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2012年11月13日 第6回国立病院及び労災病院の新しい法人制度に関する検討会議事録

医政局国立病院課国立病院機構管理室

○日時

平成24年11月13日 10:00~12:00


○場所

中央合同庁舎5号館18階 専用第22会議室


○議題

1 新法人の業務と治験・臨床研究等の推進について
2 その他

○議事

○永井座長 それでは、時間になりましたので、ただいまから第6回「国立病院及び労災病院の新しい法人制度に関する検討会」を開かせていただきます。
 委員の皆様におかれましては、大変お忙しい中、御出席賜りましてありがとうございます。
 本日は岩村委員、夏目委員が御欠席であります。
 本日の議事はお手元の議事次第にあるとおりでございます。「1 新法人の業務と治験・臨床研究等の推進について」「2 その他」でございます。
 前回の検討会では今回、報告書案を議題にするということにしておりましたけれども、これまでの議論におきまして新法人の役割、業務についてさまざまな御意見をいただいたこと、また、厚生労働省内でも治験・臨床研究等の推進等について、さらに御議論いただいてはどうかという御意見がありましたので、事務局と相談して議題を変更しております。
 本日の進め方でありますが、治験・臨床研究等の現状と両法人の業務、将来像の大きく2つに分けて事務局に資料を作成いただいております。
 まず、現状についての説明と質疑応答、その次に将来像についての説明と質疑応答ということで、2部構成となっておりますのでよろしくお願いいたします。
 では、早速議題1に入ります。両法人の治験・臨床研究等の現状につきまして、国立病院機構、労働者健康福祉機構の順番で説明をお願いいたしたいと思います。
○桐野理事長 それでは、まず国立病院機構の方から治験・臨床研究の現状について、資料1-1を使って御説明をさせて頂きます。
 資料1-1は「国立病院機構の治験・臨床研究、診療情報分析」という資料でございます。1枚あけて頂きまして、全部で3枚ありますが、この資料で治験と臨床研究及び診療情報の分析について、まず現状を御説明いたします。
 国立病院機構は全体で入院ベッドが5万床を超える比較的大きなネットワークがございまして、非常に豊富な症例を持っておりますので、その症例数を生かして治験を迅速に行うということで、法人化以降この体制を強化してまいりました。
 左上のグラフでありますが、現在までの収益ベースの治験の実施実績でありますけれども、平成15~19年まで順調に全体を伸ばしてきております。19年以降は大体年間50億円程度の治験の実績がございます。その治験で行っている疾患ですが、例えば平成23年度の疾患別の新規契約では、左下のパイチャートでありますけれども、がん、消化器、膠原病、循環器等の入院診療で行う治験を主として行っており、病院以外では実施しにくい比較的重い疾患の治験を行っております。
 右側の上にいきまして、その実績は平成21~23年度に製造販売または適応追加が承認されました352品目のうち176品目、50%について国立病院機構が承認申請の前提となる治験に加わり、それを実施しております。
 21年度においては4課題、22年度においては1課題、23年度においては1課題の医師主導治験を国立病院機構として実施しております。この実施体制につきましてはそれぞれの病院が個別に契約を結ぶ方法に加えまして、ネットワークを生かした中央IRB、中央倫理審査委員会あるいは進捗管理、人材育成を行う中央治験事務局というオフィスを設置いたしまして、そこを中心として治験審査を中央化し、中央IRBで統一SOPに基づいた審査を行っております。治験の窓口の一本化を行って、いわゆるワンストップサービスで可能なような形式をとっております。また、それぞれの病院に対しては中央治験事務局が進捗管理を行うという方法で、ネットワーク内のCRC研修を行い、治験の制度の向上に努めております。
 治験コストにつきましては、変動費部分に対する1症例当たりの治験機関における進捗度がここに示しておりますが、治験コストを適正に行っております。
 3ページ、今度は臨床研究も同様144の病院のネットワークを生かすようにこれを実施するということで、データセンターを設置してそれぞれ国立病院機構の各病院が電子的に登録できるような仕組みをつくっております。機構本部の総合研究センターの内部に、先ほど申し上げました中央倫理審査委員会を置いて審査を実施しております。
 左下、国立病院機構の大規模な臨床研究の実例を挙げておりますが、21年、22年、23年におきまして、前向きコホートあるいは無作為比較試験等の研究を実施しております。また、人材育成に関しましてはCRCの初級の養成、スキルアップ研修、医師の研修、倫理審査委員の研修、事務官を対象とした研修、デザインの研修等を18年以降実施しております。
 業績については英文原著論文をここに書いてありまして、インパクトファクターの累計が書いてありますが、いずれも徐々に改善をして、原著論文の本数が増え、インパクトファクターも増えているということでございます。
 また、国の政策決定に直接かかわる臨床研究としましては、パンデミック時を想定した鳥インフルエンザワクチンの臨床研究を下の表に示したように進めております。
 4ページ、さらに一歩進めまして、一般医療から先駆的医療の研究に進んでいくために、その先駆けといたしまして理研と協定を結んでおりまして、その実例としましては左下にありますように免疫細胞治療、NKT細胞を使った肺がんの治療を協定を結んで実施しておりまして、国立病院機構千葉大学でこの研究を現在実施しております。フェーズ1、2の試験が終了し、今後高度医療に進んでいくという段階に達しております。できましたらこのようなシーズから実際に臨床応用に進めるような研究を今後少しずつ充実していきたいと考えております。
 また、それを実際に担っていけるような、例えばここに書いてありますような九州がんセンター、名古屋医療センター等体制を持っている病院もございますので、そのようなところで進めていきたい。このような方法によって、いわゆる死の谷を越える研究を当機構でも進めていきたいと考えております。
 5ページは診療情報を使いました診療情報分析の結果であります。診療情報データバンクは診療情報研究部というところで全144病院のレセプトデータ、DPCデータを収集しております。144病院全てがDPC病院ではありませんので、DPCを実施している病院についてはDPCデータ、それから、DPCを実施していない病院ではレセプトデータをE/Fファイルに変換して、これを集計します。ちなみにE/FファイルというのはDPCで用いるファイル形式でありまして、ここまで持ってくれば同一の標準化されたデータとして集めることができます。
 このデータを匿名化し、患者個票単位のデータベースとして集めることができます。これは平成22年10月に構築しまして、運用を開始いたしました。その結果は上の臨床評価指標、いわゆるクリニカルインデイケーターと言われているものでありますが、これにつきましては医療の質を定量的に評価するために、レセプトデータやDPCデータの分析によって、臨床指標をそれぞれの病院について出すということを行っております。現在、22の医療領域から70指標、63がプロセス指標でまだアウトカム指標は7指標ですが、改善点を明確にするためにプロセス指標を現状では重視するということです。
 この具体例についてはこの資料の次に参考資料というものがありまして、37ページに臨床評価指標についてというページがございまして、どういうことを行っているかという、例えばプロセス指標の1番で胃がん、大腸がん、膵臓がんの手術患者に対する静脈血栓閉塞症の予防対策の施行率がどうであるというようなことを、2番は肺がん手術患者に対する治療前の病理診断の施行率がどうであるというようなことを出すわけであります。そのことによって医療の質の向上に役に立てていただく。
 下側は病院の運営を改善する質の向上を目指すわけでありますが、臨床機能分析レポートということを行っておりまして、これは機構病院や公表されているレセプトデータ、DPCデータによって、機構病院を他の病院と同じデータスケールで比較できるという利点があります。つまり他の病院との比較ができますと、機構病院内部での全体の平均あるいは同規模の病院の平均との比較ができるということでありますし、いろんな診療科別の分析ができたり、地域における疾患ごとのシェア分析ができるということで、自分の病院の立ち位置が近隣の医療圏の中でどういう位置にあるかなどの比較もできるし、機構内の病院において自分の病院がどういう位置を占めるかということも、ここからわかるということで大変有用なデータかと思います。
 現状ではこのように治験と臨床研究と診療情報分析ということで行っておりますが、最後に、これは次にお話する将来像とも多少重複するところがありますけれども、下側の現在基盤としている事項につきましては茶色の枠で囲ってございますように、中央治験・倫理審査委員会や研究ネットワークグループ、臨床研究活動実績評価、治験・臨床研究コーディネーター教育、EDCデータ云々、こういうような基盤をこの機構設立以来、連綿としてつくっておりまして、臨床研究あるいは治験、臨床情報分析という成果をあげているというのが現状です。
 今後はさらに国立病院機構らしい大規模なデータの分析ができるような方向に進んでいって、新しい治療法の確立から医療のエビデンスの創出というようなことを目指していきたいということであります。将来像については後ほど時間が与えられておりますので、そこでまた説明させて頂きたいと思います。
 以上のとおりでございます。
○永井座長 ありがとうございました。
 それでは、労働者健康福祉機構からお願いいたします。
○武谷理事長 それでは、資料1-2に沿って御説明いたします。
