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2011年6月13日 第4回医療裁判外紛争解決(ADR)機関連絡調整会議議事録

医政局総務課医療安全推進室

○日時

平成23年6月13日(月)


○場所

専用第15会議室


○出席者

会議メンバー(五十音順)

今田健太郎 (広島弁護士会仲裁センター代表)
植木哲 (医事紛争研究会会長)
小野寺信一 (仙台弁護士会紛争解決支援センター代表)
北川和郎 (総合紛争解決センター)
児玉安司 (第二東京弁護士会代表)
小松満 (茨城県医療問題中立処理委員会代表)
小山信彌 (日本病院団体協議会代表)
佐々木孝子 (医療過誤を考える会代表)
鈴木利廣 (東京弁護士会代表)
田口光伸 (愛媛弁護士会代表)
西内岳 (第一東京弁護士会代表)
橋場弘之 (札幌弁護士会紛争解決センター運営委員会委員長)
前田津紀夫 (全国有床診療所連絡協議会代表)
水田美由紀 (岡山弁護士会医療仲裁センター岡山代表)
宮脇正和 (医療過誤原告の会代表)
山本和彦 (一橋大学大学院法学研究科教授)
和田仁孝 (早稲田大学大学院法務研究科教授)
渡部晃 (日本弁護士連合会代表)

オブザーバー

富澤賢一郎 (最高裁判所事務総局民事局付)

厚生労働省

大谷泰夫 (医政局長)
木村博承 (大臣官房総務課参事官(医療安全担当))
渡辺真俊 (医政局総務課医療安全推進室長)

○議題

1 医療裁判外紛争解決(ADR)機関の取組等の紹介及び意見交換
2 その他

○配布資料

資料1第3回連絡調整会議議事録
資料2-1愛媛弁護士会紛争解決センターにおける医療ADR(田口弁護士提出資料)
資料2-2医療仲裁センター岡山の報告(水田弁護士提出資料)
資料2-3「医療裁判外紛争解決(ADR)機関」に関するアンケート調査結果(小山先生提出資料)

○議事

○医療安全推進室長 定刻になりましたので、ただいまより第4回「医療裁判外紛争解決機関連絡調整会議」を開催します。第4回の会議は当初、本年3月23日に予定されておりましたが、震災により急遽、延期させていただきました。ご迷惑をお掛けしました。そのような中、本日は当会議にご出席いただき、誠にありがとうございます。
本日の出欠状況ですが、4名の方からご欠席との連絡をいただいています。徳田弁護士、中村弁護士、増田弁護士、山田先生です。
それでは、以降の進行について、山本座長、よろしくお願いします。

○山本座長 本日はお集まりいただき、ありがとうございます。それではまず大谷局長のほうからご挨拶をお願いします。

○医政局長 医政局長の大谷です。どうぞよろしくお願いします。皆様方、大変お忙しい中、こうやってお集まりいただき誠にありがとうございます。
近年、医療事故に関する紛争の解決手段として、裁判外紛争解決(ADR)制度の活用が注目されており、そのような中でこの連絡調整会議も今回で4回目を数えています。毎回、メンバーの方が変わるこの医療ADR機関の取組み状況のご紹介をいただいておりまして、活発なご議論が交わされてきたと聞いておりますが、これまでのご協力に改めて感謝を申し上げます。本日の会議におきましても活発なご議論や情報共有を図っていただくことで、患者側や医療機関側の双方が利用しやすい環境を整えていくための一助になれば幸いと考えています。いま、司会が申しましたように、3月の震災以来、震災対策に多くのエネルギーが取られてまいりますけれども、もちろん、その仕事はいまも大変重要ですけれども、平時の仕事をきちっと全うしていくことが、またさらに重要かと考えておりまして、私どもも努力したいと思いますが、引き続きよろしくお願いします。今日は、どうぞよろしくお願いします。

○山本座長 ありがとうございました。それでは、本日の資料につきまして事務局のほうからご確認をお願いします。

○医療安全推進室長 資料1は「第3回連絡調整会議議事録」、資料2-1は「愛媛弁護士会紛争解決センターにおける医療ADR」、資料2-2は「医療仲介センター岡山の報告」、資料2-3は「『医療裁判外紛争解決(ADR)機関』に関するアンケート調査結果」です。それとは別に冊子で、医療仲介センター岡山さんの冊子、医療ADRの過誤・現在・未来の冊子、医療過去原告の会さんからの冊子ということで出されています。以上です。

○山本座長 すべての資料は、お手元におありでしょうか。それでは、中身のほうに入らせていただきます。前回の会議はちょっと間が空きまして、昨年の11月であったかと思いますけれども、大阪の総合紛争解決センターにおける医療ADRの取組みの状況、それから仙台弁護士会の紛争解決支援センターの取組みの状況、さらに福岡県弁護士会の紛争解決センターにおける医療ADRの取組みの状況についてご紹介をいただいて、活発な意見の交換をいただいたところです。
今回も前回に引き続きまして、各機関等の取組み状況をご紹介いただきたいと思います。今回はまず、田口弁護士から愛媛弁護士会紛争解決センターにおける医療ADRの取組み状況についてお話をいただき、その後、水田弁護士から医療仲裁センター岡山の取組み状況についてお話をいただき、それから最後に日本病院団体協議会を代表して小山先生のほうから、医療裁判外紛争解決(ADR)機関に関するアンケート調査結果についてご紹介をいただくという順番でお話をいただきたいと思います。その後、まとめた形で意見交換を行いたいと思いますので、ご協力の程よろしくお願いします。それでは、資料1について事務局のほうからご説明をお願いします。

○医療安全推進室長 資料1は第3回の議事録です。既に委員の皆様には内容をご確認いただき、厚生労働省のホームページに掲載しているものでございます。何かございましたら、会議終了後、事務局まで申し出ていただければと思います。以上です。

○山本座長 それでは各機関の取組み状況につきましてご紹介いただきます。はじめに、田口弁護士から愛媛弁護士会紛争解決センターにおける医療ADRの取組み状況等についてお願いします。よろしくお願いします。

○田口構成員 愛媛弁護士会の田口です。簡単ではございますけれども、資料2-1に従って愛媛弁護士会における医療ADRについて、ご説明、ご報告させていただきます。
ここに書かれているように、愛媛では通常のADRの一類型として医療ADRというものの体制整備を進めて、平成22年3月1日からその運営を開始しています。整備内容としては、東京三会方式とは若干異なりますけれども、医療機関側での医療事件に精通する弁護士1名と、患者側で医療事務に取り組む弁護士1名の2名以上の弁護士による合議体としました。また、医療紛争に詳しい弁護士を掲載した調停人名簿を整備しました。5月現在、医療機関側の弁護士4名、患者側弁護士4名、合計8名が名簿に登録されています。医師等の専門委員については、まだこれからの課題で、愛媛大学付属病院の先生方や社団法人日本医療メディエーター協会との接点から、現在、交渉を進めようとしている段階です。
それでは、整備後の状況ですが、なかなか愛媛ではPR不足もありますけれども、ADRというこの新しい紛争解決手続がなかなか定着せずに、事件数の増加に苦慮してまいりました。具体的には、この開設をした平成18年こそ1ヶ月に1件ペースの申立てがありましたが、そののちは年に4件から6件という非常に低いペースでした。ところが、この医療ADRを整備してから、平成22年3月からの9ヶ月で4件、本年は1件となっていますが、これは5月20日にも申立てがありまして、本年2件、つまり、昨年の3月から現時点までで6件の申立てがあったという、医療ADRだけで要はこれだけの件数があるというのは、ちょっと意外でした。
事案の内容ですが、1件目につきましては申立てののちに医師会の医事紛争処理委会で無責と判断されたため、これは話し合いの余地はなく、不応諾となりました。2件目は、これはADRの利用前に司法調停が行われ、その際に和解金として提示した金額と患者側が望む金額との隔たりが大きかったということからか、これも不応諾と。あまりこの不応諾という言葉を何回も言いたくないのですけれども。3件目は、医師会の顧問の弁護士さんが代理人として受任され、やはりこれも従前に示した示談案以外の解決案はないということで不応諾と。3件連続不応諾が続きました。4件目は、この資料に添付しております文章をとりあえず出すだけではなくて、私が担当者に直接電話を入れて「是非、応諾してください」という説得をしましたところ、「事実調査に時間をいただければ応諾しましょう」ということで、やっと応諾してもらえたかと喜んでおったのですけれども、この事実調査というのに、何ヶ月かをかなり要しまして、その間に申立人の方から「もう、こんなのんびり引き延ばされたのでは、やってられない」ということで、申立人の方からの取下げがなされました。
ここにも書いてあるように、ADRのいいところである「迅速性」を強調する傾向にあると思うんですけど、あまり早期に期日を設定して応諾を求めると、事案によっては医事紛争処理委員会の結果が出ていないとか、病院自体が事実関係の調査が未了であるといった理由で応諾ができないことがあるようです。その一方で、患者側としては、やはり早期解決を強く望んでおられるので、今後の運用方式の検討というのが必要になってきたと感じております。いずれにしても、患者サイドからは医療ADR利用の需要が大変多いとの印象です。医療機関側に対する説明不足からか、愛媛では応諾率が大変低いという結果になっております。
ちなみに、さっき4件ご紹介しましたけれども、5件目は今年の4月11日に受付をしました事案ですが、これはたまたま4件目としてご紹介した、「一応承諾してくださる」と言ってくださった病院と同じ病院です。それで今回も「何とか応諾してください」ということで私が直接電話をしたのです。非常に申し上げにくいんですが、要は「医療の現場側からの支持で応諾できません」というご返事でした。「理由は何でなんですか」とお尋ねしたのですが、「理由も申し上げることはできません」ということで、残念ながら5件目も不応諾で終わっています。6件目は、5月20日に申立てがありまして、これは日弁連のADRセンターで幹事をお願いしている先生が顧問をやられている病院ということで、何とかそちらのほうから応諾にこぎつけたいと考えています。
2-1の資料に戻ります。これまでの広報です。もう恥ずかしいのでご覧になっていただきたいと思いますが、実を申しますと、この資料番号で言いますと5ですが、この「キーパーソン」ということでお恥ずかしながら私が顔を出しています。この影響がかなり大きくて、日曜版でカラーで出るのですが、これを見て弁護士会なり、私の事務所に医療ADRを利用したいのだがというご相談の電話がかなり多くなりました。
今後ですけれども、この不応諾率の高さ、現在のところ、1件応諾待ち、5件中4件が不応諾ということになっています。この高さを解消するために、まず理解を求めるための説明と、医療機関側の事情を十分に理解して、一方的な進行にしないことが重要ではないかと考えています。松山市の医師会の紛争処理委員の先生ともお話する機会がありましたが、「医師会内でADRに対する応諾の是非を検討したのだが、現時点では難しいとの結論だった」というふうにお聞きしています。これは専門委員就任への依頼との関係でも市及び県の各医師会ないしは大学病院、先ほど述べました社団法人日本医療メディエーション協会、こういったところへのアプローチを続けると共に医療関係者の皆様に一歩一歩、理解を深めていただくための努力をして行きたいと考えております。報告は以上です。

