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2015年7月28日 第8回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会議事録

政策統括官付労政担当参事官室

○日時

平成27年7月28日(火)13:00~15:00


○場所

厚生労働省 労働基準局第1・2会議室(16階)
(東京都千代田区霞が関1丁目2番2号 中央合同庁舎5号館)


○出席者

荒木座長、金久保委員、神吉委員、富永委員、橋本委員、(経団連)輪島氏、阿部氏、(連合)新谷氏

○議題

(1)組織変動に伴う労働関係上の実態・課題について(ヒアリング)
(2)その他

○議事

○荒木座長 定刻より少し早いですけれども、全員お集まりですので、ただいまから第8回組織の変動に伴う労働関係に関する研究会を開催いたします。大変お暑い中、お集まりいただきましてありがとうございます。議事に入る前に、事務局より委員の出欠状況等について報告をお願いしたいと思います。

○労政担当参事官室室長補佐 本日は、神林委員、高橋委員が欠席となっておりますのでよろしくお願いします。

 まず1点、参考資料について補足させていただきます。参考資料1として、「組織の変動に伴う労働相談及び労使協議の状況について」を添付しています。「都道府県労働局における『労働契約の承継』に関する相談件数」「企業組織再編等の実施に当たっての労働組合の関与」「企業組織再編等の実施に当たっての労働協約の承継」について、平成25年労働組合活動等に関する実態調査等からまとめたものです。適宜御参照ください。

○荒木座長 早速議事に入ります。これまで裁判例の研究や諸外国の法制などについて報告、検討を行ってまいりましたが、本日は「組織変動に伴う労働関係上の実態・課題について(ヒアリング)」ということで、労使の関係者の皆様の御意見を聞くことになっております。本日は、日本経済団体連合会の輪島労働法制本部長、阿部労働法制本部主幹、日本労働組合総連合会の新谷総合労働局長にお越しいただいております。どうもお忙しい中ありがとうございます。まずは日本経済団体連合会の輪島本部長、阿部主幹より、「組織変動に伴う労働関係上の実態・課題について」の御説明をお願いできればと存じます。

 なお、説明者配布資料のほかに、事務局から「これまでの研究会報告・通知」「労働契約承継法関係資料」を参考として配布をしています。適宜御参照いただければと存じます。それでは、輪島様、阿部様よろしくお願いいたします。

○説明者(阿部主幹) 経団連の労働法制本部の阿部と申します。本日は本部長の輪島とともにこのような場にお招きくださり、誠にありがとうございます。早速ですが、事前に頂戴した項目にしたがいまして、今回のこの研究会の検討課題についての考え方を述べたいと思います。配布資料については、資料1が私どもが準備したレジュメです。あと参考までに第5回の研究会の資料もお付けしていますので、必要に応じてこちらの資料についても言及したいと思います。

 早速ですが、レジュメの1枚目に戻りまして、1.日本企業における組織再編の現状ですが、こちらのグラフを御覧ください。日本におけるM&Aの件数は、持株会社の解禁、株式移転、株式交換制度の創設、会社法の施行といった制度変更があり、2005年から2007年にかけてピークとなりました。その後、リーマンショック前後で落ち込んでいましたが、近年ではまた件数が伸びており、企業再編の動きが活発化しています。経済のグローバル化が伸展する中、企業グループ内の会社分割や統合といった組織再編だけではなく、グループを越え、海外を含めた外部企業との合併や買収等、企業再編の動きが加速しているといえます。直近でも業種を問わず、日本企業による外国企業の大型買収が大きく報道されているところです。

 その次に、会社分割に伴う課題について、会社法制定、裁判例を踏まえた課題の2つの論点を頂戴していますが、まずは会社法制定に伴う変化についてです。資料1参考の第5回研究会の資料31ページ、「組織変動に係る法制度の主な動き」を御覧ください。組織再編法制の整備の一環で、2001年に会社の分割制度が導入され、それに伴い労働契約承継法も制定されました。企業としましては、会社分割を実施する際には承継法の手続にのっとって労働契約の承継を進めているところです。しかし、会社法の制定に伴い、分割のルールが変更されるなどの環境変化の中で、承継法の実務に関しても課題が浮かび上がっています。この課題も大きく分けて2つあります。

 まずは分割単位についてです。第5回資料32ページ、会社法制定1「事業に関して有する権利義務」ですが、会社分割制度が導入されたときは、会社分割の対象は「営業の全部又は一部」との文言の下で、事業単位とされており、承継法も事業単位の承継を前提にしております。しかし、会社法制定後は分割の対象は「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」とされ、実際に事業単位から大きく乖離した権利義務の承継も会社分割で行われるようになっています。

 分割対象が事業に関して有する権利義務とされたことに伴う実務上の課題を指摘したいと思います。レジュメの1ページに戻り、2.会社法制定に伴う変化ですが、こちらで簡単な図をお付けしています。前提としてA社という会社に子会社管理事業Bがあり、その事業に5人の従業員が働いているケースを想定しています。網掛けの部分は今回分割するということで、分割対象である子会社Cの株式を示しています。子会社管理事業Bで従事している5人の従業員の中で、子会社Cの株式の管理要員になっているのは従業員eだけであり、その業務内容も月に1回数時間程度、子会社Cから上がってくるレポートを読んで確認しているだけのものです。

 今回、その矢印にあるとおり、子会社Cの株式を会社分割して第三者に譲渡する際、図の右側にあるとおり、子会社管理事業ということで見た場合、この5人の従業員全員が主従事労働者となり得ます。しかし、権利義務レベルで見た場合は、管理を担当している従業員eしか問題となりません。しかもこの場合に従業員eを本当に主従事労働者と見るべきかということも問題になると思います。

 このように労働契約承継法は事業単位の承継を前提に作られているので、今回の分割に際して子会社管理事業Bの従業員5人全員が主従事労働者となり、手続を取らなければならないとも解釈されますが、そういったことは現実的ではありません。従業員abcdが主従事労働者として異議を申し出て、移ってくるということは考えられません。実際は従業員eとだけ形式的な承継手続を取る例が少なくありません。

 この問題は、事業レベルと権利義務レベルが大きく乖離すればするほど発生します。また、グループ内再編であればほとんど問題にはなりませんが、第三者に承継させる場面では、このように関連従業員に異議申出権が発生するかどうかという、非常に看過し得ない問題が発生することになります。この問題を法律の解釈で整理するのか、指針で規定するのかを検討する必要があるのではないかと考えています。

 レジュメの2ページ。矢印で示しているとおり、この問題は実務の観点からは承継手続は事業単位の分割に限定して、株式や事業用財産のみの分割の際には、手続は原則不要ということを指針で示すべきではないかと考えています。ここで述べています手続の内容ですが、言葉足らずで恐縮ではございますが、承継法の法律上の手続は全てということではなく、少なくとも5条協議、労働者への通知、異議申出は不要ではないかということです。7条措置や労働組合への通知は、事業体でない分割でも必要だろうと考えています。

 またこのような事業に至らない株式や事業用財産のみの分割はどのくらいあり、どういったニーズで実施しているのかということについてです。まずその数ですが、正確なものを把握しているわけではありませんが、会社法制定により、事業単位でなくても分割できるとされたために、そもそも承継対象権利義務が全体として事業を構成するに足るかどうかという検討、それ自体が実務では行われなくなっています。ですので、事業に至らない分割それ自体はかなり多いであろうと想定されています。こうした分割を行うニーズですが、承継対象権利義務に係る利害関係者が多い場面で、その利害関係者全員から個別同意を取得することを回避したり、なかなか個別同意を短時間に取得するのが難しいときに利用したりするという、そういったニーズがあるということで承知をしています。

 次に、分割単位に関連してレジュメの2ページ目の下のポツですが、不従事労働者との5条協議についてです。このように分割対象が事業単位でなくなったことに伴い、承継事業に全く従事していない労働者でも会社分割で承継の対象とすることができるようになりました。しかし、5条協議は指針上、承継事業に従事する労働者と協議するものとされています。

 第5回研究会資料32ページの下、「個別の労働者とその協議・通知の手続」という表です。ただいま説明したとおり、不従事労働者で承継の定めのある労働者でも、通知と異議申出は対象とされていますが、5条協議は対象ではないと現在の指針上では整理されています。ただし、この点について実務的には、協議なしに通知することは考えづらいので、承継事業に従事していない労働者を承継させる場合でも5条協議を行うことが一般的であると聞いています。これが分割単位の変化ということの課題です。

