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2017年4月14日 第2回がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会(議事録)

大臣官房厚生科学課・健康局がん・疾病対策課

○日時

平成29年4月14日(金)


○場所

厚生労働省 9階 省議室


○議題

(1)がんゲノム医療推進コンソーシアムについて
(2)その他

○議事

○間野座長 では、皆様お集まりになりましたようですので、少し早いですけれども、始めさせていただきたいと思います。

 これより第2回「がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会」を開催いたします。

 皆様方におかれましては、年度初めの忙しい中、御出席いただきましてまことにありがとうございます。

 初めに出欠の確認を事務局からお願いします。

○医療イノベーション企画官 本日の構成員の皆様方の出席状況を御報告させていただきます。

 本日は杉山構成員、宮園構成員から御欠席との御連絡をいただいております。

 また、本日は参考人といたしまして、静岡県立静岡がんセンターの山口建総長にお越しいただいております。

 厚生労働省からの出席者でございますけれども、本日から葛西重雄厚生労働省顧問にも御出席いただくこととなりました。その他の厚生労働省からの出席者につきましては、事務局等出席者一覧に記載のとおりでございますので、個々の紹介は省かせていただきます。

 以上でございます。

○間野座長 ありがとうございました。

 では、議事に入る前に資料の確認をいたしたいと思います。事務局からお願いします。

○医療イノベーション企画官 お手元に配付させていただきました資料について、資料1「構成員からいただいた主なご意見」。

 資料2は山口参考人提出資料。

 資料3は天野構成員提出資料。

 資料4は加藤構成員提出資料。

 参考資料といたしまして、第1回がんゲノム医療推進コンソーシアム懇談会資料4(一部改訂)でございます。

 不足、乱丁等ございましたら事務局までお知らせいただけますと幸いです。いかがでしょうか。

○間野座長 よろしいですか。

 では、議事に入らせていただきます。前回の会議では、がんゲノム医療をこの前の懇談会で話し合いをさせていただきましたが、事務局からそのときの論点について整理して御意見をまとめていただきました。資料1としてまとめていただきましたので、事務局から資料1に関して御説明をお願いします。

○医療イノベーション企画官 それでは、資料1をご覧いただきたいと思います。

 1枚おめくりいただきまして、下にページ番号を1と振ってある部分でございます。

 マル1、がんゲノム医療提供体制の構築に向けた考え方でございまして、黒ポツ、患者・国民を中心に関係者の意見が反映される仕組みをどのようにつくるか。また、質の高いがんゲノム医療を効率的に提供する仕組みをどのようにつくっていくかという論点につきまして、第1回及びこの間メール等でいただいた御意見でございますけれども、がん研究のオールジャパン体制を構築し、既存の治療法の提供だけでなく、新たな治療標的等を発見し、日本がこの分野で世界をリードしていく必要があるという御意見。患者・国民がゲノム医療に主体的に参加する体制が必要ではないか。データ管理に当たっては、参加者からの同意のとり方、プライバシーの保護、セキュリティー担保等に関する検討が必要である。がん患者全体を考えると、手術適応のある患者さんの再発の診断等の開発も重要であるという御意見もいただいております。

 1枚おめくりいただきまして、これはがんのゲノム情報を集約する集約機関と医療提供を支援する拠点というものにつきまして、データを集約・管理する機関が必要ではないか。その必要性と役割。また、がんゲノム医療の提供を支援する拠点医療機関というものの役割としてどのようなものがあるか。現在の医療提供体制における新たなこうした機能の位置づけということで、論点として示させていただきまして、御意見としましては膨大な文献情報のうち、ゲノム変異と疾患との関連、また、治療効果等を集めたがんゲノム医療用のデータベースをつくる必要がある。また、治験や臨床試験についてどのようなものが、どこで行われているかの情報を一元的に集約し、患者も含めてアクセスできる体制が必要である。がんゲノム医療を全ての国民に提供するためには、データベースの構築や変異情報の意義づけ、アノテーションの提供など、がんゲノム医療提供の支援を行う拠点を整備する必要がある。データ量が多くなることが予想されるため、クラウドを利用する必要があるのではないか。コンソーシアムには人工知能を備えたクラウドシステムやデータ解析の計算機が必要である。クラウドのデータサーバーのセキュリティーについて、完全なものはないが、米国のゲノム研究で民間クラウドを利用しているものもある。金融取引もクラウドに移行してきており、実用的なレベルで見れば十分なレベルに達してきていると考えられるといった御意見をいただいております。

 3ページ目でございますが、こうした体制を計画的に整備していくという観点で、質を確保した上で全国に展開する方策、また、産業界や患者さんの負担を含めた自立的運営の仕組み、革新的医薬品等の創出をも可能とする仕組みという観点でいただいた御意見でございます。がんゲノム医療の推進のためには、遺伝カウンセリング体制の整備というものが重要である。また、情報の質の確保、また、情報間の連携の仕組みについての検討が重要である。また、次世代シークエンサーを用いたゲノム解析について、承認の際に一定の品質の基準が必要ではないか。コンソーシアムを持続的なものとするためには、国の支援だけに頼らず、参加者がそれぞれの観点で費用を負担していくシステムの構築が必要である。特許など知財に関連する契約について、手続や経費の面でも検討が必要であるという御意見。腫瘍の全ゲノム解析のみでなく、リキッドバイオプシーによる早期再発診断等の開発も重要である。免疫療法の有効性予測マーカーや新たな治療薬の開発について、ゲノム以外の免疫系に関する情報も収集する必要があるのではないかという御意見をいただいております。

 あわせてお手元にお配りしております参考資料の一部を改訂させていただきましたので、御紹介をさせていただきたいと思います。先ほどいただいた御意見の中で、この仕組みの中で目指すべきものということで、リキッドバイオプシーによる早期再発診断でありますとか、免疫療法に関する免疫関係の御意見をいただいたということもありまして、参考資料の3ページの左側の一番下になりますけれども、全ゲノムシークエンスというものに加えまして免疫関連検査という言葉を入れております。その右側で革新的新薬開発の下に、免疫チェックポイント阻害剤などの効果予測因子を踏まえた個別化医療、また、再発の超早期診断、リキッドバイオプシーの研究開発ということを入れさせていだいておりますので、御報告させていただきます。

 以上でございます。

○間野座長 ありがとうございました。

 いずれも重要な指摘をいただいております。このようにがんゲノム医療をオールジャパンで推進するためのコンソーシアムをいかに構築していくかに当たって、幾つか論点を今、御説明いただいたような形でまとめさせていただきました。これに関する議論はこの後、構成員の方と参考人の方の御発表、御議論の後にまとめて全体討論で行いたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 それでは、がんゲノム医療推進コンソーシアムでは、現状のがん診療連携拠点体制も踏まえながら構築していく必要がありますので、今回は静岡県立静岡がんセンターの山口建総長にお越しいただき、「がんゲノム医療の実践」というタイトルで、がん診療連携拠点病院の対応案も含めた御発表をいただきたいと思います。

 では山口先生、よろしくお願いいたします。

○山口参考人 お招きいただきありがとうございます。

 資料2を使って説明させていただこうと思います。

2014年1月から静岡がんセンターの症例を対象に分析をしてきた結果、ちょうど3,000例を越えましたので、一体何が分かるのかデータをお示ししながら、もし同じような形で拠点病院で実践するとすれば、どういう形になるのかということをお話しようと思っております。

 2枚目の図をごらんください。プロジェクト名はHOPEという形になっております。よくクリニカルシークエンスと間違えられるのですが、私どもはクリニカルシークエンスとは考えていなくて、近未来のゲノム医療をシミュレーションしてみようということが最初の目標です。当然そのデータはクリニカルシークエンスをやった場合のデータが一部完全に含まれてきますので、それを活用していくとどういうシミュレーションができるのかということを考えております。

 研究を始めた動機ですが、静岡がんセンターは今、がん患者症例数で言えば、全国でトップ3の一角を占めています。1医療機関での症例集積が可能であり、それを分析して、臨床データとの完全な突合を図ってみたいという気持ちで、真の意味のがんゲノム医療の実践を目指しました。そこで、1医療機関のみのデータをまとめてきた次第です。患者数が十分、まとめることが出来るというのが第1の動機。

 第二に、私が、2001年の3省合同のヒトゲノム・遺伝子解析倫理指針策定に当たって、実質的な責任者を務めていたことが動機となりました。当時、臨床医と研究者と生命倫理の方々をはじめとする社会学者との間で厳しいバトルがありまして、結果的にはやや厳しい指針になったと考えていました。作成した本人としては、当時は、本日、お示しするような研究はハードルが高いと考えていたのですが、その後の十年余りで、機器の発達、特に次世代シークエンサーの発達等もあり、指針も一歩一歩改定され、やっと生殖細胞系列の分析を含めた大規模解析が実施できるかもしれないと、2013年ごろの改定で考え、直ちに準備を開始したという経緯がございます。

 先ほど申し上げたように、この研究では、クリニカルシークエンスとは違う形でがんゲノム医療のシミュレーションを進めたいということ、すなわち、臨床への応用が第一点、そして、第二点は、診断薬や創薬の開発にこのデータをつなげていきたいという考え、この2つが主たる目標となっております。シミュレーションという形では結果の分析、解釈、報告というところが非常に重要なファクターになります。そこで、最初からSRL社との共同研究で進めてきた事業でございます。

2枚目の図で示したように、がん組織と正常組織、患者さんの血液を必ず採取して分析いたします。病理切片は一切用いておりません。全て新鮮凍結サンプルを用い解析をしております。その心は、大量のサンプルが得られ、何度も繰り返して異なる手法で解析ができることを重視しました。私は臨床検査畑の出身なので、まだまだこのゲノム解析というのは臨床検査で言えば初期段階と考えています。そこで、繰り返し精度を高めていくためには使い切りのサンプルではだめだと考え、大量のサンプルで分析を進めてきました。

臨床情報は、連結可能匿名化の研究として完全な突合を可能にしました。ここがポイントです。同一医療機関でやる最大の理由は、全ての中央診療部門も含めて臨床医が「あの症例」というような話し合いができる。これが大切な近未来像ではないかと思っています。

 得られる成果としては、当然ながらがんの特性が得られ、そして薬物代謝、疾病感受性のデータが生殖細胞系列の解析結果から得られ、そして遺伝性の疾患ががん、非がんあわせて多数明らかになってくるという特徴がございます。

3枚目の図をご覧ください。静岡がんセンター単一医療機関での研究ですので、どういう人材がかかわっているかを示してあります。このプロジェクトのための専従が40名です。研究所を中心とした解析部隊に、遺伝カウンセラーあるいは個人情報管理といった方々を合わせて約40名。それに加えて、全病院でそれを支援する者が500名。結果的には、医療スタッフの約半数がこのプロジェクトに何らかの形でかかわっているという状況です。

4枚目の図がマルチオミクス解析プラットフォームです。上に記載した試料が、左からリキッドバイオプシー、全ゲノム解析、RNA-seq、エキソン解析、精度を上げた409遺伝子を対象としたがんパネル、421種類の既知の融合遺伝子をみるようにしています。それから、少し古い手法ですが、Microarrayで全遺伝子発現をみる。この赤の線で囲った部分が全症例について行われており、左側のリキッドバイオプシーはもう少し精度が上がらないと手を出せないかなという感じ。全ゲノムは問題がある症例の分析が始まっているところです。

