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2016年1月25日 第1回組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会

○日時

平成28年1月25日(月) 9:00~11:00


○場所

厚生労働省 共用第8会議室(19階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○議題

(1)座長の選出について
(2)組織の変動に伴う労働関係の現状等について
(3)講ずべき方策に関する検討項目について
(4)今後の進め方について
(5)その他

○議事

○労働政策担当参事官室室長補佐 ただいまから、第1回「組織の変動に伴う労働関係に関する対応方策検討会」を開催いたします。

 皆様、大変御多忙な中、お集まりいただきありがとうございます。座長が選出されるまでの間、事務局で司会を務めさせていただきますので、よろしくお願いいたします。

 はじめに、本検討会の開催に先立ち、政策統括官の安藤より御挨拶を申し上げます。

○政策統括官(労働担当) 皆様、おはようございます。委員の皆様方におかれましては大変お忙しい中、この検討会にお集まりいただきましてありがとうございます。また、今回委員をお引受けいただきましたことにつきまして、改めてお礼を申し上げます。

 これまで、会社分割や事業譲渡といった組織の変動に伴う労働関係の在り方につきましては、平成12年の商法改正による会社分割制度の創設に併せ、労働契約承継法を制定するといった対応がなされてきたところでございます。その後、近年の状況の変化などを踏まえまして、一昨年の平成2612月から、学識経験者の皆様にお集まりを頂いて研究会を設置いたしまして、専門的な見地からの調査検討を行って諸課題を検討するとともに、新たな対応を更に行う必要性についての検討を行いました。これを進めた上で昨年11月、報告書を取りまとめていただいたところでございます。

 本日お集まりいただいたこの検討会につきましては、先の研究会の報告書も踏まえた上で、今後、具体的かつ実効ある対応方策を議論・検討いただくことを目的といたしまして、学識経験者の皆様に加え、労使関係者の方々にも合わせて御参集いただいた上で設置したものです。委員の皆様方におかれましては、それぞれのお立場からの忌憚のない御意見を頂くとともに、精力的な御議論を賜れれば幸いでございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

○労働政策担当参事官室室長補佐 本日は第1回ですので、出席者を御紹介いたします。資料1、開催要綱の裏面に構成員名簿がありますので、順に御紹介させていただきます。東京大学大学院法学政治学研究科教授の荒木委員です。横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授の石崎委員です。東洋大学法学部教授の鎌田委員です。JAMオルガナイザー育成推進室長の狩谷委員です。日本経済団体連合会労働法制本部統括主幹の鈴木委員です。住友商事株式会社人事厚生部課長労務チームサブリーダーの田坂委員です。京都大学の久本委員は、西日本の雪の影響により新幹線が遅延しているということで、1時間程度遅れる見込みです。到着され次第、追って御紹介させていただければと思います。次に、日本労働組合総連合会総合労働局長の村上委員です。

 続いて、事務局の紹介をいたします。政策統括官の安藤です。労政担当参事官の青山です。私は、本日司会を務めております新堀です。よろしくお願いいたします。

 次に、本検討会の開催要綱を御説明申し上げます。資料1の表面を御覧ください。1の「趣旨」については、政策統括官からお話申し上げたとおりです。2の「検討事項」については、()「会社分割及び事業譲渡に伴う労働関係に関する対応方策」、()「その他組織の変動に伴う労働関係に関すること」となっております。3の「構成員」については、先ほど御紹介したとおりです。検討会の座長は構成員の互選により選出いたします。また、座長は、必要に応じ意見を聴取するために、関係者を招へいすることができることといたします。4の「検討会の運営」は、厚生労働省政策統括官が、学識経験者及び労使関係者の参集を求めて開催いたします。検討会の庶務は、厚生労働省労政担当参事官室において行います。検討会の議事は、原則として公開といたします。

 それでは早速、開催要綱に従い、座長の選任に入ります。事務局の案としては、鎌田委員に座長をお願いしたいと考えておりますが、皆様、いかがでしょうか。

                                     ( 了承)

○労働政策担当参事官室室長補佐 御了承いただいたということで、本検討会の座長を鎌田委員にお願いしたいと思います。

                           ( 鎌田委員、座長席へ移動)

○鎌田座長 鎌田でございます。よろしくお願いいたします。皆様の活発な御意見を頂けるように、進行に留意してまいりたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 それでは、早速議事に入りたいと思います。まず、議事2の「組織の変動に伴う労働関係の現状等について」ということで、事務局から御説明をお願いいたします。

○労働政策担当参事官室室長補佐 資料2をお手元に御用意ください。まず、企業の「組織の変動に伴う労働関係について」ということで、組織変動の類型について御説明いたします。企業の組織変動には、会社分割、事業譲渡、合併などの類型があります。これらに対して厚生労働省としては、次のとおり対応を行ってきました。

 まず会社分割ですが、平成12年の商法改正により創設された会社分割制度に対しては、労働契約の承継等を含めた労働者の保護に関する立法措置として、「労働契約承継法」を制定しております。詳細は後ほど御説明いたします。

 事業譲渡については、労働契約等の権利義務は個別に承継され、その際には労働者の個別同意が必要であることなどから、立法措置による対応は講じておりません。その一方で通知を発出し、事業譲渡などの際に労働契約の承継や解雇などの取扱いに関する留意事項の周知を行っております。

 合併については、労働契約等の権利義務は包括的に承継され、労働者に不利益が生じることはほとんど想定されないことから、立法措置による対応は講じておりません。その一方で、事業譲渡の際にもお話した通知の中において、合併時における労働契約の承継の取扱いについても、留意事項を記載して周知を行っております。

 なお、1ページの下の図に、組織変動の類型のイメージを記載しております。2ページの説明の際に適宜、御参照いただければと思います。

 それでは、2ページに移ります。組織変動に対するこれまでの対応について御説明いたしましたが、次に各類型の特徴を御説明いたします。まず一番左側の会社分割についてです。会社分割は会社法にその定義があり、他の会社に事業に関して有する権利義務の全部又は一部を承継させる吸収分割と、分割により新たに設立する会社に、事業に関して有する権利義務の全部又は一部を承継させる新設分割という2つの類型があります。いずれについてもその効果は、分割会社と承継会社が締結した分割契約、新設分割の場合は分割計画に従って、「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」が包括的に承継されます。これは労働契約の移転について、労働者の個別の同意なく包括的に承継されることになります。

 下の段です。労働者の同意なく包括的に承継される場合には、労働者の意思とは無関係に承継されてしまうと、労働者に与える影響が大きいということで、労働契約承継法を制定し、承継される事業に主として従事しているにもかかわらず承継されない労働者については、異議申出権を付与するという包括承継の修正を行っています。また、承継される事業に主として従事していないにもかかわらず承継されてしまう労働者にも、異議申出権を認めています。

 次に、事業譲渡です。会社法上、明確な定義はありませんが、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」については、原則として株主総会の特別決議を要するとされております。その効果ですが、譲渡会社と譲受会社間の合意により、譲渡会社の権利義務を個別に特定して承継されます。その下の欄ですが、労働契約の承継の際には民法625条第1項の規定により、労働者の同意を得た上で個別に特定し、権利義務が承継されることになっております。

 次に合併についてです。会社法上にその定義があり、吸収合併、新設合併の2つの類型があります。その効果としては、合併により消滅する会社の「権利義務の全部」を包括承継するという効果をもたらします。なお、先ほどの会社分割についてもその効果は包括承継ですが、合併のように会社が消滅せず、権利義務の一部を残すことが可能であるため、通常の包括承継とは区別して「部分的包括承継」と呼ばれております。その下の欄にありますように、合併は包括承継ですので、労働者の同意は不要とされております。

 3ページが「組織の変動と労働関係に係るこれまでの経緯」です。まず1つ目の四角です。生産性向上に向けた再編や設備投資など、第145回通常国会にかかった、企業の前向きな取組を支援する産業活力再生特別措置法案の国会での審議の際に、衆参ともに附帯決議が付きました。点線の枠の中にありますように、「労使の意見等も踏まえつつ、企業の組織変更に伴う労働関係上の問題への対応について、法的措置も含め検討を行うこと」とされております。また、その下の○にありますように、経済的に危機に陥っている債務者の事業又は経済生活の再生を目的とする、第146回臨時国会にかかった民事再生法案の国会での審議においても、「企業組織の再編に伴う労働関係上の問題への対応について、法的措置を含め検討を行うこと」とする附帯決議が、衆参ともになされております。

 矢印があり、その下の四角です。これらのほかに当時、次期通常国会に商法の改正法案が提出されるといった状況とか、附帯決議の内容なども踏まえて、菅野先生を座長とした企業組織変更に係る労働関係法制等研究会を設置し、平成1112月から翌年2月まで、計4回にわたって専門的見地から検討を行っていただいております。その際の報告の要点です。企業組織再編時の労働契約の承継等について、○1合併については、立法措置は不要、営業譲渡時については、現時点では立法措置は不要とされております。○2として会社分割については、国会提出予定の商法等の改正案とともに立法措置が講ぜられることが適切である旨を提言しています。この提言を受けて「会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律案」、いわゆる労働契約承継法を国会に提出しております。

