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2012年12月14日 第3回再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会 議事録

医政局

○日時

平成24年12月14日(金)16:00~18:00


○場所

厚生労働省(18階)専用第22会議室


○出席者

永井委員長、位田委員、伊藤委員、今村委員、掛江委員、澤委員、辰井委員、野村委員、早川委員、前川委員、町野委員、松田委員、宮田委員、大和委員
佐藤参考人

原医政局長、神田審議官、吉岡医政局総務課長、鎌田経済課長、佐原研究開発振興課長、荒木再生医療研究推進室長
松岡医薬食品局総務課長、赤川審査管理課長

○議事

○荒木室長(医政局研究開発振興課再生医療研究推進室) 第3回厚生科学審議会科学技術部会再生医療の安全性確保と推進に関する専門委員会を開会いたします。委員の先生方におかれましては、お忙しい中お集まりくださり、ありがとうございます。
 本日は国立成育医療研究センターの梅澤明弘委員、京都大学iPS細胞研究所中畑龍俊委員、全国薬害被害者団体連絡協議会代表世話人の花井十伍委員から、御欠席の御連絡を頂いております。西川委員、辰井委員は、遅れていると伺っております。18名の委員のうち、現時点で13名の委員に御出席いただいておりまして、本会議は成立しておりますことを申し上げます。
 また、本日は参考人として1名の先生が御出席予定です。国立医薬品食品衛生研究所遺伝子細胞医薬部長の佐藤陽治先生です。よろしくお願いいたします。頭撮りにつきましてはここまでとさせていただきます。
 ここからは座長の永井委員長に司会をお願いいたします。
○永井委員長 事務局から、本日の資料の説明をお願いします。
○荒木室長 お手元の資料を御覧ください。議事次第、座席表、委員名簿、参考人名簿です。続いて、資料1から資料4です。さらに、参考資料1から参考資料5を紙ファイルで配付しております。参考資料については、委員会終了後はお持ち帰りにならないよう、お願いいたします。
○永井委員長 議事に入ります。最初に、再生医療の現状と課題についての御説明をお願いいたします。まず、前回までの専門委員会での主な御意見より始めてください。
○荒木室長 資料1を御覧ください。第1回、第2回、特に前回の第2回の本委員会における主な御意見をまとめさせていただきました。主なところを御説明いたします。
 再生医療の定義・範囲についてです。再生医療製品は細胞や細胞から構成される組織であり、定義は可能ではないのか。その際、海外の規制制度を確認しながら、minimally manipulated(processed)をどう定義するのかも重要となるのではないか。再生医療製品よりも細胞・組織加工製品というのが、実態としては相応しいのではないか。再生医療の定義を明確にした上で、細胞と組織を対象に、薬事あるいはヒト幹の臨床研究、さらには自由診療のそれぞれに対する安全性及び倫理性を議論して、結論を得ていくという方法があるのではないのかという御意見でした。
 次に、ヒト幹細胞を用いる臨床研究についてです。ヒト幹細胞臨床研究は57件が進行していますが、それに対して、終了するヒト幹細胞臨床研究の結果を解析し、最新の医療を国民に届けるよう、切れ目のない制度が必要ではないのか。それらのヒト幹細胞臨床研究データがフィードバックされる体制を作り上げていくことが大切ではないのかという意見がございました。
 規制の枠組みです。再生医療については多数の省庁、学会・企業と横断的にまたがっているので、それぞれ早期に省庁間、学会等を網羅するような監視・規制システムの構築が必要ではないのか。その場合に、規制と推進を同じメンバーで行っていては、キャパシティとしても間に合わなくなるのではないか。臨床研究を経ないで実施されている診療に対する実効的な規制について、現行の薬事法に加えて、他の法律が要るのか検討すべきではないのか。基本的な法律も必要であろう。その場合には、研究だけではなく、全体としての規制が必要ではないのかということがありました。
 改正薬事法案の現在の考え方を前回に御説明いたしましたが、改正薬事法案における早期承認制度により、再生医療製品の使用が早まるであろうが、なぜ再生医療製品だけ特別なのかについての明確な理由が必要であろう。欧米のリスク・ベースド・アプローチや、どのポイントで承認を出すのか、柔軟にそれを変更していくようなアダプティブ・ライセンスの手法もあるのかもしれない。これは定義の部分とも重なりますが、細胞治療(cell therapy)として捉えていくのがよいのではないのか。(8)医療の実施の内容を法的に規制するというのは、日本では臓器移植法を除いて例がないということもあるのではないのか。
 国民への教育、普及・啓発についてです。法律で規制するだけではなく、教育により国民が知識を持つことも、ベストミックスドということで表現いただきましたが、重要ではないのか。内容を国民に柔らかくかみ砕くだけではなく、100%リアルタイムの情報公開が大切ではないのか。
 倫理面・安全面への配慮ということで、生命倫理と個人情報に配慮するためには、推進と安全性を確保する立場の者は別にすることが重要ではないのか。個人情報の取扱いについては、全ゲノム情報も伴う可能性があるということで、その辺は重要であろう。倫理審査委員会の構成員について、各施設における倫理審査委員会の質もまちまちであるということで、それ任せにすることには危惧があるという御意見がございました。
 3、4ページは、前回お示ししました第1回の主な御意見ですので、参考です。説明については以上です。
○永井委員長 御質問等はございますか。よろしいでしょうか。また後ほどお受けしたいと思いますので、先へ進ませていただきたいと思います。
 続いて、佐藤先生より、海外における再生医療/細胞・組織加工製品の品質・有効性・安全性に関する規制の考え方についての御説明を頂きたいと思います。よろしくお願いします。
○佐藤参考人 国立医薬品食品衛生研究所遺伝子細胞医薬部の佐藤です。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。
 今日は、「海外における再生医療/細胞・組織加工製品の品質・有効性・安全性に関する規制の考え方」ということで、彼らのプリンシプルというものを中心にお話させていただきます。厚生労働省が平成21年度から平成22年度にかけて、再生医療における制度的枠組みに関する検討会というものを開いていたのですが、私はそこで海外規制動向調査というものを担当させていただいておりました。具体的には、米国のFDA、ヨーロッパのEMA、そのほかイギリス、ドイツ、フランス、イタリアなど、各国の規制当局に赴きまして、そこで意見交換などを行っていたのですが、そこで最も印象に残った言葉があります。これは個人的な印象なのですが、それはどういうことかと言いますと、「迷ったらプリンシプルに戻りなさい」と言われたことです。これは、私と比べましても親子ほどの年の差のある、元FDAの高官の方が言われた言葉なのですが、非常に私にとって印象に残っております。
 改めてFDAの使命を見てみますと、FDAは、「ヒト及び動物の医薬品、生物薬品、医療機器、国内食品供給、化粧品及び放射線を発する製品の安全性・有効性及び治安を確保することにより、公衆衛生を担うことを責務とする」とうたっております。また、EMAは、「欧州医薬品庁の使命は、公衆衛生及び動物衛生に資するために、医薬品の評価と監視における先端的な科学知識を醸成することである」と述べておりまして、いずれにしても公衆衛生という大原則の下に機能していることがお分かりいただけるかと思います。
 ということで、パブリック・ヘルス、公衆衛生の視点からのお話をさせていただきます。まず、規制のプリンシプルですが、その前に「再生医療」と「細胞治療」の定義のお話をさせていただきます。この言葉は似ているようで違った部分を持っております。ここの合わさった部分というのが、いわゆる生きた細胞・組織を用いた再生医療で、「狭義の再生医療」ということになります。左側の青い部分は何かと申しますと、これは「生きた細胞を使わない再生医療」で、例えば細胞増殖分解因子で内因性幹細胞を活性化あるいは分化させることによる組織再生がここに当てはまります。赤い部分は、「臓器や組織の再生を目的としない細胞治療」ということになります。
 また、この細胞治療で用いられる細胞について、加工などの有り無しで区別があります。培養・活性化・分化誘導などの加工などがない場合は、「細胞・組織」と呼ばれ、これらを使った医療行為は「輸血」あるいは「移植」と呼ばれるわけです。これに対して、加工などがある場合は、「細胞・組織加工製品」と呼ばれています。
 ちなみに我が国では、これら、上の細胞・組織加工製品と細胞・組織の両方を合わせまして、「細胞・組織利用製品」と呼ばれたり、「細胞調整品」と呼ばれたりすることがあります。
 欧米では、先ほどのパブリック・ヘルスの保護の大原則の下に、リスク・ベースド・アプローチという原則がありまして、これに従いまして、細胞治療というものの細胞にリスクがあるという認識をもって、細胞・組織加工製品あるいは細胞・組織として規制するという規制の方式を取っております。
 この規制の原則のリスク・ベースド・アプローチとはどういったものかと言いますと、米国、EUでは、それぞれ公式なドキュメントとしてこのようなものに載っておりまして、簡単に申し上げれば、事後的な安全対策ではなく、審査対象となる各製品の性質に固有かつその品質・安全性・有効性に関連するリスク因子を探り当てることをベースにし、その影響の度合い、いわゆる重みづけを科学的に評価することにより、規制の方針・内容を定めるアプローチ方法と考えられます。ここでいう「リスク」といいますのは、ある目的、有効性なり安全性、の達成の阻害要因ということになります。
 このリスク・ベースド・アプローチというのは、日米欧医薬品規制調和会議(ICH)の品質リスクマネジメント・ガイダンス、いわゆるQ9でも採用されておりまして、今日では医薬品規制の一般的な原則でありますが、殊更、細胞・組織加工製品の場合には、この原則が強調されております。
 それはなぜかと申しますと、細胞・組織加工製品の多様性にあります。この表は、自己由来で皮膚の製品に限定して製品を並べたものですが、御覧いただいてもお分かりいただけますように、原材料、製造工程、最終製品の形態、使用法に差がありまして、それによってリスクの所在、その重大性、品質評価及び品質管理のポイントも、製品ごとに固有であることがお分かりいただけるかと思います。そうしますと、品質・安全性の確保には、リスク分析を基礎にしたケースバイケースの対応がどうしても必要になってくるというわけです。
 細胞・組織加工製品のリスク因子とリスクですが、例えばリスクとしましては、感染症の伝搬、好ましくない免疫反応、腫瘍形成、細胞特性の意図しない変化、好ましくない体内分布などがあります。
 一方、これらを惹起するようなリスク因子としては次のようなものがあります。細胞・組織の由来、自己由来か、同種由来か。増殖能・分化能。免疫反応を惹起するか、されるか。細胞の加工の程度、培養・活性化・遺伝子導入などがあるか。非細胞成分や生理活性物質との複合化があるか。投与方法・投与部位、例えば局所投与か全身投与か。投与期間、短期投与か長期投与か、単回投与なのか頻回投与なのか。さらに、リスク因子としまして、同様の製品に関する臨床データや経験があるか、ないかなどがございます。
 これらを御覧いただいてお分かりいただけるかと思うのですが、多くの場合、各リスクに複数の因子が絡んでいることが分かります。つまり、リスク因子とリスクが1対1には対応してこないということで、リスク因子の程度で、単純にハイリスク製品とローリスク製品とは区切れないというわけです。そういったことから、開発段階初期から、製品ごとにリスク因子を科学的に評価して、リスクのプロファイルを得ることが必要であり、重要であるということになります。
