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2011年3月7日 第2回今後のパートタイム労働対策に関する研究会 議事録

雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課

○日時

平成23年3月7日(月)10:00~12:00


○場所

厚生労働省 共用第8会議室(6階)


○出席者

委員

浅倉委員、今野委員、黒澤委員、権丈委員、佐藤委員、水町委員、山川委員

厚生労働省

小宮山副大臣、高井雇用均等・児童家庭局長、石井雇用均等・児童家庭局審議官、田河総務課長、吉本雇用均等政策課長、吉永短時間・在宅労働課長、大隈短時間・在宅労働課調査官、藤原短時間・在宅労働課長補佐

○議題

(1)諸外国のパートタイム労働法制等について
(2)その他

○議事

○今野座長 それでは、ただいまから「第2回今後のパートタイム労働対策に関する研究会」を開催いたします。前回欠席された委員を紹介いたします。黒澤委員です。
○黒澤委員 政策研究大学院大学の黒澤と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
○今野座長 本日は小宮山副大臣にご出席いただいておりますので、副大臣から一言ご挨拶をいただければと思います。
○小宮山副大臣 おはようございます。第2回のこの会議に、お忙しい中お集まりいただいてありがとうございます。
 私は、パートタイム労働とはNHKの解説委員のころから縁が深く、今日ご出席の皆様の中でそのときからお世話になっている方がたくさんいらっしゃいます。平成4年7月から開催されました「パートタイム労働問題に関する研究会」には、当時解説委員でしたので、委員として参加をいたしまして、その結論が平成5年のパートタイム労働法の制定に結びついたと考えています。また、平成19年の法改正時には、民主党の責任者の1人として、パートタイム労働法の改正案の対案を提出いたしまして、野党が対案を出してもなかなか審議されないことが多いのですが、そのときは衆議院の厚生労働委員会でかなりの時間、審議をいたしました。そのときには、パートと正規の間に物差しがないという論議がいつもあるので、その物差しを何とか作りたいということで、各事業所ごとに均等待遇の検討委員会を作るということを、現実論としては難しいことはわかっていますが、何かの石を投じないと動かないということもありまして、そうしたことをしてまいりました。
 今は皆さんご承知のとおり、パートタイム労働者は雇用者総数のおよそ4分の1を占めていまして、パートなしには仕事が回らないということになっていると思います。また、パートの7割は女性ですし、一般の男性の労働者に対して、女性のパートタイム労働をしている人は時間当たり賃金が約5割か、5割を切るのではないかと思いますが、そうした中で少子高齢社会の中で女性がどう働くかということが、これからの日本の将来を決めていくと言っても過言ではないと考えています。今、厚生労働省の中に、政権全体で取り組んでいる社会保障制度改革の検討本部を昨年暮れに立ち上げまして、6つチームが動いているのですが、その中に就労促進という雇用関係のチームがありまして、そこの責任者も私が務めさせていただいています。政権、特に玄葉国家戦略担当大臣なども、女性のM字型カーブをなくしていくことを国家戦略の柱としたいということも言っています。労働問題はこれをやれば解決するということがないのは十分承知の上で、社会保障制度改革の中に、全員が参画をする、仕事をする権利という形で、雇用が入ったのは初めてのことだと思いますので、ここで何とか将来に向けての種まき、ひとつ何かを打ち込みたいという強い思いを持っています。是非この研究会からも積極的に現実に打ち込むことができるようなご提言をいただくように、心からお願いを申し上げます。どうぞよろしくお願いします。
○今野座長 ありがとうございました。
 それでは、お手元に議事次第がありますので、それに沿って進めたいと思います。議題(1)「諸外国のパートタイム労働法制等について」です。まず事務局から説明をいただいて、そのあと3人の委員からご報告をいただいて、議論をしたいと思います。それでは、事務局からご説明をお願いします。
○藤原課長補佐 資料1をご覧ください。資料1ですが、「諸外国のパートタイム労働の実態」についてまとめております。日本、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデン、オランダというヨーロッパ諸国とEU、そして、アメリカ、カナダ、韓国について、事務局で調べたものをまとめております。
 資料1は統計上のまとめをしております。統計上の定義としては、諸外国でさまざまなものがありますが、大きく分けると、時間で区切っているものと、通常の労働者より短い時間働いているという捉え方をしているものと、労働者自身の認識によるものの3つがあります。日本、フランス、スウェーデン、オランダ、アメリカ、カナダは、35時間ないし30時間という切り方を統計上でしておりますが、イギリスとフランス、EUについては、自分がパートタイム労働者と認識している場合を、統計上パートタイム労働者とカウントしております。EUについては、「一部の加盟国においては週所定労働時間が35時間未満の者」と書いておりますが、具体的にはオランダ、アイスランド、ノルウェーがそのようなカウントの仕方をしております。また、韓国ですが、「同一事業場で同種の業務に従事する労働者の所定労働時間より1時間でも短い労働者であって」とありますが、通常週36時間未満と捉えられております。
 次の1と2はまとめてご説明します。パートタイム労働者の人数についてですが、1に実数、2にパーセントを載せております。こちらは、大きく分けてオランダが非常に高いことが見て取れると思います。全体で39.7%となっておりますが、女性は70.1%で、男性は女性と比べるとかなり低くなっておりますが、ほかの国の男性の割合と比べると、それでも高い状況にあります。
 その次のグループとしては、大体20%台をパートタイム労働者が占めている所がありまして、日本、イギリス、ドイツ、スウェーデン辺りが全体として25%付近、女性は大体40%を超えております。男性も、日本ですと14.6%、イギリスが11.1%、ドイツは少し低くて8.6%ですが、スウェーデンが13.5%という値になっております。
 次のグループとして、全体としての割合が10%後半という国がフランス、アメリカ、カナダとなっております。こちらの国々でも、男女を比べると女性のほうが高いことが見て取れると思います。韓国については、男女の割合が出せなかったのですが、全体で9.5%ということで、今回調べた他の国に比べるとかなり低いことが見て取れると思います。
 A4の3枚の紙ですが、経年的に捉えたものを載せております。こちらも簡単にご説明しますと、こちらはOECDのデータを使って、今申し上げた国々について調べたものです。定義としては、「通常の労働時間が30時間未満の者」となっております。2頁目が男女計で、フランスが2000年から2009年の間で若干変動がありつつも、結果的に下がっておりますが、その他の国については伸びております。特にオランダ、ドイツ、日本、韓国の辺りはかなり伸びていると言えると思います。
 次は男性です。こちらもフランスが若干この期間で減っていますが、他の国については伸びております。特に大きく伸びているのが、オランダ、ドイツ、イギリス、スウェーデン、韓国です。
 最後に女性ですが、こちらはカナダ、スウェーデン、フランスについては若干パーセントが下がっておりますが、その他の国については伸びている状況にあります。
 1枚目に戻って、3「パートタイム労働者に占める非自発的選択の割合」です。こちらは「非自発的選択」の定義が非常に難しくて、うまく比較ができないのですが、大きく分けて、正社員又はフルタイムとしての仕事が見つからなかった場合と、育児や介護といった理由があるためにパートタイム労働を選択しているというものがあるかと思います。全体的な傾向を見ると、日本の場合は「正社員として働ける会社がないから」というのが相対的に高くなっているのですが、同じように「フルタイム雇用がなかったため」という理由と、「子どもなどの世話をする」という理由が取れたフランスやドイツに比べると、日本は若干、正社員として働ける会社がないという理由が相対的に高くなっているのではないかと思います。
 「家事や育児があるため」というのは、女性に多い理由となっておりますが、日本の場合、全体を見て男性が0.2%ということで、かなり少なくなっているのが特徴ではないかと思います。他の国ですと、フランスは6.8%、ドイツは13.0%ということで、日本と比べるとかなり高い割合になっているのではないかと思います。
 4では、「パートタイム労働者の時間当たり賃金額とフルタイム労働者の時間当たり賃金額の差」を比べております。日本の場合、フルタイムを100とした場合に、全体で55.9%、男性54.7%、女性70.1%となっております。イギリスですが、これは中位数ということだったので、単純に割ると若干正確ではないのかと思いまして、そのまま数を載せております。仮に今載せているパートタイム労働者の時間当たり賃金額をフルタイムのもので割ると、全体で63.8%、男性59.1%、女性68.5%となっており、傾向としては日本より若干高いですが、似ているのかなと思います。アメリカですが、時間当たりのものが取れなかったので、週当たりの額ということで、そのままドルの実数で載せております。これを比較すると、平均時間がわからないので難しいのですが、パートタイム労働者の場合は週の賃金がかなり低いと言えるかと思います。カナダの場合、差が全体で66.2%ということがデータとして取れております。
 5「週当たり平均労働時間」ですが、相対的に見ると、日本が比較的長く働いていることが見て取れるかと思います。20時間以上働いているのが、日本、フランス、韓国となっており、その他の国は全体、男性、女性ともに大体15~18時間辺りのレンジになっていることが見られると思います。
 6「労働組合組織率」ですが、日本の場合、統計上、「同一事業所の一般労働者の1日の所定労働時間又は週所定労働日数が短いもの、及びパート、アルバイトと呼ばれているもの」というかなり広い定義になっておりますが、我が国の場合パートタイム労働者の組織率は5.6%、参考までに全雇用者の場合18.5%ということです。イギリスはかなり高くなっており、パートタイム労働者が21.6%、フルタイム労働者が29.6%です。アメリカはパートタイム労働者が7.0%、フルタイムが13.6%ということで、傾向としては日本に似ているのかなと思います。カナダはイギリスに似ていて、パートタイム労働者が23.5%、フルタイムが31.1%となっております。韓国ですが、こちらはかなり低くなっており、内訳が細かく取れたのですが、パートタイム労働者で労働組合に加入済みが0.2%、そもそも労働組合がないというのが87.4%となっております。資料1については以上です。
