厚生労働省

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平成22年10月8日

厚生労働省食品安全部
加地 監視安全課長
担当:大原,今村(内4241,4242)

平成21年度食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果について

我が国の平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量の推計や個別食品における汚染実態を調査するため、従来より、国立医薬品食品衛生研究所を中心に調査を行い、その結果を公表してきたところですが、今般、平成21年度の調査結果がとりまとめられたので、お知らせします。

平成21年度における食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、0.84±0.34 pgTEQ/kg bw/日(0.28〜1.49 pgTEQ/kg bw/日)と推定され、耐容一日摂取量(TDI)4 pgTEQ/kg bw/日より低く、一部の食品を過度に摂取するのではなく、バランスのとれた食生活が重要であることが示唆されました。

なお、本調査結果については本日開催された薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会において報告されました。

 
本調査は、厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)「ダイオキシン類等の有害化学物質による食品汚染実態の把握に関する研究」(主任研究者 堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所 食品部主任研究官)においてダイオキシン類及び臭素化ダイオキシン等による食品汚染実態の把握並びに分析の迅速化等を目的として実施されたものです。
 

平成21年度ダイオキシン類等の有害化学物質による
食品汚染実態の把握に関する研究(概要)

主任研究者 堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所 食品部主任研究官

1 目的

ダイオキシン類の人への主な曝露経路の一つと考えられる食品について

(1)平均的な食生活における食品からのダイオキシン類の摂取量を推計すること

(2)個別の食品のダイオキシン類の汚染実態を把握すること 等

2 方法

(1) ダイオキシン類の食品経由摂取量に関する研究(トータルダイエットスタディ)

全国7地域の9機関で、それぞれ約120品目の食品を購入し、厚生労働省の平成14年度国民栄養調査並びに平成15、16年度国民健康・栄養調査の食品別摂取量表に基づいて、それらの食品を計量し、そのまま、又は調理した後、13群に大別して、混合し均一化したもの及び飲料水(合計14食品群)を試料として、「食品中のダイオキシン類の測定方法ガイドライン」(平成20年2月、厚生労働省医薬食品局食品安全部)に従ってダイオキシン類を分析し、平均的な食生活におけるダイオキシン類の一日摂取量を算出した。

なお、ダイオキシン類摂取量への寄与が大きい食品群である10群(魚介類)、11群(肉類、卵類)及び12群(乳、乳製品)について、各機関が3セットずつ試料を調製し、それぞれについてダイオキシン類を測定した。

(2) 個別食品中ダイオキシン類濃度に関する研究

個別食品として、国内産及び輸入食品合計43試料について、(1)と同様にダイオキシン類を分析した。

3 ダイオキシン類の調査項目

従来通り、世界保健機構(WHO)が毒性等価係数を定めたポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDDs)7種、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)10種及びコプラナーPCB (Co-PCBs)12種の合計29種。

4 結果の概要

(1) 一日摂取量調査(トータルダイエットスタディ)

食品からのダイオキシン類の一日摂取量は、0.84±0.34 pgTEQ/kg bw/日(0.28〜1.49 pgTEQ/kg bw/日)と推定された。この平均値は、平成10年度から継続している調査結果の中でもっとも低い値であり、摂取量推定値の最大値(1.49 pgTEQ/kg bw/日)にあっても、日本における耐容一日摂取量(TDI)4pgTEQ/kgbw/日より低かった。

なお、同一機関で調整された試料でもダイオキシン類摂取量の最小値と最大値には開きがあり、特に魚介類におけるダイオキシン類の濃度が広い範囲に分布していることが予想された。

<表1 ダイオキシン類一日摂取量の全国平均年次推移>
(5年間の調査結果)
  平成17年度 平成18年度 平成19年度 平成20年度 平成21年度
一日摂取量
(pgTEQ/日)
51.21
(20.19〜153.01)
45.08
(16.44〜82.03)
46.51
(17.41〜125.32)
45.76
(6.65〜94.92)
42.14
(13.91〜74.27)
体重1kg当たりの一日摂取量
(pgTEQ/kg bw/日)
1.02
(0.40〜3.06)
0.90
(0.33〜1.64)
0.93
(0.35〜2.51)
0.92
(0.13〜1.90)
0.84
(0.28〜1.49)

