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2013年11月7日 第197回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会 議事録

職業安定局派遣・有期労働対策部需給調整事業課

○日時

平成25年11月7日(木)10:00~


○場所

厚生労働省 職業安定局第1・2会議室(12階)


○出席者

(公益代表)鎌田委員、柴田委員、橋本委員、阿部専門委員、竹内(奥野)専門委員
(労働者代表)石黒委員、清水委員、新谷委員、春木オブザーバー、宮本オブザーバー
(使用者代表)秋山委員、小林委員、高橋委員、青木オブザーバー、大原オブザーバー

事務局

岡崎職業安定局長、宮川派遣・有期労働対策部長、鈴木企画課長、富田需給調整事業課長
松原派遣・請負労働企画官、鈴木主任中央需給調整事業指導官、亀井需給調整事業課長補佐、木本企画調整専門官

○議題

今後の労働者派遣制度の在り方について

○議事

○鎌田部会長 ただいまから第 197 回労働力需給制度部会を開催します。それでは、本日の議題「労働者派遣制度の在り方について」の議事に入りたいと思います。本日の進め方としては、「平成 24 年改正法」、「特定を目的とする行為」、「指導監督の在り方」の 3 つの論点について、事務局から資料を説明してもらった後に御議論いただきたいと思いますが、まず「平成 24 年改正法」について御議論いただいた後、残りの時間でほかの論点を合わせて御議論いただきたいと思います。では、初めに事務局から資料の説明をお願いします。

○亀井補佐 それでは、本日お配りしている資料について、御説明させていただきます。まず、お手元にお配りしている次第を御確認ください。本日は事務局から資料を 4 種類、御用意しています。御確認いただいて過不足等がありましたら、事務局にお伝えいただければと思います。

 それでは、資料 1 「各項目を議論する上での論点」です。本日、部会長から御紹介いただいた 3 つの論点について、御留意いただきたい点をまとめたものです。 1 として、「平成 24 年改正法」についてです。大きく 2 つ○があります。 1 つ目ですが、日雇派遣の原則禁止など、既に施行されたものについては、見直すべき等の意見もあれば、施行状況の情報の蓄積を図っていくべき等の意見もあります。 1 年経過後の施行状況を踏まえて、どのように考えるべきかということです。続いて、まだ施行されていない労働契約申込みみなし制度ですが、こちらについても見直すべき等の意見があることから、この点をどのように考えるべきかということです。

2 として、「特定を目的とする行為」についてです。前提として、派遣先が派遣される労働者を特定するなどの行為は、派遣元の雇用者である地位に、派遣先が介入するものとして、労働者供給事業に該当する可能性があるということで禁止されていますが、論点案としては、無期雇用の派遣労働者について、事前面接を可能とすることについて、平成 20 年の労働政策審議会で、これを認める方向で建議されています。その後の状況を踏まえて、どのように考えるかということです。

3 は「指導監督の在り方」についてです。こちらは悪質な事業者を排除するための仕組みとして、どのようなことが考えられるかということです。最後に、これまで御議論いただいた論点のほかに、議論すべきものがあるかということです。参考として、いつものように研究会報告書の該当部分を抜粋して、お付けしていますので、適宜御利用ください。

 続いて資料 2 は、関係資料、本日の論点に係る資料を集めたものです。まずは、「平成 24 年改正法」についてです。 2 ページから 14 ページまでは、平成 24 年改正法の施行状況調査の結果をお付けしています。 15 ページから 21 ページまでは、前提として平成 24 年改正法の概要が分かる資料も参考として付けているので、適宜御覧いただきながら、お聞きいただければと思います。

 それでは 2 ページ目、施行状況調査です。こちらの調査は都道府県労働局を通じて行ったもので、資料にありますとおり、 10 月の第 1 週から第 3 週までの間に、都道府県労働局が指導監督を行った事業所から、平成 24 年改正によって義務づけられた事項などへの対応状況についてヒアリングをして、その結果をまとめたものです。ヒアリングのみならず、適宜書類によりヒアリング内容の裏付けを行いながら、まとめています。※で一番下に付していますように、指導の最中で法令違反等を把握した場合には、是正指導等を行っていることを申し添えます。

3 ページ目からは、調査結果のそれぞれの項目です。まず調査対象の事業所の概要ですが、総数が 230 です。一般が 7 割、特定が 3 割という状況になっています。事業規模は、 2 11 50 人が最多の 26.1 %。これに次いで 1 10 人が 22.2 %という状況になっています。

4 ページから 7 ページまでは、日雇派遣の原則禁止に係る対応状況の結果をまとめたものです。 (1) を御覧いただきますと、 230 事業所のうち、改正法の施行前に日雇派遣を行っていた 94 事業所に対して、それぞれ対応状況を問うというものです。表の (2) ですが、どのような対応を行ったかを問うた結果で、 1 の認められた例外の範囲で継続しているというのが 6 割、 4 のやめたがこれに次ぐ 4 割、 3 の雇用期間を延長して対応が 3 割、という結果で続いています。

 その下の (3) ですが、「雇用期間の延長によって対応しました」という 30 事業所に、具体的にどのくらい延長したかを問うたものです。 1 30 40 日というのが最も多くて、 7 割弱という結果になっています。続いて (4) は、延長した結果、 1 か月当たりの平均就業日数はどうなったかということですが、これは 15 日以上が 7 割を占めるという結果になっています。

5 ページは「例外的に認められた形で継続している」と答えた 58 事業所に対して、具体的な対応を問うたものです。 (1) を御覧いただければ分かりますように、「認められている業務の範囲で」が 4 割、「認められている属性の範囲で」が 9 割超という結果になっています。

 では、認められている業務の範囲で、具体的にどのようなことを行わせているかというのが下の表ですが、 3 の事務用機器操作と、 12 の受付・案内が 36 %で並んでいます。 4 の通訳などが 2 割で、これに次ぐ結果となっています。

6 ページです。次は属性の範囲で、どのような対応をしているかを問うた結果をまとめたものです。表を御覧いただきますと、世帯収入が 500 万円以上、主たる生計者以外が 8 割強という結果で最多。 2 の学生等、 1 60 歳以上がこれに次ぐという結果になっています。

 それに続く表は、それぞれの属性ごとにどのような業務をお願いしているかというのをまとめたもので、 60 歳以上は 4 の倉庫・軽作業が 4 割強で最多となっています。これに次ぐものとして 9 のイベント運営が 14.8 %です。その下の表の学生ですが、学生となりますと、こちらは 2 の販売と 4 の倉庫・軽作業が 2 割強。 9 のイベント運営が、これに次ぐ結果となっています。

7 ページは、生業収入が 500 万円以上ある方が副業として行っている場合に、どのような業務を行っているかをまとめたものです。総数が 13 と少なくなっていますが、こちらも最多の業務は、 4 の倉庫・軽作業が 3 割です。これに次ぐものとして、 2 の販売と 9 のイベント運営が同率となっている状況です。その下に、主たる生計者以外の業務をまとめていますが、 2 の販売、 3 の一般事務、 4 の倉庫・軽作業などが高いという結果になっています。最後の (2) の表は、こうした属性の確認をどのように行っているかということですが、 1 の「公的書類による」が 9 割、「誓約書等の提出」が 74.5 %という結果になっています。

8 ページからは 3 「グループ企業派遣の 8 割規制」への対応状況です。こちらは、改正法施行前に 8 割を超えていた事業所が 15 と、非常に少ない結果ですが、 (2) で対応状況を問うていまして、まず 1 の「グループ外の企業との取引量を増やした」が 4 割で最多。 2 、グループ企業との取引量を減らしたり、派遣先での直接雇用に切り替えたものが、これに次ぐという結果になっています。

9 ページは、 4 の「離職後 1 年以内の派遣の禁止」と、 5 の「無期雇用への転換推進措置義務」への対応状況をまとめたものです。まず 4 ですが、ほとんどの事業所が、派遣労働者が離職後 1 年以内であるという連絡を受けていないという結果になっています。 5 の無期雇用の転換推進措置ですが、対応状況として、最多のものは 2 の派遣先での機会の提供が 3 割ということです。続いて 5 の該当者なしがこれに次いで、 3 の紹介予定派遣が 2 5 分という結果になっています。

10 ページは均衡待遇の配慮義務への対応状況を問うたものです。 (1) は配慮の内容ですが、 5 の派遣先等の福利厚生の均衡というのが、最多の 5 割弱。続いて 1 の派遣先の労働者との賃金の均衡がこれに次いで、 3 の職務内容や成果等を勘案した賃金設定が更に次ぐという結果になっています。

(2) は派遣先から具体的にどのような協力を得られたかというものでして、 (1) と大体対応していますが、福利厚生の関係が最多の 5 割、 4 の職務評価の情報提供が 4 割弱、 2 の教育訓練の情報提供が 3 割強という結果になっています。

 続いて 11 ページです。 7 として「マージン率等の公開」への対応状況です。こちらは 230 事業所のうち、公開している所が 7 割強、公開していない所が 3 割弱となっています。こちらはほかの項目に比べて、公表していないという割合が高くなっていますが、考えられる要因として、マージン率については事業年度の終了後に、前事業年度の数値を用いて算出するとされているので、まだなしとしている所の中に、事業年度がまだ終了していないので、これからという所も含まれていることによると考えられます。

 表の (2) は、公開している所はどのような方法をとっているかですが、 1 の書類の備え付けが最多、ホームページがこれに次ぐという結果になっています。 (3) は、どのような内容を公開しているかということですが、こちらは大半の項目が 8 割を超えているという結果になっています。その下の表ですが、マージン率を公開している 160 事業所に、マージン率を問うたところ、 25 30 %が最多の 3 割、 30 35 %がこれに次ぐ 28.8 %という結果になっています。

 続いて 12 ページは、「待遇に関する事項等の説明義務」への対応状況です。こちらは、具体的にどのような事項を説明しているかということですが、最多は 1 の派遣労働者として雇用した場合の賃金見込額。 2 の待遇に関する事項と、 4 の制度の概要が、これに次ぐ結果となっています。

 その下、 9 「派遣料金額の明示」ですが、こちらは書面の交付による所が 2 5 分と最多になっています。明示していないが 15.7 %と、こちらも比較的高くなっていますが、原因として考えられる事項は、今般の改正によって、派遣労働者に対して様々な情報を開示することとされていますので、これに違反している事業所から上がる声としては、ここまで周知が行き届いていなくて、知らなかったという回答が多いということです。