 プロテオミクスは免疫チェックポイント阻害剤の限界がもうそろそろ見えてきていますので、次の世代の免疫治療をこのデータの中から考えていこうとすると、どういうタンパクが表面に発現しているかとか、そういうことを調べなければいけないのでプロテオミクスの技術も重要です。あるいはメタボロミクスもがんの原因としてよく知られるようになってきましたので、オンコメタボライトの解析も同時に行っております。

2014年1月からスタートして、ちょうど3年少したった時点で3,600例余りの登録、検査が可能であったものが3,500例、測定を終了しているものが3,100例余りとなりましたので、きょうはおおよそ3,000例を対象としたデータと考えていただきたいと思います。5枚目の図は、対象としたがん化に関わる遺伝子の分類です。基本的には全症例についてエキソン解析をやっていますので、全遺伝子のエキソンデータがまずは全体像になります。加えて、世界の17種類のがん関連遺伝子データベースから遺伝子リストを集め、その合計に静岡がんセンターのインハウスのリストを加え、現時点では1,130個の遺伝子をがん関連遺伝子としています。次に、すべて1,130個に含まれているのですが、Vogelsteinがドライバー遺伝子として重要と報告してきた138個の遺伝子での変化も検討します。さらに、138個の遺伝子において、かならずがんを発症させる変異に絞って分析することも行っています。そうすると黄色で書いてありますように、それぞれの基準に沿って、1腫瘍の中にそれぞれの変異数が認められます。 6枚目の図は、すべての遺伝子を対象とした腫瘍特異的遺伝子変異数をがん種別に示してあります。この数は、免疫チェックポイント阻害剤の治療指標になると言われているものです。このデータは欧米では良く報告されていますが、日本人のがんでは少し違うところがあります。けれども、大体は同じようなデータになっています。2,000という数字の上に幾つか点が出ていますが、これはいわゆるPOLEカテゴリに属する症例です。大腸がんと、ここに出ていませんが子宮がんにのみ典型的な症例が認められ、臨床的にはおもしろいデータも集まりつつあります。

 一応この500個以上の変異を持つものをハイパーミューテーターとすると、大体5~10%程度がこの群に含まれますが、がん種によって随分違います。

 免疫チェックポイント阻害剤の1つの指標として、PD-L1の発現とあわせて検討すると、まだ症例数は少ないのですが、解析対象となった症例で、PD-1抗体等を使っているケースがありますが、その2つでは評価は不十分で、新しいバイオマーカーが要るだろうという印象があります。

7枚目の図には、時間の関係で解析結果の概要の一部をお示ししました。

 まず体細胞系列の変異ですが、SNVIndel、融合遺伝子、発現変化を合わせて解析しました。融合遺伝子は既知のものをまずはみておりますので、固形がんの場合、1.7%ぐらいが融合遺伝子症例です。遺伝子発現については、がん遺伝子について遺伝子増幅が4コピー以上で、かつ、発現が正常組織の6倍以上になっているものを陽性としました。かなり厳格な基準を使っていて、それほど数は多くありませんけれども、該当症例が出てきます。4種のいずれかをがん関連遺伝子1,130種でみると100%でどれかには変化が見つかり、Vogelsteinが提唱している138種の遺伝子でも96%では出てくる。ただ、その遺伝子のどこに変異があればそれががん化につながるのかという情報は十分ではありません。ないものもありますが、厳密にドライバー変異を見極めていくと46%程度になります。だからエキソン解析で46%の症例についてはかなり厳格な基準で原因遺伝子を特定できるといえます。実は、全体でみるとTP53が最も多い変異なのですが、少々、分析しにくい部分があるため、この46%の中にはTP53の変異例が含まれていません。ある基準で、TP53を含めて解析するとこの数値は60%になります。従って、今回の遺伝子解析では、すべての種類のがんについて、大体6割の原因遺伝子を特定できると言って良いと思います。

SNVのみを対象とした場合には、62%の症例で何らかの変異が見えています。17%には分子標的薬がありますが、この17%には適応外のものや治験薬も含めています。一方、45%にはそういうものは存在しません。将来的には、このあたりが創薬のターゲットになっていくのだろうなと思っています。

 一方、生殖細胞系列の解析結果では、遺伝性がんの疑いが1%、それから、非がん性遺伝疾患の疑いが0.6%でした。これは変異を確認したもので、臨床的な解析ではありません。気になるのは、これも研究の1つのテーマなのですが、遺伝性がんを引き起こし得る遺伝子において、生殖細胞系列変化が数%見つかっています。多分、この一部は遺伝性がんを引き起こす遺伝子の低浸透性の変化であろうと考えています。

 薬物代謝酵素の遺伝子多型はさまざまな頻度で同定可能です。ただし、エキソン解析の限界があって、全てというわけではありませんので、ここは新しい技術を開発中です。例えばタモキシフェンが活性化されない患者さんが見つかります。タモキシフェンは体内で活性化されますので、この患者さんにはタモキシフェンを投与しても効果は出ないということを明らかにすることが出来ます。

 常染色体劣性遺伝性疾患の保因者の同定も、多くがエキソン解析で十分可能で、例えば遺伝性のアルツハイマー遺伝子の変異がホモで1%程度、ヘテロではかなりのパーセント出ています。ホモの場合、発症リスクは10倍程度とされているので、将来的には、がんが完治した後で、そういうところを注意しながら見ていくことが可能となるでしょう。あと、遺伝性の早老症、これは、患者さんががんセンターを受診することはまずありませんが、ヘテロの保因者が0.38%ぐらい見つかっています。

今後、1,0002,000の常染色体劣性遺伝疾患の原因遺伝子について、多くの場合、解析可能と考えております。

8枚目の図は、本プロジェクトにおける生殖細胞系列変異例の取り扱いを記載してあります。初期の頃、がん学会で生殖細胞系列の変異をある基準で患者さんに伝えているとお話ししたら、それはいかがなものかというコメントをいただいたことがあります。この質問者には、倫理指針やIRBの申請書類を見直せば、必要な情報を患者さんに伝えなければいけないと書いてあるはずですと申し上げました。ただ、ここは確かに難しいところです。我々は米国臨床遺伝学会の開示推奨疾患を含む遺伝性腫瘍症候群31疾患53遺伝子(米国臨床遺伝学会は17疾患、25遺伝子)及び非がん性の遺伝性疾患8疾患33遺伝子、これは大多数が循環器疾患ですが、これについて、認定遺伝カウンセラーが同席のもと、患者さんに開示しています。

 静岡がんセンターのがん患者数が年間約7,000例で、がん遺伝外来が設置されています。相談件数が年間160件、半数がプロジェクトHOPE関連です。ただ、認定遺伝カウンセラー2名は大変忙しい思いをしており、プロジェクトHOPEの説明、それとは関係なく遺伝外来を受診する方、さらに、静岡がんセンターでは初診時、看護師が病歴を聴取しており、そのうちの家族歴の部分のチェックも遺伝カウンセラーが実施しています。全てというわけではありませんが、気になるケースが対象です。

 この数を参考に、一般のがん拠点病院での院内がん登録は大体平均すると2,000例程度です。もし、全例で遺伝子解析を行うとすると、年間20例の遺伝性腫瘍と12例の非腫瘍性遺伝性疾患の疑い例を診療することになります。しかし、従来のような診療を行った場合には、臨床的に家族性腫瘍症候群を疑うケースは年間4例程度になりますから、拠点病院に遺伝カウンセラーを必ず置くことにはならないだろう思われます。

 ただ、この生殖細胞系列変異をしっかり解析すると、例えばBRCA1ですと乳がんそのものの患者さんが2例ぐらい診療していますが、それ以外に乳がんとは関係ない、多分、がん化には寄与していない症例が、別ながん腫で見つかります。遺伝性乳がん卵巣がん症候群の2倍程度の症例でBRCA1の生殖細胞系列の病的な変異が見つかっています。これは家族に対する血縁者診療をどのように進めるかという1つの課題を示しています。

9枚目の図には、そういうことを踏まえて拠点病院での対応原則案というものを示してみました。体細胞系列変異を対象とした診療は、一般の臨床腫瘍医であれば十分可能ですので、標準治療として実施していただく。一方、生殖細胞系列の変異を取り扱う、あるいは質問が来る場合が多々ありますので、臨床遺伝専門医は拠点病院に1人は配置してもいいのではないかと思います。ただし、義務的条件ではなくて、いることが望ましいという基準でいいのかなと思います。この資格を持つ医師は、今、増加しているので、ある程度、拠点病院の要件に入れてもいいかなと思っております。

 都道府県拠点は全国で49ありますが、ここにはがん遺伝外来を設置すべきだと思います。臨床遺伝専門医プラス認定遺伝カウンセラーでカウンセリングは実施できるようにする。ただし、この方が周りの近隣の拠点病院に出張するような形が症例数の観点から言うと望ましいし、遺伝カウンセラーはそもそも現時点では約200人しかいませんので、そういう形しかとれないだろうなと思います。

 地域拠点は、当初の段階ではともかく遺伝相談に応じることが出来るという体制が望ましいと思います。 10枚目の図は、昨年6月、がん診療提供体制のあり方に関する検討会において、都道府県拠点病院の対応案というものを提案させていただき、内容は今、申し上げたものが取りまとめです。

11枚目の図は、同様に地域拠点病院の対応案の提案をさせていただいております。もちろん本日のこういう会議の議論に基づいて、新たな要件なり基準が提案されていくものと思います。

12枚目の図は、当面の課題(1)です。まず1番は診療報酬上の配慮をどうするのか。遺伝外来運営となると診療報酬をどうするか。それから、せめて家族性腫瘍症候群や遺伝性非がん疾患の開示対象疾患に関しては、生殖細胞系列の遺伝子変化を健康保険で診療報酬化しないといけないだろうと思います。現在ではRB1RETは認められているのですが、なぜ、この2つだけなのか、私は存じ上げておりません。当然それ以外のものも、同時に対象にせねばならないと思います。

13枚目の図は、当面の課題(2)です。ゲノム解析技術のさらなる改善と低価格化。ゲノム・遺伝子解析は、今までの臨床検査とは全く異なるコンセプトで対応する必要があります。今までは、臨床検査の数値を医師に報告して、その医師が判定し、最終決定をしていました。ところが、このゲノム医療ではそういうことはできずに、分析した人が、「お医者さんこうですよ」と言わないと動かない部分があります。

 解析データの評価も道半ばで、例えばTP53では、この変異は本当に病的なのか否かというのはまだ十分わかっていません。このプロジェクトHOPEでも幾つかの新たなTP53の変異見つかっています。

 分子標的薬の標準治療は一般の病院で十分実施可能だと思います。しかし、生殖細胞系列の遺伝子変化については、単なる医療スタッフの知識では十分ではなく、専門家の育成が必要です。分子標的薬が全てのがんの1~2割程度しかカバーできていない現状では、さらなるバイオマーカーの開発と創薬が必要だろうなと思われます。

 いずれ3,000例の解析がしっかり終わった時点で、機会を改めて発表させていただこうと思っておりますので、またそのときは関係者にお声をかけさせていただきます。どうもありがとうございました。

