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2016年10月31日 第5回 児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会

雇用均等・児童家庭局

○日時

平成28年10月31日(月)17:00~19:00


○場所

TKP新橋カンファレンスセンター ホール4B(4階)


○出席者

吉田(恒)座長 金子構成員 上鹿渡構成員 久保構成員 久保野構成員
杉山構成員 床谷構成員 林構成員 藤林構成員 峯本構成員
森口構成員 山田構成員 横田構成員 吉田(彩)構成員

○議題

(1)意見交換
(2)その他

○議事

○木村補佐 久保野構成員と山本構成員がまだいらっしゃっていませんけれども、定刻となりましたので、ただいまから第5回「児童虐待対応における司法関与及び特別養子縁組制度の利用促進の在り方に関する検討会」を開催いたします。

 構成員の皆様におかれましては、お忙しい中、お集まりいただきまして誠にありがとうございます。

 本日は、岩崎構成員から御欠席の御連絡をいただいております。

 まず資料の確認をさせていただきます。配付資料は右上に番号を付しており、資料1-1、1-2、1-3、資料2-1、2-2、2-4、2-5、資料3を配付しておりますので御確認ください。

 資料の欠落等がございましたら、事務局までお申しつけください。

 なお、本検討会は公開で開催し、資料及び議事録も公開することを原則とさせていただきます。

 それでは、これより先の議事は吉田座長にお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

○吉田(恒)座長 それでは、皆さんこんにちは。早速議事に入っていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 まず本日の議事についてでありますけれども、配付されております議事次第にも記載がありますように、本日も構成員の皆様による意見交換を行っていきたいと思っています。

 本日はまず特別養子縁組に関する調査の実施について、事務局から御報告をいただきたいと思います。その後は司法関与について児童相談所に対する調査結果が出そろったということでありますので、その結果も踏まえつつ、前回に引き続き意見交換を行いたいと思います。

 まず、特別養子縁組に関する調査について、構成員の皆様から前回検討会までにいただきました御意見をもとに、事務局で依頼文書、調査票を作成していただきました。児童相談所と民間のあっせん団体に対してそれを発出しているということでございますので、事務局からまず御説明をいただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

○林補佐 家庭福祉課の林でございます。

 お手元に資料1-1の特別養子縁組制度に関する調査の事務連絡、資料1-2の調査票、資料1-3の回答様式をお配りしております。前回の検討会の資料と重なる部分がございますが、簡単に御説明をさせていただきます。

 資料1-1につきましては、各都道府県、指定都市、児童相談所設置市宛てに厚生労働省から1020日に協力をお願いした依頼紙でございます。

 資料1-2は、前回の検討会で構成員の皆様方から御指摘いただいた内容を踏まえまして、一部修正を加えた調査票でございます。

 資料1-3は、自治体や民間団体において回答する際に使用する様式でございます。

 誠に簡単ではございますが、特別養子縁組制度に関する調査関係の説明は以上とさせていただきます。よろしくお願いします。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 特別養子縁組につきましては、次回の検討会で実態把握の調査結果を踏まえながら議論を深めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 続きまして、司法関与のあり方に関しまして。

○林構成員 すみません、この調査票の修正等については、もう認められないですか。

○山田構成員 20日に発出しています。

○吉田(恒)座長 ということです。よろしいですか。

 それでは、司法関与のあり方についでありますけれども、こちらの意見交換を行いたいと思っております。本日は、児童相談所に対する調査の最終結果等の資料が提出されておりますので、まずは事務局から司法関与に関する資料について御説明をいただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

○木村補佐 虐待防止対策推進室の木村でございます。

 司法関与の調査の関係の資料といたしまして、お手元の資料2-4、資料2-5をもとに御説明させていただきたいと思います。

 まず資料2-4でございますけれども、前回第4回の検討会では10月7日時点の集計の結果をお示しさせていただきましたが、その後、大阪府など大都市も含めました残る28の児童相談所からの回答を反映させたものが資料2-4になります。この場を借りまして、今回の調査に御協力いただきました全国の児童相談所の皆様に感謝申し上げたいと思います。

 本日は、調査結果につきましては追加で作成した項目を中心に御説明したいと思います。この資料の各データについては、前回から更新する形で全て100%の回収率のデータになっているものでございます。

 5ページ、この項目自体は前回の資料でもお示ししておりますけれども、今回の最終的な調査結果に基づきまして、年間の件数に換算した数値を入れているのが5ページ目の参考1の資料になります。

 6ページ、一時保護の件数につきまして、児童相談所ごとの件数の分布がどのようなものになっているのかという観点から作成したものになります。今回の集計調査期間は4カ月のデータということですので、それを4で割りまして1カ月当たりの件数としまして、それを児童相談所ごとに見た場合にどのような分布になっているのかということを示したデータになります。

 上の段については同意あり/なしを含めた総数の件数について、左から開始時、7日経過時、2カ月経過時について、それぞれ各児童相談所における件数の分布を表したものになります。

 下の段は同意なしの件数につきまして、同様に左から開始時、7日経過時、2カ月経過時についての件数の分布を表したものになります。単純に全体の件数を全国の児童相談所の数で割るだけでは、こうした分布が見えてこないだろうということで、今回作成した項目になります。

 続きまして8ページ目、9ページ目をご覧ください。8ページ目では、児童相談所の司法審査の強化に対する見解を問うものでございますが、この結果について一時保護の件数の多寡と関係があるのかどうかということを分析すべく、9ページ目をご覧いただければと思いますけれども、各児童相談所ごとに一時保護の件数について多い順に上位3分の1をグループA、中位3分の1をグループB、下位3分の1をグループCといたしまして、それぞれのグループごとにどのような回答となっているのかを分析した結果でございます。A、B、Cとして見たときに必ずしも大きな違いが見られないということかと思っております。

10ページ、11ページをご覧ください。10ページ目につきましては、前回の検討会で杉山構成員からこの10ページの2の開始時についての見解と3の更新時の見解が、どのように関係しているかを分析できないかという御質問がありましたので、そのために11ページ目のとおり資料を作成しております。

 上の段をご覧いただければと思いますけれども、一時保護の開始時について司法審査を導入すべきと回答した110の児童相談所、これは事前審査を導入すべきというところと事後審査を導入すべきというものまとめて110となっておりますが、それらの回答をした児童相談所について更新時にどのように回答しているかということですが、更新時に導入すべきというのが110のうち80、更新時は不要としているものが30となっております。また、開始時に司法審査の導入を不要とした99の児童相談所については、そのうち95の児童相談所が更新時も不要という回答を選んでいるところでございます。

 説明の時間の関係で要点だけの説明になりますけれども、続いて資料2-5につきましては前回同様、自由記載欄の回答を全てお示ししているものです。

 調査関係の資料の説明は以上です。よろしくお願いします。

○吉田(恒)座長 ありがとうございました。

 ただいまの資料につきまして、何か御質問はございますか。よろしいですか。

 では、ないようですので、意見交換に入りたいと思います。

 まずは一時保護について、先ほどの調査結果等も踏まえつつ意見交換をしていきたいと思っております。お手元の資料3にありますように、先生方から資料の提出をいただいておりますので、今回、資料提出されている方におかれましては、関係する論点について御発言の際に、適宜資料についても言及していただければと思います。

 それでは、この一時保護に関しましての意見交換ということで御意見を。

○木村補佐 では、一時保護の関係の資料の御説明をまずさせていただきたいと思います。

 お手元の資料2-1、資料2-2、資料2-3をもとに御説明させていただきます。

 まず資料2-1につきましては、毎回事務局で作成をさせていただいている資料になりますけれども、前回第4回の検討会での御議論を踏まえ、主な御意見を追記しております。

 続いて資料2-2でございますけれども、こちらの資料が本日の議論の中心になるものでございますが、これまでの資料に記載されておりました目指す方向性の案の内容をもとに、また、これまでの検討会での議論を踏まえ、取りまとめに向けて検討会にて御議論いただきたい点を論点としてお示ししたものです。

 1枚おめくりいただきまして、「1.一時保護について」という部分をご覧ください。

 まず、目指す方向性(案)として、一時保護が親権の強い制限であることを踏まえ、裁判所の関与を導入することが考えられるのではないか。その場合、緊急時の対応に支障が出ないようにすること、また、児童相談所が必要な一時保護をためらう等、子どもの適切な保護が妨げられることがないようにすることが必要と考えられるというように記載させていただいております。

 続いて、論点の部分ですけれども、(1)一時保護に裁判所の審査を設けることが必要な理由・立法事実についてということで、現行制度における問題点・課題は何かというものでございます。

 これまでの議論を踏まえますと、一時保護は親権の強い制限であることや、子どもの権利条約の趣旨を踏まえ、司法の関与を強化することが望ましいのではないかという意見があったところかと思います。

 (2)裁判所の審査の範囲や対象についてということで、1つ目の○ですが、一時保護の開始に当たって、その必要性や手続の適正性を担保するため、事前審査を設けるべきではないかという議論があるかと思います。その上で、審査を経て行うことができる一時保護の期間は、どの程度とするかという論点があろうかと思います。

 2つ目の○ですけれども、事前審査を行うこととする場合には、緊急時には行政の職権による一時保護を行えるようにすることが必要ではないかという議論があるかと思っておりまして、その場合に職権による一時保護について事後審査を行うのか、あるいは短期間のものとして事後審査を不要とするのか。また、職権による期間はどの程度とするか。例えば、これまでの議論によれば7日間というのが考えられると思います。

 そして、職権による一時保護の期間を超える場合の審査は、どのような仕組みとするかという論点があろうかと考えております。

 次の○ですけれども、一時保護の期間が一定期間を超えることの適否を審査するという考え方もあるかと思います。その場合に一定期間をどの程度とするか。また、その理論的根拠をどのように考えるのか。さらに、現行では一時保護の期間は2カ月を超えてはならないとされておりますので、これが1つの目安になるのではないかと記載させていただいております。

 (3)裁判所が判断する際の要件について、1つ目の○ですが、一時保護そのものの適否を審査する場合には、一時保護の要件を具体的に定める必要があるのではないか。また、(2)で緊急時の例外を認める場合に、その要件をどのように定めるか。

 さらに、一時保護の期間が一定期間を超えることの適否を審査する場合には、何を要件とするかといった点が論点として挙げられるかと思います。

 続いて(4)保護者の同意につきましては、一時保護が親権の制限であることを踏まえますと、保護者の同意がない場合のみを対象とすることが、これまでの議論を踏まえると考えられないかと記載しております。その場合に保護者の同意の確認方法をどのように考えるかということで、保護者が異議を申し立てる仕組みとするか、あるいは保護者の同意書を取ることで対応をするかと記載させていただいております。

 3ページ(5)子どもの意向の取り扱いについて、裁判所の審査に当たって、子どもの意向に配慮する必要がないか、具体的に子どもの意向をどう確認するかということを、論点として記載をさせていただいております。

 (6)裁判所の具体的な審査手続について、事前、緊急の事後、更新時それぞれについて具体的な審理手続・児童相談所等が提出することができる証拠として、それぞれどのようなものが考えられるか。また、現行の28条審判と同様に、監護者、親権者、未成年後見人及び児童の陳述を聴くという仕組みとするかどうか。また、緊急時の場合にも同様の取り扱いとするかどうかということを論点として記載をさせていただいております。

