ホーム > 政策について > 審議会・研究会等 > 職業安定局が実施する検討会等 > 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 > 第3回 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会(2016年4月22日)




2016年4月22日 第3回 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会

職業安定局

○日時

平成28年4月22日(金)14:00〜15:30


○場所

厚生労働省(中央合同庁舎第5号館)21階 専用第16会議室


○出席者

川口 大司 (東京大学大学院経済学研究科教授)
神吉 知郁子 (立教大学法学部国際ビジネス法学科准教授)
中村 天江 (リクルートワークス研究所主任研究員)
松浦 民恵 (ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員)
水町 勇一郎 (東京大学社会科学研究所教授)
皆川 宏之 (千葉大学法政経部教授)
柳川 範之 (東京大学大学院経済学研究科教授)

○議題

・現時点における課題の整理について
・同一労働同一賃金原則について
(水町氏によるプレゼンテーション)

○議事

○柳川座長 定刻となりましたので、ただいまから第 3 回同一労働同一賃金の実現に向けた検討会を開催いたします。委員の皆様におかれましては、大変お忙しいところを御参集いただきまして誠にありがとうございます。

 本日は皆川委員が初めての御出席ですので、一言だけ御挨拶いただければと思います。

○皆川委員 千葉大学法政経学部の皆川でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

○柳川座長 議題に入ります。まず 1 つ目の議題の「現時点における課題の整理について」です。本検討会では第 1 回で「我が国の現状や現行制度」、第 2 回で「 EU 諸国の法制度・運用・雇用慣行等」について事務局提出資料を基に委員の皆様方にフリーディスカッションをお願いしてまいりました。本日は、今後の検討を深めていくのに、これまでの 2 回分の委員の皆様の御意見をまとめたものを御用意していただいていますので、まず事務局のほうからそれについての御説明をお願いいたします。

○河村人材サービス推進室長 説明に先立ちましてお手元の資料の確認をさせていただきます。まず、委員の名簿を改めてお配りしております。中村委員がリクルートワークス研究所の労働政策センター長になられていますので名簿を修正させていただいております。それから、資料 1 として「これまでの各委員の主な御意見等」、資料 2-1 2-2 2-3 で水町委員のプレゼンテーションの資料を配布させていただいております。以上、お手元におそろいでしょうか。

 資料 1 を御用意ください。これまでの主な各委員の御意見について御紹介いたします。これまで、第 1 (3 23 ) と第 2 (4 13 ) において、皆様方からお出しいただいた御意見をテーマごとに振り返らせていただければと思います。

 まず、 1 番の課題認識 / 検討に際しての留意点ですが、 1 点目の○の、非正規雇用労働者の賃金水準の低さというものが、我が国の少子化や様々な社会構造問題の要因となっていて、将来にわたる我が国の社会経済全体に大きな影響を及ぼしている点。これについては第 1 回の資料から引いております。

2 点目の○です。「同一労働同一賃金」の実現に向けた検討に際して、まず同一企業内の格差に焦点を当てていくということ。それから、非正規の方の処遇を現実に実効性をもって改善していくということ。また、その際に社会全体の労働生産性を高めていくという方向性を目指して議論をすべきだということ。さらに、日本的雇用慣行にも留意しながら検討するのだけれども、日本的雇用慣行自体が変化しつつあるということも踏まえて議論をすべきだという点を、柳川座長と松浦委員からお出しいただいております。

3 点目の○です。こちらは雇用形態間の格差是正に関して、法整備に早期から取り組んできた EU の制度や裁判例を今後参考にしていくに際しては、それらが機能する背景になっている EU の労働市場や雇用慣行について十分考慮して、我が国に導入していくに際して必要な検討を行わないと、実効性のある制度にはならないのではないかという点。それから、 EU も我が国もそれぞれがお互い変化しつつあるということに鑑みて最先端の情報で議論を行うという点を、川口委員、柳川座長、水町委員にお出しいただいております。

2 ページです。主に事務局の資料の中から現行制度の課題をまとめております。 1 点目の○ですが、我が国の同一労働同一賃金に関する制度においては、パートと有期の方については、まず待遇の違いを許容する判断要素として、1業務内容、2責任の範囲、3人材活用の仕組みが主にあり、 (1) では、それらが正社員と「同一」であれば「同一」の待遇を求めていて、 (2) で、それらが仮に正社員と「異なる」場合でも1〜3を「考慮して不合理であってはならない」という規定を置いています。

 次の○です。上記 (1) のいわゆる「均等待遇規定」に関しては、こちらの対象者数が非常に限られているという点があり、上記 (2) のいわゆる「均衡待遇規定」のほうは、対象者は全てなのですが、実際に1〜3がどういうふうに異なる場合にどういう待遇の差異が合理 / 不合理と判断されるのかという点について、これまで様々な面において十分に解釈が示されてきているとは言えないという点があります。さらに、こちらの均衡待遇規定について行政指導の対象になっていないなど、必ずしも十分に現行制度が機能していない面が否めないということ。

 一番下の○ですが、派遣労働者に関しては、そもそも上記にあったような司法判断の根拠規定がなく、実際はその賃金決定に際して1派遣先労働者との均衡、2同種業務の一般労働者の賃金水準、3派遣労働者の職務内容・成果・意欲・能力・経験等を勘案するという配慮義務がありますが、この履行の在り方が具体化されているとは必ずしも言えない現状にあるという点を整理させていただいております。

3 ページです。 2 番の我が国の正規・非正規間の賃金格差の現状・背景です。 1 つ目の○では、フルタイムの方に対するパートの方の賃金比を見ると、 EU 諸国が 7 割から 9 割ぐらいなのに対して日本は 6 割弱にとどまっています。この数字自体は必ずしも日本で言う「正規」・「非正規」の対比とはなっていないということ、それから、パート労働者の実像が各国によって相当程度異なるという点もありますので、まず解釈に留意は必要であると。しかし、それにしても、やはり我が国における賃金格差が相当程度大きいというのも一方で事実だという御意見を神吉委員、松浦委員、川口委員から頂戴しております。

 次の○です。実際に我が国の正規・非正規間の賃金格差について、企業規模別、また、年齢別に見ていくと、大企業の正社員ほど大きな年功賃金カーブを描くのに対して、非正規のほうは企業規模も年齢も問わずに、基本的にフラットになっており、この差がマクロで見たときの賃金格差につながっているのであろうということです。

 次の○ですが、非正規の方の場合、勤続を重ねることによって経験・能力が蓄積されていっても、実際にそれが賃金に十分反映されていかない面があるのではないかと。この点について引き続き留意しながら検討する必要があると中村委員から頂いております。

 その次の○です。経験の蓄積による能力発揮、生産性の高まりについて、何らかの方法で測って賃金に適切に反映していくというのが重要で大きな課題ではないかと川口委員から頂いております。

 さらにその下の○ですが、こうした年功賃金カーブを代表とする正社員の賃金体系の背景には、新卒一括採用で長期に人材育成を行うという「日本型雇用慣行」の存在がまずあって、その中では S 字型の賃金カーブを設定することがあり、その S 字型の中のある一時点の賃金を瞬間的に切り出して単純比較してよいかどうかというのは、やはり留意を要するのではないかと。一方で、正社員は若いうちにそういった能力発揮に見合わない低い賃金であったとしても、非正規の方がそれよりも更に低い賃金が設定されているという側面も留意しながら、引き続き検討する必要があるのではないかと川口委員と松浦委員から頂いております。

 さらに、一番下の○ですが、給与には様々な要素があるが、その中で正社員特有の長期人材育成・活用と関連した部分がどこなのか、関連しているとしても実際にその差異の大きさが説明可能なのかというのについては、引き続き留意しながら検討する必要があると水町委員から御指摘を頂いております。

 その下の○ですが、現行法制で、待遇の違いを許容する要素として、「人材活用の仕組み」があるわけですが、正規と非正規はそもそも人材活用の仕組みは異なっているのがほとんどのケースですので、どういった待遇についてどういう差異を、これをもって許容していくのかという点は、丁寧に検討する必要があるのではないかと川口委員から頂いております。

 さらに、その下の○ですが、 EU の場合はこういったキャリアコースが異なるという「形式」そのものでは不十分だとされていて、それをもって「実質」がどう異なるのかというものを、給付の目的・性質に照らして判断がされているということが参考になるのではないかという点を水町委員から頂いております。

 その下の○です。実際の企業現場は多様な雇用管理区分があって、それぞれ賃金体系を持っているので、やはり丁寧な議論が必要だということを中村委員から頂いております。さらにその下ですが、同一労働なら同一賃金という規制をしていったときに、正規と非正規を、むしろ職務で切り分けてしまう、労働を分けてしまうということに出ることも考えられるので留意が必要だという点を松浦委員から頂いております。

 その下の 3 番は、日本と EU 諸国の雇用慣行ですが、 1 つ目の○は、日本はまず、賃金が個別企業ごとの決定で、正規と非正規で異なる賃金テーブルだというのが一般的と。その下の○は、 EU 諸国では企業横断的に賃金水準が決定されて、同じ賃金テーブルが雇用形態を問わずに適用される傾向が強いと。

