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2011年10月31日 第5回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録
医政局総務課医療安全推進室
○日時
平成23年10月31日(月)
○場所
省議室
○出席者
会議メンバー(五十音順)
今田健太郎 (広島弁護士会仲裁センター代表) |
植木哲 (医事紛争研究会会長) |
小野寺信一 (仙台弁護士会紛争解決支援センター代表) |
北川和郎 (総合紛争解決センター代表) |
児玉安司 (第二東京弁護士会代表) |
小松満 (茨城県医療問題中立処理委員会代表) |
小山信彌 (日本病院団体協議会代表) |
佐々木孝子 (患者代表) |
鈴木利廣 (東京弁護士会代表) |
田口光伸 (愛媛弁護士会代表) |
中村芳彦 (法政大学大学院法務研究科教授) |
西内岳 (第一東京弁護士会代表) |
橋場弘之 (札幌弁護士会紛争解決センター運営委員会委員長) |
前田津紀夫 (全国有床診療所連絡協議会代表) |
増田卓司 (愛知県弁護士会紛争解決センター代表) |
水田美由紀 (岡山弁護士会医療仲裁センター岡山代表) |
宮脇正和 (医療過誤原告の会代表) |
山本和彦 (一橋大学大学院法学研究科教授) |
和田仁孝 (早稲田大学大学院法務研究科教授) |
渡部晃 (日本弁護士連合会代表) |
オブザーバー
岡崎克彦 (最高裁判所事務総局民事第二課長) |
厚生労働省
大谷泰夫 (医政局長) |
池永敏康 (医政局総務課長) |
木村博承 (大臣官房総務課参事官(医療安全担当)) |
宮本哲也 (医政局総務課医療安全推進室長) |
○議題
1 医療裁判外紛争解決(ADR)機関の取組等の紹介及び意見交換
2 その他
○配布資料
資料1 | 第4回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録 |
資料2-1 | 「新・東京三会方式医療ADR 」の特徴の概要(西内構成員提出資料) |
資料2-2 | 有床診療所とADR(前田構成員提出資料) |
資料2-3 | 医療ADRの発展を願って(宮脇構成員提出資料) |
参考資料 | 医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会について |
○議事
○医療安全推進室長
それでは定刻になりましたので、ただいまから第5回医療裁判外紛争解決機関調整会議を開催させていただきます。本日はお忙しい中、当会議にご出席いただきましてまことにありがとうございます。出欠ですが、徳田構成員、山田構成員からご欠席とのご連絡をいただいています。また小野寺構成員ですが、ご出席の予定ですが、到着が遅れるとの連絡をいただいています。それでは以降の進行について山本座長、よろしくお願いします。
○山本座長
本日は、お忙しいなかをお集まりいただきましてありがとうございます。それでは会議に先立ち本日の資料について、事務局のほうから確認をお願いします。
○医療安全室長
それではお手元の配付資料の確認をさせていただきます。本日の議事次第、資料1として「第4回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録」、資料2-1「『新・東京三会方式医療ADR』の特徴の概要」、資料2-2「有床診療所と医療ADR」、資料2-3「医療ADRの発展を願って」参考資料として「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会について」、以上でございます。不都合等あればお知らせください。また資料1の第4回議事録については、既に皆様のご確認をいただいておりまして、厚生労働省のホームページに掲載しておりますが、何かございましたらお知らせください。
○山本座長
参考資料がありません。
○医療安全室長
申し訳ありません、確認いたしまして対応いたします。
○山本座長
それではあとで配付をいただくということで、よろしいでしょうか。前回の会議では、愛媛弁護士会紛争解決センターにおける医療ADRの取組状況、それから医療仲裁センター岡山の取組状況、病院団体協議会における「医療裁判外紛争解決(ADR)機関」に関するアンケート調査結果という点についてご紹介をいただいて、最後に意見交換を行いました。お手元の資料1の議事録に、その内容がまとめられています。今回も前回に引き続きまして、各構成員の方々から取組状況等についてのご紹介をいただくということになっていました。今回は、まず西内構成員から東京三弁護士会における医療ADRの新たな取組についてお話をいただき、そのあと前田構成員から有床診療所と医療ADRについて、宮脇構成員から医療ADRに対するご意見などについてお話をお伺いし、最後に資料はありませんけれども患者代表ということで佐々木構成員からお話をいただき、そのあとまとめた形でご質問あるいは意見交換を行いますので、ご協力のほどをよろしくお願いします。よろしゅうございましょうか。それでは各構成員の方々からのご報告ということで、まず西内先生のほうから「新・東京三会方式医療ADR」の特徴の概要についてお願いします。よろしくお願いします。
○西内構成員
只今ご紹介いただきました第一東京弁護士会の西内です。まず最初に資料2-1とそこに添付されております大小2つのパンフレットに基づいてご報告致します。
まず東京三会方式の医療ADR、これについてはこの会議の第1回目、平成22年3月26日会議においてその概要とその時点における現状等を発表しました。そのとき既に実は東京三弁護士会医療ADRについて検証作業を進めておりました。つまり平成21年3月から平成23年6月にかけて、東京三会合同でプロジェクトチームを設置しました。そのプロジェクトチームにおいて、いま申しましたそれまでの申立事例の検証作業と、その検証を踏まえた改善検討作業を行なっておりました。そして、それらの検証の結果及びこの会議で構成員のご意見もいただき、それらをも踏まえた上で、今回、東京三会医療ADRについて、従前の基本的な方式、制度設計、趣旨等々は、そのまま維持しながらも、その手続等の重要な一部を改定しました。その改定部分の概要について本日簡単に発表いたします。以下今回発表する新しい改定後のものを「新・東京三会方式」と略称します。
お手元資料の2-1の「新・東京三会方式医療ADR」の特徴の概要に従って発表させて頂きます。
まず特徴その1として、基本的な制度設計とあっせん人の構成、これについては従前どおりのものを維持しております。この点については何ら変更はありません。お手元資料の末尾に添付の図表1~3までに記載しております。従前どおりですので、ここは省略します。
特徴-その2の「申立が可能な事項」についてですが、もちろん医療ADRというのはその設置目的あるいは存在目的として、医療事故をめぐる紛争の(金銭的な)解決を図るのがメインの目的であることは間違いありません。それは今後とも変わることはなく主たる目的であり、新・東京三会方式についてもそれは変わりません。ただそれと併せてお手元資料の末尾図表4ですが、まず患者・家族側からの申立の例として、あるいは目的としてもちろん従前どおり医療事故をめぐる金銭的解決というものがあります。もう1つの診療経過や死亡などに関する説明、つまり金銭的解決は必ずしも目的ではない、あるいはそれを求めるものではなくて、まだ必ずしも十分な説明を受けてない、あるいはもっと説明をして欲しいということのみを目的とする申立、これももちろん申立可能な事項であることを明確にしました。それからもう1つは、他方医師・医療機関側からも第三者であるあっせん人が立ち合う形での医療行為などに関する説明を行うことを目的としたり、あるいは患者・家族との医療をめぐる関係の調整などを目的として申立てることも可能であることも明確にいたしました。このことは今日配付の手元資料のこの大きい方のパンフレット、我々これを大パンフと呼んでいますが、これはQ&A方式で「新・東京三会方式」のご案内をしていますが、これのQ9とQ12に記載をしています。
続いて特徴その3の進行手続についてです。これも手元資料末尾の図表5に記載しておきました。進行手続きについては原則としてステップ1とステップ2を2つの手続に明確に分ける。それからステップ1からステップ2に移行するについては、両当事者の了解(同意)を求めるということを明確にしました。図表5で申しますと、1が「両当事者の対話の促進とそれによる相互理解」に向けて話合いの交通整理を行う。交通整理というのはつまり、あっせん人側から見た用語ですが、これを「ステップ1」とします。ここでは法的な論点に限定することなく様々な要望を双方から幅広く取り上げて、対話の促進を図っていきたいという場です。
次に、それにより両当事者間に解決に向けた機運が生まれれば、2の「両当事者の了解(同意)」の下に、次の3の「具体的な解決に向けた合意形成のための調整」の「ステップ2」に移っていく。この手続を1から2を経て3に移行できることを明確化しました。これは何を目的としているかというと、従前のそのステップ1とステップ2の2つの手続の区別と3のステップ2にいくための両当事者の同意という運用方法を明確にしておりませんでした。私どものADR機関としてはある程度意識はしていたつもりですが、必ずしも明確にしていませんでした。それに対して、特に医師・医療機関側からの「説明だけを行いたいと思ってADRに(応諾して)出席しても、結局は何がしかの金銭の支払いを余儀なくされてしまう(ので軽々に応ずることはできない)」という不安とか不満とか、あるいは戸惑いの声が少なからず聞かれたものですから、ADRを利用される方の、つまりADRの主催者ではなくて、それを利用される方の目から見たらどうなのかということを考えました。
その不安とか戸迷いあるいは不満等々に対して明確にしないままに応諾してくれ、出席してくれ、説明してくれと言っても、それはご不安、戸迷いを解消できないであろう、それはそうだろうと思います。そこでいま申しましたように、3つの手続すなわち「ステップ1」と「ステップ2」、そして「ステップ2」に移るについての要件を明確にすることによって、ADRの審理における透明性と中立性、公正性というものを実体面だけではなく手続面においても明確に担保する、そのことによって相手側が安心と信頼の下にADRに応じて出席できるようにして、もってADRにおける対話と相互理解の促進を、より一層図ろうということを目的としております。
もちろん従前もADRを主催するあるいは実行する側としては、もちろん実体的には中立・公正にやっているつもりではありましたし、ただそれを利用者から見たときにどうなのかというところを、手続面でも明確にしてそれを見える形にしました。それによって、どちらが申立人になるかはわかりませんが、申立てられた相手方も手続がこういう形になっていることを明確にすることによりその手続を担保することによって安心あるいは信頼してADRに出てきていただける。その上で、いつでも終了もできますよということも明確にいしていくということも目的とした改定です。以上の点は、先ほどの大パンフと呼んでいますが、そのQ7、Q10、Q14に記載しています。
