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2010年9月10日 第4回死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会議事録
医政局総務課医療安全推進室
○日時
平成22年9月10日(金)
○場所
省議室
○出席者
検討会メンバー(五十音順)
相田典子 (神奈川県立こども医療センター放射線部長) |
池田典昭 (九州大学大学院医学研究院法医学分野教授) |
北村善明 (日本放射線技師会理事) |
木ノ元直樹 (弁護士) |
隈本邦彦 (江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授) |
塩谷清司 (筑波メディカルセンター病院放射線科科長) |
宮崎耕治 (佐賀大学医学部附属病院長) |
門田守人 (日本医学会副会長) |
山本正二 (Ai学会理事長) |
和田仁孝 (早稲田大学法務研究科教授) |
参考人
一宮慎吾 (札幌医科大学医学部病理学第一講座講師) |
鈴木幸一郎 (川崎医科大学医学部臨床医学救急医学教授) |
オブザーバー
警察庁刑事局捜査第一課 |
文部科学省高等教育局医学教育課 |
日本医療安全調査機構 |
放射線総合医学研究所重粒子医科学センター病院Ai情報研究推進室 |
事務局
足立信也 (厚生労働大臣政務官) |
大谷泰夫 (医政局長) |
岩渕豊 (医政局総務課長) |
村田善則 (医政局医事課長) |
木村博承 (大臣官房総務課参事官(医療安全担当)) |
渡辺真俊 (医政局総務課医療安全推進室長) |
山本博之 (医政局医事課課長補佐) |
○議題
1 関係学会等おける死亡時画像診断の活用等の検討状況について
2 その他
○議事
○医政局総務課医療安全推進室長 ただいまから第4回「死因究明に資する死亡時画像診断の活用に関する検討会」を開催いたします。本日お集まりの皆様方におかれましてはご多用のおり大変ありがとうございます。
本日の出欠状況でございますが、今村先生、菅野先生からご欠席との連絡をいただいております。また、木ノ元先生におかれましては1時間ほど遅れるとの漣絡をいただいております。本日は長谷川先生の代理といたしまして、札幌医科大学の一宮慎吾先生にお越しいただいております。また、本日は川崎医科大学の鈴木幸一郎先生にもご出席いただいておりまして、後ほど資料の説明を行っていただくことにいたします。以降の進行につきまして、座長よろしくお願いいたします。
○門田座長 最初に足立政務官から一言お願いいたします。
○足立政務官 皆様お疲れさまです。この検討会も本日で4回目になります。前回と今回で、いまAiについて取り組まれている方々からご意見、現状を伺うことになっています。私も期待しているところなのですが、実は今日、夕刻から国会議員を対象にした代表選候補者の討論会がありまして、私も是非とも聞いてみたいと思っておりますので、その前にやらなければいけない仕事もありますので中座させていただきます。概算要求をいたしましたので、その点の説明も今日報告があると思います。
前回私が中座した後に、他省庁に対してこの検討会から要望することについてということがあったようでございますが、実は内閣府にありますIT戦略本部、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部というものがありまして、厚生労働省から死亡時画像診断(Ai)の推進ということで出させていただいています。
これはIT戦略の中では主に2つ大きな括りがあると私は思っています。1つは対面診療の代用になれないのか、これを利用できないのか。特にひきこもりの方とか、診療所あるいは医療機関に行けと言ってもなかなか行けない方々に対して対応できないのかという取組と、もう1つはAiを確かな診断能力のある所へ画像を転送することによって、より高い診断にたどり着けないかという、大きな2つのものをIT戦略本部に出しています。
その工程表をあとで事務方からお配りしたほうがいいのではないかと思いますが、今年度中に「死亡時画像診断の推進に係る基本事項の明確化」ということになっていまして、来年度中に「情報通信技術を活用した死亡時画像診断の取組に係る経費、施設・設備整備等の支援」を行うというところまでなっておりますので、他省庁への働きかけはその点でご理解をいただきたいと思います。
おそらく議論もだんだん煮詰まってきているのだと思いますので、まとめの方向性に向けてさらに活発なご議論をいただきたいと思います。どうかよろしくお願いします。
○門田座長 ありがとうございました。実際、具体的に動き始めているということをお聞きして、我々もこれから煮詰めていくことに元気が出るのではないかと思います。それでは、カメラ撮りはここまでとさせていただきますのでよろしくお願いいたします。
次に、本日の資料について事務局から確認をお願いします。
○医政局総務課医療安全推進室長 お手元の配布資料について確認をさせていただきます。本日の議事次第があります。資料1として第3回検討会の議事録です。資料2「死後画像(Ai)活用に向けての放射線学会からの意見」。資料3「救急医療におけるAiの現状と問題点」。資料4「Aiの推進に期待するもの」ということで、それぞれお三方の先生方からお話をいただける予定としております。最後に資料5で「死因究明の充実に向けた支援」に関しての概算要求の状況ということで資料を1枚付けています。以上です。
○門田座長 ありがとうございました。皆様資料には特に問題がございませんか。よろしければ本日の議事に入らせていただきます。
前回までの検討会で、特に前回は北村先生から、日本放射線技師会のまとめた「Aiにおける診療放射線技師の役割」についてのお話を、また長谷川先生からは、日本病理学会でまとめていただきました「病理解剖における『死亡時画像診断』の活用について」。池田先生からは、日本法医学会でとりまとめた「日本型の死因究明制度の構築を目指してー死因究明医療センター構想ー」ということ。さらに江澤先生から、「『異状死に対応できる第三者機関』とAutopsy imaging」についてお話をお聞きいたしました。
本日は、まず日本医学放射線学会から、この会の副座長をしていただいております今井先生のご意見と、そのあと日本救急医学会から鈴木先生にお話をしていただき、そしてさらに隈本先生から死亡時画像診断の活用に関して、いままではどちらかというと関係者、専門家のお話でしたので、国民目線から見たらどうかというお話について聞かせていただきたいと思っております。その前に、資料1について事務局からお願いします。
○医政局総務課医療安全推進室長 資料1は、前回第3回の議事録です。既に委員の皆様方には内容もご確認いただきまして、厚生労働省のホームページに掲載しているものですが、何かございましたら会議終了後、またはそれ以降でも構いません、当方までお申し出くださればと思っています。以上です。
○門田座長 議事録の件よろしくお願いいたします。それでは今井先生お願いいたします。
○今井副座長 日本医学放射線学会からの死亡画像(Ai)活用に向けての意見ということで述べさせていただきます。基本的には、Aiは社会的なニーズも多いですし、それから遺体を損傷せずに身体の内部を診断できるという意味でも非常に価値が高いと思いますし、国民に開かれた死因究明制度という中で、Aiを是非私たちも取り入れたいと思っております。また、放射線科医は元来、体のCTやMRIも含めて体の内部を放射線技師と一緒に診断する立場ですので、当然Aiでも私たちも中心となって大きな働きをしていきたいと考えています。
まず、対象とする死ですがいろいろございます。4つ書いてありますがこれ以外に犯罪に関連する死があります。司法解剖に当たると思いますが、それに関しては私たちは次のステップと考えています。我々がまずしたいのは、今回厚生労働省から7月16日にモデル事業に関する死亡時画像診断の運用(案)が出ていますが、それに則って医療関連死の立場からまずAiに取り組んでいきたいと考えております。
まず、診療過程で予期しない死、これは当然病院等でも突然アレストを起こしたということで行われる調査解剖もあります。それから病死ということで病理解剖で行われる場合もあります。この2つに関してはいままで私たちが最も予測できるといいますか、ある程度やっていくべきだろうと考えているところですが、それ以外に私たちの所も救急外来が多いものですから救急外来での死、それから異状死として警察に届けられた死といったものも、やはりAiの対象となる死だろうと考えています。ただガイドラインの適応は厳しくしてガイドラインを作成して、適応をきちんと決めてそれで行うべきだと考えています。特に遺族及び医療機関のいずれも病死として了解している事例では、特にAiの必要性は少ないだろうと私たちは考えています。
次はAi撮影の実施条件です。これはモデル事業の運用案にほぼ準じていますが、まず医療機関で実施される場合、これは当然その場でやっていただけますので問題はありませんし、あとで追加されたように、解剖で開頭の承諾が得られない場合、頭蓋内病変が死因の可能性が低い場合の頭部CTのみの撮影も含むということで、これも私たちは賛成だと思います。もう1つは、依頼医療機関以外での実施ということで、本モデル事業に参加する施設を確保し、登録する必要がある。これからこれに協力する機関を集めて登録しておく必要があるだろうと思います。3番目がもう既に10カ所拠点があるそうですが、第三者機関(あるいはAi情報センターなど)とする全国の拠点施設での実施、これも是非していただければと思います。撮影することが決まった場合、遺族が希望する場合には、特にこういったもので問題はないと思います。
次は読影です。読影に関しては放射線科医が通常専門でやっていますが、ただ少し立場が違いますので、まず、読影に関しては依頼医療機関以外が原則というのは、モデル事業でも謳っていますが、それは私たちも賛成です。モデル事業に参加する第三者機関、あるいはそういう全国の拠点での実施、これは全く私たちも問題はありません。Aiを専門とする先生たちが読影されるので問題ないと思います。問題はAiの読影に協力できる大学等の施設での実施、これもこれから多くの大学等を含めて、大きな施設に協力を求める必要があると思います。
構想としては、そういった所に専用回線で遠隔画像診断システムが世の中にはもうずいぶん普及していますので、それを用いる。あるいはCDやDVDの送付でいいだろうと思います。
「課題」と書いた問題点ですが、ここがいちばん問題です。当然、医療関連死なので、医療訴訟に関連する場合の責任の所在です。これはAi情報センター等の専門家が読んだとしても、正確な死因を特定できるのはかなり難しいだろうと思います。そのためにもし間違った判定がされた場合に、1人の医師なり遺族なりを社会的に葬ってしまう、そのような可能性も含んでいるということも含めて、この責任の所在は極めて重要だと思います。
Ai評価報告書をおそらく作成するとは思いますが、その位置付けをどこにもっていくかがいちばん大事だと思います。
もう1つは、そういった医療事故が起こった場合には、依頼医療機関においては調査委員会がほとんど作られます。調査委員会の中で分単位で夜中までかかって全員が集まって、その事象に関しての検証をいたします。そういった調査委員会との関係をどうするかがいちばん重要かと思います。放射線科としては、その調査委員会の1つの資料として、このAiの結果を使うのは妥当ではないかと私たちは考えています。
