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2011年10月11日 第1回社会保障の教育推進に関する検討会議事録

政策統括官(社会保障担当)付社会保障担当参事官室

○日時

平成23年10月11日(火)
10:00~12:00


○場所

厚生労働省12階専用第12会議室


○出席者

委員

大杉昭英委員 梶ヶ谷穣委員 権丈善一委員
広井良典委員 細野真宏委員 前田昭博委員
増田ユリア委員 宮台真司委員

事務局等

香取政策統括官(社会保障担当) 武田参事官(社会保障担当)
朝川政策企画官 平林文部科学省初等中等教育局教育課程課長

○議題

・趣旨説明と今後の議論の進め方
・その他

○配布資料

資料1社会保障の教育推進に関する検討会 開催要綱
資料2社会保障教育の展開について(案)
資料3平成23年度検討会のテーマおよびスケジュール(案)
資料4「社会保障の教育推進に関する検討会」でご議論いただく論点(案)
資料5学習指導要領での「社会保障」等の取り扱い
資料6社会保障に関する国民意識等
資料7厚生労働省の取り組み例
参考資料

○議事

○武田参事官 時間になりましたので、ただいまから「第1回社会保障の教育推進に関する検討会」を開催させていただきます。
 委員の皆様には、御多忙のところお集まりいただきまして、ありがとうございます。
 私は、厚生労働省の社会保障担当参事官をしております武田と申します。
 それでは、まず開催に当たりまして、政策統括官の香取よりごあいさつを申し上げます。

○香取政策統括官 政策統括官をしております香取と申します。どうぞよろしくお願いします。
 本日は、大変お忙しい中、お集まりいただきまして、ありがとうございます。
 最初に、この検討会、後ほどまた事務局より趣旨等を御説明しますが、簡単にお話をしておきたいと思います。
 もともと、この社会保障に関する教育についての検討会をやるという議論になりました背景ですが、御案内のように、今、社会保障・税の一体改革の議論が政府・与党で進んでおります。今度の一体改革の中では、制度の見直しということとあわせて、負担の問題を正面から議論するわけですが、そういった中で、社会保障制度についての国民の理解あるいは協力というものを得ていかなければいけないということで、そういうものをきちんと考えていかなければならないということがあります。
 同時に、今回の検討会をするに当たっては、私ども、そういった目の前の制度に対する理解をどうするかとか、あるいは負担についての合意形成をどうするかということもさることながら、社会保障制度というものの理念・哲学とか、社会保障を支えている社会のあり方、昔の言葉を使えば連帯ということになるわけですが、社会保障のよって立つ社会の基盤といったものを、我々の社会の中でどのように次の世代につないでいくかということをきちんと考えていかなければいけないのではないか、と考えました。
 その意味で言うと、社会保障教育というテーマを付けますと、個別の年金制度や医療の制度をどういうふうに理解してもらうかという議論をするかのように、どうしても受けとめられますが、むしろ個別の制度というよりは、社会保障制度と社会のあり方とか、社会保障制度を支えている共同体、地域社会をどのように我々が理解し、次の世代につないでいくかといった、制度政策を離れた、もっと根っこの議論を是非お願いしたいと思っています。
 今回の一体改革の背景になっています、自民党時代以来のさまざまな報告書の中でも、社会保障教育あるいは社会保障を支える理念・哲学についての国民合意をどう考えるかということが非常に強く指摘されておりまして、そこから少し議論しないといけないのではないか。その意味で言いますと、行政の役割とか国の機能・役割といったことから、身近な地域社会の中での一人ひとりの役割、助け合い、連帯というものを日常的にどのように子どもたちに考えてもらうかといった幅広い議論を、できればお願いしたいといということでございます。
 従いまして、一応検討会ということになっていますけれども、特段、ゴールと言いますか、こういったシナリオでこういった方向性を出していただきということはむしろなくて、もっと幅広い議論をいろいろな立場から自由にやっていただいて、それを私どもなりに受けとめていきたいと思っているところであります。
 余り具体的なスケジュールとか出口とかイメージを我々が持っているわけではなくて、そういった問題をどのように考えていただいて、我々自身が行政の中でそれをどういうふうに生かしていくか。むしろ、我々自身が勉強したいことも含めてお願いした会議でございます。そういう意味で言うと、我々の方でオリエンテーションするということをいたしませんので、是非自由な御議論をしていきたいと思うわけでございます。
 済みません、以上でございます。

○武田参事官 続きまして、御出席いただいている委員の皆様方を御紹介いたします。
 大杉昭英委員、岐阜大学教育学部教授でございます。

○大杉委員 よろしくお願いいたします。

○武田参事官 梶ヶ谷穣委員、神奈川県立海老名高等学校教諭でございます。

○梶ヶ谷委員 よろしくお願いいたします。

○武田参事官 広井良典委員、千葉大学法経学部教授でございます。

○広井委員 よろしくお願いいたします。

○武田参事官 細野真宏委員、株式会社アーク・プロモーション代表取締役社長でございます。

○細野委員 よろしくお願いします。

○武田参事官 権丈善一委員、慶應義塾大学商学部教授でございます。権丈委員には、当検討会の座長をお願いしております。

○権丈座長 よろしくお願いします。

○武田参事官 前田昭博委員、全国社会保険労務士会連合会理事でございます。

○前田委員 よろしくお願いします。

○武田参事官 増田ユリヤ委員、教育ジャーナリストで明治学院高等学校講師でございます。

○増田委員 よろしくお願いいたします。

○武田参事官 宮台真司委員、首都大学東京都市教養学部教授でございます。

○宮台委員 よろしくお願いします。

○武田参事官 また、本日は御欠席されておりますが、宮本太郎北海道大学公共政策大学院法学研究科教授にも、今回の検討会の委員をお願いしております。
 以上、9名の委員の皆様に、今後議論を深めていただきたいと存じております。
 続きまして、事務局の紹介をさせていただきます。
 先ほどあいさつをいたしました政策統括官の香取でございます。
 それから、私、社会保障担当参事官の武田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 右におりますのが政策企画官の朝川でございます。

○朝川企画官 よろしくお願いします。

○武田参事官 それから、今回、御出席をいただいておりますが、この検討会は文部科学省と連携しながら進めていくという形にしたいと思っておりまして、文部科学省から御参加いただいております。初等中等教育局教育課程課の平林課長でございます。

○平林課長 よろしくお願いいたします。

○武田参事官 私からの紹介は以上でございまして、それでは議事に入りたいと思います。
 それでは、今後の議事進行は権丈座長にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

○権丈座長 どうもお久しぶりです。会議に入りたいのですが、事務局からの資料の説明に入る前に、本日は増田委員が10時半前に退出しなければならないということですので、まずは増田委員の方からお話を伺いたいと思います。この後、皆様全員に検討会の抱負とか、本日の資料に関する御意見とか話すことになりますので、そういう内容を話していただければと思います。よろしくお願いします。

○増田委員 初めまして、増田と申します。よろしくお願いいたします。今、御紹介いただきましたように、私、25年間、高校で授業だけなんですが、講師という形で世界史とか、あと最近は現代社会を教えています。今回、このような役割を授かりまして、どうやって学校で教えていたかなということをいろいろ考えてみたんです。
 ここ数年は、私はもう一つのジャーナリストの仕事として、フィンランドと、それから、去年、今年はフランスに取材に行っておりました。フィンランドのときには、平等とか税金の使い方とか、あと学費が無償であるという観点から、子どもたちにいろいろ話をしてきたんですが、同じヨーロッパのフランスに行ったときに、高校生が社会保障に関して改革があることになって、デモを行うという実態を見て、どうして高校生の時期から年金改革とかを自分たちのものとして考えられるのかなということが、私の疑問と言いますか、問題点というか、課題として今、残っています。
 実際に現在、現代社会を教えているんですが、その中では、子どもたちになるべく自分たちの生活とか実感として物事を考えられるように、日常の中から題材を選んで、そこから本質的なところにアプローチしていくことを毎回必死に考えているわけですが、2学期に入りまして、子どもたちに何に関心があるかと聞いたら、学力のことには関心があると言うんですね。では、学力問題から入ろうかということになりまして、学力とは何なのか。何で全国学力テストが行われるようになったのか。それには幾らお金がかかっているのか。
 彼らは、僕たちはゆとり世代だとよく自分たちで口にしますので、どうしてそんなふうに言われるようになったか知っているかということから話を始めまして、実際には教育にどのぐらいお金がかかっているのか。学力テストを始めるきっかけとなったのは、日本がPISAと言われる国際学力調査で順位が下がったからだということを知っている子も中にはいるんです。中学校の総合的な学習の時間にそれを学んだという子もいました。
 では、そのこと自体をどういうふうに考えるの、みんなはどういうことを学んでいったらいいのということを聞いたり、あとは教育にお金が非常にかかり過ぎるということで、塾や予備校に行った経験のない子はと聞くと、去年は3クラス教えていて、1人だけいましたが、ほとんどの子は、私の学校は私立ということもあるかもしれませんが、高校1年生のときから塾や予備校に通っています。
 みんなのおうちはそんなにお金がかけられるんだねと言いながら、何年か前のビデオなんですけれども、NHKスペシャルでやっていた、高校生がアルバイトをしている。県立高校の学費も払えなくなってしまっているような状況で、授業料を減額にされても払えない子たちが、担任の先生がアルバイト先の給料の日にその給料を取りに行く。それはなぜかというと、彼らに出されるアルバイトの給料を授業料として持って行かれるという話があって。
 そういう話をすると、同じ高校生でもこんなに状況が違う子がいるのかということになって、あの子たちはどうしたら学校に行けるようになるのかということから、社会保障というのはどうなっているのかなという話の転換だと、自分たちは税金の恩恵を受けているとか、自分の家庭は恵まれている。では、自分だけよければいいのかということが考えられるように多少はなるんですね。
 でも、大半の子は他人事になってしまう部分が多くて、他人事じゃなくて、自分が社会の一員としての日本の1人なんだということを、どうしたら実感を持って考えてもらえるのかというところが、現在の私の課題でもあります。
 ちょっととりとめのない話になってしまったんですが、そういう現場の状況もありますので、ここで専門家の皆さんのお話をお聞きして、そこからどういうアプローチができるかということを考えていきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