 次に、会社法制定に伴う2番目の課題である「債務の履行の見込みについて」です。第5回研究会資料33ページの会社法制定2「債務の履行の見込みに関する事項」です。会社法制定前は、債務の履行の見込みがある場合でしか会社分割はできませんでした。制定後はそれが問われなくなりました。そのため、2番目の○にありますとおり、以下の2つのケースについて検討が必要とされています。この2つのケースの場合、当該不採算事業の主従事労働者には異議申出がないことが労働者保護に欠けるのではないかということだと推測しますが、結論から言えば、その指摘は当たらないと考えています。

 まず、ケース1の不採算事業を分割して設立会社Bとする場合ですが、当該不採算事業の債権者は原則として会社法上の債権者保護手続の対象であり、債務の履行の見込みがない中で分割しようとすると、債権者から異議が相次ぐことになります。債権者は、このような分割は嫌なので、すぐに弁済してください、担保を提供してください、それが嫌なら分割を止めてくださいということが言えます。そのため、不採算事業を切り離してなおかつ承継会社が債務の履行の見込みがないという分割の例自体が、机上の空論で現実的ではないと考えています。

 また、ケース2のように不採算事業を残して採算事業を分割する場合、不採算事業の債権者は「残存債権者」として債権者保護手続の対象外であり、分割に対して異議を述べることができません。しかしこの点は次の4ページのとおり、今年5月に施行された改正会社法によって詐害分割規制が導入され、分割された採算事業に対して、分割後も債務の履行を主張することができる場面が認められています。このように、意図的な詐害分割には規制がかかりましたので、不採算事業だけが残ることで、労働者の保護に欠ける場面というのが現実的に生じる可能性は低くなったと言えます。ですので、このいずれのケースにおいても労働者保護に欠けるということは、現実には起き得ないのではないかと考えています。

 次にレジュメの2ページ目の3.ですが、裁判例を踏まえた課題について、研究会の資料として多くの裁判例をおまとめいただいておりますが、日本IBM事件と阪神バス事件について、簡単にコメントいたします。まず第5回資料4の「会社分割に伴う労働関係に関する主な裁判例・命令例について」です。2ページ目の日本アイ・ビー・エム(会社分割)事件です。アイ・ビー・エム事件のポイントは、労働者は原則として会社分割全体の無効は主張できないが、5条協議が全く行われていなければ、個別労働者の承継無効は主張することができるということですので、この結論は当然のことだろうと考えています。

 次に阪神バス事件について、第5回資料45ページです。会社分割の際は労働契約承継法の手続によらず、転籍同意方式によって承継させるケースは実務ではよく見られると聞いています。阪神バス事件はあくまでも承継法の手続によれば、労働条件がそのまま包括承継されるという、対象労働者が最も希望する選択肢を説明しないまま、転籍合意を選択させた点が問題とされたものだと考えています。

3ページのEMIミュージック・ジャパン事件もそうですが、裁判所は会社分割のとき、労働条件はそのままで承継される、これが原則論であり、その原則を動かしたいのであれば、そのことをきちんと説明してくださいと言っているのだろうと思います。そのため、転籍同意方式そのものが否定されたわけではないと考えています。以上が最近の裁判例についての私どものコメントでございます。

 最後にレジュメの2ページ目、4.事業譲渡・合併についての考え方を述べたいと思います。事業譲渡・合併に関する考え方は、資料にあるとおり2002年の研究会のときに、2001年に使用者側もヒアリングで呼ばれて考え方を述べましたが、そのときの意見と基本的には変わっておりません。2001年当時、意見として述べた内容としては、まず、合併については、「合併の法的性質は、包括承継であり、現に合併を巡る労使紛争事件も極めて少なく、法的措置を必要とする問題を生じていない」ということです。また、「事業譲渡には多種、多様な形態があり、これに一律の規制をかけ、画一的な労働者保護を図ることには無理がある。事業譲渡などの企業組織再編を行うに当たっては、労使協議の活用が望ましいものの、各企業の労使慣行の多様性を踏まえると、法律による一律義務付けは混乱を招き適当ではない」といった意見表明をしましたが、基本的にはこの考え方は現在でも変わってはおりません。

 事業譲渡・合併を巡る最近の問題について、先ほど出てきましたように、分割の単位や対価が柔軟化したということに伴い、事業譲渡と会社分割が外見上同じようになっているのに、会社分割だけ労働承継ルールが法律で定められているのはおかしいのではないかという指摘もあり得ると思います。確かにルールとしては近付いてきていますが、実際に使用される場面ではなお違いがあると言えます。そのことをレジュメに簡単に記しています。事業単位から大きく乖離した権利義務の分割で承継するにしても、先ほど述べましたように、その権利義務について関係者が多く、個別同意を得るのが大変であるから債権者保護手続をはじめとする、厳重な手続の履行を要する分割スキームを活用するわけです。このように会社分割は承継するボリュームが大きい場合に使うことが多いと思います。

 一方、事業譲渡は、ボリュームが小さいときに使われます。そのため実際に使える場面はなお有意な差があると言えます。こうした状況の中で、労働契約承継法と同じルールを事業譲渡で導入した場合、どういったことが起きるかと言えば、先ほど御説明しました会社分割のときと同じ問題が生じます。事業譲渡の場合、会社分割より事業レベルと権利義務レベルの乖離が大きくなります。事業譲渡の場合、承継対象としての権利義務が更に細かくなっていることが多いので、ねじれ現象は頻発することになります。承継法のルールをそのまま事業譲渡に導入すれば、更に繁雑な事態が発生することになります。

 加えまして、事業譲渡の場合には、承継法のような特別なルールはなくても、別途転籍の個別同意を労働者から取得するべく、使用者が様々な配慮を行っている実態があります。例えば譲渡先での雇用条件が譲渡元でのそれよりも引き下げられるような場合、転籍の個別同意を労働者から取得するようにすべく、譲渡元ないし、譲渡先において、各種の激変緩和措置を設けるなどの配慮を行っておりまして、労働者保護に欠ける事態が生じているわけではありません。以上が頂いたヒアリングの項目です。あと、頂いた中では、具体的な要望事項がありますが、それについては既に先ほど述べましたとおり、会社分割において事業レベルと権利義務のねじれの問題を解決するために、指針によって明確にしていただきたいということが、今回私どもの講ずべきと考える措置の内容です。簡単ですが、私からは以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。輪島様からはよろしいですか。

○説明者(輪島本部長) 頂いたヒアリング項目は、日頃、余り研さんを積んでいない事項でしたので、経営側の弁護士の先生にお知恵を拝借しながら、また、日々、人事というよりは法務的な立場に立つ何社かの方にお知恵を拝借して、まとめさせていただきましたが、基本的にこれまでの過去に述べてきた考え方と大きくずれるところがなく、かつ、最近の状況に合わせた要望というようなことをさせていただきましたので、御検討いただければと思っています。

○荒木座長 ありがとうございました。皆様から御質問、御意見等を伺いたいと思います。

○橋本委員 御説明をありがとうございました。私の理解が少し及んでいないところがあるかと思いますので、確認させていただければと思います。1ページの最初の2のマルポツで事例も挙げて御説明いただいた所ですが、こちらの事例を見てみますと、A社の中に子会社管理事業部門という事業があるのだと思うのですが、別途、子会社Cの株式を会社分割により売却するということで、Cの管理を担当していたeの雇用が問題になるという理解でしょうか。私が思った限りでは、Cがどこかに売却されてしまっても、A社の子会社管理部門は残るわけですから、Cを担当するという仕事はなくなりますが、eの雇用がどう関わってくるのかが、理解が及ばなかったので、御確認させていただければと思います。

○説明者(阿部主幹) ここはあくまでも子会社Cの株式を分割により売却、第三者に譲渡するという前提です。ここは大企業ということで、多くの子会社を有しているという想定です。事業としては、子会社をあくまでも管理しているというだけの業務で、5人が従事していると。そこで、数ある子会社のうち子会社Cの管理を担当している。子会社Cから上がってくるレポートを読んで、何か内部統制上の問題はないかどうかと、そういったことを確認しているということで、子会社Cの株式については、管理はしているのですが、それも本当に1か月のうち1日程度レポートを読めば足りるという業務です。