数値は平均値、( )内は範囲を示す。なお、体重1kg当たりの一日摂取量は日本人の平均体重を50kgとして計算している。
WHO 2005 TEFにより計算した。

<表2 ダイオキシン類一日摂取量の地域別年次推移>
(単位:pgTEQ/kg bw/日)
地域 北海道
地方
東北地方 関東地方 中部地方 関西地方 中国四国地方 九州地方
東北A 東北B 関東A 関東B 関東C 中部A 中部B 中部C 関西A 関西B 関西C 中四国A 中四国B 中四国C 九州A 九州B
平成10年度 2.43 1.10 1.84 1.84 1.76 1.70 1.75 2.29 1.07 1.75
平成11年度 1.10 1.27 1.40 3.33 1.43 1.46 1.35 1.37 2.08 5.93 1.55 1.60 3.06 1.26 1.57 1.04
平成12年度 0.72 0.95 1.63 1.10 1.51 1.28 1.23 1.24 1.50 1.73 1.22 1.74 0.85 1.23 1.31 0.72
平成13年度 0.57 1.68 0.88 1.70 1.21 1.44 1.32 1.12 1.72 0.76 1.36 2.89
平成14年度 0.74 0.97 1.26 1.17 0.76 1.18 0.52 0.83 1.18 0.69 0.63 0.47
0.80 1.27 1.66 2.02 0.95 1.43 0.57 1.18 1.53 0.81 1.32 1.00
1.23 1.75 2.30 2.99 1.26 1.63 1.11 2.36 1.72 1.03 1.81 1.55
平成15年度 0.71 0.60 0.67 0.75 0.86 1.15 0.49 0.67 0.53 0.90 0.73
0.92 0.75 1.63 0.86 0.92 1.30 0.96 0.98   1.06 1.31 0.90
1.13 1.13 2.55 2.31 1.74 1.55 1.26 1.38   1.35 1.76 1.55
平成16年度 0.41 0.41 1.42 0.88 0.61 0.52 1.14 1.06 0.52
0.85 0.70 1.49 1.46 0.76 0.58 1.62 1.20 0.84
2.15 2.46 1.64 2.04 1.57 1.73 1.95 1.48 1.07
平成17年度 0.59 0.53 0.47 0.59 0.59 0.40 0.58 1.01 0.56
1.54 0.99 0.76 1.11 0.68 0.50 0.70 1.34 0.91
3.06 1.38 1.11 1.74 1.22 1.37 1.23 1.47 1.24
平成18年度 0.33 0.46 0.51 0.68 0.58 0.40 0.86 0.82 0.54
0.39 0.90 0.81 0.87 0.76 0.62 1.32 0.92 0.56
1.50 1.57 1.28 1.22 0.87 1.01 1.54 1.64 1.38
平成19年度 0.92 0.40 0.68 0.70 0.68 0.35 0.64 0.67 0.37
1.28 0.60 0.89 0.85 0.76 0.45 0.82 0.90 1.03
1.34 0.68 1.12 2.51 1.19 1.48 1.08 1.17 1.56
平成20年度 1.05 0.13 0.48 0.61 0.60 0.63 0.57 0.61 0.54
1.22 0.75 1.24 0.78 0.96 0.69 0.61 0.64 0.60
1.90 0.85 1.70 1.10 1.11 1.69 1.16 1.11 1.37
平成21年度 0.37 0.57 0.28 0.68 0.70 0.36 0.63 0.59 0.57
0.92 0.92 0.48 1.06 0.77 0.44 0.97 0.81 1.08
1.20 1.33 0.69 1.39 0.91 0.96 1.14 1.49 1.45

(注)平成21年度調査において各地方でのサンプリングを実施した自治体は以下のとおり。
表の左から、北海道地方:北海道、東北地方:宮城県、関東地方:埼玉県・横浜市、中部地方:石川県・名古屋市、関西地方:大阪府、中国四国地方:香川県、九州地方:福岡県
なお、数値は各地方毎の食品別一日摂取量であり、平成10〜19年度の数値についても、過去の研究報告書から引用し、WHO 2005 TEFを用いて再計算したものである。

(2) 個別食品中のダイオキシン類等濃度調査

個別食品のダイオキシン類の測定結果は表3のとおりであった。

<表3 平成21年度 食品中のダイオキシン類の濃度 (pgTEQ/g)>
食品 産地等 1) ダイオキシン類 (pgTEQ/g) 2)
PCDD/Fs Co-PCBs Total
魚介 アジ
アジ
アジ
国産(天然)
輸入(天然)
国産(天然)
0.076
0.12
0.22
0.18
0.24
0.26
0.25
0.36
0.49
サバ
サバ
サバ
国産(天然)
国産(天然)
輸入(天然)
0.59
0.39
0.12
0.98
1.2
0.56
1.6
1.6
0.67
アナゴ
アナゴ
アナゴ
輸入(天然)
国産(天然)
国産(天然)
0.10
0.24
0.31
0.38
0.81
0.64
0.48
1.1
0.95
カニ
カニ
カニ
輸入(天然)
輸入(天然)
輸入(天然)
0.016
0.0093
0.010
0.022
0.032
0.021
0.038
0.041
0.031
食肉 牛肉
牛肉
牛肉
国産
国産
国産
0.85
0.12
0.21
0.053
0.064
0.067
0.90
0.18
0.27
豚肉
豚肉
豚肉
輸入
輸入
輸入
0.00047
0
0.00024
0.000060
0
0.00027
0.00053
0
0.00051
鶏肉
鶏肉
鶏肉
輸入
輸入
輸入
0.051
0.0011
0.013
0.000060
0.00072
0.000030
0.051
0.0018
0.013
牛乳 牛乳
牛乳
牛乳
国産
国産
国産
0
0
0.00020
0.000060
0.000090
0.000030
0.000060
0.000090
0.00023
バター バター
バター
バター
国産
国産
国産
0.019
0.020
0.015
0.0011
0.051
0.0011
0.020
0.071
0.016
食用油 サラダ油
サラダ油
サラダ油
国産
国産
国産
0.0019
0.00015
0.028
0
0
0.00038
0.0019
0.00015
0.028
オリーブ油
オリーブ油
オリーブ油
国産
輸入
輸入
0
0.0070
0.013
0
0.00086
0.0020
0
0.0079
0.015
健康食品 魚油製品
魚油・アザラシ油製品
アザラシ油製品
アザラシ油製品
アザラシ油製品
アザラシ油製品
卵黄油製品
卵黄油製品
卵黄油製品
卵黄油製品









0.000090
0
0.0020
0.0010
0.0013
0.11
0.14
0.0056
0.0028
0.0016
0.073
0.0011
0.085
0.092
0.081
0.00036
0.23
0.00072
0
0.0013
0.073
0.0011
0.087
0.093
0.083
0.11
0.37
0.0063
0.0028
0.0029