 まず冒頭に私どもの機構というのは本来、労働者の健康・福祉に貢献・寄与する。こういう趣旨で発足した組織でございまして、病院事業は主要な部分ではありますけれども、それに特化した事業体ではない。労働者の健康・福祉の一環として医療を提供している組織であることを御理解いただきたいと思います。
 そのために研究・治験というのも一般病院あるいは学術機関ではありませんで、あくまでもそういうような設立の趣旨に則った文脈で行ってきたということでございます。
 歴史的にも労災病院、現在全施設数では34でございますけれども、この医療施設の多くは炭鉱災害あるいは労働災害が問題になった、多発した場所でございまして、そこで一般医療を提供する上でのアクセスがよいという場所ではなかったわけでございます。ただ、疾病の構造、頻度等も時代とともに変わっておりますので、私たちもそれに応じて対応はしてきてございますし、もう40年、50年という開設以来、地域に奉仕している病院にとっては地域のニーズも変わってきましたので、徐々に開設当時の状況とは病院の医療の内容は変わってきたということでございますが、しかし、あくまでも私たちの機構の目的ということは、冒頭に申し上げました労働者のWell-beingに寄与するということですので、それを忠実に実践しているということで、私どもの出自とアイデンティティをまず御理解いただきたいと思います。
 次のページで病職歴データベースというものが私たちの研究の源泉、全部ここからヒントを得るということでございまして、職業という視点で患者さんを拝見するという医療施設は余りない。労災系列はその点では非常にユニークであるということでございます。
 これは昭和59年から開始いたしまして、既に30年近くになろうとしておりますけれども、病歴情報が523万件、病職歴が280万件、これは当然職業に就いていない方もおられるので少し乖離はありますが、これだけの膨大なデータがあるということでございます。既にこのデータを利用してアスベスト関連疾患、あるいはまだこれは緒に就いたばかりですが、職業性の胆管がん、復職支援においてどのような問題点があるか、ここから抽出しようという研究を行っているわけであります。
 ただ、この研究自体は、あくまでも特定のテーマを予想しているわけではなくて、これをレトロスペクティブに利用することになりますので、これ自体で疫学研究が完結するわけではございません。これはあくまでもプレリミナリーのパイロットスタディとして利用するということを御理解いただきたい。このデータは全部本部にデータベース化して、いつでもアクセスが可能なようになってございます。特に復職支援というのはレトロスペクティブに職業歴に基づいてどのようなアウトカムを辿ったかということは、これを用いるとある程度の動向が伺えるということでございます。
 3ページ、実際に病職歴データベース上の職業別の患者のパーセンテージと、その実数が記載されておりますが、これを見ますと一番右の無職・主婦・学生の方以外は全部勤労者でございまして、労災病院を受診される4分の3が勤労者であるということでございます。一番多いのが事務職、製造業が並んでおります。続きまして専門技術者あるいは建設業でございます。以前ホワイトカラー、ブルーカラーとか言われておりましたけれども、労災の疾患の種類も若干異なるかと思いますが、保安関係、運輸、製造、建設あたりがブルーカラーに相当するわけでございます。
 さて、このようなものを用いてどのようなことを行ってきたかということでございますが、4ページ、アスベスト関連疾患ということがございます。アスベストというのは日々マスコミ等でも報道され、既にピークは過ぎたかと思われる方もございますが、これはばく露してから40年平均の潜伏期で発病するわけでございまして、1990年ぐらいまで使用され、70年から90年が恐らく使用のピークですので、今まだリニアに患者さんが増えていることを御理解いただきたい。1999年が500名だったのが2014年には2,000近くになる。まだこの15年、20年ぐらいで4倍になるということで、まだリニアな増加というのは持続しているわけでございます。
 また、当然この死亡率も増加しておりまして、2003年で900人ぐらいの方が亡くなっている。これも大変看過できない事態ということでございます。
 アスベスト関連というのは、そもそも労災病院が開設された当初はじん肺ということが世間の耳目を集めておりましたが、じん肺診療のノウハウをこのアスベスト関連に転用できたということでございまして、労災関連疾患というのは人間にとって有害な物質が経気道的、経皮的あるいは経口的なルートでばく露される。あるいは放射線とか振動、温熱、寒冷というような物理的刺激に大別されるわけでございますけれども、発生の機序はかなり共通のものがありますので、じん肺なども呼吸器系の内科の専門医が非常に充実していたので、アスベストに速やかに対応できたということでございまして、こういう労災病院の蓄積されたノウハウというのは労働災害の種類は変化いたしましても、基本的に共通な部分があるので速やかに対応できる。そういうことでございます。
 アスベスト関連疾患に関しましては、私ども早期診断システムの確立とか、今、汎用されております中皮腫のマーカー、ヒアルロン酸、新たにこれもポジティブ・プレディクティヴバリュー、陽性的中率が必ずしも高くないので、次のニュージェネレーションのマーカーも今、開発している。それから、石綿関連の肺がんも非常におかしなことですが、まだ原因が分かっていないので、なぜアスベストが肺がんを起こすのか。もう一つ二つ複合的なイシューが加わらないと発症しないわけでございますので、それを今、遺伝子レベルで検索している。そのようなことでございます。
 治療に関しましても、外科的治療あるいは化学療法等を今、鋭意これについても開発に取り組んでいる。これに関しましては、学会発表論文等も労災関連の先生が非常にこの領域を牽引しているということでございます。
 実際にどのような対外活動あるいは国への政策医療として貢献しているのかというのが5ページでございますが、アスベスト疾患センターでの健診が約7万件、相談も4万件以上。石綿小体の計測というのが診断の確定には非常に重要でございまして、これも約2千件を扱っている。右上にアスベスト小体がどういうものかお示ししておりますが、マッチ棒、両方に棍棒状になっているものがあることがアスベスト疾患の診断に極めて重要な意味を持つということでございます。
 また、アスベスト確定診断事業等あるいは石綿関連疾患に関する事例等の調査業務、国が設置した検討会、アスベスト疾患の技術研修等、こういう対外的な活動もしているということでございます。アスベスト関連疾患は全国でこれは30ぐらい、赤丸がついたところ、平成23年度に研修を行っているということでございます。また、これは昨今、中国とかモンゴルといった東南アジアの諸国でも大変大きな問題になっておりまして、日本がこの領域で非常に先駆けて研究を進めておりますので、そこにいろいろ講習会あるいは技術指導に出向いてございます。
 続きまして、メンタルヘルスというものが昨今、社会的にも非常に注目を集めているわけでございまして、私たちもこれに対して全労災病院をあげて取り組んでいるということでございます。特に産業保健等でメンタルヘルスに関する問い合わせ、カウンセリングが非常に多いということでございます。特に勤労者のうつに関する予防あるいは早期治療を促すような、今、インターネットを通じた企業あるいは実際にワーカーが、自ら利用できるようなメンタルヘルスに関する知識等を支援するウェブシステムを立ち上げている。これはまだデベロッピングでございますが、事業所あるいは勤労者が利用していただくようになっているわけでございます。
 下段は個人でセルフアセスメントができるようになっていまして、さらにチェックが必要というときにはいろんな情報をそこで提供し、必要に応じて受療を促すということでございます。特に研究としては脳の解剖図が出ておりますが、これはシングル・フォトン・エミッションCT、いわゆる機能的なCTでございまして、アイソトープを注入してそれが血流に流入することによって、局在が三次元的に同定できる。その血流分布によってうつの診断、うつの程度あるいは不眠、過労などにもこれが応用できるのではないかということで、今、注目されておりますけれども、このような仕事をしている。
 これまでの成果として、おもしろいことに労働者がフィジカルの同じ過酷な勤務をしても、自らが主体的に裁量権を持ってやっているとか、達成感の有無等でうつになりやすいかどうかが決まる、あるいはうつの経過が変わるというような、プレリミナリーでありますが、成果がみられているということでございます。
 続きまして、勤労者のメンタルヘルスセンターの実際のアクティビティをお示ししますが、メンタルヘルスセンターというのは主として労災病院の中の13カ所、これをドクター中心として、サイコセラピストとか保健師等がこれに協力しているわけでございますけれども、ここを通じて講習会に出席された方が2万5,000で、これは主として病院ですので患者さんが中心になるわけでございますが、さらに職場訪問を通じての職場復帰支援事業あるいは従業員の面談、休職に至らない程度のメンタルヘルスディスオーダーの方への面談、このような活動をしてございます。
 病院等は別個に都道府県に産業保健推進センターというものが設置されておりますが、ここも私たちが管轄しているわけでございますけれども、ここは主として一般の事業所あるいは産業医を対象として、メンタルヘルスの研修あるいは職場のメンタルヘルス対策についての相談の受付、この辺は産業医あるいは開業医の先生方も御協力いただいてございます。それから、講演活動あるいはメディア、ジャーナルを通じての情報提供を行っています。
 産業保健のメンタルヘルスの取扱いの特色として、普通は心臓が痛いとか手足が痛いといった、医師と患者、医療従事者の間で医療の受療と医療の提供が完結するシステムでございますが、職場におけるメンタルヘルスの場合には、そこにお示ししましたように労働者を中心として管理監督者、産業医、保健師、さらにそれをサポートする産業保健推進センターあるいは実際受療される場合には担当医、こういうチームワークで担当しなければいけない。この辺をオーガナイズする組織というものが現在不足しているということで、このあたりが私どもの今一番重要なミッションだと思っておるわけでございます。
