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重要事例情報の分析について

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重要事例情報の分析について



重要事例情報の収集の概要

1)収集期間
平成14年 11月26日より平成15年 2月25日まで

2)施設数
参加登録施設: 263施設
報告施設数:  77施設

3)収集件数

区分件数
 総収集件数1,107件
 空白、重複件数38件  有効件数1,069件
分析の概要

1)分析の方法

 医療事故を防止する観点から、報告する医療機関が広く公表することが重要と考える事例について、発生要因や改善方策などを記述情報として収集した。収集されたヒヤリ・ハット事例より、分析の対象に該当するものを選定し、より分かりやすい表記に修文した上でタイトルやキーワードを付した。
 また、専門家からのコメントとして、事例内容の記入のしかたや記入の際に留意すべき点などを「記入方法に関するコメント」として、また報告事例に対する有効な改善策の例や現場での取り組み事例、参考情報などを「改善策に関するコメント」として述べた。
 さらに、第5回集計より、全般コード化情報として報告されたデータを重要事例情報に付加し、事象そのものや事象の背景をより正確に把握した上で分析を行うこととしている。


2)分析対象事例の選定の考え方

 収集された事例から、分析し公開することが有用な事例を選定した。選定の考え方は以下の基準によった。
 @ ヒヤリ・ハット事例の具体的内容や発生した要因、改善策がすべて記載されており、事例の理解に必要な情報が含まれていること。
 A 次のいずれかに該当する事例であること。
・発生頻度は低いが、致死的な事故につながる事例
・他施設でも活用できる有効な改善策が提示されている事例
・専門家からのコメントとして有効な改善策が提示できる事例
・専門家からのコメントとして参考になる情報が提示できる事例
 B なお、個人が特定しうるような事例は除く。

 なお、報告された事例にはモノ(薬剤、機器等)の特性を主な要因として指摘する事例も含まれていた。これらは、「モノを改善することで、ヒトの認知的負荷の軽減や、記憶の混乱の誘発防止につながり、ヒューマンエラーを防止することが出来る」という観点から分析するために有効であり、当検討会においても有効な知見やコメントが得られると判断して事例を検討することとした。

3)事例のタイトル及びキーワードの設定
 これまでと同様に、各事例にタイトル及びキーワードを付した。キーワードは以下のリストから選択した。

■発生場所
大項目分類項目
外来部門(1)外来部門一般
入院部門(2)入院部門一般
(3)救急部門
(4)集中治療室
(5)手術部門
(6)放射線部門
(7)臨床検査部門
(8)薬剤部門
(9)輸血部門
(10)栄養部門
(11)内視鏡部門
(12)透析部門
事務部門(13)事務部門一般
その他(14)その他

■手技・処置など
大項目分類項目
日常生活
の援助
(1)食事と栄養
(2)排泄
(3)清潔
(4)移送・移動・体位変換
(5)転倒・転落
(6)感染防止
(7)環境調整
医学的処置・管理(8)検査・採血
(9)処方
(10)調剤
(11)与薬(内服・外用)
(12)与薬(注射・点滴)
(13)麻薬
(14)輸血
(15)処置
(16)吸入・吸引
(17)機器一般
(18)人工呼吸器
(19)酸素吸入
(20)内視鏡
(21)チューブ・カテーテル類
(22)救急処置
(23)リハビリテーション
情報と組織(24)情報・記録
(25)組織
その他(26)その他



分析結果及び考察

1)収集された重要事例情報の概要

(1)全体の概要

 3ヶ月間の報告期間で収集された件数は1,107件で、うち1,069件が有効な報告であった。
 改善策として有効な対策が検討されている事例が前回以上に多く見られた。
 報告数が比較的多かった事例として、手技・処置区分別に見ると以下のような事例が挙げられる。与薬、チューブ・カテーテル類、転倒・転落に関する事例が依然として多く、全事例の7割以上を占めている。

