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2010年5月19日 第8回 厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会 議事録

健康局結核感染症課

○日時

平成22年5月19日(水)
16:00~18:30


○場所

厚生労働省議室


○議事

第8回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会

日時:平成22年5月19日(水)
16:00~       
場所:厚生労働省省議室

【出席委員】(50音順)
飯沼委員、岩本委員、宇賀委員、岡部委員、加藤部会長、北澤委員、倉田委員、
櫻井委員、澁谷委員、廣田委員、古木委員、宮崎委員、山川委員
【参考人】
池田参考人、小澤参考人、佐藤参考人、多屋参考人、長谷川参考人、
保坂参考人、
【行政関係出席者】
上田健康局長、中尾大臣官房審議官、鈴木健康局総務課長、福島健康局結核感染症課長、
正林健康局結核感染症課新型インフルエンザ対策室長、高井医薬食品局長、
岸田大臣官房審議官、熊本医薬食品局総務課長、亀井医薬食品局血液対策課長、
森医薬食品局安全対策課長、鈴木新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長、
松岡健康局生活衛生課長、佐原大臣官房企画官、土肥健康局健康対策調整官
     
○鈴木新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長 それでは、定刻になりましたので、た
だいまより第8回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会を開催させていただきたいと
思います。
 まず、事務局より、本日の委員の先生方の御出欠の状況について御報告いたします。本日
は、今村委員、木田委員、黒岩委員、坂谷委員から御欠席の御連絡をいただいております。
また、古木委員は御所用のため途中で退席されると伺っております。したがいまして、定数
に達しておりますので、会議は成立することを御報告させていただきます。
 それでは、これから加藤部会長に議事をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたし
ます。
○加藤部会長 それでは、開催に先立ちまして、本日より、保坂シゲリ日本医師会感染症危
機管理対策担当常任理事に、本部会に参加していただくことになりました。しかし、本日は
手続の関係上、参考人として御出席をいただきますが、発言は御自由でございます。
 続きまして、部会長であります私からの御提案でございますが、前回、体調はよかったん
ですが声が出ませんで、大変失礼を申し上げました。そういうことがまたあるかもしれませ
んし、また、岡部委員も非常に御多忙で突然、海外ということが多いと、また流会という事
態が起きかねません。そこで、もう1名だけ部会長代理を指名させていただきたいと存じま
す。部会長代理につきましては、部会長が指名することとされておりますので、部会長代理
をもう一方、倉田委員にお願いいたしたいと存じます。倉田委員におかれましては、部会長
である私及び副部会長である岡部委員に不測の事態等がございました場合には、議事の進行
をよろしくお願いいたします。御了承のほど、よろしくお願いいたします。
 それでは早速、本日の第8回感染症分科会予防接種部会を開催いたします。
 事務局より、本日のヒアリングの趣旨、目的と資料の確認について御説明をお願いいたし
ます。
○鈴木新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長 それでは、お手元の資料の御説明をさ
せていただきます。
 まず、趣旨でございますけれども、この予防接種部会、夏前につきましては将来に向けて
検討すべきとされている6つの項目について、ヒアリングを含めて議論をさせていただいて、
課題の洗い出し、整理をさせていただきたいと前回・前々回も申し上げました。前回は研究
開発、生産基盤について御議論いただきましたけれども、今回は副反応の報告、予防接種の
医療経済学的側面、この2つについてヒアリング等をさせていただけたらと思います。
 そこで資料でございますが、座席表の次に議事次第がございまして、議事次第の中に委員
名簿、本日の配付資料、それから、「本日のプレゼンテーションについて」というのが資料
1でございます。見ていただきますと、テーマ丸1の副反応報告については、現行の制度を結
核感染症課、安全対策課から申し上げた上で、多屋先生と長谷川先生からプレゼンテーショ
ンをいただきます。
 テーマ丸2の医療経済学的評価、それから、感染症サーベイランスについては、医療経済学
的評価について池田先生と佐藤先生から、サーベイランスについては事務局で現行制度につ
いて申し上げた上で岡部先生、宮崎先生、澁谷先生、それから、ヒアリングに来ていただい
ている小澤先生から発表いただくとなっております。
(以下、配付資料確認)
 それから、テーブルにおられる方には緑色の冊子が配ってございますけれども、これは加
藤部会長に研究代表をしていただいている副反応モニタリング体制の検討に関する研究と
いうものでございます。後でごらんいただければと思います。
 以上です。
○加藤部会長 ありがとうございました。
 不足の資料がございましたら、事務局までお伝えいただきたいと思いますが、よろしゅう
ございますか。
 それでは、議事に入ります。
 前回に引き続きまして、本日もヒアリングを中心に今後の予防接種制度の見直しに関しま
して議論を進めさせていただくことといたします。本日は、予防接種に係る副反応報告及び
予防接種の医療経済性の評価と、感染症の発生動向調査、すなわちサーベイランスをテーマ
といたしまして、有識者の方々からヒアリングを行いたいと存じます。
 本日は、ただいま御紹介がありました資料1にあります5名の方々に参考人としてお越し
いただいております。
 それぞれのテーマにつきまして事務局及び各委員、そして、参考人の方々からプレゼンテ
ーションをしていただくことになってございます。その後、適宜、質疑応答を行います。し
かしながら、質疑に関しましてはかなり時間が限られていることもございますので、端的な
質疑応答をお願いいたしまして、会議に御協力のほどをお願いいたす次第でございます。
 それでは、ヒアリングテーマの1つ目、予防接種に係る副反応報告についてを議題といた
します。事務局より現行の予防接種に係る副反応報告制度につきまして、感染症課より御説
明をお願いいたしますが、御時間は約10~12分程度でよろしくお願いいたします。
○福島結核感染症課長 それでは、資料2-1に従いまして、予防接種に係る副反応報告制
度について御説明いたします。
 まず、1ページの下でございますが、予防接種による健康被害に対する副反応報告制度は
大きく分けまして3つございます。まず、予防接種実施要領。予防接種法の実施に関しては
通知で決めておりますけれども、この予防接種実施要領に基づきます報告制度、それから、
今般の新型インフルエンザ(H1N1)の予防接種につきましては、国の事業として行って
いるわけでございますが、この国の事業の実施要領での規定、それから、薬事法による報告
制度とございます。
 まず、予防接種実施要領に基づくものでございますが、平成6年に定期一類についてが、
平成13年に季節性のインフルエンザが予防接種法に入りましたので、インフルエンザにつ
いては平成13年からということでございますが、古くは昭和30年の実施要領でも重大な
事故があった場合の報告規定がございましたけれども、現行の仕組みになったのは平成6年
あるいは平成13年からでございます。
 対象につきましては、定期接種についてのみ報告の対象にしております。臨時接種につい
ては、その規定はございません。
 それぞれ報告者につきましては医師、被接種者、または保護者が実施主体である市区町村
の窓口に報告すると。郵送または緊急の場合にはFAXでということになっておりますが、
報告の内容につきましては、後ほど御説明いたします。それぞれの疾病によって若干の報告
内容が異なっております。
 報告の期日は特段ございませんが、死亡・重篤・入院の場合には、市区町村長は報告者か
ら報告を受けたら直ちに国に報告することになっております。
 因果関係にかかわらず、一定の基準に合致する事象について報告するということになって
おりまして、これについて厚生労働省にあります副反応検討会で原則年1回、重篤なものに
ついてはその都度ということで検討しております。
 右側の新型インフルエンザ実施要領等に基づく報告でございますが、今般の新型インフル
エンザ(A/H1N1)の報告でございますが、これは実施要領及び契約に基づく報告制度
でございます。医療機関から実施主体である国に対して直接FAXで御報告いただいている
ものでございます。これらの報告については速やかにということで、因果関係については先
ほどの予防接種法に基づきますものと同様に、因果関係にかかわらず一定の基準に合致する
場合には報告をいただいております。
 それから、薬事法によるものでございますが、昭和54年からあります製造販売業者等か
らの報告と、医薬関係者からの報告の二本立てになっておりますが、医薬関係者からのもの
については平成15年からでございます。製造販売業者の方からは、PMDAに対しまして
電子報告または緊急時にFAX等で報告すると。医薬関係者からは郵送またはFAXと。
 対象でございますが、薬事法で承認されたワクチン、実際にはワクチン以外の医薬品等が
対象になるわけでございますが、今回は予防接種ということでワクチンということです。
 報告内容につきましては後で御説明いたします。報告期日は規定にあるとおりでございま
すが、因果関係について予防接種法に基づきます実施要領等とは異なりまして、因果関係を
疑われるものとなっております。報告がされたものの評価については、必要に応じてPMD
Aから整理した上で、随時、専門家、厚生労働省と検討するとともに、薬食審の方に御報告
し、検討いただいているということでございます。
 2ページですが、実際にどういうものが報告されるかということでございます。重篤・非
重篤、それから、未知・既知ということで整理させていただきました。これは御参考までに
ごらんいただきたいと思います。
 上は、因果関係にかかわらず、下の医薬関係者の場合は、医師等が食品衛生上必要と認め
る場合。薬事法、企業の報告の場合は、副反応によると疑われる場合に報告となっています。
 2ページ下から3ページに、それぞれどういう臨床症状があった場合に報告をするか、そ
して、どれくらいの期間のものまで報告するかについて書いてございます。これは実施要領
の抜粋でございますが、それぞれの予防接種の種類によりまして、性格によって報告する症
状、期間について若干違いがあるということでございます。
 3ページの上の下の表は今般の新型インフルエンザに関する実施要領での報告の規定で
ございます。今般はかなり詳細にといいますか、臨床症状を細かく区分して、あるいは時間
についても少し従来よりも長く御報告をいただきました。
 3ページの下ですが、薬事法での副反応報告の基準等は示してあるとおりでございます。
特に、医薬品の製造販売業者からの報告については、施行規則で詳細に決まっております。
 4ページは報告の流れでございます。図1が、予防接種法の実施要領に基づきます報告の
流れでございます。報告者である医療機関あるいは被接種者、保護者の方からの副反応報告
が市区町村に報告され、市区町村から都道府県を経由して厚生労働省に上がる。死亡、重篤
な疾患あるいは入院につきましては、市区町村から直ちに厚生労働省に報告があるという形
になっております。
 左側に接種者数という緑色の矢印があると思いますが、これは別途報告をいただいて、施
行令、施行規則に基づきまして報告いただいておりまして、これで分母と分子の計算をして
いるということでございます。
 それから、図2が薬事法に基づく副反応報告の流れでございます。製造販売業者等からは
PMDAへ報告。そして、医療機関は厚生労働省への報告ということになっております。
 5ページの図3は、新型インフルエンザ予防接種事業の実施要領に基づきます報告制度で
ございますが、これは実施主体が国ということもございまして、厚生労働省に対しましてダ
イレクトにFAXで報告をいただくということになっております。
 これにつきましては、メーカー等からは副反応報告ということでPMDAに報告が行くわ
けでございますけれども、これについても厚労省にデータをいただき、それについては合同
検討会等で検討していただくということでございます。これについて安全対策課から後ほど
詳細に御説明いたします。
 5ページの下は、予防接種後副反応報告に関します論点といいますか、今課題として考え
られるものとして、1つには、どこまでの範囲を把握すべきか。因果関係がある場合に限定
するのか、それともすべての健康被害について報告を求めるのか、あるいは一定の基準に該
当したものに限定するのかというような論点があろうかと思います。
 それから、2つ目が報告の経路等でございますが、誰から御報告いただくか、どこを経由
して報告するか、あるいは報告を受けてそれに基づきます判断、例えば、重篤なものがある
といった場合には、接種継続あるいは中止というような判断をどういう形で進めるのか。
 3つ目としては、現行このような制度があるわけでございますけれども、重複あるいは漏
れというものが生じないような仕組みを考える必要があるのではないかと。こういうことが
問題としてあるのではないかと考えております。
 結核感染症課からは以上でございます。
○加藤部会長 どうもありがとうございました。
 引き続きまして、安全対策課より今回の新型インフルエンザ接種におけます副反応報告に
つきまして御説明をお願いいたしますが、恐縮でございますが時間は約8分程度でよろしく
お願いいたします。
○森安全対策課長 安全対策課でございます。資料2-2に基づいて御説明させていただき
ます。今回の新型インフルエンザのワクチン接種において、どのように副反応報告の体制を
整えて、実際にどのような報告が出て、どのような検討が行われたかということについて御
説明させていただきます。
 2ページ目をめくっていただきまして、接種後の副反応に対する対応の体制というのは、
およそ3つポイントがあります。まず、副反応の発現割合、頻度の情報を短期間で把握して、
重大な副反応や発生頻度の変化に対応できるようにしようということでございます。2つ目、
得られた副反応の情報はできる限り公表していくということと、それから、合同検討会、後
ほど説明しますが、専門家の先生方の英知を集めて定期的に開催し、あるいは必要に応じて
適時評価をいただいて評価していこうと、これも行いました。それから、3つ目、こうした
即時の対応をしている一方で、研究班を設置いたしまして、このような新しい事態について
対応していく中で、今後の課題あるいは欧米の対応といったものも含めて、今後の副反応の
評価や収集の在り方について御検討いただくということをやって、次につなげるということ
もしておりました。
 その構図は、2ページの下の図でまとめておりますが、全体としては3つの取り組みがあ
ったということで御理解いただければと思います。先ほど福島課長からの説明もございまし
たが、医療現場から大量の副反応報告がまいります。これを整理いたしまして、専門的な観
点で安全性に重大な問題がないかどうかということについて御議論いただくために、専門家
の先生方をお集めいただいた合同検討会、正確には薬事・食品衛生審議会の医薬品等安全対
策部会安全対策調査会と新型インフルエンザ予防接種後副反応検討会という、それぞれの専
門家の先生方に一堂に会していただきまして、合同開催を6回行いました。その会の開催を
繰り返して、ワクチン接種を進めていっても大丈夫であるかどうか、現状で変なことが起き
ていないかどうかというようなことについて御議論をいただいて、逐次評価をまとめた次第
です。
 接種自体は10月19日より始まったということでございますが、約1か月経過した時点
で第1回の合同検討会を開かせていただきましたが、この時点までに初期の医療従事者を対
象とした接種で、約2万例のコホートのデータが出てきていたということ。それから、1か
月を経過する間もなくぐらいのところで、接種後の死亡例の報告がある程度出てきていたと
いうこと。こうしたことを踏まえて、その後の接種の継続をしていくことについていかがか
という観点で御議論をまとめていただいたものが、4~5ページにございます。基本的な安
全性は、医療従事者接種の結果によって大きなものではないという評価がされていたという
こと。それから、死亡例の報告につきましては、基礎疾患を有する高齢者の方々で特徴的に
見られているということを踏まえて、基礎疾患を有する方に対する接種は慎重を期して行っ
ていただきたいということですが、一方で、そのような方々は非常にハイリスクな方々なの