費用の点ですが、これは撮影と読影が別々になりますので、当然その費用の発生する場合は1個ではなくて別個となると思います。現在モデル事業実施期間は国が負担することになってはいます。であれば問題がないのですが、ただモデル事業実施期間であっても、本当にこの死因を知りたい方が費用の一部を負担するのは、私たちは当然かなと思います。受益者負担といいますか、その死因を最も知りたい方が負担するのであれば、多くの方にクレームはこないだろうと思います。ですから場合によってはその事象によって少し配分が違うこともあるかもしれません。
課題としては、やはり読影費用は設定されると思いますが、その根拠を正確に明確にしていただくのが大事だと思います。もし変えるとすればそこを根拠にして変えていくわけですので、そこのところはやはり明確に説明していただければと思います。私たちはモデル事業終了後、一体誰がこの費用を負担するのかということも決めておいてほしいと思います。モデル事業は期限がありますので、それが終われば今度は国が負担している費用はないわけですので、それでもきちんと運用できる体制を考えておく必要があると思います。
次にAi撮影に関する今後の課題ですが、まずガイドラインです。これは適応を含めたガイドラインをきちんと明文化して残して、全国共通でやるべきだと思います。実施する施設基準ですが、遺体搬送経路、実際に撮影する実施時間、Ai専用装置があるかないか、データはどのようにして保存するのか、何年間保存するのか、病院の倫理委員会の承認は得られるのか、といったことをきちんと各施設基準に合わせて検討すべきだと思います。
撮影方法の標準化、これは技術学会とも一緒にやらなければいけないことですが、撮影装置や条件の標準化、それから放射線科専門医が立ち会うのかどうかも必要だと思います。よく言われている院内死亡の遺体撮影に伴う汚染・感染防止対策も非常に重要ですし、費用もこれにかかると思います。
次はAi情報センター以外、第三者機関以外での読影施設における問題点です。これは非常に重要だと私たちは考えています。まず、放射線診断専門医の病院内での業務量は既に限界を超えています。もうCT/MRの画像の量がものすごく多いということと、同時にあっという間にたくさんの患者さんが撮影で来ますので、非常に業務量が増えている。これに関してもAiにどこまで時間を割くことができるかというのは、これからゆっくり私たちも考えて体制を整えたいと思いますが、現状、昼までの業務量で多くの病院が限界を超えています。
死後変化を含めたこれまで必要のなかった知識を習得する必要があります。もちろんCTとMR、病気のことについては十分に知っていますが、死後変化でどうなるということまでは私たちはまだ全員が知りません。これまで厚生労働省の深山先生の班会議の結果を教えていただきましたが、それだけでは不十分だと思いますし、また、その結果もほとんどの放射線科医は目に触れていません。まだほとんど知らないというのが現状です。そういうこともあって今後もAiと解剖結果との対比は、Ai情報センター以外での施設では必要だと思いますので、遺体から解剖の承諾が得られている場合には、Aiは行わないという今回の運用案ですが、これからAiを始める施設では受け入れられないかなと思います。Ai情報センターでは当然Aiだけで十分だと思いますが、これからAiを始める施設には必要だと思います。また、最後の医療訴訟に関連する事例における責任の所在が、非常に重要かと思います。
最後は総括です。基本的に厚生労働省の死因究明のモデル事業には賛成です。実施する施設を今回は拡大するということですが、ガイドラインを作る、認定施設基準を決めて認定施設を決める、読影する専門医の認定制度も必要かもしれません、そういったような準備期間が必要かなと思っています。それからいろいろな学会等でAiに関する読影のセミナー、読影会といったものを必ず今後は継続していきますが、そういった意味でもまだ少し準備期間が必要かもしれません。
死亡時画像には、疾患や死後経過時間など、多くの要素により「限界がある」ということは、是非理解しておく必要があると思います。先日、深山先生からお話を伺いましたが、疾患によって分かる疾患、分からない疾患がある。あるいは死後経過時間によって当然所見が異なりますし、MRIでも信号の変化が逆転する場合もあると思います。そういった意味でも「限界がある」ということを理解しておく必要があると思います。
診療関連死が対象ですので、医療訴訟に対する法的責任の所在を明確にしておくということと、紛争解決制度の整備も必要かなとは考えています。こういった法的な問題がこのAiには絡んでくるだろうと思います。
総括の2です。死後画像から得られた結果から医療の質と安全性を高めるために、これを医療にフィードバックするということですが、どのようにしてフィードバックや提言を行うのか。これはきちんと実施前に決めておく必要があるかなと思います。モデル事業終了後に死因究明に対する政策はどのようになるのか。これは政党が変わると政策も変わるかもしれませんが、現在はどういうふうに考えているということは記録に残しておく必要があるだろうと思います。放射線学会からのAiに対する意見としては以上でございます。
○門田座長 ありがとうございました。日本医学放射線学会としてのご意見をご発表いただきました。ただいまのご発表について、ご質問あるいはコメントその他ございましたら挙手をしていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
○木ノ元先生 途中から参加させていただいて最初に質問をさせていただくのは恐縮なのですが、先生のスライドの4枚目、後ろから2枚目、3枚目に「医療訴訟に関連する事例における責任の所在」とか、「医療訴訟に対する法的責任の所在を明確にする」とかという記述があるのですが、医療訴訟に関連する事例における責任の所在というのは、具体的にどういうことをイメージされているのでしょうか。
○今井副座長 調査委員会では本当に分単位でいろいろ検証をしたりするのですが、私たちはその中でAiを死の検証の1つの材料として使いたいと思います。ところが、それが確実なものであれば、それは文句なくみんな採用できるわけですが、Ai自体で分かる疾患もあるし分からない疾患もある。ですから、死因を特定するほどきちんと分かるものでないのに、それに対する報告書が出てきた場合、それをどのように判断材料として使うかという重み付けですね。そこのところは、そう簡単にはすぐその結果だけでこうだと言うわけにはいかないのではないか、というふうに私たちは考えています。
○木ノ元先生 最後から2枚目の放射線学会の意見の中の「診療関連死が対象であるため、医療訴訟に対する法的責任の所在を明確にする」というのを拝見すると、診療関連死亡について、要するに何が問題なのか、誰が責任を負うのかとかという犯人探しをAiを通じてやろうとしているのかと、うがった見方をするとそういうふうにも読めてしまうのですが、そういうことではないのですね。
○今井副座長 そうではなくて、単純に死因を究明をしたいというわけですが、死因を究明したいと言っても、結果的にはいろいろな意味で医療事故の原因がある場合にはそれを特定できるわけですね。それはそれで正しいと思っていますけれども、ただ、本当にAiの結果が正しいのであればいいのですが、少し間違った判断でAiの結果が出て、それが元で、いろいろな医療訴訟の材料にされるのは非常に大変だなという意味です。
○木ノ元先生 死因究明と、責任追及や責任の所在を明確にするという話は、明確に区別しないと非常に危険だと思っているのです。Aiのセンターを作ろうかという議論の中で、センターは責任追及の根拠付けとなる何らかの資料が出るような組織に転嫁されてしまうと、ちょっとおかしなことになるなと思います。「医療訴訟に対する法的責任の所在」というような記述が出てくるのですが、これは混乱を生まないように是非ご配慮いただきたいと思います。
○今井副座長 はい、分かりました
○門田座長 確かにこのAiだけでなくても、ほかの事象でも表現の仕方1つでおかしく利用される危険性があります。我々が専門家だからといって鑑定書を書くときに、鑑定書の書き方そのものも意外とあまり勉強していなくて、いかにも何か意味がありげに書いたり、その言葉から何が派生するかというようなことで、司法の場と全く違ったようなことになることは、いちばん危険な状態だということをおっしゃっていただいているのだと思います。これは非常に重要なポイントで、あくまでも科学的にどうなのかということで、言えることと言えないことを明確に記載すれば、ここで責任云々ということとはまた別問題ということで、私は先ほどの木ノ元先生のご発言に賛成なのですが、いかがでしょうか。
○足立政務官 すみません、そろそろ私、時間になってしまうのですが、当初のプレゼンテーションでは、医療に関連しない異状死のケース、異状死と思われるケースで犯罪性がその後にあるわけですが、この部分が触れられておりましたが、後半部分は診療関連死に絞られているような感じがあって、この検討は必ずしもそこに絞っているわけではない。死亡原因診断の一助にならないかという検討ですから、例えば、これはいま警察庁でやられていますよね。あの中でもAutopsy imagingを利用してどうこうという記述もあったやに思っていますので、一度プレゼンテーションをしていただくのもどうかなと。あの会の検討の状況とか、どういうふうに死亡時画像診断を捉えているか等々、向こうではどう議論をされているのかみたいな、提案なのですが、それをいま感じました。
○門田座長 実際、類似のことを検討している会が別にあるのであれば、そことの整合性というのか、そこのお話を伺うのは必要なことだと私は簡単に思ってしまいますが、やっていただけるように事務局からお願いできますか。
○警察庁刑事局捜査第一課(倉木) オブザーバーの立場で参加させていただいています警察庁の者でございます。そのようなご提言を想定はしておりませんでしたので、お役人的な答弁になりますが、組織的な回答はもちろん後ほどきちんと諮りました上で回答させていただきます。確かに関連する部分ではありますので、厚生労働省さんにもいま後半戦から、以前に政務官からもお話がありましたとおりメンバー的な立場でご参加をいただいておりますので、こちらのほうからご要請があれば基本的には検討してまいりたいとは考えます。ただ、検討状況で1点だけ申し上げますと、具体的な内容は実は中間とりまとめでいまの段階で一段落しています。その内容の説明ということで基本的にはよろしいのでしょうか。
○足立政務官 Autopsy imagingに関しての記述はありましたよね。
○警察庁刑事局捜査第一課(倉木) CTの積極的な活用という項目がございます。それにつきましてこちらで説明させていただくことは、これはまだ私個人の意見ではございますが可能ではないかと思います。
○門田座長 いろいろなところで感じるのですが、非常に類似のことをいくつかやっておられて、そのことが互いがあまり知ることなくて、別個のところでやって別の結論、別な結論と簡単にはいかないかもわかりませんが、なりそうになるということ、これはできるだけ避けるべきだと思います。できる事とできない事って、いま国全体として我々としても変わっていくことを期待しているわけですので、そういった意味では是非やっていただきたいと思いますが、皆さんよろしいですね。一度検討をしていただいて、中間とりまとめでも今あるものをお示しいただければ、それはそれなりに意味があることだと思いますので、前向きに検討していただきたいと思います。