○権丈座長 どうもありがとうございました。
 それでは、事務局で何点か資料を用意しておりますので、説明していただければと思います。

○朝川企画官 それでは、お手元の資料の確認をさせていただきます。
 上から順番に、資料1「開催要綱」で、資料2が横長1枚紙で「社会保障教育の展開について(案)」。
 資料3として、テーマとスケジュールの縦紙の1枚紙です。
 資料4が御議論いただく論点という横紙の1枚紙。
 資料5が文部科学省で用意していただいております、学習指導要領関係の資料。
 資料6が国民意識に関する資料。
 資料7が「厚生労働省の取り組み例」。
 資料8が「他の教育教材事例(租税教育)」についての資料。
 それから、机上に2種類の資料をお配りしておりまして、その1つ目は教科書の例でございます。
 2つ目は、スウェーデンの中学校の教科書例の一部のコピーでございます。
 机上配付の資料につきましては、著作権等の関係もございますので、今回の会議のみで使用するという目的で、検討会終了後は机上に置いたままお帰りいただければと存じます。
 もう一点、前田委員からの資料をお配りしております。「知っておきたい働くときの基礎知識」という冊子でございます。
 それでは、資料1から4について御説明を簡潔にさせていただきます。
 資料1は、開催要綱でございます。
 目的は、冒頭、統括官からも触れてございますが、現在、進められております社会保障・税一体改革は、国民の理解と協力を得ながら進めることとされておりまして、生徒・児童にも社会保障について、給付と負担の構造を含め、その意義を理解していただくことが重要であるということでございます。
 こういう観点から、検討会では主に以下の3点、1つ目は小中高、それぞれのレベルで理解してもらうべき内容・知識を整理いただく。
 2つ目は、教育現場で役に立つパンフレット、副教材を作成するということ。
 3つ目は、その他、社会保障教育の推進に関することでございます。
 構成員としましては、裏にあります有識者のメンバーにお集まりいただくということで、2の(3)で、座長といたしまして、権丈先生にお就きいただいております。
 運営方法としましては、公開ということでございます。
 次に、資料2「社会保障教育の展開について(案)」ということで、上半分で背景を若干整理させていただいておりますが、3つに分けてございます。
 1つ目は、国民生活にますます不可欠となってきております社会保障について、理念の共有を図っていく必要があるのではないかということで、4つ書いてございます。そもそも社会保障とは、国民の生活の安定が損なわれた場合に、健やかで安心できる生活を保障するものであるということ。あるいは、その社会保障の責任を分かち合い、積極的に参加していくことの重要性。世代間連帯の重要性。経済社会の変化への対応ということでございます。
 大きい2つ目は、「社会保障」全般に対する不安・不信の高まり。
 3つ目は、給付と負担の関係のゆがみが生じているのではないかということでございます。
 こういったこともありまして、社会保障・税一体改革の成案が6月にまとまってございますが、そこでは社会経済情勢の変化に応じた持続可能な社会保障制度の構築を図っていくということで、この検討会では、子どもたちの「社会保障への理解」を深めていくことが重要であるということでございます。
 下半分は、今後の社会保障教育に関する展開のイメージを整理してございます。
 まず、本年度及び来年度にかけまして、この有識者検討会におきまして、まず教育現場の実態を踏まえまして、「何を」「どう」学ぶべきかを整理していきたい。そして、その際、小中高校生向けの教材あるいは教材活用マニュアルを作成していくといったところが、当座念頭に置いていることでございます。
 それから、下の緑色のところですが、こういう教材を開発しましたら、実際に現場で試行的にお使いいただくということで、民間団体などを経由しまして先生方にセミナーを開いて、そこから生徒に授業する、あるいは民間団体が直接生徒に授業をするといった形の試行的事業を実施できたらと。その際、福祉施設とか行政機関の実習とか見学も組み合わせていけたらということでございます。
 24年度以降は、そういった試行的事業も踏まえまして、教材の検証とか見直し、あるいは試行的事業の検証をしていくということで、26年度ぐらいにかけて、今後の全国展開に向け提言をまとめていく。更に、27年度以降、社会保障審議会にもかけまして提言をまとめていく。最終的には、継続的・全国的に社会保障教育が推進される環境を整備していく。この一貫した流れの中で、文科省にも連携をいただきながら進めていけたらと考えてございます。
 次に資料3でございますが、検討会のテーマとスケジュールについて少し整理させていただいております。特に、今年度の分についてでございます。
 まずテーマとしましては、何を、どう学ぶかというのが1つ目でございます。2つ目は、子どもたちに伝わりやすい、先生に使いやすい教材を開発していくということでございます。
 大体のスケジュールとしましては、今日はフリートーキングをいただきまして、2回目、3回目辺りでヒアリングを交えながら、何を学ぶべきか、その事項の素案をまとめる。あるいは、どう教えていくかということについて御議論いただければと思います。第4回、第5回ぐらいに教材の原案ということで、第6回、第7回でマニュアルを開発する。大体、この辺まで年度内に行けたらという大ざっぱなイメージでございます。
 次に資料4でございますが、この検討会で御議論いただく論点の案でございます。
 上半分は、国民の理解の現状をイメージ化してございますが、左にございますとおり、社会保障に関する「正しい事実」や「大切なこと」が見えにくく、きちんと伝えられていない状況があるのではないかという問題意識でございます。右上の方に、例えばこういうことが言われているということでございます。
 下半分でございますが、論点を4つに分けて整理してございます。
 まず1つ目は、社会保障の「現状」についてということで、何が、どういうふうに誤解されているのか。あるいは、どうして無関心なのかといったところでございます。関連資料としまして、資料6に国民意識の資料を付けてございます。
 3つ目は、教育の現状の検証ということで、1つ目は、学校教育の場でどういう教育がされているか。資料としましては、資料5と、あと机上配付の1の資料が教科書の例でございます。
 もう一つは、厚生労働省のこれまでの取組みということです。
 次に、論点?としましては、社会保障の「何を」学んでもらうべきかということで、まず理念とか役割・機能という基本的なところから、社会保障の種類・概要、給付と負担の概念、身近な社会保障制度の仕組み、課題と今後ということでございます。
 これらを御議論いただいた後、論点?、副教材の作成ということでございまして、「どう」学んでもらうべきかということでございます。関連資料としましては、机上資料2でスウェーデンの教科書を訳したものを用意させていただいております。論点?ぐらいまで、今年度、高校生について到達できればというイメージでございます。
 論点?は、作成した副教材を実際に活用して、今後の展開について議論していくということでございます。
 資料4まで、以上でございます。

○平林課長 それでは、資料5で、学習指導要領における「社会保障」等につきましての御説明をしたいと思います。
 1枚めくっていただければと思います。基本的な部分を御理解していただきたいと思い、教育内容を規定する仕組みについて簡単に整理させていただきました。
 国と地方、学校がそれぞれ役割分担をしておりまして、文部科学省におきましては、全国的に一定の教育水準を確保するために、教育基本法、学校教育法といった法令に基づきまして、教育課程の基準として学習指導要領を小中高、それぞれの学校段階別に定めているところでございます。また、学習指導要領に書かれている記述の意味や解釈につきまして説明した学習指導要領解説というものを、別途、各教科別に文部科学省の著作物として作成しているところでございます。
 この学習指導要領と指導要領の解説を基に、例えば教科書会社は教科書を作成する。そして、教育委員会は教育課程など、学校の管理運営の基本的事項について制定する。各学校は、実際に具体的な教育課程を編成・実施するという仕組みになってございます。
 1枚めくって2ページ目でございますが、現在、どういう状況かということでございます。
 学習指導要領は、ほぼ10年ごとに改訂されておりまして、直近におきましては平成20年3月に小学校と中学校の指導要領を改訂いたしまして、高等学校につきましては平成21年3月に改訂をし、それぞれ実施に移るところでございます。小学校におきましては、今年度、23年度から全面実施されておりまして、来年度が中学校、高等学校は、25年度から年次進行で実施される状況にあるということで、教育課程はちょうど新しくなりつつあるということでございます。
 3ページ目以降は、社会保障、それに関連いたします租税とか財政といった部分についての抜粋をお配りさせていただきました。こういったものを教える教科としては、社会科が中心、それに家庭科となっています。
 まず、小学校についてでございますが、6年生の社会科で公民的な内容を学習することになってございまして、資料の該当部分に下線を引いております。地方公共団体や国の政治の働きといったものを学習する中で、社会保障については、災害復旧、地域開発といったものの中から選択的に取り上げるということで、具体的には市役所とか県庁が実施している、高齢者や障害者のための福祉政策とか健康・医療に関する事業とか子育て支援事業といったものを取り上げて、選択して学習することになってございます。
 また、租税の役割、あるいは納税の義務といったことについても学習することとなってございまして、その際に社会保障などの必要な費用は、租税によって賄われていること、税金が国民生活の向上と安定に使われていることなど、理解できるようにすることとなってございます。
 6ページ目は、中学校についてでございます。
 中学校は、社会科の公民的分野について学習がございまして、そこで社会保障の充実などに関しまして、国や地方公共団体が果たしている役割について考えさせることとしてございます。具体的には、憲法25条の精神に基づく社会保障制度の基本的な内容を理解させ、その一層の充実を図っていく必要があること、あるいは、少子高齢社会など、現代社会の特色を踏まえながら、これからの福祉社会の目指すべき方向について考えさせることでございます。
 また、財源の確保と配分という観点から、財政の役割についても考えさせるということにしておりまして、財政が国民福祉の観点に立って行われるべきであることを踏まえながら、財政支出に対する要望は多岐にわたり、そのための財源確保が必要であるが、国や地方公共団体の財源は無限にあるわけではないということに気付かせることとしております。
 その際、少子高齢社会における社会保障と、その財源確保の問題をどのように解決していったらよいか、税の負担者として、自分の将来と関わらせて考えさせるなどして、考えたことをまとめさせたり説明させたりするといった活動を取り入れたりしているところでございます。
 8ページ目以降に、高等学校についての記述を載せてございます。
 高等学校におきましては、公民という教科の中の現代社会や政治経済といった科目の中で、財政や租税、少子高齢化と社会保障について学習することにしてございます。財政や租税につきましては、財政政策が国民の福祉の向上に寄与する目的で行われていることに気付かせ、限られた財源をいかに配分すれば、国民福祉が向上するかを考察させるということとしてございます。
 また、少子高齢化と社会保障につきましては、医療や年金など社会保障費の財政負担の増大の問題など、日本の社会保障制度の歩みや特色などに触れながら理解させるとしております。具体的には、少子高齢社会に伴う問題点を家族、介護、雇用、年金、医療などの面から調べさせて、その解決のための方法について探求させたり、少子高齢化が進む諸外国の現状と課題などについて調べさせて、日本のこれからの福祉のあり方について探究させることが考えられます。
 11ページ目に、高等学校の家庭科についての記述もございます。
 家庭科におきましては、家庭基礎とか家庭総合、生活デザインといった科目がございますが、その中で、高齢者の自立生活を支えるために家族や地域及び社会の果たす役割について認識させること、高齢化は社会を構成するどの世代にも関わる課題であるということや、乳幼児期から、青年期、壮年期、高齢期といった各ライフステージに、どのような福祉や具体的支援が必要かということについて、理解させることとしてございます。
 更に、病気や事故などの不測の事態に備えたリスク管理の方法とか、就職、結婚、出産、高齢期の生活といったものを想定して、年金や保険を含めた経済社会の重要性を認識させるといったことにしてございます。
 指導要領は、以上でございます。
 なお、本日の机上配付資料に教科書の関係部分がございますが、先ほどの2ページのとおり、現在、小学校より順次全面実施を行っているところでございますので、小学校の教科書は、新しい指導要領のもとでの教科書でございます。中学校につきましては、来年度から使用される見本本であり、高等学校の教科書につきましては、現行の指導要領に基づいて作成されたものであることを申し添えておきます。
 以上です。