○間野座長 ありがとうございました。非常に大規模なゲノム解析と臨床情報の突合を単一の病院でされたということに大変敬意を表させていただきますとともに、さまざまな面におけるゲノム医療の問題点を網羅していただいて御発表いただきました。大変ありがとうございました。

 それでは、今の山口参考人の発表に関しまして質問、御意見等をお願いいたします。

 加藤先生、どうぞ。

○加藤構成員 以前からも少しお聞きしていたのですけれども、改めてお聞きしまして非常に重要な活動だと思っています。

 拠点病院の対応原則案について御質問をさせてください。体細胞の変異は標準治療として実施すればよい。それから、生殖細胞系列で変異が見つかったりする場合のために、臨床遺伝子専門医や認定遺伝カウンセラーを都道府県拠点に置くということなのですけれども、いろいろ考えていきますと、最初に患者さんをごく普通のがんのゲノム解析として臨床的に受け入れているときに、その解析の中から家族性の変異が見つかった場合に、あなたは知りたいですか、どうですかというのをたしかそちらも聞いておられたような気がするのです。そうすると非常に大きな問題で、全国にそういう活動を配置しないといけなくなるのですが、それは一番上には入っていないように見えるのですが、いかがでしょうか。

○山口参考人 プロジェクトHOPEに関しましては、インフォームドコンセントも最初から遺伝カウンセラーでという話がありました。しかし、ボリューム的に無理だったので、臨床医が一応勉強をしていただいて実施するようにしています。その段階で先生がおっしゃるようなことはちゃんと述べさせていただいて、そうすると開示を求めない、そもそも参加しないという方が当然出てきます。協力はするけれども、データは私には伝えないでくれという方も出てきます。そういう方々のうち、研究に参加された方の集まりがこの3,000例になっています。ただし、ぜひ教えてくださいという方が大多数を占めています。

○加藤構成員 そのときに、先生が途中でおっしゃった血縁者に対する、その多くは未発症になると思いますが、その問題もある種、含まれていると思うのです。最初に話をするときに。そうすると本当に典型的な遺伝医療のカウンセリングになってくると思うのです。私はそれをすぐやれと言っているわけではないのですけれども、なかなか重たい問題ではないかと思うのですが、いかがでしょうか。

○山口参考人 最初から、生殖細胞系列解析で起き得る問題を全部伝えるということは今の段階で難しいと思うのですが、その可能性は伝えます。データが出た時点で、これは指針に沿って例えば先ほどのBRCA1の思いがけなく出てきたようなケースについては、IRBの協議を経た上で御本人に開示をすることが必要です。そういうことを今やっているという感じです。

○間野座長 ほかにいかがでしょうか。北川先生、どうぞ。

○北川構成員 非常に整理された御発表をいただきまして、ありがとうございました。

 今の加藤構成員の質問にも関係するのですが、地域連携拠点病院に求められる要件についてご質問させていただきます。長年がん診療連携拠点病院の医療提供体制を構築してこられたお立場でお答えいただけましたら幸いです。組織体制及び医療従事者の配置、特に臨床遺伝専門医、遺伝カウンセラー等の配置に基づく個別化医療の対応というところを、二次医療圏にある地域連携拠点病院も備えることが理想的な最終ゴールであると認識しておりますが、タイムテーブルとしてどのぐらいのスパンでここまで達成するという形を構想されているのでしょうか。ちょっと教えていただければと思います。

○山口参考人 拠点病院の検討会の座長としては、余り重い負担はかけられないなと思います。現状を見ますとかなり厳しい状況も生まれていますので。しかし、患者さんにとっては、多くは結果的には誤解なのですが、「自分は間違いなくがんの遺伝家系だ」ということを非常に気にしておられる方がたくさんいらっしゃいます。そういう方の中にほんの少数例、遺伝性がんが入ってきます。その方々への第一歩は、さすがに地域がん拠点で対応すべきだと思いますので、私は次の要件のときに、遺伝外来とは言わないが、遺伝相談はできる体制を求めたいと思います。資格としては臨床遺伝専門医がいることが望ましいぐらいの要件にして、それが日本におけるゲノム医療の推進に追い風になることを望みたいと思います。

○北川構成員 そうしますと、その人材育成もそこに追いついて、次の拠点病院の要件に合わせてかなり急速に進めなければいけないというお考えですか。

○山口参考人 そうです。

○間野座長 天野構成員、どうぞ。

○天野構成員 私も同じスライドからの質問でございますが、患者の立場から1点質問を申し上げたいと思うのですが、臨床試験等のプロトコル等を拝見していますと、試験の内容によっては遺伝カウンセリングを受けられる体制を確保するなどという文言があって、実際に患者さんの説明文書を見ると必ずしもその状況が明らかではなく、患者としてみれば遺伝カウンセリングを受けたいと思ったときに、ではどこへ行けばいいんだというふうに感じるようなことが時々あるのですが、もちろんレベルがそれぞれ違うのだと思うのですが、遺伝カウンセリングというものを例えば臨床試験等において患者さんが疑問に思った場合に、実際に相談に行ける場、相談に行くべき場というのは先生がお示しいただいた体細胞系列変異や生殖細胞系列変異による相談体制の違いであるとか、また、都道府県拠点にがん遺伝外来を設置すべきなどの御指摘をいただいていますが、この中でどの程度のレベルのものがそれに該当すると先生のほうでお考えでしょうか。

○山口参考人 問題点について、別なことが一緒に語られているので少し整理をしたほうがいいと思います。現時点で、研究目的で生殖細胞系列を調べる場合にはIRB審査の段階で遺伝カウンセリングは必須となっています。もし、そのような研究を行う場合には、一般的な病院でも何らかの形で遺伝カウンセリングを受けられる体制を提供しなければいけないし、それができない場合は生殖細胞系列に関わる研究は実施できないというのが現在の指針だと思います。だからそれはがん拠点であろうが、非拠点であろうが変わりがない、研究を行う上での基準だと思います。

 一方で、純然たる診療での検査や企業による臨床治験は研究のための倫理指針の対象外となっています。私が今、申し上げた拠点についての話は、診療を重視した整理が必要な今後の課題です。新しいがん対策推進基本計画でゲノム医療の推進が第1にうたわれている以上、その実践場所は拠点病院が中心にならざるをえません。そこには少なくともあえて遺伝相談と書いたのは、カウンセリングまでは地域拠点でやれないかもしれないが、ともかく相談には乗ってあげてくださいねと、その程度の気持ちです。一方、都道府県拠点にはしっかりしたカウンセリングの体制を置いて、地域拠点から必要になったら都道府県拠点を紹介する。これで形はしっかり整いますので、その体制が現時点では、認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医の数が十分でないことを考えると、とり得る唯一の道かなと考えています。

○間野座長 ほかよろしいでしょうか。山口構成員、どうぞ。

○山口構成員 大変まとまった話でありがとうございました。がん研も乳がんだけで1,200人毎年来ますので、同じような悩みを持っていて、特に当面の課題(1)にあった診療報酬上の配慮です。最初は遺伝外来とはいっても、どちらかというと研究的な要素が大きくて採算は度外視ということで数人でやっているうちはよかったのですけれども、それが6人、7人となってきて、しかもスペースもとる、時間もとるということになると、病院の経営上はかなり無視できない存在になってきて、しかもそれがますます広がりつつあるということから考えると、この診療報酬上の配慮をいただきたいというのは私は大賛成で、これをやらないとさかさまに言えば、人の手当てがちゃんとできないと人が育たないと思うのです。きちんとした対応ができるためには、そういう資格を得るためには適正な待遇をしてあげるためには、診療報酬をきちんとしていただきたいというのが私の希望です。どうもありがとうございました。

○山口参考人 診療報酬に関しては、私ではなく、担当者に言っていただく必要があります。

○間野座長 では、西田構成員。

○西田構成員 前から聞いていて、すばらしいデータです。先生が言われたようにゲノムシークエンスをやった後、それを実際に臨床に落とすところ、あるいは研究でやるときには多分、我々のところでも研究のレベルではエキスパートパネルが判断してやるのですけれども、これを臨床に落とすとなると、エキスパートパネルをずっとどこでもやるというのは現実的でなくて、多分、私の友達がハーバードでやっていますけれども、あれと同じようにmolecular pathologistのようなものをつくっていかなければいけないのではないでしょうか。彼は、自分本人はmolecular pathologistと呼んでいましたけれども、そういったものをつくっていかなければ、実臨床に落とすときにはいけないのではないかと思うのですが、先生、その辺はいかが思われますでしょうか。

○山口参考人 静岡がんセンターでの3年間の経験で申しますと、腫瘍内科医は薬剤があるものについてはよく知っているのです。だけれども、薬剤のないものに関しては、余り知識を持っていない。外科医はさらに知識が十分ではない。そういう中で、自分が担当した症例のデータを一回一回全部見ていくにしたがって、知識、経験が増していく。そういう意味では訓練されつつあるだろうと思いますし、がん治療学会等でも研究所が手伝って、積極的に発表していただけるようになってきました。

 症例についての解析は、何人かの医師とバイオインフォマティシャンと分析を担当した研究者、20名ぐらいで毎週1回実施してきていますが、それでは臨床医までは十分広がりません。10年ぐらい一般臨床医がしっかりこういうものに慣れていく過程で、それを指導する体制が整備されていくように思います。病理もそういう意味ではまだまだですから、全ての分野で、ゲノム医療の経験者を増やしていくことが必要ではないかと思います。

○間野座長 直江構成員、どうぞ。

○直江構成員 すばらしい発表ありがとうございます。今のお話とも関連するのですが、解析されたゲノムのデータというのはいわゆる電子カルテといいますか、カルテの中に入れられるのか、それとも別に回していらっしゃるのかということが1点と、患者さんにそのデータをお返しするとき、それぞれの臓器の専門家が今のお話ですとできるだけ勉強して患者さんに返すということだと思うのですが、いわゆる平準化といいますか、パネルのような、つまり最低限このようにお話をしようとかいうことは、院内としては何か決められている仕組みがあるのかどうか、その2点を教えてください。

○山口参考人 試行錯誤を重ねた上で、体細胞変異と薬物代謝酵素の遺伝子多型は担当医に電子カルテ上で提供するようにしています。一方、生殖細胞系列の変異で遺伝性疾患に関するものについては、研究のスタート時点では極めて厳格に、一般の電子カルテではなくて別カルテにし、一部、紙媒体で2名の臨床遺伝専門医と2名の認定遺伝カウンセラーのみがみることができるという形でかなり長期間運用してきました。しかし、それでは先ほどの教育のところが十分にいかないということで、つい最近、電子カルテの中にフォルダを新たにつくって、そのフォルダは特殊なパスワードでないとあけられない。チェックできる医師も非常に厳格に、常勤医師中心に限った上で開示をするようにしました。ただ、非常に難しいケースに関してはそこまでは至っておりません。従って、現状では、体細胞変異、薬物代謝酵素遺伝子の多型は診療に当たった医師は全てみることができる。生殖細胞系列の変異で特に遺伝性疾患の場合は、かなりセキュリティーの高い状況で研修を受講した常勤医師まではみることができる。そういう整理をしております。