 株式だけを分割する場合、事業ということで着目すれば、一応、子会社管理事業ということで、分割に際して事業に従事する労働者が主従事労働者ということで一律に考えれば、もしかしたらabcde5人全員が今回の分割に対していろいろな手続をすべき対象者に、主従事労働者になり得るのではないかということですが、それは正直現実的ではないというのは、恐らく皆さん全員の理解だと思います。

 ただ、権利義務レベルで見た場合、実際、従業員eが子会社Cの株式を管理はしていますので、権利義務レベルでは関わってくるのではないかということで、もしかしたらここのeという従業員だけに分割に際して手続はしないといけないのではないかと、法律の解釈ではそうなのだろうと思います。ただし、株式だけを分割して第三者に譲渡するということですので、株式を引き受ける第三者にとっては、管理だけをしている従業員eを引き受けるということは全く想定されていないのですが、もしも従業員eに「私は主従事労働者です」と言われて、異議を申し立てられて、「株式と一緒に譲渡先に移りたいのです」と言われたら、移れることになってしまいます。ただ、そういったことは現実では起こりませんし、一応、eに対して働き掛けをして、当然移らないよねという確認はするということです。ですので、本当にきっちり解釈して適用すればそうですが、そこは実務上どうなのかという声が挙がってきていますので、承継法の手続は5条協議とかはこういった場面においては必要ないですよということを指針等で明示していただければという要望内容です。

○橋本委員 ありがとうございました。子会社Cが売却されてもA社の部門には何も影響がないはずで、A社の従業員であるeが主として従事する労働者には当たらないだろうと思っていたのですが、今、御説明を聞いて、eが主として従事する労働者に当たるのではないかという解釈問題があるということを理解しました。また考えたいと思います。

○富永委員 今の点で関連したことを伺いたいのですが、最後の所で事業譲渡と合併とは実態としてルールが近付いてきているという話、つまり、合併の単位が小さくなったりして、「事業」という単位とは離れてきているという話を伺いました。そこで、例えば、株式売却の場合などは、なぜ会社分割でしなければならないニーズがあるのでしょうか。普通に考えれば、まだ事業譲渡でやれば、それでいいのではないかと、私は全く素人ですのでそう思ってしまうのですが。

○説明者(阿部主幹) そこは先ほど繰り返しの説明になってしまうと思うのですが、会社分割を行うニーズは、いろいろな利害関係者が関わっている複雑な場合です。事業譲渡の場合、基本的に個別同意が全てにおいて必要となってきますので、簡単なものでありましたら、もちろん株式においても譲渡という形で、そういった契約内容で譲り渡すと思うのですが、いろいろな関係者がひも付いているものについては、なかなか同意は得られないので、厳格な手続をかませたとしても、会社分割のほうが全体として分割譲渡スキームが早く完結すると。そういった場合に会社分割のスキームを使うと聞いていますので、利害関係者が多いか少ないかで、そこは事業譲渡を使うか会社分割を使うか、そこが決まってくるということです。

○富永委員 本件ではabcdeといっぱい利害関係者が出てくることになるところ、権利義務がいろいろと複雑なので分割でやりたいが、分割のほうが労働関係については保護が集まっているので、その意味では手間が掛かる、そこをもうちょっと少なくしたい、というお話ですか。

○説明者(阿部主幹) そこは労働者というよりかは、分割する事業に関わる利害関係者、債権者なのかどうか。私も正直細かい話といいますと、なかなかうまく説明できないのですが。債権者を含めた関係者の個別の理解を得て進めていくのではなくて、そういった個別同意を得られない関係者については、会社分割で、債権者異議手続で一発でやると。そこは何日までに異議あれば言ってくださいということで進めたほうが、全体として簡便に進む場合といったことを想定しており、労働者だけの問題ということではありません。

○富永委員 もう1点だけ補足で伺いたいのですが、債権者異議手続があるという話があったのですが、普通の債権者だと、売掛金があるから、それについての弁済とか、担保を提供してくれとか、債権者異議手続での保護ができると思います。しかし、労働契約の場合、継続的契約なので、今までの賃金債権について弁済とか担保を提供されていても、それだけでは十分な保護にならないという話があるのかと思います。その意味で、2ページの上から二つ目のポツの債務の履行の見込みで、不採算分割の場合、債権者異議手続があるだけで十分かというのが、自信が持てないというところがあるのですが、そこはいかがでしょうか。

○説明者(阿部主幹) そこはいろいろなスキーム等があるかと思いまして、私もいろいろな話を聞く中では、債権者異議手続、債権者保護手続があることによって、不採算事業を切り離す、なおかつ、承継会社が債務の履行の見込みはないという、この二重の意味での分割自体というのは現実的ではないのではないか。もし、行われるにしても、不採算事業を切り離す場合でも、何か金融機関の支援があって、そういったスキームがある中で行われているはずだと思いますので、不採算事業を切り離す、なおかつ、その結果、承継会社が債務の履行の見込みがないということはあり得ないのではないかと。もしも、不採算事業を切り離す場合でも、弁済等もして、身ぎれいなといいますか、きれいな状態になって分割することは、あり得ると思います。そういった場合は特に外見上何か不採算というわけではありませんので、そこで働いている主従事労働者の保護の問題ということではないのだろうと考えております。

○富永委員 ありがとうございました。

○金久保委員 説明をどうもありがとうございました。事業単位でない会社分割のことでお伺いしたいのですが、レジュメの1ページで、子会社の株式の事例を挙げていただきましたが、これは実際にこういう例があるということですか。

○説明者(阿部主幹) はい、弁護士から話を聞いた中でということです。確証は取っていませんが、そういった説明を受けましたので、恐らく弁護士が自分で担当された案件だと承知をしております。

○金久保委員 事業に当たらない場合の分割は、結構多いのではないかとおっしゃっていたかと思うのですが、具体的にどういう場面かが分かりづらくて、一つはこういう株式だけを対象とするという場面があるのかもしれないとは思いました。また、あと1つ想定されるのは、従業員、雇用契約を分割契約等に含めない、阪神バスのようなやり方で事業単位にならないという場合も、あることはよく分かりました。それ以外に事業単位でない場合の分割は、どういう場合が多いと考えられているのでしょうか。

○説明者(阿部主幹) 大きくは事業用財産ということです。それがバス事業では、バスであったり、そういった設備であったりということが想定されますので、私も幾つかの具体的な例を聞いている中でこういったことが、ある程度普遍的に言えるのではないかと聞いておりますので、この例とこの例とこの例と、そういった豊富な具体例は持ち合わせておりませんが、株式や事業用財産ということで、事業単位ではない分割が一定程度かなりの割合で行われているということで、私どもも理解しておりますし、また、そのように御理解いただければと考えております。

○金久保委員 単なる財産の移転であれば、もちろん事業に当たらないと思うのですが、分割の例はかなりボリュームが多いというお話があったかと思います。かなりボリュームがあって事業単位ではない事例で、それは人が移動するのかどうかよく分かりませんが、具体的にこういう場合がそうだと、今、何か分かるものはないのでしょうか。

○説明者(阿部主幹) 具体的に一つ聞いたのが、一つのローン契約を分割したということです。契約の中にいろいろな関係者が交じっているので、なかなか個別同意が難しいと、そういったローン契約1本でも分割が会社分割で行われている。それは事業再生手続の中で行ったとは聞いているのですが、そういったローン契約1本で行われたという例は聞きました。

○金久保委員 今、話があったのは、例えば金融業者の消費者に対する債権があって、消費者がたくさんいるという場合でしょうか。

○説明者(阿部主幹) 具体的に、どういった業種で、どういったローン契約でということまでは、すみません、話しを伺った弁護士が関わった具体的な案件なので、話せば話すほどその内容が特定されてしまうということで、具体的なものは承知していないのですが、例示としてローン契約ということをお聞きしております。

○金久保委員 分かりました。あと、事業に当たらない場合の会社分割の際に、5条協議が行われていることをおっしゃっていただきましたが、承継法第2条の通知はされているのでしょうか。

○説明者(阿部主幹) 研究会第5回資料32ページ、個別の労働者との協議・通知の手続、こちらの不従事労働者で承継の定めがある場合ということですか。

○金久保委員 いや、これですと、不従事労働者の場合は×になっていますが、従事していると仮定していいと思います。そもそも事業単位でなくて人が移動するというのは、想定していないのでしょうか。

