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2011年12月5日 第46回労災保険部会議事録
労働基準局労災補償部労災管理課
○日時
平成23年12月5日(月)15:30~
○場所
厚生労働省専用第23会議室
○出席者
委員<公労使別五十音順>
荒木 尚志 (東京大学大学院法学政治学研究科 教授) |
岩村 正彦 (東京大学大学院法学政治学研究科 教授) |
小畑 史子 (京都大学大学院地球環境学堂 准教授) |
中窪 裕也 (一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授) |
大江 拓実 (全国建設労働組合総連合 書記次長) |
齊藤 惠子 (UIゼンセン同盟政策局 部長) |
新谷 信幸 (日本労働組合総連合会 総合労働局長) |
立川 博行 (全日本海員組合 中央執行委員 国際・国内政策局長) |
森下 光一 (日本基幹産業労働組合連合会 中央執行委員) |
明石 祐二 (社団法人日本経済団体連合会労働法制本部 主幹) |
伊丹 一成 (新日本製鐵株式会社人事・労政部 部長) |
小島 政章 (株式会社竹中工務店 安全環境本部長) |
田中 恭代 (株式会社旭化成アビリティ 代表取締役社長) |
長岡 英典 (社団法人大日本水産会 漁政部長) |
宮近 清文 (日本通運株式会社 取締役 常務執行役員) |
事務局<順不同>
鈴木 幸雄 (労災補償部長) |
木暮 康二 (労災管理課長) |
小澤 龍二 (調査官) |
野地 祐二 (労災保険財政数理室長) |
須永 敏良 (主任中央労災補償監察官) |
飯田 剛 (労災管理課課長補佐) |
河合 智則 (補償課長) |
渡辺 輝生 (職業病認定対策室長) |
若生 正之 (労災保険審理室長) |
植松 弘 (労災保険業務課長) |
美濃 芳郎 (労働保険徴収課長) |
○議題
(1)労災保険率改定及びメリット制改正等について
(イ)労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱について(諮問)
・労災保険率の改定について
・特別加入保険料率の改定について
・労務費率の改定について
・メリット制の改正について
(ロ)業種区分の見直し方針について
(2)石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律について
(3)平成23年度第2次及び第3次補正予算並びに平成24年度労働保険特別会計労災勘定概算要求等(震災対策の実施状況)について
(4)精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書について
(5)社会保障・税に関わる番号制度について
(6)その他
○議事
○岩村部会長 ただいまから、第46回労災保険部会を開催いたします。本日は大前委員、林委員、黒田委員がご欠席です。田中委員はおそらく見えるのではないかと思います。また、新谷委員も遅れて到着されます。それから前回の部会以降、委員の交代がありましたのでご紹介します。使用者側委員として萩尾計二委員に代わり、日本通運株式会社取締役常務執行役員の宮近清文委員がご就任されております。
○宮近委員 宮近と申します。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
○岩村部会長 どうぞよろしくお願いいたします。また、事務局も人事異動があったということですので、自己紹介をお願いしたいと思います。
○労災補償部長 7月29日付で労災補償部長を拝命しました鈴木でございます。部長になる前の3年間は労働衛生課長として、労災疾病予防ということで、非常に密接に関連のある業務をさせていただいておりました。今後ともよろしくお願いいたします。
○調査官 調査官の小澤と申します。よろしくお願いいたします。
○岩村部会長 どうぞよろしくお願いいたします。それでは本日の議事に入ります。議事次第に沿って進めてまいります。第1番目の議題は、「労災保険率改定及びメリット制改正等について」です。本件議題のうちの?は、「労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱について」ということで、厚生労働大臣から労働政策審議会会長宛の諮問案件です。まず事務局から、説明をいただきたいと思います。
○労災管理課長 まず省令案要綱について読み上げた上で、内容をご説明いたします。
○労災管理課長補佐(企画) 資料1-1をご覧ください。こちらが諮問文と省令案要綱です。
厚生労働省発基労1205第1号
労働政策審議会会長 諏訪康雄殿
別紙「労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱」について、貴会の意見を求める。
平成23年12月5日 厚生労働大臣 小宮山洋子
別紙
労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱
第一 労災保険率の改正
労災保険率を、別添一のとおり改正するものとすること。
第二 労務費率の改正
請負による建設の事業に係る賃金総額の算定に当たり請負金額に乗ずる率(労務費率)を、別添二のとおり改正するものとすること
第三 メリット制の改正
一 有期事業及び一括有期事業に関するメリット制の適用要件の改正
有期事業及び一括有期事業に関するメリット制(労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和四十四年法律第八十四号。以下「法」という。)第十二条第三項及び第二十条第一項の規定により事業ごとの災害率により保険料を調整することをいう。以下同じ。)の適用要件のうち確定保険料の額に係るものを、四十万円以上(現行百万円以上)に改正するものとすること。
二 特定疾病等の改正
法第十二条第三項の厚生労働省令で定める疾病等について、労働保険の保険料の徴収等に関する法律施行規則(昭和四十七年労働省令第八号)第十七条の二の表に別添三を加えるものとすること。
三 一括有期事業に関するメリット制の増減率の改正
一括有期事業であって、法第十二条第三項に規定する連続する三保険年度のいずれかの保険年度の当該事業に係る確定保険料の額が四十万円以上百万円未満であるものに係るメリット制の増減率を別添四のとおり定めるものとすること。
第四 特別加入保険料率の改正
一人親方等の特別加入に係る第二種特別加入保険料率を、別添五のとおり改正するものとすること。
第五 その他所要の規定の整備を行うものとすること。
第六 施行期日等
一 この省令は、平成二十四年四月一日から施行するものとすること。
二 この省令の施行に関し、必要な経過措置を定めるものとすること。
別添一以下については、読上げは省略させていただきます。