 ここで、よく話に出ることなのですが、「GMP準拠でいければいいのではないか」という議論があります。その説明を少しさせていただきます。世間には、GMPに関する大きな誤解がありまして、例えばGMPグレードの細胞培養施設を使っているから、あるいはGMPグレードの細胞培養装置を使っているから、GMPグレードの試薬を使っているから、製品が安全であるという言い方がされることがあるのですが、実は最終製品が特定されていない段階で、「GMPグレード」というものはあり得ません。
 どういうことかと言いますと、GMPというのは承認された医薬品及び原薬について、その品質規格を満たした製品を恒常的に製造し、その有効性・安全性を担保する体系であって、つまり個々の製品を製造する設備・機器、原材料、基準・手順、作業者・管理者によって異なるために、細胞・組織加工製品では、通常は品目ごと、あるいは製造所ごとの承認要件になっているというわけです。そもそも、細胞・組織加工製品は個々の製品に関して、今お話したとおりリスクベースでの評価が原則ですから、GMPグレードのものを使えば、製品は自ずから安全であるという認識は間違っております。
 次に、規制の枠組みのお話をさせていただきます。これは日米の規制の比較をしたものですが、日本の場合ですと、業として行う場合であって、一定程度以上の加工が施されているものに限って、薬事の規制が掛かってきます。これに対して、アメリカでは、同じリスクなら同じ規制を掛けるということで、業として行う場合であっても、医療や研究として行う場合であっても、同じ規制が掛かってきます。そして、これらの製品のうち、一定以上の加工などを行う場合には、治験届が必要で、市販する場合には、市販前の承認が必要ということになります。この斜線の部分の製品は、根拠となる法律の条文の番号から、351HCT/Pと呼ばれています。
 次に、351HCT/Pは生物製剤なのか、医療機器なのかということが、開発する段階で非常に大きな問題になってきますが、彼らの考え方は、プライマリー・モード・オブ・アクションで決める、つまり、「作用の主様式」を基にして判断するということになっております。どういうことかと言いますと、主作用様式が、細胞・組織の生化学的・免疫学的・代謝的機能による場合ですと、生物製剤で、細胞・組織の物理的・構造的機能によると医療機器という分類をしています。
 一方ヨーロッパでは、「先端医療医薬品」という製品群がありまして、これは略称でATMPと呼ばれています。これは遺伝子治療薬、体細胞治療薬、組織工学製品の3つの製品からなっています。体細胞治療薬ないし組織工学製品とは、ATMPの中で、生きた細胞を含む製品であって、かつ細胞・組織に実質的加工、サブスタンシャル・マニピュレーションを施しているか、あるいは非相同的使用を目的としているものです。「実質的加工」と言いますのは、機能・特性の改変を行うもので、例えば培養・活性化、機器・足場との複合化です。「非相同的使用」というのは、ドナーでの基本機能とは異なる機能を期待する場合で、例えば骨髄間葉系幹細胞による軟骨再生などがそれに当たります。
 こういった製品であって、生化学的・免疫学的・代謝的機能を期待する場合には、「体細胞治療薬」と分類され、物理的・構造的機能を期待する場合には「組織工学製品」として分類されます。ただ、アメリカと違うところは、いずれにしても医薬品として取り扱われるということです。
 これは、アメリカでの細胞・組織加工製品の開発から使用までを表した図で、このように一本線になっています。規制の枠組みは非商業的な開発であっても、商業的な開発であっても同じであります。製品の多様性に基づいて、製品ごとのリスク分析を基礎にしたケースバイケースの対応が原則となっています。いわゆるリスク・ベースド・アプローチということになっています。
 そうしますと、重要なのは開発初期段階からの専門家とのコミュニケーションということになりますが、これに関しましてもアメリカの場合は、商業目的・非商業目的、いずれにせよ利用可能な相談制度が整備されております。また、商業目的・非商業目的のいずれであってもGCP、国際的な治験の実施基準に則って行われるということになっています。
 ヨーロッパのATMPの開発から使用までは、この図のようになっております。基本的にはアメリカの場合と同様で、非商業目的・商業目的の開発に、基本的な差はありません。ただ、販売承認はEMAが中央で審査しているのに対し、臨床試験の承認に関しては、EU加盟各国が行っているということが違っております。
 規制の原則は、アメリカ同様リスク・ベースド・アプローチであって、これもアメリカ同様、商業目的・非商業目的ともに利用可能な相談制度が整備されております。この相談制度はEMAも持っておりますし、EU加盟各国も持っております。また、臨床試験に関しては、商業目的であれ非商業目的であれ、GCPに準拠して行わなければなりません。
 ヨーロッパの場合は、市販後の規制に特徴がありまして、ATMPの市販後安全対策として、患者から製品、材料、ドナーまでの追跡可能性、いわゆるトレーサビリティの確保と、有害事象の監視、いわゆるファーマコビジランス、と同時に特にATMPでは有効性のフォローアップ(事後評価)も求められています。それから、リスクマネジメントシステムの構築、つまりリスクの最小化も求められているというのが、ヨーロッパの特徴であります。
 細胞・組織加工製品を使った再生医療・細胞治療では、EUの規制のように長期フォローアップが非常に重要と考えられています。なぜかと申しますと、最終製品の品質試験のデータの多くが、患者の投与後に得られることが想定されるということと、腫瘍形成などは治療後数年しなければ明らかにならないということ、また、投与後に、製品由来の細胞・組織の性質・製品の有効性・安全性は変化し得るという可能性が残っているのですが、例えば対象疾患が命に関わってしまうような場合には、有効性が消失しては困るという事情があります。一方、そういったことが起こるかどうかということに関しての情報は、臨床研究時や薬事承認前に十分に把握できないという現実もあります。
 また、患者の体質も、有効性・安全性に影響し得ますし、投与の様式や患者の状態・手術前後の処置でも、有効性・安全性は変わり得る。それにもかかわらず、期待する作用期間が「命が続く限り」というものが多いという事情があります。これらのことから、長期フォローアップが必要と考えられているわけです。
 次に、先ほどはパブリック・ヘルスのお話をしたのですが、視点を変えまして、ペーシェント・オリエンデッド・メディシン、すなわち「患者目線の医療」ということを規制当局がどのように取り入れているかについて、お話させていただきます。
 まず「GCPの壁」というお話です。これは「規制目線による壁」とも言えます。欧米では「非商業目的の臨床試験もGCP準拠」と先ほどから申し上げておりますが、これはリスク・ベースド・アプローチの立場からは、確かに合理的です。ただし、GCP準拠の臨床試験を通じた製品の臨床応用では、資金・労力面で膨大なコストが掛かるという問題があります。治療法の不十分な疾患/損傷に対する先端的な細胞・組織製品を開発する主体は、日本と同様で大学の臨床医や中小のベンチャー企業です。そして、彼らにとってGCP準拠の条件は厳しいという現実があります。そういったことから、臨床研究の真の脅威は、ICH-GCPではないかというような意見も出るほどであります。
 また、重篤あるいは致死的な疾患にかかっている患者側からすれば、安全性がある程度担保されているような新規の医薬品・医療機器にできるだけアクセスしたいという要望があります。そういったことから、こういった患者の要望を制度的に確保するために、通常の治験・薬事承認なしに、細胞・組織加工製品を臨床利用できるルートというものが確保されています。これには大きく分けて2種類あります。
 1つ目は、対象疾患が重篤・致死的・希少・代替法がない場合の人道的使用(コンパッショネート・ユース)です。もう一つは、小規模な非工業的な生産に適用される病院免除規定(ホスピタル・エグゼンプション)というものがあります。このホスピタル・エグゼンプションはEUのみの制度です。
 まず、コンパッショネート・ユースの制度ですが、重篤・致死的・希少・代替法のない疾患等に適用されるもので、分類としては、このようなものがございます。このうち、臨床試験の実施を前提としない種類のものが、このピンクで表されたものです。ちなみに、このHDEというアメリカの医療機器の制度は、正式にはコンパッショネート・ユースではなく、実は薬事承認の一種です。どういうものかと申しますと、米国内で患者数が年間4,000人以下の場合ですと、有効性の立証を免除して販売承認を与えるというものです。これらの制度に特徴的なことは、小規模に限定しているということと、規制当局への登録及び有害事象報告が義務となっているということです。
 日本の場合ですと、これらに相当するものは高度医療評価制度や個人輸入、自由診療といったものが考えられますが、その中でも数が多いと考えられます個人輸入、自由診療の問題点としましては、国・公共機関が監視できない、そして安全性・有効性情報が蓄積しないという問題があります。
 次に、ATMP規制の例外規定として、先ほど申しましたホスピタル・エグゼンプションのお話をさせていただきます。まず、特定の一患者向けの特注品の処方箋に従って、固有の品質基準に基づき、非反復的に製造され、医療従事者の職務責任の下、同一加盟国内で、単一病院において使用されるという条件を全て満たしたATMPは、EMAの中央審査の対象外となっております。ただし、製品・品質に関する国内承認に加えて、ファーマコビジランス(有害事象監視体制)やトレーサビリティ(追跡可能性)の確保というものが必要とされています。この「非反復的」の解釈ですが、同一製品であることと、製品スケールと頻度を考慮して決めるということになっておりますが、この判断基準は各国で異なっております。
 また、自己由来の細胞・組織を用いた製品は、個々の患者向けのオーダーメードであるけれども、一定の標準化された製造工程で、工業的(大規模)に製造される場合には、患者ごとに互いに別個の製品とはならず、反復的製造とみなされる。つまり、中央審査の対象となると考えられています。これはどういうことかと言いますと、製造工程中にあるリスクの拡散を考えているわけです。
 最後に、米国での議論として、医療行為か製品かというものがあるというお話です。これは2010年の『Nature Medicine』に出たエディトリアルのコメントなのですが、規制当局は幹細胞の治療に関して準備しておくべきだということが書かれています。どういうことかと言いますと、コロラド州のあるクリニックで、二重盲検比較試験なし、規制当局の承認なしのまま、関節障害に対する自己由来の培養骨髄幹細胞注入療法を実施していたという事例がありました。彼らの主張は、「単一州内での医療行為であって、連邦政府、いわゆるFDAの規制は受けない。治験届も販売承認申請も、したがって必要ない」と言うものです。
 これに対してFDAは、「最低限以上の加工を施した細胞は、生物製剤としてFDAの規制を受ける。また、クリニックはGMPに準拠しておらず、安全性・有効性の証明もない。そして、治療に使用する薬剤・機材(と患者)は州外からも来ているという点で、コロラド州だけでは完結していない」という理由で、2010年の8月に地裁に業務停止命令を請求しております。その結果、最近、地裁の判決が出まして、FDAが勝っております。つまり、この製品は医薬品として規制すべきだという結論が出ております。