 一方でその下の○ですが。一般に EU は職務給で、日本は職能給であるから同一労働同一賃金は難しいという指摘がなされるが、実際にはその両者が一定程度融合しつつある状況があるという点について、水町委員、川口委員、松浦委員から御指摘を頂いております。

 その下の○です。一方で EU と日本が職務給か職能給かというのは、実はこの問題にとっては余り本質的違いではないのではないかと。より本質的な課題というのは、賃金体系上、正規と非正規に共通したカテゴリー分類や格付けができているのかどうかという点ではないかという御指摘を柳川座長から頂いております。

 さらにその下ですが、日本の場合、やはり正規と非正規で賃金体系に一定程度分断がありますので、その分断を前提に更に検討を進めていく必要があるのではないかと中村委員から御指摘を頂いております。

 さらにその下ですが、労働市場の流動性が高い国は、能力の伸びに見合った賃金設定に関して、一定の市場メカニズムが働くと川口委員から御指摘を頂いておりますが、その下で、日本は労働市場の流動性がないからこそ、制度で公正性を担保していかなければならない側面もあるという点に留意が必要ではないかという御指摘を柳川座長から頂いております。

4 番の今後の検討に向けてです。 1 点目の○ですが、不利益取扱いが合理的なものとして許容される「正当化事由」の詳細な把握というものが重要であるので、今後、 EU の裁判例の把握・分析を進める必要があると。その際には、ドイツやフランスの法律の条文上は、同じ職務でないと不利益取扱い禁止の対象でないように見えるが、判例法理では必ずしもそういった職務同一性が問われずに、給付の目的・性質から見て判断されているケースがあるという点について留意が必要という点を皆川委員より頂いております。

 さらにその下ですが、裁判例はあくまで個別ケースの判断で、直截的に結論を得ることができませんので、今後分析を重ねて、一定の考え方の抽出の作業が必要ではないかという点を川口委員から頂いております。さらに、一番下の○ですが、今後のガイドラインの策定に向けて、企業の賃金実態についてきちんと把握した上で進める必要があるという点を水町委員より頂いております。

6 ページの一番上の○です。 EU においては、どのような賃金制度を採用するかは基本的に労使に委ねられているわけですが、待遇の違いの合理性についてきちんと説明ができるのかという点が裁判を通して問われる枠組みになっているのではないかという点を、水町委員と川口委員から頂いております。

 その下の○ですが、やはり雇用形態に基づく待遇の差異が合理的かどうかという点については、最後まで一定程度グレーゾーンが残らざるを得ませんので、最終的に裁判でないと決着が付かないということなのであれば、結局、今の状況と大きく変わらない可能性があって、やはり各企業で自主的に賃金体系の合理性を問い直していくような契機が必要ではないかと、賃金に対する透明性を高めていくという視点が重要ではないかという点を神吉委員より頂いております。さらに一番下の○ですが、やはり労使の自主的な取組をどう促すかという観点も引き続き検討が必要という点を、こちらも神吉委員より頂いております。以上です。

○柳川座長 これまでの御意見のレビューは、今、御説明があったとおりです。特に今のこれで何かまとめにするとか、これからの議論はこれに沿った形でやるなどということで今まとめていただいたわけではないので、今後、特にこの御意見で縛られるわけではないということ。

 まとめていただいていて、例えば 1 つの項目に複数の委員のお名前が入っていると、自分はこういうことは言っていないなどという多少いろいろ細かいことはあるかと思いますが、あくまでこれは、今まで 2 回の御議論のまとめで、皆さんの今後の御意見の参考にということで考えていただければと思います。

 今後は皆さんからプレゼンテーションを通していただいて、それで議論を深めていけばと考えていますが、その議論を深めていくに際して、現時点で何か追加的な観点などがあれば是非この時点でお伺いしたいと思いますが、いかがでしょうか。あるいは御質問等、何かありましたら御自由に御発言ください。特に現段階ではありませんか。また何か後でお気付きの点があれば、事務局のほうに御連絡いただければと思います。

 それでは、本日は委員の皆様方からのプレゼンテーションの第 1 弾としまして、水町委員のほうから、「同一労働同一賃金原則について」というプレゼンテーションを行っていただくことにしております。なお、水町委員の資料のうち、資料 2-3 については未公表のもので、委員限りの取扱いとしてほしいということが、御本人からの申出としてありましたので、そのようにさせていただきたいと思いますが、よろしいでしょうか。御異議なしということで、資料 2-3 については委員限りの取扱いとさせていただきます。それでは水町委員、よろしくお願いいたします。

○水町委員 ありがとうございます。時間に限りがありますので、ポイントだけ幾つか説明させていただきます。

 基本的には資料 2-1 を使います。「同一労働同一賃金の推進について」です。 1 ページをお開きください。「同一労働同一賃金とは何か」という所です。これまでもう何回も繰り返しお聞きになっているところだと思います。基本的には同一労働であれば同一の賃金を支払うという考え方が、文字どおり同一労働同一賃金の考え方ですが、これを正規・非正規労働者間の待遇格差問題に当てはめる場合、各国の法律で、同一労働の場合には同一の賃金を支払わなければならないという法律規定になっているかというと、そういう形での法律規定を設けている国はありません。ヨーロッパの例で言うと、基本的には、客観的な理由のない不利益取扱いをしてはならないという形で、これが正規・非正規間では法律上、定められています。

 なぜ、同一労働同一賃金ではなくて、客観的に理由のない不利益取扱いの禁止という法律条文になっていて、両者の関係はどういう関係なのかというものを、資料 2-2 Q&A Q1 という所で簡単に説明しています。簡単に言うと、「同一労働同一賃金」というのは確かに大切な原則なのですが、労働者の処遇は必ずしも狭い意味での賃金だけではなくて、賃金以外の処遇、待遇もたくさんあります。賃金以外の待遇で、いわゆる正規と非正規の間で違いが設けられているものもあって、これを賃金だけに絞ってやるのではなくて、賃金以外の処遇も入れますよというので、同一労働同一賃金の「賃金」のところが「処遇一般」ということになるわけです。

 では、前段の「同一労働」というのは常に要件となるかというと、職務内容、労働にリンクした給付については、労働が同じだったら同じだし、労働が違ったら違うということになりますが、必ずしも諸給付の中で、職務内容とリンクしていない、例えば通勤手当です。通勤手当はどんな仕事をしていたとしても、家から会社まで通勤するときに実費がかかるという実費補償という意味では、仕事の内容と直接関連しなくても支給しましょうという、職務内容と関連しないものについては、先ほど皆川委員の意見としてもありましたが、必ずしも同一労働を要件としないで、給付の性質に沿って客観的理由があるかどうかを判断しようというふうになっています。そういう意味で、必ずしも同一労働が要件となっているわけではなくて、今言ったことを 2 つ考え合わせると、客観的理由のない不利益取扱い、待遇格差をしてはならないという、やや広い原則になります。

 では、それと同一労働同一賃金はどういう関係にあるかというと、客観的に理由のない不利益取扱いの禁止の中で、その真ん中に、賃金に関しては、かつ、その職務に関連するような給付としての賃金については同一労働同一賃金というものが、合理的理由のない、客観的理由のない不利益取扱いの禁止という、より大きな風呂敷の中の真ん中に存在している。だけれども、ここでは同一労働同一賃金だけの話ではなくて、もう少し広い話として諸外国では捉えられていて、日本で法的アプローチをする中でも、客観的理由のない、合理的理由のない待遇格差の禁止という、より大きな原則の中で、その中でも大切なものは同一労働同一賃金というのが 1 つの適用局面ですよという理解の中で、今回の議論を進めていくということが大切なのではないかというのは、これまで繰り返し説明させていただいているところです。これが第 1 のポイントです。

 では、これがヨーロッパで具体的にどのように規定されているかというので、資料 2-1 2 3 ページを御覧ください。 EU 指令と、更にフランス、ドイツの法律規定が、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者について定められていますが、これは前回の検討会でも御紹介のあったところですので詳細は省略します。ここで重要なポイントになるのが 3 ページの下の所で、若干形式的なテクニカルな違いはなくはありませんが、基本的には、客観的な理由がない限り、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者といういわゆる非正規労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないという原則が法律上定められている。客観的な理由があれば、賃金等に差を設けるなどの取扱いも認められるという法律規定、法原則として各国の法律で定められています。

 ここで重要なポイントは、パートタイム労働者、有期契約労働者、派遣労働者に基本的には同じルールを当てはめることが大切だということです。なぜかというと、経済学的に言うとパートタイム労働者も有期契約労働者も派遣労働者も、同じような状況にある、代替性のある労働力であるという場合に、ルールに凸凹があると、例えばパートタイム労働者と有期契約労働者には厳しいルールを入れたけれども、派遣労働者については自由に使えるというふうになると、では派遣労働者を増やしてコストを削減しましょうというので、結局、モグラ叩き現象になる。ヨーロッパで規制を進めていく上で、時系列でだんだん充実させていったというのはありますが、その中で、基本的には同じようなルールを当てはめないと、社会全体でバランスの取れた社会的な法規制にならないという認識の下で規制のルール整備が進められているということが言えます。