で、接種を差し控えるというようなことにはならない。そういう判断をいただいて、このよ
うな格好で取りまとめて公表した次第でございます。
 6ページが、今年4月末まで得られた副反応を全部まとめたものでございます。全体概況
としましては表の一番下になりますが、供給数から言いますと約2,300万程度の回数分が供
給されて、副反応報告は2,400余りという報告が来ております。そのうち重篤なものは400
余り、死亡報告は131例あったという内容になっております。
 それとともに、7ページには輸入ワクチンについての報告状況も挙げてございますが、実
際の接種数は少ないということで、そのような格好で少数例ですが、実際の接種の実績を挙
げてございます。
 8~9ページには、先ほど接種の実際に行われた数は医療機関から報告をいただいて、そ
れを集計していくというプロセスですので、やや時間がかかります。したがいまして、初期
の評価は供給数から評価していたんですが、時間が経って医療現場から挙げていただいた実
際の接種数という数字を集計しまして、そちらでも見ております。
 9ページに3月末までの接種分ということで評価してございますが、約2,100万ぐらいの
接種数があって、その中で2,400ぐらいの副反応報告が出ていたということでございまして、
およそ供給数からの見積もりと接種数からの見積もりの接種母数ということに関しては、余
り大きな違いはないという格好になっているということでございます。
 それから、実際に副反応報告、2,400のおおよその内訳等については、その後に縷々資料
として御説明してございますが、11ページに接種後の死亡例の報告が非常に大きな関心を
引かれたところがございますので、これについての特徴を挙げております。まず、一番申し
上げておきたいのは、死亡例の報告について、報告をされてきた医療機関あるいは収容され
た施設、搬送された先の施設からの報告もありますが、それらの報告をされた方々は基本的
には因果関係の有無にかかわらず報告をすることになっており、それぞれの報告の中でワク
チンそのものが死亡の引き金になったかどうかということについての御評価もいただいて
いるのですが、そういう直接の関連があるというものは極めて少なくて、実際に関連ありと
報告されたものは131のうちの3例。残りは関係が不明、もしくは関係ないという御意見
をいただいていたものでございます。
 基本的に、今回の副反応報告は因果関係の有無にかかわらず、一定の基準に該当するもの
はすべて報告となっておりましたので、しかも、直接FAXで1枚の報告を出せばよいとい
う簡潔な方法でとりましたので、報告数は非常に多くなっております。これによって接種の
中で発生した副反応報告は、極めてクリアに把握ができたということではないかと思います。
 それ以外の資料につきましては、御参考ということでごらんいただければと思いますが、
一番最後に、23ページからついておりますものは、一番最初に約2万例の医療従事者に接
種をした、ある意味バックグラウンドがクリーンな、健康な成人に接種した際の副反応の内
容をまとめていただいたものでございます。これが基本的なワクチンの副反応のプロファイ
ル、それを示すものとしてごらんいただければということで、つけさせていただいたもので
ございます。
 以上でございます。
○加藤部会長 ありがとうございました。ただいま森課長から御説明がございましたとおり
でございます。
 続きまして、参考人の方々からのヒアリングを行いたいと存じます。参考人の1人目は多
屋馨子氏。国立感染症研究所感染症情報センター第三室長であられます。参考人の2人目は
長谷川一成氏。社団法人細菌製剤協会でございます。それでは、参考人でございます多屋先
生、長谷川先生のお二人に続けて御説明をお願いいたしまして、その後、質疑を行いたいと
存じます。
 それでは、まず、多屋参考人からお願いいたしますが、恐縮ですが約15分程度でお願い
いたします。
○多屋参考人 国立感染症研究所感染症情報センターの多屋と申します。今日はよろしくお
願いいたします。お手元にも資料を配っていただいているのですけれども、前にパワーポイ
ントを示してお話しさせていただきたいと存じます。
 私は、加藤先生の研究班「予防接種後副反応報告の今後の在り方に関する研究」で一部分
担させていただいて検討させていただいておりました。今般の新型インフルエンザワクチン
は、A型インフルエンザHAワクチン(H1N1株)と言われていますが、これは2009年
に発生したパンデミックインフルエンザに対するワクチンで、これまでに経験のないA/H
1N1pdmワクチン株を用いるということ、短期間に多くの方々に接種をするということ
から、安全性の問題が発生したときに早期に対処できる仕組みが求められていました。特に、
ギランバレー症候群など1970年代に米国での豚インフルエンザワクチン接種の際に見ら
れたような有害事象が起こった場合に、その問題に早期に対処するということが課題と言わ
れておりました。
 このA型インフルエンザHAワクチン(H1N1株)は、厚生労働省と国立病院機構の先
生方が協力して、接種開始時の2万人の接種後の安全性調査を実施されました。その後もほ
ぼ毎週、全国から届いた副反応報告の頻度を医療機関納入数量から得た推定接種者数を分母
として公表するなど、非常に多くの取り組みがなされたと感じております。
 その結果、医療現場には情報が非常に迅速に還元されたと感じます。恐らく、かつてここ
までの迅速な副反応報告の公表が行われたことはなく、これは非常に評価できることである
と感じております。
 この会議の前に新型インフルエンザワクチンの総括会議がございましたが、リスクコミュ
ニケーションの問題なども取り上げられておりました。私がおります国立感染症研究所感染
症情報センターでは、多くの方々から電話やメール等で御質問や御相談をいただきますが、
このように多くの情報を迅速に還元してくださることによって、ほとんどワクチンの安全性
に関する質問はお受けすることがありませんでした。接種事業に基づいて受託医療機関と国
が直接契約を結び、副反応報告を義務付けたことにもよるかと思われますけれども、先ほど
の資料ですと2,400を超える副反応報告が短期間に収集されたことは、これまでにないと思
います。
 そこで、今回の新型インフルエンザワクチンに関して、迅速に公表された重要な情報の例
として2つを挙げてみました。
 まず、1つ目ですけれども、これは先ほど表としてお示しいただいていたものを一部グラ
フにしたものですが、このように迅速にロット別の副反応報告数が出てまいりますと、接種
者数別、ロット別に副反応報告の頻度の解析を行うことが可能となります。こういったこと
は、なかなかこれまでのワクチンでは行われていなかったことですので、非常に評価に値す
ると思っています。
 と申しますのは、例えば、副反応の集積と思われる事例が見つかった場合においても、出
荷数が多いか少ないかによって、その判断が変わってくるからです。
 次に、今回アナフィラキシーに関して新たな評価基準が設けられました。副反応報告基準
としては先ほどお示しいただきましたように、アナフィラキシーというのが報告基準の一番
上になっています。これは報告医師の臨床診断によって報告がなされているわけですけれど
も、今般このブライトン分類を用いたアナフィラキシーの評価というものが行われました。
アレルギーの専門家の先生や、この分野の専門家の先生方が報告されたものをブライトン分
類に基づいて評価しまして、カテゴリー1~5に分けて集計される等の情報が迅速に公開さ
れました。
 その結果、カテゴリー1~3に該当される方についてはアナフィラキシー、一方、4や5
といった方につきましては、中にはアナフィラキシーではなく血管迷走神経反射のような事
象も含まれているということもわかってきたのではないかと思っています。
 ここまでのまとめですけれども、予防接種の効果と予防接種後に起こる副反応について、
国民に正しく、かつ、迅速に情報が提供されるということは、ワクチンに対して否定的な考
えというよりも、むしろ理解が深まると今回の事例を経験して感じました。
 予防接種実施状況は、予防接種者数をワクチン別、ロット別に迅速に把握するシステムの
構築が必要と感じます。また、予防接種後副反応発生状況を今回のように迅速に把握して情
報提供していくというシステムの構築は非常に重要と考え、そして、それらを関連してモニ
タリングし解析していく必要があると考えます。
 そこで、課題と方向性について述べるように言われまして準備してまいりました。
 リスクの考え方について、予防接種後の副反応にはワクチンによる真の反応と、偶然接種
した時期と副反応の時期が一致したためにワクチンが理由とされた紛れ込み事例がありま
す。予防接種の効果で予防接種で予防可能疾患が減少すればするほど、予防接種の安全性の
問題は相対的な確率で増加していきます。
 予防接種の勧奨を行う場合、個人や集団が自然感染をしたときに、どういった重症者が出
るのか、どういったリスクがあるのかということを予防接種後副反応のリスクと同時に比較
検討する必要があるといつも思っています。そのためには、患者さんの発生状況、disease
burdenが適切にサーベイランスされる必要性、その重要性があると思っています
 日本の多くの方々は、予防接種後副反応情報に非常に過敏で、その情報は常に把握しよう
とお努めになられますし、質問も大変多い状況にあります。しかし、予防接種で予防可能疾
患の脅威が現在続いていること、免疫を持たない人に対しては多くの危険性があるというこ
とを、ほとんど知らないままに過ごしておられると感じています。
 そこで、平成20年度から新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業の中で「予防
接種後健康被害審査の効率化に関する研究」というテーマを与えられまして、今年3年目を
迎えております。
 研究班のメンバーは、スライドに示したとおりで、予防接種後副反応報告を何とか迅速に
報告していただいて把握するシステムをつくろうというのが大きな目標の1つであり、健康
被害救済を迅速に行っていきたいという2つの目的があります。
 予防接種後健康被害解析システムというものをつくることをまず初年度の目標といたし
ました。予防接種後副反応報告書と予防接種後健康被害救済認定は、別々のところで議論が
され、そして、それらが統合的に解析されているわけですけれども、これをもう少し網羅的
に解析しようというのが1つ目です。
 また、過去10年以上にわたって蓄積されている紙媒体の資料を電子化することで、いろ
いろな解析ができるのではないかと考え、その電子化を行っています。データが電子化され
れば、予防接種後副反応に関する集計や解析を、より迅速に行うことが可能になりますし、
また、迅速な情報提供も可能となると感じております。
 次に、もし迅速に把握することができれば、副反応が集積しているのではないかと疑いを
持つことも速くに察知できると感じます。その場合、その原因について、ワクチンの成分の
観点から検討することも重要と思います。
 この観点からワクチンの成分、あるいは国家検定などを行っている国立感染症研究所の中
の専門の先生方との連携を強化することも重要ではないかと感じています。また、今回、日
本版VAERSの仕組みをつくりたいというのが目標の1つにあったわけですけれども、そ
のために国内外の予防接種後副反応報告について情報収集し、それらを盛り込んでいくこと
も、我が国に適したよりよいシステムをつくることにつながるのではないかと感じました。
 現在、定期の予防接種については、左側にお示ししましたように、予防接種後副反応報告
書というのがあって、加藤先生が座長をされている委員会でこの内容が検討されて、報告書
として発表されています。現在、定期の予防接種はここに挙げられているワクチンの数です
けれども、今回の新型インフルエンザもそうだったと思うんですが、手書きの報告書で紙媒
体であるということから、なかなか迅速かつ効率的な集計が難しかったという経過もござい
ます。
 そこで、右側に挙げたような電子化した報告ファイルをつくることによって、ひな形がで
きることで、ある程度一定の表現で報告をいただくことができますので、集計などもより容
易になると考えて、このようなものをつくりました。このファイルには入力補助機能ですと
か、入力チェック機能、統合機能が搭載されておりまして、どうしても解析に必要だという
部分については、入力がされていないと赤い字で返すというようなチェック機能を搭載して
おります。
 次に、予防接種後健康被害救済制度につきましては、予防接種法に基づいて非常に手厚い
救済制度があって、今回の研究班で調べていく中で、日本は海外に比べても非常に手厚い救
済が行われているんだということがわかりました。
 しかし、多数の申請書類があるために、すべて手書きの書類ということから、まずは先ほ
どの副反応報告書が提出されることを見込んで、それが提出されていれば健康被害救済制度
を迅速に提出していただくためにも、同じ項目については自動入力できるような仕組みを盛
り込んでみました。
 そこで、次に実際にの話ですが、市区町村の方が実施主体で定期接種は行われているわけ
ですけれども、どのような流れで報告されているかを調べていただきました。その結果、接
種医あるいは本人から、市区町村、保健所、都道府県、厚生労働省といった形で情報が流れ
ていっていることがわかりました。しかし、1つの市区町村について言えば、1年間にこの
報告をしたのはゼロあるいは1、人口の多い市区町村であってもそんなに多い報告ではない
ということもわかってまいりました。
 そこで、現在の手書きを電子化していただくことについて、それほど大きな負担になるこ
とはないのではないかと感じました。
 この仕組みは、なるべく早く報告いただいた後に、早く解析するということに重点を置い
ていますけれども、紙媒体ではなく電子化することで、取り込めば自動的に表ができて、自
動的にグラフができて、自動で集計ができるというような仕組みを構築しております。
 そこに、例えば、海外でのよい方法を導入したり、いろいろな情報を蓄積することで、よ
りよい仕組みになれば、もう少し早くに定期予防接種後の副反応も報告できるのではないか
と考えています。
 また、先ほども申し上げましたように、ロット別の情報がわかって、ロット別の副反応が
わかってくると、ワクチン成分との関連も十分検討することが可能となります。
 実際に医学中央雑誌という日本の論文を集計するシステムがありますけれども、2006~
2009までにこれだけの件数の副反応が挙がっております。しかし、報告は余り早い報告の
ものではないことが多いです。
 そこで、迅速な予防接種後副反応解析システムの構築に関する検討として、電子化報告シ
ステムの導入、迅速な集計、解析、情報公開、予防接種後副反応報告システムと被害救済シ
ステムとを連携したシステムの構築、各自治体も負担が軽減されて、セキュリティが確保さ
れた情報を送付するシステムの構築が必要と思いました。
 まとめはスライド、お手元の資料に示すとおり、今申し上げたことなので省略いたします。
 そこで提案です。現在の紙媒体の報告ではなく、電子媒体での報告制度をつくることが必
要と感じます。また、電子化が困難な場合は代行入力のシステムなども使うことができるの
ではないかと思います。
 電子化されることで集計や解析が今よりは容易になります。医療機関、厚生労働省、今回
の医薬品医療機器総合機構、そして感染研の役割もあると思うんですけれども、今回の新型
インフルエンザワクチンの副反応報告収集システムと情報公開は、非常に迅速であったと思
います。今後、ほかのすべてのワクチンに導入するには、やはりこれらの連携と人員や予算
も必要と思います。
 次に、医師から迅速に報告してもらえる仕組みも重要と思います。新型インフルエンザワ
クチンが2,400を超えるという報告で、非常に多かったと思います。それと比較すると、ほ
かのワクチンの報告数が少ない印象を持ちます。報告基準を明確化して、報告者に動機付け
することで情報も多く集まると感じます。
 迅速に情報が公開されれば、報告する動機付けにもつながるという意見が、自治体の担当
者の方から届けられました。医師あるいは医療機関、そして、非常にまれですけれども、接
種を受けた方もいらっしゃるんですが、報告制度の徹底なども必要ではないかと思います。
 次に、その報告をセキュリティを重視した迅速な情報送付システムがどうしても必要だと
感じます。郵送やFAXから変更して、セキュリティが確保されたシステムが構築されれば
と感じます。
 提案その3ですが、迅速な集計・解析システムの構築、定期の予防接種のワクチンについ
ては既に平成20年度に構築しているんですが、まず使っていただくこと、そして、その後
よりよいシステムに変えていく必要があります。
 もう一つ大切なこととして、接種者数が迅速に把握できるシステムの構築が必要と感じま
す。自治体別にワクチンごとに接種者数が迅速に把握できれば、接種率も迅速に把握できる
