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2013年2月25日 第56回労働政策審議会障害者雇用分科会 議事録

職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害者雇用対策課

○日時

平成25年2月25日(月)
10時00分~12時00分


○場所

厚生労働省共用第8会議室(6階) 


○出席者

【公益委員】今野委員、松爲委員
【労働者代表】冨高委員、杉山委員、斗内委員
【使用者代表】高橋委員、中村委員、荻原委員、塩野委員、小林氏
【障害者代表】阿部委員、川崎委員、北原委員
【事務局】岡崎職業安定局長、小川高齢・障害者雇用対策部長、山田障害者雇用対策課長、金田地域就労支援室長、松永調査官、田窪主任障害者雇用専門官、安達障害者雇用対策課長補佐、境障害者雇用対策課長補佐

○議題

(1)意見書(案)について

○議事

○今野分科会長
第56回労働政策審議会障害者雇用分科会を開催いたします。萩原委員と杉山委員がいらっしゃっていませんが、追い追いいらっしゃると思います。本日は岩村委員、菊池委員、武石委員、野中委員、桑原委員、南部委員、栗原委員、竹下委員が欠席です。なお、本日欠席の栗原委員の代理として、全国中小企業団体中央会の労働政策部長小林信さんに御出席いただいております。よろしくお願いします。中村委員が所用により、途中で退席をされる予定です。
  いつものことですが、発言される方は必ず挙手をしていただきまして、私が指名をいたしますので、指名を受けたら氏名を名乗ってから発言をするようにしてください。
  議事に入ります。本日は前回に引き続いて、お手元の議事次第にあるように意見書(案)について議論をしていただきたいと思います。特に今回は、前回の分科会で十分議論ができなかった精神障害者の雇用義務化を中心に御意見を頂きたいと思っております。まず、事務局から資料の説明をお願いします。
○障害者雇用対策課調査官
障害者雇用対策課調査官の松永です。今日お配りしている資料について説明をしたいと思います。資料1は意見書の案ですが、前回の分科会での議論を踏まえて修正をしております。修正した部分は赤字で示しておりますので、その部分について御説明をしたいと思います。
  2ページです。「労働能力に基づく差異等」のところで、萩原委員からの御意見で、労働者の評価をする際には、その能力だけではなくて出勤率等の勤務態度なども考慮するのではないかといった御指摘があったことから、ここは「労働能力等」としております。その下の(3)「私法上の効果」は、竹下委員、杉山委員からの御意見で、元の案文では誤解が生じるのではないかといった御指摘があったことから、そこにあるように、「禁止規定に反する個々の行為の効果は、その内容や状況に応じ様々であり、個々に判断せざるを得ず、私法上の効果については、民法第90条、第709条の規定にのっとり、個々の事案に応じて判断される」ということで修正をしております。
  次の修正点は4ページの上から5行目です。こちらも萩原委員からの御意見で、紛争処理機関や司法機関を利用できるようにする必要があるというのは、障害者だけではなくて事業主も同様ではないかといった御指摘があったことから、「障害者・事業主それぞれの側から」といった形で修正をしております。
  5ページの上から7行目は、中村委員からの御意見で、紛争調整委員会で意見を聞くのは、当事者の一方からの希望に偏るケースが生じるのではないかといった御指摘がありました。これについては、同様の仕組みを設けている男女雇用機会均等法等の規定でも、紛争調整委員会が必要があると認めるときに意見を聞く仕組みにしていて、これと同じような仕組みにすることを考えていることから、そのことが明確になるように文言を追加しております。
  その下の「その際」以降の部分は、高橋委員、岩村委員からの御意見を踏まえたもので、ここでは、合理的配慮については当事者間の話合いの中で内容も決まってくるものであって、それが法違反か否かの線引きが明確でない。そういう事柄について、行政が勧告をするというのはどうなのかといった御指摘がありましたが、この点については明確な法違反があった場合には、行政としても助言・指導、勧告と段階を踏みながら指導を行うことが必要だろうということと、一方で合理的配慮の内容の非常に微妙な問題については、仮に指導等をする際でも慎重さが求められるのではないかといった御指摘があったことから、「その際」以降のくだりを加えています。以上が、修正部分の説明です。
  お配りしている資料2と参考資料1は、このあと議論していただく精神障害者の取扱いに関するものです。資料2は、前回の分科会で精神障害者の取扱いについて委員の皆さんから出された意見をまとめたものです。詳細な説明は割愛をさせていただきます。参考資料1は、この議論の参考となる各種のデータ集です。ほとんどのものは前回までの分科会で説明しているものですが、新たに盛り込んだものが何点かありますので、それだけ御紹介をします。
  2~4ページにかけてが障害者の数についての資料です。2ページは障害種別の障害者の数を並べたものです。3ページはこの数を年齢別に見た分布状況を示したものです。4ページは精神障害、身体、療育の各手帳の所持者の推移を並べたものです。
  12、13ページは、平成24年の6・1報告における企業の実雇用率別の分布状況を示したものです。12ページは500人以上規模のもの、13ページは500人未満の規模のものの分布状況を示しています。
  48ページは、障害者雇用納付金関係の収支状況の推移をまとめたものです。こちらも御参考にいただきながらと思います。あと、これはメインテーブルの方のみにしか配付しておりませんが、袋の中に入れているものは、精神障害者の雇用管理のマニュアルや好事例集を出しておりまして、それのコピーをまとめたものです。以上が新しい資料になります。これらの資料も参考にしていただきながら、議論をしていただければと思います。私からの説明は以上です。
○今野分科会長
精神障害者の雇用義務化については、あとから議論いたしますので、その前に今の修正点について御意見を頂きたいと思います。
○高橋委員
高橋です。ただいま御説明いただいた資料1の4ページの上のマル2の「事業主の負担に対する助成の在り方」ですが、前回も指摘をさせていただいて、今日の参考資料1の48ページに納付金財政の収支状況について御提出いただいたのは、大変感謝申し上げたいと思います。
  資料1の本文のマル2の2段落目には、我々の検討の成果として、「事業主間の経済負担の調整の一環として、合理的配慮に係る経済的な負担を支援していくことは可能であり、その仕組みを活用していくことが適当である」と、この納付金財政の仕組みを活用しながら、合理的配慮に関わる経済的な負担を支援していくことが適当だと文章化されています。それの関係の資料として48ページを見ると、6年連続して収支の赤字が続いていて、積立金も年々減少している状況が明らかになっているわけです。こうした中で、今回の意見書案のように、合理的な配慮に関わる経済的な支援を納付金財政でしていくとしたときに、仮に現時点においてどの程度の金額規模が回せるのか、あるいは、一定の仮定を置いた将来的な試算でも結構ですが、そうしたものも踏まえておかないと、我々の意見書が現実のものとしてどの程度機能し得るのか、その確認をしておく必要があろうかと考えていて、それについて事務局から御説明いただければと思います。以上です。

○障害者雇用対策課長
障害者雇用対策課長です。今御指摘の次のパラグラフにあるように、今現在、合理的配慮の内容についてはハード面での対応、それからソフト面で、ソフト面については、雇用管理の仕組みや人的支援といった大きな枠組みは、この分科会、それに先立つ研究会でも御議論いただきましたが、最終的にその具体的な内容及び過度の負担の設定の仕方、考え方については、それを踏まえて議論を行うべきであると書いてありますので、今の段階で合理的配慮の具体的内容を仮置きした上で、そういった試算を行うことはしておりません。
○高橋委員
質問の趣旨が理解されなかったのではないかと思いますが、私が質問したのは内容を踏まえていくらということではなくて、現段階においてどのくらいの金額規模が合理的な配慮に向けられ得るのかということです。質問の意味が御理解いただけるでしょうか。
○今野分科会長
どうですか。難しいのではないかと思うけれども。
○障害者雇用対策課長
障害者雇用対策課長です。今現在、障害者雇用対策に充てる予算としては一般会計、特別会計、納付金財政というのがあって、現在納付金財政で措置している助成金については、大方この合理的配慮の提供に関する助成金の内容が多いのが現状です。参考資料1の47ページを見ていただくと、恐らく合理的配慮の提供のイメージにかなり近いものかと思いますので、今の納付金財政に基づく助成金というのは大方合理的配慮の提供に向けられるものだと思います。一般会計、特別会計で措置しているものの多くは、事業主が雇い入れたときの負担に対するものが多く盛られておりますので、そういう意味ではこの合理的な配慮の提供に対応する助成金というのは、大体こちらの納付金助成金のほうが、今現在でも措置されている状態になっています。
○高橋委員
高橋です。そうすると、合理的な配慮の提供が事業主に義務化されたあとに納付金財政から支出される金額というのは、金額規模としては基本的に変わらないという理解でしょうか。
○障害者雇用対策課長
障害者雇用対策課長です。実際、どういった合理的配慮の提供の中身に指針等で定まってくるのかということと見合わせた上で判断しなければいけないので、今段階で足りるか足りないかについて明言することはできません。
○高橋委員
高橋です。質問の意図が理解されていないので、ここの納付金財政の支出額に着目をしていただければよろしいと思いますが、支出額そのものは収入に関係なく、非常に安定的な推移を示していて、私がお尋ねしたかったのは、この支出額そのものが義務化をされたことによって、増えるのか増えないのか、余り変わらないのか、増えるとしたらどのくらい増える必要性があるのかということも含めて、御説明いただきたかっただけです。
○今野分科会長
結論は、合理的配慮の具体的内容についてはどうするかというのは今後の議論になるので、それに依存するので、今は明確にはできないという趣旨だと思います。それ以上は難しいのではないかと思います。