 最後に(7)不服申立てについて、現行の28条審判と同様に、高等裁判所に即時抗告ができるようにするか。また、行政訴訟との関係をどのように考えるかということを記載させていただいております。

 これらの論点に関し、これまでの議論を踏まえて留意点・課題を挙げさせていただいております。

 1つ目の○でございますが、緊急時の対応に支障が出ないか。児童相談所が必要な一時保護をためらうことがないか。行政不服審査や行政訴訟との関係をどう考えるか。児童相談所が、事務負担に対応することができるか。この点につきましては前回検討会でも、裁判所の関与を強化することで、保護者が同意しないケースが増加するのではないか。また、同意の時期が不明であること、また、同意が撤回される可能性を考えれば、全てのケースで申立ての準備をしておく必要があるのではないかとの指摘があったところです。

 その次が児童相談所の体制整備の必要性、家庭裁判所の体制整備の必要性、そして最後に児童相談所や家庭裁判所の体制整備とあわせて、計画的に仕組みを構築していくことも考えられるのではないか。その場合にはロードマップの提示などにより対応するということが留意点・課題として挙げられるかと思います。

 私からの説明は以上になります。

○吉田(恒)座長 資料の説明ありがとうございます。

 それでは、ただいまの資料等も御参考にしていただきながら、御意見等をいただければと思いますので、よろしくお願いします。

 では久保先生、お願いします。

○久保構成員 議論の大前提としまして、一時保護について大筋のところを確認させていただきたいと思います。

 一時保護の裁判所関与について反対されている構成員の方に2点ほど確認させていただきたいと思います。まず、家庭裁判所、児童相談所等の実効的な体制の不十分さなど、事実上の制約以外に裁判所関与を否定する理由があるとお考えかどうかというのが1点。

 もう一点が、一時保護には裁判所の関与はそもそも不要である、あるいは一時保護処分については行政訴訟による不服申立て制度があり、これでもって裁判所の関与は十分設定されており、条約9条の規定にも反しないというお考えであるかどうか。この2点を確認させていただかないと、今後あるべき方向性についての議論は進まないかなと思っておりますので、よろしくお願いします。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 ただいま2点、御質問というか確認の御意見をいただきましたけれども、いかがでしょうか。1つが体制以外の点での消極とする理由。もう一つが行政訴訟等対応できるのか。それでよろしいのかどうかということです。では、お願いいたします。いかがでしょうか。横田先生、お願いします。

○横田構成員 まず私自身の基本的立場を最初にお話したいと思うのですけれども、私自身は既に公にしている論文などでも、一時保護の司法関与は必要であるという立場をとっていまして、ですから必要ないという立場はとっておりません。

 そのことを最初に確認した上で今、久保構成員が言われた点についてお返事申し上げますけれども、にもかかわらず、この検討会で私は非常に慎重な立場をとっております。それは同じように一時保護の司法関与について議論しているのですけれども、以前から全体の建付けというお話もありましたが、全体の建付けということを言われるのであるならば、その全体の建付けの前提となる制度の目的、理念をはっきりさせる必要があるだろうと思っていて、その観点から見ると、児童相談所の方に答えていただいたアンケートにも、この理念のずれがよくあらわれていると思ったのです。

 つまりこの一時保護の司法関与とは一体何のためにというところがはっきりしていないと思うのですけれども、私自身はこれは当事者の手続保障、つまり単純に言うとブレーキの話だと。介入に対するブレーキ、権力行使に対するブレーキだと理解して一時保護の司法関与が必要だと考えてきました。

 しかし、児童相談所の方のアンケートにも、そういう立場から必要だというお答えがありましたけれども、他方で、この一時保護の司法関与があることによってお墨つきが得られる。それによっていろいろ当事者間でもめているという話に決着がついて、早く安定的に子どもに対して対応できるという、子どもの保護のためのアクセルというか、そのために裁判所に期待するというアクセルの話です。この話がアンケートの中にも両方併存しています。

 実はこの何回かの検討会でも、この話が十分に区別できずに話が進んでいるように私は理解しています。私自身はあくまでもブレーキの話として話しているのですけれども、どうもそうではないのではないかという話も、それが久保構成員も提案されていました前回の資料にそれが見られると思ったので、私はそこは慎重にと。これは前回、申し上げましたけれども、具体的に久保構成員もかかわられた提案を前提にお話をしますと、一時保護の司法関与の具体的な制度設計として、親権者の側から1週間以内に申し立てるという仕組みを設けてはどうかということを提案されていたと思うのですけれども、前回の繰り返しですが、これはほとんど実質的に行政訴訟と変わりない。むしろ私自身は司法関与と行政訴訟は役割が違う。司法関与は判例によるならば憲法31条で、行政訴訟は憲法32条ですから、そもそも憲法上の根拠が違って、それぞれ独自の役割があると思っているので、私自身は先ほど久保構成員が言われた司法関与と行政訴訟は、行政訴訟があるから司法関与は要らないという主張はおかしいと思っています。

 そこで立場は共通ですけれども、しかし、御提案された案は、これはいやいやちょっとできの悪い行政訴訟と変わらないのではないかということです。そして、実際にこれは利用しないだろうというか、利用することが非常に難しいということになると、事実上、司法関与の可能性をふさぐ。ということになると、これは子どもの権利条約9条の趣旨とは関係ないというよりも、むしろ9条の趣旨に反する制度設計のように思えたので、私は慎重な立場をとりたいと思った次第です。

 以上です。

○吉田(恒)座長 久保先生、いかがでしょう。

○久保構成員 私も手続保障を否定するわけではありませんけれども、2つの利益、手続保障と子どもさんの利益という2つの目的があってはだめでしょうか。

○横田構成員 両方は無関係ではなくて、手続保障があることによってそこでしっかりした公正な手続によって決着がついたらその後うまくいくということで、両方関係していると思うのですけれども、ですから無関係だと申し上げているわけではなくて、議論のときにそれがきちんと整理されずに展開されているので、妙なことになっている。そして御提案の話で言うと、手続保障のために司法関与を導入するとおっしゃりながら、しかし、実際に提案されているものは手続保障の制度設計になっていないということを今、申し上げました。

○吉田(恒)座長 吉田先生、お願いします。

 吉田(彩)構成員 今の横田先生のご発言で最後に言われた部分については賛成です。一時保護についての司法関与については、最初に申し上げたようにジレンマがあるのではないかと思います。この点について積極的にお考えの意見では、重大な権利侵害だから司法審査を経る必要があるとする一方で、きちっとした司法審査を経ていては子どもの命が守れないのではないかという実務的な考慮を入れて、司法審査としては簡易な手続で足りるだとか、一定の要件があれば裁判所は許可しなければならないなどとされています。しかし、重大な権利侵害であれば、慎重に審査すべきことになりますので、提案されているような簡易な審査等で済ますというのでは何のための司法審査なのかという疑問が生じます。

また、数ある行政処分の中でどうして一時保護についてだけ行政訴訟とは別に家裁で簡易な手続の司法審査が必要なのかというところが、どうしても疑問としては解消できないところです。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 では、久保先生、お願いします。

○久保構成員 私も手続保障が大事だと思っています。だから事前審査がまずはあるべきだと思っています。今、言われた行政訴訟の関係は、結局、事後審査の関係にしかならないのです。私たちは、事前審査できちんと裁判所が関与して一時保護を実施するという方向で考えていますので、はっきり言って、横田先生は行政訴訟は全然当てにならないというか、今回の一時保護の司法審査には当てはまらないんだと言われているのですけれども、私としては手続保障もありながら、いわゆる児童相談所の方のこのままでは子どもの命が救えないとか、そういったところの調整というか、そういうところでかなり簡易な提案をさせていただいているところなので、私としては別に手続保障としてもっと厳格な手続を入れてもいいかと思っております。そうであれば横田先生は特に反対ということはないということですね。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 先ほど最初に制度の目的は何だろうというところを整理すべきだというお話をしましたけれども、それでこの議論は私はあくまでもブレーキの話として理解していますけれども、久保構成員はどうなのでしょうか。私の理解だと、先ほど手続保障、ブレーキの観点からするとブレーキにならないということを申し上げましたけれども、しかし、それとは別にアクセルの話として展開するというのであれば、これは子どもの権利条約9条とは話が違ってきますけれども、それで考えておられる目的が達成できるということがあるのか。具体的に言うと、もしアクセルということに専念するのであるならば、もう一つの案として、御提案の案とは別に今、28条審判の保全処分が家事事件手続法の239条にありますけれども、むしろこちらのほうに一時保護を組み込んで、それでアクセルにする。これはブレーキにならないですけれども、もし本当はアクセルなんだということをおっしゃりたいのであるならば、その代替案があるような気がするのですけれども、それは検討されたでしょうか。どうでしょうか。

○吉田(恒)座長 久保先生、お願いします。

○久保構成員 そういったお考えがあるのは存じ上げておりますが、横田先生が勘違いされているのは、私は別にアクセルだと思っていません。私は児童相談所におりますけれども、弁護士でもありますので、手続保障が大事だと思っています。ただ、先ほど言ったように児童相談所の、というか一般に子どもの命が救えるのかということを言われるので、今回のように簡易な提案をさせていただいているところです。

○吉田(恒)座長 金子先生、お願いします。

○金子構成員 横田構成員に確認なのですけれども、要するに横田構成員が、前回の共同提案の中で、よろしくない、結局手続保障になっていないのではないかという点は、今回の構成員提出資料がありますけれども、そちらの6ページの最初にありますが、「積極的な同意を必要とすると、一時保護の実施を知っても何ら反応もしない保護者もいるため、この場合にまで裁判所の審査手続を必要とするのは無駄な手続となることもある。そこで保護者が異議を申し出たときにその手続をとることとするのがよいのではないか。」というところが結局、行政訴訟をやるのと何も変わりはないではないかという、要するにそういう趣旨だということでよろしいでしょうか。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 行政訴訟でも出訴期間は6カ月なのに、1週間ですよね。

○吉田(恒)座長 よろしいですか。

 では、峯本先生、お願いします。

○峯本構成員 1つは私自身の整理としては、今、横田先生おっしゃられている、片一方で非常に重大な権利制限を伴うものなので、それに対する司法的チェック、適正手続が必要だ。結局それを踏むことによって、その裏返しの作用と言ってもいいかもしれませんけれども、結果としてきちんと裁判所の判断を経た一時保護ということによって、児童相談所としても権限行使を、逆に言ったらある種のお墨つきをもらって自信を持って行動することかできるという意味での裏表の面があるので、考え方としてどちらを重視して入れていくのかという司法的チェックの面を重視するのか、結果としてそれがお墨つきにつながっていくんですよということに、裁判所の根源的役割と言ってもいいかもしれませんけれども、そういうものは最終的には制度設計の持ち方によって変わってくるかと思いますが、両方の側面があるというので決して矛盾するものではないかなと思っているのです。

 そのときにやはり一時保護自体は従来の権利制限は本当に親子分離、極端に言ったら強制的に本当にそれを保育所から持ってくる、家に行って子どもの身柄をとってくるという非常にこういう意味では権利制限激しいもので、こういうものに対して司法的チェックが必要ですというのはある意味、諸外国のシステムから言ってもまさに権利条約はそういうことを言っていると思うのですけれども、ある意味、常識的なことなので、そこの司法関与の必要性というのは本来あるべきだろうというのは、これからの制度を考えるときには、そこは言えるかなと思っているのです。なので先ほどおっしゃられたこの一時保護に司法関与の必要性はないんだというのは、ほかのいわゆる身柄をとる手続、完全に親子分離をして身柄をとる手続に関して、強制的に身柄をとる手続について司法的チェックが必要でしょうというのは当たり前かなと思っています。