ということにもつながりますし、予防接種で予防可能な疾患の対策も迅速に可能になるので
はないかと感じます。今回は推定接種者数からの頻度が先に出て、その後、実際の接種者数
別の副反応報告頻度が公開されました。先ほどの報告では、ほとんどその頻度に変わりなか
ったという発表でしたが、今後どうするかについては検討が必要と思います。
 提案その4として、ロット別に接種者数が迅速に把握できるシステムが構築されれば、既
知のものも含めてロット分析など詳細な解析ができますし、また、異常な集積があればワク
チン成分との関連について検討することも可能となります。そのためには予防接種後副反応
情報を解析する部門と、ワクチン成分を検討している部門の連携の強化が必要と思います。
それはひいては、より安全なワクチンの提供・開発につながると思います。
 最後ですけれども、予防接種後副反応報告と被害救済制度が連携されることで、迅速に救
済され、また、情報の公開も早くなると感じます。海外にはお手元の参考資料として米国や
カナダ、韓国などの報告システムも持ってきておりますので、どうぞお時間のあるときにご
覧いただければと思います。
 ワクチンの安全性と有効性をセットでモニターするような必要性を感じます。
 以上です。ありがとうございました。
○加藤部会長 多屋先生、どうもありがとうございました。
 続きまして、長谷川参考人にプレゼンテーションをお願いしますが、これも極めて恐縮で
すけれども、約5分程度でよろしくお願いいたします。
○長谷川参考人 2~3分で終わると思います。御紹介いただきました細菌製剤協会の安全
管理委員会の長谷川でございます。よろしくお願いいたします。
 私の用意しました資料は3枚しかございません。その3枚の中の1枚目、2枚目につきま
しては、既に結核感染症課、安全対策課、また横におられる多屋先生の御説明がすべてを物
語っているのではないかと考えております。私がお話し申し上げるのは、もう消えてしまっ
たような感じでございます。
 それでは、最後のページの副作用報告制度・運用に関する要望をメーカー側としてお願い
申し上げたいと思います。この内容につきましても、すべて今までにプレゼンテーションさ
れていたと感じておりますが、一応メーカー側として書いてございますように、細菌製剤協
会の会員各社に対するアンケートの回答結果を集計したものでございますので、御報告申し
上げます。
 1番目、副反応用の集計結果の公表でございますけれども、副反応の集計につきましては、
ホームページや印刷物で既に公表されております。しかしながら、多屋先生がお話しされま
したように、メーカー側としては症例ごとに速やかに、タイムリーにその症例の内容・概要
を知ることによって、副作用に対する状況を把握しながら対応できるのではないかと考えて
おりますので、できるだけ早い構築をお願い申し上げたいと考えています。
 2番目でございますが、安全性の情報を取り扱う厚生労働省部門の連携強化でございます。
ここに書いてございます局・課は、ワクチン類の形からいきますと医薬食品局、健康局、そ
れから、機構がすべてつながっているわけでございますけれども、そのワクチン類の関連で
は横の連絡が少し足りないのではないかと、メーカー側としては考えているわけでございま
す。情報の共有化を図っていただいて、強い御指導をお願い申し上げたいと思います。
 3番目でございますが、医療機関の御理解と御協力でございます。実は、先生が御多忙な
こともあると思いますけれども、我々が副作用の調査に参りますと、「忙しい、何のことだ」
とおしかりを受けるということではなくて、容易に受け入れていただけないという関係がご
ざいます。しかし、今回、新型インフルエンザに対して、すべての医療機関から副作用を報
告するようにという国の通知もございましたように、その点がかなり改善されたのかなと考
えております。しかしながら、やはり先生方のところとに参りますと「国に報告したのに、
なぜメーカーに再度報告しなければいけないのか」「二重三重の手間は省きたいんだ」とい
うようなおしかりを受けたことも多々ございました。そういったことの改善を行うためにも、
国の今後の指導をお願い申し上げたいと考えております。
 4番目でございますけれども、国民への教育・啓発でございますが、これも先ほど多屋先
生のお話の中にございましたけれども、よりよい情報を国民に知らしめる必要性があると考
えております。ワクチンは医療用医薬品であるがために、広告宣伝を行うことができないと
我々は思っておりますが、そのような中で厚生労働省からホームページやポスター等々を御
提示いただきながら、宣伝ということではなくて、普及啓蒙を図っていただいているわけで
すけれども、それがもう少し大きく、また、国民に理解されるような内容の指導をできない
かなというお願いでございます。
 最後でございますが、新型インフルエンザ関連でまいりますと、今回の貴重な経験を今後
の安全性対策に結びつけていただきたいと書きましたが、今回は特別措置法という形で製造
方法につきましても、接種方法につきましても、いろいろな対策をとっていただいたわけで
ございますが、私どもの製造メーカーとしてやった中におきますと、なかなかそれが難しい
なと考えています。すべての登録医療機関からの副作用報告が国に集まってまいりましたけ
れども、その報告が例えば、先ほど安全対策課の報告がございましたが、その内容を見てお
りますと、最初には関連ありと関連なしというようなことが書かれておりますが、実際に
我々、製販業が詳細調査をした結果、関連なしと位置付けられた事例もたくさんございます。
そういったものも修正なくして、国民全体がホームページを見れば関係あり、関係なしの最
初からの報告で動いているというような感じがございますので、その辺のこともいろいろと
考えていただいて、今後、国の御指導をお願い申し上げたいと思います。
 簡単でございますが、メーカー側としては以上でございます。
○加藤部会長 どうもありがとうございました。ただいま両参考人からのプレゼンテーショ
ンをいただいたところでございます。
 それでは、ただいままでのところで一区切りつけまして、事務局側の説明、多屋参考人、
長谷川参考人のプレゼンテーションにつきまして、各委員の皆様から御意見・御質問がござ
いましたらちょうだいいたしたいと存じます。いかかでしょうか。御自由にお願いいたしま
す。
 宮崎委員どうぞ。
○宮崎委員 幾つかお聞きしたいんですけれども、副反応報告が上がってきたときに、最初
の報告では詳細はわかりませんから、もうちょっと詳しく聞きたいとなります。そこで、詳
細な調査を誰がされているか、個人情報の云々で難しいこともあると聞くことがあるんです
が、その辺の実情がどうかをお聞きしたいと思います。
○福島結核感染症課長 個人情報に関しましては、まだ御本人あるいは保護者の御了解をい
ただいた場合には氏名もわかりますが、そうでない場合は匿名になります。個人情報がわか
った場合、調べる場合には、県等を通じて市町村に照会をかけるということもございます。
○宮崎委員 それで詳細がつかめますか。
○福島結核感染症課長 一定の限界はございます。やはり直接的に医療機関に御照会をかけ
ないとわからないこともございます。必要に応じて御了解を得られた場合には、そのような
こともしておりますけれども、一定の限界があるということです。
○宮崎委員 市町村が調査に入るときに結構難しいという話を聞きますので、被害報告書が
上がるときはいいんですけれども、そうでないケース、むしろ紛れ込みのケースがそのまま
になってしまうことが多いんじゃないかと思います。
 それから、健康局に上がってくる情報、医薬食品局に上がってくる情報、どこで誰が集計
されているんですか。検討会のことは説明されましたが、実際はどこで集計されているんで
すか。
○加藤部会長 まず一番最初に、結核感染症課、続いて医薬食品局からお答え願います。
○福島結核感染症課長 まず、うちに上がってくるものは当課でやっております。
○宮崎委員 課内でやっておられるんですね。
 もう一つ、予防接種後健康状況調査もありますが、今日はまだ出ていませんけれども、そ
れはどこでやっておられるんですか。
○福島結核感染症課長 予防接種後健康状況調査は、医療機関の御協力を得て前向きに調査
するものですけれども、これについても基本的には課の方で。
○加藤部会長 健康調査は手挙げ方式です。医師会の先生の御協力をいただきます。
○宮崎委員 よく存じ上げているんですが、それがどこで遅れているのか聞きたいんです。
○福島結核感染症課長 これも課の中でやっています。
○宮崎委員 外注ですか。
○福島結核感染症課長 はい。
○森安全対策課長 安全対策課でございます。一般的なワクチンの薬事法に基づく副作用報
告は、PMDAに企業から寄せられるという格好で、PMDAで集計しているというのが通
常でございます。今回の新型インフルエンザワクチンは、健康局、医薬食品局が一体化して、
集計はPMDAでやるというやり方をとったところでございます。そういう形で整理してご
ざいます。
○宮崎委員 ありがとうございました。
 最後に1つだけ。新型インフルエンザのワクチンに関して、真のワクチンに関連した死亡
例は3例ぐらいかもしれないという話をされましたが、今日例えば、配られました資料には
どこにも書いていないですよね。これがこのままホームページに載っていけば、日本でのワ
クチン接種によって、これだけ死亡例が出たというのが独り歩きする可能性があるんですが、
そういうことについての情報管理はどのように行っていますか。
○森安全対策課長 今日お示ししましたのは、公表している資料の一部でございまして、合
同検討会で毎時毎時検討した資料、それから、それに対する評価は、すべて厚生労働省ホー
ムページに掲載してございます。したがいまして、全体像は量も多いので把握していただく
のはなかなか難しい部分もあろうかと思いますが、要するに、因果関係のありなしについて、
報告者が関連ありとしたものがどれとどれであった、それから、それに対する評価はどうで
あったかということもすべて公表してございます。ということなので、よく見ていただけれ
ばちゃんと御理解いただけるかなと考えております。
○宮崎委員 よく見ないとなかなか難しいんですよね。ですから、もうちょっとシンプルに
わかるようにしないと、いろいろな情報が独り歩きしているんじゃないかと思いますので、
よろしくお願いします。
○加藤部会長 ほかにございますか。途中で御退席の委員もおられると思いますが。
 岩本委員どうぞ。
○岩本委員 多分、事務局だと思うんですが、今回の新型インフルエンザのように一つのロ
ットが例えば1か月とか2か月の間に消費されて、副反応情報もかなり短期間に集まる感染
症や、ポリオのように生ワクチンで、有害事象が明確な場合は比較的わかりやすいんですけ
れども、いっぱい病気があって、ワクチンもたくさんある中で、全部一律に考えていいかど
うかには疑問があるように思いますが。
○加藤部会長 もう少し具体的に御質問いただけますか。
○岩本委員 恐らくワクチンが急に使われて、ロットが急に消費されれば副反応も一緒に出
てくるので、非常に因果関係がはっきりしやすいですけれども、例えば1年なり、2年なり、
ワクチンが同じロットが使われるようなものがもしあれば、まして症例が少なければ、その
副反応は非常に拾いにくい。その辺全部一括して議論するのは難しいと思います。
○加藤部会長 事務局、お答えになりますか。
○森安全対策課長 岩本先生がおっしゃられたとおりのことだと思います。今回、新型イン
フルエンザワクチンは短期に接種が進められて、短期に副反応報告が出てまいります。それ
でも実は100万単位の供給がされて、それが全部打ち終わるまでは、その間に出てきてい
る報告だけで見ると、要するに見積もりが狂うというか、実際の値から正しくない値になっ
てしまいますので、データがある程度マチュアしないと、本当のロット別の頻度にはなかな
かならないということは十分注意しなければいけないことで、やはり我々も評価する際には、
どれくらい実際に打たれているのか、報告も十分できているのか、そういうことを考えなが
らロット別のデータは比べてみる必要があるということで、それは実感してございます。
○加藤部会長 ほかにございますか。
○倉田委員 先ほど多屋さんのおっしゃったロットの話ですが、これは数年前にトライされ
たことがあるんですね。しかし、いろいろな事情でそのまま立ち消えになったことがありま
す。PMDAに集まる企業からの情報で、ある会社のあるロットで発熱が非常に多いとか頭
痛がするとか、いろいろなことが来たものを見るとあるんですね。それを整理していきます
と、そのロットになぜそういうことが起きたかを今度はナショナル・コントロール・ラボと
してチェックした、感染研にそういう検定データがあります。それとつきあわせて、比較し
てやりますと、品質管理の面からこういう問題があるのではないかと。そうすると、こうい
う点についてワクチンの成分を変えていかなければいけないんじゃないかとか、あるいはこ
ういうものがないようなワクチンにすれば効果があって、かつ安全性が高いものができると、
そういう推測がある程度つくわけですね。ですから、集まっているデータというのは非常に
貴重なデータで、それは検定したところと照合することによって、手段として世界でどこも
やっていない新しい品質管理ができるようになると思うんです。そういう意味で、これは非
常に重視して、品質管理についての手間はかかりますが、それは3か月、4か月やる必要は
全然なくて、1年ぐらいやったところでまとめてやると非常にいい技術的方策が出てくるこ
とがわかっていますので、是非それを推進する必要がある。
 もう一つ、多屋さんの言われた事務調査の電子化はいいですが、英国でやっているように
事前のところで被接種者に打ったものが自動的に登録されているシステムをそのまま使う
と。そうしますと、A、B、Cのいろいろな方々のものが全部副反応まで含めてデータがた
まってくるわけです。そうすると、いろいろな問題点をあちこち照合しなくてもできるとい
うことがありますから、是非そういうことも将来に向かって築かれたらどうかなと思います。
ワクチン禍の観点ではなく、これは品質管理の面から、技術的にきめ細かく対応する必要が
あります。
○加藤部会長 ただいまのは御質問ではなくて御意見と承ってよろしゅうございますね。
 岡部委員、どうぞ。
○岡部委員 多屋参考人はちょっと遠慮がちに提案をしていたんですけれども、実はあの提
案内容はほとんどでき上がっております。でき上がって提出しているんですが、まだ予算
等々の関係からなかなか実現しないと。研究の成果をもう少し利用するというストラテジー
が必要ではないかと思います。私も、その研究班の一員なので一言申し上げました。
○加藤部会長 了解しました。岡部委員は、どなたにお話しになったんですか。両局長さん
にお話しになっているんですか。
○岡部委員 そうですね。是非それを見ていただきたいと思います。
○加藤部会長 両局長さん、特に御意見ございますか。なしでよろしゅうございますか。
○岡部委員 ご意見なしということですが、これは厚労省の依頼でやった研究で、実現をめ
どとして我々としては一生懸命研究をやったので、その辺は是非、実現に向けて検討してい
ただきたいと思います。
○加藤部会長 事務局で十分御考慮のほどをお願いいたします。
 ほかにございませんか。北澤委員どうぞ。
○北澤委員 単純な質問で恐縮です。予防接種後副反応報告は定期接種だけで、今、任意の
ワクチンについては、この報告の対象外なのかというのが、まず1つです。
○福島結核感染症課長 御指摘のとおり、任意接種につきましては予防接種実施要領に基づ
きます報告の対象外でございますが、薬事法による報告の対象にはなっております。
○加藤部会長 よろしゅうございますか。それでは次の質問を。
○北澤委員 その薬事法による報告と予防接種後副反応報告というのは、それぞれ別々だと
いうことですね。
○福島結核感染症課長 現行制度上それぞれ独立した仕組みということでございます。
○北澤委員 それが合体されたデータというのは、今はないんですか。
○福島結核感染症課長 合体というのは、個別の情報を突合するということでございました
ら、独立した扱いをしております。
○加藤部会長 現状でございますから、それでよろしゅうございますか。
○北澤委員 はい。
○森安全対策課長 補足させていただきますが、現行での両局それぞれに来ている情報は共
有しておりますし、健康局に上がった報告を医薬局に提供いただいて、それをまた製造メー
カー、企業にも提供して把握に努めてもらっているという格好で運用している状況でござい
ますので、その点は御報告しておきたいと思います。今回の新型インフルエンザはそれを一
本化してやったということでございます。
○加藤部会長 よろしゅうございますか。
 ほかの委員の方で御意見ございますか。保坂参考人どうぞ。
○保坂参考人 今のお話だと、予防接種法に基づく副反応の報告と、薬事法に基づく副反応
の報告が同じワクチンについてもどちらに行くこともあるということ、それは結局、期間等