○直江構成員 パネルのほうというか、患者さんに戻すときの平準化というのはどのようにされているのですか。

○山口参考人 報告書のスタイルをつくりまして、今、申し上げた、特に体細胞変異の部分に関しては、あなたのがんはこれが原因のようですということが理解出来るような形で患者さんに情報提供しています。生殖細胞系列の変異で遺伝性疾患に関するものは、米国臨床遺伝学会の開示対象疾患を中心に、認定遺伝カウンセラーあるいは臨床遺伝専門医のもとで時間をとって説明をしています。

○間野座長 よろしいでしょうか。

 では私のほうから。加藤構成員の発表の後で議論をしていいのかもしれないのですけれども、遺伝性腫瘍遺伝子の変異というのはかなり大きな問題で、それを知ることの最大のメリットは2次発がんの早期スクリーニングであるし、未発症家系にとっては発がんの早期スクリーニングにあると思います。ですのでやはり相対危険度の高い遺伝子の異常については、保険で診療できるような体制に移行していくのがいいのかなと私も思います。

 今の遺伝性腫瘍遺伝子を知ることのメリットを前提に考えてみると、最初に患者さんにこれからゲノム解析をしますよ、その結果の開示を希望されますかというときの説明が、患者さんが「後でこれほど大事なことだと知らされていなかった」ということをおっしゃることがないかというのは個人的には少し心配なところです。この点を山口先生や加藤構成員はどのようにお考えでしょうか。最初から全員に遺伝カウンセラーを充てるわけにも現実的にいきませんし、どこら辺が落としどころというか、現実的な解決点だと考えられますか。

○加藤構成員 では一言。ショートアンサーは大変難しいです。ただ、少しだけ具体的に申し上げますと、後ろ、つまりゲノム解析を行った後のほうは、見つかってから本当に長期になると思います。未発症の方々、そして血縁者を含めて。ですからそれはやはり遺伝の専門のセクションがある。それはどこに置かれるかはともかく、例えばがん拠点が弱ければ地域のそういうところに持っていくという形で、プロの方がおられる施設を用意しておき、そこに送っていく体制が絶対に要るのではないか。難しいのは、入り口のところで、間野座長がおっしゃるとおり、しっかり聞いていなかったというふうにならないようにするために、誰が何をするかというのは大変難しいところです。長期的には全ての臨床医がそこまで対応できて、かつ、遺伝子の疾患は全ての診療領域に重要だということを意識して、それなりの大きさの病院には全部入れていくことが必要でしょう。プラス指導者としての認定遺伝カウンセラーが、いい意味で指導していくことかなと思います。ぜひここで具体的につくっていただければと思います。

○間野座長 山口参考人、どうぞ。

○山口参考人 臨床医、特にがん専門の臨床医であれば、先生おっしゃっているような典型的な遺伝性がんは家族歴と病態を見て、かつ、手術所見を見れば多発性という特徴がありますので、大体わかるものなのです。従って、家族歴、病歴の中で、ある程度この人はかなりしっかりした遺伝カウンセリングを最初からやるべきだ。それは100%では決してないですけれども、かなり認識できるはずです。問題は発端者であったり、それから、非常にまれなものであったり、そういうあたりが問題なのですが、それは逆に結果が出た後でしっかりとお話をするということが1つのやり方かなと、現実的なやり方かなと思っています。

○加藤構成員 ただ、皆様のようにがんのプロの方が診療しておられるときに、循環器の例えば突然死に関係するようなものを見つけることが実際にあるわけですから、それをどう説明するかというのは、今、先生がおっしゃった文脈では扱い切れないと思います。

○山口参考人 現実に3,000例をみる中で、突然死にかかわる遺伝子変異を持った方が5名ぐらい見つかっています。これはもちろんスタートの時点、最初のICの段階ではそこまで厳格なICはできていないと思いますけれども、生殖細胞系列をみる以上、思いがけない疾患が見つかることは伝えています。私たちは、そういう症例の場合、当院の循環器内科医、さらに慶応の循環器内科にお願いをするようにして、患者さんにとって最善の医療を実施するように心がけています。そういうルートをしっかりつくっておけば、多分患者さんもこれからは解析や開示を望まれるのではないかと思います。

○間野座長 ありがとうございます。この件はまた加藤構成員の御発表の後に議論をさせてもらえればと思います。

 それでは、時間も押していますので、次に構成員からの御発表に移らせていただきます。きょうは天野構成員と加藤構成員から資料を準備いたただいておりますので、順番に説明をいただきたいと思います。

 まず天野構成員からお願いします。

○天野構成員 貴重な機会をいただきまして、ありがとうございます。

 私からは資料3を用いまして、簡単に説明をさせていただきます。「がんゲノム医療を患者と国民に確実に届けるために」ということでお話をさせていただきたいと思います。

 スライドの2ページ目になりますが、皆様ご承知のとおり昨年12月、改正がん対策基本法が国会にて成立いたしました。その中で特に第19条第2項「前項の施策を講ずるに当たっては、罹患している者の少ないがん及び治癒が特に困難であるがんに係る研究の促進について必要な配慮がなされるものとする」との記載を入れていただきました。これは特に私どもが所属する全国がん患者団体連合会からの要望活動や、多くのがん患者や家族の要望なども踏まえて新たに入れていただいたものでございますが、その趣旨としましては、がん対策基本法が当初成立した際は、まだ国内において患者数の多い主要ながんにおいても、いわゆる標準治療であるとか、海外で標準的に使用されている治療薬の導入がおくれている、もしくは国内でがん医療提供体制の均てん化が不十分であるとの問題意識から基本法が成立して、この10年にわたってがん診療連携拠点病院が整備されるなどの施策が行われてきたわけでありますが、一方で10年を経てゲノム医療、また、その他の医療の進歩に伴い、従来なかなか光が当たることのなかった、がん対策において不十分な面もあったかもしれないこういった希少がんであるとか難治がん、そして小児がんの患者さんに対する研究についても、特段の配慮をお願いしたいという趣旨から入れていただいたものでございまして、今回がんゲノム医療コンソーシアムにつきましても、もちろん全てのがんを対象とするものになってくるかとは思いますが、中でも特に難治がん、希少がん、小児がんの対策については、十分な御配慮をお願いしたいと考えているところでございます。

 3ページ目、皆様御承知のとおりSCRUM-Japanがございます。例えばここに出ているのは肺がんでございますが、EGFR遺伝子変異陰性の非扁平上皮非小細胞肺がんと診断された患者さんが登録され、そして登録が受付され検体を提出し、マルチプレックス遺伝子診断薬を用いた遺伝子解析を行って、それをもとに参加可能な企業治験もしくは医師主導の臨床試験などに参加できないのかということについて、データを提供していただくという取り組みがなされてきたところでございます。

 4ページ目、これに対して昨年1120日にNHKスペシャルでプレシジョンメディスンに関する特集が放送されました。一般の人にこの言葉が広く浸透するきっかけになったものと私は理解しておりますが、この放送に対してここのホームページの内容にありますように、多くのお問い合わせがあり、電話がつながりにくい状態が続いたことから、こちらのSCRUM-Japanのほうで問い合わせ専用ダイヤルを用いて対応したことが記されております。

 多くの方が問い合わせをされたということでございますが、SCRUM-Japanの行っている内容から考えて、恐らく問い合わせをされた方々は御自身もしくは御家族ががんの罹患者であり、何らかの新たな治療薬に自分のがん治療が結びつくことがないのかという期待を持って、こちらに大変多くのお問い合わせをいただいたということがあるかと思います。

 一方で臨床試験ということに関して見ますと、しばしば言われるのが未来の医療もしくは未来の患者さんへの贈り物だという表現がされることがあります。必ずしも今、自分自身が受けている治療には直結はしないけれども、将来の患者さんにそれが還元されるということでございます。もちろん私自身もがん患者の一人として、自分が受けた治療がそういった多くの患者さんの過去のいわゆる献身的な参画に基づいて成立しているものは当然理解しているつもりではありますが、一方で、現実問題、非常に切迫した患者さんとして見ますと、自分にとって何か還元されるのかということが一番重要になってくるかと思いますし、また、一般の方もそういった関心を持ってこういったゲノム医療というものに関心を持っているかと思いますし、中には過剰な期待も含めて誤解をしているような場合もあるように見受けらます。

 5ページ目、専門の方々によって実際に患者さんにゲノム医療を届けるために、また、保険適用を用いるにはどのような課題があるかということが、ここのスライドにあるように検討されております。いわゆるこういった検査においては分析的な妥当性であるとか臨床的な妥当性、また、臨床的に有用であるのかということなどを総合的に判断していく必要があるわけでございますが、当然、患者さんとしてみればゲノム医療というものに関して、必ずしもこういったものがどれだけ自分に適切な情報が返ってくるのかということについては、十分な理解がないのではないかと思いますし、恐らく患者さんや一般の方がゲノム医療に期待している内容に関しては、自分自身にもたらされる可能性のある治療薬の情報と、実際に現状において患者さんに届けることが可能な考えられる選択肢との間には、大きな乖離があるのが現状ではないかと考えておりますし、こういったことについても現状を認識した上でさらに患者さんに確実に届けるために、保険適用も含めてあり方を検討していただく必要があろうと考えております。

 6ページ、こちら先ほど山口参考人からもお話しいただいたところでありますが、がんのゲノム医療にかかわる人材、特にがんの患者さんが実際にゲノム医療を受ける際に助けとなる、サポートし得る人材ということに関して申し上げますと、ここにありますように日本人類遺伝学会や日本遺伝カウンセリング学会等による臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー、また、日本家族性腫瘍学会の家族性腫瘍カウンセラーであるとか、家族性腫瘍コーディネーターというものが専門資格としてあるわけでございますが、必ずしもそれぞれの資格というものが一致しているわけではありませんし、人数も極めて限られている状況があります。先ほど参考人からも御説明いただいたように、全ての患者さんに対してこういった非常に高い専門性を持った医療の職種にかかわる方が対応する必要がないというのは理解しておりますが、一方で現状、ゲノム医療ということに関して言うと既に始まっている、既に実際に患者さんや一般の方がかかわっているような現状もあるわけでございます。

 7ページ、拠点病院においても実際に現在のいわゆる人材配置の現状から見れば、遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医などに関して見れば圧倒的に不足している現状がありまして、これらの人材を専門的に育成していく。これももちろん重要なことでございますが、先ほど参考人から遺伝相談が可能な体制という指摘がありましたが、例えば何らかの研修、講習を実施し、かつ、認定試験などを経て、そういった患者さんに対して体細胞系列変異については説明でき得るような人材については、早急に育成して配置していただきたいと願っておりますし、また、生殖細胞系列変異につきましても、HBOCの患者さんが既に自費診療などの形もしくは研究の形で御自身の乳房や卵巣を摘出するということが既に行われているわけでございます。もちろんそういった患者さんに対しては、専門的なカウンセリング体制が整備されているものと期待はいたしますが、一方で患者さんの理解も必ずしも十分ではないところがあり、学会の見解も不一致なところで既にゲノム医療というものが始まっている現状がございますので、一刻も早くこういった患者さんをサポートし得る人材の育成というものを御検討いただきたいと願っております。