○大隈調査官 続きまして、資料2「諸外国のパートタイム労働の法制」についてご説明します。在外の日本国大使館を通じて調べたものに、当課でさらに加筆等をした資料となっております。
 A4の1頁をご覧ください。(1)パートタイム労働法制の基本的枠組みですが、EUは「パートタイム労働指令」が1997年にできており、EU各国はそれを国内法化する形で、パートタイム労働者保護法制を制定しているということです。ちなみに、2段目に「有期契約労働者保護法制」ということで、EUには有期契約労働指令(1999年)もあります。EU諸国はそれを国内法化する形で制定しており、例えばドイツやスウェーデンでは、パートと有期について1つの法律で定めています。韓国ですが、経済危機のあと、韓国で非正規労働者が増えるという事情もあって、2007年に期間制及び短時間勤労者の保護等に関する法律ができています。その下の3つ目の箱ですが、これは人種や性に関する差別法制について、ご参考までに載せているものです。
 2頁です。パートタイム労働者の定義ですが、EU指令を見ると、基本的には、比較可能なフルタイムの労働者と比べて労働時間が短いということです。その比較可能なフルタイムとはどういうものかというと、EUの箱の中の上から2番目のポツになりますが、同一の事業所ということ、勤続期間や資格/技能といったものは考慮すること、同一又は類似の労働/職業に従事していること、同一類型の雇用契約又は雇用関係を有するということで、比較可能なフルタイム労働者についてはかなり厳格な定義をしております。ただ、国内法を見ると、その辺りはもう少し柔軟な規定がされております。韓国も含めて、基本的にはフルタイムより短いという定義になっております。
 (3)「パートタイム労働法制の内容」ですが、1「導入手続」として、フランスについてはパートタイム労働を事業所で導入するにあたって、労働協約等に基づいて導入するという、一定の導入手続を求めております。2「契約内容明示」ですが、日本のパートタイム労働法は労働基準法にさらに上乗せの義務を設けておりますが、フランスにおいては、労働法典においてパートタイム労働者に関する一定の義務を課しております。括弧で付けているのは、パートタイム労働者も含めた一般的な労働条件の明示義務について書かれているということで、参考までに括弧を付けて書きました。
 続きまして、3頁です。パートタイム労働者の3「均等・均衡待遇」について、諸外国ではどのような法制を採っているかということです。まずEU指令の内容ですが、これは「雇用条件に関して、パートタイム労働者であるという理由では、客観的な根拠によって正当化されない限り、比較可能なフルタイムと比べて不利な取扱いを受けない」という規定が置かれているということです。2つ目には、基本的に比較可能なフルタイムと報酬等について時間比例の原則を当てはめるということで、この2つの原則がEU指令に書かれております。
 そういったことから、EU諸国では、一般に、パートタイム労働者であることを理由としては、客観的な根拠がなければ不利益に取り扱ってはいけないという規定になっております。フランスについては「客観的な理由」という文言はありませんが、運用は柔軟に行われていると理解しております。
 パートタイム労働者についての4「労働時間」の規制ですが、フランスについては、契約の時間を超えて働かせる場合の限度の時間が決められております。また、韓国も同じように、契約の時間を超えて労働させる場合には、パートタイム労働者の同意が必要であるといった労働時間についての規制もなされております。
 4頁です。5「フルタイム労働者への転換」ですが、日本のパートタイム労働法については、通常の労働者への転換推進を義務づけております。EU指令ですが、2つ目のポツですが、フルタイムとパートタイムの相互の転換について、使用者が考慮する義務があるということで、双方向について書かれているところが特徴かと思います。このため、EU諸国ではEU指令を踏まえた規定が置かれております。イギリスに括弧を付けておりますが、イギリスは子どもや親族の介護等のために、労働時間の変更を柔軟に申し出ることができ、これはパートタイム法制とは違う法律ではありますが、そういった規定が置かれております。
 オランダについては、先ほど実態のほうでもパートタイム労働が非常に活用されておりましたが、オランダにおいては「労働時間調整法」があって、従業員10人以上の企業において、1年以上継続勤務している労働者は、自分の契約上の労働時間の延長や短縮を求めることができ、使用者は会社の利益に大きく反する場合を除き、基本的に同意しなければならないという、労働時間柔軟化のための法律があります。
 韓国においては、正社員を採用する場合には、同じ事業所の中で同じような仕事をしているパートタイム労働者を優先的に雇用する努力義務が規定されております。
 6「パートタイム労働者への説明義務」です。日本の法制では、パートタイム労働者から求めがあった場合に説明することになっております。イギリスは、これを労働者が書面で要求でき、この書面は訴訟の手続において証拠として認められるという法制になっております。フランスは、少なくとも年に1回、パートタイム労働の総括を企業委員会又は従業員代表に通知するということで、集団に対しての説明という法制になっております。
 7「その他」ですが、パートタイム労働に関係する規定があり、例えばフランスでは、試用期間もパートタイムとフルタイムを差別してはいけないという規定があります。
 5頁です。パートタイム労働法の「履行確保の仕組み」です。1「罰則」を設けているのが日本で、文書交付違反の過料があります。韓国については、パートタイム労働者に対して不利益な取扱いを行った場合の罰金、契約時間を超えた超過勤務を同意なく行わせた場合に罰金となっております。EU諸国ですが、2で基本的には司法手続を通じた履行確保となっております。各国それぞれ労働審判所、労働裁判所もありますし、そういった所に提訴するということで、権利の実現を図るということになっております。韓国は、一定のADRを経たあと、行政訴訟が提起できるという法制になっております。
 3「行政指導」ですが、これはフランスの労働監督官による行政指導があります。韓国においても、雇用労働部長官による行政指導といったスキームがあります。また、4「行政型ADR」ということで、日本でも紛争調整委員会等による行政型ADRがありますが、イギリスにはACASという機関があり、ここが助言・斡旋等を行っております。オランダにも同じような平等取扱委員会という機関があり、韓国では、パートタイム労働者が労働委員会に差別的取扱いに対して是正を請求できるというスキームになっております。
 履行確保の仕組みということで、5「企業内での解決促進策」です。日本では、苦情があった場合には、企業内で解決する努力義務を課しております。EU諸国及び韓国については、特にパートタイム労働関係法制の中でそういった規定はありませんが、一般的に労使委員会という枠組みがありますので、こういったものでパートタイム労働者のことも議論することができる形になっております。6「その他」ということで、いくつかの国においては、日本も含めて、法律に基づく権利行使を理由とする不利益取扱いを禁止するという規定があります。
 資料2-2は、ILOのパートタイム労働に関する条約(175号)ですので、ご参照いただければと思います。
 資料2-3です。これは、先ほどご説明しました韓国の「期間制及び短時間労働者の保護等に関する法律」の施行状況等です。先ほども申し上げましたように、韓国ではパートタイム労働者が差別的待遇を受けた場合には、労働委員会に是正の申請をすることができ、労働委員会は調査・審問をして、その結果、差別的待遇であるかどうかを認定し、さらに差別的待遇であると認定したときには、使用者に是正を命令することができるとされております。期間制労働者についても、同じような法制度となっております。その結果、労働委員会にどのぐらい差別的取扱いについての是正の申請があったかですが、2010年になって41件の申請があったということです。そのうち、差別的取扱いと認められたものが1件、現在まだ進行中のものが39件という状況になっております。
 資料2-3の2頁は、期間制労働者についての差別的取扱いに関する是正の申立てですが、こちらのほうが少し多くなっております。2008年に非常に多くなっておりますが、これは1つの企業で多数の労働者が是正の申請をしたということだと承知しております。
 3頁は期間制労働者の関係ですが、これはご参考ということで、後ほどご覧いただければと思います。
 資料3をご説明します。前回の研究会でも、パートタイム労働だけではなくて、男女関連法制も幅広く見てはどうかというご指摘をいただきましたので、いくつかの男女の賃金格差縮小のための法律を挙げました。
 2頁です。これはイギリスの「同一賃金法」ということで、のちほど浅倉委員からご説明いただけることになっておりますので、簡単にご説明します。1970年の同一賃金法ですが、男女が類似の労働、同等と評価される労働、同一価値の労働に従事している場合には、同一賃金を支払わなければならないという法制があります。3頁ですが、同一価値の判定方法については、職務評価の専門家による特別の仕組みができているということです。この男女の同一賃金に関する申立ては何万件というオーダーで、非常に多くなっておりますが、4頁にありますように、この判決の結果、ACASであっせんが成立したものが1割ぐらい、雇用審判所で容認されたものは1%前後ということで、取下げがいちばん多くなっているという状況です。
 5頁ですが、男女の同一賃金法も含めて、イギリスは差別の関係の法律が9本ありました。これを1つにまとめてイギリスの「平等法」ができており、昨年10月1日に主要な規定が施行されております。そちらにマトリックスの表を挙げておりますが、年齢、障害といった事由についての差別を禁止した法律です。ちなみに、パートの規則は、先ほどご紹介したようにこの法律とは別立ての制度になっております。
 6頁です。最初に説明しました同一賃金法の規定が平等法の中でどうなっているかということですが、ほぼ同じような規定になっているということです。こういった訴訟による男女間賃金差別の禁止を補足するスキームとして、イギリスでは「平等賃金レビュー」というものが実施されております。のちほど浅倉委員からご説明いただけると思います。
 10頁です。アメリカにおける「同一賃金法」です。1の四角の中にありますように、男女が同一の労働をした場合には同一の賃金を支払うということです。その同一の労働は何で見るのかということですが、同一の技能、努力、責任、かつ同様の労働条件の下で行われているかどうかにより判断し、同一の労働であれば、同一の賃金を支払うという法制になっております。
 12頁ですが、カナダにも男女の賃金の格差を縮小するための法律があります。これはカナダのオンタリオ州の「ペイ・エクイティ法」です。これについては、女性職と男性職の職務の価値を比較します。2つ目のパラグラフですが、その比較をするにあたって技術、努力、責任、労働環境といった基準から男性職と女性職の価値を比較し、賃金格差があった場合には事業主がペイ・エクイティ計画を策定して、賃金を縮小していくということです。いちばん下のパラグラフですが、そのために労使委員会の設置がガイドラインで推奨されております。事務局からの説明は以上です。