 国が設置した検討会等に私たちも積極的に参画するとか、厚生労働省の委託事業が幾つかございますが、メンタルヘルス対策支援センター事業あるいは職業と治療の両立等、このようなこともお手伝いをしてございます。
 8ページ、内容は脊髄損傷になりますけれども、これも以前は典型的な労災でありましたが、職場環境等も変わりまして、必ずしも脊損のきっかけは労災ではないのですけれども、非常に若者も多い、あるいは高齢者も多いということで、現実には年間2,000~3,000人の方が脊髄損傷になっている。その割にはこれらを取り扱う施設が非常に不足している。非常に需給のバランスが崩れているところでございます。しかも脊損の患者さんは救急処置が非常に進歩したおかげで、ほとんど寿命を全うできるということでございますので、急性期の治療も非常に重要ですけれども、さらにQOLあるいは職場、仕事を通じて長期生活する、そういうことを支えることが非常に求められているということで、私どもは今、そのようなことに力点を置いて、医療あるいは研究を行ってございます。
 とにかく脊損に関しましては、私どもには今3つの専門施設がございますが、そこは全国的にも非常にこの領域で実績あるいは取り扱う症例数は最も多いのではないかと思っているわけでございます。
 研究の内容といたしましては、脊損患者さんのリハビリというのは以前は残存する身体機能のみを代償するように、健常な部分を復活するということでしたけれども、今は近代工学技術等を取り入れて、人と機械が一体となってQOLを高めるというようなことを研究しているわけでございまして、例えばブレイン・マシン・インターフェースというものがそこに書いてございますが、これも脳神経活動を読み取りまして機械とかロボットを通じて操作して、脊損患者の機能を補うということで、機械とあわせて機能修復を図るというものでございます。
 さらに喀痰、吐いた痰を出す介助のトレーニング等とか、そこにconstraint induced movement therapy(CI)療法というものもございますが、これも片麻痺等で患側を強制的に動かすと患側の残っている神経等が活性化されて、機能をある程度回復することが可能である。このような試みがなされている。これも非常に新しい試みでございますが、私どもの施設でもこのような研究を行ってございます。
 9ページ、このような実際の診療・研究を通じて、あとは対外的にどのようにそれを還元しているかということでございますが、自立支援サポート、ピアサポートです。実際に労災疾患、脊損で労災病院で治療を受けた方々が今、パラリンピックなどにもかなり活躍されている。そういう方々の体験談等を講演会でお話して、皆さんをエンカレッジしていただく。治療意欲を促すということをやっているわけでございます。
 職場復帰支援でも従来は、脊損の方の機能を回復して、それで職場での仕事が可能かどうかでしたけれども、職場に対してある程度機能障害を持っている患者さんに合わせた仕事あるいは職場環境をつくっていただく。そのようなことで職場復帰のために脊損の患者さんへのアプローチあるいは職場へのアプローチと、この両方のアプローチをしているということでございます。
 10ページ、これも脊損の患者の疫学調査あるいは研修、国際協力です。福祉用具のイラストデータがございますが、これは一般病院に対してもこのようなインフォメーションを提供している。それから、脊損の患者さんというのは特殊な住居環境を必要とするので、住宅の設計・増築等に関しましても、こういう治療を通じて得たノウハウを積極的に活用してございます。
 11ページ、治験に関しまして先ほど申し上げましたように、もともと我々の出自が労働者の健康でございますので、そういう目的に沿った治験を行ってきたということでございます。ただ、労災病院というのは全国に34のネットワークがございますから、これは地域も比較的分散されておりますし、病院の規模も非常に多様でございますので、いろんな治験に対応することが可能ではないかと思っているわけでございます。
 12ページ、実際にどのような治験をしてきたかというと、人工膝関節、これは最近高齢者が非常に増えています。そもそも私どもは労災疾患を扱うということで整形とかリハビリとか脳外科とか呼吸器、そのようなものが得意としている領域でございまして、人工膝関節の置換に際して血栓予防ということで、抗凝固因子トロンビンのインヒビター、抗凝固因子の有用性を今、検索している。それから、悪性中皮腫に対しても抗がん剤、現在やっているのは葉酸代謝拮抗剤かと思いますが、これの有用性を検討しているということで、治験は主としてフェーズ2、フェーズ3、フェーズ4でございますが、平成23年度で約2,000件ということでございます。
 少し付加的な事項になりますが、私どもは必ずしも研究というわけではございませんけれども、診療以外の貢献として東電の原発事故に対して初動の協力としては免震重要棟に医師を派遣し、現在でも厚労省からの依頼を受けまして、Jヴィレッジというのは原発から20キロ離れたところの施設でございますが、ここに常時医師を派遣している。産業医大も9月まで御協力いただいたのですけれども、現在は労災関係だけということでございます。私も実際、施設を視察に行ってまいりましたが、まだこれは作業員の健康管理というのは非常に重要な問題と認識してきたわけでございます。
 補償行政ということも、これも広い意味では研究ですけれども、これの診断基準とか、診断等に協力しているということでございます。このようにじん肺の診査あるいは地方の労災医員、労災協力医、このようなことで協力している。それから、意見書の作成等でございます。
 以上、私どもに関する研究あるいは治験の実績でございます。
○永井座長 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの御説明に委員の皆様から御質問、御意見等ありましたら御発言お願いいたします。
○渡辺委員 まず両方に、国病機構の方には基本的なことなのですが、3ページのネットワークを生かした臨床研究なのですけれども、自前のデータセンターとありますが、これは具体的にどこにあるのかということを素朴に知りたいということが1つ。
 その次の診療情報分析、つまり5ページの、これも基本的なことなのだけれども、どんなセクションでどんな人が具体的にどういうことを行っているかということを、もう少し詳しく教えていただきたい。国病機構にはその2点です。
 労災関係ですと、7ページでメンタルヘルスに関するいろんな活動をなさっているというお話だったのだけれども、まず勤労者メンタルヘルスセンターというのは本部にあるのですか。これも具体的に。それと都道府県産業保健推進センターはいつか理事に伺ったことがあるので、これは各都道府県にあるわけですね。その辺の具体的なことを教えてください。
 以上です。
○永井座長 では、国病からお願いします。
○桐野理事長 国立病院機構の方ですが、データセンターというのはサーバーがあって、データマネージャーがおり、データが電子的に集まってきて、そのデータをチェックしてクリーニングをするという機能の場所です。その場所は国立病院機構の中に本部に総合研究センターという組織があって、その組織の中にございます。
 行っていることは今、申し上げましたように、電子的にそのデータを集める。そのデータが正しいかどうかのチェックをする。最終的に確定して精度の高いデータにしていくというのが役割です。
 参考資料に診療情報分析のページがありますが、33ページから診療情報分析部が何を行っているかということの記載がありまして、そこには同様に144の病院のDPCデータと、そうでないDPCを実施していない病院はそのデータを変換したデータが集まってきます。それから、独自に公開されているDPC情報を外部の病院について集めます。それぞれのデータについて分析をして、例えば先ほど申し上げましたように臨床評価指標を出す、診療の機能分析のデータを出すということで、その具体的な内容は37ページ以降に書いてありますけれども、臨床評価指標というのはあることをどの程度やれているかとか、例えばここでは胃がん、大腸がん、膵臓がんに対する静脈血栓症に対して、どういう予防をやれているかどうかということを集計するわけです。それは電子的に出ますので、新たに医師や看護師に入力をしていただく必要はありませんので、それだけで結果が出て、ちゃんとやるべき目標を達成しているか、例えばここではもうやらなければいけないので目標値98%と設定しておりますが、これを達成しているということであります。
 1つ開けて頂きますと、どういうことを行っているかというと70指標行っており、がんがこれだけ、感覚器、肝、血液、呼吸器、循環器というふうにそれぞれ項目がありまして、先ほど申し上げたように、例えば術後の患者さんに抗生物質をだらだらと投与いるかどうか。投与していたらクリーンな手術の後は3日以内にやめるというのが原則ですので、それを達成しているかとか、そういうことを調べるわけです。そうすると自分の病院が本来やるべき63項目についてきちんとやれているかどうかは明瞭にわかる。もう少し頑張らないといけないとか、やはりいろんな事情があってやれない場合もあって、大体は大部分の病院が7割ぐらいであるということがわかったりして、いろんな有効なことがわかるわけです。
 アウトカム指標というのは、例えば○○の手術はどれぐらいの5年生存率を達成しているかとか、というようなことを出して調べることができるということです。
○渡辺委員 要するに情報分析というのは、主にドクターが行っているということでいいのですか。
○桐野理事長 いえ、これは専門の方が、具体的には東京医科歯科大学の伏見先生に併任をして頂いて、専門家が行っています。つまり24時間これだけにかかっているスタッフもおりますし、外部の先生が入ってきて行っていることもあります。そんな小さな組織ではありません。
○渡辺委員 わかりました。