○高橋委員
高橋です。イメージとして、支出額が増える方向に行くのか、それとも余り変わらないのか。減るということはないと思いますが、そのイメージだけを教えていただければということです。
○高齢・障害者雇用対策部長
高齢・障害者雇用対策部長の小川です。その件ですが、基本的に納付金財政だけを考えるしかないわけで、なお以下はパラグラフにあるように、あり方については中身を考えるとともに、財政面については納付金財政の影響や、ほかの公的支援の活用の可能性も含めて考えていくということですので、一般会計、特別会計等も含めて、必要な合理的配慮についての助成をやっていくということだろうと思いますので、ここで納付金会計の将来の見通しがどうかということを詰める必要性は余りないのではないかなと考えております。
○今野分科会長
高橋さんが言われたのは、支出がどういうふうに動くかという話ですよね。つまり、今回の合理的配慮という新しい変数が入ったときに、支出がどうやって動くか。その点については、多分合理的配慮の具体的内容をこれから議論するので、極端なことを言うと全然変わらないかもしれないし、増えるかもしれないし、その増え方もどうなるか分からないですね。それは今後、合理的配慮の具体的内容を検討するときに併行して考えていく問題かなと思います。ここで合理的な配慮の具体的内容がこうなっていますと決めて、いくらというのも考えてみればおかしな話なので、今の段階では難しいのではないですか。違いますか。
○高橋委員
高橋です。難しいことは重々承知の上で質問させていただいていることは、是非御理解いただきたいと思いますが。
○今野分科会長
こういう合理的配慮があるから、いくらとここで決めてしまっていいのか。そうではなくて、合理的配慮の具体的内容は今後別途、検討の場で少しずつ、関係者の皆さんを含めて時間をかけて検討しましょうと言っているので、その内容をここで決めるわけにもいかないし。
○高橋委員
別に内容を決めようとか、そういうことを求めているわけではないのです。もちろん検討の結果、既存の助成金等が合理的配慮に関わる助成というふうに整理されていくようなことも当然あり得ると思いますが、ここで我々の意見書案というか、いずれ意見書になっていくわけですが、そのときに別にそれが予算制約的に、要するに、なお以下のところで納付金財政の影響を含めて考えることは当然だと思います。これは全然否定するものではないですが、納付金財政が厳しいから合理的配慮に関わる事業主の負担についても、一定の予算制約上、影響を受けると思いますが、イメージとして予算制約というのがかなり厳しくかかってくるのか、それともある程度予算制約に余り縛られずに検討していくことになるのか、そのあたりのイメージをちょっと確認したいのです。今この場で決める話ではないかもしれませんが。
○今野分科会長
理論的に言うと、予算制約がない時代というのはあり得ないので、常に予算制約はある。そうすると、予算制約が非常に大きいとか少ないとか、そういう程度の問題に当たると思いますが、そのときに先ほどから何度も言っていますが、合理的配慮の具体的内容が明確になっていないところで、そこをいろいろ判断するのは基本的に困難だし、余り判断すると無責任だと思うけれども、違うかな。ただ、原則ははっきりしておかなければいけなくて、やるときに納付金財政の影響はきちんと考慮、含めて検討しましょうとかの原則は書いておくことは重要だと思いますが、その原則を適用したときに、上がる、下がるも含めて具体的な数字でどうなるか。それはここで議論するというのは、適切でないような気がしますがどうですか。
○高橋委員
高橋です。しつこく何回もすみません。先ほどの小川部長の話から私なりに理解した部分ですが、実はこの文章を読んだときに、この事業主の負担に対する助成のあり方というのは納付金財政でやるのか、それとも一般会計も含めてやるのかというところが自分自身頭の中がよく整理されていなかったのです。だから納付金財政に私は捕われていて、納付金財政でやるのかと思っていたので、納付金財政の状況などについてしつこく質問をしたのです。しかしながら、先ほどの事務局の御説明では、納付金財政以外の一般会計も含めて考えていくのだという御説明でしたから、私なりには納得する部分はありました。
○今野分科会長
分かりました。ほかにいかがでしょうか。よろしいですか。精神障害者の雇用義務化の部分以外について、今日の修正点は全て合意を頂いたということにさせていただきます。
  前回、議論が途中になっていた精神障害者の雇用義務化の部分について議論をしたいと思います。本日は高橋委員から資料を頂いておりますので、高橋委員からそれの御説明を頂いてから議論に入りたいと思います。よろしくお願いします。
○高橋委員
高橋です。使用者側委員を代表して、私から精神障害者の雇用義務化に関する考え方を述べたいと思います。少しお時間を頂戴するために、お手元にレジュメをお配りしております。このレジュメを御覧いただきながら、お話をしてまいりたいと思います。
  なお、これから述べる考え方は後ほどほかの委員からも補足があると思いますが、飽くまで私個人の意見ではなくて、使用者側委員全体の意見としてお聞きいただければと存じます。
  初めに、本日お配りいただいた資料1の意見書(案)の6ページを御覧ください。2の(1)「雇用義務制度の趣旨・目的について」です。「雇用義務制度は、雇用の場を確保することが極めて困難な者に対し、社会連帯の理念の下で、すべての企業に雇用義務を課すものである。したがって、企業が社会的な責任を果たすための前提として、?企業がその対象者を雇用できる一定の環境が整っていること、?対象範囲は明確であり、公正、一律性が担保されることが必要である」とあります。ここで述べられている内容は、使用者側委員としては何ら異論を差し挟むものではありません。障害者雇用率を全ての事業主に課すことの正当性を担保するために、2つの要件を明示したことの意義は大変大きいと認識しております。問題は、「雇用できる一定の環境が整っている」とは何であるのかになりますが、今日までの本審議会でほとんど議論はされてきていないと考えています。
  例えば、有識者研究会の報告書でも、「精神障害者に対する企業の理解の進展や雇用促進のための助成金や就労支援機関における支援体制の強化等の支援策の充実など、精神障害者の雇用環境は改善され、義務化に向けた条件整備は着実に進展してきたと考えられる」という記述があります。しかし、非常に抽象的でありまして、具体的にどのような条件整備について言及しているのか、着実な進展とは何のことを指しているのかは一切提示されていません。これまでの本審議会の検討に当たりましても、「既に雇用できる一定の環境が整っている」ことを前提にしたかのような議論も見受けられます。本審議会で最初のころに提出された資料では、ハローワークでの職業紹介件数の増加や精神障害者の雇用者数の増加といったものしか示されませんでした。精神障害者の雇用者数を見れば、「雇用できる一定の環境が整っている」と客観的に判断できるのでしょうか。もちろん、それが重要なデータであることは否定しませんが、雇用者数は判断要素の一部に過ぎないと思います。この場で何度も資料を請求してまいりましたが、これは、そうした過程を通じて「雇用できる一定の環境」を形作る本質的な要素について、問い続けてきたというねらいがありました。使用者側としては、少なくともこれから述べる7つの要素は、「雇用できる一定の環境」にあるかどうかを判断する重要なものとして位置づけられるべきと考えています。
  第1は、精神障害者の雇用の定着状況です。まず労務管理の観点から考えた場合、精神障害者については身体障害者や知的障害者と異なった特性が見られることを指摘しておきたいと思います。この点は、データでも示されています。恐縮ですが、参考資料1の19ページを御覧ください。採用時点で、精神障害者だった者の平均勤続年数は4年となっており、ほかの2障害の半分にも達していません。また、20ページの勤続年数の分布状況を見ても、3年未満で離職している者が6割強を占めています。21ページでも精神障害者の定着状況が示されており、在職期間が6か月未満の者が50%を超えています。
  15ページに、ハローワークの職業紹介状況が示されています。平成23年度の精神障害者の就職件数は1万8,845件とありますが、これは平成24年度の精神障害者の雇用者数1万6,607人を上回る数字となっています。ここにも、職場定着の難しさが端的に表れていると思います。さらには、56ページにある精神障害者雇用促進モデル事業でも、その特性を見ることができます。このモデル事業は、日本有数の企業10社を対象に行われましたので、極めて恵まれた雇用環境の下で行われたと言えます。しかし、それでも3年経過後の定着率は75%に過ぎません。裏を返せば、3年未満での離職率は25%に達しています。とりわけ、症状が固定しないという点が他の2障害と大きく異なります。症状に波がありますので、調子が良いときは問題なく働くことができても、突然調子を崩して勤務時間を短くしないといけなくなったり、場合によっては出社が困難になることもあります。安全配慮義務を行うにしても、採用時に想定された範囲を超える事態が生じることもあり得ます。
  職務とのマッチングを図るに当たりまして、精神障害者の一般的な特性を考えれば、環境変化への対応の困難性、ストレス耐性の脆弱さなどの点も慎重に見極める必要があります。企業としては雇用する以上、一定の役割を期待しますので、安定的なパフォーマンスを発揮していただくために雇用管理上、様々な対応が必要となってきますが、多くの企業ではいまだその準備が整っているとは言えない状況にあることを御理解いただきたいと思います。
  第2は、精神障害者の雇用に対する公的支援の状況です。企業の自助努力にも一定の限界があることから、今後、精神障害者の一層の雇用促進を図るには、現行の公的な支援策を更に充実させることが大変重要となります。繰り返しになりますが、これまで多くの資料を求めてきたのは、公的な支援策の実施状況について本審議会の場でしっかりと検討・検証する必要があると考えたからであります。引き続き参考資料1に基づきながら、支援策について意見を述べたいと思います。