○今野座長 ありがとうございました。3人の方の報告を一気に聞いて、それから全体で議論したいと思います。最初に、浅倉さんからお願いします。
○浅倉委員 資料4で、イギリスの男女平等賃金法制についてご報告します。イギリスではパートタイム労働規則がありますが、それはEUの指令を受けて制定されたもので、まだあまり機能していない状況です。
 イギリス全体のことを申し上げますと、パートタイムとフルタイムの間の賃金の問題を、イギリスでは男女間の賃金差別として取り上げてきました。その中にも2つの方向があって、1つが男女間の同一労働同一賃金を定める「同一賃金法」による場合、もう1つは、パートタイマーには女性が非常に多いものですから、パートに対する不利益が間接的な性差別であるという考え方の下に、「性差別禁止法」に基づく間接差別による場合、です。3つ目に、先ほど申し上げたような、パートタイム労働者の均等待遇原則に照らして、パートとフルタイムの差別を取り上げる方向がある、というわけです。
 今日の私の報告は、メインの2000年のパートタイム労働者規則に関する報告ではなく、男女間の賃金差別問題のみについて、報告しようと思います。この分野に関しては、「2010年平等法」がすでにできており、これによって旧来の「同一賃金法」と「性差別禁止法」が統合されました。レジュメの1は、2010年平等法における同一賃金関連の諸規定はどういうものか、です。(1)にはいま申し上げたようなことが書いてあります。つまり、同一賃金法と性差別禁止法を統合したものが、2010年平等法であるということです。イギリスでは、契約上の賃金については同一賃金法で取り扱い、契約以外の問題については性差別禁止法で取り扱うことになっております。したがって賃金は原則、同一賃金法で取り扱いますが、間接差別として争う場合には、性差別禁止法で扱うということです。
 (2)にいきます。1970年同一賃金法に対応する2010年平等法は、同一賃金法と同様に、違法な賃金差別について、3つの類型を定めています。1男女が類似労働に従事している場合、2男女が同等評価労働に従事している場合、3男女が同一価値労働に従事している場合に、異なる賃金を支払うと、それは違法になります。2と3は区別しにくいかもしれません。2は、すでに企業の中に職務評価制度が存在していて、その職務評価制度の中で男女の労働が同等だと評価されているけれど、賃金が違うという場合です。かつては、1と2の類型のみが同一賃金法の中にあったのですが、これだけではEC法の要請を満たしていない、ということで、あとから3が追加されました。
 救済は、ETといわれる雇用審判所に、個人が提訴することになります。しかし、ACASという機関があって、ここでまずあっせんが試みられ、かなりの紛争がこの段階で決着しております。ですので、最終的に訴訟になるケースはごくわずかになります。
 特徴として、同一価値労働かどうかについて裁判所が審査するのは極めて難しいので、それを専門的に委託することができる「独立専門家」という人が存在することをあげることができます。この人々は、あらかじめACASによって選任されていて、全国的に30人ぐらいの人が登録されております。その専門家は、審判所から委託されると、8週間以内に、申立人と比較対象の男性労働者との労働が同一価値であるかどうかを認定する報告書を提出することになります。その報告書を採用するかしないかは、最終的に審判所が決定することになります。
 もう1つのイギリスの特徴は、賃金が差別的である、違法であると認められると、雇用契約の中に平等条項が読み込まれることになるということです。すなわち契約内容が修正されるという、極めて強力な救済システムがあります。これは強力であるだけに、現実に誰と比較するのかという比較対象者の選定が難しく、かつ比較対象者がいないといけないということになりますので、実際に比較対象者を見いだす困難も伴うという難点もあります。
 レジュメの2頁です。法律は「職務評価」を義務づけているわけではありません。先ほど、違法な賃金差別の第3の類型はあとから追加されたと申し上げましたが、この3では、企業内で職務評価という制度が存在しない場合でも、申立人が法的な申立てを主張することができるというシステムになっています。ただ、客観的で公正な職務評価を使用者が導入していることは、訴訟の中では使用者にとって有利に働くことになります。
 どのように職務評価をするかについては、かなり詳細な「行為準則」という文書が出ておりますし、ガイドラインも出ております。
 レジュメの2ですが、個別訴訟をサポートするツールが極めて豊富なのも、イギリスの特色かと思います。パートタイム労働規則にもあるようですが、まず申立人が証拠を収集して、自分が差別されたと訴えなければいけませんが、そのためには、使用者に、なぜ比較対象者よりも自分が低賃金であるかについて質問することができるシステムがあります。また、「行為準則」が詳細にガイドラインを提供しています。これを出すのは、これまでEOCと言ってきた「機会均等委員会」ですが、現在では新しくなって、すべての差別について統一的に管轄する「平等人権委員会」というものができています。平等人権委員会は、個人申立てを支援したり、公式調査という職権的な調査も行います。
 次に、先ほどもご紹介がありましたが、「平等賃金レビュー」というシステムがあります。これは任意に男女間の賃金格差縮小のためにレビューを導入するということですが、一定の方式をかつてのEOCが推奨しております。現在は平等人権委員会が推奨しています。ここには5つのステップがあり、誰と誰の平等賃金を調べるのかについてまず対象範囲を決定し、必要なデータを特定する、というのが1つ目のステップです。そして同一価値労働に従事している男女は一体誰になるのかを特定し、その男女間の賃金格差のデータを収集します。同一価値労働に従事している男女間にかなり大きな格差がある場合には、その原因がどこにあるのかを自発的に企業が調べます。そして、その格差を縮小するアクションプランを策定し、実施し、モニタリングする。そういう平等賃金レビューをするように、企業に対して推奨しております。
 2010年平等法になったときに、かつてはなかった新しい条項が付け加わりました。1つ目は、労働者が同僚と賃金格差に関して議論することを妨げるような実態が、これまではありましたので、今後、そのような議論を妨げてはいけないという条文ができました。また、250人以上の民間企業については、将来的にジェンダー賃金格差情報を公表すべきである、という規定ができました。ただし、この条文はいきなり実施するのではなく、今後数年間の準備期間を置いて実施されることになっております。
今のが個別訴訟をメインとするアプローチに対するサポートツールなのですが、3番目に、個別訴訟だけに頼っていてはあまり進まないということで、イギリスは、積極的な平等アプローチを取り始めております。すなわち個別訴訟中心モデルでは限界があるという認識にたっています。訴訟の場合には労働者側に負担が大きいし、救済は申立人にしか及ばないからです。2006年平等法が2010年平等法の前にできました。その法律では、公的の機関に対してのみですが、「ジェンダー平等義務」というものを導入しました。公的機関に、積極的にジェンダー平等を達成することを義務づけしたわけです。たしかに対象は公的機関のみですが、間接的には、民間企業にも、公共調達や外部委託を通じてこの平等義務が及ぶようなシステムを作っております。
 3頁になります。判例の動向を少しご紹介します。イギリスには、ご存じのようにEUの判例もかなり多く蓄積されておりますので、それらを混合しながらご報告することになります。EUの運営条約157条が、現在、男女間の同一賃金を定めております。指令は国内法化することが必要ですが、条約の場合は直接的な効力がありますので、イギリスではこの条約157条を根拠にした訴訟が数多く起こされております。
 比較対象者の範囲ですが、問題になっているのは、異なる企業と契約を締結している男女間の労働者が比較できるのかということです。外部委託がかなり導入されていますので、委託先の労働者と委託元の労働者の男女の賃金比較はできるのかという問題です。これはEU判例法理で一般に言われていますが、男女間の賃金格差が生じているものが同一の財源であるかどうか、単一の源かどうかということで判断されることになります。
 2番目に問題になるのは、比較対象者が実在しなければいけないのか。これは先ほど申し上げたように、イギリスの国内法はこの条件にかなりこだわっていて、比較対象者は実在しなければいけないと判断してきました。ただ、EUはそれをすでに乗り越えておりますので、イギリスはEU指令に反している状況になっております。問題は、賃金については比較対象者が実在しなければいけないと法律を解釈してきたのですが、賃金差別が生じるのは、必ずしも比較対象者がいない場合もありうるわけです。そこで立法批判が強くなってきました。その結果今回の2010年平等法では、新たな条文を加えることになりました。まず、賃金について現実の比較対象者がいる場合は、契約を修正するために平等条項を読み込むというやり方をしなければいけないので、平等条項違反と判断されます。しかし比較対象者がいない場合、つまり自分が男性であれば、もっと賃金が支払われていた「はずである」という場合には、「仮想比較対象者」との比較をすることになります。その場合には、平等条項違反という主張はできないけれど、性差別の一つだということであればそのような主張はできるのではないかということになり、そのために、おそらく71条という条文が加わったのではないかと思います。少し細かいことなのですが、その程度の説明に留めさせていただきます。
 4頁にいきます。職務の価値の評価がどうなっているかということです。賃金格差が違法とされる3類型は、先ほど申し上げたとおりです。「同一価値」かどうかが問題になるのが3番目の類型になりますが、労働の価値が比較可能だと言われるためには、労働の性質、求められる教育訓練、労働条件という一連の要素を考慮して判断されるべきだというヨーロッパ司法裁判所(ECJ)の判決があります。
 さて、それでは賃金格差があっても正当化されるのはどういう場合かということですが、(4)の「条文」という所をご覧ください。賃金格差が正当だとされるのは、「性以外の真に実質的な要因」がある場合です。その場合は、格差があっても正当だということになります。新しい平等法になったときに、「真に」という形容詞がなくなりましたので、どう違ったのかということが議論になっているようですが、実質的な違いはないと言ってよいのではないかと思います。ただし、直接性差別や間接性差別になる場合は正当化事由には含まれない、という条文が加わっております。たとえば使用者が持ち出す賃金格差の抗弁としてのファクターが、間接差別になる場合は、正当化事由としては認められないということだと思います。