以上のように、新・東京三会方式は(進行)手続においても透明性と中立性・公正性の担保を図ったということ、それからもう1つは医療をめぐる様々な紛争や関係の調整などを目的として医療ADRを幅広く患者側さんだけでなくて医師・医療機関も含め双方から幅広く利用していただく制度にしてウィングを広げたということを新・東京三会方式では明確にしました。そのことによって、これまでの患者側と医療側とか、あるいは医療界と法曹界の対立(感情)の構図を少しでも緩和するとともに、より一層の対話と相互理解の促進、延いてはADRの利用の促進を図っていくことを目的としたものです。
この大パンフの最後のページに3つほど、実際にあった事例をご紹介しています。もちろん個人情報とかプライバシー上の関係がございますから、かなり簡略化するとともに、モディファイはしていますが、この3つの事例で1番上は丁寧な説明のみで解決した事例、これは患者ご遺族からの医療ADRの申立でした。病院側がそれに応諾してカルテの記載を中心に詳細な説明書を作成して提出した。患者遺族はこの説明書を検討し診療経過に納得できたため申立を取り下げ、ADR手続はそこで終了となったものです。
それから2つ目、これも患者側からの謝罪と補償を求めての医療ADRの申立でした。病院側に詳しい説明を求めたところ、病院側が丁寧な説明を行なったことによって信頼関係が回復した。そのことによって3回目の期日で病院側が患者側に数百万円の和解金を支払う内容での和解が成立した事例でした。
3つ目が、転院をめぐる調整の事例です。これは急性期の治療は終了したので急性期病院から療養型病院への転院について話合いましたが、病院側と患者家族の要望が折り合わなかった。そこで病院は、患者の転院に関する調整を求めて、医療ADRを申立てたという事例でした。期日においては転院の必要性とか、その受け入れ先病院の紹介とか、そのために必要な手続等々について詳細な話合いと打ち合わせが行われ、その結果3ヵ月後を目途として転院するとの和解が成立したという事例でした。以上3つ紹介しておりますが、これらの大小2つのパンフレットを広く配付して広報に努めていきたいと思っています。それによって「新・東京三会方式」の制度の理解を図り、延いては東京三会方式医療ADRの利用の促進を図っていきたいと考えています。
なお大パンフに記載しておりますQ&Aとか、あるいは他の事例については、東京弁護士会、第一東京弁護士会、第二東京弁護士会の紛争解決センター、仲裁センターのホームページに、これから掲載していく予定です。弁護士会によって若干の早い遅いがありますが、上記の3つの弁護士会のホームページを改訂中であり、年内には掲載できるというふうに聞いています。以上でございます。
○山本座長
ありがとうございました。それではご質問等あるかと思いますが、最後にまとめてお願いします。引き続きまして前田構成員から有床診療所と医療ADRについての報告をお願いします。
○前田構成員
皆様、お忙しいところをご苦労さまです。私、有床診療所連絡協議会の代表で、この会に出していただいております前田でございます。個人的には、静岡県の焼津市で産科の有床診療所を開業しております。お産をやっている開業医ということです。また、この会に出るに当たりましては、有床診療所からご推薦いただきまして、日本産婦人科医会の、これは産婦人科の業界団体ですが、こちらの理事をやっております関係で、お前行ってこいということになったという経過がございます。ご存じのように、紛争の中では医師に対する割合としては産婦人科が非常に紛争の多い科でございますので、そういったことで私がこちらに出させていただいていると理解しております。ですから、今回も有床診療所関係のお話なのですが、実際には産婦人科、特にお産を扱っている人間に関するお話と調査の内容をお話させていただくとご理解ください。そしていちばん最後に、ADRと直接は関係ありませんが、ADRに類似するものとして無過失補償制度というのがございます。これは今日のテーマにも出ておりますが、その中の一昨年の1月から産科の世界では産科医療補償制度というのが始まっておりますので、そちらのことについてご参考になればと思いまして持ってまいりました。ADRに若干通ずるものがございます。やはり似て非なるものということではございますが、一応ご参考になるのではないかと思いましてお持ちいたしました。
産婦人科、特にお産を扱う診療所のあるいは病院の産科の勤務医の現状でございますが、ご存じのとおり、非常に数が年々減っております。後ほど産科医療補償制度の話のときに数が出てまいりますが、減少の傾向が全くいま止まる様子がございません。いちばん中心になります理由は、まず仕事の不規則性、そして24時間拘束されるというそういった縛りでございます。私は、ここの会議に出させていただいておりますが、会議に出てくるときには何カ月も前から留守番の医者を探さなくてはいけない。会議に出たり、冠婚葬祭に出るだけでも、必ず留守番が必要になるわけですね。無床の診療所の先生はご自分の診療をお休みになって来られればいいわけですけど、そうはいかないわけです。お産は24時間、365日どこで、いつ始まるかわかりませんので、そのための留守番を探す。ですから、個人的に何もできない状況が続くわけですね。
そういった縛りの中でお産に取り組んでいるわけですが、さらに不慮の事故が非常に発生頻度が高いということです。特に、我々が心痛めますのは、お子さんの中に脳性マヒという非常に辛い事例が発生することがございます。また、お母様が亡くなられる事件もございます。母体死亡と我々呼びますが、母体死亡は60年前に日本全国で4,000人のお母さんが1年間に亡くなっておられました。現在は60人程度に減ってきております。ここ10年ぐらいずっと60人ぐらいですね。それでも毎年60人のお母様が亡くなられるわけです。そういった中で、当然医師の過失によるお母様の死亡例もございますが、中にはひいき目に見ても医師の過失がなさそうなケースもかなりあるわけです。脳性マヒにしても同じことでございます。そういった前線にさらされると言うのでしょうか、そういったものに対する気の遣い方がかなり辛いものですから、お産を扱いたくないと言う医師が増えている。産婦人科と標榜しながら、お産をやっていない人間が半分以上おりますので、そういった世界の中でこのADRに何か明るいものを求めるといった声は結構あるわけです。
ご家族の気持になってみますと、やはりお産というのは非常に幸せの絶頂の時間でございますので、その絶頂のところから突然お母様が命を落とす、あるいは生まれてくる赤ちゃんに障害が残るというのは、本当に天国から地獄に突き落とされるような、もう無理もない非常に辛いことだと思います。そういったところから、何が悪いのだろうという懸念が生じてくるのはもう当然でございます。我々も辛いのですが、そういった懸念の中でまず医師の過失ありきというような風潮がどうしても出てきます。もちろんさっき申し上げましたように、医師の過失あるいは怠慢が原因であることも結構ございますので、あまり全てがそうだと言うつもりは全くございませんが、やはり医師は一生懸命やったけれども、お母様が亡くなってしまったという事例も実際に存在するわけですね。
まず、そういったところから紛争が生じますので、そういったことに対してやはり我々仲間はどうしても耐えられなくなって、現場を去っていってしまうということなのですね。ですから産婦人科医の正直なところとして、紛争を極力減らしたいと思っている、あるいはもっと突っ込んで起こしたくない、紛争を起こしたくない。ここでは紛争の原因になるような事件も起きてほしくないと思っている。これは当然の本音でございます。
2番目は、やはり紛争が起きたらできるだけご家族あるいは残されたご遺族の方と速やかに話し合って、紛争を早期に解決したいと思っております。これも、決して嘘ではございません。本音でございます。そして最終的には、患者さんあるいは妊婦さんたちとの信頼関係を回復したいと考えているわけですね。どこかで歯車がやはり合わなくて、それで紛争に発展していくものだと思われます。もちろん患者さんの気持もよくわかりますし、でも医療者にもそれなりに悩み苦しむ時間もあるわけですね。
そういったことから、従来の裁判方式あるいは裁判所による調停方式に加えて、ADRというものが役に立ってくれたらというのが我々の業界団体の願いではございます。こういった意見は私個人の意見ばかりではございませんで、産婦人科の医師のメーリングリスト、あるいは医会の中のアンケートなどから抜粋した意見を申し上げております。
ここ4回ほど、このADRの会議に出席させていただきまして、我々司法関係には全く素人ではございますが、いろいろな都道府県でADRが行われている現状を具体的に聞かせていただきまして、非常に勉強になりました。多くの地域で多くの皆様が努力されている姿に感動、そして刺激を受け、また感謝するとともに、現実的にどういう問題が起きているのだろうということを学ばせていただきました。今日この会議に来るに当たりまして、私が広報担当をしておりますので、もう一度、産婦人科医会のメーリングリストの中で会員の皆様にADRについてどういうふうな感想を持っているか、どういうことを期待しているかということを問いかけてみたのですね。思ったよりも反響がなくて、ちょっとがっかりいたしました。正直なところ、会に入っている人間が1,000人近くおりますので、100人ぐらい返事来るのではないかと思いましたら、もう何10人という単位で、それも比較的同じようなお答が返ってまいりました。
これは私の意見といいますよりは、いただいた意見の中で、まず特に訴訟を経験された先生からのご意見で、無理もないことなのですけれども、一度法廷に立ちますと、やはり患者さん側の弁護士さんに対する感情が非常に悪くなるのですね。特に、訴状などを見せていただきますと、もう裁判というものの性質上仕方のないことなのですけれども、取りあえず一番最初の訴状に関しては非常にこちらを悪く、悪者に仕立てるかのような文章になっていると。これは司法の世界では普通のことなのかもしれませんが、医師の世界ではそういう文化はないわけですね。ですから、そこで皆さんショックをお受けになります。そして向こう側に立っている代理人の人はどんなにひどい人だろうと、そういうふうに思ってしまうわけですね。ですから今回寄せられた意見の中には、患者さん側の弁護士さんが主催するADRにはちょっと怖くて、あまり近寄りたくないという意見がございました。具体的な都道府県などあるのですけれど、そういった意見があったということがございます。
そして、また患者さん側の弁護士さんが、何人かの方が本を出しておられます。そういった本を読みますと、いかに患者さんの側に立って、相手の医師をこらしめるようなことをしたかということが切々と書いてあるわけです。それが1つの確かに正義ではあろうかと思いますけれども、やはり皆が皆当てはまるようなことではないものですから、一般的な医師としては非常に恐怖感を抱かざるを得ないわけですね。まず根強くあるなと思いましたのは、やはり患者さん側の代理人に対する嫌悪感、恐怖感といったものが今回のアンケートの返事からは読み取ることができました。ですから、まずそのADRに応諾をする、あるいはその世界に飛び込んでいくということに対してちょっと身構える仲間がいるということがありました。