○説明者(阿部主幹) すみません、私も誤解していました。先ほどの図で申しますと、従業員eの前提ですが、当然、eは子会社Cの従業員ではありませんので、特に従事してる・してないと言われましたら、恐らくは従事していないのではないかと思うのですが、権利義務、子会社の株式を管理しているということで見れば、主従事労働者に該当し得るのではないかと。もし、そうであれば、承継法の手続と該当法違反になってしまう可能性がありますので、分割スキームをきちんと使うということであれば、手続は主従事労働者としての手続を取るけれども、実際、余り意味はなくて、そういったことは外してくれれば、念のためやっているということが必要なくなりますので、そこは事業に従事していないという解釈でいいのだということをはっきり示してほしいということです。

○金久保委員 あと、阪神バス事件のような分割の場合で、転籍合意で対応している例が実務ではよく見られるというところですが、これを転籍合意で対応する理由については、どういうふうにお考えですか。

○説明者(阿部主幹) 私もこれは直接的に聞いているというわけではないのですが、一般論として述べますと、会社分割において新設の分割であれば、元にいた会社の条件を引き継ぐということで問題はないのですが、吸収される場合、承継先の元の従業員と吸収された側の従業員ということで、結局、二つのものがくっ付くという分割の場合、一国二制度といいますか、以前の分割会社の労働条件を引き継ぐことを考えれば、二つの労働条件が当面走ることになります。同じ会社で一国二制度は早く解消したいのが、企業経営者、人事担当者の多くの考え方だと思いますので、そういったことを処理するために分割後一定程度たってやるのか、それとも最初からそういった分割移行の中に労働条件の変更を盛り込むのかどうか。そういったことで転籍、出向のスキームが、会社分割においても利用されている、転籍同意スキームも使われているのではないかと考えてはおります。

○金久保委員 次の質問ですが、レジュメの2ページの4で説明していただいた部分ですが、会社分割のほうはボリュームが大きいのに対して、事業譲渡の場合はボリュームが小さいので、ねじれ現象が起きて、繁雑だとおっしゃっていたと思うのですが、私はよく分からなかったものですから、そこをもう少し教えていただけますか。

○説明者(阿部主幹) そこは抽象的なことになるのですが、レジュメの1ページの図ですが、これは会社分割で子会社Cの株式を分割するというスキームですが、これでもかなり小さな単位の分割ですが、また、それよりも事業譲渡の場合、もっと小さなものも起こり得るのではないかということで、その事業譲渡についてひも付いている労働者が、権利義務ということで見た場合は、事業レベルので見た場合は全く対象にはならないですが、権利義務で見た場合は、もしかしたら引っかかるかもしれない。ですので、いろいろな手続が必要になるかもしれないという例が、この会社分割の、現在での会社管理事業のこういった問題も起きているのに、事業譲渡の場合はこれよりもまた更にこういった問題が起きてくるのではないかという想定で、そういった状況なのに事業譲渡に会社分割と同じルールを入れてしまえば、今申しますとおり同じ問題が頻発してしまうということも、事業譲渡に労働承継法のようなルールをわざわざ設ける必要はなくて、従来どおりの解釈で進めればいいのではないかというのが、私どもの一つの考え方です。

○金久保委員 株式の分割の場合を想定しているということですか。事業譲渡の中身としてレジュメの1ページのような株式の譲渡のようなことを考えたときに、分割で承継法で定められているいろいろな手続は不要ではないかという御趣旨ですか。

○説明者(阿部主幹) 事業譲渡の場合ということですか。

○金久保委員 はい。

○説明者(阿部主幹) 株式会社はいろいろな、特に事業譲渡の場合は多種多様なものがありますので、当然、そこでいろいろなものによって権利義務関係で引っかかってくる労働者は、いろいろな局面であるということが想定されますので、それは別に株式の譲渡だけに限定されないとは思います。

○金久保委員 もう1点ですが、最後で事業譲渡に関して分割のようなルールを定める必要はないと、以前と同じ見解ですということをおっしゃられていたと思うのですが、事業譲渡の場合に分割で定められているような協議とか、情報提供するとか、そういう手続的なルールを定めたときに、何か不都合とか、それは問題があるとか、そういったことは何かありますか。

○説明者(阿部主幹) そこも繰り返しになってしまいますが、事業譲渡などの企業再編を行うに当たっての労使協議の活用は、当然、望ましいことだと考えております。しかし、各企業の労使慣行などの多様性を考えますと、法律的な一律な義務付けは逆に混乱を招くのではないかと。特に、それによって事業譲渡などの企業再編において、迅速なスピードも求められると思いますので、その迅速性が阻害されてしまうのではないかと。一律的にこれをしなさい、これをしなさいということでは、迅速性が阻害されてしまうと思いますので、各労使の実態に応じた労使協議が行われるということで、今も、指針でも明示されていると思いますので、そういったことを周知していけばいいのではないかと考えておりますので、そこは2001年のときと基本的に変わっていないということです。

○金久保委員 はい、どうもありがとうございました。

○荒木座長 ほかにはよろしいですか。私からも少しお聞きしたいのですが、資料11ページで図を書いていただいております。eという従業員が従事していた業務が、会社分割で承継されるという事例だと思うのですが、そのときに承継法は事業単位で事業に主として従事しているかどうかで見ているのだけれども、これに代えて会社法では事業単位ではなくて権利義務の全部又は一部ということになったところ、それに主として従事しているかどうかというふうに見ると、eはその承継対象の業務には主として従事していることになると。もし、そう考えた場合には、今日の話をお聞きすると、問題が二つあると御指摘されたのかと思ったのですが、一つは、仮にeが承継対象とされなかったとき、最初の橋本委員の御質問のように、eA会社に残れるというので、いいだろうと思って、A社としては承継対象としなかったところ、e自身が自分はその業務に主として従事していたのだから、承継から排除されたことに異議を申し立てたら、承継法上、自動的に移転してしまうことが生ずると。これはそうする必要があるのかという疑問が一つ御指摘になったのかと思います。

 もう一つは、eは行きたくないのに、灰色の部分に主として従事していたときに、会社分割の対象とした場合、本人はAに残りたいのに、承継強制となってしまって、主として従事しているものについては異議の申立てができませんので、それで承継対象となると。それも変ではないかと。今日、そういう問題について御指摘になったのかどうかが確認したい1点です。

 そのことが2ページの議論につながり、事業単位で主従事か否かを考えれば問題が生じないところを、当該分割対象となった業務、権利義務単位で主従事かどうかを見ることになると今のような問題が出るので、そうではなくて、事業単位で見るということをはっきりさせてほしいと、そういう要望と理解してよろしいですか。

○説明者(阿部主幹) はい、まず前提として置いていますのが、先生から御説明いただきました前者のほうです。恐らくこの図のスキームにおいては、eは当然A社に残りたいと思っているはずですし、子会社Cの株式を引き受ける第三者も、まさか管理事業の従業員が株式と一緒に付いてくるということまでは考えていないと思います。

 ただ、そういったことで実務は一応確認して進めてはいるのですが、もしもeが自分は主従事労働者なのに、分割の承継の定めに入っていないのはおかしいのではないかということが、もし述べられるのが現行の解釈であれば、そうなってしまうと。可能性としてはほぼゼロだと思うのですが、現在の法律の立て付け上はそう解釈もされ得るということで、0%に近い確率において一応eに対して承継手続をやっているということですので、そこはeについてはそういった承継手続はしないのが、恐らく実務上大丈夫だと思いますので、そういったことを事業単位で考えて、もしかしたら権利義務で僅かに可能性として主従事労働者になるかもしれないという方については、恐らくそういったことを外してしまっても問題ないと思いますので、今回、そういったことを指針で明示していただきたいということです。

○荒木座長 そうすると、関連して2ページでは、不従事労働者との5条協議は、不従事労働者が承継対象となった場合には実際上やっていると、おっしゃったかと思います。しかし、その上の所で、承継手続は事業単位の分割に限定して、つまり権利・義務単位あるいは業務単位、そういうふうにもっと事業の小さい単位での分割については、手続は原則不要とされて、手続の内容として5条協議、通知、異議申出とおっしゃったのですが、その上で言われていることを及ぼしますと、不従事労働者、当該、例えば1ページでいくと、灰色の業務に従事していて、それで業務には主として従事していないけれども、しかし、分割の対象とすることは会社法上できるわけですね、それで対象としたと。その場合にも5条協議は現在やっていると思うのですが、それをやらなくてよいように明示すべきだと、そういうことにつながるのかと思ったものですから、そこはそういうことなのでしょうか。