 その次の四角です。承継法の国会での審議の際に、衆参ともに附帯決議がなされております。ほぼ同じ内容となるのですが、その内容として、「合併・営業譲渡をはじめ企業組織の再編に伴う労働者の保護に関する諸問題については、学識経験者を中心とする検討の場を設け、速やかに結論を得た後、立法上の措置を含めその対応の在り方について十分に検討を深めること」とされております。

 その下の枠ですけれども、その後、承継法案については国会での審議を経て成立し、平成12年5月31日に公布されております。また、同年1227日に同法施行規則・指針を制定しております。これらについては一定の周知期間を経て、平成13年4月1日に施行等がされております。

 次に4ページに移ります。承継法の国会での審議の際になされた附帯決議などを踏まえ、西村教授を座長とした企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会を、平成13年2月に設置し、平成14年8月まで御議論いただきました。

 報告の要点ですが、「営業譲渡の労働契約の承継については、営業譲渡の法的性格、その経済的意義、我が国の雇用慣行、営業譲渡やそれに類する事業・施設の譲渡の多様性を考慮すれば、一律なルール設定は困難である」とされております。「合併については、全ての権利義務が包括的に承継されるため、労働契約や労働協約の承継について、基本的には、法的な問題はない」とされております。そして最後のポツですが、「円滑に企業組織再編が行われるためには、企業が判例法理を含めた現行の法的枠組みを踏まえ、労働関係に配慮しつつ対応するとともに、労使間で十分な情報提供、協議が行われることが必要であることから、企業組織再編に当たって、企業が講ずべき措置、配慮すべき事項等に関する指針を策定し、その周知を図ることが必要」とされております。

 その下の四角です。経営破綻に陥った倒産企業の再建を行う手続などを定めた、会社更生法の国会での審議でも、衆参ともに附帯決議がなされております。その内容としては、「企業組織の再編に伴う労働関係上の問題への対応については、現在、政府において検討を進めているガイドラインを早急に策定するとともに、施行後、当該問題の実態把握に努めた上で、法的措置を含め必要な検討を行うこと」とされております。

 最後の四角です。事業譲渡と合併の際に申し上げた通知を都道府県労働局宛てに発出し、労働契約の承継や労働条件の変更など、労働関係上の諸問題に関する相談等への対応に当たり留意すべき事項を通知しております。以上がこれまでの経緯です。

 5ページで、労働契約承継法の概要について御説明いたします。これまでの説明と若干重複する部分はありますが、会社分割制度では、分割会社と承継会社等が締結又は作成した分割契約等の定めに従って、分割会社の権利義務が承継会社等に包括的に承継されます。ただ、労働契約についても労働者の意思と無関係に承継されると、労働者に与える影響が非常に大きいと。このため、労働者保護の観点から、会社分割時の労働契約の承継についての会社法の特例を定めるために、労働契約承継法を規定しております。

 下の欄が承継法の内容です。労働契約の承継についての会社法の特例、労働協約の承継についての特例、会社分割に当たっての労働者・労働組合への通知、労働者の理解と協力を得るための手続などが定められております。また、承継法の規定に基づき、指針が制定されております。分割会社及び承継会社等が講ずべき労働契約及び労働協約の承継に関する措置に関し、その適切な実施を図るために必要な事項を定めております。

 6ページで、会社分割時における労働者に対する具体的手続について、承継法等の条文を基に御説明いたします。第1に、会社分割に当たって、分割を行う会社は、雇用する労働者、具体的には過半数労働組合又は労働者の過半数を代表する者の理解と協力を得るよう努めることとされています。これを「7条措置」と言います。

 第2に、労働者との個別協議です。こちらはいわゆる「5条協議」というもので、これは承継法を離れて、商法の改正附則に国会修正で入ったものです。会社分割に伴う労働契約の承継等に関しては、次にお話します通知をすべき日までに、労働者と個別にきちんと協議をするとされております。

 第3として通知です。これまでの会社全体への労働者の理解と協力を得て、次に個別労働者との協議を得た上で、労働契約の承継の定めの有無、あるいは、それに異議がある場合の異議申出期限日などを通知することとされております。通知の対象者は、第一号として、「雇用する労働者であって、承継会社等に承継される事業に主として従事するもの」です。例えば、営業事業に従事する営業職の労働者が想定されます。また、それ以外の労働者であって、「当該労働契約を承継会社等が承継する旨の定めがあるもの」です。こちらが第二号として規定してあります。営業事業が承継される場合の例で考えますと、全く別の事業の人間が承継されるといったことも想定されます。

 第4に異議申出です。承継される事業に主として従事しているにもかかわらず、承継されないものに異議申出を認めます。その場合には、現在の労働契約がそのまま承継されるという効果を認めております。また、承継される事業に主として従事していないにもかかわらず、労働契約が承継されるものにも異議の申出を認めます。その場合、労働契約は承継されないという効果を認めております。

 今御説明してきたことを図にしたものが7ページです。1つ目の○として、会社分割の場合に労働契約が承継されるかどうかは、承継される事業にその労働者が主として従事しているかどうかです。2つ目の○として、分割契約にその労働者の労働契約を承継する旨の定めがあるかどうかによって、4つのケースに分かれます。下にその図があります。A社の労働者が一番左におり、その隣の「当該事業に主として従事している」という所を見てください。営業事業の例で考えれば、営業事業が他の会社に承継されるといった場合に、分割契約等にこの労働者を承継させるという旨の定めがあるかないかによって、ケース1、ケース2と分かれます。

 営業職に従事する営業マンが、次の会社に承継されるのがケース1です。この場合であれば、今まで従事していた業務、営業からは切り離されないので、特段異議の申出は認めておりません。次にケース2です。営業職に従事しているにもかかわらず、又、その営業事業が別の会社に行ってしまうにもかかわらず承継されないといったことであれば、今まで従事してきた職務とは切り離されてしまいますので、異議の申出を認めます。異議を申し出れば、今までの労働条件がそのまま次の会社にも承継されるという効果を認めております。

 次に下の欄に行ってください。「当該事業に主として従事していない」という所です。例えば、営業部門の人材を管理、あるいは予算などを管理している経理や人事など、間接的な部門の方々をイメージとして想定していただければと思います。その場合に、次の会社に承継させるという定めがあった場合には、ケース3になるのですけれども、自分は本来、会社全体の経理の中で営業の一部を見ていた、あるいは会社全体の人事の中で営業の人事も見ていた。そういった流れの中にもかかわらず、営業部門が譲渡されてしまうので、間接的な業務に従事する労働者も承継されてしまうとすると、本来従事していた職務とは切り離されてしまいます。それでは不都合が生じますので、異議の申出を認めることになっております。異議の申出をすれば、今の労働条件がそのまま今の会社に残るという効果をもたらしております。次にケース4です。分割契約等に承継させる定めがなければ、そのまま不承継になります。

 次の○です。承継法に基づく、具体的な手続とその対象について、表形式にまとめております。一番左側の主従事労働者の所は説明が若干重複いたしますけれども、営業事業に従事する営業職の労働者は、労働契約の承継の有無にかかわらず、事業自体が別の会社に移ってしまいますので、個別協議の対象となっております。5条協議の所がどちらもマルということになっております。承継されるか否かを知らせる通知についても同様で、いずれもマルです。異議申出については、承継事業は営業事業が会社分割されることに伴い、営業職の労働者の労働契約も承継されるのであれば、これまでの職から切り離されることはないので異議の申出を認めておりません。他方、承継されない場合は営業事業から切り離されてしまうので、異議申出を認めることとしております。

 次に真ん中の欄の従従事労働者の所です。従従事労働者とは、イメージとしては先ほど御説明した間接部門のような労働者が想定されます。承継の定めの有無にかかわらず、個別協議の対象になっております。通知については、承継の定めがある場合にはその対象に、ない場合には対象外となっております。異議申出権についても同様です。

 一番右側の不従事労働者というのは、例えば営業事業が譲渡される場合に、不動産運用事業のような全く別の部門の労働者が承継されてしまう場合が、不従事労働者としてイメージされます。この場合、承継されるにもかかわらず、現在、個別協議の対象となっていないという状況です。しかし承継の定めがある場合には、通知や異議申出権の対象となっているということで、若干いびつな状況となっております。

 その下の労働協約の承継については、1つ目の○として、「労働組合員が承継会社等に承継される場合、原則として、承継会社等と分割会社の双方で、会社分割の効力発生前と同一内容の労働協約が労働組合との間で締結されたものとみなす」とされております。「ただし、労働協約の債務的部分(例えば労働組合への事務所の貸出しといったもの)については、分割会社と労働組合が合意すれば、分割契約等に、その全部又は一部を定めて、承継会社等に承継させることができる」とされております。