 こういう考え方、法規定の中で実際上何が一番重要になるかというと、仮に、賃金や処遇に差が設けられている場合に、それを正当化する客観的な理由があれば、それは認められる。では、その「客観的な理由」というものの中身は何かというのが一番大切なポイントになります。

4 ページです。これは各国の裁判例等で、客観的理由等の判断の蓄積がありますが、例えばフランスでは、提供された労働の質の違いや、在職期間 ( 勤続年数 ) の違いや、キャリアコースの違い。ドイツでは、例えば学歴の違いや、取得した資格の違いや、格付けの違いなどが、賃金の違いがあるとしても、それを正当化する客観的な理由となり得ると解釈されています。ただし、ここで注意すべきポイントなのは、ここで書かれていることは全ての事案で一律に当てはまる共通の例外事由というわけではなくて、例えば、この企業のこの給付について、勤続年数の違いは、その差を説明できるものなのかどうか。説明できる場合には客観的、合理的な理由があるものとして適法とされるし、この給付の差はこの勤続年数の違いやキャリアコースの違いで説明できないと、これをきちんと個別に検証してみて説明できなければ、やはり例外として認められないので、同じ賃金にしなさいという、個別・具体的な事案による解釈として、それぞれこういう事由が検証されているということが 1 つ重要なポイントになります。具体的な中身については、この後また御説明します。

 こういうヨーロッパの法律制度の建前から見たときに、日本でこれを導入することが可能か、導入した場合にどういうことになりそうなのかというのが 6 ページです。これまでの議論ではよく、ヨーロッパは職務給で、日本は職能給、単なる職務ではなくて長期的なキャリア展開も加味した賃金制度になっているので、ヨーロッパのような同一労働同一賃金原則の導入は難しいという議論がよくなされてきましたが、今見たように、ヨーロッパでも労働の質や勤続年数やキャリアコースなどの違いが、同一労働同一賃金原則の例外となる要素となり得るということで考慮に入れられている。こういうヨーロッパで考慮されているような多様な事情を日本でも考慮に入れるとすれば、ここで言う同一労働同一賃金原則、あるいは客観的な理由のない不利益取扱い、格差禁止原則というものを導入することも日本で可能なのではないかと。

 日本でそれを導入する場合に、やはり重要になるのが、では客観的な理由や合理的な理由とはどういうものかという、その中身が最も重要なポイントになりますが、法的にはこれは、最終的に個別の事案の中で、裁判所が個別の事案に応じて判断・解釈をする。その裁判所における判断が、社会的に積み重ねられて定着していって、大体こういう場合には合理的な理由になるが、こういう場合には合理的な理由と認められにくいということが、社会的ルールとして判例法理として定着していくというプロセスが必要になってきます。

 では、これを日本で、例えば法律を今変えたとして、これをやるとどれくらいかかるかというと、地裁、高裁、最高裁まで行って、最高裁判決が出るまでに早くても 5 年ぐらいかかるかもしれませんし、それが社会的にケースが重ねられていって、大体こういうところでルールと言えそうだというふうになると、 5 年、 10 年、 15 年かかるかもしれません。そういう時間を待っている時間的な余裕があるかというと、必ずしも今、そういう状況ではなくて、対応が政策的に迫られているところなので、日本でこの原則を導入するに当たっては、法律の整備を行うとともに、ヨーロッパの例などを参考にしながら、「合理的な理由」の中身について、政府としてガイドライン、これはあくまで例示で、こういう場合にはこういうことが考えられるという例を示すことで、ある程度交通整理をした上で、それぞれの企業で賃金制度や、その水準の違い等について考えてもらうことが大切なのではないかということで、この検討会が設けられているということが言えるかもしれません。

 資料 2-2 Q&A の中では、合理的理由の内容はそのガイドラインとしてどのようなものが考えられるかと Q6 の中で示されていますが、フランス、ドイツのこれまでの判例の蓄積や、それに基づいた学説の議論等、そしてそれを日本に持ってくる場合にどういうことが考慮されなければいけないかという点も考え合わせた、これは私の個人的な整理です。更に議論をしていただきたいと思いますが、その比較法的な観点から整理した場合、労働者に提供される様々な給付や処遇は、合理性という観点からすれば大きく 7 つぐらいに分けられるのではないかというところで、ここでは整理しています。

 まず第 1 類型が、職務内容と関連性の高い給付です。一番典型的なものは基本給ですが、基本給だけではなく、職務が例えば過密な職務や難しい職務や専門性の高い職務には職務手当が払われることもありますし、さらには、職務内容に対応して、必要な教育訓練が行われることもある。そういう、職務に関連性の高い給付については、フランスやドイツの例では職務内容だけではなくて、例えば労働の質や職業経験や資格や格付け、学位、勤続年数、採用の緊急性などが合理性を基礎付ける事情となり得ると、これまでの判例の蓄積の中で言われています。例えば、職務内容が違えば基本給を異なるものとすることも合理的と認められるし、職務内容だけではなくてキャリア展開に応じて、日本の職能給に類するような、いわゆるキャリア給という基本給制度を設けていたり、キャリアの部分について特別手当を付しているという制度の場合には、そのキャリアコースの違いが基本給や特別手当の違いを説明できる内容のものであれば、合理性を基礎付ける事情となり得るという判断がなされています。

 では、もし違う場合、例えばフルタイム労働者については、キャリアの展開を考慮したキャリア給を払っていて、有期契約労働者については、その時点での職務内容に照らした職務給をとっている。「そもそも賃金制度が違うので違いますよ」と言ってそれでおしまいになるかというと、そもそも前提が違うので、同じ賃金制度で同じ賃金を払えということにはならないかもしれませんが、そこで出てくる違いが、例えば 10 6 なのか、 10 8 なのかという、その前提状況の違いに応じてバランスのとれた、均衡を失しないものであるということで、均等待遇だけではなくてバランス、均衡待遇が求められるというのが、ここでの 1 つのポイントになってきます。

 ここでは、例えば日本の裁判例で丸子警報器事件などがありますが、厚生労働省で多様な正社員についての懇談会というものが 2014 7 月に報告書を出していますが、そこで例えば多様な正社員の中で、職種や勤務地の限定のある転勤のない正社員と、転勤を含めて限定のないキャリア展開をする人で、どれくらいの賃金差がリーズナブルなものとして認められるかという話をしたときに、正社員が 10 といった場合に、 9 割を超える、差が 1 割以内のときには、多様な正社員制度としての勤務地限定制度がある程度うまく機能しているけれども、差が 2 割を超えると、誰も基本給を 2 割減らしてもいいから勤務地限定にしたいという正社員は出てこないという意味で、余り機能しないというヒアリングの結果を踏まえて、正社員の 8 割超ないし 9 割とする場合が多いという報告書の取りまとめになっています。こういうところを少し考えながら、その前提が違う場合の水準の違いをどう考えていくかという議論もここでは必要になってくるかもしれません。これが第 1 類型です。

 第 2 類型は、勤続期間と結び付いた給付です。退職金・企業年金、昇給・昇格、年休日数などが、勤続期間が長くなれば給付が増える、勤続期間が短い人には給付がないとか、給付が小さいというようなものがあります。こういうものについては、勤続期間の違いが合理性を基礎付ける事情となり得るということです。例えば、一定期間の勤続を要件とする退職金・企業年金、昇給・昇格などが、有期契約労働者で反復更新もないので 1 年や 1 年半しか働いていないという人に、勤続 3 年で支給される給付を支払わなければならないかというと、これは勤続年数の違いなので、勤続期間の短い人に支払わない、若しくは、その勤続期間に応じた低い給付とすることも合理性を欠くものではないというような判断がヨーロッパではなされています。

 ただし、ここで重要なのは、実際の勤続期間の長さなので、日本では、例えばパートタイム労働者であっても、有期契約労働者であっても、反復更新して、実際上は 1 年契約なのだけれども 10 年働いているというような人については、その実際の勤続年数の長さに応じた処遇をすることが、この要請の中でも求められるということになってくることは注意が必要かと思います。これが第 2 類型です。