 8ページ目、こちらも御承知のとおり米国GINA法でございます。がんの患者さんはもちろんのことでございますし、遺伝子変異が陽性のがんを未発症の患者さんを社会的不利益から擁護するということが、こういったがんゲノム医療を検討する上では不可欠であると考えております。GINA法の中では医療保険であるとか雇用において遺伝情報に基づく差別的取り扱いの禁止であるとか、本人や家族の遺伝情報の提供の要求の原則禁止などの内容が定められているわけでございます。国内における法律の整備というのは非常に時間がかかるものと理解しておりますが、現状、既にゲノム医療が始まっているということがございますので、法律が難しければ、その成立までの期間にせめて指針もしくはガイドライン等において、何らかの対応をすることが必要ではないかと考えますし、その際、英国のABIなどの協定の内容も参考になるかと思っております。

 9ページ、こちらは前回懇談会におきまして、宮野副座長から御提出いただいた資料でございます。こちらの資料につきまして本日、私から意見を述べるようにとのことをいただいておりますので意見を申し上げますと、前回、宮野副座長から患者さんもしくは国民の自己データアクセス権、そしてデータのコントロール権、高いセキュリティーとプライバシーの保護というものを前提として検体やデータは参加者のものとし、参加者の関与に基づいた国民参加型のコンソーシアムを形成してはどうかとの御意見をいただいております。私もがん医療の進歩を望む患者の立場から、この基本的な方針に賛成しております。

 これに加えて私から申し上げることとして、スライドの10ページ目になりますが、特にお願いしたいこととして、このコンソーシアムを実際に見ていただく際に、まずこれは実際に現在ゲノムの診断においてなかなか峻別が難しいところであると聞いておりますが、医療と研究なのかどちらなのかということが可能であれば分ける体制にしていただきたい。そして、このゲノムコンソーシアムをつくることによって漫然とデータを集めることにとどめることなく、何らかの個別の目標、具体的な目標を設定して進めていただきたいと願っております。

 また、患者の観点からしますと、将来的な薬事承認や保険適用につなげるような仕組みであるとか、また、ゲノムコンソーシアムに参加する患者さんのプライバシーが保護されつつ、確実にベネフィットを還元されるような仕組み、また、先ほど申し上げたようにさまざまな社会的不利益からの擁護であるとか、一般の方々へのゲノム医療にかかわる科学教育や啓発の推進なども推進していただきたいと願っていますし、先ほど申し上げたように患者を支援する人材の育成も不可欠であると考えております。

 最後のスライドになります。まとめにかえてということでございますが、5点お願いがございます。

 まず1点目でございますが、がんゲノムにかかわるデータを漫然と収集するのではなく、その成果については可能な限りということではございますが、オープンにしていただき、また、このがんゲノム医療推進コンソーシアムの具体的な目標を明示していただきたいと考えております。その中では可能な限り医療と研究というものを分けていただきたいと考えておりますし、これはPMDAが提示している例でございますが、5年以内に革新的ながん治療薬の創出に向けた10種類以上の治験への導出、などの具体的な期限と目標を明示することが可能であれば、ぜひ明示していただきたいと考えております。

 2点目でございます。これは申し上げるまでもないことでございますが、再発難治の患者さんを初めとして、がん研究の進歩に期待を寄せつつ、一日一日を大切に生きているがん患者さんは多くいらっしゃいます。それらの患者さんに対して、そのベネフィットと成果を確実に届けることが必要であると考えておりまして、薬事承認や保険適用につながる仕組み、また、特に希少がん、難治がん、小児がん患者に対しては、改正がん対策基本法の趣旨を踏まえ、特段の配慮をお願いしたいと考えております。

 3つ目でございますが、参加するがん患者、国民などに対して、がん医療の向上につながるベネフィットというものが還元されるのであれば、一定程度の経済的負担も許容され得ると考えております。その際にどこまでが医療でどこまでが研究であるのかというのは非常に難しい面はあるかと思いますが、臨床的意義や妥当性が必ずしも明らかではない検査や分析などが行われるような場合には、その事実を含め参加する患者に内容を確実に説明し、本人の同意を得ていただく。わかりやすく説明していただくことが重要であると考えております。

 4点目でございますが、がんゲノム医療において特に患者を支援する人材が圧倒的に不足している現状から、その育成が急務であると考えております。例えば先ほど列挙いたしました資格については、場合によっては国家資格とすることを検討していただくとともに、現状、既にがんゲノム医療というものが自由診療も含め国内で行われているという現状を鑑みまして、研修や認定試験などをもとに、従来の専門職とは別に、先ほど参考人から御説明いただいた遺伝相談というものが可能になるような何らかの認定資格などを別途検討していただくことをお願いしたいと思っております。

 最後5つ目でございますが、それらを支える社会的な基盤としまして、がん患者遺伝子変異陽性のがん未発症者の社会的不利益からの擁護ということに関しまして、法令による擁護策が法律で難しければ、指針もしくはガイドライン等をつくることによって、これらの対象者を社会的不利益から擁護していただく。また、社会についてはこちら文科省においても現在、検討されているところと聞いておりますが、いわゆるがん教育などを通じた学校教育、また、社会教育などを通じて科学教育と啓発を行っていただきたいと考えております。

 私からは以上でございます。ありがとうございました。

○間野座長 ありがとうございます。

 社会の体制づくりに関して貴重な、しかも多岐にわたる御意見をいただきました。

 御質問や意見交換を行いたいと思いますけれども、いかがでしょうか。北川構成員、どうぞ。

○北川構成員 今、天野構成員からの非常に明快な御報告があったのですけれども、現在、先ほど御紹介があったように、患者さん側から見ても日本におけるゲノム医療の現状の全体像は正確にはつかまれていないという心配がございます。過度な期待もあるのではないかという点が懸念されます。その中で今後、このコンソーシアムの1つのテーマである保険診療の中で実践していく上で、どのように推進していくべきか、患者さん側のお立場でお答えいただけましたら幸いです。全体の実施体制が完全に整備されていない状況で、その一部が保険でカバーされるという事態になったときに生ずる問題もございます。例えば今、御指摘があったように検査はしたけれども、有効なお薬が保険適用になっていないといった状況も生じて、混乱を招くことが予想されます。ゲノム医療を実践するための人材は、御指摘のようにまだ完全には育成されていない状況です。患者さん側からの視点で、全ての枠組みができ上ってから保険診療としてスタートすべきなのか、あるいは可能なところから少しでも患者負担を減らしていって、その中で構築していったほうがいいのか。その2つのスキームをどのようにお考えでしょうか。

○天野構成員 ありがとうございます。非常に難しい御質問でありまして、もちろん患者としてみれば、できるだけ保険適用していただきたいという思いはあるわけではございますが、一方で現状を鑑みますと既に研究などの形において、一部の医療機関において患者さんに対して治験薬もしくは医師主導の臨床試験等の情報を提供するという研究が行われていると聞き及んでおります。そうしますと、そういったものは既に研究として行われており、かつ、患者さんも既に参加しているという現状を鑑みますと、患者さんに対してその限界、リスク等を十分に説明し、御納得いただくことが大前提ではございますが、そういった全てが完全になった状態で保険適用というよりは、段階的なところから対応することが現実的ではないかと私は考えております。

○間野座長 ほかにいかがでしょうか。加藤構成員、どうぞ。

○加藤構成員 いろいろ重要な点をありがとうございます。

 何度か強調された点の1つとして、研究と診療をできることなら分けていただきたいという御発言があったのですが、これは多分、ほかの構成員の方々の御意見を聞く形になるのかもしれないのですが、特にゲノムの場合は、ある変異あるいはバリアントがあったときに、確実にそれが臨床的な状況が読めないということがあるので、かなり確立した検査あるいはパネルになったときでも、多くのデータは結果的には研究につながっていくことがあると思うのです。ほかの分野よりもさらに分けにくいという気がしています。恐らく天野構成員もある程度その辺のことは御存じなのではないかと思うのですが、その上で分けよとおっしゃるというのは、うまい落としどころがあるのかなと思うのですがいかがでしょうか。

○天野構成員 可能であればということでございますが、ただ、患者さんとして見ますと、これが例えば国の主導のもとで始まった際に、患者としては恐らく自分自身の治療などにとってどうなのかということが重要になってくるので、医療であるのか研究であるのかということを恐らく十分に意識はされないのではないかと考えております。そうしてくると患者さんは未だ研究の途上にあり限界があるということには意識が向かず、自分自身に果たして具体的にどのように返ってくるのかということに意識が向いてしまうがゆえに、これが未だ研究の途上のものであるものに対しての理解が不十分なまま参加することが一番問題であると考えておりまして、その部分が研究段階のものであるということを明示されるのであれば、もしかしたらそれを峻別することが不必要なのかもしれませんが、現状、患者さんは実際に一部の医療機関等で行われている、もしくは場合によってはビジネス的なものも含まれるかもしれませんが、そういったものに参加されている患者さんの意識などを伺っていると、そのあたりの認識が曖昧なまま参加されているという状況がありますので、そのあたりをしっかり患者さんに認識していただくことが重要という観点から申し上げた次第でございまして、私も今、構成員がおっしゃったように、ほかの先生方の御意見をぜひ伺いたいと考えております。

○間野座長 ありがとうございます。

 中西構成員、どうぞ。

○中西構成員 私もここのところの切り分けというところで「ん?」と思ったわけではありますが、恐らく自由診療の世界は例外として、例えば保険診療等で実診療の中で国に正規に認められた医療というものを医療と考え、それ以外を研究とすれば、さほど難しくないのではないかと思いました。と申しますのも、実診療でやってしまいますと、患者さんに対する同意等々が必要になりますけれども、研究の場合はそれ以前の問題としてIRB等に申請を出して、そこでの了解がないとできない。したがって、そういう切り分けにしておけば、これは決して不可能ではないとは思いました。

 一方で、この話の中で、今の話とそれるかもしれませんけれども、人材育成、いわゆるさまざまな遺伝子異常が見つかった方に対してカウンセリングなり説明なりをきちんとできる人材を育成することはかなり喫緊な話ではないかと思っています。と申しますのも、研究であれ、実診療であれゲノムの問題を実際の実生活の中でどう説明していくかは非常に重要だと思います。医療サイドの私からしますと、ではその人材はどうするのだろうかという思いもしました。山口参考人がおっしゃったような対応についての保険のカバーは必要だと思いますが、一方で誰がどういう責任のもとで人材育成をしていくかということが非常に重要なことだと思いました。恐らくがん関連の学会が幾つかございますけれども、その中の連合体もしくはどれか1つが専門医制度等の中にしっかりと組み込むような形を早く取り入れないと、恐らく総論ばかりが走る気がいたしましたし、そこはぜひ関連の方々とのディスカッションの中で早く進められたらと思った次第です。

 以上です。

○間野座長 いかがでしょうか。直江構成員、どうぞ。

○直江構成員 別の観点からの発言になりますけれども、今、天野構成員は希少がん、難治がん、小児がんというのは国の政策としても重点的に進めるべきという法律を引用されておっしゃったのですけれども、ゲノム医療をこれから推進するという中で希少がんとか難治がん、小児がんというものをその領域で進めるというのは非常に重要だと思うのです。ただ、先ほどの例えば静岡県がんのように非常に、ハイボリュームセンターが中心になって、そこにいらっしゃる患者さんをまず中心的にやるという進め方も1つはあると思うのですが、そうしますと希少がんで幾らハイボリュームセンターでも数が少ない、全国に散らばっていらっしゃるという患者さんを考えた場合に、やはり臨床情報と統合して新しい医療を切り開くという意味では、パワーがどうしても不足すると思うのです。私は血液がんを専門にしているのですけれども、そうしますと全ての病院とは言いませんけれども、幾つかの拠点をネットワーク化して、遺伝子の検査あるいはゲノムの検査というのをある程度キット化して、どこかのセンター、どこかの検査センター等に集中してゲノム情報を一緒に統合して返すというようなネットワークの仕組みも同時に考えていかなければいけないのではないかという、少し別の切り口のお話ですけれども、感じた次第でございます。