(注) 1) 産地等の欄における「−」は「不明又は該当せず」を表す。
2) WHO 2005 TEFにより計算


【用語説明】

ダイオキシン類:
ダイオキシン及びコプラナーPCB
ダイオキシン:
ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDDs)
ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)
コプラナーPCB(Co-PCBs):
PCDDs及びPCDFsと類似した生理作用を示す一群のポリ塩化ビフェニル(PCB)類
トータルダイエットスタディ:
通常の食生活において、食品を介して化学物質等の特定の物質がどの程度実際に摂取されるかを把握するための調査方法。飲料水を含めた全食品を14群に分け、国民栄養調査による食品摂取量に基づき、小売店等から食品を購入し、必要に応じて調理した後、各食品群ごとに化学物質等の分析を行い国民1人あたりの平均的な1日摂取量を推定するもの。
TEF(毒性等価係数):
ダイオキシン類は通常混合物として環境中に存在するため、様々な同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした毒性等価係数(TEF:Toxic Equivalency Factor)を用いて表す。なお、今回は2005年にWHOで再評価されたTEFを用いている。
TEQ(毒性等量):
ダイオキシン類は通常、毒性強度が異なる同族体の混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシン類の量は、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent Quantity)として表す。
TDI(耐容一日摂取量):
長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量。ダイオキシン類のTDIについては、1999年6月に厚生省及び環境庁の専門家委員会で、当面4pgTEQ/kgbw/日(1日に体重1kg当たり4pgTEQの意味。体重50kgの人であれば、4pgTEQ×50kgで計算し、TDIは200pgTEQとなる。)とされている。

厚生労働科学研究費補助金(食品の安心・安全確保推進研究事業)
総括研究報告書



ダイオキシン類等の有害化学物質による食品汚染実態の把握に関する研究

研究代表者 堤 智昭 国立医薬品食品衛生研究所 食品部主任研究官

研究要旨

本研究では、ダイオキシン類を中心に難分解性・蓄積性の高い有害化学物質について、食品汚染実態の把握及び分析の迅速化を目的として、研究を実施した。

(1-1) マーケットバスケット方式による塩素化ダイオキシン類の摂取量調査では、全国9機関で調製したトータルダイエット試料を分析した。その結果、食事経由ダイオキシン類一日摂取量の全国平均は0.84 pg TEQ/kg bw/dayと推定され、耐容一日摂取量の約1/5であった。
【1-1.分担研究報告書】 全体版(PDF:655KB) 、1〜5ページ(本文)(PDF:493KB) 、6〜8ページ(表1〜3)(PDF:372KB) 、9〜11ページ(表4〜6)(PDF:374KB) 、12ページ(表7)(PDF:343KB)

(1-2) 個別食品の汚染実態調査では、魚介類、食肉、乳製品、油脂、及び健康食品の計43試料について、塩素化ダイオキシン類を分析し汚染実態を明らかにした。また、魚介類、ファーストフード、及びポップコーンの計46試料について、有機フッ素化合物濃度(PFOA及びPFOS)を調査した。今回調査した食品は、いずれも健康被害が懸念されるレベルではなかった。さらに、蓄積してきた個別食品汚染データを用いて、魚介類を多食していると考えられる集団、ならびにハイリスク集団と考えられる小児における塩素化ダイオキシン類摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。それらの平均値及び97.5%タイル値は耐容一日摂取量を下回っていた。
【1-2.分担研究報告書】 全体版(PDF:745KB) 、1〜7ページ(本文)(PDF:519KB) 、8ページ(表1)(PDF:225KB) 、9〜10ページ(表2〜3)(PDF:311KB) 、11ページ(表4)(PDF:318KB) 、12ページ(表5〜6)(PDF:523KB) 、13〜14ページ(図1〜2)(PDF:506KB)

(2-1) ダイオキシン類分析法である芳香族炭化水素レセプター(AhR)レポータージーンアッセイの高感度化を検討した。pGL7.3細胞株を使用したルシフェラーゼレポータージーンアッセイの2,3,7,8- tetrachlorodibenzo-p-dioxinに対する定量下限は0.49 pg/mlであり、従来の細胞株を使用したアッセイと比較し、2倍以上、高感度であった。また、毒性の強いダイオキシン異性体に選択的に応答し、前処理した魚試料に対する添加回収率も良好であった。
【2-1.分担研究報告書】 全体版(PDF:606KB) 、1〜4ページ(本文)(PDF:489KB) 、5〜6ページ(表1〜3)(PDF:133KB) 、7ページ(図1〜2)(PDF:146KB)

(2-2) ダイオキシン類の迅速測定法(バイオアッセイ)の信頼性確保に関する基礎的検討を目的に、食品試料のAhR結合活性(ダイオキシン様活性)について実態調査を行った。本年度は19〜20年度の調査で明らかとなった天然物濃縮加工食品(大豆、ゴマ、プロポリス抽出物を含有する8 試料)のAhR活性分画物中の含有成分の解析を実施した。
【2-2.分担研究報告書】 全体版(PDF:816KB) 、1〜5ページ(本文)(PDF:551KB) 、6〜8ページ(図1a・1b・2)(PDF:546KB) 、9〜10ページ(図3a・3b)(PDF:425KB)

(2-3) 食品試料中ダイオキシン類及びポリ塩化ビフェニル(PCBs)の一斉迅速分析法の開発を行った。魚の均一試料を調製し、迅速一斉分析法(開発法)とアルカリ分解・溶媒抽出法(従来法)で各々の分析操作を3回繰り返し、得られた定量値を比較した。その結果、両試験法から得られたPCBs異性体(32種類)の定量値はよく一致した。また、開発法の実用性を例証するために、魚試料を用いてダイオキシン類・PCBsの計226化合物を同定し、ダイオキシン類及び総PCBs濃度等を算出した。
【2-3.分担研究報告書】 全体版(PDF:901KB) 、1〜7ページ(本文)(PDF:522KB) 、8〜10ページ(図1〜6)(PDF:323KB) 、11〜12ページ(表1〜3)(PDF:189KB)