○朝川企画官 続きまして、資料6でございますが、国民意識に関する世論調査等を幾つか付けさせていただいております。
 簡単に見ていただきますと、1ページ目は満足度の関係でございます。
 左上にありますとおり、「満足している」「まあ満足している」辺りの割合は非常に低い、20%ぐらいであるということでございます。
 2ページ目、知識の入手手段についてですが、年代が下がるにつれて給付より負担が多くなると感じている傾向があるとか、特に若い世代において「現状は維持できない」という傾向が見られます。
 次に、4ページ目を見ていただきますと、特に年金とか国民健康保険の関係は、納付率・収納率がだんだん低下してきている。特に若い世代が低いという傾向がございまして、そういう国民意識、あるいは理解を求める必要性が高いということがうかがえます。
 更に、5ページ目、制度の認知度の関係でいきますと、さまざま関係機関があって、窓口もあるわけですけれども、実際に利用したことがないようなものは余り認知されていない。あるいは、利用した窓口は知っているという一般的傾向が見てとれます。
 次に、資料7、厚生労働省の取組みの主だったものの例でございます。
 旧社会保険庁時代に「年金教育」ということで、学校向けに使用していた教材の例を最初に付けさせていただいております。
 2つ目が年金委員、これは現在もある制度でございますが、中ほどに縦紙1枚紙で入ってございます。こちらは、成人世代向けに年金の普及・啓発を行う委員の制度があるという紹介でございます。
 その1枚後ろに労働法の関係で、「知って役立つ労働法」というパンフレットの抜粋を付けてございますが、こちらはホームページからもダウンロードできますが、学校から要請があれば出前の教育をするという試みもしてございます。
 最後は、厚生労働省の業務紹介の教材を付けさせていただいております。
 次に、資料8でございますが、社会保障に近接する分野として、租税教育がどうなっているかということで、その事例を付けさせていただいております。
 1つは、国税庁の高校生向けの教材。
 2つ目は、東京都が中学生向けにつくっている教材を付けさせていただいております。
 非常に簡単でございますが、以上でございます。

○権丈座長 どうもありがとうございました。
 ただいまの事務局からの説明を踏まえて、今からフリートーキングに入りたいと思います。どなたか質問とか御意見、ございますでしょうか。
 名簿順でよろしいですかね。大杉委員、よろしくお願いいたします。

○大杉委員 質問が1点と、意見を少し述べさせていただきたいと思います。
 質問の部分は、社会保障をどう教えるかという問題が、当然ながらクローズアップされています。もう一つポイントになるのが、教員養成に関わる問題も少し目を向けた方がいいのではないかということです。それは、ちょっと古いデータですけれども、小学校、中学校、高等学校の先生方の数を、ざっくり言いますと、小学校は42万人で、中学校が25万人、高等学校が24万人。
 小学校の先生方は、先ほど教育課程課長さんから御説明がありましたように、社会科を中心に教えると言っても、全員がどの教科も教えますから、42万人が教える可能性がある。中学校は、9教科程度ですから、2~3万人の方が教えられる。現在、新聞の報道などによると、50代の団塊の世代が退職されますので、新しい方が入ってくる。ということは、10年ぐらいで半分少し切るぐらいの方が、新たに学校に指導者として入ってくる。
 そういったときに、社会保障の内容をどう教えるかという問題は、教員養成の方にも少し目を向ける必要はないかというのが1点で、これを質問として、今回の資料4の中には指導法のことがあるんですけれども、これを少し入れていただく方がいいのかなというのが1点です。
 2点目に、私は岐阜大学で教員養成に関わっていますけれども、小学校、中学校、高等学校の社会科の教員を目指す者を指導しています。社会科を、小学校では何を教えるか、中学校では何を教えるか、高等学校では何を教えるべきか、あるいはどういう授業構成をするかということを学生に指導しています。
 学生たちは、教育実習に行きますから、すぐに授業をしなければならないんですけれども、大前提として、あなたたちは公務員になることを目指しているんだから、公務員というのは法令に基づいて仕事をしますから、子どもたちに教える場合、法令はみんなに共通に学ぶものを示している。先ほど御説明がありましたように、学習指導要領というのはみんなに共通のものを教えて、それを踏まえて子どもたちの様子を見て発展的な内容を教えていく。先生方の工夫で指導法を改善されているわけです。
 その場合、学習指導要領はどの内容を扱うかということと、どういう配慮事項があるかということを述べている基準なわけで、その後は先生方が教材を開発して工夫して指導される。そういうことを踏まえて、小中高、こういう授業構成をしましょうねということを私は教えているんです。
 小学校の場合は、少し重複しますけれども、身近な生活の中で公的機関はどんな役割を果たしているか、あるいはどんな機能を持っているか。つまり、私たちに対してどのように役立っているかということを学んでいきます。中学校では、状況理解ということで、制度や仕組みというものをまず知らないと、なかなか考えられませんから、これを学んでいって、そして高等学校では、先ほどごあいさつの中に、制度の哲学とか社会のあり方を学ぶべきとおっしゃられたんですけれども、非常に私、共鳴しております。
 高等学校は、新しい指導要領では、社会のあり方を考える基礎をまず学んで、これは幸福、正義、公正という3つの考え方に基づいて社会のあり方を考えましょうと。その上で、今回テーマになっている社会保障についての学習も考えていく。公正というのはどういうことなんだということを基に考えていこうということになると思うんですけれども、高等学校で学生に教えているのは、特に医療保険や年金保険を教えるときに、どういう社会のあり方を考えれば、制度はどう形を変えてあらわれていくのかというのを勉強しましょうと教えています。
 そのときは、4つの制度のあり方を基礎付ける考え方として、功利主義と社会契約主義と共同体主義と自由市場主義ということで、その考え方に基づくと、アメリカが制度改革前に、医療保険は民間の私的医療保険を中心になされているけれども、日本は公的医療保険を中心になされているのはなぜかということを考えていきましょうと。それがわかって初めて、教科書に書いてある記述を深く読み取って生徒に指導できるということを教えているわけです。
 そういう意味では、最終的な意見になりますけれども、私は制度の哲学とか社会のあり方の基礎というのを子どもたちが学んで、いろいろな新聞やテレビで見る出来事を自分で解釈して、ちゃんと相手に説明して、だから私はこれがいいんだということを言える子どもたちを育てましょうと言っておりますので、この検討会の中で制度の哲学といったものを是非議論していただければ非常にいいなと思っております。
 以上です。

○権丈座長 どうもありがとうございました。何か、いい検討会になるんじゃないかなという感じがしますね。私の中では非常にいい話を聞かせていただいたと思っています。
 先ほどの学習指導要領の話では、今現在の指導要領の話をされましたけれども、私の中の疑問として、昔から、指導要領はどういうふうにして作られてきたのかということがありますので、いつかまた教えていただければと思います。と同時に、その時代その時代の指導要領の特徴を時系列で眺めることができる資料でもあればと思いますので、よろしくお願いいたします。
 次は、梶ヶ谷委員、よろしくお願いいたします。