 もう一点だけ、その制度設計を考えるときに、この制度は一時保護が目的というのは子どもの緊急保護なので、今、目の前で危険だ、このまま置いておくのは危ないと思われるようなケースへの対応なので、その目的に合わせて司法的チェックの手続の仕方というのが一定の簡易なものになっていくといいますか、その目的に向かって合理的な制度をつくるというのは、ある意味、それは当然のことだと思っていますから、重大な権利制限だから重いチェックをしないといけない。それはまた次の手続では準備をすればいいかなと思いますけれども、今、一時保護制度自体は緊急の保護を目的とするケースなので、それに応じた手続の簡易化を図るというのは、今の司法的チェックという目的から考えても全然矛盾しないと思います。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 では杉山先生、お願いします。

○杉山構成員 私も誤解をしているかもしれませんけれども、手続保障と言ったときに憲法34条の手続保障ではなくて、憲法32条の手続保障で考えた場合に、仮に裁判所による事前とか事後の司法関与を入れるとすると、審判と即時抗告という簡易な手続にならざるを得ないと思います。それ以上の重い手続はおそらく想定できないとして、仮にそういう簡易な形で司法関与を入れてしまったときに、憲法32条絡みで行政訴訟で争う機会というものが奪われてしまう可能性はないのか。そうすると簡易な手続のほうで親と分離して、もう少し慎重に訴訟で裁判を受ける権利が奪われてしまうことになるので、その是非を慎重に議論しなければならないと思っております。

○吉田(恒)座長 横田先生、その点も含めてお願いします。

○横田構成員 今、杉山構成員が言われたことは、まさに28条の審判で実際に裁判があります。平成20年7月11日の東京地裁判決は、28条審判を経た措置に対する取消訴訟で、東京地裁がどういうことを言ったかというと、家事審判で審理したことは取消訴訟では審理しない。そういうことになるとまさに今、杉山構成員が言われた懸念のとおり。だからその判決はおかしいということが言えますけれども、でもその話は重要な話だと考えないといけないと思います。

 それから、先ほど言われた話ですけれども、おそらく緊急の一時保護なので、とりあえず何とか早くというお話、そこに強い問題意識があると思うのですけれども、そうしたらやはりこれは先ほど申し上げた28条審判の保全処分が考えられるのではないか。今、非常に保全処分の要件が厳しいですけれども、何でこんなに厳しいのか私は勉強不足でわかりませんが、これをもう少し緩めれば、後で出てくる面会交流の制限もそこに入れて、要するにそれこそ全体の建付けとしてはすっきりした感じのものが、しかも保全処分ですから疎明でいいのですが、どうでしょうか。

○吉田(恒)座長 では、お願いします。

○大谷法務省民事局参事官 法務省でございます。

 今の横田構成員のお話は、保全処分のこともございますが、家事事件手続法の問題でございまして、家事事件全般についての法制である家事事件手続法の改正について、今ここで御議論いただくことが適当かどうかということがまずあるかと思いますけれども、その前に今の制度がどうなっているかということから整理をしたいと思います。一時保護は国民の権利義務を制約するものなので、これは行政処分です。これに不服がある者は行政訴訟をすることができる。児童の権利条約で司法審査が求められておりますけれども、これは行政事件訴訟法があることによって満たされていると考えておりますし、今、日本の法制が条約に違反している状態ではないという認識をしています。

 今の建付けを前提とする行政と司法の体制に対する評価で言えば、一時保護の段階では児童相談所長が行政サイドの中で必要な一時保護を行う。保護者側のイニシアチブで権利救済を図るという形になっています。急増する児童虐待事件に対して、児童相談所も家庭裁判所も劇的な人的体制の整備というのはまだされていないところと思いますけれども、そういう現状の中で迅速かつ適切に児童を保護するために、まず児童相談所側が司法審査を経ることなく行政処分を行い、保護者のほうにイニシアチブを持たせて救済を図るという形には、一定の合理性があるのではないかと考えております。

 司法審査を導入するのではなくて司法関与を強化するのだと思いますけれども、行政訴訟にさらにプラスして、何らかの司法審査の制度を入れるかどうかということですが、我が国の司法というのは行政との関係ではチェックを行うという方向にしか法制は組めないと思いますので、どのような制度にしたとしても一定の負担が児童相談所側にも、裁判所側にも発生することになります。こういう負担はまず迅速な判断を阻害する要因にならないかということで、児童の安全が守れない事態が発生しないようにしないといけないと思います。また、司法関与を強化し、特に事前審査でありますとか、迅速な事後審査をしなければいけないというふうにした場合には、結果的には虐待が疑われる保護者の権利の保護を一層強化することになる。行政事件訴訟ではなくて、この新しい制度の中で保護者の権利を一層強化するという形になりますけれども、今の児童虐待をめぐる現状において、行政と司法、ひいては税金によってこれを支えている国民の負担が増大することによって、保護者の権利にさらに配慮することの必要性がどこまで理解が得られるかというのは、慎重な検討が必要ではないかと思っています。

 司法関与の強化を議論していただくに当たっては、現にある制度、現に児童福祉行政なり裁判所、行政訴訟制度が担っている役割を念頭に置きながら、児童の福祉と安全を向上させるという観点から、立法事実を整理していただく必要があるのかなと思っています。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 山田先生、お願いします。

○山田構成員 法律の建付けのことは専門ではないので、大谷さんに教えていただきたいのですけれども、私が提出した資料は、左側のページについては以前から出しているものを少し修正した程度なのですが、何回か前の検討会で久保野先生が日本の場合、28条審判というのが上のような建付けで、親権停止や親権喪失宣告というのは下のような建付けになっていますというお話をいただいたと思うのですが、今の大谷さんのお話を聞くと、あくまで日本は上の図のような形で審査が行われているということなのでしょうか。

 また、私の新しい考え方、山田案というものが新しいのか古いのか、正しいのか正しくないのかも実はあまり法律のことがわかっていないのでわかっていないのですが、児童虐待というのは児童相談所と親権者との間で云々かんぬんすることではなくて、そもそも親権者が子どもに対して人権侵害を行っていることだと思います。ですけれども、子どもは自分で自分の権利保障を申し立てることができないわけですから、それを児童相談所がバックアップしているという枠組みだと思うのです。そうしたら、右のページの上のようなものの考え方で建付けを考えていくことはできないものなのでしょうか。

○吉田(恒)座長 大谷参事官、お願いします。

○大谷法務省民事局参事官 今、御説明した制度は家庭裁判所ではなくて、地方裁判所が行政訴訟において保護者の権利を守る制度ができているということで、こことは別の話になります。それに加えて新たに家庭裁判所なり他の裁判所が関与をしていくような制度が必要かということを整理していただきたいと思っておるところです。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 今、法務省の方から言われた点について質問がありますけれども、今、私が家事事件手続法239条の保全処分で、これは要するに家事事件手続法の話になるとおっしゃいましたが、しかし、この司法関与の手続は、実際に制度化するときに家事事件手続法の改正にならないのですか。それとも児童虐待防止法の9条の3のようなものというのが当然の前提として議論されているのでしょうかというのが1つと、それから、行政と司法という話もありましたけれども、でも家事審判は実質的行政処分という話ですから、司法が行政をチェックするという話というのも必ずしも日本法の当然の前提ではないと思います。

 それから、多分子どもの権利条約9条の話で言うと、おそらくこの話は要するに行政訴訟があるからいいんだというのはあれですかね。入管法の政府の解釈宣言もそういうことでしたっけ。私は理解できませんでしたけれども、行政訴訟があるからいいんだというのはどうでしょうか。手続法的に、訴訟手続があるから事前の司法関与がなくてもいいというのは、これは法学の常識なのですか。ちょっとわからないのですけれども、どうでしょうか。

○大谷法務省民事局参事官 言い方が誤解を招くところがあったかもしれませんが、家事事件手続法の改正だからこちらで御議論いただいてはならないと申し上げているわけではなくて、実体としてどのような制度を組むのか。それに合わせて手続が決まってくるはずですので、これは家事事件手続法だからイコール議論しないと申し上げたつもりではございません。

 それから、28条審判の場合は、これもやはり行政の判断、入所措置についての判断の承認という形でチェックをするという制度なのだろうと理解をしております。入管法のこともございましたけれども、私は決して一時保護について司法関与を強化してはならないということを申し上げているのではなくて、その考え方について基本的な思想を御整理いただく必要があるのではないかと考えているところです。

○吉田(恒)座長 森口先生、お願いします。

○森口構成員 大谷さんに質問で、法律の専門家ではなくて全くわからなくて中立的に聞いているつもりなのですけれども、今、日本のある制度として、西欧とは違った行政法がチェックをしているような合理的なシステムが今あるという御説明だったのですけれども、これが50年後とか100年後に今の制度がある。そのままうまく合理的に機能するということについてはどうお考えですか。

○大谷法務省民事局参事官 そこは誤解があったかもしれないですけれども、決してずっとこのままでなければならないと申し上げているのではなくて。

○森口構成員 でも、このままでもうまくいきそうなぐらいの、そういう余地もある。

○大谷法務省民事局参事官 今の制度にも一定の合理性はありますけれども、必要性に応じた制度を組む必要があるだろうと思っていまして、今の制度でカバーできていないところはどこなのだろうかというところを整理していただく必要があるのではないでしょうかと申し上げているところです。

○森口構成員 今の制度でかなりカバーできるとお考えという意味ですか。

○大谷法務省民事局参事官 そこはカバーできていないところがあるのかどうか。そこを御整理いただきたい。私ども児童福祉の専門家ではございませんので、そこについては御整理いただきたいと思っております。

○吉田(恒)座長 ほかにございませんか。

 私のほうから1つ、大谷参事官にお伺いしたいのですけれども、行政訴訟で一時保護、行政処分ということで取り消し訴訟になると思うのですが、一時保護の期間が限られているということになると、タイミングがおくれると訴えの利益なしという結果になっていきますね。というので実際の一時保護が行政訴訟で争われた場合、どれくらいで審理されているのか。また、訴え却下の割合がどれぐらいなのかというのはわかりますか。

○大谷法務省民事局参事官 一時保護の場合、期間が法律で決まっているわけではないですので、一定の期間が過ぎたから訴えの利益自体がなくなるという場合が想定されるかと。そうではなくて出訴期間というものがありますので、6カ月以内に出訴しなければそれはだめだというルールはありますけれども、直ちに訴えの利益が一定期間過ぎるとなくなるということでもないのではないかと思いますが、統計的なところについては把握をしておりません。

○吉田(恒)座長 訴えの利益の点でどうこうというのは、要は一時保護について争うけれども、施設入所措置をとった、新たな行政処分がなされたということで、一時保護自体を争う訴えの利益の問題です。