○山本座長 なかなか応諾のことでご苦労されているという実情のご報告をいただけたかと思います。
今度は水田弁護士から、医療仲裁センター岡山の取組み状況についてお願いします。20~30分ぐらいでお願いします。

○水田構成員 岡山弁護士会仲裁センター担当委員の水田と申します。よろしくお願いします。早速、レジュメに従って報告したいと思います。今回のレジュメを見ていただいて、ほかの弁護士会と少し異なる部分があろうかと思います。それは設立までの経緯を少し詳しく書いたということです。私どもは、弁護士会が仲裁センターを開設するに当たり、まだなかなか医療機関と、司法の世界とは溝が深い、あまり連絡はないだろうということを踏まえて、できるだけ医療機関側の方に参加していただけるように大いなる根回しをすることは必要ではないかと思い、その点も今後設立される所の参考にでもなればと思って書きました。
レジュメにもありますように、岡山弁護士会で最初に医療ADRチームの検討を始めたのは平成19年4月で、最終的に設立したのが平成21年9月ですので、2年半の時間をかけたことになります。本日、岡山弁護士会の資料として青色のパンフレットを用意しています。地方単位会にしては珍しく、平成9年というわりと早い段階に一般の仲裁による解決の仕組みをつくりました。表紙に協力していただいています専門の業界団体の方はいろいろ書いてありますが、実は平成9年の段階でも医療関係者、医師会の方にもご協力をお願いしたのですが、全く相手にされなかったという状態があり、医療に関しても話合いの機会を持つ、つくるというのは、私ども弁護士会の悲願でした。
実際に平成20年4月が本格的に取り組み出したところになりますが、まずはユーザーといいますか、非常に大きな関与をしていた医療機関側の方の意見を聞かなくてはいけないということで、私どもの委員が手分けをして県内の医療機関に直接訪問していって、その説明、およびどのようなところに疑問を感じているか、いいと思うか、悪いと思うかという話を率直に聞きました。
本日の資料に添付資料4というのがありますが、これは少し古い資料にはなりますが、そのときに10病院ほど回ったときに直接お聞きした意見になります。医療機関の方々が関心はないではないけれども、非常に不安を感じている。率直にいうと、非常に手間が増えるのではないかという危惧を抱いていたのがよくわかりました。その後医師会との懇談会、あとにはなりますが病院協会との懇談会なども踏まえて、私どもとしては医療機関側のご意見もかなりお聞きする機会を持ったかと思っています。
  1の「設立までの経緯」の(6)から少し見ていただきたいのですが、実際に開設する前に、岡山弁護士会は特に対話、話合いによって解決しようというところを全面的に出している関係より、メディエーションについての研修は必要ではないかと。一般的に弁護士は非常に攻撃とも思われていますので、よく人の話を聞く、そして話をすることによって感情的な問題を少しずつ地ならしして解決に向かっていくと。そういう能力を養うことも必要ではないのかと。こちらの委員の和田先生ほか、メディエーション協会の方々にもご協力いただいて、4回もの研修を開きました。その合間に基礎医学講座、これは岡山大学病院の中堅医師の方に来ていただいて、医学についても勉強をしたと。それで満を持して、最終的には平成21年8月29日に設立記念シンポジウムを開くに至ったということになります。
  もう1つ宣伝で大変恐縮ですが、(7)の模擬医療仲裁を設立の前に開きました。なぜ開いたかということですが、実は当然のことですがADRは密室の中で行われます。非公開で行われることがメリットでもありますが、逆にいえば非公開の中がどのようなものかわからない、経験することなく積極的、消極的な意見が渦巻いているという非常に不思議なところもあります。その点もあり、地元の医療機関の方々および一般の方々にも、話合いによる解決はどういうものかを実際にやってみたらどうかということで、現実に起こりました脳神経外科でのトラブルを基に、壇上で模擬医療仲裁をやってみようという試みでした。非常に大変でしたが、実はこのときの出席者が全部で200名以上でしたが、うち100名以上は医療機関の方々ということで、意外に医療機関の方々もADRには関心を持っていただいていることがわかりました。
  それから最終的に設立記念シンポジウムを開いたということになりますが、このときに用意した200名の会場も立見席が出るぐらいの盛況ということで、関心は抱いていただいたのかと思います。せっかくお持ちしましたが、このシンポジウムでは、今日いらしておられる委員の先生方もシンポジストとして多数発言していただいたりしています。内容としては、これを読めば医療仲裁についてはかなりの点がよくわかるという良いものになっているのではないかと自負していますので、またお時間のあるときに目を通していただければと思います。
  設立後の経緯について申し上げます。設立後も、PRにもかかわらず事件数が思ったようにはなかなか伸びなかったのが正直なところです。本日の資料の添付資料3にこれまでの事件の一覧を載せていますので、ご覧いただければと思います。
  平成21年9月1日が設立の日ですので、その数日後には第1号の事件が申立てされました。平成21年度が3件、平成22年度が9件、平成23年度が1件と、そういった状況になっています。実績を申し上げますと、ここを見ていただければわかるかと思いますが、左から3分の1の当たりに応諾か不応諾かという欄がありますが、概観していただければわかりますように、これだけの事件数がありますが、応諾のあったのがいちばん最初の1件、平成22年度の最後の2件、平成23年度の申し立てられたばかりの事件が調整中といった状況になっています。したがって、岡山弁護士会においても設立前にPRをかなり図ったつもりではありましたが、なかなか応諾していただけないという残念な結果にはなっています。
  ただ、制度というのは設立すればそれで終わりというものではありませんので、常に申立て件数および応諾率を上げるためにいろいろ行動が必要ではないかと私どもは考えまして、最初のレジュメに戻っていただきたいのですが、2の「設立後の経緯」の(4)からですが、これまで関係していただいた方々に医療仲裁センターニュースを発行して、岡山の仲裁が何をしているか、適宜PRしていこうという試みをしました。残念ながらまだ1号しか発行できていませんので、2号目をそろそろ出したいと思っているところです。
(5)~(7)ですが、これは大体同じようなものですが、申立て件数を上げるために、上げるためにというか、少しでも仲裁にふさわしい事件があれば取り込めるようにということで、各都道府県にあります医療安全支援センターとの協力を図ろうということの動きです。すなわち、これは岡山県、岡山市、倉敷市が医療安全支援センターの拠点となっているわけですが、そこの担当者と協議して、どのぐらい仲裁に向いている事件の相談があるか。もしそういう相談があった場合にどうしているかという話をお聞きした上で、そういった事件があった場合に、相談者が弁護士会につなげるようなシステムをつくろうではないかと。そういう人たちの相談が来た場合に、受入れ皿をつくるという待機弁護士制度をつくることにしました。
 平成23年度は待機弁護士制度に23名の弁護士が登録をしており、2週間ずつ交代で当番を担当することになっています。すなわち、医療安全支援センターに相談があった場合に、相談員がこれは仲裁に向いているのではないか、もしくは仲裁の話を聞いたほうがいいのではないかといった場合には、その期間の担当の弁護士を紹介して、そこで話を聞いてくださいと、そういうふうにつなげることができるとした制度です。ただ残念ながら、まだあまり実績数は上がっていないと聞いています。
 これが大体いままでの経緯ですが、私どもの仲裁センターのシステムについての特徴を簡単にお話したいと思います。本日、お手元に緑色のリーフレットがありますので、こちらをご覧いただければと思います。この表紙に「対立から対話へ」というキャッチコピーがありますが、何か制度を人々にPRするにはキャッチコピーからと考え、これは知り合いのコピーライターに作ってもらったのですが、これは私どもの仲裁制度の目標、理念を端的に表しているものかと思っています。
 開いていただくと、図式があります。一般には、こういう仲裁センターの手続を申立てするのは患者側が多いかとは思います。しかし、こちらの制度では1つ特殊な制度として、左の「患者側」という○を見ていただきたいのですが、その途中で「医療機関側」が入った所があります。つまり、患者側が申立てをする場合にご自分で申立てをすることもできるけれども、すでに医療機関との間で何らかの交渉がある場合に、岡山の仲裁制度を利用しようとなった場合に、医療機関側が患者側を代行して申立てすることもできると、そういうシステムもつくってみました。
 これは余談ですが、岡山の弁護士会においては行政仲裁センターというのがあり、行政と市民との間のトラブルを解決するために仲裁を使おうということがあるのですが、その場合に行政の側がそういう手続に不慣れな市民の側の代行をして申立手続をすると、そういうシステムをつくっていますので、それをこの医療版にも利用してみたということになります。
 患者側が直に申立てをする場合は、紫色の○で「法律相談」というのがありますように、岡山では法律相談前置主義、すなわちあくまで弁護士が最初に話を伺って、仲裁に向いている事案の場合には紹介状を付けて紹介する、あるいは弁護士自身が代理人となると、そういう場合しか受け付けないという方法にしています。これはすべての事案が仲裁、こちらのADRに馴染むわけではないと考えていますので、そのような弁護士によるスクリーニングによって解決可能、あるいはこの手続はふさわしいと思われたもののみこちらで受け付けると、そういうシステムになっています。
 余談ですが、医療機関側の方と当初話をしたときに、何でもかんでも持ち込まれては対応に困るというお話を非常に聞かされまして、そのときにこちらではこのようなスクリーニングの手続を取っていますということで、ある程度ご了解をいただいたのかという経緯があります。
 実際に申立てをされた後ですが、青色の○の隣に黄色の「振り分け」というのがありますが、紛争の中では医学上の争点がある場合、ない場合、端的に申し上げますと過失があるかないか、因果関係があるかないか、そういう事案とそうでない事案とあるわけですが、特にそういう医学上の専門的な知識、意見の必要がない場合、そういう争点がない場合には、通常の仲裁のシステムと同じように弁護士の仲裁人が入り、期日を入れて話合いを進めていくという方向になっています。医学上の争点がある場合には、いちばん右端のルートですが、仲裁人、話を進める進行役ですが、弁護士のみならず医師の仲裁人、仲介役も入れてみようと考えています。
 ここも余談ですが、先ほど申し上げた模擬仲裁においてはこのシステムでやってみました。弁護士の仲裁人と医師の仲裁人2人が進行していくということで、医学上の基本的な知識等で滞りがないように、そういう方法で進めていったほうが滑らかではないかと、そういうようなシステムにしています。
 さらに、争点について医学的な専門家の意見が必要だと思われる場合、その点について専門医の意見をもらったほうがいいのではないかということについて、双方が合意した場合には、あらかじめ登録いただいている医療専門員という方、医師の方に簡単なコメントをいただくと、そういうシステムを採用しています。
 この場合も複数、原則3名の意見をいただいて、さらにその意見のいただき方ですが、過失があるかないかとか、因果関係があるかないかということではなくて、あくまでその問題について何か不備な点があると思うか、気がついた点があると思うか、これはどう考えるか、一般的にはどうかと、そういう事実を聞くシステムにしようとしています。したがって、こちらの医療専門員が何か結論を出したことによって、その結論が当然に拘束されるというわけではなくて、複数の専門員の意見をどのように使って当事者双方が解決を掴んでいくか、そういうことができるシステムを考えています。
 ちなみに、現段階で登録していただいている医師の数ですが、仲裁人として登録していただいている先生方が3名、専門員、そのコメントを書く立場で入っていただいている医師の方が20名です。ただ、現在の医療は大変専門化していますので、この人数でも今後は足りなくなってくることが予想されます。
 レジュメの裏の頁になりますが、患者側代理人登録制度があります。これは医療機関側からもし申立てをされた場合、患者側にも代理人、弁護士がいたほうが話としてはよりしやすいのではないかということで、もしそういう場合に患者側に知り合いの代理人がいなければこの登録している人から選んでいいですということで名簿を出す制度になっています。もちろん患者側が申立てをしたいときに、特に代理人がいない場合も、ご利用できるとなっています。
 これまでの実績ですが、先ほど簡単に説明はしたかと思いますが、1つ3番目の・の不応諾事件の紹介ということで、本日の資料に添付資料5を付けていますので、見ていただければと思います。これは一覧表で見ますと、平成22年の事件の4番という事件がこの中で扱われているのですが、私自身が仲裁人ではなくて、仲裁人を選任する前に相手方に応諾を促す、そういう担当をした事件でもあるので非常によく覚えているのです。仲裁に入る前に医療機関側との間で、ある程度話合いがなされた事案で、ご遺族の方が申立人だったのですが、それでも医療機関、病院の中でのドクターからの話ではよくわからなかった、納得し難かったので、仲裁センターという場で話を聞きたいというふうに申立てをされた事案だったのです。最終的に医療機関側は、十分話をしたので応じるつもりはないということで、不応諾事件として終わった事案です。ここにもありますように、ただ話をしてみたいという気持がずっと残られるのだというのがよくわかりました。
 これも余談ですが、この記事を書かれたマスコミの方は、実際にこの遺族の方のご自宅に行ってお話を聞いて、2時間、3時間ずっと話を聞かれたのだそうですが、何かある意味でそれによってこの遺族の方は気持の整理がついたということで、何か感謝のお手紙も頂いたりもしました。
 今後の課題ですが、やはり応諾率を上げていくことかと考えています。これからも随時いろいろな機会に医療機関の側の方々に、この仲裁の話をPRしていきたいと思っていますし、研修等を通じて医療機関の方々や患者の方々、いろいろな人の話を聞くことによって理解を進めながら、誰もが利用できる仲裁の制度をつくっていきたいと思っています。
 最後になりますが、岡山弁護士会の医療仲裁センター岡山が設立されたときに、ではどのような受け止め方をされたのだろうかということで、アンケートを取っています。緑の冊子にありますが、通し番号が付いてないので非常に説明がしにくいのですが、いちばん後ろのほうがアンケートのクロス統計ですので、見ていただければわかるかと思います。
 220~230人の出席のうち84人の方が回答されたということなので、そこそこに高率の回答率だったのかと思われます。もしわかりましたら、アンケート結果の3頁目のところを見ていただければと思います。(問7)において、医療仲裁センター岡山の設立についてどう思われますかという質問に対して、法曹関係者が「大いに期待する」というのは予想はされていましたが、医療関係者の方々も「大いに期待する」(18.9%)、「期待する」(60.4%)で、意外にといったら何ですが、高かったのだなと。その思った理由ですが、その下について、医療関係者の方々は「当事者の対話促進に期待できる」というところに理由を多く挙げています。実は「専門医がいて信頼性が高い」というところのほうが理由になるのかと思ったのですが、そちらはむしろ一般の方々のほうが評価しているということで、実際にアンケートをしてみると予想とは違う結果も出るのだと思って、大いに勉強になりました。以上です。