○梶ヶ谷委員 神奈川県立海老名高校の公民科教諭の梶ヶ谷です。現場の教員として、今のお話等につきまして、いろいろな論点に話が飛んでしまいますが、よろしくお願いいたします。
 まず、社会保障については、先ほど増田先生が人ごとと言われましたけれども、生徒にとっては人ごとにもなっていないのかなと。今の高校生の多くは、無関心というのが私の実感です。私が今、勤務している高校は、神奈川県のほぼ中心に位置しており、東名高速の海老名サービスエリアの近くにあります。各学年9クラスで3学年ですから27クラス、約1,100名の生徒が在学しています。ほとんどの生徒が大学や短大などへ進学する、いわゆる典型的な全日制の普通科高校です。
 私は、今、現代社会という科目を1年生の8クラスで教えています。生徒に社会保障について聞いてみますと、中には社会保障って何だっけと、社会保障について全然イメージがわかない生徒もクラスに何人かいます。逆に、自分の体験とか日常生活の中で、社会保障について物すごく興味や関心がある生徒も何人かいます。ただ、ほとんどの生徒は社会保障は、今の自分にとっては先のこと、遠いことという認識しかありません。また、認識しているかどうかもわからないんですけれども、無関心あるいは興味がないということは事実です。
 何年か前に年金記録の問題がありましたけれども、そのときに授業で生徒に社会保障や年金を教えていて感じたのは、社会保障や年金が自分のお金とも絡むことだとわかると、とても興味や関心を示しました。実際に自分たちが払った年金の保険料が将来自分たちにどういう形でいくら戻ってくるのか、あるいは本当に戻ってくるのかという議論も授業ではしました。そういう具体的な話題がないと、やはり社会保障については、少なくとも今の高校生については身近な問題ではないと言えます。またこれは、私たち教員が社会保障についての授業を制度の説明などに偏ってしまい、考えさせる授業の展開が難しいということも一つの大きな理由かもしれません。このようなことが高校の公民科における社会保障の学習についての現状ではないかと思います。
 もう一つは、生徒が社会保障について無関心だということと同じように、私たち教員の多くも社会保障あるいは年金や保険について無関心で、職場の中で社会保障や年金が話題になったり雑談で話されることもほとんどありません。そういうことを考えますと、まずは生徒を教える以上に、教員の関心を高めなくてはらないのかなと思います。
 ただ、定年が近くなりますと、何回か年金などについての説明会があり、参加された先生が話題にされることもありますが、普段社会保障に関する話題が出るということは、ほとんどありません。
 今のお話を伺っておりまして感じたのは、私たち教員は、教科書を教えるという意味ではありませんが、学習指導要領とその解説、更にそれに基づいて作成された教科書あるいは副教材というものを基本に授業で教える、また扱うわけですから、何をという議論が先ほどありましたけれども、私たちの現場からすると、そういう教科書内容や学習指導要領の記載内容が基本になります。
 そういうものをベースにして、各学校では、シラバスを作成し、それに従って授業が展開されていると思います。ただ、それぞれの学校の生徒の様子とか状況によって、先生方は具体的な学習内容をいろいろなバリエーションで扱われたり、あるいは資料等を自分で探されて、何とかそういうところにうまく結び付けるような、先ほど増田先生が言われましたけれども、様々な努力や工夫をされているのではないかなと思います。
 最後に、また後で議論になるかもしれませんけれども、生徒がなぜ社会保障等について興味や関心がないかというと、生徒たちは中学校の授業内容で社会保障の4本柱とは何かなど、制度や専門用語が多かった、難しかったということをよく言います。そのことは教科書を見ますと、決して社会保障の分野だけではありませんが、やはり制度や技術的、事務的、ルール的な内容が盛りだくさんで、本来の社会保障を教えたいものの、生徒にうまく教えられるかというと、その辺りがネックになるのではないかなと感じております。
 もう一つは、もっと授業時間数が多ければと思うんです。授業時間数がどうしても少ないことが、社会保障の学習項目だけには限りませんが、十分に扱えない、学習させることができないということです。
 これからの議論の中で、また出てくると思いますけれども、冊子の作成の件ですが、学校現場では基本的に教科書あるいは教科書に沿った副教材などを授業で扱うわけですが、今回作成が予定されている冊子が、どういう学習場面で利用されることを前提とするのかが大きな課題だと思います。教科書があり、そして副教材があり、それにプラス・ワンの今回の冊子が作られて、また同じような制度や仕組みについての解説がある、生徒はなかなか見てくれないんじゃないかなと思います。
 そういうことを考えますと、ただ今、大杉先生が言われましたように、メッセージ性の高いもの、単に制度や仕組みを解説するのではなくて、国とか政府が社会保障についてこう考えている、あるいは厚生労働省はこのような考えから政策を実施するというような強いメッセージ性を持った、そして生徒が興味や関心をもって少しでも読みたいと思うようなもの、細かな内容や制度に余り入らない冊子がいいのかなと思っています。学校現場では、「○○教育」が多くて、ここでまたプラス・ワンで社会保障の教育と言われますと、学校現場の教員の一人としては結構大変だと思います。
 社会保障については、公民科、あるいは家庭科で扱うことが基本だと思いますが、そのほかにホームルームとか総合的な学習の時間を活用することも考えられ、そこでも使用可能な教材、冊子の作成が考えられます。ただ本音は、あまり同じような教材がたくさん出てくると、学校の現場は戸惑ってしまいます。
 以上です。

○権丈座長 どうもありがとうございました。梶ヶ谷委員から、教員の無関心という話があったのですけど、私も大学の教員をみていて思うことは、ほんの少し専門がずれると社会保障や財政のことなど悲しいくらいに全くわかっていないですね。だけど、そうした大人達にも子どもの時代は皆あるわけですから、そこを何とかしたいというのが、この検討会の考えているところかなと思っております。どうもありがとうございました。
 広井委員、よろしくお願いいたします。

○広井委員 私は、社会保障論という通年の講義を大学で担当しておりまして、実は今日も午後にそれがあるんですが、そういった経験を踏まえて、2~3申し上げさせていただきます。
 1点目は、社会保障というと、どうしても制度論の話が中心になるわけですが、冒頭の政策統括官のお話ですとか、既にお二人の委員の先生方も関連することをおっしゃっておりましたけれども、制度の根底にある思想と言いますか、哲学という言葉も何回か出てきておりますし、あるいは原理と言いますか、これが非常に重要かと思います。むしろそういった議論の方が、小中学生、高校生も含めて非常に関心が高いという印象を持っております。
 例えば、去年でしたか、マイケル・サンデルの「これからの『正義』の話をしよう」が60~70万部を超えるベストセラーになりましたけれども、あれなどはまさに実質の中身は社会保障の話がほとんどです。何が公平か、平等か、再分配の根拠は何かという話でありますし、それから、先ほど幸福という言葉も出てまいりましたけれども、今、幸福研究とかブータンのGNHとか、GDPにかわる指標の幸福というテーマも非常に盛んになっています。
 福祉という言葉の本来の意味は幸福ということで、まさに幸福な社会というのはどういうふうにしたらできるのかといったテーマに、若い世代は非常に関心が高いと感じておりますので、そういったものと結び付けて社会保障の制度論を議論する。
 背景としては、これまで経済成長ということで、ずっとパイの拡大でやってこれた社会が、今、分配の問題とか社会の目標を何にするのかという非常に根底的なことが問われていると思いますので、まさにそういったことと結び付けて教える。また、一つの答えがあるというよりは、議論される点かなと思います。
 あと、関連で、国際比較というのが割と重要かなと思っていまして、それもわかりやすいもので、例えば先週、授業で使ったマイケル・ムーアの「シッコ」というアメリカの医療保険についての映画があります。あれは割とよくできていて、アメリカとカナダ、イギリス、フランス、キューバの医療保険をドキュメンタリーで、多少主観が入っている部分もあるかと思いますけれども、描いている。
 ああいうものを学生に見せると、衝撃を受けたとか、日本の皆保険というのは空気のようなものだと思っていたのが、そうでないことがわかったとか、いろいろ感想が出てきます。そういったわかりやすい国際比較みたいなものが大事かなと思います。
 それから、全体を通じて大学で社会保障とかやっていても、本当に中高で社会保障について学ぶ機会が非常に少なかったというのを学生から聞きますので、知る機会が小中高段階で非常に不足していることを感じます。
 あと、どちらかというと社会保障というと、高齢者の問題であるというイメージ、つまり年金とか介護、医療の問題、そういう意味でやや遠い存在として感じていることが大きいと思いますので、その辺もそうではないということで、人生前半の社会保障という言い方を私はしていますが、意識しながら教育ということを考えていく必要があるかなと思います。
 ひとまず以上でございます。

○権丈座長 どうもありがとうございました。社会保障というと、生活保護だと思っている人が結構いるんですね。いや、そうじゃないよということを伝えるだけでも大変なんですけれども。国際比較の視点については、高校、中学校の教科書とかをいろいろ見ると、なかなか見当たらないですね。その辺りのところも検討していただければと思います。
 では、細野委員、よろしくお願いします。