これはここで言っても仕方ないことなのですけれど、2番目には、やはりADRのことを問いかけながら返ってくる返事は、もうマスコミに対する不信の返事が結構あるわけですね。以前に小山先生が発表されたときもそういう話題が出ましたけれども、医療の世界、医師の世界というのはここ何10年、20、30年ぐらいですか、完全に悪者に仕立て上げられてきたような歴史があるわけです。つまり、医療の事故があっても、全てこれをミスとか過誤とか、そういう名前をつけて呼ばれるということに我々はずっとさらされてきたわけです。実際に裁判の結果として、医療側の勝訴的な和解になったような事例でも、後でそれを振り返って、過誤と呼ぶマスコミがいたりするわけですね。そういったことから、ともかく医師の過誤ありきというような感じのマスコミに対する非難の声がかなり寄せられています。「我々は悪代官なのか」というような、そういう表現をしている方がいました。
「実際には官僚の方々や教師の方々も、似たような境遇にあるので同情する」というような声がありましたが、何となく我々はイメージとして、お金持で裕福で悠々自適に海外旅行に行ったりして過ごしているかのようなイメージを持たれていることが、正しいかどうか別としてありますので、それに対するマスコミの医者叩きというのがあるのかなという気持がいたします。それが、また紛争に発展する種を作っている可能性があります。そういうふうな意見がございました。
3番目に、後で資料をお出ししますけれど、医師賠償責任保険との関係がどうなのかと。これは以前から植木先生、小松先生から非常に有意義なご意見をいただいておりまして、今回勉強させていただきました。医者の世界は大きく分けて3つの医師に分かれるわけです。まず、開業医あるいは開業医に準ずるような病院の経営者です。それから勤務医の先生方です。勤務医の先生方というのは、比較的大きな、公的なあるいは公立の病院にお勤めになっている先生方を指すと考えていただいていいです。そして研究医、研究医の中には大学病院に勤めている教官も含めて、勤務医にちょっと準ずる仕事をなさっている方々も大勢いらっしゃいます。それぞれ皆さん、日本医師会に入っているかとお思いの方もいらっしゃったようですが、実際には日本医師会という組織は、まず中心は開業医なのですね。開業医の組織であり、そして勤務医の中で病院長クラスの先生方や幹部の先生方がお入りになっています。ですから勤務医の比較的若い世代の方々や、大学の勤務医はほとんど日本医師会には入っておりません。それぞれのお医者さんたちがかかっている医療の賠責保険が違うわけですね。勤務医の先生方は勤務医の先生方で病院で保険に入っていますので、その病院に対する保険と同時に、勤務医が任意に加入する保険がありまして、その保険に大体二重に入っていらっしゃる方が多いです。開業医は、日本医師会のA会員という会員になりますと、会員で自動的に医賠責保険に入れていただくわけです。それぞれの保険の縛りを受けてしまうわけです。保険については後ほど話しますが、ADRで先行的に金銭的和解がもし成立した場合にその医賠責の保険の適用を受けられるのか。小山先生の団体さんも同じで、解決したときにその病院の掛かっていらっしゃる保険がおりるのかという問題、これが結構大きな問題です。おそらく謝罪あるいは話合い、そういったものは非常にADRに適合しやすいと思うのですが、高額の賠償金が発生するような事例に関してはかなり日本医師会との間の、我々の場合その日本医師会ですが、日本医師会との間の話合いを煮詰めておかないと、保険金が適用にならない。だから、ADRは利用できないという結果になる可能性があると思いました。日本医師会の話は、この「有床診療所と医療ADRの紙の最初の2、3枚目に書いてございます。後ほどもう1回おさらいという形でお話させてもらいます。
そして4番目に、これが比較的重い問題なのですが、裁判では紛争が解決できても、医学的な真実は明らかにされないと。患者さんたちは、よくおっしゃっているのを拝見しますので、おそらく私たちは真実を知りたいと思っていらっしゃると思うのです。ごまかさない本当の真実を知りたいということで、やむを得ず訴訟に訴えられる方がいらっしゃると思います。実際には、お金の問題ではないと考えていらっしゃる患者さんの方がいらっしゃるわけですね。ただ、裁判というのは、幸いにして私自身は裁判の被告として立ったことはないのですが、いろいろなそういう係をしている関係でいろいろな事例を拝見します。やはり紛争解決が最大の目的なのです、裁判というのはね。「これはあなたのほうが分が悪い、あるいはこちらが分が悪い。ですから、この程度で、最終的には妥結しなさいよ」という和解に至るか、あるいは真実はもうはっきりしないけれど、どこに、どの程度の過失があったかというような感じの認定をして、判決が下されるというケースが多くて、実際に医療的真実が明らかにされないまま終わるといいますか、終結してしまうことが結構ございます。これは患者さんの望むところでもないと思いますし、医療者側もあまりすっきりしないまま終わってしまうわけですね。
それを何か代わってやっていただける組織や機関がないか、あるいはそういうシステムがないかということを我々は考えています。それがADRでできるのかということです。ADRでも、もしかしたら消化不良になるのではないかなというのが、ここの何回かの会議を拝見していて思いました。
やはりADRの向く、向かない事例があると思います。比較的結果が重くないもの、重くないと言うと言い過ぎですね。人の生死が関わらなかった、あるいは非常に重大な後遺症がかからなかった事例に関しましては、もしかしたらADRでお互いに膝を詰めて話し合うことで、真実が見えてくるかもしれないし、解決に至るかもしれないなと思いました。ただ、実際にはADRで、医療の第三者がそこにいない限り、完全な解決には至らないと思います、真実はわからないと思います。しかも1人の専門家がそこにいたからといって、完全に真実が明らかにされないと思います。先ほど申し上げましたように、もちろん裁判でも同じことです。この点は裁判にしても、ADRにしても限界があるのではないかなというのが、今回の何回かの話合いで私が得た感想です。仲間の中からもそういう声は、過去に何回も聞いたことがあります。
医師には、第三者としての立場って非常に難しいのです。例えば、患者さん側、病院側という、医師の中でも若干の立場の差はあります。実際、正直なところ患者さん側の鑑定人を引き受ける方というのは、ある程度やはり決まったお医者さんたちです。でも、そういった方々でも、中には意見が分かれるわけです。以前に、この会議でどなたかおっしゃっていました、「10人お医者さんがいたら、10人意見が違う」と。それぐらい医療にはドンピシャの真実がないものですから、そこのところの難しさというののが非常にあります。ですから、これはさっきの産科医療補償制度というもので少しできるのかなという気が、私個人としてはしております。
5番目、会員からの意見で出てまいりましたし、前回小山先生の意見にもございましたが、アクセスもプロセスも、裁判に比べて短くなることがやはりADRの売りでございますので、それが逆に紛争を増やすことにつながらないか。軽微な紛争といえども、やはり紛争があるということだけで医師はストレスを受けます。もちろん患者さんに対する説明責任は非常に重大な問題ですから、当然応じるべきだと思います。かといって、あまりそれが増えすぎますと、日常の診療あるいは生活を脅かすことに繋がりかねませんので、ほどほどの閾値があって然るべきではないかと思います。そういったことを少し懸念いたしました。
最後に、無過失補償制度ということについて、後でお話をさせていただきます。日本医師会の他県の話でございますが、パワーポイントのスライドを紙にしました資料がございます。医師賠償責任保険には日本医師会の医師賠償責任保険のほかに、勤務医の賠償責任保険と、病院賠償責任保険とがございます。勤務医の先生方、私は勤務医をずっと長くやっておりましたので、その間は私は勤務医の賠償責任保険を個人的に加入しておりまして、あと病院の幹部に聞きますと、病院でも入っていると。病院が訴えられたら、これを使うと。君が訴えられたらこれを使いなさいと、そういう感じで説明を受けておりました。いま日本医師会のA会員になっておりますので、私は1番の日本医師会医師賠償責任保険に加入しております。開業医は、ほとんどこうです。ですから、お医者さんが皆医師賠償責任保険に入っているとは思わないでいただきたいということが1つです。
そして補償の限度額ですが、いま1事故当たり、最高1億円、年間1億円というのが限度額ですが、これが1億5,000万円にできる特約がございます。免責金額というのがございまして、100万円です。紛争に当たりまして100万円以下の和解なり、判決が出ましたときにはこの日本医師会の医賠責を使うのではなくて、静岡県の場合ですと、都道府県の医師会がやってくれるということでした。取りあえず、この部分に関してはADRで裁定が出た場合でも比較的やりやすいのです。100万円を超えた場合には、保険会社のほうがかなり妥協してくださらないとお金が出ないことになります。
医事紛争処理委員会というのが各都道府県にございます。医事紛争処理委員会が、各都道府県で日本医師会の保険の適用にするのかどうかというのを決定する機関でございます。現実的な対応としては、この紛争処理委員会が認めて、ADRにかけた場合には比較的スムーズにいくのかなと。以前のご発表で、北海道の事例ですとか、千葉県と茨城県でその点がスムーズにいってらっしゃるように承りました。もちろん各都道府県でも、ちゃんとした努力をなさっていると思います。そこのところが会員にはまだ不安に映っているところです。
最初に申し上げましたことを、もう1回繰返しになりますが、紛争を解決したくない医師などはいないと思います。まさに小山先生が前回おっしゃったのと同じ意見を私も持っています。もちろんそれぞれの立場がございますので、すべてあなたのおっしゃるとおりと言うわけにはいかないケースもございますが、ともかく早く紛争を解決して、患者さんとの関係を改善したいというのは、全員とは申しません。でも、多くのほとんどの医師は持っていると思います。その中での、結局は話合いということが大事なのだろうと思います。
そして長い間、我々医師は何かあったらやはり医者が悪いと言われてきた風潮は何とかしていただきたい。ある程度自分たちの寝食を犠牲にして診療している人間が大勢この業界にはおりますので、そういった人間に対する敬意というのがマスコミにはちょっと欠けているように思います。そこのところは是非よろしくお願いしたいと思います。
この次のところに、一部抜粋ですが、我々会員から寄せられたものをまとめてまいりました。さっき申し上げたことと重複しますが、ADRは訴訟と比較して手続きが楽そうなので、紛争が増えるのではないか、静岡県の会員です。日医の医賠責保険との絡みは、大勢の人が書いてまいりました。愛知県の会員からは、患者さん側の弁護士さんの影がちらつく土俵では戦えないと。あるいは、これはちょっと誤解があるのかもしれませんが、和解金額に応じて手数料が上がるシステムでは、和解金のつり上げにつながらないかと。よく読むと、ちょっと誤解ではないかなと思う面がございますが、一応そういう誤解もあるということです。それも大事なことなので、お互いに誤解のあるようなことは避けないといけないと思います。千葉県の会員の方から、まさに私は植木先生から講演で聞いておりましたようなことを教えていただきました。まず、紛争処理特別委員会に報告することが大事なのだと考えているようです。ただ、そこで通っても、後でちょっと整合性が難しくなった事例があるように、いただいたメールには書いてございました。