○警察庁刑事局捜査第一課(倉木) はい、承りました。
○門田座長 よろしくお願いいたします。そのほかいかがでしょうか。
○池田先生 先ほどの木ノ元先生のご質問に少し関わってくるのですが、このモデル事業の場合に院内の事故調査委員会と、もう1つモデル事業自身に調査委員会ができますが、それに関して、例えば調査委員会に関して放射線科の先生方が積極的に参加していただくとか、あるいは院内の調査委員会でも、例えば先生方のご意見をお聞きするような場合に、調査委員として参加していただけるとか、そういうふうな立場はどのように学会としてお考えなのですか。
実は私は福岡でモデル事業をやっているのですが、実際、放射線科の先生に入っていただいたほうがいいのではないかという症例は当然あるわけでして、そういう場合にお忙しい先生方に調査委員として入っていただくのはご負担にはなると思うのですが、その辺まで踏み込んで検討していただけるのでしょうか。
○今井副座長 調査委員会には私たちは積極的に参加したいと思っています。委員会のときには当然画像が出てきますので、院内では全部放射線科医は参加しています。そして、いろいろ読影したりしていますので、必要だと思います。
○門田座長 そのほかいかがでしょうか。
○和田先生 質問なのですが、先ほどのプレゼンテーションを聞いていたときには、医療訴訟に対する法的責任の所在とおっしゃった場合に、事故そのものの責任の所在ということではなくて、例えばAiをしてその評価報告書を書かれると。ところがその読影が間違っていた、そういうときの責任はどうなるのかというようなことをおっしゃっていたと思うのですね。
そこで質問なのですが、本当に初歩的なレベルで間違いがあった、それは問題だと思うのですが、実際にAiでやって、しかし、後で解剖をした場合に違うことが分かったと、その評価が変わるというふうなこともあるのだろうと思うのですが、それはどのぐらいの頻度で起こり得ることなのでしょうか。全く分かりませんので教えていただければと思います。
○今井副座長 これは塩谷先生がよろしいかと思います。
○塩谷先生 非常に難しい質問だと思います。事例によっても全然変わりますので、画像でこうだと言い切れる場合と、特に医療関連死の場合ですと、画像だけで死因を判定するのは非常に難しいものですから、画像はその死因を究明する1つの方法として、解剖自身でも欠点がありますし、画像だけでも欠点がありますので、全部をまとめて総合的に判断するという立場でいます。我々も画像だけで何でも言い切るというのは難しいと思います。お互いに解剖と画像は補完する方法であるというふうに思っています。
○和田先生 そうすると、Aiの場合には確定的にこれだというよりは、むしろ評価報告書の書き方としてもこういう可能性がある、これはないだろうというゆとりを持たせたというか、そういうような書き方になるだろうということですか。
○今井副座長 そこのところは非常に重要で、多くの方はそう書くと思うのですが、中には確定してしまう場合があると思うのですね。今回は人数を増やすわけですね。いままでAiを読影したことがない方もどんどん増やすというのが、1つの今回のモデル事業ですので、そうすると教育もまだ十分にいっていないところで、自分の思い込みでというのはあり得るといった意味で、先ほど言った責任の所在はというのは、そういう意味です。
○隈本先生 責任の所在という点でいうと、いま現在、私自身、産科医療補償制度の原因分析をやっているところなのですね。その中では、こんなこと書いて大丈夫かとか、まだここまでは分からないというようなことで、報告書を書く方が個人的にみんな悩んでいらっしゃるのです。その点、私の考えでは、分からないところは分からないと書く、ということでいいと思います。普段の日常の診断の中でも、分からないものは分からないと総合的に診断をして、何らかの病気を見付けていくという作業をやっていらっしゃるわけですから、決してこのAiだけが特別なのではなくて、普段放射線科医の先生方がやっていらっしゃるように、自分の専門性において責任をもって診断をするという、それをやっていただければ全然問題はないと思うのです。
先ほどからちょっと心配なのは、死因の特定というのは、仮に診療関連死でありますと、あくまで原因究明の中の一部に過ぎない。スタートですが、一部に過ぎないのです。つまりそういう死因になった経過を見ないと診療関連死の原因は分からないわけですから、死因を特定するのはあくまで放射線科医が責任を持って自分の専門性を発揮してやっていただければいい。そこで間違う、間違わないというのは、Aiに特定した話ではなくて、普段の診療でも、間違ったら先輩から怒られたり、いろいろな責任を取らなければいけないわけですから、そういう意味では別にAiだから特別というふうにお考えにならないほうがいいのではないかと思っており、私も木ノ元先生のご意見に賛成なのです。ですから、このAiに参加するに当たって特別な判断者の法的な保護は必要ないのではないでしょうか。普通のお医者さんが、自分の専門性をフルに発揮して、ベストを尽くして駄目だったら駄目という、そういうことでいいのではないでしょうか。
○今井副座長 実はAiが特別だというのは理由があります。死後変化については放射線科医はほとんど知りません。私、深山班の研究に一緒に入っていましたので、全部画像は見ましたが、それは生体のときとは明らかに違います。ですので、生体のときの判断と同じような判断でもしAiをすると、大きな間違いは間違いなくすると思います。そういう意味です。
○門田座長 その辺りは十分な経験がまだまだないと言ってもいいのではないかと思うのですが、これはどんどん蓄積されていくべきものですから、最初から完璧を求めてというのが難しい話なのは、皆さん分かっておられます。先ほども申しましたように、やはり画像の中で言える判断を、その所見を正しく所見として言うのであって、死因として言ってくれということを求める必要は、いまの意見もそうだと思うのですが、ないということでスタートしていく。そのうちにいくつかの情報が加わっていけば、いま以上のことがどんどん分かってくる可能性はあると思います。その辺りは出発の段階において、あまり責任問題に触れるとできなくなってしまうのではないかという心配もありますので、その辺りは最初からリジッドに見る必要はないのではないでしょうか。曖昧にしろとは言いませんが、そのように変わり得るものだということで、少なくともいまの時点の所見を読むということで。私のようなド素人が言って申し訳ないのですが、そんな感じがいたしますが、いかがでしょうか。
○池田先生 放射線科の先生方が診断するのは診療行為ですから、それ自身が先ほど来先生方がおっしゃっているように、全くそれで訴訟の対象とかいうような問題ではないので、日々先生方が行っている診療行為と全く一緒と考えてもいいのではないか。ただ、これで責任問題が生じるとすれば、それを根拠に死亡診断書、死体検案書を書いたときに、その死因の種類を間違ったとか、あるいはそこに過誤があって、それを死亡診断書、死体検案書を基にいろいろな利害関係が生じた場合に訴訟になる。そういうふうな危険はあると思うのですが、それについては先生方で日々の診療と同じような形でやっている行為ですので、そこから先は死亡診断書、死体検案書を書いた者の責任だというふうな考え方で対処されれば、責任問題とか訴訟問題について、最初からそういうふうに構える必要はないのではないかと私も思いますがいかがでしょうか。
○今井副座長 当然そうなのですが、やはり主治医とか検案書を書く方とかの責任になると思います。ただ、彼らの判断する材料の1つにはなっているわけです。ですからその段階から私たちは慎重にやるべきだと思いますし、分かることと分からないことをきちんと伝えるのは大事だと思います。
○山本先生 たぶん今回の議論の元は、まずAiを導入するかしないかで、いままでの死体検案書の作成の段階で体表検視だけしかやっていなかった。それと比べて新しいモダリティーでAiを加えるということですので、いままで以上の精度になることはたぶん間違いないと思います。私たちも分かることは分かる、分からないことは分からない。それを画像所見を基に判断するということでいいのだと思います。
あと、こういった意見がいままでずうっと出てきて、ほかの診断の先生方はみんな嫌がるのですね。そのために避難所的にできたのが、一応Ai情報センターですので、第三者機関としてここを使っていただくのが、最初のうちは特に経験をされている方が少ないので、ある程度専門医を集めましたので、まずはここを使ってやっていくのがいいのではないかと思います。
○門田座長 ありがとうございました。
○相田先生 私も放射線専門医なので、放射線科医の現場の雰囲気が分かるのですが、要するにいまでも十分いっぱいいっぱいなのに、Aiをやったために余分なというか、責任問題までくるのだったら危険なものには近付きたくないという、普通の人間の、弱い人間のそういうところがあるのですが、Aiを世の中で軌道に乗せていくためには、放射線専門医がもっと積極的に関わらなくては実際は動かないと思うのです。ですから医学放射線学会でも、座長からもすごくいいことを言っていただきましたが、きちんと所見を書いて、もちろん死後変化についての知識習得は当然専門医として私たちが努めるべきですが、淡々とやればいいので、何もすごく構えなくていいのだということを逆にアピールしていかないと、専門医の参加が減ってしまって軌道に乗らないと思うので、その辺を専門医会も医学放射線学会もやって、もっと本当に知識をもっている専門医が参加しやすくなるというか、参加するのが、やるのが当たり前という雰囲気を、時間はかかるでしょうけれどもだんだん作っていかないと軌道に乗らないのではないかと思っています。
○門田座長 まさにそのとおりではないかと思います。先ほどのプレゼンテーションの中にもありましたが、まだいまの段階では限界ということは十分考えておかなければならないわけですから、それが徐々に変わってくる方向に進化していくのだろうと思います。ですから、とにかく出発の段階で、いまの段階で何がどこまで言えて、何がそれ以上のことは言えないのかということをきちんと出していただくことからスタートするしかない。そういう段階でも少なくともいくつかの問題についてはこれだけで分かるものもあるはずだというようなお話をいままでも伺ってきていると思いますので、あまり入口でシビアに考えずに前向きにいきながらまた考えたらいかがでしょうか。そのほかいかがでしょうか。
○塩谷先生 このスライドにも書いてありますが、「今後もAiと解剖結果の対比が必要である」と。これは本当にそのとおりで、画像で分かるもの分からないものを区別するのは大切です。これは日本だけではなくて例えばイギリスですと、既にイギリスの司法省が2010年中にイギリス全土で死体の解剖ができない場合にはMRを使って死後の画像診断をするというように政府声明で既に出していて、そのための準備として画像でここまで分かる分からないといった報告をランセットやBMJの英国医学雑誌などにもう既に発表しておられます。日本も同じような状況にあると思います。これから一生懸命画像と病理の対比をやって、その限界と有用性を、どんどん自分たちが知ることが必要だと思っています。
○門田座長 そのほかいかがですか。
○山本先生 認定制度と認定施設のことに関しては、現在Ai学会で条件を整えてそれを整備している途中です。来年のAi学会が2月に行われるのですが、それに併せて放射線専門医会が中心となって、テスト運用ですが認定制度の研修会を行う予定です。