○細野委員 細野です。よろしくお願いいたします。
 まず、皆さんから御意見が多々出てきたと思うんですが、まず「生徒が無関心」という問題が大きくありますね。もっと言うと、梶ヶ谷さんがおっしゃったように、「教師も無関心」なところがある。更に言えば、「国民自体も無関心」だったりする面があるので。そもそも社会保障は、本当はものすごく重要度が高まっているのにもかかわらず、普通に生きていると社会保障という仕組みがぴんときていないので、そこは教育で、まず何とかしていかなければいけないだろうという意味で、今回のこの会議はものすごく意味があると私は思っています。
 ただ、例えば学生に焦点を絞ったときに、「彼らが学ぶインセンティブをどう高めるんだろうか」というところがまず大きな課題になると思うんですね。わかりやすい分け方で言えば、学生が興味を持つのは、単純に「覚えておいた方がいい」という状況を作り出す。具体的に言うと、テストに役立ったり、大学に受かるときに必要な知識かどうかというところです。だから、テストみたいな形の中に、この社会保障の教育も入れ込むのかどうか。
 もしくは、もっと深いところ、生きていくには根本的に知っておかなければ損するよねというところで、人ごとにしないために、「そもそも社会保障という仕組みを知らないと、こんなふうに損するんだよ」とか、あるいは「知っているとこんなふうに得するんだよ」という、単に用語を教えるんじゃなく、仕組み自体をちゃんと納得して理解させること、その両輪が必要だと思うんですけれども、そこのすみ分けみたいなものをどうしていくのかというのが、これからの議論の大きな課題になるんだと思っています。
 先ほどから、委員の皆さんがおっしゃっていたように、そもそも社会保障自体をどう教えるのかとなったときに、根本的に教員養成をどうするのかというところもそうなんですけれども、教員自体も無関心だし、かつ、何をどう教えたらいいのかというところがきちんと定まってなさ過ぎるところがあると思うんです。それは、いろいろな意味で、この国は不幸にして「政権交代の道具」に社会保障が使われてしまったので、かなり間違った知識とかが散乱してしまって、国民は何を信じていいのか、そもそも論でわからなくなっている。
 だから、教える教師の方も社会保障の仕組み自体を知らないわけなので、それで子どもに教えろと言っても無理なわけですね。だから、そう考えていくと、この会合の中で基盤になるようなところをしっかり定め、これは教えなければいけないね、これはどうなんだろう、とか、一つひとつ論点を整理していくことが重要だと思うんです。
 それで言うと、象徴的なのが、皆さんのお手元に学校で使われている教科書の例という資料がわたっていますよね。そちらで具体的に見ていった方が早いと思います。インデックスで言うと11ページ、この教科書で言うと99ページなんですけれども、まず子どもたちが何で社会保障を嫌がるのかといったら、無意味に覚えなければいけない用語が多い。私も本当にそう思うんです。
 この99ページにあるのは、例えば『ノーマリゼーションという考え方に基づき』という用語、これは複数の教科書で同じ記述があったので、たぶん義務教育の学習指導要領でこういう用語を使えみたいな形で出ているのかなと思うんですけれども、果たして「ノーマリゼーション」という難しい言葉を本当に教えなければいけないのか、と。この用語を使わなくても、その仕組み自体を簡単に理解させることは可能だと思うんです。
 例えば、もう一つは「賦課方式」という言葉が99ページにも出てきていますけれども、「賦課方式」という言葉自体も日常的に使われるのかと言ったら使われないし、必要以上に難しくしているだけだと思うんです。この会合を機に「仕送り方式」という、だれでも言葉を聞いただけでわかるぐらいの用語に置き換えていくだけでも、イメージが相当違ってくると思うんです。
 さらに、用語以外においても、そもそも「教科書の説明自体がわかりにくい」というのが、大きな問題としてあると思うんです。私は、例えばこれは正直言ってよくわからないし、正しいのかどうかもちょっと判断しにくいんですけれども、この教科書では賦課方式の説明として、『必要な年金給付費用を現役労働者のその年の保険料で賄う制度。これに対して被保険者自らが年金受給費用を在職期間中に積み立てる制度を積み立て方式と言う。現在は、賦課方式を基本に積み立て方式が加味されている』というのがあります。
 これを読んでわかりますか。私は正直、ぴんとこないです。私たちがわかりにくいと思っていることを、子どもが読んで果たしてわかるんですかね。教科書は、大人が読んでわかるぐらいのレベルにまでは、情報をいろいろ整理していかなければいけないんじゃないのかなと思っています。
 それに関連する話で、同じ99ページの右下、定番のように、公的年金の仕組みという説明で「国民年金、国民年金基金、厚生年金」などのブロックごとを一つにまとめた、お決まりの図が一つぽんと出てくるわけです。これについても私はいろいろな意味で問題があると思うんです。『公的年金制度の仕組み。制度が分立し、複雑になっている』という説明から入っているんです。しかもこの図の説明はそれだけになってしまっている。
 これはある種、「教育の放棄」だと思っているんです。年金制度は、突き詰めていけば、実はそんなに難しい話じゃないんですよ。だから、こんな複雑な図を与えるよりは、実は、公的年金というのはそんなに難しい話じゃなくて、「幕の内弁当と同じだ」と、将来に国から死亡するまでもらえる弁当だと、わかりやすくたとえてあげれば、その仕組みというのは、「ああ、そういうことなんだ」という話で、実はかなり理解しやすいものなんです。直近で言うと、この会議のベースになっている総理官邸でやった「社会保障の集中検討会議」で、会議の中で私が長々と説明したので、この場では時間的にちょっと割愛させていただきますけれども。つまり、教育する側の方が、「複雑になっている」と一言で逃げるのではなくて、「どうわかりやすく説明していくのか」というところまで突き詰めていかないといけないんじゃないかと思っています。
 もう一つ、今の話の流れで、『制度は分立し、複雑になっている』という部分の次の説明なんですけれども、『これらを整理し、財源を社会保障から、所得に比例した社会保障税にする年金制度の一元化が議論されている。税方式は、各人の給付が業種や職種に関わらず、現役時代の拠出額に比例するため、制度への信頼回復につながると期待されている』というところも、きちんと仕組みを知っている人から見ると、ちょっと誤解があるというか、間違っているよね、ということなんです。
 ただ、これが教育現場ではスルーされているといいますか、もっともらしく成立してしまっているんです。そのぐらい、社会保障の仕組みというのは教育現場でも誤解されまくってしまっているんです。その要因として、繰り返しになりますけれども、残念ながら、この国では政治の道具にされてしまって、マスコミを中心に余りにも誤解が渦を巻き過ぎてしまったことも大きいんです。
 象徴的な例を1つだけ最後にお話しますと、よく言われている話として、さすがに最近では余り見ないですが、政権交代の前後では「民主党の税方式に変えると保険料の徴収が要らなくなるから、事務経費とかが格段に安くなる」というような解説がいろいろな雑誌に載ったりしていたんです。当時はむしろ、そういう解説を探さない方が大変なぐらいの状況だったんです。いわゆる専門家と言われている人たちがそういうことをもっともらしく解説したりするんですけれども、そんな初歩的なスタートレベルから平然と間違いまくっているんです。
 これは、民主党自体がよくわからずに、ふわんとした状態で制度を出していたところにも問題があったんだと思います。ただ、政治的な決着はこの前の総理官邸での「社会保障と税の一体改革」でついたと思うので、あとは、この社会保障の教育をどう立て直すか、ものすごく重要な岐路に立っていると思います。
 最後にもう一度、全体の要点を整理しますと、1つ目は、テスト形式にうまく入れ込むようにするのか、あるいは他に「どう学ぶインセンティブを高めるのか」というところで、最大限に社会保障の仕組みをわかりやすく説明して、この授業を受けてよかったなと思えるようなところまで持っていけるのか、というのが論点の1つ目。
 もう一つ目は、教員の育成以前に、そもそも教育のソフト自体がめちゃくちゃだという状況。そのソフトをいかにつくり上げるのかという課題、その2つをとにかく突き詰めていくことが、この会議の重要な役割になっていくと思っています。

○権丈座長 細野委員の話には、ノーコメントとしておきましょうか(笑)。細野委員には、これから先、大いに活躍していただきたいと思っております。私はノーコメントとしまして、来週月曜日に出る『週刊社会保障』という雑誌に私が書いている文章「政争の具にされてきた年金の現状」がありますので、ご覧になって下さればと思います。
 それと、全体的なことを言いますと、教科書の内容でも、歴史に関してはものすごく過敏であるように見えるのですが、税・社会保障だけではなくて、現代社会のことについては余りにも無関心過ぎたんじゃないかという気がしますね。
傍聴席に出席されている記者をはじめとした方々が、この配付資料の教科書のコピーを、著作権か何かの問題があって持ち帰ることができないのは非常に残念です。私も先ほど細野委員が指摘したページとかに線を引いていて、「本来」と書いてある、その次の言葉がもう間違えていたりするんですね。
 教科書というのを皆さんもごらんになっていただければ、ここで検討しなければいけないことが浮き彫りになってくるのではないかという気もしております。
 では、前田委員、よろしくお願いいたします。

○前田委員 社会保険労務士の前田でございます。
 先に1つ質問させてください。平林課長、いらっしゃいますが、学校教育の中で、高校生で構いませんけれども、租税教育と社会保障の教育はどのくらいとりなさいという指針は出ているんでしょうか。

○平林課長 それは特にないです。基本的には、各学校でそれぞれ工夫して授業を展開するということですので、勿論、テーマによっては長く取り上げる場合もあれば、もしかすると時間数の関係で余り深くできない場合もある。それは、各学校それぞれの先生の裁量となっています。

○前田委員 では、取り上げなくてもいいんですか。取り上げなければいけないんですか。

○平林課長 基本的に指導要領に挙がっている事柄は、取り上げる必要があります。

○前田委員 それは極端な話、1時間とか、1こまでも構わないわけですか。

○平林課長 別に時間でということではないので、その内容を教えるに足るだけの時間数は確保してもらうということです。別に決まりはありません。

○前田委員 ありがとうございます。
 実務家というところでお話申し上げますと、なぜ今お聞きしたかと言いますと、私は社会保険労務士ですが、税理士あるいは公認会計士という資格の職業の方がいらっしゃいます。その方々のいろいろなホームページを見ますと、租税教育については、税理士会と国税庁と協力して取組むんだというコメントがいっぱい載っているんです。
 社会保障については、別に社会保険労務士じゃなくてもいいんですが、民間の力をかりてどんどん教育していくんだという方針は、どこにも出てこないんですね。増田先生も先程おっしゃいましたが、社会保障については全く「人ごと」のようですね。
 先ほどお手元にお配りしました高校生向けの社会に出たらどういうことがあるかということについて「知っておきたい働くときの基礎知識」の冊子をつくりました。これは、全国の社会保険労務士会で今後、学校等にプレゼンしていく資料にもなりますし、実際、福島県では23の学校で社会貢献の一環として行う授業で教材として使っております。
 私の属しています東京会では23の支部がありまして、各支部で中学校の先生等に、年金教育はいかがでしょうかと、年金の話等をプレゼンに行きます。最終的には学校長の裁量で、授業の実施の可否が決まりますが、今後は教育委員会で統一していただきたいですね。
 それから、高校生については、社会に出ていきますので、年金だけじゃなくて、大きな意味での社会保障、労災保険とか労働基準法も含めて、授業を90分ぐらいのこまを持って実施しています。これも学校長の裁量なんですね。
 国民年金の保険料の収納率が6割を切ったニュースが流れます。このことについては、だれもそんなに関心を持っていないですね。たまたまそこに関わっている方々が、えっ、6割切ってしまったの。今後、年金制度はどうなるのということで、一部の方が気にするだけであって、国民の大多数も、ああ、そうなの。どうせ国が何とかしてくれるんでしょうということで、本当に「人ごと」だと思っているようですね。
 先程一部の先生方がおっしゃいましたけれども、学校の先生も社会保障についての教え方が大方おわかりになっていらっしゃらないんじゃないかと思います。
 今、都立高校や区立の中学校に社会貢献という形で出前授業をしていますが、最近、新宿の図書館から、図書館に出入りしている、本を借りに来るお母さん方から、だれか年金の話をしてくれる人はいないでしょうかという話がありましたので、私どもの新宿支部では、お母さん方に年金制度の勉強会をしています。そこからお母さん方が社会保障に興味を持って、子どもに対して年金の仕組みや、お父さんがもらってくる給料はこうなっているのよという仕組みの説明を、親が子どもに教えると言うふうにいずれなっていくと思いますね。
 今日いただいた資料7の中に旧社保庁で使っていた年金教育の本があります。あと、労働法の学習教材、これは抜粋ですけれども、これが厚労省のホームページに入っているから、必要があればダウンロードして使ってくださいと。これは講師も派遣されるんでしょうか。そういうことであれば、これから高校生は社会へ出ていって、社会の一員として働いて、まさに将来を担う方々ですので、そこでトラブルが起きないように、社会の仕組み等を教育していただくということを是非お願いしたいですね。
 そういう意味では、今回、せっかく文科省と厚労省との合同の席ということであれば、さっきも先生おっしゃいましたけれども、難しい文言は要りません。易しい社会保障についての教育を早目にやっていただきたいというのが私の希望です。
 現在、私ども東京会では、一部の中学校、高校で出前授業を行っていますが、今後は全部の学校での出前授業を早く実現するために、都議会各会派に、都立高校での学校教育実施についての予算を是非取ってほしいということもやっていますし、同じように各区における区議会各会派に同じ要望をしております。これはすそ野から広げていかなければいけない問題かなと思っております。
 以上です。