○大谷法務省民事局参事官 それはそうです。そのとおりです。

○吉田(恒)座長 山田先生、お願いします。

○山田構成員 私が提出した資料の右側のページの2ページ目の下の四角、スライドの中の右上のところなのですけれども、不服申し立て審査や行政訴訟の問題点として久保構成員もおっしゃっていましたが、この審査の場合、事前審査の役割は全く果たせないですね。やはり事前審査、緊急一時保護のときにどうするかというのは、今まで随分議論したとおり行政権で一時保護をして、事後的に審査をすればいいでしょう。ですけれども、もう一つ我々、少なくとも私が導入したほうがいいと提案しているのは事前審査であって、事前審査を行政訴訟でとってかわってもらうことは構造上、不可能だと思うのです。

 それから、虐待の家庭の中には貧困の方もいるし、いろいろな障害を持っている親御さんもいて、そういうおうちで、不服申立て審査まではできるかもしれないけれども、行政訴訟を起こせるかといったら、それはなかなかハードルが高くて、それだったら久保構成員がおっしゃっていたとおり、児童相談所が一時保護を申し立てていったほうが不服申立てなどの反論の機会を均等に与える結果になるのではないかということが2点目です。

 それから、行政訴訟の場合は当然ながら地方裁判所の範疇になってくると思いますけれども、たとえ、一時保護の段階から親権制限が進む際にその都度、判事が変わるとしても、ある家庭において行われている虐待というものを継続的に家庭裁判所が見ていって、この親が適切でないとなれば親権制限を進めて、一時保護の次には同意がなければ28条で、ここで同意があるとまた問題が複雑なのですけれども、それは後で議論することにして、それでも改善が認められなければ親権停止、そして、また何らかの要件を超えれば親権喪失、そして特別養子縁組というような一連の流れを家庭裁判所というところが子どもの福祉を守るという視点で関与してほしいというのが私のお願いであって、児童相談所対親権者という枠組みではなくて、親権者が子どもを虐待していて、この子をどうやって守っていくのかという視点で考えていただけないものでしょうかということです。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 今、行政訴訟の訴えの利益ですけれども、これは大谷参事官が出訴期間の話をされましたね。要するにこれは継続的事実行為なので、事実行為が継続している限りは訴えの利益はなくならないということですけれども、でも一時保護が解除されたら訴えの利益がなくなりますよね。そうするとどうなるかというと、行政訴訟を起こしている間に一時保護が解除されると訴えの利益がなくなって、つまり一時保護の適法性を判断する機会が実質上、失われると思います。そして、おそらく執行停止はひょっとしたら1カ月ちょっとで結論が出るかもしれませんけれども、でも執行停止は正確には適法性を判断するものではないので、結局、一時保護の適法性の判断をする機会は訴訟手続では事実上、ないだろうなと思います。

○吉田(恒)座長 吉田先生、先にお願いします。

○吉田(彩)構成員 先ほど、久保構成員から、一時保護への司法審査の制度設計として、事前審査で慎重に手続保障を図るということもやぶさかでないとの意見がありましたけれども、実際に保護者の反論の機会とか、子の意思の確認であるとか、家庭状況の調査であるとか、そういった点について事前審査でどの程度の時間と費用をかけて家裁が審査をすることを想定されておられるのでしょうか。

 比較の対象として決していいとは思わないのですけれども、例えば、DV防止法に基づく保護命令手続では、法律上、暴力をふるったと疑われている相手方に原則として反論の機会を与えることになっており、裁判所の実務としては、基本的には相手方に裁判所に来てもらってその言い分を聞く機会を設けております。それでも制度として機能しているのは、DV被害を訴えている申立人はシェルターに逃げることができるので、ある程度の時間をかけて慎重に手続を踏むこともできるということがあります。これに対して、一時保護の場合には、子どもが虐待から逃げられない状況にあるので、慎重な手続を踏むための前提に欠けており、そうした手続を踏んでいてはその子を本当に救うことができるのかという深刻な問題が生じます。

もしかすると、令状審査のようなイメージをお持ちなのかもしれないのですけれども、御承知のとおり、刑事事件であれば、警察が強大な権力をもって捜査をして、的確な疎明資料をそろえることができるからこそ、簡易迅速な手続の下で裁判所が判断できるのであって、警察と同じレベルの資料の収集を一時保護の場面で児相に期待することができるのか。そのような制度設計で本当に子どもの命を救うことができるのかというところを、もう一度確認したいと思います。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 それでは、久保先生、お願いします。

○久保構成員 誤解があったら申し訳ないのですけれども、もちろん子どもさんが生命、身体の安全が害されるという場合であれば、当然緊急に保護するというのは言っています。ただ、原則として事前なんですということを言っているだけなのです。行政だけの判断で2カ月も漫然と子どもが保護されるということ自体がどうなんだということなのです。

 それから、先ほど横田先生は理念とか言われましたけれども、やはり私どもは条約の9条の定め、これは原文を読みましたが、やはり事前審査を想定していると思うのです。ですから理念としては条約の9条がある以上は必要、必要でないではなくて、やらなくてはならないものだと思っていますので、児童相談所の負担とか何とかというのは結局、大人の都合にしかすぎません。私の理念としては、手続保障は子どもにとっても利益になるものだと思っています。それは子どもが一定の自由を制約されるという意味での手続保障です。

○吉田(恒)座長 個別の論点はいろいろと既に出ているようですので、そちらのほうも含めながら御意見をいただきたいと思います。

 藤林先生、いかがですか。

○藤林構成員 先ほど法務省の参事官の方からありましたけれども、現行でもできていて、なお一層司法関与を強めていく理由というか、事実というのは何だろうかという御質問だったと思うのです。私は児童相談所長を14年やっていまして、当初はそこまで考えていなかったというのもあるのですが、児童虐待防止法が制定されて、各関係機関がかなり積極的に虐待通告であるとか、または保護の必要性を言ってくるわけです。

 例えば医療機関からは、こうこうこういうふうな虐待が疑われる事態がある。そこにはたくさんの意見書であるとか診断書が送られてくるわけなのですけれども、片や保護者も真っ向から否認するといった事態があって、その場合に我々としては事前の審査を経た上で、確実に保護をしていくことが当然必要になってくるかなと思います。要するに児童虐待医学の発展の中で、今までであればスルーされていたケースが、多く児童相談所に通告されてきた。児童相談所によって保護する場合もあれば保護しない場合もあるというのが現場の実態ではないかと思います。

 もう一つ、これも特定妊婦という、妊娠中から子どもが生まれた後、すぐ保護するべきだという案件も散見されるようになってきまして、何の虐待もネグレクトもない赤ちゃんを産婦人科から児童相談所に保護するというのは、それは到底できないのではないかというのが実感としてあるのです。そうすると事前審査としていろいろな書面を集める時間もあるわけです。保護者、親権者の手続を保障することが、先ほど峯本構成員が言われたみたいに子どもの保護、アクセルにつながっていくのではないかと思っています。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 金子先生、お願いします。

○金子構成員 横田先生に確認なのですけれども、手続保障という発想を入れていった場合には、親権者が同意していようが何だろうが、とにかく一時保護については事前か、あるいは一定期間以内で事後審査をすることが必要であるということになるのでしょうか。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 司法関与の手続の必要性について私がどう考えているかということですか。

 理念としては、私は司法関与は必要だと思っていますが、しかし、導入すると結局、救えるものが救えないという話がありますね。なので非常に慎重にということで、この場では議論の状況が私自身が思っているものと違うので、そのように話しました。

 せっかくお話いただいたので、論点を先に行っていいですかね。私の制度設計の中で多分、ほかの構成員の方と違うと思っているのは、やはり同意の話です。この論点の4番目のところですけれども、前回長々としゃべったので今日はあまりと思っていますが、今、一時保護の同意をとっていますが、これはあくまでも児童相談所の実務対応としてやっているものであって、児童福祉法上の法的仕組み上のものではないわけです。これに対して司法関与で同意を区別するということは、これを法的なものとして位置づけるということなので、そうすると児童福祉法における一時保護の法的性質が変わるだろうと思っています。

 どう変わるかというと、法的性質のあるものになると、この同意が果たして有効かどうかという論点があるのです。前回、同意書については藤林構成員からとっているというお話がありましたけれども、そもそも書面はあるとしても、それは果たして同意として有効か。これは後の論点にもかかってくるので言いますが、例えば面会交流禁止の裁判所命令を入れたとします。そうしたら場合によってはそういう裁判所の命令ということもあるよということを伝えた上で同意をとらないとインフォームドコンセントになりません。手続で同意の上で区別するという制度設計というのはそういうことで、今、前回配っていただいた児童相談所の方のアンケートを見ると、実際に接近禁止命令があるかもということを伝えた上で、同意をとっているという児童相談所もあるということが書いてありましたけれども、それはスタンダードなのかということが疑問だし、また、その場合はおそらくおそらく接近禁止命令というきつい言葉を使っているのではなくて、多分おそらく同意をとりやすいように工夫をして伝えていると思うのです。でも後で面会交流禁止で裁判所命令を導入したら、やはり裁判所がという話を出さないわけにはいかないと思うのです。そうでないと同意として瑕疵があるという話になると思うので、ですから同意という制度を法的なものにしてしまうと、今の同意がとれているという現状は前提にできないと私は思っています。

○吉田(恒)座長 金子先生、お願いします。

○金子構成員 同意の点は全く同感で、同意がとれている、とれていると随分簡単に言ってくれるな、と私なんかは思っておりますけれども、そこまでおっしゃるなら、同意があっても全件審査しろということにすればいいのではないか、そこまで自信があるならば、と思っています。それを言わないというのは、結局、大人の事情、便宜論であって、同意がある事例はもういいではないか、同意がとれているんだし、みたいなことなのかなと、すごい意地悪い見方をするとそういうふうに思います。

○吉田(恒)座長 久保先生、お願いします。

○久保構成員 自信があるならというのはどういうことですか。

○金子構成員 裁判所でチャレンジされてもちゃんと通せるという、そういう自信ということです。

○吉田(恒)座長 久保先生、お願いします。

○久保構成員 やるべきことをやるということだけですので、自信があるなし、通らなければそれは当然司法審査があるわけですから、通らないということもあると思います。

○吉田(恒)座長 大谷参事官、お願いします。

○大谷法務省民事局参事官 先ほど御質問があったのに対してお答えをしていなかったので手短に。

 山田構成員がお出しになったペーパーの右上に行政訴訟の問題点ということでお書きいただきました。1点目の不服申し立てでは、事前審査ができない。行政訴訟ではできないのはそうだと思います。それは事前審査でなければならない立法事実を整理する必要があるのだろうと思っております。

 2番目の脆弱家庭の保護者のことですけれども、実態としてそういうことがあるのかもしれませんが、そこは教示のあり方、処分をする際に不服がある場合には訴訟ができますということについて、より丁寧な説明をし、必要があれば弁護士に相談してくださいという形で、それは一定の利益の保護ができるのではないかと思っておりまして、必ずしも現行法で行政訴訟では保護者の権利が守れないというところまではいっていないかもしれないなと思うところです。

 3つ目ですけれども、家庭裁判所の関与の継続性の議論が前回のペーパーにもお書きいただいて、ここにもあると思うのですが、家庭裁判所の場合、一件一件、別の事件として各段階においてお考えの制度というのはいろいろな段階で家庭裁判所が関与していくという制度の御提案を受けていますけれども、その関与する裁判官はそれぞれ違う裁判官である可能性が高い。もちろん裁判官の裁判の独立がございますので、行政と同じような意味で継続的に裁判所が子どもの養育について関与していくというのは、今の制度では困難でないかと思っております。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 久保野先生、お願いします。