○山本座長 ご質問もあろうかと思いますが、最後にまとめてお願いしたいと思います。
 最後のご報告として、小山先生から、医療裁判外紛争解決機関に関するアンケート調査結果についてお願いしたいと思います。

○小山構成員 よろしくお願いします。一応スライドを用意しましたので、もし文字が小さければそちらをご覧いただければと思います。
                (スライド開始)
  いま応諾率が低い、応諾率が低いと言われていますが、では実際どうかということで、私の所属する日本病院団体協議会がありますが、これはご存じの方もいらっしゃると思いますが、11の全国組織の医療団体が一堂に介して、主に保険とかそういうことを中心に話をする場です。2年前ですが、ここで私は議長をやっていまして、その中にこの話が出てきたときに、私はこの代表で出てくるということで今回アンケートを取りました。
 アンケートの協力調査病院ですが、ここに11の団体が全部出ていますが、11の団体が調査数をそれぞれ決めており、実際にはこの病院数はトータルでは約6,000か7,000ぐらいあるのですが、各団体にお任せして、あくまでもそのうちの主だった病院に出していただいたということです。
 ちなみに、国立大学病院は46校全部アンケートの回答をいただいています。私立大学ではそれが半分ぐらいです。大学では大体そのぐらい、全体の3分の2ぐらいがこのアンケート調査には回答しているという状況です。トータルで1,000のアンケート調査をやりまして、実際に回答が得られたのは400ということで、約40%の病院がこれに対して回答していただいたということです。お手元の資料に書いてあるとおり、各団体ごとのパーセンテージが書いてあります。
 これがいまお話したものですが、トータルで約1,001病院で回答数400で40%。この対象期間は平成21年4月1日から平成22年3月31日までの間です。
 ADR機関からの相談の申入れのあったかどうかを聞きましたら、全体400病院のうちの5%、20病院で「ある」という返事がありました。「ない」というのは380病院で、ほとんど5%という数字を多く取るのか、自分は少し疑問のところもあります。
 「ある」場合の総件数、1つの病院で、先ほども同じ病院でというお話がありましたが、ダブっている所がありますので、20病院でトータル24件の相談がありました。先ほどから問題になっています「病院が申入れを受理し、相談に応じた件数」は、一応この24件中の13件です。
 同じことを書いていますが、(54.2%)これを半分超えているからよしとするのか、あるいは半分しかやってないのかと考えるのか、先ほどの6件も7件もあったけれども1件しかやってないという所と、そこら辺の齟齬をどう理解するのか問題がありますが、いずれにしろ病院側のアンケート調査結果では、受理、相談があるといったうちの半分を超える病院が一応対応していたとご理解いただきたいと思います。
 どのような事例か。ただ、これからあとの言葉は実は私の言葉を入れてしまうと話がおかしくなりますので、できるだけアンケートのところに書いていただいた方の文章をそのままなるべく変えないで出していますので、意味不明の点があったり、何だこれというのもあるかもしれませんが、それはアンケートを書いてくれた方の文章をそのままここに持ってきましたので、そこら辺のところはどうかご理解ください。
 マル1からマル9までありますが、上のほうのマル4、マル5ぐらいまでは手術のことです。7番も手術のことですが、マル6は患者の死亡原因について。マル8、マル9は意味不明といってもいいのかと思うのですが、このような事例です。
 具体的なお話をします。
 これは、内視鏡検査中に大腸穿孔した事例の過失の有無について出たのが1つです。骨折によって搬送された際の処置について。分娩時の縫合不全による対応が不十分であったということ。エコー検査の実施時期および期間がおかしい。通常では起こり得ない極めて希な術後合併症に対して、「医療過誤」と患者が認識したことによる医療紛争であったと。トリガーポイントという注射器があるのですが、その合併症についてということです。
 具体的な事例2に続いて大体どのようなことがあったと。一とおり書いてくれたものを大体そのまま羅列していますが、患者が通院している間に、腫瘍マーカー値の上昇などを契機として、適切な時期に精査を行い、がんを発見すべきだったのにという話。放射線治療の後遺症。他病院から搬送されて手術したのだけれども、死んじゃったけれども十分な説明がなかったと。
 鼻出血でバイポーラで止血したのはけしからんという話です。処置後の治癒の遅れに対する苦情。ガーゼが遺残によって偏頭痛が起きた。それで損害賠償の請求だと。ここのところはわからないのですが、息子が引きこもったり、校内暴力を振るうようになったのは医師の言動によるため慰謝料を請求したいということで、ADRをやりたいという申入れがあったそうです。
 実はいまのは、一応受理して話合いを行ったというので、10事例あります。これから先は、逆に受理をしなかった(45.8%)の話です。まず1つ、「申入れの受理をしなかった理由」の1つ目に書いてあるのは、「数回に亘り説明を行い」、先ほどの岡山の方もおっしゃっていましたが、医療過誤ではない、十分説明したのだということで、これ以上の説明は勘弁してほしいという理由です。
 これもやはり同じです。何度も説明しているのだけれども、何しろ高額な要求があって、とてもではないけれども話合いでは解決は難しいと判断した。次は、十分にやっているのにもかかわらず、患者の一方的な思い込み。ここら辺のところが、どこまでがというのは我々医療機関も少しいろいろ考えなくてはならないところはあると思いますが、こういうことで、もういいでしょうと医療機関側が考えてしまった。診療経過並びにその後の症状等について、診療科から説明しており、医療過誤であったとの認識はない。先ほどから出ているこのような理由です。
 その次に申入れを受理しなかった理由(3)としては、非常に時間が経ってしまって、3年前のことを言われたということで、3年前はさすがに勘弁してほしいということでした。もう1つは20年前ということだった。それもちょっと何とかということでお断りしたということです。
 これのところも、ここら辺の考え方、こういう考え方をしている医療機関もあるのだということをご理解いただきたいと思うのですが、「カルテ開示もしないで患者側の申し立てだけで一方的にADRを行うのは不公平であり、裁判制度に屋上屋を重ねるものであること、裁判制度に加えてADR制度があると医療者の精神的・時間的・肉体的負担が益々増幅することになるため」ということをおっしゃった医療機関もありました。
 これが最後ですが、「裁判という法的に確立した国家機関が行う究極の制度を利用して過失の有無を判断していただかないと医師のモラルダウンに繋がるため」。言われることをどんどん聞いて患者と話をしていると、医師のモチベーションが「もうこうなったら辞めよう」という形になってしまうという考え方だと思います。「損害の事実は認められないとして、最高裁による控訴棄却がなされているため」ADRに持ってきた、という事件もあったということです。
 いままでの事実関係をずっとお話しましたが、ADR経験をして、そのあとの感想をいろいろ聞いてみました。
 「良かった点」、この13件受理した人たちは良かったと考えた方の一部の方、13件全部ではないのですが、良かったと考えたというのは、早期解決をやはり挙げられています。費用が安かったということも書かれているところもありました。逆に、患者の抱えている問題点が整理されて、医療者側へ届くようになってよかったと、これは医療機関側がこう考えているということですが、このようなことがあります。
 その次の「良かった点(2)」は、交渉の当初から弁護士が直接介入することができ、紛争解決にあたり時間的にも短縮することに利点があった。ここら辺のところは、実はほかの病院団体協議会からの意見では、ちょっとこれは違うのではないのという意見もありましたが、とりあえず素直にそのまま書きました。第三者が入ることによって、感情的になりがちなものをうまいことできたということです。3つ目、これはある意味医者のほうの正直な気持かもしれませんが、証人喚問がないというのはとても心理的負担が少ないと。証人喚問というのは、かなり医者のモチベーションを下げることになるのです。場合によると医者を辞めていく人も出てくるものですから、これはなかなか難しいところです。
 「悪かった点」ということ。この13件を受理した13件の中で悪かったと感じたということがあります。これはどのようなことがあったかというと、1つは、なにしろ十分な討論がされないでお金の請求だけ来てしまったという話です。一部の先生は、ADRというのは患者との関係を良好にするためにやるのではないのかと。そうではないところが少し目立ったというご意見です。
 次のところは、これは読みますと、「ADRの趣旨は理解できるが、患者側のメリットのみで病院側のメリットは殆どないと思われる。基本的に、病院で検討した結果、病院側に非がある(過失がある)と判断した場合は、示談等の手続きを進めていくことになるが、病院側に非がない(過失がない)と判断した場合は、仲裁の申し立て等に応じても、病院の判断は変わることはないと思われる」。ここら辺のところにもしかするとADRの入り込む余地があるのかと思います。ただ、このあとの議論になると思いますが、ADRをどう理解するかによっても少し変わってくるかと思います。
 (3)、これもはっきりしたADRではないのではないかという、第三者の専門的な意見や判断がないまま安易な依頼という印象を持った。事実関係について患者側と医療機関側の主張が対立する場合には、両方対立してしまうとADRはなかなか難しいのではないのという意見です。患者サイドにしてみれば、裁判所へ行かなくても調停が出来るのは便利ではあるが、病院サイドとしてはこの制度が浸透して頻繁に発生すると、つまり安易にこれを利用されてしまうと、いまでもとても大変なのにもう勘弁してほしいという意見です。
 医療機関側が何らかの過失を認識し、賠償金額についても患者側からの歩み寄りが可能な事案については有用であるが、そうでない場合には「訴訟の前段階」という印象である。これがミニ裁判を示唆するのは勘弁してほしいというご意見の代表かと思われます。係争の性質上、裁判によっては解決を図る場合と比較して、医療者にかかる負担は裁判と同じものがあるというご意見です。
 文章が拙くて申し訳ないのですが、これはできるだけ正直にそのままのものを書いてきました。この最後のまとめは、あくまでもこれを一とおり読み、あるいは直接いろいろな先生からお話を聞いて、私なりの、これは病院団体としてのまとめではありませんが、私の私見ですが、皆さんのいままでの報告の中でほとんどが拒否していると。4件中1件、5件中1件、あるいは7件中1件しか受けていないではないかという攻めがあったのですが、私の今回のあれでは、半分ぐらいの病院はとりあえず受け入れていますということです。
 「よしあしの観点」は、実は地域によって差があります。なぜそのようなことを思うかというと、ある地域、地域がたしか7つぐらいの地域ですか、場所を明らかにしないでほしいというアンケートの注文がありました。つまり、この場所を言ってしまうと、自分の病院がわかってしまうみたいなところが少しはあって、地域によって差があるというのは、そのようなところで、「うーん、なるほど、なかなかADRもいろいろなことがあって苦労しているところがあるのだ」と思いました。
 医療側では、必ずしもミニ裁判的なADRを受け入れようという土台はないのかという話です。先ほどの岡山の事例を見ても、仲裁センターは書いてありますが、このパンフレットの見開きにしても感じるのは、費用が書いてあるのです。紛争の価格が10万円から始まるわけです。我々とすればゼロから入ってほしいわけです。本来は話合いだけで済むのならゼロでいいのではないの。ではゼロはADRにはならないのという考え方は、ここら辺の中でどうせ裁判されてお金を出さなくてはならないのだったら、本当の中立のほうがいいのではないかということ。
 そのような中で、これは大学病院の先生方のみの意見で、弁護士ではなくてメディエーター中心のADRがこの前にもう1個あってもいいのではないのと。一方で、やはり弁護士のほうが専門家でADRはいいという意見の方もいらっしゃって、またなかなか統一できないのです。私の頭の中では、いま各病院は患者の意見を非常に聞くようになって、そこに非常に時間を割くようになっていますが、逆にそのことがモンスターペイシェント等が出てきて、医療側は苦労しているという面もあります。
 その次の段階としてメディエーターを中心とした、先ほど岡山から話がありましたが、記者がいて十分話を聞いたら納得してしまったというのがあったのですが、まさにそこら辺が最初のADRなのかと思っているのです。しかし、どうも先生方の話を聞くと、いくらで解決したというところがどうしても前面に出てしまうので、そうなると医療側はちょっと近づきにくいかという印象を持ちました。大変勝手なことを申しましたが、以上です。