 続いて 13 ページです。 10 の「派遣契約が中途解除された場合の措置」です。 (1) ですが、改正法施行後に派遣先都合で中途解除があった 46 事業所に、対応状況を問うています。表の (2) が派遣先の対応状況でして、 2 の休業手当等の支払い費用の負担が最多の 6 割、 1 の新たな就業機会の提供が、これに次ぐ結果となっています。 10-1 ですが、派遣契約を中途解除された場合にどう対応するかということを、派遣契約に盛り込むことになっていますが、最多が 1 の新たな就業機会の提供、 2 の支払い費用の負担が、これに次ぐ結果となっています。

14 ページですが、 11 の「労働契約申込みみなし制度」です。こちらは平成 27 年に施行予定の「労働契約申込みみなし制度」について、派遣先から派遣元に寄せられている御意見をまとめたものでして、 6 の「特に意見はない」が 8 割弱で最多の結果となっています。

15 ページ以降は冒頭で申し上げましたように、今般調査しました平成 24 年改正法の施行状況の参考として、具体的な改正内容の概要をまとめた資料をお付けしています。 15 ページは平成 24 年改正法の概要を 1 枚にまとめたもので、 16 ページ以降ですが、平成 24 年改正を反映させた、現在の派遣制度の概要の全体がどうなっているかということを、項目ごとに解説したものです。 16 ページの右上にありますように、平成 24 年の法改正によって追加された事項は★を付けているので、御議論の最中に適宜、御参照いただければと思います。

 それでは、少しページが飛びますが、 22 ページの 2 、「特定を目的とする行為」に係る関係資料です。 23 ページは特定目的行為に関する、過去の審議会の建議等です。資料 1 の論点案にも掲げましたとおり、特定目的行為については、平成 20 年の労働政策審議会の建議で、事前面接を認める方向で建議がされています。特定を目的とする行為を可能とするということです。

 建議の該当部分を抜粋していますが、考え方の参考として、下半分に当時の研究会報告書の該当部分を抜粋しています。下線部にありますとおり、常用型派遣についてみますと、間を飛ばしまして、派遣元事業主と派遣労働者の間に雇用関係が存在しますので、これが派遣就業の有無に関わらず継続することが前提となっていますので、仮に特定を目的とする行為が行われたとしても、雇用関係への存否に影響することがないという考え方で、特定を目的とする行為を可能としても差し支えないのではないかというのが、当時の内容です。

 続いて 24 ページ、本日の論点の 3 、指導監督の在り方に係る関係資料です。 25 ページですが、こちらは以前にもお出ししましたが、労働者派遣事業に係る指導監督実施件数の推移をまとめたものです。過去にもお出ししたことがありますので、説明は省略させていただきます。

26 ページは、派遣法に基づいて認められている、派遣労働者から行政当局への申告件数の推移です。こちらも以前お出しした資料です。 27 ページと 28 ページは、こちらも以前お出ししたことがある資料ですが、派遣元事業主と派遣先事業主のそれぞれに違反件数の多い法令をまとめたものです。今般、資料を少し修正していまして、表の右側に、それぞれの違反ごとにどのような行政処分が適用されるかということをお付けしています。

27 ページと 28 ページを見開きで御覧いただきますと、派遣元のほうが派遣先に比べて、違反件数が 1 桁多いという結果になっています。具体的な違反内容ですが、派遣元においては就業条件等の明示、事業報告書等の提出、管理台帳の不備、契約の記載事項、様々な変更の届出といったところで、基本的な事項に係る違反の件数が多いというケースです。

 右側の適用され得る行政処分ですが、派遣元に対しては、いずれの違反に対しても指導、助言、改善命令ないし、一般の場合は停止命令、取消。特定の場合は停止命令で、違反によっては罰金などが課されるという内容になっています。 28 ページの派遣先ですが、こちらは同じような資料ですが、適用され得る行政処分については指導、助言を基本として、ものによっては罰金や勧告、公表が適用されるということです。

29 ページですが、こちらは今御紹介しました法違反があった場合に、どのような是正措置が講じられるかということを、フローチャートで分かりやすくまとめたものですので、参考として御利用ください。なお、現在の課題として、無許可・無届の事業所に対して、停止命令が出せないといったことがあります。

 続いて 30 33 ページですが、こちらの資料は、行政による指導監督ということではなくて、罰金、刑罰が課される法違反について、一覧の形で、どのような罰金が課されるかということをまとめたものです。 30 ページから 33 ページまで一覧表にしているので、御覧ください。

 最後に 34 ページと 35 ページですが、こちらも以前にお出ししたことがある資料です。許可を受けずに常用労働者以外を派遣して、処分を受けた事例というのを、参考としてお付けしています。 36 ページですが、労働者派遣事業適正運営協力員制度というものがありまして、こちらは指導監督を補完するものとして、派遣を行う事業主や労働者の相談に応じるために、労働局のほうで設けています。労働者派遣法 53 条に根拠がありますが、真ん中に運営状況をまとめていまして、厚生労働大臣の委嘱によって、無報酬で相談、助言に対応いただいています。

2 つ目の○にありますが、制度の概要や名簿は、都道府県労働局のホームページに掲載していまして、年に 1 回、協力員会議を開催して、制度等の情報共有を図り、相談対応に応じやすくしていただくということを行っています。実績は下に載せていますので、御覧ください。資料 2 の説明は以上です。

 資料 3 はタイトルが右下に小さく書かれていて恐縮ですが、経済産業省が行っている平成 24 年企業活動基本調査の確報の結果です。こちらは本日、平成 24 年改正法の事項の 1 つであるマージン率の参考として、使用者側委員のお求めに応じて、提出させていただいたものです。こちらを御覧いただきますと、真ん中辺りのサービス業の経常利益率は 4.79 %となっていますが、 916 の労働者派遣業について御覧いただきますと、経常利益率が 3.53 %となっていまして、サービス業の平均と比較して、派遣業が低いという結果になっています。

 続いて資料 4 は、規制改革会議の意見書の抜粋です。こちらも以前にお出ししたことがある資料ですが、本日の論点の 1 つであります、平成 24 年改正法の事項について、様々な意見が出されているので、中身の説明は以前御説明したので省略しますが、本日も参考として、該当部分を抜粋してお付けしているものです。御説明は以上です。

○鎌田部会長 平成 24 年改正法について、自由に御意見を頂きたいと思います。

○大原オブザーバー 平成 24 年改正法について、意見を申し上げます。平成 24 年改正法のうち既に施行された新たな規定が、果たして今派遣で働いている方々にとって、あるいは、これから派遣で働こうとする方々にとって、必ずしも有益なものになっていないのではないか、あるいは、労働者保護に資するものとなっていないのではないか。逆に不合理な実情を生じているのではないかという指摘もなされていて、私どもとしても全般的にそのような認識を持っています。そこで、そのうち私からは日雇派遣禁止の問題と 1 年以内の離職者の派遣禁止、この 2 つのことについて意見を申し上げたいと思います。

 日雇派遣禁止の問題ですが、確かに数年前に日雇派遣といったものが社会問題化し、不安定雇用であるとか、ワーキングプアの増加を招くのではないか、そのような懸念からこの日雇派遣が原則禁止になったわけですが、そもそも現在の派遣制度は、御案内のとおり臨時的、一時的な労働力の需給調整機能と位置づけられていることからして、まさしく短期派遣という最も象徴的、典型的な派遣としての働き方、この短期派遣を制限すること自体が派遣制度の理念に反するのではないか、あるいは制度上整合的でないのではないか、そのように考えているところです。

 いずれにしても、こうした日雇派遣禁止の規制は、本来、この仕組みを有効に活用したいとする、例えば繁閑に応じた柔軟な労働力の確保を図りたいとする企業はもとより、本当に限られた時間、期間であるけれども働きたい、また働く必要があるという人々から、かえって雇用機会を奪ってしまっているのではないかと考えているわけです。

 実際、あるシンクタンクの調査によると、これは 2011 年に実施された短期派遣で働いている 3,700 人の方々を対象にした調査ですが、この 3,700 人の内、先ほど申し上げた社会問題化した短期派遣のみで生計を立てている、短期派遣を中心で生活をしている方々はわずか、 8.5 %にとどまっていました。残りの約 9 割の方々は、正社員であるとか、有期雇用とか本業を持ちながら、その副業として短期派遣を活用していた、あるいは、学生・主婦、言い方を換えれば学業であるとか家事、これが本業である方々が副業として短期派遣を活用していたものです。さらには、求職活動中のつなぎの就労として短期派遣を活用していた方々を加えて、これらの3つの属性で 9 割を占めていたのです。

 また、私ども協会会員の中に、主婦の方に特化をした人材サービスに取り組んでいる派遣会社があり、そちらの独自調査の中でも、日雇派遣がなぜ禁止されているのかについて、過半の方が非常に疑問に思っている調査結果も得ているところです。今日、この調査結果を特にお示しをしていませんが、調査結果を求められれば、それはいつでも公開する準備はあります。

 ただ、一方で確かに自らの意に反して日雇派遣で働く方々が、できるだけ安定した仕事、そういった職に就けるようにする取組、これは当然必要であるという認識はしていますが、しかしながら、この規制は、例えば収入がそう多くなくて短期の派遣でも働きたいとする方々から、かえって短期派遣としての雇用機会を奪っていて、労働者保護というための規制がかえって働きたい方々を困らせているのではないか、本末転倒ではないかと考えているところです。

 いずれにしても、短期派遣においても、派遣会社によるマッチングであるとか、雇用管理であるといったエージェント機能の有効性を、しっかり派遣労働者の方々、働く方々が享受できるようにすることが極めて重要ではないか。こうした観点から日雇派遣の禁止については、改めて冷静な視点で検討し直すべきではないかと考えているところです。

 もう 1 点、離職後 1 年以内の方を元の勤務先に派遣することを禁止する規定です。この規制は、本来、直接雇用とすべき労働者を派遣労働者に置き換えることによって、労働条件が切り下げられることがないようにするために定められた規制であると、そこは十分認識をしています。しかしながら、これでは正社員あるいは有期雇用を問わず自己都合で退職をされた方、有期雇用ではあるけれども、採用当初からその期間の上限が決まっていて、その期間満了で退職した方までもが、元の職場では派遣労働者として働けないという不合理な実態があります。