○説明者(阿部主幹) 1ページの図のスキームで、もしもA社と第三者の間の承継契約で株式分割におきまして、不従事なのだけれどもeを承継させますという承継契約がもしも結ばれているのであれば、例示がeだと混乱しますので、dとすると、dを承継させますという契約をもしも結んでいるとすれば、全く従事していない労働者という、権利義務レベルでも全く従事していませんが、当然、承継契約にdの名前があるのであれば、今の指針上は通知と異議申出ということですが、当然、5条協議は行っているということは聞いております。

○荒木座長 そうすると、原則の例外としてそういう場合には、当然、協議はすべきだと、そういうことをお考えだということで了解でよろしいですか。

○説明者(阿部主幹) そうです。原則不要、もちろん承継させるということでは、不従事労働者も全ての手続の対象になってくると。ただ、従事労働者に該当するかどうか分からないような場合、しかも承継の定めが双方でないということでしたら、曖昧な部分については原則不要ということで解釈を示してほしいということです。

○荒木座長 分かりました。ほかによろしいですか。それでは、時間もありますので、使用者側からのヒアリングは以上とします。今日は、本当にお忙しいところをありがとうございました。

○荒木座長 引き続き、日本労働組合総連合会の新谷総合労働局長より、組織変動に伴う労働関係上の実態・課題について御説明をお願いいたします。新谷様、よろしくお願いいたします。

○説明者(新谷局長) ありがとうございます。御紹介いただきました新谷と申します。本日は私ども連合からのヒアリング、意見開示の場を作っていただきましてありがとうございます。本日は資料を準備して参りました。ヒアリング用資料が先生方のお聞きになりたい点と合致するかどうか分かりませんが、私どもの考え方を申し上げたいと思います。

 先ほど経団連の委員からもありましたように、私どもも会社分割制度が導入された際には、随分勉強してきたのですが、その後の改正動向に関しては余り研鑽を積んでおりませんので、会社法の制定や改正に伴う変動等々についてはなかなかうまくお答えできないかもしれません。ただ、私自身は、もともと連合に来る前は電機産業の産別組織、電機連合におりました。ちょうど阿部委員がお示しされた、レコフのMAARというデータですが、こちらが2000年分から示されております。私はちょうどこの頃に電機産業の産別組織にいたわけですが、電機産業はその当時、事業再編のデパートみたいなところでありまして、吸収分割から、当時は営業譲渡と言っていましたが、営業譲渡や共同新設分割など様々な再編を行っており、どこの企業とどこの企業がくっついた結果、電機産業はみんな親戚同士になるような感じの再編が行われておりました。そのときに、京都大学の久本先生や村中先生に御指導いただいて研究会を立ち上げまして、私自身としては産業別労働組合としてどういうふうに個別の労働組合を指導するか、特に再編手法において労使協議をどう進めるかという点で、随分と調査等々もしてまいりました。ただ、それから随分時間がたってしまいましたので、ご質問にきちんとしたお答えができるかどうか分かりませんが、資料を説明してまいりたいと思います。

 右下にスライド番号3と書いていまして、これは先ほど経団連の方もお示しになったM&A件数の推移と同様に、組織変動が今後も多く実施されるのではないかといった組織変動の状況を示したJILPTの調査であります。このように、組織変動は今後も多く実施されるという視点は非常に大事であるという認識を持っております。

 スライド5です。連合の組織再編における基本的な考え方として、2009年に「事業組織の再編における労働者保護に関する法律案要綱(案)」というものをまとめさせていただきました。これは当時、毛塚先生を座長に橋本先生にも御指導をいただきながら、研究会を立ち上げて法律案要綱を作成したものです。本日はその中からエッセンスを抜粋し、連合の考え方ということで開陳したいと思います。このときの基本的な考え方としては、組織再編については「事業の移転」と「業務の移転」という2つに分類を行って、その2つの類型ごとに労働者の保護をどうするべきかということをまとめております。

 本日は後者の「業務の移転」については余り触れませんが、これは当時業務委託等々が当時起こっておりまして、これに対する問題について例規を作ったということです。本日は特に前者の「事業の移転」を中心にご説明申し上げたいと思います。

 スライド6は、当時の法制と、私どものまとめた法律案要綱と、この研究会でも資料を出されていますように、EUの指令との関係を整理したものです。これらについては、スライド7以降に詳細に記載しておりますので、そちらをご覧いただきたいと思います。

 スライド7です。ここでは「事業の移転」における労働者保護ということで、労働契約の承継については、「移転元の当該事業に主に従事する労働者の労働契約は、移転先事業主に承継されるものとする」として、労働契約については承継すべきということを記載しております。それとあわせて、事業移転に関して労働者に対して書面で通知を行うべきであるとしています。それと、異義の申立についても規定を設ける必要があるということと、異議を申し立てたことを理由とする不利益取扱いの禁止についても規定しております。不利益取扱の禁止は指針にて規定されておりますが、法律的な強制力がないということで、これを法律に格上げするべきであるということです。また、労働条件の不利益変更を一定期間制限するということも必要です。先ほども経団連の方がおっしゃっていたように、会社分割法制、労働契約承継法を使ったとしても現実的な問題として残るのは、会社分割では承継したその日時点での労働条件が包括承継となるだけで、吸収分割や共同新設分割などの場合には二つの労働条件がいわば一社二制度のような形で走ることになりますから、2つの労働条件の調整というのが当然、課題として出てくるわけです。そのときに不利益変更の問題が出てくるわけですが、法的には分割の日において従前の労働条件が承継していればいいわけでよいということですから、極端に言えば、承継の翌日に労働条件の不利益変更を行っても労働契約承継法上の法違反にはなりません。そこで、その不利益変更の期間を少なくとも1年間禁止するといったことを法律で定めるべきではないかということです。それと、移転後の労働債権の連帯責任ということなのですが、これは泥舟分割の話も先ほど出ていましたが、意図して履行見込みのない債務をいずれかの会社に寄せて分割 して沈められてしまうというケースばかりではなくて、結果的に事業の環境が良くなくて会社が持たなくなってしまうというケースも考えられます。そこで、事業移転後3年以内に移転先事業の消滅により労働契約が消滅した場合であって、その消滅に移転先事業主が直接または間接に関与しているときは、それまでに発生した労働債務について移転元事業主と移転先事業主が連帯責任を負うとしています。

「業務の移転」に関してはスライド8に書いてありますが、本日のヒアリング内容には余り関係ありませんので、後ほど御覧いただきたいと思います。

 スライド910です。事業再建における集団的な労使関係への影響を記載しております。1つは労働組合への情報提供義務ということです。現在の承継法第2条は労働協約を締結している労働組合に対してだけ通知義務を規定していますが、労働協約を締結している労働組合に限らず全ての労働組合に対する提供を行うべきだということです。つぎに、労働協約のうちの債務的部分の承継について記載をしております。さらに、規範的部分についても、現行の承継法第6条と同様に、同一内容の労働協約が締結されたものとみなすべきであるということを記載しております。それと、労使の協議義務ということで、現在承継法第5条にて労働者個人との協議義務を課していますが、現実的には5条協議の場合に、労働組合との関係で言いますと、労組法上の団交権は何ら阻害されるものではないという前提ですが、任意代理という形で当該労働者の代理権を労働組合に授権するという手続をもって、労働組合が会社と協議を行うということをやっております。このことを法律的にきちんと書き込んでほしいというのがこの中身です。さらに、この際の団交の誠実応諾義務について、移転先の団交応諾義務を入れるべきであるということを記載しています。