  参考資料1の30ページには、精神障害者雇用トータルサポーターによる支援が挙げられています。しかし、そもそも配置人数が303人しかおらず、雇用義務を課せられている企業数7万6,308社に比べて圧倒的に少ない状況にあります。そもそも、全国のハローワーク数545か所をも下回っているのは、いかがなものでしょうか。配置状況についても地域間の格差があり、企業が必要なときに支援を受けることができるものではありません。4月からは法定雇用率が2%に引き上げられることによりまして、雇用義務が新たにかかる50人から55人規模の企業数が約9,000社増えることを踏まえれば、大幅な拡充が急務となっています。さらに、支援内容を見ますと、肝心の企業への支援は昨年度からようやく開始されたばかりであり、支援全体に占める割合が10分の1以下に留まっています。企業支援の充実を急がなければなりません。
  32ページからはトライアル雇用が挙げられています。トライアル雇用は、精神障害者が安定的に働くことができるかどうかを見極める上で非常に有効な施策であり、常用雇用移行率も高い実績を示しています。しかし、今年度からその運用を厳格化し、雇用実績の有無による利用制限が課されました。こうした対応は、精神障害者の雇用促進に逆行するものであり、残念極まりないものと言えます。そもそも雇用管理ノウハウで区別して、トライアル雇用を認める、認めないといった方法はやめるべきですし、とりわけノウハウの乏しい企業が希望する場合には、直ちに利用できるように改善すべきであります。
  37ページには、「精神障害者等ステップアップ雇用」がありますが、平成23年度の開始者数は327人であり、同年度の雇用者数1万3,024人に対して圧倒的に少ない状況にあります。常用雇用移行率も42.2%に過ぎません。これには、症状が固定しないという精神障害者の特性が背景にあり、1年の間で労働時間が短くなったり、場合によっては出勤しなくなるなど、企業としては利用しにくいといった声が聞かれます。就業時間を徐々に延ばすことの難しさが表れており、制度の見直しを検討すべきではないかと考えます。
  公的な支援策の拠点となり得る地域障害者職業センターですが、39ページから事業主支援の実施状況を見ることができます。一見すると、支援事業所の数が多いようにも感じられますが、雇用義務がかかっている56人超ではなく、100人超の企業に限定したとしても、その事業所数は70万近くにも達することを考えれば、一部のかなり小規模な支援に留まっていると言えます。40ページにあるジョブコーチについても、精神障害者雇用トータルサポーター同様、配置された人数が309人、全体でも1,206人であり、雇用義務の対象企業全てが必要なときに支援を受けるには余りに少なすぎますので、早急に拡充する必要があります。このように、公的な支援は総じて規模が小さく限定的なものであり、着実に進展しているというのではなく、支援は緒に就いたばかりというのが適当です。今後、大幅な支援の充実・拡充を急ぐべきであります。
  また、症状が安定しないという特性を考えると、精神障害者に対する公的な支援策の拡充に際しては、従来の延長線上で考えることは必ずしも適当ではないと思います。精神障害者の職場定着を図る上で最も重要な支援は、医学的支援だと考えます。精神障害者雇用促進モデル事業の中では、多くの企業が精神科医と嘱託契約をしたり、精神保健福祉士や臨床心理士を企業自らが雇うことで対応していることからも、医学的支援の重要さが伺えます。しかし、全ての企業に同様な対応を求めることは経済的に大変難しいと言えます。残念ながら、現在は支援策のメニューの中に医学的支援に関わるものがありません。この事態を至急解消することが求められます。
  1つの考え方ですが、新たな支援策として、企業が必要に応じて精神科医や精神保健福祉士、臨床心理士に簡便に相談できる体制を確立することを提言します。まずは、全ての地域障害者職業センターに、労働にも精通した精神科医等を常駐させ、企業がいつでも相談できる体制を整えることが考えられます。直ちにできることとしては、労働の現場に詳しい精神科医等の情報ネットワークを整備して、企業に周知することも大変有用であると思います。
  なお、雇用されている精神障害者の場合、私生活面でのサポートも重要であります。精神障害者就業・生活支援センターは、精神障害者の支援についてはまだ十分な体制が整っていないところが数多くあります。就労支援機関の質・量両面における早期充実が求められます。
  第3は、雇用管理ノウハウの蓄積・普及です。精神障害者は個人差が大きく、一律の対応が困難であるために、雇用管理ノウハウの蓄積が難しいという課題があります。また、精神障害者の実雇用率算定が始まってから7年と日が浅いために、事例自体が少ない現状があります。そのため、厚生労働省としてもモデル事業を実施したのだと思いますし、ここでの事例は企業にとってよりどころになると期待されます。しかし、単にモデル事業を実施するだけでは不十分でありまして、ノウハウを蓄積して普及させることがより重要です。本日もお配りいただいておりますが、モデル事業の事例発表や冊子の配付は行っているようですが、事例発表のセミナーの参加者数の累計は1,364人に過ぎません。モデル事業自体の終了が平成22年度ですので、ノウハウの蓄積や普及はまだまだこれからの課題だと思います。先にも述べましたが、モデル事業は大企業10社を対象に1回だけ行われたに過ぎません。今後は企業規模、地域にも配慮しながら、中堅企業なども含めて様々なケースでの事例を積み重ねていく必要があり、モデル事業の拡充を行いながら雇用管理ノウハウを一層蓄積して普及させていくことが求められます。
  第4は、就労可能性の判断に関わることです。雇用管理ノウハウの中で採用に当たりましては、精神障害者の就労可能性の判断が非常に重要となります。しかし、一般に精神科医は精神障害者の症状について医学的な判断はできても、労働面での判断を行うことができませんし、ハローワークなどの公的な就労機関でも精神障害者に関する知識、ノウハウが乏しいため、必ずしも十分な判断ができていないのが現状です。その結果、就労可能性の判断については、企業が全ての責任を負わなければなりません。そのため、採用を躊躇したり、採用後、想定以上に多大な負担が発生したりするなどの事態が生じています。企業が安心して精神障害者を受け入れられる体制を整えるためには、精神障害者保健福祉手帳に就労可能性に関する項目を追加することを提案したいと思います。現行の手帳申請書や医師の診断書は、日常生活若しくは社会生活への制限という視点で書かれており、就労という視点が全く欠けています。ここに、就労可能性に関する項目を追加すべきです。企業が就労可能性の判断を行いやすいように、行政も一定の責任を持つように改める必要があります。
  また、企業としては仕事とのマッチングを図ったり、安全配慮義務を果たす必要があるため、働く上で制約となり得る事情があれば、採用に先立って事前に伺っておきたいところです。しかし、プライバシー保護の観点からいろいろと知ることが難しく、本人からも申告していただけない場合があります。そこで、障害者雇用の採用場面での対応についても、ガイドラインなどで明らかにするなど、必要な環境整備を行う必要があります。さらに、精神障害者が安定的に働くことができるかどうかを面接だけで判断することは難しく、既に雇用している企業現場から、見極めるのに少なくとも6か月から1年は必要であるという声も寄せられています。個人差が大きいため、一律の対応が難しく、前例扱いできるものが少ないという精神障害者の特性を踏まえれば、トライアル雇用については現在のような利用制限は緩和し、期間についても最低でも6か月、できれば最長1年間利用できるように、大幅な拡充を図るべきです。なお、期間の拡充に当たりましては、奨励金を支払わない形も含めて検討し、早急な改定をお願いしたいと思います。
  第5は、企業や従業員の理解です。精神障害者が働く上では、とりわけ周囲の従業員の理解やサポートが不可欠となります。企業に雇用された場合、障害者1人を5人が支えているという話を伺ったこともあります。精神障害者の雇用に対する企業の意識の変化については、参考資料1の61ページを御覧ください。事業所アンケート調査によれば、「積極的に精神障害者の雇用に取り組みたい」と答えた企業は3.2%に留まっていますし、「雇いたくない」あるいは「分からない」と答えた企業は49.5%と、ほぼ半数に達しています。平成15年の調査と比べれば、企業の意識は若干改善したかもしれませんが、まだまだ低い水準です。加えて、このアンケートは回答社数が432事業所という小規模なものなので、今後企業規模にも配慮して、回答社数を大幅に増やす形で企業の意識調査を継続して行うことが必要です。精神障害者の中には、人間関係が苦手という方もいらっしゃいますので、周囲の従業員がどのように声をかけていいかが分からなかったり、お互いに傷付け合ってしまうこともあります。場合によっては、周囲の従業員がストレスを抱え、体調を崩してしまうこともあると聞いています。これまでの資料からは、周囲の従業員がどの程度精神障害者のことを理解しているのか、あるいは精神障害者の理解を深めるために、一般の労働者に対して行政がどのような施策を行っているのかがよく分かりません。今後、精神障害者の雇用を促進する上で、一緒に働く従業員の理解促進は大変重要な課題です。当然、企業としても従業員研修は行いますが、従業員の理解促進に向けては労働組合側とも連携した対応が必要だと考えていますので、支援策を充実させる必要があります。