 あくまでも一例ですが、具体的に申し上げると、例えば大企業のある地方、北海道、札幌でもいいですが、大手企業の札幌の事業所で正社員として勤務されていた女性の方が、御主人の転勤に伴ってその企業を自己都合退職されて、東京に引越しをされました。東京に引越しをされた後、派遣会社を通して職を探したところ、たまたま元の企業の東京の事業所の派遣の仕事があったので、積極的な気持ちでその派遣に応募をしたところ、この規定に基づけば派遣ができないということで派遣就労を断念したと。

 あるいは、極めて短期間のアルバイトの経験があった職場での派遣の応募があったので、そこにエントリーをしたところ、この規定により就労することができなかった。このような事例は枚挙にいとまがないわけです。

 本制度の趣旨は冒頭申し上げたことですが、それはしっかり理解をしつつも、一方でこうした不合理な実態が生じていることを踏まえれば、例えば本規制の対象については、会社を解雇された方、そういった方に限定をするとか、あるいは、少なくとも自己都合退職とか、短期雇用の方は除外をすると、そういった見直しを図ることが適当ではないか、そのように考えているところです。まず冒頭、日雇派遣の問題、離職後 1 年以内の派遣禁止の問題について、意見を申し上げました。

○鎌田部会長 青木さん、どうぞ。

○青木オブザーバー 私も先ほど大原オブザーバーから話がありましたように、日雇派遣の原則禁止について意見を述べたいと思います。日雇派遣について改正法が施行されたばかりという話もありますが、現場で多くの人が困っている現状を直視して、速やかに見直すべきであると考えています。既に事例はたくさんあります。研究会のヒアリングの際にたくさんの問題点を指摘、資料も提出しましたが、時間の関係もあるので一部紹介したいと思います。

 例えば、就職活動中の一家の大黒柱がなかなか希望する職業に就くことができず、それでも生活するためには収入を得る必要があり、面接や試験のない日などにつなぎの仕事として日雇派遣を利用して収入を得ていたが、現在は 500 万円以上の年収制限があるため、定職に就くまでの間、日雇派遣でのつなぎの仕事ができなくなっている例。これが直接雇用のアルバイトであれば、「明日から働かせてもらえませんか。ただ、就職活動をする日は休ませてください。いつ面談日になるか分かりません。面談日が前日に分かることもあります。いつ、何日休むことになるかも分かりません。それと、就職先が決まったらすぐ辞めさせてもらいたい」と言って雇ってくれる会社があるかと、ほとんどないと思うのです。

 ただ、日雇派遣であれば、幾つもの就業先を調整して、それが今まではできました。それが現在できなくなっている。長期の仕事を探す足がかりやつなぎの仕事として、少しでも収入を得ようと思っている方が、働けなくて困っている、そういった現状があります。

 この問題と同じことを衆議院・厚生労働委員会でも古屋範子議員、参議院・厚生労働委員会では、当時、川合孝典議員も、同じ意味合いで心配する旨の発言がありました。つまり、現場では、生活維持のため収入を得ようとする派遣労働者や、臨時、短期間の繁忙に対処したい派遣先双方からのニーズは、とても強いです。

 今後ですが、例えば雇用管理に関する措置、日雇専門の派遣元責任者を選任することや、安全衛生管理体制や教育の徹底を図ることを義務づける、例えば特別に優良な派遣事業者のみに許可するなど、いろいろな策が考えられると思います。そういったことを前提に、日雇派遣の原則禁止は削除されるべきだと思っています。

 それと、日雇派遣の代替え案として、日雇紹介の方法があるとよく言われますが、日雇紹介はたくさんの問題を抱えています。雇用主が都度変わるため、社会保障制度の適用が受け難く、給与支払いは多くの企業が月に 1 回の支払いであり、日雇派遣を行う派遣元のように日払い、週払いなどを行うことは考え難く、給与支払いまで期間が最大 2 か月ぐらい空くこともあり、より一層困ることになります。また、求職者は日替りで複数の企業に日雇紹介により採用となった場合など、どの企業のいつの分の給与がいつ振り込まれるのかの管理が大変になります。ある会社は末締めの翌末払い、ある会社は末締めで 10 日払い、それが 1 か月、 20 日間ばらばらの企業に勤めたら、いつ自分の給与が幾ら入ってくるかという管理が本当に大変になります。

 それと、たった数日といえども個人情報をその都度求人企業に渡すことになり、労働者の多くはそれを望まず、受入企業も通常と異なるルートでの大量採用となった場合の取扱い、管理の部分で苦慮しています。また、紹介事業主として日雇紹介と管理業務の受託は、労働者供給事業とされる可能性を含んでいて、導入を不安視しているし、現時点でほとんど普及しておらず、一部の企業のみの実施にとどまっている状況になっています。また、求職者にとっては、求人企業に直接雇用されるとはいえ、労働条件明示や就業規則の説明が必要であるが、実際に実行されているかは疑問であって、多くの問題を含んでいます。

 最後になりますが、労働者が困っている事例は、日に日に積み上がります。改正が延びれば延びるほど、困る労働者が増えるだけだと思っています。この需給制度部会のメンバーの責任として、結論を先延ばしすることなく、派遣労働者の期待に応えた改正を速やかに行うべきだと思っています。

○鎌田部会長 ほかにありませんか。

○新谷委員 今、オブザーバーお二方から平成 24 年改正法について、日雇派遣と 1 年以内の離職者の派遣に関する禁止を緩めるべきという御発言がありましたが、私どもとしてはそうするべきではないと考えています。平成 24 年改正法は、昨年 10 1 日から施行されて 1 年をやっと経過したばかりですし、今回、平成 24 年改正法の施行状況調査の結果として 230 件の情報に基づく分析も提示頂きましたが、施行状況についての情報の蓄積、すなわち、実際に平成 24 年改正法の施行にあたって何が起こっているのかという情報の蓄積が十分ではないことから、いまだ見直しの判断をするだけの材料がないのではないかと思っております。

 今、オブザーバーの方からは、労働者のためにとか、働く者にとって有益だからといった御発言が幾つかありましたが、私どもとしては、例えば日雇派遣で働くことが労働者の保護にはならないという認識でおりますので、その点で全く認識が違うと申し上げたいと思います。現時点での平成 24 年改正法を見直すことについては、反対であるとはっきり申し上げておきたいと思います。

 各論でも幾つか言われていましたので、まず日雇派遣の問題について申し上げたいと思います。日雇派遣については、非常に短期の雇用である上に、これが間接雇用とくっ付いているがために、普通の派遣労働に比べて、使用者責任なり雇用管理責任なりが特に曖昧になりやすい。また処遇も低い。こうしたことから、日雇派遣は極めて不安定な雇用であると言わざるを得ないと思っています。これらの事情が 5 年前に「派遣切り」として社会問題化した背景にあり、この構造はいまだ全く変わっていないという認識でおります。

 平成 24 年に成立をした改正法についても、当初の内閣提出法案においては、日雇派遣の対象期間について、「雇用契約期間が日々又は 2 か月以内のもの」として労政審の建議に基づき書かれていたわけですが、その後国会での修正、民自公による 3 党合意によって、これが「 2 か月以内」から「 30 日以内」へと短縮されたという経過があります。なお、この「 30 日以内」としての日雇派遣の禁止は、御承知のとおり 2008 11 月に、当時の自公政権、麻生内閣のときに出された内閣提出法案にあった内容そのものであります。我々としては、日雇派遣が抱える問題そのものは、そのときと何ら変わっていないのではないかと思います。

 事務局にお願いしたいのですが、できれば 2008 年の自公政権当時に、確か与党に派遣問題に対する検討プロジェクトが設置をされて、そこでの結論を内閣としても関係閣僚会議で採択をしたという経過があったと思いますので、その当時の資料をもう一度振り返っていただきたいと思います。当時の日雇派遣の問題について、当時の与党がどのような問題意識を持って 2008 年閣法の提出をされたのかといった事情を振り返ることも有意議ではないかと思っていますので、是非次回にでもこの資料の提出をお願いしたい。

 また、オブザーバーは先ほどの発言の中で、日雇派遣の禁止が派遣労働者のためになっていないとおっしゃっていたのですが、既に申し上げておりますように、日雇派遣を認めたのでは日雇派遣のような働き方で働かざるをえないというループから抜け出せなくなってしまう可能性があると、私どもは考えています。特に青木オブザーバーがおっしゃった中に、生活のためにとか、一家の大黒柱である中で、日雇派遣が禁止されていることによって大変厳しい状況となっているといった御発言がありました。その点もよく分かるのですが、そうした事情を抱えているからこそ派遣で働かざるを得ないというループから抜け出せなくなってしまうのではないか。要するに、派遣のような労働を日雇派遣として認めた場合には、労働者と使用者・雇主との交渉力に格差・非対称性がある中で働かざるを得なくなってしまう、その結果、労働力が不当に安く買いたたかれることになってしまうといった事態となりかねないという観点から、こういった対象層は日雇派遣というループの中に入れてはいけないのだという前提の下で、年収制限なども設けてきた経緯があるということを忘れてはいけません。

 貧困と不安定雇用のループからいかに抜け出すのかということが重要である中、とるべき政策は日雇派遣の中で働いていただく環境をつくることではないと申し上げておきたいと思います。そういった意味でも、年収要件の引き下げ論議を行うことについても反対という立場を申し上げておきたいと思います。とりあえず 1 点目は以上です。

○春木オブザーバー  大原オブザーバーから、離職後 1 年以内の派遣の禁止について、法の趣旨を十分踏まえられた上での御発言ということでありましたが、その法の趣旨の必要性は未だに薄らいでいないと私は思っています。特に自己都合退職の場合は禁止の例外とすべきだといったこともおっしゃいましたが、皆さんがそうだということではありませんが、悪質な企業主がそうした例外を悪用することに対して、その懸念は消えてないと思います。

 例えば、自己都合退職ということにしてリストラをするといった事業主や経営者もゼロではないという状況であり、こうした悪意をもった行為が未だなされている中においては、労働者保護の観点から、安易に例外を広げるような見直しは行うべきではないと思います。そもそも一旦退職した会社に再度勤めるときに派遣という形態でなければならない理由は何もありません。直接雇用という形にすれば何の問題もなくなると思います。したがって、離職後 1 年以内の派遣禁止については、例外を広げるような見直しは行うべきではないということを申し上げておきたいと思います。