○門田座長 ありがとうございました。そろそろこの件に関して一旦締めたいと思いますがよろしいですか。今井先生どうもありがとうございました。
次は、日本救急医学会のご意見ということで、本日特別に参考人として出席していただいております鈴木先生にお願いしたいと思います。
○鈴木先生 本日はこの検討会にお招きいただきましてありがとうございます。日本救急医学会では「診療行為関連死の死因究明等の在り方検討特別委員会」の中にAi作業部会を置きまして、救急医療における死亡時画像診断に関する事項を検討しています。本日は「救急医療におけるAiの現状と問題点」と題してお話させていただきます。
救急医がAiに注目するようになって、もう20年ぐらい経過しています。その理由としては、心肺停止のような重篤な症例に遭遇する機会の多い職場であって、また、診断装置としてCTを24時間いつでも使用できる環境で診療を行ってきたことから、必然的に起こった現象であろうと思います。2005年の坂本らの調査では89%の救命救急センターがAiを経験していますし、2009年の今回の私たちのアンケート調査では、救急科専門医の65%がAiを経験している。また、Aiを知っている、あるいはよく知っていると答えた者は4年間で17%から89%へと急激に増加しています。
それでは、我が国の救急医療施設ではどれぐらいの数の心肺停止を受けているのかということを示したいと思います。日本における心肺機能停止傷病者の年間搬送件数、これは2005年で10万件ちょっとですが、年々増加していまして2008年で11万3,000件を超えます。これらの患者は主として二次・三次救急医療施設に搬送されますが、中でも救命救急センターはこのような重篤救急患者を受け入れることが任務の1つになっています。
この二次・三次救急医療施設が受け入れる割合はどのようになっているのでしょうか。このスライドは平成21年12月1日から2週間に全国で搬送された二次・三次の割合が都道府県別に示されています。紫色が三次救急医療施設、即ち救命救急センターで、水色は二次救急医療施設を示します。お手元の資料を見ていただくと分かると思いますが、いちばん右に全国平均が示されていますが、救命センターには35.4%、二次救急医療施設には59%が搬送されている状態です。
先ほどの搬送割合を用いた1年間の二次・三次救急医療施設への搬送数を計算しますと、それぞれ6万7,000名と4万名になります。これらの搬送数は二次救急医療施設の時間外緊急入院数の約4%、三次救急医療施設の時間外緊急入院数の約8%に当たります。救命救急センターに比較的多数が搬送されていることが分かりますが、逆に二次救急医療施設にはこれを上回る多数の心肺停止例が搬送されていることにも注意を払う必要があります。スライドの中にあります167万7,000名と53万5,000名は次に説明させていただきます。
これは診療外の緊急入院患者がどこに入院しているのかを示した厚生労働省のデータです。平成20年9月中、1カ月間に20万人の緊急入院がありましたが、そのうち二次救急医療施設に入院した者が66.7%、三次救急医療施設に入院した者が21.3%という結果です。これを基に年間緊急入院数を計算したのが先ほどのデータで、二次救急医療施設には約167.7万、救命救急センターには53.5万が入院するということになります。救命救急センターは救急医療の中心として期待されていますが、二次救急医療施設には約3倍の患者が入院しているということも忘れてはならないことだと思います。
スライドの下段に示しましたが、二次・三次の入院比率は平成17年度では74.4%と17.9%でした。平成20年度はそれが66.7%と21.3%になっていまして、二次救急医療施設の緊急入院受入比率が急速に減少してきているということです。
これは日本救急医学会に所属する会員の勤務状況がどういうものであるかを示しています。救命救急センター、あるいはそれ以外の救急部門に勤務している指導医、専門医の割合は53%、救命救急センター1施設当たり指導医1.3名、専門医3.6名の救急医が所属することになります。一方で約2,800ある二次救急医療施設には、救急医学会の指導医、専門医は506名しか所属していません。救急医が決定的に不足している状況があります。
今回のアンケートは2009年10月から11月にかけて実施しました。救急科専門医を対象にスライドの項目について、Aiについての考えを知ることが目的で、アンケート用紙を郵送してファックスで回答を回収しています。回答率は27.7%でした。
これはAiの対象疾患について複数回答可で聞いています。紫色のバーが「Ai経験有り」と答えた人で、白のバーは「Ai経験無し」と答えた人です。経験有りではCPAOA、外来死亡、予期せぬ院内死亡と続きます。一方、経験の無い人では予期せぬ院内死亡、外来死亡、CPAOAとなります。CPAの心肺停止の年間搬送件数が多い所はAi経験者も多く、CPAOAを対象としている傾向が見られました。
これはAiを行う目的について聞きました。経験の有無に関わらず「死因究明」と答える医師が最も多く、790名中750名、97%がこれを挙げています。2番目は、経験無し、経験有りでは「診断書作成」という実務的問題が挙げられていました。一方、経験無しでは「診断書作成」とともに「医療過誤否定」が挙げられています。
死亡診断書あるいは死体検案書を作成する機会が多いのが救急医ですが、「死亡の原因」が明らかで、「死亡の種類」についても犯罪性の有無も含めて特に問題のないケースというのはほとんどありません。そのような中でCT等を利用して死亡の原因の診断を行う努力をしているのが実際のところです。救急医の懸念が犯罪死にだけ向いているわけではありません。むしろ医学的な死亡の原因を知りたいが故に、病理解剖の承諾がほとんど得られない状況下で、死因検索に役立つものは利用したいというのが、現場医師の正直な気持です。
したがって、Aiだけで死亡の原因診断がどの程度可能なのかということには、我々非常に関心の高いところです。スライドは外傷に関してのAiの診断能力をメタアナリシスで検討した論文です。さまざまな外傷を扱った12の論文の解析結果では、Aiの正診率は約86%と、非常に良好な結果を示しています。これは日常の我々の臨床的感覚ともよく一致している印承を受けています。
一方、病死の場合のAiの診断能力については、この第1回の検討会においても塩谷先生が発表されていましたが、オーストラリアのビクトリア州の法医学研究所の報告では、約20%ということでした。私たちも内因性疾患の場合には、出血性病変の検出には非常に適しているという印象を受けていますが、それ以外はなかなか死亡原因の診断が難しいと感じています。その結果、最近の死体検案書を我々が作成する場合、内因性疾患であるということは分かったわけですが、そこから先が書けなくて「病死、その死因は不詳」というような診断書が最近増えているというような感じを受けています。
もう1つの懸念である犯罪見逃しの可能性についてです。死亡診断書あるいは死体検案書には、皆様もご存じのとおり「死亡の原因」と「死亡の種類」を記載しなければなりません。特に死亡の種類を記載するためには、犯罪捜査的な手法で得られた情報が絶対に必要になります。しかし、医療施設に勤務する医師には現場を直接調査することはできないわけです。
これが死亡診断書あるいは死体検案書です。赤丸で囲んだ所が「死亡の原因」になります。3つあるわけですが、病死及び自然死、不慮の外因死、その他不詳とあるわけです。不慮の外因死も交通事故、転倒・転落、溺水と続いて、自殺や他殺の判断も求められるわけです。臨床現場の担当医が死体を検案するだけでは偽装された犯罪を見抜くのは至難の業となります。
スライドは救急医療におけるCPAOA診療の流れを示しています。担当医師が死体を検案して、異状死体と判断すれば、警察に届け出て検視を依頼します。検視の結果、犯罪性があれば司法解剖になるでしょうし、犯罪の疑いがない場合でも監察医制度のある地域では、公衆衛生上の問題や死因不明の場合などには行政解剖が行われます。また、監察医制度のない地域では承諾解剖が行われることもあります。
そして、一旦司法解剖に回れば、CPAOAを担当した医師に対する医学、医療に関わる情報のフィードバックはなくなります。したがって、司法解剖や行政解剖に付随して行われるAiの役割については、我々はコメントのしようがないことになります。Aiから得られた情報は、解剖から得られたものも含めてみんなで共用することが重要で、そのことが医療の進歩あるいは患者家族の納得につながるものと考えています。
監察医制度があるかないかにより、Ai経験の有無にも大きな差が見られます。監察医制度がなければ、検視の結果犯罪性なしと判断されれば、担当医師は死亡の原因を診断して、死亡診断書あるいは死体検案書を作成しなければなりません。監察医制度がある都市では、その必要性がないためこのような違いが見られるのだと思います。
さて、CPAOAの死亡の原因を調べるために、Aiは限定的ではあっても、ほかに有用な方法がないことから、救急医療現場で利用されている現状を述べてきました。ここではCPAOA診療におけるAiに関連する問題点を挙げました。現状では、Aiに要した費用は保検診療上認められておりません。またAi画像の読影を行う専門家が不足しています。そして、年間約7万人近くを受け入れている二次救急医療施設でも、継続的にAiを実施できる支援体制が準備されておりません。これらが準備されるべきだと考えます。
これは2005年の調査で、Ai費用がどこから出されたのか、どういう格好でしていたかという結果ですが、生前画像として費用請求していたという施設が約70%を超えていたようです。
今回の調査では、経験有りでは「保険請求」が32%、「病院持ち出し」が30%、「患者家族」への請求が12%となっています。 「保険請求」と答えた専門医の多くが、現行制度では死後の画像診断には保険請求ができないということで、死亡宣告前に画像検査を行っているという意見を寄せていました。2005年に比べると、保険請求が半減し、持ち出しが増えています。この状況が続けば、救急医療機関はAiを制限するようになることも考えられます。
以上のことから、救急医療におけるAiの現状と問題点について報告いたしましたが、少しでも死亡の原因に迫りたいという思いから、Aiが急速に利用されるようになってきております。しかし、費用の裏づけがないために、患者家族や医療機関への負担が大きくなっています。その結果、救命救急センターに比べると、マンパワー、施設設備の面からも脆弱な二次救急医療施設は、Aiの利用もままならないという状況になりかねません。二次救急医療施設の衰退は、三次救急医療施設への負担増につながり、救急医療のドミノ崩壊を引き起こすことにもなりかねません。どうかそのようなことがないようにお願いしたいと思います。本日はどうもありがとうございました。
○門田座長 ありがとうございました。医療現場の本当に切実なお立場で、実際にAiがこのぐらい行われているというお話を聞かせていただきました。ご質問、ご意見はありませんか。
いまおっしゃっていただいたように、基本的には医療現場の人たちは、ほとんど心肺停止で来られたものの検査はなくて、あとからでもその原因を知って、自分たちが患者さんの死因究明から医療そのものを見直すということですよね。
そういうことを非常に重視されて、中には結果的にその患者さんのためにならなかったにしろ、死因というか、病態を解明するために、最初は保険請求していた。それは少しおかしかろうということで、徐々に下がってきているということですね。