 8ページは「事業譲渡及び合併に伴う労働関係上の対応について」ということで、平成15年に通知を発出しております。この通知は、平成17年の会社法の制定前のものであるために、「事業譲渡」といった書きぶりではなくて「営業譲渡」となっております。この通知は、地方労働局宛てに発出したものです。営業譲渡については、○1で、労働契約の承継について、承継予定労働者から個別に同意が必要である、○3で、営業譲渡にも整理解雇に関する法理の適用があり、営業譲渡だけでは解雇の正当な理由にならない、○6で、労働者から個別同意を得る際には、営業譲渡に関する全体の状況や譲受会社の状況について情報提供を行うことが望ましいといったことなどが提示されております。また、合併については、○1で、労働契約は包括承継される、○2で、合併に伴う労働条件は包括承継であるため、そのまま維持されるといったことが提示されております。

 9ページは「組織の変動に伴う労働関係に関する研究会」についてです。これは平成2612月に、荒木先生に座長をお引受けいただき設置したものです。その趣旨は、承継法の制定から10年余りが経過し、平成17年の会社法の制定、組織の変動に伴う労働関係をめぐる裁判例の蓄積などを踏まえて諸課題を整理し、新たな対応を行う必要性について検討することにあります。

 10ページにありますように、構成員としては労働法・商法などの御専門の先生方に御参画いただき、検討を行ったところです。

 資料3に移ります。ただいま説明いたしました検討会について取りまとめた報告書の概要について説明いたします。1枚目は、組織変動に伴う労働関係の現状について説明した資料ですので、これまでの説明と重複しますので省略いたします。ポイントとしては、承継法は、労働者がこれまで従事していた業務から切り離されないよう保護する必要性がある、そのために異議申出などの諸手続を創設するという趣旨で立法しております。

 2、3ページは、報告書の主たる概要です。会社分割と事業譲渡に分けて説明いたします。会社分割については会社法の制定、それに伴う課題、その課題に対してどう対応するかという形で順に説明いたします。平成17年に会社法が制定され、これまで事業を構成しない権利義務についても会社分割の対象とすることが可能となりました。それに伴って、承継事業に従事しない労働者(不従事労働者)についても会社分割の対象とすることが可能となっております。

 それに伴って生じた課題がその下です。事業に当たらない権利義務の分割の場合に、「主従事労働者」か否かは、これまで事業単位で判断していたのですが、これを会社法の制定に伴って、「権利義務」単位で判断するのかどうかという課題が生じております。

 それについて、その下の○です。今後の対応としては、労働者保護を目的する承継法において、その承継法上の権利、労働契約の承継などの法的効果につながる主従事労働者の判断を権利義務単位によることとすると、これまで主として従事していた業務から切り離されるという不利益が労働者に生じるおそれがあり、労働者の雇用や職務を確保するという承継法の労働者保護の趣旨から問題であると考えられる。このため、承継法における主従事労働者の判断基準としては、引き続き「事業」単位で判断するということが妥当とされております。

 次に、課題の不従事労働者の部分です。会社法の制定によって、権利義務単位での分割が可能となった。それに伴って、不従事労働者も会社分割の対象とすることができるようになりました。その場合に不従事労働者については、5条協議という労働者と会社との間の個別協議の対象外になっているということが課題として生じております。一方で、先ほど御説明したように承継される不従事労働者については、通知や異議申出の対象にはなっていながら、個別協議の対象にはなっていないという状態です。

 今後の対応としては、異議申出や通知の対象になっているという状況や、通知が行われた後に異議申出権を行使するか否かを判断するために必要な手続として、承継される不従事労働者についても5条協議の対象とすることが適当であるとされております。

 次に、隣の列の一番上に移ります。会社法の制定に伴い、従前必要とされた「債務の履行の見込みがあること」が不要になり、債務超過分割も可能となったということがあります。その場合に、会社分割によって承継会社などが不採算会社となる場合、あるいは不採算事業に承継されるという場合に労働者に不利益が生じてしまうとして、何らかの保護を講ずべきかどうかが課題とされております。

 この今後の対応については、債務超過などの状況についても、会社分割に関する情報の一部たる債務の履行に関する事項として承継されるもの、残留するものを問わず、7条措置において会社全体、職場全体に理解を求めるべきものである。このため、債務の履行に関する事項も7条措置の対象として、より明確に周知することが適当であるとされております。また、債務の履行の見込みに関する事項も5条協議、労働者との個別協議の説明事項にもしっかりと追加することが適当であるとされております。

 その隣の列です。分割契約等に定めずに別途個別に同意を得ることで転籍、労働条件変更を行う実務(転籍合意)が増加しております。これは承継法のスキームを使うと、今の労働条件がそのまま次の会社にも承継されてしまう。その場合、次の承継される会社に別の労働条件を持った人たちがいた場合には、一国二制度という形になってしまいますので、労働条件統一の観点から、初めから承継の際に、個別に労働者の同意を得て、労働条件を次の会社の労働条件に合わせるという観点から行われていると聞いております。

 その課題ですが、承継法によらない転籍合意と承継法に基づく手続との関係をどう考えるかという課題が生じております。

 その下の対応です。労働者保護という承継法の立法趣旨に裏打ちされた異議申出権は、転籍合意を行った場合でも失われない。また、実態面では、労働者が任意に転籍合意を選択する場合もあります。こういうことを踏まえると、転籍合意と、それにより労働条件を変更することを一律に無効とするわけではなく、分割契約に定めのない主従事労働者が異議申出権を行使した場合、労働条件を維持したまま労働契約承継の効力が生ずると解するべきです。そのため転籍合意をしようとする場合には、労働者に承継法上の手続と効果を説明すべきことが適当であるとされております。

 次に、隣の裁判例の蓄積です。日本アイ・ビー・エム事件の最高裁判決が平成22年7月になされております。5条協議が全く行われなかった場合又は著しく不十分な場合に労働契約承継の効力を争い得るとした判決が出ております。この判決についてどうするかということですが、その矢印の下の部分で、5条協議の法的効果に関する判決の考え方を周知していくことが適当であるとされております。

 次のページに移ります。事業譲渡に関してです。譲受会社と譲渡会社の合意によって、譲渡会社の権利義務を個別に特定して譲受会社に承継する、そして、労働契約は労働者の同意を得て、個別に承継する、というのが現状の制度です。

 これについての課題がその下の欄です。労働契約の承継のルールの適用についてです。労働契約の承継には労働者の同意を要するけれども、承継等をめぐる裁判例が複数出ております。また、事業譲渡と会社分割の性格・態様が類似してきているとの指摘もあります。また、EU諸国・承継法と同様に、労働契約の承継ルールを導入すべきという御指摘もあります。

 こういうことを踏まえて御検討いただいた対応事項がその下です。承継ルールによって承継を強制した場合、譲渡契約の成立が困難となり、保障できたはずの雇用がかえって保障されなくなるおそれ、また、対象となる事業譲渡の範囲・定義の確定が困難、あるいは予測可能性が担保できないということ、異議申出権の付与について、EU諸国では承継拒否しても、その後の雇用が必ずしも保障されているわけではない、また、会社分割と事業譲渡は性格に応じて活用されており、裁判等においても個々のケースの事情に応じて柔軟・妥当な解決が図られております。

 そういうことなども踏まえ、一番下の枠ですが、各制度に政策的妥当性や意義がある中で、全体としての雇用の維持の観点等から中長期的課題として議論していくに値するものの、事業譲渡に労働契約を自動的に承継するルールを設けることについては、いまだ慎重に考えるべきとされております。

 次に、真ん中の課題の右側です。手続上のルールについてです。個別の同意を得る過程で、労働者や労働組合に対して説明・協議が実務上なされております。また、EU諸国では労働者代表に対する情報提供等が義務付けられております。そして、裁判例においては個々のケースに応じて柔軟・妥当な解決が図られております。

 こういう課題などを踏まえ、その下の対応ですが、事業譲渡における労働契約の承継には、民法第625条第1項に基づく労働者との個別の同意が必要であることなどを踏まえて、個別合意の実質性を担保し、真意による合意を得るための手続面でのルールを整備すること、労働組合等との集団的な手続面でのルールを整備することが考えられる。具体的には、労使で留意すべき事項として、例えば指針(又はガイドライン)を定めて取組を促進することが考えられると報告書にまとめられております。

 資料2、3の説明は以上です。

○鎌田座長 それでは、ただいま御説明いただいた資料2、3に関して、御質問、御意見があればどうぞ自由にお願いいたします。

○鈴木委員 御説明いただき、どうもありがとうございます。最後に御説明いただいた資料3の最後のページに、事業譲渡に関しての研究会報告の概要が載っております。左側の対応の3つ目の○ですが、「異議申出権の付与について、EU諸国では承継拒否してもその後の雇用が必ずしも保障されているわけではない」という記述があるところです。この点、日本の法制と大分、様相を異にしているように思いますので、少し詳しく御説明いただけないでしょうか。