 原則は、1真正で偽装されたものではないこと、2格差の要因が実質的なものであること、3格差の理由が性を理由とするものであってはならないこと、4格差の要因が、相当程度重要で、有意味な要因でなければいけないということ、以上が原則になっております。
 通常、使用者が抗弁として持ち出すのは、以下の3つの類型に分けられるのではないかと思います。1つ目は、職務自体が必要とするいろいろなファクターです。「知識・技能水準」「責任」「環境」などです。この中に「可動性」という、「Mobility」ですのでどう訳していいのかわかりませんが、要するに勤務時間や勤務場所にどれだけ柔軟に対応できるかという差異も、正当化事由になるのだという判決があります。
 二つ目は、労働者個人の属性の差異が持ち出されます。「勤続年数」「教育訓練」「技能や資格」「生産性」の差異などです。これは、勤務能力や労働の成果の差異を生み出していると判断される限り、正当な事由であると認められることがあります。ただし、単なる勤務の長さや労働時間の長さといったものは、かつては正当とされたこともあったのですが、経験の獲得に具体的な関連性がなければいけないという判決が出てきております。しかし、勤務の長さについては経験と密接な関連があるから、正当化事由になるのだという最近の判決もあります。これがカドマン事件です。
 三つ目は、これが厄介なのですが、労働市場など「外的な」要因が持ち出されることが多いです。例としては、人手不足の職に労働者を誘引するために、高い賃金を払わなければいけない場合とか、たまたま労働協約や交渉によって賃金決定が行われて、それが賃金の格差になったのだという事例です。人手不足の職種における高賃金による誘引の必要性については、正当化事由になるのだということがエンダビー判決で出されておりますが、それによって人手不足が解消できるのだということを具体的に立証しなければいけないことになります。
 また、特異な例ですが、過去の職種ごとの職務評価を是正して、すべての職種に統一的な職務評価制度を適用することを、イギリスの地方自治体ではこのところずっと行ってきております。というのも、女性職のほうが非常に低い賃金が支払われていたので、それを統一して是正しようということになったのです。ところが、そうなると、いままで男性職の評価が高かったので、男性職の賃金を引き下げなければいけないということになり、しかし一挙に引き下げると影響が大きいということで、一定期間に限って男性職の引下げを猶予して、特別な保護をするというやり方を取りました。しかし今度は、そのようなやり方が女性差別ではないかという訴訟が極めて多く出ております。これについては、レッドカー事件の判決で、裁判所は正当性があるという結論を出さなかったわけです。
 2010年平等法は、この男性に対する賃金の特別保護措置は、将来的には賃金格差を縮減するという長期的な目的のための措置であるから、これについては合法であるという規定を設けて、むしろこれを支援していこうということになっております。以上です。
○今野座長 ありがとうございました。次に、水町さんからお願いします。
○水町委員 資料5をご覧ください。2枚めくったところに、「格差」と「合理性」という1頁から始まるプリントがありますが、これはフランスとドイツの非正規労働者、パート、有期、派遣労働者を含む非正規労働者の取扱いについて、特に「合理的理由」「客観的理由」と言われるものの中身について比較研究をしたものです。その論文の中から、この研究会に直接ないし間接的に関わるような点をピックアップしてお話します。
 3頁の真ん中辺りですが、先ほどもお話がありましたように、EUではパート指令、有期指令、さらには派遣労働指令というものがあり、パート、有期、派遣労働者について不利益取扱いを禁止するという一般原則が掲げられ、加盟国が国内法化を進めております。EU指令や国内法の法律の条文は先ほどご紹介があったとおりなのですが、条文を見ただけでは、実際に中身がどう解釈されて運用されているかがよくわからない。条文に書かれていても、それと違う解釈や運用がなされていることが、それぞれの国の中を見るとわかるということで、EU指令を作る前から法律があったり、議論を進めてきて、これまでもいろいろな蓄積のある代表的な国であるフランスとドイツを対象として検討したものです。
 フランス法ですが、4頁の真ん中辺りに1、2として条文があります。1981年法と、1982年にオルドナンスによって定められた条文が今日でも現行法となっていますが、1「パートタイムで雇用される労働者は、法律、企業または事業場の労働協約によってフルタイム労働者と認められた権利を享受する。ただし、労働協約により認められた権利につき、労働協約が特別の適用様式を定めている場合にはこの限りではない」。ただし書で労働協約による例外設定が認められていますが、運用上はフランスではこれはほとんど認められていません。協約でパートタイム労働者の権利を低くするようなことは認められていないということです。2番目が報酬についてですが、パートタイム労働者の報酬は、「同じ格付け」で「同等の職務」に就く労働者の報酬に対して、いろいろなことを考慮して比例的なものとするという「報酬比例原則」が掲げられています。
 この2つの条文が実際上どのように解釈され、運用されているのかが5頁以下です。(2)具体的な適用・解釈ですが、細かい点はそこに書いてあることや注の中にも判例を挙げていますので、ご参照いただくことにして、2つの特徴だけを申し上げておきます。1つは、この平等原則が非常に広範に適用されている。典型的な例としては、5頁の真ん中ですが、フルタイム労働者の法定労働時間が週40時間から39時間に短縮されたときに、賃金を据え置くと、実質賃金が39分の1上がります。パートタイム労働で週20時間だった人は、このときにも週20時間で据え置きということで、国家公務員でも最近同じようなことがありましたが、時短になっていないパートにも39分の1の実質賃金の引上げを享受させるかどうかで裁判になったところ、パートにも同じように享受させなさいということが言われ、それ以外にボーナスとかいろいろなところで、ほぼ例外なくパートも平等に権利を享受するという運用がされています。
 もう1つの重要な特徴は、そうなのだけれど、実際の解釈はかなり柔軟になされているということです。どういう観点から柔軟になされているかというと、それぞれの問題となっている給付の目的や性質に照らして、この場合にはこう適用しよう、この場合にはこう解釈しようという形でなされています。6頁に「1つは、」ということが書かれていまして、報酬に関しては報酬比例原則なのですが、実際にそもそも給付が労働時間の長さ(労務給付の量)に関連しないものがあります。例えば、昼休みのご飯の食券の支給や通勤費の支給について、8時間労働者と4時間労働者がいた場合に、4時間労働者については食券を半分とか通勤費は半分かというと、食券はお昼をはさんで働く人にはフルに与えるもので、仕事と仕事の間にランチを食べる人には給付をするという性質からすると、これは時間比例ではなくフルに支給すると。通勤費の支給についても、短時間労働者であっても通勤にかかる実費は変わらないので、これはフルに支給するということがなされています。
 基本給についてはどうかというと、基本的に労働に関連するものなので、同じような労働の人がいて、格付けとか職務の内容が同等な人と比較して、比例的に給付するということがなされていますが、給付の中で労働や職務に関連するものは基本給ぐらいしかなくて、実際に判例上問題になっている時短補償措置や業績手当、年末賞与、休暇手当は、必ずしもこの労働だからそういう給付がなされているものではありません。逆に言うと、条文上は比較可能な労働者、「同じ格付け・同等職務」のフルタイム労働者と比較して比例的なものとすると書かれていますが、運用上は、給付自体が職務に関連しないものについては、労働が同じだったかどうか、どういう格付けでどういう職務だったかを一切問わず、そのまま給付を認めるということがなされています。パートについては、細かいところは省略します。
 11頁をご覧ください。もう1つ、少しパートから離れて、先ほど浅倉先生がイギリスについておっしゃったもののフランス版みたいなものですが、フランスでも同一労働同一賃金原則が法律上定められていますが、男女間の賃金について、同一労働同一賃金が法律上定められています。フランスの判例は女性・女性間の賃金差別が問題となった事件で、男女間に書かれている同一労働同一賃金原則はより一般的な原則で、女性・女性間にも適用されると。男性・男性間にも女性・女性間にも、男女ではなく、より広い一般原則として同一労働同一賃金が成立しているのだということを、1996年のコンゾール判決が認めて、その後日本の最高裁判決に当たる判例は、同一労働同一賃金を一般原則として認めるという態度を維持しております。
 ただし、実際の中身を見ると、若干危惧しなければいけない点があります。12頁の「格差を正当化する『客観的な理由』」ですが、2つの傾向・特徴が認められます。1つは、賃金格差を正当化する客観的理由の中身が、かなり広く認められる傾向にあるということです。フランスでも、労働協約上職務給、こういう仕事だったらこういう給与という基本制度は産業別労働協約で定められていますが、その上乗せをいろいろな手当やプラス給与で、各企業の中でやっています。その賃金制度がかなり多様で複雑なものになってきているときに、同一労働同一賃金が原則のまま適用されているかというと、そうではありません。例えば、判例上で挙げられているものとして、提供された労働の質の違い、外形上は同じ労働をしていると言っても、中身として質が高い人と低い人がいるとか、在職期間(勤続年数)の違い、キャリアコースの違い、企業内での法的状況の違い、採用の必要性(緊急性)の違いなどが、個別の判例の中で客観的理由になるということです。
 その中でも、ここでは1つだけ、注38のところでキャリアコースの違いという判決があります。この事件では、労働協約上キャリアコースが設けられて、どんどんキャリアを積んで上にいくコースと、そんなにキャリアを展開しないで下のほうに留まるコースという2つのキャリアコースを設けて、キャリアコースが別になった人でも今の仕事は同じときに、ただ将来のキャリアコースの展開は違うという位置づけが客観的な理由になり得るかと言ったところ、これは客観的な理由になり得るということで、今同じ仕事をしていても、賃金制度は別にしてよいと。職務給だった国でも、今の日本の職能給のようなキャリア別の給与制度ができてきて、それが客観的な理由になるかというと、客観的理由になると認めようという方向が、このような中でも認められるということが注目すべき点です。
 もう1つ、同一労働同一賃金に関する重要な傾向・特徴として、13頁の「第3に」というところで、同一労働同一賃金の例外となる客観的理由の判断において、労使が合意していると。フランスでは労働組合との合意という労働協約があって、労働協約に基づく制度であることがどう評価されるかですが、一方では労働協約がある場合には、客観的理由を肯定的に認めようという裁判例があります。これは裁判例上、明文で書いているわけではありませんが、結果として労働協約がある場合には、客観的理由として認められやすい傾向があります。