○山本座長 大変興味深いアンケートのご紹介をいただいたかと思います。本日予定しておりました3つの報告が終わりましたので、ただいまの説明、あるいは資料に関する質問・ご意見、何でも結構ですので、メンバーの皆さんから幅広くご発言をいただければと思います。

○水田構成員 岡山の水田です。先ほど小山先生のほうから10万円からというお話がありましたので、その点だけ誤解ではないかと思いますので、補足説明させていただきます。先ほどお示しになったリーフレットはあくまで早見表で、10万円からしか受け付けないということではありません。先ほどの添付資料3ですが、一覧表がありまして、右から3つ目の欄の「紛争の価格」で、要するに申立てをされる方々が何を求めているかを書いているものがあります。もちろん相当額という所もあるのですが、例えばいちばん上の事件は、「-」というのは金額はないと。謝罪と経緯の説明をしてほしいということだけです。これについては、実際に経緯の説明がなされて、それで納得したということで解決しております。下のほうにも、平成22年度の3号についても、(経緯に関する納得のいく説明)とか、その下も(謝罪)などということで、必ずしも金銭的な要求がない事案がありますので、その点をご理解いただければと思います。
 折角出ましたので、いちばん最初の第1号の成立事案なのですが、実は申立てをする側も、既に専門医の意見を聞いて、過失がないとわかっているのだと。だけれども、遺族において納得する説明を聞きたいというのが最終的なご意向で、それを受けた医療機関側の院長先生のほうも、それまでに何度も何度も遺族の方から要望があったので、実はご自分も迫られてうつ状態になっていたので、早く解決したいと。最終的にはこの亡くなられた方の自宅の御仏前で説明をするということで、1つの解決に至ったということがありますので、ちょっとご理解いただければと思います。

○小山構成員 十分理解しているつもりなのです。ただ、このパンフレットというのは、一切説明なしに出回るわけです。ここの所を見ると、「あっ、ADRというのはお金で解決するやり方をADRというんだ」という誤解を招くと思うのです。いまのような説明があれば、実際にこうだったということがあればいいのですが、いままで過去2回にわたって説明の中でゼロという話をしたのは、小松先生の所と千葉しかなかったのです。あとは解決していくらという値段しかない。だから、いまゼロというのが出てきたので、それは大変よかったと思うのですが、実は医療側は、まず最初はそこではないのと思っているところが、私はあるのではないかと思うのです。何でもかんでもお金で解決しようとするのではなくて、あくまでも患者さんとの関係をより良くしたい。そのことによって、良い治療ができるのだというスタンスの中で進めているのですが、どうしてもこういうパンフレットを見ると、まずお金のことが出てきて、「お金を支払うんだね」という印象を持ってしまう。先生の気持はよくわかるのですが、一般的にこのパンフレットは、出回った場合にはそこまでの説明はされていないので、そういう誤解を招いて、実は医療者側が少しヘジテイトしているのではないかという感じを持ちます。

○山本座長 ちなみに、最終的にいまのような形で解決した場合は、成立手数料はどうなるのですか。

○水田構成員 なかなか良いご質問だと思います。これは当事者どちらにとっても非常に重い事件が解決したということで、確かに当事者間で金銭の移動はなかったのですが、やはりその場合もある程度のメリットはあるのではないかということで、仲裁人がこれを金銭的に評価するとどのぐらいかということで、若干の成立手数料はいただいております。ご理解ください。

○小松構成員 いま小山先生から言われたので、茨城県の小松です。手数料も取らないし、申込料も一切取らないでやっているわけなのです。私は思うのですが、紛争解決の賠償額がどうなるのか。これが日本医師会がADRに踏み込まない原因なのです。結局これをADRでやられてしまうと、医師会でいままで積み上げてきた額からはみ出してしまう。そういうことが起こってしまうということで、ADRにあまり積極的でないということがあるのです。
 私たちの所では、医療機関側がいくらぐらいで解決したいと患者さんに提案してしまうことがあるのです。そのときは、「それは保険から下りない可能性がありますよ。それをご存じですか」ということをきちんと説明して、「額が高い場合は県医師会の医事紛争委員会に上げてくれ。それで、ある程度の額が出たら、ここでもう1回やりますよ」ということでやっているのです。だから、ADRだけで額を決められてしまうのが非常に怖いのです。そういうところがあります。

○宮脇構成員 意見というか感想なのですが、小山先生に報告をいただいた中で、全国の主要な400病院から回答があって、ADRにかかっているというのが24件。医事紛争は昨年でいうと約800件近い裁判所への提訴があるわけですが、提訴までに至らずに諦めてしまったり、別の解決という件数は20倍、30倍あると思うのです。
 そういう点からいうと、400病院のうち24件というのは、ADRの制度自体がまだ国民の間に十分知られてなく、折角こういう制度がありながら、受諾がうまくいかないという面もありますが、申し出そのものがないのはとても残念です。 国民への宣伝という点では、各ADR機関がやるだけではなく、厚生労働省も大いに力を尽くしていただきたいと思います。
 それから、日本病院団体協議会の中でADRの評価が非常にばらつきがあって、興味深いなと思って見させていただいたのですが、被害者も地域的な格差がすごくあります。東京とか大都市圏では、相談に対応していただける弁護士であるとか、意見を聞く医師等については、わりとメドがつきやすいのですが、地方では被害者の相談に対応できる体制がなかなか厳しくて、我々も本当に困ってしまうのです。そういう点では、地域によって差があると、小山先生も述べられているのですが、患者と医療機関側の差というか、何かあった場合に話し合っていくという点で、わりと地方に潜在的な問題があるのかなと思います。そういうところについては特にADRなどは力を入れていかなければいけない課題ではないかと思います。
 もう1点、昨年12月に行われた医療過誤原告の会議のシンポジウムで、今日、参加いただいている小松先生から茨城の取組みを報告いただきました。多くはどちらかというと医師会側のほうがADRについて受け身なのですが、茨城についてはむしろ医師会幹部が問題意識を持って、最初は医師会の中でさえこの機関を運用していくというご理解を得られない中で、相当努力をされて、受諾率を高くされた。苦労を重ねて医師会主導でやられているお話を詳しく伺って、とても感動したのです。
是非、各医師会でもADRについて積極的になって、国民の間での説明とか、患者側に疑問や不信があった場合は、こういう第三者を入れた場を活用しながら、客観的に医療機関に対する不信も払拭していただきたい。全国的には弁護士主導でやられているADR機関ですが、各機関で地元の医師会の先生たちとの話合いを強めていただいて、ADRをさらに機能させていただきたいと、強く感じた次第です。以上です。