○労災保険財政数理室長 それでは私から、諮問内容である労災保険率及びメリット制の改正(案)等についてご説明いたします。参考資料1-2の1頁をご覧ください。今回、労災保険率の改定案についてご審議いただきますが、労災保険率の算定方法はこの資料にありますように、法律、政令、省令に規定されているところです。これに加えて、次の頁以降にある労災保険率の設定に関する基本方針で、算定方法が細かく定められております。原則として3年ごとに、過去3年間の給付実績等に基づいて、短期給付、長期給付など、個々の項目について算定することになっております。その際、収支が大きく悪化した業種の保険率が一挙に上昇することを防ぐことなどを目的として、激変緩和措置を講ずることとなっています。
これらのルールに基づき、55の業種それぞれについて算定した改定案の概要をまとめたのが、資料の5頁です。平均の保険率は現在5.4/1,000ですが、労働災害の減少を反映して、改定案では0.6/1,000低下して、4.8/1,000となります。引上げが8業種、据置きが12業種、引下げが35業種です。この改定により、保険料負担は全体で年間905億円削減されて、全事業場の4割以上で保険率が引き下げられることになります。
資料の6頁には、保険率の各要素別に見た改定の状況が書かれております。業務災害分の保険率は、業種により異なりますので、ここでは平均値を小数点第2位まで記述しています。今回の改定案では業務災害のうち、短期給付分は2.4/1,000が2.23/1,000に、長期給付分は1.6/1,000が1.44/1,000にそれぞれ低下します。通勤災害等の非業務災害分は、改定前と同じ0.6/1,000です。社会復帰促進等事業等費用は1.1/1,000から1.0/1,000に、0.1/1,000低下します。いちばん下の年金積立調整費用とは積立金の過不足を調整する部分で、労災年金は賃金にスライドしておりますので、ここのところの賃金の伸び悩みを受けて、平成21年、22年と年金がマイナススライドとなったことなどから、年金の原資である積立金の必要額が少し少なくても足りるようになりました。その差の部分などを今回、マイナスの保険料としてお返しすることになります。
7頁には、それぞれの業種の現行の保険率と改定案が書かれています。先ほどご説明したとおり、多くの業種で労働災害が減少したことから引下げとなります。引下げの業種は35と、半分以上を占めております。ほとんどが0.5/1,000から1/1,000の引下げですが、中には海面漁業のように、10/1,000以上の引下げとなる業種も3つほどあります。引き上げる業種は8業種ですが、激変を緩和するために、引上げ幅を最大でも1/1,000としています。
激変緩和については、8頁をご覧ください。激変緩和は引上げとなる場合に、引上げ幅を最大でも1/1,000としたほか、業務災害の所要労災保険率が、平成21年の改定時よりも低下している業種については、労災保険率を据え置くこととしています。その結果、激変緩和を講じたのは合計9業種で、そのうち労災保険率を据え置くのは4業種です。激変緩和を講じる業種以外の業種については、一律0.1/1,000の負担となっております。
続いて、東日本大震災への労災保険率の改定の対応についてご説明します。9頁をご覧ください。東日本大震災の被災者に対する労災保険給付のうち、金額が突出して大きいものは遺族補償年金ですが、現在、遺族補償年金の請求は約2,000件程度となっています。仮に2,750件支給されることとなったとすると、1,530億円ほどの原資が必要となります。仮にこれを全業種一律で9年間に分けて負担することとしますと、保険率は0.1/1,000となります。
震災関連の給付に対する負担については、次に述べる2つの理由から、今回の保険率改定では考慮に入れず、平成27年度の保険率の改定時に算定する予定です。理由の1つは、地震が起こったのは平成22年度末であったことから、給付が平成23年度に入ってから発生していることです。今回の保険率改定の基礎となるのは平成20年度から22年度の分で、平成23年度以降の給付は、平成27年度の改定時の基礎データとなっております。もう1つの理由は、震災関連の給付は現在も請求が続いておりますので、今回の改定で正確に額を見積もることが困難であることです。
参考1-3に、今回の改定の項目別の細かい算定結果を付けてあります。参考1-4は特別加入制度に関する改定案です。特別加入制度についても同様の考え方で、改定案を作成しました。19の区分のうち7つの区分で引下げ、9つの区分で据置き、3つの区分で引上げとなりました。参考1-5は特別加入の項目別の算定結果となっております。参考1-6は労務費率調査の結果と労務費率の改定案についてです。今回の改定に向けて、建設業の労務費率の実態を把握するために調査を行いました。その調査結果に合わせて、労務費率を改定するものです。建築事業と既設建築物設備工事業を除いて引下げとなります。
参考1-7は、メリット制の改正(案)です。メリット制の改正については、労災保険財政検討会で検討した結果を、以前この部会に報告して、方向性についてご確認いただいたところです。今回、それらを踏まえて改正案を作成いたしました。建設業の単独有期事業については現在、請負金額が1億2,000万円以上であるか、又は確定保険料が100万円以上である事業が、メリット制の適用対象となっていますが、改正案ではこのうち確定保険料の要件を40万円まで引き下げることとしています。建設業の一括有期事業については現在、年間の確定保険料が100万円以上である事業場が適用対象となっていますが、改正案では確定保険料の要件を年間40万円まで引き下げることで適用拡大を図ることとしています。
なお、この改正案で新たに適用対象となる一括有期事業場については、メリット制に慣れていないことや事業場の規模が小さいことに配慮して、激変を緩和するため、メリット制の増減率を±30%とします。立木の伐採事業についても同様です。
5頁からはメリット制の収支率の算定に当たり除外することとなっている、特定疾病に「騒音性難聴」を追加する改正案です。8頁の中ほどにありますように、現在、特定疾病として建設業のじん肺などが定められているところですが、新たに建設業の騒音性難聴を追加するものです。
最後に資料1-2です。これは諮問案件ではありません。労災保険の業種区分について、我々の今後の作業の方向性についてご意見をいただきたいと考えております。業種の区分についても労災保険財政検討会でご検討いただいて、その結果を以前、当部会に報告させていただきました。その報告内容を受けて、具体的に業種区分を検討するため、「その他の各種事業」のうち、「情報サービス業」「医療保健業」「洗たく、洗張又は染物の事業」について、データ収集や実態把握のための調査を行いたいと考えております。また、業種区分と関連して業務簡素化の観点から、現在、55の業種区分をさらに細かく分けた細目を定めているところですが、これらを整理・統合するための検討を開始する予定です。
○岩村部会長 それでは、ただいまご説明いただいた議題1について、ご意見あるいはご質問などがあればお願いしたいと思います。