を定められたところと離れているものについては、定期接種のワクチンであっても定期接種
として扱われないので、薬事法で報告するという理解でよろしゅうございますか。
○加藤部会長 先ほどの宮崎委員の御質問に近いんですけれども、どちらかがお答えになり
ますか。
○福島結核感染症課長 今、御質問のとおりで、それぞれ別々のものでございますから、定
期接種のものであっても、定期接種の対象ワクチンで定期接種の期間外であっても、薬事法
の報告はされるということでございます。
○保坂参考人 ということは、それがいつもきちんとリンクされていないと余り意味がない
ような気がしますが、別の種類のワクチンであれば、片一方は薬事法で、片一方は予防接種
法でもいいんですけれども、同じワクチンを使っているのに両方というのは是非やめていた
だきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
○加藤部会長 わかりました。時間ですので、次に進みますが、そのようなことを今後この
部会で議論していこうということだと部会長として理解しております。
 次のテーマに移ります。予防接種の医療経済性の評価と感染症の発声動向調査、すなわち
サーベイランスにつきましてのヒアリングです。参考人の3人目といたしまして、池田俊也
氏。国際医療福祉大学薬学部薬学科教授。そして、参考人の4人目、佐藤敏彦氏。北里大学
医学部附属臨床研究センター教授の御両名でございます。池田参考人、佐藤参考人の御両名
から予防接種の医療経済性の評価につきまして御説明をお伺いいたしまして、その後に質疑
応答に移りたいと存じます。
 それでは、まず、池田参考人からプレゼンテーションをお願いいたします。お時間は約
15分程度でお願いいたしたいと存じます。よろしくお願いいたします。
○池田参考人 ただいま御紹介いただきました、国際医療福祉大学の池田でございます。ど
うぞよろしくお願いいたします。
 それでは、私からは予防接種を中心とした、いわゆる医療技術の経済評価の考え方につい
て説明をさせていただきたいと思います。私は今、薬学部に所属しておりまして、公衆衛生
学、医薬経済学等を担当しておりますが、医薬経済学に関する全般的な話を致しますと90
分の授業を15回やる位の時間がかかりますので、今日はごくごく触りのところをお話しさ
せていただくということで御了承いただきたいと思います。
 さて、医療経済評価という言葉ですけれども、これは英語でEconomic Evaluationとい
うものでございます。例えば、医療経済学といいますと、医療とお金がかかわるものがすべ
て含まれる、あるいは医療の制度とか医療の提供体制といったところまで含む幅広い言葉で
すが、今日お話しする医療経済評価といいますのは、個別の医療技術の費用、つまりこのワ
クチンに幾らお金がかかるとか、この手術に幾らお金がかかるといった個別の医療技術の費
用と、それがもたらす健康改善といった効果を算出すると。費用と効果の両方を見るという
考え方です。これを行うことによりまして、複数の医療技術について、どちらの方がお金が
かかるのか、かからないかというお金の比較だけではなく、それがもたらす健康改善等の効
果も比較することによりまして、いわゆる費用対効果の比較を行うということができるよう
な考え方です。
 例えば、これまでほかの医療の領域ですけれども、国内外でよく行われた研究の一つにピ
ロリ菌の除菌という問題があります。ピロリ菌は胃の感染症ですが、これを除菌するために
は当然それなりのお金がかかるわけです。しかしながら、消化性胃潰瘍の患者さんに除菌を
行うことによって、胃潰瘍の再発が大きく減るということが知られています。
 それでは、このピロリ菌の除菌を症状のある患者さんに行った場合の健康結果と、それが
もたらす医療費への影響に関する研究が、国内外で相当数行われてきております。
 例えば、私どもが行った研究ですと、ピロリ菌の除菌にはお金がかかるけれども、その先
に起きてくる胃潰瘍の再発の予防につながりますので、そうした治療費をすべて含めますと、
例えば、5年間でピロリ菌を除菌しない場合には一人当たり40万円ほどお金がかかるとこ
ろが、ピロリ菌を除菌しますと、除菌の費用も含めて大体17万円で済むと。医療費が長期
的に見ますと半分以下になるというような結果も算出できております。
 こうした形で患者さんの健康改善につながるのみならず、医療費への削減効果があるとい
うことですので、こうした新しい医療技術を積極的に導入することが臨床的にも、経済的に
も非常に進められるという結果になる。そういった裏付けのデータになるということです。
 もう一つの例を御紹介したいと思います。例えば、進行がんに対する化学療法ですけれど
も、最近は分子標的薬等、高額の薬剤が開発されております。こうした抗がん剤を使うこと
によりまして、いわゆる進行再発のがん患者さんも数週間の延命を図るという臨床試験の結
果が報告されております。通常の場合、それによって延命を図ることができる、あるいは患
者さんのQOLを高めることができるということで、臨床的な健康結果の改善といったエビ
デンスは確立しているわけですが、一方、医療費の算出をしてみますと、多くの場合増加と
いうような結果になります。
 例えば、肺がんの非小細胞肺がんに対する最近の化学療法ですと延命効果が10か月、そ
れに対する薬剤費を含む医療費が百数十万円というような額でして、こうしたものをどこま
で患者さんに保険診療の中で適用できるかというようなことが、実は医療費の高騰が社会問
題となっている昨今では非常に問題になってきているということです。そうした中で、こう
した高額薬剤に対する医療経済評価というものが国内外で非常によく行われるようになっ
てまいりました。
 こうした医療経済評価の分析結果は、さまざまな国における政策決定にも活用されており
ます。例えば古い例を申し上げますと、米国の技術評価局(OTA)という機関が、1970
年代からこうした研究を推進しております。これは1995年まで行われたんですが、750件
の研究を実施して議会に提言を行っています。これは、健康問題、医療分野の研究もこの中
に含まれております。例えば、インフルエンザのワクチンの費用対効果の分析ですが、こち
らに示しているのは報告書の表紙です。あるいは、大腸がんの検診といったものの費用対効
果を分析し、こうしたものをアメリカの高齢者対象の公的医療保険に導入した場合に、財政
的な影響はどうであるのか、あるいは患者、住民にとっての健康改善はどの程度であるのか。
また、費用対効果を検討し、ほかにもっといい財源の使い方があるのか、あるいはここに投
資することが、有効性あるいは効率性の点で適切なものであるという評価に活用されており
ます。
 その後、他国でもこうした機関が設立されまして、技術評価というのは先進諸国で非常に
広がってきております。ワクチンに関しましても、さまざまな研究が実施されてきておりま
す。
 さて、ワクチンあるいは予防接種の医療経済評価の考え方ですが、これは個別のワクチン
によって額は違ってまいりますけれども、非常に大ざっぱに一くくりに申し上げますと、ワ
クチンを接種しない場合に比べてワクチンを接種した場合に、目的とする疾病がどのくらい
減るのか。罹患あるいは有病率といったものがどのくらい減るのかといった算出をいたしま
す。それに伴って、どれだけ疾病による死亡が減るのか、あるいは障害が減るのかといった
ワクチンの有効性のデータに基づいた長期的な予後の予測を行っていきます。これによって
患者の健康状態の改善の程度が図れるわけです。更には、その疾病の発生によって生じる医
療費等のコストがどのくらい減らせるかということについての算出を行うわけです。
 一方、ワクチンには副反応等の有害な事象も起きるわけでして、これがどの程度起きるも
のなのか、それによって患者さんにどの程度の被害が生じるものなのか、それによる治療コ
ストはどの程度になるのか、こうした有効性及び安全性の両面に関しての長期的な推計予後
予測を行うことによって、ワクチンを接種しない場合、あるいは国として導入しない場合に
比べて導入した場合には、長期的に見た費用は増えるのか、減るのか。そして、健康結果は
どの程度よくなるのかという推計を行っていくというのが基本的な考え方になります。
 例えば、近年先進国で承認されておりますヒトパピローマウイルス、子宮頸がんのワクチ
ンに関しましては、最近の文献を集めて見ましたが、手元にあるだけでも大体60件ぐらい
の論文が出ているということで、こうした課題も先進諸国では熱心に取り組まれているとい
うことです。
 ただ、この計算をするときにはいろいろ難しい要素がございます。例えば、費用、コスト
を推計するといいましても、誰にとってのコストを推計するのか、それをどの範囲で、そし
て、どのくらいの精度でそういったものを収集するのかということも問題になってまいりま
す。原則含めるのは医療費、特に日本で言えば、保険診療の範囲内の医療費、いわゆる国民
医療費の項目については通常集計するわけですけれども、医療費と言いましても例えば、保
険診療以外の医療費、たとえば市販薬を患者さんが購入したといったものも本来は医療費で
すので、そういったものも入れるか入れないか。
 また、医療費以外の支出として、例えば、副反応が起きた、あるいは感染症に罹患したと
いう場合には、治療を受けるために病院に出向くための交通費もかかってくる、こういった
ものは入れるのかどうか。あるいは、長期的な障害が生じて、例えば、介護保険などを利用
するという場合は、国や自治体等が負担する費用が出てくるわけで、これを入れるのかどう
かといった問題がございます。
 更には、特にワクチンで長期的な障害が生じた、あるいは子どもに何らかの病気が生じた
というようなことなどが考えられますので、そうした場合、例えば、患者さん本人が障害に
よって仕事を休んだ、あるいは早期退職を余儀なくされたというような場合の社会にとって
の生産性の損失も一つのコストになりますので、こういったものをどう考えるか。あるいは、
子どもが病気になった場合に、家族が仕事を休んで看病・介護をした場合の生産性の損失を
どう考えるか。ここをどのように見積もるかによりましても分析の結果が大きく変わってく
ることがありますので、その辺りについての標準的な算出ルールを構築することも重要な課
題だと考えられます。
 一方、費用対効果の効果指標ですけれども、健康結果を何ではかるか。特定の疾患・感染
症の予防のために使われるワクチンであれば、その疾患にどれだけかからなくなったかとい
う罹患の減少を見ることもできますし、長期的な予後、あるいは5年生存率といったものの
指標も使える可能性があります。あるいは、例えば、障害を持った形で生存されるというよ
うな場合には、そこを加味したいわゆるQOL(生活の質)に関する何らかの評価を加える
ということも疾患によっては重要になってくる可能性があります。
 そこで、こうしたさまざまな健康の被害・障害といったものを統合的にとらえるという新
しい指標が今、注目されております。仮にこれを健康統合指標と呼びたいと思いますが、こ
れから佐藤教授から説明があります質調整生存年あるいは障害調整生存年といった単位が、
特にこうしたワクチンのように、死亡あるいは障害といった健康結果を評価するための分析
ではよく使われるようになってまいりました。
 なお、こうしたすべての健康の障害をお金に換算して評価するという考え方もございます。
これを費用対便益分析と呼ぶことがありますので、それも申し上げておきたいと思います。
 さて、質調整生存年(QALYs=Quality-adjusted Life Years)の考え方でござい
ますけれども、例えば、完全な健康を1、非常に状態の悪い、例えば死亡を0という目盛り
をつくって、今どのような健康状態で生存しているかということを数値化いたします。この
ワクチンを接種しない場合は、非常に健康状態のいい状態で過ごしていたけれども、ここで
ある感染症にかかりましてQOLが低下していったということになりますと、生まれてから
生存期間の長さだけではなく、QOLが大きく低下したという部分を見積もった健康の価値
を考える必要があると。これが質調整生存年という考え方です。
 仮に、ワクチンを打っていたとして、病気が軽症で済みましたという場合に、QOLがい
い状態で少し長生きをしたということになりますと、増えた分の面積が実はここで費やした
ワクチンのコストに見合ったものであるかといった評価を行っていくということになりま
す。
 こうした医療経済評価を行っていく上で、健康改善がもたらせる。お金も節約になるとい
う結果が出れば非常に解釈は簡単なんですが、健康改善は達成された、しかし、お金が余分
にかかりますという場合に、こうした健康の価値をどのようにはかっていくかということに
ついて、医療経済評価の最近の主流というのはこうした質調整生存年ないしはこれから佐藤
教授から説明のあります障害調整生存年、患者さんの障害の程度あるいはQOLというとこ
ろを加味した指標というものが今注目されているということでございます。
 以上でございます。
○加藤部会長 池田教授、どうもありがとうございました。極めて短い時間にわかりやすく
まとめていただきまして、ありがとうございました。
 続きまして、佐藤参考人にお願いいたします。同じく恐縮ですが15分程度でよろしくお
願いいたします。
○佐藤参考人 池田教授から大分詳細な御説明がありましたので、補足の部分を御説明させ
ていただきます。
 今、池田教授から医療経済評価には、その医療技術にかかる費用と健康結果を算出して評
価するということでございました。費用の方は池田教授より詳細な御説明がございましたの
で、私はまず、健康結果の方を、健康統合指標というものを使うのが昨今の主流でございま
すが、それについて少し御説明させていただきます。
 先ほどの池田教授のスライドの中には健康統合指標以外にも死亡率、罹患率という言葉が
ございましたけれども、こういったものをすべてデータとして出して、それを複数の評価項
目で評価・比較することは非常に難しいと思います。つまり、死亡を重視するか、あるいは
病気の状態を重視するかといった点が問題になりますので、これを一つの数値にまとめる必
要があろうということで出てきたのが健康統合指標という考え方です。
 ここにあるように、評価の指標というのは救命できる人数とか、発病を予防する、つまり
罹患数の軽減あるいは痛みというような、これもまた、なかなか数量化するのが難しいよう
な項目があるわけです。
 健康統合指標の、これはワクチンということではなくて、一般的な考え方ということで御
説明させていただきます。図をごらんなるとおわかりのように、縦軸に生存率、横軸に年齢、
これは0~100歳といったものでよろしいかと思います。ここで曲線が2本引いてあります。
実線の部分と波線の部分がございますが、0歳のところで100%、これは生まれたばかりで
生存している割合を100%、生まれた直後にお亡くなりになる方もございますので、若干0
歳のところで下に落ちております。そこから年齢を経るにしたがいまして、若干死亡する人
数が出てきて、当然若年の間は死亡数は少ないのですが、中年以降に死亡する人数が多くな
ってまいりまして、最終的には全員の方がお亡くなりになる、生存率0%というのが実線で
ございます。
 一方、波線部分は何かと申しますと、完全な健康でいられる方のパーセンテージというこ
とです。当然、何らかの障害を持ちながら生きている人数の割合よりは常に下にございます
ので、このような図になっております。
 この2本の線で囲まれた面積、A、B、Cと振ってありますが、Cの部分がお亡くなりに
なった方の部分です。Aは、完全な健康でいる方、では、真ん中のBは何かというと、何ら
かの障害を持って生きている方ということになります。
 つまり、生死だけの0、1の考え方で言いますと、AとBの部分が全く等価ということに
なるわけでございますが、全く寝たきりで生きている方と、完全な健康で生きている方を同
じような健康結果と考えるのは、やはり誤った評価なのではないかということで、この統合
指標の考え方がでてきたということになります。「健康寿命」という言葉が昨今一般になり
ましたけれども、健康寿命はAの部分とBの部分、障害を持っている方の部分を何らかの重
み付けをして足し合わせたものが健康寿命。一方で、逆のミラーイメージというか、鏡像と
いう考え方で言いますと、全く完全な健康で100%の方が100歳まで生きて、ある時点で
お亡くなりになるという四角い面積のところが集団にとって完全な健康になるわけでござ
いますけれども、Cの部分、早期にお亡くなりになってしまう部分、あるいはBの部分、障
害を持って生きていく部分、これが「健康損失」という考え方になります。つまり、これは
ミラーイメージでCの部分プラスBの重み付けをした面積、これが健康損失。これらが健康
統合指標の考え方でございます。
 健康統合指標でQALYとDALYというものがあります。これは英語では「s」をつけ
ますが、ここではつけておりません。QALYは質調整生存年と申します。Quality-
adjusted Life Yearでございます。これは、実はDALYより早い概念でございまして、