○久保野構成員 まず結論として、私も理念的には司法関与の強化ということは賛成ですけれども、先ほど50年、100年後もそうなんですかという御質問がありまして、50年、100年後というのはまさに理念的に言えばそうあるべきだというお答えになるのですけれども、ただ、差し当たりの現状でここまでの調査結果等を拝見する限りでは優先順位の問題があると感じておりまして、条約に反するかどうかということから、直ちに司法関与の強化ということは言うべきではないと考えております。

 主な理由は、先ほどの立証を誰がしていくのか。警察権限で捜査するのと違うという話が気になっておりまして、保護者が真っ向から否定して反論してきているときに、要件を満たすということは、やはりどう制度設計しても基本的には措置をとろうとしている児童相談所側からある程度、あるいはある程度以上、相当出していただくしかないと思うのです。そうなったときに最近の報道でも、弁護士配置が改正法で入ったけれども、必ずしも進みそうにないという報道に接しましたし、冒頭のほうのヒアリングの児童相談所の方のお話を伺っていても、どのぐらい対応できるのか。つまり警察署が強大な権限で捜査資料を集めるというものと対比していったときに、どうなのかというところの懸念は消えていないように私は感じます。

 例として外国の手続を見たときなどに、結局、言った言わないとかになってくるわけですので、ケースワーカーが家庭に行って、こういうやりとりをしたんだということについて証拠を残していったり、それについて、しかし、相手は、親権者のほうはそんなことは言っていないとか言っているときに、心証をとってということをやっていかざるを得ないのかなと想像しております。でも、そこが先ほど質問のやりとりにあった、どの程度の事実調査を予定しているのかということだと思いますけれども、そのあたりをもう少しはっきりさせて、対応が本当に児童相談所にできるのかということの懸念が払拭されないと、優先順位として、児童の保護に資するのかというところに疑問が残ると思います。

 最後に1点、山田構成員がおっしゃった子どもは自分で自分を守れないので、親権者が守るという建付けにもとはなっているけれども、だめなときには行政や司法がやっていくということだという捉え方は私も賛成なのですが、ただ、その流れで見たときに、家裁が継続的に見ていくようなことを考えるのだとすると、先ほど横田構成員から出たように28条審判の保全ですとか、親権停止喪失の前段階の手続ですとか、本格的にやろうとしていることとつなげて制度設計をするのがよいのではないかと思います。

 以上です。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 では峯本先生、お願いします。

○峯本構成員 私も基本的には司法関与は必要で、制度設計をして、ある程度の目標時期みたいなことを決めて、それまでの体制整備が必要だと考えているのです。ただ、今の論点的な将来的な制度設計的な目標とすべき制度で言うと、今の議論で言うと、ある程度組めるかなという思いもあります。もちろんこれも、私も前の第3回のときの意見で出させていただいているのですけれども、体制整備は絶対的に必要なので、それがないままの見切り発車はいけないとすごく思っているのです。それは命にかかわることだからというふうに考えていますが、制度設計的には1つ、事前審査か事後審査かという話が出ていますけれども、これは原則、事前審査ということにしてしまうと、本当に先にとらないと一時保護できないということの体制ではとても一時保護の目的は達成できないので、そういう意味では事後審査にならざるを得ないのではないかと思っています。

 ただ、問題は事後審査と言っても先に子どもの今、保護する必要があるといったら児童相談所の判断で保護しましたといったときに、一定の手続の期間中に裁判所の承認を一応得る形の事後審査になって、それをどれぐらいの期間で設けるのかということの議論が重要になってくるのかなと思っています。これはそこは原則全部、事前審査でいくというのはシステム的に一時保護制度の目的からはとり得ない。ただ、実際に事前審査も含めて何日以内にとらないといけないという制度にしていたら、状況によっては事前審査の申し立てを可能にする制度というのはあり得るかなということと、今、議論になっていました保護者の同意の有無が実際にそれがどういうものなのかということが当然議論になってくるので、裁判所に申し立てしなければいけないのは、事後にやることになった場合は保護者の同意がないものにしますというふうに要件を設定したら、保護者の同意がきちんとどういうふうにとれているか確認できているのかというのはポイントになりますし、保護者の同意がちゃんと錯誤がない状況で、しっかり情報提供されて同意がとれているのかということも当然ポイントになるので、そこは同意のとり方自体が、同意のときにこういう説明が必要になります。このことを説明して、そのことを踏まえて同意しますということをきちんと確認するという、そういう手続は当然必要になってくるので、それは前回申し上げた、そういうこともきちんとやるという前提でこの司法的チェックは司法審査、司法関与というのは入れていく必要があるのかなと思います。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 予定している時間が過ぎましたけれども、今日の議論を拝聴していてスパンは、どれくらいの期間を想定するかは別としても、司法関与、司法審査は必要だろうというところでは大方の御意見であろうかと思います。

 ただ、実際にそれを制度化するだけの必要性、立法事実が本当にあるのか。現に児童相談所の調査からしますと、大きく2つに割れているという中でどれだけ説得力を持って新たな制度をつくれるのかという、そこは今日明らかになった点かと思います。それに合わせて今度は具体的な点も、今日は大分明確になって同意の問題であったり、手続の厳格性であったり、そこをどう乗り越えるのかというのはまた今後の議論でさらに詰めていけるのではないかと思います。

 そうした厳格性も含めていくと、体制の整備をどうするのか。特に児童相談所に関しては弁護士配置というものが法律上、盛り込まれましたので、それがどの程度実効性を持つのかということとあわせて考えていく必要があろうということ。それが峯本先生の御意見の一部かと思います。

 皆さん方の活発な御議論で大分具体的な論点が見えてきたなと思いますので、またさらに今後これを詰めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

 では、次に裁判所命令について。こちらのほうも前回大分御議論をいただいたところであります。目指す方向性というものが示されております。事務局から御説明をお願いします。

○木村補佐 資料2-2の4ページ目からが裁判所命令の関係でございます。

 目指す方向性(案)といたしまして、保護者指導の実効性を高めるため、裁判所が直接保護者に対して行政機関の指導に従うことを義務づける裁判所命令の仕組みを設けることが考えられるのではないかと記載させていただいております。

 続いて論点の(1)のところでございますが、こちらも裁判所命令を設けることが必要な理由・立法事実について、現行制度における問題点・課題は何かということで、これまでの議論を踏まえますと、行政の指導では必ずしも実効性が高くないため、裁判所が直接保護者に指導命令を行う制度が必要ではないか。保護者と行政が対立関係にある中で、裁判所が第三者的な立場で命令を行うことは意義があるのではないか。一方、具体的にどのような場面において、裁判所命令のニーズがあるのかという点を論点として記載させていただいております。

 続いて(2)裁判所命令の具体的な内容について、児童相談所が策定した支援プランをもとに、裁判所が具体的な命令を行うことが考えられるか。例えば、現在、児童相談所が行っている指導(児童相談所への通所、保護者指導プログラムの受講、家庭環境の改善、必要な医療の受診など)について、裁判所が何らかの命令を行うことが可能かという論点を記載しております。

 (3)裁判所命令の適用場面や要件について、現行の行政措置の範囲や、家庭裁判所による親権制限の範囲との関係を踏まえて、適用場面や要件を定める必要があるのではないかと記載しております。

 その下で具体的な場面といたしましては、28条審判や親権制限審判など、現在、裁判所の審判が行われている場合というのが1つ。また、一時保護や同意入所の親子分離の場合、さらには在宅ケースで児童福祉司指導が行われているような場合というふうに分けて議論してはどうかと考えております。

 また、(4)ですが、具体的な仕組みについて現行法上、裁判所による都道府県知事への勧告という仕組みや、都道府県知事による保護者への勧告という仕組みがございますので、そういった仕組みとの関係をどう整理するか。また、申立ては、児童相談所長及び施設長が行うことが考えられますけれども、そういった場合に限るのか。また、裁判所命令をする場合の審理手続をどのように考えるのかという論点を記載させていただいております。

 (5)実効性を確保する方策について、罰則を設けることで実効性を確保することとするか。または命令に従わない場合に、より制限の強い措置(施設入所等の措置や親権停止等の申立て)に移行する仕組みとするかというところを記載しております。

 おめくりいただきまして5ページ目の(6)ですけれども、不服申立てについて高等裁判所に即時抗告ができることとするかということで、これはDV防止法でもそのような形になっているところでございます。

 次に留意点・課題ということで4点記載させていただいております。これまでの議論を踏まえますと、裁判所命令の創設によって、保護者への指導の実効性が従来より高まると言えるのか。2つ目、行政と司法の役割分担の中で、裁判所が行政の処分を受けるよう保護者に命令することについて、法制的にどう整理するのか。また、裁判所の中立性が損なわれるのではないかという点や、命令の具体的な内容が適当かどうかという点について、裁判所が審査できるのかというような留意点・課題が指摘されているところでございます。

 すみません、先ほど資料説明を飛ばしてしまったのですけれども、資料2-3をお手元にお配りさせていただいております。こちらは児童福祉法、虐待防止法、民法における現行のさまざまな措置等につきまして、縦軸に保護者の同意の有無、横軸に在宅か親子分離の場合かという観点から、現行の制度がどのような体系になっているかについて事務局で整理したものでございます。青色の項目については現在、行政の権限として実施しているものでありまして、緑は裁判所の審査を受けて行政が実施しているもの、赤色の部分が家庭裁判所が実施するものと色分けしています。先ほどの一時保護の議論もそうですけれども、今回の裁判所命令も含めて司法の関与について検討、議論するに当たって参考としていただければという趣旨で、事務局で作成したものです。

 私からの説明は以上になります。

○吉田(恒)座長 どうもありがとうございました。

 それでは、裁判所命令についての意見交換に入りたいと思います。ただいまの御説明、論点等について、それから、児童相談所調査に関して、ここにかかわるのは18ページ以下でしょうか。裁判所の勧告の部分でしょうか。これを直接保護者に命ずる、義務づけるという制度を設けてはどうかという点です。

 それでは、この点について御意見をお願いいたします。久保先生、お願いします。

○久保構成員 今回、資料としても提出しておりますので、総論的にお話をさせていだきたいと思います。

 改正児童福祉法3条の2の家庭養育原則のもと、できる限り子どもが在宅のまま適切な養育環境へと改善されるよう、あるいは子どもさんが社会的養護において生活することになっても、実家庭の養育環境が早期に改善され、子どもが実家庭に戻れるようにするためには強制的処分による指導が必要になることがありますが、本来、公権力が私人の生活を統制することは差し控えるべきところ、公権力が家庭養育に対して強権的に介入する場合には、公平中立な立場から双方の意見を聞いて審査・指導する制度設計が必要であり、そのため、裁判所の関与による適正な手続保障を図ることが必須だと考えます。

 この制度においては、養育改善のための指導を拒絶したり、指導の結果に改善が見られなかった場合には、親権者、養育者の養育環境改善に向けた動機づけのため、あるいは子どもの権利と最善の利益を保障するために、子どもの一時分離・保護、特別養子縁組の成立など、しかるべき出口が準備されなければならず、それには先ほど述べたとおり、裁判所の関与のもとに手続保障が図られていくべきだろうと考えます。