○労政担当参事官 ありがとうございます。EU諸国の制度の趣旨です。大変恐縮ですが、もし御参照いただければと思うのですが、資料4の1112ページ辺りに研究会報告書の記述がありますので、それも参照いただきながらと思います。

 今、御質問いただいたとおり、EU諸国は事業譲渡とともに労働契約を移転するということを規定しておりますが、研究会でも、EU諸国の制度の内容を先生方に御報告いただきました。そこでお話いただいたこととしては、こういう国では労働者の仕事の概念が確立していまして、事業譲渡によりその労働者の仕事が移転して行われる以上、使用者が替わったとしても労働者も移転してその仕事を引き続き行うということが自然と考えられているということでした。このため、事業譲渡の際の労働者の保護ということでは、事業の移転に基づき労働契約も自動承継されると規定されております。

 今、御質問いただいた部分にも関わるのですが、繰り返しますと、労働者には仕事とともに労働契約を承継することが保障され、また、その承継を望まない場合には、承継を強制されない自由が認められます。ただし、その趣旨は初めに申しました仕事とともに労働者も移転することが自然であるという前提がありますので、それに従って、労働者が承継に異議があるとしても、譲渡会社、元の会社での雇用関係の存続を保障するものではないとされているということです。それが先ほど引用いただいた部分かと思います。

 イギリス、フランスでは承継拒否した場合、退職などという整理になるだけです。確かにドイツでは異議申出権がありますが、異議申出権の行使により譲渡会社での雇用、元の会社での雇用は一旦維持されますが、元の会社において仕事が残っておらず就労可能性がないと認められれば、その譲渡会社での解雇を認められる場合があるという形で、解雇リスクがあるという報告もありました。

 このようにEU諸国においては、仕事が移れば、労働者と仕事が対応しているということで、仕事とともに労働契約が承継する。承継を強制されない自由を保障するという限りの制度かと、研究会を通じて理解しているところです。以上です。

○鈴木委員 大変分かりやすい御説明を頂き、ありがとうございました。この問題に限るわけではありませんが、雇用労働法制は、それぞれの国の法体系全体や労使関係、それから雇用に対する考え方によって、適用し得る仕組みや最適な仕組みは変わり得るものだと思っております。そういう意味では、海外法制について参考にするということは大変重要なことではありますが、例えば会社分割の仕組みだけを取り出して参考に比較するというよりは、その背景にある所も含めて考えていくということが重要ではないかと感じ取ったところです。

○鎌田座長 久本委員、新幹線が雪の影響でということで、御紹介よろしいですか。

○久本委員 一言だけ手短に、現在、京都大学の公共政策大学院におります久本と申します。4月からまた経済学研究科に戻ります。よろしくお願いいたします。

○鎌田座長 それでは、議事を続けていきたいと思います。どうぞ御質問、御意見ありましたらお願いいたします。

○田坂委員 1点質問です。今、正に研究会の報告書の1112ページという部分がリファーされました。この報告書を拝見して、11ページの○3「労働者との個別協議の実態」という所を拝読して少し違和感がありましたので質問いたします。「なお」で始まるパラグラフの部分ですが、2つ目のセンテンスの「労働組合活動等に関する実態調査によると」という部分があります。「企業組織の再編等に当たり労使間で十分な話合いが尽くされたか」という部分について、従業員規模1,000人以上ですと3割、300人未満の企業では1割に満たないということでパーセンテージが載っておるわけです。僭越ながら申し上げると、こういう再編等を行うに当たって十分な議論を労働者とするということは、企業として重んじるべきだと思っている人間からしますと、1,000人以上で3割は若干少ないなと捉えており、この部分についての質問と思っております。

 3点あります。3割が十分ということは、残り7割については十分でない、あるいは不十分だという回答だったのかということが1点目です。2点目は、不十分だとした場合に、不十分は何に対して不十分なのか、全く協議していない、あるいは協議の回数が少ないということにとどまらず、もちろん協議はきちんとやっているのだけれども、結果的に労働者の思わくというか、意思として思うところが伝わらなかったという部分も、もしかしたら含まれているのではないかと思ってみたりしております。3点目は、この調査の対象ですが、会社分割あるいは事業譲渡に限ったものなのか、あるいはそれ以外の企業再編行為も含めたものなのか。以上3点を分かる限りでお教えいただければと存じます。

○労政担当参事官 どうもありがとうございます。報告書のなお書きの部分の調査は、研究会の途上でも一度御紹介したデータに基づくものです。どのようなデータかと申しますと、厚生労働省の統計情報部で実施した労使関係総合調査、具体的には労働組合活動等に関する実態調査、平成25年に行ったものです。

 報告書で引用している「十分」の割合は、1,000人以上規模で3割を超えるのですが、ほかの選択肢は「十分に行われた」のほかに「おおむね十分であった」という項目もあります。それは約37%、その次に「どちらとも言えない」が約18%、「やや不十分であった」と「不十分であった」を合わせると約10%という形になっております。これが1,000人以上規模の例です。確かにおっしゃるとおり、3割以外の所の7割が十分ではないということではなく、「十分」というくくりと「おおむね十分」まで合わせて言いますと72%という合計数になりますので、そこは確かに舌足らずだったかもしれなく恐縮でございます。

 2点目の不十分であるという意味なのですが、これは労働組合に聞いたアンケート調査ですが、労使間で十分な話合いが尽くされたのかという質問ですので、中身まではアンケート統計上は分からない。労使間で十分な話合いが尽くされたかについては、労働組合が認識するかどうかという回答かと思います。もちろん話合いが行われなかったという選択肢もありますので、行われたことは行われたけれども、何かの理由、認識で不十分と。どういう部分が不十分かということは、そこまで突っ込んで聞いているものではないということを御容赦いただければと思います。

 3つ目の調査の対象とした企業組織の再編が何かです。これは調査上定義して質問しており、「企業組織の再編等」と報告書にもありますが、そういう言葉でアンケートでも整理しています。具体的に何かと言うと、企業の合併、営業資産の譲受、会社の買収、他社との併合、会社分割、子会社の売却・清算、施設の撤去及び事業部門の撤退・縮小等をいうと説明してアンケートを取っております。そういう意味で、会社分割・事業譲渡のみの場面だけで聞いているものではないということは、そのとおりかと思います。以上です。

○田坂委員 丁寧な御説明、ありがとうございました。今、お話を伺って安堵したと申しますか、この3割という数字が一人歩きすると嫌だなということを、企業に勤める者として思っておりましたので質問した次第です。ありがとうございました。

○鎌田座長 それでは、そのほか何かございませんか。

○村上委員 今の調査の件も後で資料を見れば分かることなのですが、少し確認いたします。アンケートで、企業組織の再編等が実施された際に労働組合が関与したかどうかをまず聞かれていて、関与した割合は66.5%となっております。この数字は、何らかの関与があった中で十分な話合いが尽くされているのかどうかを聞かれたのか、関与した所だけを対象に、それが十分だったかどうかを聞いているのかということを確認いたします。

○鎌田座長 いかがですか。

○労政担当参事官 おっしゃるとおり、この調査はその前で、企業組織の再編等に労働組合が関与したかどうかということを聞いており、全企業規模合計で66.5%です。報告書で言及されている話合いが十分かという所については、関与した労働組合について聞いておりますので、おっしゃっているとおり、関与したケースについての内訳です。

○村上委員 説明のとおりであれば、3割という数字が一人歩きするのも問題かと思いますけれども、この調査から見えることは、7割の所で十分話し合われているかどうかということではなくて、関与した労働組合についての調査ですので、話し合いが十分というところでいえば、調査対象の半分以下ぐらいのところであるということが、この調査結果から見える実態なのかということで確認いたしました。

 先ほど安藤統括官からも御説明がありましたように、承継法制定以降、2003年の研究会がありましたが、それ以降、企業組織の変動に伴って労働者の雇用や労働条件および労使関係にどのような影響があるのかということや、その影響から労働者をどのように保護すべきか、また、どのような労使関係のルールが必要なのかという点については、研究の分野では議論されておりましたが、政策面で検討俎上に載ってきたことはありませんでした。こうした中で、会社分割と事業譲渡について研究者による報告書をまとめていただいたことや、それを受けて具体的に取るべき方策について、こうした労使を入れた検討会を立ち上げていただいたということは、労働組合や労働者の立場から歓迎したいと考えております。

 ただ、報告書を受けてということで言えば、報告書の中では、事業譲渡については法制化を否定していること、集団的な労使関係に関する問題については余り多く触れられていないということ、後で狩谷委員からもあるかと思いますけれども、会社分割や事業譲渡だけではなく、実際は持株会社であるとか投資ファンドなどの組織の変動というところで様々な問題が起こっているにもかかわらず、そうした問題が取り上げられていないということについては、もう一歩踏み込んでいただきたかったというのが、労働組合としての率直な受止めです。

 しかし、そうは言っても、私どもとしましては、10年以上ぶりの議論の機会ですので、会社法制定等の組織の再編を促す法整備とバランスの取れた労働者保護のルールの整備が進むように、検討会、この場の議論には参加していきたいと考えております。

