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2010年8月2日 第2回肝炎対策推進協議会

○議事

第2回肝炎対策推進協議会


日時 平成22年8月2日(月)15:00~
場所 中央合同庁舎第5号館5階共用第7会議室

 ○伯野肝炎対策推進室長 定刻となりましたので、ただいまより「第2回肝炎対策推進協議会」を開催いたします。委員の皆様方におかれましては、お忙しい中をお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。本日は今のところ18名の委員にご参集いただいておりますので、会議の定足数に達しておりますことをご報告いたします。
 まず、参考人のご紹介をさせていただきます。元国立感染症研究所所長の宮村達男先生です。慶應義塾大学看護医療学部教授の加藤眞三先生です。JFEスチール株式会社安全衛生部長、日本経団連産業保健問題ワーキンググループ座長の高橋信雄先生です。武蔵野赤十字病院副院長の泉並木先生です。また、本日は人権擁護機関の取組ということでご紹介いただきます、法務省人権擁護局の中嶋様です。事務局ですが、7月30日付で人事異動等により交代がありましたので、ご紹介させていただきます。外山健康局長です。松岡健康局総務課長です。

 ○外山健康局長 私は若いころ、いつの間にかB型肝炎ウイルスに感染したことがありますし、針刺し事故であるとか、この間も黄疸でだいぶ苦しんだ経験がありまして、全力で職責を全うしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

 ○松岡健康局総務課長 松岡でございます。よろしくお願いいたします。

 ○伯野肝炎対策推進室長 開会のご挨拶に政務官を予定しておりましたが、ただいま遅れておりますので、議事に入る前に資料の確認をさせていただきたいと思います。席上に配布しております資料をご覧ください。まず、次第がありまして、1枚めくりますと座席図、参考人一覧、配布資料一覧があります。資料1は肝炎推進協議会の委員名簿ですが、一部委員の肩書きに変更がありましたので新しい役職で示しております。資料2は3~6頁です。資料3は肝炎患者の遺族、患者会のボランティアとしての意見で、7~15頁です。資料4は肝炎治療の現状と今後の課題についてで、17頁からとなっております。資料5は肝炎研究の現状と今後の展開で、41頁からとなっております。資料6は医療従事者と患者の相互連携による治療推進の取組についてで、51頁からとなっております。
 資料7は職域における肝炎対策の推進についてで、61頁からです。資料8は肝炎を含む感染症対策に関する労働組合の取組等についてで、69頁からとなっております。資料9は全国中小企業団体中央会の取組についてで、71頁からとなっております。資料10は企業の取組で、73頁からです。資料11は健康保険組合連合会の取組についてで、75頁からとなっております。資料12は中小企業における肝炎検査・治療実態に係る研究結果についてで、77頁からとなっております。資料13は法務省の人権擁護機関の取組についてで、85頁からです。資料14は肝炎対策基本指針作成のための論点表で、109頁からとなっております。資料15は感染症対策特別促進事業についての一部改正について(案)で、111頁からです。資料16は肝炎対策推進協議会のスケジュール案で、117頁からです。資料17は平成22年度政策評価書で、119頁からとなっております。
 参考資料1-1として、肝炎対策基本法が1~6頁、1-2として、肝炎対策推進協議会令が7頁からです。参考資料1-3は肝炎対策推進協議会運営規程ですが、こちらは前回案を示し、ご了承いただいたものです。参考資料2-1はウイルス性肝炎に関する経済界への協力要請書で、11頁からです。参考資料2-2は肝炎対策への協力についてで、13頁からです。参考資料2-3は職場における肝炎ウイルス感染に関する留意事項についてで、23頁からです。参考資料2-4は労働者に対する肝炎ウイルス検査の受診勧奨等の周知についてで、35頁からです。参考資料2-5は労働者に対する肝炎ウイルス検査の受診勧奨等の周知についてで、39~55頁となっております。
 このほかメインテーブルのみですが、法務省人権擁護局作成の「人権の擁護」というパンフレットを配布しております。なお、こちらについては法務省のホームページよりダウンロードが可能です。また、すべての肝炎患者の救済を求める全国センター準備会より協議会あてに要望書をいただいておりますので、合わせて席上配布しております。資料は以上ですが、過不足等がございましたらお申し出いただければと思います。それでは、会議の開催に当たりまして、山井厚生労働大臣政務官よりご挨拶をさせていただきます。

 ○山井厚生労働大臣政務官 皆さん、こんにちは。本日はお忙しい中、第2回肝炎対策推進協議会にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます。前回もお話をお聞きして、本日も平井さんと天野さん、ご遺族の方々からお話をお聞きするとともに、肝炎医療の現状や検査、治療促進に関わる関係者の方々のお話をお聞きすることになっております。
 振り返れば、この肝炎対策推進協議会が立ち上がるまでには、本当に多くの方々の命がけのご尽力があったと思います。平井さんもお亡くなりになってしまいましたし、天野さんもお亡くなりになってしまいましたし、まさにご自身がご病気を押しながらも、ウイルス性肝炎という国民病とも言える課題を何としても克服したい、そのような思いがこもったのがこの協議会であろうかと思います。薬害C型肝炎の訴訟もございました。また、同時に今B型肝炎の予防接種の訴訟も行われております。もちろん、訴訟の解決も重要なわけですが、訴訟の場合はどうしても最終的には線引きというものが付き物でして、100%すべての肝炎感染者、肝炎患者の方々への対応ができるというものではありません。そのような意味では、まさに訴訟での解決で対応できない多くの方々への支援というものを議論するのが、この協議会であると思っております。
 明日も衆議院の厚生労働委員会が行われますが、その前の理事会において、お約束になっております今回の肝炎対策推進協議会のご報告を、私から与野党の衆議院厚生労働委員会の理事の議員の方々にさせていただくことになっております。非常に厳しい財政状況の中でありますが、やはり肝炎対策基本法という超党派で成立した、本当に多くの患者の方々、ご家族の方々、ご遺族の方々、現場の方々の思いのこもった基本法が超党派で成立し、それによってこの肝炎対策推進協議会がスタートしたわけであります。この中で活発な議論をしていただきまして、少しでも多くの患者の方々、感染者の方々が早期に、より適切な治療、そして検査を受けられるように、生活支援を受けられるように、皆さんにご議論をしていただきたいと思っております。と言いながら、限られた財源という制約の中で、私ども厚生労働省としても大変苦労するわけですが、ここでの議論が一歩一歩多くの患者の方々の明るい未来につながるように、私どもも全力で頑張っていきたいと思います。本日は誠にありがとうございます。よろしくお願いいたします。

 ○伯野肝炎対策推進室長 カメラ撮りはここで終了とさせていただきます。これより進行は林会長にお願いいたします。

 ○林会長 それでは議事に入ります。6月に開催された第1回協議会では、協議会の運営規程及び協議会のスケジュールについて共有をした後、肝炎対策の現状について事務局、溝上委員、桜山委員、及び山梨県福祉保健健康増進課荒木課長よりご説明いただき、その後、肝炎及び肝炎対策の現状に係る疫学部について田中委員から、肝炎患者の方々を代表するお立場として委員となっていただいている阿部委員、木村委員、武田委員からのプレゼンテーションをいただきました。本日は2回目ですので、まず委員及び参考人からご発表いただきたいと思っております。委員等からのプレゼンテーションですが、前回に引き続き、肝炎患者、家族、遺族の方々を代表する立場として委員になっていただいている方々からご発表いただきたいと思います。まず、平井委員にお願いいたします。

 ○平井委員
 1.はじめに。平井美智子です。私の夫、平井要は今年2010年の1月31日、59歳で亡くなりました。この日は私たちの31年目の結婚記念日でした。感染の原因は、血液製剤クリスマシンの投与によるC型肝炎です。死亡診断書を見ると、死因は肝硬変による腹腔内出血、病年数は28年とありました。結婚生活31年のうち、28年間はC型肝炎ウイルスと一緒の生活でした。
 2.夫の病歴。1982年にクリスマシンを投与された後、肝硬変の数値が異常に高くなり、生死をさまよいました。命を取りとめたものの、2年間入退院を繰り返しました。感染時にはまだ5カ月だった長男が、退院するころには歩けるようになっていました。退院するときに「慢性肝炎」と診断されましたが、病院側から詳しい説明がなかったので、その意味はよくわからず、あまり気にもとめませんでした。私たち夫婦にとっては慢性肝炎という病名よりも、目の前の生活のほうが重大事でした。私たち夫婦は塗装業を営んでいます。夫の家業です。しかし、入退院を繰り返した2年間で多くのものを失いました。信用を失い、取引先を失い、収入を失いました。これを取り戻すのに必死でした。感染する前以上に、寝食を忘れて働きました。
 病院からは定期的に通院するように指示されました。ただ、夫が「先生、どうしたらいいんですか」と尋ねても、担当医から「大丈夫、薬を飲みましょう」と答が返ってくる程度で、何のための通院かもよくわかりませんでした。2000年、夫が50歳になったころ、たまたま通院した際に肝機能値の異常を指摘され、肝生検を受けました。このとき初めて「C型肝炎」という病名を伝えられました。医師からは「今はインターフェロンしか治療方法はない。しかし、平井さんのウイルスの型はインターフェロンの効きにくいタイプだ」とも言われました。私は夫に「病状が進む前にインターフェロンを受けてください。今だったら間に合うかもしれないから」と治療を勧めました。しかし、夫は「俺はもう覚悟はできている。20年前のようにベッドに寝たきりになるのは嫌だ」と言って、私の言うことを聞いてくれませんでした。
 夫は多くを語るタイプではありません。夫が心配したのは、家業である塗装業のこと、その塗装業の収入で養っている家族のことだったのでしょう。当時のインターフェロン治療は、何カ月も仕事を休まないとできませんでした。20年前と同様に長期間仕事を休めば、再び取引先は離れていき、信用と収入を失います。そうなれば、子どもの教育はどうなるのか、年老いた母親を不安がらせるのではないか、それなら自分が犠牲になればいい、そう考えたのだろうと思います。それから数年で夫は肝硬変になり、余命1年と医師から告知されました。
 しかし、精神力と生命力で3年間頑張りました。この3年間は病気との壮絶な闘いでした。夫は我慢強い人でしたが、身体のつりとかゆみには相当参っていました。死ぬ前の1年半の間には肝がんの治療や、食道と胃の静脈瘤の手術を5回も受けています。どのときも2週間程度の入院で、入院中に3回も全身麻酔をして手術を受けたこともありました。静脈瘤の手術のときは前日から絶食で、術後4日目にやっとおもゆが許可されました。この繰り返しで、入院するたび、そして退院するたびに衰弱していきました。最後に家に戻ってもほぼ寝たままで、家の中の移動も手すりにすがるようにして歩いていました。
 夫は地域の中核病院で治療を受けていました。しかし、病院の方針なのか、術後の経過も良くならないうちに、追い出されるようにして退院させられたことがあります。また、スタッフも足りていないのでしょう。定期検診では予約の時間より1時間も早く出掛けていったのに、3時間半も待たされました。肝硬変、肝臓がんで入退院を繰り返している患者は、座っているだけでも辛いのです。3時間半横になるベッドもないまま待ち続けるのは、本当に苦痛です。それをただ見守るしかない家族にとっても辛い時間でした。夫は重度の肝硬変となり、頻繁に体がつるようになりました。お風呂でおぼれそうになったこともあり、少しも目が離せないほど悪い状態でした。
 2010年の年明け早々、私は見るに見かねて、主治医に入院させてくださいとお願いしました。しかし、足がむくむとか、微熱があるとかという程度では入院させないのが厚労省の方針だと断わられました。また、主治医からは「緩和治療のための病院ならあるが、いざというときにはちゃんとした治療を受けられないよ」とも言われました。なぜ、二者択一なのでしょうか。患者の苦痛を取る肝硬変、肝がんの治療をする、どちらも医療ではないでしょうか。両方を望むことは我がままなのでしょうか。このやり取りの3週間後に夫は亡くなりました。わずか3週間後に亡くなるほど重度の肝硬変であっても入院が認められない、これが日本の医療なのです。1月18日、体のむくみと腹水がひどく、利尿剤を飲んでも尿が出なくなって救急車を呼びました。緊急入院後、一時は持ち直したように見えましたが、もう肝臓が働かず、1月31日に永眠しました。
 3.身体障害者手帳の申請。今年の4月から肝機能障害にも身体障害者手帳が交付されるということで、昨年から準備をしていました。しかし、夫は申請前に亡くなりました。亡くなった後で、担当医から認定用の診断書を見せてもらいました。死亡直後の1月の審査では「1級相当」と診断されていましたが、昨年8月の審査では点数が足りず、「4級相当」との判断でした。しかし、昨年8月と言えば、夫は静脈瘤と肝がんの手術で入退院を繰り返し、壮絶な闘病生活を送っている最中です。この時期にこそ、身体障害者手帳が必要でした。肝臓が働かなくなって、動けなくなって、死が目の前に迫っている、そうならないと1級に認定されないような基準では障害者手帳をもらう意味がありません。
 慢性肝炎は無理のきかない病気です。肝硬変にまで進めば、なおさらです。昨年の夫は治療と定期検診のために週3回通院し、静脈瘤や肝臓がんが見つかれば、その都度入院しなければなりませんでした。病気自体の持つ苦痛、仕事ができず収入ダウン、そして負担しなければならない医療費は増えていく、闘病生活の負担は大変なものです。私たちは家族が一丸となることで何とかしのぎましたが、個々人の努力では、しょせん限界があります。肝硬変、肝臓がんと診断されたら、1級か2級に認定してほしいと思っています。
 4.要望。夫と私たち家族のC型肝炎との闘いは終わりました。夫は60歳を目前に、家族を残して亡くなりました。早過ぎます。本当に無念だったと思います。この心中を思うと、胸が張り裂けそうです。夫を診察してくださった4人の医師は口を揃えて、「平井さんは本当にすごい人でした。あんな風に考えられる人はいません、立派でした」と目を赤くして話してくれました。家族のことを思い、1日でも長く頑張ろうと闘病を続けたのでしょう。夫の最後の言葉は、「俺にはまだやりたいことがたくさんあったのになあ」でした。夫は薬害肝炎訴訟の原告となることで、「ほかの多くの肝炎患者を救いたい」と言っていました。
 私は夫が言い続けてきたことを訴えます。第1に、ウイルス肝炎患者が仕事や生活のために治療を断念しなくてもすむような生活支援、医療支援を実現してください。新しい福祉制度が必要なら、それを創設してください。第2に、死ぬ間際にならないと1級にならないような障害者認定基準を見直し、肝硬変や肝がんの患者を1級または2級に認定してください。肝硬変自体の重症度よりも、患者自身の生活実態に着目して基準を作ってください。第3に、肝炎患者が最後まできちんと治療が受けられるような医療体制を実現してください。
 5.最後に。夫のように肝硬変、肝臓がんで亡くなる方が1日120人いると聞きました。今日もまた壮絶な闘病の末に、120の命が失われています。その原因の多くは肝炎ウイルス、そして、その多くは輸血、予防接種、血液製剤という医療行為で感染したものです。もう少し国がきちんと対応していれば、ここまで感染は蔓延しなかったはずです。ここまで多くの苦しみを生まなかったはずです。国として何ができるか、この協議会で活発な議論を期待しています。最後に一言付け加えさせてください。1回目の協議会でも、今日の予定でも、肝硬変以降のことがあまり取り上げられていません。でも、肝硬変になってからのほうが辛いのです。国が早く知らせてくれていたら、早くに治療ができて、肝硬変にならずにすんだ人もたくさんいたと思います。是非、この点をきちんと指針で定めてください。よろしくお願いいたします。