○鎌田部会長 関連して。

○新谷委員 今、春木オブザーバーが申し上げたとおりです。私自身も現在は連合で仕事をしていますが、その前は電機産業の労働組合におりまして、その際、実際に同じようなことが起こったのです。つまり、ある東北地方の中小企業の工場で業績改善のために希望退職を募って正社員のリストラを行ったのですが、その後結局何をやったかといいますと、リストラした正社員を派遣会社に移籍させて、再び元の職場に派遣させたということが実際に起こったわけです。

 こういう事例があったことから、平成 24 年改正法の中に離職後 1 年以内の派遣禁止が盛り込まれたわけでして、春木オブザーバーが申し上げたように、その職場で労働力が必要であるということであれば、なぜ間接雇用としての派遣を用いる必要があるのかと申し上げたいわけです。そもそも直接雇用にすればいいではないかということでありまして、なぜ間接雇用にする必要があるのかという理由が全く理解できません。また、禁止を見直した場合それが悪用されてしまうことにもつながりかねませんので、私どもとしてはこれの見直しについては反対を申し上げたいと思います。

○鎌田部会長 青木さん、どうぞ。

○青木オブザーバー 日雇派遣の話ですが、研究会でも否定的な意見が寄せられているという発言もありましたし、多分、新谷委員も労働者が困っているという情報はお耳にしているのではないかとはまずは思っています。

 先ほどいろいろお話はありましたが、自分の仕事がなくなって喜ぶ人がどこにいるのでしょうか。私は、先ほど労働者保護という話が出ましたが、労働者保護を語るのであれば、原則禁止を削除して、働けるようにしてあげることこそが労働者保護だと思っています。

 抜け出せないという話がありましたが、これは日雇派遣の問題ではないと思うのです。本人の労働行動に対する意識の問題でもあると思うのですが、逆に日雇派遣があるからこそ助かっていたのではないかと思っています。これは私が元日雇派遣で働いた人として、少なくとも私はそう思っています。

 今回、原則禁止ですが、そういったこともあるのであれば、日雇派遣をうまく使って長期就業にステップアップさせていく、こちらこそがとても重要なことではないかと思っています。原則禁止にして働きたい人を困らせるのではなくて、先ほど例を挙げましたが、問題が起きないようにコントロールできる、規制を掛ける派遣法にすべきではないかと思っています。つまり、日雇派遣の人が長期に就業できるように、足掛りとするようにうまくコントロールする派遣法にすべきだと思います。つまり、原則禁止ですることは違うのではないかと言いたいです。

○小林委員 お伺いしたいのですが、今、資料の 4 ページの日雇派遣の原則禁止のデータの (2) で、日々紹介が 94 件中 17 (18.1 ) となっています。当時、派遣法改正を検討するとき、厚生労働省は、日雇派遣が原則禁止になった場合に日々紹介で対応できると説明していたのですが、実際のところはこのように少ないデータなのです。日々紹介でできなかったというのが現状ではないかと思うのですが、厚生労働省はそのことをどう考えているのか教えていただければと思うのですが。

○宮川部長 もともと当時の議論の中では、 2 か月間の派遣禁止という形の中で、一定の業務については、いわゆる 26 業務を前提にした形での例外規定という前提で恐らく提出したと理解していますが、国会での議論を踏まえて、例外規定が拡充されたり、 2 か月が 30 日になったりと様々な要因の中で、日々紹介は 1 つのツールとして対応するものはあるという説明だったのではないかと理解しています。一方で日雇派遣を例外的に認められた方々も一定程度いらっしゃるわけですので、それぞれの状況でそれぞれの派遣元事業主が対応したのではなかろうかと理解しています。

○小林委員 関連して、制度自体が想定していたのと若干変わったものがあるのですが、余りにも日々紹介は機能しなかったという印象を持っています。現実のところ、雇用の形態として、イベント関係とか、短期で募集する仕事は結構あるのです。以前申し上げたように、引越しの関係で時期が集中するような業務があったり、短期に集中して人員を必要とする業務があります。イベント関係は、何日間と限られた業務もあるわけです。

 今後考えていけば、東京オリンピックが開催された場合、それに向けた短期のもの、同じようなものが継続的に出てくるのだと思います。そのときに日々紹介で機能するのであれば別段に問題はないですが、実際、日々紹介が余り機能しないという状況になると、事業所側から考えれば、短期の派遣もある程度もう少し柔軟に対応していただきたいのがお願いです。

 もう 1 つ、例外的に認められた形のものとして、収入要件とか、年齢の 60 歳以上のものとか学生とかがあるのですが、このもの自体がどうかはもう一度議論する必要があるのではないかと感じています。

 もう 1 点付け加えると、先ほどのお話の中で離職後 1 年以内の労働者の派遣禁止の話がありましたが、新谷委員が言われていることも分かります。解雇された方がまた同じ職場に戻ってくるのは確かにおかしいことだと感じます。でもこの規定のままだと、例えばの話ですが、選挙のときに短期的に市役所で雇われた方がいて、 7 日間ぐらい業務に就いた有期の方がいたとします。例えば地域で再度人員が必要になる事態で、それを急期で雇うケースが発生し、派遣会社にお願いしたときに、同一の人間が前に数日間働いていたということで、これが 1 年以内にあった場合は、派遣として受け入れできないというケースは考えられると思うのです。

 それが果たしていいのかどうか。短期的な仕事を有期で働きたい、実際に登録型派遣で仕事をしようと思っても、いざ、そこのある事業所に勤めようと思ったときに駄目になってしまうケースもあるのだと思うのです。そういうケースがあったときに、これは派遣労働者の方にとっても、派遣元も派遣先にとっても、決して幸せな話ではないと思うのです。 1 年以内の労働者の派遣原則禁止は、前に 1 年以内に正社員として無期で働いていた方が解雇になったケースは問題だと思います。しかし、短期の有期の方もいらっしゃると思うのです。その方はいろいろな働き方の形態の一つとして派遣登録を選択されたりするケースもあるのだと思うのです。その方たちのことも考える必要があるのではないかと思います。これは私の意見です。

○秋山委員 各地の事業者から多く寄せられている要望として 2 点あります。まず、日雇派遣の原則禁止については、全員が直接雇用や長期雇用を望んでいるわけではなく、限られた期間だけ働きたいという方もいらっしゃるわけですから、そういう人たちに対して選択肢を大きく制限するものだと考えています。ですので、見直しをしていただきたい。禁止の例外となる収入要件の 500 万円も、設定するときにはいろいろな意見がありましたが、現実的には高額過ぎるのではないかと考えています。また、離職後 1 年以内の労働者の派遣禁止は、小林委員がおっしゃったように、地方などは働く場も限られていますので、御自分の都合で離職した場合で、また同じ職場で派遣社員として働きたいという希望がある方もいるわけですから、そういう事例も救ってあげられるようにしていただきたいと思います。

○阿部委員 日雇派遣に限った話ではないですが、これまでの派遣労働に関する研究成果を見ていますと、欧米諸国では一時的に派遣で働くことが、その後の就業へのステッピングストーン、飛び石になっている結論が大勢を占めてきているのです。つまり、一時的に派遣で働いて、その後正社員、そういう所に働くことへの飛び石になっていたと。

 ところが、最近になって、その結論が違うのではないかという論文が発表されています。それは、デトロイトのケースを詳細に調べたのですが、長期にわたって失業を経験する人たちを、それまで生活保護とか、そういうところで面倒を見ていたのを、仕事をしてもらいたいということで、職業紹介業者と派遣業者 2 つにそういう長期失業の人たちをお任せすると。

 その結果何が起こったかというと、派遣業者にお願いしていた就業者は派遣になっていくわけですが、派遣に行って、一時的に高い賃金を得、そして就業率も高かったのです。一方、直接雇用を紹介してもらった労働者の場合は、そのときは賃金が低いのです。ところが、 1 年後になってみると、実は就業率が高いのは直接雇用で仕事を紹介してもらった人たちで、派遣労働で働いた人たちの 1 年後の就業率は低かった。さらに、賃金を見てみても、直接雇用で仕事を見つけてもらった人の場合のほうが、たとえ転職していても賃金は上がっていた。一方、派遣労働者の場合は、賃金は上がらない、あるいは下がっているという結果を得ているのです。

 したがって、最近そういう論文が出てきて、ステッピングストーンに本当になっているのかが研究の成果としては出ているのです。日本については、もともとの研究、いろいろな研究はあるのですが、ステッピングストーンになっていないのではないかというのが、大体の結論ではないかと私は思っています。

 そういうことを考えると、主たる生計者が、もちろんいろいろなケースがあるとは思いますが、日雇派遣等でなかなか抜け出せない現状もいろいろお聞きすることはありますので、そういうのを雇用政策としてどう考えていくべきかは考慮していく必要があるのではないかと、個人的には思っています。

 したがって、いろいろな方策で日雇派遣から抜け出したい人たちは抜け出させるものも考えた上で、日雇派遣を今後どうしていくかは考えるべきではないかと思っています。例えば、何となくですが、日雇派遣で、倉庫・軽作業といった、本当にロースキルの人たちが働く、スキルが要らないような所で働く場合に、どうやったらもっとスキルを付けてもらえるかとか、そういうのを派遣元・派遣先がどのように考えるかとか、あるいは、それをどう政策的にやっていくかとか、そういうのをきちんと議論してから日雇派遣の原則禁止を考えていってもいいのではないかと思ったりします。

○新谷委員 使用者側の委員の方々からいろいろと御発言が続きましたが、おっしゃるように、日雇派遣で現に働いておられる労働者の方の中には今後も日雇派遣として続けて働きたいという御希望をお持ちの方も確かにおられると思います。ただ、阿部委員の御発言にあったように、そうした個々の労働者の問題も見なければならないものの、ここは労働政策審議会という場である以上、我々が審議するべきは労働市場政策をどうするかという点です。したがって、短期雇用と間接雇用とがくっ付いてしまった日雇派遣という雇用形態を労働市場政策においてどのように位置付け、その結果、これを存続させるべきか否かということを論議すべきわけですから、使用者側委員がおっしゃっている視点とここで論議すべき視点とには食い違いがあるのではないかと感じました。

