客観的な判断として面会は子どもにとってマイナスである」という説明ができなくてはならない。そのためにも保護者に対して、一時保護の理由をきちんと説明しておく必要がある。虐待と判断できるのに「育児が大変でしょうから、しばらく預かってあげましょう」という説得の仕方も有効な場合も多いが、いつまでもそのままでは、面会を拒否する理由にはならないので、配慮を要する。 |
10. | 保護者の強引な引取要求への対応について 一時保護は保護者の意思にかかわりなく職権で実施できる。したがって、当初同意していた保護者が途中で引取りを要求したとしても、応ずる必要はない。一時保護決定が都道府県知事またはその委任を受けた児童相談所長によって解除されない限り、その効力は継続しているのであって、担当職員の判断で引取りに応ずることはできない。 また、保護者による実力行使や担当職員に対する暴力行為等が予想されるときには、警察と連絡をとって、児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼することが適当である。(本手引き第4章参照) なお、保護者に不服申立てを促すことも有意義である。 |
11. | 家庭復帰させる場合の子ども、保護者への指導上の留意点について 子どもの家庭復帰は、子どもの意思を尊重しつつ、虐待の再発の危険性が認められないことと、再発を防ぐ家族周辺の援助体制のネットワークが形成されているか否かにより判断する。 なお、一時保護後に家庭復帰させる場合の子どもや保護者に対する指導上の留意点については、施設入所後に家庭復帰させる場合の留意点と基本的に同様であることから、第9章親子分離(5)を参照の上、対応されたい。 |
(1) | 家庭復帰の適否判断に際して把握する事項
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(2) | 家庭復帰に際しての確認事項
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(3) | 子どもに対する留意事項
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(4) | 保護者に対する留意事項
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12. | 委託一時保護の留意点は何か 原則として一時保護は児童相談所の一時保護所を活用する。ただし、一定の場合には医療機関、児童福祉施設、里親、警察署その他適当な者に委託一時保護できることとなっている。 その他適当な者とは民生・児童委員(主任児童委員)、親戚、近隣知人、学校の職員宅等が考えられる。 |
(1) | 主な委託一時保護先の性格と留意事項
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(2) | 委託一時保護する一定の理由 子どもへの虐待は常に昼間一時保護所に近い場所で発生するとは限らず、夜間や遠隔地で発生することもあり得る。子どもの年齢や心身の状況、地理的要件等を勘案して、やむを得ない場合は委託一時保護を考慮する。 「児童相談所運営指針の改定について」(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知)では、委託一時保護を行う一定の理由として下記のものを挙げている。
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(3) | 委託一時保護する際の留意事項
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(4) | 委託一時保護の通知 委託一時保護を行うに当たっては、一時保護の期間等について保護者と委託一時保護先に通知する。委託一時保護を解除した場合も同様である。 なお、保護者に委託一時保護を通知する際には、行政不服審査法第57条の規定に基づく不服申立ての方法等を教示する。 通知は文書で行うが、緊急を要する場合は、保護者等に対し口頭による通知および教示を行って、委託一時保護後速やかに文書通知する。なお、上記のような個人の家庭に委託一時保護する場合は、保護者等に個人の家庭について通知することとなるため、必要最小限の一時保護期間とし、場合によっては所在地を記載しないことも検討する。 |
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表5−2 | 一時保護決定に向けてのアセスメントシート |

図5−2 | 一時保護に向けてのフローチャート |

(解説)
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