○齋藤委員 質問したいと思います。参考1-2の2頁、平成17年3月の労災保険率の設定に関する基本方針の概要の激変緩和措置について、産業構造の変化に伴い事業場、労働者者数が激減し、収支状況が著しく悪化している業種には、激変緩和措置を行うという説明を先ほどいただきました。激変緩和措置として上限を1/1,000と、8頁に記載されております。こちらの4頁に基本方針の細かい資料がありますが、4頁の(2)の激変緩和措置等の「さらに」から、「産業構造の変化に伴って事業場数、労働者数の激減が生じたため、保険の収支状況が著しく悪化している業種の労災保険率については、必要に応じて一定の上限を設ける」としております。今回の引上げ幅の上限を1/1,000というように設定した背景、考え方をお伺いしたいと思います。
もう1点は上限1/1,000について、激変緩和措置対象業種以外の業種で一律に0.1/1,000を負担すると、8頁の中から下のほうに書いてあるように、現行の0.2/1,000から引下げとなっております。将来的にこれらの激変緩和措置をいつまで適用するのかをお伺いしたいと思います。
○労災保険財政数理室長 第1点として、1/1,000とした理由です。前回もそうですが、最近、引き上げる場合は1/1,000を上限にしていたので、その前例に倣って、1/1,000ぐらいだったら、各業種でも何とか激変にならずにご負担いただけるのではないかと考えて、今回も1/1,000を上限といたしました。
2点目としては、こういった産業構造の変化というのは、永遠に起こり続けると思いますので、どうしても激変緩和をする必要がその都度出てくると私は考えます。例えば次回はやめるとか、その次はやめるとか、そういったことはなかなか難しいものと思います。そのときどきに応じて算定結果を見て、ほかの産業の負担があまり重くならないように考えていくものだと思います。
○岩村部会長 齋藤委員、よろしいでしょうか。
○齋藤委員 今回は経済情勢とか、いろいろあると思いますが、そういうことを踏まえて1/1,000にするという考えでよろしいのですか。前回が1/1,000だから、今年も1/1,000という単純な考え方ではないということですか。
○労災保険財政数理室長 もちろん状況が大きく変わってくれば、例えば激変緩和が必要な業種がたくさん増えてきてしまったら、1/1,000だとほかの業種が負担できないということもあるでしょう。これは改定に際していろいろ計算した結果を見て考えていくものと思います。
○岩村部会長 よろしいでしょうか。そのほかにいかがでしょうか。
○立川委員 今回の激変緩和の趣旨ですけれども、9業種ということで、そのうち労災の保険料率を据え置くのが4業種ですね。林業やその他の窯業又は土石製品製造業、農業又は海面漁業以外の漁業の3業種については、前回の改定でも据え置いているということで、将来的に同じ傾向であれば、引き続き据え置くのでしょうか。そうではなくて何かあれば変えていくということなのでしょうか。事務局の考え方をお伺いしたいと思います。
○労災保険財政数理室長 今回据置きとした業種は、計算上の保険料率は確かに現在の料率を上回ってしまいますが、これら据置きした業種については収支の改善が見られているところなので、今回据置きしたわけです。例えば、これらの業種についても収支が悪化していくようであれば、次回以降に検討するときは、また引き上げることになると思います。未来永劫、ずっと激変緩和の対象であるということも、なかなか考えにくいと思います。それはそのときどきの収支を見て検討していくことになると思います。実際に激変緩和の対象となる業種についても、前回は対象だったけれども、今回は対象ではなくなった業種というような入替えはあります。そういうこともあって、今回は他の業種に負担いただくのは0.1/1,000となり、前回よりはご負担いただく分は低下しております。
○立川委員 8頁の激変緩和の説明は、前回より労災の発生を抑制する努力をされたという意味合いで、料率が下がっている部分については据え置くという記載の仕方ですね。そうでない部分については、緩和措置は適用しないということになっているのです。これからも継続的にそういう形でいくのかというのは、いまお答えされた形ということで理解すればよろしいですか。
○労災保険財政数理室長 はい。
○岩村部会長 そのほかにいかがでしょうか。
○大江委員 メリット制の改正案について、少し要望したいと思います。メリット制についてはこれまでも本委員会で、「労災かくし」につながるのではないか、増えているのではないかという懸念の発言がありました。実は私ども全建総連は毎年2回、この30年間、大手企業や住宅メーカー42社と交渉しているわけです。今年の夏は猛烈な猛暑ということもあり、大変驚いたことに、「現場で熱中症に遭った」という回答の所で、38社1,229人が病院に搬送されたという報告がされております。亡くなった方も出ているという状況だそうです。この人たちの労災が一体どうなっているかというのも心配しています。
また、いま私たちが運営している国保組合があり、その中でも労災の紛れ込みが非常に多いという報告があります。いま、建設現場の工期が短縮になって施工単価が下がり、重層下請になっています。それで怪我でもしたら仕事がなくなるという不安があり、ちょっとした怪我では労災申請しないという状況も報告されております。建設現場では一人親方も増えておりますし、一人親方労災の加入も増えていることもあり、現場での事故の懸念から、一人親方労災に入っているのではないかという報告もされているところです。
実は、日本医師会の「労災・自賠責委員会」という平成22年1月の報告があります。その中でも労災かくしの発生は、メリット制が1つの原因になっているのではないかという報告があります。私どもはそのことについても注目しております。そこでは制度の見直しや多くの提案もされておりますので、今後は是非、そうしたことも目配りしていただき、今後に活かしていただきたいという要望です。
もう1つのお願いは、労災かくしの送検件数の状況が、平成20年、21年はどういうようになっているのか、新しい資料が出ていれば個別でも結構ですから、その報告もしていただきたいというお願いです。
○岩村部会長 では労災管理課長、お願いします。
○労災管理課長 この労災かくしの問題については、私ども労災保険行政だけではなくて、労働基準行政全体として、非常に重要な問題だと認識しているところです。平成13年4月以降、「労災かくしは犯罪です」という標語で、私どもは強力な周知活動をしております。現在も「労災かくしは犯罪です」という、毎年同じ標語でやらせていただいております。
メリット制が労災かくしの1つの原因ではないか、というご指摘があることも承知しております。実は業界と申しますか、現場で誤解があると思うのは、特に軽い怪我や軽い病気の場合には、実際に計算してみると、保険料率が変わらない場合がほとんどなのです。私どももいろいろな相談を受けても、実は保険料がほとんど上がらないケースもかなりあるということです。したがってメリット制だけではなくて、公共工事の入札なども含めて、きちんと合理的な行動を取るように、私どもも今後も努力していきますし、今回のメリット制の改正においても発注者側と協力しながら、メリット制の周知だけではなくて、労災かくしをしてはいけないという労災かくし対策も併せて、強力に周知していきたいと考えているところです。