○上家理事 7ページの勤労者メンタルヘルスセンターは、労災病院に付設されたものでございます。34のうちの13でございます。具体的には釧路から始まって北九州まで比較的大型の、しかも精神科あるいは心療内科の先生がいて、スタッフが充実している病院でやっております。ここはあくまでも病院ですので、患者さんあるいは患者さんではないけれども、職場で健康診断を受けているような勤労者が対象で、講習会や予防活動をしています。
 一方で事業場に対しては下にあります都道府県産業保健推進センターが受託しております。ちょっとややこしいのですが、一番下のオリーブ色の枠の2項目の一番上にあります、メンタルヘルス対策支援センター事業というものを北海道以外の地区46都府県で受けておりまして、産保センターのメンタルヘルス支援センターが、事業場や産業医に対しての講演ですとか支援を行っていて、これにも労災病院の先生がかかわっている。このような形で事業場と勤労者と両方に対して予防活動をしています。
○堺委員 労働者健康福祉機構に勤労者のメンタルヘルスケアについてお尋ねいたします。
 現在まだこの問題は拡大しつつありまして、非常に重要な問題と認識しておりますが、7ページに講習会あるいは面談その他の活動が記載されております。今もお話がございましたけれども、46都府県でこれが行われていると承りました。
 このような講習、面談、患者さんに対する外来診療に加えまして、恐らく一部の方には入院治療も必要ではないかと思いますし、一般の精神疾患の患者さんとはかなり異なる環境を提供することが有効ということも一部では言われております。しかし、このような環境を提供することは一般の精神科病院ではなかなか困難でございまして、公的な病院がそのようなモデルを構築されるということも有意義だと思いますので、今後、労働者健康福祉機構におかれましては指導とか講習あるいは面談、外来に加えて、入院まで含めた総合的なネットワークをつくられて、それでどういう患者さんにどのような対応をすることが勤労者のメンタルヘルスに対して有効かということを発信いただければと思います。これは質問というよりは要望でございます。
 以上です。
○齋藤委員 国立病院機構のことなのですが、今、説明がありましたように治験あるいは臨床研究の推進というのは非常に重要だと思います。これだけ大きな5万床というネットワークで症例が豊富なのは非常に貴重だと思いますし、特に今お話があった診療情報とか経営情報の分析というのは、ちょうど米国のヴェテランズアドミニストレーション病院(VAホスピタル)が、医療安全とか臨床評価指標で先駆的な仕事をやったものと同じようなことが我が国でもできるという意味で、非常に厚生行政にも貢献できる点だと思うのです。
 問題は、治験の場合は企業から収入があるからよいですね。ただ、臨床研究は財源が要ると思います。もちろん競争的資金を取るというのが普通なのですが、日本の競争的資金には1人前の研究者の人件費は入っていませんから、どうしても臨床研究を進めるためのインフラの整備、人とか物とかバイオバンクみたいなものを含めて、それをしっかりしないと実のある臨床研究は将来にわたって続けることはできないと思います。
 そういう意味で財源を国からの運営費交付金が今、少し来ていると思うのですが、それが続くのか。続かないとすれば診療の儲けた部分から身を切って出して臨床研究を進めるか、どちらかしかないと思うのですけれども、その辺をどうするかということが1点。
 2点目は先ほど説明がありましたが、理研と組んで先駆的な医療をやられるということで、これはもちろん非常によいと思うのですが、そうするとナショセンとの役割分担。ナショナルセンターも各臓器疾患分野で先駆的な研究を進めようとしていると思うのですが、それとどういうふうに役割分担をしているか。もちろん重複していても構わないと思うのですけれども、強み弱みがあると思うのです。いずれにしても、臨床研究をやることは優秀な若手医師とか看護師さんとか、そういう人を集めるのに非常に魅力になるので、これはぜひ続けていただきたいと思います。
 以上です。
○桐野理事長 まず研究費ですけれども、診療部分は診療報酬で賄うことを基本原則にしておりまして、したがって国立病院機構は運営費交付金を診療には入れないという原則を貫徹しています。
 研究については本来、診療報酬以外の資金を充てるのが基本的には原則であると思います。したがって、公的資金が競争的に得られれば、それをもって研究に充てるべきであるし、現状では研究費等の運営費交付金として約40億円を頂いておりますが、国の医療の全診療の5%になっている国立病院機構に投入する研究費として多いかどうかというのは国の御判断でしょうけれども、私は極めて少ないと思います。
 3番目に、自ら得た自己収入です。具体的には治験で得た収入のオーバーヘッドの部分を充てて、例えば具体的に先ほど渡辺委員から御質問がありました総研のデータセンターなどの機能は、現状では全てその収益部分で充てることにしています。この原則は、診療は診療報酬で、研究は外部資金及び自己収入で充てていくというふうにしたいのですが、ただ、機構全体の一定の理解があり、一定の歯止めがあれば、その診療報酬から得られた部分から拠出することもあり得ると思いますけれども、やはりできれば国としましても、私たちは一生懸命研究をやりますので、御支援をぜひ継続的にお願いしたいと思います。
 理研との協定の問題につきましては、ナショセンについては同じ臨床応用を行う研究でも、割に基礎研究ではないけれども、臨床のシーズになる部分。それから、シーズから本当に向こう側に渡る谷があります。谷も非常に深いというのがある。谷を渡って直後もなかなか転がり落ちたりいたしますので、どちらかと言うとナショセンはシーズから谷の向こう側ぐらいまで、我々はシーズは外部から、もちろん内部でシーズが生まれることも結構なのですけれども、シーズに関して協定して、そしてそれを使いながら協力して死の谷の向こう側に行く、あるいはさらにもう少し行くという、少しフェーズの違う役割かなと理解しております。
○齋藤委員 今、言われたような、いわゆるトランスレーショナルリサーチをやるにはインフラというのが必要で、臨床医だけではできないですからPh.Dを含めいろんな統計の専門家とか、そういう人をちゃんと競争的資金ではなくて固定費の中で確保するような体制にしないと、将来、発展が難しいと思います。
○桐野理事長 これは今後の問題にもかかわりますが、雇用というか任用のフレキシビリティが非公務員型になると増しますので、そこは今、齋藤先生がおっしゃったようにいろんな工夫があると思います。ただ、国がCRCの雇用を促進するように研究費の中にそれを含めるようになったときに、問題は常にそういう方々は臨時雇用で、何年間でまた更新して5年以上は雇用できないとか、極めて制限がある。キャリアパスのない設定になっております。それを恐らく齋藤先生がおっしゃったのは、キャリアパスが描けるような形のものを考えよということだと思いますし、私も極めてもっともと思います。
 それはできる限り国の公的なお金でやっていくのが筋とは思いますが、あるところで今、先生がおっしゃったように機構の中から拠出する、固定費として出していくことも判断せざるを得ない時期が来る可能性があると思います。
○永井座長 今の研究か臨床かという問題で、確かに運営費交付金からの研究費は国病は少ないようです。ただ、例えば診療の分析だとか臨床成績を出すというのは、これは研究なのか診療の一環なのか結構わからないところがあります。また、そういう体制は多分使命としてつくっていかないといけないし、それがあれば今度、臨床研究も推進できるではないかと思うのですが、まずそういうところをしっかりつくるという考えはいかがでしょうか。
○桐野理事長 御指摘のとおりと思います。したがって、ほとんど臨床に近い、例えば医療安全とか院内感染の防止とか、そういうものは医療そのものです。そういうところからほんの少し外れたところにエビデンスを出す、特に医療安全とか院内感染とか、そのような類からもう少し外れたところの範囲まで、それは診療の一部と見なすという考え方は十分あると思います。したがって、そういう考えに立ってスタッフを充実させていくということも、十分成り立つ考えではないかと思います。
○永井座長 いかがでしょうか。よろしいでしょうか。では、また後で戻るかもしれませんが、時間の関係で先に進めさせていただきます。
 続いて、両法人の治験・臨床研究等を含めた将来像について、国病、労福機構の順番に御説明をお願いいたします。
○桐野理事長 まず、国立病院機構の将来像について資料2-1で、1枚なので詳しくお話することは難しいのですが、この資料2-1の図解ではブルーの枠に囲った範囲が一応新しい法人となります。その法人が国あるいは他の医療機関や大学研究機関、製薬企業などの団体との関係で、今後どのように我が国の医療に貢献していくかということでありますが、基本的には我が国の医療の質を向上し、国民の健康を増進するというのが私たちの役割でありますので、その目的のためにこれらの団体あるいは組織と協力しながら業務を行っていくという形式は同じです。
 新法人のブルーの枠の中ですが、現在行っている業務と同様に左側のネットワークを活用した調査研究、いわゆる研究です。それから、右側の方に医療技術者等の教育・研修、いわゆる教育です。この柱、そしてそのベースに非常に幅の広い医療の提供というものがありまして、これが国立病院機構の基本中の基本であります。その中にはセーフティネット系の医療、これは筋ジストロフィー症、重症心身障害に対する医療、結核などの医療が含まれている。それから、精神疾患の一部が含まれています。
 5疾患・5事業と言われている国の基本的な医療政策上の重要疾患、重要な事業、それから、難治性の疾患に対する医療を実施する。さらに今回の東日本大震災のときに大きなニーズが叫ばれました国の危機管理に対して積極的な貢献が必要とされれば、これに積極的に協力していく、貢献していくということであります。