○間野座長 今の直江構成員の御指摘は大変重要で、日本はゲノム医療の体制が非常におくれているわけですから、今から始めるとすると、先ほど天野構成員がおっしゃった医療と研究を効率よく両方やってしまうような体制を最初からつくることもできる国なわけです。例えば今、直江構成員がおっしゃったようなパネルのデータをどこか1カ所に集めて、それをアカデミアなり企業なりが共有して活用できるようにすれば、そのパネル解析は医療にも役立つし、その集まった大量のデータをもとに、新しい研究とか新しい治療法あるいはバイオマーカーの探索もできるわけですから、一挙両得というか、そういうことも現実的に考えられるのではないかと思いました。

 ほかにいかがでしょうか。では、時間が押していますので、最後に加藤構成員から資料の御説明をお願いいたします。

○加藤構成員 ありがとうございます。このような機会を与えていただきまして感謝いたします。

 前回の会議が終わりました後に意見を言いたいことがあれば言うようにということでしたので、幾つか異なる角度の内容の次元のことについてお送りしたところ、それを紹介してはどうかということをいただきました。そこで、3つほどの点についてコメントをさせていただきます。比較的枚数少なく話します。

 1つのテーマはELSIでございまして、資料4をめくっていただいて2枚目のスライドに、これは思いを言わせていただくところがあるのですけれども、倫理というと先ほども山口参考人から御意見がありましたけれども、どうもブレーキと言われているところがあると私は今でも感じております。ただ、そうではなくて課題を明らかにして対応策を考えるという前向きの倫理という言い方を私は時々するのですが、そういうものも随分広がっております。国の政策や現場のポリシーとして具体化し、関係者の間で行動のためのガイダンスが共用される。そういう仕事をするものとして私たちは考えていて、それで社会からの信頼を得て医療や医学が進む。

 実際に2000年代に入ってから行われてきた大型の国際ゲノム解析研究、国際HapMap計画、国際がんゲノムコンソーシアム、後者はまだ今、動いていますけれども、そして最近ではAMEDが同じようにさまざまなプロジェクトでゲノム科学者、医学者と人文社会系の専門家及び患者の立場に立つ人々を取り込んで、手を携えて取り組むということが起こっている。ELSIというのは倫理的・法的、社会的課題で、それ自体の専門家が多様な立場の人々の間に入って動くことがもう伝統になっています。

 日本の課題は、この効果的な連携がどうもまだ不十分なのではないか。事務的なお手伝いが非常に広がっていると私は感じておりまして、それに加えて、自分からポリシーを提案できるような人たちを増やしていけるようにするというのが課題だと思っています。

 それはそれとして具体的な点に入ります。3枚目です。まず1つ目の課題が、まさに先ほどからお話になっている二次的所見・偶発的所見への対応でして、簡単なまとめになったのですけれども、2枚のスライドを持ってきました。既に見たように一次的所見とは別の二次的誘発的所見の対応は非常に慎重で広範な取り組みが必要です。がんの医療においては腫瘍部と正常部を両方解析してジャームライン、つまり生殖細胞系列の変異が見えてくるので、解析手法によっては他の腫瘍の原因となる腫瘍の遺伝性のものや、循環器系疾患の遺伝性のものが出てくるので、それを含めて対応の検討が必要だということになります。

AMEDでこの2年半ほどプロジェクトがありまして、国立がん研究センターの中釜理事長が代表者だった中釜班といわれるものが検討してきました。次のページに行っていただきたいのですけれども、私はその中心部分で幾つか検討を行ってきて、さまざまな分野の方々の御意見をお聞きしました。間野座長にも少し御意見をいただいたりしました。報告書はAMEDELSI関係のウエブサイトから掲載予定なので、ぜひその際に全部読んでいただきたいのですけれども、そもそもどのような疾患、バリアントについて返却するのかについての統一的な見解はこの2年半では得られたとは言えません。

 ただ、研究を通して多くのことがわかってきました。その一つは、がん領域での皆様の御意見と、難病領域での御意見にかなりずれがあることです。難病の方々は自分の持つ狭い、数の少ない方々を一生懸命見ていて、時に研究費を持ち出してやっておられるので、そこでもって二次的に循環器が見つかるからといってそれを返すことは簡単ではないということを強くおっしゃいました。一方、がん領域の方々はそれなりの頻度で変異が見えてくるし、体制も大きいので一部は返せるとおっしゃっています。

 赤字のところですけれども、一次疾患と二次疾患の専門家の連携の重要性や遺伝カウンセリングの重要性、それから、ゲノムデータベースの重要性について述べて、ぜひ実際に集まって異なる分野の方々が話をし、日本としてのポリシーに落とし込む必要があるというところで我々は一応、一区切りをつけました。

 特に重要なのがその後の2点ですけれども、遺伝性疾患の専門家とがん医療の専門家が手を携えて動いていくことが重要です。次ページのカラーの図を見てください。これはあくまでそういった二次の所見を返すときの体制の一例なのですが、左上のA科というのが皆様で言うとがんの体細胞をやっているところです。その中で遺伝性疾患の可能性が見えてきたときに、下の遺伝子診療の専門家に送っていかないといけないと思います。バリアントをしっかりバリデーションした後で、上のB科、C科、D科という二次の疾患領域と組んでいかないといけない。A、B、C、Dという異なる診療科の連携が最初から要るのではないかというのが1つの議論です。また別の例としては、A科が消化器外科で、D科が乳腺外科ということも考えられます。例えば消化器外科で、BRCA遺伝子のジャームラインの変異が見つかった場合にそういうものがあると思います。それから、A科はさまざまな腫瘍領域で、B科が循環器という場合もあると思います。そうすると異なる疾患領域をまたぐことになり、今の日本ではなかなか実現できていない、診療科を越えた連携が要るのではないかということです。さらに、右下のデータベースの整備も重要になってきます。 一枚、戻ってください。そして最後に重要なのは、未発症の患者さんに対する医療をどのように行うかということと、同じ未発症でも、血縁者への対応が重要になっていくということです。これらの点をすべて考えた上で、どのような疾患の変異を見るか見ないか、返すか返さないかを検討する必要があります。

 6番目のスライドに行きます。あと2点だけ簡単に申し上げたいと思います。ELSIというよりは社会全体に向いてのポイントを2つです。

まずは、患者主体の情報収集の動きということで、宮野副座長から前回あった話ですけれども、私が知っていることを少し並べてみました。何度も出ているPMI、オバマ政権のものはthe All of US Research ProgramということでAll of USに変わったということが先ほども出ています。私の聞いたところでは、この100万人コホートのうちのかなりの部分、あるところでは3分の1と聞きましたが確信がなかったので書かなかったのですが、本当に患者さんが全米からインターネットでアクセスしてくることによって参加していただく。そうしたらカルテ情報はどうするのですかと関係者に聞いたのですけれども、それはやがて繋いでいき、本人の病院からカルテ情報をちゃんと持ってくるそうです。その同意も最初に自発的に参加登録して来た患者さんに対して同意をいただく。恐らく全て電子的に手続きするのだと思うのですが、そういう仕組みでやると言っていて、実際にいわゆるIT系のジャイアントがどんどん入っています。たしかGoogleも入っています。

All of USは、本当に大きなものですけれども、がん患者や難病患者が自発的にデータを研究者に提供するようなプロジェクトは全世界でいろいろ始まっていて、たまたま私が見たものを2つだけ書きました。Metastatic Breast Cancer Project、転移性乳がんのプロジェクトが米国のBroad研究所とDana-Faber Cancer Instituteで行われていて、これは既に全登録者が1,000人以上で、自分からアクセスしてきて、それで登録して、やがてサンプルを送ってくるそうです。もう一つ、こちらは遺伝性疾患関係の話ですけれども、Genetic Allianceという患者組織で、がんとは限らないのですけれども、PEERというサイトがありまして、ぜひ皆様サイトをごらんになるといいと思います。Platform for Engaging Everyone Responsivelyといい、やはり患者さんが自発的にやってきて、どちらかというと疾患ごとにグループを組んで、そのプラットフォーム、つまりITのテクノロジーを使ってサイトを使っていって、どんどんデータを集める。今、50以上の活動が動いていて、その中に遺伝性疾患も入っています。乳がんなんかも対象になっています。

こういうことがアメリカはもちろん最も動くのですけれども、世界的がこのように動いているときに、日本でどのようにこういうことを考えるかはなかなか未知数だと思っています。ただ、やはりそういうことが起こっていることを知って、最終的にはそれを可能にするようなシステムをここでデザインしておくことは要るのではないかというのが、私のような立場の人間からの意見です。

 7番、最後です。国際連携について一言。私はELSIというだけではなく、国際的なさまざまなゲノムプロジェクトに入ってきて、社会面、倫理面を見てきました。確かに日本においてまずがん医療をしっかりと確立し、日本の中でデータを共有し、患者様にすぐに利益を返さないといけないと思います。ただ、世界はそのことに加えて、世界のさまざまな国の人たちが手を組もうという動きがどんどん動いています。そのことはやはり理解した上で、最終的には世界の他のデータベースと、互換性を確保してデータを統合していく活動が要ると思います。その際には規制のハードルが日本だけ違うというふうにならないようにしていく必要があります。これらの2点を世界標準にした上で、まずは日本国内のデータを集めたデータベースを作っていけばいいと思うのです。その後、いざ世界に開いたほうが日本にとっても利益になるというときに、世界に開いて一緒にやれるようにしていただきたい。このGlobal Alliance for Genomics and Healthというのは、余り日本では知られていませんけれども、そういった共有のためのフォーマットづくりとか、幾つかの具体的には難病患者さんのマッチングということをやって、世界の国を超えた研究活動あるいは最終的には医療の活動につなごうという活動をしておりまして、今、数十カ国、40カ国、500ぐらいの研究機関が参画しているという大きなコンソーシアムが動いています。

 具体的な活動を一つ紹介しますと、右下のBRCA Exchangeといいまして、遺伝性乳がん、卵巣がんの発症と関連するBRCA1BRCA2の2つのバリアントの情報を世界中から集めています。これはMYRIADに対抗するためです。MYRIADはオープンにしないので対抗するために集めて公開することを目指すということで、3年前に始まったのですけれども、現在、既に1万8,000以上のバリアントが公開されていて、うち5000Enigma Consortiumという専門家の方々が集まる組織で意味づけ、つまりclassificationをやって、公開されています。あるバリアントは発症と関係する、別のバリアントは関係しない、といった情報です。そうした世界の状況も意識しながら、この会議をやっていただければと思います。