  さらに、御案内のとおり、企業はメンタルヘルス不調者の増加という課題を抱えて、対応に苦慮している現状があります。厚生労働省の「労働安全衛生に関する調査」によれば、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は、平成14年の23.5%から平成23年は43.6%と、20.1%増加しています。一方、取り組んでいない事業所の理由のうち、「取り組み方が分からない」という理由は平成14年の39.9%から平成23年は20.1%と、19.8%減少しています。これは9年かけて、徐々に取り組み方が企業に浸透してきたということの証左であると思いますので、精神障害者の雇用管理ノウハウの蓄積や理解についても、時間をかけて徐々に浸透していくものだと考えています。
  第6は、法定雇用率に関わる問題です。現在の実雇用率1.69%は法定雇用率を下回っており、法定雇用率達成企業割合も46.8%と過半数に達していません。しかも、知的障害者が雇用義務化されて以来、達成割合が5割を上回ったことは一度もありません。今年4月から法定雇用率が2%に引き上げられることで、雇用義務の対象企業が56人以上規模から50人以上規模に拡大されることになり、新たに9,000社もの企業が対象になります。労働市場の現状を踏まえれば、雇いたくても雇えない企業が一層増加することが大いに懸念されます。
  参考資料1の12、13ページで昨年6月1日時点の数字を見ると、新しい法定雇用率2%を達成している企業は、いずれの企業規模でもわずか2割程度に過ぎません。新たな法定雇用率の達成に向けて、企業はこれまで以上の努力が求められるわけですが、大変厳しい状況にあることをどうか御理解いただきたいと思います。また、2015年度からは納付金の対象企業が、200人超から100人超の企業規模に拡大されることも十分考慮する必要があります。さらには、改正高年齢者雇用安定法や改正労働契約法が4月から施行されることで、その対応に苦労している企業も多くあります。企業の経営資源は限られていますので、今後障害者雇用を進めることが従来に比べて、一層難しくなるのではないかと大いに危惧しています。このような中で精神障害者が雇用義務化され、法定雇用率が更に引き上げられるならば、法が目指している障害者雇用の促進につながらず、納付金の徴収額が増えるだけの結果となるおそれがあります。将来的な法定雇用率の試算が出されることがないまま、精神障害者の雇用義務化の議論を行うことについて慎重な対応を求めてまいりましたことを、是非御理解いただきたいと思います。
  第7は、合理的配慮に関わることです。今後、法改正が行われると、事業主に対して合理的配慮の提供義務が課せられるという大きな環境変化が待ち受けています。これまでの本審議会での議論では、合理的配慮について具体的な内容や運用のあり方、過度の負担の判断基準などは、法改正後に作成が予定されている指針に委ねられることとしています。したがって、現段階では事業主は精神障害者に対し、具体的にどのような合理的配慮をすればいいのかが分からず、また、どの程度のことが過度の負担として容認されるのかも分かっていません。雇用管理のノウハウが少ないことも重なりまして、精神障害者の雇用についてはいたずらに企業現場の不安感を助長し、相当程度の混乱をもたらすことになりかねないと考えます。したがって、新しい概念である合理的配慮に対する理解を浸透させ、定着させていくことを優先すべきであります。合理的配慮に関する具体的なガイドラインの検討よりも先に義務化の議論をすることは、大変難しいと考えています。
  以上、大変長々と述べてきましたが、ただいま申し上げたことを勘案すると、精神障害者の雇用義務化について、現段階では「雇用できる一定の環境が整っている」と判断することはできず、事業主の納得を得られる段階になっていないとするのが適当であると考えます。我々使用者側委員としても、精神障害者の雇用義務化に向けて検討することに反対しているわけではありません。リーマンショックや東日本大震災という未曾有の危機に直面し、いわゆる六重苦と言われる厳しい経営環境が続く中、企業努力によりまして雇用障害者数は9年連続で過去最高を更新してきています。しかしながら、現時点で精神障害者の義務化の方針を定め、一定の準備期間の後に実施年限についてもあらかじめ定めることについては時期尚早であると言わざるを得ません。今後はまず、何よりも義務化に向けて先ほど申し上げた様々な改善方策を含めて、必要な諸施策を一層進める必要があります。その推進に当たっては、スピード感をもって取組みに当たっていただきたいと思います。その前提に立ちまして、各施策の進捗状況などを十分に踏まえながら、一定期間の後に具体的な義務化について改めて検討を行うべきではないでしょうか。その際、各施策の効果を十分に検証することが重要となります。例えば、「雇用できる一定の環境が整っている」と判断するために、これから述べる要素や精神障害者の雇用をめぐる全体的な状況を総合勘案した上で、本審議会で改めて具体的な実施時期を決定することが考えられます。
まずは、今年4月からの2%への引上げ後の法定雇用率の達成状況です。何より、企業の最大限の努力が求められるところですが、法定雇用率の達成企業割合などを候補に一定の指標を設けることも検討すべきではないかと思います。
  次は、精神障害者の定着状況の進展です。例えば、1年以上同じ職場に定着している者の割合が一定以上に達する、あるいは、身体障害者や知的障害者と同じ程度の定着率になるといったことが指標として考えられると思います。
また、雇用管理ノウハウの蓄積、企業や従業員の理解の進展状況も重要です。先ほど述べたように、ノウハウの蓄積には中小企業や地域ブロックごとのモデル事業の実施なども必要です。加えて、企業や従業員の理解の進展状況を把握するため、大規模なアンケート調査を定期的に実施して経年変化をチェックすべきであります。
さらには、政策面での進展状況です。その検証のためにも、今後は予算額の推移や各施策ごとの単純な実施状況だけではなくて、個々の施策に期待している効果を明確にした上で、どの程度その効果を満たしているのか、あるいは企業のニーズに対して、どの程度応えられているのか、といった観点から評価すべきであり、その上で更に充実を図っていくことが求められます。
こうしたPDCAサイクルを回していく中で重要となるのが、繰り返しになりますが、職場定着状況に関するデータです。現在は十分なデータがありませんので、今後、中長期にわたり、離職、定着に関する調査を定期的に行うなど、統計の充実に力を注ぐべきです。
  その他の重要なものとしては、仮に精神障害者を雇用義務化した場合の法定雇用率の試算結果も、十分に考慮すべきであります。法定雇用率のさらなる引上げが、企業の障害者雇用に与える影響は大変大きいことから、もちろん様々な仮定を置いた上での数字になろうかと思いますが、現時点だけではなく、将来的な見込みの数字も含めて提示していただいた上で慎重な議論を行うことが求められます。大変長くなりましたが、私からは以上です。
○今野分科会長
ほかの方から何か追加があればお聞きしておきますが、どうぞ。
○中村委員
中村です。ただいまの高橋委員の御発言に加えて、意見を2点申し上げたいと思います。1点目は、中小企業では障害者を採用したくても応募がなく、なかなか採用できないということです。以前の分科会でも申し上げましたが、各地から次のような声が寄せられております。それは障害者の求人を出しても応募がなかったり、あるいは応募があった方と面接をして採用の内定を出しても、同時に応募していた役所などに就職が決まってしまい、中小企業ではなかなか障害者を採用できないということです。一概には言えませんが、障害者や障害者の家族の方々には、中小企業よりも公的機関などを就職先として選ぶ傾向があるのではないかと思っております。
  仮に今後、精神障害者の雇用が義務付けられて、法定雇用率が更に上がったときに、この点が改善されていなければ、中小企業での法定雇用率の達成がますます難しくなるということが想定されます。したがって、障害者が中小企業に目を向けていただくための取組みを、これまで以上に講じていただくことが、雇用義務化に向けた環境整備として重要な要素であると考えます。
  2点目は、精神障害者保健福祉手帳の交付判定についてです。複数の地方に拠点を持つ企業からは、精神障害者の手帳の交付判定が都道府県によってばらつきがあるのではないかという声が上がっております。意見書案にも記載されているとおり、法定雇用率が全国一律に定められるものである以上、公正・一律性の観点から地域によって判定が異なるようなことがあってはならないと思いますが、平成16年度及び平成17年度の厚生労働科学研究補助金の研究報告書によると、精神障害者保健福祉手帳の交付に係る審査判定については、地域間や審査判定機関間に差異が見られると結論付けられております。厚生労働省ではこの報告を受けて、どのような取組みを行われたのか、またその結果、判定基準の差異がどれだけ解消されているのかということを明らかにしていただきたいと思います。今後の環境整備に向けた取組みの際には、この点についても是非御留意をしていただきたいと思います。
○塩野委員
塩野です。使用者側の委員の意見としては、先ほど高橋委員に非常に簡潔にまとめていただきましたので、私の方からは重ねた意見になるかもしれませんが、企業という立場から少し発言をさせていただきます。先ほど高橋委員から7つの項目を挙げていただいておりますが、企業として現時点で考えると、まずは4月からの法定雇用率が上がるというのは非常に高いハードルになっております。また、改正高年齢者雇用安定法や改正労働契約法といったものが、併せて4月に施行されるのは、企業にとっていろいろな課題が一気に来たという印象を受けているのが現状です。
  そういった中で、将来的に障害者雇用率のアップにつながるような精神障害者の雇用義務化をこの時点で議論するということであると、やはり慎重にならざるを得ません。加えて、今後いろいろなところで議論されると思われる合理的配慮についても、現時点ではなかなか内容が見えていないので、企業あるいは現場も含めてどういったものになるのかというのは、非常に不安を抱えた状態になっています。そういった中で、この時点で精神障害者の義務化について検討する、更には一定の準備期間を置いて、いつから実行するなどといった議論をするのであれば、まだまだそういった立場にないということを是非御理解頂きたいと思います。私からは以上です。