1960年代ごろから、当初から費用効果分析のために開発されたものです。経済学者や心理
学者により開発されました。新しい医療技術を導入することによって、QALYという一単
位の改善にどれだけの費用がかかるか。先ほど池田教授より御説明がありましたが、こうい
ったものをはかることを目的にしてつくられたものです。
 0から1の重み付けとさっき申し上げましたけれども、死亡の状態を0、完全な健康を1
にして、さまざまな健康状態、これは自分で評価するわけですが、今の状態がどのくらいに
当たるのかを決めるということでございます。これを効用値(utility)という言葉を使いま
す。これは疾患との対応はないと書きましたけれども、こういう状態だと0.5とか、こうい
う状態だと0.7というものではございません。あくまでも自分が0.5~0.7になったとか、
そういった形の使い方をするのが主かと思います。
 一方で、DALYは障害調整生存年。これは1993年に世界銀行、WHO、ハーバード大
学が共同で開発したものです。この初期の目的は、国際保健施策の優先順位付けに利用する
ことを目的にしております。QALYが先ほど申し上げましたように、医療技術を受けた人
が主観的というか自分で数値を決定します。そうしますと、途上国の人と先進国の人が同じ
健康状態で評価したときに、その数値に大きなずれが出てしまうことをまず懸念しまして、
これは他者が客観的に健康状態について、それぞれ障害係数という形で重み付けしよう、数
値化しようということでした。
 これは0と1が逆になっております。障害でございますので、完全な健康の場合が障害0
で、死亡の障害が一番大きいということで1となります。今申し上げましたように、障害係
数は専門家や施策者により決定されます。疾患あるいは健康状態との対応で数値が決まると
いうことになります。
 もう一つDALYの概念で重要なのは、年齢の重み付けをしているということです。0歳
あるいは高齢者の場合には、障害が小さく、数値が割り引かれる。また、今の救われる障害
と後で救われる障害では、後の部分は割り引かれるというような概念があります。これは経
済学的な概念を導入したということです。
 次は、費用対効果分析の概念図ということで出させていただきました。ワクチンと書いて
ありますけれども、別にワクチンでなくても全く構いません。つまり、ある疾病Xの現在の
健康負担、何も医療技術を導入しない場合の健康負担が縦線と考えていただきたいと思いま
す。CostAという部分を掛けて医療技術を導入することによって、疾病Xの健康負担が健
康負担減少分Aというところで減少できるということでございます。
 斜めの線、この傾きが大きければ大きいほど少ないコストで健康負担が大きく減少すると
いうことで、一般的にはこの傾きが大きい方が効率が良いということになります。
 それでは、健康統合指標をどうやって算出するのかを説明させていただきます。
 まずは、健康状態の記述、つまり、その医療技術を導入するあるいは導入しないことによ
って、どういった健康状態が時間とともに発生するのかを想定しなければいけません。これ
を疫学モデルと申します。更に、こういった健康状態がどういった確率で移っていくのか、
その辺も併せてさまざまな過去のデータから決定しなければいけません。
 そして、各状態それぞれに対してQALYの場合は効用値、DALYの場合は障害係数を
決定あるいは当てはめるということがございます。
 そして、上記の値と期間、人数を掛け合わせて合計したものがQALYあるいはDALY
ということになるわけです。人数を掛け合わせて合計というのは、先ほどの池田教授の図で
言うと、曲線の下の部分の面積部分、つまり積分値ということになろうかと思います。
 これが疫学モデルの決定樹を使ったモデルの例です。ワクチンの場合は簡略化しておりま
すので、それを御了承の上で見ていただきたいと思います。対象集団、ワクチン接種をした
場合としない場合で分けられます。するかしないかは、やる側によって決められるわけでご
ざいますけれども、では、接種した方に副反応がどのくらい出るのか、副反応が出た場合に
は、どのような障害が出るのか、あるいは効用値なのか。副反応が出ない場合には、どうい
った状態なのか。そして、副反応が出た後に免疫が獲得されて、その病気には罹患しない、
あるいは免疫が獲得できない、つまり感受性がある場合に感染する確率はどのくらいなのか。
そして、感染した場合に後遺障害がどのくらいの確率で残り、その後遺障害の大きさあるい
は効用値はどのくらいなのかといったところの必要な数値をすべて求めるということにな
ります。これがわかりますと、統合値として算出が理論上できるということになります。
 もう一度データとして確認させていただきますと、まず、疫学モデルを作成する。ここで
今申し上げましたけれども、被接種者の疾患罹患率あるいは疾患罹患の後遺症の種類とその
発生率及びその生命予後。ワクチンの有効性とその効果持続時間。副反応の種類と発生率及
びその生命予後といったものが必要になってきます。
 更に、それぞれの病態、健康状態における効用値あるいは障害、係数が必要になってまい
ります。
 そして、コストは先ほど池田教授からお話がありましたとおりです。こういったデータす
べてをそろえるのはなかなか難しいことでございますので、多くの場合はない部分について
は、何らかの形で推定をする、仮定するという作業が発生いたします。
 最後に、今課題を一部申し上げてしまいましたけれども、こういったデータがどういう形
で存在するのか、どうやって拾い上げるのか、あるいはない部分はどうやってコンセンサス
を得て仮定するのかというところがございます。
 そして、ワクチンの場合には急性期のものに効果を持つのも以外に、肝がん、あるいは子
宮頸がんという非常に長期の経過をたどるものについては、データを集めるのが更に困難と
いうことがございます。
 費用算出は池田教授からありました、費用算出の範囲と把握方法、こういったものがござ
います。
 そして、QALYとDALY、2つの統合指標、これが昨今では各国で使われることが一
般的でございますけれども、1つの疾患あるいは1つの医療技術の評価という意味ではQA
LYが今までたくさんやられていたという経緯がございます。ただ、DALYは疾患をまた
がってやるような評価の場合あるいは国をまたがって評価する場合、すなわち非常にヘテロ
ジーナスな対象を使った評価をする場合にはDALYが使われてきたということがござい
ますので、今回の場合QALYを使うのか、DALYを使うのかといったところも議論をす
る必要があろうかと思います。
 効用値、障害係数は日本の場合、まだこういったものを使う例が少ないですので、他国の
数値をそのまま使っていいのかどうかといった点がございます。
 駆け足になりましたが、以上でございます。
○加藤部会長 どうもありがとうございました。佐藤教授におかれましても、非常に短時間
に少し難しいような気がしましたが、御解説をいただきまして、ありがとうございました。
 この際、池田、佐藤両教授に御説明いただきました医療経済評価、特にワクチンに関して
でございますが、どなたか御質問等ございましたらどうぞ。岩本委員どうぞ。
○岩本委員 佐藤先生への質問だと思いますけれども、例えば、同じ疾患に対してワクチン
が生ワクと不活化ワクチンがあるとか、あるいは培養型のワクチンと鶏卵でとるワクチンが
ある場合、1つのワクチンから次のワクチンに切り替えていくときの指標として、ご説明頂
いた技術によって疫学的にそういう指標になる可能性を示せるような方法かという質問で
す。
○佐藤参考人 当然、生ワクチンあるいは新しいワクチンといったものを比較する際に、そ
れぞれに対して必要なデータが存在すれば当然比較は可能でございます。
 池田先生からもちょっと。
○池田参考人 まさに先生御指摘のような場面で一番活用できるところだと思います。例え
ば、複数のワクチンを比べて、この病気は費用対効果がいいけれども、この病気の費用対効
果はいいのか悪いのかという優先順位をつけるよりも、1つの病気に対して複数の選択肢が
あったときに、費用と効果を並べてみてどちらを選ぶかという判断のときに、これは最も利
用できると思います。
○岩本委員 例えば、ポリオなどだと基本的には地域的に疾患がなくなってきているけれど
も、何らかのワクチンが要るだろうという蓋然性があるときに、どうするんだというときの
参考にもなる可能性はあるんですか。
○池田参考人 現状の治療戦略あるいは施策に対する投資が意味あるものであるかを評価
する場合に、経済的なエビデンスというのは大変有用になると思います。
○加藤部会長 岩本委員、よろしゅうございますか。
 では、廣田委員。
○廣田委員 佐藤先生に質問させていただきます。必要なデータのところで「推定」という
言葉と「仮定」という言葉をお使いになりました。こういったモデルを組まれるときに恐ら
く確実なデータというのはほとんど得られないわけで、そのモデルに含めていろいろな推
定・仮定をして、その結果、感度分析等をして、これだけ極端になってもこれぐらいでとど
まるからいいんだといった論法をこの医療経済分野での御説明で聞くわけです。しかし、一
般的に我々がお伺いするときはその辺が全部ブラックボックスなんですね。いきなりこうす
るとこれだけ節約できるとか、よくよく聞くと接種した人と接種しなかった人の実際の医療
費を測定したわけではないというようなことが出てきます。実際にモデルをつくられるとき
に、モデル自体が有効なモデルか、あるいは余り精度が高くないモデルなのかといった評価
はされているんでしょうか。実際にそういった評価はあるんでしょうか。
○佐藤参考人 まず、推定・仮定をしなければいけない、それがどれくらいの非常に大胆な
推定・仮定なのかということにつきましては、かなり実際いろいろなデータを見てみますと、
WHOなどでやっているものについても、かなり大胆な推定をしておりますというか、私も
かかわっておりましたので。では、モデルについての評価という御質問だったと思いますが、
そのモデルがどの程度当てはまりがいいのかということにつきましては、事後評価を後でデ
ータが出てきた場合にする場合はございます。ただ、十分にやられていないのが現状だと思
います。
○加藤部会長 よろしゅうございますか。
 では、宮崎委員。
○宮崎委員 日本の健康保険制度の中で、今日お話しされたような評価は具体的な治療等に
ついて議論されているか、精度設計に生かされているかどうかはいかがでしょうか。健康保
険で認める、認めないということに関して議論する場合に考慮されているのでしょうか。
○池田参考人 これは事務局からお答えいただくのがいいかもしれませんが、私の知ってい
る範囲では、薬の値段、薬価を決めるときに、このような医療経済評価資料の提出が認めら
れていると聞いています。場合によっては薬価の加算をつけるような判断の際に、こういっ
たものが参考にされているのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○加藤部会長 要するに、両教授に対しまして今の御質問は、データを与えられればいつで
も答えられると私は判断いたしましたが。
 せっかくの機会ですから、事務局からも御質問をどうぞ。
○鈴木新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長 質問というわけではないですが、今の
宮崎先生の御質問は、多分今まで健康保険の給付を決める際に、こうした医療経済評価とい
うものを使ったことが、もしくは使っていることがあるのかという御質問だと思いますが、
まさに池田先生もおっしゃったように、具体的に適用した例というのは余り多くないと思い
ますけれども、確かに薬価を含め、特に加算を決めるときに提出してもいいということで、
一部使われている実例はあると思います。
 それから、ワクチンの場合は現在のところ保険適用ではないので、例えば、予防接種法に
基づく法定接種をする、これは一定程度公費を使うわけですから、その際に社会全体の費用
として医療経済評価はどう考えられるのかというのをこれから使うかどうかというのを、ま
さにこの場で御議論いただければと思います。
○宮崎委員 実は、本当に聞きたかったのは後段のところで、治療である程度議論がされて
いれば、予防によって非常に効果が出るのであれば、健康保険を認めてもいいのではないか
という議論が出てきて当たり前だと思うんですが、まだそこまでいっていないと理解した方
がいいですか。
○加藤部会長 この件に関しましては、今後の基礎的なお勉強会ととらえていただきまして、
岡部委員どうぞ。
○岡部委員 先ほど効果の話も出ましたが、ある病気が一定数あるときは費用対効果という
のは、かなりわかりやすい話であると思いますが、その病気が結果的にだんだん減少してい
く、あるいはポリオの根絶、はしかの排除というような状況になった場合には、あるところ
で費用対効果は逆転してくると思います。そこに何か指標というようなものはあるんでしょ
うか。また、その場合に余り費用対効果を前面に出して論じていくと、費用対効果はなくな
るのでこの辺でいいやということになって、目的が達成できなくなってしまうときがあるの
ではないかと思うんですけれども。
○池田参考人 日本ではそうした明確な基準、例えば、1年の命の価値が幾らとか、そうい
ったような基準はないと認識していますけれども、ただ、イギリスなどの場合には、医療は
税金でNHSという仕組みで運営されていますが、その中で例えば、高額な薬剤が出てきた
ときに、そこのかかるお金とそれによって得られる効果を比べてみて一定の基準を超えるよ
うな場合にはこれはNHSでは推奨しないといったガイドラインをつくっていることがご
ざいます。したがって、その費用対効果の閾値というのは、国によっては一定程度決めて判
断しているようですが、日本にはそういう基準はないと認識しています。
○加藤部会長 岡部委員、よろしゅうございますか。
 岩本委員どうぞ。
○岩本委員 さっき医療保険が出たので、部会長と事務局に質問なんですけれども、ここは
感染症分科会なので感染症のワクチンだけ議論するんですね。たまたま昨日のニュースで、
がんワクチンの保険適用の話を見ましたが、それはこの部会では議論しないんですね。
○加藤部会長 がんワクチンに関しては先進医療の方でございまして。
○岩本委員 要するに、ここは感染症だけだということですね。
○加藤部会長 極端に言えば。
 感染症課、答えてください。
○福島結核感染症課長 多分、前立腺がんのワクチンの話だと思いますけれども、少なくと
もこの予防接種部会での議論では、課題としてはB型肝炎ワクチンあるいはパピローマウイ
ルスのワクチンの議論をしておりますので、そういう面ではいわゆる狭義の感染症だけに限
定しているわけではないということで御理解いただければと思います。
○岩本委員 感染症以外のワクチンをやるわけではないんですね。
○加藤部会長 今の福島課長のお答えでは不満ですか。
○岩本委員 いえ。要するに、微生物に関係しないものがワクチンになる場合には、議論に
該当しないということですね。
○福島結核感染症課長 ワクチンですから、微生物に関係しないものはないと認識しており
ますが、いわゆる治療として行われるもの以外の疾病予防という観点で、ワクチンについて
の議論を中心にさせていただきたいと考えております。
○加藤部会長 ほかにございますか。北澤委員どうぞ。
○北澤委員 先ほど事務局から、なぜ今この医療経済評価について学習したかというと、結
局ワクチンを法定接種にする際に、こういった評価を使うかどうかを今後議論してほしいか
らだというお答えがありましたけれども、それを考えますと、今日の池田先生の発表の中で
は、問題となるのはむしろ分析例2の方ではないかと思います。健康結果が改善すればコス
トもかかると。そういったときに、結局のところは、先ほど池田先生から御説明のあったよ
うな、いわゆる閾値を決めない以上、価格決定あるいは法定接種にするかどうかの決定は難
しいのではないかと思ったんですけれども、その点はいかがでしょうか。
○加藤部会長 北澤委員は、どなたに御質問されたんですか。
○北澤委員 池田先生にお願いします。
○池田参考人 御指摘のとおりですけれども、実は医療経済評価を行うことによって、先生
もよく御存じだと思いますが、例えば、医療費以外の隠れたコストといいますか、普段認識
しないコストも洗い出すことになるので、ワクチンは思ったよりもさまざまな社会的なコス
トに対するいい効果があるんだというようなこと、そうした経済的な影響も網羅的に洗い出
すことができます。それだけでも個別のワクチンに関して法定接種の対象とすべきかどうか
という議論にかなり有効だと思います。具体的な定量的な数字でバサッと切るというだけで
なく、その前にどんな費用項目が上がってきて、誰にどれだけの負担がかかっているんだと
いう項目を洗い出すだけでも、議論のための重要な参考データになるのではないかと認識し
ております。
○加藤部会長 よろしゅうございますか。両教授どうもありがとうございました。