○権丈座長 どうもありがとうございました。これから先もどんどん言っていただきたいと思います。私は、厚労省と文科省というだけではなくて、各政策官庁、いろいろなところがあるわけですが、その政策官庁と教育官庁というのが一体どういう関係でいるのか、そして、過去、いたのか。そういう疑問を持っています。その辺が私の中で解明できれば、この会議に出席した甲斐があったかなとも思えるくらいです。いろいろ教えてもらえればと思いますので、よろしくお願いいたします。
 では、宮台委員、どうぞ。

○宮台委員 宮台真司と申します。大学では、社会システム理論、理論的な先端と、あと政治思想や社会思想の歴史。あとは、宗教や性を中心とした若い人たちの現状あるいは歴史について教えてきています。それとは別に、10数年間、インターネットでニュース解説の動画配信の運営をしてきておりまして、さまざまな問題を扱ってきております。
 まず、私の問題意識を申しますと、多くの委員の方々から人ごとという言葉が出てきましたが、人ごとである理由は簡単で、まず社会保障以前に社会についてのイメージが貧し過ぎるということがあります。どこが、どう貧しいか、理由は簡単で、自治の概念が、知識的にも実践的にも全く教えられ、学ばれていないということに尽きると思います。
 例えば、日本社会が現在、さまざまな社会指標から見て異常値を示していることがよくわかられていません。現在の自殺率は、イギリスの4倍、アメリカの2倍です。孤独死や無縁死は、ごらんのように蔓延しているわけです。東大病院では、3割以上の人が葬儀を出さずにお焼き場に直行しておたき上げです。勿論、超高齢者所在不明問題や乳幼児虐待放置問題は、皆さんのよく知るところですね。
 OECD国際比較調査を読みますと、家族のきずなを示すようなデータは、すべての国の中で最低値を示しております。それだけではなくて、各種幸福度調査では、日本は今までのところ75位から90位の間に分布していて、たしか今はGDP個人別世界23位かと思いますが、余りにも低過ぎてスキャンダルだと思われますが、そうした実情についてもほとんど知られていないのです。
 実は、日本だけではなくて、先進国もまたうまくいっていないということをよく知る必要があるんです。グローバル化、つまり資本移動の自由化が進みますと、従来のような形で市場や行政を選べなくなりますので、人々はどんどん不安になります。不安になると、それがポピュリズムの温床になりますので、実際、今、先進国はどこでも緊急避難的に必要な増税とか財政出動ができません。これは、今日のアメリカのオキュパイ・ウォール・ストリートを見ればよくわかることでございますね。
 であるがゆえに、実は市場や行政に依存し過ぎないような自治が要求されているわけです。実は、今から40年前、1970年代に福祉国家財政が破綻したことをきっかけに、スモールガバメント、小さな政府ということがアングロサクソン系から言われるようになりました。
 勿論、その背景には、単なる財政の問題ではなくて、多くの国が成熟した資本主義段階に入って、それぞれの段階で増えた人口がどんどん年齢が上がり、新しく出てきた子どもたちは数が少ない。それは、都市化によって少子化が起こるからです。どこの国でも人口の逆ピラミッド化が起こり、従来の福祉国家財政は破綻するわけです。そのときに小さな政府という話が一部で出てきたし、その延長線上で、ニュージーランドでは公務員のリストラもされた。今、ギリシャでは公務員がぱかすか首を切られているという状況ですね。
 ただ、70年代のスモールガバメントと今が違うのは、例えばイギリスのキャメロン政権は、スモールガバメント・アンド・ビッグソサエティーと言っている。大きな社会という中身は、自治です。自治の中身は、共同体自治と市民自治に分けることができるでしょう。共同体自治は、従来の地域や家族と考えてもよい。市民自治は、この40年の歴史の中で、日本以外の国々はソーシャルビジネスを含む非常に分厚いものに変わってきています。御存じのように、日本のNPOは行政の補助金にぶら下がっています。
 アメリカでも1970年代まではそうでしたが、レーガン政権が誕生して、そこでほとんど切られました。そこで生き残ったNPOは、御存じのようにソーシャルビジネスと言われるような形態、つまりいいことをしてお金をもうけようという形に変わって、物すごい分厚い、新しい公の領域の担い手になっているわけです。
 こうした先進国の困難や、それに対する対処の歴史も、日本ではほとんど教えられていないどころか、大学生とか教員に至っても、ほとんどわかっていない人が大半だと思われます。当たり前のことなんですけれども、昔から多くの先進国を支えてきた思想は、自立、インディペンダンスが重要であるということです。それが民主制ということの基本になっているんですね。
 御存じのように、文部省が新憲法施行直後に出した「あたらしい憲法のはなし」というパンフがあり、これを見ると中身が完全に間違っているんですね。どう間違っているかというと、民主主義はみんなで決めることです。多数決で決めるのです。時には間違っていることもあるかもしれませんが、みんなで話し合って決めれば滅多に間違いませんと書いてあるんです。ナンセンスですね。恐らく、日本以外の国の人が読んだらひっくり返ります。
 民主主義の基本は、当たり前ですけれども、少数者の尊重であり、そのベースになるのは、今だったら熟議と言われますけれども、徹底して参加して話し合うことです。参加と自治が民主主義の基本ですけれども、それが日本では教えられていない。その結果、多くの近代社会では、当たり前ですが、引き受けて考えるという参加の作法が民主主義の基本ですが、日本では任せて、ぶうたれる。任せて文句を言うという政治的な態度が一般的ですね。ふだんは投票に行かず、贈収賄事件とかがあると自民党支持者が共産党に入れるみたいな投票行動として、政治過程論等では知られているプロセスですね。
 あと、任せられる側を含めて、多くの人たちは、これは昔からよく言われていますが、知識を尊重する作法よりも、むしろ空気に縛られる作法に印しやすい。これは、敗戦の研究を通じて、ある程度明らかになってきたことですね。
 その結果、これは福祉の問題も直接関係しますが、我々の社会ではいまだに、多くの先進国がそうだった70年代の、つまり行政の言うことを聞いて御褒美をもらうという、ありていに言ってしまえば、特措法、特別会計、特殊法人、そして業界配分という図式の中で政策的な方向付けを行ってきたという歴史があるんです。
 しかし、多くの国では、もうこの方法はとられていない。さっきソーシャルビジネスという考え方を1つ紹介しましたが、いいことをするとお金がもうかるような新しいルールセッティングをする。そこに行政が大きな働きをすると変わってきているんです。その意味で、考え、知識を尊重し、いいことをするともうかるようなメカニズムを利用する。つまり、ソーシャルビジネスの領域を利用する社会が実は今後、持続可能なんですね。
 あくまで自治を全面に押し出さない限り、我々は市場や行政に依存している限りは、もはや社会をまともに運営することができない。その証拠が先ほど申し上げた日本だけの社会指標の異常値なんです。ところが、これは我々が自治の習慣がないせいで、自分たちの社会がどういう惨状を呈しているのかをモニタリングすることさえできていない状況ですね。
 そういうところで社会保障の法的な仕組み、あるいは法的な仕組みを支える元本の理念とかを教えるのもさることながら、そもそも我々がどういう社会を営んでおり、諸外国は今、どういう社会をどういうふうに営んでおり、どう違い、どういうふうに共通で、これから我々はどうしないと、この社会を生き延びさせることができないのかというところに、福祉に関わる制度を落とし込まなければ、残念ながら知識が入っても魂入らず。
 あるいは、さまざまなモチベーションは、非常に内発性に乏しい付け焼き刃のもの。全体として言えば、社会保障についての知識は、ただそれだけの知識にほとんど終わって、社会的な貢献に関わるさまざまな活動の中に埋め込まれ、組み込まれるという形にならないと思われますので、そのようなことにならないような教育の新しいあり方が展開できればと思っており、参上いたしております。
 以上です。

○権丈座長 どうもありがとうございました。私どもの医療経済の世界の話をしますと、医療制度の満足度を日本の国民に尋ねるとものすごく低いんですね。そして、生活の満足度も極端に低い。そこで、医療制度の満足度を国際比較する場合には、医療制度満足度を生活満足度で割って実質値を計算して行うというような研究方法が確立しているくらいに、日本人は、各制度、そして生活全般に対する満足度が低いという特徴があるようです。
 あと、日本には本当にいろいろなところで異常値がある。配付して頂いた教科書を見て私が思ったのは、先進諸国の中での国民負担率の低さという異常値が載っていなかった。あと、この国が借金をどれだけ抱えているかを示す異常値というのも載っていない。大人があまり見せたくない事実はいっぱいあるのですけど、いくつかは高校生くらいになると載せなければいけない話でしょうね。これから先、教科書を検討していく上で、そういう話も出てくると思います。
 さて、一巡いたしました。まだ時間がありますので、二巡目ということで、あるいは今までみんなの話を聞いていて新たに思ったことなど、どうぞよろしくお願いいたします。