まとめとしては、やはり日本医師会の特に医賠責に携わっている幹部の方に、こういった会においでいただいて、私のような下っぱではなくて、日本医師会の総意としての考え方を聞いていただく機会があるといいかなと考えました。お金がすべてではないのですが、お金の問題に関する限りこれは大事なことではないかと思います。発表させていただくに当たりまして、名前は申しませんが日本医師会の常任理事の先生に2人ほど聞いてみたのですが、やはりいまの段階ではADRに関してまだ強い関心をお示しにならないのです。そういったことが残念ではございますが、粘り強く交渉していただけたらと思います。静岡県の医師会の幹部、私も幹部の端くれではございますが、いまちょっといろいろ確認はしてみまして、そういう機運があれば始めるのもいいかねなんていう話は聞いたのですが、やはり残念ながら具体的な動きを示そうということにはなりませんでした。静岡県の患者さん側の弁護士さんで、非常に親しい人がいるのですが、ちょっと個人的にはどうかねという話をしておりますが、やはり医師会が動いてくれないとなかなか難しいのかなと、個人的には思っております。
中立的なイメージが大事で、先ほど西内先生がおっしゃったように、自分たちが中立に振り舞うということが非常に大事なことです。あと端から見ていても、中立に思えるような所ですと、応諾をしやすくなるのではないかなと思いました。私は個人的には茨城県のシステムが非常に好きです。でも、結果的に私は医師だからそう思っているのかもしれないと感じております。
最後になります。時間をいただいて申しわけありませんが、産科医療制度についてです。これは日本医療機能評価機構の上田先生に直接お願いしまして、資料をそっくり借りてまいりました。是非これを喋ってくれということです。このスライドは、最後の資料の「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」で発表されたものと、全く同じスライドだそうです。すべて解説していくとキリがございませんので、冒頭に申し上げましたように、産科の訴訟があまりに多くて、お産をする施設がどんどん減少する中で、患者さんと医者の紛争を少しでも減らそうということを1つの目的に置いて、この制度が創設されたと聞いています。
無過失補償という概念は、過失がなくとも、ともかく苦しむ患者さんがおられて、それが医師の責任をはっきりさせなくてもある程度の補償が受けられる、それも速かに受けられる、そういうことを目的として作られています。ですから、この産科医療補償制度の場合には、脳性マヒのお子さんがお生まれになって、審査に通りますと、ともかく医師の過失があるなしにかかわらず3,000万円の補償が比較的速かに出ます。裁判を経なくても出ます。訴訟に発展する場合には、その後でなる可能性もあるわけですが、取りあえず、まず患者さんの当面の医療費を補償しようという制度の趣旨でございます。
それともう1つは、これが私もすごく好きな部分なのですが、その後で脳性マヒのお子さんが出た事例を15人ぐらいの委員で分析をしまして、原因をしっかりさせる。中心となりますのは産科の医師と小児科の医師、新生児科の医師ですが、それに弁護士さんの代表も入られまして、それから患者さんの代表も入られまして、あと学識経験者が入られまして、比較的大人数でその原因を分析するわけです。結果的に、その分析されたものがご家族に、それから事故が起きた医療機関にも行くというふうになっています。私も原因分析委員におりますが、鈴木利廣先生も入っておられます。医師が多い所ですが、これが本当に中立かと言うと、微妙に難しいところもあります。やはり医療的な原因は医師のほうが得意にしておりますので、どうしても医者の多い委員会ではございます。そこで原因分析をする。裁判によって原因分析をするときに、さっき申し上げたのは本当に真実が明らかにならないと、医者も感じている。おそらく患者さんたちも、そういう不完全燃焼のようなところはあると思うので、せめてもう少ししっかりと分析をして、完全に真実に至らないまでも、近いものを追及しようということですね。そして、それを将来の再発防止につなげようということでございます。
ただ、財源がどうなるかということですが、財源は健康保険のほうから基本的には出ています。出産のときに出産育児一時金というのがあるのですが、この制度を創設するために3万円値上げをいたしまして、その値上げされた3万円を全てその保険に医療機関が費やすことを義務づけられているわけです。義務ではないと言っていますが、実際には義務です。医療機関の中でこの制度に賛同した医療機関は、出産1件当たり3万円の保険金を機構にお払いする。その3万円は、患者さんの出産育児一時金の3万円の値上がりの部分から出ています。それで積み立てられたお金で、脳性マヒの患者さんが発生したときに支払われるということです。
問題点がいろいろございまして、金額がちょっと安すぎるのではないかというご意見があります。それから今回は産科のお産が原因で起きた脳性マヒにのみ適用されていますので、お子さんの先天異常には適用されないとか、後天的な脳性マヒには適用されないとか、そういう縛りがございます。これを今後改善していきたいと、業界の団体は考えております。
運営するに当たりまして、いまどれぐらいのお産の機関があるのかということですが、16頁ぐらいに産科の医療機関がございます。病院が1,199軒、診療所が1,697軒、助産所が440軒の合計3,336軒です。日本のお産が大体年間100万です。100万人の方が生まれております。概算して3,000軒で100万人のお産をしているわけですから、年間、1軒当たり大体300件のお産をしております。ところが、いちばん下の助産院さんなんかは1年間に100件程度、100件もしないかな、50、60件ぐらいのお産しかしませんので、結局病院と診療所でするお産が、年間平均すると400件ぐらいになっているのです。これは昔では考えられない件数です。要するに、1軒当たりの負担が大きくなっています。ですから、この診療所・病院が減ることがまた逆に非常にタイトなスケジュールを作り出しますので、また事件が起きる種を作りかねないですね。いま少しでも分娩の機関を増やすように、業界全体としては努力しているところです。ですから、そういった趣旨でこの産科医療補償制度が作られました。基本は無過失補償制度です。ADRと似て非なると申し上げましたが、何が違うかと、1つだけ不満な点は、この原因分析を終わった後で、患者さんと医療者側の、いわゆる手打ちがないのです。ですからお金が支払われて、原因分析が終わって、その後で患者さん側と医師のほうでお会いして、最後の総括をするような機会がないのですね。これがあると、まさにADRに近いものになるのではないかと思っています。ただ、それは省略していただきたいという意見も、正直なところあるのです。ですから、そこはちょっと難しいところではないかなと思います。医療ADRに足りないものがあるとすれば、原因分析の部分がやはりさっき申し上げましたように完全には徹底されませんので、こういう制度も1つのモデルとしては良いモデルではないかなと思います。拙い発表ではございますが、一応そういったことで私の発表は終わらせていただきます。
○山本座長
ありがとうございました。大変詳細なご報告をいただいたかと思います。ご質問等があろうかと思いますが、引き続きまして宮脇構成員から「医療ADRの発展を願って」ということで、ご発表をお願いいたします。
○宮脇構成員
医療過誤原告の会の宮脇です。発表させていただきます。お手元のスライド・データを見ていただきたいと思います。私たちは前田先生とは対称的に、患者・被害者の視点でADRの発展を願っている立場で発言させていただきます。
医療事故で死亡ないしは重篤な障害を負った場合、医療機関との話し合いが進まなければ、そのまま諦める方が多いです。それは裁判をするには、金銭的負担、時間的負担、個人で病院という医療の専門組織に対して、過失を立証しなければならない厳しさで、ほとんどの方が闘うことを断念せざるをえないというのが実態です。
医療裁判の原告勝訴率は昨年は20%、民事では極端に低い中で、あえて、それでも声を上げなければということで、年間800件ぐらいの方が裁判を提訴しています。その被害者本人ないし家族で構成されているというのが、私たちの医療過誤原告の会です。
1991年に設立しまして、今年で20年になります。現在、入会者数は1,150名を超えたというところです。ご自分の案件が解決されると、かなりの方は退会されていきます。裁判を通して繰り返しくりかえし事件を思い出させられますので一刻も早くこういう不幸な出来事を忘れたい。個人で裁判を5年、10年と背負っていく苦しみというのは、ご家族だけではなくて、親戚も含めて非常に重たいものがありますので、早く気持ちを切り換えたいということで会を辞められていくのです。それでも現在、200名の方が在籍して活動しています。
当会には、深刻な相談が毎月10件余りで、軽度な内容はしょっちゅう相談がきています。全国で17名の役員の方が相談に対応したり、被害者の交流会を開いたりしています。個人で裁判を闘っていくことはとても大変なので、被害者の交流をすることによって、裁判を闘っていく気持を継続する力になる面があって交流会をおこなっています。被害の実態としましては、治験薬を無断で使用して障害が残るとか、よく説明のないまま手術に突入して失敗し、あとの説明もいいかげんでほかの病院に紹介して責任をあいまいにするような、私たちが聞いていて相当ひどいと思う事例がかなりあります。
都道府県には患者相談窓口の設置が義務づけられていますが、重大被害事例であるとか、紛争になるようなケースは、自治体等に調査権限がありませんので、話を聞くだけになり、最終的に原告の会に相談がまわって来るようです。
最近の例ですが、都内の大学病院で注射をした後、腕がしびれてどうしょうもないということで、その後ご家族も一緒に病院に相談に行ったのですが、担当の部長さんが出て来られて「原因についてはわからないよ」、「この問題については、いま裁判をやっても勝てないからね」と病院に突き放され、腹立たしいがどうすればいいのでしょうかという相談がありました。これはすぐに裁判ということではなく、困っている患者さんへの対応として、病院の姿勢に問題があるなという印象を受けました。私どもの助言としては、その大学病院に相談窓口があると思うので、まずそこに行ってお話する、それでもらちがあかなければ、病院長に手紙を書く、それでもらちがあかなければ患者の権利オンブズマンという組織が弁護士さんも含めて全国的に相談をやられていますので、そういう所に相談したらどうかとか、なるべく話し合いができるように考えて対応しているのですが、責任を持って受け皿となる公的相談窓口が必要だと痛感しているところです。