 それから、裁判所命令の制度整備について反対する理由が幾つか今のところ示されておりますが、次のとおり考えております。まず、現行制度では児童虐待防止法11条の4があり、これを活用すべきだという考えがありますが、児童相談所と保護者とが当事者として対立しているような場面で、一方の当事者から一方的に命令が出されたとしても、これに従うことを期待することは難しいかなと考えます。

 これはその指導の後、これに従わない場合に行政が出す勧告であっても同様であろうと考えます。また、現制度はしかるべき出口が制度設定されていません。そのため実効性のある養育改善のため保護者の動機づけにはつながりにくいかと思います。また、児童福祉法28条審判の際の勧告制度の活用というのも言われておりますが、これは在宅事案では使えません。しかも前回の調査結果からもわかるとおり、この勧告が必ずしも家庭復帰につながっていない現状があります。

 第2に、司法と行政の役割の違いとして、司法は行政行為のチェックをするものだという指摘がございますが、今回提示する制度では指導改善が必要であると判断した児童相談所の申し立てを受け、裁判所が当該要件を充足する事実の有無を調査し、これを前提として児童相談所による指導の是非を裁判所が判断することを考えています。これはまさに行政行為のチェックに当たるのではないかと考えます。

 現在の法制度においても、少年法における保護観察処分は保護観察所という行政機関の指導に当事者を従わせるものですし、医療観察法における通院命令も行政機関とは異なりますが、医療機関の指導に当時者を従わせるというものですし、今回、御提示している制度もこれらと同様の範囲にあるのかなと考えます。

 もし命令という言葉が問題であれば、少年法15条の2を参考として指導の措置とすることなどが考えられるかなと思います。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 それでは裁判所命令に関しまして、横田先生、お願いします。

○横田構成員 これも一番最初に申し上げたことですけれども、今の議論もやはりブレーキの話とアクセルの話がごちゃまぜになっていると思っています。というのは、指導に対してブレーキが必要だ。そして、また実効的なアクセルの話、両方言われましたけれども、現状は指導ですね。指導に対して裁判所の命令というような強権的な制度をつくるから、権力的なものになるわけですね。現状はそうではないわけです。 裁判所命令をつくるから裁判所の関与が必要だという論理がトートロジーな気がするのですけれども、そのことを踏まえてこの裁判所命令の議論の中でブレーキの話をするのはどうなのかなと思っています。というのは、今の話をそうではないと解釈して、指導自体に国家介入だという面があるというのであれば、例えば学校の先生が保護者に、お子さん朝ごはんを食べていないのですけれども、ごはん食べさせてくださいと言うのも司法関与が必要だし、もっと問題なのは、要支援児童のケースワークも司法関与が必要になってしまいますが、どうですかという話があって、なのでここではブレーキの話をあまり言うとまずいのではないかと思います。

 少年法の話をされましたけれども、これもアクセルの話に移りますが、少年審判でこういうものがあるからという話ですけれども、これも少年審判はその少年審判自体が親権制限ですから、この点はあまり最近は議論されていませんが、そういう土俵の上で少年法25条の2という話のはずなわけです。なので私個人はもし裁判所命令を導入するのであるならば、むしろ28条審判のもとでの28条5項の今のよくわからない制度を裁判所命令にするならあるかもしれないと思っています。

 何でこんなことを言うかというと、これはそこの限定を外すと非常に問題があるのではないかと思うからです。つまり在宅の場合ですが、論点1、2、3まとめてお話をします。裁判所が児童相談所の指導の内容にチェックを入れるのかどうかという制度設計の話にかかわってきますが、配られているものを見るとチェックを入れるという制度でないとうまくいかないというA案、B案が出ていましたけれども、私はむしろ逆に裁判所が行政の指導の中に立ち入るということになると、先ほどのブレーキの話でいえば裁判所が指導にだめ出しをするということが制度として予定されるわけです。その場合はどういうことになるのですか。もともと指導に従わず言うことを聞かない親権者だから、もうあとは28条審判だという話になるのですか。要するにそこで裁判所がかかわるということは固い制度を入れるということなので、そこで何かを入れてしまうと、実際に今でも私が聞くところによると27条1号、2号の指導と、その指導に当たらないのだけれども事実上やっている指導ということで対応しているとのことですが、そういう非常にフレキシブルな対応で何とかやっているということにもしわ寄せが来ると思っています。

 いやいやそんなことではちゃんとした実効的な指導ができないからということですと、裁判所がチェックした後に、チェックした後の内容のとおりに児童相談所がいろいろな指導をやるかどうかということが、これは制度的に担保できないと思っています。つまり指導というのは事実行為ですから、しかも精神的事実行為なので、逮捕とか拘留みたいな物理的な事実行為とは違いますから、本当に裁判所がチェックを入れたとおりに児童相談所は指導していますかというところを、後から検証のしようがないということがあります。だから実際上は多分、裁判所のチェックを入れても児童相談所は必要な部分をやるだろうと思っています。そうでないと実際上まずいと思いますから。だから結局、裁判所が審査する意味がない。

 一番問題なのは、先ほど言いましたけれども、要保護児童に対して指導に裁判所命令を何か入れると、要支援児童のケースワークに支障が出るのではないかと思っています。というのは私自身は一般的な子育て支援から要支援児童、要保護児童というグラデーションをなめらかに対応していくことによって、それこそ全体の建付けがと思っているのですけれども、現状だと要保護児童と要支援児童との間が分断と言うと言い過ぎですが、うまくつながっていないというところで、裁判所命令を入れると例えば要支援児童、養育支援訪問事業のときに虐待ではないのだから指導なんかしないでくださいよ、家庭訪問もしないでくださいよ、これは国家介入だと。どうしても家庭に介入するのだったら司法関与してくださいよということを言い出しかねないわけです。そうすると、これはむしろ虐待が増える危険性があるのではないかと思っていますので、ここは慎重に考えてはどうでしょうか。

○吉田(恒)座長 わかりました。

 いかがでしょう。では峯本先生、お願いします。

○峯本構成員 今の点で言いますと、私は先生のおっしゃられているあれで言うと、基本的にこの話はアクセルといいますか、権限強化を目的とするものだと考えています。段階的にはまさに先生おっしゃられているみたいに助言指導的なところから、児童福祉司指導も児相によってどれぐらい使われているかかなり違いがあるようですけれども、児童福祉司指導があって、なかなかそれでも言うことを聞いてくれないところに裁判所の命令という形で、より権威を持ったと言ったらおかしいですけれども、それが活用できるような制度をつくれないかということなので、そういう意味ではアクセルかなと思っています。

 もう一点は、先生おっしゃられたあれで言うと、確かに分離ケースと在宅ケースで当然のことながら違いがあるかなと。分離ケースのときは再統合に向けて、もしくは最終的なパーマネンシーのプランに向けて児童相談所が提供すべきサービスがある、支援がある。それに保護者は応じないといけないという枠組みの多分命令の、そういう意味ではイギリスで言うケアプランとセットで裁判所が28条の承認をすることによって、児童相談所にはちゃんとそのサービスを提供しないといけない義務が課せられて、保護者のほうにはそれに応じないといけないということが事実上の強制力、次のステージに乗っているというのは可能かなと。逆にこれもまた児童相談所の体制の問題とか、実際に利用できるサービスが不足しているので、なかなかプランを十分なものが立てられないという現実の課題はありますが、制度の枠組みとしては可能かなと思っています。

 それは1つの目標かなと、藤林先生とかもおっしゃられているのもそういう趣旨が含まれているのかなと思っていたのですけれども、在宅のときにも今の実務で言うと、権威を持った命令、権限みたいなものが欲しいというのはニーズとしてはあるかなというところで、そうなると、ただ、総合的な支援プランというよりも、これに応じなさい、何かの治療命令、カウンセリング受講命令みたいな個別の命令レベルのところになってくるので、制度としては児童福祉司指導にお墨つきを与えるという形での裁判所命令はあり得るかなと思うのですが、その点はいかがでしょうか。

○吉田(恒)座長 お墨つきがアクセルとしてという意味ですか。

 横田先生、どうですか。

○横田構成員 峯本構成員の第3回の論文を拝読させていただきましたけれども、イギリスではスーパービジョン命令があるという御論文でしたが、外国法で難しいのは、私もいつも悩んでいますが、だから外国にこういう制度があると言うけれども、外国はうまくいっているのか。要するにスーパービジョン命令の外側は、日本だと従来から福祉のケースワークでやっていたところ、そこは御論文に何か書かれていましたかね。

○峯本構成員 スーパービジョン命令そのものを置くというのは今のあれでは難しいだろうなと思っているのですけれども、ピンポイントでいいところ取りの観点で実際の福祉現場のニーズで、児童福祉司指導がどれぐらい使われているのかという議論は当然のことながらあるので、立法事実論という問題はあるのですが、ただ、実際のケースワークをしている中で言ったら、ちょっと権限強化していくというところで裁判所がいわゆる児童福祉司指導の内容でかなり具体的な指導をしているようなものについて、裁判所がお墨つきをもらうということは制度としてはあるのかなと。いわゆる包括的なスーパービジョン命令みたいなものは現状ではとても無理だろうなと思うのです。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 裁判所のお墨つきの意味です。要するに児童相談所だったら聞かないのだけれども、裁判所だったら言うことを聞くという根拠です。裁判所のほうが国民に信頼をされているからという話なのですか、そうではなくて導入する指導命令の手続で裁判所が公正な手続をとるからという理屈をとってしまうと、制度設計として非常に固いものになってしまいます。実務は詳しくないのでわかりませんけれども、指導がまさに精神的事実行為なのでどこからどこまでがとか区別できないのですが、そのようにフレキシブルに今、ひょっとしたら対応できているので、も、なのでまだ虐待がこれ以上増えるのをとめているかもしれないのです。現状をどう理解するかなのですけれど。それを固い制度を入れてしまうと、外側ですよね。大体制度設計で中のことを議論しますが、司法関与の対象になるところを議論する。そこのことを考えますけれども、外側に結構何か副作用がありそうな気がするのです。

○吉田(恒)座長 久保先生、お願いします。

○久保構成員 横田先生の虐待が増えるかもしれないというのは、実務をやっていると全くイメージがわかないのですけれども、今やっている任意の指導であったりとか、児童福祉法27条1項2号の指導では、なかなか指導が入らずにずるずる例えばネグレクト状況がずっと続いているという状況があるのが、今回の裁判所命令をもっと入れてほしいという思いなのですけれども、かえってこれを入れることによって親御さんのほうが裁判所にやってくれよというのはおそらくないと思います。というのは、裁判所でやったら、もし改善できなかったら、指導に従わなかったら、次は保護をして28条なり親権停止なり親権喪失、特別養子縁組までいきますよというのを説明して、それでもやりますかということになったら、おそらくやらないと思います。おっしゃるとおり裁判所が関わると固くなりますので、なるべく任意で改善していただくとか、それが一番いいのですけれども、それが今できないというところがあるのかなと思います。

○吉田(恒)座長 久保野先生、お願いします。

○久保野構成員 今のところにかかわる話が質問であるのですけれども、その前に今、話の中でも明らかになっていますが、論点(3)でさまざまな場面で考えるべきことが違うというのは、確かに論点に挙がっているのですが、相当に違うのではないかと思います。制度設計としても違いますし、目的論も違いますし、何との関係で問題があると見るかというのも違うと思いますので、そこをぜひ分けるぐらいでお願いできたらなというのが1つあります。