 続きまして、最後になりますが、感染症の発生動向調査(サーベイランス)をテーマとい
たしたいと存じます。まず、事務局より現行の感染症発生動向調査(サーベイランス)につ
きまして、結核感染症課長より御説明をお願いいたします。時間は恐縮ですが5分程度でよ
ろしくお願いいたします。
○福島結核感染症課長 お手元の資料5-1に従いまして御説明いたします。
 まず、感染症の発生動向調査につきましては、サーベイランスと流行予測調査事業と大き
く分けて2つございます。まず、サーベイランスにつきましては、患者発生サーベイランス、
病原体についてのサーベイランス、それから、公表について御説明したいと思います。
 2ページの上でございますが、感染症法に基づきまして、患者さんを診断した医療機関か
ら保健所に届出をすることになります。
 3ページの上の図をごらんいただきたいと思います。まず、第12条あるいは第14条に
基づきまして、全数あるいは指定届出機関からも届出がされるわけでございます。その情報
が県を通じて国に集められ、感染研の感染症情報センターで集計・分析され、それを還元し
ていくというものがサーベイランスシステムでございます。
 まず、第12条あるいは第14条でどういうものを届け出るかということで書いてござい
ますが、感染症法の類型に従って患者だけなのか、疑似症だけなのか、疑似症も含むのか、
あるいは無症状病原体保有者も含むのかということ、あるいは届出の時期については、基本
的には五類以外は直ちにということになっておりますし、届出先も保健所を経由して都道府
県、政令市、特別区ということになっております。
 更に、届出事項については、全数届け出るものについても個人を特定して報告するもの、
これは第12条でございますけれども、それから、第14条に基づくもの等につきましては、
個人は特定されない形で報告するということになっております。
 3ページですが、情報の流れは、まず保健所に医療機関から届出されるわけですが、保健
所を設置している自治体は都道府県または保健所設置特別区でございますから、保健所から
それぞれの自治体に県庁ないしは市役所、特別区の本庁に報告されるという流れになってお
ります。先ほど言いましたように、還元情報も流れていると。
 それから、3ページの参考1で若干訂正がございます。一番下に「三類」と書いてござい
ますが、申し訳ございません「四類・五類」の間違いでございまして、日本脳炎が四類、そ
れ以外の百日咳、麻しん、風しん、破傷風、インフルエンザは五類ということでございます。
 4ページでございますが、これも参考でWHOが推奨する対象疾患については、感染症法
上は届出についてこのような規定があるという御参考でございます。
 それから、サーベイランスのもう一つは、患者さんのデータではなくて病原体、患者さん
に由来する検体からの病原体の分離・同定したものについて、病原体の動向を監視する病原
体サーベイランスというものも実施しておりました。これについては予算事業で行っており
ます。
 全数把握の疾患については、必要に応じて保健所から地方衛生研究所に提供依頼を行うあ
るいはドクターから地衛研に検体が送付されるということです。
 それから、定点把握の疾患については、患者定点として選定されたどの医療機関に病原体
の報告をいただくかということを決めて、地衛研に送付していただく。必要に応じて国立感
染症研究所に地衛研から検体が送付されてくるということになっております。
 5ページでございます。この結果については、感染研の感染症情報センターでIDWR週
報または月報として公表しておりますし、ホームページでも一般に公表しております。
 下は、新型インフルエンザに係るサーベイランスは、実は法定のもの以外でも今回通知で
幾つものサーベイランスを新しく出しました。感染拡大の早期探知のためのクラスターサー
ベイランス、集団発生サーベイランスというものもございましたし、また、入院、重症、死
亡者サーベイランスというものも行いました。あるいは発生動向の把握ということでは、従
来から行っております患者発生サーベイランス等がございます。
 6ページに、インフルエンザのサーベイランスの実際に報告された数、一医療機関当たり
何人患者さんが1週間に来たのかという数でございますが、このような形のグラフが出ます。
これは、ほかの疾病についても同様の形での報告をしております。
 それから、感染症流行予測調査事業でございますが、一般の方の抗体保有率の状況につい
て把握し、感受性がどうかということを調査することと、もう一つは感染源の調査というこ
とで、定点の調査、患者調査をしております。定点観察については、ヒトだけではなくて、
インフルや日本脳炎については動物、例えばブタなども調べているということでございます。
 サーベイランスについては以上でございます。
○加藤部会長 福島課長、どうもありがとうございました。
 続きまして、当部会の委員でもございますが、国立感染研情報センター長の岡部委員より、
現行の感染症発生動向調査(サーベイランス)の課題等を中心といたしまして御解説をお願
いいたします。時間は大体10~15分程度でお願いいたします。
○岡部委員 岡部です。資料は5-2ですけれども、ざっと書いたのでミスプリがあったり、
あるいは読みにくいかと思いますけれども、課題についてお話をしたいと思います。
 1ページ目は課題を箇条書きに書いてあります。2ページ目は表1となって感染症法に基
づく届出疾患がすべて入っています。これは先ほどの事務局が説明されたのと同じように、
予防接種対象疾患がこの中にばらけて入っておりまして特定のカテゴリーに集まっている
わけではありません。それによって、いろいろな欠点も出ているということは後でお話しし
ます。
 それから、3ページ以降ですけれども、これも事務局から月報として報告があった『病原
微生物検出情報』をいくつかコピーしてあります。これは毎月1回発行していまして、毎号
何らかの日本における感染症のサーベイランス結果を特集記事として掲載しております。年
に12回だけですから全疾患をあまねくやっていくわけにはいかないんですが、ここにとじ
てきましたのは、ワクチンで予防できる疾患として挙げられる疾患、あるいは定期接種とし
ての対象疾患について、それぞれまとめたときのものを参考資料として掲げてあります。後
で時間があれば、一部について御紹介したいと思います。
 1ページに戻っていただきたいんですけれども、サーベイランスというのは感染症対策あ
るいは臨床の場においても基本的なデータになります。感染症の対策あるいは公衆衛生対策
あるいは施策をとるときに基本的なデータとして、一体その病気はどのくらい数があって、
どのくらいのインパクトがあるのかを示していくわけで、その基本的な方法として我が国で
は、先ほど事務局から御紹介がありましたように、患者の発生動向調査、それから、病原体
サーベイランス、血清の疫学調査という3つの柱があります。そして患者発生動向調査は感
染症法に基づいて行われております。しかし、病原体サーベイランス、血清疫学調査になる
と、必ずしも法律で規定されていないために、予算事業として行われる、あるいは研究とし
て、保健所あるいは臨床現場の協力をいただいてやるわけですけれども、法律に基づいてい
ないがために抜けてしまうことがあります。研究で行う場合には研究であるが故の制約もあ
ります。
 一方、地方衛生研究所そのものも法律的に位置付けられているものではなくて、地域保健
法の中で一部触れられているだけです。感染症法の中では地方衛生研究所の協力あるいはそ
こに設置された地域における感染症情報センターの位置付けが書いてありますが、地方衛生
研究所はそういう位置付けは法律上では決められていないので、非常に不安定なために予算
措置あるいは地方交付税に配付等々に問題があるということを聞いております。
 また病原体サーベイランスをやっていくときには、どうしても検体の搬送であるとか、あ
るいはいわゆる民間検査センターで検査を行ったときの病原体の収集整理とか、なかなかそ
こが結びつきにくいところもあります。もう一つは血清疫学調査、これは予防接種法の対象
疾患だけが調査対象ですので、先ほど副反応等でも御質問がありましたように、例えば、お
たふくかぜあるいは水ぼうそうのような任意接種ワクチンについてはどうですかというと
全くデータがない、といったような欠点があります。
 しかし、新型インフルエンザのときにいろいろなデータが出たのでおわかりのように、通
常からサーベイランスが行われていると、何か突発的な動きがあるときは通常のデーターと
の比較として非常に重要になります。しか今回はなかなか法律の枠組みではなかったサーベ
イランスも必要となり、事務局から御説明があったように、新型インフルエンザの動向把握
のために幾つかの臨時的なサーベイランスが行われました。例えば、それによって重症例が
ようやくわかるようになったり、あるいはクラスターの集積であったり、あるいは学校・幼
稚園の欠席状況というのがわかり消化しきれなかったりで、頓挫したサーベイランスシステ
ムもあります。
 今後、感染症対策、特に今回のテーマであればVaccine Preventable Diseaseんぽさ
ーベイランスということで常にこれをきちんとしたものとして整備していく必要があるだ
ろうと思います。
 それから海外でも感染症の把握というのは法律などに基づいていろいろな方法で行われ
ていますが、お隣の韓国などを見てみますと、例えば、予防接種で予防できる疾患としてカ
テゴリーを設けてサーベイランスを行っているという国もございます。
 各論的なところに入りますけれども、項目だけ申し上げます。今回議論になっている疾患、
つまりこれから議論しようとするムンプス、水痘、B型肝炎といったようなものについて、
例えばムンプス(おたふく)は小児科定点からの報告を中心にしている五類感染症ですから
成人の状況については全く不明です。それから、重症例・合併例については報告の対象では
ないので、こういうものが把握できない。先ほども申し上げましたように、血清疫学調査は
定期接種対象疾患ではないので調査の対象疾患ではないということがあります。
 右の方に「Vol.24(5)2003」と書いてあるのは、先ほどのIASR(病原微生物検出情報)
の引用部分です。
 水ぼうそうもムンプスと同様でして、小児科定点からの把握ですので、数は大まかに把握
できますけれども、その詳細になるとわからないというのがあります。
 B型肝炎は五類の全数把握ですので、患者さんの状況はすべて報告していただきたいとい
うことになりますが、これは急性疾患を中心にしてありますので、例えば、新生児B型肝炎
でお母さんから生まれた子どもがB型肝炎のキャリアになるということは把握がむつかし
い。それから、これも定期接種対象疾患ではないということなので、血清疫学調査はできな
いということになっております。
 Hib感染症は、近年ワクチンの導入が行われたわけですけれども、Hib感染症は感染
症法の対象疾患ではないので、日本の公式情報というのはありません。状況を得るためには
研究班で行うしか今は方法がなくて、ナショナルデータとしてはとれない状態にあります。
血清疫学もありません。肺炎球菌も導入されたワクチンですけれども、同様に感染症法の対
象疾患ではありません。ただし、Hibも肺炎球菌も細菌性髄膜炎として生じた場合には、
基幹病院定点というのが全国で500か所ありますが、そこから届けられることによって、
おおむねの状況が何となくぼやっとわかってくるということになります。
 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、先ほど岩本先生から今後がんのワクチンというよ
うな話が出ましたけれども、ヒトパピローマウイルス感染症であるというところで感染症で
はありますが、子宮頸がんはがんですので感染症法の中に規定されている疾患ではない、と
いうことから私たちはこのサーベイランスデータは全く持ち合わせませんし、ワクチンが導
入した後、その後どういう推移をとるかということのデーターもとることができないという
ことがございます。ただし、HPVは尖圭コンジローマという疾病の原因でもあり、この場
合は性感染症定点ということで、全国900か所のSTD定点から報告は得られておいます。
から把握できる大まかな数字になります。
 ポリオについてはすでに我が国は根絶状態が30年ぐらい続いており疾患はゼロであるわ
けですけれども、二類疾患として分類されています。これはむしろ根絶の監視が目的という
ことで、かなり厳密に行われております。
 百日咳は小児科の定点ですので、今問題になっている成人例の増加は、たまたま小児科を
訪れた内科領域の年齢の患者さんの把握しかできていない。ただし、それでも増えていると
いうことがぼんやりとわかるわけですけれども、実際の成人の中での状況はわからないとい
うような課題があります。
 これが今回論点になっている疾患での、私がちょっと思いついた主な課題になりますけれ
ども、幾つかのVaccine Preventable Disease、現行の定期接種として行われるものにも
幾つか問題はあります。
 例えば、はしかは五類の全数報告ですので、これを臨床診断した先生に1週間以内に届け
ていただくということになっております。国際的には麻しん排除という運動が活発に進めら
れており、わが国が属するWHO西太平洋地域では2012年まで排除を達成するという目標
があります。我が国も大臣告知として、はしかのエリミネーションは国の目標であるという
ことになっておりますが、五類全数であるということが逆に根拠になって正確な診断のため
の検査ができなくなって、しっかりした確定診断ができず、症例の確認ができない状態にな
ってきております。これはむしろ数が少なくなってきたがゆえの問題ではありますけれども、
今後、正確な把握を国際的に日本は、例えば124例であるとか、98例になったということ
が全くできなくて、我が国はエリミネーションになったということを、ここから先なかなか
宣言ができない状態が続いています。検査診断をやるというのは国際標準でして、これをき
ちんと導入していくということは一つの国際的な命題でもないかと思います。
 風しんについては、国際的にはこれからですけれども、先天性風しん症候群のエリミネー
ションということが課題になっておりますので、現在はしかと同様のサーベイランスに関す
る問題を考慮しておく必要があると思います。
 古典的なものについてはジフテリアは現在、日本ではほとんどゼロでして、二類感染症で
監視が行われているということで、一応フォローができています。
 破傷風は五類の全数把握疾患ですので、状況がわかります。
 日本脳炎もブタ調査を含めて、我が国独特の方法として行われております。
 結核については少し前までは結核予防法で行われていましたが、現在では感染症法二類全
数把握疾患としてサーベイランスが行われています。
定期接種の中で一部のものはかなり厳密な把握が行われていますが、ある目標を持って何か
をしようとした場合、たとえばこれからワクチンを導入する、あるいはしようとしているも
の、について基本的なデーターが現状のサーベイランスシステムでは把握できないものがあ
ります。ある疾患の状況を示すデータがきちんと押さえられないと、それについてどういう
推移をしていったか、本当に効果があったのか、なかったのかについても、把握することが
出来ず、課題は数多くあります。
 各論はそれぞれを見ていただければといいと思うんですけれども、ここ数年の間に問題点
として提起したものを、例えば、時間がないので1つだけ御紹介しますが、3ページ、流行
性耳下腺炎、これは2003年に特集をやったものですから既に7~8年前になりますが、M
MRワクチンを中止して以来だんだんその発生数が増えてくるというのが図1のグラフか
らわかります。最近のデータでは、この数はさらに増えていっております。
 4ページの下の方にまとめとして書いてあるんですが、現在のワクチン接種率はMMRワ
クチン導入前と同等であることが予想され、再びMMRワクチン導入前の流行状況に逆戻り
するということを書いてありますけれども、現在2010年になるわけですが、ワクチン接種
率は見事に下がっております。水痘もそうですけれども、例えば、水痘は我が国で報告され
るだけで20~30万人ですから、世界に出すと恥ずかしいぐらいたくさんの患者さんがいる
ということが把握できている。そういったことをこの病原微生物検出情報には伝えてありま
すので、お時間がありましたらごらんいただければと思います。
 以上です。
○加藤部会長 岡部委員、どうもありがとうございました。
 続きまして、実際の報告を行う医療機関の立場から見ました課題につきまして、宮崎委員
より御説明をお願いいたします。時間は約5分程度でお願いいたします。
○宮崎委員 システムと課題というのは岡部先生からありましたので、小児科で感染症を診
断する場合に、小児科は非常に多くの患者さんが感染症であるということが一つ、それから、
診断を我々がするときに、決して臨床症状、検査だけでなくて流行情報とか予防接種をして
いるかどうかというのが非常に大事な情報としてあります。小児では検査が容易ではないの