 その外枠にグリーンの、外にはみ出たような枠は、それぞれの地域におきましては国立病院機構の病院は他の団体の病院とある意味では競争しながら、しかし、協力しながら医療を行っているというのが現在の実情であります。それにつきましてはそれぞれの地域の医療計画によって、本来それぞれの病院が果たすべき役割、期待される役割というものが定められておりますので、基本的にはこの計画に従い、私どもは今、申し上げましたセーフティネット系の医療、5疾患・5事業、難治性の疾患に対する医療、危機管理に関する医療に加えて、この医療計画に従う幅の広い医療も提供していくというのが全体のスキームでありまして、その全体的な役割については今後変わることは余りないだろうと思います。
 そうすると、新法人になって何が期待されるのかということでありますが、まず第一に左上に赤い枠がありますけれども、非公務員化をすることによって雇用形態の柔軟化、それによる大学・研究機関との人材交流の推進が可能となります。柔軟な人事管理による治験・臨床研究の人材の充実も、先ほど齋藤先生の御質問にお答えしたような方法で可能になりますので、調査研究を活性化するということができると期待しております。
 また、新しい法人になりますと、これはまだ利益処分がどのようになるのか私どもには十分わかりませんが、できましたら国立病院機構の医療で生まれました利益については医療に投資をして、医療の向上を図ることによって国及び国民に貢献するというのが本来の形であろうと思いますので、これを適切に再投資させて頂くことによって、この3つの機能を充実強化することが期待できます。
 黄色の枠の中に144病院のネットワークを活用した診療情報、経営情報の収集・分析で、赤くデータベース化と書いてありますが、実は治験や臨床研究の充実という観点で申し上げますと、この黄色の枠の中に書いてあるところが非常に大きいのであります。これも先ほど齋藤先生がおっしゃいましたけれども、米国の退役軍人病院、VAホスピタルというところは、かつては1980年代は全米一のぼろ病院として有名でありましたが、それを1990年代に入って非常に改善をしまして、その病院の改善の最大のポイントはここに申し上げました診療情報のデータベース化であり、今VistAという名前で呼ばれておりますが、それが非常に大きな推進力を持ったと言われておりまして、それを真似するわけではなく、当然のことながら144の病院の力を合せてパワーを最大限にするための最も大きなポイントは、この黄色の枠の中であると思っています。
 たくさんの病院の情報を集めてデータベース化するというのは、いろいろ言われていて行われてもおりますが、日本で本格的に成功した例はありません。本格的な診療情報のデータベース化の成功とは何を意味するかというと、少なくとも必要な全情報が電子化されているということ、電子化された情報が標準化されているか、標準化可能であること、バックアップが非常に行われていてデータが安全であること、共通利用ができること、Aの病院の患者がBの病院を受診しても何の問題もないということ。それから、これがいざ臨床研究などに使う場合には、データの安全性、特に個人情報に配慮した厳格なデータ管理が行われていることが必要です。
 それを実現する方法は幸いにして現在ありまして、1990年代と非常に異なる状況になっております。それはまず、わかりやすく言うと電子的にデータを管理するためのネットワークやサーバーのコストが非常に低くなっているということであります。
 では、どのようにしたいと思っているか。ここから先は一部は計画、一部は希望のようなことが混じりますが、機構病院の診療情報が電子化されて全部完成しているという状態では全くありません。電子カルテを導入しているところは半分以下であります。しかもそれぞれの管理は全く個々の医療機関に、つまり機構病院に任されていて、ベンダーも別々です。それから、全くまだそういう電子化が進んでいない病院もあります。144病院は極めて千変万化、ばらばらの病院だと考えてよいと思いますが、ただ、その情報を統一的に利用可能にする方法があります。それは、こういう情報を管理する方法としては極めて堅い方法と、極めて柔らかい方法があって、堅い方法というのはいわゆる統一的中央管理。全てのデータ構造を統一化して、中央で全て管理するというやり方で、うまくいけばこれはよいのですけれども、これを目論んで今までほとんど失敗しています。
 柔らかい方法というのは、各病院が個別分散的にそれぞれ管理するという方法で、しかしこれを全部が行ってしまうと何ら標準化の方法がありませんので、大変難しいということであります。
 可能な方法としては、既に導入済みのところについては、その導入された情報の中から標準化された読み出しデータを得て、そして標準化された書き込みができる方式があればよいわけです。それについては完全かどうかまではわかりませんが、医療情報学会の先生方がSS-MIXという方法を考慮されて、しかもそれはバージョンが上がってSS-MIX2とになっていて、十分実用可能な状態だと思われますので、既に導入している病院についてはこの方式を用いる。そして導入していない病院については、機構本部が中心になってネットワークとサーバーが非常に安くなったということを利用したクラウド型の病院管理システムを、比較的短期間のうちに普及させていきたいと思います。
 この2つが実現すれば、かなりの診療情報のレベルで標準化されたデータが得られる。しかし、それだけでは不十分で、前向きな臨床研究を実施するためには、データを逆に自ら書き込む必要があります。その書き込む方法もあり得ると思いますので、それを工夫して行っていく。多分SS-MIX2だけでは十分ではなく、できればお願いをしてSS-MIX3とか4に改善して頂いて、それを使いながら行うということが起こるのかなと考えておりますけれども、そういう方法が考えられます。
 もう一つ非常に重要なことは、これを臨床研究に応用するためには非常に厳格な安全性を確保しないといけないということでありまして、それにつきましては各個ばらばらにデータを匿名化するのではなく、これだけは厳格な中央統制管理でデータの連結可能匿名化を実施して、そのデータを使って頂くという形を考えています。このデータベース化のところが少し長くなりましたが、ここは今後臨床研究を推進していくという観点からは、極めて重要なところと考え、説明させて頂きました。
 以上です。
○永井座長 それでは、お願いします。
○武谷理事長 資料2-2を御高覧いただきたいと思います。私どもの今の研究活動の現況と今後のビジョンについて御説明いたします。当然のことながら国民のマジョリティは勤労者でございまして、全ての勤労者が安心して働ける社会というのが私たちの機構の原点で、教典とも言うべきものでございます。
 ただ、御存知のように産業保健、産業界の環境あるいはそれに派生する疾病構造等は時代とともに変化するわけでございますので、産業保健のアジェンダというのは変転するものでございます。
 一方、労働行政ということも社会に対応して年々再々変わっていく。私たちは産業保健の実情あるいは労働行政と歩調を合わせてこれからも研究活動を続けていくということに尽きるわけでございます。
 ポンチ絵を見ていただきたいと思いますけれども、私たちの研究活動のフィールドというものは、ソースは労災病院、産業保健推進センター、産業保健活動を通じての知識あるいはデータでございます。労災病院といたしましては34病院のネットワークを生かした、あるいは地域ごとに全国各地に分散化した病院のロケーションの特殊性、このようなものを活用した病職歴データ等を利用して疫学的研究を行ってきたし、これからもこれが一番重要なことかと思うわけでございます。これによっていろんな成果が生み出されつつあるわけでございます。
 ただ、この病職歴データというものはこれから10年、20年あるいはアスベストなんて言ったら50年先を予見したデータベースをつくらなければいけないということで、あまり朝令暮改でもいけませんが、少し今日的な視点でアップデートしつつあるということでございます。
 あとは労災病院といたしまして、労災行政、労災補償のための医学的あるいは専門的な提言、助言をいたす。その診断基準等の作成も私どもに課せられたミッションかと思っているわけであります。
 産業保健というのも私たちの研究活動とは不分離な関係でございまして、私どもの研究のオリジンは医療の提供と産業保健活動、このようなものが一体となって進めていくことになります。産保活動といたしましては実際に現場での状況を正確に把握して、労災病院と産保センターのバイラテラルなコミュニケーションを深めるということでございます。私どもの得たノウハウを産業保健に活用していただく。それから、産業保健からの現状、課題等を十分に吸い上げる。このようなことを行っていくことが大事なわけでございます。
 さらに、私どもの研究を特徴づけるものといたしまして、現在脊損なども急性期の救命等の治療というのは救命救急センターで行うわけでございますが、我々のエンドポイントは勤労可能な状況にさせるということでございますので、治療とリハ、職場への復帰ということを視野に入れたリハビリ、職業訓練、それから、職場復帰。これが完結しないと、これがシームレスに進まないと私どものエンドポイントは実現しないわけでございます。このようなところが従来の医療とか福祉とか介護が必ずしも全部つながっている橋があるわけではない、橋が欠けているところもありますので、このようなところを補完すべく、きめ細かな対応を私たちはしなければいけないと考えているわけでございます。
 職場ごとに復帰へのプロセスが違うわけでございますので、ブルーカラーワーカーとかホワイトカラーワーカーとか特殊技能を生かす仕事かどうか、そういうような治療においても一律に疾患の患者さんを治療するわけではなくて、職場復帰を念頭に入れた個別的なフォローアップを行うことも、私たちの研究を特色づけるものではないかと思うわけでございます。
 そういうことで、私たちは労災医療の提供と産業保健活動、それから、これから派生する研究が三位一体となって取り組んでいかないと、どれが欠けてもこの機構の本来のミッションは果たせない。アイデンティティ・クライシスを起こしてしまうのではないかと思うわけでございます。