それから2点目です。監督指導を実施して、司法処分も含めて厳正に対処しておりますけれども、送検件数は平成20年が148件と、最近でのピークになっております。平成21年が102件、平成22年が97件となっております。若干、この内訳を申し上げます。平成20年の148件のうち、建設業が102件、製造業が12件、その他運送業です。平成21年の102件で申しますと、建設業が60件、製造業が23件です。平成22年の97件のうち、建設業が60件、製造業が15件となっています。年度ごとに数値のブレが大きいのですが、これは全体的にたまたまという点もあろうかと思います。製造業その他においても、かなりの労災かくしが発生しているという遺憾な状況ですので、取締りには万全を期したいと考えております。
○中窪委員 先ほどの激変緩和措置に戻ってしまうのですけれども、どうも「激変緩和」という言葉と保険料率の据置きというのが、何となくしっくりこないのです。かつ、1と2は趣旨が違うような気がしていたのです。参考1-2の3頁から4頁で、「労災保険率の設定に関する基本方針」ということで、4頁の下の(2)に「激変緩和措置等」と書いてあります。最初のパラグラフでは、著しく悪化した場合に激変緩和措置ということですが、産業構造の変化に伴って著しく悪化している場合は激変緩和措置そのものではなくて、「等」に入るのではないかという気がするのです。この辺の概念の整理はどうなっているのでしょうか。
○労災保険財政数理室長 一時的に急に悪化していく場合と、かつての石炭産業のように、もうすでにずっと収支が悪化という限度を超えてしまっているものがあります。参考1-3の詳細表をご覧いただくと、おわかりいただけるかと思います。激変緩和をしないと、率が1,000/1,000を超えてしまう状況になっております。こういった産業は、いま急に悪化したのではなくて、ここから普通の料率のレベルに下がるのはかなり難しいものと思います。こういったものは一挙に激変したものを緩和するというのとはちょっと違います。言葉の意味から言うと激変緩和ではなくて、委員がおっしゃるように、「等」の部分に入ってくるものと思います。
○中窪委員 そうすると、8頁の「激変緩和措置について」というのは、「激変緩和措置等について」と言うほうが正確だと理解してよろしいですか。
○労災保険財政数理室長 はい。
○岩村部会長 そのほかにいかがでしょうか。
○新谷委員 メリット制の改正について、要望を1点申し上げたいと思います。今回の改正によって新規適用事業場に対するメリット制の増減幅、確定保険料と請負金額の要件の不均衡の是正といったことについては、私どもとして第44回の持回りの審議のときに意見を付けたとおりで、今回の対応については妥当だと考えております。その上で、新たにメリット制を適用される事業場が増えるわけですので、新規適用事業場への周知・啓発について、十分な取組みをしていただきたいと思っております。メリット制の意義なり安全対策の重要性等々について、十分な周知をしていただくとともに、先ほど大江委員からもありましたように、労災かくしに対しては断固たる措置を取っていただくということについても、併せて要望申し上げておきたいと思います。
○岩村部会長 それでは、ご要望として承るということでよろしいですね。
○森下委員 参考1-7についてご質問したいと思います。最後の8頁です。メリット制の特定疾病に今回、「騒音性難聴」が新しく追加されることについて異論はありませんけれども、長時間大きな騒音の中で作業をされる業種というのは、建設業以外にも考えられると思うのです。事務局のお考えがあればお示しいただきたいと思います。
○労災保険財政数理室長 確かにご指摘のとおり、「騒音性難聴」はほかの業種でも見られますが、メリット制の特定疾病については、従来から日雇労働者とか、我々が「転々労働者」と呼んでいる、日雇いではないけれど短期間に似たような現場を渡り歩くような感じの労働者が多い業種で多発する疾病に限定的に適用しています。我々の手元にある統計では、「騒音性難聴」の発生件数の半分が建設業で発生しているので、今回は建設業ということで追加したいと考えています。
○岩村部会長 ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。本件については、冒頭にも申し上げたように諮問案件です。本日の議論の状況を踏まえて事務局で整理して、次回の部会でさらに審議させていただきたいと存じます。それでよろしいでしょうか。
(異議なし)
○岩村部会長 ありがとうございます。それでは次の議題に移ります。次は議題2、石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律の概要についてです。まず、事務局からご説明いただきたいと思います。
○労災管理課長 資料2をご覧ください。資料2で石綿救済法の改正についてまとめております。この石綿救済法は、平成18年に制定された法律ですが、前回、議員立法によって改正されたという経緯もあり、今回も先の通常国会の終盤に、議員立法によって改正されたのでご報告申し上げます。平成23年8月30日に公布・施行されました。
改正の内容ですが、1点目は支給対象の拡大です。アスベスト由来の指定疾病にかかった場合に、何が原因かなかなか分かりにくかったので、事故救済をして遺族補償給付を支払うという制度ですけれども、平成18年の法律制定ということで、この対象が平成18年の法律制定前までに死亡した労働者等の遺族が対象になっていたのです。これについて新たに、平成28年3月26日までに死亡した方も対象とするという拡大がなされたわけです。
2点目は請求期限です。これも来年3月27日で切れるということでしたが、10年延長して、平成34年3月27日までとしたということです。併せて環境省所管部分も10年延長し、改正法施行後5年以内の見直し規定も設けられました。
○岩村部会長 ただいまご説明いただいた、石綿による健康被害の救済に関する法律の一部を改正する法律の概要について、ご意見あるいはご質問がありましたらお願いしたいと思います。
○新谷委員 今回の改正の救済法については、支給対象の拡大や請求期限の延長等々、隙間のない救済という面では評価したいと思います。今回の改正内容についても、積極的に周知をお願いしたいところです。
1点質問したいのは、この石綿救済法については、まだ残された課題があると考えております。他の隙間の問題や指定疾病の拡大についてどう考えるか、給付水準の引上げについてどう考えるか等々の課題があろうかと思います。これらの課題について、事務局として今どのようにお考えになっているか、お聞かせいただきたいと思っております。
○労災管理課長 石綿救済法については、環境省所管部分と私ども労災の事故救済の部分とで、非常に給付額の格差があります。労働者であった者が一定の給付を受ける一方、環境省所管部分の労働者以外ということになると、非常に給付が低くなる。特に一人親方であった者については、労災保険ではなくて環境省所管部分ということで、給付が低いことが従来から指摘されていると承知しています。これは法律の制定の段階で、もともとの事業主の責任と切り離した救済法という形でつくったという大本の経緯があり、環境省の審議会の検討でも、かなり法律の基本論に触れるということで、今回はなかなか改正までいかなかったというように承知しています。労災の場合、指定疾病という問題については、基本的に因果関係があれば認めるということですが、それも環境省所管部分については、一定程度指定されていない部分があります。いずれにしても、これについては環境省と連携を取りながら、今後どうするかについては引き続き検討してまいりたいと考えているところです。