 第 3 類型が、やや微妙になってきますが、会社への貢献に対して支給される給付、例えばボーナスがあります。日本のボーナスの算定方法としては、例えば冬のボーナスは、 4 月から 9 月末までの半年間でどれくらい企業がもうかって、その企業業績にどれくらい貢献したかという査定等を踏まえて、冬のボーナスの額が決まってきますが、例えばその 4 月から 9 月までの企業業績にフルタイムの正社員だけが貢献しているかというと、パートタイムの人も有期契約の人も派遣労働者も貢献しているかもしれない。その貢献の違いは、合理性を基礎付ける事情となるけれども、逆に言うと、同じように貢献しているのであれば同じように支払いなさいということになる。貢献の度合いに量的な違いがある場合というので、ヨーロッパで実際に判決がありますが、例えば格付けの高い人やカードルという幹部職員はビジネスクラスに乗っていいが、そうでない普通の人たちはエコノミークラスに乗って移動するという、移動手段の快適度の違いが、例えば労働協約や企業の制度として定められていることがあります。これは別に、偉いとか、幹部職員だからという理由だけ、日本で言うと雇用管理区分の違いという形式だけでは正当化されないけれども、そのような人たちは、例えば、より重い仕事をしているとか、緊張度の高い仕事を強いられているので、移動のときにはより快適な移動手段を使うことも、程度の問題として、量的な違いとして合理的なものと説明できるという議論がなされていますので、この辺りの点も、どういう給付については同じにしなければいけないか、どういうものについては、その前提となるものの違いに応じた違いとして認められるかという議論が必要になってきます。

 第 4 類型は、生活保障的な給付で、例えば家族手当や住宅手当ですが、主たる家計の主として扶養家族を扶養している人には家族手当を会社が出しますよと、住宅を賃貸している場合には、その家賃に対する補助を住宅手当として出しますよという制度がある場合に、その給付の支給要件が説明可能、リーズナブルなものであれば、それは合理性を基礎付ける事情となり得ますが、逆にパートタイム労働者でも有期契約労働者でも、同様の基準を満たしていれば、例えばシングルマザーで子供を扶養しながらパートタイム労働者で働いているという人も、その要件を同じように満たしているのであれば、同じように支給しなければいけないのではないかということになります。

 ただしこれについては、そもそも家族手当や住宅手当等を設けていること自体が実質的な性差別という間接差別になる可能性がありますので、これはこれでそちらの観点からきちんと議論して、どこまでが許されるかどうかということを別に議論することも必要になってくるかと思います。

 第 5 類型、これが日本では結構たくさんあるのですが、職務内容がどうかにかかわらず、同じ会社・場所で働いている者として必要な費用や設備、集団的な制度や制度に関わる給付というので、費用・設備・制度等と書いています。費用に当てはまるのが、ここでは通勤手当や出張旅費。集団的な設備に関わるものとしては社員食堂や社内保育施設、休憩室、化粧室です。同じ場所で働いている者に対して必要な制度として、同じ働いている上でリスクを負っているという場合には、安全管理や、健康をチェックするための健康診断を受けてくださいとか、病気になった場合には病気休業の機会を保障しましょうなどという点については、職務内容や契約内容に必ずしもかかわりなく同様の状況に置かれている労働者については同様に給付することが求められるのではないか。これは労働契約法が改正されて、 20 条で不合理な労働条件の禁止の例として、通勤手当や食堂の利用や出張旅費や安全管理については特別の事情がない限り有期契約労働者にも同一の給付をしなさいということが、既に今の現行法の解釈の通達の中でも示されていますので、これは第 5 類型の中に位置付けられるものの例として挙げられるのではないかということです。

 第 6 類型が、労働時間の長さや配置に関わる給付というので、例えば日本で言うと、週 40 時間働いた場合には時間外労働割増手当が出ますよと。パートタイム労働者が例えば週 20 時間の所定労働時間だとした場合に、週 21 時間働いた人が、自分たちにも 1 時間分の割増手当を支払ってくれという裁判を起こしたときにどうなったかというと、それは、週 40 時間を超えて働いたことに対する割増賃金の趣旨の問題だというので、その週 40 時間を超えて働いたことに対して支給される割増賃金が、週 40 時間働くと肉体的にも精神的にも負荷が重いので、その重い負荷に対する補償として割増賃金が支払われているのであれば、それはやはり 40 時間を超えて働いて初めて出されるというので、 20 時間以上の人には同じような理屈で払わなくていいですよということが言われています。そういう例があります。

 他方で、例えば日曜・祝日勤務手当のようなものは、日曜・祝日でみんな休んでいるときに、家族も休みなのに、自分たちは出てこなければいけないという、家族と過ごすプライベートな時間を奪われていることに対する補償で支払われているという性格が強いのではないかと。その判決で問題になったときには、そういう性質の給付なのだというので、例えばフルタイム労働者で日曜・祝日勤務をしている人も、たまたまパートタイム労働者で日曜・祝日だけ働いている人についても、同じように日曜・祝日勤務手当を支払ってくださいという判決が出ています。そういう意味で、同じ時間外労働や休日労働手当についても、どういう趣旨なのかによって、この人たちには同じように払いなさい、この人たちには払わなくていいですよという解釈が個別になされています。

 最後の第 7 類型は雇用保障です。これはかなり難しい問題ではありますが、差し当たりヨーロッパの議論や日本の議論をすれば、単に正規だから解雇は後回し、非正規は先にどんどん切っていいというステレオタイプな議論ではなくて、もう少しブレイクダウンして考えれば、会社との結び付きの度合いとして勤続年数や雇用継続の期待というものがあるかもしれませんし、ヨーロッパでは社会的保護の必要性ということがよく言われていて、被扶養者の数が多い人は社会的により守られるべきだし、就職が困難な属性の人については解雇は後回しにしてくださいというような考慮を含めて、解雇の優先順位を決めるということがなされています。そういう議論が日本でも同じように潜在的にはできる。

 もう 1 つだけ、ここまでは類型ごとですが、結局、個別の判断の中で、労使で話し合ってもらって、それぞれの制度をリーズナブルにしたり、水準が違う場合には、水準の違いについてもバランスの取れたものにしてくださいということをそれぞれ議論してもらって、最終的には裁判所がチェックするということになりますが、そういうシステムの中で、「使用者から関係する労働者全員に事前に給付の内容と支給基準が周知されていることが、その合理性を検証するためにも重要なポイントとなる」というので、何か違いがあるときに、それが客観的に合理性があるかどうかをチェックするときに、きちんと事前に、こういう制度になっていて、こういう給付の内容で、こういう基準を満たしたら支払われるが、基準を満たさなければ支払われないということを関係労働者に周知しておくことによって、より透明性が高く、客観的合理性のチェックができるようなシステムにしてくださいという、その手続的な透明性を高めようという解釈が、判例によって示されています。このように、現場で透明性を高くする形で、客観的合理性をより担保していってくださいということも近年では言われるようになっています。私のほうからは以上です。

○柳川座長 ありがとうございました。ただいまの御説明について、委員の皆様方から御質問、御意見をお伺いできればと思います。

○川口委員 非常によくまとまった発表をありがとうございました。細かいところですが、給料以外の手当で、日本だと住宅手当というのが結構大きいと思うのです。それについて、何か判例みたいなものはあるのでしょうか。

○水町委員 住宅手当については、ドイツで何か判決がありましたね。

○皆川委員 詳細について細かく見たわけではないのですが、あるとは思うのです。

○水町委員 そういう福利厚生給付については、フルタイムやパートタイム、有期・無期に関わりなく、同じ条件であれば同じ基準を満たせば支払いなさいということが、繰り返し言われている。

○川口委員 そういうときに考えられる原則として、例えば労働時間に比例した形で、正社員と非正社員に同様に払いなさいといったことも考えられるかもしれない。

○水町委員 フルタイムとパートタイム労働者については、労働時間に比例して支払うことが、原則としてはリーズナブルなものとして認められているので、例えば同じ条件だとしても 30 万円もらっている人には 3 万円、 15 万円の人には 1 5,000 円の住宅手当を支払いますという取扱いであれば、合理的だとされると思います。

○神吉委員 フランスでの裁判例について、私から 3 つほど質問があります。 1 点目ですが、仕事の質の違いの判断は、裁判官がするのかということです。

2 点目は、こういった訴訟をするときに、労働者は辞めないで在職のまま争うのか、それとも辞めてしまってから争うケースが多いのか、という実態について教えてください。

3 点目は、裁判所が労働者の主張を認めた場合の救済についてです。もし労働者が辞めないで争っているとして、労働条件を変更するという効果を持つ救済は可能なのか、それとも過去に遡った今までの不利益取扱いに対する補償という形を取るのかです。また、救済に関してはもう 1 つあります。現在ある格差が正当化されるか・されないかという二分法だと分かりやすいのですが、格差が存在してもある程度は正当化されることを認めた上で、例えば今は 10 5 だけれども、それは差が開き過ぎだから 10 8 、ないし 10 9 にしなさいという救済が可能なのか。可能だとすればそういう判断をした例があるのかどうかについて教えていただければと思います。

○水町委員 労働の質ですが、最終的には裁判官が判断しますが、この例を見てもらえれば分かるように、労務給付の質の違いが問題になった裁判では、職業的なカテゴリーの格付けは一緒で外形的な仕事は同じにしているので、同じ賃金を支払ってくださいという請求をしたときに、外形的には同じだったとしてもアウトプットの質が違う、成果が違うということを会社側が主張立証する。それに対して裁判官は、使用者側の主張立証は尽くされていないと。外形的に同じ労働でアウトプットが違うのであれば、給付の違いはあるかもしれないけれども、会社側がそれを十分に立証できていないので、結局、賃金の差は客観的な合理的な理由がないので、同じ賃金を支払いなさいという判決が出ている。