○鎌田座長 ありがとうございます。そのほかございますか。

○狩谷委員 先ほどアンケートの問題もあったのですけれども、私は今の役割を与えられる前はJAM大阪で書記長をやっており、いわゆる1割しか協議できていないという所の典型的なポジションにおったわけです。JAM300の組合が大阪で集合しています。そのうち87%が300人未満、65%が100人未満の典型的な中小の集団です。今問題になっている企業再編を含めて、倒産合理化が日常的に発生しております。

 多いときの2002年で91単組が問題を抱えているということですから、これは加盟組織の3分の1です。更に多い時期として、リーマンショックの影響があった2009年は206単組が問題を抱えておりましたので、実に組織の3分の2が企業経営問題を抱えていました。倒産について見てみると、2000年からこれまでの件数が77件なので、4分の1です。また、いわゆる首切りが138件で5割ぐらいになります。企業再編、合併、事業譲渡等の件数が58件で、これは大体組織の2割ぐらいです。この1年間を見てみても、30件ほど問題が発生しており、そのうちの4件は企業再編、合併が3件で、その他のいわゆる株主の変動が1件です。

 このような状態ですから、今議論し合っていることが集中的に表れているわけです。報告書では、事業譲渡については特別の法的な対応は取らないということですが、実は我々の所で集中的に問題が起こるのは事業譲渡です。合併については包括的承継ですのでそれほど問題は起こらないのですが、必ずと言っていいほど事業譲渡で問題が起こってきます。

 何が問題になっているのかというと、合併の場合には、労働協約等が包括的に承継されますから、組合組織に関することは問題にならないのです。ところが、事業譲渡の場合に譲受会社が何を言ってくるかというと、まず、「上部団体を脱退しろ」と、もっと過激になると「組合を潰せと」。このような事業譲渡の場合、譲受会社は大体助けに入ってくる。中小企業たる譲渡会社に問題が起こっていることに対し、「それを助けてやる」という格好で入ってくるわけですから、譲渡会社の労働組合としては立場が非常に弱いわけです。譲受会社は「組織を脱退すれば、あるいは組合を潰せば助けてやる」と、このように入ってくるわけです。

 最近、我々の所では民事再生が11件ほど起こっていますが、民事再生の中でもよく再編問題が起こってきます。我々は、何でもかんでも事業譲渡に反対ということではなくて、問題は中身なのです。現に我々労働組合自信がどこかから親会社を引っ張り込んできて、合併させたり事業譲渡させたり、いろいろなことをやったことがあります。ただ、それ以外の場合で、今言ったような集団的労使関係に関わる問題が集中的に発生するという事態になっています。

 今言いかけましたが、直近ですと、民事再生で倒産して再編過程に入った所で、配電盤とメッキ部門両方あった200人ぐらいの会社の例があります。ここでは、メッキ部門を分割して譲渡するということをやらざるを得なかった。その後、メッキ部門で「労働組合を抜けろ」ということで、残念ながら組合が潰されてしまったという事例があります。

 なぜ、「上部団体を抜けろ」とか「労働組合を潰せ」と言うのかということなのですが、純経営的に考えれば、そのようなことはかえって問題が起こるので避けるべきにもかかわらず、それをあえてやるということは、上部団体があれば、あるいは労働組合があればできないことをやりたいからなのです。その後に間違いなくやってくるのは、上部団体を抜けた途端にハイエナが死肉にたかるように、まず首切りが起こり、大規模な合理化が起こります。下手をすると、ほとんど職場に組合員が残っていないという状態までもっていかれることもあります。

 会社分割の問題もそうなのですが、労働組合との協議が努力義務になっているのです。義務規定にはなっていないのです。そういうことで、ここの問題をきちんとクリアすれば、大体合併も事業譲渡もうまいこといくのです。ところが、ここをあえて避けて通ることによってかえって問題が起こるという実態が現状なのです。

 私が経験した典型的な事例ですが、ダイカスト屋で100人ぐらいの組合です。ここも、ある有名な経営者が入ってきまして、「上部団体を抜けろ。抜けたら8億出して、ここの会社を立派な会社にする。」「我々の看板には8億の価値があるんだなあ」というようなことを言い合っていたのですが、組合組織の中の議論では一時そちらの方向へ行こうとしたのですが、私を含めて何人かがこれを止めまして、そういう方向には行かなかったのです。

 事業譲渡をやろうとしたのは、実は親会社であって、その親会社に対して地方労働委員会に救済申立てを行い問題にしたわけですけれども、その後、この組合は、その親会社の下の会社で現在も立派に存在しています。そういう事業譲渡が集団的労使関係に関わって、こういう問題のときに発生するということで、その辺の対応をきちんと、ガイドラインだけではなくて、法的な対応を含めて必要なのではないかと私は思います。以上です。

○鎌田座長 そのほかありませんか。

○鈴木委員 ただいま狩谷委員から、事業譲渡に関しての問題点の御指摘がありました。私からは、組織再編のメリットについて、少しお話をさせていただければと思います。M&A専門誌のマールの調査によりますと、2015年の我が国におけるM&Aの件数は、グループ内を除きますと2,428件になります。これは、近年増加傾向にあるわけですが、その背景としては、まず企業間競争力のグローバル化や、国内市場がシュリンクをしていることから、事業の選択、あるいは事業の効率性を高めるということの必要性が、今まで以上に高まっていることが挙げられると思っております。

 事業譲渡、あるいは会社分割を行う目的としては、例えば各事業の経営の自由度を高めるため、中核的な事業に各種の資源を集中させるため、更には原材料、部品等の安定的な供給ルートを確保するため、販売ルートや商品ラインナップを拡大するため、それから研究開発のスピードを速める、更には異なる事業を融合させて新しいサービスを産み出すなど、企業の付加価値を高めるためということで、かなり使われているといえると思います。

 それから、会社分割、事業譲渡が使われている背景の2つ目としては、組織再編のスキームが多様であるということがあるのではないかと思っております。これは、研究会報告にも少し触れていただいておりますが、企業の御担当者からお伺いしますと、比較的ボリュームの大きいものについては会社分割で、また、比較的ボリュームの小さいものについては事業譲渡で使われる傾向もあると聞いております。これはひとえに、組織再編のスキームについて、それぞれの法的効果、法的な手続が違うということが大きいのではないかと思っております。

 これから組織再編の在り方について皆様方と議論をさせていただくわけですが、そうした円滑な組織再編を可能にするという点と、組織再編で特有に発生する不利益から労働者を保護するという視点、このバランスをいかにとっていくかが重要だと思っております。労働者保護については大変重要ですが、私自身としては、企業の競争力の維持・向上が組織の維持・発展につながり、ひいては中長期的な雇用の安定や労働条件の改善にもつながるという思いを持っていることを申し述べたいと思います。

○鎌田座長 ほかにありませんか。またあっても、次の議題の所でも時間を取りますので、是非お願いいたします。

 次に、議事()「講ずべき方策に関する検討項目について」、議事()「今後の進め方について」、併せて事務局から説明をお願いいたします。

○労政担当参事官室室長補佐 資料5、6について説明いたします。資料5は、「講ずべき方策に関する検討項目」として提示したものです。会社分割と事業譲渡、その他といった形で検討項目をお示ししております。

 まず「会社分割について」ですが、検討すべき項目として、会社法の制定への対応や裁判例等を踏まえた対応があります。先ほどの報告書の概要に関する説明と重複する部分がありますが、御了承ください。

 まず、「事業に関して有する権利義務」についてです。会社法制定に伴い、これまで会社分割の対象となるのは、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産である営業の全部又は一部とされていたものが、「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」と改正されました。それに伴い、「主従事労働者」の判断基準、「事業」概念の在り方、承継される不従事労働者への5条協議をどうするのかといった点が、検討項目として考えられます。

 次に、「債務の履行の見込みに関する事項」です。これまで債務の履行の見込みがなければ会社分割ができなかったものが、会社法の制定により、債務の履行の見込みがなくても実施できるようになりました。そのことに伴い、不採算事業とともに承継されたり、不採算部門に残留する労働者への対応をどのように考えるかといった点が、検討項目として考えられます。

 次に、裁判例等を踏まえた対応です。5条協議の在り方とその法的効力が問題となった日本アイ・ビー・エム事件判決を踏まえ、どのように対応するかといった点や、会社分割時の転籍合意と承継法との関係をどのように捉えるかといった点が、検討項目として考えられます。

 次に、2「事業譲渡について」ですが、労働者との間の協議の手続をどのようにするのか、あるいは、労働組合との間での集団的手続をどのようにするのか、といった点が論点として考えられます。

 3「その他」としては、例えば事業譲渡に関して、今後の対応方策を検討するに当たり、先ほど説明しました通知の中で、事業譲渡のほかに合併についても留意事項を示しておりますので、合併についても対応すべき事項として論点があり得ること、あるいは、このほか今後の議論の中で検討項目()に関連する論点が出てくることもあり得るため、「その他」としております。