チューブ・カテーテル類に関する事例193件(18.1%)
転倒・転落に関する事例188件(17.6%)
与薬(点滴・注射)に関する事例162件(15.2%)
与薬(内服・外用)に関する事例162件(15.2%)
調剤に関する事例78件( 7.3%)
○ 手技・処置区分に横断的に、手書きの指示の誤読、指示伝達の不十分、記載の誤りといった「医療従事者間の連絡・伝達Zミス」に関する事例が依然として多い。
(2)チューブ・カテーテル類に関する事例
 三方活栓、動脈・静脈ライン、自動輸液ポンプや延長チューブなど、適切な使い方を手順化していない、あるいは、手順どおり実施していないためにヒヤリ・ハットが発生していると考えられる事例があった。
 チューブの自己抜去が引き続き報告されている。体動が激しい場合や術後のせん妄など、患者の状態によって自己抜去の可能性がある程度予測されるおそれがあるチューブ類の使用については、アセスメント基準の作成により患者の状態を把握し、抜去されない安全で確実な方法を検討しなければならない。


(3)与薬に関する事例

 点滴バッグの輸液開通忘れが、今回も多く報告されている。これらは、構造上の改善によって防止可能である。混合忘れが起こらないような構造、混合しなければ使えないような形状の検討を進める必要がある。
 内服・外用薬については、患者への投与時や看護師による分包時にヒヤリ・ハットが発生している。
 分包時のヒヤリ・ハットは、看護師管理の内服薬の場合薬剤師が調剤したものを看護師が改めて分包することで薬袋を取り違えたり、分包の量を間違える等の事例が見受けられる。これらの事例は、誤薬の原因となるため、分包業務の必要性の見直しや、薬袋の必要性に関して検討する必要がある。
 調剤については、調剤作業時の薬の量や単位の過不足だけでなく、転棟患者の持参薬の取り扱い、薬袋への記載、指示変更時の反映などでヒヤリ・ハットが発生している。調剤時・与薬時の作業手順を見直すことが重要であるが、準備から与薬までの一連の流れについて見直し、実施体制も併せて検討することで、病院全体の業務の流れを改善していく必要がある。
 MSコンチンなど投与間隔が決まっている時間ごとに与薬する薬剤に関するヒヤリ・ハットは、患者との間で共通理解を持っていれば防ぐことができたと考えられる事例もある。患者へのインフォームドコンセントを十分に行ない、患者や家族の協力の下でヒヤリ・ハットを防止すべきである。


(4)転倒・転落のヒヤリ・ハット事例について

 平成13年8月から開始されたヒヤリ・ハット事例収集事業において、本検討班では過去5回にわたり重要事例情報の分析を行い、86件についてヒヤリ・ハットの要因分析や対策の提言を行ってきた。
 全体的に事例の蓄積が進んでいるため、それらを踏まえて現場へ活用するための対策をまとめる必要があると考え、個別の事例に関するコメントに加え、毎回ひとつのテーマを選定し、これまでの分析や提言を踏まえた統合的なコメントや対策、提言を取りまとめることとした。
 今回は、転倒・転落をテーマとして選定し詳細な分析を行なった。
 転倒・転落を選定したのは、発生頻度の高いヒヤリ・ハットであること、抜本的な解決が困難で依然として同様の事例が報告されていることなどから、改善に向けた取り組みのための基本的な考え方を整理する必要があると考えたためである。
 分析は、今回収集されたヒヤリ・ハット事例のほかに、過去5回で取り上げた関連事例を対象とした。これまでに報告された転倒・転落関連事例は333件(報告された事例の総数は3,047件で、うち有効事例数は2,509件、有効事例に対して転倒・転落が占める割合は13.3%)で、検討班ではこれまでそのうちの4件を取り上げ分析してきた。また、今回新たに報告された事例のうち転倒・転落関連事例は188件(有効事例数に占める割合は17.6%)であり、全体では521件(報告事例数4,217件、有効事例数3,578件、有効事例数に占める転倒・転落の割合14.6%)となっている。
 さらに、検討に際しては既存の代表的な研究知見等を踏まえることとした。
 検討の結果、ヒヤリ・ハットの発生状況、リスク要因、対策の考え方、研究・開発への提言を取りまとめることとした。
 転倒・転落は、疾患等に加え、薬剤等治療の影響、看護・介護の体制、医療従事者の介入、療養環境、家族の協力に加え、患者自身の特性や行動などの要素が複雑に関係しあって発生している。
 転倒・転落を防止するには、これらの要素を踏まえた多角的な視点での事前評価と、事前評価に基づいた包括的な対応策の検討・実施が必要である。別紙には、患者特性、治療内容、療養環境を総合的に評価し、対応策を検討するためのひとつの考え方を例示した。今後さらに事例を収集すると共に、調査・研究も行い、より有効で現実的な対応方法を検討する必要がある。
 報告されたヒヤリ・ハット事例の分析からは、事前評価が不十分であったり、現実的な対応策につながるアセスメントツールの活用の方法論が十分検討されていなかったりといった課題があることがうかがわれた。