 ○林会長 平井委員、どうもありがとうございました。何かお聞きになりたい点はありますか。それでは、また後ほどご質問いただければと思います。続きまして、天野委員にご発表をお願いいたします。

 ○天野委員 私は日本肝臓病患者団体協議会所属の天野聰子です。夫の天野秀雄はC型肝硬変から合併した肝細胞がんによって、一昨年亡くなりました。肝炎対策推進協議会に臨んで、いくつか意見を述べさせていただきます。なお、意見陳述書の後ろに参考資料を添付してあります。文中で(参照)とあるときは、この資料を参照していただきますようお願いいたします。
 1.肝炎対策基本法の理念。日本では、予防接種や診療所で注射器の使い回しが行われていたことは多くの方々の記憶しているところであり、B型・C型肝炎ウイルス感染の拡大の責任は国にあるということは、司法の場でも明らかにされております。天野秀雄もこの厚生行政の被害者の一人です。残された手帳に「死にたくない、死にたくない!!」と血を吐くような叫びを記して、常に死と隣合わせの恐怖にさらされ続け、肉体的にも精神的にも、そして経済的にも苦しみを強いられた末に、命を奪われました。天野の肉筆の手帳のコピーは参考資料1として添付しましたので参照してください。最後の肝がんを手術した後、ICUのベッドの上で、肝不全による黄疸で真っ黄色になった目で私を見つめて、「駄目、もう駄目」と口を動かしました。そのときの悲しそうな目が今でも突然フラッシュバックするときがあります。自分に全く責任なく感染させられた病気で、なぜ死ななければならないのか。そのときの天野の気持を思うと、胸が締め付けられるように辛く、悔しい気持になります。
 全国に350万人いると言われる肝炎ウイルス感染者は、そのほとんどが本人には全く責任なく、ずさんな厚生行政によって引き起こされた「医原病」の被害者であり、他の疾患とは全く異なる社会的要因を持っているという国の責任を明記した法律が肝炎対策基本法であると患者たちは理解しています。ですから、肝炎ウイルス感染に基づく一連の疾患である肝炎、肝硬変、肝がんすべての患者の健康と命を守る責任が国にはあるのです。この患者たちの気持をご理解いただきました上で、協議に当たっていただきますようお願い申し上げます。
 2.肝硬変・肝がんその他の患者も含めたすべての患者に助成を。天野は大学卒業以来、20年以上勤めた会社を肝硬変、肝がんを理由に、43歳という若さで、ほとんどリストラされる形で職を失いました。中学、高校という学齢期で費用のかかる子ども2人を抱えながら、肝硬変の合併症や度重なる肝がん治療のために入退院を繰り返し、定期的な通院においても検査料や薬剤料など、高額な医療費負担を強いられました。参考資料の2を参照してください。病歴の右側に、年間の医療費をわかる範囲で記してみました。入退院を繰り返しているときは、年間100万円以上かかっています。定期的な外来受診のみでも、2005年、2006年を見ていただきますと、20万円以上かかっているということがおわかりいただけるかと思います。
 子どもたちに奨学金を利用させていただいたり、着る物や小遣いなどいろいろと我慢させたりしました。家計を支えるために私が働かざるを得ず、入退院を繰り返す天野の闘病を支えるためには、自由がきくパートタイマーとして働くことしかできませんでした。月20万円足らずの収入で医療費や学費を賄うことはできず、こつこつと貯めてきた貯蓄を切り崩して何とかしのいできましたが、天野自身も、そして家族も、いつまで続くのか、先の見えない闘病に辛く苦しい思いを味わいました。
 現在、肝炎に対するインターフェロンや核酸アナログ製剤による治療に対する助成はありますが、肝硬変、肝がんに対する助成はありません。また、肝炎でも副作用その他の理由で、インターフェロンや核酸アナログ製剤を使うことができない患者もいます。これら助成制度の谷間で高額な医療費に苦しむ患者たちが、せめて安心して適切な医療を受け、生活ができるように助成制度を整備してください。例えば北海道のように、実際に全肝疾患患者に対する助成が実施できている所があります。そのような例を参考にして、是非、すべての肝疾患患者への助成をしていただきたいと思います。
 3.肝炎ウイルス検診について。前回の田中先生のレクチャーによりますと、まだ感染に気付いていない方が180万人もいるということでした。天野のような不幸な患者を一人でも減らし、ひいては肝がんを撲滅するために、まず肝炎ウイルス検診によって、これらの方々を拾い出して、適切な治療へと導くことが急務です。肝炎ウイルス検査によって、肝炎も肝硬変も肝がんも、すべて拾い上げることができます。非常に効率的な肝がん検診にもなるということです。大腸がん、その他肝臓以外のがんは、いつ、誰に発生するかわからないので、不特定多数の人が何回もがん検診を受けなくてはなりません。しかし、肝臓の場合は、現在新たな肝炎ウイルス感染がほぼないということですので、1人が一生に1回だけ検査を受ければよいのです。
 平成14年に老人保健法による肝炎ウイルス検診が始まって8年になりますが、未だ3割の方しか検査を受けていないという実態を見ますと、不特定を対象とした、希望者のみの受診勧告には限界があるということだと思います。国が主導して、一括して未受診者を特定し、個人宛に受診券等を送り、強制力を持たせて、一挙に受診率を高めるということはできないのでしょうか。以前、国民病であった結核を、国を挙げた対策でほぼ制圧できたように、第2の国民病と言われる肝疾患も、国を挙げて肝炎ウイルス検査を実施することを端緒として制圧できないかと思います。
 4.患者会電話相談事業から見えてくる問題点。私は現在、天野が前事務局長を務めていた「東京肝臓友の会」で、「自分の闘病体験を伝えることで役に立ちたい」という天野の思いを引き継いで、ボランティアとして電話相談事業に携わっております。東京肝臓友の会では、昭和61年から電話相談事業を開始し、今年で24年になります。現在、年間約2500件の全国からの相談に無料で応じて、患者の療養、治療に関する不安、悩み、疑問に対する受け皿の役割を果たしております。治療体験者、家族、遺族が相談を担当しており、同病者という立場での相談、助言という、ピアカウンセリングの形態になっています。相談の内容は所定の相談記録用紙に記録していき、チェック項目のデータは集計、集積されて、相談の質の向上に役立てたり、統計として肝疾患患者の実態調査に役立てております。参考資料3を参照してください。この電話相談事業から見えてくる問題点について述べたいと思います。
 (1)感染者に対する差別・偏見について。電話相談には、差別・偏見に対する相談も数多く寄せられます。就労差別や介護現場での差別、あるいは歯科での診療拒否、医師からの「エンテカビルを途中でやめると死ぬ」という心ない言葉等々、聞いているだけで辛い気持になります。患者会に差別・偏見の相談が寄せられるという背景には、どこに相談すればよいのかわからないということがあると思います。相談窓口の周知を図っていただきたいと同時に、相談内容とその対処結果について国民に知らせて、差別・偏見の再発を防止していただきたいと思います。
 (2)全都道府県に質の高い窓口を。肝疾患診療連携拠点病院に肝疾患相談支援センターが設置され、相談を担っていくことになると思いますが、和歌山県と私の住んでいる東京都では、連携拠点病院が決まっていないので、相談支援センターがいつできるのか不安に思っております。できるだけ早く設置していただきますようお願いいたします。なお、相談支援センターには専任の相談員を配置し、肝臓の専門の方々が相談員をサポートする体制を作って、全国どこでも質の高い相談支援を受けることができるよう早急に整備して、国民への周知も徹底していただきたいと思います。
 (3)患者会電話相談事業への支援を。現在、電話相談は患者からの会費、寄付金を使って実施しておりますが、支援をしていただければありがたく存じます。ペーパーにはないのですが、ここで1つお願いがあります。肝炎対策基本指針の項目について、9番は「その他肝炎対策の推進に関する重要事項」という漠然とした表現になっているのですが、肝炎対策基本法の附則に規定がありますので、基本指針の中に「肝硬変・肝がん患者の支援」ということを文言としてはっきりと明記していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
 最後に、私は天野秀雄の、「すべての肝臓病患者の救済」「肝がん撲滅」という願いを実現させるために力を尽くしたいと思っております。この協議会におきましては、当事者である患者の声がしっかりと反映される対策を協議していただくことをお願いして、私の意見陳述とさせていただきます。

 ○林会長 天野委員、どうもありがとうございました。特にこの場でお聞きになりたいことがあればお願いいたします。ないようですので、また後ほどご質問を受けたいと思います。続きまして、私から肝炎の医療の現状と今後の展開について、少し説明させていただきたいと思います。

(スライド開始)