 どちら側が何を立証するかという中で、最終的には立証責任が尽くされたかどうかで、結局裁判所が「こちらの立証が尽くされていませんよ」と言う。立証責任といっても、どちらかが一方的に負うのではなく、それぞれ有利なことを立証しなさいということですが、会社側がアウトプットが違うから賃金の差は合理的ですよと強く主張した場合に、それは立証できていませんねということで、会社側が負けるという判決が出ている。

 辞める辞めないについては、一般的な話としてはフランスでも、その会社で勤務を続けながら裁判で争うというのはなかなか難しいと言われています。とはいえ、労働組合に入っていれば辞めないで裁判で闘うこともありますし、日本ほど辞めないと裁判を提起しないというわけではなくて、働きながら裁判をしている例は少なからずあります。

 最終的に法解釈として契約内容まで変える効力があるかどうかという議論は、ドイツでは、きちんとなされていると思いますが、フランスの場合は同じ権利を享受することになっているので、最初から口頭弁論終結時まで全部払いなさい、今働き続けているのであれば、もちろん今後も支給する義務を使用者は負いますということを前提にしながら裁判を起こされ、救済がなされています。

 それと、程度問題ですが、これが難しいところです。例えば 10 6 の差があったときに、その差の 4 を勤続年数の違いで説明できているかというと、フランスの場合、結論はオール・オア・ナッシングです。説明できていないとすれば 10 払いなさいという判決が出ますし、説明できているのであれば 4 の違いは合理的ですよと。しかし日本の場合は、これまでのパート法などの議論の蓄積の中で、均等だけではなく、均衡という考え方が入ってきていますので、例えば 10 6 の中で 1 とか 2 ぐらいの差は、勤続年数やキャリアの幅で説明できるかもしれないけれども、 10 6 は開き過ぎといったときに、 10 10 にしろという判決にするか、丸子警報器のように 10 8 の判決にするかというところは、日本のほうがより柔軟な解釈を行う素地があります。その解釈をしないと、日本の正規・非正規間の大きな処遇格差を柔軟な形で救済して是正していくことは、なかなか難しい。そういうところではフランスと日本で、若干これまでの議論などの違いはあるかと思います。

○柳川座長 そのほかにいかがでしょうか。

○松浦委員 丁寧な御説明を頂きましてありがとうございました。何点か、お伺いしたいことがあります。先ほどお話に出た点を先にお聞きします。フランスの判例はオール・オア・ナッシングということで、不合理だと認められれば賃金水準が 10 10 になり、そうでなかったらそのままということだと理解しました。その後に御説明いただいたように、日本の場合は均衡をどう評価するかということが重要な論点になってくると思います。細かい話ですが、フランス以外でも結構ですので、欧州でオール・オア・ナッシングでない判例があるかどうかをお伺いしたいと思います。

 次に、第 1 の論点として出されているキャリアコースの違いが、日本にフランスの判例を当てはめて考える上で、多分重要な論点になってくると思います。キャリアコースの違いを測るものとして、職務内容や労働の質等いろいろ出していただいていますが、期待される役割のようなものは、キャリアコースの違いを判断する上での要素になっているのですか。例えば、フランスで言うと幹部候補とそうでない人は、最初から期待される役割が違うので、キャリアコースが違うと捉えられるのか、あるいは職務がある程度重なっていれば比較可能性があると判断されて比較が試みられるのか。その辺りについて、もう少し詳しく教えていただきたいと思います。

 また、スライドの資料 2-1 の最後から 2 番目の所です。これは前々から確認したいと思っていたというか、私自身がまだはっきり理解できていないので、是非御意見をお伺いしたいと思ったところです。この中で、「合理的理由について、会社側に説明させる ( =裁判における立証責任の明確化 ) 」という記述があります。言葉の問題として、 2 つお伺いしたいと思います。 1 つは、「合理的でない」ということと「不合理だ」ということは、同じものとして考えていらっしゃるのか、別のものなのか。別のものだとしたら、どういう違いがあるのかという点です。もう 1 つは、「説明」と「立証」です。これらを言葉の意味としてどのように捉えていらっしゃるのかということもさることながら、使用者に頑張って説明しなさいということと、使用者に立証する責任を負いなさいということで、具体的にどういうことが変わってくると考えておられるかをお聞きしたいと思います。

○水町委員 いずれも重要なポイントです。まず、バランスを考慮した柔軟な救済をとる例があるかどうかです。正規・非正規問題で 100 65 100 82 にしなさい、という判決を私は見たことがないです。例として妥当かどうかは分かりませんが、イギリスの男女差別の問題で、同一価値労働同一賃金の職務評価をしたときに、その職務評価に合わせたところまで支払いなさいという救済をした例はあります。これは男女差別の問題と正規・非正規問題が類する問題なのか違うものかというところでも議論があるかもしれませんが、正規・非正規問題については、そこまでした条文や判決はありません。

 それと、キャリアコースの違いですが、日本ほど職能給的な、将来の非常に長いキャリアコースの、漠然とした違いで分けている所は余りないので、日本ほどの議論の蓄積があるかどうかというところは問題があります。ただ、ヨーロッパの最近の例を踏まえた上での解釈で言えば、職務は一緒だけれども、将来に向けてシングルジョブではなくダブルジョブやマルチジョブで、幾つかのジョブを前提に訓練をしていきそうだとか、キャリアコースの幅が広く、今は一緒だけれども、将来違うコースでいろいろ経験しますよ、今はまだ具体的に違ってはいないけれども今後は違いますよという違いについて、どういう手当を支払うか、どういう賃金の差を設けることができるか、これが説明可能かが問われています。

 ですから職務のところまでは同じ土台で、それにプラスアルファとしてこういう違いがある場合には、将来のキャリアコースの違いとして説明可能かどうかということで、説明可能だという判決が出ていますし、格差が余りにも広かったり、使用者側の立証が曖昧なもので、裁判官としてもこれは説明できていないと思ったら、逆に合理的理由はないと判断される可能性はあると思います。

 それと、これは日本の条文の解釈の問題にかかわってくるところですが、「不合理なものであってはならない」というのと、「合理的なものでなければならない」というのが違うかどうかです。これは裏と表の問題で、学説上も議論があります。「不合理なものであってはならない」というところにはグレーゾーンが非常にあって、白黒ではなく、適当にしていても許される、曖昧にしていても許されるという幅が、「不合理なものであってはならない」という言葉の中に込められているという解釈と、「不合理なものであってはならない」ということは、「合理的でなければならない」の裏表の問題なので、言葉の意味としては「不合理な」というのは「合理的でない」と同じ意味だから、そこに言葉の意味としての差はないのではないかという解釈もあって、これは学説上、対立があります。

 最近、立法資料や労働契約法 20 条の解釈通達等を検証してみたところ、「不合理なものであってはならない」という言葉が出てきた経緯から見て、グレーゾーンを広く認めている曖昧な解釈として作られたのではないのではないかという研究もなされており、これは争いのあるところです。日本でも、今の条文のままにしておけば、裁判所でも認めるものと認めないものが出てくるかもしれません。私自身は、そこの間に余りにも大きな差を認めてしまうと結局実態が何も変わらないので、そこをきちんと詰めていかなければいけないと思います。

 実態としての言葉の意味の違いとは別に、立証責任の点では「不合理なものであってはならない」と言うときと、「合理的なものでなければならない」と言うものの差が出てきます。まず、説明と立証というところは、労使関係的に、人事労務管理的に言えば、将来裁判になるかは分からないので、その前提としてきちんと関係者に説明してくださいという意味で、こういう平場の議論で立証責任の話をしてもしょうがないので、説明してくださいと言っておりますが、これは説明して透明性を高めてください、最終的に裁判になったら、その説明をどうしていたかが裁判所の立証責任に反映されるようになりますという意味で、私はこの「説明」という言葉と「立証」という言葉を、そんなに区別して書いてはいません。

 ただ、立証責任の話になると「不合理なものであってはならない」というときには、不合理なものであることを基本的に労働者が主張立証してくださいと。会社側がそれに対して、不合理なものでなくはない、合理的なところがあるということを主張立証して、その両者の主張立証を合わせて裁判官が、「不合理なものであってはならない」という規定に違反しているかどうかを判断すると。これは評価根拠事実と言いますが、法律要件として「不合理なものであってはならない」というところを、不合理なものであると請求する労働者側が評価根拠事実は立証してくださいということになります。

 「合理的なものでなければならない」というときは、合理的なものですよということを会社側が評価根拠事実として立証し、合理的なものではないですということを労働者側が評価障害事実として立証することで、どちらかが評価を根拠付ける条文に違反しているという、まず条文に当てはまっているかどうかを立証する責任が、どちらにあるかというのを明確にするという意味で、立証責任の明確化があります。