(2-4) ベンゾトリアゾール類による魚介類の汚染実態を把握するために、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置による迅速測定方法を開発した。加熱流下抽出の条件とアルカリ分解後の抽出条件を決定し、4種のベンゾトリアゾール類について一連の測定方法の回収率が良好であることを確認した(90%以上)。また、市販魚試料(5試料)についてベンゾトリアゾール類含有量の測定を行い、魚試料に適用できることを確認した。
【2-4.分担研究報告書】 全体版(PDF:991KB) 、1〜3ページ(PDF:560KB) 、4〜8ページ(PDF:518KB) 、9〜14ページ(PDF:483KB) 、15〜17ページ(PDF:428KB)

(3)  臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の食品における汚染調査を目的とし、臭素系ダイオキシン類、臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)、臭素化ビフェニル(PBBs)及びコプラナー塩素・臭素化ビフェニル(Co-PXBs)の高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計における測定条件の検討、魚介類試料における汚染調査及びマーケットバスケット方式による九州地区の摂取量調査(トータルダイエット調査)を行った。また関連化合物のヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)及びテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)についても同様に摂取量調査を行った。測定条件検討の結果、臭素系ダイオキシン類を含む臭素系化合物計66化合物を1種類の分析カラムで効率的に測定することが可能となった。魚介類試料の調査では臭素化ダイオキシン類は4検体中1検体から微量に検出され、PBDEsはすべての魚から検出された。PBBsでは4検体中3検体の魚から4-6臭素化体の異性体が検出され、Co-PXBsはいずれの検体からも検出されなかった。九州地区の摂取量調査では、1日摂取量はND=0とした場合、臭素系ダイオキシン類が0.00384 pgTEQ/kg bw/day、PBDEsが3.14 ng/kg bw/day、PBBsが0.00648 ng/kg bw/dayであった。Co-PXBsは検出されなかった。HBCDsの1日摂取量は3.1 ng/kg bw/day、TBBPAは0.2 ng/kg bw/dayであった。
【3.分担研究報告書】 全体版(PDF:1,283KB) 、1〜10ページ(PDF:566KB) 、11〜12ページ(PDF:253KB) 、13ページ(PDF:535KB) 、14ページ(PDF:537KB) 、15ページ(PDF:484KB) 、16ページ(PDF:492KB) 、17ページ(PDF:304KB) 、18〜20ページ(PDF:506KB) 、21〜31ページ(PDF:525KB)

研究分担者

松田りえ子  国立医薬品食品衛生研究所 食品部長

堤 智昭    国立医薬品食品衛生研究所 食品部主任研究官

芦塚由紀   福岡県保健環境研究所 保健科学部 生活化学課

A.研究目的

ダイオキシン類に代表される難分解性かつ高蓄積性の有害化学物質は、一旦、環境中に排出されると長期間にわたり残留する。また、高蓄積性であるため食物連鎖を経て食品中に濃縮された結果、食品中に高濃度に残留し、人の健康に影響を及ぼす危険性がある。そこで、これら有害化学物質の人体への影響を評価するためには、食品汚染状況の把握が重要である。さらに、汚染調査を効率的に行うために、食品中の有害化学物質を迅速に測定できる分析法の開発が必要とされる。

本研究の目的は、ダイオキシン類(塩素化、臭素化、塩素・臭素化混合物)を中心に、臭素化難燃剤及び有機フッ素化合物について、トータルダイエット調査及び個別食品の汚染調査を行い食品からの摂取量を推定する。また、食品中のダイオキシン類、ポリ塩化ビフェニル(PCBs)、及びベンゾトリアゾール類を対象に、バイオアッセイや機器分析による迅速測定法を開発する。これらの目的のために、次の研究を実施した。

(1) 食品からの塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の摂取量調査

(1-1) 塩素化ダイオキシン類のトータルダイエット調査

(1-2) 塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の個別食品汚染調査

(2) 食品中のダイオキシン類等の有害化学物質に対する迅速測定法の開発

(2-1) ダイオキシン類に対する高感度レポータージーンアッセイの開発

(2-2) 食品試料の芳香族炭化水素レセプター結合活性の調査

(2-3) 食品中ダイオキシン類およびPCBs の迅速一斉分析法の検討

(2-4) 食品中ベンゾトリアゾール類の迅速測定法の開発

(3) 食品中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査

B.研究方法

(1-1) 塩素化ダイオキシン類のトータルダイエット調査

トータルダイエット試料は、全国7地区の9機関で調製した。厚生労働省の平成14年度国民栄養調査並びに平成15、16年度国民健康・栄養調査の各地区における食品別摂取量表に基づいて、それぞれ食品を購入し、それらの食品を計量し、そのまま、または調理した後、13群に大別して、混合均一化したものを試料とした。さらに第14群として飲料水を試料とした。第10群(魚介)、11群(肉・卵)及び12群(乳・乳製品)は、各機関で魚種、産地、メーカー等が異なる食品で構成された各3セットの試料を調製した。これらについて、「食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン」に従ってダイオキシン類を分析し、一日摂取量を算出した。なお、第10、11及び12群を除く食品群試料は9機関で調製した試料を各群毎に5ブロックに分け、複数機関の試料を混合して分析を行った。

(1-2) 塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の個別食品汚染調査

魚介類(12試料)、食肉(9試料)、乳製品(3試料)、油脂(9試料)、アザラシ・魚油及び卵黄を使用した健康食品(10製品)について、「食品中のダイオキシン類の測定方法暫定ガイドライン」に従って塩素化ダイオキシン類を分析した。また、魚介類(30試料)、ファーストフード(13試料)、及びポップコーン(3試料)中の有機フッ素化合物濃度(PFOA及びPFOS)を調査した。PFOA及びPFOSの分析には高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MS/MS)を使用し、安定同位体による内標準法により定量した。