 少し長くなりました。以上です。

○間野座長 ありがとうございました。倫理の問題とデータシェアに関する問題について貴重な御提案をいただきました。

 御質問、御意見等はありますでしょうか。BRCA1の変異に関しては加藤構成員もおっしゃったように、今まではMYRIAD社が独占的に特許で検査を押さえていましたから、その情報を完全に自分のところで保有しているために、多くの乳がんの患者さんたちは自分のBRCAの変異が本当に疾患に関係しているのかどうかということを知るためには、そこに送らなければいないという状況になっていました。それを何とか世界中で手を携えて公共のデータベースをつくろうという動きは大変重要なことだと考えております。

 何か御意見、御質問ありますでしょうか。では西田先生。

○西田構成員 初歩的な質問をして申しわけないのですけれども、遺伝子解析をして、その情報というのはどこまでが患者さんの情報で、どこまでが解析した組織のものになるのか。法的なものとか常識とか倫理的な考え方があると思うのですが、時代によって大分変わると思うのですけれども、今はどういうふうに考えられているか。

○加藤構成員 さまざまな意見があるということは言われておりますけれども、最近、少なくとも私の周りで言われているのは、所有権の議論はしない。そうではなく、管理というかスチュワードシップというのか、誰が持つのだという見方でしっかりと管理をし、同意をとって使って分析し、返すということになっていて、そういう意味では患者さんのものであるし、研究側が保管しているものでもある。そういうぐらいの理解です。

○間野座長 今のことに関して、実は天野構成員と加藤構成員の御発表の中で私が一番聞きたかったことは、データの共有ということなのですけれども、もう時間ですのでこれから総合討論に入る形になって、その1つとして皆さんで議論いただければと思うのですが、天野構成員もデータを公開したほうがいい、私もそう思うのですけれども、一方、想定されるのは例えばターゲット遺伝子パネルの診断でそのデータを集める。それは個々の患者さんのもちろん治療情報もあわせて集めるようにすると、それを公開にすることはかなりデリケートな情報も公開する形になってしまいます。個人情報は切り離して、変異の情報とそれの臨床的意義づけだけを例えばデータベースに入れるとかいうふうにするのは理解できるのですけれども、これを一歩越えて、例えば国を超えてデータをシェアすることでしか見えてこないものも一方ではあると思うのです。だからどこら辺を線引きするのがいいのか私も決めかねているのですけれども、どうでしょうか。

○加藤構成員 まず一言。いわゆるゲノムの研究者に誤解があると私はいまだに思っていまして、公開とすると皆さんおっしゃるのですが、実は共有というのは公開とは限らない。バリアントだけとかそれを集めた米国のデータベースであるClinVarなどは個人同定に繋がらないので完全公開ですが、その次のレベルというのは専門家しかアクセスできない。それは倫理審査委員会やアクセスコミッティーでの審査を経て、しかもセキュリティーを確保の仕組みが用意されてから、データ共有を進める。例えばBRACA Exchangeに関して言えば、皆さん見に行かれたら見られますけれども、それはいわゆるバリアントレベルで個人同定につながらないもので、それとは別にもっと深い情報をセキュリティーを保った上で共有して、意味づけの研究をやっています。それは国境を越えてやっています。

○間野座長 済みません、言い方が不適切で、データには誰でも一般にアクセスできる、よく非制限公開といいますけれども、それ以外に今度は例えば制限公開とか制限共有という形で何段階かのデータのシェアの仕方はあると思うのですけれども、天野構成員はどのようにお考えでしょうか。

○天野構成員 先ほどの加藤構成員からの御説明に関連して申し上げますと、まず最初に患者が自発的に研究者に提供するということは、日本でも既にゲノムには限りませんが、臨床試験等においては、特に希少がんの領域において患者さんが研究グループに協力して臨床試験へのリクルートなどの協力をすることは既にありますし、また、話は若干違いますが、がん登録法が議論されるときに国会の院内集会において、その流れを変える1つの意見となったのは小児がんを経験した患者さんたちが出席をされて、自分たちと同じ思いを後に続く患者さんにしてほしくないのだと。そのために自分たちのデータが活用され得るのであれば、自分たちのデータをがん登録等を通じて活用していただきたいという発言が大きな動機になったものと理解しております。

 ただ、その際にどの程度なのかということに関して言うと、恐らく多くの患者さんの意識は個人を同定するデータとは切り離していただきたい。セキュリティーはしっかりしていただきたい。その部分は恐らく多くの患者さんが同意されるのではないかと感じておりますし、また、シェアしていただきたいということの趣旨は、恐らく研究がより進む、進展する、そして結果として自分たちに還元されることを意図していると思いますので、研究が進むという目的において、完全な公開もしくは限定的な公開というものを決めていただくべきだと考えております。

○間野座長 ありがとうございます。随分議論が整理されたと思います。

 ほかに今の件に関しては、データの公開、シェアについては御意見ありますでしょうか。

○加藤構成員 先ほどから私の話は、少々大きいレベルの話が多くなっているかもしれませんが、私も患者さんの立場の方と話すことが幾つかある中、そして、海外の友人が患者さんと仕事をしている話を聞いて感じているのは、個々の状況により患者さんの思いが変わるということです。サンプルをいだたいて、データをいただいて、そのまま10年間コミュニケーションしないという状況と、頻繁に私たち研究者はこういうことをやっています、研究の進み具合はこんなふうに今なっています、時には、まだデータがうまく出なくて苦しんでいますとか、そういうコミュニケーションがあるということで随分違うなと思います。

 本当にデータを使わせていただけるかどうかは、そういう信頼関係の構築の上での議論なので、単にこういうメソッドなら大丈夫で、別のメソッドならだめという話ではないと思っていますので、よろしくお願いします。

○間野座長 ありがとうございます。

 ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。

 では総合討論で次のテーマに進めさせていただきますけれども、この懇談会は国民皆保険という制度を持つ日本において、ゲノム医療を実現していくためにはどのようなプロセスで、どういう体制・コンソーシアムを作っていくかを議論するための会だと理解しています。恐らくは最初から日本全国で全員の患者でという形は現実的ではないとすると、どのような段階を経て整備していくかということも、具体的にここでは議論していく必要があるような気がします。それに関して御意見等は。

○五十嵐構成員 小児がんの面から少しお話をさせていただきたいと思います。

 前回も御紹介しましたけれども、日本では小児の血液のがんが大体年間1,000人、固形腫瘍が1,100人ぐらい、合わせて2,0002,100人ぐらいの患者さんが生じます。血液のがんにつきましては日本小児がん研究グループがジーンシークエンスの研究を始めております。ただ、対象疾患がまだ全ての小児の血液のがんではありません。

 一方、固形がんにつきましては、血液のがんもそうなのですけれども、成育医療研究センターで中央病理診断をしておりますので、全国からほぼすべての検体が集まってきます。ここを中心に、小児に関しては幾つかの拠点で日本全体のがんの遺伝的な解析はできるのではないかと考えます。小児がんは成人と比べて頻度が少ない病気ですので、関係者の了解が得られれば、オールジャパン体制を組むことは決して難しいことではないかと考えています。

○間野座長 五十嵐構成員から勇気づけられるような御意見が出ましたけれども、小児の場合には診断するところは何カ所かに絞ってやっているのでしょうか。

○五十嵐構成員 それぞれの病理診断はそれぞれの組織で、病院施設でやっているわけですけれども、非常にまれな疾患の場合にはなかなか正しい診断ができないので、固形腫瘍も血液のがんも含めまして成育医療研究センターに、特に固形腫瘍は全部集まりまして、それを病理の専門家が診断をしているということで、基本的に非常に知識のある専門性の高い方が固形腫瘍を全て診断している。ですから地域によって、施設によって診断の差が出ることがないようにしているというのが今の状況です。

○間野座長 ゲノム的な解析に関しては中央診断になるのでしょうか。

○五十嵐構成員 ゲノムに関しては先ほど申し上げましたように、日本小児がん研究グループが一部の血液の疾患で始めているだけで、固形腫瘍についてはまだ五月雨的に、例えば神経芽腫は埼玉のがんセンターでずっとやっていらっしゃいますし、まだ統一化はされていないと理解していただきたいと思います。

○間野座長 ありがとうございました。

 ほかに御意見はありますでしょうか。ターゲットパネル解析をするのは、つまりコンパニオン診断薬を超えてターゲットパネルを解析するというのは、当該で目論んでいる原因遺伝子以外のものが見つかってきて、それが臨床試験に入ることで患者さんにベネフィットがあることが一番大きな理由だと思うのですけれども、そうすると臨床試験の連携とか臨床試験ができるところとかいうことが一番最初にできるような要件みたいなことが大事になるような気もするのですが、どうでしょう。

○直江構成員 保険承認ということで、たしか1回目のこの会議で座長から保険という話が出たので、私も非常に勇気づけられたのですけれども、今、俎上に上っているNGSパネルをコンパニオン診断薬の範疇を少し広げる形で認めていくことで、恐らくターゲット標的分子が、ドライバー変異が見つかるかもしれないということで、幾つかの薬を使用できるかもしれない。それから、幾つかの治験に誘導できるかもしれないということですが、必ずしも100%いくわけではない。

 ただ、標的が10あると、10のコンパニオン・ダイアグノーシスの診断キットをつくるのかというと、それは非常に誰が考えても無駄ですし、時間的余裕もありません。ということを考えると、ある程度セット化するという方法が正しいのだろうと思うのですが、ただ、今までのことと少し違うのは、必ずしもある薬が使えるか使えないかということを問うているわけではなくて、それを幾つか合わせたときに見える問題というのも出てくると思う。そういう意味では先ほどお話があったように、これは臨床なのか研究なのかというと、コンパニオン・ダイアグノーシスの場合は明らかに臨床のような気がしますし、適応を決める。NSGパネルになるとやや臨床から研究という要素がどうしても出てくるし、そのパネル自身が最初から完成形のものができるのか、それとも進化形のものが今後出てくるのかという意味も含めて、やはり研究的要素はどうしても残るのではないかと思います。

 ただ、オール日本できちんとしたところでそういうものが使えるという仕組みがやはり私は一番望ましいと感じていまして、ただ、それが漫然と行われるということではなくて、それがある程度前向きに一種の試験のような、製販後試験と言うと語弊があるかもしれませんけれども、その承認の条件としてそういう患者さんが結果的にどういう薬に誘導されたのか、どういうベネフィットがあったのか、臨床的にはその後どうだったのかということを合わせる形でデータが集約化される、あるいはそれを用いて解析される。それで何年かの後に承認主体のNSGパネルは結果的にこうであったということで、例えば役にこのように立った、あるいはこうだと思ったけれども、それほど役に立たなかったというようなことが評価できるような仕組みが望ましいのではないかと何となく感じています。ただ、具体的にはまだ見えてきませんし、それは多分この会の趣旨でもあると思うのです。

○間野座長 中西構成員、どうぞ。

○中西構成員 前回のときに間野座長からも御紹介がありましたように、SCRUM-Japanが非常に成功例だと思っているのです。私自身もSCRUM-Japanには関与させていただいておりますけれども、あのシステムのよさというのは、まず保険でカバーできないけれども、見つかるかもしれない希少な遺伝子の異常がそこに提供することで患者さんにも還元できるし、また、いわゆる医療者側にもそういうものがわかる。なおかつ、そこで出たものが企業との連携のもとで、次のステップとして実際に治験に行っていて、それで承認もとれることになっていますし、そこに蓄積されている多くの試料、情報というものが今後のさらなる医学の発展に貢献するのは間違いないと思うのです。