 ただし、これに対しては最近批判が強くなってきており、労働組合が合意しているということで、本当に客観的理由として差別的取扱いの正当性を認めていいのか、むしろ労働協約なり労働組合との合意の中で差別が生み出されていないかということがフランスでも言われるようになってきて、そう容易には認めてはいけないのだと、慎重に判断すべきなのだということが、今、学説と裁判例の中で揺れ動いている状況です。以上がフランスです。
 ドイツですが、先ほどもお話がありましたように、14~15頁ですが、ドイツでは1985年の就業促進法でパートに関する規定が制定されました。その後、「有期労働契約指令」というヨーロッパの指令を受けて2000年に改正法を定めるときに、パートの中に有期も取り込むということで、パート・有期法という形で2000年の法律ができました。その中で、パートに関する規定は15頁の1、2ですが、「パートタイム労働者は、客観的な理由によって正当化されない限り、パートタイム労働を理由として、比較可能なフルタイム労働者より不利に取り扱われてはならない」と。ここでも条文上「比較可能なフルタイム労働者」と入れられていますが、後で見るように、これは判例をほとんど見ていません。
 第2に、「労働報酬その他の分割可能な金銭的価値を有する給付は、パートタイム労働者に対しては、少なくとも、比較可能なフルタイム労働者の労働時間に対するパートタイム労働者の労働時間の割合に応じて、支給されなければならない」という「時間比例原則」の形で、パートとフルの間の平等原則、不利益取扱いの禁止を定めています。
 その適用・解釈が16頁です。ここでも大きく2つのポイントだけご紹介しておきますと、第1のドイツ法のポイントは、給付の分割可能性で分けると。給付の中で、例えば基本給やボーナス、退職金みたいなものは量的に分割できるので、時間比例で、パートは比例減額したものでいいということが言われます。第2に、量的に分割できない給付はどうするかということですが、例えば食事手当や交通費補助、社員食堂・社内保育施設等は分割できないということで、これはパートタイム労働者にもフルタイム労働者と同じように、全部給付しなさいということが解釈・運用されています。
 第2の特徴は、18頁の(b)「客観的理由の有無」の判断です。これもフランスと同様に、個別の給付の内容、目的や性質に応じて客観的理由の存否の判断が変わってきていると。18頁の真ん中に「基本給については」とありますが、基本給はそもそも仕事に対して対応していると。キャリアがあればキャリアに対応している部分もありますが、基本給については仮に職務内容が同じであったとしても、学歴や資格、格付けが違う場合には、基本給を異なるものとすることにも客観的な理由が認められるということで、基本給についてはかなり広く客観的理由が認められています。
 しかし、本文の下から2行目で、フランスと同じように、ヨーロッパでは食事手当や交通費が問題となっているのですが、食事手当については、午前中又は午後のみに就労する労働者には支給しなくていいと。12時まで働いて帰る人にはランチの手当を出さなくていいし、1時から来る人には出さなくていいと。交通費についても、週3日来る人には週3日分あげて、週5日分払わなくていいということが法律上解釈されていて、運用されています。
 微妙なのが、19頁の真ん中にある時間外労働手当です。例えば、フルタイム労働者は、8時間を超えた場合に時間外労働に対する割増賃金をもらうと。パートタイム労働者は、所定労働時間が1日4時間とした場合に、4時間を超えて割増賃金を請求できるが、8時間を超えて働いたときしか割増賃金を請求できないかという点で、これは通説や学説で判断がいろいろあるのですが、基本は時間外割増賃金の目的・性質によると。割増賃金の性質が、一定時間以上働いたことによる精神的・肉体的な負荷に対する補償であるとすれば、8時間以上働いたら人間はつらいので、8時間以上働いて初めてあげると。そういう性質の割増賃金であれば、パートタイム労働者であっても8時間以上働いて初めてもらえる、4時間超えただけではもらえないと。
 しかし、時間外労働割増賃金が肉体的・精神的負荷の代償ではなく、約束した時間を超えて、何時から何時と約束しているのに、会社側の意図でそれ以上自由に使うことを阻害する、プライベートな生活に対する阻害を補償するものであるとすれば、8時間プラスアルファも4時間プラスアルファも一緒なので、時間外労働割増賃金がどちらの性質かを見た上で判断することが必要だということが、学説上言われています。なるほど、もっともだなと思います。このようなことが、ドイツの判断でなされています。
 少し飛ばして、ドイツについては派遣の取扱いで注目すべき点がありますので、22頁をご覧ください。派遣については、2002年の労働者派遣法改正で、賃金ダンピングを防止するために直接雇用労働者と派遣労働者の平等が法律上定められました。1ですが、「派遣労働者に対し、派遣先への派遣期間中、労働報酬を含む基本的な労働条件について、当該派遣先事業場における比較可能な労働者よりも不利な労働条件を定める約定は(中略)無効である」と。要は、派遣先の直接雇用労働者、派遣先の労働者よりも低い労働条件を定める契約は無効であるということです。
 2「労働協約は、これと異なる定めを置くことができる。当該労働協約の適用範囲において、労働協約に拘束されていない使用者と労働者は、当該労働協約規定の援用を約定することができる」。これはどういうことかというと、原則として直接雇用労働者、派遣先労働者と派遣労働者は平等なのだけれど、労働協約が派遣労働者については違うような取扱いをしていいという定めがあれば、例外としてそれが認められる。それだけではなくて、さらにその労働協約上拘束されている労働協約を締結した使用者団体の使用者や、労働組合の組合員以外の人も、個別の契約であそこにある労働協約を援用するということを契約上書けば、それに基づいて労働協約に基づく低い処遇でいいということが書かれています。
 ドイツでは派遣については平等原則が入ったのですが、この労働協約が派遣会社とある労働組合の間でかなり広く認められていて、実際上の運用は労働協約に基づいて低い処遇がなされているところが広く残っていると言われています。
 これについては、その協約を結んでいる労働組合に、派遣労働者はそもそもほとんど組織化されていないのではないかと。正社員組合が派遣労働者の賃金は低くていいという協約を結んで、派遣労働者が派遣元と契約を結ぶときに、この協約を援用しないと契約を結ばないと言われたら、援用するわけです。そういう意味で、そもそも例外としての労働協約を締結している労働組合に、派遣労働者が公正に代表されていないにもかかわらず、こういう例外を作って低い処遇が蔓延していることは問題ではないかと、ドイツでは今、強く言われている状況です。
 そういう点を総合して、日本に対する示唆としてどういうことが言えるかを、最後に4点ぐらいまとめております。25~26頁です。1点目は、パートと有期と派遣について、ヨーロッパでは大体統一的な規制を及ぼしていますが、パート、有期、派遣、さらには請負労働者等を含めて非正規的な労働者については、全体的な視点から総合的・連続的に対策を講じることが重要だということです。そうしないと、パートはとりあえず平等にしたと言うと、有期を使おうとか、有期を平等にしたら派遣にいこうとか、派遣も平等になってしまったら、請負で下請、孫請を作って、そこでコスト削減をすればいいということで、玉突き現象が起こってしまうので、そういう連続性のある問題については規制としても全体の視野を広く持って、統一的な齟齬のない規制を及ぼしていくことが大切なので、ここで仮にパートに関する処遇を考えるときも、先にある有期や派遣、請負労働者の問題も視野に入れながらルールを考えていくことが重要です。
 2点目は、どういう形の平等原則、不利益取扱い禁止の原則を入れるかですが、フランスやドイツでは、法律上の条文はいわゆる同一労働同一待遇原則みたいな、比較可能な労働者がいて、同じような職務に就いている人で比較可能な人がいれば同じような処遇を、という原則になっているのですが、それだとうまくいかないということで、運用は比較可能な労働者要件を飛ばして、客観的理由のない不利益取扱いを禁止するというものになっています。
 何で同一労働同一賃金とか同一労働同一待遇原則みたいなものではうまくいかないかというと、1つの型を法律上求めると、その型に当てはまらない人たちはうまく実態に適合しないし、その射程が狭くなってしまいます。だから、同一労働同一賃金といった場合には職務給制度ではうまくいくけれど、職務給でない職能給みたいなキャリア給制度では、実態としてうまく当てはまらなくなってきます。逆に、いまの日本のパート法8条のように同一キャリア同一待遇原則みたいなものにすると、職務給制度にうまく当てはまらないのではないかという問題が出てきます。そういう意味で、より一般性の高い客観的理由のない不利益取扱いの禁止の形で法原則を運用していくことが、フランスやドイツに共通して見られる傾向だと言えるかもしれません。
 そういう場合に問題になるのが、「客観的理由」をどういうものにするのか、日本の言葉で言うと「合理的理由」はどういうものになるのかという点が、実務上いちばん問題になります。この点でフランスやドイツを見ると、かなり広いものがこの中に入ってきています。日本でおそらくこれから議論されるであろう内容の多くのものがそこに入っていて、キャリアコースの違いや学歴の違い、勤続年数の違い、将来に向けた勤続可能性の違いといったものも、すでに客観的理由に当たり得るということが議論がなされ、実務上ある程度定着を見せてきています。
 それを基に、私はいま別の論文を書いているのですが、資料5の後ろから2枚目をご覧ください。さらに1~4頁のものがありますが、その中で合理的理由の内容はフランスとドイツの経験からどのようにまとめられるのかということで、給付の目的・性質に照らして大きく6個ぐらい、これは例示なので、ほかにもいろいろなものがあり得ると思うので、この例示にぴったり当てはまるものではありませんが、仮にスタンダードを設定するとすれば6つぐらいに分けられるだろうと。第1に、職務に関連する基本給・職務手当など。これは職務に関連しているものなので、職務が同じか違うかで合理的理由の有無を判断するということです。第2に、勤続年数と結びついた給付。これがたくさんあるのですが、勤続年数と結びついた給付なので、勤続年数が同じか違うかで合理的理由を判断するということです。
 次の頁です。第3に、外国にもボーナスみたいなものがあるのですが、どのぐらい会社に貢献するような就労をしたかという、会社の貢献に対する給付やボーナスなどについては、会社の貢献度が大きかったか小さかったかが合理的理由になり得るということです。第4は、日本にもたくさんあるのですが、同じ会社や場所で働くメンバーシップに対して支給される給付です。これはメンバーシップが同じか違うか、同じ会社、同じ場所で働くというものの意味をどう考えるかが、合理的理由になり得るということです。