 また、ただいま阿部委員から欧米の事例も紹介いただいたわけですが、私どもも、この派遣法の審議を始めるにあたって、規制改革の関係で国際先端テストが政府で行われましたことから、そのときに我が国のベンチマークとされていたヨーロッパの現状はやはり調べる必要があると考え、ドイツとフランスの政府や派遣の使用者団体等を訪問させていただき、両国の現状を聞いてまいりました。確かに、フランスでは派遣の平均日数が 1.7 週間、すなわち 10 日ぐらいでありまして、 1 契約当たりの派遣期間は非常に短期となっておりました。ただ、フランスは御存じのように、もともと派遣法の仕組みが我が国とは違っております。派遣を活用する際には合理的な理由が必要とされており、その理由ごとに期間制限がばっちりとかけられていますので、まさしく派遣労働は臨時的・一時的なものに限るということが徹底されているわけです。同時に、大事なポイントは、均等待遇原則が貫かれているということです。こうした原則があることから、日雇派遣のような短期派遣を行ったとしても、そこは派遣先労働者との賃金が均等でないと法違反になってしまうということですから、劣悪な低処遇のもとで雇用が不安定な日雇派遣に従事せざるをえないといった、我が国で起きているような問題は生じないという前提に立っておりました。

 したがって、この日雇派遣の問題についても、処遇にまで踏み込んで均等待遇原則を貫くというのであれば、また検討の視点が変わってくるのではないかと思います。現状のように、日雇派遣で均衡配慮義務というのをどうやってかけていくのかイメージしにくいですが均衡配慮義務というレベルに留まるのであれば、そうした処遇面についての配慮がない中で、日雇派遣の原則禁止を緩めろという論議には、私どもとしては乗る余地はないということを申し上げておきたいと思います。

1 年以内の離職者の派遣の原則禁止についてですが、小林委員がおっしゃるような優良な、あるいは普通のまともな会社ばかりだったらよいのですが、申し上げたように、こういう制度を緩めてしまうと、やはりリストラの仕組みとして悪用しようとする経営者が残念ながら出てきてしまうのが現実です。禁止を見直しながらそうしたものを防止するための線引きも本当にすることができるのかという点はよく吟味しないと、私どもとしてもなかなか論議に乗れないと思っております。以上です。

○小林委員 私が言ったのは、無期の方をリストラして派遣で受け入れること、それは大きな問題になると思います。そうではなくて、短期で有期の方って、いらっしゃるではないですかと申し上げたのです。そういう短期間で働いていた方がいろいろな選択方式で、直接雇用というのがあればいいのですが、職を探すときの機会として派遣に登録されたいとかいう形の方もいらっしゃるでしょうと申し上げているのです。そういう方々も、過去 1 年の間に何日かでも働いていた場合は、この考え方からいくと、 1 年以内に有期雇用で雇われていた会社には、 1 年待てという話になってしまう可能性があるわけです。そこをやはり憂慮する必要があるのではないかということを申し上げたということです。

○青木オブザーバー 先ほど阿部専門委員のほうからお話があったことなのですが、ありがとうございます。ちょっと私存じ上げなかったのですが、そういった論文があることに非常に驚いています。それはなぜかというと、私が知っている範囲では CIETT 、世界の派遣協会が世界の派遣市場でそのステッピングストーン、長期雇用の足掛りになっているというデータをしっかり出ていたので、それと違う論文が出たということで驚いています。特に、ヨーロッパに関しては、まず新卒の方が派遣を通じてその会社に就職していくというのが一般的なので、完全にステッピングストーン、足掛りとなっているのだろうなとずっと思っていたものですから、これは驚きました。

 日本においてなのですが、私たちの業界では結構派遣社員で働いた方が請負現場のリーダーになったり、そこの管理者になったり、そして正社員、営業になったり、コーディネーターになったりいろいろなことがあって。現に、私は日雇派遣で働いていて、営業をやって、管理者をやって、所長をやって、今のここのポジションに、ここにいます。ですから足掛りになっていない云々となれば、私は実際には日雇派遣が足掛りになって、今この場にいるんだということはきちんとお伝えしたいと思いました。

 新谷委員の話でいえば、以前から派遣は臨時的、一時的なものだというのを何度もおっっしゃっていたことを考えれば、その代表的な日雇派遣を否定するのはちょっと違うのではないかなというのが 1 つです。

 処遇の問題ですが、前からデータも出ていますように、日雇派遣の賃金と、パート・アルバイトの方、同じ仕事をやっている賃金であれば、一般的に派遣の賃金のほうが高いというのは実際データを見ても分かるところですから、そこも私の感覚と違うなと思って、先ほど聞いておりました。以上です。

○鎌田部会長 ただいま新谷委員から御意見いただきますが、そろそろ日雇派遣と離職後 1 年以内の派遣禁止以外のテーマにも御意見をいただきたいと思いますので、新谷委員が御発言した後に、そちらの方向で何か御意見があればいただきたいと思います。どうぞ。

○新谷委員 今、青木オブザーバーから、派遣は臨時的・一時的なものであるべきというのならば日雇派遣はまさしく臨時的・一時的なものではないかという御発言があったわけですが、もともと派遣を臨時的・一時的なものに留めるべきという前提は、間接雇用を直接雇用に誘導するための施策として設けられているわけであります。日雇派遣のような形態で、その目的が達成できるのであればいいのですが、日雇派遣について、果たして、今申し上げたような、直接雇用への誘導策を考えることができるのか。先ほど御自身のこともおっしゃっておられましたけれども、本当に派遣労働者の中から例えば青木オブザーバーのような地位になられた方が、一体世の中に何人おられるのか。青木オブザーバーの事例をもって日雇派遣が直接雇用へのステッピングストーンになると言われましても、論点としては私は弱いのではないかと思っております。派遣を臨時的・一時的なものに限るべしというのは、これは労働者保護の観点から、間接雇用から直接雇用へ誘導するための施策が当然の前提となっての話であるということを申し上げておきたいと思います。

○鎌田部会長 いろいろとまだ尽きない議論だとは思いますが、先ほど言いましたように、少し別な項目についても御意見いただければと思いますが、何かありますか。

○高橋委員 私から、まず労働契約申込みみなし制度について意見を申し上げたいと思います。このみなし制度については施行が 2015 10 1 日ということから、まだ施行もしていないのに見直しの議論をするのはいかがなものかという意見が、労働側の意見として出されていることは、私としても重々承知をしているところです。しかしながら、平成 24 年改正時の、法案の国会審議でのやりとりを拝見して、改めてここの場で皆さんに是非共有していただきたいと思うことがございます。 1 つの例として、参議院の審議の中で、平成 24 3 27 日の審議ですが、 3 年間の経過措置をとったことについての御質問に対して、 3 党による修正案の提案者の 1 人であられました、現在の厚生労働大臣であるところの田村議員の答弁を少し略して紹介をさせていただきたいと思います。本来、採用の自由とか、労働契約の合意原則ということを考えれば、罰則という形でみなし制度というものを入れるのが本当にいいのかどうか。こういう議論も、この 3 年間でしっかりとやる必要があるのではないかと思っており、そのような思いも込めて、この経過措置を取ったという認識です、との御答弁があるということです。

 したがいまして、 3 年間の経過措置の間に、この労働政策審議会の需給制度部会でもしっかりと議論をしていくということであって、施行前だから議論はしないのだとか、見直しをしないのだということではないと、私は考えております。

 この件については、労政審でも再三再四みなし制度について反対の論陣を張ってきましたので、また改めての意見になりますが、そもそも当時、私の記憶しているところでは鎌田先生にもいろいろと御意見を伺ったりして、みなし制度の様々な問題点などを指摘させていただきました。やはり採用の自由とか、労働契約の合意原則といった基本的な原則から乖離をしているという、根本的な問題がこのみなし制度にはあるということです。仮に、この制度自体をどうしても残すのだということを百歩譲ったとしても、違反の要件に、予見可能性の極めて低い偽装請負というものが含まれていることが非常に大きな問題です。ドイツにも、同様のみなし雇用制度がありますが、無許可の事業主から派遣された場合に限っています。無許可無届出の派遣というのは、我が国のみなし制度の要件の 1 つにもなっておりますが、これは極めて分かりやすい話です。無許可無届出の事業主から派遣を受けるか、受けないかというのは、派遣先としては、はっきり対応ができるわけです。あるいは禁止分野の業務に派遣を受け入れる。この要件も極めて分かりやすい。遵法もしやすいわけです。しかしながら、何をもって偽装請負なのかについては、極めて予見可能性が低い。そのようなものを発動要件としてみなし制度という罰則をかける規定ぶりは余りにも不適切であり、労働法としてもいかがなものかと思っております。

 したがいまして、私はこのみなし制度そのものを廃止すべきだと思います。少なくとも 2015 10 1 日からの施行前に、 4 つの要件のうちの無許可無届出と、禁止分野の派遣の 2 つは容認するとしても、また期間制限違反は現在審議をしており、 26 業務の扱いをどうするかということにもよりますので、今の段階ではコメントを差し控えさせていただきますが、少なくとも偽装請負については、要件から削除するべきだということを申し上げたいと思います。

○鎌田部会長 これに対して御意見ありますか。では新谷委員、どうぞ。

○新谷委員 今、高橋委員から、労働契約の申込みみなし制度についての廃止も含めた見直しの提起がございましたが、再三申し上げているように、これはまだ施行もされていない法律の規定であります。この規定を改正せよ、廃止をせよという御趣旨での発言だったと思うのですが、なぜ改正をしなければならないのかという、いわゆる立法事実がいまだよく分からない状況なのです。要するに、まだ施行されていませんから、実際に施行した場合に何が起こるのかがまだ分からない状況であるにもかかわらず、もう廃止をせよという論議をされているわけです。御紹介があったように、この規定は、平成 24 3 月に通常国会で、当時の民自公の合意によって施行日を 3 年ずらすという合意がなされた上で成立したものであります。国権の最高機関であり唯一の立法府である国会がこういう判断をされていることについての当時の田村議員の発言の御紹介もありましたが、それらを踏まえて国会で賛成多数で成立したわけです。この審議会の場で、まだ施行もされてない法律を修正せよと主張するのは、国会の権威をどう考えるのかということにも関わってくる問題だと思いますので、論議することはいいのですが、そういった背景も踏まえての論議をしなければならないのではないかと思います。