○大杉委員 自由な議論ということなんですけれども、幾つか前提となる事実について、少し確認しておきたいと思うんです。
 細野委員がおっしゃられたインセンティブ、いわゆる人事論になると思うんですけれども、これは非常に即効性があるというのはみんな思っていると思います。ただ、宮台委員がおっしゃられたように、高校入試は教育委員会が責任を持ってつくりますので、社会保障の問題を入れることを決めることは自立性を損なうので、教育委員会が独自に判断して、この問題を考えるというのが前提になっていますから、我々としてはこの問題は重要だと、選択肢の中で重要性を教材としてアピールするという方向性がいいのかなというのと。
 あと、教科書について幾つか御意見があったんですけれども、私も実習に行く前に学生に教科書を渡して、これでどう授業をするかということでやるんです。基本的には、ノーマライゼーションとか、いろいろな重要語句は、指導要領の趣旨を膨らませるために何社かの教科書会社が自由につくっていただいて、検定制度がありますので。そういう意味で、指導要領があるから、この言葉が出てくるというわけでもなくて。
 ただ、教科書会社がつくられているものに対して、たくさん間違いがあるねという御意見があったので、これは即座に教科書会社に御指摘される方が、独立して教科書会社が存在していますから、それで教科書会社が修正すると思います。それを使って、学校の先生方や学生が教えると思います。
 この問題は、教科書というのは学校で必ず使うことになっていますから、それと今回つくる予定になっています教材を学校で使って、あわせて子どもたちに豊かな内容を示していくということになろうかと思いますので、これはもし間違いがあるなら、教科書会社に早目に、特に高等学校は検定があるから、御指摘されると。

○権丈座長 そういうシステムがあるわけですか。

○大杉委員 学校の先生方が、このデータはちょっと違うんじゃないのと教科書会社に連絡して、教科書会社が確認して直されるということになっていますから。こういうことを是非確認していった方がいいんじゃないかと思います。正しい事実に基づいて授業をするというのが大前提になろうかと思いますので、これをまずひとつ述べておきたいと思います。
 あと、宮台委員がおっしゃられたように、モニタリングができていないというのは非常に大事なことだと思うので。
 もう一つ、国際比較の中で、我が国が外国と見ると大きく違う。ちょっと余談になりますけれども、通常、私、海外出張へ行くとき、歯がいつも痛くなるんですけれども、アメリカ出張へ行くときには歯を治していきますけれども、イギリスの場合は、まあ、いいかと、そのまま行ってしまうことはなぜだかと学生に問い掛けます。そのときは、医療費に係る金額は制度によって違うとお話するんです。
 新しい教科書、検定本、今日は1社だけ出ていますけれども、ほかの社を見てみますと、国際比較でアメリカが国民の負担費が一番少ないけれども、2番目に日本がある。ずっと上がってスウェーデンという国際比較を出している教科書もあるんです。だから、教科書会社によって、それぞれ違いますので、それを学校の先生や教育委員会が取捨選択して採択していくことになっています。その教材を使って授業をしていくわけですから、特に自己決定をしたら、ちゃんとモニタリングしていく自治の精神は非常に大事だと思います。
 そういう意味で、自己決定をしてモニタリングをする。モニタリングができていないときに、国際比較をしながらモニタリングしていかないと、自己決定をしていく、自由化あるいは自治と言ったときに、自分が自信を持って判断してみんなに説明して意見を述べるように、子どもたちになってもらいたいわけです。
 繰り返しますけれども、そのときに制度の哲学とか社会のあり方というものをしっかり学んで、だからこれがいい。その結果、将来的にはモニタリングをして、どうなるんだというデータに基づいて検証していく児童生徒を育てていくのが大事なことであろうと考えます。

○権丈座長 どうもありがとうございます。私ども大学の教員というのは、入試の仕事とかもありまして、教科書を読む機会が多いんですね。問題作成の時などは、教科書に載っているかどうかというのが、問題の正しさを保証する最大の根拠となっていくわけです。教科書というのは非常に大きな意味を持っておりまして、自分の研究領域とは関係ない分野に関しては、モニタリングする力もないような状況にあります。
 だから、教科書というものがどういうふうにつくられていて、そしてそれがどういう形で修正されていくのかということ、そのシステムがどのように確立しているのかということなどを次回ぐらいまでにいろいろまとめていただければと思うのですが、文科省の方でよろしくお願いできますか。

○平林課長 はい。

○権丈座長 よろしくお願いいたします。
 では、まだ時間がありますけれども、ほかに何かございますか。宮台委員、どうぞ。

○宮台委員 今のアメリカの話から、価値を訴える必要ということに話をつなげたいんです。アメリカは、例えば自堕落な人間が歯をどんどん悪くして、勝手にかかっているだけだと。確かにちょっとかかれば歯に400ドルとかかかるわけです。でも、アメリカ的な発想からすると、それが嫌だったら健康管理に気を付ければいいだろう。これは、自治というよりも、自己管理、セルフヘルプの思想が背景にあるんですね。なので、低負担・低福祉。
 でも、アメリカの社会の通常性というか、普通さにとって、そんなに障害ではないわけですね。なので、それぞれの社会あるいは時代と文化によって違うかもしれませんが、どういう社会が自分たちにとって普通の、あるいは場合によっては望ましきあり方であるのかということを、ちゃんと議論しなければまずいと思うんですね。
 広告クリエイターのマエキタミヤコさんという方が、日本を除く先進各国のアドバタイズメント、つまり広告からアドボカシー、価値の訴えに移ったとおっしゃっているんですね。典型的には、先日亡くなったスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションですね。多くの人は製品を示して、これは従来に比べるとスペック、速度3倍、ハードディスクの容量は5倍とか言うわけです。
 ジョブズはどうやるかというと、御存じのようにシンクディファレント。これは、うまく訳すとみんなは間違っている。君たちは間違っている。皆、耳をそば立てるわけです。君たちは、コンピュータにそもそもそんなことを期待していたのか。昔、物が輝いていた時代は、そういうことじゃなかったはずでしょう。皆が納得したら、だったら君たちはこれを使うべきだと、まず価値の訴えから入って、価値を実現するために商品のサービスが出てくるという順序なんです。
 実はジョブズのプレゼンテーションだけではなくて、先進各国では、いわば高付加価値化した商品の差別化を行うために、スペック競争ではもはや難しいので、価値を訴えることを基本に据えるとなっていて、その中に、例えばエコマークとかフードマイルのようなものを含めた、例えば自然エネルギー的な付加価値が入っていたりする。さっきの、いいことをすればもうかるメカニズムの一つですね。
 要するに、日本でなぜお任せして文句を言うとか、命令に従って褒美をもらうような方式しかあり得ないのかというと、価値を訴えて人々を巻き込んでいくというプロセスが非常に乏しいんですね。なので、私たちは相変わらず、私たちの社会がどうあるべきなのかという議論をしていない。それをしていない状態で、例えば文化的な通常性とは何なのかということも議論せずに、アメリカだって低いんだから、日本だって低くていいじゃないかみたいな議論を放置したりすることは全くナンセンスなんです。
 だから、自分たちの社会にとっての普通のあり方や望ましいあり方は何なのかということを議論するために、やはり価値を訴える必要がある。これは、自分たちのあるべき社会のあり方とは違う。アメリカ的であることは、日本にとっては日本的ではないことであるがゆえによくないという言い方をできるような、そういうコミュニケーションが必要で、アメリカで回るシステムだったら日本でも回るはずだとか、ヨーロッパで回るシステムだったら云々かんぬんというのはナンセンスだと思います。

○権丈座長 前田委員、どうぞ、よろしくお願いします。

○前田委員 過日、日本年金機構で年金教育の取組みについて聞いたところ、民主党の事業仕分けの関係で削除されましたということで、それが多分こういう形に変わってきたのではなかろうかと思います。
 先ほど教科書の話をされましたが、教科書はわかりにくい部分がいっぱいありますけれども、これでいいとして、わかりやすい補助教材、副教材をつくっていかなければいけないのではないかと思っています。
 もう一つ、総務省の年金記録確認の委員をやっていますが、3年たちました。総務省の大臣から厚労大臣に提言されているのかどうかわかりませんけれども、その中で今後の取組みについて、「まず制度そのものをわかりやすくしないと、今後もこういう記録の間違いというのは発生するんじゃないか」ということが1つあります。
 もう一つは、「年金制度についての教育です。国民のいろいろな立場に合わせた教育や研修が必要である。」先ほど「人ごと」という話がありましたけれども、みんなそれぞれ個々が関心を持たないと間違いは正せないし、自分のことは自分で、自分の財産ですから、きちんとやっていかないといけないよという教育をしないといけないでしょうという提言です。
 そういうことを考えますと、それぞれの立場の多くの国民の方々にどうやってわかりやすい教育をするか、また、それに使用するわかりやすい教材をいかにつくっていくかというのが私どもの使命でしょうし、今後そういうことで話をしていかなければいけないだろうなと思っております。今後、必要であれば、私どもの業界の学校教育の取組みについては、どういう形で進んでいるかというのは資料等をお出しすることもできると思います。
 以上です。

○権丈座長 どうもありがとうございました。細野委員、どうぞ。

○細野委員 せっかく大杉委員から、「間違いがあったら指摘した方がいいんじゃないか」という御意見をいただいたんですけれども、私は2つ論点があると思っているんです。
 まず1つ、いろいろな各社の教科書を今回眺めていて思ったことは、とにかく「ベースがすごく悲観的なところから入っている」ということが大きな問題なのではないかと思っていて。例えば50ページで言うと、『進む少子高齢化』ということで、『我が国の合計特殊出生率は、1995年に2.0を割り込んで以来、低下傾向にあり、2008年には1.37となった』で終わっているんですけれども、これだけを見ると、日本ではずっと出生率が下がり続けているみたいな印象だけを残してしまうと思うんですね。
 ただ、実際の出生率はどうなのかというと、2005年に1.26まで下がりましたけれども、その後はとりあえず回復基調にあるわけですし、高位推計すら上回っている現実がある。だから、そういう形で一応下げ止まってきているという話をまずちゃんと押さえながら、ただ「これで満足してはいけなくて、当然これから少子化対策とかで、より上げていくような努力をしていかなければいけないよね」といった表記をすべきなんじゃないかなと私は考えるんです。
 教科書のいろいろな制約があって、これ以上紙面が使えないというのもあるのかもしれないですけれども、それを割り引いても「かなり悲観的な印象だけを与えてしまうような構成になってしまっている」んじゃないかなというのが全般的に言える話だと思うんです。
 もう一つが、「間違っているよ、と個別に反論していけば、指摘すればいいじゃないか」という話は、すごく大事な指摘だと思うんですけれども、正直多すぎて、むしろどうしたらいいんですかと大杉委員に伺いたいぐらいなんです。メディアとかも引っくるめながら、明らかな間違いと言っていいものが、面倒くさいぐらい多いんです。
 そこで、私が是非この場で望みたいのが、それこそ香取統括官と武田参事官に伺いたいんですけれども、「現場で専門職として社会保障の仕組みとかを正しくわかっている人間が政府としてちゃんと反論していった方がいいんじゃないか」というのは、ずっと昔からの大きな不満としてあるんです。この一連の流れを受けて、お二人に最後に御意見を伺いたいと思っているんですけれども、いかがでしょうか。