 スライド10です。これも情報提供についてです。組織再編の内容が変更可能な時期までに労働者代表等への情報提供を行うべきであると書いておりまして、実はこれはインサイダー取引との関係で、現実的にはかなり難しい問題があります。私は当時、電機連合在籍中にこの点について調査を実施しましたが、やはりインサイダーというのはコンプライアンス上の大きな問題で、非常に企業側も気を遣うところです。社会的に再編の内容を公表してしまうと、実質的な労使協議が制限される側面もあるため、現実的にどのように情報提供を行っているかというと、一番多いのが誓約書を取るというやり方です。情報を社会的に発信する前に、労働組合の代表と誓約書を取った上で事前の協議を自主的に行っているという労使関係の企業が結構多いと思います。ただ現実的に、このような手段は成熟した労使関係のある企業はできているのですが、法律的な担保は今は何もありません。ここの辺りをインサイダーとの関係でどういうふうに整理するのかという問題はありますが、やはり情報の事前開示義務、提供義務は入れるべきだと思います。

 次にグループ内企業の移転の問題ですが、これは通常の事業再編と比較した場合、企業ブループ内での雇用の維持や労働条件の維持という観点が、通常の再編とは違うのではないかということがあります。先ほど申し上げた不利益変更の禁止期間を、この場合については3年間に加重をし、労働債権に関する連帯債務についても5年ということで加重的に課しているというのが我々の考え方です。現実的に事業再編を行われている大手の労使関係などでは、子会社として新設分割する際なども、労働条件だけではなくて、雇用についても、例えば「5年以内にその新設分割会社が破綻した場合には、親会社が雇用を引き取る」というような労働協約を結んで協議を行っている企業などもあります。しかし、それはさきほども申し上げたように、それらは大手の成熟した労使関係の下での内容であり、実際には労働組合は8割の職場で存在しないわけですので、法律的な担保が必要ではないかと思います。それから、公務への適用も入れるべきだというのがここでの内容です。

 以上が、我々としての基本的な考え方ですが、そのうえで次のスライド11から始まる所が、現行法制において課題として考えている点です。スライド12にありますが、やはり組織変動に伴う一番大きな問題としては、労働者保護の面では、事業譲渡における労働者保護のあり方について検討していただきたいというのが第一義的に申し上げたい点です。EUと比較した場合に、日本における事業譲渡の場合、何ら労働契約の承継についての規定がなされていないものですから、現実としてはモノと同じように雇用が扱われているケースがあるように思います。事業譲渡では特定承継ということになりますので、労働者Aの契約は承継する、労働者Bは継承しないという厳しい労働者のふるい分けが行われることが往々あります。もちろん民法625条で本人の同意が必要であるという前提には立ちますが、承継する際の労働条件についても、労働条件の切り下げが行われ、労働者がもう同意せざるを得ないという状況の中で追い込まれていくということが現実の課題としてあると思います。

 スライド13に、その辺りを詳細に書いています。これは特定承継の前提として、1.譲渡会社と譲受会社の間の合意がまずあって、その次に2.民法625条の本人同意というものがプロセスとしてはあるわけですが、この1.の「会社間の合意」というのが1つのポイントになるのです。私が電機産業にいたときに実際にあった事例では、超大手の通信系会社の子会社がグループ事業再編の中で、子会社丸ごと事業部ごとに切り売りをされまして、その子会社の事業は確か5つぐらいあったと思いますが、全部ばらばらに売られてしまったというケースです。このケースは営業譲渡の事例なのですが、詳細は忘れましたが、外資の会社に1つの事業が売却された際に、売却先の会社の人事部門によって当該事業に従事する労働者全員の面接が行われ、この人は要る、この人は要らないという選別が行われました。事業はほしいが労働者は100%丸ごとは要らない。そのうちの70%だったら受け入れるということで、買い手の会社から乗り込んできて、「Aさんあなたは要るけど、Bさんあなたは要らない」というようなことも現に行われているのです。労働条件についても、「100%の条件では受けられないので、これを70%に下げたら買ってやる」などということが現実に起こるわけです。再編の中で、もうかる事業はそもそも売却しません。やはり赤字事業が売られることが多いので、そうした場合にその売買の中で労働契約について物と同じような売買が現実には行われているということです。

 そのときに、民法第625条の本人同意があるではないかといっても、残留しても事業がなくなりますので、会社が清算されてしまう状況です。不本意で残ったとしても解雇ということになりますので、これでは不本意ながらも転籍に同意をせざるを得ません。こうした現実の課題に対して現行の法制度は何も手当がされていませんので、事業譲渡における労働契約の承継の問題は大きな問題だと思います。

 また、スライド13に書いてありますように、「承継される不利益」ももちろんありますが、「承継されない不利益」というものも当然ありますので、これは両面で見ていかないといけないと思います。やはりここは、後ほど承継法の問題点の中でも述べますが、承継法のようなスキーム、部分的包括承継のスキームの中で不同意権等々も含めて考えるべきだということは申し上げたいと思っております。それと、情報提供の義務についても、現行の法制度では何ら手当てはされていないと思いますので、労働者並びに労働組合の情報提供義務についても考えるべきではないかと思います。

 スライド14以降が、労働契約承継法に関する問題点の指摘です。問題点1というのは、申し上げたように、事業譲渡も会社分割も単位も小さくなってきていることに伴い、両者の境目が段々なくなってきているので、ここはやはり承継法のスキームを事業譲渡についても適用するべきだということが1つです。問題点2は、承継法制定当時に、解雇の禁止規定を承継法だけに入れるということはできないと議論された点についてです。これは労働契約法ができる前の時点での論議でしたので、労働契約法が制定された今、労働契約法の法規定と、承継法の法規定の整合をどう取るのかということの検討があらためて必要ではないかと思います。

 スライド15です。これは今の承継法のスキームの中の主たる従事者の異議の申出権の問題です。a)の所は、承継法制定当時に民法625条との関係で論議をされた問題かと思います。確か民法625条は強行規定ではないかと思いますが、この625条の本人同意を承継法では外してしまっているということは、やはり改めて考える必要がないのかということです。

b)の所に書いてあるのは、後ほどスライド17でも出てきますが、先ほども論議がありました会社法制定に伴い、会社分割の単位が「営業の全部又は一部」から「事業に関して有する権利義務の全部又は一部」とされたことで、不従事労働者のうち分割契約等で承継対象と定められた労働者が5条協議の対象外とされているという問題です。5条協議は、先ほど経団連の方もおっしゃっているように、実際には不従事労働者と協議されているのかもしれません。しかし、5条協議の効果というのは、先ほどのIBM事件にもありましたように、これは分割無効の根拠になるものですので、ここはやはり法律的に手当てをしておかないといけないのではないかということです。現在の承継法のスキームが、主たる従事者には不同意権はなく、分割計画書に名前が記載されると自動的に労働契約が承継されてしまうしかないわけですので、5条協議の手続については、不従事労働者にもカバーをしていくべきだと思います。スライド17は、先ほども申し上げたとおり、不従事労働者のうち分割契約等で承継対象と定められた労働者を5条協議の対象とするべきということを改めて記載しております。

 スライド18については、改正前商法では「各会社ノ負担スベキ債務の履行ノ見込アルコト及其ノ理由」がその事前開示事項とされていたところ、会社法制定に伴い、「債務の履行の見込みに関する事項」と改正されました。このように「債務の履行の見込みがあること」という要件が外れてしまっているということは、大変なことではないかと私は思うのです。先ほど経団連の方は、「不採算事業を切り離してなおかつ承継会社が債務の履行の見込みがないという分割の例自体が、机上の空論で現実的ではない」ということでしたが、そのようなことは全然ないと思っています。もともと、会社分割法制を制定したときも、「債務の履行の見込みがあることという根拠が一体何なのか」というところが問題になっていました。当時から泥舟分割の懸念があったわけで、「債務の履行の見込みがあること」がそれに対する一つの防御的要件となっていた訳です。会社法制定に伴い、その債務履行要件が外されてしまっているということですので、これについては先ほど申し上げたように、今ある承継法のスキーム、主たる従事者についての不同意権がないということとの関係で、これは不同意権についてセットで検討するべきではないかと思います。もちろん、残留した労働者がそのまま残った会社ごと沈められてしまうという問題も当然出てきますので、不採算事業に残留する非主従事者に対する異議の申立権についても検討する必要があるのではないかと思います。

 それと、もともとこの検討会は厚労省の検討会ですので、承継法等を中心とする領域が検討範囲とされていると思います。これは法務省に言うべき内容かとも思いますが、もともと会社法のルールを変えた際にもう少し労働者保護という面を考えておくべきではなかったかと感じております。やはり、会社分割に際して債務超過分割を容認しないというような要件の再設定を行うべきではないかと思います。かつて会社分割法と承継法を制定した際の政府答弁では、債務の履行の見込みがない場合には会社分割は許されないというのが当時の立法趣旨であったわけで、なぜ会社法はこのような改正をしてしまったのかなということは非常に残念に思っております。