 それと、使用者側の御発言の中で、これも再三主張されているところですが、契約の合意の原則であるとか、採用の自由といった観点から問題であるとの御主張があったわけですが、もともと労働者派遣は労働者供給を禁止する職業安定法の例外規定として設けられたものであるという大前提があることを忘れてはいけません。しかも、この労働契約申込みみなし制度は、そういった派遣に係るルール、例外的に認められているに過ぎない派遣に係るルールに違反をして、かつ、それは派遣先も承知をしていた、違反を認識していたという前提の中で課される義務です。そこで、やはり派遣先として派遣に関するルールを守っていないという前提の中での判断が必要であり、通常の契約における合意原則であるとか、通常の形での採用の自由が完全に認められる雇用形態ではないという前提を踏まえる必要があると思っております。

 また、フランスやドイツにもこういった雇用みなし制度があります。かの国と我が国で採用の自由なり、契約の合意原則なりの捉え方が違うのかというと、それは違わないわけです。そうした法的な整理が諸外国でもなされている中で、我が国でも同じようにそれらを踏まえて作ってあるわけですから、そうした指摘は当たらないのではないかと思います。

 例として出されたドイツの無許可無届出ですが、これも私ども先ほど申し上げたように、ドイツの労働社会省のほうに行って聞いてまいりましたが、ドイツの仕組はちょっと違っています。これは鎌田先生の御専門だと思いますが、ドイツはもともと職業紹介をベースにして作った派遣法ですから、違反があったら、全部派遣の許可を取り消してしまって、職業紹介に移っていくという前提があり、そうなると違反業者は無許可になってしまう。それゆえに派遣先に労働契約を移転させるという仕組のようですので、要するに、職業紹介に切り替わる仕組であるようです。その違反の要件はいくつかあるのですが、ドイツの派遣法の規制に違反すると、全て派遣業の許可取り消しにつながっていって無許可になるというロジックのもとに構成されていたのではないかと承知しております。明らかに無許可・無届出は明らかではないかというのは、ちょっと違うのではないかと思っております。

 御指摘のあった偽装請負の点、これは確かに御指摘のような課題はあると思います。今でも告示 37 号によって、請負なのか、派遣なのかよく分からないということで労働局に問合わせがあっても、個々の労働局によってその判断が違うという事態があることは承知をしております。それであるからこそ、より一層予見可能性を向上させるような抜本的な対策を検討していってはどうか。まだ施行までは時間がありますので、その予見可能性を高めるための方策を労使の間で、この場で検討を進めるべきではないかと思っております。

○鎌田部会長 これに関連で、小林さん。

○小林委員 これに関して、私も今、高橋委員と新谷委員からのお話を聞いていて感じたのは、労働者派遣の禁止業務、一般的に港湾とか建設業務というのは分かりやすい。禁止業務で違反した場合には、この契約のみなし制度というのは取り入れてもいいのかと思うのです。無許可無届出の事業者というのは分かりやすいのですが、いわゆる偽装請負について本当に判断、予見できない部分がかなり多いと思うのです。先ほど新谷委員からも言われたように、労働局の指導の中でもちょっと見解が分かれるところがあったりするのも事実です。偽装請負というのは確かに悪い行為なのですが、予見可能性に乏しいというので、このままにすること自体、やはりいかがなものかというのは私も同感です。

○高橋委員 短く言いますが、やはり法律を施行する以上は、遵法ということを考えるべきです。よく分からない内容の法律を施行すべきでないと思っております。何をもって偽装請負なのかが分からない、それはこれから検討していきましょう、というようなものが 2015 年、今からあと 2 年後に施行されていいのかどうか。やはり施行前にはその内容について周知徹底をしていく必要がありますから、現時点においてまだはっきりもしてないものを、 2 年後に施行するというのは、余りにも無謀です。そうしたことを考えても、偽装請負については削除するべきであると、重ねて申し上げます。

○新谷委員 労働契約申込みみなし制度について使用者側のほうから廃止ないし見直しをせよという御意見があったわけですが、私どもとしても、この労働契約申込みみなし制度については要件を追加すべきであるということを主張したいと思っております。今回の労働契約申込みみなし制度は、先ほど申し上げたように派遣規制に関する違反行為があって、かつ、その派遣先がそれを認識していたというときに当該労働契約を派遣先に移転させるというロジックとなっています。おっしゃるように、予見可能性が低いという点はあるかもしれませんが、私どもとしては予見可能性の高い適用対象として、「特定目的行為の違反があった場合」を追加すべきであると思います。後ほど、特定目的行為については論点として上がっておりますが、これを労働契約申込みみなし制度の対象として追加してほしいということです。労働契約申込みみなし制度には違反行為を抑止するという目的があるわけですから、いかに適正な派遣法の運用ができるかという観点に立って、特定目的行為についても違反した場合を当該制度の適用対象に追加すべきであると主張したいと思います。

○鎌田部会長 いかがですか。あるいは、これ以外の事項について意見があれば、それでも結構です。では青木さん、どうぞ。

○青木オブザーバー それ以外ということなので、マージン率の情報公開についてお話をしたいと思います。研究会のほうで委員の先生方から意見が出ていましたように、マージン率の情報公開は意味のないものなので、やめるべきではないかなと思っております。なぜかと言いますと、まず派遣労働者となろうとする者がその多くはマージン率を気にして派遣元を選択しているとは思っておりません。求人広告を見たり、登録してある派遣元からのアプローチを受けたりする中で、業務内容、設定賃金、そういった条件などを確認した上で、派遣という仕事を選択しています。

 マージン率が低いからといって、適正、良心的とは限らず、マージン率が逆に高いからといって暴利、悪質とも限りません。立法の背景には、派遣は暴利をむさぼる事業であるとの不明確かつ挨昧な大衆的感情論があったと当時考えられますが、実際派遣元のマージンは、派遣料金と派遣労働者の賃金、派遣元の付帯経費のバランスをとりながら設定されています。派遣会社同士が競争原理の中で活動している以上、サービスレベル以上に法外な利益を得ようとすれば受注できません。つまり、暴利は間違いだということです。

 現に、本日配布されています経済産業省の平成 24 年企業活動基本調査確報のデータを見れば、先ほど事務局から御説明があったとおり、サービス業の平均から見れば低いですし、また日本の総合計の平均値から見ても、労働者派遣事業は低いというのが、データを見ても明らかだと思っております。マージン率の公開は契約自由の原則を犯すことにもなりかねませんし、あらゆる業種の中でマージン率や原価率の公開を義務づけている産業はなく、労働者派遣事業だけが差別的にマージン率の公開を定められるのは、公平性の観点からも、また日本の産業界がこれまで築き上げてきた経済秩序の観点からも異常な規制であり、マージン率の公開義務規定は、私たち派遣元の業務の高度化を阻んでいるとも思っています。ですから、これは削除するべきではないかと思います。

○鎌田部会長 この点について、今の補強的なご意見ですか。

○大原オブザーバー そのとおりです。一連で発言を。

○鎌田部会長 では、まず大原さんのほうから。

○大原オブザーバー では、先に失礼します。今、青木オブザーバーから御発言があったとおり、私どもとしてもマージン率の開示義務については廃止をすべきだと基本的には考えております。ただ、この開示の目的といったものは、主としてこれから派遣労働者になろうとする方々ができる限り事業者の優劣といいますか、優良な事業者を選択できる。逆にいえば、悪質な業者を選択しないようにする、そんなことがこの目的であろうかとは理解をしております。ただ、マージン率の問題は非常に誤解を生じることもあり、基本的には廃止ということではあるのです。一方で、では派遣労働者になろうとする方々がどういう基準をもって選別することができるのかということについては、あくまでも 1 案というか、当業界の中でもいろいろな意見がある中での 1 つの考え方ですが、いわゆる派遣労働者の方がきちんと権利として享受すべき、やはり社会保険といった福利厚生の適法、適正な運用、それから有給休暇の適法、適正な付与。例えば、こういった事柄について、きちんと説明をする。あるいは、適応状況について開示をする。このようなことをお示ししたほうが派遣労働者の方にとって有益な情報になるのではないかと思っております。なぜなら、この社会保険料の問題、有給休暇の付与の問題というのが、実は悪質業者でいうところの非常に操作がしやすい事柄と理解しております。そういった点を明らかにすることで、優良な業者を選定するようにできた仕組にしたほうが、より有益ではないか。そのようにも考えております。若干の補足説明です。

○鎌田部会長 では合わせて、新谷さん。

○新谷委員 今、青木オブザーバーと大原オブザーバーから御発言がありました。資料 3 を引用されていたのですが、まず、資料 3 を出された意味は何でしょうか、事務局にお伺いしたいのですが。

○鎌田部会長 まず事務局どうぞ。

○亀井補佐 資料 3 の趣旨ですが、本日の平成 24 年改正法の中に、マージン率の公開義務についても含まれておりますことから、マージンとは別に、実際の経常利益率がどの程度のものかというデータが分かるものがあったほうが議論に資するのではないかというお求めを受けて、提出させていただいたものです。

○新谷委員 マージン率と、ここで書いてある経常利益率とは、どのような関係があると捉えて資料を出されたのでしょうか。

○亀井補佐 一般的には、このマージンの中から諸経費や、社会保険料、労働保険料など諸々の経費を控除して、残ったものが経常利益であると理解しております。

○新谷委員 この資料を出された意味といいますか、この情報とマージン率の論議とをどう結びつければいいのか、その点が理解できなかったということを、まず申し上げておきたいと思います。

 派遣業におけるマージン率の開示をやめたいとおっしゃるのは、それは派遣業界の立場からは、それはそうだろうと思います。こんな情報は開示したくないというのは当たり前のことだと思いますので、業界としての御意向は承りました。しかし、なぜマージン率の開示を求めているかという趣旨ですが、これは大原オブザーバーがおっしゃったように、やはり各社ごとにマージン率を開示することによってこれから派遣で働こうとされる労働者の方が会社選択の 1 つの基準として活用できるようにするということだと思います。マージン率の中にはいろいろなものが含まれているというのは御指摘のとおりでして、その点は私どもも当然理解をしております。マージンが低ければ低いほどいい、高かければ悪いという単純な捉え方はしておりません。私どもも、ここに座っている公労使の正規の労働力需給制度部会の委員は毎月 1 回一般派遣の許可申請に対する審査をやりますので、マージン率についても申請書の中にきちんと書き込まれております。それらには当然に目を通しております。