○鈴木先生 そうですね。いろいろ指導を受けたのだと思います。
○門田座長 どなたかご発言ありませんか。
○隈本先生 そうすればいいという意味ではなくて、確認のためですが、死後随分経った方に保険請求をしてはいけないことはわかるのですが、死亡時にその死因を特定するために、つまり、死亡診断書を書くためにCTを撮ること自体、保険請求はやってはいけないと厚生労働省は言っているのでしょうか。これは厚生労働省に聞いたほうがいいと思いますが。
○医政局総務課医療安全推進室長 それは担当局が保険局になりますので、ここでは即答しかねますが、そちらのほうに確認はしたいと思います。基本的な整理としては、亡くなった時点までが生きておられる方に関しての対処に関する費用ということですので、その原則は持っているのではないかと思いますが、確認をしたいと思います。
○鈴木先生 死亡した時点で、確認された時点でとおっしゃっていましたが、保険診療上、24時間まではオーケーなのではないでしょうか。
○医政局総務課医療安全推進室長 そこの点も含めて確認いたします。
○隈本先生 例えばの話ですが、脳死後に移植がある場合に、臓器を保存するために灌流をしたりしますが、その医療費は、いま医療費として保険請求できるのではないですか。
○門田座長 私は移植に関係していたのですが、そこは医療費ではないのです。
○隈本先生 自由診療ということですか。
○門田座長 診療でもないのです。
○隈本先生 そこをはっきりさせろという意味ではなくて、議論の前提として整理しておくべきだと思うので、できれば保険局から聞いていただければと思います。
○門田座長 それは確認してください。ほかにいかがでしょうか。
○和田先生 現場のことで少しお聞きしたいと思います。Aiを撮る場合のご遺族との関係ですが、撮る前提として、例えば現場では普通はご遺族の承諾を取ってやると思います。そのときに「ノー」と言われて、しかし、もしかして犯罪性があるかもと病院が考えた場合は、ジレンマに陥るかと思います。遺族は「ノー」と言っている。でも、ちょっとこれはということで、この前もそういう議論がありましたが、そういう場合は現場ではどのように対応しているのですか。
○鈴木先生 そこまで具体的なアンケート結果は出ておりませんが、今回はICを紙でもらうか、カルテに書くか、口頭だけか、無しかということは聞いております。口頭でいただくというのがいちばん多くて、それからカルテに書いて紙でいただくという順番になっています。「承諾が得られないのにしますか」という質問は、今回はしませんでしたのでわかりませんが、たぶん多くの場合、現場ではそういうケースではしないと思います。
ただ、先生がおっしゃった意味合いで非常に重要なのは、小児の虐待、あるいは老人のネグレクトなどを含めて、あの辺に関してどう扱っていくのかというところはいろいろあると思います。現行の仕組みの中では、なかなか強制的にできることにはならないのではないかなという気がしております。
○門田座長 そのほか、いかがですか。救急の現場というのは大変だなと、このデータを見せていただいて改めて思います。こういう忙しさの中で、実際に救急の場ではその場にCTが設置されています。ですから、結果的に先生たちがやる気になれば、すぐできるということだと思いますが、お忙しいということはしっかりおっしゃったのですが、実際に現場ではどうなのでしょうか。忙しくても、その必要性のほうを強く求めていくということですか。
○鈴木先生 先生がおっしゃるように、死亡原因が何であるのかを調べたいというのは医師なら誰もが持っている欲求の1つではないかと思います。しかもその画像で即座に知ることができるのが内因性疾患であれば出血性疾患なので、これは多くの救急医が一旦経験しますと、そういう意味でのAiをやらずに書類を書くのはなかなか難しいのではないか。CTが撮影できない現場であればやむを得ず推測で書くかもしれませんが、できることならそこまでやって、少しでも真相に迫る診断書を書きたい、あるいは検案書を書きたいと考えるのが一般的だと思います。
○門田座長 その場合の診断はどなたがやられるのですか。
○鈴木先生 大体担当医あるいは、その担当医が救急医であれば救急医がやります。撮って直後に読影をする人で最も多かったのが担当医あるいは救急医でした。3番目が放射線科医ですが、誰に読んでもらいたいかという質問では、各科の専門医に読んでもらいたいというのは極めて少なくて、放射線科医に読んでいただきたいというのが非常に多かったです。
○門田座長 希望はそうだけれども、現実はそうではない。
○鈴木先生 まだできていません。
○宮崎先生 救急の現場の全体像がわかって非常に良かったです。私の所は数はそう多くないのですが、CPAの患者さんが月に5例ぐらい来ます。ですから、5カ月間で25例ぐらい来ています。その中でAiをやったのは、今まで全体で7例と少ないのですが、そのうちの6例はCPAです。
それをどういう形でやったかというと、遺族が少しでも死因がわかるならばということでしたのです。不審死というか、警察が来て一緒に検視するのですが、そういう場合でも警察はAiを撮ってくれとはなかなか言わないのです。それが現状です。その結果がどうなったかというと、読影して明らかに脳出血、内因性の場合の出血はすぐ説明できます。CTを撮って、その場で救急医がわかる範囲で説明をして、お返しするという形をとっています。
それから、後日放射線科医にそれを読んでもらいます。ところが先ほども責任問題が出ましたが、放射線科医は所見をずっと羅列するのです。そうすると、そういう方でも、死因に関係しない異常所見が結構見つかります。それをずっと羅列します。それを報告書としてご遺族に渡す。それを読むと、自分が遺族だったらこんなものもらったら怒るだろうと思うぐらい何のことかわかりません。その報告書のあり方にもすごく工夫が要るなとつくづく感じます。
例えば、内因性の中の出血性疾患はわかります。例えば脳出血がないとか、大動脈破裂などの胸腔出血の所見はありませんとか、ネガティブには書けるのではないかということで、放射線科の読影の先生にはポジティブには言わなくてもいいから、こういうのはないとか、それを報告書に書いてくれと頼んでいます。それだけでもご遺族は、脳出血ではなかったのだなという点で、安心されるだろうということです。ですから、レポートのあり方は、この検討の中でいずれはっきりしていかなければいけない課題だろうと思っています。
○今井副座長 いま先生がおっしゃったのは本当に大事なことで、放射線科医は異常所見をたぶん羅列するのだと思いますが、その解釈が最も大事だと思います。ただ、先生の所でも放射線科の先生が、救急の場合だとそのようにしか書かないかというと、1つは臨床情報は逆に少ないのです。依頼書の中の検査目的などというのはなくて、あまり症状も書いてなくて、ほとんど白紙で、その場で出しますので、その中て画像だけが出てきて読んでいるのでそうなるのだと思います。ですから、救急医と放射線科医との間のその辺の診療情報の共有化ができれば、報告書はもう少し変わってくると思います。
○門田座長 1つだけ疑問に思ったのですが、所見がダイレクトに遺族の所に行くようなシステムになっているのですか。
○宮崎先生 一応Ai委員会を通した上で行くのですが、そこで放射線科医のコメントに対して修正はかかってないのです。一応フィルターは通すということになった。放射線科のほうは、放射線科医の意見を聞くと、これが死因かどうかというのは自分たちは特定はできない。自分たちはあくまで所見は読みますということなのです。ですから、診療情報とか、そういうのを与えて技能アップというか、スキルアップしていく必要はあると思いますが、いまそこを放射線科医に求めるのはちょっと無理かなと思っています。
○和田先生 いま伺っていて思ったのですが、Aiの成果というのはそういうもので、所見という形で書かれます。そうすると、それがご遺族にフィードバックされるときに、そのフィードバックの仕方が非常に重要だと思います。ただ、単にポンと渡すとすれば、妙な誤解が生じることもあるだろうし、わからないということもあると思います。当然説明はされるのだと思います。
いままで撮影と読影というところで、いろいろ財政的手当の必要性について議論がありますが、それを遺族にフィードバックする説明のプロセスの辺りもかなり時間や人材などを取られると思います。それは全体のシステムの中の1つの必須のプロセスとして考えていく必要があるのではないかと思いました。
○門田座長 確かにおっしゃるとおりですね。宮崎先生がおっしゃるように、プロが所見として書いたものを素人が見たら、なかなか分かりにくかろうと思いましたが、確かに相手が誰かによってどう対応するかということは考えておかなければいけませんね。
○宮崎先生 いまのやり方はおっしゃるように確かにちょっと問題がありますが、一応現場で撮ったあとに、主治医、ほとんどは救急医になりますが、救急医の口からその所見は一応説明をします。その上で、専門医の所見として報告が行く。本当はその時点でもう一回やったほうがいいのですが、救急の患者さんですので、再来がなくその場しかないということと、先ほどから出ている救急がその時間をどのように取って確保して説明するかとかいろいろな問題があって、現状は少し不備はありますが、そういう形になっています。
○門田座長 そのほかにいかがでしょうか。
○池田先生 先ほどの先生のお話で、救急の先生方に死亡診断書、死体検案書に対するかなりの負担があるということでしたが、監察医制度のある地域においては、例えば東京23区内では、三次救急の先生も一般的にDOAで来ているような場合には、死亡診断書、死体検案書は書かないでということになっています。その場合でも、当然死亡の原因は知りたいということでCTを撮るのは大変いいことだと思います。これはちょっとここの議論とは外れると思いますが、救急医学会としては、監察医制度を全国的に広めるということで負担が軽減するというお考えでしょうか。
○鈴木先生 死亡診断書、死体検案書の作成が負担だという話ではありません。私たちが今回発表したのは、私の個人的な見解では、CPAOAの蘇生行為も、それに関連した診断の一連の事項はCT撮影も含めて、診療としてやらないとなかなか広まらないのではないかと思います。このこととは別に犯罪者を見逃さない警察庁の取組については、次元が全く別の話だと思います。
○池田先生 ですから、Aiを普及させていくに当たっては、先生方が死亡の種類まで判断しなければいけないという現状で、実際に死体検案書を書かざるを得ないという状況の下だと、先ほど先生からもお話がありましたが、所見がなくて、明らかな病死なのだと。
実は私が最近、救急病院の死亡診断書を見ても、詳細不明の病死という死体検案書がかなり多いのです。
○鈴木先生 そうでしょうね、私もそうだと思います。
○池田先生 それは要するにCTを撮って、出血もない、心臓死などが疑われるが、それ以上はわからない、明らかに病死なのだけれどもというのは、それはそれでいいと思うのですが、救急の先生方に死亡診断書、死体検案書の負担を強いているような状況、第一線に立つ先生方のいまのような状況で現状のまま放置しておいたのでは、Aiの普及を妨げるのではないかと思うのです。先生方は負担軽減の方向を望んでおられるのか、あるいは死体検案書、死亡診断書は、自分たちが責任を持って書くのが生きがいなのだと思われているのかです。