で、具体的な病原体の流行状況は非常に診断に有用であるということがあります。
 それから、全国的な情報も必要ですけれども、局所的に自分の周りでどのくらい何がはや
っているかが非常に大事であるということから、患者さんの発生だけでは全体がつかめませ
んので、病原体の情報、血清疫学もとても大事であるということです。
 スライド2枚を福岡県の医師会のホームページからとってきました。全国の発表以外に、
各県の医師会等が各疾患について増減や発生数を発表し、年次別のグラフではインフルエン
ザの2010年が山が出ています。福岡の場合、4地区に分けまして、地区ごとの増減も見ら
れるようになっています。大体2週間弱ぐらいのずれで報告が出てきます。こういうものも
参考にしながら、診断をしているというのが現状です。
 感染症をつかむためには、いろいろなサーベイランス情報が必要であるということです。
先ほども岡部先生が言われましたけれども、岡部先生が触れられなかった日本脳炎を例に取
りますと、1960年代からの発生動向が配られた資料の中にも述べられていますし、どうい
う地域で患者さんがたくさん出るかということも発表していただいております。それから、
ブタの血清情報は、先ほど地方衛生研究所はお金がなかなか難しくてということで、空白の
県も多いですが、長年こういう調査をしていただいています。
 ヒトの血清疫学調査も限られた疾患ですけれども、調査をしていただいていて、例えば、
日本脳炎ワクチンの積極的勧奨を差し控えたおかげで膨大な数の免疫を持っていない子ど
もたちが残っているということが明らかになってきております。
 今日の議論とは関係ありませんが、この子たちをどうするかということで、この部会の日
本脳炎小委員会を経て4月1日に日本脳炎ワクチンの接種勧奨の再開が行われたんですが、
2期の接種にはまだ新しいワクチンが使えないという状況が続いています。ただ、添付文書
も改訂されましたので、是非今年のシーズンに間に合うように、2期に新しいワクチンが接
種できるように、早急に健康課で対応していただきたいと要望しておきたいと思います。
 もう一つわかりやすい例で言いますと、破傷風の患者さんが中高年に多い。血清疫学を見
ますと、40歳以降で全く免疫がない。これはこの年齢層が昔、破傷風のワクチンを打って
いない世代だからこういうことになるわけですね。ですから、どういう年代でどういうリス
クがあるかということが、こういう基礎的なデータがあるとわかっていくということになり
ます。
 副反応の議論は前半で終わってしまいましたが、臨床サイドから言いますと、今日は全く
議論にならなかった予防接種後健康状況調査というのが行われておりまして、これは定期接
種だけですけれども、通常普通に起こり得る副反応を定点観測しているわけです。これは例
えば、臨床治験をやるほどでないような微妙な製造方法の一部改変を加えたときでも、シス
テムが流れておりますので、半年、1年例数がたまってくると、熱の出方がどう動いたとい
うことが一目瞭然になるんです。ただ、こういうことは報告書としては1?pぐらいのものが
毎年送られてくるんですが、なかなかこれを読み込める人がいないので、もっとわかりやす
く、早く出していただきたい。副反応報告もそうです。分厚い本をいただきますが、あれを
読み込める人が日本に何人いるでしょうかと思います。そして、医薬品報告、先ほどの議論
でいろいろ錯綜していますので、ここはもう少し整理をしていかなければいけないと思いま
す。
 何しろ報告が遅いんですね。今、副反応報告の最新版でアップされているのは平成19年
度ぐらいだと思いますが、健康状況調査も平成19年度。やはり遅いということは最初つく
った制度を生かし切れていないということだと思います。例えば、健康状況調査もMRワク
チンが平成18年度から出てきましたけれども、どれくらいの日数にどういう副反応が出て
くるかが自動的に計算できるわけですね。そして、はしかの単独ワクチンでやっている場合
と、MRワクチンとして風疹を混ぜた場合、全く副反応率が変わらない。かつて一部で言わ
れたようにMMRワクチンとして混ぜたからいけなかったんだという議論は間違いであっ
たということが完全に証明できていくわけですから、こういうせっかく集められたデータを
もっときちんと解析して、わかりやすく出していくということをお願いしたいと思います。
 予防接種率もそうです。今日は予防接種率に触れる時間がありませんが、これもいろいろ
課題が残っているということを一言だけ申し上げておきたいと思います。
 提言です。いろいろなサーベイランスがありますが、迅速な集計、分析、公表が可能にな
るシステムにしていただきたい。今のところ患者発生動向が一番早くとりやすいですけれど
も、他のものは遅い。それから、データを閲覧しやすくしていただきたいということと、分
析結果をわかりやすく示していただきたい。それから、ペーパーで膨大な資料をいただいて
も、それから分析するには、我々はもう一回打ち直さなければいけないので、もっと使いや
すいデータとして国は出していただきたい。
 それから、任意接種に関するワクチンもなかなか把握のシステムがありませんので、そう
いうものもあらかじめやっておかないと、本当は定期化の議論がしにくいということもある
と思います。
 予防接種は健康の基本ですので、来月からの議論になっていくと思いますけれども、経済
格差のないようにやっていただきたいし、いろいろな実施要領等について、最近の国の動き
を見ていましても、どう考えても国際常識に合わないような指示が出たりしますので、もう
ちょっときちんと医学的な妥当性を高めていただきたい。そういうことをお願いして終わり
たいと思います。
 以上です。
○加藤部会長 宮崎委員、どうもありがとうございました。
 続きまして、保健所の立場といたしまして、全国保健所長会会長の澁谷委員から御発表い
ただきます。議事進行がございますので、恐れ入りますが5分程度でお願いいたします。
○澁谷委員 私からは資料5-4をごらんください。ここに発言の主な要旨を書かせていた
だきました。先ほど来出ておりますけれども、岡部先生の資料の2ページ目に疾患の何類と
いうのが書いてございますので、それを御参考に見ていただきたいと思います。
 まず、1枚目ですが、一~四類まで、五類のうちの全数届出疾患ということで、これはど
この医療機関で診断をしても、すべて届けてくださいという疾患なわけですが、なかなかそ
れが御理解をいただけていない部分がまだあると思います。現場でサーベイランスを支える
根本ですので、このことは我々も、それから、医師会の先生方にも啓発をお願いしていると
ころです。全部届けるのは医療機関にとってはなかなか大変なことだと思いますが、サーベ
イランスの基礎ですのでお願いしています。
 特に、そこにお示ししてあるような予防接種に関連するもの以外でも非常に重要なものが
感染症としてございます。それから、麻しんというのは五類の疾患で、集団感染などを早く
見つけたいときには必要になりますし、それと、お風呂あるいは給湯装置などによるレジオ
ネラ症を見つけたとき、これも四類ですがやはりお届けいただかないと、次の感染症対策に
結びつきません。
 それから、特に食中毒と関係があるO157を初めとする三類の消化管に症状を来すよう
なもの、それとボツリヌスなどは四類になるわけですけれども、そのようなものも含めて、
保健所の感染症対策、食中毒対策として、やはりサーベイランスは非常に重要だと思います。
 2つ目の指定医療機関の届出疾患ということで、先ほど来出ておりますが、どうやってこ
れを現場で選んでいるかということですが、一応、無作為抽出しているんですけれども、医
療機関が協力していただけるかどうかとか、どの程度積極的に情報を出していただけるかと
いうのは、非常にバイアスがかかっているような印象を持っております。
 恐らくこれは、患者さんの報告をたくさんしていただける協力機関を定点にしているので
はないか、そういった傾向があるのではないかと考えられます。
 それから、地方感染症情報センターですが、国の情報だけではなく、先ほどの先生がおっ
しゃっていらっしゃいましたけれども、地域の情報が実は非常に大切で、これが絶対に必要
でございます。これをどこが出してくれているかというと、各都道府県に1か所あるセンタ
ーに出していただくということなんですが、それぞれの自治体の考え方によって人員の配置
や、あるいはそこでできる仕事の内容が制限されているような印象を持っています。地域が
どんな情報を欲しがっているかや、医療機関がどんな情報を欲しがっているか、あるいは実
際にどのように活用されているかということを、それぞれのセンターがよく把握して情報を
出していただいていればいいわけですが、そうでない場合は、センターとしての機能を果た
すことが難しいという気がしております。
 次の基幹定点というのは、先ほど500ぐらいあるということですが、ここでは決められ
た髄膜炎とか肺炎といったものが報告されています。それから、耐性菌の情報、例えば、ペ
ニシリン耐性だとか、耐性緑膿菌の感染症、あるいはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の情報、
そういうものが報告されてくるわけですが、これは場合によっては早く欲しいこともある情
報なので、月報でいただいているシステムにはなっていますけれども、必要なときには病院
にすぐ問い合わせをして医療機関の立入りをし、そういうことも考えないといけないので、
そのような活用もしています。
 恐らく髄膜炎などは、今回新しい予防接種ということで出ておりますけれども、基幹定点
から出されている肺炎と髄膜炎の情報をもう少し強力に集めないと、今後新しいワクチンを
導入したときには必要な情報がとれなくなってしまう可能性があると思います。
 今回、新型インフルエンザの発生以後、保健所と基幹定点の医療機関とのつながりが強化
されて、対応は厳しい状況ではあったんですが、そういう意味では医療機関側にサーベイラ
ンスの意義を非常によくわかっていただけるいい機会になったと感じております。
 それから、最後の感染症サーベイランスの情報活用ですが、例えば、発生レベルの把握と
は5年分とか10年分のデータの蓄積があれば、同じ時期の発生状況の比較ができるとか、
そういう情報も出していただけますし、それから、罹患数を推計するということもだんだん
と可能になってくるということで、こういう情報がやはり欲しいのではないかということで
すね。
 私は愛知県の保健所ですので、愛知県の衛生研究所はかなりいろいろな情報を出してくれ
ています。サーベイランス活用という視点をもう少し考えたら、医療機関の先生方にもさら
に使いやすくなっていくと思っています。
 それから、ここに書いてありますのは、保健所ごとの流行の情報や、実際に診療された先
生のコメントなどもサーベイランスをフィードバックするときに書いていただいています
ので、そういうものが非常に参考になっております。
 以上です。
○加藤部会長 澁谷委員、どうもありがとうございました。御提言・御報告と承りました。
 続きまして、参考人の方からのヒアリングを行いたいと存じます。先ほど来お話が出てお
ります地方衛生研究所のお立場といたしまして、地方衛生研究所全国協議会会長であられま
す小澤参考人より御説明をお願いいたします。議事進行上、お時間は約5~8分程度でお願
いいたします。
○小澤参考人 資料が2つございまして、追加資料と資料5-5とあるんですが、資料5-
5はかなり一般的なことを書いたもので、追加資料の方を使って御説明させていただきます。
追加資料は、課題抽出的な視点でまとめたものでございます。
 感染症サーベイランスには、NESIDというオンラインのシステムが使われております。
これが患者情報や病原体情報といったものを地方・国を結ぶシステムになっております。
 感染症のサーベイランス体制を模式図的に描きますと、水色で塗りつぶされているところ
が基本的な感染症情報の流れということになります。臨床の医療機関から保健所に情報が来
て、それが地方感染症情報センターを経由して、中央感染症情報センターに集まるという、
簡単に言えばこういうシステムになっているということです。
 いろいろ問題点があるんですが、まず届出における問題点。これは先ほど澁谷先生などが
お話しになりました。それから、定点報告体制についても先ほど御説明がありました。
 NESIDの問題点としては、データ入力にいろいろ間違いが起こったり、そういう問題
点がありますし、データの活用上の問題点があると。一番大きな問題点としては、データの
閲覧の制限がかなりあって、これが情報の共有という意味で非常に妨げになっているという
ことです。
 それから、NESIDには患者情報、要するに、発生情報と病原体情報が両方登録できる
ようになっているんですが、これが実は別のシステムとして運用されておりまして、IDや
パスワードも全然別の系統で使われております。
 患者発生に関しては感染症法上、報告の義務があったり、いろいろな取り決めがあるんで
すが、病原体情報については報告の義務がありません。そして、近年、臨床医、医療機関等
はだんだん経営などが厳しくなっておりますので、病原体が集まりにくくなっているという
状況があります。
 届出に関しては先ほど来問題になっていますから、定点報告についてもここでは触れませ
ん。
 NESIDの問題点として、データ閲覧の制限ですが、NESIDの情報は例えば、神奈
川県の感染症情報センターは、神奈川県の感染症情報のうち横浜市だとか川崎市の情報を除
いたものしか閲覧できません。そうしますと、神奈川県が所管する人口は人口密集地の都市
部を除いた約230万人とかその程度の、いわゆる山間部とか過疎地帯、農村部といったと
ころの情報しか閲覧できなくて、一番感染症情報で重要な人口密集地の情報が把握できない
というような体制になっているわけです。
 それから、保健所に関して言えば、他の保健所のデータは見ることができません。それか
ら、地方感染症情報センターでも他の自治体の届出情報、症例データは基本的に閲覧ができ
ません。IDとパスワードを提供いただければできるということになっております。ですか
ら、こうなりますと今、問題になっていますDiffuse Outbreakを起こすような疾患につ
いては、まず検知が難しいということと、全体像が把握できないという問題が起こってきま
す。
 感染症のサーベイランスというのは先ほどから言っていますように2つあります。患者情
報のサーベイランスと病原体のサーベイランスがあります。ここは予防接種ですから、病原
体のサーベイランスの問題点に絞ってお話ししますと、
 まず、病原体は患者検体を採取して、それが地方衛生研究所に運ばれて、病原体の分離や
培養、同定して型分類をしたり、塩基配列を調べたり、変異とか薬剤耐性を見る、あるいは
株のライブラリーとして保管する、それから、ワクチン株との関連を検討する。例えば、麻
しんであれば、いわゆる輸入ものなのか、国産なのかを決めるというようなことをやるわけ
です。そうすると、感染症対策というのは基本的に病原体の株が手に入らないと始まらない
といいますか、これが抜けているような状況では全く片手落ちということになります。
 病原体サーベイランスの現状としては、地方衛生研究所のみが基本的に実施しております。
検体の流れとしては医療機関が感染症患者の発生の届出をしますと、保健所が検体を中継し
ていただいて、患者検体を地方衛生研究所に運んでいただいて病原体の分離・同定をすると。
そして、NESIDの病原体情報に登録します。ただし、この登録については義務化されて
おりませんので、地方衛生研究所の中にはせっかく検出してライブラリーに加わっている病
原体が、全く情報として全国的に生かされていない。それに対して、何らの義務化がありま
せんから、たくさんの病原体の株が地方衛生研究所の冷凍庫に眠っているということもあり
得るということです。
 患者情報のサーベイランスと病原体のサーベイランスは、別のシステムで動いています。
 もう一つは、地方衛生研究所の25%には地方感染症情報センターが併設されていません。
4分の1については、本庁、保健所、医師会などに設置されています。こういうところでは
地方衛生研究所は、感染症情報自体を収集したり解析したりする機能をほとんど果たしてい
ません。そういう状況が4分の1の地方衛生研究所にあるということです。
 先ほどから強調していますけれども、患者発生の届出というのはある種義務、ルールが決
まっていますが、病原体の検索については義務化されておりません。この病原体を検出する
というのは、一部の臨床医や医療機関の個人的な熱意に依存しているということが言えます。
いろいろなことで今、臨床の現場では疲弊というような状況もありますので、患者検体を収
集して送るというような数が全国的に減少傾向にあります。
 もう一つは、PCR検査に比重が偏り過ぎていまして、ウイルスを分離して株として保管
する、分析するということがおろそかになりつつあるということです。
 患者情報については、基本的に感染症情報センターに集まりますので、情報企画部門とか