 前半がC型肝炎、後半がB型肝炎です。皆さんご存じのとおり、C型肝炎ウイルスに感染すると、急性肝炎、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病気が進行してきます。病気の進行を途中で断ち切るいちばん良い方法というのは、これはウイルスの感染症ですから、C型肝炎の場合はC型肝炎ウイルスを排除するということで、これが最も重要な治療方法になります。
 これは大阪府の肝がん発生数で、1975年から肝がんの患者さんが増えておりますが、発生数としては男性のほうがピークを少し超えた感じがあり、女性の肝がん患者さんが非常に増えてきているというのが大きな問題だと思っております。これは発生数ですので、肝がん患者さんに治療をして、最近は生命予後が良くなっておりますので、死亡数で見ると、このピークを超えているかどうか、少し遅れてくるのではないかと思います。
 そのようなことで、日本では1992年からウイルスの排除のためにインターフェロン治療が行われています。この治療方法のウイルスの排除率を1型の高ウイルス量、いわゆる治りにくいタイプと、1型の高ウイルス量以外、つまりインターフェロン治療でウイルスの排除が起こりやすいタイプに分けて、ここにウイルスの排除率が書いてあります。1992年にはインターフェロン単独で24週間治療するというのが日本の標準治療でしたが、そのときのウイルスの排除率は14%です。
 その後、ご存じのようにリバビリン(Rib)という新しい薬と、1週間1回の投与のインターフェロンがペグ化されたペグインターフェロン(Peg-IFN)を使った、現在48週間投与というのが標準治療になっていますが、最初の臨床治験を終了した前後ですと、大体50%、ここでは52%と書いてありますが、その程度のウイルスの排除率になっています。リバビリンの併用、治療期間を長くする、ペグインターフェロンを使うことによって、ウイルスの排除率は非常に上がってきています。1型の高ウイルス量以外は、最初のインターフェロン治療(24週)でも59%、現在のペグインターフェロンとリバビリンの24週治療では、84%ぐらいになってきております。
 このようにインターフェロン治療をして、本当に肝がんになることを防いだかどうかを検証した日本にはいくつかの成績がありますが、これは犬山シンポジウムで、日本の肝臓専門の医療機関での成績をまとめさせていただいたものです。C型慢性肝炎患者6,443例にインターフェロン治療を行い、SVRというのはウイルスが排除できた方、こちらがウイルスの排除ができなかった方ですが、その患者さんを3カ月あるいは6カ月おきに超音波検査等を行って、実際に肝がんが起こるかどうかをフォローしていった成績です。ウイルスの排除が起こった方では、その後肝がんが起こった方は3%であるのに対して、ウイルスの排除が起こらなかった方は13%ですから、やはりウイルスの排除を起こしてあげると、肝がんになることを予防できる可能性があることが明らかになっています。
 これは経年的に見ただけですが、こちらが肝がんの起こる確率です。黄色はSVRですのでウイルスの排除が起こった方、緑色がウイルスの排除が起こらなかった方で、10年目をご覧いただきますと、ウイルスの排除が起これば肝がんが起こる確率は5.9%、起こらなければ21%ですから、やはりウイルスの排除を起こしてあげると肝がんになる確率が下がってきます。右は同じ患者を肝疾患関連死率で見ています。静脈瘤破裂や肝不全のように、肝疾患関連死で亡くなる方の率を見たものでして、上のSVR、つまりウイルスが排除された方に比べると、やはりウイルスの排除が起こらないと、特に5年を越えてから肝疾患関連死で亡くなる確率が高くなってきております。
 現在、ペグインターフェロンにリバビリンを併用して48週間治療する、あるいは一部の反応性の悪い方については72週間治療するというのが日本の標準治療となっています。ペグインターフェロンとリバビリンで48週間治療しますが、どのようなウイルスの減少率を示すかと言うと、一部の方はウイルスが少し下がりますが、あまりウイルスは下がらない、このようなのを「無効」と言っています。反応する方は12週目までにウイルスが消えるというのが多く、それ以後少し遅れて24週目までにウイルスが陰性化する方もいます。その後、治療期間中ウイルスの陰性化が持続しますが、治療を終了すると、一部の方はウイルスが陽性化し、これを「再燃型」と言っています。完全に治療後24週間ウイルスの陰性化が続いた方は「著効」ということで、これ以後にウイルスがもう一度陽性になる確率は非常に低いと言われています。
 これは我々の関連施設で3000例ほど検証したものですが、現在のペグインターフェロンとリバビリンで48週間治療しますと、終了時のウイルスの陰性化率は68%、再燃する方は29%、著効率は42%ぐらいになっています。特に、最近はインターフェロンの反応性が悪い方には、医療補助で72週まで投与が延長されています。どの程度治療効果が上がるかという検証をしたものですが、42週間と72週間の治療をした方で、バックグラウンドであるウイルスの量等を揃えて、有効率にどの程度の差が出るかを検証した成績が次です。
 赤が48週間治療、緑が72週間治療です。このSVR、ウイルスの排除率だけをご覧いただきますと、48週治療の35%に対して、72週治療では61%ですので、治療期間を延長することによって、現在ではウイルスの排除率を確実に上げることができています。それでもまだウイルスをうまく排除できない患者さんが多くいらっしゃいます。これにはいろいろな因子が関わっております。ウイルス側の因子としてウイルスの量、遺伝子の型、ISDRおよびcore領域の変異等、患者側のファクターとしては年齢が高齢になる、あるいは線維化が進展する、後ほどお話がありますが、溝上先生のグループ等が発見されたIL28遺伝子の多型、肥満、インシュリンの抵抗性、鉄の蓄積等がありますが、患者側の努力によって改善できるのは下の3つで、上は変更することができない因子と言えます。
 そこで、現在ペグインターフェロンとリバビリンでうまくウイルスの排除が行われない方に、いろいろな新しい治療方法が国際的に検討されています。大きく分けると、1つは抗ウイルス作用を強くする治療、また、C型肝炎患者さんは免疫機能が抑制されていますので、免疫機能を強くする作用治療です。ここに40を超える新しい薬剤がありますが、現在日本で臨床試験が行われる薬剤等を中心に書いてあります。抗ウイルス作用を増強する薬剤として、新しいインターフェロン製剤、リバビリン用の製剤が書いてありますが、いちばん注目されているのはC型肝炎ウイルスの選択的な抗ウイルス剤で、プロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤、MS5Aの阻害剤です。
 今後の治療方法というのは、現在のペグインターフェロン、リバビリンの併用療法に、今申し上げたような新しい抗ウイルス剤をもう1剤付け加えるという治療方法です。その先の治療方法としては、ペグインターフェロンを除いて、新しい抗ウイルス剤、後ほど申し上げますがプロテアーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤にもう1剤追加するような治療法が現在国際的に検討されております。プロテアーゼ阻害剤はC型肝炎ウイルスの特定のプロテアーゼというところを阻害する薬剤ですが、多くの薬剤がある中、この薬剤を使うとウイルスの量が「-1」、logですから10分の1、100分の1、1000分の1とウイルスの量を確実に下げることができます。ポリメラーゼ阻害剤はプロテアーゼ阻害剤に比べて抗ウイルス活性が少し低く、大体2から3log、1/10^2から1/10^3にウイルスを下げるだけですが、プロテアーゼ阻害剤にポリメラーゼ阻害剤を併用すると、ウイルス側に突然変異が起こって効かなくなるという現象が起こらなくなることから、今国際的に注目されております。
 ペグインターフェロン、リバビリンにプロテアーゼ阻害剤を付け加える臨床試験は、日本でもかなり進んでおります。ご覧のように、日本で一番進んでいるTelaprevirという薬剤の国際的な試験の著効率が書いてあります。PROVE-1と書いてあるのはアメリカで、PROVE-2はヨーロッパの試験ですが、こちらが現在のペグインターフェロン、リバビリンの48週治療に対して、Telaprevirを付け加えると著効率が20%上がっています。PROVE-2でも同じように20%上がっています。こちらはもう1つのBoceprevirというプロテアーゼインヒビターですが、従来の治療方法に対して、48週間の治療で37%ウイルスの排除率が上がっております。これについては、日本でも熊田先生を中心に臨床試験が既に終わっておりまして、おそらく来年1月から3月ごろに申請予定です。この著効率のアップというのは、おそらく日本の方が上の数字、より有効性が高い数字になるだろうと想定されております。
 この薬はペグインターフェロン、リバビリンで既に治療をして再燃型になった方、あるいは全然効かなかった無効型の方についても、ある程度有効性があります。こちらはペグインターフェロン、リバビリンで再燃型になった方ですが、Telaprevirを追加して治療しますと、従来のペグインターフェロン、リバビリンの20%に対して、69%、76%という高いウイルス排除率を得ることができています。再燃型ほど高くはありませんが、無効例でも39%、38%というウイルス排除率が得られておりますので、ペグインターフェロン、リバビリンの初回治療で、特に再燃型の方については非常に高い治療効果が得られます。現在、日本ではこの数字よりも高い著効率を既に得ております。ただ問題は、少し副作用があることで、特に貧血が起こることから、高齢者あるいは女性にはやや使いにくいという点があります。
 その次に日本で臨床試験が進んでいるのは、ここに書いてあるように、TMC435というプロテアーゼ阻害剤です。これは欧米の成績ですが、ペグインターフェロン、リバビリンにTMC435というプロテアーゼ阻害剤を75mg、200mg併用すると、治療開始22週間後では大体-5logのウイルスが下がるという成績です。数週間前にこの薬剤の欧米での臨床試験の第2相の中間報告が発表され、これがその成績ですが、TMC435を75mgあるいは150mg服用します。ペグインターフェロン、リバビリンにこのプロテアーゼを12週間併用後、もう12週間ペグインターフェロン、リバビリンで追加治療し、合計24週間の治療をしますと、これは途中経過ですが、ここに著効率が出ていまして、33人中32人、97%の方にウイルスの排除が認められたという成績です。治療期間を24週間にして併用することも可能ですが、それでも27/29、93%という高いウイルスの排除率になっています。150mgに増量しても、ほぼ同じウイルスの排除率ですので、この成績を見る限り、1日1回75mg併用することによって90%を超えるウイルスの排除率を得ていることになります。この臨床試験は、日本でも同じタイプの臨床試験が既に終了しておりますので、あと数カ月しますと、一部については同じようなウイルスの排除率が得られるかどうかについての成績が出る予定です。
 もう1剤、MK-7009というのも日本で臨床試験が進んでいます。これは日本の第2相臨床試験ですが、この薬剤を4週間、ペグインターフェロン、リバビリンに100mg、300mg、600mg併用したときのウイルスの低下率を見てみると、これは外国ですが、確実にウイルスの排除率を上げることができます。これも現在日本でも臨床試験が進んでおりまして、ほぼ4週後にウイルスの陰性化を得られることが分かっておりますので、この薬剤についても今年の終わりから来年にかけて、第3相のスタディが始まる予定です。
 先ほど申し上げましたように、その先はプロテアーゼとポリメラーゼというインターフェロンを除いた薬剤で治療したときのウイルスの減少率を見ていますが、ポリメラーゼ阻害剤とプロテアーゼ阻害剤を併用することによって、-5logまでウイルスを下げることができます。国際的に大きなグループが4つありますが、現在この4グループが臨床試験を盛んにやっております。
 同じように、B型肝炎も一部の方は慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病気が進行していきますが、C型と違ってウイルスを完全に排除することができませんので、いろいろな薬でできるだけウイルスを下げることによって、病気の進行を防ぐ、あるいは肝がんになるのを防ぐというのが治療の方法になります。ただ、B型はC型と異なって、自然経過でうまくウイルスが減少していく方も多くおります。こちらに年齢が書いてありますが、20歳前がウイルスの量がいちばん多く、慢性肝炎を起こすことによってウイルスが減少して、うまくウイルスが下がれば病気の進行は安定してきます。ただ、このようにうまくいかない方に、どのようにしてウイルスを下げるかが治療の方向性となります。現在、日本では核酸アナログ製剤と一部インターフェロンが使われており、できるだけウイルスを低いレベルで維持するようにしております。
 これは日本のB型肝炎の抗ウイルス剤の認可の過程ですが、1988年にインターフェロンの28日投与、2002年にはインターフェロンの半年間投与が保険で認められています。核酸アナログ製剤は2000年にラミブジン、2004年にはラミブジンの耐性症例に対してアデホビル、2006年にはエンテカビル、2008年にはアデホビルのナイーブ症例に対する使用が認められております。現在インターフェロンについてはペグインターフェロンの48週の臨床試験が終わりまして、現在キーオープンしたところですので、おそらく今年から来年にかけて申請が行われます。外国ではこういう薬剤以外に、ここに書いてありますが、テルビブジン、テノホビル等、いろいろな薬剤の開発が行われて、上の2剤については広く使われています。現在、日本ではこのエンテカビルが主流になっていますが、米国ではエンテカビルよりもテノホビルの方が現在多く使われています。
 これが今申し上げましたラミブジン、アデホビル、エンテカビルの抗ウイルス活性等を見たものです。ラミブジンに比べてエンテカビルは、e抗原陽性者の48週後のDNA低下を見ますと、ラミブジンに対してエンテカビルは、かなり強い抗ウイルス活性を出します。e抗原陰性者でも、同じように強い抗ウイルス活性が出ます。
 さらに、このエンテカビルは、ウイルスの突然変異率が非常に低くなっています。この核酸アナログ製剤の弱点は、単剤で使っていきますと、ウイルスに変異が起こって、薬が効かなくなってまいります。ラミブジンはいちばん最初に使われましたが、これはB型肝炎ウイルスのプリメラーズ遺伝子という所ですが、そこにこういう変異が起こってまいります。アデホビルでも変異が起こってまいりますし、エンテカビルでも変異が起こってまいります。
 実際にラミブジンでは、単剤で治療をしますと、4年後に70%の方でウイルスの変異が起こって、薬剤が効かなくなってまいります。それに対してエンテカビルというのは、ここに書いてありますが、ナイーブ例では1%以下という非常に低いウイルスの並立になっています。つい最近も欧米でこの臨床試験をやった最初の患者さんを5年間フォローしましたが、最終的に1例変異が起こっただけだという報告が出ていますので、変異率が非常に低い薬剤ということで、現在、日本ではこのエンテカビルが初めて治療をする薬剤としてほとんど使われています。
 ただ、現在、日本では、以前にラミブジンを使った患者さんが多くおられますので、ラミブジンを使って突然変異が起こってまいりますと、アデホビルというお薬を追加して、ラミブジンとアデホビルの2剤の投与が行われています。それに対して欧米ではこのテノホビルという薬剤を切り替える例が多いですが、現在、日本では、これが保険で使えないということになっています。
 エンテカビルというのは、先ほど申し上げましたように、日本では突然変異は今のところほとんど起こっていませんが、起こりますと欧米では、ここに書いてありますが、テノホビルへの切替えが行われています。しかし、日本ではおそらく、ラミブジン、アデホビルの二剤併用への切替えが行われることになるだろうと思われます。
 これはテノホビルです。現在、日本ではまだ認可されていませんが、欧米では非常に使われています。構造上、このアデホビルに似ている薬剤です。
 これは、ラミブジンを使ってウイルス側に変異が起こって薬剤が効かなくなった方にアデホビルとテノホビルを使って抗ウイルス効果を見たものです。こちらの黄色のほうがアデホビル、ブルーのほうがテノホビルです。ウイルスの抑制効果をご覧いただきますと、大体-2.6に対して-5.2ということで、はるかに強い抗ウイルス活性を持っているということになります。
 そういうことで、おそらくB型肝炎の治療としてい一番急がれるのが、日本でもできたらテノホビルを使えるようになりますと、治療の選択の幅が少し広がってくるのではないかと思っております。質問がございましたら、お聞きいただければと思います。
 続きまして、「肝炎研究の現状と今後の展開」につきましてご説明いただきたいと思います。先ほどご紹介がございました元国立感染症研究所所長の宮村様にお願いしたいと思っております。よろしくお願いいたします。