 しかし、中には許可申請の際に上がってくる数字を見ると、マージン率が 5 割を超えているケースもある。派遣先が支払う派遣料金の半分がマージンということも実はあるのです。一般事務派遣だったりも含めて、こういうマージン率が設定されるところがあるのです。したがって、マージンの開示がされないと、マージンが本当にどのように使われているのか、おっしゃるように教育に使っているのか、いろいろな投資に使っているのか等がよく分かりませんので、派遣労働者が派遣会社を選ぶ際の選択基準としてこのマージンの開示が平成 24 年改正に盛り込まれたわけです。

 おっしゃっていたように社会保険料であるとか、教育であるとかといったものについては、そのマージン率の開示の中に「その他開示事項」が設けられております。これは任意に開示する事項を記載するものとして設けられています。おっしゃっていたように、御自分の会社がこういう所にお金を使って労働者のために投資をしているということであれば、この任意の開示事項を使ってどんどんと開示をされて、より良い派遣労働者を募集されればよろしいのではないかなと思います。そのことと、マージン率そのものの開示をやめるということとは関係がないのではないかと思います。もともとマージン率を開示しなければならないというロジックは、ヨーロッパのように均等待遇原則が導入されて、要するに派遣先労働者との賃金の格差がないという状況であれば、もはやマージン率の開示なんて要らないと思うのです。しかし、今の我が国では均等待遇原則が入ってなくて、そうした中で、派遣労働者が「自分について一体いくらで派遣料金が契約されていて、その上で自分は一体いくら賃金をもらっているのか、そのギャップはどのくらいあるのか」ということを、働く労働者の納得のために開示させることとしたわけです。そういった大原則、すなわち、均等待遇原則が実現するのであれば、マージン率の開示の廃止という論議も、私は可能ではないかと思っておりますが、反対に、均等待遇原則が実現しないのであれば、平成 24 年改正のままマージン率は開示を続けるべきである、何ら変更する理由はないと思っております。

○鎌田部会長 関連して、どうぞ。

○青木オブザーバー 先ほど新谷委員からお話があったことは、先ほど私が説明したこととほぼ重復していると思うのですが、まず、今、派遣労働者が選ぶ基準になっていないと思っています。誤解を受けるだけだと思っています。 5 割で出てきた会社は、ちょっと分かりませんが、多分特別な、まれに探せて出せる派遣できる方であれば、 5 割のマージンを取ることも、もしかしたらあるのかもしれないなと今思いました。それが、一般的な事務であったり製造であれば、先ほどもお話したとおり、競争原理が働きますから、そんなに暴利をむさぼるようなことは絶対できない状況なのです。そういったことを考えれば、ちょっと話としては違うのではないかなと思っています。

○石黒委員 委員のメンバーは御存じだと思いますけれども、必ずしも特殊なものではなくても、非常に高いマージン率の派遣会社が出てきます。許可申請の審査のときにはこれはどうなっているのですかという話もお聞きしますし、マージン率が高いことについて、教育訓練やいろいろなことをしっかりとやるのだからマージン率は高いのですとか、そういう事情があれば派遣労働者も納得できることなので、まずはマージン率の開示をして、これは確かに教育してくれるのだからマージンが高いよねといった背景事情が分かるようにしてほしいと思います。先ほど新谷委員も言いましたが、やはりいろいろな情報をきちんと開示をして優良な業者に優良な派遣労働者が集まるような仕組みを作るという視点で、当面はマージン率の開示はやっていくべきだと思っています。

○清水委員 今度のこの 2012 年の改正について、ここでの議論の進め方の問題なのですが、私は昨年の法の改正との関係でいくと、やはり派遣労働者の保護や均等・均衡待遇の問題について、ではこれ自体がどう前進し、それがやれているのかということも含めて議論を是非していただきたいと思うのです。

 特に使用者側の委員の方々の話をずっと、この数回聞いておりますと、それをやめろと、規制を弱めろと、こういう意見が中心です。それでは、同じ土俵の上に立った議論にはなかなかならないのではないかと思います。少なくとも、そういう御主張をされるのであれば、その均衡・均等待遇どちらでもいいのですが、そのために、やはりこういうことも含めてやろうというものがあって、そこでいろいろ議論ができるのではないかと私は思うのです。そうしないと、主張のすれ違いという事態がなかなか変わらないのではないかと思うのです。

 特に私が感じているのは、本日の資料ではないですが、前回か前々回の資料の中で、現に派遣労働者として働いている方の要請の中で、交通費の支給問題が福利厚生の問題として出ていたと思うのです。交通費を別枠で支給してほしいと。ここにおられる方はほとんど自分の給与などの中では、福利厚生の一環として交通費は別個ですよね。これは税法上非課税です。そうすると、交通費ももらっていない派遣労働者の人は、ある意味賃金も正規雇用よりも低い中で、さらに、本来は払わなくていい税金までも払っているという方が一定数いらっしゃる。これは事実だと思います。

 そういう面でいけば、均衡・均等待遇というのは、何も賃金だけの話ではないわけであって、そういうところでも改善の問題が、やはり使用者側の委員の方から示していただくことが非常に大事ではないかと思います。

 もう 1 つだけ簡単に申します。非正規が大きく増える中で、派遣法だけ規制を強化するのはおかしいという話がよくあるわけですが、この間来日をされている ILO の方も言っていますが、日本ではそもそも非正規が全体の 3 分の 1 とか 4 分の 1 で、こういうふうに大きくなっていること自体が非常に問題だと、こういう指摘もあるわけです。ですから、こんなに非正規が増えているのだから、派遣だけ規制するのは平等ではないとか、おかしいだとか、効果がないとか、そういう議論だけはやめたほうがいいと思うのです。非正規問題は非正規問題で、もちろんここで議論をするわけではないですが、それはそれとしてちゃんとした議論をする中で派遣は、という。議論する順序がちょっと違うのではないかと強く思います。平成 24 年改正について見直すべきことはないのではないかというのが私の意見です。

○鎌田部会長 ほかに平成 24 年改正に関しての御意見はありますか。

○高橋委員 思いが強いので長くなってしまうかもしれませんが、グループ企業内派遣に関してお話をします。

 先ほど平成 24 年改正は見直す必要がないとおっしゃられましたが、平成 24 年改正の内容は総じて見ると、一部の問題がある行動等がマスコミで報じられて、それに対してそれは問題だといって一気に規制が強化されたという経緯があったのではないかと私は感じております。グループ企業内派遣についても、正にかつてそうした報道がされて、それを契機に今のような規制が導入されたと私は理解しています。その中で、グループ企業内派遣が本来持っている良い面がほとんど評価されないで、その問題行為だけが特筆されて規制強化につながった経緯があると思います。

 現在の規制の問題点としては、まずそのグループ企業が連結決算を採用しているのか、採用していないのか、あるいは、どの会計基準、日本の会計基準なのか、 SEC の会計基準なのか、 IFRS の会計基準なのか、そのどれを採用しているかによってグループの範囲が変わるということです。 8 割という規制の数字は動かないのですが、対象範囲が異なるものに 8 割という規制をかけるということで、非常におかしな規制内容になっています。すなわち、自グループの会計方針に応じて規制の中身が変わる。それを労働規制に持ち込んでいるという点で、極めて問題の多い規制であるということが言えます。

 また、なぜ 8 割なのかという根拠についても、明確には分かりません。この 8 割という数字は、前回の労働政策審議会の議論の前に設けられた研究会で示された調査結果に基づくものだという説明が、以前、事務局からありましたが、平成 20 年時点の調査であって、労働局が専ら派遣を行っている可能性が高いと判断した大企業のグループ企業だけを対象にした調査結果であり、ほとんど根拠のない 8 割という数字が法律に明記されているという点でも、非常に問題が多いわけです。

 本来グループ派遣というのは、例えば技術者に関しては 1 つの企業集団の中で、一定のグループ企業の中でトレーニングや OJT を繰り返して様々な経験を積んでスキルアップを図ることが効果的なこともあります。また、自グループの技術向上にも役立つわけです。こうした観点から、グループ内の派遣会社を活用していくことが自社の競争力強化に役立つというような議論はほとんど認められなかったということだと思います。また、企業城下町にある子会社などは、グループ外の企業を派遣先として開拓することがなかなか困難な部分もあろうかと思います。したがって、繰り返しになりますが、このグループ企業内派遣については、グループ企業の定義や 8 割という基準の妥当性を再検討して抜本的に見直す必要があります。

○石黒委員 前回の議論のときから、高橋委員は 8 割規制の問題と会計基準の問題を主張されてきたと思いますが、そもそも専ら派遣を含めてグループ企業内の派遣の問題点は、派遣元がグループの企業の第二人事部のようになってしまい、派遣をやることで常用代替の促進をして人件費を抑制するということにあります。大企業が多いのですが幾つかの企業では、そういう問題が実際にありました。そうしたことを含めて、グループ内企業の 8 割規制を行うべきだということで昨年来議論をしてきたものと認識しています。

 基本的に、派遣会社の仕事は、需給調整機能、それからいろいろなマッチング機能、まさにオブザーバーのお二方が常に主張されているそうした派遣事業の本来の機能をやっていくということであります。グループ内に派遣しなければ、そういう本来の機能発揮ができないということであれば、それはそもそも労働者派遣事業に手を出すべきではないと思っております。

 そういう問題があるということで、グループ内派遣の比率を 8 割に規制しようと規制を創設したことをもう一度思い出していただきたいと思っています。議論の場で、 8 割がいいのか否か、判断基準は会計基準でいいのかといったことなどを、この審議会の中で議論をした結果、今の規制の姿が一番妥当だというところで決めたということをもう一度思い出していただきたい。それは別に、今やその状況が変わっているというわけではない以上、今この規制の見直しをする必要はないと考えています。

 それから、 8 割規制でいろいろ問題が生じているとおっしゃいますが、逆に金融業界などではグループ内の派遣をやめて直接雇用に切り替えたといった事例も出てきています。正しく、雇用機会があるのであれば直接雇用でやっていけばいいではないかという問題、もともと私どもはやはり間接雇用はできるだけ抑制するべきだと思っておりますので、直接雇用となって雇用責任がはっきりとなって安定した雇用になれたといった事例が生じていることも考えると、 8 割規制の意義は大きい。直接雇用になれば今後は労契法の 20 条によって合理的な処遇も期待できるようになっていくことを含めて考えますと、派遣法改正によって導入されたグループ内企業への 8 割規制については、そういう派遣労働者のメリットが大変大きいと感じております。この立法趣旨が生かされてより安定した雇用に転換していくということについて、今事例が出はじめていることを考えると、今、どうしてこの規制を変える必要があるのかなと疑問に思っております。