魚介類多食者と考えられる漁協関係者(女性)、及びハイリスク集団と考えられる小児における塩素化ダイオキシン類の摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。食品の摂取量は、自記式食事歴法質問票を用いて集計した結果を用いた。塩素化ダイオキシン類濃度データは、平成10〜19年度に行われた魚介類の個別食品汚染調査結果中の魚介類データを用いた。

(2-1) ダイオキシン類に対する高感度レポータージーンアッセイの開発

pGL7.3細胞株を使用したルシフェラーゼレポータージーンアッセイの性能を評価した。定量範囲を設定するために2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(2,3,7,8-TCDD)標準溶液を繰返し測定し、測定精度及び正確度を検討した。種々のダイオキシン異性体に対する応答性についても検討した。また、前処理した魚試験液中でダイオキシン類が検出可能か検討するため、マグロ及びブリを前処理し得られたPCDD/Fs分画、及びCo-PCBs分画に対し添加回収試験を実施した。PCDD/Fs分画にはPCDD/Fs混合品、Co-PCBs分画には#126を添加し、回収率を算出した。

(2-2) 食品試料の芳香族炭化水素レセプター(AhR)結合活性の調査

19〜20年度の調査で明らかとなったAhR活性分画物として、大豆およびゴマ抽出物含有試料の酢酸エチル分画物とプロポリス抽出物含有試料のへキサン分画物について、各種カラムクロマトを適用して含有成分の分離精製を実施した。単離した化合物については、MS、NMRなどの各種機器分析データに基づき構造解析を行った。また同定した化合物のAhR活性をレポータージーンアッセイ(ダイオキシン類とAhRとの結合をルシフェラーゼ活性により検出するバイオアッセイ)により評価した。

(2-3) 食品中ダイオキシン類およびPCBsの迅速一斉分析法の検討

食品試料中ダイオキシン類及びPCBsの一斉迅速分析法の開発を行った。本研究課題で検討した分析法は主に4つの工程、高速溶媒抽出法(ASE)による自動迅速抽出、多層シリカゲルカラム及び活性炭シリカゲルカラムによる試料精製、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による試料の迅速精製、高分解能ガスクロマトグラフ/質量分析計(HRGC/HRMS)によるダイオキシン類・PCBsの異性体分離分析、から構成される。分析法開発の最終段階として、分析法の妥当性評価試験を行った。共通のサケ試料を従来法(アルカリ分解溶媒抽出法)と開発した迅速一斉分析法で分析し、各々から得られる定量値が一致するか比較した。また各々の方法で分析を繰り返し行った際の定量値の再現性(ばらつき)を比較した。迅速一斉分析法の実用性を例証するために、カンパチ試料を用いて全試験操作を試行した。ダイオキシン類・PCBsの計226化合物を同定し、ダイオキシン類、及び総PCBs濃度等を算出した。

(2-4) 食品中ベンゾトリアゾール類の迅速測定法の開発

効率的に加熱流下式高速抽出を行うため、魚介類試料と脱水用無水硫酸ナトリウムの混合比、抽出カラムサイズ、充填溶媒、抽出溶媒、抽出温度等を検討し、最適条件を決定した。また、アルカリ分解・ヘキサン抽出液の精製に用いるNH2カートリッジの劣化影響の検討と、他のカートリッジとの性能比較を行い、20年度までの成果と合わせて最適な迅速測定方法を確立した。その上で、脂肪含有率が大きく異なる5 種類の市販魚について測定を行い、LC/MS/MSによる迅速測定方法の適用性を確認するとともに、汚染実態を把握した。

(3) 食品中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査

臭素化ダイオキシン類及び関連化合物のHRGC/HRMS における測定条件検討では、各化合物の標準溶液を市販の8種類のカラムで測定し、各化合物の分離及び感度を比較検討した。また、これらの臭素系化合物について魚介類試料(4検体)の分析を行った。マーケットバスケット方式による摂取量調査では、19年度に九州地区(福岡県)で調製したマーケットバスケット試料の第1群から13群(第10群から12群についてはn=2)の食品群別試料を分析した。臭素系ダイオキシン類、臭素化ジフェニルエーテル類(PBDEs)、臭素化ビフェニル(PBBs)及びコプラナー塩素・臭素化ビフェニル(Co-PXBs)は、試料を凍結乾燥後に高速溶媒抽出(ASE)を行い、硫酸処理、シリカゲルカラムで精製した。フロリジルカラムで分画(第1及び第2画分)後、第1画分(PBDEs、PBBs及びCo-PXBs)はDMSO分配で精製を行い、第2画分(臭素系ダイオキシン類)は活性炭カラムで精製した。ヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)はメタノール等で抽出し、ジクロロメタンで再抽出した後、GPC及び硫酸シリカゲルカラムで精製し、LC/MS/MSで測定した。テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)はメタノールで抽出した後、ジクロロメタンで再抽出を行い、誘導体化(エチル化)後、フロリジルカラム等で精製してHRGC/HRMSで測定した。

C.結果及び考察

(1-1) 塩素化ダイオキシン類のトータルダイエット調査

ダイオキシン類の国民平均一日摂取量は0.84 pg TEQ/kg bw/day(範囲0.28〜1.49 pg TEQ/kg bw/day)と推定された。平均摂取量は日本の耐容一日摂取量(TDI) である4 pg TEQ/kg bw/day の約1/5であった。また、本年度の平均摂取量は、平成10年度以降の調査結果の中で最も低い値であった。ダイオキシン類摂取量に対する寄与率が高い食品群は、10群93.0%、11群4.7%、12群1.6%であり、これら3群で全体の99.4%を占めた。なお、同一機関で調製した試料であってもダイオキシン類摂取量には3倍程度の差が認められた。