○今野分科会長
言い忘れていましたが、萩原委員は急に御都合ができて欠席ということです。
○小林氏(栗原委員代理)
栗原委員の代理の小林でございます。先ほど高橋委員が言われたことに1つ補足と、1つお願いがあります。補足の部分ですが、企業や従業員の理解及びサポートという説明がありましたが、これについて言わせていただきます。精神障害者について、企業の経営者、人事・労務担当者、そして従業員に理解されていないということが大きな障害だと考えております。企業からは、精神障害とはどんな疾患なのだということについて、分からないという声をよく聞きます。そのため、どのような配慮・対応が必要なのか見当がつかないという意見を聞きます。
  個人的なことなですが、私の義理の妹も統合失調症です。その疾患にかかってからかなり経過しているのですが、本人、家族とも初めどういう病気だか分からなかったところがあります。親が病気でもあり、私の家で預かって世話をしたことがあります。そのときに、私も統合失調症など精神疾患についていろいろ勉強し、私なりに家族などがどういう対応が必要なのか勉強しました。そんな経験などを企業の方々に話して、こういう病気は統合失調症だとか、躁鬱病とか、いろいろな疾患について説明するのですが、「ああ、そうなんだ。初めて聞く」というのが多くの企業の経営者の方々の捉え方だと思います。社会全体で精神障害者、その疾患とはどういうものなのかを、もうちょっとしっかり勉強しなければならないと思います。厚生労働省をはじめ、各障害者の職業のセンターなどが、企業の経営者、従業員の方々にそれぞれ正しい理解をしていただくため、もうちょっと努力が必要なのではないかと思います。
  もう1つ、お願いなのですが、法定雇用率のさらなる引上げに若干懸念があります。前回改正のときに協同組合を通じた特例ができました。特例子会社と同様に、協同組合で共同事業を実施する場合、その共同事業に従事する従業員に障害者を雇用した場合、特例措置がとられているのですが、現在その対象となっているのは1件しかありません。個々の企業によっては、あらゆる障害者を雇用している企業もありますし、協同組合の種類によっては、工場団地、卸売団地という集団化組合が各地域にあります。また一部の団地組合などでは、障害者の送迎という配慮を行っているところもあります。こういう意味で、個々の組合員企業でも障害者を雇用するような場合、組合として合算するような仕組みも十分考慮いただくようにお願いしたいと思います。以上です。
○今野分科会長
1つだけ使用者側の皆さんに確認をさせていただきたいのですが、いろいろありますが、基本的なことは全体的に雇用できる一定の環境が整っているかどうかということについて疑念がありますという趣旨。それは理解いたしましたが、その前に6ページの2の(1)、先ほど高橋さんもちょっと触れましたが、雇用義務制度の趣旨・目的についてと関連するのですが、使用者側としては何か新しいことをやるときに、どんな場合でも困難がないわけではないので、困難を乗り越える気はあるぞ、リスクは取る気があるぞ、でもこういう問題がありますという、その前者はいいですね。つまり、それを言っていただかないと、問題ばかりバーッと言われたので。やる気はある、リスクも取る気がある、難しさにも挑戦する気はあるが、でも、難しいので、今はまだ早いと、そういう趣旨に受け取ってよろしいですね。
○高橋委員
もう1回、分かりやすく説明していただいてもいいですか。
○今野分科会長
今回の精神障害者の雇用義務については、理由は別にして、企業側としても原理的には対応するという気持はすごくある。新しいことをするときには、必ず困難が伴うので、その困難に挑戦するぞとか、困難に挑戦していろいろなことが起こるリスクは負う気持は十分にある。しかしながら、一定の環境が整備できていないので、まだ時期尚早であると。今回は後半の話を高橋さんをはじめ、皆さんがおっしゃられたので、前のほうも言っていただかないと、何となく気持が落ち着かないものですから、どうですかと、そういう話なのですけれども。
○松爲委員
松爲でございます。私も実は委員長と同じ感想を持っております。基本的に言いますと、前段の目的・趣旨ということで了解しているということがありますよね。なおかつ、全体としてこの報告書の中では合理的配慮、もっと言うと差別撤廃法に基づいて合理的配慮をしますと。そして、いわゆる企業については、雇用率に関しては文章上、皆さん全部認めましたから、是正措置という格好で認めているということですね。ところが、今お話を聞いていますと、そういった趣旨を言いながらも実質的には精神は難しい、難しいというのですが、私などが伺っていまして、すごく論理矛盾しているような気がするのです。つまり、全体としては雇用率に基づいて、それは合理的配慮ですと。しかも、是正措置ですという意味では、企業側としても確実に障害者雇用の中では合理的配慮を認めますと。差別撤廃に関しては頑張っていきましょう、でも、精神障害者は駄目ですよと聞こえるのですが、そこをどう考えればいいのでしょうかね。委員長がおっしゃるように、最初の趣旨・目的が本当に大丈夫なのですかということと、実質それを進めるだけの問題点は何ですかというのは、議論をきちんと区別しておかないと議論が進まないような気がいたしますが、どうなのでしょうかね。
○今野分科会長
私の質問したのは、松爲さんとかなり趣旨が違っていて、私が言った前半のことはいいですよね。高橋さん、ほかの方。いや、頑張るぞと、でも、やはり困難が大きいから、ちょっと待ってくれというのと、最初から、頑張らないぞ、でも、困難と、これは違いますからね。最初は頑張るぞと思っているということで、いいですよね。
○高橋委員
高橋です。もともと当分科会では、御承知のように平成16年のペーパーのときから将来的な義務化が考えられるということで一致していたと思うのです。そういう考え方自体は、現在変わっているのかといったら変わっていないと思います。それ自身は変わらないと思うのです。
○今野分科会長
ということは、私の言葉で言うと、頑張るぞとは思っていらっしゃると。
○高橋委員
ただ、それは、申し訳ございませんけれども、企業だけが頑張るという話ではありませんので。
○今野分科会長
でも、私が質問したのは、今日は問題点ばかりおっしゃられたので、頑張るぞと言っておいていただくと、全体としてバランスがいいなと、そういう感じだけなのです。私はそれだけ。
○高橋委員
高橋です。繰り返しになりますが、頑張るためにも、努力を継続していくためには一定の環境を整えるために、企業だけではなくて、これは政府だけではなくて支援機関、あるいは教育機関なども含めてですが、あらゆる関係者が努力をして、一定の環境を形成していくと。ところが、まだ現時点においては一定の環境を形成され得ていないということです。
○今野分科会長
最後だけ。頑張るぞも、まず頑張るというのと、突破する頑張るがあるので、私が最初に言ったのは、突破する頑張るですよねということをちょっと確認したかっただけです。
○小林氏
突破する頑張るかどうか分からないですが、頑張るぞというのは気持として多分に、企業の経営者も社会的にいろいろ考えなければならないと思います。福祉から就労へということもありますので、これは考えていただかなければならないと私も考えています。ただ実際のところ、企業経営者にとっても従業員にとっても、先ほど申し上げたとおりどうやって頑張っていいのか分からないというのが、大きなところだと思います。
  先ほど私の個人的な妹の話をしましたが、妹が東京の大きな病院の精神病棟に入院していたとき知ったことですが、実際に入院されている方々が、これはいろいろな疾患がある方だと思うのですが、朝起きてスーツに着替えて出勤されている方がいらっしゃるのです。現にもう社会の中で働いている方々は多いのです。それで夕方には帰ってくる。また、今では新しいいろいろな薬ができたことも承知しています。うちの妹も数々の薬を変えてきています。症状が安定するようになってきて、医学的にもかなり進んでいることは分かるのですが、このことについても社会の皆様が知っているかどうかという話になると、これは全然違う話なのです。どういう形で治療をすればいいのかも含めて、社会の方みんなが知った上ででないと、なかなか進まないというのが大きな障害だと思います。
  障害者の方々が働きたい、家族の方々が働いてほしいというのは、私も願っていますし、同様の気持も持っています。それが実際に社会に受け入れられて企業で働いたときに、また障害が起きてしまうのではないかというのは、家族も心配しているでしょうし、そこの職場の方々も同じように思うのです。もうちょっと時間をかけて、いろいろなノウハウの蓄積とか、雇用管理のあり方を蓄積した上でないと、違った意味で混乱が起きるというのも、1つ懸念材料としてあるのではないかということだけは申し上げておきたいと思います。
○今野分科会長
私ばかり話していると何ですので。他には。
○川崎委員
家族会の川崎でございます。企業側の御心配など、私どももよく理解しております。その中で、雇用できる一定の環境の中に欠けていることがあります。それは本人自身が回復して、元気になっている状態の人が多いということです。どうしても精神障害者というと、病気を抱えて何もできないのではないかとか、その辺の啓発もなかなか進まないところですが、実は先ほど小林さんからお話がありましたように、医療の薬の開発によって、また精神科のいろいろなリハビリテーションも活用されており、多くの精神障害者が入院しないで地域で生活しております。地域で生活しながら、自信をつけて、私たちは回復している障害者が多いことを分かっております。こういう人たちがいることも、しっかりと企業の方、是非とも頭に入れていただきたい。というのは、そういう人たちは一生懸命自分で努力しているのです。仕事をしようということで、かなりの人たちが勉強して、精神保健福祉士の資格を本人自身が取って、それで仕事をしている人の話も多く聞きますし、仕事をしたいという思いの人は、何とか仕事に就けるようにという努力をしていることも、ここの環境の中の要素として考えていただきたいということを申し上げます。