 次に資料6、「今後の進め方について」です。本日は第1回目ということで、組織の変動に伴う労働関係の現状等について説明するとともに、講ずべき方策に関する検討項目をお示しし、また今後の進め方についても御提示した上で、御意見などを頂くことを考えております。

 次に、2から3月の間に2回程度開催したいと考えております。第2回目では、講ずべき方策について、本日の御議論を踏まえ、少し肉付けをしたような形で検討項目()を再度御議論いただきたいと考えております。また第3回目では、これまでの御議論を踏まえて作成した承継法の施行規則や指針、あるいは事業譲渡指針について、事務局のたたき台としての案を提示し、御議論いただきたいと考えております。

 そして4月頃に、講ずべき方策について取りまとめを頂きたいと考えております。

 なお、下の※にありますが、本検討会の検討に資するよう、厚労省所管の労働政策研究・研修機構に対し、企業約1万社、組合約3,000社に対して、組織変動に伴うアンケート調査、あるいは御協力いただける企業・組合に関しては、ヒアリング調査を実施しております。早ければ、この内容について第2回、遅くとも第3回には、議論の参考になるよう御報告できるよう準備を進めておりますので、御承知おきいただければと思います。以上です。

○鎌田座長 本研究会の資料5については、いわゆる土俵づくりということです。折々に事務局の考え方もお聞きしたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 それでは、資料5、6について御質問、御意見を自由にお願いいたします。

○狩谷委員 会社分割の問題なのですが、現在進行形で私も関わりながら対応している実例を基に、問題点を申し上げたいと思います。鉄骨と橋梁部門を有するK鉄工とする150名ぐらいの企業を、更に規模の大きい700人ぐらいのT鉄工が吸収分割するということになりました。そのときに、承継の定めのある主従事労働者については、異議申出をすることはできないわけですが、ここの場合は主要な工場が大阪と熊谷、取手と、関西と関東の遠隔地に分かれて存在しております。要は、大阪の工場を潰してしまうという再生手法なのですね。となると、大阪で働いていた人が東京へ行くことになりますから、当然東京には行けない人間も出てきます。遠隔地へ行かざるを得ないということで、会社分割に伴って退職せざるを得ない人が発生するのですね。異議申出とすれば退職事由は会社都合ということになりますが、単に「行けないですから辞めます」ということになれば、当然自己都合ということになるわけですね。そんな点をめぐって、今もめているわけです。

 今回の場合、企業がこの計画を発表したときに、労働組合との協議はアリバイ程度に済ませて、個別同意でやろうとしていたのですね。これを何とか阻止して、労働組合が協議同意の下にこの問題を進めるのだという労働協約を、改めて確認した上で物事を進めるとしました。もちろん、我々が入ってそういう指導をやっているのです。そういったことによって、初めて組織再編がスムーズに進行し始めたわけです。ですから、7条措置が努力義務ということになっておりますが、この事例でも分かるように、もっと強いものにしなければ、かえってうまくいかないということなのですね。今回のケースは労働組合がありました。しかし、先ほど「企業組織の再編等に当たり労使間で十分な話合いが尽くされたか」という部分について、300人未満の中小企業の場合では1割に満たないという話になっておりましたが、中小企業は、組合がない所がかなり多いですから、実際に話合いをしている企業はもっと少ないのではないですかね。となると、使用者側の言いなりというか、なので労働者自身の意思表示は絶望的なのですよね。それが実態だと思います。

 しかし、ここの場合は労働組合があるので、何とか労働組合が間に入りながら、労働者にとって最善の道を選ぶということで交渉ができていますから、まだここまで進められているわけです。しかし、労働組合が間に入っていなかったら、個別同意でやりたい放題やられる可能性が非常に高かったのですね。ですから、1つは努力義務となっているところをもっと強いものにする必要があるでしょうし、もう1つはいわゆる承継事業にいる労働者に異議申出権がないというのは、別の意味で不十分ではないかと思います。このように現在進行している問題で私が感じていることを申し上げました。検討をお願いしたいと思います。

○鈴木委員 今の狩谷委員は、承継の定めのある主従事労働者にも異議申出権をという趣旨だったと思います。

 御案内のとおり、承継法自体は会社法が労働契約について自動承継の効力を認めるということを前提にして、これまで従事していた事業から切り離される不利益から労働者を保護しようということで出来上がっているものだと理解しております。そうしますと、分割事業に主として従事する労働者にも異議申出権を付与することについては、承継法が予定する労働者保護の趣旨から、私は外れるのではないかと思っております。

 実務上もいろいろなケースで会社分割制度を利用するわけですが、会社分割の発生の日からビジネスを再開するために、そこに就いている方は全員来ていただきたいということで、会社分割を使う企業もあると聞いております。仮に主従事労働者にも異議申出権を認めるということになりますと、その異議申出のために事業が成立しない、そのリスクを考えて会社分割は使わないというようなことになり、ひいては我が国全体の円滑な組織再編にも多大な影響を及ぼすのではないか、ということにも配慮して考える必要があると考えます。

○鎌田座長 ここでは、取りあえず土俵づくりということで、細かな議論についての深い議論は、次回検討ということでよろしいですか。それとも、ここで深めていってもいいのですか。

○労政担当参事官 もちろん、具体的な個別の対応策の議論は次回以降ですが、ただ、今回検討項目を提示しておりますので、検討項目に関わる御議論は頂いていいかと思います。

○鎌田座長 では、関連してですね。

○狩谷委員 承継の定めのある主従事労働者の異議申出権の話なのですが、むしろ私が申し上げているのは、7条措置なのですね。労働組合とのきちんとした誠意ある協議を行えば、そういった問題は自ずとクリアできるわけですよ。一番重要なのは、ここだと思います。いわゆる円滑な企業再編をやりたければ、きちんと労働組合と協議して進めるということだと思うのですよ。それに尽きるのではないですかね。ですから、承継の定めのある主従事労働者に異議申出権はあったほうがいいのですが、むしろその辺りの問題をクリアに解決しようと思うならば、労働組合との協議をきちんと行うことが大切だと思います。例えば我々の組織では、企業再編では合併が多いのですよ。なぜかというと、労働組合がきちんと存在しているからということがあるのでしょうが、合併は包括的承継で、組合のこれまでの労使慣行や労使関係などが承継されますから、これが大きいのですね。そういったことを念頭に置きながら、この議論を進めるべきではないかと私は思います。

○鈴木委員 今のご発言に関連して申し上げます。まず、事業譲渡においても労使の間で協議をすることは、大変重要だと思っております。ただ、組織再編の中でも取り分け事業譲渡については、多種多様な形態があると聞いておりますので、何か画一的に手当てをするのは慎重であるべきであると私自身は思っております。

 また、先ほど狩谷委員から、組合潰しのような実態があるとの話がございました。これはあってはならないことです。ただし新たな法規制については、労組法上、不当労働行為救済制度という保護スキームがあるということを考えて、組織再編独自の不利益があるかどうかとの兼合いで考えていくべき問題ではないかと思っております。

○荒木委員 今提起されている問題は、非常に重要だと思います。資料4の研究会報告書の23ページ、事業譲渡に関する手続上のルールについてですが、下から7行目、「また、集団的な手続については事業譲渡に伴う雇用、労働条件への影響等は、労働組合との間の団体交渉事項となる」と。すなわち、労働組合が存在すれば、その組合員の雇用関係に影響がある事業譲渡の際に、転勤すべきか、労働条件がどうなるか等は、明らかに義務的団交事項ですから、単なる努力義務ではありません。法的な義務的団交事項ですから、これを組合が要求した場合には、使用者は団交に応じなければいけないという義務が既に存在しております。

 会社分割の場合の7条というのは、労働組合の団交義務は存在することを前提に、労働組合ではないような人たちの代表、つまり過半数代表についても努力をするべきだということを更に規定したものであり、労働組合が存在する場合の団交義務を努力義務に減ずるものではありませんので、その点を十分に周知していただくことが重要なのかなと思いました。

○狩谷委員 確かに、組合員の雇用関係に影響がある事業譲渡の際に転勤すべきか、労働条件がどうなるかといったことは義務的団交事項ということになるのですが、必ずしも労働組合があるからといって、経営側がそういう対応を取るかというと、そうではないのですね。現状がそうなのですよ。先ほど、不当労働行為救済制度があるではないかというお話ですが、では、不当労働行為救済制度を活用して実際に不当労働行為が行われた場合、救済を申し立てる組合がどれだけあるのかという現状を、少し見ていただきたいと思うのですよ。実態はそうではないのですよ。ですから、問題が起こるわけです。そういう意味で、問題が起こらないようにきちんと法的な措置でカバーすることが必要なのではないかということです。