○岩村部会長 そのほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
(異議なし)
○岩村部会長 ありがとうございます。それでは議題3、「平成23年度第2次及び第3次補正予算並びに平成24年度労働保険特別会計労災勘定概算要求等(震災対策の実施状)について」です。まず、事務局から説明をいただきたいと思います。
○労災管理課長 一連の予算要求、補正予算その他について、資料3にまとめております。資料3-1に予算要求の概要が書いてあります。これは保険料の引下げを織り込んでいないその前の段階ですので、その点では今後の12月の最終的な予算決定の過程に向けて、若干マクロの数字が変わってくるということだけは、ご了承いただきたいと思っております。大枠で申しますと、基本的に災害防止努力の結果を反映して、歳入・歳出ともに減少ということですけれども、未払賃金の立替払事業の増加などで一部社会復帰促進等事業については、前年よりも増えています。
資料3-2には、労災保険の経済概況が書いてあります。ここでは決算上の収支をご覧いただきたいわけです。平成21年度から決算上の収支がマイナスに転じています。これは平成21年度の労災の料率改定において、積立金はもう積み上がったということと、年金受給者がピークを超えて減少に転じているというこの2つから、現在、積立金の取崩し段階に入って、平成22年度も23年度も決算上の収支はマイナス、積立金を取り崩していく過程に入っているということです。
資料3-3が三次補正予算です。ここでは労災そのものというよりも、原発作業従事者に対する健康管理関係の予算、その他について予算要求をしています。細かなことについては、後ほど資料をご覧いただきたいと思います。
資料3-4では、東日本大震災における労災保険給付の状況についてまとめておりますので、ご報告申し上げます。全国の請求件数は12月1日現在、3,386件ですが、うち遺族補償給付が1,981件ということで、約2,000件弱になっています。支給決定は通常よりも早いスピードでやっており、かなりの割合をすでに決定しているということです。やはり宮城局の遺族給付が1,000件を超えているという状況です。ついで岩手、福島となっています。これについては漏れがないように、引き続き周知・広報に努めたいと考えているところです。
○岩村部会長 ただいまご説明いただいた概算要求関係、あるいは補正予算関係について、ご意見やご質問等はありますか。よろしいでしょうか。
(異議なし)
○岩村部会長 ありがとうございます。次が議題4、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書について」です。これについても資料が用意されておりますので、事務局から説明をいただきたいと思います。
○補償課長 資料4と参考4-1をご覧ください。まず、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書が先般取りまとめられましたので、ご報告いたします。資料4は概要であり、参考4-1は報告書です。
この概要の中にも記載していますが、精神障害の労災請求は、平成10年度の42件から昨年度は1,181件と大幅に増加していて、事案の審査には平均8.6カ月を要している状況です。このため、厚生労働省では昨年10月から都立松沢病院院長の岡崎祐士先生を座長とする精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会を開催して、審査の迅速化に向けた検討を行ってまいりました。また、セクシュアルハラスメント事案については、被害者の労災請求が困難となる場合が多いなど、他の請求事案とは異なる特有の事情がありますので、本年2月に専門検討会の下に分科会を設置して検討を行い、その検討結果は6月に取りまとめられ、この専門検討会に報告されています。この専門検討会では10回にわたってご議論いただきまして、去る11月8日に報告書が取りまとめられました。
次に、報告書のポイントについてご説明します。報告書は大きく2本の柱で構成されていて、1つは業務による心理的負荷の評価方法の改善であり、もう1つは審査方法の改善についてです。初めに、業務による心理的負荷の評価方法の改善についてご説明します。大きな特徴としては、報告書では業務による心理的負荷の強さを判断するための、新たな心理的負荷評価表が示されています。参考4-1の31頁をご覧ください。「業務による心理的負荷評価表」という項目です。実は今日の資料には付けていませんが、現在の判断指針は業務による心理的負荷の強さを評価するに当たりまして、2つの表を使っています。個々の具体的出来事について評価を行う表と、具体的な出来事後の状況について評価を行う表に分かれていて、その上で総合評価をすることになっていますが、新たな評価表ではこれを1つにまとめ、一括して評価することにしています。次の頁を含めてご覧ください。
全体の構成は31頁にあるように、まず「特別な出来事」を特出しして、そこに該当しない個々の出来事については32頁以降に出来事ごとに、どのような場合に強い心理的負荷と判断されるのかなどについて具体的な例を記載し、わかりやすいものとなるように工夫されています。また、個々の出来事を評価する際の総合評価における共通事項を31頁の特別な出来事の下に記載していますが、これを特別な出来事とそれ以降の出来事との間に明記して、共通の観点をここで確認しています。これが大きな特徴の第1点です。
第2点は、長時間労働の心理的負荷の評価について明記したことです。この特別な出来事の中の下の欄「極度の長時間労働」としていますが、この極度の長時間労働を特別な出来事として特記して、1カ月160時間、3週間120時間と明記しました。これまでは、長時間労働を心理的負荷の評価の対象となる出来事として評価をしてきていませんでしたが、この160時間、120時間以下の時間外労働については、今回の報告書は長時間労働それ自体を出来事として、36頁の評価表の項目16に盛り込みまして、強い心理的負荷と判断される時間数を具体的に明記しています。いちばん右側の「強」をご覧いただくと、連続した2カ月で120時間、連続した3カ月で100時間と明記しています。先ほど申し上げた31頁の総合評価における共通事項をご覧いただくと、労働時間以外の具体的出来事と長時間労働を組み合わせて、総合評価をするに当たっての評価方法を2に記載しています。具体的には、出来事が「中」程度の場合の前もしくは後に、月100時間程度の時間外労働を行っている場合や、「弱」程度の出来事の前後に月100時間程度の時間外労働を行っている場合には、強い心理的負荷と判断すると明記しております。