 逆に言うと、「不合理なものであってはならない」と言うときに、何をどう立証しなければいけないかというところが、必ずしもはっきりしないので、裁判官もどう評価していいか悩んでいるというのが、今の現状なのです。ここを「合理的なものでなければならない」とか、少し明確にして、合理的な中身であることを会社は人事労務管理上きちんと説明し、裁判になったときには、こういう違いはこういうことで裏付けられますということで説明しました、そういうように考えていますということを、裁判で立証することになるのではないかと思います。

 最終的には裁判になって、立証責任がどちらに主たる軸足を持つかというのは、実はそんなに大きな違いをもたらすものではありません。自分に有利なことを言うことになりますが、ただ、そういう形で条文の文言を変える意味は、会社側はやはりイニシアチブを取って自分たちで制度設計をやっているので、それについての理屈をきちんと説明してくださいということを社会的により強く求める、それが最終的には立証責任の点でも反映されてくるかもしれないという程度の問題だとして、ここで会社側に説明させる=立証責任の明確化という言葉を使っています。

○松浦委員 裁判の中で一生懸命説明した結果として、それが認められるかどうかという話だけであって、そういう意味では、「説明」と「立証」というのはそれほど違いがないと。ただし、「合理的でない」か「不合理である」か、どちらの文言を立証の対象とするかによって、立証の主体が変わってくるという点は、非常に大きな差だという理解でよろしいですね。

○柳川座長 この辺りは、最終的にガイドラインを作るとか作らないという話になってきたときに、多分具体的な文言をどうするかとか、どこまで中身を書き込むかとか、かなり細かいところが問題になってくるかと思いますが、取りあえずはまだそこまでいかない話なので、もしかすると解釈の考え方に関しては、ここに御参加の方にも幅があるかもしれませんが、取りあえず水町先生のはそういうことだと思います。

○中村委員 非常に参考になる資料をありがとうございました。 1 点お聞きしたいのですが、近年、日本の中でも見られる、例えば経営者と通常の社員の給与に著しい差がある、何億円という報酬が妥当なのかというような一般的な意見があると思うのですが、あのタイプの個別雇用契約の中で、非常に高額報酬を得ている役職者と、そうではない一般社員というところの差は、ここの中ではどういう論点として捉えればいいのでしょうか。

○水町委員 ここでは正規労働者と非正規労働者の問題を主たる念頭に置いて考えているので、今の問題を出し始めるとやや混乱してしまうので、余り一緒にしないほうがいいとは思いますが、基本的には例えば役員などになると、もう労働契約ではなくて委任契約になるので、労働者ではない。なので、そこはもう役員報酬として、その分、労働者ではない経営責任を負っているという中で、どういう報酬を支払うかという問題で、でも労働者の部長と労働者の課長、係長と、どういう賃金差があるかというのは、職責の重さで説明できるかどうか。その中で、有期とかパートとかがいた場合に、フルタイムとパートの問題、無期と有期の問題という話にはなるかもしれませんが、ここでの議論とは少し性質が違う問題になってくると思います。

○中村委員 それで、今回、念頭に入れている範囲というのは、基本的には労働契約を締結している人たちの間における賃金の差についての議論に焦点を当てているという理解で合っていますか。

○水町委員 私が前提として理解しているのは、パートタイム労働者という意味ではフルタイムの人と短時間労働者の間の差であり、無期契約労働者と有期契約労働者の差であり、直接雇用と派遣労働者の差であり、更に日本では場合によっては、フルタイムで無期契約で直接雇用だけど、いわゆる非正規として言われている、昔の呼称パートみたいな、いわゆる非正規問題もあるので、その辺をどう射程に入れるか、入れながらの議論であるけれども、役員報酬と非役員の報酬の差というのはダイレクトにここの中に入ってこないかなと思います。

○皆川委員 大変分かりやすいプレゼンテーション、いつもながらなのですが、どうもありがとうございました。本日プレゼンテーションの内容と合わせてということで、少し先走った質問になってしまうかもしれなくて恐縮なのですが、先ほど解決の方法というか、救済方法のところで、例えばヨーロッパはオール・オア・ナッシングの解決でという話がありました。私もドイツのことなどを調べていますと、ドイツでも水町先生が御指摘のように、合理的か合理的でないかというところで、解決は基本的にはオール・オア・ナッシングですね。翻って日本の今後ということを考えますと、例えば今日も議論の中で出てきましたように、 10 5 のところを 10 10 に上げるという、 10 10 か、 10 5 のままかという解決の仕方と、例えば基本給などの違いを埋め合わせるというときに、 8 割ぐらいまでのところでだったら妥当ではないかという解決方法もあり得ると思うのですが、水町先生のお考えとして、例えばヨーロッパなどから得られる示唆を得た上でということになるのですが、その中間的な一種の解決方法を日本でとったほうがいいというようにお考えなのか、あるいはとるとしたらどういう方策があるかというところについて、お考えがあればちょっとお聞かせいただければというのが私からの質問です。

○水町委員 簡単に言うと、ヨーロッパの実態と日本の正規・非正規間の実態の差を考えると、オール・オア・ナッシングだけでは効果的な格差の是正ができないので、柔軟な救済を認めたほうがいいと思いますし、丸子警報器事件判決の考え方からすれば、不法行為の損害賠償的な考え方で、この差のうち、ここら辺までは違法と評価されるけれども、ここら辺ぐらいまでは一種の裁量として適法なものと認められますよという発想の中で、どのぐらいバランスをとるのか。その中で、会社側がこの差はリーズナブルですよというように説明してきたところの納得性がどのぐらい得られるのかを最終的に裁判官が判断して、ここまでは○だけれども、ここからは難しいよねという判断を個別にしていくという発想が日本では大切になるのではないかと思います。

○皆川委員 ちょっと細かい話になってしまいますが、その場合、不法行為法制による損害賠償請求のような形で認めるというのがオーソドックスというか、柔軟な解決を導くには妥当ということになりますかね。

○水町委員 そうですね。労働契約法 20 条も、直截な解決手段としては不法行為損害賠償請求ですし、就業規則等の規定がそのままダイレクトに適用されるというのであれば、 10 割の内容の契約が適用されるという契約の解釈でやるということになりますが、程度問題については契約の解釈はなかなか難しいので、不法行為的な救済ということになると思います。

○皆川委員 ドイツの場合は、先ほどの神吉先生からの御質問があったように、救済方法をどうするかというところで、ドイツは割切りが付いているというところで、合理的な理由のない不利益取扱いをしているというように判断されれば、その取決めというか、賃金合意は無効になって、その賃金合意が無効になった場合には、比較可能なフルタイム労働者なり有期労働者と同額の賃金ないし同じような金銭的な対価の報酬を得ることができるというように、そもそもパートタイム労働法に書かれているということがあります。

 また、仮にそうした規定がなかったとしても、まだドイツの場合は明確な賃金合意そのものが何らかの強行規定なり、法に違反して無効となった場合には、通常の賃金を合意したものとみなすという規定が民法典にありますので、それによって通常の賃金の合意があったというようにみなされると。要するに契約上、そうしたものと合意した、あったという形で解決がなされるので、先ほどの神吉先生の御質問を合わせると、ドイツなどの場合だと、契約上、根拠付けられるという解決になるのですね。

 こうなると、良い面もあるのですが、先ほど議論がありましたように、これだとオール・オア・ナッシングになってしまいますので、合理性がない、無効 100 %ということになってしまいますので、将来的に規定をどうするかという問題まで難しいとは思いますが、解決救済方法としてはどうするかということも考えていく必要があるのかなと、水町先生のお話を伺っていて興味深く拝見しましたので、どうもありがとうございました。

○神吉委員 今の点に関して、ヨーロッパでは基本的にオール・オア・ナッシングの救済であるとすると、ヨーロッパの事例から抽出してガイドラインを作ろうとした場合に、日本の議論で焦点になっているところの、バランスに関するものを抜き出すことはできないということではないかと思います。とすれば、そこでは何か日本独自の例を出していく必要があるのではないか。資料 2-2 7 類型で整理されているところなので、1の一番中核的な部分で、「バランスのとれたものであることも求められる」とあるのですが、ここをどうやって詰めていくかだと思います。

 裁判官にしても、オール・オア・ナッシング以外の例が存在しないとなると、ガイドラインから何を読み取って、どの辺に落としどころを求めていくのかということは非常に難しくなってくる。丸子警報器以外に類似した例がないことからしても、ハードルの高さを示しているのではないでしょうか。まず、裁判で争う場面を想定するところからして、先ほどフランスでさえ、組合のバックアップがない所では辞めずにずっと争うこと自体難しいというお話がありました。日本の場合は組合は更に弱いですし、労働者にとって訴訟を起こすということ自体、よりハードルが高いと思います。

 バランスの問題に戻りまして、イギリスの例でオール・オア・ナッシングではなくて、何割かというような判断がなされるときは、パートの場合だとあり得ます。大体、 pro rata で、所定労働時間の違いなどで比例的に見ていくことになります。