○権丈座長 時間がありますので、どうぞお願いいたします。

○香取政策統括官 公開の席なので、なかなか発言が難しいんですけれども、これは最初に申し上げた方がよかったかもしれませんが、文科省の課長さんを隣になかなか申し上げにくいんですが、実は我々も今回初めて、小学校、中学校、高校の教科書を取り寄せて、社会保障についてどういう記述があるかということを見ました。結構衝撃が走りました。
 先ほどから細かく指摘がありましたように、まず記述として不正確だなと思うようなところがかなりある。これは、制度の解説としてもどうかと思いますし、社会保障制度がなぜつくってあるかという考え方も十分説明されていると思いませんでした。先ほどの賦課方式もそうですけれども、用語としても使い方が不正確です。これは本当にだれが書いたんだろうという気がするくらいです。ですので、入り口のところで、これで社会保障について教育されたら、どういうイメージを社会保障について持った大人になるのだろうと思ってしまいました。
 と同時に、社会保障全体について、例えば小学校レベルで何を教える、中学校で何を、高校で何を考えるということがどうもきちんと整理されていないように感じました。個別の細かい制度を別に小学生に教える必要はないわけですけれども、社会保障というのはどういうものなのか、あるいは先ほどちょっと冒頭でもありましたが、社会と自分たちの間にあるいろいろな制度、いろいろなものをどういうふうに子どもたちに理解させていくか。
 言ってみれば、世の中を理解していくための幾つかのツールの一つが社会保障なんですが、これを回収してしまうとあれなんですけれども、小学校、中学校、高校とテキストが3つ出ていますけれども、書いてあることはほとんど一緒なんです。違うのは漢字の量が増えるぐらいで、ほとんど中身は変わりません。高校の教科書まで読んでも、日本の社会保障制度がどういうものか、私には理解できなかったです。価値中立的に書いているんだと思いますが、実はそんなに価値中立的でもない。先ほど実用性があるという話がありましたが、実用性があるような知識が与えられているかというと、そうでもない。ねじれの位置にあるような気がします。
 今回、生活というか、家庭科の教科書を付けました。実は、家庭科の教科書の方がよく書いてあります。見ていただくとわかりますけれども、自分が生まれて、育ち、病気になり、大きくなり、学校に行き、子どもを産んでという、自分の人生や自分の家族の中で、地域社会に自分がどう関わっていって、その中で言うところの社会保障、医療や福祉や子育てがどう関わるか。
 その中でいろいろな制度があったり、いろいろな関わりがあるということを書いていて、家庭科の教科書の方が社会保障のこととか、世の中のことがよくわかる。残念ながら、家庭科は高校とか大学の入試科目にありませんので、多分みんな勉強しないだろう。
 ということを考えていくと、教科書をどうやって直すかというのはすごく大きな問題だと思いますが、教科書は、それぞれの分野の方がいろいろなことを多分言うんですね。あれを書いてくれ、これを書いてくれ。我々は社会保障が大事だと言うし、環境省は環境教育が大事だと、いろいろな人がいろいろなことを言いますから、てんこ盛りになってしまうので、教科書で書けることには限界があるとするならば、副読本なり何なり、別の形のアプローチはないだろうかということを考えました。
 もう一つ、スウェーデンの教科書をお示ししました。これも是非お目通しいただきたいんです。これはスウェーデンの中学校の社会科の教科書です。コピーは第5章の社会保障のところだけお付けしているんですが、目次を見ていただくと、中学生の社会の教科書に何を書いているか。
 第1章は、法律と権利というタイトルです。私たちの国はどうなっているか。法律はこうつくられ、法律はあなたにも適用されると書き、次に、犯罪、警察、裁判所、暴力。
 それから、あなたとほかの人々というグループとか他者。
 それから、人間の役割、男の子と女の子。
 それから、若者、アルコール、麻薬と出てきて、次に経済。家族の経済、物を買うということ、あるいは広告の意味。地域社会が出てきて、コミューンの関わり、組織。これは、実は教会のこととか、そういうものもいっぱい出てくるんです。コミューンを組み立てている予算と意思決定の民主主義、それで社会保障が出てくるんです。実を言うと、私はこういう組み立てをしたいんです。
 先ほど宮台先生がソーシャルビジネスの話をされて、今日、お休みですけれども、宮本先生、このお話を書かれているので、次回、是非お話を聞きたいと思います。確かに世の中の方がそれこそ底が抜けているので、社会保障でどこまでできるかというのは難しいんですが、今のままだと、社会保障のことで余り言うのもあれですけれども、社会保障がちゃんと機能しないことのベースは、社会保障制度の問題もありますが、社会保障制度を支えるべき世の中に多分いろいろな問題があるのではないかと思います。
 そのことをきちんと子どもたちに理解してもらって、自分たちで乗り越えていってもらうことができるようなことを、実はしたいというのが、冒頭申し上げましたが、今回の趣旨で。なので、当然、教科書の書きぶりとか、副読本にどういうことを盛り込むかということもそうなんですけれども、社会保障だけじゃなくて、これで言うと、家庭科とか社会科とか全部に関わると思うんですけれども、どういうふうに物事を組み立ててあげればいいのかということを実は考えたいということです。
 役所として発信するということも勿論あるんですが、さっき座長がおっしゃったように、教育とか教科書とか、子どもたちが与えられる標準テキストの持っている意味は物すごく大きくて、標準的に子どもたちが装備する知識とか価値観というものがここで形成されるので、そこは小学校なら小学校、中学校なら中学校のレベルで、どういうふうに組み立ててあげるかということをきちんと議論していただきたいと思います。

○権丈座長 文科省の方から何かございますか。

○平林課長 私、担当ではありませんが、まず教科書制度の御理解を皆さん方にしていただきたいのは、検定制度であるということですので、国定教科書時代は昔ありましたけれども、国がつくるものではないということでございます。したがって、基本的には指導要領の内容を踏まえて、それで教科書会社が創意工夫を凝らして原案をつくって、国の方で検定するということになります。しかしながら、検定に間違いとか見過ごしたというのは実際あります。
 また、教科書制度の中では、検定後に訂正する仕組みがあり、教科書会社が自主的に訂正するということもございますし、またいろいろな社会情勢が変わった場合に記述が適用しなくなるということについても、訂正する仕組みもございます。教科書会社自身は、高校の場合には学校ごとに教科書を採択しますので、高等学校はかなり多様になっていますので、いろいろと工夫して、それぞれのレベルに合わせた形で教科書をつくっています。
 1つ言えるのは、今回の指導要領の改訂では、かなり補充的な学習とか発展的学習ということも許容したということもございますので、一般的に教科書の内容が厚くなるという傾向がございます。記述を充実させる傾向がございまして、小中学校の検定が今、終わっていますが、大体25%ぐらい増えている。高等学校は、もともと内容が非常に充実していますので、これ以上増えるのか、ちょっとわかりませんけれども、そのような傾向がある。
 いろいろございましたので、改めてご説明させていただきました。

○権丈座長 時間がもうそろそろなんですけれども、梶ヶ谷委員、広井委員、一言何かございませんか。

○梶ヶ谷委員 高校の現場の教員として、教科書についてですが、実は大学入試の問題と相当関係があります。例えば先ほどの賦課形式や積み立て方式についての詳しい内容が、大学の入学試験に出題されています。そうすると、公民の現代社会あるいは政治・経済という科目で受験する生徒が多い学校は、教科書はたくさんの用語や内容が載っている方がいいということなんですね。そのような事情などから教科書を採択し使用することは、本来の姿じゃないかもしれませんけれども。
 ですから、単に私たち教員が考えるのは、教科書内容が難しいということだけではなくて、そういう大学の入学試験の内容にも相当関係が大きいのかなと。そして、大学入試は高等学校の教科書をベースにつくられるわけですね。そうすると、より難しい問題が出題される、このようなことからさらに教科書がと、次から次へと難しくなっていくという連鎖があると思います。
 以上です。

○権丈座長 どうもありがとうございました。では、広井委員。

○広井委員 先ほど香取政策統括官が言われたことと多少関連するんですが、学生がコミュニティとか地域再生、まちづくりということには非常に関心があるのに対して、社会保障の制度論にはそれほど関心が向いていないという印象を持っています。そこをうまくつないでいくと言いますか、つまり社会保障というのは最初から制度がぼんとあるのではなくて、本来はコミュニティとか地域社会、それから宮台委員もおっしゃられていたようなソーシャルビジネスとか社会起業家、NPOといったものへの関心は非常に高いんです。
 そういったものの延長と言いますか、補完性の原理という考え方もありますけれども、そういうものと一体のものとしてあるのだと。ですから、社会保障の制度論だけが独立してぼんとあるのではなくて、そういったまちづくりとかコミュニティとかNPOといったものとの連関の中であるんだ、その辺を少し広い視点で社会保障というものをとらえていくことが重要かなと思います。

○権丈座長 どうもありがとうございました。予定の時間がまいりましたので、本日の議論はここまでとさせていただきます。
 教育という民主主義運営の根幹でありながら、だれも触れていなかったブラックボックスの話なんでしょうね。
では、事務局は、本日の議論を反映して検討いただきたいと思います。
 連絡事項があればお願いいたします。

○武田参事官 事務局ですが、先日、事務局から郵送しておりますけれども、今後の日程調整表や委員手当関係の用紙をお持ちいただいた方は事務局までお渡しいただければと思います。お持ちでない方は、皆様の机上にお配りしておりますので、この場で記入できる方は御記入いただき、事務局までお渡しいただきたいと思います。この場で記入できない方は、後日お送りいただければと思います。
 次回の日程でございますが、皆様方に日程調整表を書いていただいた上で、調整の上、決定し、皆様に御連絡をさせていただきたいと思います。
 事務局からは以上でございます。

○権丈座長 では、皆さん、以上で、第1回の検討会を終了といたします。本日はどうもお疲れさまでした。貴重なご意見、ありがとうございました。


(了)
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政策第一係: 03(3595)2159

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