 その上で、分けての上なのですけれども、28条とセットの話につきましては、弁護士会の意見で出されていましたが、28条は現在でも指導の効果を見て更新を考えていくとはっきり明文に書いてありまして、そのような意味での司法の審査というか関与というものはありますので、それがどうして足りないのかというのが改めてまだわからないなというのが1つあります。

 もう一つは今の論点と同じですけれども、27条の児相が指導をやっているけれども、保護者の反対があってできず、司法の関与があれば進みそうだという場面がどういう場面なのかというのを、何度も同じ質問で申しわけないのですけれども、やはり気になりまして、先ほど2号措置としてやっているものがどのぐらいできているかとか、それ以前の形でやっているものもあるみたいな話もありまして、どこまで何をやっていて、司法の関与があればというのをもう少し具体的に議論する必要があるように思います。

 その上で、指導に従わなかった場合に、家庭復帰の理念というものがこの論点で重要視されているように伺っているのですけれども、十分な指導をして、十二分に行ったのにもかかわらず、裁判所の命令にさえ従わないとなれば、家庭に戻すのではなくて一時分離や特別養子につなげられるのではないかというお話が冒頭のほうでありましたが、そこで、これも重ねての発言ですが、親権停止や喪失の仕組みもありまして、外国を見なくともそれを使っていく場面というものがもしかしたらもう少しあるのではないかという感じがしまして、それを適切に使うことを前提にしてでも動機づけにならないということなのかどうかという、先ほど動機づけの話が出た関係で、そこが1つ疑問としてあります。

 もう一つ、勧告について必ずしも効果が上がっていないということが調査結果をもとに引かれていますが、親権停止や喪失がどのぐらい使われるべきなのかという観点から見ましたときに、勧告全体でも数が少ないようですから、相当な困難ケースなのではないかと想像するのですが、勧告でも効かずに戻せなかったというのは、もしかしたら親権停止や喪失を使って、それこそ特別養子に現行法でもつなげていけるケースだし、いくべきかもしれないということは考えられないのかというあたりが、質問と意見がまじっていますけれども、思います。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 久保先生、最初のこの論点整理の(3)の今、久保野先生の御質問にあった、それぞれの場面でここでの内容が違ってくるのではないかというので、この(3)について具体的な場面でこうすべきだというところは今、御意見としてお持ちでしょうか。

○久保構成員 一応、裁判所命令の適用場面としては在宅を基本に考えているものですから、先ほど言いましたようにお子さんは家庭で養育されるべきという、この大原則に基づいて、しかも親権停止とかそういうものではなくて、なるべく家庭の中で指導に従っていただければなというところが大きいところです。

 先ほど言いましたように任意でやっていただければそれが一番いいのですけれども、それにも従わない。次にはもう少し強くということで、第三者からの命令ということで裁判所が入っていただくべきではないか。それでもだめだというのであれば、さらに次の段階に進むしかないなと。それはお子さんが例えば在宅のまま、ネグレクト状態にずっと置かれてしまうとか、そういったところが長期間続くのではなくて、ある程度、期間を決めたところで改善というか、家庭養育というものが図れないのであればというところです。

○吉田(恒)座長 久保野先生、続けてお願いします。

○久保野構成員 今の話のようなケースだとすると、現状で一時保護の要件は満たしそうにない状況の家庭があって、けれども、何らかの不適切と捉えることもできる養育状況があって、そこに指導をかけていったところ任意では従わない。裁判所が命令する。それで一時保護と進んでいって特別養子という当初おっしゃっていた流れにつなげていくのかなと。

○吉田(恒)座長 一応、想定する場面は今、先生がおっしゃったような場面でよろしいですか。

○久保構成員 はい。先ほど峯本先生言われましたけれども、分離している状態と在宅の場合で場面が変わってくると思うのですが、私が想定しているのは在宅のままでなるべく養育環境が改善していただければなという思いがあります。

○吉田(恒)座長 そうすると一時保護なり親権制限なりの1つ手前のところで関与するということですね。ですから現行制度があるけれども、それでは十分ではないということですか。

○久保構成員 そういうことです。

○吉田(恒)座長 山田先生、お願いします。

○山田構成員 もう一つ、施設入所、里親委託の状況でも問題はあると思っていて、28条の第5項の勧告が使えるのは28条措置ですね。でも、児童相談所の調査でも出ているとおり、28条を1回目は申し立てるけれども、2年後の2回目以降は同意に切りかわるというケースも結構あるわけです。同意入所のケースのときに同意はしてくれています。例えば、子どもを再統合してほしいと思っている親であれば、別に家庭裁判所が何か言わなくても児童相談所が「これをやったら帰せるんですよ」と言えば、再統合してほしいと思っている親であれば頑張るでしょうけれども、「帰って来なくてもいい。」と思っている親で、入れっぱなしで何にもしない親の場合はどうでしょう。それでまた、同意で入所してしまっているので、28条にはならない。そのときに親権停止、何も2年間、幾ら児童相談所が頑張って、親御さんに「お子さん、寂しい思いをしていますよ」と言ってアプローチしても何もしない親御さんに対して、2年間とか3年間、どのぐらい観察期間を置くかはまた制度設計上の問題でしょうけれども、2年間の児童相談所の努力に応じませんでしたということだけで本当に親権停止、親権喪失というふうに進んでいくのかということなのです。

 強制的な治療の枠組みなり何なりがあって、それに応じないという事実認定をせずして親権制限を進めていくことはできるのですか。そうしたら結局、同意で入所した子は18歳まで児童養護施設に入りっぱなしですよね。この問題をどうするかということが次の特別養子縁組の課題にもつながっているわけです。同意のとき児童福祉法28条も使えません。では親権停止に持ち込むために「親が応じないんです」と言って親権停止になりましたという事例があるのでしょうか。結局、「応じないんです」という状態が2年ごとにどんどん更新されていくだけで、いつまでたっても特別養子縁組には行かないのではないかということを常々お話をしています。

○吉田(恒)座長 わかりました。

 久保先生、お願いします。

○久保構成員 先ほどの山田先生の点なのですけれども、何もしないということについては親権行使の不作為ですね。それについてこれは親権行使の不適当な行使なんだという見方は裁判所はしてくれませんで、別に親権停止しなくてもいいでしょうで大体終わりです。

○吉田(恒)座長 吉田先生、お願いします。

○吉田(彩)構成員 親権停止に関しては、民法所定の要件を満たせば認めることになるので、不作為であっても親権停止が認められる場合があると思うのです。おっしゃっているのは、それでは子どもの状況は変わらないでしょうということだとは思うのですけれども、まさにそこにかかわるのが司法の役割なのか行政なのかというところの基本的な考え方だろうと思うのです。

 先ほど、久保構成員は、裁判所命令といっても、裁判所が申立てを受けて要件を満たすかどうかを判断するのだから、裁判所でも十分に判断できるということをおっしゃったのですけれども、具体的にどのようなことをお考えになっているのかがいま一つよくわからないのですが、裁判所が実体法上、何も義務が存在していない状態から新たに義務を創り出すというのは、通常の裁判とは全く違う作用になると思うのです。こういう場面で親はこうしなければいけないという義務が法律上、決められているわけではないので、裁判所としては要件を満たしているかを判断すればよいというわけにはいきません。裁判所命令の判断を求められたときに、こういう場合に親としてどうすればいいかということを裁判所が判断するべきなのかどうかなのか。

 それこそまさに横田先生もおっしゃいましたけれども、行政裁量の範囲の中で個別の家庭の事情に応じて臨機応変に定められていくべきものであって、裁判所において、そこにまで介入していく場面というのは、久保野先生がおっしゃったように、親権を制限すべき場面や強制施設入所等措置が採られる場面といったもはや親の手に委ねることができないような場面に限られるのではないかと思うのです。特に在宅の場合に裁判所が行政機関からの特定の指示に従うよう国民に対して命令を出すことについては、司法が福祉機関としての役割を担うという側面が強く、司法の中立性が大いに害されると思います。一度、福祉行政の側に立って行政の命令に従うよう裁判所が国民に命じておきながら、その後、親権制限や児福法28条の審判が申し立てられた場合には、今度は中立的な判断機関として裁判所が出てくるというのは、制度として不整合ではないかと思います。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 では金子先生、お願いします。

○金子構成員 久保構成員に質問なのですけれども、資料2-2の4ページの最後の(5)の実効性を確保する方策というところで2つ書かれていますが、そのうちの2番目の方を想定されているということは先ほどのお話でわかったのですけれども、1番目の方は想定されているのかがよくわからなかったので、それをお聞きしたいというのと、2番目のほうについて、これまでそういう発言が続いたように思うのですが、これは裁判所命令を入れなくても、行政上の措置でこういう指導をやっていったけれども、うまくいかなくて、という記録を残しておけば、それで済む話なのではないかという気がしたのですが、それをなぜあえて裁判所というところまで持っていくのかという点をお聞きしたいと思います。

○吉田(恒)座長 久保先生、いかがですか。

○久保構成員 今のは資料2-2の論点(1)ですか。

○金子構成員 ではなくて(5)です。

○久保構成員 共同提出した意見書でも言っていますけれども、罰則を設けることは考えていません。例えば戸籍の届け出とかもありますけれども、あれは過ち料ですけれども、そういう罰則を設けたとしても、それは払ってしまえばそれでいいではないかという方が必ず出てきたりしますし、罰を与えるのが目的ではなくて、子どもさんの養育環境が改善することが目的なので、動機づけとしてその後にはこういうものが控えていますよ、一時保護とか親権停止、親権喪失とか、そういったものが控えていますよということで動機づけにしたいということです。

○金子構成員 もう1つお尋ねした点はいかがでしょうか。つまり、先ほども申しましたけれども、別に裁判所命令がなくても、指導していたのだけれどもどうも聞いてくれなくて、ということでこういう強制的な措置に至りました、というふうに裁判所に申し立てすればいいだけの話ではないかと思ったのです。

○久保構成員 在宅ではなるべく養育を改善していただきたいのです。いきなりこうなりましたから一時保護ではなくて、なるべく在宅のままでしていくために任意ではなくて第三者からのきちんとした措置を入れてほしいということです。

○吉田(恒)座長 金子先生、よろしいですか。

○金子構成員 個人的には、どこかでも指摘されていたと思うのですけれども、結局、指導して支援することと、介入して親子分離することを同じところがやっていて、そこでうまく切りかえできなくてずるずる行くということが問題の根源なのではないか、という印象を持っております。

○吉田(恒)座長 わかりました。

 山田先生、お願いします。

○山田構成員 しつこいのですが、親権停止と28条はそんなに要件が違わないので、親御さんに指導したけれども、応じないときに申し立てれば、そういう審判がおりるというのはわからなくはないのですが、親権喪失の要件というのは「父又は母による虐待又は悪意の遺棄があるときその他父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は」云々になっているわけです。それを不作為のまま、親権者の同意でずっと入所している子どもの親に対して適用してもらえるのか。ここがないと結局のところ特別養子縁組は組めないということになりますね。