 ただ、それが日本に持ってこられるかというところで、 1 つ大きなポイントがあります。イギリスなどの場合ですと、フルタイムはフルタイムで、きちんと働いています。何が言いたいかというと、日本の場合は、フルタイム労働者というのはフルタイムではなくオーバータイムで働けることを意味しているので、フルとパートの所定労働時間の比較にあまり意味がないという違いがあります。そこをどう評価するかについて、前回、中村委員から非常に重要な指摘を頂きました。正社員と限定正社員で見たときに、限定正社員というだけで賃金カーブがフラットに近くなってくるということがおっしゃられていました。それは、日本では勤務場所や勤務時間が無限定であることについて、非常にプレミアムが付いている証左だと思うのです。

 ですので、 pro rata で見ていこう、比例原則で見ていこうといっても、所定労働時間が 8 時間と 6 時間だから 4 3 などと割り切れるかというとそうではなくて、片方が無限定であれば数字の比に置き換えることすら難しい状況が前提になります。こういった状況をどうやって明示的な形でガイドラインにしていくかに留意が必要だと思っているところです。

○水町委員 正に日本だと、多様な正社員の中でも議論があったのですが、無限定な正社員に曖昧なプレミアムが付いているというところを、どう整理していって説明していくかによって、無限定な働き方をどう変えていくかとか、賃金制度をどうリーズナブルにしていくかというところが重要なポイントになってきます。大切なところは 2 つで、人事労務管理の現場の中で、どう賃金制度をこれから工夫しながら整理していくかという中で、限定がある、なしでどのぐらいのプレミアムを具体的に数字として付けていけば、従業員の間で限定が付いている人でも、付いていない人でも、両方とも納得を得るような賃金水準になっているかという議論を人事労務管理、賃金制度の中でやっていくことが必要になってきます。

 それをやっている、やっていないというところの中で、最終的に裁判になったら、裁判官がどのように判断するかというところの中で、オール・オア・ナッシングの解決がいいのか、 100 60 で説明できていないから 100 払えという判決を書いたほうがいいのか、それとも部分的に説明可能で、部分的に説明できないところでは 80 にしますよという考え方がいいのか。日本の裁判官は、最終的には慰謝料で柔軟に救済をするということを、ほかのケースでたくさんやってきているのです。最初から丼勘定するというのは良くないので、人事労務管理できちんと制度設計をして説明するという中で、どこまでやっていったか、やってこなかったかというところの中で、事案に応じた救済をすることを裁判官が最終的に判断するということは重要なポイントになってきますし、それをやらないと逆に硬直的で、余りにも変な救済になってしまうか、余りにも使えないものになってしまうと思います。そういう意味で、慎重な対応は必要だし、人事労務管理でこういうことは前提としてやってくださいという含意も含めたガイドラインにするということが大切なのではないかと思います。

○柳川座長 今御指摘があった点は、多分すごく重要なところで、これから我々が議論していく中で、日本的なものをどうやってうまく取り入れてガイドラインに入れていくかということで、恐らく最後のほうまでかなり議論になるポイントだと思いますし、その裏側で今御指摘のあったような労務管理そのものの在り方みたいなことに、どれだけどう提言をしていくかとか、メッセージを発していくかという辺りも重要な御指摘になってくるのだと思うのです。今日は水町先生にプレゼンをしていただいて、皆さんが意見を出しているので、もちろんここで答えを全部出す必要はないのですが、幾つかこういうポイントを考えていかなければいけなくて、最後の最後は考えていかなければいけないねというので終わってはいけないという、我々は答えを出さなければいけない時点が来ますので、是非皆さん少しずつ考え続けていただければというポイントの 1 つなのだろうと思います。

○川口委員 今、神吉委員から職責みたいなものが違うということが正社員と非正社員の間であるという話があって、非常に重要な指摘だと思いました。判例などを整理していくときに、軸として労働の質の話がまずあって、それは生産性ともある種言い換えられると思うのです。あとは松浦委員からも御指摘があったキャリアコースの違い、それは水町委員も重要性を認めていらっしゃるところなのですが、キャリアコースの違いがあると。

 もう 1 つあるのは、いわゆる補償賃金格差と呼ばれるもので、労働環境の違いですよね。例えばファーストフードのアルバイトでも、深夜労働は時給が高いということがありますので、労働環境が違えば賃金が当然変わってくると。ですので、この点は原理原則を考えるときに落としてはいけない視点で、その視点を入れたときに、突発的に発生する業務に対して残業等で対応しなければいけない責任があるものとそうでないものといったような違いが出てくるのかと思います。そういう責務をどのように判断するか、それが何割の違いまで認められるのかという、先ほど転勤に関しては 8 9 割みたいな調査があるというお話がありましたが、この辺はかなり難しい論点かということで、最後に裁判所に任せるとなったときに、裁判官がどのように評価していいのかというのは非常に困ることになるのではないかという印象があるので、ある程度幅広に認めていくということも必要なのではないかとも思いました。

 松浦委員から御指摘があったキャリアコースについてなのですが、これはやはり大きな違いをもたらしているのは事実で、賃金に関してもそうですし、それ以外の部分でも訓練の機会は正社員と非正社員の間で大きな格差があるということが、能力開発基本調査などでも明らかになっており、そのことが後々に格差などにつながってくると。将来期待される役割が違うということを考えると、どうしても時間軸が入ってくるわけです。時間軸が入ってくると難しい論点になってくるのは、事前と事後の違いが出てくると。事前の意味では、幹部社員になることが期待されて入っているのだけれども、事後的に見るとみんなが幹部社員になるわけではないので、事後的に見てみると、いわゆる幹部社員になることが期待されて入っている人と、そうではなくて入ってきた方が、同じパフォーマンスだったりすることもあるのですよね。そうすると、日本の雇用管理の実態みたいなものを考えると、恐らく企業は、事前の意味での期待というのが違うキャリアコースの人が 2 人いるのですと、それによって訓練機会の有無などに差があるのですといったような論理を展開してくる。別にこれは詭弁でも何でもなくて、実態がそうだからだと思うのですが、恐らく事前と事後の違いということも含めたところで、事前の意味での差があるといったことを許容するようなところも含めていかないと、実効的なある程度現実を踏まえたガイドラインにはならないのではないかと思いました。もしも何かコメントなどありましたらお願いします。

○水町委員 今言ったことは、正にヨーロッパでもほぼ全て議論されていることで、それがどこに対応するかがヨーロッパは分かりやすいので救済ができるということになっていますが、日本はまるっきり正社員賃金とその他賃金に分かれていて、どこがどこに当てはまるかの説明もこれまでちゃんとしてきていないし、それについて救済もしようがないという話になってきたように思います。今言ったことは非常に大切なことなので、それをまず整理して説明するのは会社です。賃金制度をどう設定して、生産性に対応している部分はこの部分で、将来への期待に対してはこういうことを上にプレミアとして付けていって、補償賃金で正規でも非正規でも、苛酷なハードな仕事をしている分にはこの保障を与えますよというのを少し整理して、このように整理できますよと。これはパートタイムの人にも、有期の人にも、正社員の人にも、全部、納得を得られるように説明しますよとまず言ってもらって説明すれば、それでもう第 1 段階はクリアです。そこをまずやるような方向性で、きちんと議論を整理して、それをきちんとやっていなかったり、やったとしても内容がちょっとこれは不合理だよねと思われたら、最終的に裁判官が救済の手を差し伸べるかもしれないけれども、全て最初から裁判官が白黒を付けろという話ではないので、人事管理の方向性として、今言ったようなことをきちんとやってもらわないと、今ある正規と非正規のひずみで、正規も非正規も苦しんでいるという状況が直らないのではないかという問題提起だと思っていただければと思います。

○柳川座長 私もせっかく素晴らしいプレゼンテーションをお伺いしたので、ちょっとだけ感想と質問をしたいのです。 1 つは今お話があったように、水町さんの今の案みたいなことは、前提として、ある種、今、正にお話があった報酬というか、受け取っている金額をかなり合理的な形で、なぜこの金額を払っているのかと分解して、きちっと従業員の人たち、それは正規・非正規、全ての人たちに対して分解して提示していくということが必要で、それを前提にいろいろなものが評価されるということが、むしろそっちが狙いだと言ってもいいぐらいのポイントなのだろうと思っていて、私はそのとおりだと思うのですが、これはそれを全ての会社の方にやってもらうというのは、なかなかハードルが高い話ではあるので、恐らくガイドラインなどを考えていくときにはそういうことができるという前提でガイドラインを書くのか、あるいはそういうことをしてくださいということをくっつけてガイドラインを書くのか、あるいはそういうことはほとんどの会社でできないかもねというのを前提にガイドラインを書くのか、その辺りのところでガイドラインの書きぶりが変わってくると思うので、最後少しその辺りのところは詰めるというか、決断しなければいけないポイントなのだろうというのが感想です。