 まとめますと、米国・欧州とも、再生医療・細胞治療に用いられる細胞・組織加工製品の規制の原則は、パブリック・ヘルスの保護を目的として、製品固有のリスク評価に基づくリスク・ベースド・アプローチです。開発者も審査側も、個々の製品について常に合理的なリスク分析が要求されます。開発段階初期から、製品ごとにリスク因子を科学的に評価して、リスクのプロファイルを得ることが必要とされており、細胞の加工、非相同的使用の条件以外は、ハイリスク製品とローリスク製品には、単純に分類していません。
 なお、商業的・非商業的臨床試験の区別なしで、ICH-GCP準拠の原則にもマイナス面があって、患者目線からの別の道も用意されています。ただし、小規模に限定し、かつその安全性情報は規制当局が収集・把握している。要するに、パブリック・ヘルスを保護するための対策がなされています。
 また、自己由来培養細胞は医療行為か医療製品かという議論は海外でもありまして、安全性・有効性が立証されていない医療の蔓延が危惧されています。これもパブリック・ヘルスの保護という観点から危惧されているわけで、客観的な有効性・安全性の評価がなされることが必須というのは、国際的な認識と考えられます。以上です。
○永井委員長 ただ今の御説明に、御質問、御意見等を頂きたいと思います。
○松田委員 2つ質問させていただきます。1つは、日米で規制の程度が違っているというお話でしたが、この違いが実際に研究レベルで、研究を進めるのがより容易であるとか、難易度にまで、実際に影響しているのかどうか。つまり、アメリカでなかなか研究がしにくいので、日本でむしろ共同研究とか、日本に来てやるとか、そういう現状があるのかどうかということです。
 2番目は、コンパッショネート・ユースは、低分子の合成医薬ですとコスト的にも、そのものの値段からしても、個人負担にしても、価格的に可能な範囲ということもあろうかと思うのですが、こういう生物製剤とか、非常に高価な医薬品の場合、リスクをどこで担保するかということ以外に、費用面でどこまで患者なり、あるいは何かほかにサポートするような仕組みがあるのかどうか。あるいは企業サイドが、正に人道的支援ということで提供した場合に、そのことによって、例えば許認可のときに企業サイドにベネフィットが保証されているのかどうか、その辺りはいかがでしょうか。
○佐藤参考人 まず最初の御質問なのですが、臨床研究あるいは治験のやりやすさが欧米でどのように違っているかということなのですが、どちらかというと、もともとの人的、コストの面から逆に制度が決まってきているというような実情もございます。アメリカなどの場合ですと、支援体制とか資金面で整備がされているということがありますので、それなりの高いハードルも乗り越えられるわけなのですが、日本では資金面あるいは人材面で、それほどのサポートが得られないということで、なかなかそれなりの手間暇が掛けられないということで、それに応じた制度になっていると私は認識しておりまして、どちらかというと、逆の方向からの因果関係のほうが本当の姿ではないかという気がいたします。
 それから、コンパッショネート・ユースに関しては、確かにコストの面で非常に掛かるということで、例えばヨーロッパではどのような対策を取っているかというと、先ほどのホスピタル・エグゼンプションのほうに流れているという傾向があります。というのは、ホスピタル・エグゼンプションの先ほどの要件の中に、有効性という要件がなかったことにお気づきだったでしょうか。実は、品質は見ているのですが、有効性を必須要件としていないのです。ですので、逆に、中央審査による薬事承認を取ろうというインセンティブを失わせる制度だという批判が出てきているという問題があります。ですから、コンパッショネート・ユースよりも、どちらかというとヨーロッパの開発側は、ホスピタル・エグゼンプションの道を取りつつあります。アメリカの場合もヨーロッパの場合でも、コンパッショネート・ユースは薬事承認とは直接リンクしないと、少なくとも建て前上は言っています。ただ、結果は参考資料となる可能性はあるかと思います。
○永井委員長 私からお聞きしたいのですが、欧米がリスク・ベースド・アプローチと言われましたが、日本は何と言うのでしょうか。
○佐藤参考人 日本の場合は、具体的にリスク・ベースド・アプローチという言い方はされてはいないのですが、先頃厚生労働省から、幹細胞の品質・安全性確保に関する指針が5指針発出されている中で、排除できるリスクを排除した上で、残されたリスクと患者が受ける潜在的なベネフィットのバランスを取るという形でリスク評価をしていきましょうという表現がなされています。
○永井委員長 いわゆる欧米の基準から見ると、リスク・ベースド・アプローチではないということになるのでしょうか。
○佐藤参考人 現場ではそのような考え方をしているかもしれませんが、制度として明確に規定されているというものではありません。
○永井委員長 それから、非商業的臨床試験を支えている資金というのは、公的研究費でしょうか。
○佐藤参考人 おっしゃるとおりです。ほとんどの場合、NIHなどの公的研究費ですが、そのほかに会社、あるいは基金から得ている資金というものがあります。
○永井委員長 ヨーロッパも同じですか。
○佐藤参考人 そうです。
○永井委員長 それから、「再生/細胞治療」と日本語で書かれていますが、原語では何と書かれているのですか。
○佐藤参考人 少なくとも規制当局は、余り「regenerative medicine」という言葉は使いません。なぜかというと、規制対象は物であって、再生医療ではないという考え方があるからです。「cell therapy」のほうが汎用されます。
○位田委員 このアメリカとヨーロッパの場合の規制は、日本と比較すると薬事法レベルの承認という話ですね。今、例えば高橋政代先生がやられようとしているのは、薬事法ベースではなくて、いわゆる臨床研究です。したがって、臨床研究指針に基づいていると。そういうレベルの規制というのは、先生の今のプレゼンテーションの中には含まれているのでしょうか。
○佐藤参考人 今回の場合は欧米の制度ですので、基本的には含まれていないのですが、もともとヒト幹細胞臨床研究指針自身が、倫理面ではほとんどGCP に近いものでありますので、倫理面に関してはほとんど同等と考えてよろしいかと思います。ただ、安全対策あるいはデータマネジメントなどに関しましては、GCPとヒト幹細胞臨床研究指針はある程度相違があるというところでして、その辺は。
○位田委員 規制の程度は恐らくおっしゃるとおりだと思うのですが、例えばアメリカにしろヨーロッパにしろ、臨床研究の規制に対して、立法でもってきちんと整備がされていて、それが治験であれ、いわゆる臨床研究であれ、間違ったことをやれば違法行為になるという形ですが、日本の場合には薬事法の部分が法律です。したがって、今、先生がおっしゃったのは、そういう薬事法の部分であるとすると、そこは同じなのです。しかし、臨床研究の場合には、日本は少なくとも指針しかないので、法に基づかないという言い方はおかしいのですが、要するに拘束力のない指針であるということになります。
 それに対して、アメリカは私ははっきりは分かっていないのですが、ヨーロッパではEUのダイレクティブで各国を拘束してしまいますので、審査をどこでやるとしても、基本的にはその法、若しくは拘束力のあるルールに基づいている。
 そういう意味では、日本の場合もアメリカ、ヨーロッパに倣ってやるとすれば、法を作らないといけないのかなという気がするのですが、その辺りについては先生の印象ではいかがでしょうか。
○佐藤参考人 やはりパブリック・ヘルスという話からすると、安全性情報なり有効性の情報というものがどこかに集積しなければいけないということで、それは法的な拘束力で引っ張ってこないと出てこないのではないかと思います。
 患者の意思で行われているような臨床研究、治験というものが、研究者個人レベルでの業績で終わってしまっていいわけではなくて、パブリックに戻ってこないといけないと私は思いますので、その辺はある程度の縛りというか、拘束力、強制力が必要かと考えています。
○位田委員 先ほど承認が行われた後のフォローアップの話がありましたが、現状の臨床研究だけを考えると、入り口の審査はあるのですが、始まってしまうと1年に1回の報告だけ、若しくは有害事象が出てきたときの報告だけで、少なくとも日本では、必ずしも十分にフォローアップされていないような印象があります。アメリカ、ヨーロッパの場合にはそこはかなりきちんとされているのでしょうか。
○佐藤参考人 その辺は薬事と同じ規制が掛かっていますので、ビジランスはしっかりとるということになっています。例えば開発者の会社が潰れた場合でも、規制当局が引き取って追跡することになっています。
○前川委員 京都大学の前川です。23枚目、24枚目のスライドに関してですが、特に24枚目のスライドで、「日本・高度医療評価制度・個人輸入・自由診療」と書いてあるところです。日本の場合は、自由診療のバックとなるのは医師法•医療法であって、国・公共機関による自由診療の監視ができていないのですが、例えば23ページのスライドで「ホスピタル・エグゼンプション(病院免除規定)」とあるのは、品質は見ているけれども有効性は見ていないとおっしゃっていたのですが、これは日本の医師法•医療法に相当するもので、「ホスピタル・エグゼンプション」でおこなわれる医療の品質を見ているということになるのでしょうか。もう一つは、ホスピタル・エグゼンプションの品質を見ていると言われるのは、どの程度の品質を見ているのでしょうか。
○佐藤参考人 ホスピタル・エグゼンプションに関する品質なのですが、EUのメンバーステートによって違ってきます。例えばドイツの場合ですと、物の品質をしっかりと見るという立場になっています。それと同時に、製造所のGMPに関する査察も行われています。一方、イギリスの場合ですと、実は品目ごとではなく製造所の承認ということですので、品質の程度というのは各国の考え方によって違ってきます。もう一つは有効性の話でしたか。
○前川委員 いわゆる自由診療の話です。日本の場合は医師法•医療法で認められています。私は、医師法•医療法で認められているから、医師であれば、医師と医療を受けるものとの信頼関係があれば、どんな医業をやってもいいとはならないと思うのですが、日本で行われている所謂「自由診療」に「監視」を加えたものが、このホスピタル・エグゼンプションというものなのでしょうか。
○佐藤参考人 ホスピタル・エグゼンプションにはファーマコビジランスの義務がありまして、ファーマコビジランスの義務とトレーサビリティ確保の義務がありますので、そこは日本の自由診療とは違って、フォローアップはしっかりされているということです。
○宮田委員 ホスピタル・エグゼンプションというのがすごく重要なポイントになると思いますが、これは製造・品質に関する国内承認が必要だということですね。
○佐藤参考人 そうです。
○宮田委員 それは国内における薬事承認と同じ意味ですか。
○佐藤参考人 ホスピタル・エグゼンプションのいくつかの要件を満たしているかどうかということです。ですから、先ほど申し上げましたように、有効性の要件というものがないとか、そういった点で若干違っているわけです。
○宮田委員 これを規定している法律は何になるわけですか、それぞれの薬事法なのですかそれとも。
○佐藤参考人 それぞれの国の薬事法です。
○宮田委員 薬事法の中に、それが入っているわけですね。
○佐藤参考人 今、入っていない国と入っている国が混在している状況で、法律を整備しなければホスピタル・エグゼンプションは実施できないのですが、いくつかの国では既にもう入っているということです。
○宮田委員 そうなりますと、こういうファーマコビジランスとかトレーサビリティに対する違反を摘発するのは政府ということになるわけですか。
○佐藤参考人 そうです。
○永井委員長 まだ御意見があるかと思いますが、最後にまた討論いたしますので、次に大和先生から海外における規制外診療の実態について御説明をいただきます。