○吉田(恒)座長 久保野先生、お願いします。

○久保野構成員 まさにそこが問題だとは思いまして、山田構成員のお話を最初のころに伺っていたころに、フランスというのが2年間の無関心というのを親権喪失の理由にしているというのは、そういうことだったのだと私は非常に納得しました。ただ、それを本当に裁判所がしてくれるのか。喪失までしてくれるのか。特別養子までつながるのかという疑問というのは、私は、それがそのまま実質的に特別養子をすべき場合というものをどのような場合と評価すべきかという難しい問題があるので、判断しにくいと個人的には考えています。

 その、判断が難しいというところまでは仮に共有していただけると仮定した場合に、そうするとその難しい判断を停止、喪失という仕組み、これは私の理解では本来、親権者が子どもを守るという建付けなのだけれども、ここまで来たら別の人に任せるべきだというところに向かっていく仕組みだと。そこまでは親権者に任せるという仕組みだと理解しています。その枠組みに乗って、どこがその限界で、どこからは別の特別養子に向かうべきかというのをどういう場でやるべきなのか、親権者に具体的に何とかを受けなさいと裁判所で命令させて、それに従わなかったら、すなわちこの人は親権者として不適格ですという方向に判断できるようにより明確に組み立てていきましょうとするのが、その難しい判断を乗せる場所として適切なのかということを議論しているのではないかと理解していまして、私の今までのところの感じですと、裁判所がそれに従わなかったら次の段階、次の段階といって特別養子につなげていくということを前提にして、何かの条件を課すみたいな仕組みを設けるのは具体的なところが想像がつかないといいますか、少なくともそれは、カウンセリングを受けなさいという指導をして、受けなかったら、停止を経るかどうかはわからないけれども、特別養子につなげていくというのは不適切なように感じているところです。

○吉田(恒)座長 床谷先生、お願いします。

○床谷構成員 特別養子の話は今日はしないということだったので意見を述べるのを控えていたのですけれども、これは吉田先生にお聞きしたいことでもあるのですが、今、山田構成員もおっしゃいましたけれども、28条審判と親権の制限の規定と特別養子の同意不要の要件と似たような条文になっているのですが、全く一緒ではない。虐待という言葉とか悪意の遺棄とか、不適当なものとか、そういうものがあるのですけれども、最終的に子どもの利益を著しく害するという共通の言葉というのと少しずつ違うところがあって、私たち家族法の学会で親権の喪失の要件と同意不要の要件は似ているので、親権喪失が成立すれば、それは即同意不要と見なしてもいいのではないかという議論をしているのですけれども、これは親権法の研究者から、同じ虐待という言葉であっても28条審判の根拠となる虐待と特別養子の同意不要の根拠でいう虐待と解釈が違う。裁判所は違う意味にとっているというふうに反論されるのです。

 そこのところは、私なんかは同じ虐待なので親権喪失は極めて適用例も少ないし、限られたケースですから、そういうものはイコール同意不要としてもいいのではないか。条文的にも似ているからというふうにわかりやすく設計したいと思っているのですが、どうも親権法をかなり深く研究している人から見ると、そこは違う。裁判所の運用も親権喪失の場合は戻ってくる可能性があるけれども、同意不要の場合は基本的には戻らないので、同じ虐待でも意味は違うんだということを強くおっしゃいました。私はそこのところはまだ納得しているわけではないのですが、そこは家庭裁判所の裁判官の方が判断するときに、どういうふうに区別があるのか。これも裁判官によって判断は違いますので、家庭裁判所の裁判官一人一人お考えが違いますから、同意不要が甘い人もいれば非常に厳しい人もいるので、そこは一概には言えないと思うのですが、吉田裁判官にその辺をお聞きしたいというところがあります。

 それから、先ほどの無関心というのはドイツ法でも同意不要の要件になっていますが、親が同意しながら1年に1回プレゼントだけ持ってきて、誕生日にプレゼントだけ持ってきて一向に会いに来ないというのは無関心と言えるのかどうか。これもかなり難しい問題もあるのですが、最初の点は吉田裁判官に御意見をお聞きしたいと思います。

○吉田(恒)座長 お願いします。

○吉田(彩)構成員 実際の家庭裁判所の実務では、親権喪失の審判と特別養子縁組の成立の審判とを一連のものとして意識して判断することはありませんので、例えば、親権喪失の要件を判断するときに、特別養子縁組の成立について実親の同意が不要となる場合に当たるかどうかといったことまで意識して判断することはなく、それぞれ別のものとして、もちろん申立ては別ですので、淡々判断されていると思います。ですので、理論的に、両者の要件がどういう関係に立つのかということに関しては、お答えできる材料を持ちません。

○吉田(恒)座長 横田先生、お願いします。

○横田構成員 床谷構成員のほうが詳しいと思うのですけれども、親権喪失と養子縁組の大きな違いは、親権喪失は親権がなくなるだけで親子関係は残るのだけれども、特別養子縁組は親子関係が残るということなので、そこは効果がかなり違うので、同じように扱えない。フランスの話が出てきましたけれども、フランスはおそらく喪失から養子縁組の話に行くときの建付け、まさに全体の建付けの話が日本法と違う建付けになっているので、あまりそれを参考にできないのではないか。これは久保野構成員のほうが詳しいと思います。

○吉田(恒)座長 時間も迫っていますので、この点は最後の御意見ということで、久保野先生、お願いします。

○久保野構成員 先ほどの私の発言の仕方が、親権喪失となれば特別養子とつなげて発言するような形でしゃべったと思いますけれども、今、出ているようにそう考えているわけでは私もないということであります。その点も、無関心を続けている親に親権を喪失させたとして、親子関係まで切るべきかどうかというのは別だという考え方があり得るので、そこは、親権喪失と同意の免除の判断の区別は一応残しておいて、その中で先ほどの難しい判断を織り込んでいくということではないかと思っております。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 吉田に質問というのは私のほうに質問かなと思ったのだけれども、裁判官の吉田先生が答えてくださいましたので、私も一言言いたいのですけれども、時間の関係で控えさせていただきます。

 この点についてはまだまだ深める点が多そうです。本当に行政の役割と裁判所の役割、山田先生がよくおっしゃるようなリーガルソーシャルワークと一連の問題ということも考えなければいけないので、さらに今日また新たな論点が出たり、明確になったところもありますので、事務局のほうで整理していただいて、次回の議論につなげたいと思います。

 では、予定の時間が過ぎてしまいましたけれども、面会通信制限、接近禁止命令、親権停止、28条に係る裁判所の承認という3つの点をあわせて御意見をいただきたいと思いますが、事務局から簡単に説明をお願いします。

○木村補佐 時間も限られておりますし、構成員の皆様方には事前に資料をお配りしておりますので、ごくごく簡単に御説明をして皆様の御議論の時間にしたいと思います。

 6ページ目「3.面会通信制限、接近禁止命令について」、こちらも目指す方向性(案)と論点を記載させていただいております。

 7ページのところには、留意点・課題ということで記載させていただいております。

 8ページ目、4つ目の親権停止制度の活用についてということと、5つ目の28条措置に係る裁判所の承認についてということで記載しております。

 4につきましては、これまで論点も記載させていただいていたところですけれども、これまでの議論を踏まえますと事務局といたしましては、この児童相談所の運営指針等において明確にするというような運用面での対応でどうかと考えております。

 5につきましては、既に検討会で一定程度の合意が得られていると思っておりますので、こちらも運用でと考えております。

 以上です。よろしくお願いします。

○吉田(恒)座長 ありがとうございます。

 親権停止と28条の措置に係る裁判所の承認に関しては、この検討会で大方の合意が得られていると思いますので、時間の関係もありますので接近禁止命令について御意見をいただきたいと思いますが、いかがでしょう。横田先生、お願いします。

○横田構成員 その議論の前に、これは議論にならないことだと思うので実務の方に一言。最後の28条措置に係る裁判所の承認について、実務対応ということで話がまとまっていたと思うのですけれども、これはその実務対応のときに1つ問題点があります。というのは種別まで裁判所がチェックするという現状どおりで、なるべく多くの申し立てということでしたけれども、その場合に種別が間違っていると却下審判が出ます。そのときに28条審判で却下審判が出たら一時保護を解除するという実務がとられていると思うのですけれども、これは子どもと親を引き離すのだったらということでて、裁判所がノーと言えば一時保護を続けることはないのですけれども、種別が違うというときに一時保護の必要性は消えていないので、種別が違うという理由での却下審判のときに、一時保護を当然にやめないという実務対応をぜひお願いしたい。そうでないと禍根が残るということです。

 以上です。

○吉田(恒)座長 そうですね。運営指針なり手引きの記述でその点、御留意願いたいということです。

 ほか、接近禁止命令等いかがでしょうか。今のところございませんか。まだ明確な方向性というところまでは至っていないという理解かと思いますけれども、できる限り次回でこのあたり、皆さんの御意見を伺って、そして何らかの方向性まで持っていければと思いますので、そのときはまた御協力をよろしくお願いいたします。

 では、一言だけ。

○久保野構成員 これも整理されている4についてで申しわけないのですけれども、これの使い分けについて運用指針でというところには異論がないのですが、明確にする方向性とか内容については、ここで議論する機会があるのかということについて質問です。

○吉田(恒)座長 なるほど。おおよその筋道はこれでいいとしても、先ほどの横田先生のような形でこういう注文をしたいというところまで妨げるものではありませんので、今ございますか。次回でよろしいですか。御協力ありがとうございます。

 上鹿渡先生、どうぞ。

○上鹿渡構成員 時間が過ぎているところ申しわけありません。今日最初に久保先生が本当に本質的な課題についての質問から始めてくださって、多分もっと最初の段階ですべき議論が、ようやく今日できたのではないかと思って聞いておりました。特に一時保護に関しての議論が終わったところで吉田座長もおっしゃってくださったように、これから体制整備とあわせて本当にこの議論を詰めなければならないということで、これは皆さん思われていることだと思います。ただ、残された回数があと2回という中では、次は特別養子縁組に絞って議論し、最後はまとめる形になると思いますが、それではすごく大事なところが議論できないまま終わってしまうのではないかと思います。

 この検討会の目的は、現場で今ある制度の中で頑張り、本当にぎりぎりまで取り組んで、それでもできないところをどうやって解決するのかについて議論することだと私は思います。現場の問題を提起してくれている方々が、その方法を使えるようにもしもなっていくのだったら解決できるかもしれないということを思って帰れるような検討ができなければならないと思うのです。これは子どもの最善の利益の保障につながっていくことだと思いますので、資料3ページの一番下に留意点・課題として挙げられてもいますが、この点についてはもしも11月で検討会が終わるのであれば、終わった後にまたしっかりとこのような課題を継続して議論していく場が設けられなければならないと考えます。この点いかがでしょうか。

○吉田(恒)座長 私自身も今日で結論が出たとは一向に思っておりませんので、むしろ今日問題点がより明確になったということで、次回、機会を設けて、その点を集中的にやりたいと思っております。ですのでこの会議の進め方、特別養子の時間をどう案分するかということもありますので、事務局と相談して今後の議事について考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 それでは、予定の時間が過ぎてしまいまして申しわけございません。本日の意見交換は以上として、最後に事務局から次回以降の事務連絡をお願いいたします。

○木村補佐 本日も遅い時間までありがとうございました。

 次回日程につきましては、1114日月曜日の17時から19時を予定しております。次回の進め方につきましては先ほど御指摘もございましたので、改めて検討して御相談したいと思います。

○吉田(恒)座長 それでは、皆さん方、今日はどうもありがとうございました。以上をもちまして散会といたします。


(了)

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