 つまりこれは現場の地域の医療者にとっても非常にやりがいのあることですし、患者さんにも恩恵ですし、そのデータが企業にとっても活用できる。それがまた最終的に新しい新規医薬の開発につながれば社会にとっても大きな意義あるものになってくる。

 ですからこの成功の背景にあるものは、1つはサンプルと情報が1カ所に集約されていること。ゲノム情報というのは個人情報として扱われますので、セキュリティー保持は非常に難しいことがあると思うのですけれども、システムはシンプルで集約されるに越したことはないと思うのです。ただし、そこに集められた情報あるいは試料等についての次の活用というものについては、やはり第三者的にしっかりとした形で公正にやることで、日本のどこにいても研究者あるいは場合によっては患者さんがそれを活用できる形、そのような形で集約をする、管理をするという仕組みと、それを活用するという仕組みうまいぐあいに連動するような、そういうシステムが実際に成功事例としてあるわけですし、恐らくほかの取り組みについても十分使えるモデルではないかと思っている。ですから私自身はこのコンソーシアムにおいては、具体的なところまで突っ込んで話をすることで早いうちにその実現に向かうべきではないかと思っています。

○間野座長 ありがとうございます。中西構成員と直江構成員から大変貴重なサゼスチョンをいただきました。

 山口構成員、どうぞ。

○山口構成員 先ほどの天野さんの話に戻るのですけれども、できたら研究と医療を明確に分けるべきだと思います。中西先生がおっしゃったように、医療も普通にやっている保険医療と自由診療が明確に別々にあると思うのです。医療と研究は確かになかなか分けられない部分もありますが、基本的に保険と研究はしっかり分けるべきだと思います。

 確かに我々は医療をやっていて、この人は歳だから胃がんのフォローアップ中にPSAも一度はかっておいたほうがいいと測定することがありますが、必ずこれは削られます。明確に適応とかメリットが明らかなものが保険ではカバーされているのであって、そこのところがぐちゃぐちゃになってしまうとゲノムだけに限らず、いろいろな分野でも同様のことが起きる可能性があります。例えば機器開発も重要だと言われれば重要で、その開発のためなら将来はいずれ保険者にメリットとして戻るから、それも保険医療の中で研究としてやりなさいということになると、線引きが非常に難しくなります。そこでファジーな部分はどうしてもあると思いますけれども、先ほど天野さんがおっしゃったように個別の目標を明確にして、保険に参加している国民の理解が得られるものに関してだけはいいということにしないと、これを例にいろいろなものが無制限に入らないようにするという配慮が必要かと思います。

○間野座長 ありがとうございます。

 ほかにいかがでしょうか。葛西顧問、どうぞ。

○厚生労働省顧問 全体の話を聞かせていただきまして、私は厚労省でITに関してとか、ICTに関しての顧問をやっておりますので、どの絵を見てもなかなかやはり別に当然ですが、がんゲノムに詳しいわけではないのですが、大抵出てくるのが大きなデータベース、それから、どの絵を見てもAI、場合によっては解析をするスパコンだとか、大体このあたりは常套句のようにどの資料をいただいても必ず出ておりまして、何らか整備をしていかなければいけないのだろうなということと、同時に議論として出てくるのは、何でもかんでもそれは保険適用するわけにはいかないでしょうみたいな話で、それはもちろんそうだと私も思いますし、一方でこの規模のものをつくるのは果たしてできるのかという課題が実は1点、私としては持っております。

 全日本で共有されるそういうデータベースがあったほうがいいだろうとか、解析する仕組みがあったほうがいいだろうというのは、全くそのとおりだと思うのですが、私は逆に言うとそれをつくっていく側におりまして、おっとこれはなかなかすごいサイズだなということを感じるのですが、次回にでも議論をぜひいただきたいのが、1つは私の知る限り、途中でGoogleAmazonの話が出てまいりました。これはGoogleがなぜがんゲノムのデータベースを7,000億ぐらい調達して突然始めたか、突然オープンにしていったかというと、基本はGoogleの下にGoogle Xという、いわゆるがんゲノムを解析する会社を保有していて、その会社を何とか打ち出したいと同時に、データベースのサイジングがとんでもない、多分人間の知識を超えるぐらいのサイズのクラウドのシステムを使えるという一種のアピールというか社会貢献、企業的倫理をアピールしているという面があります。

 それとは別にAmazonの戦略は、どちらかというと解析に目が行っているところがあります。次世代シークエンサーもそうなのですけれども、マッピングをして統計的評価をする。いわゆるセカンドアナリシスをやっていくと思うのですが、そのセカンドアナリシスをやった後の結果で出すときに、やはりいろいろなところで聞くと、この解析ソフトはなかなかそう簡単に使えないぞと。結構な特殊なソフトウエアをつくっているなという話だけ私は知っておりまして、こういった解析の部分、データをストックするというボリュームの話と、解析時間と検出の感度みたいな、このあたりは分岐して議論をいただけるとすごくありがたいなと。解析時間の話をしているのか、性能をすごく大きくしたいのか、それとも解析ソフトウエアみたいに使い勝手をよくしていって、素早く解析をしていくのか。

 もう一点気になるのは、これを全て国費であったり、どこか1カ所のお金で、ましてや保険でというのは全部整備できないサイズの金額だろうというのは間違いなくて、こういったスキームをどうするかという御議論もおいおいしていただけるとありがたいなと思っております。

○間野座長 大変重要な点をありがとうございます。

 多分、この会の誰もが公費だけでずっと維持していけるとは思ってはいないと思うのですけれども、例えばパネルの情報だけであってもそれが何万人も集まって、しかも個人情報を外した上で治療転帰情報もつけたら、データを見たいと思う企業は世界中にたくさんあると思います。例えば諸外国のこういうゲノム医療のアプローチでは、共同研究の目的でパートナーとなる製薬会社が費用を払ってデータの一部を見る、という感じで組織が外からの費用を得ているというのは世界で行われています。

 宮野副座長、いかがですか。

○宮野副座長 私の一番の関心事は、どのように国のお金を細く入れて、全体のお金の回りを太くするかというビジネスモデルで、今、葛西顧問のおっしゃったことをどう実現するかというアイデアを出していかなければならないと思っております。私のような一介の研究者が出すようなアイデアというのはつまらないもので、御披露に堪えませんけれども、世界中の先ほど御紹介がありましたGoogleAmazonなどは、物すごい投資と人を投入してやり始めております。私としては、日本がただそれに乗っかってしまうという日本になってはほしくないなという希望を持ちながら、この場に臨んでおります。

 答えになっておりませんが、気持ちだけお伝えしたいと思いました。

○間野座長 ありがとうございます。本件に関しては諸外国で行われているのは、まだ患者さんの転帰情報までが入ったようなゲノムのデータベースにはなっていないと思うのです。そこを実現するのであれば日本でやるゲノム医療のデータベースの最大の強みになり得るかなと、先ほど直江先生がおっしゃったように、企業の共同研究なんかもしやすいかなと個人的には思っています。

 同時に、これも直江構成員がおっしゃっていましたけれども、医療経済学的に果たしてそういうパネル解析というものがプラスと出るのかマイナスと出るのかというのも科学的に検証することが必要ですし、最初からそういうことが可能なシステムをつくって始めることは大変重要な気がいたします。

 ほかにいかがでしょうか。

○宮野副座長 今の件で、全く非常に重要なコンセプトだと思います。ただ、先ほど加藤構成員の御紹介にもありましたけれども、それを人がどのようにして自然に転帰情報まで持っていくかというデザインを既にやっているというふうに思います。それはICTの技術をうまく使って、最初は個人の人がアクセスします。次は病院からその転帰情報が入らなければ、その個人の人にメリットがない。そして保険会社はリインバースメントをするときに、それがなければというふうになれば、お金の力でデータが自然と集まってくるようにデザインされているのではないかと思っております。

○間野座長 加藤構成員、どうぞ。

○加藤構成員 本当の具体的なところを完全に追えていないのですけれども、顧問にもご存知でしたらお聞きしたい点です。前回の資料の中にもありましたが、ICTと医療をつなぐというのは当然厚生労働省でも議論されていますし、マイナンバーが入って次は医療IDというキーワードがあって、そうするとその中でレセプトだけではなくて、まさにカルテ情報やさまざまな情報がつながっていくようにしようというかなり大きな意思が政府にもあるし、さまざまな政界の方々にもあると私は聞いています。こちらのがんゲノム医療の動きと、そうした医療情報の利活用の動きがうまくつながって、今、宮野副座長がおっしゃったようなつなぎ方が考えられるといい、実は厚生労働省の中で両方の活動があると私は理解しているのですが、いかがでしょうか。

 以上です。

○間野座長 葛西顧問、どうぞ。

○厚生労働省顧問 もちろん強い意志であるというか、実行したいなと思っておりまして、ただ、配慮しなければいけないのは、当然個人の特定になりますので、これは十分に配慮しなければいけないですし、やたらと何かオープンにするとか、セキュリティー面もかなり強固にしなければいけないということは肝に銘じております。

 1点、私のポジションで言うと、実際に今回もし転帰情報という案があれば、転帰情報は電カルからとるのかな、それともデータベースを保有するのかという、ここの議論とはまた違うデータベースとの連携を考えなければいけない。その点において言うと、私は全体に対してどのようなデータベースが存在していて、どのようにつなぐのが一番効率的であるかということを担当しておりますので、局をまたいで議論は厚労省の中では行われておりますので、この点は間違いないと思います。

○間野座長 ありがとうございます。

 中西構成員、どうぞ。

○中西構成員 医薬開発に関してのことで言うと、たしかSS-MIXが多くの電子カルテに入っていますね。昨年、CDISCのグローバルの会議に出向いたときに、SS-MIXRFDRetreived Form for Data capture)でないとプラットフォームに乗れないということだったのですけれども、一応、日本側としてぜひ認めてほしいと主張し、それは認められました。少なくともそこの部分でCDISCに落とし込んでいくところについては、日本の環境で容易に使えるようにという要求については先方のほうも理解してくださって、間違いなくそれは通ることになっているのですけれども、教えていただきたいのは、CDISCについては今、アメリカ、ヨーロッパ、日本の3極で話し合いをしているところなのですけれども、それ以外に例えばベンダーと関係なしに使える共通の言語なりフォームなりが必要だとすれば、情報をいただければ今、ECRINEATRISNIH-NCATS、日本はARO協議会が連携してディスカッションして、そういったITにおける標準化の話をしておりますので、そこで国際化の中で立ちおくれないようにしたいと思っています。その辺はぜひお願いしたいと思います。

○間野座長 ありがとうございます。

 今日はさまざまなテーマを議論いただきましたので、この辺にして、また次の回に議論を発展させていただきたいと思います。

 実際の日本におけるゲノム医療のコンソーシアムにどういうことが必要なのかというのは、かなり明確になってきたような気がいたします。本日の議論を事務局で整理いただき、次回提示いただいて、さらにまた発展させればと思います。

 次回の予定について、事務局から説明をお願いします。

○医療イノベーション企画官 御検討どうもありがとうございました。

 次回の日程につきましては、4月25日の火曜日を予定しております。詳細は追って御連絡させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

○間野座長 では、本日の懇談会を終わりたいと思います。どうもありがとうございました。


(了)

健康局がん・疾病対策課

代表 03-5253-1111(内線3826)

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