○大和委員 東京女子医科大学の大和でございます。このようなタイトルで話をするよう仰せつかりました。佐藤先生は薬事のエキスパートですが、私は規制外診療のエキスパートというわけではなく、だいぶギャップがあると思いますが、御寛容いただければと思います。スライドは50枚以上あり、20分ではとても全ては説明できませんが、お持ち帰りいただきお帰りの電車等々で読んでいただければと思います。基本的には全てジャーナルのエディトリアル若しくは論文若しくはウェブサイトのコピーになっており、いくつかのものには原典に当たれるようにURL等も付けてあります。
 このような再生医療の規制外診療は、再生医療自身がもともとルールが何もないところから始まっているので、最初は全て規制外診療だったと言って良いと思います。例えば記録に残っている限りで最も古い培養細胞を用いた細胞治療は当時MIT、現在はハーバード大にいらっしゃるハワード・グリーン先生の、培養表皮の重度熱傷の患者さんに対する治療で1980年に行われております。グリーン先生御自身が後にエッセーに書いていらっしゃいますが、様々な専門家やFDAに問い合わせたのだけれども、何もルールがないので自分の責任でやってくれと言われたそうです。その後、世界中で似たような細胞治療が様々行われ、1990年代に入ってからようやくヨーロッパとアメリカでは法整備がされてきました。その時点から規制外診療というものが誕生したと考えていいと思います。
 次の重要な点が2000年代の中頃からです。これはBMJの2006年10月号で、オランダの政府が規制外診療のステムセルセラピーをやっているクリニックに対して「やめろ」と言ったという記事です。そのクリニックの治療費は1回大体2万3,400ドルぐらいで、数百人の患者さんに対してやっていますということが書いてあります。後の様々な文献でこれぐらいの金額の治療費となっています。これは『Cell Stem Cell』の2008年の記事のコピーですが。『Cell Stem Cell』はISSCR(International Society for Stem Cell Therapy)のオフィシャルジャーナルですから、この雑誌はこの問題に関して何回か記事を出しています。
 ネイチャーパブリッシング社も非常にこの問題を積極的にあつかっており、『Nature』本誌、『Nature Medicine』『Nature Biotechnology』である程度、定期的にこの問題をあぶり出しています。これは2008年の『Cell Stem Cell』ですが、ステムセルのタイプ、細胞ソース、どのように移植しますかなどがあります。非常にびっくりするのは、ここに「Fetal」、胎児がいたり、どのように投与するかで「by mouth」というのがあるのです。経口投与です。どうしてこれで効くのかがよくわかりません。「Topical」というのは、目なら目に点眼するようなイメージではないかと思います。
 これは「Nature Reports Stem Cells」という、活字にはならないのですが、ウェブサイトで閲覧できる、『Nature』が定期的に出しているレポートです。ここで2008年6月にステムセルツーリズムというものに対して、「もっとちゃんとやるぞ」というところで記事が出ました。その中で、ある号ですが、コロラドに帰ってきた麻痺の患者さんがいて、その人はインドで治療を受けたと。何年もズボンのパンツのゴムが感じられなかったのだけれど、感じられたとか何とか言うのですが、結局は細胞をいくつ投与したかも知らされていなくて、数千ドルも取られているということで告発をしています。
 2008年12月号ですが、海外でステムセルトリートメントをやっていて、メディカルツーリズムと、こういう規制外診療が非常にリンクしていると。つまり国を越えると、国内でやっていると非合法なのだけれども、国を越えて、後でウクライナなどが出てきますが、ウクライナ、ロシアであるとか、一部のアジアであるとか、規制がないのか、あってもとても緩い国に行って治療を受けて、アメリカであるとかヨーロッパに帰ってくるというようなことが非常に頻発していることを警告しています。この記事は西川先生の神戸理研にいらっしゃるダグラス・シップさんという外国からいらしている方が書かれています。シップさんはもちろん外国人ですが、日本語はペラペラなので、もし次にこういう機会があれば彼にお願いするのもいいのではないかと思います。
 これが2009年9月号ですが、シップさんの論文がありまして、中国、タイ、インド、アメリカの中でこういう規制外診療がどのように行われているかに関してレポートが出ています。
 これが『Nature Biotechnology』の2009年9月号ですが、かなり具体的なことが書いてあります。ここにあるストーリーは、ハンガリーの警察がアメリカ人とウクライナ人とハンガリー人を逮捕しましたと。何をやったかというと、非合法なステムセルセラピーをやろうとしていたので捕まえました。1回のプロシージャーが2万5千ドルと書いてあります。
 こちらのテーブルは、同じ記事の中に出てくる『Nature Biotechnology』のエディターの人が、ウェブサイト等々で調べた代表的な規制外のステムセルセラピーをやっている所です。一部はもうなくなっていると思いますが、中国、インド、ドミニカ、タイ、メキシコ、フロリダ等々、こういう所でメディカルツーリズムの形でやっているということです。
 これが2009年の『Stem Cells』という雑誌の論文ですが、こういうグループでどういうことをやっているかというと、グーグル上でステムセルセラピーのクリニックを調べて徹底的にそこからどういうことをやっているかということを調べたレポートで、正直言ってこれは私も似たようなことをやってみたいなと思ったことはあるのですが、膨大な手間がかかるのでできないなという感じです。それをやったということで、これは2009年当事のことを知るには非常にいい論文だと思います。
 これはその中のフィギュアですが、●が付いている所がステムセルセラピーをやっている所で、先ほど申し上げたような所に偏在しているのが分かると思います。
 これはもう全然読めないかもしれませんが、こちらのカラムはこの著者たちが、ステムセルセラピーをもしやるのであれば最低限こういうことは絶対守ってほしいよねというようなことを、この辺に書いてあるのですが、それでこれがそれぞれのクリニックであり、×が付いていればそういうことが満たされているということであり、見ていただければ分かりますが、ほとんど歯抜け状態であり、とてもではないですが十分な管理というか、体制の下にされているとは言い難いということです。
 費用は、多くは2万ドルから3万ドルの間ですが、3万ドル超というのもあります。さらにこれも面白いと思いますが、費用を患者さんに示していますかということですが、全く情報を与えていないのが23クリニック中8クリニックもあり、それ以外でも幅でもって示しているなど、これはどうなのでしょうかというところがあります。
 疾患ですが、多発性硬化症、パーキンソンであるとか、脊損等々、多くはほかに治療法がなくて、患者さんが非常に困っているという疾患に対してされています。
 これは患者さんがどこから来ているかですが、アメリカが38%ですが、日本も9人、2%でこの調査に引っ掛っています。分母が480です。適応は先ほどお話したように、現在有効な治療法がないものが幅広くありますが、正直、この分野を研究をしている私としては、本当にこういうものに効くのかなと言わざるを得ないようなものが並んでいると言えると思います。
 これが2009年9月の『Nature』本紙ですが、中国が実はもう1つ非常に多数のクリニックで細胞治療をやっておりました。中国そのものが少なくとも2009年当時ではまだ十分に近代化していなくて、ステムセルセラピーに限らずいろいろな問題を起こしていた中で、この辺りから急に政府が頑張ってかなり取締りを強化して、現状ではかなり改善しています。
 これが中国の規制当局がやった対策ですが、セルセラピーはカテゴリーの3番と位置付けます。これは倫理的に問題があったり、ハイリスクであったり、十分な臨床評価が得られていないものでありますと。遺伝子治療などと同じカテゴリーで一番厳しいところになっています。ヨーロッパのATMPと同じようなカテゴリーといっていいかもしれません。それ以前に中国はこういうルールが何もなかったので、様々なクリニック、ホスピタルで様々な先生たちがこういうことをやっていました。しかしこの時点以降、安全性と有効性を治験でもって示さない限りやっては駄目ですということを明確にしたのです。
 例えば困った例がここに書いてありますが、彼らは研究なのだということで、この未承認の有効性・安全性が確認されていないものを患者さんにやって、かつ患者さんから治療費を取っていると。これはもう極めてけしからん。日本であればご存じのとおり臨床研究は患者さんからお金を頂戴しておりません。全部研究費で賄っておりますので、非常に大きな違いがあります。
 この記事の中にあるのは100~150のクリニックがこういうことをやっていますと。少なくとも世界中の27のクリニックとネットワークが組まれていて、臍胎血由来のステムセル若しくはアダルトステムセルが治療に使われています。既に4,000人以上の患者さんが治療を受けていて、自閉症、脳性麻痺、多発性硬化症、脊損などの治療に使われています。こういったもののすべてが本当にこの細胞治療で治るとは私には考え難いのですが、現実に4,000人以上ですので、相当な患者さんが治療を受けています。大体2万6,300ドルで6回の治療が受けられて、追加は3,500ドルとなっています。
 これがBeike Biotechという中国で最大のステムセルセラピーの会社のウェブサイトです。これは最近キャプチャーしたものです。今でもこういうものをやっています。いろいろなことが書いてあります。これを読むと、確かに非常に治療を受けたくなるなという感じです。現実には治験もきちんとやっていることになっているのです。このフェーズ?/?の所で、自閉症やSLEなど非常に難治性の疾患の治験をやっていることになっています。ただし、アメリカのClinicaltrials.gavでチェックすると、少なくともこのSLEの治験は最近一切情報が入ってきていないと書いてあり、本当にやっているのか、やっていないのか、どこで中断しているのか等々に関しても、ちょっと怪しいのかなと思いました。ただ、ほかのもので現在、実際に治験が進行中であると、Clinicaltrials.gavで出てくるものもあります。
 これが2010年5月号の『Nature Medicine』ですが、22のクリニックで70以上の疾患、糖尿病からパーキンソンまで、ウクライナからエルサルバドルまで地球全体に渡ってこういうものをやっていて、少なくとも200ぐらいの会社がやっていますということをシップさんから聞きましたということが出ています。
 このシュルツという人は、アメリカでステムセルの規制外診療をやっているクリニックのオーナーで、学者なのですが、彼は「いや、これは補助生殖医療みたいなものなのだ」と。「補助生殖医療で扱っている受精卵というのは究極のステムセルなのだから、あっちが認められているのに、こっちが認められないのはおかしいではないか」というようにコメントを出しており、こういう雑誌があるのですけれども、この雑誌に彼は一応自分のクリニックの臨床成績を報告しております。
 これがそのウクライナですが、別にここに恨みがあるわけではないのですが、グーグルでも非常に上のほうで引っ掛かるので、御紹介させていただきます。こちらがお父様で、こちらが御子息で、お二人を中心に大変幅広くやっております。ここに、イングリッシュ、チャイニーズ、ドイツ語、ロシア語ということで様々な言語でウェブサイトを見ることができます。時間がないので説明しませんが、糖尿病、血液の疾患、エイズなど様々な、体中の様々な疾患、日本語にすると何かわかりませんが、性的何とかみたいな感じで、不妊までステムセルセラピーでできるということで、どうやってやるのかなという感じです。