○佐々木構成員 患者の立場から、ちょっとお話させていただきたいと思うのです。もし本当にミスが起こりますと、患者としては医療者に対して不信感が募るわけなのです。もし死亡などになりますと、本当にパニック状態になります。しかし、初動において医療者がその経緯をすぐに説明することが大切ではないかと思います。それがない場合に、やはり不信感となって、紛争のほうに進んでいくのではないかと思います。まずは医療者のほうから、いま医療者のほうでも安全管理体制、またはリスクマネージャーを置かれて、そのような対応をされておられるのでしたら、そのようなものをまずして、なるべく患者の気持をすぐに納得できるような方向に持っていくのも大事ではないかと思います。
 そして、このADRというのは、私はいままでADRということで、一般的に金銭問題、不動産などという法的なものにおいて、弁護士の先生の法律の専門性において解決する。これは本当に負担が少なくて、迅速に解決できるのはいいほうだと思います。しかし、この医療ADRとなりますと、専門性が大きいものです。亡くなられた方をADRでするというのは、これは本当に重いものであり、医療者の出番が必要になるわけです。ADRを弁護士主導でやってもらうとなると、これは被害者家族としては納得できるかなと思います。その負担が少なくて、迅速であるというより、被害者としてはそれより法的な責任とか損害賠償以外に、まずは何が起こったのか、どうしてこうなったのかという医療者側からの説明がほしいわけなのです。
 それを聞いて、医療者側も誠意をもって、初動で本当に短い期間に因果関係、そして医学的な専門の先生方において調査していただいて、それを被害者に伝える。そこで説明をし、対話を持つということで、対話によって心と心が通じ合うことになれば、これは本当に良い関係で、お互いが救われると思うのです。だから、対話を持つことは、それによって納得されると、それはそれで良い関係ができたと思います。
 この医療ADRが裁判外紛争解決というのであれば、裁判ではない対話ができるということは、大きなポイントだと思います。私は医療過誤裁判をして、自分で証人尋問をしました。そこで1時間ずつ2人の医療者を2時間、法廷で尋問できたこと。本当にすべてがそこで聞けたことが、私の心の納得できたことなのです。だから、両者が真剣に誠意を持って、患者のために説明することはできるのです。そういうことをしていただければ納得できて、心が休まるのではないかと思いますし、いいのではないかと思いますので、医療者側もちょっと努力していただきたいなと思います。また、リスクマネージャーなどという方も、いまメディエーションとおっしゃっておられましたが、そういう方が付いておられる場合もありますので、良い方向に行っていると私は思いますので、医療機関内で努力をされたらいかがでしょうか。

○小山構成員 大変貴重なご意見をありがとうございます。10年前と比べたら、かなり世の中が変わってきているのかなという印象を持っております。残念でも100%というわけにはいかないと思うのですが、医療安全ということが、患者さんの要望に対して非常に積極的に応える病院がだいぶ増えてきているのではないかという感じを持っておりますが、まだまだやらなければいけないことはいっぱいあるかなと思っております。
 その中で、一次、二次というのがあるとしたら、一次のADRが、どちらかというとメディエーター中心なのかなと。一次というのは、まず病院の中ですね。その次が外部のメディエーターを迎えてなのかなと。その次に、弁護士さん中心のADRなのか、あるいはこれが混在するのかという感じは持っております。ありがとうございました。

○佐々木構成員 それは段階的に、やはり院内で、それから弁護士の先生に、最終的には損害賠償であれば法的なものをしていただくという方法もあるのではないかと。段階を踏んでいくというのも良いことではないかと思います。

○和田構成員 私もずっと思っていたことなのですが、医療の事故の紛争処理システムをトータルに見ていく発想が必要だろうと思うのです。いま佐々木さんのおっしゃったような議論もありますし、小山先生が示された医療側の異論などを見ていても、やはりいくつかの要素が必要とされています。1つはいまおっしゃったような対話の要素と、もう1つは専門的な評価、あるいは事実認定が必要であるということは当然だろうと思うのです。
 もう1つは、法的な判定、あるいは損害賠償額の確定、これはやはり法の専門家の評価も必要だろうと。どこかのADRですべてやろうとすると、これはものすごく大きな資源と大掛かりなシステムになってしまいますので、おそらく現実的ではないだろうと。そうすると、いろいろな仕組みがある中でそれが連携していて、いま小山先生や佐々木さん等から出てきたような、そういうシステムとして考えていくのが重要である。
 ただ、私は必ずしも段階的というのではなくて、場合によってはそれが機能分化で、実は横並びでいろいろあって、絡み方はケース・バイ・ケースで、当事者のニーズに応じていろいろあっていいのかと。そこだけ段階というのとは何か違うような気もするのですが、そういう疑問をちょっと感じながら、でもシステムとして考える、発想として重要だというのは、ご意見を聞いて非常にそうだなと思いました。

○小山構成員 確かに先生のおっしゃるとおりで、岡山の資料を見させていただくと、岡山の仲裁センターが真ん中にあって、その下に「振り分け」とありますね。この辺が大事なのかなと。誰がこれをやるのかというところもあれなのかなと思います。帰られてしまいましたが、先ほど田口先生がおっしゃっていたのは、来たけれども全部成立しないで終わっていますが、何で成立しないのかというところを見てみる必要があるのです。でも、そうすると「これはADRに即さないよね」というものは、やはりかなりあるのではないかと思うのです。それは除外してくれないと、医療機関側が「お前ら、受け方が悪いんだ、悪いんだ」と迫られてしまうと、ますます引いてしまいますので、そこのところはちゃんと評価して、これはADRとして解決したほうが本当は患者さんのためにいいのだというものの集計の中から、「これだけしか受けていないではないか」という話になると、それはそれでもって、もう1回考える必要があるかという感じは持っています。

○山本座長 岡山の弁護士会の「振り分け」というのは、どなたがやられているのですか。

○水田構成員 このパンフレットを作った設立当初は、受け付けた段階で、当初で振り分けると考えていたのですが、そんなに簡単に分けられるものかというのがやっていくうちにわかりました。仮に申立書を見て、医学上の争点があるように思えても、そこは本当の争点なのか、それとも単なるコミュニケーションギャップが争点になる事案もあるのではないかということで、まずは左側の専門的な争点なしというか、そちらのほうで進めていって、どうしてもここが問題になるなというところまで争点整理をして煮詰まったときに、「医師の仲裁人を入れましょうか」、「こちらのルートに切り替えましょうか」という扱いをいまはしております。

○小松構成員 医療機関側の病院団体の関係で半分ぐらいということなのですが、具体的な事例1の6つの中で2つは、これは私が担当したものではないかという事例があるので、茨城県の場合は病院はまず断りません。言った場合、必ず受けます。いままで4、5例、応諾していないのがあるのですが、それは精神病院とか民間の病院で、いわゆる公的病院、あるいは大学病院、これは断りませんね。みんな受けます。そこには医師会が関与しているということが大きいのではないかと私は思います。ただ、先ほど愛媛の弁護士会の話では、これは弁護士同士ですよね。これは病院は出てこないですね。おそらくそう思います。これがいちばん病院の嫌がるところですね。そう思います。だから、その点、やはり第三者を加えてですね。医療側から見れば、弁護士は第三者ではないですよ。ほかの人間を入れていかないと、これは愛媛は成功しないのではないのかという感じを持っています。岡山は医者を入れてやっています。専門医というのも、ちょっと怪しいのです。これは専門医を嫌がるところがあります。専門医というのは専門のことしかわからないというところがあるから、そういうところもあるかなという感じがする。

○水田構成員 「専門医」というこの「専門」という言葉は、医療の世界の専門というよりは、弁護士以外の専門が医師であるという意味ということで、ご理解いただきたいと思います。

○山本座長 先ほど宮脇さんからもお話があったと思いますが、岡山はいま医師会との関係ということなのですが、これは医師会との間では何らかのあれはあるのでしょうか。

○水田構成員 この経緯の所に書いてありますが、設立の半年前に医師会の執行部と懇談会を行いましたが、それからあまり交渉がありませんで、そろそろ何か協議の場を設けたいとは思っているところです。

○和田構成員 医師会との関係を、先ほど宮脇さんも広げていってほしいという声もあって、茨城も非常にうまくいっていそうな状況です。1つ今日思ったのは、田口先生はもう帰られましたが、愛媛のご報告でも応諾の可否に関して、医事紛争処理委員会というのがかなり大きな影響力を持っているわけです。つまり、医師会の紛争処理院会で通れば保険会社は賠償を出しますし、そこで過失の判断をする、一応のものをするということになっています。医師会の医事紛争処理委員会の代表は来ていませんが、広い意味でいえば、あれもADRの1つと言えなくもない。しかも保険会社がその判定に従う、そこで専門的な判定も行うという、ある意味かなり強力なADRの機能的要素の一部を持っているわけです。そことの関係をどう考えていくか。愛媛のように、そこで判断が出なければ、こっちのADRへは来られないというケースがあると言うことは、各地域でもたぶんそのようなことがあるのではないか。茨城辺りはそれをクリアされたかと思いますが、その辺りがADRの実効化のために大きなポイントなのかと思うのですけれども。

○小松構成員 茨城の場合は、連携してやっています。もう既に3例は、最初、中立委員会に来て、賠償の問題になってきましたので、これは医事紛争委員会に出してくれと出させて、その間も中立委員会でやっていました。それで、結果が出て、最後に会わせて応諾。みんな応諾です。愛媛で医事紛争委員会で結果が出てしまった。無責で出たと。でも、患者さんは不満なことがいっぱいあるのです。だから、そのようなものも一旦話す。医事紛争委員会は、当事者同士話し合いませんから、私の所で中立委員会で受けて、無責でも説明しましょうと。患者は不満ですから、無責でも苦情は来るわけです。そのためには、やはり受けて、話して説明して、第三者を加えて話し合ったほうがよろしいでしょうということです。
 小山先生の結果で、ADRをなぜやらないかと、病院で不満がいっぱいあるのですが、言われていることは「これ、ADRやれば解決するのにな」と思われる例があります。誤解が多いのです。合意に達しなくても、毎日のように来ていた苦情が来なくなります。「あとで訴えてやる」とか、「マスコミにばらす」とか、何か言って終わることもあるのですが、そのようなことはないですね。やはり話し合ったことで、ある程度は納得するところもあるのかなという感じはします。それが良いか悪いかは別問題です。そのような結果になっています。

○和田構成員 そうすると、茨城のシステムなどでは、医学的な評価とか事実認定機能、それから賠償に関して、医事紛争処理委員会にその判断機能は渡して、むしろそれを踏まえた対話をADRでという形の分業化ができて、連携ができているということですか。

○小松構成員 はい。要するに中立に私たちのほうでは、有責・無責は判断しない。賠償額も判断しない。この2つは大きな点にしてやっています。もちろんわかる範囲で、「それは医者はこういうことがあって、こういうふうになったと思います。これは過誤ではありません。ミスではありません。結果としてなったけれども、医療ミスではないんですよ。こういうことも合併症としてありますよ」とか、そういうことは言います。だけど、「無責ですよ」とか、「これは医者が悪いですよ」という判断はしないようにしています。

○小野寺構成員 医事紛争処理委員会の結論が出る前に、患者側の意見を紛争委員会に言える仕組み、主張できる仕組みというのは、なかなか難しいのでしょうかね。つまり、無責というのは、何で無責になったのか、患者側からすると全然わからないのです。患者側の意見を全く聞かないで、ある日、ある時、無責という結論だけ。しかも、患者側には伝わらないで、裁判ですと、お医者さん側の弁護士さんに伝わっているのですね。紛争委員会はADRではないわけで、そこに患者側を入れるのは仕組み上なかなか難しいのかもしれませんが、そこで無責というのが出てしまうと、なかなかそれを覆すのは大変ですよね。しかし、事案によっては、患者側の話も聞かないと、事実認定ができないというケースだって大いにあり得るわけなので、最初の段階でそこに患者側の意見が入り込むというか、入れられるような仕組みがあれば、それを即、いちばん初期のADRという位置づけも可能なのではないかと思うのです。紛争委員会のあり方をもうちょっとオープンなものに変えていくと、そういう動きはないものなのでしょうかね。