(1-2) 塩素化ダイオキシン類及び有機フッ素化合物の個別食品汚染調査

魚介類中のダイオキシン濃度は0.031〜1.6 pg TEQ/gの範囲にあり、肉類は0〜0.90 pg TEQ/g、乳製品は0.000060〜0.00023 pg TEQ/g、油脂は0〜0.071 pg TEQ/gであり、いずれも健康危害が懸念されるレベルではなかった。魚油およびアザラシ油を使用した健康食品では、0.0011〜0.11 pg TEQ/gのダイオキシン類が検出された。卵黄を原材料とする健康食品には、0.0028〜0.37 pg TEQ/gのダイオキシン類が検出された。

有機フッ素化合物濃度を調査した結果、魚介類30試料中7試料から0.3〜2.1 ng/gのPFOSが検出された。PFOAが検出された試料は無かった。ファーストフードおよびポップコーンからはPFOS、PFOA共に検出されなかった。

現在までに蓄積されている個別食品の塩素化ダイオキシン類汚染データ(平成10〜19年度)を基に、魚介類多食者と考えられる漁協関係者(女性)、及びハイリスク集団と考えられる小児における塩素化ダイオキシン類の摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。その結果、漁協関係者におけるダイオキシン類摂取量の平均値は1.14 pg TEQ/kg bw/day、小児も同様に1.14 pg TEQ/kg bw/dayと推計された。ただし。漁協関係者の97.5パーセンタイル値は3.39 pg TEQ/kg bw/dayであるのに対し、小児の97.5パーセンタイル値は2.44 pg TEQ/kg bw/dayとなり、摂取量分布の範囲は小児において小さかった。いずれの集団もダイオキシン類のTDIを下回っていた。

(2-1) ダイオキシン類に対する高感度レポータージーンアッセイの開発

2,3,7,8?TCDD標準溶液の繰返し測定の結果、本アッセイの定量範囲は0.49〜31.3 pg/ml、定量下限は0.49 pg 2,3,7,8-TCDD/ml(0.047 pg 2,3,7,8-TCDD/assay)であった。本定量下限は現在、汎用されている細胞株と比較し、2倍以上高感度であった。種々のダイオキシン異性体に対する応答性を検討した結果、毒性の強い異性体に選択的に応答することが明らかとなった。本アッセイの各異性体に対する応答性は毒性等価係数(WHO TEF 2005)と良く類似していた。本アッセイが魚試料中のダイオキシン類を測定可能か検討するため、前処理した魚試料液に対する添加回収試験を実施した。回収率はPCDD/Fs分画では67〜92%、Co-PCBs分画では79〜100%であった。試験液中に含まれるマトリックスの影響により回収率がやや低くなることが考えられたが、スクリーニング法として使用する場合は許容できる回収率であった。本レポータージーンアッセイは高感度であるため、食品などを対象にしたダイオキシン類のスクリーニング法として期待できる。

(2-2) 食品試料のAhR結合活性の調査

大豆およびゴマ抽出物含有試料の酢酸エチル分画物からは、イソフラボン類(formononetin,biochanin A)を新たに同定し,またプロポリス抽出物含有試料のへキサン分画物からは、8種の化合物(isorhamnetin、pinobanksin、chrysin、pinocembrin、galangin、tectochrysin、artepillinC、pinostrombin)を同定した。これらの中でtectochrysinは顕著なAhR活性を示した。これらを含有する特に大豆関連製品において本バイオアッセイを使用する際には、その影響も考慮したデータの慎重な解釈が必要であることが考察された。

(2-3) 食品中ダイオキシン類およびPCBsの迅速一斉分析法の検討

同一のサケ試料を分析し、迅速一斉分析法とアルカリ分解・溶媒抽出法から得られた定量値を比較した。定量値は、クリーンアップスパイクに対応する26種化合物、ならびに環境試料や食品試料から検出される主要な異性体6種(Indicator PCBs)を加えた計32種類の化合物について示した。32種化合物の定量値の総和PCBs濃度」として試験法間の比較を行った。従来法における総PCBs 濃度(全重量あたり)は26.1〜26.4 ng/g(平均26.5 ng/g)、同様に迅速一斉分析法では25.3〜27.2 ng/g(平均26.0 ng/g)となり、両者でよく一致していた。定量値のくり返し再現性の指標となる相対標準偏差を算出したところ、従来法は1〜34%の範囲に、迅速一斉分析法では2〜18%の範囲となり、両者で著しい定量値のばらつきは認められなかった。迅速一斉分析法では相対標準偏差が20%を超える異性体が皆無であり、この点では従来法より優れた再現性を示していた。

確立した迅速一斉分析法の全試験操作を、カンパチ試料を用いて試行した。内部標準品添加回収率は、GPC精製から得られたPCBs画分において52〜103%、活性炭リバースカラム精製から得られたダイオキシン画分で70〜86%の範囲であり、いずれもガイドラインでダイオキシン類分析時の回収率の目安とされる40〜120%の範囲内の良好な値が得られた。

(2-4) 食品中ベンゾトリアゾール類の迅速測定法の開発

魚試料を対象に、4種のベンゾトリアゾール類を測定するための迅速測定を確立した。魚試料からの抽出は、加熱流下式高速抽出装置を使用し、中カラム(φ25 mm、19 cm)を選択した。魚試料5 gに対し無水硫酸ナトリウム30 g混合・すりつぶし後、エタノールで充填し、エタノール4 ml/分で20分(30℃)抽出を行えばよいことを明らかにした。脂肪含有率の異なる3種類の魚試料で測定方法全体の回収率を確認した結果、回収率は90%以上であり良好であった。さらに、魚試料(5試料)の4種ベンゾトリアゾール濃度を測定し、幅広い試料に適用できることを確認した。3試料で定量下限以上のベンゾトリアゾール類(0.4〜0.9 ng/g)が検出された。