  それと、高橋さんから課題が出てきましたが、これは実は現状なのです。私たちはこの現状を何とか良い方向にしていこうという思いがあるのですが、その際に精神障害者の義務化の方向付けができていかないと、これらの現状打破のための支援策もなかなか進まないだろうと思うのです。今回、私はこの委員会で、先ほど高橋委員からは無理だという御意見でしたが、精神障害者の義務化の方向付けだけは是非ともしていただきたい。これをしていかないと、いろいろな支援策の充実も進まないと思っております。
  それと、今の精神障害者の雇用だけに限っていろいろと話が出ましたが、現在国内外のことに関しても、障害者の権利条約の批准に向けて、いろいろと制度改革が行われ、現在、障害者差別禁止法が国会に出されようとしている、そういう現状も踏まえて、ここで精神障害者の義務化の方向付けは是非ともしていただきたいし、企業側にお願いしたいことです。来年からするということでなく、今いろいろと課題となりましたところをこれから準備期間において、いろいろな施策を考えていきたいと思うのです。企業側からおっしゃいました精神障害者の症状が安定しない、固定しないというところがかなり大きな課題だと思っておりますが、これはしっかりと支援策ができれば大丈夫です。精神障害者の定着も、病状の波とか精神障害者の特性、人間関係などがあると思います。1つの策として、就労支援の中に医療と連携をとった多職種就労支援チームを作っていただき、そこの就労支援で企業からの相談と本人との相談、その辺をしっかりと結び付けるような形にしていければ、精神障害者もしっかりと就労できますし、力を伸ばしていく人はどんどん伸びていくのです。現在パソコンも一生懸命に努力して勉強して、エクセルなどものすごく上手にできている人もおりますので、先ほどの高橋さんのお話はデメリットの話ばかりだったのですが、もっともっと精神の人のメリットの面にも目を向けていただき、是非とも義務化の方向付けをしていただきたいとお願いしたいところです。よろしくお願いいたします。
○北原委員
北原です。川崎さんが発言なさいましたので、私のほうからも発言します。使用者側委員の皆さん方のお話を聞いていて、障害当事者本人の意識、あるいは本人を取り巻いている環境がどう変わりつつあるかという視点が欠けていたと率直に思います。障害者制度改革が進んで、本人の意識、あるいはそれを取り巻く家族、あるいは関係団体等々の意識が確実に変わってきています。それは何かというと、自分たちのことは自分たちでやろうという主体性が生まれてきている。そして、支える皆さん方も、その方向で努力しているということを知っていただきたいと思います。
  特に私たちは今回の制度改革を通じて、共生社会を作ろうと。その共生社会を作る当事者であり、あるいはそれを支える家族であり、関係の皆さん方等々も、その一翼を担うのだと。そういうつもりで主体性の確立に努めているわけです。そういう一番大事な働く働き手の人たちの変化、意識、あるいはそれを取り巻いている皆さん方の支援のあり方等々の変化も考えてもらいたいと思います。
○松爲委員
松爲でございます。企業の方々の幾つかの視点の中で、定着ということと不安定ということがありましたので、川?委員のことに少し付け加えていきますと、私どもがいろいろな調査等々をやって分かることは、全ての精神障害の人たちを症状不安定とかストレスに弱いと、そういう形で一概にやることは難しいと思うのです。少なくとも労働市場に入ってくる人たちは、基本的に症状の自己コントロールができることを前提の下で考えていくべきだと思っております。逆に言うと、これから先、例えば企業に送り出すといったときには、むしろ送り出す側が症状の安定性がきちんと確保できているかどうかをある種の評価基準として考えることのほうが望ましいと思います。
  なぜならば、症状の安定しているということの認識は何が起きるかというと、症状の状態が不安定になったときの自己評価、自己管理ができるということになります。問題なのは、自己管理ということは、もはや単なる個人だけの問題ではなくなってくると思います。だんだん調子が悪くなってきたといったときに、それを周りの従業員の方々、会社の方々に、きちんと発言するといったことが必要だと思っています。言い換えますと、そのときに会社側がそういったものをきちんと受け止めて、状態がちょっと悪くなりそうだといったときの適切な雇用管理の仕方、例えば休憩をとるとか、そちらのほうがむしろ大事だと思っております。ですから、症状の自己管理とかストレスに弱いというのは、実は管理ができる。管理ができるけれども、自分1人の力では難しい。であるがゆえに周りの環境が、例えば本人が訴え出たときに、それをどのようにきちんと受け止めていくか。それは会社自身、企業の雇用管理のあり方だと思うのです。
  しかも、そのことは単なる今問題にしている話ではなくて、既に会社の中では先ほど御指摘がありました、企業におけるメンタルヘルスそのものの問題だと思うのです。本来なら企業のメンタルヘルスでは既にやっている話ではないかと思うのです。もしそれをやっていないのだったら、企業は精神障害の人たちを社内発生していき続けることになりますからね。ですから、私どもはノウハウがないというよりも、そういった症状が自己管理できる。そのときにきちんと企業側として、それに対して対処できる。それはメンタルヘルスということのノウハウの中で、本来なら仕上がっていくべきであって、またそういったものをもっとこれから先、一緒に仕上げていかないと多分駄目だと思うのです。そういった意味では、まずそういったことを考えるということ。
  もう1つは、不安定とか定着しないという話になってきますが、これもちょっと考えますと、精神障害の人に限らないで、特例子会社を含めて、定着が非常に不安定だという話がいつも出てきますね。精神障害者を含めて、全体の障害者の定着率の悪さは何かというと、本人の責任にだけ帰すことは私はちょっと難しいのではないかと思うのです。例えば特例子会社を含めて、障害を持った人たちを雇い上げた、そういった人たちに対して、企業がどのようにその人のキャリアを作っていくかといったことの体制がどこまであるのでしょうか、という疑問をすごく持ちます。障害のない普通の会社員ですと、会社の中に入って、何年たってからどういったセッションに入るとか、もちろん地位の向上ではなくて、専門家としてどう上がっていくかという企業内のキャリアに対して、ある種予見性というか、見えるではないですか。ところが、精神障害の人たちは雇用率制度の中に入った途端に、とにかく今のことをやればいいやと、給料そのものをほとんど上げていかない。私たちを含めて、果たしてどのぐらいその中で働き続けるというモチベーションができるのでしょうかという疑問がすごくありますね。会社の中に入って努力して、やがては先が見える、道筋が見えてくる。こういった道筋があるからこそ、我々は定着して頑張っていくのだ。そのことが定着につながるのだという視点が必要なのだと思います。
  障害者の雇用を長い間見ていますと、特に特例子会社の場合には、企業内のキャリアを障害を持たない人と同じ視点で考えていないような感じが多分にあるような気がするのです。安定・定着という意味では、むしろそういった視点から考えていくべきですし、障害者に関する不安定策やストレスが難しいというのも、そういった意味では企業がメンタルヘルスの視点からもっと議論していっていいのではないかという感じがいたします。以上です。
○阿部委員
阿部です。先ほどの高橋委員からの御指摘、様々な課題があるということが改めて確認されました。ただ、その発言の中身も、平成16年度からずっと精神障害の方の雇用については検討を重ねてきたのだけれどもというお話もありましたし、私はむしろ義務化をある一定年限後、3年後というか、何年後か分かりませんが、そのような方向性を確認した上で、集中的に先ほどの高橋委員はじめ、皆さんの指摘された内容をしっかり取り組んでいくのが、今もう必要な時期に入っているのではないかと思います。義務化の中で、私は本当に大事な視点をお話されたと思います。企業や従業員の理解及びサポートの進捗状況、義務化の中でこそ理解が進むこともあるのかと思いまして、意見をお話させていただきました。御指摘はもっともだと思います。ある一定の期限を設定して、そう遠くない期限を設定して、集中的に取り組むことが大事かと思って意見をお話させていただきました。以上です。
○今野分科会長
精神の義務化というか、精神障害者の雇用をもっと進めていくためのいろいろな条件、例えば先ほどの高橋さんの言葉で言うと公的支援のあり方とか、企業の理解とか、周囲の理解という条件が、全員100点とは思っていないのですよね。そこは皆さん合意ができていて、それが60点なのか、50点なのか、40点なのか、80点なのかというといろいろ違うと思いますが、完璧ではないと、皆さんそこはここで合意ができているのです。問題はそこから先で、今、障害者団体の方たちがおっしゃったのは、100点ではないから、企業でいうと方針管理でいきましょう、目標管理でいきましょうということです。目標・方針を決めておいて、あとは足りない分をワーッと集中的に、時間をかけながら整備していきましょうと、そういう提案だと思うのです。
  したがって、前回も言いましたが「方針は明確に戦術は柔軟に」という御意見で、使用者側の方の意見は、何点かは別にして、100点ではないので、方針を決めることは早すぎるということです。違いはここだけです。あとはそこの判断をどうするかなのですけれどもね。
○中村委員
中村です。企業の理解や周囲の理解が重要であることは十分分かりますが、中小企業の立場からすると、まずは応募をしてもなかなか採用できないということを解決するための環境整備が最も重要であると考えております。それを抜きに義務化を先行するということはいかがなものかと思います。

