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2022年4月21日 第36回ILO懇談会議事概要

大臣官房国際課

○日時

令和4年4月21日(木)15:30~17:30

 

○場所

ビジョンセンター日比谷
 

○議題

1 第344回ILO理事会の報告
2 未批准条約について
   第155号条約(職業上の安全及び健康)
   第183号条約(母性保護)
 

○議事

1 第344回ILO理事会の報告
 政府側から資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。
 
(使用者側)
理事会の議題「『労働における基本的原則及び権利』の枠組みに、安全で健康的な労働条件(OSH)を含めるための提案」に関連して、日本未批准の第155号条約が今年の総会で中核的労働基準に含める対象条約のひとつになると考え、本懇談会の議題として提案した。厚労省には、当該条約の批准ができるかどうかとあわせて、中核基準化することの影響について検討いただきたい。
 
2 未批准条約について
(1)第155号条約(職業上の安全及び健康)
 政府側から資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。
 
(労働者側)
第155号条約が様々な影響を及ぼし得るため、政府に注意して対応をお願いしたいという点は使用者側の意見に賛成だが、逆に影響が大きいからこそ真剣に考えていただきたい。世界的にみて第155号条約の重要性は高まっている。政府には、ポジティブリスト、つまりこれをクリアしたら批准できるという考え方を示してもらいたい。ILO加盟国として日本は条約批准を促進する義務がある。途上国の批准がまだまだである中で日本の果たせる役割は大きい。
具体的な課題について聞くが、試験制度の導入は非常に難しいものなのか。また複数企業間の協力を一般的原則のような形で法律に規定できないのか。さらに、秘密を漏らさないことを条件に協議を行うという点について、条文の文言は「must」や「should」ではなく「may」であるため、解釈上課題となるものなのかよくわからない。課題になるのであれば、批准に向け具体的な取組を考えてほしい。
 
(労働者側)
持続可能性や人権DDが世界的に当たり前のものとなっていくなか、労働安全衛生に関する条約の中核基準化は必要だと考えている。命・健康に関する第155号条約は早期に中核条約となり、日本の積極的な批准が迫られることが想定される。その際、批准に向けどのように検討を進めていくのか。
 
(使用者側)
第155号条約は、IOEも同様だが、中核的労働基準化という観点では、若干、テクニカルな条約ではないかという印象をもっている。本条約への政府の基本的な対応方針があればお聞かせ願いたい。また、現状、G7において批准している国はないが、その理由についても分析していればお聞かせ願いたい。
 
(使用者側)
第155条約は2002年に議定書が採択されているが、中核的労働基準となった場合は、第29号条約議定書のように、当該議定書も批准促進の対象となると思う。議定書の内容は、労働災害に関する統計の取り方などであり、2002年には併せて化学物質を含む職業病のリストが採択され、その後もアップデートされているが、日本は対応できているのか。
 
(政府側)
第155号条約第17条に関連し、複数企業間協力の業種拡大の論点だが、労働安全衛生法において建設業・造船業・製造業について労働災害防止のため連携の措置を義務づけ、またその他にも、トラック輸送についてガイドラインベースで企業間協力をお願いしている。これらの業種においては複数企業が同時に作業することによって労災が発生しているという現実を踏まえたものであり、これをただちに全業種でできるかは、立法事実があるかなど、慎重に検討する必要がある。
 
(政府側)
第155号条約第19条において、企業における労働者代表が企業の秘密を漏らさないことを条件として代表的な労働者団体と協議できるという規定が「may」という文言である点について、第8条において、各加盟国は「法令により」、または「国内の事情及び慣行に適合するその他の方法により」必要な措置を取ると定められていることから、必ずしも法令によって規定することは求められてはおらず、国内慣行を含めて条約の趣旨の担保を考えることが必要。この点、例えば韓国など一部の既締結国においては、法令ではなく国内慣行において担保していると承知。
第155号条約の批准については、ILO条約はそれぞれの条約の目的・内容を十分検討し、国内法制との整合性を確保した上で批准するという原則がある。現時点ではその国内法制との整合性についてなお慎重な検討が必要である。G7が本条約を未批准である理由については、例えばカナダは、大半の事業者が準州法の規制下にあるため、批准にあたっては準州と協議の上同意を得る必要があるためと聞いている。
2002年の議定書については、第155号条約が基本条約となった場合に必ずしも基本的原則の対象になるわけではないと事務局から説明があった。批准については、国内法制との整合性についてなお慎重な検討が必要である。具体的には、議定書においては、事故等の疑いがある事案の記録の保持期間を定めると規定されているが、労働安全衛生法上、事業者は労働者死傷病報告についての記録を保持する期間に関する義務規定がない。
 