○鈴木先生 救急医が負担を軽減してほしいとかということではなくて、日本の国民が死についてどこまで究明する仕組みを持つのかという話ですよね。
○池田先生 そうです。
○鈴木先生 それは救急医が負担を軽減してもらいたいがために、こういうものを作ってくれということではなくて、国として、あるいはいま警察庁は犯罪死を見逃さないがためのことを一生懸命やられていますが、CPAや犯罪死を含めて、死をどう扱っていくのかという見方も1つはあるのではないかと思います。
○池田先生 そのお言葉で十分です。
○門田座長 ほかにいかがでしょうか。どうもありがとうございました。次は資料4に基づいて隈本先生からお話していただきたいと思います。隈本先生からは、国民目線という、医療関係ではなく、メディアの目というか、ちょっと違った角度からのお話ではないかと思いますが、よろしくお願いします。
○隈本先生 皆さんこんにちは。私は、組織の代表でもありませんし、特定の診療科があるわけではありませんので、どういう立場かということをお話するために、簡単に自己紹介をさせていただきたいと思います。
1980年にNHKに入りまして、記者という職種ですが、放送記者をやっておりました。主に医療とか災害の分野の取材を25年ほどやっておりました。2005年からは北海道大学で科学コミュニケーションの教育に携わっておりまして、2008年からは千葉県にあります江戸川大学という小さい大学で科学ジャーナリズムなどを教えています。
NHKにいたころはどんな仕事をしていたかと言いますと、主に医療関係の取材をしていたのですが、例えば、患者の権利をテーマにした「NHKスペシャル」を作ったり、「クローズアップ現代」を作ったりしておりました。例えば、カルテ開示とか、いま問題になっている院内感染といった「NHKスペシャル」を作っておりました。
関東に拠点を移してからは、産科医療補償制度の原因分析委員会の委員をしております。今年から新たに始まった再発防止委員会の委員もしています。ご存じの方も多いと思いますが、2009年に始まった産科医療補償制度の原因分析は、何しろ脳性麻痺の事例については、全例の原因分析をして、再発防止に役立てるという試みです。医師自身が、第三者的な立場から医学的評価をするということで、医療事故に対する全国で初めての無過失補償制度であり、同時に全例分析もする制度です。医師たちが、プロの職能集団として一生懸命原因分析をして、それを再発防止に役立てようというご努力には、同じ委員会のメンバーとして、大変頭の下がる思いがしているところです。
今日は、長いこと医療を取材してきた医療ウォッチャーといいますか、あるいは一般市民の立場から拙い私見ですが、述べさせていただきたいと思います。
まず、Aiに対する期待として、一市民の立場としては、そこは皆さん合意されていると思いますが、一般論として、日本における死因究明をしっかりしてほしいということですね。最近新聞報道された警察庁のデータによれば、年間16万人の異状死体に対して、刑事調査官が現場に出向いた割合は20%で、解剖にまで至ったのは10%です。
その中で、皆さんよくご存じの新弟子の死亡事件がありました。こういう顕著な分かりやすい事例だけではなくても、同じ警察庁のデータによると、2000年~2009年の10年間に、少なくとも19件が、その後犯罪に関連した死であったことがわかったというのです。しかもこれはおそらく多くの方が感じられているとおり、氷山の一角だろうし、。ちゃんと死因を解明していれば、こうした犯罪死の見逃しはなくなったのではないかと思います。お金をどこから使うのかとか、どういう体制でやるのかということを抜きにして、一般論として死因をもっとはっきりさせてほしいという期待があります。
もう1つの市民側からの期待として、死因究明の手段が増える。増えるという言い方は変ですが、いまは体表面からやっているところにAiを導入することによって、少しは向上するであろうということで、死因究明の手段が増えることによって「医療の質の向上」に期待をしております。それは例えば、誤診をあとで修正するということも含めて、これもまさにプロの職能集団として医療の質を高めていく努力の中の1つとして、期待があります。
そして、少なくともいわゆる診療関連死に関しては、真実の解明に役立つことを期待しています。もし、各地にAiセンターができて、専門の医師が第三者的立場で読影するシステムになれば、もちろん主治医を信用しないというわけではないのですが、例えば紛争になりそうになったときに、第三者的立場の意見というのは、患者さんにとっては非常に重い意味があります。「説得意図のない情報」はみんなが信用します。科学コミュニケーションにおいてもそうですが、何を言うかよりも誰が言うかという問題があります。そういう意味では第三者的立場で「これはこうですよ」という説明は、家族にとっては受け入れやすいことでもあります。
この委員会の中で、山本委員が提供された腎生検の3日後に死亡という例がありました。これはやった立場からすると、もしかしたら死亡に関係したかもしれないからあまり迂闊なことは言えないと思ってしまい、一方、患者さんには何か疑問が残ってしまう、といった状況になるところを、Aiをやることによってくも膜下出血であることがわかる。これによって無用な紛争というか、無用な争いは防がれるということでいえば、医療者側にとってもプラスになるんですね。こういったことが積み重なっていけば、医療者と患者家族の信頼関係の強化につながるのだと思います。この2つのポイントが市民側からの期待です。
費用を負担するのは国民です。国民の立場からしますと、既にCTとかMRI等のハードはかなり普及しています。これまでの医療が推進・普及する中で広がってきました。あとは撮影や読影にかかる費用ということになりますが、いまは5万2,500円が定価だという話でしたが、これを死亡した100万人とか110万人全員にやれば525億円かかる話です。基本的に死因を知りたいというのはありますが、どこまでお金を出すかについては、どれほど効果的かを国民が判断することになると思います。そのための情報を提供するのが専門家の皆さんだったり、メディアの仕事だと思います。異状死だけに限ってAiをやるなら84億円です。
皆さんの資料にはDOAとなっていますが、これは20年前に川崎医科大を取材したころの知識で書いたのですが、最近はCPAOAと言うらしいのですが、それだけに実施した場合には10万人とすると53億円です。
先ほど政務官が、診療関連死の話だけではありませんよということを言いました。私もそれはよく理解しています。ここは一般的に死因究明を検討する委員会です。が、診療関連死のことはどうしても無視できません。無視できないというか、それがどのぐらいのボリュームがあるのかということも考えておかなければいけません。ところが、いま日本では診療関連死の数はわかっていません。はっきりした数字がない。私も自分の著作を書くために調べてみましたが、やはりしっかりしたデータがありません。例えば、いま医療事故がどれだけ起きているかということでは、2004年から医療事故の義務的報告制度が始まっています。これは全国の約270病院で、病院数でいうと3%ぐらいになります。これは大きな病院が中心ですから、病床数ではパーセンテージはもっと多いのです。
しかし、これは自発的報告制度です。例えばこれがそれぞれの報告件数です。これは重大事故とか死亡事故に限らず、あらゆる医療事故を報告してくださいというシステムの中で報告された数で、1病院当たり年間5件です。1,000ベッドもあるような病院もある中で年間平均5件というのはあまりに少ないというのが私の印象です。これを報告件数別の病院数で見てみますと、何と0件というのが61病院で、全体の3分の1ぐらいを占めています。つまり、1年間1件も医療事故が起こらなかった病院が、実は61病院あります。
一方、同じ基準で101件以上報告している病院があります。これをどう見るかです。我々はよく冗談で、0件の病院を表彰したほうがいいのではないか、無事故病院だと実名で公表したらどうかと言っているのですが、明らかに自発的医療事故報告には、恣意的な要素というか、それぞれの病院がどのような体制で医療事故を収集し、それを報告しているかということが関わってきています。
このように同じ基準でありながら報告0件の病院が61病院もあるという状況の中で、自発的報告制度だけでは、もちろん皆さんご存じのとおり、報告してもメリットがなく、報告しなくても罰せられない、これはまさに正直者がばかをみるシステムです。しかも、自発的医療事故報告のもうひとつの問題点は、比較的わかりやすい事故ばかり、つまり、薬を間違えたり、患者を間違えたという非常にわかりやすい事故ばかりが報告されるが、ある医療行為が国際的にはどう考えても、もう10年以上古い医療行為であったということがあとで分かるとか、そういった高度なミスについては、この自発的報告制度の中では出てきません。なぜならば、その病院全体でその医療行為でいいという判断基準を持っているからです。誤診とか診断治療の遅れ等は見えにくい。そうすると、いま産科医療補償制度でやっているような全例報告に比べると、医療の向上・改善には役立てにくいということになります。
では、全体像をつかむ努力はどのように行われているかということで、海外では皆さんよくご存じのHarvard Medical Practice Studyなど、カルテ抜取りによる医療事故頻度の研究が行われております。ほとんどの先進国で行われていると言っても過言ではありません。日本でも実は厚生労働科学研究によって「医療事故の全国的発生頻度に関する研究」が一度だけ行われています。その報告書の中身がしっかりメディア等で伝えられていないのが、ちょっと残念ですが、非常に苦労された3年間の研究結果です。
全国30病院を無作為抽出して、協力を得られた18病院の4,389冊のカルテを分析し、医療事故の頻度を推定しています。有害事象は、避けられない合併症なども含めると、入院前が4%、入院後が6%で、いま数字としては441となっていますが、4,300分の441、10%が何らか医療に起因した有害事象です。このうち、明らかなミスのケースとか、明らかなミスではないが、医療行為やケアが原因と考えられるケースが251例です。さらにこのうち正しい医療行為やケアが行われていれば予防できた可能性が50%以上あると判定チームが判定したものは108例で、2.5%です。
今回の診療関連死に関わる数字として、「死亡した」という言葉は報告書の中にはありません。医療側のミスによって「死亡した」ということはないのですが、「死亡が早まった」という非常に婉曲な言い方をしています。その死亡が早まった例は4,400例の中で7例あり、頻度で言いますと627分の1です。前医が乳がんを見落としたために症状が進行して死亡が早まったというケース。心不全、肺炎に対する不適切な外来治療により急性腎不全を発症して死亡が早まったというケース。以上が前医で起きたもの。残りの5例が入院中に起きた死亡例です。
これを見ますと、Aiによって死因が特定されたときに、その医療事故の原因がわかるかということになりますと、若干微妙ですね。先ほどの議論の中にもありましたが、死因を特定するというのは、医療事故の原因を特定し再発防止に役立てる第一歩であって、スタートラインです。現実に死因がわかったからといって、どのような経過で死亡に至ったかというのが分からないと再発防止には役立たないわけです。