 すごいのが、「6,500 transplantations of fetal stem cells」と書いてありまして、恐らく中絶胎児から取ってきた細胞を6,500回以上移植に供しているということだと思います。ヒストリーなども書いてあり大変おもしろいのですが、時間がないので詳細は説明しませんが、87年頃からで、この当時は血液疾患を対象にやっており、95年辺りから胎児のステムセルをやっているそうです。
 少し飛ばし、この人の名前で検索をPubMedでかけると、論文を書いていたら引っ掛かると思うのですが、多分これしか論文は出していなくて、しかもこれはウクライナ語の論文で、何のことだかさっぱり分からないです。そういう意味では、サイエンティフィックにはクエスチョンマークを付けざるを得ないと考えます。
 これが『Nature』の2010年6月号で、再度またこういうものが掲載され、世界中で200以上のクリニックがやっていて、中国に少なくとも100以上ある。これが2010年10月で、中国がかなり規制というか取締りをやってきていますということが書いてあります。これが先ほど佐藤先生からお話があった、FDAがクリニックを営業停止ということで、停止命令を裁判所に求めたという記事です。
 ここまでは実はあまり事故が起きていなくて、どうして事故が起きないのかなと不思議に思っていたのですが、実は2010年頃から事故に関する論文がちらほら出始めました。少なくとも二つ、きちんとした医学のジャーナルに論文が出ています。それはステムセルの治療をして、トラブルが起きたということです。2010年11月に『Nature』本紙に出ました。アール・エヌ・エル・バイオという会社が韓国にあり、そこの患者さんがステムセルセラピーを受けて亡くなりましたという記事が出ました。
 これがその記事の詳細です。東亜日報というのは韓国の新聞です。韓国の患者さんが、韓国の中では認められていない幹細胞治療を、韓国で細胞を採取して、培養して、それを輸液バッグに詰めて中国、日本などにメディカルツーリズムで送り込んで中国、日本で移植するというプロトコルです。そうすると韓国の法律に引っ掛からないと解釈しています。日本の京都にあった、今はもうないですが、クリニックで治療を受けた人が肺塞栓で亡くなりました。
 こういう会社があったのですが、この辺りからやはりまずいのだろうなということで、世界中で学者も含めて、さらに声が高くなりました。例えば、ISSCRの当時の代表だったワイズマン先生はこういう幹細胞治療、幹細胞バンクのようなものは全然駄目なのだと。もっと患者さんたち、親御さんたち考えろというような声明を出しております。ISSCRのウェブサイトには患者向けのビデオとパンフレットがあります。これは日本語訳があり、再生医療学会のホームページにも「幹細胞治療について患者ハンドブック」へのリンクがあります。よく考えてくださいということを患者さんに対して訴えております。これがその表紙ですが、それほどぶ厚いものではないので、是非、お目通しいただければと思います。
 アメリカはテキサス州の知事は、御自身がイリーガルなステムセルセラピーを受けていらして、テキサスはこの未承認の細胞治療を強力に推進することを表明しており、FDAと喧嘩をしております。
 これは、FDAが1月に出した、ウェブサイトに載っている文章です。「FDAは、アメリカの公衆を守るために未承認のステムセルを扱う犯罪人を徹底的に追及します」という声明を出しています。これはなかなかいいことも書いてあるので、是非、読んでいただければと思います。
 これが最後のスライドだと思います。『Nature Biotechnology』の5月号に載っている記事です。過去に起きたトラブルの一覧とそのベースとなるアメリカの規制に関して、非常にコンパクトにまとまっておりますので、是非ともお目通しいただければと思います。
 まとめは、今日は時間がないので、美容外科はスキップしてしまいましたが、再生医療の規制外診療は、美容外科やほかに治療法がない難治性疾患など世界中で行われています。多くの場合、患者が国をまたいで、メディカルツーリズムとして治療を受けることで規制を逃れています。欧州、米国、中国、韓国等では、最近ではかなり強力に規制当局が介入していますが、残念ながら十分な効果は得られていないと判断せざるを得ません。日本では残念ながらまだ介入がないのですが、必要ではないかと個人的には考えております。以上であります。
○永井委員長 大変詳しく御説明いただいたと思います。それでは御質問、御意見を頂きたいと思います。いかがでしょうか。
○前川委員 質問というわけではないのですが、実は今週ありました米国の血液学会でもASH、アメリカの血液学会とヨーロッパの血液学会が合同でシンポジウムを開いて、そのタイトルがステムセルツーリズムでした。そこで先ほど先生がおっしゃったダグラス・シップ、彼が演者として数人のシンポジストの中で講演しておりました。欧米の学会でもやはりこういうことは積極的に取り上げられていて、倫理観をはじめとして、そういうところの議論をしっかり行っていると言う印象です。
 一方、日本を見てみますと、恐らくこういう議論をしているのは再生医療学会だけでしょうか。恐らくそのほかの血液学会をはじめとして、いろいろな学会でもこういうようなところへ、やはり規制当局の介入も必要でしょうが、学会での議論も必要と私は思っております。
○永井委員長 ほかにいかがでしょうか。
○澤委員 再生医療学会から報告させていただくと、先ほど大和先生がお話された、韓国からのステムセルツーリズムで死亡例が日本で出たという大変残念なことから、声明文を出しまして、こういうことが一切ないようにということを宣言しました。本年度にありました、私が主宰させていただいた第11回の再生医療学会でも、やはり横浜宣言というものを出しまして、患者さんに安全に、正しく、有効に届けるために、やはりきっちりとした対応を特に、自由診療下で何をやってもいいというレベルは日本としては何とかしてほしいという議論を持っていこう、そういう議論になっております。
○永井委員長 よろしいでしょうか。
○今村委員 今、大和先生から非常にショッキングなというか、御報告を受けました。先ほどの佐藤先生とのお話も一緒に考えますと、このような再生医療なりセルセラピーというのがずっと蔓延していくことになれば、非常に国民医療という目線から見て、問題が大きく疎外されるというか、変な方向に行くのではないかなと感じました。佐藤先生は患者目線の医療ということで、制度的な確保を含めた枠組みをきちっとしたらどうかということをおっしゃいました。即ち、どういうものをきちっと規制し、どういうものであれば研究者の自由に任せられるのか。こういうものをきちっとチェックする体制がどうしても必要なのではないか。それはやはりある程度の権力と言いますか、公的な色彩を持ったものということで、これは厚労省がやはり中心になってこの制度を作っていくべきだなと思いました。厚労省自体の中に置くのか、あるいは第三者機関的なもので外に置くかという議論はあると思いますが、そういう工夫は工夫としてやっていただきながら、こういうものが変な方向に行かないような規制というもののあり方をきちっとこの際、考えていかなければならないと感じました。
 医療の基本は、患者あるいは国民の方と医療を提供する側との信頼関係に基づいて行われるのは当然のことであり、こういうことがいろいろな所で起こるということになると、何だという議論が当然国民から上がってくる。これが大きくならないうちにきちっとした対応をするべきだなと感じました。
○永井委員長 ほかに御意見はございませんでしょうか。
○早川委員 大和先生のメッセージは、ステムセルセラピーが危険なものであるというメッセージではなくて、きちっとした公的コントロールが行われない状態でやられているのが危険である。そういうことで理解としてはよろしいですか。
○大和委員 今日のお話は規制外診療についてお話くださいという御依頼でしたので、その話をしておりまして、先ほどから何度か話題に上がっている臨床研究とこれは、私の中では決然と分かれています。臨床研究はそれなりに、今だとヒト幹指針がありますし、それ以前であったとしても動物実験レベルでかなりの部分安全性と有効性が確認できたので、ヒトに行きますというプロセスをとっておりますが、ここに今日挙げたものはほぼ全てと言っていいと思いますが、そういう前臨床レベルの実験がなされていなくて、それこそいきなりヒトに行くと。
 先ほどプライマリー・モード・オブ・アクションの話がありましたが、どう考えても、この疾患に対してこの細胞移植が効くとは考え難い、というような疾患に対して非常に多くなされております。こういうものに関しては、学会等も含めて何らかの形で介入があって然るべきではないか。もちろん私はほとんどまずいと思っているのですが、本当に全部かどうかは分かりませんが、ほぼこういうところで調べる限り、非常にまずいものが大半を占めている。一方で再生医療の臨床研究等々、国が定めたルールにのっとってやっているところに関してはかなり話が違うという認識であり、そちらはむしろ柔軟に、自由診療の形がいいかは分かりませんが、先進医療B等々で国民にどんどん還元していくほうがいいのではないかと考えております。
○宮田委員 私、今日30分ぐらい前に失礼しなくてはいけないので、ついでに言わせていただきます。大和先生の御指摘は非常に正しくて、本当に臨床研究、つまりこれをきちっと患者様にお返しするような形での研究と、一般の非規制外の診療行為というのは明確に分けなければいけないと思っています。もう1つ重要なのは、ある意味、細胞医薬や再生医療の実用化のことを考えると野放しに、薬効も、それから安全性も担保されないようなもので、似たような、片方は薬事法で一生懸命頑張ろうとしているのに、区別が付かないようなものに関しては、実は企業の開発しようという意欲が極めてそがれることになります。そうなると正しいパスにおいてきちんと規制し、安全性を担保されて、有効性も担保されたような再生医療というもの、あるいは細胞医薬というものが、実は実用化から遠ざかるという面もありますので、ここは皆さんときちっと議論していただきたい。特に企業がクリニックを支援したり、あるいはクリニックに細胞を供給したりするようなことをやった場合、これをどう考えるかを皆さんに考えてほしいのです。そうなった場合、やはり高度医療あるいは先進医療のBというようなものを目指す場合は、ある程度安全性、報告義務、治験の蓄積が担保されますので、こうした可能性は残しておいてもいいとは思いますが、できればきちっとそういうことを分けていただき、前々回でしたか、「エセ再生医療」という言葉を使っていましたが、規制外で正にその研究をずっと、あるいはその医療行為を進められたとしても、そのクリニックはもうかるかもしれませんが、国民に決してその再生医療の成果が返されないようなものは峻別して議論しなければいけない。できればそれは法律において取り締まるべきだと私は考えます。
○永井委員長 今日の御意見は、またさらにこれからの審議に参考とさせていただくことにしまして、今日は再生医療のルールの必要性。特に事務局において再生医療の安全性確保と推進のための枠組み構築をまとめていただいております。この御説明をこれからお願いしたいと思います。
○荒木室長 プレゼンを頂きました委員の先生、あるいは参考人の先生、ありがとうございました。皆様、お手元の資料4を御覧ください。これまで、第1回、第2回と議論を頂きました。さらに、その前の制度的な枠組み検討会というのもありました。そういうことも踏まえまして、これまでの御議論を論点メモとしてまとめさせていただきました。
 資料4「再生医療の安全性確保と推進のための枠組み構築について」ということで、大きく、これまでの要約をしました。形としては、「関係する主な御意見」があって、それに対する「論点」があって、書けるものについては、「方向性(案)」というもので作らせていただいております。大きく六つの柱です。