(使用者側)
試験制度の新規導入が難しいのかについて、可能な範囲でお答え願いたい。
 
(政府側)
例えば鉱山法では、化学物質の試験制度を設けていないと理解しているが、労働安全衛生法の適用との関係について調整が必要と考えている。
 
(使用者側)
試験制度というのは、どのような試験が求められているのか。
 
(政府側)
ILOが条約上挙げている例示としては、政府や大学、民間の専門機関が行う、業務上の暴露限界値を設定するための物質の毒性に関する研究や、素材の耐久性、騒音防止、空気中の有害物質の検出等に関する研究がある。国内では、労働安全衛生法の第57条の4から第58条に規定のある化学物質の有害性の調査や国の援助、独立行政法人労働者健康安全機構法第12条第1項第4号で業務の範囲として定められている、化学物質で労働者の健康障害を生ずるおそれのあるものの有害物質の調査を行うことが該当すると考えている。労働安全衛生法が適用除外である船員、鉱山労働者については現状、試験制度が準備されていないかという状況と認識している。
 
(使用者側)
第155号条約第19条(c)「代表的な労働者団体と、職業上の安全及び健康を確保するために使用者によりとられる措置」の「使用者」とは個別の企業を指しているのか。また、後段部分について、例えばA社の問題について、代表的な労働者団体が、秘密を洩らさないからA社の労働者代表と協議をするというように読めるが、こういうのは日本だと実効性の確保が難しい部分があるのではないか。
 
(政府側)
英文はrepresentative of workers、つまりその企業の労働者代表が、その企業の秘密を洩らさないことを前提として、representative organizationにconsultできることになっている。日本の状況に照らした詳細までは検討が進んでいない。
 
(使用者側)
連合傘下にある個別企業の単組が、産別に相談に行くという趣旨であれば、秘密に関する規定の有無は別として、実態としてなされていると思う。
 
(労働者側)
禁止規定がない限りは問題ないと読めたので質問した。
 
(政府側)
条文上、国や企業の取組が全て法令によって確保される必要があるとの明文の規定はないが、条約に規定されている義務が実態として確保されているか否かについては、現時点では明確なことが言えない。本件は、国内慣行として担保されていれば足りるのではないかという観点から、そもそも法令で定める必要があるのかという点も含めて検討が必要。
 
(労働者側)
サプライチェーンで日本の各企業は責任ある立場。アジアで範を示していくことは避けられず、積極的に議論いただきたい。
 
(使用者側)
使用者側は本条約にネガティブではない。重要なことは現場で条約の趣旨を踏まえた取り組みができるようにすることである。例えばサプライチェーンの問題であれば、日本のODAによる労働安全衛生に関する技術支援など、地道な活動の充実も重要となろう。条約の批准は、そうしたこととセットで検討することが大切である。
 
(2)第183号条約(母性保護)
 政府側から資料に基づき説明を行い、その後意見交換が行われた。
 
(労働者側)
2016年のILO懇談会で同条約を議論して以降の政府側の検討内容が見えないのが残念。条約第10条の報酬に対応する労基法上の育児時間・哺育時間の規定はないが、実際には育児時間を賃金カットしていない企業が多く問題ないと思われるが、そのような企業があるかどうかについては調査しているのか。
第5次男女共同参画基本計画の第11分野にはILO条約第111、175、183、190号条約に関し具体的な検討との記載があるが、何を検討してきたのか。パブリックコメントでも、女子差別撤廃条約の選択議定書の批准と合わせ、未批准条約の早期批准を求めるコメントが多く、批准は国民の声として大変大きいのではないか。前回にはなかった課題が挙げられたが、なぜ新しいネガティブリストが出てくるのか。条約が対象としているのは全ての女性労働者であるところ、なぜ「無職の方」が言及されているのか。
また、ILO条約は国内法を整備しければ批准しないと定めた古い閣議決定があると聞いているが、令和の時代にそういった閣議決定が引き続き有効なのか。
 