 スライド19が、先ほども論議されていました会社分割における転籍同意方式の問題です。これは、会社分割法制という組織法上のメリットを使いながら、本来セットで適用されるべき労働契約承継法による労働契約の部分的包括承継を使わずに、個別同意転籍を行うということです。これは先ほどの阪神バス事件の地裁判決が出ていましたが、これは本当にいいとこ取りではないかと思います。スライド19にも組織法上のメリットを書かせていただきましたが、組織的にはこの会社分割法制を使うことで税法上のメリットや許認可のメリットなどを享受することができます。これは、当時の政府が、我が国の企業組織再編の背中を押すため、先ほども資料に出ていましたように、持株会社の解禁等、一連の商法の改正、組織法の改正の中で会社分割法を作ってきたわけですが、そういった組織法上のメリットを使いながらも、本来、法が想定している労働契約承継法による労働契約の部分的特定包括承継を使わないというスキームはまさに法の潜脱ではないかと思います。

 現実に同意転籍方式は多く取られておりまして、このヒアリングを受けるに当たって、私も産業別労働組合にヒアリングに行ってきたのですが、今日でも製薬会社等は、こういう同意転籍方式で事業再編を行っており、労働契約承継法のスキームの存在については、労働組合に対して会社がその存在すら説明しないということが起こっています。もともと承継法があるのに、それを説明もせずに個別同意転籍でやるということを最初から言ってくるということでした。残念ながら、労働組合の役員も、承継法や会社法に精通している人ばかりではありません。もちろん労基法や労契法については労働組合の役員も勉強しますが、こういう会社の組織法の周辺の労働契約の移転に関する法律の勉強まではなかなか手が回っていないものですから、そういうスキームがあることすら当該再編での労働組合役員が知らないという中で、会社が説明しないということになれば、はなから個別同意転籍によって労働条件を下げてくるというということになりかねません。

 先ほどもありましたが、なぜ同意転籍方式を使うのかという理由はわかりきったことであり、承継法を使うと労働条件をそのまま引き継ぐしかないため、それを回避するために使うわけです。承継法を使うと雇用関係もそのまま引き継ぐしかないというわけで、これは切り離さないと労働条件の変更ができないということです。個別同意転籍方式によって労働条件の変更するケースは、共同新設分割で2つの会社がくっついて、別々の会社の条件を引っ張ってくるといった一社二制度のような場合にもあるのですが、やはり一番多く使うのは、分割した先の会社が事業として成り立つために、事業を沢山抱えている親会社が、専業メーカーと闘うためにある事業を分割して、その分野での専業メーカーと同じような労働条件の水準に落としてしまうというときによく使うと思います。その際に、大手企業の成熟した労使関係では、今後何年か分の給与の差額分を親会社のほうで全部清算して、同意転籍の際に一時金として全部清算して出していくというのがあるのです。そうすると、移った先の分割した子会社は非常に身軽な、コストの軽い会社ができますので、競争力がその分高まるということがあるから実施することが多いのです。ただこれは、退職までの労働条件は全部入れられませんから、何年かで区切って、分割時に全部清算してしまうとなりますが、このような清算がなされるのは大手の成熟した労使関係の企業だけというのが現状です。この点も労働組合の役員があまり法律を知らないという無知につけ込んで実施されてしまうと労働者保護の観点から問題があるかと思います。そこで私どもとしては、会社法の第5編の中に、今の承継法の労働契約の部分的包括承継のスキームを規定すべきだと考えます。すなわち、会社分割時には必ず部分的包括承継がされ、労働契約についてもこれは切り離されないということを記載するべきだと考えております。

 スライド20について、団体交渉権の保障についてです。現実によくあるのは、企業グループ内の再編の際に、持株会社の親会社や、持株でなくても企業グループのトップの親会社が子会社の再編をコントロールしている中で、現場の子会社においては、労使関係について対面で子会社の経営者にものを言ったとしても、なかなか交渉の実は上げられないということです。これは会社分割時だけの問題ではなく、使用者性の問題として「実質的支配の有無」という従来のスキームを使えばいいということになるのでしょうが、この点もやはり法律的な担保が必要ではないかと思います。

 スライド21は、その他留意点ということで、先ほども総論的なところで申し上げました内容を、改めて記載しています。スライド22も同じです。

 以上、多くのことを申し上げました。今回、こういうヒアリングの機会を与えていただいて思いますのは、労使関係の労も使もそうなのですが、労使関係の当事者というのは、労働法に関してはそれぞれ勉強していますので詳しいのですが、こういう組織法が絡んでくる部分は、あまり勉強していないのが現実だと思います。ですから、その点の周知なり教育なりを、労働組合なり使用者団体がそれぞれ実施すべきということになるのでしょうが、やはり行政としても、こういった法改正が行われている中で、「労働者はどういうことができるか、労働組合がどういうことができるか」ということの周知を、是非検討いただきたいと思います。私のほうからは以上です。

○荒木座長 ありがとうございました。それでは、御質問等をお願いいたします。

○神吉委員 ありがとうございました。2点お伺いしたいのですが、まず1点目としては、会社法の改正によって、現在は、事業に至らない権利義務を分割によって移転する場合ということが増えてきているのかと思いますが、その際の労働者の扱いです。先ほどの経団連の御説明だと、例えば株式を分割により売却するような場合でも、それは主として従事すると捉えられる可能性があるので、この承継のスキームに乗せることがあるというお話でしたが、そういったことが実際上、広く行われているのかどうか。組合が把握されている実情からすると、どういうふうに見ていらっしゃるかを、まず1点、教えていただければと思います。

○説明者(新谷局長) 今回のヒアリングに際して、この研究会での資料を頂きまして、先ほども経団連の委員が示された資料が、ご質問の箇所に該当する部分かと思います。しかし、従来の承継法のスキームである主たる従事者・従たる従事者のところまでは我々もずっと追いかけていたのですが、残念ながら、会社法改正に伴って、不従事労働者という概念が出てきて、事業の単位で分割ができるというところについては、正直詳細に追いかけておりませんで、ご質問のような実情があるかどうかというのも、現実にまだ把握しておりません。

 ただ、厚労省のほうで整理されている資料、不従事労働者のうち分割契約等で承継対象と定められた労働者については5条協議の所が×を打たれていますので、これはもう大きな問題ではないかという認識は持っております。

○神吉委員 ありがとうございます。2点目として、ちょっと話は変わるのですが、連合側として、労働条件不利益変更に関して、少なくとも1年間は不利益変更を禁止すべきではないかということを示唆されています。この点についてお伺いしたいのですが、例えば海外では、合意による不利益変更というものを可能とするようなスキームがあって、そのときに合意を取れるというのが、実はその代償措置を取っているから労働者も合意するし、それで認めているというようなことがあるのです。少なくとも、移転後1年間、不利益変更しないという程度であれば、逆に、使用者側としては、初めから同じ賃金スキームや労働条件スキームに乗せたいというのが多分あるでしょうから、大手ではなさっていると先ほど御説明がありましたが、最初の段階で考えられないでしょうか。

○説明者(新谷局長) 私も全ての実態を知っているわけではありませんが、少なくとも電機産業では当時、頻繁に再編が行われていまして、会社分割は承継法を活用し部分的包括承継というケースがほとんどでしたので、大手では再編時の労働条件を分割先に適用するケースが多かったのです。それは、先ほども申し上げたように、単純な吸収分割だけではなくて、共同新設分割のように、複数の全く企業グループの違う企業同士の組織再編というケースもありました。典型的なのがルネサスという半導体の会社なのですが、三菱電機と日立のシステム半導体部門が一緒になり、それぞれの企業がもともと持っている労働条件をそのまま引き継いできましたので、分割時には新設会社の中で2つの制度が走ったのです。その場合最初にやらないといけなかったのは、実は出張旅費の水準を合わせるということなのです。一社二制度のもとでは、同じ出張先に行って同じ所に泊まっても支給を受ける日当などが違うなどということになりますので、現実的にはそういうことから条件を合わせていく必要があるのですが、基本的な労働条件の統合のためには結構時間が掛かるのです。ですから、その際には、判例法理や労契法で規定する就業規則の不利益変更問題なり、協約の不利益変更なりという論理の中で、段々とすり合わせをしていって、総合的に調整していくというプロセスを踏むと思うのです。