労働時間についてまとめると、1点目は特別な出来事として特記していること。2点目は項目16で記載されているように、具体的な出来事として今回新たに追加したこと。3点目は総合評価における共通事項で、認定の仕方をまとめたこと。この3つで評価する形で言及したことが大きな特徴と言えると思っています。これら評価表の見直しのほか、報告書の10頁の(5)にありますが、出来事が複数発生している場合。例えば、「中」の出来事が複数あるときには、それらの出来事の近接の程度、出来事の数、その内容等によって総合評価を強又は中と判断する等の評価方法を示しております。また、評価期間についても現行では発病前6カ月を原則としていますが、新しい報告書においても発病前6カ月の評価というのを原則としつつも、セクシュアルハラスメントやいじめなどが発病前、おおむね6カ月以前から続いている場合には、その開始時からの行為を一体として評価することなどを示しています。これが評価表の新しい1つの柱です。
次に、もう1本の柱の審査方法の改善についてご説明します。まず専門家のご意見の徴取ですが、現在の判断指針では業務上外の判断に当たりまして、すべての事案を3名の精神科医から成る専門部会に協議をした上で判断する形を取っています。この点について、報告書は専門家の意見の徴取に時間がかかるという点もありまして、59頁に示しているように専門医との協議の対象をいちばん右に????と書いてありますが、例えば自殺事案で治療歴がない事案なり、心理的負荷が強いかどうかがはっきりしない事案など、判断が難しい事案に限定して、それ以外の事案についてはいちばん左にある主治医単独でもいいものと、その上で専門医の意見も併せて徴取する3種類を提示していて、事案に応じた審査の迅速化を提言しています。さらに、セクシュアルハラスメント事案にかかる分科会報告書を23頁以降に添付していますが、この内容はこの報告書の中にすべて組み込んでいますし、特に運用に関して窓口での相談における懇切丁寧な対応や被害者からの聴取についての職員研修の充実、専門的知識を有する者の育成、配置等が提言されていて、厚生労働省では聴取に当たる専門職員の配置と研修等のための予算要求を現在行っています。
厚生労働省としては、この報告書を受け、新たな認定基準の策定作業を現在行っていますが、現在パブリックコメントの実施中で、これらの手続を行った上で可能な限り、早期に認定基準を公表したいと考えています。これにより、審査期間の短縮が図られるのみならず、どのような場合に労災認定がなされるのかがわかりやすくなることを通じて、業務により精神障害を発病した労働者の方から労災請求が行われやすくなり、認定の促進が図られるものと期待しています。私からは以上です。
○岩村部会長 ありがとうございました。ただいまご説明いただいた精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会の報告書について、ご意見あるいはご質問等がありましたらお願いしたいと思います。
○立川委員 2点ほど事務局のお考えを伺いたい点があります。1点は、いま事務局から説明がありました160時間の関係の件ですが、今回の専門委員会の検討結果として示されている数値は、特別な出来事として極度の労働時間ということで、発生前の1カ月においておおむね160時間という数値が出てきています。今回の報告書は、臨床経験上ということで160時間を定義したという報告になっていますが、それ以外に労働安全衛生法で出す同規則、ないしは厚生労働省の通達にある長時間労働の定義に80時間という定義がある。160時間というのは、その倍であるという点。それから、精神障害の労災認定の基準に関する専門委員会がありまして、その中の資料によると平成21年の労災認定の関係の中で、100時間を超える労働時間があった場合に、労災の発生件数がそれ以下の時間の倍とは言いませんが、かなり増える状況があるようなことがあります。
それから、厚生労働省のほうで出されているパンフレットの中に、脳・心臓疾患の労災認定のパンフレットがあります。この中には発生前1カ月の労働時間が100時間を超えるものについては、その関連性が労働時間の評価の目安として非常に強いという項目があります。そうすると、先ほどお話がありました80時間を超えるという基準が、それと少し合っていないのではないかということが言えるのではないかということです。そういう面では論議の必要があるのではないかと考えていて、これまでの運用ないしは基準と、今回の数値基準の整合性が取れていないのではないかという危惧を持つ次第です。この点に関して、事務局の考えをお伺いしたいのが第1点目です。
第2点目は労働時間とは直接関係ないですが、労災の立証責任の問題についてです。基本的にこの立証責任については、被災者本人ないしは遺族の立証責任を負うことになるわけですが、会社側に資料請求をしても会社が逃れたいという面で出てこない面が多々ありますし、審査会等の再審査請求においても、労災認定が会社側の強い力によって下りない状況もあります。そういう面では、請求人の立証責任というよりは逆に会社側に立証責任を負わせることはできないのでしょうかということで、転換する必要はないかなという考えがありますが、いかがでしょうか。
○補償課長 いろいろな観点でのご質問ですが、1点目の精神障害の労災認定の形は先ほど申しましたが、いままでは労働時間の具体的な数字というのは明記していないわけです。脳・心臓疾患等の話でもありましたが、確かに100時間なり80時間というのは脳血管疾患、心疾患については血管病変を増悪させる1つの大きな要因になっているということで、医学的知見がそれなりにあります。ところが、精神疾患についてはどれぐらいの労働時間があれば、どのような症状が出てくるかという現時点での医学的知見がなくて、とはいえこのまま放置しておいていいわけではありませんので、委員がおっしゃいましたように検討会でのこの労災認定について、非常に見識の高い先生方ですので、臨床経験に基づいて労働時間が160時間、3週間で120時間という話になっていますが、それぐらいで精神障害を発病された方にはほかの出来事がなくても、それで単独で認めようというのが1つ。今回新たに明示したように、2カ月で120時間、3カ月で100時間という連続した長時間労働が続いていた場合には、相当精神状況を悪化させる要因になるだろうというのが1つ。それを「強」と見て、それが通常の労働時間として必要な業務量としてその人に割り当てられたものであれば、それを業務上のものとして判断してもいいだろうという形で出されたということです。話が長くなりましたが、いずれにしても論文を含めて現在明確な医学的知見がない中で、認定基準を設定するに当たって、我々としては現実に臨床経験に基づいた医学的意見を参考にして設定したということです。
2点目の立証責任の問題については、実際には精神でも脳・心疾患でもそうですが、労災請求が出てきた場合には可能な限り請求人の方から資料を出してもらいますが、それ以上関係資料の提出ができない状況にありましたら、監督署の職員が現場の事業場へ行って資料の収集を行っています。立証責任の問題は法律上の問題なのでここで私が申し上げることではないですが、可能な限り現場のほうは足を運んで、もしくは事業場の人を呼び出して処理していることは間違いないので、その点については現場を信頼していただきたいと思っています。