 ○宮村参考人 それでは、林先生のお話に続きまして肝炎研究の現状と、今後の展開を話させていただきます。
 ウイルス肝炎の研究というのは、とても難しいところがあります。そもそもウイルスというのは、細胞の中でしか増えない、そういう最小の生物ですが、肝炎ウイルスは臓器への特異性がとても強いということと、細胞を直接殺すことがないという、本質的に細胞と共存するウイルスであるわけです。これがポリオウイルスやインフルエンザウイルスなどととても違う。ウイルスを排除するのはヒトの免疫機構であって、ウイルスに感染した細胞を排除する、それによってウイルスを排除していく。本来の宿主の免疫機構の役割でもあるわけですが、それが過剰になった状態が肝炎というように考えられています。ウイルス感染症はウイルスとヒトとのせめぎ合いのわけですが、そのせめぎ合いのバランスの上で、今、林先生が言われたようなことで最前線の臨床家が苦労をしているところです。
 究極の医療はテーラーメード治療です。ヒトそれぞれに違ったウイルスによって感染し、違ったウイルスが現れてくる。一方、ヒトそれぞれは、違った遺伝子を持つ多様性を持った生き物である。このせめぎ合いで、1人1人によってベストの肝炎対策をするテーラーメード治療が究極の目的だと思います。そういう意味で最近、特に日本の研究陣からとても注目すべき発見がなされました。林先生のお話の1つのスライドで示されましたが、こういう肝炎ウイルスと肝炎を考える場合にウイルス側の因子と宿主側の因子の両方を共に考慮する必要があります。
 まずこれは、肝炎等克服研究対策研究事業に平成19年度以降、ここ3年間走っている主な研究課題です。これは参考資料のところにフルサイズで載っていると思います。私たちが肝炎研究、肝炎対策のよすがとしますのが、平成20年度6月に肝炎治療戦略会議でまとまりました肝炎研究7カ年戦略です。ここで具体的な戦略を、重点課題を立て、そして、戦略の目標を立てられました。この協議会では、この戦略の評価と見直しをやり、そして、研究の進捗状況をこれから3年後に評価して、そして見直していこう、というのが大きな目的の1つであろうと思われます。そこで、近年のこの事業の研究班での大きな成果について少しまとめさせていただきたいと思います。
 1つは、ここで委員をしている脇田先生のグループが、世界に先駈けて試験管の中で培養した細胞でC型肝炎ウイルスを増やすことができるという画期的なことを2005年ごろに見出しました。この発見で世界のC型肝炎の研究の局面が大きく転換しました。というのは、細胞の中でしか増えないC型肝炎ウイルスが、細胞に感染して、それから、いろいろなウイルスの遺伝子が発現された挙句に感染性を持った子孫の粒子としてまた出てくるという、これをライフサイクルと言いますが、このライフサイクルを試験管の中で完結させることができたわけです。C型肝炎ウイルス研究の最大の障壁を突破することができた。これによって、より効果的な肝炎ウイルスの増殖阻害剤を見つけることもできるし、それをスクリーニングしてくることもできるし、評価することもできてくるし、そもそも、それに対しての宿主側の因子がどうやって関わってくるかというようなことも、すべて、試験管の中で再現してくるということです。世界のC型肝炎基礎研究はこれで一変したのです。
 この研究グループを中心に、先ほど述べました研究事業の中の多くが、このシステムを使った具体的な研究が発展しています。これは、C型肝炎ウイルスにはいろいろな遺伝子型がありますが、このシステムは遺伝子型の2aという型と、そして、特定のヒトの肝臓由来の細胞という、この組合せで成立しています。この組合せでライフサイクルが完結しているということがわかると、では、ほかの細胞では何が足りないのか、ほかの遺伝子型では何が足りないのか、そういう研究ができます。また、細胞内で増えていくうちにどんな遺伝子が変化してゆくのか、そういう臨床に結び付く基礎研究が着実に発展しています。
 もう1つの大きな成果は、これもここで委員をしている溝上先生、それから、名古屋の田中先生グループのやられた画期的な成果です。よくインターフェロンが効きにくいとか効きやすいとか、遺伝子型がどうだということが考えられます。患者さんの中で、インターフェロンとペグインターフェロンとリバビリンの効きにくいグループと効いたグループに分けまして、全部の遺伝子を徹底的に調べたところ、驚くべき発見がなされたのです。ゲノムワイドの遺伝子を調べたところ19番目の染色体に、ここにワンポイントで、インターフェロンが効くグループにはこの遺伝子がこういう配列をしている、効かないグループにはここの遺伝子がここと違っているという点が見つかったのです。これが、驚いたことにインターフェロン28Bというインターフェロンγをコードする遺伝子領域の中にあったのです。
 これは大発見です。研究者が目標としています『Nature Genetics』という雑誌に発表されました。サイエンスにはこういうことがよくあるのですが、ほぼ同時期にアメリカ、スイス、オーストラリアなど3カ所のグループで全く独立に全く同じ遺伝子が、それぞれ違う人種の患者さんでも発見されました。
 これは直ちに日本のいろいろなグループで、これもこの研究事業の成果ですが、いろいろな施設でこの追試をされました。確かに、ここの遺伝子がTTという配列とそれがTGまたはGGに変化しているグループとでインターフェロン・リバビリン併用療法の効果が圧倒的に違うということです。インターフェロン+リバビリンの治療効果を高い確率で予測可能であることを意味します。
 ところが、田中先生らのデータをよく見ますと、高い確率で予測可能なのですが、100%ではありません。また、別の因子が関与している可能性が同時に示されています。
 一方で、今度はウイルス側の因子のほうも着々とわかってきました。今まで、遺伝子型の1型の中で1bという日本では一番、大勢の人が感染しているウイルスにインターフェロンが効きにくいというようなことが言われています。インターフェロンが効きやすいか効きにくいかを決める遺伝子領域が次々にわかってきました。まず、1990年代に発見された、今、山梨大にいる榎本教授らのグループによる、インターフェロン感受性規定領域というが同定されました。それに引き続きまして、虎ノ門病院の熊田グループから、ウイルスのコア蛋白質の70番目の遺伝子領域が役割をしていると。それに引き続きまして、これも研究班の人たちですが、神戸大学の堀田教授らのグループが、ウイルスのポリメラーゼという酵素をコードしているとても重要な領域における遺伝子の変異で、ここにまた新たな第3のインターフェロンに対する治療の応答性に関わるような配列として見つかってきたわけです。
 この3つの新しい知見、宿主側のこと、それからウイルス側のこと。強調したいのは、これはすべて日本の研究者たちが見出したことです。肝炎の研究というのは、お金もかかりますし、患者さんの臨床経過や臨床検体のデータベースを中心にいろいろな情報を総合して解析していく必要があります。これは、どうしても世界でトップを走らなくてはならない、そういう種類の問題です。それは、そういうことでデータを解析して世界で全く新しいことを見つけていくという気概の下にこれが見つかってくるわけですが、同時に、現実的なことを言いますと、例えば宿主に関わる今のIL28Bのような遺伝子多型を見つけたとしましても、これが100%ではないと、田中グループ、溝上グループがこれを簡便に診断するキットを鋭意開発中ですが、それは、どうしても世界でトップを走らないといけないわけです。もし、第2、第3の遺伝子が外国で見つけられて、それも一緒に診断キットにされるようなことになりますと、それは世界で2、3番目であるにもかかわらず、キットとしてはベストのキットになります。そういうキットは、どうしても日本でこの成果を発展させて世界のトップを走らなければならないという、そういう新たな使命がありますし、この協議会がそれをバックアップしてくれることを期待しております。
 肝炎等克服研究対策研究事業は大きな局面を迎えて、さらに発展するべき重要な夏です。特にこの肝炎研究7カ年戦略をもう少し具体的に現実的に到達目標を建て直す。安易に数値目標を立てますと、前回の選挙ではないですが、数値だけにとらわれてその評価をされてしまうということが1つあります。今のこの培養細胞でのC型肝炎ウイルスの増殖の発見、それから、宿主のインターフェロン感受性規定遺伝子多型の発見、こういう本当のブレークスルーというのは、科学はすべてそうですが、徐々に、徐々にの積み重ねであると同時に、こういうブレークスルーというのは一気に来るものでもあります。それを踏まえていくような戦略目標を、具体的な数値を持った戦略目標、賢明な戦略目標を立てていくということがとても大切だと思います。
 具体的には、私が提言申し上げたいと思うのは、肝炎研究7カ年戦略の評価を速やかに行い、具体的な数値目標を立てていくということです。それから、肝炎対策基本指針等の趣旨を踏まえた研究の推進です。冒頭に述べましたように、肝炎というのはウイルスと宿主のせめぎ合いです。それに対する宿主の応答というのは、単に生物としてウイルスと対応していくだけではなくて、いろいろな使命を持った人間であり、家庭を持ち、職業を持った宿主がウイルスと対応していくときの総合戦略と言いますか、それをサポートしていくということが肝炎対策では必要だと思います。
 1つ、具体的な提案とします。こういうことでB型肝炎、C型肝炎の感染様式が明らかにされ、そして、感染の原因となる血液の診断方法も確立してきましたので、新しい肝炎患者の発生は激減しました。しかし、特にB型肝炎などは決してそういうわけではありません。これも遺伝子型の変化とか社会情勢の変化ということで、B型肝炎は、今や10年、20年前のB型肝炎と全く様変わりしています。そういうことを踏まえて、感染を予防するための、感染予防ワクチンがどのようにならなければならないか。ワクチンも現行のワクチンをより効果的なものに変えなくてはならないし、このワクチンが感染の危険のある人たちに遍く投与されるためには、いつ、どういう状態でするかということも真剣に考えなくてはいけませんし、世界の多くの国々では、原則として生まれたての子どもたちすべてにB型肝炎ワクチンをやるということが徹底しています。
 これが感染予防ワクチンですが、もう1つB型肝炎、C型肝炎のことを考えますと、一番大切なのは、感染しているが、まだ発症していないキャリアからウイルスを排除する、感染細胞を積極的に排除してしまうという発症予防ワクチン、治療ワクチンです。こういうことを言いますと、それはワクチンではなくて薬ではないかと。ワクチンと薬の違いは何か。私が強調したいのは、ワクチンです、薬ではなくて。ヒトはそれぞれ肝炎ウイルスに感染した細胞を排除するメカニズムを自分で持っているわけです。それをやりすぎますれば、それは肝炎を惹起したり、増悪させることにほかならないわけですが、そこを、これは本当に難しい課題ですが、宿主の機能を保ちながら、それを一番大切としながらウイルスに感染した細胞を特異的に排除するような、発症を予防するような、そういうワクチン。これはある意味夢のワクチンです、こういうワクチンはまだ世の中に存在しないわけですが。ウイルス肝炎は21世紀の国民病だと言われたのは武見太郎先生ですが、それは数が多いということだけではなくて、このウイルス肝炎と対応するのは国民総体であるという意味でもあるわけです。肝炎対応は新しいことにチャレンジしていく、それは患者さんも、臨床医も、研究者も、一体となってやっていくという、そういうことがとても大切だと思います。
 それから、今、林先生がとても丁寧に今の抗ウイルス剤の現況をご説明になりましたが、薬剤耐性ウイルスというのは、これは出てくるのが当たり前です。B型肝炎も、今、多くの耐性ウイルスが出てきています。C型肝炎も、抗ウイルス剤がこれから出てくれば、当然新しい薬剤耐性ウイルスも出てくる。それは監視をしなくてはならないわけで、それに対する対応策と同時に、監視がとても大切だということになります。例えばインフルエンザとか、ポリオとか、今、流行っています手足口病とか、こういう急性ウイルス感染症は、新しい感染症法の下で急性患者の発症をリアルタイムに把握することができています。しかし、肝炎に関する限り、急性肝炎という氷山の一角しか把握されていないし、いわんや持続性感染者からの発症ということになりますと、それを把握する方法がとても難しいということと、実際の評価が難しい。それから、状況別の治療ガイドラインの策定。例えば透析施設だとか老健施設だとか教育施設だとか、そういう所でのきめの細かなガイドラインをこれから作っていくということも大切です。B型肝炎、C型肝炎についてはとウイルスと共存していくということについての患者さんだけでなく周囲の人も含めた、心理的ケアを含めた総合的な肝炎対策ということがとても必要になる、ということで私のお話を終わりたいと思います。