 第5に、労働時間の長さや配置に関わって、午前中だけの人には昼ご飯手当は要らないだろうということです。第6に、これは毛色が違うのですが、雇用保障についてもどう考えるのかという点があります。この1~6の類型の中で、それぞれ客観的理由、合理的理由の有無を整理して判断すると。これを基にそれぞれの企業の中で、うちは2と4が入れ替わっているとか、個別の給付ごとに判断していくことが、現実的かつ合理的なのではないかということです。
 26頁に戻ります。最後に、この合理的理由の有無を判断するときの労使合意の意味です。客観的理由とか合理的理由の内容がかなり広くなって、かつ個別の判断をしなければいけないとなると、労使合意の意味が非常に重要になってきます。当事者の予測可能性や実態に合った判断をするという面で、労使合意が非常に重要な意味を持ってきて、一方では労使合意を重視しようという傾向があります。特に、いまの実態と大きく違うものを入れようというときには、労使合意で滑らかに入っていくことが重視されていますが、同時にそこで労使合意といった場合に、非正規労働者も代表されているかという手続の公正さと、手続上入れたとしても、結果として労使合意の中で差別が生み出されるということはヨーロッパでも言われていることなので、労使合意で手続の公正さを担保した上で結果として差別がある場合には、最終的に裁判所が事後的に公正か不公正かをチェックするという枠組みを残した、それを取り込んだ法制度にすることが重要なのではないかと思います。私の報告は以上です。
○今野座長 それでは最後に権丈さんにお話をしていただきたいのですが、いちばん最後で時間規制をするのは申し訳ないのですが、ゆっくりやっていただくと議論をする時間が全くなくなるので、なるべく短くやっていただけますか。申し訳ありません。
○権丈委員 15分でもよろしいですか。
○今野座長 15分を上限です。
○権丈委員 わかりました。私は、経済学の視点から、「オランダにおけるパートタイム労働とワーク・ライフ・バランス」について、話をさせていただきます。参考資料として、「オランダにおけるワーク・ライフ・バランス-労働時間と就業場所の柔軟性が高い社会-」を提出させていただいております。
 この論文は、経済産業研究所のディスカッションペーパーとして、今月末に公表される予定で準備しているものです。テーマについて少し説明させていただきます。日本では2007年12月に「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」が策定され、昨年6月には改定されました。仕事と生活のバランスが取りやすい社会の実現が政策課題として掲げられております。ここでお話するオランダは、パートタイム労働者の割合が先進国中最も高くなっており、パート労働が生活の隅々まで行き渡っているパートタイム社会ということができます。パート労働の有効活用と、それとともに進んできた労働時間の柔軟性を高めることによって、ワーク・ライフ・バランスが取りやすい社会となっています。
 日本では、ワーク・ライフ・バランスという用語は、アメリカやイギリスにおける取組みが紹介されたことがきっかけで広まりましたが、オランダや北欧などは、この言葉が普及する以前から、仕事と生活の調和に取り組んでいます。
 私は以前からこの点を指摘しながら、ワーク・ライフ・バランスの実現には、さまざまなアプローチがあること、それらを整理しながら、日本に合った形で作っていくことの重要性を強調してきております。オランダでは、日本で私たちが常識として考えるパート労働の枠組みを超えた形で、パート労働が有効に活用されています。オランダの事例がこの研究会の議論の幅を広げることになればと思っております。
 オランダの労働市場の改革も、経済のグローバル化や少子高齢化という先進国に共通する環境変化の中での試みです。ワーク・ライフ・バランスと男女共同参画は、並行して議論されることが多いのですが、男女共同参画について、オランダはやや保守的と言えます。
 オランダでは、長い間、ヨーロッパでも既婚女性の労働市場への参加が少なく、女性の就業率も90年代後半までは日本よりも低いほどでした。このため、今でも、男女の働き方や役割の違いがあってもよいという考え方が一般に広く認められています。ただし、このことは、職場での男女差別を容認するものではなく、個人の希望を尊重することを重視したものです。また、オランダでは財政的制約を強く意識しながら、格差拡大を抑えつつ、より良い社会を創出しようと模索しています。こうした点からも、日本にとって参考にできるところがあるように考えております。
 まずは、日本とオランダの他に、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、スウェーデンという、それぞれにタイプの異なる7カ国の比較を通じて、ワーク・ライフ・バランスに関する日本とオランダの相対的な位置を理解します。
初めに4頁表1で労働時間に関する指標を見ておきます。日本では男性を中心とした長時間労働が問題となっておりますが、労働時間が長過ぎると、仕事以外の生活に使うことのできる時間、いわゆる「可処分時間」の絶対量が少なくなり、生活への満足度が落ちたり、心身の健康を損なうことが生じます。表の年間実労働時間や、週50時間以上労働者の割合などを見ると、労働時間の長い日本、短いオランダと、両国は、対照的になっています。
 「ワーク・ライフ・バランス憲章」では、就業率向上を1つの目標にしています。6頁表2の20歳から64歳の男女の就業率を見ますと、日本は7カ国中中程度です。しかし、よく観察しますと、男性の就業率が7カ国中最も高い一方、女性の就業率は最も低くなっています。これに対して、オランダは、以前は女性の就業率が非常に低かったわけですが、現在は、男女共に就業率が高くなっています。
これらをまとめておきます。
 7頁図1のように、社会における労働力活用には、大きく2つのタイプがあると言えます。1つは、1人当たり労働時間が長く、限られた人が働く「分業型」です。
もう1つは、1人当たり労働時間は短いけれども、より多くの人が働く「参加型」です。労働力の活用について見れば、日本は男女役割分業に根ざした「分業型」社会であると言えますが、オランダは「参加型」社会と言うことができます。「参加型」社会は、「分業型」社会に比べて、仕事と仕事以外の活動を同時にこなす人が多く、ワーク・ライフ・バランスの実現度も高いと考えられます。
 さらに、人口1人当たりGDP、労働1時間当たりGDP、失業率、合計特殊出生率といった経済社会パフォーマンスについて8頁表3をまとめておりますが、そちらを見ましても、オランダのパフォーマンスは悪くはないという状況です。
 仕事と生活のバランスを考える上で鍵になるのは、労働時間の長さを人々がどのように評価しているかということです。11頁表5の日本では、労働時間を減らしたいという希望を持っている人が多く、労働時間の希望と現実のミスマッチが大きくなっています。これに対して、10頁表4のオランダでは、労働時間の希望と現実のミスマッチが小さくなっています。
労働時間の理想と現実のミスマッチがなぜ起こるのかを、経済学の個人の労働供給モデルを用いて考えてみます。標準的経済学では、所与の賃金率すなわち時間当たり賃金、非勤労所得といった所得制約の中で、個人は自らの効用を最大にするように、仕事の時間と仕事以外の時間を選択していると考えます。つまり個人は自ら希望する労働時間で働いているとみなします。ところが、実際には、個人が労働時間を選択する自由はかなり制限されており、むしろ、残業を含めて、労働時間が指定されていることが多く、その制約の中で就業するかどうかを決定しています。このため希望と現実が一致しないことが多いわけです。
 たしかに最近は、日本でもパート労働など柔軟な働き方も増えてはいるのですが、そのことから、多くの人にとって、本当に労働時間を選択する自由があるとは言えません。といいますのは、日本における柔軟な働き方は多くの場合、仕事の内容が限られていたり、賃金や他の労働条件で恵まれない状況からです。
労働時間の希望と現実のミスマッチをなくし、ワーク・ライフ・バランスを取りやすくするための対策は、主に3つに整理できます。
1つ目は長過ぎる指定労働時間を短くし、希望の労働時間に近づけることです。
2つ目は、休暇・休業制度、短時間正社員、フレックスタイム等のワーク・ライフ・バランス施策によって、短期、長期において、人々の希望に沿うように、労働時間の柔軟性を高めることです。
関連して、3つ目は、質の良い短時間の雇用機会を増やすことです。そのための方法は、主に2つあります。
 1つは、正社員の働き方を柔軟にすることです。もう1つは、パート労働の質を向上させることです。結局のところ、パート労働の待遇改善は、現在、パートで働いている人だけではなく、すべての人にとって働き方の選択肢を広げる意味があります。
 次に、オランダにおけるパート労働の実態を説明します。先ほども事務局よりご説明がありましたが、オランダはパート労働の割合が先進国の中で最も高くなっています。パート労働は、若年者や既婚女性に多いのですが、子育て期の男性や高齢者にも広がっています。
オランダにおけるパート労働の待遇改善は、80年代から労働協約の中で進みましたが、90年代に入って、法律として整えられるようになりました。先ほどもご説明いただきましたように、96年に労働時間差別が禁止され、フルタイムとパートタイムの均等待遇が規定されました。
 さらに、2000年の労働時間調整法では、労働者が労働時間の延長、短縮を申請することができるようになっています。私は、昨年9月にオランダの社会雇用省や民間企業の人事部でお話を伺ってまいりましたが、この制度は現在までにかなり定着しているということのようでした。
 17頁の図5と図6は、日本とオランダの常用労働者につきまして、パート労働とフルタイム労働の年齢階層別の時間当たり賃金を示したものです。オランダでは、パート労働に関して、法律が整備されているわけですが、法律が整備されても、現実にパート労働が低賃金の仕事でのみ利用可能であったりすると、結局はパートタイムとフルタイムの賃金格差が残ってしまいます。このため、実態を知ることが重要です。図を見ますと、日本に比べてオランダは、両者の賃金格差が非常に小さくなっていることがわかります。またグラフは、性別と年齢を調整しているわけですが、これ以外の個人属性、例えば、教育水準、経験年数、業種、職種などをコントロールした実証分析の結果を見ても、オランダにおけるフルタイムとパートタイムの賃金格差は非常に小さくなっています。したがいまして、オランダでは法律上だけではなく、実態としても均等待遇が確保されていると思います。
 この背景には、パート労働が低スキルの仕事だけではなく、さまざまな業種、職種で利用されていることがあります。また、フルタイムとパートタイムの間を移動することができ、パート労働が特定の人々に固定していないことがあります。
 配付していただいた論文では、仕事と育児の両立支援、テレワーク、オランダ民間企業の事例も書いており、実は、そうしたところにも、オランダのパートタイム社会の特徴が出ていますが、ここでは省略いたします。