 ただ、労働組合のある所はこのようなプロセスを踏むことができるのですが、8割の職場においては労働組合がないという現実の労使関係の中で、多くの場合は従業員代表という、不適切な選出が4割という当事者が出てきてくることになると思うのです。しかし、結局それは、何か従業員がよく分からないままに調整が進められるということになるので、その辺りを法的に手当てする、担保する必要があると考えておりまして、労働条件の不利益変更の制限というスキームを考えているということです。この点に関しては、大手企業の成熟した労使関係にある企業については、私は心配しておりません。

○神吉委員 ありがとうございます。

○金久保委員 レジュメの19ページで、会社分割のときに、転籍同意方式で労働契約を移転するという場合が現実に行われているということに対して、連合さんのほうでは、どのように対処されているのでしょうか。争ったりとか、何か組合としての対応はどのようにされているのでしょうか。

○説明者(新谷局長) これも全て実態を知っているわけではないのですが、先ほど申し上げた電機連合時代の経験で申し上げますと、基本的に、会社分割と労働契約承継法はセットなのだということを、私ども産別の役員は個別の組合から相談があったときには必ず言っています。ですから、再編の提案があったときには、どのような再編スキームを使っているのか、それは営業譲渡なのか、労働契約承継法を含む会社分割法制を使うのか、それとも合併なのかを、会社によく確認しろと伝えていました。もし会社分割を使うということであれば、当然ながら承継法を適用するのだということの確認をせよということを言っておりまして、もし承継法を使っていないということであれば、それは先ほど申し上げた5条協議の代理権を授与してもらって、労働組合が集団的労使関係の中で、そういった日常の労使関係の中で決着を図っていく必要があるということになります。もちろんこれは労組法上の団交とは別の仕組みですので、労組法上の団交も当然行うということです。

 ただ、これは大手の労使関係を念頭の中心に置いて申し上げておりますので、労働組合のない企業や、もっと力の弱い中小企業の労働組合では、なかなか法的知識もない中で、その辺りをしっかりと対策していくというのは難しいのではないかと思います。現にそうしたケースが多いのです。たとえば、会社分割法制を使うけれども承継法を使わないというのを、当たり前のように提案してくる経営者がいるのです。それに対して、現在この部分の法的な接合が切れているので、やはりこれは接続するべきであるというのが私どもの考え方であります。そこを法的に担保していただきたいと思います。

○金久保委員 ありがとうございました。

○橋本委員 今の金久保委員の質問に関連して、19ページの転籍合意について確認させていただければと思います。今まで、労働条件を統一するためと、別の会社から分割した場合に、2本の制度があるのは調整も大変なのでというお話も、経団連もおっしゃっていたと思うのですが、もう一つ、新谷委員が、新しい会社を作るという新設分割の場合でも競争力を高めるために労働条件を清算するとおっしゃったのですが、具体的には、退職金などもそこで清算してしまうという理解でよろしいでしょうか。これはかなり大きいような気がしたのですが、何か連合として対応策というか、労使交渉の中で努力されていること等あれば教えていただければと思います。

○説明者(新谷局長) やはり、同意転籍というのは基本的に特定承継ですので、先生がおっしゃるように、部分的包括承継との違いは、そのときの日々の労働条件だけではなくて、勤続通算をどうするかという長期の雇用を念頭にした問題がやはり大きいのです。ですから、退職金の勤続通算が切れるのか、切れないのかというのは、労働条件の差異の中に重要な要素としてあるわけです。これは大手の場合であればその辺りも見込んでいて、例えば私の知っている大手の企業では、労使交渉の中で、10年分の労働条件の差異、これは特に一時金が変動しますので、何年分とか過去の平均を取ったり一時金の部分を取ったりしたうえ、賃金もどう上昇するか分かりませんので、ある程度想定で計算し、退職金についても勤続通算の分を見て、そこで一時金を一括で払ってしまうといったことを行っていました。大きなお金が動くことを前提とした転籍をしますので、転職時の退職金にそこの差額部分を加算して処理してしまう。そうすると、分割会社は非常にコスト的には重いのですが、こういうリストラや再編する際にはコストが掛かるのは会社は折り込み済みで、分割に際して全部まとめて精算してしまうのです。そして、分割して行った先の企業はかなりコスト的には競争力を持った形で事業を展開するということが使用者の意図としてあるわけです。

 ただ、これも申し上げたように、大手ではそういうことができるのですが、先ほど申し上げた製薬会社の事例などは、そのような会社分割法制を活用するのに労働契約承継法のスキームを説明もせずに、「会社分割でやるのだけれども労働条件については個別同意転籍ね」、「行った先の就業規則はこれでやってもらう」というような説明に終始しています。我々がヒアリングに行って、承継法について説明をすると、「そんなスキームがあるのですか」ということを組合役員が初めて知るということがありました。ですから、要するに会社分割法制の基本は、会社分割という組織法と労働契約承継法というのはもともとセットであり、会社分割というのは労働契約は部分的包括承継をするものなのだということを前提でやはり組み立てていただかないといけない。我々もそういうことをずっと説明してきたのですが、現実の世界では会社分割に際して転籍同意方式というのが結構ありますので、この点は何とかしないといけないのではないかという思いです。

○荒木座長 ほかにはいかがでしょうか。レジュメの9ページは、現行法ということではなくて、連合の考えという御提案だと思うのですが、一番下の所で、労働者代表等との協議義務で、これは過半数組合がない場合には、過半数代表者に協議義務を課すべきだということで、ここでは過半数代表者との協議というのはやってよろしいというお考えなのでしょうか。

○説明者(新谷局長) これは先生も御承知のとおりであり、話をすれば長くなりますが、やはり労働組合の過半数組合がない事業所というのは現実に8割以上ありますので、先生がまとめていただいた研究会からもご提言がありましたが、そこの従業員を代表する者がいかに多様な従業員の声をきちんと吸収して、どういうふうに使用者と交渉すべきかというスキームについては、我々としても労働者代表法制というものを別途考えています。しかし、現時点では、今あるスキームの過半数代表者というものをこの中に位置付けるという整理としております。ただ、過半数代表者の仕組み自体が今のままでいいという認識を持っているわけではありません。

○荒木座長 分かりました。それから、今、主従事労働者の場合は、承継対象とされた場合には、現行法だと異議申出権についてはないということです。EUの加盟国の中では、そういう異議申出権というか、不同意権というものがあるということで、日本でもそういう制度を入れるべきだということでしょうか。

 その場合に、以前にこの研究会でも検討したときには、諸外国だと、あくまで本人が同意によらず承継先で働けということは、職業選択の自由の観点から問題だと。しかし、その場合に異議を言っても、元の所での雇用が保障されるということでは必ずしもないというように承知しております。その点はどのようにお考えなのでしょうか。

○説明者(新谷局長) やはり、職業選択の自由の問題は当然出てくると思います。ただ、今のスキームでは主たる従事者ということになると、異議申し出もできずにそのまま承継先に移るしかないというスキームとなっております。先ほども申し上げたように、民法の625条は強行規定かと思いますが、同条の適用を排除して、この承継法のスキームを作ってあるわけです。従来からこの問題については、異議の申立権、不同意権を認めるべきだという論議がありました。更に今回の会社法の改正に伴って、債務超過分割といった泥船分割も可能となるかもしれないという中では、是非前向きな検討をしていただけないかと思っております。

○荒木座長 ありがとうございました。ほかにはよろしいでしょうか。それでは以上で、連合からのヒアリングは終了といたします。本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

○説明者(新谷局長) ありがとうございました。

○荒木座長 本日は以上となります。本日の議事録については特段、非公開とすべき事情はないかと思いますので、公開ということでよろしいですか。それでは、そのように取り扱うことにいたします。次回以降の研究会の開催について、事務局から御連絡をお願いします。

○労政担当参事官室室長補佐 次回以降の研究会ですが、日時、場所について調整中です。追って、正式に御連絡いたします。よろしくお願いいたします

○荒木座長 それでは本日は以上ということにいたします。本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。


(了)

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