 具体的には今言ったような、労災病院あるいは産保活動を通じての調査研究をさらに活性化して、アカデミアあるいはメーカーとの連携、協力関係を深める。あるいは労災行政等を通じて、国家的な特殊な事件が発生した場合に国への協力、特に作業所における医療の提供ということは私どもが得意としているところでございますので、このようなこともさらに継続的にかかわっていくということでございます。
 医療機関等へはアスベスト、脊損あるいはメンタルヘルスというような私どもの果実を一般の医療機関にいろいろ情報提供する、あるいは研修活動も非常に重要かと思っているわけでございます。
 産業保健活動のエンドユーザーは労働者、事業場でございますので、そこへ成果を還元することもこれから重要な役目と思っているわけでございます。
 課題といたしましては、将来像とそれに伴う解決すべき問題といたしまして、私どもは機構ということで必ずしもこのようなことを意識ぜずに組織を立ち上げてきましたので、研究という視点からそれをある程度独立させた部門を立ち上げる。残念ながら今は研究に特化したリソースというものが非常に不十分でございまして、これに専従できる人あるいは正直なところスペースもないということでございますので、インフラの整備は急務ではないかと思うわけでございます。
 産保事業との連携強化。これは双方が車の両輪として、片方が充実しないと他方もこける関係がお互いにあるわけでございますので、この両者をさまざまなルートで連携を強化いたしたい、そのように思っているわけでございます。
 脊損等で人と機械が一体となって機能修復を図るということをお話しましたけれども、工学系のアカデミア、メーカー、インダストリへのコラボレーションを今後さらに密接な関係を築くことが必要かと思っております。現にこのようなことを病院によっては研究を行っているということでございますが、この辺の基盤も整備する必要があろうかと思います。
 一番重要なことは労働者等に直接ベネフィットが及ぶようにしなければいけないということでございますが、今、私たちのマンパワー等から事業所あるいは勤労者に直接アプローチできないということが、非常に隔靴掻痒の感があるわけでございます。私もこのような実情をできるだけ把握して、どのようにしたら効率的にエンドユーザーに私どもの成果を還元できるか、こういうことも広い意味で研究というふうに捉えて、将来ビジョンとして考えているわけでございます。
 以上でございます。
○永井座長 ありがとうございます。
 齋藤先生、どうぞ。
○齋藤委員 2つのポンチ絵を見た感想ですけれども、この二つは非常によく似ていて、言葉は一緒で色が少し違うだけという気がします。第2には、国立病院機構の方ですが、かなり役割というか使命がクリアに整理されていると思います。この中で医療の提供のところではいわゆるセーフティネット系の医療、ほかの病院は手をつけていないこと、データベース化を柱にした調査研究、これらは他の病院との差別化のポイントではないでしょうか。
 というのは、例えば医療技術者等の教育・研修とか、災害時の医療出動というのは日赤病院も実施していますし、一般医療も5疾病・5事業を実施していますね。だから差があるとすればセーフティネット系の医療と調査研究が特色ではないかという気がします。
 一方、労災病院も同じように整理されているのですが、医療の提供のところがやや具体的でないといいますか、曖昧で、例えば下のところなのですけれども、他の医療機関では十分に対応されない労災疾病等に対する医療というのも、たしか以前の資料では入院、外来ともにせいぜい数パーセントですね。その下がわからないのは、診療報酬が措置されていない分野についての先進的な取組、モデル医療と書いてあるところは、一体どういう疾病を対象にして、何をやるかというのが今一つわかりにくいのではないかという感想です。
 以上です。
○永井座長 渡辺委員、どうぞ。
○渡辺委員 今の齋藤先生と共通したところもあるのですが、まず国立病院機構は、例えば今、民間病院に言わせると、国立病院あるいは自治体病院もそうかもしれませんけれども、政府出資で民業圧迫をしているという意見がいまだにあることも事実で、じゃあ国立病院機構あるいは新法人の医療は何のために行うのかということになります。今お話したセーフティネット、いわゆる政策医療系の医療も当然なのですが、先ほどから桐野理事長のお話を伺っていて、私自身は納得できているなというのは、やはりそこで運営費交付金がほとんど退職債務に充てられてしまって診療に回ってこないため、自前である程度稼がなければいけない。ところが、調査研究あるいはデータベースの構築化というものに金が必要で、それがまた臨床研究に回って、それがさらに医療になるという論理だったと伺ったわけですが、一般住民からすると国立病院には非常にレベルの高い、政策医療も含めてそういった医療を求めていることは事実なので、改めてこの新法人の国立病院144病院全体として、そういったところに一般医療を行う病院というものの医療とは何だというところがかなり出ていると思うのだけれども、これだけ見ると今おっしゃったように新法人になると調査研究を活性化するんだと。もちろん診療報酬で稼がなければいけない、競争的資金あるいは運営費交付金も余り期待できないからというような背景があると思うのだけれども、そのために医療を行うのか、さらにそれを行うことによって住民により高い医療を実施できる、還元できるからなのかという、つまり何のための医療かというのを、桐野さんもおっしゃっているとは思うのだけれども、改めて国民の前にもう少し明確にする必要があるのではないかと私は思います。
 労災については齋藤先生と全く同感で、恐らくいわゆる労災関連は収入ベースで5%でしたでしょうか。95%は一般医療です。そうすると、これからも新法人になったときに労災病院は労災だけやっていればいいわけではなく、若い医師の養成等々を含めて一般医療も必要だという論議がここであったと思うのだけれども、何のために労災も一般医療をやらなければいけないかという部分が、この図では確かに見てとれない。そこのところで、もう少し明確にすべきではないかと思います。
 以上です。
○永井座長 課長さん、どうぞ。
○土生国立病院課長 既に御議論に入っていただいているところ恐縮でございますが、事務局の方で論点整理という資料も御用意いたしているので、御紹介だけさせてください。
○渡辺国立病院機構管理室長 資料3というものがございます。そちらをごらんください。
 事務局の方で新法人の業務と治験・臨床研究の推進についてという論点整理を行っておりますので、そちらもあわせて御議論いただければと思っておりますので、簡単に説明させていただきます。
 今まで委員さん方から出された主な意見等でございますけれども、第1回からの資料からでございますが、国立病院と労災病院は治験を含む臨床研究の実施、国の医療政策等にかかるエビデンス・診療指針、モデル等の策定や外部への発信など、国の医療政策や労災補償政策を総合的に支える病院であるべきである。また、病院のネットワークの枠組みは不可欠と考えるというものがございました。
 2点目といたしまして、政策医療の範囲については、疾病構造の変化などに対応して、固定的には捉えず、時宜に応じて検討していく必要があるという記述もございました。
 また、委員の先生方からの御意見として、時代とともに変わっていく課題を機構が早くピックアップして、警鐘を鳴らすなり対応をとっていかないといけない。国病も時代とともに相当変わっているし、労災病院についても新しい課題がこれから出てくるのではないか。そのような意見をいただいておるところでございます。
 これらを踏まえまして、次のように論点を整理させていただきました。
 1点目といたしまして、国立病院及び労災病院は時代や社会環境に応じて変化する政策医療を確実に担うとともに、また、時代とともに変わっていく新たな課題を抽出して対応し、必要に応じて国に提言することなどを通じて国の政策に貢献していくことが必要ではないか。
 2点目として、特に治験・臨床研究、国の医療政策等に係るエビデンス・診療指針、モデル等の策定や外部への発信等に重点を置き、国の政策に寄与していくべきではないか。
 3点目として、新法人においては治験・臨床研究を活性化させるために体制の整備を行うべきではないか。また、国立病院機構及び労働者健康福祉機構の全国的なネットワークを活用するとともに、両法人間の相互の連携や他の病院・研究機関との連携をさらに進めるべきではないか。
 以上でございます。
○永井座長 ありがとうございます。資料3の説明を飛ばしまして失礼いたしました。
 それでは、ただいまの御説明全体を含めて御議論をお願いしたいと思います。では、桐野理事長からどうぞ。
○桐野理事長 これはずっと議論になることで、国立病院というのは何をするところかということでありますが、先ほどの論点の中にも国病も時代とともに相当変わっているということを申しましたが、もともと昭和20年12月に国立病院なるものができたときは、日本に病院はほとんどなかったのです。終戦後のひどい状態で国民の医療を本当に実施するためには、軍の病院を全て一般の病院として開放することが必要だという判断で、主にGHQが推進したのだと思いますけれども、一般の診療全て、別にそこのところでは政策医療なんて言っていなくて、全て実施するということだったのですが、昭和60年代になってかなり市中の病院、一般の診療機関が充実してきたところで、若干国立病院自体が少し数が多過ぎたかなということと、競合的になってきたということもあって、国立病院は政策医療を実施するということなのですが、政策医療の前についた言葉は、その当時は先駆的高度医療などの政策医療を実施せよと書いてあったのです。
 ところが、そのうちだんだんナショセンというものが充実してきたこともあり、かつ、国立病院が250ぐらいあったのがかなり整理されてきたということもあって、国立病院は結核に替わって、もちろん結核はまだその役割の1つですけれども、筋ジスだとか重症心身障害だとか、あるいは医療観察法に伴う医療なども含めて実施するようになってきたということは事実です。