 ○林会長 どうもありがとうございました。それでは、次に進めさせていただきたいと思います。医療従事者と患者様の相互連携による治療推進の取組を行っています慶應義塾大学看護医療学部の加藤教授にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 ○加藤参考人 よろしくお願いいたします。今、林先生や宮村先生からお話があったように、肝炎の治療というのは、毎年毎年新しくなっています。そういった中で、患者さんにそういった治療をしてもらうためには情報提供が非常に大事です。また、情報提供をするということは、患者さんの不安を取り除くことでもあるのです。私は、1992年に肝臓病教室というのを開きました。それは、3分医療ではやはりきちんと説明ができないということがあったのです。インターフェロンの治療ということを話すときには、やはり、最低20分も30分もかかってしまう。そういった時間ことを外来でとることはできない。そこで患者さんを一堂に集めてお話すればいいではないかと考え、月に1回ですが、2時間、肝臓病の教室というものを持って、4回でお話しておりました。そこでは、必要と思われる医療知識を提供する。病気がどのようになっていくのか、あるいは感染対策、あるいは新しい検査や治療法、そういったことをお話をしたわけです。
 そこでは質疑応答を大事にしたいと考えており、時間をとっていましたが、質疑応答をしている間に気がついたことは、患者さん同士の情報が非常に役に立つことがあるということです。例えば、肝がんラジオ波による治療で非常に恐れている、あるいは、インターフェロンは怖いけど受けたくない、そういった人からの質問があったときに、それを既に自分で経験した人に話をしてもらうと、それが迷っている人にとってはとてもよい情報になったのです。そういったことから、私たちの肝臓病教室ではグループワークというものを取り入れることにしました。グループワークをやっていますと、患者さん同士の間で励まし合いが起きたり、共感が起きたり、こういったことで治療の意欲というものが高まってくることが経験されます。グループワークを採り入れたのは医療者だけではなくて、患者さん同士の情報というものも大事だろうという意識があったからです。そこでは侵襲のある検査とか治療、それは肝生検とかラジオ波とかなどの情報が含まれますが、あるいはそういったものの自分の体験談、あるいは、普段困っているときにどうしているか、などを患者さん同士で話し合ってもらう、そういう時間を設けたわけです。そこではプライバシーを尊重するなど一定のルールを作った上で行っておりました。 こういうことをやっていますと、あるC型慢性肝炎の患者さんからこのような手紙をもらったことがあります。誕生日健診でC型肝炎であることが判明した。輸血をしたこともなければ、お酒、タバコの経験もないのに何で私はこんな病気に。これは、がんであると言われたときと同じような心理を患者さんは持っているということを表しています。そういったときに「肝臓病教室に来てみたら」と私が呼び掛けたわけです。そのときにお話したのは「日常生活について」というテーマでしたが、それを聞いたときに帰りに何となく肩の荷がすっと下りたような思いをした、そのように感じてくれたわけです。医療者の情報提供というのは、どちらかと言うと脅しでやってしまう場合が多いのですが、この肩の荷がすっと下りたような思いをさせるような情報提供、こういったものが大事だろうということで、今、勉強会などでも取り組んでいるところです。そのように教室に参加していますと、私はC型肝炎であるけれどももっと積極的に生きることができるんだ、そういったことを患者さん自身が気がついてくださるようになってきました。
 肝臓病患者さんの持つ不安というのは、表の左側に挙げましたインテレクチュアルペインと右側に挙げましたスピリチュアルペインの2つがあります。インテレクチュアルペインというのは、病気はどう進行していくか、治療にはどういうものがあるか、あるいは、感染させないためにどうすればよいか。こういった不安は、情報提供を上手にすれば片づく問題ではあります。しかし、情報提供をすると同時に出てくる問題が右側の「何で私はそんな病気になったんだ」「このままいくとどうなるんだろう」などのスピリチュアルペインを感じるわけです。スピリチュアルペインに対して、医療者からの傾聴とか、患者さん同士のグループワーク、こういったものが大事だと言われているわけです。
そういった1つの例として肝がんの末期の患者さんが亡くなったあと奥様からもらった手紙ですが、「その病気のことをしっかり理解し、日々落ち着いて安心して過ごせたことが幸せでした」。このような形で最期を迎えられる人もいらっしゃいますし、「先生が来てくれるだけで、主人は元気と勇気と自信を取り戻しておりました」。こちらのほうがSpiritual Careというものです。現代の医学は、cureがなくなるとcareを行い、最後、ホスピスになるとSpiritual Careと、こういう図式で語られることが多いのですが、私は、慢性病では最初からスピリチュアルペインというのがあるのだと思います。そういったものに対するcareは慢性病の段階から必要だし、careはcureがなくなったから仕方なくやることではなく、最初から最後までcareが根底に存在するのが医療である、こういった図式でやろうということを呼び掛けています。
 肝臓病教室を開いて10年経ったときに、私はこれを全国に広めたいということで本を出しました。そして、読売新聞や日経新聞などにも取り上げていただいて、慶應大学の方に見学に来てくださる施設も増えました。そこで、2003年には全国的な集まりを持ったり、あるいは、大阪地区では特にその盛り上がりは大きくなって地域の勉強会「肝臓病教室アドバイザリーカンファレンス」、こういったものが立ち上がって、10を超える医療施設の医師、栄養士、看護師等が積極的にディスカッションをしているわけです。それに1年遅れて東京の方でも立ち上げましたし、和歌山県でも、地域のものが立ち上がった、そういう状況です。現在、全国的に155の施設が肝臓病教室というものを何らかの形で続けています。ほとんどの施設は無料奉仕という形でやっているわけですが、そういった形でも増えてきているというところに、やはりその必要性を感じてやろうとしている医療者がいるということだろうと思います。
 患者さんにとってこういった肝臓病教室は、知っておくべき知識、知らない情報が得られる。これが最初の目的ですし、知りたい情報を自分の医療者より直接得られる、このことが大事だろうと思っています。そうしますと、そこでは医療者とのコミュニケーションを学ぶこともできますし、グループワークによって精神的な安心感が得られる、あるいはほかの人を見ていて積極的な生活、そういったものを考えられるようになるわけです。最終的には医療者と患者が、対立の構図ではなくて協働の関係になるだろうと思われます。そして、これは患者さんにとってだけのメリットではなくて、実は医療者にとってもあるわけです。集団教育ということによって時間を節約することができます。あるいは、こういったグループワークで患者さん同士にやってもらうことが精神的ケアにもつながる、実は医療者のコミュニケーション教育の場である、こういったことも感じられました。
 つまり、普段の医療というのは、なるべく患者さんには長く話されないようにというブロックを知らない間につくってしまっているわけです。ところが、こういった教室というのは、1カ月に一度であっても、2時間はきちんとそういった時間をとりましょうということでやっていますと、その時間の中で医療者はいろいろなコミュニケーションを学ぶわけです。そして、医師、看護師、栄養士、こういったチームワークも誕生しますし、中には、こういった活動のためにスライドを一生懸命に作って「休日返上でやっていたけども患者さんに喜ばれてすごくうれしかった」と言っている看護師もいるわけです。普段、外来では何か患者さんをさばくような医療になってしまっている。そのことを、ああ、私はやっぱり医療者になってよかったと、そういったところで感じられるということも1つのメリットではあります。あるいは地域医療の連携の場にも使えるということで、最終的に患者と医療者が共同関係をつなぐというところにつながるのだろうと思います。
 私たちは、昨年、『患者と作る医学の教科書』を出版しました。これには、肝臓病に関しても肝友会の方に書いていただいているのですが、それ以外の慢性病とかがんの疾患、あるいは遺伝病や精神疾患、こういった病気の人に自分たちの病気がどのように捉えられているか、あるいはどんな問題を抱えているか、そういったことを書いてもらって、それを医療者が監修したものです。今までの教科書は、病気を客観的に科学的に記述する、それが主だったのですが、この教科書は患者さんの主観的な病気、そういったものを著すことができていると思います。
 2年前にドイツの国会議員でもある心理学者のシュー・ハード先生に来ていただいて慶應で講演を開いたことがあるのですが、この方は3,000人以上の闘病記を分析して、慢性病の患者さんはこのような心理的な経過をたどる、そういったことを『Why me?』という本に出されています。最初聞くと、そういった不確かな状態、そして、そういうものを認識して、次には攻撃あるいは取引、うつ状態、このような経過を経て受容に至る。これはキュプラ・ロスの言う5段階に似ているわけですが、慢性病の場合は、さらにそのあとに活動性に広がったり連帯へとつながる。こういったものが慢性病の闘病の特徴だろうということをおっしゃっています。
 私は、この肝臓病の患者さんたちの活動はまさにこの活動から連帯につながったものだと思います。私は、この連帯というものを肝臓病だけではなくていろいろな病気の連帯にもつなげていきたいと思います。それがこういった1つの教科書の出版の表れでもあるわけです。以上です。どうもありがとうございました。

 ○林会長 どうもありがとうございました。続きまして、肝炎検査・治療の促進について、関係者の取組をそれぞれご説明いただきたいと思っております。まず産業医の取組につきまして相澤委員からご説明、どうぞよろしくお願いいたします。

 ○相澤委員 北里大学の相澤でございます。肝炎患者さんが働く年代で発見され、又はは発病することが多いものですから、職域においてどのように肝炎対策を推進しているかをご説明したいと思います。

(スライド開始)

 労働安全衛生法という法律は、働く方々の健康確保の基本的な法律です。第1条に目的が書かれています。「この法律は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化、自主的活動の促進の措置を講ずる」というようなことです。この労働災害は第2条に定義されていまして、「労働者の就業に関わる建設物等によって、あるいは作業の行動その他の業務に起因して労働者が負傷し、疾病にかかり、又はは死亡することを言う」、そういう定義になっています。これを防止するための法律ということで、この法律に基づいて職域の健康管理などの労働衛生管理が行われています。
 労働安全衛生法に基づく産業医が50人以上の事業場では必ず置くことになっていまして、産業医が中心となって働く方々の健康を確保しているわけです。その職務についてはいくつかここに書かれていますが、特に肝炎に関係することとしましては、健康診断とそのあとの面接指導ということ、そしてその他の健康管理ということがあります。そのほか、健康教育、あるいは健康障害が起きた場合の原因の調査というようなことがあります。そして、産業医が事業者に勧告をすることができるということで、このようにしたほうがいいということを事業者、つまり会社のほうに勧告することができます。そして、その勧告を事業者が取り入れるというようなことが法的に定められています。
 これは労働衛生管理体制と言いまして、どのように体制が整っているかということです。事業者(会社)が産業医を選任しまして、そして、この産業医はその総括安全衛生管理者という、事業所の例えば所長とか工場長とかという方ですが、その方が普通は総括安全衛生管理者ということになっていまして、この方に健康診断等で得られた情報を基に勧告をすることができるということです。また、事業者に対しても勧告ができると。衛生管理者という方も、これは事務系で国家試験を通った方ですが、50人以上の事業所に必ずいまして、産業医は、この方々と一緒に産業保健に関する活動をしています。こういった流れが製造のラインと別にあるということが職場で労働者の健康を確保するということで大事だということで体制が整っています。
 これは定期健康診断の項目です。今現在11ありますが、年齢によって省略は可能です。この8番目の所に肝機能検査すなわちGOT、GPT、γGTPがあります。これは、血液の脂質あるいは血糖等がありますように、仕事に関連して健康障害が起きた場合の早期発見ということや病気のリスク要因を見つけるということで行われている検査です。
 この定期健康診断の流れですが、労働者に対して定期健康診断を行って、その結果、異常がない、あるいは精密検査が必要な場合があります。また、その結果で治療が必要ということもあるわけです。治療が必要だと判断された場合は労働者が治療を行いますが、それでなくても仕事上の措置としまして、いわゆる事後措置と言っておりますが、医師の意見を聴取して、人事担当者がそれに応じて就業上の措置をするということになっています。そのまま仕事を続けるか、あるいは労働時間制限等、就業上の制限を作るか、配置転換をするか、あるいは休まなければいけないか、というようなことの事後措置があります。また、それにならなくても、必要に応じて保健指導をするということになっています。
 肝炎に関しましては、今までいくつか通達が行われています。労働基準局からのものを基発と言っておりますが、これが医療機関あるいは労働衛生機関など関係諸団体に対して通達が行われています平成14年6月に「肝炎対策の協力について」という通達が行われています。また、平成16年12月に「職場における肝炎ウイルス対策に関する留意事項について」という通達が行われています。
 これについてご説明いたします。最初の平成14年6月21日の通達です。これは、肝炎対策に関する有識者会議の報告書を踏まえてこういった通達がなされています。「定期健康診断に際して肝炎ウイルス検査の受診を勧奨する」ということで、職場でそれをうまくやってほしいということです。また、「肝炎ウイルス検査を行う場合には、特に労働者の不利にならないように個別の同意に基づいて実施すること」また、「その結果については、直接本人に通知するものとする」ということで、同意なく本人以外の方が不用意に検査受診の有無あるいは結果を知るということがないように、プライバシーの配慮を要請するということが述べられています。
 これは平成16年の通達です。フィブリノゲン製剤に関する肝炎感染等が判明したあとです。「労働者が希望する場合においては、職域において実施されるさまざまな健康診断等の際に肝炎ウイルスの検査を受診すること。また、自治体等が行っている検査を受診できるよう配慮することが望まれる」という通達です。また「労働者の個別の同意に基づいて実施する。そして、その結果については、直接本人に通知する」。先ほどと同じですが、不利にならないようにという配慮をしてほしいということです。
 さらにその雇用管理につきましては、採用に当たって事業者は、労働者の採用選考を行うに当たって、応募者の適性とか能力を判断する上で真に合理的かつ客観的に必要性がある場合を除いては肝炎ウイルス検査を行わないようにするということです。
 就業上の配慮につきましては、ウイルス肝炎は症状がない場合は機能的にもほとんど正常ですので、そのような労働者のための就業上の配慮は特に必要がない。また、処遇についても、他の労働者と異なる扱いをする理由はない。また、症状が見られる労働者につきましては、そのほかの病気を有する労働者と同様にその病状等に応じて、必要に応じて産業医等と相談の上、合理的な就業上の配慮が必要である、ということです。これも労働者保護という観点から出されたものです。
 その後、平成20年に「労働者に対する肝炎ウイルス検査の受診勧奨等の周知について」が出されています。
 これが4月に出たものです。インターフェロンの治療に対して医療助成が始まる予定のころです。ウイルス肝炎は早期発見、早期治療が重要であるということで、「労働者に対して肝炎ウイルス検査の意義を周知するとともに、必要に応じて検査を受診するよう呼びかけること。また「労働者が検査の受診を希望する場合は、受診機会拡大の観点から特段の配慮を行うこと」。また、プライバシーについても述べられています。
 ということで、基準局長からこのように関係諸機関にいろいろな指導が行われています。これに対して職場では、1番目に、これらの通達に対応して実行すること、2番目に、肝炎検査の意義の周知あるいは機会を確保すること、3番目に、肝炎に関する教育機会を提供すること、4番目に、肝炎を患う労働者を支援すること。というようなことが肝炎対策として行われるのではないかと考えております。以上です。
 