オランダをワーク・ライフ・バランスという点で評価すると、次のようにまとめることができるかと思います。社会における労働力の活用のタイプで言えば、オランダはワーク・ライフ・バランス社会に親和性が高い「参加型」社会になっています。そして、「参加型」社会としてのオランダを支える上で重要なのが、パート労働です。制度の対象範囲については、法律や労働協約によって労働条件が整備されており、制度が恵まれた労働者の特権とはなっていません。この点、ワーク・ライフ・バランスが、民間主導で主に優秀な人材の確保・定着という観点で、導入・普及してきたアメリカ型のアプローチとは異なる、ヨーロッパ大陸型のアプローチを取っていると言えます。
 ただし、例えば仕事と育児の両立支援について見れば、育児休業期間を長くし、所得保障も充実させようというのではなく、パート労働を活用しながら個人が調整することを期待しています。このため家族関係社会支出の対GDP比では、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリスなどよりもかなり抑制的になっています。
 ワーク・ライフ・バランスについては、短期と長期の視点があります。オランダでは一時点で見た場合、長時間労働者が少なく、仕事と生活のバランスをとることが可能になっています。これに加えて、パートタイムとフルタイムの均等待遇や、労働時間を変更する権利により、人々は子育て期に労働時間を短縮したり、子どもの成長に合わせて労働時間を延長したりすることができます。さらに、単身者や子育てを終えた男女も制度を活用しています。したがって、オランダではライフステージに応じた働き方を調整しやすく、生涯においてワーク・ライフ・バランスが取りやすい社会を形成していると言えます。ワーク・ライフ・バランスの実現のためには、スウェーデンやアメリカなどのように、フルタイム労働を基準にしながら、各種制度を整えるというアプローチがあるのですが、オランダのやり方は違います。オランダでは、パート労働も標準的働き方として認め、労働時間選択の自由度を高めることで対応しています。
最後になりますが、オランダでは労働者の権利意識、個人の多様性を尊重する姿勢が強い一方で、個人による働き方の違いを認め、男女がどちらもフルタイムで働くことは志向していません。そうした考え方については日本とも共通する部分があるように思います。以上です。
○今野座長 協力していただいて、ありがとうございました。最後に「その他」の議題があるのですが、「その他」はどのぐらい時間がかかりますか。
○大隈調査官 5分ぐらいです。
○今野座長 それではご質問、ご意見をお願いいたします。
○佐藤委員 浅倉さんに確認ですが、資料4の1頁のところに、違法な賃金差別の3つの類型があって、3があとから加わったということですが、特に2のところについては、企業の中に、イギリスでもアメリカでもシステムはかなり入ってきていますので、職務評価をして、いくつかのバンドに括ってというのがあります。そういう制度がある所について言えば、その企業にある合理的な基準で評価してみて、違うバンドに入れば、これはいいわけですね。ただ、自分は同じバンドだが、入れられているということがあったときに、それを評価してみて同じということになると差別になると。本来、同じバンドにいなければいけないのに、違うバンドに入れられていれば差別になるという話ですね。
○浅倉委員 はい。
○佐藤委員 3が問題なのは、そういう賃金制度がないような場合は、1つは外部の委員会が一定の評価基準で評価してみて、そのときに経営側が4頁にあるようなことで説明できればよいということですね。そういう意味では、きちんとした制度はないが、説明できるような要素で、例えば、技能水準が違うということができればいいと理解していいわけですか。
○浅倉委員 はい。おっしゃったことは概ねそうですが、2の場合の企業内に職務評価制度がある場合ですが、職務評価制度の中にもいろいろあって、それこそ分析的でない職務評価をしている場合もあるわけです。それからジェンダーバイアスがかかった職務評価をしている場合もあるので、そういう場合は職務評価としての妥当性は否定されることになるので、そこで同一でないと評価されたからといって3の訴訟ができないわけではないということになります。そういう関係になります。
○佐藤委員 水町さんに、最後の2つ目の論文の「合理的な理由」の第1ですが、「職務内容と関連性が高い給付」のところで、職務内容とか、経験、資格が「合理的な理由」になるときです。異なる会社で、例えば自動車のセールスをやっていても、ある会社は売上げみたいなものを期待した仕事、片一方は売上げだけではなくて、お客様の満足度も期待した仕事だとすると、それが合理的であれば、つまり、何が言いたいかというと、同じ仕事でも企業を越えると、合理的な内容というのは違ってくるという理解でいいのですか。
○水町委員 はい、それでいいと思います。
○佐藤委員 企業を越えて、外から合理的な理由があるわけではなくて、経営側がきちんと期待したとおり運用されていれば、それは合理的になると考えていると。
○水町委員 売上手当であろうが、勤続手当であろうが、いろいろな設計の仕方があるけれども、それを合理的な理由をもってちゃんと適用していればいいと。
○佐藤委員 言っているだけではなくて、実態として、ある会社は販売職に売上目標で賃金を払って、片一方は売上げだけではなくて、お客様のリピート率を見ている。違う職務を期待しても、そうなっていればいいということですね。
○水町委員 それをフルタイム、パートタイムに同じように適用していればそれでいいということです。
○山川委員 全体的な感想をまず申し上げると、それぞれ有益なご報告でした。待遇の改善とか差別については、外国も考えると2つのアプローチがあって、同一労働、同一価値労働と同一賃金というアプローチと、水町先生も指摘されたところですが、それから雇用形態を理由とする差別の禁止というアプローチがある。大きく分けるとその2つがあって、ある意味でいちばん極端なのが日本のパートタイム労働法で、非常に同一性というものを厳格に考えて、かつ、8条のように、例外を許さない。他方で、雇用形態を理由とする差別だけを要件として、例外を非常にある意味では広く認める国もあります。
 その中間形態みたいなものもあって、国によって違うのでしょうが、比較可能というものをどのぐらい強く見るかということがあります。つまり、2つのアプローチがあり、かつ併存することもあるわけです。同一価値労働、同一労働同一賃金と雇用形態を理由とする差別の2つを併存させて、両者の関係が問題になることもある。ということで、原則と例外も考えると、要件が厳しければ厳しいほど、適用対象は狭くなって、かつ例外を認める必要がなくなるのですが、要件が広ければ、逆に例外が広くなる。その例外についての立証責任が違ってくるということがあるかなというのが第1の感想です。
 もう1つは、男女差別の問題とされたり、雇用形態差別の問題とされたりという位置づけがあるということと、もう1つは、外国では裁判所中心になることが多いようですが、一方では、その限界も指摘されていて、例えば、ポジティブアクション的な発想、イギリスの平等賃金レビューとか、そういう発想が出てきつつあるということです。あるいは労使合意につき、限界もあるにせよ、いろいろな意味を持たせたりしているということもあるかと思います。ただ、EU指令の中には正社員転換の規定があるみたいですが、それほどキャリアアップをして地位を改善させていくという発想は、お聞きした限りではそんなにないのかなという感じがあります。いずれにしても、政策の選択肢としては参考になるところが多いのではないかという感じがあります。
 質問ですが、比較可能性とか、同一労働同一価値労働というのが、運用上はそれほど重視されていないというフランス、ドイツですが、基本給に関しては別という説明が少しあって、具体的に言うと、日本では基本給の格差が重視されているようなので、その辺りはどう考えられているのか。これが1点です。
 もう1つは水町先生にですが、フランスで同一価値労働同一賃金の原則は、女性秘書の間での格差の問題について判例があるということでしたが、非正規の格差についても同じように適用されると考えられているか、判例上はそういう取扱いになっているのか。この2点を伺いたいと思います。
○水町委員 最後の2つですが、基本給について、フランスとドイツについては、基本的に労働協約上、この職務でこの賃金という職務給制度が確立されています。それはパートにもフルタイムにも同じように客観的に適用するので、基本給で判例上の問題になることはほとんどないです。しかし、今は基本給だけではなくて、プラスアルファ何とか手当とか、何とか給みたいなものが増えてきて、そこで客観的理由の有無というのは柔軟に判断しなければいけないということが言われています。
 同一労働同一賃金については結構微妙ですが、裁判で争うときにどちらを選択したかによって、同一労働同一賃金を弁護士さんが使った場合に、これは有期契約労働者と無期労働者の間も同一労働同一賃金違反と言って立証しようとして、裁判所がそれを全面から言うこともあります。しかし、これは例外があるから、同一労働だが違う賃金でいいという場合もあります。パートの条文とか、有期の条文とか、派遣の条文も使って言うこともあって、実際上は客観的理由の判断も重なりつつあるのですが、訴訟上の訴える武器としては、場合によっては両方使えて、どちらを使っているかということが、局面としてはあり得るという感じです。
○山川委員 では、非正規格差についても裁判所は認めることもあるということですね。わかりました。
○今野座長 基本給のことですが、フランス、ドイツはたしかに産業別でやりますが、あれはいちばん最低ラインを決めているわけだから、あとはドリフトしていくわけです。しかも、いまの職務給はブロードバンド化していっているから、レンジがものすごく大きくなっているわけです。そうすると、ここの問題はどうなるのですか。つまり、日本はたぶんここで問題になっているみたいなところがあるわけです。
○水町委員 そこの問題が、昔みたいな職務給の発想ではできないというので、いろいろな諸手当に関する争いが出てきています。基本的には、大企業であればあるほど、企業で上乗せをして、新しい賃金制度を作って、新しい賃金制度はいろいろなのだけれども、それは労働協約上の職務給を当てはめたものよりも上になっているよね、ということであればいいのです。
○今野座長 しかし、通常企業の実態を考えると、それが基本給なのだけど。つまり、手当では払っていない。それが基本給なのだから。
○水町委員 日本の発想ではそうです。
○今野座長 いやいや、ヨーロッパでも。ホワイトカラー系はそうだと思います。ブルーは違うかもしれませんが。
○水町委員 それか、まさにフランスでキャリアコースを別にした場合、別の賃金制度を作った場合に問題になって、それはキャリアコースが違うから、それは基本給という呼び名とすれば、基本給が違ってもいいと。同じ労働であってもキャリアコースが違う、キャリアコースに基づいた賃金制度として設計しているから、それは客観的理由になるかどうかの判断になると思います。