 そのため、エビデンスに基づいた適切なケアを提供できるよう、転倒・転落を防止するためのアセスメント方法に関する研究・開発の推進が求められる。また、特に療養環境に関しては、事故を起こさない環境の整備のあり方に加え、事故を予防するためのケアに必要な機器や療養具の開発についてもメーカーとも連携して積極的に進めていくことが求められる。
 検討班では、今後も同様の方法で、発生頻度の高い事例を順次検討していく予定である。

(5)その他注目すべき事例
 手術室において、左鎖骨下静脈穿刺によるCVカニュレーション(中心静脈挿入)中にガイドワイヤーのコーティングが剥がれ、一部が切れて肺動脈に達した事例が報告されている。金属穿刺針とプラスチックガイドワイヤーの組み合わせにより、ガイドワイヤーが切断する可能性があるという記載が添付文書にあるが、使用者に周知されていないという分析がされており、改めてその危険性を周知させることが必要である。
 輸液ポンプの誤動作により指示の3倍の速度に設定された事例や、桁ごとに流量設定が設計された機器による操作ミスの事例が報告されている。輸液ポンプの誤動作や不具合については、メーカーの積極的な対応を求めており、ユーザビリティに配慮した製品の使用が望ましい。
 採血、点滴、血糖チェックやインシュリン投与、MSコンチンの与薬など、決められた時間にすべき業務を忘れる事例が発生している。特に点滴は正確な終了時間が予測できるとは限らないことから終了時間前後の頻回な訪問が主な対策となっている。このような、看護師の負担増加につながる対策ではなく、終了を検知して知らせる機器の開発といった抜本的な改善策が求められる。また、患者自身の安全対策として自らの治療方針を理解し、治療に参加してもらうことも必要である。
 配合禁忌の薬剤を混合してしまった事例が発生している。配合禁忌の薬剤の周知不足が原因として考えられるため、こうした薬剤の院内情報管理体制を検討し、一元的な情報管理の下、医療従事者がいつでも確認できるようなIT支援が求められる。
 注射箋に薬剤名の略称を記入したことによるコミュニケーションエラーが発生している。略号等による記載では、医師の意図する薬剤が正確に薬剤師に伝達されないことがあるため、コミュニケーションエラーを起こさないような統一的な標記方法を検討する必要がある。

(6)まとめ
 前回報告後に収集されたヒヤリ・ハット事例の分析を行なった。報告件数は1,000件以上であり、詳細な報告事例が増加している。
 また、発生頻度の高い事例のうち、転倒・転落に関するヒヤリ・ハット事例について、過去の事例を含め詳細な分析を行なった。これにより、転倒・転落防止に向けた取り組みのための基本的な考え方を整理することができた。
 報告数が比較的多い事例は、前回と同様でありこれらの事例を防止すべく、より一層の専門的な立場からの分析、改善策の提案とその周知徹底が求められるところである。
 特に、ヒヤリ・ハットを防止するために、仕事を互いにカバーしあうことを優先するのではなく、各自が責任を持って調剤から与薬までの一貫した作業を実施するという体制を確立していく必要がある。
 また、要因として患者の状態に影響を受ける事例については、患者やその家族への理解を促すとともに、その協力を取り入れた療養・看護体制の検討をしていくべきである。

2)今後の課題

 前回と同様に、収集事例の中には次のとおり記載の改善が必要なものが見られている。
 ・事例の具体的な内容についての記述が不足している、あるいはあいまいで、事例の状況が分からないもの。
 ・要因を「確認不足」「大丈夫だと思った」「思い込み」としており、なぜそうせざるを得なかったのかという背景要因の分析がなされていないもの。
 ・改善策についての記述が不足している、あるいは改善策の具体的内容が分からないもの。
 ・組織的な背景や要因を分析しておらず、改善策が「確認の徹底」など個人の責任に帰するような表面的なものになっているもの。

「記載用紙」のフォーマットについては、現在ヒヤリ・ハット事例検討作業部会で進められている検討を引き続き行い、記入者がより報告しやすい形式に変更していく必要がある。

以上
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