例えば下から3番目の「胃管が壊死し、膿胸に」ということであれば、死因がわかれば、その原因もわかりますが、例えば、上から3番目の「不適切な経口摂取指示により誤嚥性肺炎を発症」したというのは、死因が肺炎であったということしか分からないので、これはすなわち医療事故の再発防止に役立つ情報とは言えない。ただし、こうやって肺炎で亡くなったということを特定しない限りは、その原因には到達できない、再発防止には役立てないということになりますので、死因の特定は、あくまでスタートラインですが、そこが前提となるのです。正しく死因が特定されていないことには、この7例は見つけられないし、再発防止に役立たないことになります。
では、627分の1という発生率を考えてみますと、全国の年間の推定の退院患者数、平成20年度の患者調査の月間退院者数を12倍にすると、一般病院と診療所の退院患者は1,400万人ぐらいです。これに単純に627分の1を掛け算すると、全国で2万2,000人が医療側に予防可能性が50%以上ある状況で死亡しているということになります。これはおそろしい数で400人乗りのジャンボ機が毎週墜落しているのと同じぐらいのインパクトがあります。
医療側に予防可能性がある、もう少し医療が向上していれば防げた可能性のあるものは、決して数が少なくないと言いたいのです。標本誤差を考慮しても5,800人から3万9,000人ぐらいが、予防可能性が50%以上ある医療事故について死亡しているということです。これは年間の交通事故の死亡者(24時間以内の死亡者に限る)が5,500人ぐらいというのと比較すると、同じかそれ以上死亡しています。
私は決して日本の医療が危険だと言っているわけではありません。この医療事故の発生頻度は、欧米の先行研究とほぼ同じレベルです。有害事象の率で言っても、カナダで同じ基準で行われた有害事象のカルテ調査などと比べてほとんど同じレベルです。欧米の医療水準と日本の医療の水準は、オーダーが違わず、ほとんど同じようなレベルです。そのなかで、年間の交通事故死者と同じか、それ以上が死亡していることを考えると、診療関連死というのはボリュームがけっして小さいものではないということです。
私は医療者の責任を追及したいのではなくて、むしろ逆です。医療の現場は孤立無援です。これはイギリスのラドクリフ病院のセーフティマネジャーのティム・グスタフソンさんからいただいたもので、とある国の射撃訓練の様子です。つまり、非常によく練られたプロは、このように下で人が持っていても、ちゃんと上の的を撃ち抜くことができる。これほど訓練された精鋭部隊であることをPRしたいための訓練です。
彼がこれを出してきた理由は、医療というのはプロであるから失敗をしてはいけないといって、お互いに注意し合い、最善の努力をして、いい結果を出そうとしているが、例えば、プロのどんなに上手な射撃手であっても、ものすごく疲れていたり、撃つ直前にポンと肩を叩かれて「ねえ」と声をかけられたりしたら、もしかしたら的を外すかもしれない。外してしまうと、下で的を持っている彼は死んでしまう、そんな状況が、いまの医療の状況である。つまり、プロとしての最高のレベルを発揮し続けない限りは事故が起き、それが患者の死亡につながってしまうという現状なのだということを、彼はこの図を使いながら説明しました。
まさにそのとおりです。事故を減らせということで、医療者の努力を要求するばかりではだめです。交通事故と比較してみましょう。国や社会は、交通事故を防ぐために警察官とドライバーに頑張れとだけ言うのではなく、当然のように道路を立体交差にしたり、信号を作ったりと安全のための多額の投資をします。それが近代国家として当然なのだ。たくさんの人が診療関連死で亡くなっているとすれば、医療界だけに頑張れと言ったり、少ないお金と、ものすごい過重な労働環境の中で、医療事故防止に頑張れと言い続けるのは正しくないだろうといえると思います。
そういう意味で、医療事故防止対策は、国を挙げて取り組むべき対策であり、ヒト・モノ・カネを注ぎ込むべき対象であり、先ほど言ったAi普及への数億円とか数十億円というお金は、決して惜しくない。つまり、死因を究明して、それが医療事故の再発防止に役立つのであれば、国民としてはそこに出すという選択をしても、全然惜しくないお金だと思います。医療者に安全の努力を求めるだけでは駄目なのだということで言えば、このAiの検討会は非常に意義深いものがあると思います。
医療事故の発生数について、ただ一度しか研究がされていないといういまの日本の現状から考えると、この問題をもっと公の議論にして、医療事故防止のために医療現場だけではなく、側面の応援が必要だということで、予算の必要性を国民に訴えていく必要があります。
結論としては、最初に戻りますが、国民の希望は「死因をしっかり知りたい」。そのために、ある程度の負担はあり得ると私は考えます。医療者のプロの職能集団として、そうやって自分たちのレベルを高めていこうという努力に対する敬意も持っています。ですから、Aiセンターを各地に整備し、同時に、人材養成を進めて効果的なAiの普及、つまり、Aiは普及したのだが、死因の特定率が上がらないのでは意味がないので、そういう意味では読影の専門医を増やすことも含めて、普及を推進していってほしいというのが、私の意見です。以上です。
○門田座長 ありがとうございました。最後のまとめは、医療者サイドとしてもホッとするような感じでもありましたが、また、耳の痛いお話でもあったのではないかと思います。しかし、これが国民目線だというメディアを長く経験された先生のお話としてお伺いしました。ご質問、ご意見はありますか。
○木ノ元先生 先生の発表を非常に興味を持って聞かせていただきました。質問させていただく前提として、まず1つは、足立政務官も先ほどおっしゃっていましたが、診療行為関連死亡に限らないということで、死因究明であるということです。それと先ほどの議論の中にも出てきましたが、Aiについては所見を見るのだということです。それを中心に考えていこうということについては、全員のコンセンサスみたいなものが形成されていると思いますが、先生のご発表を伺うと、医療事故ということで診療行為関連死亡にかなり特化されたご意見であるとともに、事故の再発防止ということを盛んにおっしゃっているように感じました。
前の検討会で、深山先生の発表のあとに申し上げたのですが、Aiによってわかるのは何かということをしっかり捉えておかなければいけない。直接何で死亡したかという最終的なところで何が起きたかは非常によく分かる。ただ、診療行為との関連で医療行為がこうだったから、こういう結果に至ったということまで分かると言えるかということについては、必ずしもそうではないので、それが国民目線であまり期待が大きくなると、誤ったメッセージを送ることになるのではないかということを指摘させていただきました。
先生のお考えがやや事故再発防止に比重が置かれ、Aiをやることによって医療の中で何が足りなかったのか、医療として何を反省すべきなのかということが分かるのだというように聞こえるので、少々心配になってしまったのですが、その点はどうなのでしょうか。
○隈本先生 この検討会が単に診療関連死だけをテーマにしたものではないことについては、よく分かっております。そして自分のプレゼンの時にもそう申し上げたつもりです。2つの国民からの期待のうち、2つ目のことを詳しく申し上げたのみで、まず診療関連死に限定した話ではないということは十分わかっております。先生のおっしゃるとおりです。
もう1つ、先ほど申し上げましたように、体表面でわからなかったことについて、Aiでわかることが追加されるという認識であることについては間違いありません。だから、それはあくまで病態についての診断が行われるだけです。ですから、それが医療事故の再発防止にストレートに役立つものとは思っていません。当然それは第三者機関であろうが、いま議論されている院内調査委員会であろうが、何らかの医療事故原因分析と同時並行で行われて、初めて再発防止に役立つものになるのでしょう。
ただ、院内事故調査にしても、いまは完全に議論が止まっている第三者事故調査にしても、まず死因の特定がすべてのスタートラインであろうと思います。要するに死因が病死にあるのか、そうではない死であるのかということが、院内事故調査ないしは第三者事故調査がスタートするスタートラインである以上、原因分析の最初の段階であろうと思います。これがない限り原因分析はできないわけですから。再発防止にも役立たない。
間違ったメッセージを国民に伝えることになっては困るというご懸念については私も同じです。Aiをしたら、いきなりいろいろな事故原因が次々にわかって、再発防止になるのだとは、私自身も決して思っていません。もし、そういうメッセージが伝わるようであれば、そういうことではないということを改めて申し上げたいです。
ただ、何のためにAiを推進するのか。国民のお金を使ってやるのですから、その目標はやはり医療の向上しかないと思います。もちろん犯罪死の見逃し防止ということで、社会全体の安全の向上というのはあります。でも、それ以上に国民が期待しているのは医療の向上です。それゆえに、死因の特定がそのスタートラインであるということで申し上げたのであって、何度も言うようですが、Aiですべてが分かり、医療事故の原因が分かったり、それが起こった背景まで分かるなどということはあり得ません。それはかなりシステム的に調査をする委員会の仕事と「同時並行」で、「車の両輪」みたいな形で進めるべきだと思っています。
○木ノ元先生 あと1つ、先生の発表の中で気になったのは、報告制度の話が出てまいりまして、実際に報告するのも自発的な報告に任されているので問題ではないか、という話があったのですが、報告が自発的であって、なかなか出てこないことをもって、死因究明、事故再発防止に役に立たないから、自発的報告はやめてAiがそれに取って代わるべきだということではないのですね。
というのは、報告がないという話は、全く別の議論をしないといけないと思うからです。つまり、報告したときに個人の責任追及との関係がどうなるかというような、報告制度全体のシステムがまだ不完全な状態の中で、報告したくても自分の責任がどうなるか分からないから、報告を控えたいという動機づけも、当然あるわけですね。航空事故調査と同じハーグ条約的な考え方が、医療事故の調査に適用できるかどうか。これは事故調査委員会の話と関連するのですが、そういう議論を横に置いておいて、現実問題として報告が少ないからという話が最初にきて、医療現場がなかなか報告しないという不誠実なものがあるので、Aiで死因究明を積極的にやりましょうというように聞こえてしまうのです。私はそれは違うのではないかと思うので、先生がそうではないとおっしゃるのだったら、そう言っていただきたいのですがいかがでしょうか。
○隈本先生 それは深読みだと思います。つまり、医療事故報告制度の例を挙げたのは、これでは全体像がわからない。少なくとも調査結果に全ベッド数を掛け算して、医療事故の全体像が分かるようなものではないということを申し上げて、制度の問題点を申し上げたのです。
これが医療側の不誠実なのか、あるいはシステム上の問題なのか、それはわかりませんが、これは義務制度ですから病院には報告義務があるわけです。もし報告したらどうなるのだろうかということで、報告をしたりしなかったりすることが裁量的に許されている制度ではありません。これを報告しなかったからどうだという罰則はありませんが、報告制度自体は、「報告したらあとで刑事責任を追及されるのではないかと思って報告しない」ということが許されている制度ではない。