(スライド終了)

 ○林会長 どうもありがとうございました。続きまして、日本労働組合総連合会(連合)の取組につきまして篠原委員からご説明、よろしくお願いいたします。

 ○篠原委員 ありがとうございます。それでは私から、69頁にありますように、「組合の取組について」ご紹介させていただきます。
 連合は、中央労働団体、ナショナル・センターです。今現在、連合に加盟していただいている組合人数が約680万人ということになっています。すべての労働者が加盟をしていただいているということではありませんが、すべての働く労働者の人たちのために政策の実現や労働相談など、雇用と暮らしを守る取組を実施しています。
 これは日本の特徴ですが、日本の労働組合は三層の形に分かれています。1つは、労使交渉を通じた労働条件や職場環境の改善等々の活動を行うような企業別の労働組合というようなことになります。職場にいちばん近いところということになるかと思います。それと、産業全体を共通するような、産業全体の括りを1つにまとめて活動を行う、例えば労働条件の改善を行うときに1つの産業がまとまって行うとか、産業別の政策を確立するとか、そのような課題について情報交換を行いながら日々活動するというような産業別組織。それと、3つ目ということでは、先ほど連合の紹介もさせていただきましたが、産業や地域を超えたレベル、それぞれのレベルでは解決できないような政策・制度課題につきまして連合として取組を進めているというような、この三層の構造になっているというのが大きな特徴です。
   2点目は、労働者の健康管理に関わる諸制度ということで、現行法制下における健康管理に関してどのようなことを労働組合として行っているかどうかということのご紹介をさせていただきます。労働組合は、例えば賃金や休暇等々、労働条件の改善ですとか働きやすい環境づくりというような活動をしていくわけです。その中の1つに安全衛生に関する取組が行われています。
 まずは、安全衛生の観点から現行法制下における健康管理に関する取組を数点ご紹介させていただきます。それが69頁の2.の○3つの取組ということになります。安全衛生のことにつきましては、先ほど相澤先生からご紹介がございました。
 1つは安全衛生委員会を通じた対応ということです。これは、先ほど相澤先生からもご紹介がありましたように、国が定める労働安全衛生法に基づいて一定の基準に該当する事業所につきましては、労働安全衛生委員会を設置することが義務づけられているわけですが、働いている方々の健康管理にかかわる活動ということで、労働安全衛生委員会に労働組合が参画させていただいているということになります。
 また、職場の労働者の代表ということで参画をしているわけですが、例えば事業所における安全衛生管理体制の継続的な活動も同時に行っております。ということが2つ目です。
 3つ目ということでは、労働者の健康管理のための情報提供や啓発活動というようなことも行っております。例えば、安全衛生委員会を開催し、業務上災害がどのくらいあったのかという報告を共有することや、健康管理についての取り組みをどう進めていくか等、労使の交渉を通じながらの取組もしています。
 次に、休暇制度における対応についてというところです。そもそも、労働基準法上は年次有給休暇のみが定められています。組合としては、例えばボランティア休暇とか自己啓発休暇とか、それぞれ企業独自の特徴を活かしたような休暇制度を、労使交渉等を通じて休暇制度を確立していく取組をしています。労働者が働きやすい環境にしていくために、必要な休暇を獲得しているというのが2つ目の○になります。
 3つ目の○「その他の対応」は、「安全衛生に関するマニュアルの策定」です。これは例えば、ナショナル・センターや産業別労働組合組織などが企業別労働組合に対し、職場における安全衛生対策を行っていくための指針を策定し、職場でどのような安全衛生対策を行っていくべきかを指針にまとめ、職場の中で活用してもらうような活動を行っております。
 3.は「肝炎を含む感染症対策にかかわる労働組合の取組」です。労働組合の安全衛生にかかわる活動というのは、肝炎対策に特化したものではなくて、感染症一般に関する取組ということになります。
 1つ目の「労使関係事項」というのは、労使と連携をしながら、安全衛生委員会活動を通じた、情報提供や啓発活動を行っているという点です。また福祉・医療現場に働いている組合員もいるので、そのような方々の特殊健康診断の運用を拡大するべきだとしているということです。
 3つ目は、産業医・保健師・看護師等による健康管理や相談の体制を整えていただいているということで、これに対しても組合として意見を会社側に提案させていただいています。
 4つ目は、特別休暇制度への対応では、現在それぞれの企業の中で、通院休暇、検査休暇など、企業によっては人工透析通院休暇、ドナー休暇制度がある企業もあります。先ほども申したとおり、休暇の制度を獲得していくためには、労使交渉の中でやっていくしかないというのがいまの現状です。
 一方で、安全衛生委員会の委員においては、肝炎を含む感染症対策に関する知識が十分ではないのではないかと思っております。そういう意味において、組合員に対して深度ある肝炎及びその治療に関する知識や、普及活動を行える状況にはありません。今後そのような活動を積極的にやっていくべきなのではないかと感じております。そのためには、まず、肝炎を含む感染症及びその治療法に対する正しい知識の普及を行うことが必要と考えます。その意味で、組合員や委員にとって理解しやすいパンフレット等を作成・活用するとか、国による積極的な広報活動が有効なのではないかと思っております。
 最後の「政策事項」になりますが、連合ナショナル・センターとして、国及び地方自治体による、肝炎を含む感染症に関する情報提供や啓発活動について、労働組合としても連携・協力を行っていきたいと思っております。また、国による肝炎対策を含む感染症対策指針づくりへの連携及び協力。さらには、経営団体や関係学会等への連携及び協力もしていきたいと考えております。以上です。

 ○林会長 どうもありがとうございました。続きまして、全国中小企業団体中央会の取組について瀬戸委員から説明をお願いいたします。

 ○瀬戸委員 資料9の71頁と72頁をご覧ください。私は、全国中小企業団体中央会の瀬戸です。よろしくお願いいたします。今、発表のありました連合さんとは異なりまして、私どもの組織は事業者、いわゆる経営者の組織体を会員としております。その中でも、私ども中小企業団体中央会は名前のとおり、中小企業経営者の方々が組織した団体等を支援していくということです。
 したがって、(3)組織会員と書いてありますが、私ども全国中央会の傘下に、47都道府県すべてに都道府県中央会があります。また、全国を区域といたします組合等々があります。この括弧の中はその数です。さらに、都道府県中央会傘下、あるいは全国組織の連合会の傘下ということで、各種組合がここに掲げてありますが、3万を超える組合数があります。そこに加入している中央会の組合等の所属の中小企業者の方々の数は約300万ということで、全国で420万の中小企業の方々がおられるわけですが、その7割を組織している、我が国最大の中小企業団体です。
 私どもは商工会、あるいは商工会議所さんとは異なり、個別の企業の方々を相手とするところではありませんで、再々来申し上げますが、個々の中小企業者の方々が組織した団体を支援していくということです。2.のところにつきましては、後でお読みいただければと思います。
 72頁で「中小企業団体中央会の強み」と書かせていただきました。47都道府県中央会、そして私ども全国中央会により、全国すべてを網羅する活動範囲となっております。4.で、本年4月以降、これは厚労省関係だけですが、このような各種の施策等々についての周知を行っております。
 したがって、私どもの中央会が、この協議会のメンバーにさせていただいたというのは、その組織力を活かした、ネットワーク力を活かした周知等々が主な役割だろうと思っております。肝炎対策に関する周知の考え方についても、今後適宜行っていければと思っております。肝炎ウイルス系検査受診の意義の周知であるとか、検査受診の呼び掛け、あるいはインターフェロン治療のための入院・通院や副作用等で就業できない従業員に対する休暇の付与等、職場や採用選考時において、肝炎の感染者が差別を受けることのないような、正しい理解の普及に努めていきたいと思っております。
 これは、参考資料も配られているようですが、平成20年12月に、時の厚生労働大臣より、経団連会長に発出された協力要請書と同様な要請書を、本会会長あてにもいただければ行動しやすいということです。この点もご配慮いただければと存じております。簡単ですが以上です。

 ○林会長 どうもありがとうございました。次は、企業の取組について、JFEスチール株式会社安全衛生部部長、また日本経団連産業保健問題ワーキンググループ座長の高橋様よろしくお願いいたします。

 ○高橋参考人 高橋です。事務局より、今回、肝炎対策について企業の取組の報告ということで依頼を受けました。事業者側から申し上げますと、業種、業態、規模などはかなり異なっていまして、すべての事業者が一律に同様の対応を考えることは極めて難しいと考えています。ある程度対策がとれる企業とそうでない企業があることをご理解いただきたいと思います。
 また、事業者側から一般的な健康管理の分野を見てみますと、数多くの疾病があり、現状で肝炎だけを取り上げて、特別に対策をとるという企業はほとんどないと認識しております。一般論としてですが、企業の多くは、個々の疾病について細かな対応・対策をマニュアル化することは、極めて難しい状況だと思います。そう言いながらも、いずれの疾病に対しても、先ほど相澤先生からもご報告がありましたが、予防を第一に考え、その上で発生した事象について事後措置を講じていくことが、事業者に求められている責務だと思っています。
 企業の置かれている立場は、先ほど申し上げましたようにそれぞれ違いますので、例えば私どもがやっていることが一般的とは思っていませんし、またそれを他社に同じようにやっていただきたいということでもありません。
 私見になりますが、私は常日ごろ、経営者や管理職が、人を扱う、働かせるということですから、就業管理という面からも、疾病の経過、医学的な知識、どういう配慮をしたらいいのかということをしっかり考えてもらいたい。これはメンタルもフィジカルでも一緒だと思いますし、感染症でも一緒だと思いますが、そういうところをもうちょっと強化しないといけないと考えています。特に肝炎の病態と治療について、本日はいろいろな関係の委員、先生方のお話を聞いて、私自身もかなり認識を改めた部分がありますので、こういうことをもっと広めていっていただきたいと思います。
 最後になりますが、事態は極めて深刻であるということを、私も本日、認識しました。この問題に関係する方がこれから、いろいろメディカルな方も、一般的な方も、あるいは自治体や国の方、そういう多くの関係者が、それぞれ知恵を結集して、早々に解決といいますか、皆様が安心して暮らせるような状況になることが求められているのではないでしょうか。特に本日は最先端の研究成果を披露されましたが、こういう分野で毎日努力されている先生方には、さらにそれに拍車をかけて、多くの患者さん、あるいは感染者が安心して社会の中で生きていけるような状況を作り出していただきたいということをお願いいたします。以上です。