そもそも重大な被害について、国が医療被害の実態調査をおこなっていない。年間2万から4万人の方が医療行為が原因で亡くなっているといわれているにも係わらず、そのことにメスが入っていってない。国として取り組んでいく姿勢が見られない。私たち医療被害者団体は、2008年に「患者の視点で医療安全を考える連絡協議会」を5団体で作って、医療事故調査の第三者機関の設立であるとか、被害者救済を求める運動に取り組んでいます。
最近、特に心配しているのは、医療機関がクレーマー対策という形で、警察OBの導入広がってきていることです。
2004年に都内の大学病院に勤務され始めた警察のOBの方が、雑誌のインタビューに答えているのですが、私的な病院を中心に全国105病院に勤務している140名の警察OB方が連絡組織を作って、情報交換を主に活動しているそうです。
私どもに届いた被害者の報告では、中国地方の相当大きな病院ですが、元警察署長をはじめ、警察OBの方を18名雇って、紺色のスーツの警備服を着て、病院内にいて見回りをやっている。医療被害者が行けば取り囲んで威圧されるということです。
いま病院が増やす必要があるのは、警察OBの配置ではなく、患者や被害者など、問題の起こった人たちをサポートして、病院関係者とつなぐ対話を促進していく人たちの配置が大切ではないでしょうか。医療機関としてもっと丁寧に、患者や被害者と対話を進め、心から互いに理解し合って、医療の向上や信頼に役立てていく取組をしていただきたい。また、国としてもいろいろな調査をしながら考えていってもらいたい。被害者の立場としては、ますます声が上げられなくなることについて、いま非常に心配している状況です。
次に移りまして、医療被害に遭った場合に、被害者はどういう思いかということにつきまして、私どもの会が1994年のときに取ったアンケートがあります。
いちばん最初は病院などに説明が欲しい、もしそれが病院で医療過誤であれば、謝罪してほしいというのが、グラフに示されています。
被害に遭ったときに、病院と争ってお金を取りたいなんていうことではなくて、なぜこういう被害に遭ったのか正直な説明が欲しい。家族が急に亡くなるわけですから、死を受け入れていくうえで、亡くなった原因がわからなければ、周りの親族にも説明できないし、私は子どもが亡くなりましたが、なぜ子どもが亡くなったのかということを知りたいというのは当然のことだと思うのですね。そのことを求めているのであって、病院と闘いたいとか、そういうような感情が起こってくるのはその後の対応の問題なのです。病院で急に肉親を亡くした場合に、1ヶ月ぐらい冷静に話ができないというのは、どのご家族も、ご自分のことに置き換えればわかると思うのです。病院側が2カ月、3カ月、半年なりかけて、粘り強く話していただくことが大事かなと思います。一定の時間が経って、病院が事実を隠そうとしたり、被害者に誠実な対応をしなければ許せない気持ちになります。病院の対応で信頼関係が崩れた場合、被害者は医療にとっては素人なのですが、追い詰められて自分で事故原因について、徹底的に調べるしかないのかなという心境になります。病院が丁寧に対応を続けないことで被害者を追い詰め、医療過誤裁判に進んでいくことになります。私達が被害者の相談を受けて、経過をずうっと見ていると、段々ああ裁判になっていくなというのを感じるのです。話し合いの可能性ができる医療ADRに、被害者として期待する思いが強いです。
次のグラフですが、患者の視点で医療安全を考える連絡協議会が2008年にアンケート調査した結果でも、医療被害者の願いとして、真相究明を第一義とする。それから真相究明と紛争解決、この事故の原因が何なのか本当のところが知りたいということです。 病院の説明と事実関係のところですれ違っていくのですね。家族が付き添っていて、看護師さんに言っても全く医師が病室に来なかったのに、カルテ上は何度も来て診ていることになっている。それから、点滴を投与したとなっているが、そんなこと全くやらなかったではないかなど、そういう事実関係が全く食違って、裁判に突入していくのです。ミスがあったとしたらきちんと話す、被害者のほうに誤解がある場合もあるし、医療内容についても知らないということもあると思うのですが、専門家として正直に丁寧に話して欲しい。
事故直後で話すのか、2カ月後、3カ月後に話すのかというのは、それは被害者の落ち着き具合いによって変わってくると思いますし、その点も丁寧に見ていただきながら、医療機関側として窓口を閉ざさないことで、紛争や医療過誤裁判になっていかないということです。何度も話し合いの機会はあるなと、私たちは相談に応じながら感じているところです。
同時に、先ほど前田先生から医療過誤裁判は、医者として相当プレッシャーだというふうなご発言がありましたが、私たちは被害を受けた上で、あえて被害と言いますが、受けた上で裁判の中で体験するのは、出されたカルテやレントゲン写真や、心電図等もそうですが、我々から見ても、非常に改ざんされていると思うものに、たびたびぶつかります。その当時全く生産されていなかった心電図用紙が証拠として提出されたりするのです。
アンケートに寄せられた被害者の意見は、「裁判では、改ざんされたカルテ、ナース記録が重視され、原告の訴えを取り上げてもらえず、医師は過誤を起こさないという前提でほとんどの裁判が進められている」「私たちがほとんど完璧な証拠だなと思っていたものも無視されることもたびたびです。この壁を破らないと、裁判をしてまた二度目の被害に遭う」「医療被害に遭った上に裁判でまた数百万のお金がかかります」通常の民事では85%ぐらい原告が勝つと言われていますが、医療過誤の原告勝訴率は20%。そういうことがわかっても、医療機関のあまりの仕打ちに引き下がるわけにはいかず、あえて裁判に踏み切っていくのです。
「医療過誤裁判は、被害者の立場なんてほとんど考えない、事務的な業務遂行、一種のセレモニーというふうに、感じざるを得ないような印象を受けたりします」「我々から見たら、被告医師が堂々と嘘をついたり、相手側の弁護士がそれを一層強調したりして、原告自体の頭がおかしいのではないかというような、印象づけるような厳しさ、切って捨てられる状況が、裁判の中ではあるということです」「一般市民として最後の手段にも関わらず、矛盾だらけで苦しいことが多すぎる」「裁判に行けばいろいろなことがわかるだろうと普通は思うのですが、実はそうではなくて、なまやさしい心構えでは勝てない。家族、親族が協力して、原告側の傍聴者を増やして、裁判所の動きも見詰めながらやらなければ、とても勝てるものではない」と、私もそのとおりだと思います。「宣誓しているのに偽証、カルテ改ざん、相手方の意見書の揚げ足取り、加害者救済でしかない裁判の現実を知って驚いた」、偽証やカルテ改ざんによって医療者が処罰されたということはありませんから、そういう点では被害者側から見るととても大変な思いをしている。それから、「弱い人間、金のない人間に時間をかけ、金を使わせる裁判は不平等である」「個人対組織なので、そこにかかっているお金の負担感というのは、それは比べようがないほど非常に不公平だと思います」。このような思いの被害者を、裁判に踏み切るまでに追い詰めないでもらいたいと私は思います。
医療側が対話を断った場合、被害者に残された道は今まで諦めるか裁判かしかなかったのですが、ADRの制度が出来たことで、そう甘いものではないと思いますが、各地域の実状を聞いてみますと、茨城のようにまず医療者側が断らないことを実践されているということを考えますと、これは私たちにとってはADRが1つの解決方法として大事な方策だなというように感じているところです。
医療被害者の願いとしましては、医療事故の被害者、または家族が相手の医療者を知ろうとするプロセスを大切にしてほしい。主治医や病院関係者と話すのは、何かが起こらないと機会はなかなかないのです。だから、ADRを通して、逆に信頼を強めていく場だと思いますし、そういうことを是非わかっていただきたいと思います。
それから医療事故が起きたときに、患者や家族、遺族のいちばんの願いは、かけがえのない子どもや妻や夫に、何が起きたのか知りたい、情報開示がなされた上で正直な話し合いがしたいということです。紛争というのは本当に避けたいというのは当然のことで、事実がわかれば別に紛争をすることは全くないのです。
ADRについて3名の方が利用した報告ですが、はじめに、息子さんが服薬の事故で、病院に救急搬送されて、大量の薬の投与で身体障害が残ったケースです。病院が母親に説明しただけで、もうあとは終わりということで、すぐに弁護士に対応を任せてしまったのですね。しようがないのでこちらも弁護士に相談してお話をしたのですが不調だったので、とにかく主治医と話をしたいということで、ADRの申し込みをやりました。結局、断わられて主治医と話ができないままになってしまい、もう裁判をするしかないかなという状況です。これは当事者が話せば裁判まで行かなくて済むのにと思われるのですが、病院のほうとしても弁護士まかせで、何かどこか違っているようなというか、このまま裁判でお互いに消耗していくことを考えると、とても残念な状況にあるなと思います。それから、被害者の方がいろいろ調べた資料を、ADRで解決したいと思って、すべてADR事務局に渡したのですが、相手に拒否されたあとその書類が返ってこなくて、事務局に聞いたらシュレッターで処分するようにしましたという話なのです。今後、裁判になってくると、相手に全部資料を出しちゃって、ちょっとしまったと思っているそうです。ADRの書類の提出範囲について、今後どういうふうにしたらいいのか考えていただきたいと思っています。
2つ目のケースでは、元気で会社を経営されていた息子さんが、救急で搬送された大学病院で、これも診察が非常に雑だったということと、投薬が原因で短期間で亡くなったのです。ご家族が病院に説明を求めたのですが、1回の説明だけでご家族はもう終わり。以後は、質問があったらとにかくFAXでくれということでやり取りをしたのですが、やはり病院から直接説明を申し入れたところ、2回目は遺族の参加は断って弁護士だけの説明ということになってしまった。その説明も主治医と担当医が不参加ということで、やむを得ずこの方は裁判の提訴になりました。
何でこうなっているのか本当に残念なのですが、ご家族は担当の医師から、この診療の経過であるとか、何で禁忌と言われている薬を飲まし続けたのかということを直接聞きたかった。これはご家族がかなり調査をしたあとで、やはり禁忌だったということに気がついて、主治医に薬について聞きたかったのですが、病院に拒否され裁判に臨まざるを得ない。裁判では直接主治医から聞けるだろうということなのですね。こういう場合もADRをもっともっと病院側に理解していただきながらやれば、裁判にいかなくても済むのではないかと私は感じています。
この方は、東京近県なのですが、東京にADRの制度があると聞いて申し込もうとしたのですが、たまたま知人から県の弁護士会が近いから、そこでやったらどうかということを勧められ、県の弁護士会の仲介制度で病院に申し入れしたが断られた。結果的にADR機関の利用にならなかったのですが、ご本人はADRで依頼して断られたと思っているのです。各県弁護士会の仲裁制度と、ADR機関との整合性をどうしていくのかという点について、県を越えての調整をお願いしたいと思います。被害者はADRでお願いしたと思っているところでは、もう少し工夫が今後は必要かなと思います。