○労政担当参事官 非常に重要な御議論を頂き、ありがとうございます。事務局が今回の検討項目で提示した趣旨を補足いたしますと、特に7条措置の部分や異議申出の部分など、いずれも重要な議論だと思いますが、会社分割という包括承継制度をベースに成り立っているという趣旨を踏まえたり、もともと7条は議院の修正であのような努力義務が付いた趣旨や、今、荒木先生がおっしゃった団交との関係などを鑑み、そもそもということになりますと、非常に十分な時間と十分な労使の御議論が必要な重い課題であると思っております。それは重要な議論だと思うのですが、事務局が提示した思いとしては、会社法制定などに伴い、既に顕在化している問題で、迅速な対処も行いやすい課題について鋭意御議論いただき、合意を得て、できるものを迅速にしていくということで提示したという趣旨は御説明したいと思います。

 もちろん、その中で労使協議の充実は課題だと思っており、事業譲渡のガイドラインを含め、そういう趣旨で提案していることを多少御理解いただきたいと思います。

○鎌田座長 では、荒木委員がおっしゃったように、他の法令で確保されている権利義務を前提にして、独自のルールをどう定めていくかという観点で、論点が出てくるのかなと思っております。実態については、まだ実態ということで、いろいろと御意見を伺いながら、更に検討すべき課題を見付けていきたいと思っております。このほか、何かありますか。

○村上委員 先ほどの議論に関わってくるのですが、資料2の7ページに労働契約承継のルールが記載されております。先ほどの御説明ですと、債務超過分割も可能となったことに対して、承継の定めのある主従事労働者については、「異議申出や通知の対象になっているという状況や、通知が行われた後に異議申出権を行使するか否かを判断するために必要な手続として、承継される不従事労働者についても5条協議の対象とすることが適当」というような御報告だったかと思います。やはり、先ほど鈴木委員もおっしゃっていたように、日本の雇用慣行を考えた場合には、必ずしも仕事がずっと特定されているわけではなく、様々な仕事をしていく労働者もいるわけです。そのような中では、誰と労働契約を結ぶことになるのかについては、労働者には決定権がなくてよいのかという点は疑問です。承継の定めのある主従事労働者に異議申出権がなくてもよいということでは必ずしもないのではないかと思います。

 確かに、企業の組織再編の必要性も否定はいたしませんが、必要な組織再編をしていくのであれば、職場の変化や生活がどうなっていくのかということは労働者や労働組合に大きく関わってくる問題です。そういうことで言えば、狩谷委員もずっと申し上げておりますが、労働組合や職場の代表がきちんと組織の変動について協議していくことの担保は必要ではないかと思っております。

 普通に通常の労使関係があり、様々な問題についてきちんと協議していくような慣行が確立されている所は、義務的団交事項に関しても、事前にきちんと情報提供されていて、それで済んでいるのでしょうが、そうではない所では何の通知もなく、ある日突然事業譲渡するとか分割するというようなことが決まることもあるのが実態です。そういう意味では、情報提供や協議については、集団的なルールを整備していく必要があるのではないかと考えております。そういう論点についても、検討項目の中で挙げられているとは思うのですが、そのような趣旨で検討していきたいと考えております。

○鎌田座長 検討項目としては、この中に入っているのでしょうかということでしたが。

○労働政策担当参事官 確かに、今おっしゃったような論旨に労使協議を実効あるものにという御趣旨では、検討項目に入っていると思いますが、おっしゃったように義務的団交事項などで整理されるものがうまく使えないというところまでいくと、ほかの制度との関わりがあるので、どうなのかなという気が事務局としてはいたします。そこは座長もおっしゃったように、他の制度や他の法律の徹底でやらなければいけない部分と、正に事業譲渡、会社分割に特化してやらなければいけない部分とは整理されるべきかとは思います。

○鎌田座長 ほかにありますか。

○狩谷委員 今、我々の所で集中的に問題になっているのは、株を取得することによって、企業を事実上支配下に置くという再編の形です。やはり同じような問題が起こっていまして、Tサービスという所が65社の会社をグループしており、1万人ぐらいの従業員がいるようで、グループで年商2,000億円を目指すということです。我々の組織内に上場企業は幾つかありますが、Tサービスがその中の従業員150名ほどのA企業という会社の株をちょっとずつ取得して、ある日突然、Tサービスが3割の株式を取得した経営者として登場して来る、乗り込んで来るわけですね。そこで何をやり始めるかというと、労働組合があれば、その労働組合を弱体化か破壊するという格好で、まず労働協約を破棄してきたり、ユニオンショップ協定を破棄してきたり、更には一時金を出さず、組合三役を配置転換で飛ばしてしまうということです。このように、幾つかの労働組合では、組合員が200人いたのが7人になってしまうなど、そのようなことをずっと系統的にやっているのが問題になっています。JAMの関係で既に4件やられています。A企業はまだやられていないのですが、今年の春闘で、一時金を出さないということ、あるいは無茶苦茶な査定を入れるということに対して組合が怒りまして、100日間のストライキをやって、何とかそれを阻止したのです。

 しかし、現実にはそういう問題が生じているわけです。今まで30年間、A社では、そのようなことが起こったことはなかったのが、そういう経営者が登場することによって、こうした問題が起こり始めた。はっきり言えば、今、そういう経営者が増えています。ブラック企業が問題になっているのと同じことで、これは社会問題にすべきではないかと私は思っています。どうも経営者の権利感覚がおかしくなっているのではないかと私は思っております。そういう意味で、こういう問題に対応できるようなところも議論してほしいと。

 もう1つは、この問題と絡みますが、ホールディング会社、純粋持株会社ですが、これとの団体交渉権というのがやはり問題になるのです。ホールディング会社での再編も増えています。

 これはうまくいっている実例ですが、バッテリーメーカーで世界上位の会社ですけれども、これはA社とB社が合併しました。これは組合も合併する方向で動いたのですが、その時、この組合はホールディング会社を作り、それとの団体交渉権を労使協議して決定しました。協定化しているのですね。だから逆に、うまいこといったのですね。確かに人員整理もやむを得ないので、ある程度人員整理をやらざるを得ないという面はありました。しかし、最大限雇用を守るのだという大前提のもとに、両者の協議がなされたという例があります。

 しかし、問題になるのは、圧倒的多数の事例においてはホールディング会社と団体交渉をすることは必ずしもできないのですね。これ、難しいのです。いわゆる使用者概念の拡大とか、法人格否認の法理がありますけれども、実際のところ、これを適用するのは非常に難しい。しかし、ホールディング会社と交渉しなければ、かえって物事が根本的に解決しないという例が多いのですね。だから、そういった意味で、その道を切り開くような対応が必要なのではないかと思います。以上です。

○鎌田座長 狩谷委員、お願いですが、今、個別企業名を挙げて、これについて検討してほしいという御意見でしたが。

○狩谷委員 いや、個別企業で検討するのではないです。

○鎌田座長 いや、そうおっしゃったのですが。

○狩谷委員 だから、個別企業のことを検討してくれとは言ってません。

○鎌田座長 やはり個別事案については無理なので、それはできないということで御了解いただいたということで。

○狩谷委員 具体例として挙げたまでであって。

○鎌田座長 はい。

○狩谷委員 個別企業について検討してくれとは言っていません。これは我々が解決する問題ですから。

○鎌田座長 あと、個別企業について、狩谷委員が御意見をおっしゃっていますが、ただ、個別企業の名前を挙げていただく場合には、恐らく反対の考えの方もいらっしゃると思います、そのおっしゃっている事実について。ですので、できれば細かなそういった事実を摘示して御意見を述べるということは、具体例を示すという点では分かることなのですが、御注意いただければと思います、公平性ということで。

○狩谷委員 分かりました。

○鎌田座長 はい。使用者性についての問題提起をされたということですか。

○狩谷委員 そういうことです。

○鎌田座長 はい。どうもすみません、余計なことを言いまして。

○鈴木委員 ただいまの使用者性の問題について、一言申し上げたいと思います。例えば、持株会社が子会社の労働条件について、主要な労働条件に、雇用主と同視し得る程度に現実的かつ具体的な支配、あるいは決定をすることができる地位にあるということであれば、これは恐らく、その場合でも使用者性というのが認められると思いますし、そこはこれから周知をしていくことが重要だと思います。ただ、御提案は、個別具体的な救済ということではなしに、何か具体的な立法をするという御提案ではないかと受け止めましたけれども、私自身は、使用者性というのは、定律の基準を定めるということは、現時点ではかなり難しい問題だと思っていることから、何か立法的な措置ということについては反対の立場を明確にしたいと思います。

 むしろ当検討会としては、例えば、譲渡会社に個別承継の同意を取る際に、当然、その任意性というのが必要なわけですので、その任意性を担保する何らかの一定の手続のガイドラインを定めることで、事前に紛争を予防していくというような方向性で考えていくことが重要ではないかと思っております。その際、譲渡会社の話合い手続と、譲受会社の話合い手続というのが2本走るということになると、やはり実務上は混乱を来すのではないかというところも含めて検討すべきではないかと思っております。