 ただ、そのような医療をちゃんと真面目に提供していくために、それだけの専用のお医者さんがいて、重症心身障害専門、筋ジス専門というようなやり方が果たして現実的かどうかということです。
 逆に前にナショセンにいたときもそう思ったのですけれども、ではナショセンは高度先駆的な医療だけをやるのが専門というふうに割り切れるかどうか。ナショセンにおいでになる患者さんは高度なレベルの高い医療を望んでおいでになるともし考えるならば、ナショセンで高度先駆的な医療を受けている最中に、高度でもなく先駆的でもなく、ごく普通の、しかし重い病気になったときに、それは私どもの役割ではなくて、蹴飛ばして出してしまうことは現実的にできない。それから、地域で医療を実施しているときに、例えば県の医療圏の中でその病院がいわゆる国立病院の任務の医療を実施していて、この医療以外になった人は全部出しますと表の看板に書いたときに、そういう病院がやっていけるかどうかという問題をよくお考え頂ければ、現実的には今の国立病院のような運営が最も適切な解だと私は思います。
○武谷理事長 労災病院に対しても御質問が向けられたと思いますのでお答えいたします。確かに狭義の意味の病気の成因、トリガーとなったものが仕事であるということは5%前後ではあるのですけれども、実際に病気として発生した場合には脊髄損傷にしても、階段から落ちたものと職場で重いものを持って転んだ場合とは、きっかけは違っても治療とか職場復帰へのルートは同じであるということ、それから、事業主にとってもワーカーにとっても、病苦で悩み離職するのは非常につらいことであり、1日も早い職場復帰を望むというのは、私たちの設立の趣意である労働者の健康・福祉に大いに寄与するのではないか。そういう広義な意味で、従来労災と言われているような疾患を中心として、非労災疾患も、治療とかマネジメントは共通のものがかなりありますので、取り扱っているということでございます。
 特に脊損患者さんなどは厳密な意味での労災は減っておりますけれども、実際に脊損を起こした方は先ほどもお話しましたように年間2,000人も出てきて、ほとんどそういうものを扱ってくれる施設がないという実情でございますので、私たちがそのようなものを担当しているということでございます。
 不採算ということでございますが、例えばそういう職場復帰を考えた場合にリハビリとか、非急性期疾患、長期的なマネジメントというのは現在の診療報酬体制では収益性が非常に低い。こういう隙間もかなりある。そのような中でも実際に疾病で悩んでいる勤労者には、一貫したマネジメントをしなければいけない。そのような場合には採算を度外視した協力をしなければいけないということでございます。
 また、産業保健活動と労災医療というのは不即不離であるとお話したわけでございますけれども、実際にメンタルなどのサブクリニカルな治療が必要ないような方のケアとか、その予防等でございますが、これは1人診て幾らというわけにはいかないわけでございます。そういう部分にも我々は骨身惜しまずやっておりますので、必ずしもそろばん勘定だけでやるわけにはいかないということでございます。
 さらに我々労災病院の現場は、産業保健に興味を持つ医師にとっては非常に有意義なところでもございます。産業医の育成ということも、私どもの医療を通じて、このような医療を実践することによって可能になっているのではないかと思うわけでございます。医療だけ取り出して何をやっているんだというよりは、産業保健とパッケージで労福機構の活動を御理解いただければ幸いと思うわけでございます。
 以上でございます。
○永井座長 いかがでしょうか。高橋委員、どうぞ。
○高橋委員 両機構についての意見なのですけれども、これだけいろんな機能を担っていくということになると、様々な関係スタッフとか専門職という方が関与すると思います。一方、医療技術とか高度医療というのはすごいスピードで進んでおりまして、そこで私が気になっておりますのは、役割とか機能、本当のスキルというものについてそれぞれのコアの部分を見極め、特化したことをやらないと追いついてはいけないのではないかということです。それで例えば治験のときの全体の役割であるとか、診療・研究ももちろんそうですし、社会活動もそうです。この分野は資格を持ったスタッフが特に多くいるものですから、そういう人たちが本来の機能をどういう構成でやったら働きやすくなるか。こういうもののモデルプランをこれだけ大きいネットワークなので示していただけたらと思います。
 端的に言いますと、医師が本来業務に特化しないでほかのこともやらなければいけないとか、あるいはナース、保健師は今、大体4年制大学、薬学部においては6年生大学を卒業し、相当なスキルを持っていますので、そういう人がやるべきこと、やれることはそういうスタッフに委ねるということです。そういう見極めをしないとこれだけの大きな期待を担うのは難しいのではないでしょうか。こういう観点でこれから事業展開をしていただけたらと思います。
 2つ目は質問なのですけれども、国病で持っているデータベースは相当大きいと思いますが、今後、労災機構の方からのデータベースへの参画というのは具体的に計画があるのでしょうか。
 3つ目です。労災病院に関して産業保健活動の活性化というものが大きくクローズアップされていますが、産業界の要望としましては特にサービスが行き届いていないところへのアプローチですね。特にメンタル問題等についてもなかなかそういうサービスによくしないという課題がいろんなところで指摘されております。そういうアプローチを強化していただきたいということです。また、一方ではメンタルへの対応というのは精神科領域でも地域医療においても、あるいは産業界でもいろいろな論議が出されております。精神科関連学会では今、うつの形態を見直そうということまでが言われています。そういうことに関しましては産業界というのはこれらのうち、産業現場ではその対応、体制づくりということを先駆的にやっている場所ではないかと思います。これは組織のケアが閉じているからやりやすかったということにほかならないと思いますが、したがって、それを一般社会に敷衍するといいますか、技術移転するというか、そういう発信基地になっていただくという役割も大事だと思います。
 以上、3点です。
○永井座長 いかがでしょうか。
○桐野理事長 医療だけではなくて業務が多様化するといろんな職種ができてきます。病院でもかつてなかったようなMSWだとか診療情報管理士だとか、そういう方たちがなければ今の医療はできないということで、永井先生が座長でチーム医療に関する検討会を開催されたと思うのですが、将来的にはそれぞれ例えば医師、看護師が行っているような業務を他職種に譲渡しながら、非常に多様な職種が病院内で働くというふうになっていくことは間違いないと思うのですけれども、それぞれのキャリアパスをどうそれぞれが設計するかというのは実は組織にとっては大問題であって、例えば非常に人数が少ないような技能職のような職種について、キャリアパスをどう考えて、最終的にどこまで昇進することになるのかということは大問題です。これはいずれにせよ将来の大問題で、今でも大問題で、結構大学病院でも国立病院機構の病院でも悩んでいるところだろうと思います。だから現時点においてはこうだよということは申し上げることはできませんが、大きな問題であることは間違いないと思いました。
○武谷理事長 このような多様で、しかも時代とともに変化するタスクにどのように対応するか。これは大変大きな問題でございまして、いろいろハード面とかソフト面、いろいろなリソース等を必要とするわけでございますが、最も大事なのは、今高橋委員から御指摘いただいた人の問題でございます。
 いろいろな職能集団があるわけでございますけれども、時代の早さというのは従来の職能集団だけでは対応できないような状況になっておりまして、特に産業保健活動ということは、事業者あるいは産業医、産業保健活動の現場におられる方あるいは労災病院の医師、なかなかこの人たちだけできめ細かなサービスができないということでありまして、私どもも絶対的にマンパワーが不足していることは否めないわけでございます。
 こういう現場を通じてどのような専門集団が必要かといえば、従来の医療の枠を超えた話になるわけでございます。介護でもなかなかこれでは納まらない。新たなフレームの中でこういう職能集団の構成を考えなければいけない。そのようなこともこれからの私たちに付託されたタスクと考えておりまして、現場の状況を踏まえたいろいろな提案あるいは発信をしていきたいと思っているところでございます。
 事業者側とか精神科医との連携等は、今これを直接担当している上家理事からお答えさせていただきます。
○上家理事 メンタルヘルス対策についてですけれども、高橋委員おっしゃいましたようにサービスが行き届かないところ、具体的には私どもとしては、日本の産業界の構造から言って97%なり98%なりを占める小規模事業場、特にその中でも小企業の小規模事業場、大規模のブランチではなく、小規模事業体の事業場が、一番サービスが行き届かないところだろうと捉えています。そういったところで働く人が全体の半数を占めるという構造の中で、小規模事業場対策をどうしていくか。これについてのフレームは今、地産保センター事業というものがあるわけですが、これは主には医師会の先生方が嘱託の産業医として活動されている。そういう部分の中でメンタルがすべてカバーできるか、行き届くサービスになるかというと、まだまだである、という認識があります。
 一方で、メンタル対策という観点では、精神科の先生以外の事業場の管理者側で蓄積されたいろいろなノウハウも、委員がおっしゃったように活用すべきと考えています。こういう部分では産保センターの相談員ですとか、メンタルヘルス事業に関する推進員という形で、事業場でいろいろ経験された方にできるだけ勇退後に活動していただける場として、多く指名させていただいておりまして、そういう形で事業場内で蓄積されたノウハウも十分活用したいというフレームになっています。ただ、これもまだ非常に不十分。