医療被害を受けた場合に、病院と対話を断られた場合におかしいと思って、そこで被害者は一生懸命に調べるのですね。調べて、あっ、これは医療過誤だとか、医療ミスだというように、かなり大きな確信を持ってそのあとの裁判に行くのですが、それまで結構タイムラグがあるのです。半年とか、1年とか、2年とか。その間について、その後の病院側として対話を断らないでいただきたい。そこで出てきた疑問について説明を求められた時、もうその問題は全部弁護士対応としないでいただきたい。裁判に至る前に、まだ話す機会があると思います。そういう中でもADRの活用も当然出てくると感じているわけです。
3番目のケースでは、病院で手術をして後遺症が残っていて、病院のほうは合併症だという説明をしたのですが、本人は後遺症が残っているものですから、合併症なんて言訳けではないかということで、かなりもめていたのですが、院内だけの話合いではちょっと話がつかないということで、病院と両方合意の下でADRでやったということです。そこで主治医の方も出席してお話して、患者側に付いている弁護士さんが病院としては非常に丁寧に対応しているではないか、この点については信頼していいと思うというご発言もありまして、患者さんのほうもそれで納得した。その後は良好な関係になったということで、これはADRがすごく良い形で活用されたなと思います。確かに一旦不信に陥った場合に、被害者と病院との関係だけでは、なかなか修復できない場合があるかなと思いますので、第三者が介入するADRの活用として、とても良かったと思います。
最後ですが、医療被害者と医療者との信頼関係をつなぐ役割をADR機関が、是非果たしていただきたいと思います。医療被害の重さについて繰り返しになりますが、私も1983年に娘を医療事故で突然亡くしました。民間企業で働いていたものですから、医療に全く素人の人間が医療被害者に遭ってみて、患者側から医療機関にもの申すことがどれほど困難かということを実感しました。自分の娘のカルテも見られないしレセプトも見られなかったので、がんじがらめの制度で医療者が守られているなと思い知らされて、10年間医療過誤裁判を闘いました。 医療過誤原告の会を創設したのは近藤郁男さんといいまして長野の方なのですが、1979年に中学生の息子さんが虫垂炎の手術時の麻酔のミスで植物状態になりました。それでも病院はミスを認めず一審原告敗訴です。二審で医療に力のある弁護士さんと、麻酔学会でも有名な先生が証言に立ってくださって、勝訴的和解したのですが、息子さんの24時間介護が残りました。介護しながら、近藤さんは息子さんに「マー君、おまえはなあ、ただ寝ているだけではないんだよ、社会的に大きな仕事をしているんだからな」と、いつも話しかけながら、原告の会・会長として尽力し10年前に他界されました。ご家族が息子さんの24時間介護を引き継いで32年になります。医療被害は家族を含めて、生活全体が一変していく、本当に大変な状況を当事者に引き起こしていくのだなということも、是非わかっていただきたいと思います。
公的な被害者支援のための制度として、医療機関側がADRを積極的に受け止めて活用していただき、医療過誤裁判に被害者を追い詰めないでいただきたいと思います。そして、先ほどの産科補償制度のような形で原因調査や、再発防止の制度化を願っています。
以上です。
○山本座長
ありがとうございました。最後になりましたが、佐々木構成員からお話をいただきます。
○佐々木構成員
佐々木です。今回この医療ADR連絡調整会議に参加させていただきましてありがとうございます。被害者の立場からお話しさせていただきます。いままで各機関の先生方の取組状況などのお話を聞かせていただきまして、それぞれに対して尊重を申し上げたいと思います。
普通紛争解決となりますと、法を適用し、判決を下すという裁判になりますが、裁判というのは本当に闘争心をもって争います。時間的にも経済的にも負担が大きく、本当に精神的なエネルギーを費やします。しかし、この医療ADRという、対話を促進して迅速に、そして経済的にも負担なく簡便な解決ができるであろうという期待もございますが、3つぐらいですか、こちらから申し上げたいことがございます。
まず、代理人ということではなくて、当事者がその真実を探求するために、自分自身の言葉で語られる場を、十分に作っていただきたい。そしてその語らいに目を向けていただいて、その経過を明らかにして、そして事実を伴に探求していくそのプロセスが大切ではないかと思います。医療者もその想いを伝えたい、また患者もその想いを伝えたい、そういう対話の場を十分に、本当に作っていただきたいと思います。紛争になる前のコンフリクトといって、被害者にとっても葛藤があるわけです。その葛藤の間に対話をもつことがいちばん大切ではないかと思います。
私は医療過誤裁判をしております。途中から本人訴訟になっておりますので、この事案を少しお話しさせていただきたいと思います。
もう18年前になるのですが、当時高校2年生、17歳の若い命を医療過誤によってなくしています。これはバイクによる自損事故ではございましたが、救急病院に搬送されたわけです。そこで当直の先生がすべてレントゲンを撮り異常ないと、頭もCTを撮るが異常ないと。それで意識レベルも鮮明であるということで、経過観察としてその晩入院したわけです。
ところがその晩に急性腹症を呈しまして、もうエビのような状態で横になって寝られない。それがずうっと夜通し続いたわけです。私はずっと付いていたのですが、もう本当に苦しがっていました。その間に3回ほどナースコールをしたのですが、その当直の先生と看護師が3回ほど見に来てくださるのですが、気休めに診て出て行かれた。早朝に「お母さん気持ち悪い」ということで、膿盆に受けてやると、2回ほど胃の吐血、いろいろなもの、どす黒いものを出したわけなのですね。そのときに初めて主治医となる医療者が出て来られて「先生、これ内臓破裂と違いますか」と私が聞いたわけです。もう本当にその晩ずうっとドキドキして見ているわけです。そこに看護師の方もいらっしゃるのですが、その看護師の方が「大丈夫ですよ」って、こう安心感を与えてくれる。ああ、よかったと思ったのです。そして、子どもが胃の洗浄するからといって、私は外に出されましたが、歩いてトイレに行くような状態であった。
そして、病棟に移されたのですが、そこでもう食事を与えられました。もう食事は出ておりました。そして痛いながらも1口、2口は食べておりましたが、痛みが持続する、取れない、毎日毎日そのように痛みを訴えておりましたが、そのとき医療者は出て来て、私はいつも聞くのですが、「打撲だから大丈夫」。子どもも痛いと言いながらも1人でトイレに行き、屋上に上がり普通にしておりました。友達とも話をしておりました。しかし、痛みが取れない、おかしいということなのですが、「打撲だから大丈夫」。レントゲンはもう山のように撮っております。説明は「異常ない」ということでした。
ところがだんだんとおかしくなりまして、9日目にですね、腹部膨満・圧痛、そして白血球の上昇、40度近い高熱が出まして、バリウムにより造影検査にレントゲン室に行ったわけです。このときにも本当の医療者だったら、バリウムではなしにガストログラフィンという水溶性の安全な溶剤でするのですが、その医療者はバリウムでやられました。そして、ナースコールで呼ばれて行きますと、「漏れを発見した」というシャフカステンにレントゲンの画像が掲げてありまして、医療者はもう慌てふためいておられました。そして緊急手術となりまして、なす術もなく手術をするわけなのですが、長時間して出て来たところ、私は「どうでしたか」と聞きますと、「食べさせたのがまずかった、40センチも切って内臓を食塩水で洗った」と言われました。もうこのときは絶望感を感じました。そして、死ぬか生きるか切羽詰まった手術をしておきながら、その医療者はその晩一度も出て来ることはありませんでした。
そして、あくる日ですね、黄疸が出たのですね。「先生、黄疸が出ているじゃないですか」と言うと、その医療者は「ここではその設備がない、お母さん半分あきらめてください」と言われたのですね。手遅れ手術をしておきながら、私は本当にこの人は医療者なのだろうかと不信感を感じまして、すぐさま主人と一緒に知り合いの大きな病院の院長先生に電話をして、入れてもらうことを約束しまして、早朝に行く約束をしました。
そしてその晩、その医療者に、「明日、転院するのでカルテをお願いしますと申し出ますと、その医療者は夜通しかかってナースステーションでカルテを見ているのです。そして夜遅くに私のところに来まして「もう一度、手術をさせてください」と言われたのです。私は無視いたしました。なぜ手術の必要があるのかと。そしてあくる朝、救急車で転院いたしました。
そこでは大きな病院ですから、本当に看護師の方が「若い命に希望をもちましょうね」と勇気を与えてくださったのですが、もう手遅れ状態です。残念な転院でございましたが、2日後MRSAに感染していることがわかり隔離されました。そして、その2日後、敗血症によって亡くなりました。その亡くなる寸前、まだ意識はちゃんとありましたが、もう苦しくてものを言えない、そのときに私に向けてペケをしたのですね。もう駄目だということだったと思うのですが、そして大きな息を2回ほどして亡くなりました。本当に初めの画像の見落とし、縫合手術の失敗、そして腹膜膿瘍を起こし、播出性血管内凝固症を併発し、MRSAに感染し、敗血症、最悪の状態で亡くなりました。
一体どういうことであったのか、私は医療機関に葬儀のあと聞きにまいりました。医療者は大きな文献を持ってこられて、「お母さん、ここには載っていなかった、難しい症例であった、初めての症例であった」と終始言い訳をするわけです。「はい、そうですか」と引き下がる親はいないと思います。一般的医療水準で見てくれていたならば、悲劇は起きなかったはずです。この家族の怒り、悲しみ、苦しみをどうしたらいいのでしょうか。医療者からは的確な説明も聞けない、責任ある態度を示さない、申し訳ないの言葉の1つなしということで、私は公の場で聞こうといって提訴をいたしました。しかし、医療者を訴えることは大変なことです。情報の格差、そして専門性、閉鎖性、密室性という壁を乗り越えないといけません。
そして、そこに弁護士を入れるわけですが、弁護士も医療者ではない場合、どこまでやってくれるかわかりません。こちらから情報をすべて提供していかなければならない。そして証拠保全などの手続は迅速にしていただきまして、手元にすべてその証拠となるものをすべてコピーしていただきました。そして準備書面を出していただいて、1年間ぐらいその全体像をわかってもらうために、裁判所とやり取りをしていました。
ところが1年後、弁護士から「何か争点となるものはないか」と言ってこられたのです。私はそのときに手元にすべての書類がありましたから、いろいろ調べました。主人と一緒に本屋さんに通い医学書を読み、また図書館に通い医学書を読みあさりました。それによく似た症例であるところの医療者のところへ全国を駆け巡りました。しかし、そこには的確な証明とか説明をしてくれる医療者は1人もいませんでした。