 1番目として「枠組み構築の目的」、2番目として「対象範囲・定義をどうするか」、3番目として「リスクに応じた安全性の確保・担保の枠組みをどうするか」、4番目として「物としての細胞の培養・加工基準の設定等についてどう考えるか」、5番目として「国民への情報公開」、6番目として「倫理面の配慮」です。この六つの柱につきまして、それぞれ、論点をまとめましたので、御説明申し上げます。
 1番の大眼目、「必要性・目的」です。「関係する主な御意見」です。再生医療に関して、アカデミアのほうは守るべきルールがあって、自由診療のほうは放置というまだらな規制があるのではないのか。それについて医療としてどういう規制のあり方が妥当なのか議論すべきということ。さらに、患者の立場としましても非常に期待が大きいのだけれども、やはり当然、一定のブレーキというのは必要になるのであろうということ。更に言えば、専門家の学会については、再生医療の名で似て非なる医療が実施されている部分について、真面目にやっている者としてはモチベーションの低下につながるということ。あるいは、こちらに書いておりませんが、産業界としても、やはり国民に安心感を与えるという意味で、しっかりとした枠組みが必要ではないのかという御意見も頂いております。
 それをまとめまして論点としました。医療として提供される再生・細胞医療については、機能不全となった細胞や組織を再生させ、これまで有効な治療法のなかった疾患が治療できるようになるなど、患者(国民)の期待が高い一方で、新しい医療であることから現状では関係法令などが必ずしも十分に整備されておらず、それは今、宮田委員からも御指摘がございましたが、逆に実用化に際しての安全性の確保あるいは実用化の推進に不十分な状況になっているのではないかということです。したがって、今後、安全性を確保しつつ、再生・細胞医療の実用化を推進していくためには、法整備も含めた実効性のある統一的なルールが必要ではないのか、ということで論点として挙げさせていただきました。
 事務局でも「方向性(案)」として考えられますのが、再生・細胞医療やその技術が、その用いられ方によっては、ヒトの尊厳の保持、人の生命・身体の安全等に重大な影響を与える可能性があることに鑑み、再生・細胞医療やその技術に関し、実用化を推進するためにも、安全性、倫理性の確保のために必要な措置を行うことを目的とする枠組みにしたい、というようなことを書いております。
 2ページ目です。次の柱です。これも前回から御議論、御意見を非常に頂いておりまして、その枠組みを作るに際して、対象範囲・定義をどう考えるかということが一番ございました。主な御意見というか、一つしか挙げておりませんが、外国での、今日の佐藤参考人のプレゼンにもございましたが、例えばセルセラピーという位置づけがよいのではないのかという御議論が第2回目にありました。論点ということで再生・細胞医療が取り扱う範囲の考え方の図1は資料4の5ページ目ですが、どういうところの範囲を対象とすべきかということを考える際に、少し整理をしてみました。これは先ほどの佐藤参考人のものと似ていると思いますが、細胞治療として考えたときに、それに伴う臓器等の機能再生の有無との関係です。
 まず目的として、臓器・組織の再生を目的とするかどうかです。上段が目的とする場合、下段が目的としない場合です。右側のカラムにつきましては、まず、何を使用するかということです。幹細胞を使用する、あるいは幹細胞以外の細胞を調整・加工を加えて使用する場合。次は、組織・臓器のレベルのものをそのまま使用する場合。最後に、そういう細胞・組織・臓器みたいな生ものの使用は基本的にはないという場合で分けてみました。
 こうしますと、幹細胞を使用し、臓器・組織の再生を目的とするものにつきましては、これは正にヒト幹指針の対象研究の定義に当たるものです。例えば、iPS細胞あるいは体性幹細胞を使ったヒト幹指針の対象研究というものが当てはまると思います。
 さらに、幹細胞以外の細胞を調整し使用するということで、例えば薬事承認をされている自家培養表皮あるいは自家培養軟骨は、もともとは表皮なり軟骨を採ってきたものを培養・増幅するというものですので、こちらに当たるのかなと。
 さらに、調整をしないでそのまま使うというものであれば、臓器移植があったり、あるいは血管の置換術があったり、あるいは膵島移植というのもあるのかなと書いております。
 さらには化学薬品、あるいは、細胞自体ではなくて細胞を培養する液を使うもの、あるいは濃厚血小板血奬ということで、血小板以外の血奬成分というところを基に使うものということでこういうものがあるのかなというように挙げさせていただきました。
 さらに、臓器組・織の再生を目的としないものとして、治療というような形で使われるものとして、一つは間葉系幹細胞を使用するGVHDに対する治療薬ということです。これは、カナダでは既にProchymalが薬事承認されているものがあります。
 さらに、リンパ球活性化療法、樹状細胞療法と呼ばれるような、がんの方にされるようなセルセラピーは、再生というよりも治療ということでこちらに入るのかなということで明示的に、議論が少し湧き出すように資料を作っております。
 また2ページに戻っていただきます。このような範囲の考え方があるとしまして、例えば既存では、平成22年3月の医政局長通知においては、「ヒトの細胞・組織を採取し、加工した上で移植又は投与を行う医療を再生・細胞医療という」というような形にしておりますし、ヒト幹指針においては、先ほど申し上げましたように、「ヒト幹細胞等を病気やけがで失われた臓器や組織の再生を目的として、疾病の治療のため人の体内に移植又は投与するもの」というような定義がありますが、どこまでを対象として、どのように定義すべきかということです。例えば「方向性(案)」ですが、事務局として作らせていただいたものにつきましては、「再生・細胞医療とは、病気又はけがで失われた臓器・組織の再生若しくは治療を目的としてヒト幹細胞等を用いて行われる医療をいう」と。「ヒト幹細胞等」というのは、ヒトES細胞、iPS、ヒト体性幹細胞、その他再生・細胞医療に用いる細胞として、例えば厚生労働大臣が定めるものというような形での方向性でいかがか、とまとめさせていただきました。
 次は3番、三つ目の柱です。「リスクに応じた安全性担保の枠組み」です。「関係する主な御意見」です。一つは、例えば再生医療について臓器移植と同様に実態がなかなか把握できないということもあって、そういう把握することが大切ではないのかということ。さらには、ほかのヒト幹指針等の見直しとの議論の整合性をとること。(3)としまして、安全性は相対的なものであって、対象等により必要な安全対策は異なるという御意見。さらに、再生医療にもES、iPSなど、人体への影響が未知なものから、体性幹細胞など、一般的にヒト幹指針でもかなり研究が進んでいるものがある、特に先端的な技術については施設を限定するという方法もあるのではないのかというようなこと。特に括弧の中の「そこでの検証を踏まえて」ということも重要だと考えております。
 論点としましては、再生・細胞医療において用いるヒト幹細胞の種類、採取部位・方法、細胞の調整方法、投与部位・方法等の違いによりリスクの程度が異なるということで、一律の安全対策を求めるのではなく、リスクの程度に応じた安全性等の確保を図るための仕組みとすべきではないのか。(2)として、例えば安全性等の確保のために、例えばの例ですが、リスクの程度に応じて再生・細胞医療を実施する場合には、それに先立ち、厚生労働大臣の承認又は届出を求めることや、倫理審査委員会による審査をした上でその結果を公表することを求めること等、リスクに応じたレベルを分けて仕組みとして作ったらいいのではないか、ということを論点として挙げさせていただきました。
 4番目としまして「細胞の培養・加工基準の設定等」です。こちらについても、細胞治療も含めまして、細胞の加工の基準や培養士の技術認定という議論もしてはいかがかという御意見がございました。安全性を担保するとともに、実用化を推進するためにも細胞の培養・加工を実施する施設の基準を明確にする必要があるのではないのか。さらに、これは前回の再生の枠組み検討会でも少し議論されたと思われますが、医療機関以外で細胞培養・加工を実施する場合、現行では、薬事法に基づき許可された製造所が前提となっていますが、それ以外の形態も考えられるのではないのか、ということで論点を挙げさせていただきました。
 5番目としまして五つ目の柱、こちらも非常に御意見を頂いたところです、「国民への情報公開」です。やはり再生医療は夢の治療だけれども、そうではない、いろいろな課題もあります。そういうことで国民への情報公開、情報の発信と共有が重要であろうと。さらに、先ほど第2回の御意見ということで出しましたが、ヒト幹指針の結果も最新の医療を国民に届けるよう、切れ目のない制度が必要ではないのか。さらに、法律だけではなく、教育ということも必要だし、内容については、できるだけリアルタイムの情報公開が大切ではないのか、ということで御意見を頂いています。
 そういうことで論点としましては、再生・細胞医療に関する情報としまして、例えば、ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針にのっとったヒト幹細胞研究について、どのようなシステムで適切な情報を収集し、どのように提供すべきか。あるいは、これは第2回目でこちらから情報提供いたしましたが、ヒト幹細胞情報化推進事業という事業を今年度から始めております。そちらにつきまして、幹細胞データベースを構築しますが、国民への情報提供のあり方に工夫が必要ではないのか、という論点を挙げさせていただきました。
 最後の柱で「倫理面の配慮」です。生命倫理への配慮も議論されるべき、あるいは、倫理審査委員会の構成委員が内容を必ずしも把握していないという、特にそれぞれの機関の倫理審査委員会任せにすることについては危惧がある、という御意見がございました。こちらは、論点としてざくっとしておりますが、再生・細胞医療が倫理面に配慮して行われるようにするためにはどのような対応を求めることが考えられるかということで挙げさせていただきました。
 以上、早口になりましたが、これまでの御議論を基に論点メモということで大きく柱を六つに分けて作らせていただきましたので、御意見をよろしくお願いしたいと思います。
○永井委員長 ありがとうございます。それでは、ただ今の御説明に御質問ありますか。
○宮田委員 もう出なければいけませんので、いっぱい意見はあるのですが、一つだけ。定義の2ページ目の方向性で、ここ、定義はすごく重要なので皆さんに議論していただきたいのです。(1)で「再生・細胞医療とは、病気又はけがで失われた」と言っています。今私たちが懸念している規制外医療の場合には、加齢などによって失われた美容的な応用が随分行われていると思いますので、それをこの定義ではカバーすることができないので、是非それは考えていただきたいと考えています。
 それからもう一つ。この表を御覧になっていただいて、「幹細胞以外の細胞を調整し使用」で、再生を目的とするかしないか。その中にリンパ球活性化療法とか樹状細胞療法というのがありますが、この規制外医療も非常に多いということを考えて、これを規制外にしていいのかと私は非常に思っておりまして、これは規制すべきであろうと。あえて言うと、免疫系の再構成というか、再生という論理で、是非再生医療の中に含めていただきたいと思っております。以上です。今日はこれにて失礼いたします。
○永井委員長 ありがとうございます。ほかにいかがでしょうか。