○岩村部会長 立川委員、よろしいですか。ほかにいかがですか。
○新谷委員 一部関連しますが、今回の報告書について精神障害の労災申請が増えてきている中で、こういう基準、新しい評価表を示していただいたり、審査期間がいま8.6カ月かかっていることを6カ月に短縮する目標を掲げておられる等々、一定の評価をしたいと思います。ただ、いまも話題になりましたように労働時間が今回認定基準として示されたわけですが、先ほどの脳・心臓疾患の評価に関する労働時間というのが一方であって、今回も160時間という極度の長時間労働という数字が出てきたわけで、世の中に出て行ったときに数値が独り歩きするおそれがあるのではないかと思います。例えば、いままで80時間だった長時間労働における1ヶ月間の時間外・休日労働時間が160時間まで大丈夫ではないかと、労務管理をされる人事労務担当者に変な誤解を与えたり、被災労働者のご家族に対して申請をためらわせたりとかとならないように、一体的に今回の改正、この報告書の内容が伝わるように、きちんとした説明をしていただきたいと考えます。勘違いをされないように是非やっていただきたいのが1つです。
もう1つは、この認定基準を今後運用するに当たって、全国47労働局で最終頁にあったようなスキームの中で認定作業がされると思いますが、これも数値が独り歩きをするのではなくて、労災の認定に当たっては総合的な判断がされるべきだと思いますので、すべての関係者において数値偏重とならないように、是非この辺も研修なり情報の横通しといったところで、行政としての努力をお願いしたいと思っています。以上です。
○補償課長 いまおっしゃいましたように、確かにこの160時間だけが独り歩きするのではなくて、この160時間というのはこれだけで、ほかのことを何も考えなくてもよいということです。労災の考え方は基本的には何かというと、もともと出来事主義を取っている。例えば転勤でもいじめでも何でもいいです。何か出来事があって、その上で仕事が増えて長時間労働になって発病されたというのを大前提にしていますが、いちばん最初の「特別な出来事」というのは、ほかのことは何も考えなくていい。出来事後のことも何も考えない。そのこと自体で、そういう意味では一発認定の数字として出ているのであって、それは決して160時間が良いとか悪いという話ではない。それだけは厳密に我々は周知していかないといけないと思っていますし、ほとんどの認定事例は転勤でも何でもいいですが、そういう出来事があって、その上で長時間労働が進んでいるのが通常であって、労働時間というのはあくまでも出来事との関連で判断する形です。それが共通事項の2の中に書いているところで、この点についてもしっかり指導をしていきたいと思います。
2点目にご質問のありました研修の問題ですが、認定基準は可能な限り早く出すつもりでいますが、2月に労災認定をお願いしている地方の精神科の専門医を集めて、この報告書と認定基準について研修を実施することにしていますので、その中でいまの労働時間の問題を含めて、徹底してまいりたいと思っています。
○岩村部会長 よろしいですか。ほかにはいかがですか。
○明石委員 これは社会的な環境変化みたいなところも大きく影響すると思いますが、心理的負荷評価表を大体どのくらいの期間で見直す方向にあるのでしょうか。
○補償課長 そういう意味では最新の医学的知見なりが出てくれば当然見直すことになりますが、定期的に5年とか10年とかで見直す形は考えていません。
○明石委員 ICD-10の見直しが10年に一度あると思うので、それも含めてですね。
○補償課長 ICD-10の話も検討会でも出ましたが、もちろんその点で大きく変更があれば1つの検討材料にはなろうかと思いますが、現時点ではそこの点は考えていません。
○伊丹委員 十分に理解できていないのかもしれませんが、業務外の心理的負荷がある場合との関連について、明確に業務以外であればそれで整理されるということですが、実態的にはかなり複合的で、それを会社側が知っていたか知らなかったかみたいなところも結構議論になると思いますが、この辺については何か議論というか整理はされなかったのでしょうか。
○補償課長 会社側が、その方が例えば業務外の理由で、何らかのストレスを抱えていることを知っているか、知らないかということですが、業務上外の判断に当たっては、知っているか知らないかについての評価はしません。
○伊丹委員 それは知らなくていいということでしょうか。
○補償課長 知らなくていいこととはまた別です。これは仕事によるかどうかという話なので、例えば我々が調査するのは、請求が行われたときに、どのような具体的な出来事があって、どのような就労実態だというのが前提としてあるわけです。その一方で、その方が業務以外の心理的負荷なり個体側要因がありますが、その点があったかどうかを調べた上で業務上か業務外かを判断するのであって、その上に会社が知っていた上でやっていたかどうかという部分は、もちろん具体的に知っていたということになると全く影響がないかどうかは事例に即さないと言えないですが、基本は業務上の負荷があったかどうかだけで判断をすることになりますので、そういう形での評価認定という作業になります。
○伊丹委員 その意味でもう1つ。同じことですが、いま東日本大震災で被災した事業場では心理的にかなり不安定になっている方が多く見られます。そういう方々については、いま人事的にもかなり配慮しながら対応しています。かれらは明確に発病しているわけではなくてもこうした状況にあることを会社はわかっています。また、周囲もわかっているわけです。そういったときの対応の仕方については、何かあったときに労災かどうかの判断につながるように思います。いずれは事例も出てくるとは思いますが、大きな論点になるのではないかと思いましたので、ご質問させていただきました。
○補償課長 いまのお話で、現実にそういう事例もあることはあるので、先ほどもございましたが、それはあくまでも。それは発病されておられるのかどうか、どのような。
○伊丹委員 いま、専門家の産業医が毎月面談しに行っている状況なので、一人ひとりについては明確には聞けませんが、予備軍のような状況だと思います。
○岩村部会長 それについては報告書の5頁のウで、既に発病している疾病の悪化の業務起因性という形で、報告書の中でも議論はされているのではないですか。
○補償課長 ご質問されておられるのは、現在まだ発病しておられない方についてかと。
○岩村部会長 発病していないと微妙ですが。
○補償課長 例えばこの5頁の中にありますが、業務以外の要因で発病して治療しておられる方に、何らかの業務上の負荷がかかってという事案については、ここに書いてあるとおり特別な出来事の場合、通常我々が前提にするような1つのストレスに対する反応が、治療中の方とそうでない方とは違いますので、業務上外の判断をする場合にはなかなか難しいのですが、誰がその場面に遭遇しても、発病に足るストレスだという評価ができる特別な出来事に該当したものは、業務上として認めていきましょうというところです。まだ発病されていない方については、これには該当しませんので個別に見ていくしかないと思います。