○小松構成員 これは日本医師会の去年の秋の代議員会でも出ているのです。私も発言しました。前にも言っています。結局、日本医師会の医事紛争処理委員会というシステムは、患者も入れないし、医療者、担当者も入れないのです。第三者だけでやる。第三者といっても、医師と弁護士です。顧問弁護士だけでやるというシステムになっていますので、そのシステムはもっと変えて、両方、ADRみたいにしたほうがいいではないかということは主張しています。
 ただ、これも日本医師会で全部をやることは、先ほど先生が言われたように、大きすぎて難しいですね。だから、各地方で、都道府県医師会なりでそれをやっていくと。それで、困難なものは日本医師会に上げるというシステムがいいのかなということは主張しています。これはこの前も新潟からも言われましたし、あちこちの県で主張してきていることは確かです。山形も始めると言っていますね。だから、それが広がってくることは確かだと思う。変わってくるのです。ただ、日本医師会は、まだ先ほど言った補償賠償額が高騰することを恐れています。大変なのです。だから、まだまだ事柄、事柄で変わってきています。意見を聞かせてくれというようになっています。いま第三者機関の医療事故調査委員会を立てようとしていますよね。そこでも茨城のやり方が非常に参考になるということで取り上げられて、日本医師会の委員会で検討されています。だから、変わってくるのではないのかなという印象は持っております。

○宮脇構成員 茨城の場合は、中立委員会の意見というか、そこでの議論は、紛争処理委員会の所では一定考慮されて、そういう形の位置づけにはなっているのでしょうか。

○小松構成員 これは考慮しないようにしています。考慮しないようにしてくださいと言っています。

○植木構成員 この点は千葉のADRとも若干関連してくると思いますので、一言させていただきます。私もオブザーバーとして千葉県医師会の紛争処理委員会に参加させていただきました。それは委員会の性格上、内規によって、当然のことながら紛争の秘密性を重視する観点から、会員の権利が守られなければいけないのは当然のことです。それは内部の規律の問題だと思います。ただそれを外から見れば、密室だという評価されることになります。そういう感想は多いと思います。ただ、現実問題として内部で議論されている紛争処理の現状にあっては、かりに密室で審議されているとしても、一方的に偏った結論だけを追求しているとは思いませんでした。しかし外から見るのと内から見るのとでは、必ずしも評価は一致しませんから、その誤解を解いていかなければいけないというのはそのとおりだと思います。このためADR機関と紛争処理機関とは組織的には別仕立てにするのが良いと感じました。
 そこで、千葉でやっていただいたことは、委員会の作業は必ずしも紛争になってから上がってくるというわけでもありませんから、いったん事故が起こったと思われる場合には、お医者さんのほうから積極的に上げていただくのが良いと思います。紛争委員会に上がったときは、そこでは保険が使えるかどうかということが最大の関心事ですから、そういう意味では必ずしも紛争になったから上がってくるものだけに限らないわけです。そういう意味では、非常に幅広い観点から上がってきます。その中で、処理をしていただくときによく言われるのは、こういう事件はあくまでも保険との対応で議論され、特に100万円を超えるような事件になりますと日医まで上がることになりますので、これは裁判でやるしか仕方がないのだとか、そのような結論が出されて、何らかの形で有責・無責の判断がなされる。問題は、そのように深刻な事態でない場合には、これはADRのほうへ回して判断していただいて、合理的な解決を迅速にやったほうがいいではないかという意見が多くみられるようになりました。そういう方法を少しずつとっていき、紛争処理委員会と医療ADR機関との間にある壁を低くしていくことが大事と考えます。現在の段階でそれが必ず制度的に保証されている段階ではありませんから、現実の運用のところで少し配慮されるようになってきているところです。
 もう1つ、岡山の報告の件で小山先生が非常にご懸念された金額(保証額)との関係ですね。金額との関係で私は思うのですが、今日は裁判所の方も見えておられますので、そことの対応が重要になってきます。基本的には裁判所の事例になじむ事件と、そこまでいかなくても、もっと積極的に、早く迅速に公平に、それも専門家を交えて話合いの結果として出していける、合理的な解決が期待される事例がありますから、この場合には両者の間である種の棲み分けを考えるべき時期に来ていると思います。その1つの方法としては、今日の報告の最初の所でメディエーターの話がありましたが、医療相談がもっと積極的に取り入れられるべきだというのが第1印象です。それに即した医療ADR機関でなければ成功しないと思います。
 もう1つは、医療相談だけでなくて、紛争絡みで金額が問題になってくる、あるいは有責・無責が問題になってくるというときには、事案の本質的な内容の困難さ、難しさ、あるいは被害の大きさなど、いろいろなことを考慮して、裁判所で2年、3年と時間をかけて、ちゃんとした結論を出していただく事案と、そうでない、もっと積極的に早く合理的な解決ができる事案との、ある種の棲み分けを、これからやっていかなければいけないのではないかと、私は思っております。

○小野寺構成員 小山先生にお尋ねしたいのですが、病院の中での説明と裁判と2つあるわけですが、その中間に位置づけるべき解決手段、応諾率について、ほとんど心配のないような解決手段というのはどういうものがあるのか。病院側、医者側が、これなら心配しないで出ていって、紛争解決に参加できるという中間的なものというのは要らないのか、それとも要るのかですね。要るとすれば、こういう形ならいいというものが何かあるのか。
 それを出していただくと、いま我々が何とか努力している弁護士会のいろいろなADRと比較して、我々の持っている欠点もよくわかる。つまり、部分的に修正していけばうまくいくものなのか、弁護士会がやっている限りは、どんなに努力してもこれはもう無理なのか。無理であれば、私は個人としては弁護士会が主催する必要は全くなくて、よそで主催していただいて、我々が代理人として登場するというのでも、私は一向に構わないと思うのです。中間的な紛争解決手段について、モデルのようなものをお考えになっているのか、それともなっていないのか。その辺をちょっとお聞きしてみたいと。つまり、応諾率について、心配のない解決手段があるのかどうか。そして、それには弁護士は関与したほうがいいのか、関与しないほうがいいのか、いかがでしょうか。

○小山構成員 ありがとうございます。大変難題な質問で、非常に答えにくい、絶対に言いたくない答えなのかも。最終的な結論からすると、私はやはり医療相談と裁判との間に設けなければならないのは、いまの我々医療界が抱えている事情ではあると思っています。実は私の経験の中で、私が病院長をやっているときに、ADRを断ったことがあります。それはなぜ断ったかというと、最初からお金の話なのです。お金の話というより、最初から医療側は悪いと決め付けて、「お前の所が悪いんだから、謝りに来い」というような姿勢の中のADRだったのです。これをいちばん反対したのは、先ほどもありましたように、病院側の弁護士だったのです。「これは先生、出て行く必要ない」、それを判断したのは病院側の弁護士なのです。
 ですので、ここで再三申し上げているのは、小松先生がやっておられるようなものが、まず第1段階としてあるのではないだろうか。それは医者だとか、メディエーターというのではなくて、無責な所にも患者さんが納得してくれるような話合いの場は、我々も作らなければならないと思ってはいるのです。でも、各地域のADRのお話を聞くと、「これでいくら取れた」という話がどうしても目立ってしまって、つまり弁護士同士が話し合って決まってしまって、患者さん本人同士、主治医が出てきて、患者さんが出てきて話し合って、それを第三者がいて話を聞いてくれて、「いや、こういうことは医療にあり得るんだよ」とか、「それは医療側に常識がないよね」という話の場は作ってほしいのです。最初から医療側が有罪で、お白州の場に首根っこ洗って出ていくような感じさえ、今回のアンケートを聞いたときに思ったことも事実なのです。
 だから、そこら辺の誤解をまず解く必要があるのかなと。まず、先ほど、岡山には大変申し訳ないのですが、あの資料を見ると、「あっ、最初からお金を出さなければならないのはADRなんだ」というイメージを与えてしまうのが、いちばん大きな問題なのかと思っています。我々とすれば、それこそ和田先生に来ていただいて講演をしていただいて、院内の中のメディエーターの教育を一生懸命やったり、いろいろ努力しているのですが、それでもやはり院内ではちょっと複雑になってしまって「出したいんだけど」という所はあることは事実だと思います。だから、そういう意味では必要だと思います。ここは弁護士さんがそういうことには長けているので、弁護士さんが中心のほうがいいかなという気もしますが、患者側の弁護士だけの集まりだとすると、医療側についている弁護士さんのほうが、逆に「それはちょっと考えたほうがいいよ」というストップをかけるのも、事実ではないかと思います。答えとすれば答えになっていないのですが、必要だと思います。

○小野寺構成員 私もここにきて、小松先生たちがおやりになっている、どちらかといえば医師会主導のADRの存在を知って、非常に刺激を受けて、「なるほど、そういった手法もあるんだな」ということで、参考になっているのです。もしそういった方法であれば、応諾率について心配がないというのであれば、医師会がもっともっと主導して、そういう仕組みをどんどん作っていったらいいのではないかと思うのですが、そこはいかがですか。

○小山構成員 正直申し上げて、病院と医師会という所は、大変微妙な関係なのです。弁護士会も東京に第一と第二があるように、その辺のところは「じゃあな」と集まって、気楽にやるというわけにはちょっといかない、それぞれの立場の主張があるわけなのです。そこのところは上手に利用していく必要があると思うのです。それはやはり地域性があって、茨城のように、あるいは千葉のように、上手に行っている所もあるし、そうでない地域もあるので、全国統一のようなというのはなかなか難しいので、それぞれの地域に適したものが必要なのかなという感じがします。

○渡部構成員 日弁連の渡部です。いま聞かせていただいて大変示唆があったので、茨城にはADRはないのですね。弁護士会ADRがないのですね。医師会のほうと親しい元会長が始められて、非常に協力関係がうまくいっているのかなという気がしています。そこから医療側の信頼というのはかなり深い。また、患者側のほうからすれば、医師会側という部分が気になるところではありますが、かなり中立的な運営をされているから信頼が深い、そういうことだと思うのです。
 弁護士会ADRの場合、各地で応諾率にばらつきがあるのですが、総じて言えることは弁護士のみでやっていても、要するに医療側の信頼が深い所は応諾率が高いのです。愛知もそうだし、東京もそこそこ信頼があるのだろうと思います。そういう意味で言えば、良いコラボができているADRは、応諾率もいいし、解決率も高いのかなという気がしています。
 前々回ですか、小松先生から言われたのは、専門医として入っていても、専門的意見を言わないのだと。むしろ調停は弁護士の先生に任せて、基礎的知識の部分は補うけれども、専門的意見は言わないということを聞かされて、「やっぱりそうなんだ」と。ご存じのとおり私も門外漢ですが、鑑定となるとお医者さんによって全然違うというところがお医者さんの世界だろうと思いますから、調停の場では信頼できる弁護士の先生にお任せして、基礎的な部分についてサポートするというのは、調停の場ではかなり有効なのかなと思っております。かつ、どういう機関の中にあるにしても、両方の信頼のある所が応諾率が高いのだなというのは、感想としてありました。