○鎌田座長 ありがとうございます。

○狩谷委員 譲渡の際の譲受会社と譲渡会社の問題ですが、我々、譲受会社のほうにも団体交渉を要求します。むしろ、それに応じて議論してやったほうがうまいこといくのです。そこを避けるべきではないのです。

 それと、いわゆる事実上の支配権を持っているということでおっしゃいましたが、仮にそうであっても、では、団体交渉に応じる義務が生じるのかと言えば、そうではないのですね。これは非常に難しいのです。そういう法律の文言が限定されていても、現状は非常に難しいということです。だから、その辺のところについて、何らかのフォローが必要ではないかということです。

○鎌田座長 この件に関連して、あるいは別のことでも結構です。

○久本委員 ちょっと違うのですが。雪の影響で大変遅れて申し訳ありませんでした。

 私は法律が専門ではなく、労使関係のことをやっております。この検討会はかなり具体的に法的な内容を話し合うということだと思います。法律上細かいところは必ずしも理解できていないところもありますけれど、「講ずべき方策に関する検討項目()」という資料5が出ています。今までのお話を伺っていて、私が感じたところを少しだけ言わせていただきたいと思います。

 1つは、2の事業譲渡の所ですが、労働者との関係の手続ということと、労働組合等との集団的手続というのがあります。今日のお話はどちらかと言うと、今、組合の方がおられますので、組合の集団的手続の話をされました。もちろん、これは重要なのですが、もう1つ、労働者個人の権利ですね。かつ、それも権利を与えるというだけではなく、それをいかに実質的に担保できるかということを考えることが必要かと思ったことが1つです。

 もう1つは、労働法との関係で重要になるのは、企業分割とか事業の継承というのが、リストラ目的というか、そういったところが非常に大きいがために問題になるわけですね。それ以外のところは、ほとんど問題にならないのだと思います。だから、正しく、その場合の労働者個人の保護というのを常にベースに置いて考える必要があるのではないかというのを強く意識しました。また、集団的労使関係のところではやはり、協調的労使関係をどう担保するかという観点から、より具体的な細かい話だと思いますが、そういう観点というものが非常に重要なのかと、私は初めてなので場違いな話をしてしまったかもしれませんが、ちょっと感じました。以上です。

○鎌田座長 ありがとうございます。

○田坂委員 企業に属している人間として、今の議論をお伺いして思うところですが、もちろん協調的な労使慣行、これをないがしろにするつもりは全くありませんし、それをどう担保するかというお言葉がありましたけれども、そういう意味では、昨今のトレンドというわけではありませんが、十分に説明して、どう納得するかという、ウエルインフォームド、そして、そのプロセス、こうしたことをどう担保するのかということが重要ではないかと思うところです。

 それはそれとして、企業としては、現行の会社分割の制度、あるいは事業譲渡に伴ういろいろな個別同意、これがどういったツールを使えば、どういったことが必要なのかを理解した上で、なおかつ、労使協調にも十分配慮した上で、再編なりを進めていかないといけないという気持ちでおりますので、今回、検討会の議論にもなるかと思いますが、現在、不従事労働者が5条協議の対象になっていない、こうしたいびつな状況がある。こうした部分は直していけばよいのではないかと思いますが、それを超えて、今ある以上の、ほかの法律で担保されているようなことを取り立てて会社分割、あるいは承継法で新たに求められるということになると、会社側と実務としては、非常にインパクトが大きくなるのではないかといったことを感じましたので、一言申し上げさせていただきました。

○労政担当参事官 いろいろと御議論、ありがとうございます。集団的労使関係を中心に御議論いただき、大変ありがとうございます。

 確かに整理としては、正に協調的労使関係として、どううまく労使がコミュニケーションを深めていくか、という視点での御議論がいいのではないかと事務局も思います。使用者性の問題は、持株会社にどうするかとか、譲渡先をどうするかという議論もあるというのは、我々、労働組合法も所管しておりまして、よく認識しております。ただ、認識しているがゆえに、今、労働組合法上の使用者性をどう考えるかという点について、今の判例以上に事務局が答えを持ち合わせていませんし、それは非常に重い十分な議論、労組法そもそもの議論が別途必要なものというようにも痛感しますので、本検討会で背負うというのは、なかなか厳しいものがあるかと、事務局の立場から思います。

 言いましたように、今、労働契約承継法は、5条の個別協議があり、7条の努力義務がもちろんあり、あと、事業譲渡は今はないという中で、別途、裁判例でもいろいろな解決がされています。事務局からも、できれば次回以降、裁判例なども御紹介しておきながら、個々のそういうものをどういうように解決されているかとかも見ていただきながら、現実的に何が一番実効あるものになるかという議論をお願いしたいと思っております。以上です。

○荒木委員 集団的労使関係法について、参考になる事例の御紹介もありましたが、重要な問題だと思います。実は、独禁法を改正して、純粋持株会社を解禁するということが1990年代にありました。その後に、投資ファンド等を労使関係上の使用者として扱えるのかどうかについて、厚労省で研究会を立ち上げて、そこで検討しています。そのときの結論は、先ほど言及もありましたけれども、最高裁の朝日放送事件というのがありまして、子会社のほうの労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができるような地位にあった場合には、親会社等も団交義務を負うのだという判例がありますので、それと同じ考え方で、投資ファンドあるいはホールディングスといった持株会社が、単なる株主にとどまる場合と、そうではなくて、実際の子会社の労働条件に直接口を出して支配しているという場合、それは今の判例法理で対処できるのではないかと、そういう整理が一応なされたところです。

 今回の研究会報告書で、団交義務を負い得る場合は団交の問題になるのだということに言及しているのは、そういうことも踏まえて、持株会社だったら団交義務を負わないということではなくて、団交義務を負い得る場合があって、その場合には団交を尽くすことが必要である。そのことを前提に、そのほか、更にどういうことをなすべきかという報告書になっていたかと思います。

○鎌田座長 ありがとうございます。資料5の「講ずべき方策に関する検討項目」ということで、これに関連して、今、幾つか論点が出されて、それなりに議論が行われてきているところですが、何か付け加えるもの、あるいは深めるようなテーマはありますか。

○村上委員 先ほど狩谷委員と私から、集団的労使関係の部分について縷々申し上げてきたのは、この議論に参加するに当たり、私たちも傘下の組合のメンバーといろいろお話聞いたところ、やはり一番関心があるのは、この部分でありました。トラブルも多くあるということでした。今後、ここは何らかの解決ができないかということに大きな関心があるということで、JILPTでの調査などでもそのような事例が報告されると思っています。確かにこの検討会で解決するのはなかなか難しい論点であることは、ある程度は理解しているつもりです。ただ、現実にこうした問題があって、それが検討課題であることは、是非、広く認識していただきたいということで申し述べているところです。

 また、議論の中で、会社分割について要望があった点です。労働協約も承継されるところ、債務的部分の承継については、労使で合意して、合意したものについては承継されるということですが、ここについて、相手先に組合がない所との承継のときに問題が生じる場合もあります。この点、指針の中で述べられているところではあるのですが、もう少し周知をしていただくか、指針の中に具体的に書いていただいたほうが分かりやすいのかというところはあります。

 また、会社分割の関係では、会社法が制定されたことによる問題点だけではなくて、先ほどから申し上げていますように、そもそもの要望として、承継の定めがある主従事労働者について、なぜ異議申出権がないのかという論点は、以前から労働組合の中で強く言われているところですので、そういった論点も、是非検討事項に入れていただきたいと思っております。以上です。

○鎌田座長 ありがとうございます。そのほかにありますか。よろしいですか。スケジュール、進め方についてはいかがでしょうか。これでよろしいでしょうか。

 事務局のほうで、今、御議論いただいた所で、何かもう一度、繰り返しでも結構ですが、あればおっしゃってください。

○労政担当参事官 本日の御議論も踏まえながら、次回、もう少し具体的な項目を更に具体化して、講ずべき方策のイメージが分かるようなものも提案としてさせていただいて、御議論いただきたいと思います。

○鎌田座長 それでは、そのようなことで進めていってよろしいでしょうか。ありがとうございました。

 本日は様々な御意見を頂きました。様々な具体的な状況についての御説明もありまして、私としても、正にこの問題の深刻さというものを感じたところです。他の法令との関係も含めまして、いろいろ整理しなければいけないこと、あるいは、ここでの独自の問題というのはどういうものかを改めて考えていきたいと思っております。スケジュールはおおむねこのような形です。検討項目については、今、御議論いただいた所で、今度、事務局で整理していただきたいと思います。このようなことで、次回、議論をしていきたいと思っております。

 それでは、次回以降の検討会の開催について、事務局から連絡があればお願いします。

○労政担当参事官室室長補佐 次回以降の検討会は、2月中をめどに調整中です。追って正式に御連絡させていただきます。よろしくお願いいたします。

○鎌田座長 それでは、これをもちまして本日の検討会は終了いたします。お忙しいところ、どうもありがとうございました。

 

 

 

 

 

 


(了)

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