○今野分科会長
非常に単純な話ですが、経済学的に言うと、労働力供給が増えるので、義務化すると採りやすくなるのですけれども。経済学の単純な理屈でいくと、今は障害者の労働力供給が不足しているので採れないので、精神義務化によって労働力供給が増えれば採りやすくなるというのは、単純な理屈です。余計なことを言いましたから気にしないでくださいね。
○小林氏
栗原委員の代理の小林です。先ほど川崎委員から、本人自身が自覚という話がありましたが、これは私の誤認なのかもしれないのですが、うちの妹は自覚がないのです。話を聞くと、自覚がない者がかなりいるというように伺っております。自分に障害があることを自覚していないというのは、これが治ったという意味なのかどうなのか分からないということです。その辺も含めて、私の認識だけなのかもしれないのですが、これは統合失調症の場合ですが、そういう状況があるというのも1つあります。
  これは失礼かもしれないのですが、過去の資料にもありますが、精神疾患の方はかなりの人数がいるというのが出ています。その中で、手帳を持っている方は数も少ない状況があります。これは10何年前の話になりますが、いろいろな将来のことを考えると手帳を持たせてしっかりして、親が亡くなったものですから、しっかり自立できるような道を支援したいというときがありました。そのときに、妹に手帳をとることを勧めたのですが、本人が手帳を取ることにすごい拒否感を持ったということがあります。そのときは、医師に相談したのですが、医師からは「そういう方、結構いるんだよね」というお話があったのです。
  今はどう変わっているのか分からないですが、過去の経験からすると、人事・労務担当者からしてみると、どうなんだという気もしますし、また中小企業の立場から言えば、そう従業員の数はいないわけですから心配もあると思います。見た目で身体障害者は障害の状況が分かります。それに疾患の説明を受ければ大体分かるのです。知的障害の方も分かるのです。でも、精神障害の方は分からないのです。本当にごく普通に暮らして、先ほども病院に入院していて職場に来られる方もいるという話をしましたが、外見上は全然分からないのです。どう対応していいのかというのは、腫れ物を触わるというのは失礼かもしれないですが、そういう気持です。私の妹もコミュニケーションが苦手で、自分でやろうと思ってもやり得ないという状況が発生します。それぞれの精神障害者の方は、得意とする能力のある方もいるとは思うのですが、その能力を最終的に評価するときも、コミュニケーションというか、話してということが必要になります。そのときの難しさが、企業側の心配としては若干あるのです。そういう心配を少しずつ取り払っていくことが必要でしょうし、それには時間もかかるでしょう。中小企業は数多いわけですから、それぞれの中小企業の方々に周知していくのにも時間もかかるでしょうし、政府の支援も十分必要だと、そう申し上げているということです。
○今野分科会長
多分こちら側の皆さんと松爲さんもそうかもしれませんが、意見を私が整理すると、したがって義務化という方向性は決めておいて、その代わり実施については時間をかけましょうということになる。それではどうですかという提案だと思うのです。だから、そのときにどの程度時間をかけるのかというのはいろいろあると思うのですが、皆さんの意見を聞いていると、かなり柔軟でもよさそうだという感じはするのですけれども。