○今野座長 総合職の人がいて、その中で、例えば男女で言うと、差別されたと訴えられたときに、総合職の人たちは大きいレンジの中で給料が決まってくる。これはどうするのでしょうか。
○水町委員 非常に雑ぱくなイメージで言うと、基本給については、かなり広く客観的理由が認められる。基本給の中に含まれているものは、単に職務だけではなくて、ドイツでは学歴、勤続年数、経験、キャリアコースといろいろなものが入り得て、それは合理的理由になり得るという運用がかなり広くなされている。
○今野座長 極端なことを言うと、日本に当てはめると、基本給は争いにならないと。
○水町委員 ちゃんとそれを使用者側が説明できれば、キャリアコースによって2つの基本給制度を作っているのだと。その2つの基本給制度はキャリアによって違って設定していて、たしかにキャリアの違いで運用しているというのであれば、これは合理的理由になるという話になりますが、その他の手当では、個別に関連するもので判断する。
○今野座長 本丸ではないですよね。
○浅倉委員 今のお話は、要するに雇用形態がいずれであろうが、ともかく比較はできるのであるということでよいでしょうか。基本給がパートとフルだから比較できないという議論は全くなくて、ともかく同じレンジの中で、交渉も同じ、そういう場合、パートだから、フルだからというのではなくて、比較が可能である。しかし、比較した場合の格差については、正当な理由を、フランスでも使用者側が立証しなければいけないということになるわけですよね。
○水町委員 はい。
○浅倉委員 そういう仕組みだと考えていいのですね。
○水町委員 賃金制度が複雑になればなるほど、客観的理由の範囲は広がっていて、使用者側もいろいろなことを言うけれども、いろいろなことを言うのに失敗したら、原則に戻って違法だという判決が時々見られる。ちゃんと理由を考えて、理由どおりに運用しておきなさいということが鉄則です。
○浅倉委員 格差をもたらす要因というのはいろいろあると思うのですが、賃金の差異と格差とのバランスというのは、フランスの場合はどういうふうに考えられるのですか。
○水町委員 例えば、均等はあるのですが、均衡の議論は聞いたことがないのです。ですから、合理的理由の中で柔軟に判断した後はall or nothingです。
○黒澤委員 浅倉先生からご報告をいただいた4頁に、「賃金決定理由として」というところで、使用者が抗弁として持ち出す中に、職務が必要とする労働時間や勤務の変更にどれだけ対応できるかという、その可動性というモビリティーの話があります。「職務が必要とする」と書いてありますが、これは必要とすると使用者側が説明できなければいけないということだと思いますが、例えば、日本でも先進的な企業は非常にワーク・ライフ・バランスを考えた勤務の柔軟性を適用しているところがあります。しかしながら、ある使用者は、それを全くどの従業員にも提供していないからうちではできない、だから長い労働時間や勤務地変更が必要なんだというふうに言い張れば、それは必要だという説明になり得るのかどうか。それとも、同じような業種の他の企業で柔軟な働き方が提供されているのであれば必要だと言えないのか。他の企業で同じようなことをしているところとの比較と言ってもそこは難しいかもしれませんが、そういったところでの必要性というのは、どう説明されているのですか。
○浅倉委員 今のは【21】のダンフォス事件と書いてあるところ辺りとの関連のご質問だと思います。ここでいう「柔軟性」や「可動性」というものに差があるかどうか、その辺りの「正当化要件」は、かなり厳密に判断されていると考えていいと思います。しかし企業ごとに、規模の大きさとか、全体にかけるだけの人員的な余裕とか、いろいろなものがあるとも思います。どこまで企業ごとにいろいろな考慮をすべきだと言っているかどうかが、今は正確にはわかりませんので、少し調べて、後に少し詳しくご紹介するということでよろしいでしょうか。
○今野座長 これまでのいろいろな研究の結果を踏まえると、アメリカ・日本型は会社が必要として、ヨーロッパ型は、かなり職務が必要とするのです。そんな違いはあると思いますが。
 つまり、職務の設計は使用者が自由にできるとなると、職務が必要とするというのは、使用者が必要とするということになります。それに歴史とか文化の違いみたいなことがあるのかなとは思いますが。
○権丈委員 水町先生のフランスのお話を興味深く伺ったのですが、先生が紹介されたキャリアコースの該当者というのは、労働者のおおよそどれくらいの割合になるのでしょうか。例外的なものか、それとも、例えば日本の総合職くらい対象範囲が広いのかということを、まずはお伺いできればと思います。
 もうひとつは、先ほども議論があったのですが、産業別の協約に基づいて基本給がかなり決まっているということですが、企業は、基本給について、協約からどの程度バリエーションを設けているのかということです。
 オランダの場合には、産業別の協約を参考にしながら、実際には企業ごとのバリエーションがあります。といっても、フルタイムとパートタイムについては、時間比例になっています。その辺りは、いかがでしょうか。
○水町委員 私もフランスの賃金制度の実態はあまり知らないのですが、少なくとも判例を見る限りでは、キャリアコースによって賃金制度を変えるというのは、先端的な動きで大企業を中心に新たに見られたものです。原則は職務給ですが、それに成果給とか、いろいろなものを付け加えていく中で、協約賃金プラスアルファのところでいろいろな制度設計をし始めていて、そういう問題が今、出てきているというので、これから増えてくるかもしれませんし、どうなるかまだ分からないところです。
 協約プラスアルファをどういうふうな制度設計にするかというので、職務給制度の協約プラス職務給みたいな手当をプラスするか、それとも職務給制度は額としての最低保障であって、プラスアルファは賃金制度をダイナミックに変えて、成果給的なものを入れようか、というと、後者の動きがだんだん強まってきているので、いろいろな紛争が出てきて、紛争になってみると、会社側の合理的な説明とかイニシアチブをかなり重視しようというのが最近の判例の動きではないかという気がします。
○今野座長 他にいかがでしょうか。6、7年前で、今はどうかわかりませんが、フランスのソフトウエアの会社のシステムエンジニアの賃金を見たら、産業別の協約賃金があるのですが、そんな賃金で払っている会社はほとんどないのです。つまり、協約賃金がなぜ人事管理上役に立つかというと、格付けの作り方の参考にするだけです。協約賃金で4ランク、3ランク、2ランク、1ランクと決めて、それに定義が入っているのですが、それはシステムエンジニアのランク決定に使う。それでは使うけれども、そこに付いている賃金はほとんど使っていない。みんなそこの上でなければ人は集まらないので、いろいろな機能が協約賃金というのはあるのだなと。私の個人的な印象、経験です。
○佐藤委員 先ほどの水町さんの基本給のところですが、ここに例えば職務内容、経験、資格といったときに、先ほど浅倉さんの質問でも話されましたが、そのウエイトについては特に合理的であれば、ウエイトの付け方は法律上どうこうと、判例どうこうで言っているわけではないと考えていいですか。
○水町委員 賃金制度の設定自体については、フランスやドイツはあまり法は介入しない。差別がなければいい。同一労働賃金という原則に引っかからなければいいということです。それは労使で決めることです。
○佐藤委員 それはフルとパートで言えば、同じように適用していればいいということですね。
○水町委員 山川先生のお話の中で、裁判所か行政機関かというところで、資料2の5頁目の下の4「行政型ADR」というのがあって、ヨーロッパで雇用形態に基づく不利益取扱いとか、平等差別というときには、行政ADRはほとんどまだないのですが、ACASというのは浅倉先生の話にあったのですが、そのほかにフランスでアルドというのが行政ADRみたいなものとしてできた。スウェーデンにもそういうものがあって、オランダも、ここにありますが、これは何でできてきているかというと、2000年の雇用均等枠組み指令で、雇用形態は別にして、年齢とか障害とかを入れた、もともと人種とか性別も入れた雇用差別をヨーロッパ全体でなくしていこうという枠組みの中で、裁判所がなかなか難しいと。個別の裁判官の認定で、これが差別に当たるかどうか、どういう救済をすべきかというのは、権利義務で判断するのは難しいので、行政機関をそれぞれ設けて、その中で裁量を与えて、専門家による柔軟な救済をしていこうというのが出てきたのが、ACASとかアルドとか、そういうのがいまヨーロッパの国ではどんどんできてきているのです。
 行政ADRを考えるときには、問題が複雑になって、裁判官1人では判断できないときには専門的な機関を作って、というのが1つの大きな流れです。それが、日本でこれから年齢差別とか障害差別を作るときにこういうのを作ったり、さらに雇用形態差別も日本はそう単純でないとすれば、行政ADR的なものを雇用形態による差別についても含めて設定するかどうかという議論を、ちょっと先を見た議論として考えることが重要かなという気がしました。
○今野座長 まだあると思いますが、次回以降もありますので、そのとき議論していただければと思います。最後に「その他」についてお願いします。
○大隈調査官 資料7です。次回は労使の方々からのヒアリングです。第4回以降、各論点の検討に入ることを考えております。
資料8ですが、前回、この研究会で議論していただく論点(案)を出させていただきましたが、そのときの先生方からのご意見を踏まえて少し修正しております。
 1「通常の労働者との間の待遇の異同」のところに、「職務の価値」を入れさせていただいております。待遇の話と納得性というのは、非常に密接しているのではないかというご意見がありましたので、2「待遇に関する納得性の向上」という形で持ってきました。労使の意見をどのように聞いて集約していくかというご意見もありましたので、「労使の意見」ということで書いております。「教育訓練」も重要であるというご意見がありましたので新たに3として加えました。4と5はそのままですが、6「その他」については、小さなポツを3つ入れておりますが、「パートタイム労働を多様な働き方の一類型として活用する方策」「税制・社会保険制度等関連制度」「フルタイム無期契約労働者の取扱い」ということで、前回のご意見を踏まえて追加しております。
資料9は、前回の議論の概要を付けております。以上です。
○今野座長 何かご質問はございますか。よろしいですか。論点については、徐々にまた必要だったら加えればいいし、柔軟にいけばいいと思います。それでは今日はこの辺にさせていただきます。次回の日程についてお願いします。
○藤原課長補佐 次回は、3月30日の午前中を予定しております。開始時刻及び場所につきましては調整中ですので、後日ご連絡させていただきます。よろしくお願いいたします。
○今野座長 それではこれで終了いたします。ありがとうございました。


(了)
<照会先>

雇用均等・児童家庭局短時間・在宅労働課

電話: 03-5253-1111(内7875)

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