○和田構成員  いまのを伺っていて思ったのですが、茨城県の手続モデルと岡山のモデルというのは、実は非常に似ているのです。近いですね。どちらも弁護士と医療関係者が入って、かつ手続を進める段階では医療関係者は専門的な人であっても判断はしない、評価しないという形なので、非常によく似ている。ところが応諾率は、茨城は全部くるのに、岡山はあまりよくない。岡山は病院側の弁護士さんが受けないからだというお話もちらっと聞いたりします。もう1つ要素としては、同じような手続なのに応諾立が極端に違うというのは、医療側のみならず、その顧問弁護士も含めて、弁護士会のADRに対するネガティブな誇張されたイメージが1つのネックになっているような気がするのです。
 ですから、ここで実際にADRを動かしている方たちと意見交換をずっとやってきて、非常に有益だったと思うのですが、さらにもうちょっと広げて、例えばいまお話が出ていたどこかの医師会にもっと来てもらうとか、あるいは病院協会、病院団体も入ってもらう、あるいは患者団体だって入ってもらうとか、もう少し大掛かりにして、外部の意見も聞くような、そういう場があって、どういう手続をどのようにやろうとしていて、どこに問題点があるのか、どこがどうなれば使えるものになるのかという意見交換が、やはり今後も必要なのかと感じます。

○山本座長 ありがとうございます。貴重な建設的な提案をいただいたかと思います。

○西内構成員 第一東京弁護士会の西内です。東京の3弁護士会の医療ADRは平成21年から1年間かけて、検証作業を行いました。その報告書は、平成22年3月に弁護士会のホームページにアップされております。それを踏まえて、約1年かけて、さらにその検証報告を踏まえた改善策についての検討を行って参りました。今日、実は弁護士会で、あっせん人と事務局に対する改善結果を踏まえた研修会を、まさにいまやっている最中です。
 大きく変えた点の1つは、先ほどから意見が出ていますが、話し合いの手続を、原則として、ステップ1とステップ2の2つの手続に分けることとしました。相手方とされた医療機関あるいは医師がお白州に立たされるという誤解を招かないようにするため、まずステップ1では相互の対話と説明を中心とする。そこで、双方が相互理解を少しあるいはある程度促進されて、「じゃあ、解決に向けた話し合いをしよう」と双方が同意したときに次のステップ2に進みます。ステップ2では、具体的な金額あるいは金額ゼロでもいいのですが、解決に向けた調整のための話し合いを行う、そのように2つの手続に分けました。そのように話し合いの手続を大きく変えたということです。

○山本座長 いまのお話は、小山さんの先ほどの発言に近いようなイメージなのですかね。

○小山構成員 やはりお白州の場だったなという感じ。すみません。決してそんな揚げ足を取るつもりは。そんな反論しなくても。ただ、いちばん最初に感じたのは、何しろ医療機関が悪いんだというインフォメーションがまず来て、ADRが来たものですから、「それはちょっと違うんじゃないの」と思ったのが最初のきっかけだったのです。最初のトラウマが大きいものですから、すみません。

○西内構成員 まさにおっしゃるとおりで、そのような誤解を与えたとすれば、我々弁護士会もある意味、先生方あるいは患者さんの利用者の視点が欠けていたと、私も反省しております。したがって、その2つにきちんと手続を分ける、そうすることにより手続の透明化・公正化を図るということで、1つの目玉として改革をしたわけです。ですから、確かに弁護士会の見方も、そのような誤解を招いたという点ではちょっと利用者の視点が欠けていた部分があるかなと、その点はおっしゃるとおりかもしれず、真摯に受け止めて改善と工夫をして行く必要があると考えております。

○水田構成員 小山先生に質問です。そのトラウマの件なのですが、「病院が悪いというように言われて」というところが非常に印象に残ったということで、それはどういう点から。仲裁を進めている手続の側の方がそういう感じだったのか、それとも申立てをした、申立書の内容からしてそのように思われたのか。そこを参考までにお知らせいただきたいのですが。

○小山構成員 すみません。だいぶ前の話なので、あまり記憶がないのです。ただ、たしか申立ての書類上、そういう印象を非常に強く持ったのと、それから私どもの側にいる弁護士さんが内容を見て、「これはおかしい。中立じゃないよね。最初からこっちが悪いと決め付けてるね」という文面だったのです。それを誰が作ったかというのはちょっとあれなのですが、患者さんが作ったならそうではないかもしれませんが、少なくとも向こう側の弁護士さんの名前で来たので、こちらは「あっ、これは弁護士さんからのADRなので、やっぱりこちらも弁護士に相談しなければならないな」という認識の中で動いたように記憶しています。ただ、もう10年ぐらい前の話ですので、だいぶ変わっていると思いますし、いまお話を聞きまして安心をいたしました。

○小松構成員 いまの話なのですが、これは顧問弁護士が出てくると駄目になってしまうのです。病院側の顧問弁護士は出るなと言います。私の所でも何例かあるのですが、そのときには出てほしいと、院長に直接話します。病院側の顧問弁護士のほうは、守らなければいけないからというところがあるのではないでしょうかね。その立場というのが。だから、なるべくだったら裁判に行ってしまったほうが、攻められるような所に出ていく必要ないという言い方をする人が稀にいます。

○山本座長 ということは、弁護士会の中の問題ということですか。

○水田構成員 まず、先ほどの小山先生のことなのですが、確かに申立書は、申立て側、患者さん側が書かれているので、どうしてもそのようになりがちなところはあるのです。ただ、そのように書いてしまうと、やはり当然、相手方である医療機関が非常に出にくいと、いまおっしゃられた、まさにそういう内容があるかと思われます。私どもは結構お節介やきで、いかにも激しい申立書が来た場合には、運営委員会のほうで「これでは相手方のほうはまず来ませんので、ちょっと先生、ご検討を」ということで、差戻しをしたりすることもあります。仲裁センターのほうで来てくださいという話をする場合には、これは必ず中立的な立場でお話するようには申し上げているので、ちょっとその辺りはどうなのかなと思って、聞かせていただきました。
 先ほど病院側の代理人という話がありましたが、私も1件聞いたことがあるのですが、モットーとして、確信的に仲裁センターには出ないと思っておられる医療側の代理人がおられるのですが、なぜかとお聞きしたら、要するに「お医者さんを晒し者にしたくない。守りたい」とおっしゃるのですが、私どもには、なぜ出さないことが守ることになるのか。本当はお医者さんのほうも、そういう問題があるということで、非常に傷ついておられる方もおられて、むしろ説明をされて、納得してもらえることが、ある意味で先生方の癒しにもなるのではないかと思っておりますので、そこをちょっと理解しておられない代理人がおられるのは、残念に思っております。

○宮脇構成員 ADRに大きくは結び付くと思うのですが、医療そのものの安全性は高められているというのは、すごく理解はできるのです。ただ、医事紛争が起こった場合の医療側の対応について、相談を受けている感じではまだすごく閉鎖的だなという印象です。医療裁判の提訴件数は一時期の年間1,100件程度から、昨年度でいうと790件ぐらいと、一旦落ちて、若干上昇気味なのです。勝訴率そのものは既に20%ぐらいまで低下していて、被害者のほうから見ると、よほどのことがないと勝てないのではないかという閉塞感があります。それは同じく担当されている弁護士さんも感じられているのではないかと思います。 良心的な弁護士さんであればあるほど、過失立証の検討段階で勝訴がなかなか見込めない場合は、被害者の思いとは別に、提訴を取りやめることを勧めていくということも結構あると思うのです。
率直に言って医療機関側がADRなり、医療事故調査制度づくりに動き出した動機は、医師法21条の問題など、外からの圧力の側面がある。そういう印象を受けるのですが、いま裁判の現状としては被害者の勝訴率が極端に低くなっていて、被害者だけではなくて、日本の医療安全や医療の信頼度からいっても、本当にこれでいいのかと思います。被害を受けたと思いながらも、明確な証拠という形で立証できないばかりに、提訴を断念せざるを得ないと。このことはやはり良くないと思いますし、そういう点では1つの方策として、ADRの扉というのもあると思うのです。
 そういう裁判などの総合的な情勢が影響して、「もうADRにしても、そこまで踏み込む必要ないよ」という後ろ向きの気運が、医療界の中で、特にかなり大きな病院などでないのかな、心配しているところです。我々被害者の運動などが強まれば、応諾率が上がっていくのだろうけれども、現状においては、むしろ逆行している状況が数字的には出ているので、とても心配してはいるのです。医療機関側から見て、小山先生、そういう点での現在の情勢については率直にどうですか。

○小山構成員 1つ、逆にお聞きしたいのですが、やはり医療に対する不信感を持っている人は、どんどん増えていますか。

○宮脇構成員 普通にはないと思うのです。信頼したいという思いが、基本的にはありますから。それから、いろいろ事件があったとしても、ちゃんとした説明を受けたいと。医療不信になりたくないというのは、それは当然です。自分や家族の命を預けているのだから。 それでも、医療機関側から対話が打ち切られる場合が結構あるんです。かなり重大な事故でも「もうこれ以上、説明することありません」と。その場合、本人が諦めるか、家族が諦めるか、裁判で無理してでもいくかなのですが、協力医の面からも、いまなかなか厳しくなっているなという印象を我々としては受けるのです。そういうことは決して好ましいことではないと思いますし、何らかの形で、被害を受けたと認識している人にとって、話す場であるとか、必要です。我々に話すだけでも「初めてこういうように聞いてもらいました。ありがとうございました」というのが随分あるのです。でも、それは基本的に解決にはならないので、何らかの形で特に医療側が対応することと、国の制度として、そのことが確立していかないと、医療安全の本当の意味にとって、それから医療者の働きがいとか、そういう点でも決していいことではないなと思っているところです。

○小山委員 確かにそのとおりだと思います。ただ、いま「増えていますか」とお聞きしたのは、実はある規模の病院は、患者相談窓口を設けることが義務付けられているのです。その相談件数が結構増えているのです。そこである程度いろいろな話が解決しているのかなと思うのと、裁判紛争が減ったのは、医療安全という制度が全国の病院に染みわたって、ちゃんと説明しないといけないのだというところの気運が、かなり強くなってきてはいるのではないかと思います。ただ、まだまだ、まだまだという思いはしております。そのための努力は大いにしていると思っております。
 その中で、逆にいま我々が困っているのは、説明をしろと来るのに、「俺は昼間、働いているから、夜の8時しか来られない」と。そうすると、我々は8時まで待っていなければならないのです。これは当然だと思ってやるのですが、これが3回、4回、5回という話になってくると、通常の業務ができなくなってしまうのです。ですので、その辺のところでもう十分だというのを、どこまでいって十分だというのかというところのせめぎ合いも少しあるのかなと思うのです。我々の病院でも、ノイローゼになってしまって辞めていく医者も、年に1人、それは多すぎるかな、もっと少ないかな。大学病院全体にすると、結構そのような事案が出てきております。
 そういうことを考えると、どこまで応じたら満足してもらえるのかと、見えないところを手探り状況だと。ある意味、医療側が非常に冷たかったところがあることは事実だと思います。ただ、先ほどからお話しているとおり、10年間ぐらいのところでは、かなりいろいろなものが変わってきているのかなという感じがしていますが、もう一息というか、まだまだだという感じも持っていることは事実ですので、これからも努力はしていきたいと考えております。