 発信力という意味では、労災病院のメンタルヘルスセンターもありますけれども、もっと広くという意味では事業場や産業保健スタッフへという意味で、産保センターの発信力をもっと活用しなければいけない。こういったことから地産保事業、メンタルヘルス支援センター事業、産業保健推進センター事業、この3つをもっと連携させ、もっと有機的に一体化させて事業を行うべきだという報告が、昨年の厚労省のあり方検の報告でも出ておりますし、現在、日本医師会の中の産業保健委員会でも、そういう方向で御議論いただいていると聞いています。
 こういった動きの中で、労福機構としては担える役割は積極的に担っていきたいということを考えているわけでございます。
 データベースへの参加については、むしろ実際にやっていらっしゃるのが国病機構さんですので、情報交換から始めているという段階でございます。
○堺委員 両方の機構にお尋ねしたいと思いますが、これは質問というよりも基本的なお考えを承りたいということでございます。
 お尋ねしたいことは、両方の機構で個々の病院あるいは機構全体の将来の管理運営を担う人材をどのように育成しようと考えていらっしゃいますかということなのですが、もう少し補足しますと、先ほどの高橋委員の御指摘にも関連いたしますけれども、病院の基本的な機能はもちろん診療研究でございますが、病院の管理運営もそれを維持発展させるために極めて重要でございます。病院長は医療法によって医師であると定められておりますけれども、そのほかの管理運営に携わる人は特に職種は問いません。
 そういうわけで、それぞれの機構の中にいらっしゃる極めて多数の方々の中から、この方面に適性のある方を選ばれて、適切な訓練を施すことが極めて重要ではないかと考えておりまして、両方の機構でそういう人材をどのように訓練しようとお考えかということについて、細かいことは結構ですので、基本的なお考えを承ればと思います。
 以上です。
○桐野理事長 今、御指摘になったことは非常に重要であると認識しております。
 我が国では米国の病院のように、病院経営の専門家として育成される教育コースがあるわけではありませんので、みずからそういう教育というかトレーニングを課していくというやり方以外にはありません。
 機構病院外から非常に習熟された方を新たなスタッフとして招へいすることはもちろんありますが、基本は国立病院機構の内部で育った方々の中から管理運営を担う人たちを育成していくというものでありまして、例えば病院長に行く流れということでいきますと、国立病院機構には病院長の下に副院長、副院長の下に統括診療部長、それと臨床研究センター長という役職があります。その中で病院長、副院長、統括診療部長は国立病院機構人事として我々が選考しております。そのときに今おっしゃられたようなことを十分勘案して選考します。
 その人事については先ほど言いました3つの役職の方は候補者をまず実際に来ていただきまして、いろいろと伺った上で適任かどうかを判断するなどのいろんなことを行っているほかに、ひとたび就いて頂いた場合には、必ず機構本部の教育コースを受けて頂き、それで管理運営について学んで頂く。あとはOJTにならざるを得ないのですけれども、それぞれステップが上がるごとにそのような教育コースを設けて教育をしております。
 一番問題なのは、統括診療部長になりたての方は、今まで病院の部長、科長などでおられた方なので、急に機構本部に呼ばれてそういう何か彼らから見るとよくわからない講義を、リーダーシップとは何かということをやるので、極めて不満で最初は物すごく御機嫌が悪いのですけれども、2日間、3日間ぐらいのコースのうちにだんだん御理解いただいて、最後は非常によかったというようなことをおっしゃって解散する。まだ私は就任して1年になりませんので1回しか経験はありませんが、そういうことを行っております。
○武谷理事長 こちらからもお答えさせていただきます。
 今、御指摘のように、私どもは非常に多様で特殊なミッションを拝命しているわけでございますので、人の育成ということは非常に重要で、1に人材、2に人材ということでございます。
 こういう特異な組織ですので、私どもの組織以外のキャリアを持った方がそのまま私たちの組織に入って活躍していただくというのは、かなり難しい面もございます。そういうことで私たちも独自に人材の育成に意欲を注いでいるわけでございます。実際、私も34の病院をこの半年間で全部回りました。病院の実情を隅々まで見て、何が問題かということを私なりに把握した次第でございまして、今、病院の抱えている問題点等もいろいろ聞いたわけでございます。
 実際に人材育成をどのようなことで行っているかというと、あらゆる職種の研修会あるいは講習会等がございますし、それから、事務部門のヘッドであります事務局長会議、課長会議等も毎年行っておりますし、それ以外にも臨機応変にいろいろ交流を持っているということでございます。
 さらに人事のローテーション、特にエグゼクティブに関しましてはローテーションを行っているということでございまして、いろいろな知識、経営のノウハウ等に病院ごとに格差がないようにしてございます。
 特に労働者の健康・福祉という特有なミッションということ、常にその原点を理解させて、我々の進むべき方向の共通認識を持つ。これはいつも私も腐心している次第でございます。
 このように将来ビジョンを整理しておりますと、これまではともすれば医療と産業保健活動の人事が交差していて、キャリアパスが混ざっていた。これはよい面もありますけれども、一方でこれだけ特殊化するとそれぞれ異なったキャリアパスも必要かと思いますので、行き過ぎる弊害もございますが、そのあたりのバランスを考えて、異才を有する人材の育成ということを新しいビジョンに則って、今後は是非真剣に考えていきたいと思っている次第でございます。
○永井座長 梶川委員、お願いします。
○梶川委員 私自身、診療技術等に知見があるのではないので、感想としてお話させていただくということになってしまうのでございますが、私も国立病院の政策医療を当初ある種不採算の特定疾病の治療改善に少し偏って考えていたところがあるのですが、きょうお話をお聞きしていまして、これからのあり方としては、今日まさに最後の図でお書きになられた医療行為全体がいかに質的向上をつくり出すかということの日本の医療全体の水準の向上に対する国立病院の特色を使われた貢献というものが、一番中核にあるのだろうなと。そういう意味ではこのデータベースのお話というのは本当に重要なテーマでありまして、この診療情報もそうですが、経営情報、こういった診療モデル、経営モデルをいかに構築していただいて、これは論点にもあったのですけれども、その他の社会全般の病院に発信していただくか。ここはものすごく大きなテーマのように感じられました。
 これに対しては多分非常に本当はコストのかかることでありますし、スピード感が必要なことなので、今、おやりの仕組の中でつくっていただくというのは本当に大変なことだと思って、本来であれば質の向上が何らかの形で財源の確保につながるということが望ましいなと思いますし、今も何らかの仕組ができないかなと思うのですけれども、いずれにしろこの部分というのは社会的に裨益する部分はものすごく大きくて、これから医療費が増大する中で一時的にコストに見えても、きっと社会が受ける便益というのはものすごく大きなものだと思うのです。
 まさにこれはこれだけのネットワークがあって初めておできになる部分であるわけでございますので、その辺は本当に今回のこういう議論の中でできる限りよい方向で、そのコストに対して得る利益というのは国としてはものすごく大きいと思いますので、一刻も早くこういうデータベース化が進むように全体の議論が進んでいっていただければなという気がした次第でございます。
○永井座長 最後に伊藤委員、どうぞ。
○伊藤委員 まずきょうは最近、割と経営を自由にするという議論が続いていた中では、非常に両病院の存在意義について改めて振り返るという、有意義な議論だったと思っています。
 先ほど政策医療を担っている割合に関する議論がありましたが、民間病院が提供しない政策医療がこの両病院の役割だと私は考えています。ただ、政策医療だけやればいいというより、政策医療が確実に提供される体制を両病院が持ち続ける必要があると思っています。
 また、臨床研究や診療機能分析、特に労災病院の方で言えば病職歴データベース、これは本当に重要だと思っていまして、むしろ両病院で取り組んでいただければ非常にありがたいと思うところです。また、診断方法の開発とか職場復帰モデルの提供など、現在取り組んでいるこれらの取組を医療機関や職場や労働者に還元していくことが、両病院の存在意義だと思っています。そのためにはお金が必要なわけで、本来はそれを運営費交付金などで手当がされるべきなのですが、それが十分にされていない現状に鑑みれば、利益の再投資を考えなければいけないのだと思います。
 この点について、適切な再投資が行われ政策医療が確実に提供されるためには目標管理や評価といった面での行政の適切な関与が必要だと考えております。
 以上です。
○永井座長 ありがとうございます。
 まだ御意見おありかと思いますけれども、時間になりましたのでここまでとさせていただきます。また、今後お気づきの点、御意見等ございましたら文書をメール等でお送りいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 では、事務局から連絡事項等お願いいたします。
○木暮労災管理課長 次回の検討会でございますけれども、また別途日程調整をさせていただいて、御連絡を差し上げます。
○永井座長 それでは、これで終了させていただきます。どうもありがとうございました。


(了)
<照会先>

 医政局国立病院課国立病院機構管理室
  運営管理係 尾崎・星(内線2635)
 労働基準局労災補償部労災管理課
  企画調整係 角園・松本(内線5437)
 (代表) 03(5253)1111

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