○小林氏
私だけかもしれない。
○今野分科会長
いやいや、こちらですよ。柔軟にいきましょうということについては。
○松爲委員
今のお話ですが、手帳の問題に関して1つ経験しているのは、精神に関してはみなし雇用を始めましたよね。あのときは、私は労働省の研究会におりまして、みなし雇用をした段階で、それまでは精神に関しては手帳はあったのですが、写真貼付けも何もなくて、みなし雇用はあれ以降、急激に増えてきたのが実態ですよね。ですから、今、座長がおっしゃるように、例えばある種決めて、目的管理でやってしまえば、そこから一気に形が変わってくるということがすごく多いような気がいたします。
  そういった意味では、少ないから云々ということよりも、それでも、どうしても手帳を取りたくないという人がいたならば、それは今度、雇用率対象の範疇外ですから、それはもうそれでいいではないですかということなのです。つまり、言い換えますと、本人の自己決定に任せられますよね。手帳制度が入ったとき、義務化されたときに、自分が手帳という枠組みの中で、雇用率枠の中で入って、セーフティネットとして企業という社会の中で働くのか。手帳を取りたくなかったら取らなくて結構ですけれどもということで、本人の自己決定に任せられることになりますから、現状は少ないけれども、恐らくこういった雇用率という格好になってきますと、精神障害者の人たちは社会の中で働きたいという意欲が、知的・身体の人たちも全然違うほど大きいと思っています。
  なぜならば、社会の中で働くというのは、社会の中の一員としての役割行動、企業全般から自分が存在として認められるというその思いがすごく強いからだと思っています。そういった意味では、一歩動いたときに、義務化という方向が固まったときには、むしろ手帳取得者が非常に多く増えることが十分予測されると思いますし、また手帳を取らないからという人たちに関しても、無理に取ってくださいとは言う必要もないと思っています。手帳だけに関すると、私はそういう感じを持ちます。
○職業安定局長
中村さんが立たれる前に、先ほどのお話だけちょっと。1つは今、0.2上がるということで、大企業とか地方公共団体がコンプライアンスの関係から相当必死になって、障害者雇用を進めていると。現時点において、そういう意味で中小企業が採用しにくくなっているというのが、特にこの時期についてはあるのは承知しております。私どもも、できるだけ中小企業を含めて、採用意欲のある所にはやるようにということで、先日も労働局長会議とかいろいろなところで指示を出しましたので、最大限努力したい。
  もう1つは、中小企業を含めてですが、どうしても身体障害で、健常者と全く同じように仕事ができる方という企業も、私どもが聞いている限りでは多いので、そこのところはまた企業のほうでも少しいろいろな障害の方にも目を向けていただくことも含めて、対応をお願いしたいと思います。その状況は私も前から聞いておりますので、そこのところは最大限努力したいと思っていますので、よろしくお願いいたします。
○川崎委員
家族会の川崎です。今、手帳のことでお話がありましたが、実は精神保健福祉手帳が、まだかなり歴史が浅いということで、ほかの身体と知的の人の手帳と比べて、手帳を持っている上でのメリットが大変に少ないということがまず1つ挙げられて、なかなか手帳を受けない人が多いのではないかということは考えられることです。先ほどもありましたように、偏見で、手帳を取ることによって何か精神障害者のレッテルを貼られるのではないかという懸念もあります。実は先日、東京でアンチスティグマ国際会議が開かれました。各国やはりスティグマ、偏見はあるのですが、その偏見をどうやって解消しているかの1つに、国を挙げて啓発活動をしているということがあります。国がお金を付けて啓発活動をしている。例えばテレビのコマーシャル画面に、何か困ったらここに電話をしなさいというものが流れるとか、そのように公の場での啓発活動がされていることを私は感じています。現在、精神障害者の啓発活動は家族会とか当事者会がやっているのですが、集まる人は家族とか当事者なのです。もっともっと一般の人に広めたいと思いながらも、なかなかそれができていないのが現状で、偏見を取り除くための啓発ができていけば、企業の方にも精神障害者の特性なども分かっていただき、義務化に向けての方向付けもできるのではないかと思っておりまして、これは厚生労働省にもお願いしたいことです。以上です。
○高橋委員
高橋でございます。私の先ほどの発言が、問題点ばかり挙げたとか、重箱の隅を突っつくような発言とか、そのようにとられてしまったとしたら、私は非常に残念で、課題・問題点、現状の問題点を指摘したあとで、最後に私が申し上げたのは、将来的な義務化に別に否定的ではないですから、そのときに今のようにまず義務化そのものを決めてやるのだという御主張だということは理解しましたが、そうではなくて、様々な要素、100点だから義務化だとか、100点未満だから義務化でないとかいうことではなくて、幾つかの重要な要素について、ある程度達成するべき、注目するべき指標をこの審議会で議論して、その一定の指標を超えるように、まずは施策に取り組む。その上で、一定期間後にまたこの審議会で、一定のそれぞれの指標についての検証を行うとともに、義務化の具体的なあり方について議論したらどうでしょうか、というのが私の一番言いたかったことなのですが、そこが何となく全部ネグレクトされているような気がしますので、是非よろしくお願いします。
○今野分科会長
今の高橋さんの御主張を理解したのですよ。それで、もう少し今度、先ほどから言っている精神の義務化で方針を設定しましょうという御意見の考え方は、もしそういう指標が非常に重要であれば、準備期間を長期に置いたときに、そういう視点でも準備がちゃんと進んでいるかを見ましょうという、多分そういう議論になっていくと思うのです。高橋さんの場合は、その指標で見て、ある条件をクリアしたら方針決定でしょう。片方の意見は、方針は決めておいて、長い準備期間を置くので、その間ちゃんと整備が進むかどうかを見るときに、高橋さんが言われた指標を使うとしたら、そこで使いましょうということになるのだと思うのです。私は専ら解釈していますね。私はそのように理解しています。
○高橋委員
高橋です。意見はもちろんありますよ。要するに、まず最初に目標ありきだというようにしますと、実際的にいろいろなものが考慮要素だったということがあったとしても、結局まず目標ありきになってしまうのです。これがいろいろな行政の、これまでの私が感じるところの経験値です。したがって、やはり一定限の底上げがまずないと、現段階において、まずやるべきという目標を立てられるような状況にはないと申し上げざるを得ないということです。
○今野分科会長
そのときに、私が一番最初に聞いたことが重要で、使用者側の人たちは頑張るぞという気はあるのだろうなと、ということです。頑張るぞという気があるということは、時期は別にして皆さん到達すべき地点は一緒ですねというのはいいですよね。そういう意味では、共有できている目標というのはあるのですよ。そういう点からすると、論理的に言うと、高橋さんが言われている目標が先というか、目標はあるのだけれども、目標を設定すること自体が早すぎるということしか理解できないですよね。それでいいですよね、これは、私の理解の問題です。いいですよね。目標を否定してしまうと、最初の頑張るぞを否定してしまうことになってしまうから、目標を設定するのは、どう考えてもいろいろな条件整備の状況を考えたときには早すぎるとお考えだ、というように考えればいいですかね。私は最後のまとめを考えなければいけないので、皆さんの議論を整理しているのですけれども。
○高橋委員
高橋でございます。私はあまり高尚な議論に付いていけません。繰り返し申し上げておりますが、まずは企業としては4月からの2.0%への引上げへの対応が最優先です。先ほど私も指摘しましたが、たとえ1,000人以上の企業規模だろうが、小規模企業だろうが、2%という今の現状を2割ぐらいしか満たしていないのです。どうやって2%を達成するのかということが、今、極めて重要になっております。
  そうした中で、あらかじめ義務化をしますよということは、すなわち、それは何を言っているかというと、企業側にしてみれば、法定雇用率を更に引き上げますよというメッセージでもあるわけです。そうしますと、一生懸命、障害者雇用に取り組んでいる企業の中でも、中村委員が再三再四おっしゃっていらっしゃいましたが、頑張っても採用できない企業も数多くいらっしゃいます。また、今回初めて雇用対象の義務化になる企業も相当数程度出てきます。
  そうした中で、あらかじめ、さらなる法定雇用率を引き上げますというメッセージを出すことが、本当に障害者雇用の促進にとってどうなのかということも理解する必要が私はあるのではないかと思います。是非その辺を御理解いただいて、まずはいろいろな諸施策を充実させていき、その上で、一定の期間の後に施策の状況なども検証しながら、あるいはとりわけ2%の状況がどうなっているのかは、毎年6月1日時点で分かるわけですから、詳しく分析をした上で、どういう地合いなのか、あるいは精神障害者だけではなくて、身体障害者、知的障害者も含めた皆様方の雇用の関係を総合的に勘案しながら議論をさせていただくということで、是非お願いしたいと思います。
○今野分科会長
ということは、私の理解でいいということですね。つまり、頑張るぞというのは、そういう意味でのターゲットは決まっていると。でも、いろいろな状況を考えて、今、具体的に義務化と言ってしまうといろいろな問題が起こるとか、条件整備ができていないからまだ早いということですね、結局。そういうことですから、私の整理は間違えていなかったということなのです。
  次回が最後の研究会なのですが、どなたか事務局、手を挙げましたか。いないですね。大体御議論は出たかなという感じはするのです。私が申しましたように、皆さんの議論を整理をすると、頑張るぞという点では皆さん合意をしている。そこにいくときの条件が100%整っているとは、皆さん思っていない。そこも合意ができている。頑張るぞというターゲットは決まっているわけですが、そのときどうやるかということについては、使用者側の皆さんはそこで義務化という方針を明確にすることは時期尚早であると。そのほかの意見は、義務化するぞという方針を決定しておいて、その達成にいろいろな条件整備がまだ100点ではないので、それを時間をかけながら進めていって、十分な準備期間を置きながらやっていったほうが、ずっと効率的・効果的な対応になるのではないかと。こういう2つの意見が両立しているというのが現状だということです。
  使用者側の皆さん、すごい十分な準備期間は考慮するからというので合意していただくと上手な妥協策になるのですが、その辺でちょっと考えていただいて、次回やりますか。6ページでいくと、せいぜい数行の問題なのですが、ここをどう書くかということですね。ここについて、次回には、いずれにしても事務局に原案を出してもらって、それで議論する以外ないですかね。議論の内容はほとんど整理はできたので、あとはどう判断するかということですので、私としては今2つの意見が対立していますので、歩み寄っていただいて、それで1つの文章にしたいとは思っております。山田さん、今のところそういう進め方でいいですか。ここでまだ答えが見つかりそうもないので。次はいつでしたか。
○障害者雇用対策課課長補佐(安達)
次回ですが、3月5日を予定しております。
○今野分科会長
それまで使用者側の方にももう一度考えていただいて、障害者団体の方と組合の方にももう一度考えていただいて、良い方向でまとめられればと思います。早いですが、議論を尽くしたので、もうやめましょう。
○杉山委員
座長が締めかかったところで申し訳ないのですが、議論を聞かせていただく中で、障害者の代表委員の御意見はもっともだと聞いていました。また、使用者側から出されている様々な懸念点についても、一定の理解はできると思っております。そういった中で、さらに次回に向けて議論されていくということで、先ほどの座長のおまとめで結構だと思っています。この間、精神障害者の取扱いに関して、労働側として、基本的にいたずらに雇用義務化の実施時期を先延ばしすることはいかがなものかという発言をさせていただきました。先ほどの座長のまとめで、すごく準備期間を置くという話もありましたことから、その検討の中で是非考慮していただければということを何点か述べて、最後の発言にしたいと思います。
  1つ目ですが、精神障害者の雇用義務化の議論は、2004年12月の障害者雇用分科会で意見書を取りまとめて以来、約10年を経てきているわけです。この10年間の様々な施策の実施もあり、環境の変化もあるわけですから、そういったものを踏まえれば、今から一から議論をスタートしていくかどうかということについては、慎重に考えたほうがいいのではないかと思っています。
  また、これは既に述べたことですが、知的障害者については、1988年に実雇用率のカウント対象にし、10年後の1998年に雇用義務化の対象にしてきたという経緯があります。その期間だけをもって全てを判断する必要はありませんが、先ほどいろいろな懸念点も示されておりました。一方で2006年に実雇用率のカウント対象となって以降、精神障害者の就業率等々はどうなったかというところも、しっかりとプラス面として見ておく必要があるのではないかと思います。ちなみに、2006年に実雇用率のカウント対象になって以降、精神障害者の就職件数は2.8倍となったという数値が出ているということもありますので、そういった意味では10年前と環境は変わっているのではないかと思います。
  知的障害者の雇用義務化を検討した際にも、今回と同じような議論があったと受け止めていますが、義務化以前の雇用者数は20万人台だったものが、義務化をすることによって、2012年度には、75万人まで増えてきているという数値もあり、一定の政策効果はあったのではないかという捉え方をしているところです。そういった意味では、改めてではありますが、全体的なまとめは先ほどの座長のまとめの方向でいいと思うのですが、精神障害者の雇用義務化の実施の時期については、こういった過去の経緯も考慮しながら、いたずらに相当長いというよりは、一定の中で合意できるような方向で、今後議論させていただければと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
○今野分科会長
今の杉山さんの御意見の中で、1点だけ修正させていただきたいのですが、私はまだまとめていませんので。そういう御意見があるということで、最後の寄せをしたいというか、合意に持っていくように努力をしたいということです。今日はこれで終わりにさせていただきます。事務局から今後の予定についてお願いします。
○障害者雇用対策課課長補佐(安達)
事務局でございます。次回日時は先ほどお伝えしたとおり、3月5日10時から12時です。議題は、意見書(案)についてということで、場所等の詳細は追って御連絡をさせていただきます。以上です。
○今野分科会長
これで分科会を終わります。議事録の署名ですが、労働者代表は冨高委員、使用者代表は高橋委員、障害者代表は阿部委員でお願いします。今日は終わります。ありがとうございました。


(了)

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