あるとき、「腹部外傷」という本があったのですね。その中に同じような症例があったのです。画像も載っていた。それは沖縄のある病院長の先生でした。そこへ訪ねてまいりました。そうしたらその先生が、レントゲンに写っているかわからないから持ってきなさいということで、再度また沖縄へ行きました。そうすると、2日入院したあくる日に撮った画像が、あっ、ここに出ている、これは「十二指腸硬腹膜破裂という気腫像が出ている。そして、これは珍らしい症例ではない、医学生のときに学ぶのだと。」これはサッカーボールが強裂にここに当った場合、脊椎によって後ろの後腹膜が亀裂すると。結局1.5センチの亀裂があったわけです。すぐにそういうところから何もない所にエアーが入るわけです。そしてエアーが腎臓を浮かび上がらせる。その画像が出てきた。これは本当に医学生のときに学ぶのであって、教科書にできるものである。これをいただきたいというようなことでした。
そうなりますと、その先生は「これをわからない医療者が救急病院にいるのか、かわいそうなことをしましたね」と言って、ちゃんと見てくださいました。立派な協力医を得たわけなのです。そして帰りましてすぐさま弁護士に事情を話しまして、準備書面を書いていただきました。
そうすると向こうから、「知っていた、初めからそれはわかっていたが、あなたたちが言わなかったから言わなかった、初めから知っていた」というような答弁書が来ました。そしてもう認められました。そして、画像があります。そうなるとしばらくしまして、弁護士から「和解したらどうか」と言ってこられたのです。和解となるとすぐに損害賠償で決着がつきますが、私は初めに「判決までお願いします」と申し出ておりましたので、「和解はしない、一体どうなっているのか事実関係を知りたい」ということを言いますと、「もうこれ以上、書面を出さないから」と言われたのです。もうここで信頼関係が薄れました。私たちの想いは弁護士に通じていなかったのです。
そこで私は弁護士に退いていただきました。解任ですね。そうすると裁判長から3回ほど呼び出しがありまして、「あなたたちは弁護士を辞めさせたのですね、8合目まで行っていたのに3合目まで落ちた、あなたたち負けるかわからないから、弁護士を入れなさい」と言われたのです。しかし、弁護士を入れても一緒です。証拠があります。そして、もうその医療者は認めておられます。そして、真実を突いていこうということで、「私は証人尋問がしたいのでお願いします」と申し出まして、2人の医療者を1時間ずつ証人尋問をいたしました。これは認めていただきまして、大変嬉しく思いました。
そして当日、その医療者が1年ぶりに出て来られて見ましたら、本当に大きな体の方が細く、その面影がないぐらい痩せておられた、2人ともが痩ておられた。私は本当に胸が痛みました。ああ、この医療者も悩まれたのだなと思いましたが、一つひとつ聞いてまいりました。
その証拠に、カルテにはバリウムによって透視と書いてあるのに、レセプトにはガストログラフィンと出ているのですね。私はガストログラフィンとはどういうものかということで、新大阪にございますシェーリング社というドイツの会社がございます。そこではガストログラフィンを造っているのです。そこの学術部に聞きにまいりまして、画像をもって、これはガストログラフィンか、これはバリウムかということを聞きますと、「これはバリウムである、ガストログラフィンは水溶性で安全性があり、またこれはX線を当てると光ってわかる。そして、水溶性だから尿として出ていく安全なものであるという説明を受けました。それも自分の足で聞いてきて、裁判でそれを申しましたが的確な返事はしませんでした。
本当にいろいろと薬のことを勉強しまして、証人尋問をいたしましたが、最後いろいろと聞いてまいりましたら、「今ならわかる、そのときはわからなかった」ということになったのですね。裁判長からもこういうものは学会とか医学書で目にしていなかったのかということを問いただされておられましたが、「わからなかった、今ならわかる」ということで認められました。
私は子どもを亡くした親の気持は、悲しくて悲しくてどうしようもありません。信頼し命を託した者にとっては、あなたの誠意が私たちの救いとなるのですと申しましたが、目と目を合わすこともなく終結し、喪失感が残ったままです。紆余曲折の結果、勝訴いたしましたが、もう子どもは生きて帰ってくることはないのです。医療裁判は人間の生命、身体、健康、心というものを裁くことが、必ずしも法に照らし合わせて合致するものではないのです。弁護士も裁判官も医療者ではございません。真相究明、再発防止にはつながらないわけです。
多くの被害者が一体何が起こったのか知りたい、しかし、説明もなければケアもないということで、訴訟という手段を取らざるを得ないのです。しかし、そこで何年もかかり、敗訴または和解となり、医療者の顔が見えないまま終結し、不満が残ったままです。信頼関係はできません。
しかし一方では、こういった不信感を穴埋めする解決方法が必要になるわけです。これが医療ADR、対話型ADRだと思います。これは院内にしろ、院外にしろ、当事者同士が会って話し合う、そこにはいま院内においては本当にコミュニケーション技法を身につけたメディエーターという方がいらっしゃいます。各病院にいまどんどんとそういう研修を受けた方が増えてきておられます。そして、管理体制、リスクマネージャー、そういった方がいま病院側も本当に考えてくださって、医療安全に取り組んでおられることを、私は感じています。
そこで話し合い、そこで情報開示、これは本当に不可欠です。そして何が起こったのかしっかりと説明していただきたい。医学的な観点から説明をしていただきたい。もしミスでない、人間というのは健康に回復していても、いつ何が起こるかわからない。突然に亡くなる場合もございます。こういう場合もあって、ミスはないけれども亡くなった。このときには共感表明といって、やはり謝罪をしていただきたい、しかしこれは、責任のある謝罪ではない。しかし私たちはそういう認識も持っておかなければいけない。いつ何が起こるかわからない、人間の体は何が起こるかわからないということは、認識しておかないといけませんが、そこでも家族に的確な説明をすることによって納得していただく、これで不信感を払拭するわけなのです。しかし、もしミスがあるのであれば、しっかりとこれは責任承認していただいて、謝罪をしていただきたいと思います。謝罪をしていただき、その問題点を指摘し、二度と起こさないように医療者側も努力し、再発防止に努めてくだされば、これは医療機関の信頼関係も回復するのではないかと思います。医療者と患者とは対立するのではなくて、医療者は本当に使命感をもって医療に携わっておられます。私たちもまた信頼と尊敬の念をもって医療機関にお世話になりますが、お互いが尊重し合うことも、助け合う、支え合うということも必要であると思います。
よく、私裁判に巻き込まれたといって、医療機関から去られたということをよく聞きますが、これなどはある医療者が、娘さんに実験台にされたと言って提訴されたわけです。それは肝臓の病気で来られた人が、肝臓の権威である医療者が、こういった方法があるのですよと、その患者はもう末期状態であった。しかし、死を待つよりもこういうような研究をしている治療法があるのです、それでお願いしますということを申し出ました。それで奥さんにも申し出たけれども亡くなられた。そこへ娘さんが来られて実験台にされたということで提訴されたわけです。しかし、私はこの医療者がインフォームドコンセントというのがあれば、本当にしっかりと家族みんなに、その治療内容、効果、危険度といったものをきちんと説明しておけば、こういうことにならなかったのではないかと思います。
また、周産期医療で刑事裁判になって、福島の大野病院、4年間裁判がありました。しかし、その医療者は無罪であった。そのコメントが「ほっとした」という言葉が出ておりましたが、その裏では1人の女性が亡くなっているのです。この人の家族の気持はどうなのでしょうか。やはりここにもその不可抗力、これはもう避けることができなかったという、いろいろな医学的観点からきちんと説明をすることによって、その家族に納得していただければ、医療者の想い、そして家族の想いが本当に通じ合うことによって解決できるのではないかと思います。
私はとにかく医療者が本当に責任ある説明。私が思いますのは、医療は医療の専門家にしかわかりません。そしてその因果関係などは専門的な観点から調査していただければ、すぐにそれはわかるのではないかと思います。このADRが、いま裁判外紛争解決というのであれば、経済性は横に置いておいて、まずは当事者同士が対話の場を持つことがいちばん大切ではないかと思います。そして、医療者にも患者にもメリットがあることが大切ではないかと思います。ただ、私たちは行って話を聞いてもらうということでもいいのですよ、とにかくお話を医療者から聞きたいということがいちばんあるわけです。もしADRで応諾がなければ、そのADR機関はどうなるのでしょうか。的確な医療者もいなければ、それは解決する方法はどうなるのかなと1つ思うわけです。
医療者のほうも院内であろうが院外であろうが、やはりADR機関的なものをつくればいかがでしょうかと、私は思うのです。
最後になりますが、多くの医療者がいらっしゃいます。ほとんど立派な医療者だと私は感じております。しかし、中に技術、知識の不足された方が医療ミスを起こしますと、クローズアップされ、医療不信となるわけですが、まずはこういった技術、知識の不足された方の克服が大切ではないかと思います。以上でございます。
○山本座長
ありがとうございました。以上で本日予定されておりました4名の構成員からのお話をいただいたことになります。あと追加というか参考資料として、医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会についてという資料が配られていますが、事務局から簡単にご説明いただけますか。
○大臣官房参事官
お手元に参考資料といたしまして、医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会についてという資料をお配りしています。資料の検討状況の5のところを見ていただきたいと思います。第1回目は、8月26日から検討会が開催されておりまして、その検討の内容としては、その趣旨のところにありますように、患者・家族(遺族)の救済及び医療関係者の負担軽減の観点から、医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方や課題について、幅広く検討を行うために開催しているものです。無過失補償制度の検討等となっていますが、検討課題の(2)に、医療事故の原因究明及び再発防止の仕組みのあり方についてと記載してありますように、医療事故の原因究明及び再発防止の仕組みのあり方を検討するとともに、その後の無過失補償制度等のあり方等について、併せて検討を行うものでございます。
現在3回目の検討ということで、そもそも国内にあります現状、即ち医療事故の原因究明及び、再発防止の仕組みのあり方の状況ですとか、あるいは無過失補償制度で一部出されている、先ほどありました産科の医療保償制度等が紹介されまして、現状についての理解を深めたいと、いまはそういう状況でます。事務局からは以上でございます。
○山本座長
