E案 厚生年金の廃止(民営化)案
公的年金は基礎年金を基本に1階建ての年金とするとともに、厚生年金は廃止し、積立方式による民間の企業年金又は個人年金に委ねる。 |
背 景
現行の公的年金制度については、次のような観点から厚生年金の廃止(民営化)を求める意見がある。
- 1.賦課方式(年金給付に必要な費用をその時々の現役世代の保険料でまかなう方式)の要素の大きい現行の年金制度の仕組みでは、将来世代の負担が過重になることから、世代間の給付と負担の格差を早急に是正する必要がある。
- 2.人口増加率と賃金の上昇率を合わせたものより運用利回りの方が大きい経済状況の下では、積立方式(将来の年金給付に必要な原資について、将来の世代に負担を求めるのではなく、あらかじめ積み立てていく方式)の方が賦課方式より有利である。
- 3.官民の役割分担の見直しの中で、年金制度についても個人の選択の幅を広げ、民間の役割を拡大させていくべきである。
考 え 方
- 1.公的年金は基礎年金を基本に1階建ての年金とする。この場合、基礎年金水準をある程度引き上げるという考え方もある。
- 2.2階部分に当たる厚生年金は廃止し、1階を超える部分は積立方式による企業年金や個人年金によって老後の生活を設計することとなる。
問 題 点
1.厚生年金を廃止することについて
ア.中小零細企業等のサラリーマンの老後の所得保障
- 企業年金や個人年金の普及が困難な中小零細企業等で働くサラリーマンの老後の所得保障は基礎年金だけとなりかねず、老後の生活に支障が生じるのではないか。
イ.インフレ等への対応
- 年金は個人の人生において平均でも60年以上の長期にわたる制度であるが、積立方式の企業年金や個人年金では、インフレなど想定を超えた大幅な経済変動があった場合に、実質的な価値のある給付が維持できないのではないか。
ウ.切替時の二重負担
- (1) 積立方式への切替時には「二重負担の問題」(切替時の現役世代が、自らの将来の年金の積立てに加えて、別途の形でそのときの受給世代等の年金を負担しなければならなくなること)が発生する。
|
(注) |
制度切替えによって財政処理が必要となる厚生年金(2階部分)の過去期間の債務(後代負担)の現在価値総額(平成11年度末) |
|
|
|
350兆円 |
|
|
|
[一時金であれば被保険者一人当たり] 1,000万円 |
|
|
- (2)この問題への対応の方法としては、次のような考え方がある。
- 1)受給世代等の年金財源を保険料で調達する。
- ア 一定の期間の保険料を引き上げることによって調達する。
(例えば30年間で2階部分の厚生年金の過去期間の債務を解消するとすれば保険料率で11%に相当)
イ 2階の厚生年金について給付水準を段階的に引き下げ一定期間後廃止することとし、廃止までの間に裁定された給付については現役世代に負担を求める。
- 2)受給世代等の年金財源を国債や税で負担する。
- 移行期の世代の保険料負担によって二重負担の問題を解決することについて合意が得られるか、新たな国債や税で巨額の負担を行うことは困難ではないか。
2.厚生年金の廃止とあわせ、基礎年金水準を引き上げることについて
- 財源をどうするか。さらなる国民年金保険料の引上げや、税財源を求めることは困難ではないか。