
重症急性呼吸器症候群(SARS)関連情報
(参考3)
ウイルス分離用検体の採取・処理法およびウイルス分離
<原則>
現時点では、ウイルス分離検査において検体の採取日、個人差等で陰性となることがあるので、陰性の検査結果はSARSコロナウイルス感染を否定するものではないことに注意していただきたい。
1 SARS-コロナウイルスは当面、WHOではBSL3で扱うことが決まっている。また、感染研においても現時点ではBSL3で対応することが決まっている。
2 SARS関連の患者検体の処理は、BSL2またはそれ以上のレベルで行わなければならない。
3 細胞への検体の接種は、BSL3で対応しなければならない。従って、必ず安全キャビネット内ですべて処理できるように、また検体の飛散や汚染の拡大が起こらないように工夫する必要がある。
下記に示す方法は通常ウイルス分離検査で行われている方法であり、SARS-コロナウイルスの分離においでも基本的には同様の操作で行う。
臨床検体からウイルスの分離率を高めるためには,採取された検体は可能な限り早期に細胞に接種される必要がある。検体採取から細胞に接種するまでは,4℃に冷やしておく。
細胞の準備:
VeroE6細胞は SARSコロナウイルスに感受性がある。
96穴のマイクロプレートや24穴のマイクロプレート、細胞培養用カルチャーボトル等にウイルス分離に使用する細胞の単層を作製する。普通3~4日後に単層ができるように細胞を調製して細胞をまく。
検体の処理と接種:
1. | 咽頭スワブ,鼻腔スワブの場合: a) 輸送培地: [Eagle's MEM(E-MEM)+0.5%ゼラチン+ペニシリンG 500 U/ml,ストレプトマイシン 500 mg/ml]
E-MEM+ペニシリンG 500 U/ml,ストレプトマイシン 500 mg/ml+2%FBS
c)接種
スワブが攪拌された輸送培地を4℃で,3,000回転15分間遠心し(混在する細菌を除去するため),その上清液を細胞に接種するための検体とする。
細胞がマイクロプレートで培養されている場合には,維持培地(抗生物質と2%FBS含有D-MEM)を細胞が培養されているウエルに培養に必要な量の半分(96ウエルマイクロプレートの場合は0.1 ml、24ウエルマイクロプレートの場合は0.5 ml)を加えておき,等量の検体を接種する。 |
2. | 気管洗浄液、鼻腔吸引液および喀痰の場合: 生理食塩水やPBSで得られた気管洗浄液や鼻腔洗浄液の場合には、維持培地で10倍程度に希釈し,4℃で,3,000回転15分間遠心して得られた上清液を検体とする。 PBSで洗浄した細胞に,この検体を咽頭スワブや鼻腔スワブの場合と同様に接種する。 |
3. | 尿の場合: 検体である尿を4℃で,3,000回転15分間遠心し,その上清液を接種する。 検体を細胞に接種後、37℃で1時間培養(吸着反応)する。吸着反応後にPBSで3回洗浄し,適当量の維持培地で細胞を培養する。
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4. | 便の場合: 通常の5倍量の抗生物質が入ったPBSで便の懸濁液を作る。マイクロ遠心機で4℃,6,000回転5分間遠心し,その上清を接種する。細胞毒性が比較的強い場合が多いことから、検体接種後、炭酸ガス孵卵器内で30?60分の吸着が終わったら、PBSで3回以上よく細胞を洗浄することが重要である。 |
5. | 組織の場合(参考): 約10倍程度の容積の維持培地に肺組織を加え、滅菌された器具を用いて組織を破壊懸濁液を作る。4℃で3,000回転15分間遠心し,その上清液を接種する。 吸着時間の後、適当量の維持培地で細胞を培養する.
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6. | 血清の場合(参考): 維持培地で血清を1:10に希釈する。 4℃で,3000回転15分間遠心し,その上清を接種する。 吸着時間の後、適当量の維持培地で細胞を培養する. |
細胞培養および細胞変性効果(cytopathic effect, CPE)の観察:
検体接種後の細胞の培養は35?37℃が適当と思われる。ちなみに感染研では、37℃で培養している。
検体接種後には、毎日CPEの出現の有無、細胞の性状を観察する。さらに、SARS関連のコロナウイルスのCPEの出現は接種検体にもよるが比較的早い(3?6日目)と報告されている。必ず非接種細胞を対照として置く。 |
2 臨床検体の種類によっては、接種後に細胞毒性による細胞の変化が起こることがあるので、CPEと混同しないように注意する。また、細胞毒性による細胞の変化が疑われる際は、新しい維持培地に交換することによって細胞が正常に戻ることがある。
3 海外でのSARSコロナウイルス分離成功例によれば、検体接種後3〜6日目頃には細胞の円形化、一部脱落などのCPEが観察され、その上清を新しい細胞に継代すると比較的速やかに(24?48時間)CPEが出現し、48時間ごろまでには大部分の細胞が剥がれ落ちるという観察結果が報告されている。
4 VeroE6細胞にSARS-Coronaウイルス(moi of >1.0)を感染させた時のCPEの形態。CPEが出現し始めると、その進行は比較的早い。
(参考文献;The New England Journal of Medicine, April 10, 2003; www.nejm.org)
分離ウイルスの同定:
VeroE6細胞によるウイルス分離では、SARSコロナウイルスだけでなく単純ヘルペスウイルス、エンテロウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、レオウイルス1,2,3、等の種々のウイルスが分離される可能性がある。このため、CPEが出現してもコロナウイルスか否かを同定する必要がある。 現時点では、SARSコロナウイルス同定用の抗血清が無いため、基本的にはRT-PCR法により同定検査を行う。CPE陽性の培養上清を変性剤含有バッファー(RLT buffer)で処理するまでは、BSL3で行う。それ以降のRNA抽出操作はBSL2で行ってもよい。 |
CPE陽性の培養上清は、分離ウイルスの同定確認試験のために、もとの臨床検体および地衛研で行った他の病原体除外試験の成績とともに、感染研に送付する。
CPE陽性が出た場合の最終判定は感染研での確認試験と合わせて行う。
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サンプル送付先:
国立感染症研究所ウイルス第三部第1室 小田切孝人
〒208-0011 東京都武蔵村山市学園4-7-1
TEL042-561-0771、FAX042-561-0812