(3) 食品中の臭素化ダイオキシン類及びその関連化合物の汚染調査

HRGC/HRMSにおける測定条件検討では、臭素系化合物の中でも臭素系ダイオキシン類のピークの検出が難しく、特に高臭素化体ほど安定した良好なピークを得るのが困難であった。DB-5(30 m×0.25×0.1μm)を用いた場合、高臭素化体のピークの形状も良好であり、測定回数を重ねた場合においても感度の低下は見られなかった。さらに、長さ1 m のプレカラムを使用したところ、ピーク形状がよりシャープになった。いずれの化合物においても、これまでの試料の測定で得られていた検出下限値レベルの感度を達成でき、臭素系ダイオキシン類を含めた計66種類の臭素系化合物を1種類のカラムで分析することができた。臭素系ダイオキシン類も含めた網羅的な調査を行う場合には、今回確立した測定条件で効率的に機器分析が可能であると考えられた。

魚介類試料を分析した結果、臭素系ダイオキシン類の分析では4検体中1検体から7臭素化体の1,2,3,4,6,7,8-HpBDF が低濃度で検出された。検出濃度は0.0018 pg TEQ/gと極めて低濃度であり、摂取しても問題がない程度であると考えられた。PBDEsは全ての魚介類試料から検出され、ΣPBDEs濃度は0.116-0.263 ng/gであった。主要な異性体は3臭素化体の#28、4臭素化体の#47、5臭素化体の#100、6臭素化体の#154、10臭素化体の#209であった。PBBsは、4検体中3検体からΣPBBs濃度0.368-2.57 pg/gで検出された。検出された異性体は4臭素化体の#52と#49、6臭素化体の#155と#153であった。Co-PXBsはいずれの魚介類からも検出されなかった。

九州地区のマーケットバスケット方式による摂取量調査の結果、不検出の異性体濃度を0(ND=0)とした場合、臭素系ダイオキシン類の1日摂取量は0.00384 pg TEQ/kg bw/dayで、不検出の異性体を検出下限値の2分の1(ND=1/2LOD) とした場合は1.56 pg TEQ/kg bw/dayであった。これらの摂取量に塩素系ダイオキシン類の摂取量を足し合わせた場合も、我が国の耐容1日摂取量(TDI)の4 pg TEQ/kg bw/dayを下回ると推察された。PBDEsの1日摂取量はND=0とした場合、3.14 ng/kg bw/dayであり、ND=1/2LODとした場合は3.19 ng/kg bw/dayであり、20年度に実施した関東、関西地区の摂取量とほぼ同程度であった。PBBsの1日摂取量はND=0とした場合、0.00648 ng/kg bw/day、ND=1/2LODとした場合は0.0617ng/kg bw/dayであった。一方、Co-PXBsはいずれの異性体も検出されなかったため、1日摂取量はND=0とした場合は0であった。ND=1/2LODとした場合は0.00670 ng/kg bw/dayとなった。さらにND=1/2LODとした場合のCo-PXBs摂取量について、暫定的にCo-PCBsに定められたTEF(1998)を用いてTEQ濃度を算出した場合0.24 pg TEQ/kg bw/dayとなった。

HBCDs の1日摂取量はND=0とした場合は3.1 ng/kg bw/day、ND=1/2LODとした場合は4.2 ng/kg bw/dayと算出された。関東、関西地区における1日摂取量と比較すると今回の値は若干高めであった。TBBPA の1日摂取量はND=0とした場合は0.2 ng/kg bw/day、ND=1/2LODとした場合は0.4 ng/kg bw/dayと算出された。関東、関西地区における1日摂取量と比較すると今回の値は低かった。

今回調査したいずれの臭素系化合物についても、現在の摂取量はただちに健康に問題がある量ではないと考えられた。

D.結論

1. トータルダイエットによる摂取量調査の結果、塩素化ダイオキシン類の一日摂取量は、0.84 pg TEQ/kg bw/day(範囲0.28〜1.49 pg TEQ/kg bw/day)であり、TDIを下回っていた。

2. 魚介類、食肉、乳製品、油脂、アザラシ・魚油及び卵黄を使用した健康食品(計43試料)について、塩素化ダイオキシン類濃度を調査した。いずれも健康危害が懸念されるレベルではなかった。

3. 食品試料46種類中の有機フッ素化合物濃度を調査した。魚介類30試料中6試料からPFOSが検出された。PFOAが検出された試料は無かった。ファーストフードおよびポップコーンからはPFOA、PFOS共に検出されなかった。

4. 魚介類多食者と考えられる漁協関係者、及びハイリスク集団と考えられる小児におけるダイオキシン類摂取量をモンテカルロ・シミュレーションにより推定した。平均値及び97.5パーセンタイル値はTDIを下回った。

5. pGL7.3細胞株を使用して、高感度なルシフェラーゼレポータージーンアッセイを構築した。本アッセイの定量限界は、従来の細胞株を使用したアッセイと比較し、2倍以上高感度であった。また、毒性の強いダイオキシン異性体に選択的に応答し、前処理した魚試料に対する添加回収率も良好であることから、食品などを対象にしたダイオキシン類のスクリーニング法として期待できた。

6. 天然物濃縮加工食品のAhR活性分画物について含有成分を精査し、大豆およびゴマ抽出物含有試料の酢酸エチル分画物から8 種のイソフラボン類を同定した。またプロポリス抽出物含有試料のへキサン分画物からはフラボン類など8種の化合物を同定した。これらの中でプロポリス抽出物含有試料から単離されたtectochrysinは顕著なAhR活性を示した。