○山本座長 いまの点は、医療側から見れば、もう十分な説明をしていると。しかし、患者側から見れば、まだ説明が足りないと。客観的に見てどちらが正しいかということをいうのは、なかなか難しいと思うのですが、先ほど小松先生が言われたように、そのために1つのツールとしてADR、第三者の前で説明をすると。それで、かなり納得されて、そこでということもあるというお話ではあったので、いまのような問題の1つの解決策としては、ADRは有効なものとしてあり得るということなのかなという印象は受けました。

○児玉構成員 第二東京弁護士会の児玉と申します。今日は有益なお話をたくさん聞かせていただいて、大変勉強になるなと思っております。1つ情報提供として、医療安全支援センターや患者の声相談窓口などの苦情相談窓口で、長い所になると10年ぐらいにわたって、医療の苦情相談を受け続けているのです。私が多数のそういう苦情相談の情報を見ておりまして、少し大胆な物言いをすると、10年前は喧嘩腰の患者さんと喧嘩腰のお医者さんの苦情相談が多かったように思うのです。それが、いま相互理解を求めて、困っている患者さんからの相談と困っているお医者さんからの相談は増えてきているような、そういう時代のトレンドの変化を感じております。
 そういう意味では、弁護士会もそういう喧嘩腰同士の間に立って、解決をどのように処理するかというスタンスよりは、相互理解をどう支援するかというあり様で一生懸命、ここに出てきている弁護士も全く手弁当で全国から集まって、弁護士会が果たすべき役割を模索してきた経過もあります。先ほどちょっと話題に出ました、弁護士会のやっていることについての誇張したイメージを、何とか払拭していただいて、ゆえなきレッテル貼りと対決を煽るのではなく、弁護士会と医療界の間でも、実りのある対話を進めていくべきではないか。つまり、対話はADRの中だけにあるのではなくて、ADRを作っていくプロセスにも、やはり対話がなくてはいけないのではないかということを思います。
 そういう意味では、医療界と法曹界が一緒に作るADRの糸口を是非とも見出し、また育てて、地域ごとの対話を育てていくきっかけを一生懸命、東京でできたスタイルもありつつ、各地域の実情に合わせて育てていくお手伝いを、是非とも医療界の先生方からもしていただきたいなという思いでおります。以上です。

○前田構成員 今日のお話は興味深く、勉強させていただきました。有床診療所代表の前田でございます。有床診療所連絡協議会は、日本医師会の中の1つの委員会の組織ですが、私は個人的に日本産婦人科医会の上層部から行ってこいと言われて、この委員会に出ておりますので、正直なことを言って日本医師会から指名されてきているわけではありません。有床診療所は、全員、日本医師会員なのです。ほとんど全員がA会員といってもいいと思います。非常勤で雇われている人間以外はA会員です。
 我々の診療所が医事紛争に遭遇した場合には、基本的に日医の保険の縛りをどうしても受けます。そういった場合に、先ほどから小松先生、植木先生からご発言がありますように、やはり金額が問題になるような紛争は、現時点でのADRの仕組みですと、ちょっと踏み込みにくい。基本的に顧問弁護士から止められるというよりは、我々の場合は顧問弁護士というよりは県の顧問の弁護士、医師会の弁護士から「勝手なことをするな」ということを言われる県も、結構あるのです。その点、茨城県は本当にうらやましいと思います。
 ですから、話合いで紛争解決ができるような事例は、喜んでADRに取り組めると思うのですが、こと金額が絡んでくる問題は、いまの仕組みではなかなか踏み込んでいけない。先ほどから皆さんのやり取りを聞いておりまして、どうしたものかなというのは思っておりました。ですから、1つはこの仕組みを発展させるためには、やはり日本医師会の協力ないし理解がいただけないと、なかなか厳しいのではないかというのが今日のお話を伺っていた感想です。
 もう1つ、私もまだ若造ですので、こういう委員会もそう経験があるわけではないのですが、ADRの1つの形だと思いますが、ここにいらっしゃる鈴木利廣先生もそうなのですが、産科医療補償制度の原因分析委員会に携わっております。そこでは原因分析に対する委員会を設けて、医師と弁護士の先生方と委員会を構成するのですが、そこには患者さん側の弁護士さんと医療者側の弁護士さんと、1名ずつ委員に各班、加わっているのです。そういった公平な立場が約束されているということが我々の安心につながっているところがありまして、各県のいままでの発表をお聞きしますと、患者さん側の弁護士さんが主導で行われている所と五分五分でやっていらっしゃる所とあると思うのですが、応諾率はそういったところにも結構影響されるのではないかというのが、私の今日あるいはここ何回かの委員会を聞かせていただいた感想です。
 小山先生がおっしゃっるとおり、いま医療者は20年前、30年前と違って、話合いに応じる気持を持っていない医師は、よほどの変わり者でなければいないと思います。ただ、それを納得していただけているかどうかは、確かに患者さんの立場もおありになりますので、これだけ話し合ったのにまだ理解してもらえないのかと、がっかりするときもあれば、逆もあると思うのです。ですから、お互いの主観だけで戦っていてはよくないので、やはり行司さんのような役目が必要ですので、ADRには本当に大きく期待したいと、個人的には非常に思っております。そういった感想を今日持ちました。よろしくお願いします。

○佐々木構成員 病院でもいろいろありますよね。大きな病院から本当に個人的な病院。ある一定レベル以上とか、国立病院など。岡山で、どういった病院の紛争に申出人が多いかということを知りたいのですけれども。統計的にはまだですか。

○水田構成員 そうですね。今日の添付資料では、そこを具体的には書いていないのですが、病院の規模からしますと、大学病院であるとか、国公立病院、400床以上の病院が感覚的には3分の1ぐらい。それから、中小病院が3分の1ぐらいかなという感じはいたします。あとは診療所ですね。だから、規模がどうかということではなかなか分類できない。

○佐々木構成員 全体にあるということですね。

○水田構成員 そうですね。ただ、病院の規模と応諾のしやすさというのは、ある程度傾向としてはあるのかなという気はしないでもないです。やはり中小病院のほうが院長先生が個人的に動きやすいというのもあって、応諾をしようというときには動きが早いのかなという気がいたします。印象ですが。

○佐々木構成員 小さな病院で医療過誤に遭ったときに、安全管理室もなければ、リスクマネージャーとかそういう人を置いていない病院がミスを犯したときに言いに行っても、対応はしてくれない。そのようなときには、ADRに頼みに行けばいいかなという感じも受けましたので、ありがとうございます。

○橋場構成員 ADR設立のときのプロセスも大事だというお話がありました。札幌の場合、さすがに病院側の顧問弁護士が委員会に入ってADRの設立準備に携わることにはなりませんでしたが、その弁護士事務所の勤務弁護士が設立委員会に加わることを了解いただきました。そのような設立経過もあってか、札幌では受理事件の約7割に応諾していただいているのです。医師会に対する説明も彼らが行いまして、医療ADRの制度設計につき詳しく説明しております。そういったことによって風通しがよくなっているのではないかという気がします。
 それから、先ほど患者側の代表の方からお話があったとおり、最高裁の統計データが最近出まして、裁判になった場合、判決で原告が勝つ割合は20.6%まで減ったのです。ただ、札幌もそうなのですが、裁判にとなっても、医療過誤訴訟は和解で解決する率が多くて、患者側の勝訴判決と和解で終わる事件の合計件数の統計を数字で追っていくと、ここ3年ずっと6割なのです。ほぼ6割で横這いです。札幌の場合は、同じ数字でいくと7割5分がここ5、6年の統計です。75%が和解もしくは患者側の勝訴判決で終わっている。患者側が全面的に負ける事件は25%しかないというところで推移していますので、裁判になっても、話合いで解決している件数が多いというのが現状です。

○富澤民事局付 統計のお話がありましたので、若干、医事関係訴訟に関する統計のご紹介をさせていただきます。先ほどもご紹介がありましたとおり、医事関係訴訟の認容率は、平成22年ですと20.6%であり減少傾向にあります。他方、和解率を見ると、平成13年では44%であったのが、平成22年では53%と、10%ほど上がっており、認容率の低下は、和解率増加の影響を受けている可能性があります。医事関係訴訟を話合いで解決するという気運は、かなり高まっており、同様に、話し合いでの紛争解決機関であるADRを利用して医事紛争を解決するという気運も高まっているのではないかという印象を個人的に受けております。以上です。

○宮脇構成員 被害者のほうから言いますと、和解の席で裁判長から、「今は医療崩壊の状況があり、医療機関を守ること考慮しなければいけない」と話があり、被害者にとって厳しい条件で、和解が進められる状況があるのです。裁判長の話を聞くと、被害者は、これ以上は戦えないというか、公判を維持するだけでも大変なのですが、非常に低い額で泣く泣く和解に応じるという話はよく聞きますので、もう万策尽きてるのだなと思います。 そういう方々は、ある程度納得した形で和解になったのかな、相当大きな傷を残した形での和解になっていなければいいがな、という思いはあるのです。だから、そういう和解の中身について、被害者にとっては随分厳しい状況になっているという認識を我々としては持っています。

○山本座長 私の不手際で、既に予定された時間を超過しております。いつもと同様、あるいはいつもにも増して、非常に活発なご議論をいただき、本日は私の個人的な印象としては、従来に比べて、コンセンサスの方向が少し出てきているような印象を、楽観的かもしれませんが、持つことができたような気がします。ただ、そこでは医師会の問題、医事紛争処理委員会の問題、保険の問題、それぞれの地域の問題、いろいろな問題が指摘されたところかと思います。引き続き、本会では、そういった問題について、協議を進めていっていただければ、大変ありがたいと存じます。
 そこで、次回なのですが、今日まで各ADR機関を含め、かなりの方々にプレゼンテーションをいただいたのですが、もし可能であれば、まだご紹介等いただいていない方々、例えば名前をお挙げして恐縮ですが、前田先生、あるいは佐々木さん、宮脇さんのほうから、いままでの話から受けた印象とか、こうしてほしいというご提案とか、何でも結構ですので、もしご意見等をいただくことができれば、本会としても大変有意義ではないかと思いますが、いかがでしょうか。大体そういう方向で、よろしいですか。そのような方向でお考えをいただいて、詳細については、後日、事務局のほうからご連絡をいただくということで、よろしくお願いしたいと思います。これで議題は終了になりますが、最後に事務局からお願いします。

○医療安全推進室長 次回の第5回の日程については、別途、日程調整をさせていただきます。また、ただいま座長からもありましたように、次回のご発表、お話いただく方については、事務局と座長とでまたご相談させていただきながら、適宜お願いすること、調整等をさせていただければと思っております。以上です。

○山本座長 それでは、本日はこれで閉会したいと思います。長時間にわたるご議論、ありがとうございました。次回以降も、どうかよろしくお願いいたします。


(了)
<照会先>

医政局総務課医療安全推進室

室長 渡辺真俊: 内線2570
室長補佐 今川正三: 内線4105

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