 本当にそもそもの質問を 2 つさせていただきたいのですが、なぜフランスなのか、なぜヨーロッパなのかということで、今御議論があったように、そのまま日本で使えないから、日本で使うガイドラインはカスタマイズしていかなければいけないという議論は今まであったのですが、そのベースの基本の取っ掛かりのところで、フランスとかヨーロッパのルールを使うということは、どういう形で正当化されるのか。例えばですが、極端な話、フランスだとかヨーロッパの労働市場、あるいは労働経済環境などを考えたときに、そこの失業率とか、そういうものを評価したときに、フランスの労働市場はすごくうまくいっている、だから、こういうルールを入れようという話だと、とても説得力があるのだと思うのですが、ここを日本流にカスタマイズしていくにしても、ベースをここに置くことの合理性みたいなことは、これからこういうことを考えていく上では、フランスを使うにしても、ドイツを使うにしても、イギリスを使うにしても、あるいはほかの国を使うにしても、何か必要になってくる気がするので、水町先生としてフランスをベースにということのそういう意味での合理性はどのようにお考えなのかということをお伺いしたいのが 1 点目です。

2 点目は、説明ができるとか立証ができるということが、こういうルールを作っているときの大きなポイントになるというお話があったのですが、前回までのお話のところで松浦委員のほうからお話がちょっとあったように、結果として職務を分けてしまうようなことが起きないかという話で、極端なことを言うと、ルールはちゃんとできるのですが、説明できる形になって、逆に格差が大きくなるようなことが起きないかというのは、実態として考えなければいけない。今の非正規は、同じような仕事をしているから、ここは同じだから非正規を上げなければいけないというように作ったはずなのが、それだったら全然別の仕事ですということにして、別の仕事に今まで非正規だった人を就けてしまって、その人たちは別の仕事だから、逆に給料は半分です、あるいは 4 割ですということでも、これは合理的だと言われてしまったら、もともと考えていた話と随分結果が違うと思うので、この種のことはどういう形で防ぐことをお考えかというのをちょっとお伺いしたい。

○水町委員 まず、第 1 点のところは、すごく大雑把な議論で言うと、アメリカ型なのか、フランス、ドイツを中心にするヨーロッパ大陸型なのか、イギリスはその真ん中ぐらいで、アメリカにちょっと近いかもしれませんが、アメリカ型かフランス、ドイツを中心とするヨーロッパ大陸型かと言ったときに、正規・非正規問題に対する社会的なアプローチの仕方が全然違うと。アメリカは正規・非正規問題があるといっても、正規自体が労働市場とリンクしながら、賃金とか処遇が決まっていて、解雇規制も原則としてなくて、解雇自由なので、いわゆるフルタイムで直接雇用で無期契約の人でも、いつ解雇されるか分からないし、労働法上の保護も無期契約だからより強いというわけではなくて、むしろ有期契約のほうが労働法上の保護が強かったり、そういう意味で市場で、いわゆる日本でいう正規と非正規の間の調整がついている。

 ヨーロッパは伝統的に労働協約による規制であったり、法律による規制も加味して、無期契約労働者でありフルタイム労働者を社会の中心として社会的モデルが作られてきたという事実があって、それで 1970 年代、 1980 年代から、いわゆるパートタイムとか有期、派遣の人が出てきたときに、その中核的な社会的保護が及んでいないというので、正規・非正規問題が出てきたのです。いわゆる正規の人に社会的保護が及んでいるという制度が前提としてできている国では、正規・非正規問題が出てきて対応しなければいけないという意味で、フランス、ドイツは 1980 年代以降、それを一生懸命努力してやってきた。

 日本はどちらかというと、正規が中心に日本的雇用システムができてきて、それで正規・非正規のひずみが出ているときには、制度的にヒントになるのはヨーロッパ大陸だし、アメリカみたいに全部、正規も非正規も解雇して市場で調整しろという選択ができるかというと、今の時点で労働市場の構造としても政策的にもアメリカ型をとるというのは、必ずしも賢明な選択ではないと思いますので、今はヨーロッパ大陸型の制度を念頭に置きながら、正規・非正規問題をどう解消していくかという議論を行っているというのが比較法的な観点からの説明です。

○柳川座長 規制や仕組みが日本に比較的似ているからという点は、確かにおっしゃるとおりだと思います。そのときに、そのヨーロッパのルールの作られ方、フランスのルールの作られ方が、実はこれはまずいルールなのではないか、うまくいっていないルールなのではないかという批判が出てきたときに、うまくいっていないルールを基本にしてはいけないのではないかという反論に対して、どのようにディフェンスされるか。

○水町委員 全体として硬直的なルールを作って、現場で実態と法律の乖離があるような制度を作ると、現場でうまく回らなくて、インフォーマルなところに増えていったり、全体としての労働市場の需給調整ができなくて、失業率が増えるということになりかねませんので、ヨーロッパの制度を参考にして、日本で法制度設計をする上では、硬直的なものであってはならないということで、それはこれまでの労働法改革の中でも、フランス、ドイツを参考にしながらも、入れるときにはある程度柔軟性をもたせたり、現場と親和的なルール設計をしなければいけない。今回は合理的理由のない格差の禁止というものであれば、その合理性の中身で、現場と親和的なものをどう作っていくのかが鍵になってくると思いますので、逆に言うと余り硬直的なもので、正規の問題も非正規の問題も、生産性を阻害するような結論になるような制度設計にはしないという意味での教訓は、間接的には得られると思います。

○柳川座長 念のためですが、決してフランスを基本にするのを反対しているわけではなくて、こういうことをこれから検討会で出していく上では、考えられる反論に対しては何かディフェンスを考えておかないと我々は強く言えないので、その 1 つをぶつけてみましたということで、お考えいただけた。 2 番目はどうですか。

○水町委員 職務分離は、正に硬直的な意味での同一労働同一賃金を形式的に要求すると、職務を分離して賃金を別にしていいですよねというようになってしまうので、そういう意味では硬直的な同一労働同一賃金原則を導入するということは注意しなければいけないというのはそのとおりだと思います。

 それを考えながら、では、どのようなバランスのいい制度設計をするかというときに、気を付けているのが 2 つで、 1 つは給付ごとに丁寧に見ましょうと。職務に対応している所は職務を勘案しながら救済の内容を考えるし、職務に関連していなければ、別に職務が違っても、ちゃんと同じように制度を適用しますよというところで、単に職務だけ判断しているというわけではないというのが 1 つです。

 そして、本丸の職務に関連しているような基本給については、硬直的に○か×かだけではなくて、バランスをとるというような視点を入れていくことによって、実態に応じた救済を可能にする。そういうことで、無理に職務分離をするほうが、逆に現場で硬直的な運用になってしまうので、法の制度設計自体を柔軟なもので丁寧なものにしていくことによって、現場で変なことをしても利益にならないというような内容にするという観点から、今日お話しした内容は組み立てています。

○柳川座長 そうすると、やはり先ほどのバランスのところをどう作るかというのが結構ポイントになると思います。

 そのほかいかがでしょうか。私が大分話してしまって申し訳なかったですが、もし御意見等おありでしたらどうぞ。

○松浦委員 先ほどオール・オア・ナッシングではない救済方法として、不法行為の損害賠償請求というのが 1 つの選択肢になるだろうというお話がありました。神吉委員が「辞めて訴訟するのですか、辞めないで訴訟するのですか」とおっしゃっていたことにも関連するのですが、不法行為の損害賠償は一時金として支払われるということですよね。その後、その人が企業の中でどこに戻るかということについてはどうなるのでしょう。つまり、例えばオール・オア・ナッシングのフランスであれば、 10 10 だという判決が出たときに、 10 のポジションに戻せというところまで求められるものなのか、訴訟の後はどうなるのかという点が気にかかりました。

○水町委員 基本的には法律上よほど細工をしないと、人事権に介入するような救済はできないので、課長にしなさい、この職務に付けなさいという判決はなかなか出ないのですが、このままの状態で放置しておけば、不法行為が継続するので、損害の賠償を支払い続けなければいけない。少なくともこの判決では、この時点まで損害賠償しなさいと。このまま放置しておけば、また同じように訴えられたら損害賠償を払い続けるようになりますよという制度設計で法的救済を図っているというのが一般的な考え方だと思います。

○松浦委員 その後のことは、企業が判断しなさいということになっているということですね。

○水町委員 はい。

○松浦委員 ありがとうございます。

○柳川座長 今日は 1 時間半の予定で皆さんの時間を頂戴していますので、ちょっと過ぎてしまいましたが、これで水町先生のプレゼンとか御議論を聞けないというわけではないので、次回以降も適宜、御質問等ありましたら追加していただければと思います。よろしければ次回ということで、事務局から次回以降の進め方についての御説明をお願いいたします。

○河村人材サービス推進室長 次回は 5 24 日を予定しており、日本企業の賃金実態について、事務局のほうで調べた結果の資料の提出と、水町先生に引き続いて、ほかの先生方からもプレゼンをお願いしたいと思っておりますので、個別にまた相談をさせていただきます。

○柳川座長 それでは、これをもちまして、本日の検討会は終了いたします。お忙しい中、どうもありがとうございました。


(了)

ホーム > 政策について > 審議会・研究会等 > 職業安定局が実施する検討会等 > 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 > 第3回 同一労働同一賃金の実現に向けた検討会(2016年4月22日)

ページの先頭へ戻る