 ○林会長 どうもありがとうございました。続きまして健康保険組合連合会の取組について宮下委員から説明をお願いいたします。

 ○宮下委員 健康保険組合連合会の宮下です。資料は、健康保険組合連合会として、テレビCMを放映したものがありますので、その際の内容を配布しております。これについては、後ほどご説明させていただきます。
 私ども健康保険組合と、健康保険組合連合会の簡単な紹介をさせていただきます。健康保険組合は、被用者保険と言われる保険の1つです。いわゆるサラリーマン健保です。ほかには、被用者保険は、以前は政府管掌健保と言っておりましたが、現在は協会健保と言われている組織があります。それから、公務員の方々の共済組合が主な組織です。被用者でない方々については、市町村がやっている国民健康保険があります。
 健康保険組合は、全国で約1,500弱が職域で組織されているということです。事業主と、そこに加入する被保険者、これはお勤めになられている方ですから、労働組合の方もいらっしゃいますし、管理職の方もいらっしゃるわけですが、それぞれが保険料を負担して払い込むことによって、疾病の際のリスクに備えることがメインです。加入者数は、全国1,500弱の健康保険組合で、被保険者が1,600万人、家族の被扶養者の方々1,400万人、計3,000万人ほどいらっしゃいます。
 個々の健康保険組合の連合体として、健康保険組合連合会(略称健保連)が組織されております。健康保険組合の事業としては、組合員が病気にかかりました、疾病にかかりましたという際に、医療費の支払いはもちろんなのですが、そのほかにはいわゆる保健事業と呼んでいる健康の教育、あるいは健康相談、健康診断といった疾病予防とか、健康づくりといった施策の実施を通して、被保険者とその家族の方々の健康の保持増進を図ることをやっております。言葉を換えると、これが健康保険組合としての保険者機能と申しておりまして、この発揮を図るべく毎日努力しているところです。
 具体的に申しますと、病気に関する知識の普及啓発、あるいは種々の健診の実施及びその結果に基づく事後フォロー、例えば医師、保健師、管理栄養士の方々等の専門職による保健指導生活習慣病改善、その他適切な専門医療機関の紹介をやっております。肝炎についても、そうした保健事業の中で、全国約1,500の健保組合が、その健保組合個々の実情に応じて、正しい知識やウイルス検査の受診の普及啓発等に取り組んでいるところです。そうした個々の健康保険組合が行う保健事業をサポートするために、連合体であります健康保険組合連合会が事業を展開していることになります。
 この場では、その中でも特に肝炎に関する取組に絞ってご報告させていただきます。1つはウイルス検査の受診促進です。健保連では、全国の健康保険組合が、共通に利用展開できる施策を共同事業と呼んでおります。その1つとして人間ドックの施設を紹介する事業があります。その人間ドックを、全国の健康保険組合でどうぞお使いくださいということです。健保連の指定している人間ドックの施設は、全国に約1,200機関あります。ここで肝炎ウイルス検査の実施体制を整えて、各健保組合の利用に供しています。B型肝炎の検査については平成2年度から、C型肝炎の検査は平成8年度から実施しております。
 肝炎ウイルス検査の実施状況を申し上げますと、平成19年度が最新のデータとしてあります。B型のウイルス検査を被保険者に実施した健保は40.3%になっております。被扶養者に対して実施した健保は32.4%でした。C型肝炎のウイルス検査については、被保険者と被扶養者の合計で30.5%の健保が実施しています。この数字については、まだ十分な数字とは言えないと認識していて、今後制定される肝炎対策基本指針も踏まえ、さらに周知を図りたいと考えております。
 ただ今の40%とか30%という数字について付け加えますと、私ども健康保険組合としては、いろいろな健診項目がありますが、例えば肺がん検診等は60%ぐらいの実施率です。近年ニーズが増えてきております脳ドックは31%です。特に私どもが重視している組合が多いのは歯科健診です。これは、全健康保険組合の療養費の15%を歯科健診で占めていて、各健保組合の関心が高いのですが、歯科の実施率は被保険者に対しては35.9%、被扶養者に対しては21.3%です。
 そういうことでいくと40%、30%という数字は十分な数字ではないと思ってはおりますが、各健康保険組合の肝炎についての関心というのは、そういう意味では決して低いものではないと考えております。ただ、今後さらなる周知が必要であるというのは先ほど申し上げたとおりです。
 もう1つは、肝炎についての知識の普及啓発です。お手元の資料ですが、健康保険組合連合会として、毎週土曜日の朝に放映というテレビ局が多いのですが、全国で30局に上るテレビ局で、朝8時から9時25分の間に1分間ほどのCMを毎週放映させていただいております。
 お手元のB型肝炎、C型肝炎のCMは3年前の平成19年に放送いたしました。このテレビCMは、今年中にもう一回新たな肝炎の内容で放送したいということで検討しているところです。今後とも、本協議会での議論及び肝炎対策基本指針の内容を踏まえ、機関誌などもありますので、肝炎についての知識の普及啓発、検査の受診促進等を図っていきたいと思っております。
 なお、これは厚労省へのお願いですが、受診促進については、健診時のパンフレット配布が大変効果的であるかと思っております。肝炎についての不合理な誤解の解消も含め、できるだけその内容の確かなポスターやパンフレットをご用意いただければ大変ありがたいと存じております。よろしくお願いいたします。以上です。

 ○林会長 どうもありがとうございました。続きまして、中小企業における肝炎検査及び治療実態に係る研究結果について、武蔵野赤十字病院泉副院長にご発表をお願いいたします。

 ○泉参考人 資料の77頁からです。厚労省の研究班で、東京商工会議所からご推薦いただきました、無作為に抽出した4,000社にアンケート調査を送らせていただきまして、その回答を分析させていただいたものです。1,085社、25%から回答していただき、いろいろな業種から回答を寄せていただいております。74.4%は50人未満の企業でした。
 ウイルス肝炎の早期発見のための取組を聞かせていただきまして、社内での肝炎に関する啓発活動の有無ということで、「啓発活動あり」が57社、5%です。啓発活動の内容でいちばん多いのが「行政等のリーフレットの配布」で30社、56.6%、それ以外に「社内ホームページ」「社内報」「メール」で啓発活動をやってくれている現状です。
 実際に啓発の内容として答えていただいたのは、「ウイルス肝炎に関する知識」が最も多くて38社、「自治体が行う無料検診の肝炎ウイルス検査についての啓発」が26社、「ウイルス肝炎に関する治療の内容」については14社、「インターフェロン治療に係る医療費助成制度」については5社です。社員は自覚症状がなくても、感染しているだけで肝硬変や肝臓がんになってしまいますので、将来的な労働力の不足にもつながりかねないということです。自覚症状はなくても治療を受けていただいて、現在、肝炎は治る病気になっておりますので、啓発活動をやっていくことは極めて大事だろうと思っております。
 ウイルス肝炎検査の機会の確保ですが、どのようなときに肝炎検査してくれているかというと、「雇入時」が13社で1.2%です。「定期健診」で肝炎検査をやっている企業が146社で13.5%です。その他の機会として「希望者」にしているのが178社で16.4%です。全体としては22%の企業が肝炎検診をやってくれているということで、肝炎検診をやっていただくことにより、ウイルス菌の感染者を早期に発見することが大事だろうと思っております。
 肝炎検診で見つかった、検査後のフォローアップに対して伺ったところ、医療機関への受診の勧奨があるかどうかを聞いたところ、63.5%の企業で受診の勧奨をしてくれています。勧奨した後、本当に受診したかどうかを確認していますかと聞いたところ、32.7%の企業で確認しているということです。受診の勧奨というのは治療を受けることにつながりますので、是非この対策も推進していただきたいと思います。
 次の項目としては、肝炎治療促進のための取組についてです。治療が必要な従業員の就労上の配慮がなされているかどうかについては、「配慮している」企業が215社で19.8%でした。その内容は「時間外労働の縮減」が最も多く、その他さまざまで「フレックス制度の活用」「出張の制限」「短時間勤務」「勤務日数の縮減」「部署異動」といったことで配慮してくれているということです。このような就労での配慮が、治療を受けるための機会が増えるということで大事なファクターであろうと思いますので、この辺も是非推進していただきたいと思っています。
 実際に過去5年間に肝炎治療を行った労働者の数を調べたところ、「1人」いるという企業が30社で2.8%、「2人」いる所が2社で0.2%、「5人」いる所が1社です。74%の企業はそういう患者さんはいらっしゃらないということです。
 実際に肝炎治療を行うときに、休暇の制度についてのアンケートをさせていただきました。「肝炎治療のための休暇制度がある」と答えたのが11.4%です。申し訳ないのですが、病名を告げる必要があるかということで、「あり」と答えたのが5割でしたので、半分は病名を告げる必要があるということです。
 肝炎治療を受けるときの休暇制度において、有給休暇でどのぐらいの期間が取れるかを聞いたところ、最も多いのは「11~30日」で19社です。肝炎に限らない有給休暇ということで聞いたところ、いちばん多いのが「31~90日」で169社でした。その次で「11~30日」で155社です。既存の制度を活用し、有給休暇を利用して治療を受けていただくことになっているかと思います。
 肝炎治療を受けた従業員への対応時の留意点を伺ったところ、多くの企業は、今まで肝炎の治療はされていない所が多いわけですが、「これまで従業員が肝炎治療を受けても、特別な留意は必要なかった」という企業が67社で7%です。「治療休暇によって所轄する業務に支障があった」というのが13社で1.4%です。「治療の副作用による業務上の遂行に支障を来した」という企業が7社で0.7%です。「プライバシーへの配慮」を挙げていただいたのが30社で2.1%です。「当該従業員以外の方の業務負担が増加してしまった」が11社で1.1%です。
 肝炎治療のための相談窓口があるかどうかを聞いたところ、3割を超える企業が「相談窓口あり」と答えていただきました。実際に相談窓口になっている所は産業医が多く、非常勤の産業医が119社です。もう1つ多い所として「提携クリニック」が80社でした。相談窓口として産業医の先生方の役割、保健師さんの役割、そして提携クリニックの役割が非常に大きいだろうと思います。したがって産業医の先生方、あるいは提携クリニックに対しては、現在肝炎治療というのは非常に進歩していて、ウイルスが排除できるようになったということを、是非啓発していく必要があると考えております。
 以上のアンケート調査から、とれる対策を少し考えてみました。まず啓発活動を十分にやっていくということで、現在肝炎にかかっていても、ほとんど自覚症状がないわけですが、やはり自然経過で肝硬変、肝蔵がんになってしまいます。しかも肝炎はインターフェロンで治ることがわかっておりますので、非常に医学が進歩していることを含め、啓発活動を行っていただくことが大事だろうと思います。
 肝炎ウイルス検査を是非推薦していただきたいということで、希望する職員については肝炎ウイルス検診を受ける体制を是非確保していただきたい。ただ、個人情報がありますので、十分なプライバシーへの配慮が大事だろうと思っております。検査を行った後の受診の勧奨が非常に大事だろうと思います。治療を受けることにつながるわけですので、受診の勧奨も是非つなげていただきたいと思っております。
 就業上の配慮ですが、休暇制度は本人が治療を受けるための非常に大事なことになろうかと思います。肝炎に特化して配慮することは非常に難しいと思いますので、既存の制度の周知を十分にお願いできればと思います。相談窓口を確保することも極めて大事なことであろうと思います。したがって、相談窓口になっている産業医の先生方、あるいはかかりつけ医の先生方に対して、現在の肝炎治療は非常に進歩していることを周知していただきたいということです。多くの企業がいろいろな努力をしているということですが、さらに拡充をして、肝炎の患者さんが肝硬変、肝臓がんにならない体制を是非整備していただくということでお願いいたします。以上です。

 ○林会長 どうもありがとうございました。最後に、法務省による人権擁護の取組について、法務省人権擁護局の中嶋様からお願いいたします。

 ○法務省人権擁護局 法務省人権擁護局局付の中嶋です。本日は、法務省の人権擁護機関の取組について説明の機会をいただきましてありがとうございます。資料の85頁から108頁まで資料13と書かれたものと、あとは「人権の擁護」という題名の付いたA5判のパンフレットのようなものが配られていると思います。本日は主に資料の85頁、右上に資料13と書かれたところの図を基に説明させていただきます。
 法務省の人権擁護機関というのは、法務省人権擁護局と、あとは全国にあります法務局、あるいは地方法務局とその支局と、全国に約1万4,000人いる人権擁護委員の総体を指して、法務省の人権擁護機関と呼んでおります。法務局及び地方法務局並びにその支局というのは、現在のところ全国に323か所あります。法務局というと、主に登記や供託などを取り扱っているというイメージのほうが大きいかと思われますが、実は昭和23年以来60年以上にわたり、人権擁護業務を行ってきております。説明が遅れましたが、人権擁護委員というのは、法務大臣から委嘱を受けた、民間のボランティアの方々であります。先ほど申し上げましたとおり、全国で約1万4,000人の人権擁護委員が、法務局や地方法務局と連携し、国民の人権擁護活動に携わっております。
 私どもは、全国の法務局及び地方法務局並びにその支局において、常時人権相談を受け付けております。また特設相談所、これは市町村役場等に特設の相談所を設けるものですが、特設相談所を設けて出張相談を行う場合もあります。
 このような人権相談を受けるのは、人権擁護委員や法務局・地方法務局の職員であります。人権相談は、実際に相談所へ相談者に来ていただいて、面談して相談を行う場合のほか、電話やインターネットでも受け付けております。実際にも差別、虐待事案をはじめとして、名誉毀損や体罰、いじめなどさまざまな人権侵害に関する相談を受け付けております。
 このような相談の内容などから、人権侵害の疑いがあると認められる場合には、人権侵犯事件として調査を開始しております。人権侵犯事件として調査を開始すると、関係者から事情をお聞きするとか、資料を集めるなどして、実際に人権侵害の事実があったかどうかを判断いたします。ただ、この調査に強制力はありませんので、相手から事情を伺うなどする場合には、あくまで相手方の了解を得てということになります。
 調査が終わると、この図の一番下の部分になりますが、事案の性質に応じて、適当と考えられる措置を選択いたします。例えば「調整」という措置がありますけれども、これは両者の話合いの場を設け、お互いの立場についての理解を深めていただくなど、当事者間の関係を調整するものです。そのほかに「説示」という措置があります。これは、人権侵害の事実が認められた場合に、相手方に反省を促す必要があるときには、法務局長の名において、相手方の行為が人権侵害に当たることを告げ、相手方に反省を促す措置です。
 このように、法務省の人権擁護機関が行う措置には強制力はありませんが、第三者である国の機関が入ることにより、当事者間ではこじれがちな関係をうまく調整できる場合も少なくありません。特に、裁判にまで訴えるつもりはないが、相手方に反省してほしいというような場合にはぴったりの制度ではないかと我々は考えております。そういうことで、肝炎であることを理由とした人権侵害などについて、法務局あるいは地方法務局にご相談いただければ、我々が解決のお手伝いをさせていただくことになろうかと思っております。
 もっとも、法務局の職員や、人権擁護委員というのは、もともと肝炎に対する知識を持っているとは限りません。この点HIVやハンセン病に関しては、厚生労働省やエイズ予防財団で作られた、基礎知識に関する簡易なハンドブックが出されておりますので、人権相談の現場では、そのようなハンドブック等を活用させていただいております。肝炎についても、そのようなハンドブックなどがあれば、是非活用させていただきたいと考えております。また、当機関では、人権侵犯事件の調査救済のみならず、人権啓発活動も行っておりますので、そのようなハンドブックがあれば、啓発活動にも活用させていただきたいと考えております。
 それに加えて、人権侵犯事件の調査の際に、肝炎に関する専門知識を有する機関と我々が連携・協力させていただければ、肝炎に関する正しい知識と理解を基にして、人権救済活動を行うことができると思いますので、今後とも関係機関と連携を密にしてまいりたいと考えております。
 最後になりますが、お配りいたしました資料は、平成21年における調査救済活動に関する報告資料が87頁から103頁です。平成21年の統計等の調査救済活動に関する資料です。「人権の擁護」と題するパンフレットが、法務省の人権擁護機関の取組みを簡単にご紹介したものです。加えて資料13の105頁からが、常設人権相談所の連絡先です。ここに電話をしていただければ、人権相談が受けられることになっておりますので、是非ご利用いただければと思っております。以上大変簡単ではありましたが、法務省の人権擁護機関の取組を説明させていただきました。