7. ASEを使用して食品中のダイオキシン類とPCBs を迅速かつ一斉に抽出し、系統的に分析できる方法を確立した。本法は、従来法と比較すると約半分の日数で分析が終了し、1回の抽出操作で効率的にダイオキシン類とPCBs の測定が可能である。

8. ベンゾトリアゾール類による魚介類の汚染実態を把握するための迅速測定方法を開発した。LC/MS/MSを用いて、魚中の4種ベンゾトリアゾール類を良好に測定が可能であった。今後、確立した方法により多くの魚介類等の中のベンゾトリアゾール類含有量の分析が行われ、汚染実態の把握と汚染原因の究明が進められることが期待される。

9. 臭素系ダイオキシン類及び関連化合物のHRGC/HRMSにおける測定条件検討では、臭素系ダイオキシン類を含む臭素系化合物計66異性体について、分析カラムを交換することなく、1種類のカラムで測定することが可能となり、カラム交換の手間や労力、カラム購入のためのコストを削減することができた。魚試料の汚染調査では、1検体から臭素化ダイオキシン類が微量に検出されたが、その他の魚からは検出されなかった。PBDEsはすべての魚から検出され、PBBsは4検体中3検体の魚から4-6臭素化体の異性体が検出された。Co-PXBsはいずれの異性体も検出されなかった。マーケットバスケット方式による九州地区の摂取量調査では、一日摂取量は臭素系ダイオキシン類が0.00384 pg TEQ/kg bw/day(ND=0)及び1.56 pg TEQ/kg bw/day(ND=1/2LOD)、PBDEs が3.14 ng/kg bw/日(ND=0)及び3.19 ng/kg bw/day (ND=1/2LOD)、PBBsが0.00648 ng/kg bw/day (ND=0)及び0.0617 ng/kg bw/day (ND=1/2LOD)であった。Co-PXBsはいずれの食品群別試料からも検出されなかった。HBCDsの摂取量は3.1 ng/kg bw/day (ND=0)、4.2 ng/kg bw/day(ND=1/2LOD)、TBBPAは0.2 ng/kg bw/day(ND=0)、0.4 ng/kg bw/day(ND=1/2LOD)であった。いずれの臭素系化合物についても、ただちに健康に問題があるレベルではないと推察されたが、摂取量の把握にはある程度の期間観察する必要があると考えられた。

E.健康危険情報

なし

F.研究発表

1. 論文発表

1) Ashizuka Y, Yasutake D, Nakagawa R,Shintani Y, Hori T, Tsutsumi T. Determination of polybrominated dibenzo-p-dioxins, Co-PXBs and brominated flame retardant in fish. Organohalogen Compounds 2009: 71:1251-1254.

2) Tsutsumi T, Ishizuka N, Denison MS,Watanabe T, Matsuda R. A new reporter gene assay for dioxins using green fluorescent protein: increased responsiveness using amplification of the dioxins responsive element. Organohalogen Compounds 2009: 71:1349-1352.

3) Hori T, Yasutake D, Ashizuka Y, Kajiwara J, Nakagawa R, Yoshimura T, Tsutsumi T. Simultaneous determination of dioxins and all PCB isomers in food samples using accelerated solvent extraction and gel permeation chromatography. Organohalogen Compounds2009: 71: 2578-2582.

2. 学会発表

1) 堤 智昭,石塚菜穂子,渡邉敬浩,松田りえ子:緑色蛍光タンパク質を用いたダイオキシン類に対する新規レポータージーンアッセイ.第18回環境化学討論会(2009.6).

2) Amakura Y, Tsutsumi T, Nakamura M, Handa H, Yoshimura M, Matsuda R, Yoshida T.: Estimation of aryl hydrocarbon receptor binding activity of health food extracts using in vitro reporter gene assay. The 50th Anniversary Meeting of the American Society of Pharmacognosy (2009.9).

3) 堀 就英,安武大輔,中川礼子,堤 智昭:食品中ダイオキシン類及びPCBs全異性体の迅速一斉分析法の検討.第46回全国衛生化学技術協議会年会(2009.11).

4) 堤 智昭,福沢栄太,野村孝一,柳 俊彦,河野洋一,米谷民雄,渡邉敬浩,松田りえ子:食品からの有機フッ素化合物(PFOA、PFOS)の摂取量調査.第46回全国衛生化学技術協議会年会(2009.11).

5) 中川礼子,新谷依子,芦塚由紀,堀 就英,堀江正一,田中之雄,柿本健作,堤 智昭:マーケットバスケット食品試料におけるヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)の分析法の検討とその1日摂取量の推定. 第46回全国衛生化学技術協議会年会(2009.11).

6) 芦塚由紀,中川礼子,安武大輔,新谷依子,堀 就英,堀江正一,田中之雄,堤 智昭:臭素系ダイオキシン類及びその関連化合物質のマーケットバスケット方式による摂取量調査.第46回全国衛生化学技術協議会年会(2009.11).

7) 堤 智昭:食品からのダイオキシン類の摂取量調査.第7回食品安全フォーラム(2009.11).

8) 天倉吉章,堤 智昭,中村昌文,半田洋士,好村守生,松田りえ子,吉田隆志:健康食品素材のAhR結合活性について.第3回食品薬学シンポジウム(2009.11).

9) 天倉吉章,堤 智昭,中村昌文,半田洋士,好村守生,松田りえ子,吉田隆志:天然物濃縮加工食品のAhR結合活性と成分分析.日本薬学会第130年会(2010.3).

G. 知的財産権の出願、登録

なし

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