疫学的な部門に集まりますが、病原体は微生物検査ですので、微生物検査部門に集まります。
そういった部門が違いますと情報がリンクされない、あるいは共有されないということで、
患者情報と病原体情報がきちんと結びついた形で情報が整理されていないということがあ
ります。
 病原体を効率的あるいは恒常的に収集・検出するようなシステムがきちんと構築されてい
ません。今までは、いわばボランティア活動で何とかもっていたものが、ここへ来てそうい
うふうにはいかなくなっているということです。
 ウイルス検査の方としてはPCR、いわゆる遺伝子検査があるわけですけれども、遺伝子
検査は非常に迅速であって、高感度であって、いろいろな解析に有用なんですが、RNAや
DNAを抽出しますから、ウイルス自体は死んでしまうわけです。株としては保存できない。
ですから、ウイルス分離をして株として保存することが研究資産として非常に重要であると
いうことですし、コストも安くできる、それから、想定外のウイルスであっても対応ができ
るというような、こういうウイルス検査法にはいろいろな方法論がありますけれども、それ
ぞれの特性によって使い分けることが必要だということがあります。
 群馬県では、感染症発生動向調査による病原体検査の推移が、検体数が平成18年からず
っと減り続けておりました。平成21年は御存じのように新型インフルエンザがありました
ので、わっと増えましたが、この減少傾向というのはかなり顕著にありますので、今後こう
いう傾向でずっと推移していくだろうということで、これは幾つかの衛生研究所でかなり積
極的にやっているところに直に聞いてみましたけれども、どこも同じように病原体の検体数
が減っているという状況です。
 地方衛生研究所が担うべき仕事はいろいろありますが、地方衛生研究所の業務をアンケー
トでやった結果、平成15~20年の5年間で2つアンケート調査をしましたところ、実に地
方衛生研究所の現状は惨憺たるものであるということがわかりました。職員数は5年間で
13%減少、予算が30%減少、研究費が47%の減少。病原体の検査で実施可能な項目が40%
減少ということで、原因は地方財政が悪化しているとか、団塊世代が退職して、高度な技術
を持っている人たちが少なくなっているということが挙げられるわけですが、地方衛生研究
所自体が非常に縮小、人員、予算の削減にあっているということです。
 最後に改善のための提言として、先ほどから岡部先生にもエールを送っていただきました
けれども、地方衛生研究所というのは法的な位置付けがなされておりません。ですから、や
はり公衆衛生あるいは健康危機管理の科学的・技術的中核機関であるとの位置付けを何らか
の形でしなければ、今後どんどん機能低下は続いていくだろうと。例えば、設置基準を決め
るとか、ガイドラインを制定するといったことが必要です。地方衛生研究所の機能が低下な
いし廃絶しておりますと、そこの地域住民の健康リスクというは極めて高くなるということ
ですので、ナショナルミニマムを担保するためには、最低限の機能が果たせるということを
法律上あるいはいろいろな意味で財政上も担保する必要があると考えられます。
 次に、地方衛生研究所は単なる病原体の検出機関、検査機関ではありません。疫学情報で
すとか、サーベイランス機能、要するに情報機能を担っている機関ですから、そういったこ
とをきちんと強化すべきだろうと。
 それから、病原体を集めて、それを検出するというサーベイランスのシステムが現在ある
意味で制度疲労といいますか、そういう状況になっておりますので、これが実効的に担保で
きるシステムを新たに構築する必要があるだろうと。現行のシステムでは、どんどん病原体
の検出数は減っていく可能性が高いと思われます。
 以上です。
○加藤部会長 小澤先生、どうもありがとうございました。非常に悩ましい問題点をお話し
になったと判断いたしました。
 残り時間が迫っておりますので、ディスカッションを5分程度行いますが、その前に宮崎
委員から事務局に対しまして御質問がありました。日脳のワクチンの2期接種についていか
がかという御質問が出ておりますが、それに対してお答えになりますか、なりませんか。
○福島結核感染症課長 できるだけ早急に小委員会を開きたいと考えております。
○加藤部会長 よろしゅうございますか。
 それから、もう一点、澁谷委員等からも先ほど来出ておりますけれども、いろいろな病気
の報告ですとか、副作用の報告について、全国の医師の協力を必要するという発言が多く目
立ちますが、今日は参考人ではありますが、日本医師会の保坂参考人に御意見をいただきま
す。
○保坂参考人 おっしゃるとおりかもしれないと思います。その理由として、現場が疲弊し
ているということも事実だと思います。
 もう一つ、澁谷先生の御発言の中で気になった点があったんですけれども、医療機関が患
者さんを診た場合に直ちに届けるべき感染症として一~四類がございますが、実は保健所が
直ちに受け付けるようなシステムを持っていないところが多いのではないかと。夜や土曜・
日曜では、全く受け付けるようなシステムができていないところも非常に問題で、実際にそ
ういうときに届けようとすると大変苦労するわけです。守衛さんみたいな人が出てきて何が
何だかわけがわからないという状況になるので、やはりその辺があるから、余計に届出をし
ようというモチベーションが下がってしまうということもあります。全体の問題もあると思
います。
 それから、サーベイランスの定点でございますけれども、これが本来、無作為抽出である
ということを私は今日初めて知りました。定点をお願いできるところはありますかと言って、
私どもは医師会の方でとりあえずお引き受けいただくという形でやっておりますので、その
辺もし本当に無作為抽出でやるのだとすれば、やはり国が関与するなりしていただくと、多
分医師会の反対も起きると思いますが、何か一つきちんとしたルールをつくってやらないと
思いますので、是非その辺もよろしくお願いします。
○加藤部会長 あと、1人か2人、1分程度。
○廣田委員 予防接種部会でのサーベイランスということで、それに関連して、医療機関に
訪れる患者がどれだけ疾患を代表しているかという点です。かつて厚生科学研究の神谷班で
0~5歳児までのインフルエンザワクチン有効性を調べたときは、全員に週明けに前1週間
のインフルエンザ様症状をインフルエンザシーズン中全部報告してもらいました。そうしま
すと、インフルエンザシーズン中に39℃以上の発熱を起こしたエピソードのうち、実際に
医療機関に来たのは半分でした。そういうことから、ワクチン有効性等を考えるときに、外
来患者が患者を代表している、その疾病を代表していると考えるのは、ちょっと危険なとこ
ろがあろうかと思います。
 2点目ですけれども、かつてインフルエンザワクチンが余り効かないと言っていたときに、
ワクチンを子どもに受けさせる親というのはかなり意識レベルが高くて、何かあったらすぐ
受診する、受診意識がより高かった。そうすると、接種者の方が発病が確かめられて、余計
ワクチンの有効性が否定的になるという状況でございました。最近は、ワクチンの有効性が
結構理解されるようになりまして、むしろ接種していない人の方が受診する傾向があるよう
です。そうしますと、接種していない人の方が発病が確認されて、過大なワクチン有効性が
報告されるという事態が起きております。一部では、これを迅速診断が用いられるようにな
ったから、病原診断がつくから、きちんとワクチンの有効性が確認されるようになったとい
う誤解がございますけれども、そういった患者の代表性に非常に問題がありますので、一言
言わせていただきました。
○加藤部会長 では、簡便にお願いします。
○岩本委員 2つあるんですけれども、1つは、岡部先生の話に関連したでB型肝炎の件で
す。全数報告対象の疾患の中で性行為を主な感染ルートとして増加している疾患としてはH
IVが最たるものですが、梅毒とか赤痢アメーバといった感染症も増えています。ところが、
感染症情報センターのデータではB型肝炎は減っているんですね。これは推定ですけれども、
日本は母子感染の防止を非常に一生懸命やったので、国民の有病率がぐっと下がったことが
理由だと思います。即ち、B型肝炎は報告数からは現在減っているように見えますが、性感
染症としての重要性は変わっていないと思います。
 もう一つ言いたかったんですけれども、やめておきます。
○加藤部会長 では、倉田委員。
○倉田委員 衛生研究所に関係する者として、今、小澤さんが非常にいいまとめをしてくれ
ましたが、結局、局長通知か何かでこういうものができた時代と今とでは、数十年差があり
ますから技術的にまるっきり違うと。それでますます重要性が増しているというのは小澤さ
んがさっき言ったとおりで、いろいろな技術がここに投入されて、ここしかできないことは
たくさんあるんですね。そのまとめが先ほどの月報で言っている感染症研究所の病原体検出
情報なんです。病原体の情報はほとんどすべて衛生研究所が担当しているわけで、感染症研
究所がやっているわけではありません。ですから、全国を把握しているところの機能が落ち
れば落ちるほど日本の情報がつかみにくくなるということになるわけで、これは世界のいろ
いろな動きからすると非常に恥ずかしいことなので、是非、最後に言われた改善のための提
言を重視して対応していただければと思います。よろしくお願いいたします。
○加藤部会長 ありがとうございました。
 事務局におかれましては、今日のヒアリング等を参考に、またいろいろな質問、提言、最
後に倉田先生がおまとめになりましたが、そういうことを十分に御考慮いただきまして、今
後の部会の進行の糧にしていただきたいと存じます。
 以上をもちまして、ヒアリングは終わります。
 次の議題に移ります。プレパンデミックワクチン平成22年度におきます備蓄方針につき
まして、まず、事務局より御説明をお願いいたします。正林室長。
○正林新型インフルエンザ対策推進室長 余りお時間がありませんので、簡潔に説明したい
と思います。使う資料は資料6です。
 まず、プレパンデミックワクチンがどういうものか。これは新型インフルエンザが発生す
る前の段階で変異する可能性が高い鳥インフルエンザウイルスを基に製造されるワクチン
で、現在はH5N1の亜型を用いて製造し、原液として保存しています。一方、パンデミッ
クワクチンというものがありますが、これは新型インフルエンザが発生した段階で、そのウ
イルスあるいは同じ抗原性を持つものを基に製造されるワクチンです。ただ、パンデミック
ワクチンというのは発生した後に製造を開始するものなので、実際に国民全員に接種を行え
るようになるには株を決定してから1年半とかかなりの時間がかかります。そこで、それま
での間の次善の策として、プレパンデミックワクチンの製造・備蓄を進めてきたところです。
行動計画上は、海外で発生した段階で医療従事者、社会機能の維持者といった方々に本人の
同意を得て接種するという方針があります。
 備蓄の現状ですけれども、平成18年度から毎年株を変えながら、大体1,000万人分追加
しながら備蓄を行ってまいりました。これはWHOが示しているワクチン候補株の範囲内で、
例えば、平成18年度はベトナム/インドネシア株、平成19年度は中国・安徽株、平成20
年度は中国・青梅株と備蓄をしてまいりました。
 平成21年度は、製造するに当たって鶏卵を用意しないといけませんが、新型インフルエ
ンザH1N1のために活用してしまったがために、プレパンデミックワクチンの備蓄は行い
ませんでした。
 このワクチンの原液の有効期限については、3年と考えられて備蓄が進められてきていま
して、平成18年度に備蓄したワクチンについては既に有効期限が経過しております。また、
平成19年度に備蓄したワクチンも本年11月から順次有効期限切れを迎えることになりま
す。これが現状です。
 もう一つ、研究についてですけれども、平成20年度に臨床研究を行いました。これは過
去にベトナム株を接種された方に対して、別のワクチン株、インドネシア株やあるいは安徽
株を接種した場合に、その接種したワクチン株以外の株に対しても幅広い免疫応答、交叉免
疫があることが示唆される研究成果が得られました。この結果は大変重要でして、場合によ
っては事前接種といって、平時で接種する可能性を探るのに大変有益な研究でした。ただ、
今のところこの臨床研究の成果は海外のジャーナルに投稿するとか、それをWHOに評価し
ていただくといったことを行う予定にしております。
 なお、本年度は、株を変えてインドネシア株、安徽株を過去に接種した方に対して別の青
梅株を接種してみて、同じような免疫応答が得られるかどうかを研究する予定にしています。
結果は、来年の4月ごろには出ると思います。
 そこで検討すべき課題ですが、備蓄の方針、それから、接種の方針、有効期限、更なる治
験の収集といろいろありますが、今日御議論いただきたいのは、今年度既に有効期限を迎え
てしまったワクチン、それから、本年11月から順次期限が切れていく予定のワクチンにつ
いて補充すべきかどうか、これについて早急に考えをまとめる必要がありますので、この場
で御意見をいただければと思っています。
 もう一つは、11月から有効期限が切れていく予定のワクチンについて、場合によっては
事前接種として使ってみてはどうかという御意見もあります。研究の成果を待つというのも
ありますが、それについても御意見をいただけたらと思います。
 なお、それら以外の検討項目については、必要な情報が得られ次第、速やかに検討を進め
るつもりです。
 以上です。
○加藤部会長 ありがとうございました。なかなか簡単なようで複雑な難しいお話でござい
ますけれども、1分程度、どなたか御質問ございますか。
 岡部委員どうぞ。
○岡部委員 1つだけ質問ですけれども、有効期限が切れることを設定したときには、その
ときの実際のポテンシーなどのチェックはしていないと思うんですね。ですから、今後どの
くらいとるか、あるいは保存をするかについては、やはりエビデンスを求める必要があるの
ではないかと思います。
○加藤部会長 今のは質問でしょうか、御意見でしょうか。御意見として承りますね。
 ほかに御質問はよろしいですか。
 まとめますと、恐らく有効期限切れのワクチンについては今後、補充していくと拝聴いた
しましたが、室長、それでよろしいですか。
○正林新型インフルエンザ対策推進室長 はい。それでいいかどうかの確認を。
○加藤部会長 その確認をいたしたいのですが、異議が出ませんので。
○岡部委員 ですから、そういうものの前提として並行で結構ですけれども、きちんとした
エビデンスはつくるという努力をする必要があるだろうと思います。これは提言です。
○加藤部会長 正林室長、それでよろしいですか。
○正林新型インフルエンザ対策推進室長 わかりました。
○加藤部会長 それでは、そういうことで異議なしと認めてよろしゅうございましょうか。
(「異議なし」と声あり)
○加藤部会長 それでは、議題3、その他といたしまして、事務局より報告事項がございま
す。いわゆる新型インフルエンザ対策総括会議につきまして、正林室長から。
○正林新型インフルエンザ対策推進室長 それでは1分で。前回以降、総括会議を何回か開
きました。4月28日に水際対策公衆衛生サーベイランスをテーマに、特別ゲスト10人を
お招きして御議論いただきました。検疫の効果や検疫の転換点、検疫のオペレーション、そ
れから、学校の休業の効果、その経済的な影響、サーベイランスの症例定義がどうなったの
か、運用上問題はなかったか、いろいろ御意見をいただきました。
 5月12日、医療体制について特別ベスト12人をお招きして御議論いただきました。発
熱外来、発熱相談センター、入院措置等についていろいろ御意見をいただきました。
 そして、本日、この会議が始まる前にワクチンをテーマに、13人の特別ゲストをお招き
して御議論いただきました。接種回数の問題、バイアルの問題、医療機関における在庫の問
題、さまざまなことについて御意見をいただきました。
 来週5月28日から、いよいよまとめの作業に入る予定にしております。
 以上です。
○加藤部会長 ありがとうございました。ただいまのは御報告として承ってよろしゅうござ
いますね。それでは、質疑はなしということでございます。
 以上をもちまして、部会長として準備いたしました議事は終了でございます。特に御発言
ございますか。
 それでは、お時間もまいりましたので、本日は、以上をもちまして第8回厚生科学審議会
感染症分科会予防接種部会を終了させていただきます。
 事務局より次回以降の予定につきまして御説明をお願いいたします。鈴木次長。
○鈴木新型インフルエンザ対策推進本部事務局次長 次回は6月でございますが、具体的な
日時、議事等はまた御連絡申し上げます。
 以上です。
○加藤部会長 ありがとうございました。
 これをもちまして会議は終了でございます。ありがとうございました。

照会先:健康局結核感染症課(03-5253-1111 内線:2077)


(了)

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