ありがとうございました。私の不手際で既にかなり時間が経過をしております。本日は医療側、患者側それぞれのお立場からのお話をいただくということですので、できるだけ思いの丈を語っていただくことが中心かと思いますので、かなり時間を取ってお話をいただきました。ご質問等、多くあるのではないかと思いますが、もうかなり時間が押しておりますので、もし是非、今日質問、意見を述べたいという構成員がおられれば、お話をいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○宮脇構成員
今日、東京の三弁護士会から資料が出されましたが、これは、かなり進化されているなという印象を受けました。私も先ほど話しましたように、医療ADR機関が知られていないなというか、病院のところも知られていないし、ましてや我々へ相談に来る人は、ほとんど知らないという状況です。もったいない。是非どういう形で周知できるのか、せっかくこういう連絡機関がありますし、国としてもいろいろ周知できる手段というか手立てを考えていただきたい。東京だけでなく全国的にも知られていないというのがわかりますので、そういう点で何らかの形で、国民への周知をお考えいただきたいと思います。
○山本座長
ありがとうございました、先ほど西内構成員からのお話、弁護士会としてはホームページなどに掲載をして、周知をされているということですか。
○西内構成員
ホームページについては、先程発表しましたとおり、今まだ準備中ですが、大小2種類のパンフレットについては、いろいろな医療機関とか、その他公的な相談窓口等々にも、お送りさせていただくことを考えており、そのための弁護士会内の手続を進めております。それらがお手元に届きましたら、皆さんご協力の程をを是非ともよろしくお願いいたします。
○山本座長
その広報の面を、この会議でも引き続き検討をしていく必要があるところかと思います。ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。それでは本日のご報告についてはこの程度とさせていただきたいと思います。
最後に次回以降の開催についてご相談をしたいと思うのです。今回の会議で各構成員からの発表がおおむね一巡した形になります。そこで、次回以降この会議をどのような形で持つかということなのですが、例えば考えられるものとしては、構成員以外の、ここにお集まりの方々以外の関係のところから、何らかのご説明をいただくということ。あるいはこれまで各構成員からのご説明をいただき、若干の討論をしたわけですが、いつも、今日もそうでしたが、かなり時間が押してしまって、その論点を深めることがなかなかできない状況にありましたので、もう少し掘り下げて、今後に向けた討論を行うことも考えられるかと思います。あるいは一巡しましたので、それを踏まえて、またそれぞれのご活動について二巡目といいますか、ほかのところのお話もいろいろ聞かれた上で、そのフォローアップみたいなものをやっていくということも考えられるかと思います。いろいろな選択肢があろうかと思いますが、今後この会議をどういうように進めていくかについて、是非ご意見をいただければと思います。
○小山構成員
この後どのようなことをここで議論していくのかを、是非教えていただきたいと思います。
○山本座長
それをいまから議論していただければと思ったのです。
○小山構成員
ADRのことについて、ADRの認識が我々と弁護士会と患者さん側でやはり違うわけです。もしそれを整合性というのですか、ある程度の結論を出すのだとしたら、この構成員の形を少し変えていただかなければならない。つまり、私がここに出て来るときに、医療関係者は2人しかいないという中で、あとすべて弁護士さんと患者さん2人というようなバランスでは、もしこれからのADRをどういうふうに展開していくとかという話をしていくときには、少しバランスが悪いのかなという感じを持ったので、いまのような質問をさせていただきました。
○山本座長
ご趣旨はよく理解できます。事務局のほうのお考えはありますか。
○医療安全推進室長
今後の進め方ですが、私どもとして、何らかの結論をこの場で得るというつもりでは思っておりません。私、この会議に出席させていただくのは初めてですが、これまでの経過を見せていただきますと、ご発言いただいたことによって、徐々に認識を共有するということで進んできたものと思います。今後も何らかの結論を得るというよりは、さらに理解を深めていくように、お考えいただければと思います。
○山本座長
小山構成員、よろしいですか。そういうようなことだということで、何かを決める、ADRについてこういう方針でやっていこうという政策決定をする場では基本的にはないという理解だろうかと思います。
○小山構成員
では、各やっている所の実状を発言していただく場という理解ですね。
○山本座長
それでADRについて、どういう問題点があるのか、どういうふうにしていけばそれぞれのやっているADRがより改善していくのかというようなコンセンサスを形成していくと、そういうような趣旨かなと思います。
○小山構成員
そのような趣旨であるならば、もう少し医療側を増やしていただきたいというのが、私の率直なる意見です。いまのところとりあえず2人しかいません。でもADRを実際に小松先生はやっていられるわけですが。どちらかというとADRを作っている側という形になりますと、それでも3人という状況の中で、もう少し現場の意見を聞いてみる必要があるのかなという感じは持ちますけどね。
○山本座長
その現場というのは、具体的にはこういう人をということはあるのでしょうか。
○小山構成員
私は大学病院ですので、大学病院の立場でしかわかりませんが、一応、日本病院団体協議会の代表として出てきています。この前のアンケートでご報告したとおり、アンケートという形では、いろいろな意見を集約してこられると思いますが、いわゆる民間の中小病院、あるいは公的な病院というようないろいろな分類があると思うのですが、その辺のところの人数を、その意見を言う方々に集まっていただいたほうが、受ける側が我々2人だけですと、大きな病院で有床診療所ということになってしまいますので、もう少し病院の規模を考慮しながら、幅広い意見を聞かれたほうがよろしいかなと思います。
○山本座長
わかりました、それは事務局と協議をさせていただきたいと思います。ほかにいかがでしょうか。
○児玉構成員
大所高所からADRをどう育て発展していくかという議論を念頭に置かれて小山先生のご発言はあったと思います。ただ、他方、ご指摘があったたくさんの論点の中で、例えば保険との関係をどう整理するかとか、現行のさまざまな医師会の医事紛争の取組等をどう整理するかとか、あるいは実際にADRを運営されている側から、医学的な知見をどのような形でご協力をいただいていくかとか、さまざまな実務的なテーマがあろうかと思いますので、例えばなのですが、そういうことについてワーキングを作って資料をもう少し整理してご議論をいただくほうが、より論点整理になることもあるのではないかなと思いました。以上でございます。
○山本座長
ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○植木構成員
もうだいぶこの会議も時間が経っても、将来どうされるかという方向性が出ておりませんので、小山先生のご意見が出たのだと思います。私も同じような思いをしています。ある程度の方向性を事務局を中心に、あるひはワーキング・グループでまとめていただかなければ、我々としてもどういう方向で、どう発言をすればいいのかよく分からないところがあります。
現状分析が非常に大事なことは、そうだと思いますが、その現状を一応報告しおえたのでありますから、この先どういう工夫をすればそれを定着できるかを具体的に検討する必要があるように思います。ここである種の方向性を出していただかなければ、この会の存在性が問われるでしょうし、我々としてもどういう議論をすれば定着が可能かを議論できません。このままの状況ではたぶん不透明ではないかという印象を持っております。
○山本座長
先生がイメージされる方向性というのは、医療ADR全体について、こういうふうに進めていくということなのか、あるいはそれぞれのADR機関が抱えている、先ほど児玉構成員からお話がありましたが、ADR機関の当面している問題点について論点整理をして、それについて議論をするというイメージなのでしょうか。
○植木構成員
個々の論点整理は非常に大事だと思います。それ自体はそのとおりだと思いますが、ただ、これから先のADRをどういうように定着させ、これから先日本でこういうものが必要なのかどうか、あるいは現状の裁判との関係をどうするのかというような、ある種の方向性を出していかないと、我々としてもどういう方向で議論をしていいのかが非常に迷ってしまいますし、そこで得られる成果が少ないのではないかと危惧しているということです。
また、この会の当初から見ますと、オブザーバー数も大変減っており、この会に対する関心も薄くなっているように思います。このままの状態で継続してみても、震災以後の日本の状況の下ではかえって厳しい評価にさらされるのではないでしょうか。
○山本座長
わかりました。ありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
○和田構成員
いま1つの明確な方向性をという植木先生のお話だったのですが、私自身はADRというのは、そもそも基本的には多様性を持っているものだろうと思うのです。裁判外ですからいろいろな制度の組み方があるだろうし、それぞれに長所を生かしながら、緩やかなネットワークを作っていく、そういう意味でメタレベルの方向性はあっていいと思いますし、そういう連絡のネットワークとして、どういうシステムを作っていくのか。おそらくそれぞれ少しずつ違うリソースを持っていたりすると思うのです。あるところは法的な観点からの非常に強いリソースを持っていたり、あるところは医学界とのつながりもあって、一定のリスク検証みたいなことができるリソースがあったり、そういうそれぞれのリソースを、それぞれがそれぞれの特徴を持ちつつ、ネットワークの中でどう活用するかというような方向の、多様性を持ったADRのあり方が、本来のADRというものだと思います。
その方向を具体的に考えてみたら、先ほど小山先生がおっしゃったように、それぞれのところで、実務的な問題をどう取り組んでいるのかを、もう少し集積していくことが必要なのかなと思っています。
○山本座長
ありがとうございました。ほかにはいかがでしょうか。大体よろしいでしょうか。それではいまいただいたご意見を踏まえながら、私のほうで事務局と相談しながら次回以降の進め方を考えさせていただいて、小山構成員からもお話がありましたが、構成員の構成なども含めてということかと思いますが、進め方を考えさせていただいて、またご相談をさせていただければと思います。そのほか何かございますか。それでは事務局からお願いします。
○医療安全推進室長
次回の日程ですが、別途また日程調整をさせていただきますので、ご協力のほどよろしくお願いします。
○山本座長
それでは長時間にわたって、本日はありがとうございました、私の不手際で時間を超過したことをお詫び申し上げます。次回以降もどうかよろしくお願いをいたします。
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