(使用者)
使用者側も母性保護は大変重要な課題であると思っており、これまでの政府の政策については真摯に対応していると考えている。その上で、育児時間中の賃金を有給にするか否かについては、育児時間の時間みなしはノーワーク・ノーペイの原則に反しており、批准の際にハードルが高いものと認識している。第183号条約については、前身の条約は批准数が少なかったという背景もあり改正されたものと認識しているが、改正後も批准数が少ない実態があり、その理由を教えていただきたい。
 
(政府側)
育児時間を有給としている事業所については調査を行っており、平成19年度は36.4%、平成27年度は17.2%、令和2年度は25.3%。
 
(政府側)
第5次男女共同参画基本計画のパブリックコメントについては改めて確認し、今後の検討を進めさせていただく。
 
(政府側)
国民健康保険の課題を追加で挙げたのは、厚労省で本条約に関連する国内制度上の課題について検討を進める過程で、課題となりうることが明らかになったため。無職の女性について言及する意図ではなく、健康保険法に基づく被用者保険者ではない被用者について、本条約の保護対象であるにも関わらず、国民健康保険では出産で労務に就けない場合の所得補填が各保険者の任意による給付になっている点が、批准に当たっての課題になるのではないかと考えられるため。
第183号条約の批准国が少ない理由については、第183号条約に関してはILOのジェネラルサーベイが作成されておらず、詳細が明らかになっていない状況。第183号条約の未締結国には本年2月に現況報告の提出が求められており、2023年に各国の報告をまとめた報告書が採択される予定であるため、今後はそれも参考にしながら検討を進めていきたい。
 
(政府側)
御指摘の閣議決定は昭和28年のものであり、条約の締結は国内法の整備を行った上で行うという内容等を定めたもの。これはILO条約に限らず、我が国が条約を締結する際の基本姿勢であり、条約上求められる義務の内容と我が国の法制を照らし合わせる作業を行った上で締結に向けた検討を進めていくというもの。
 
(労働者側)
非正規雇用の女性が国民健康保険に加入するしかないことを考えると、そもそも日本の社会保障制度を変えないと解決しないという点がいみじくも明らかになったものと考えている。条約批准に向けて、働く女性の環境整備等の課題が改めて認識されたと思うので、第5次男女共同参画基本計画について関係府省でしっかり取り組み、間違いなく進めていただきたい。幅広い課題があるからこそ進まないのであれば、何ができるのかという点を積極的にご議論いただきたい。
 
(使用者側)
政府内の議論において、労務に就けない人々に対し、国民健康保険で休業補償をすべきといった議論が行われたことはあるか。コロナ禍での休業補償とは別に、一般的に休業した人に対して補償すべき、それも健康保険の中で行うべき、という議論はなされているのか。
 
(政府側)
健康保険制度では保険給付という形で、本人が医療機関を受診したときの費用や出産時の一時金は支給するが、疾病、死亡、出産と給付の項目には明確な法律上の規定がある。休業の場合の保険は保険給付の対象外と整理しており、保険給付として手当てをするという議論はない。
 
(使用者側)
労働者側の意見を実現するにあたっては、日本政府内ではどの部署が所管すべきなのか。
 
(政府側)
保険制度全体を通じた議論が必要。第183号条約との関係では出産手当金が課題だが、そもそも国民健康保険に入るのか健康保険に入るのかといった問題は、社会保障制度全体のあり方に関する問題であり、厚労省の複数部局に関係する。
 
(使用者側)
国民健康保険は保険者が地方自治体であるため、各地方自治体が取り組まない限り、批准の要件は満たせないという理解で良いか。
 
(政府側)
国民健康保険は、様々な方が皆保険を実現する最後の砦として加入しており、休業した際の妥当額を算出することが難しいという点や、国民健康保険の被用者だけ出産手当金を支払うとなると、他の保険者から保険料を徴収することに国民の理解が得られるかという点等に課題がある。現在、政府全体としては、勤労者皆保険ということで、本年10月にも適用拡大が開始されるように、全ての方が社会保障給付を受けられるよう適用拡大を進めていく方針である。

以上

 

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