 ○林会長 どうもありがとうございました。意見交換に入らせていただきますが、その前に第1回協議会において、委員からご質問がありました点について事務局から回答をいただきます。

 ○伯野肝炎対策推進室長 時間が押しておりますので、簡単に説明させていただきます。拠点病院の相談センターにおける、相談件数は全国でどれぐらいあったかというご質問がありました。調査をしたところ、平成21年度は1万1,384件ありました。2点目は、山梨県にプレゼンをしていただきましたが、肝疾患コーディネーター養成事業で、1年間に何人養成したのかというご質問です。山梨県に確認したところ、平成21年度は23名でした。
 3点目以降は運営についてです。協議会の会場が狭いということで、希望する方が全員傍聴できるようにしてほしいということについて、今回は67名の傍聴希望があり、全員入れているかと存じます。スケジュールについては、なるべく早く示してほしいということでした。現在、11月までの日程調整をさせていただいているところですが、可能な限り開催日を早く決定したいと思っております。
 資料については当日配布ではなくて、事前に送付してほしいということもありました。今回は若干早かったと思いますが、先週にお送りさせていただいております。資料と議事録を公開してほしいという要望もありましたが、これはいずれとも既にホームページで公開済みです。以上です。

 ○林会長 続いて、阿部委員から、肝炎対策基本指針作成に当たってのご意見があると伺っておりますのでお願いいたします。

 ○阿部委員 6人の患者・遺族の委員がおりますけれども、代表して私から発表させていただきます。第1回、第2回の協議会で発表いただいたように、今まで肝炎対策については、かなりいろいろな対策がされてきていると思います。ただ、私たち患者にとってみれば、末端でそういうものを享受できる環境にはないという感じがしております。私たちは患者団体、あるいは原告弁護団と一緒になり、47都道府県、北海道から沖縄まで各県の担当者にヒアリングをして、今現在肝炎対策がどのように行われているのか、あるいは肝疾患体制がどのようになっているのかということを調査いたしました。
 その調査の結果は351頁にわたって作っております。それに基づいて、具体的取組のあり方についての要望書を、前回第1回にこういうものを提出させていただきました。説明はまだしていないわけですけれども、そんな状況にあります。
 今回論点表を出したというのは、いままでいろいろな肝炎対策をやって、基本法をなぜ作らなければならなかったのか。地方自治体などの責務をなぜ決めなければならないのかということを考えていただきたいと思います。
 そのために、私たちは論点表ということで、現場がどうなっているのかということを、いままでの肝炎対策がどのように行われてきて、どんな問題があるのかということをまず明らかにして、その明らかにした問題点をここで議論していただきたいということで、この要望書を作りました。そういう論点の視点を持って、第3回には基本指針の骨子を出すということですが、いままでやってきたことをチェックし、その上で指針案を出していただきたいというのが患者としての考え方です。
 考えられる基本方針の中の3番、4番にありますが、がん対策基本法の方もそうですが、今までは目標がはっきりしていなかったのではないか。それで、がん対策にしてもきちんとした目標、あるいは達成時期を出してほしいということをその指針に盛り込んでいただければと思います。
 最後になりますが、2枚目の6です。ウイルス肝炎患者に対する生活支援、ウイルス肝炎患者特に肝硬変、肝がん患者の生活実態の調査、これは肝炎基本法の付則にも特に書かれておりますが、肝硬変、肝がんの支援のあり方の検討が掲げられております。今、いちばん厳しい状況に置かれている肝硬変、肝がん患者の実態調査などを早急に実施し、具体的な施策に結び付けていただければと思います。また、そういうものを指針に盛り込んでいただきたいということです。
 がん対策基本法のことで、患者委員として出ております本田真由美さんが、「がん対策の推進と国民患者参画」ということで文章を書かれております。10何団体のがん患者会と、厚労省との話を定期的にやったということです。そういうことで、我々がまとめた要望書、提言書を是非見ていただいて、それを指針に盛り込んで、その問題点をこの中で話をして、なぜいままでウイルス検診の受診率が低いのか、あるいは診療体制がうまくいっていないのかを皆さんにもわかっていただいて、それで指針を作っていただければと思います。以上です。

 ○林会長 どうもありがとうございました。時間は押しておりますが、全体を通してご意見がありましたらお願いいたします。

 ○桜山委員 東京都福祉保健局の桜山です。先ほど天野委員から、資料3の9頁で、肝疾患診療連携拠点病院の件に関して、和歌山県と東京都はまだできていないという話がありましたが、その件について簡単に追加させていただきます。東京都は、肝炎対策を集中戦略として国よりもちょっと早く始めたものですから、国の制度との整合性がまだ取れていない面があります。東京都では、幹事医療機関という形で14病院にお願いして、診療上のことではかなりよくやっていただいております。ただ、天野委員ご指摘のように、相談センターということに関して、東京都では現在難病相談支援センターとか保健所では相談を受け付けています。専門的な相談ということもありますので、今、担当者が厚生労働省の方と調整中ですので、そう遠くない時期に拠点病院を整備できるものと考えております。以上です。

 ○林会長 ありがとうございます。先ほどの天野委員からのご質問でした。それ以外にご意見、ご質問がありましたらお願いいたします。

 ○天野委員 本日は5時までということで、この時間まで押しています。この場は意見交換とか協議をする場を設けて、それで協議をした上で基本指針を作る場だと思っています。プレゼンテーションだけで終わってしまって、それで協議の場がないということはちょっと困ったことだと思っています。

○林会長 次回から配慮していただくようにお願いしておきます。

○天野委員 少し時間を長くしていただけるようによろしくお願いいたします。

○林会長 はい。

 ○武田委員 私も、患者の考え方をもうちょっと聞いてくださいということを言いたかったのです。先ほど、仕事をしながら治療をするという、有給休暇の取り方などを聞きましても、私は発病してから22年間ずっと治療をしながら働いてきた経験から言いましても、ものすごく難しいということです。先ほどの皆様の取組の統計を取ってみましても、やはり難しいのだろうということはよくわかりました。
   これを解消するには、各自治体が、働きながらの治療に対してはもう少し進歩した対策を取っていただきたいということをつくづく思いました。私は愛媛県なのですけれども、県のほうへ行って何度か話をしているのですけれども、前に行ったときに言われたのは、現行でも病気休暇が認められるなどがありますけれども、現実の職場ではこれが認められるかどうかは疑問である。法整備を国にしてもらう必要があるということを県でも言っていました。もっともっと強力に各自治体に働きかけて、仕事をしながら治療ができるような状態にしていただきたいと思います。
   人工透析の通院休暇はあるようです。人工透析では皆さん障害手帳も貰っていますし、休暇もあるということはすごくいいことだと思うのです。私たちは、死ぬ手前だけしか障害年金が貰えないです。その上に、通院の休暇も貰えないというのは、すごく不合理なことだと思います。私は22年通院して何百万円も使って治療していますが、そういう状態の中でも働かなければならない現実があります。皆さんにもそういうことを考えていただきたいと思っております。だから、こういう考え方を、もっともっと聞いていただきたいというのが現実です。

 ○林会長 本日は、確かに十分な意見交換時間が取れておりませんが、これは全体として伺いたいと思います。

 ○木村委員 患者委員の木村です。先ほど阿部委員から提案がありましたので、その点については申し上げませんが、事務局にお伺いしたいことがあります。前回の議事録の公開に当たって、個人的にはかなり時間がかかったのではないかと考えていますがどうなのでしょうか。それから、今回は前もって資料を配布していただきまして大変助かりました。できればワードなどのデータでいただくことができればと個人的には希望しますが、その辺は可能であるかどうかということです。

○林会長 議事録のところはどういうご質問でしょうか。

○木村委員 もう少し早く公開することが可能であるかということです。

 ○伯野肝炎対策推進室長 議事録についてはほかの協議会もそうなのですが、各委員に対して間違っていないかどうかの確認をしていただいております。それが上がってきて、それを直して、できるだけ早く公開するようにしておりますので、各委員にも併せてご尽力いただければと思います。我々も、当然上がってきたものについては速やかに修正をしてホームページに載せるように努力はいたします。

○林会長 2つ目は、どういうデータのことをおっしゃっているのですか。

 ○木村委員 今回は現物が郵送されてきたのですけれども、ワードデータなりをメールでということは可能かということです。遅れて来るものはデータで配布されたと思うのです。

 ○林会長 文書以外に、メールで配布資料を送っていただきたいということですか。

○木村委員 はい。

 ○伯野肝炎対策推進室長 各委員の方々から資料をいただいて、それについては公開を前提にしておりますが、そのままワードとかパワーポイントという形で出してしまうと、それがそのままいろいろな所へ独り歩きしてしまって、例えば変えてしまったりというリスクが若干あると思います。基本的にはPDF等でお送りすることになるのだと思いますが、そうすると容量の問題があって一斉に送れないところもあります。また、委員の中にはメールを使われていない委員もいらっしゃいますので、その辺でできるだけ早く資料を送付させていただければと思っております。当然資料のボリュームがそんなになくて、PDF化してすぐ送れるような場合であればそのようにさせていただければと思います。

 ○林会長 今回は、意見交換の時間が十分に取れておりません。今後は意見交換の場を設けますので、1回目、2回目のことについてのご意見等がありましたらそのときにご質問、ご意見をおっしゃっていただければと思います。

 ○木村委員 先ほど、阿部委員のほうから、我々の論点表を出させていただきました。本日は時間がないのであれですけれども、次回はこの論点表を含めて、この協議会の中で各委員の考え方なども私たちは是非伺いたいと思います。その辺を踏まえて、次回は是非各委員の方々にはよろしくお願いいたします。

 ○林会長 かなり時間が超過しておりますので、本日はこれで終わらせていただきたいと思います。最後に事務局から連絡事項等がありましたらお願いいたします。

 ○伯野肝炎対策推進室長 資料15をご覧ください。前回第1回協議会で、自治体に対する調査結果を報告させていただきました。その中で、各都道府県で実施している肝炎対策協議会に患者委員を任名していない県が非常に多いという報告がありました。その翌日に薬学肝炎の大臣との定期協議もあり、その場でもそういうご指摘がありました。そういうことを踏まえ、都道府県等に対する、これは国庫補助事業ですので、都道府県肝炎対策協議会の取扱いを定めた、資料15にある実施要綱を一部改正させていただこうかと現在調整中です。具体的には、協議会の構成員の例示に「肝炎ウイルスの感染者及び肝炎患者並びにその家族又は遺族」という文言を追加させていただこうと思っております。
 続いて資料16です。前回、スケジュール感については口頭でお話をさせていただきましたが、ご質問も多かったものですから、今回は資料として文書に落としております。こちらもご参照いただければと思います。
 最後に資料17ですが、政策評価については、各行政機関が所掌する政策に対して自己評価を行うというものがあります。今年度から、政策評価の拡充として、現行の省内の有識者会議に加えて、施策ごとに外部の有識者のご意見を聴取するとなっております。本日は資料17のとおり、政策評価の案をお示しさせていただいておりますので、内容について委員の皆様のご意見を伺いたいということです。本日は時間がありませんので、1週間後の8月9日(月)までに事務局まで、ご意見のある方はお申し出いただければと思います。

 ○林会長 これで本日の会議は終わらせていただきます。ご多忙のところをご出席いただきましてどうもありがとうございました。特に、司会の不手際で非常に時間が超過いたしまして申し訳ございませんでした。次回もよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。


(了)
<(照会先)>

健康局疾病対策課肝炎対策推進室
照会先 健康局疾病対策課肝炎対策推進室
西塔・渡邉

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