○伊丹委員 そういう意味では、まだグレーな部分があるという認識でよいのでしょうか。
○岩村部会長 発病されていない方でも、いまおっしゃったような例の場合ですと、そもそも業務の性格の基準をどこに置くかという問題も絡んだりします。ただ、補償課長が説明されたように、使用者が知っているか知らないかというのは、基本的には業務起因性の判断には関わってはこないので、そういう理解でよろしいかと思います。ただ、知っていた場合に使用者が何か怠ったということになると、労災とは別途に損害賠償が来る可能性があるので、そこはまた別に考える必要があるということに一般論としてはなろうかと思います。
○田中委員 審議の迅速化についてお尋ねします。今回審議の方法が3ルートに分けられましたが、いちばん簡便なルートとして、被災をされた方にいちばん近い位置づけである主治医が認定されてその結果が、労基のご担当の方が認知した事実と合致した場合は、そのまま労災認定につなげますというルートを設けられたということですが、精神障害の場合はこのルートで判断するケースというのは少ないのではないでしょうか。むしろ主治医と産業医の見解に相違があったり、3人の専門家の先生に見ていただいても、3人の先生の見解が揃うケースがそんなには多くないと伺ったことがあります。?のルートもありますが、?のルートを作ったことによって審議の迅速化が本当に進むのかというのを疑問を感じました。迅速化は被災された労働者も、会社側にとっても非常に大事なポイントだと思います。いま現在取り扱われている申請の中で、?を設けることによって、かなり早く救済されるだろうと思われる割合というのはどのぐらいあるか教えてください。?についてもお願いします。
○補償課長 一応、?のルートは明確に業務上として救済するというもので、大体2割ぐらいかなと思っています。?の専門医を含めて相談するというか意見を求めるというのは、大体3割ぐらい。結局、いちばん右側の従来の形を採るのが5割と考えていますが、実はこの移行に当たって、どこまでそれがスムーズにできるのかがわからないので、正直なところ、最初のうちは少しずつ現在の専門医による協議というのを前提に置きつつ、移行できるものは各局の積み重ねによって、いまの1なり2に移行していこうというソフトランディングな形を考えています。これによって、6カ月以内を目標としてやっていきたいということです。
○職業病認定対策室長 いま、請求された件数に対して業務上と認められるのは、大体30%ぐらいです。今回、基準が明白になったことで先程も議論がいろいろ出ていましたが、従来であれば160時間の超勤をやっていたとしても、すべて基本は部会に協議していろいろな角度から検討することをやっていましたが、今後は160時間の超過勤務があれば基準は明白ですので、すぐに1のルートで業務上と判断するものがどんどん増えていくだろうと思っています。ですから、これまでの全体の30%が業務上だったという中で、最初のうちは全体のうちの2割ぐらいかなと思っていますが、これがはっきりして基準が明白になったということも含めて考えていくと、今後?というか、専門の先生に相談しなくても判断できるものがどんどん増えていくというふうに期待をしています。先ほど申し上げた2割ぐらいというのは、当初そのくらいでスタートして、これがどんどん増えていくようなことで、どんどん短縮が図られるのではないかと我々としては考えています。
○田中委員 個人的には?のルートをきちんと設計するのが大事だと思っています。なぜならば、精神障害の場合はどうしても当事者の主観的な要素が入りがちかと思いますので、第三者の意見を聞くことによって、お互いに確認をしていくというステップが必要だと思います。いまご説明のあった?のルートは、どちらかというと明確に認定対象ではないと思われるような申請を初期段階で早く結論を出すというルートだということがわかりました。これ一発で駄目ですよと伝えるということですね。また、今回設けられたような労働時間の問題等は関係が明確ですが、それ以外の場合、会社の立証責任というご発言がさきほどありましたが、会社もよくわからないということが多いのではないでしょうか。関係はあるかもしれないけれども、ほかの要素があるかどうかわからないし、それらの影響がどれほどの強さだったかがわからないというのが本音だと思います。なので、第三者という立場で見解をきちんと出せる方を育成していただくことが必要です。3人の専門家に集まっていただくには時間の制限、人の調整、件数の多さ、専門家として登録されている医師の数とかいろいろあるように伺っていますので、やはり、?のルートを是非きちんと育成していただきたいと思います。?のルートで第三者の立場から判断をしていただくことが可能になれば迅速化がはかられる。迅速化はこのルートにかかってくるのではないかなという意見を持っていますので、述べさせていただきました。
○岩村部会長 ありがとうございます。時間の関係もありますので、この議題についてはこの辺でと思いますが、よろしいですか。ありがとうございます。
議題5「社会保障・税に関わる番号制度について」です。これについても資料が用意されていますので、まず資料の説明をいただきたいと思います。よろしくお願いします。
○労災管理課長 いちばん最後の頁の資料5です。社会保障・税に関わる番号制度については、政府全体で検討が進められています。もともと給付、行政サービスにどのように使うかという考え方でしたが、労災保険制度においても、よりきめ細やかな社会保障給付の実現に資すると考えていて、この新たな番号制度の活用を検討しています。具体的には、次の頁の労災年金と厚生年金等の併給調整です。現状で申し上げますと、本人が年金事務所も含めてさまざまな手続をしていただいて、然る後に監督署の手続をしているということですが、番号制度の活用によりまして厚生年金等との関係は行政内部のやり取りによって行って、ご本人との関係では簡易に単に申請をして給付する形に整理できるのではないかと考えています。これについては、可能な限り早期に法案を国会に提出するとしていますが、その中で労災保険の給付についても活用するものとして法案に盛り込み、システムその他の対応も必要ですから施行は一定程度先にはなりますが、利便性の拡大に努めてまいりたいと思っております。以上です。
○岩村部会長 ありがとうございます。ただいまのご説明について、ご意見あるいはご質問等はありますか。よろしいですか。
その他は特にありませんか。ほかにご意見がないようでしたら、これをもちまして本日の部会は終了したいと思います。最後に、本日の議事録の署名委員ですが、労働者代表は立川委員に、使用者代表は田中委員にそれぞれお願いをいたします。
それでは、これで終了とします。本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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