○澤委員 私も今の宮田委員の御意見と同じような意見を持っているのですが、今回、やはりいろいろな中で一番分かりやすかったのは、佐藤参考人が出された、再生医療の輪と細胞治療の輪の若干のずれをどう考えるかということです。言葉がなかなか、海外がこうだから日本もとか、そう言うよりも、日本の中では「再生医療」という言葉はかなり期待されながら、我々、再生医療学会をやっている身からしても期待されながら、ある意味、過剰な方向に、意味付けが国民の中で定着されているのではないかと。一方で、厳密に言うと、確かに細胞治療なのです。ですから、今回議論していくに当たって重要な点から見ますと、やはり「再生・細胞医療」でいいと。この文章の中でも、部分部分で「再生医療」になっていたり、「再生・細胞医療」になっていたりしますので、そこは統一して今回、そういう形で議論するのがいいかと思いますし、確かに「再生・細胞医療とは」という議論の中には、これはもともと、狭義というか、再生医療のことだけに限定されているような方向性の案にもなっていますので、そこはやはり議論が要るだろうと思います。特に受診療科でどうするかということが議論になるのであれば、再生医療のみならず、是非、細胞医療全体も含めた定義に広げるべきだと考えます。
○永井委員長 今の点、いかがですか。私はここがちょっと気になるのです。再生というのは目的であって、細胞というのは手段ですね。これを「・」でつなげられるのかどうかということなのですが。
○早川委員 多分これは欧米と日本の特殊な違いだと思います、日本では専ら「再生医療」と言うのがメジャーとなっています。しかし、本当は細胞医療というのが大きなオーバーアーチングとしてあって、その中に再生医療というのが一つあるのかなと思います。資料4の2頁2.で出された方向性の案で、図1との対比で考えると、例えば(2)の2行目で「その他再生・細胞医療に用いる細胞として」云々と書いてあります。これが図1の中の、再生医療は目的としない間葉系幹細胞とかリンパ球とかという、そういう細胞を指し、これらによる医療、これを「細胞治療」と日本的に言っていると私は解釈しました。ですから、日本で「細胞治療」と言うときには、ほぼこのセンスで「細胞治療」と言っている。それから、再生を目的とした場合に「再生治療」と言っている。その上の(1)の定義の「再生・細胞医療とは」の2行目の「ヒト幹細胞等を用いての」の「等」に、先ほどの樹状細胞とか、そういうものが入っているのだろうと読んだのですが、そこは1つ1つ、明確に定義しておかないと解釈が多様になると思います。
○永井委員長 そうですね。図1でも、幹細胞を用いても組織の再生ではなくて、液性因子の分泌で組織の機能的な回復を目指すものもあるわけですね。ですから、幹細胞を使用しても、意図しない機序で、つまり再生ではないところで、実は体性幹細胞が効果をしめすことがあります。体性幹細胞もヘテロですから、いろいろな細胞に分化することにも気をつける必要があると思うのです。いかがでしょうか、ここは時間をかけて議論したほうがよろしいと思います、すぐに結論を出す必要はないと思いますが。
○今村委員 枠組み構築のことでお聞きしたいのです。ある程度の規制が必要だということは、コンセンサスはおおよそ得られつつあるのではないかと思います。法整備を含めた実効性のある統一的なルールが必要と、それから、審査体制のあり方、こういうものについてもう少し具体的なイメージというようなものがもしあるのだったら教えていただきたいのです。
○永井委員長 いかがでしょうか、事務局から。
○荒木室長 非常に貴重な御指摘というか、正にその枠組み構築について、今回、論点メモで議論をしていただこうと思っています。その中の枠組みの形として、法整備も含めた実効性のある統一的なルールということで、その中の具体的な内容としてこの柱になるのかなと思っています。ですので、何か非常に具体的なものがあるというよりも、この六つの柱を考えて、こういうものが制度として運用できればいいなということを、今、事務局的には、皆様の御意見を伺って思っております。
○今村委員 こういった方面の研究というのは今からたくさん出てくると思われます。としますと、例えば厚労省の、内でも外でもいいのですが、そういう所にそのようなチェック体制を作ったとして、そこでさばききれるのかどうかというような問題も出てくると思うのです。もしよかったら、そういうことも含めて考えていただきたいと思います。
○荒木室長 貴重な御意見、ありがとうございます。
○伊藤委員 資料4の「関係する主な御意見」の(2)に「一定のブレーキは必要である」と書かれています。ブレーキというと、治療や研究に対するブレーキという印象があって。これが資料1の「第2回の主な意見」の中ではそうではなくて、「監視・規制システムの構築が必要ではないか」という意見があるのですが、これが資料4になってはなくなってしまっているのです。ここの所は、研究にブレーキをかけるような印象のある言葉は書き直したほうがいいのではないかということと、その上で、更に方向性の一番最後になりますと、「安全性、倫理性の確保のために必要な措置を行うことを目的とする」というようなことで、これだと何を言っているか分からないので、ここのところは明確に。今日、佐藤先生や大和先生のお話ですと、各国ではいろいろなものをきちんと作られているということから見れば、この曖昧な方向性ではよくないのではないかという気がいたします。
○永井委員長 恐らくここは、「再生医療に期待が大きいが、ブレーキ」という。やはり、再生できるのなら誰も反対しないと思うのです。ですから、ブレーキというとちょっと違和感があるのです。もしここが「細胞医療に対して期待が大きいが、ブレーキが必要」と言ったらどう感じられますか。余り違和感がないように思うのですが。
○伊藤委員 医療でしたら。
○永井委員長 ええ。ですから、「再生」という言葉が余りにも期待感を持って迎えられるので、やはり客観的に「細胞医療」なのではないかと私は思いますが、どうですか。
○伊藤委員 そこまで考えていなかったので、よく分からないです。
○松田委員 私もこういう再生医療や、細胞治療が社会的なコンセンサスを得ていくのは非常に難しい面があると思います。一般の人が詳しく分かるわけではないですから、この表現の仕方によって受けるイメージはかなり影響されると思うのです。そういう中で薬の歴史を見てみますと、ある新しい治療法が出たときに、それを代替する低分子医薬が必ず、ホルモン療法でもそうですが、低分子医薬というのが交互に出てくるような歴史があるわけですが、この再生医療も恐らくこれから、各製薬メーカーも、究極的には経口投与で臓器にターゲッティングして細胞の再生を促すような医薬品が出たときに、またいろいろな所で「再生医療」という言葉が非常に強くうたわれるようになるのではないかと。そのときに、一般の方の再生医療に対するイメージはかなり混乱するようなことになりはしないかと。それがまた誤解につながって、リスクに対して妙に偏見を持つようなことにならないかどうか。私は、「再生・細胞治療」という表現がいいかどうかも含めて、これをどのように一般の方が正しく理解し得るような表現にしたらいいか、それは何かと言われても答えはないのですが、その辺、気をつけるべきではないかという気がいたします。
○永井委員長 いかがでしょうか。今の点、何か御発言はありますか、これは少し時間をかけて議論したほうがよろしいと思いますが。
○早川委員 結局、各国で使っているイメージの言葉も違いますし、「セルセラピー」という言葉と、日本で「細胞治療」と言っている言葉は全く同義でもないのですよね。ですから、結局、ここでしっかり議論をして定義をする、それに尽きるのだろうと思います。その定義の背景説明を大衆的・一般的にきちんとしていくというアプローチしかないと思います。もともと「再生」という言葉が出てきたのは、化合物を傷に塗って、傷の皮膚が再生してきたと。これは、むしろ有機化合物を塗ってですね、そこが「再生」の始まりの言葉です。ここはもうそのことを議論していませんので、それも含めて、やはりここできちんと定義すればよろしいのではないかと思います。
○澤委員 確かに、厳格にその定義だけでいうと、「細胞医療」でいいかとは思うのですが、余りに世の中に「再生医療」という言葉が。現に、この委員会の名称ですら「再生医療の安全性確保と」と書いています。これを「細胞医療」にするなら、次回からは「細胞医療の安全性確保委員会」にしないといけないのですが、国民の目線で既に。例えば山中先生のiPSを例としても、マスコミもものすごく使っていますよね。これで今、「細胞医療」に変えたら、再生医療はいいのかと、細胞医療だけがレギュレーションなのだ、というイメージにならないかということを私はすごく懸念するのです。ですから、やはりここは、厳密には、それは細胞医療ですし、細胞を扱っているという意味だけなのです。ただ、日本の現状で考えると、やはり国民目線で分かりやすくといったときに、これは細胞医療の話で再生医療は違うのだなと誤解をされないようにと考えたら、現状では、将来はもちろん違うかもしれませんが、「再生・細胞医療」というのがやはりまだ分かりやすいかなと私は思います。
○永井委員長 ただ、先生、夢を語る場合は何を言ってもいいのです。
○澤委員 いや、夢ではないです。
○永井委員長 いや、やはりまだ夢の段階の治療が多いのです。規制を考えたときにどういう言葉を使うのがよいかということを冷静に考えないといけない。
○澤委員 冷静に考えての意見なのですが。
○荒木室長 事務局から、定義の話について、非常に重要ですので御議論いただきたいと思いますが、先ほど申し上げましたように、5ページの図1の例示につきまして。議論を誘導するわけではありませんが、事務局としては、幹細胞を使用したもの、あるいは幹細胞以外の細胞を調整し使用したものについて、ここについては一応、細胞・再生医療あるいは細胞治療の対象として考えるのかなと。さらにその目的についても、やはり再生だけではなくて、それを治療目的として細胞を使うという、海外では正にセルセラピーという考え方があるというような話、前回、御議論がありましたので、左のカラムから2×2の四つぐらいがまず大きなターゲットになるのかなというつもりで「再生・細胞治療」というような単語を用いてしまっております。ですのでその辺り、御議論として、例えば「再生医療・細胞治療」みたいな形で分けるというような、あるいは、それを一緒にして「再生医療・細胞治療」みたいな形にするというような御提案もあるのかなと思っております。
○永井委員長 でも、それは、正しくは「再生を目的とする細胞治療」でしょう。つまり、目的と手段を同列に「・」で結ぶということが混乱を招かないかということなのです。
○荒木室長 今の書きぶりですと、ということですね。再生・細胞。
○永井委員長 つまり、幹細胞を用いても再生しない例はたくさんあるわけです。それを「再生医療」と言ったときに誤解を招かないかということなのです。
○町野委員 現在、ヒト幹指針があるのですよね。そうですよね。だから、今度、法律による規制をするとき、これとの関係はやはり考えなければいけないので、ヒト幹指針のほうでは、「再生」という言葉は一言も使わないで「幹細胞を使う」と、そういう書き方になっているのです。そこのところで再生医療についての規制が必要だという議論が出てきたので、「再生医療」が前にくっ付いた、あるいは促進すべきだと、それがくっ付いたのがかなりあるのです。私が基本的に知りたいのは、まず、ヒト幹指針での規制を法律化するといったときに、ヒト幹指針の中で行われている倫理委員会の審査、大臣の承認、その手続にほぼ従ったものを法律にするつもりなのかという、3ページの論点の(2)辺りはそういう感じに見えるのですが、そういう理解でいいのかということが一つ。と同時に、今のときに対象とする医行為の範囲としてどのようなものを考えて、現在のヒト幹指針より広げるつもりか、あるいは、それから狭めるつもりか、その辺が私はポイントであるように思いますが。
○荒木室長 貴重な御意見を頂きました。3のどのように安全性の担保を枠組みとして今のヒト幹指針のようなものを考えているのかという御指摘ですが、論点として書いておりますように、そういうものも一部あるのかなと。これはこれからの御議論だと思いますが、例えば論点の(2)に書いてありますように、厚労大臣の承認又は届出、あるいは倫理審査委員会の審査結果の公表というような形のものをそのリスクに応じて考えていくべきなのかなと思っています。