そのことはまた別途議論することにしますが、私がこれを申し上げた意図は、いま診療関連死の全体像を明らかにして、それに対してどれだけお金を使うべきかという、政策論的な議論をしなければいけないのに、診療関連死の全体像については国民が知らないということです。もしかしたら、医師の賠償保険を扱っている人たちは知っているのかもしれません。少なくとも国民的に、どのぐらいの頻度で診療関連死が起きているかということは知らされていないので、いくらお金を使うべきかという議論になかなか行かれないということを、この例を挙げて申し上げたのです。
○木ノ元先生 私がいちばん懸念するのは、事故調査の話が、なぜあれだけ検討会を重ねて頓挫してしまったかということをよく考えていただきたいのです。私は、いろいろな目的があそこに盛り込まれることによって、集約された1つの目標に向かってという議論ができなくなってしまったからだと考えています。再発防止なのか、純粋な死因究明なのか、責任追及まで行くのかという議論が未整理のまま混乱し、まとまらなかったわけです。
私がこのAiの検討会に参加して思うのは、所見を見るとか、死因究明であるということに特化してまず始めましょうということであれば、非常に納得がいくわけですが、そこで医療事故の再発防止ということまで考えるということになると、いろいろな議論が出てきて、Aiを直ちに導入していいのかどうかについて、多くの疑問が提示される危険性があるのではないかということです。できれば医療事故の再発防止ということを、あまり言わないほうがいいのではないかと思うのですが。
○隈本先生 もう一度説明しておきますが、責任追及と再発防止は別です。個人の責任追及とか何らかの法的な責任の追及という問題と、再発防止とは別で、私が申し上げたのはあくまで再発防止です。Aiの推進によって、是非進めていただきたいのが再発防止であるということは、「そんなこと言ったら、多くの関係者が反対するようになるから言わないほうがいい」と言われても、私はぜひ言いたい。
つまり、Aiの目標は、あくまで医療のレベルを上げていき、国民の犯罪に対する不安を取り除くという目的であり、それがない限りは、お金を注ぎ込んで、システムをやって、放射線科医にさらにエネルギーを使っていただいたり、放射線技師にエネルギーを使っていただくわけにはいかない。目的は何と言っても、医療のレベルの向上と、国民の犯罪の見逃しに対する不安を払拭するという2つであることについては、それを言わないほうがいいと言われても、私としては言いたいのです。
○門田座長 両方の方がおっしゃっているのは、これはこれで正しいのだと思いますが、私の考えでは手順の問題だと思います。政務官もおっしゃっていたように、Aiそのものが死因究明にどのようなところまで行けて、どういう限界があるかということからひとまずスタートする。そして、それが出来上がって、医療関連死も含めて、死因究明がどういう形で、そのほかのところにも関連性があるか。当然そこまで視野に入っているのですが、手順とすればそれを一緒にやり出すとここでの議論がまとまりにくいので、まず最初に死因究明ということで、Aiをどう活用できるのか、どういう限界があるのかということだと、私も理解させていただいておりますし、そういう前提でここの座長を引き受けたのだとと申し上げたいと思います。おっしゃっておられることは皆さん分かっておられると思いますので、順次そういうことで詰めていきたいと思います。
1つだけ隈本先生にお尋ねしたいのは、ここにおられる皆さんは、基本的にヒト・モノ・カネが相当かかるということは考えているわけです。お立場として、国民サイドの目として、当然そこまでやって、医療のクオリティを高めようという先生のご意見はわかるのですが、これが国民レベルで理解されるためには、あるいはいま理解されるだろうか、どのような理解を得る方策があるのだろうかという辺りはいかがですか。
○隈本先生 まず前提条件としては、国民の多くが現状を正しく認識することですね。そうすれば、これは何とかしなければいけないということで、多少の金がかかっても仕方がないということになるでしょう。その前提条件、つまり現状がどうで、医療現場の人たちも警察関係の方々も、どのように問題があるかということをある意味で赤裸々に国民に示すことによって、ある程度の費用負担は認められると私は思っています。
いま全体で35兆円の医療費を使っていますが、その35兆円の医療費について、「これをいくら使っていいでしょうか」といちいち国民には聞いていないわけです。先生方の専門性に期待し、専門性を信じて支出されている面があると思います。Aiについては、あくまで医療費外から支出すべきだという原則論をそのまま進めるべきだと思いますが、ある程度の、金額が何億円なのかと言われると私もわかりませんが、かなりの金額がかかっても、こんなに効果がある、いまこんなに困っているということが、正しく国民にPRできれば理解が得られるものだと思っています。
○門田座長 時間がどんどん遅れてきますが、ただいまの隈本先生のご発表で何かありますか。
○池田先生 ここの先生方の共通の認識としてあそこにもたまたま書いてあるのですが、例えば、肉親・親族が死んだら、死因究明をしっかりしてほしいというコンセンサスが得られているという立場で我々は議論してよろしいということですか。
その話をすると、死因は知りたいことは知りたいが、例えば解剖まではしてほしくないとか、さらなる検査は長く入院したので、手術もした、何もしたでこれ以上傷つけたくないとか、採血も駄目、場合によってはレントゲン等も含めて駄目ということで、死因究明に資する委員会なのですが、死因究明は誰のためにということになって、一般国民は、本当に死因を知りたいと思っているというコンセンサスの下で議論していいのかということなのですが。
○隈本先生 私の意見ですが、まず知ることができるシステムづくりがあったあと、それを任意に放棄するということはあり得ると思います。つまり、死因を知る手立てはありますが、「先生もういいです、もう帰りたいです」と言って、家族が任意に放棄することはできます。
選挙権を持っているが、その日はどうしても投票に行きたくなければ行かないという選択があり得るのと同じで、そういう選択肢があった場合に、それを任意に放棄することはあってもいいし、そのことをよく説明して、「私はいいです」という人がいるのが健全な社会だと思います。いまは、死因を知りたいと思っても知ることができないという現状ですから、それを改善し、知りたいと思う人がいれば知ることができる方法にすべきではないかという議論なのです。中には死因を知りたくないという人もいると思います。それはあくまで自分の知る権利を任意で放棄しているので、いいのではないでしょうか。あっていいと思います。
○池田先生 死因究明をしっかりしてほしいというのは、一般論としての国民の意見であるということですか。
○隈本先生 もちろん例外はあります。児童虐待とか高齢者の虐待だというケースについては、また別途議論すべき議論があると思います。でも死因を知りたいか知りたくないか、その選択肢があれば、国民のうち、何人かが知る方を選択し、何人かは「私はいいです」と言うのは健全な選択だと思います。
○池田先生 この委員会でそのようなコンセンサスの下に議論をしていくということでよろしいのですか。
○隈本先生 私は賛成です。
○木ノ元先生 前回、遺族の納得と、それに加え、社会の納得が必要であるという話が江澤先生からありましたが、先生もおっしゃった児童虐待などの側面を考えると、虐待している親が積極的に賛成するわけがないという観点も見逃してはいけないのではないかということですね。この遺族の納得と社会の納得をどのように捉えるか。それがどういう場面で問題になるのかという点は整理しておく必要があると思います。
○門田座長 そうですね。先ほどの鈴木先生のお話でも、医療従事者とすれば、医療そのものの質を高める意味においても必要だという意見もあるわけです。ですから、立場によっても違うと思います。
今回まではずっとお話を聞かせていただいているので、これからあと数回の間にまとめていく、その過程で、個々にそういう問題についてもディスカッションしていったらどうかと思いますが、よろしいですか。
それでは、時間もすぎましたので、本日の3人の先生によるご発表をこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
最後に1枚ものの資料5が残っておりますので、これについて事務局からご説明をお願いしたいと思います。
○医政局総務課医療安全推進室長 資料5についてご説明いたします。表面は厚生労働省の概算要求を出しているもので「死因究明体制の充実に向けた支援の概算要求状況」です。1はモデル事業の関係、2は異状死死因究明支援事業の関係、3は死亡時画像診断システム整備事業の関係で、この1、2、3については、第1回目の検討会のときに資料として出しましたが、その継続で、この中にAi活用に関する予算が入っているということでご理解いただければと思います。4は全くの新規で、これまでの先生方の議論を踏まえて、死亡時画像読影技術等向上研修を新規で要求する段階まできており、その費用が400万円です。詳細はそこに書いてあるとおりです。
あと、これは私のほうから積極的にということではないのですが、裏面に警察庁からも資料をいただいておりますので提示してあります。「警察における死因究明に関する取組みの推進」の平成23年度概算要求額を、現時点で21億円ほど要求しております。概算要求の状況について、こうなっていますということをご紹介いたしました。以上です。
○門田座長 8月の段階までに概算を出すので、何とかまとめてということで、前回のときに方向性だけについては、皆さん一致しているということでお願いしたものを概算要求に向けても是非ご努力をという形になりました。こういう形のものが財務省に行っています。これは行っているというだけで、これ以上ディスカッションしても仕方がありませんので、4に太いボールドで出ていますが、もう少し欲しいというのが正直な気持です。そんなことを言っても仕方がないと思いますので、こういうのが少なくとも新規に付けられるということであれば、前に向いているということだと思いますので、これはこういうご報告ということにしたいと思います。そのようにさせていただきたいと思います。
○医政局総務課医療安全推進室長 追加資料について若干ご説明します。足立政務官が冒頭の挨拶で言われたとおり、Aiについて、関係省庁への働きかけについてはどうかということです。最後の頁のいちばん下に、Aiの推進についても、IT戦略本部に政務官にお話をしていただいて、工程表にも入れ込まれ、今後こういう動きになっているということです。先ほど政務官が言われたことの補足的な資料です。
○門田座長 そういうことで引き続きAiの活動が進んでいく形が全体像として作られているということですので、それは期待したいと思います。
ということで、本日準備いたしました議題は以上ですが、最後に何かご発言はありますか。
○医政局総務課医療安全推進室長 次回の第5回は、10月22日金曜日の14時~16時の開催を予定しておりますので、ご協力方をお願いしたいと思います。本日はありがとうございました。
○門田座長 これで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
<照会先>
医政局総務課医療安全推進室
室長 渡辺真俊: | 内線2570 |
室長補佐 今川正三: | 内線4105 |
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