 その対象をどうするかということですが、これは繰り返しになりますが、先ほど図1でお示ししましたように、ヒト幹の対象は左上の一つのカラムですが、これまた議論を誘導して申し訳ないのですが、我々としては、これまでの御議論からセルセラピーというところまでを含めるとなると、左から四つのカラム、2×2のカラムかなと思っております。
○町野委員 そうすると、最後のところの図ですが、単純に言いますと、左上のところだけが大体ヒト幹指針であって、それの4倍になると、そういう話でよろしいですね。
○荒木室長 はい。
○永井委員長 そうすると、幹細胞を使って再生しなかった場合はどうするのですか。これはヒト幹指針に対応するわけでしょう。ヒト幹指針というのは手段で決めているわけですから。
○荒木室長 具体的に言いますと、幹細胞を使用するけれども、再生を。
○永井委員長 再生ではなくて、そこの細胞が分泌するファクターが大事な場合があるわけです。
○荒木室長 はい。例えばGVHDに対する治療とか、そういうことですね。
○永井委員長 ええ。
○荒木室長 これも、物としては細胞を使いますので、逆に、セルセラピーという意味合いでは対象となってくると思っています。
○永井委員長 ヒト幹指針にも対応すると。
○荒木室長 はい、ヒト幹指針そのものが対応するということになると思います。
○永井委員長 ただ、結果として機能が再生するのであって、目的がどうなのか、構造が再生するかどうかは分からないわけですね、機能は再生するかもしれないけれども。それを初めから分かるものなのですか。薬でも機能再生して、場合によっては構造も再生しますね。
○早川委員 使うものとしては細胞だと、製品としては。結果をもたらすものは、治療としては「再生治療」と言えるかもしれないし、分泌物等々が効けば「細胞治療」と。今、日本ではむしろ、分泌物が効いても再生医療のカテゴリーに入っている重要な事例もありますから、そこは重く見ないといけないので、私は、今の日本の現状を一応きちんと網羅した言葉で定義すれば、それでいいのではないかという気がします。非常に簡単に言うと、「再生・細胞治療」という言葉であったとしても、この内容を皆さんが誤解しないように定義しておけばいいのではないかという感じはします。
○永井委員長 いかがでしょうか。
○野村委員 新聞でプレゼンを知らしめる立場から言わせていただくと、規制をかけるためには定義付けは細かくきちんとされなければいけないというふうで、例えば「再生・細胞医療」とか、難しい言葉が並んでも、私たちがいわゆる愛称「再生医療」というような感じでプレゼンができれば、国民が今、関心を持っているチャンスではあるので、澤先生がおっしゃっていたような骨子は非常に。誤解を受けるという諸刃の剣ではありますが、今、国民の理解を受けるために「再生医療」という言葉をどこかにきちんと、私たちが気安く呼べるような形で入れておくというのは一つの手だと思っています、愛称というわけにはいかないとは思うのですけれども。その中で誤解を解いていくためのプレゼンをまたやって。再生医療学会の方たちにはそういう範疇がどこまであるのか、私は分からないのですが、学会としてはそういう誤解を呼ぶのはやめようとか、そういう議論があったのか聞きたかったのもあったのです。
○永井委員長 いいえ、学会は全然問題ないのです、再生医療を目指す学会ですから。
○野村委員 かなり狭い範囲です。
○永井委員長 しかし、現実の医療として、再生するかもしれないししないかもしれない手段として細胞を使う医療ということ。つまり、過度の期待で、「再生する」と言われれば、誰でも誘惑に駆られるわけです。それがいろいろな問題を起こさないかどうかを規制するときに気をつけないといけないということなのです。ですから、特に規制する場合、かなり気をつけてどういう言葉を使うかということを定義しないと、あらぬ誤解、混乱を招くおそれがあると思います。
○野村委員 そうですね、規制をかけるための言葉遣いであるならば、本当にそれが誤解を受けないように細かく載せるのはいいかと思うのです。ただ、それを外に発信するときに、ものすごく長いズラズラした名前の指針だと、やはり報道しにくい部分があって、というところもあると。
○永井委員長 それは結果として再生するかもしれないのです。ただ、それをしない場合もあるわけです。でも、機能は回復するかもしれない。そういう医療だということです。
○大和委員 医療がターゲットになっている場合とプロダクトがターゲットになっている場合で、大分印象が違うと思うのです。医療がターゲットになっているこういう法律がどれぐらいあるのかがよく分からないと思っていて。移植の場合は、「移植」としか言いようがないので「臓器移植法」という名前になっていると思いますし、血液関連のものでもそういったものがいくつかありますが、再生医療をターゲットにするというよりも、「細胞・組織加工製品」という言葉があったり、アメリカだったらHCT/Pという単語があったり、ATMPはやや医療に近いのですが。それでも、Advanced Therapy Medicinal Productsですから製品です。なので、物がターゲットになっているような名前のほうがやはり分かりやすくて。先生がおっしゃるように、医療をターゲットにするから夢になってしまったり、過度な期待を、みたいな感じが出てくるのではないかと思います。私は、物として定義して、物が対象になっているような名前付けがいいのではないかと思います。
○永井委員長 つまり、規制というのは物を対象にするわけですね、今、議論になっている規制は。ですから、治療の目的を規制しているわけではないのです。そこを少し。
○早川委員 私の理解では、物を明確に対象にしているのは薬事法だと思うのです。薬事法下では、ここのところは明確に二つの言葉を使っています。一つは「細胞・組織利用医薬品等」です。「利用」の意味はあとで説明します。それともう一つは「細胞・組織加工医薬品等」です。まず細胞から始まって、ミニマルマニピュレーションのみの製品も含めて治療に、利用するものはすべて「利用」という言葉で大きくくくる、さらに加工したものについては「加工医薬品等」と、それは物が対象なので明確に定義しています。
 今回、法律を作ろうという話は、薬事法を超えた法律を作ろうという話ではなくて、薬事法下で扱われるもの以外を対象に、ヒト幹で扱っていることも含めて細胞を使った諸々のことを、先ほどの大和先生のお話も含めて、なるべく公的コントロール下に置けるようにしようという形の方向だと思うのです。ですから、どちらかというと、そういう治療を、ある意味では、ヒト幹の延長線上ということで言えば、ヒト幹は「臨床研究」という、名前は違いますが、あえて分ければ、物対象のあれではなくて、治療法対象の、いわば医療技術論的アプローチですよね。
○永井委員長 その場合、再生しない細胞治療はどうなるのですか。
○早川委員 「再生・細胞」というのは、多分それでここに入れられたのだろうと私は思っています。細胞を使って。
○永井委員長 でも、その「・」は、再生しないという意味も含めた「・」だということですか。
○早川委員 はい。
○永井委員長 だから混乱を招くのだと思うのです。
○早川委員 ですからそこのところを。例えば、細胞を使って、細胞の分泌物が結果的にその治療に役立つということも含むときちんと定義すれば、それは別段、この言葉でも問題はないかと思います。
○位田委員 多分、今、いろいろ議論をしても結論が出ないと思います。法律を作る場合には、きちんと定義付けられるような名前で法律を作らないといけないと思うのです。「再生・細胞医療」という名前は必ずしも適当でないと私も思うのですが、法律を作るときには、それが少し長くても、きちんと定義をした名前を付けるのが良い。しかし、一般的名称というか、略称というか、それを例えばマスコミの人たちがどう呼ぶかは、また話が別なのだろうと思うのです。例えば、いわゆるクローン技術規制法というのは、名前は長いですが、一般的には「クローン人間禁止法」と言われているのです。これは、どこにも正式な名称で挙がっているわけではないのです。ただ、目的はそうだから、みんなが一般的にそう呼んでいる。そういうことを考えて、一応ここでは、やはり法律はサイエンティフィックにきちんとした名前で付けたほうがいいのではないかと思います。それを申し上げておいた上で、それを今日決めるのではなくて、委員長がおっしゃったように、少し時間をかけて決めていけばいいのではないかと思います。
 私からも質問です。先ほど町野委員からも御質問があったのですが、今回作る枠組みは医療全体を規制するものなのか、それとも基礎から臨床研究までを含むものなのか、したがって、ヒト幹細胞の臨床研究から、つまり、研究の段階から実際に行われる治療の段階の両方を含むのか、そこを分けてやるのか、そこを一つ御質問したいと思います。
 それからもう一つ。こういう法的な枠組み、法的かどうかは別ですが、こういう枠組みを作るときに、なぜ再生医療だけこういう枠組みを作るのか、という理由がやはり要るのだろうと思うのです。つまり、ほかの医療でも同じような、リスクがあったり問題を抱えているものはあり得ると思うのです。それを今回は、確かに再生医療を推進しようということは分かるのですが、それに対して一定の規制の枠組みをなぜ再生医療にだけ法律で作るのか。いままでの医療に関する枠組みは医師法か医療法だけです。要するに、お医者さんを規制するか医療機関を規制するかだけであるのに、今回だけは医療そのものの内容を規制するのであれば、やはりそれなりの理由が必要です。その理由に応じて中身もある程度決まってくるのではないかと思うので、そこの理由付けはどうするのか。そこを超えないと、「法律を作る」と簡単には言えるのですが、ほかのところに影響があり得るかなと思います。
○永井委員長 まだ御議論はおありかと思いますが、これは継続して更に議論を深めたいと思います。本日のところはこの方向性だけ、大体こういう議論でいきますということだけを御了承いただいて、更に次回までに事務局に論点を整理していただきたいと思います。よろしいでしょうか。それでは、事務局からお願いいたします。
○佐原課長(医政局研究開発振興課) 事務局です。質疑等いろいろ、ありがとうございました。質疑は全ての項目について終わっていないわけですし、特に今回、まだ定義のところで、ここをしっかりやっていくという必要があると思いますので、引き続き、この論点をよく整理して、次回、提示させていただきたいと思います。
 ただ、一方で、大きな方向性としてこういうきちんとした枠組みが必要だということはほぼ御了解いただいているのではないかと思います。我々としては次回、法的な枠組みもかなりイメージした形で具体的なものをお示しして、更に御議論を頂きたいと思っております。
 前回、2回目のときに副大臣も出席させていただきまして、議論の前倒しというか、このことについて、早くしっかりやっていくべきだということですので、拙速はいけないと思いますが、法律案を視野に入れて、早い段階でしっかりやっていきたいと思います。
○吉岡課長(医政局総務課) 若干補足をさせていただきます。年が明けますと、次の通常国会にどのような法案を出すのかということは政府としてラインアップしなければいけないということがあります。中身については、当然、これから更に御議論いただくわけですが、そのラインアップの中には、薬事法とともに、今、御議論いただいている新法についても提出予定法案として出させていただくということを御了解いただきたいと思います。中身につきましては、これからしっかりと御議論いただきたいと思っております。
○永井委員長 よろしいでしょうか。それでは、本日はこれで終了いたします。どうもありがとうございました。


(了)

照会先
厚生労働省医政局研究開発振興課再生医療研究推進室
TEL  03-5253-1111
内線 2587

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