○大原オブザーバー グループ派遣について 1 点だけ、働いている方々の視点という立場から一言申し上げたいと思います。グループ企業に派遣をされる方は大きく 2 つのタイプがあろうかと思います。 1 つは、今いろいろ御指摘されているように、そもそもその企業に勤めていた方が退職をして、どこかのタイミングで派遣労働者として、再度、元の企業でお仕事をされる。これは、先ほど離職者一連の問題と相通ずるところがあるわけですが、やはり本人の御希望とすれば、知識・経験がある、あるいは、その職場になじみがあるということから、積極的に元の職場へ派遣で戻りたいという方々の意向があるのは事実です。

 もう 1 つの働く人のタイプは、まさしく外部労働市場、退職者以外の外部労働市場から派遣労働者の方を募集してそのグループに派遣をする。そういった観点からすれば、グループ派遣とはいえ、いわゆる有益な労働力需給調整機能を果たしていると考えています。したがって、数字だけ 8 割というものをもって機械的に規制をする、一律規制をすることについては、私はやはり無理があるのではないか、もう少し実態に応じた規制の在り方を検討し直すべきではないかと考えているところです。

○新谷委員 働く者の視点に立ってとおっしゃるのですが、その点、私には全然理解できません。「派遣で元の職場に戻りたい方がいる」と今おっしゃったのですが、戻りたいのはその元の職場なのであって、必ずしも雇用形態については派遣を選好しているわけではないと思います。今は 8 割規制がかかっていますが、先ほど申し上げたように、この規制がかかったがために、その政策効果として、特に金融などはそうですが、直接雇用に全部切り替えてきたケースも生まれているわけです。しかし、もし 8 割規制が導入されていなかったら、まさしく企業グループ内という閉じた労働市場の中での労働力需給調整しか行われないので、派遣という形でしか戻れないことになってしまうわけです。

 したがって、私どもとしては、こういった派遣という形でしか元の職場に戻れないといった状態を放置するのではなくて、元の職場には直接雇用という形で戻る仕組みを打ち立てるべきだという意味において、この 8 割規制には意味があるというふうに申し上げております。したがって、使用者側とはちょっと視点が違うのではないかと感じました。

○大原オブザーバー いいですか。

○鎌田部会長 すみません、時間も押してきていますので、「特定を目的とする行為」と「指導監督の在り方について」という検討項目が残っていまして、是非この点についても御意見を頂きたいと思います。

○宮本オブザーバー  「特定を目的とする行為」について一言、意見を述べさせていただきます。参考資料にも出ていますが、研究会報告では、無期雇用されている派遣労働者であれば派遣先による事前面接によって不合格になった場合でも派遣元との雇用関係には影響がないのだ、といったことが報告書の中に書かれています。しかし、私は、派遣元で無期雇用されている場合であっても、全ての場合において本当に雇用が確保されているのだろうかというところに、非常に疑問を持っています。

 この特定目的行為の禁止については努力義務になっている以上、実態としては、派遣先で面接や履歴書請求などが実際に行われていて、その結果、派遣先がなかなか見つからずに例えば整理解雇される無期雇用の派遣労働者もいるのではないかと思っています。

 このようなケースをなくすために、事前面接などの特定目的行為についてはこれまでどおり禁止をしておくという仕組みがやはり必要ですし、例えば、違反行為があった場合には行政として積極的に指導を行うことも必要だと思っています。

 加えて、先ほど新谷委員からも発言がありましたが、労働契約申込みみなし制度との関係です。派遣先が特定目的行為を行った場合には採用行為があったものとみなした上で、それによって派遣先が派遣労働者を受け入れた場合は、労働契約申込みみなし制度の適用対象とすることが必要だと考えております。

○青木オブザーバー 特定目的行為の今のお話に続くのですが、まずちょっと整理ということで、派遣先による派遣労働者の特定を目的とする行為、事前面接については、禁止されているという意見もありますが、現行規定、労働者派遣法第 26 条第 7 項の文章の最後のほうを読むと「派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない」とされていて、少なくとも派遣法には努力義務と規定されていて、禁止されていないと認識しています。ただ、派遣先指針では、これも最後の文章で「派遣労働者を特定することを目的とする行為を行わないこと」と記載されていて、そのため、現時点では厳密に言うと、法律と指針に整合性が取れていない状態であるのではないかと認識しています。

 その上で、労働者派遣や労働者供給の定義は、法律に規定されていますので、その定義から考えると、派遣先はいわゆる事前面接においてはどこまで行うことが可能なのか。その範囲について、やはり明確にすべきではないかと思っています。どこまでが許されるのかどうかがちょっと不明確ではないかと思っています。

 これは次の論点の「指導監督の在り方」にも関係するのですが、スキルシートを提出しただけで行政指導をされるような事例も出ていますので、個人名を記載していないスキルシートを出すことは派遣労働者を特定する目的行為ではないはずなので、スキルシートは派遣労働者の特定を目的とする行為には該当しないということもきちんと明記すべきだと思っています。

 先ほどちょっとお話しましたが、無期雇用労働者を派遣先による派遣労働者の特定を目的とする行為に係る規定から除外するということが書かれていましたが、それについては私どもは賛成しています。

○高橋委員 事務局に質問したいのですが、今、青木オブザーバーが御指摘をされたスキルシートあるいは、いわゆるスキルリストについて、この利用は特定目的行為に当たるとの見解が行政から示されていると聞いたこともあるのですが、その実態について教えていただきたいと思います。

○鈴木主任 指導監督の立場から申し上げますと、スキルシートの提出の仕方もいろいろありまして、複数の派遣労働者からスキルシートを聴取して、その中から派遣先が選ぶというケース、あるいは、それとは全く別で、派遣元が派遣労働者を派遣することを決定して、念のために、その派遣先での職務が遂行できるかどうかということでスキルシートを提出してチェックをするケース、そういういろいろなケースがありますので、スキルシートを提出したから派遣法第 26 条第 7 項あるいは派遣先指針に抵触するかどうかを一概に判断することは難しいと思います。そのため、画一的な指示を出しているわけではありません。個別の事案を勘案して、様々な条件を鑑みて派遣先が特定しているのか否かを判断しております。

○高橋委員 そうした御答弁を伺えば伺うほど、正に裁量行政そのものという話になるわけで、これは、派遣労働者と派遣先は直接会っているわけではありません。派遣先は本当に自社の業務に必要な能力を保有しているかを把握するために、スキルシートなりスキルリストを利用することは極めて合理的なものであると考えますので、これは法改正の問題ではないのですが、業務取扱要領に、スキルリスト、スキルシートの利用については特定目的行為に当たらないということを、是非明記をしていただきたいと思います。

○新谷委員 この特定目的行為の問題は、派遣法の立法趣旨から検討すべきだと思っています。派遣制度は労働力の需給調整機能として派遣法が例外的に認めたものであるわけですから、仮に特定行為によってマッチングを行うということであれば、これは派遣として認められる労働力の需給調整ではなくて、まさに直接採用とみなされるべきであります。したがって、この特定目的行為の禁止が緩められるということであれば、正しく派遣制度の濫用につながりかねないと思っておりますので、こういった視点からの検討が必要であると思っております。

○鎌田部会長 指導監督の面で、先ほどちょっと青木さんも触れるところがありましたが、何かありますか。

○青木オブザーバー 今のやり取りで分かりました。

○鎌田部会長 そうですか。ほかにありませんか。

○新谷委員 「その他」でいいですか。

○鎌田部会長 「その他」も入れて結構です。

○新谷委員 その他の論点についてということで、今まで何回か論議を重ねてきました中に挙がっていない論点ではありますが、是非報告等に盛り込んでいただきたい論点について申し上げたいと思います。ちょっとたくさんになりますが、御容赦いただきたいと思います。

1 つは、労働者保護の強化に向けて、労働者派遣のあらゆるステージにおいて、派遣労働者に対して派遣労働であるということを理由に不合理な差別を行うことを禁止することを検討するべきではないかと思っています。もう 1 つは、労働者保護の観点から、年休や産育休の取得をはじめとする派遣労働者の正当な権利行使を保証するために、こうした権利行使を妨げている派遣元に対する行政指導・監督指導の強化を盛り込むべきではないかと思っております。

2 点目は、ミスマッチの防止ということから、就業条件についての事前の文書での明示が強化されているのですが、更に一層の強化をするべきと考えております。業務内容の詳細やノルマの有無、引き継ぎの有無などといった点についても開示対象とすることで、その内容を拡大するべきであると考えております。

 それと、これは厚労省研究会報告でも一部触れられていますが、派遣先の労働組合の派遣労働に対する関与を強化するということに関して申し上げたいと思います。現行の枠組みですと、自由化業務について原則である 1 年を超えて 3 年まで派遣期間を延長する際に派遣先の過半数労働組合等の意見聴取を行うということになっていますが、この聴取の内容について、派遣期間だけに限定せず、その業務や人数、賃金、社会保険の加入の状況、派遣料金、派遣元の業者名等々についても、これを意見聴取の対象とすべきであると考えております。特に期間と業務と人数の項目は非常に重要な項目ですので、これは書面による聴取事項とすべきだと思っております。口頭ではなくて書面による聴取事項とするべきであると考えているところです。そういった意味では、前回のこの部会でも意見聴取についてのデータが出ておりましたが、ああいったものが口頭での確認事項とされるのではなくて書面によって様式化されるべきであると考えております。

 最後に、紹介予定派遣について申し上げたいと思います。この紹介予定派遣については、現在 6 か月を超えてはならない規制となっておりますが、これを法律上の規定として格上げをすべきであるということと、直接雇用される際に、これは労働条件の開示義務が労基法 15 条でかかっておりますが、この労働条件についていつ開示をするのかを明確化するべきであるということ、また、直接雇用した労働者については試用期間を設けることを禁止するべきであるということを考えております。さらに、この紹介予定派遣については、直接雇用期間については期間の定めのない雇用とすることと、派遣就労していたときの労働条件を下回らないことを原則にするべきであるということを、併せて申し上げておきたいと思います。長くなりましたが以上です。

○鎌田部会長 ありがとうございました。新谷さん、御趣旨は「その他」ということで、労働側からの御要望ということでよろしいですね。

○新谷委員 そうです。

○鎌田部会長 特にこれで、論点でもう一度検討課題として設定しろということではなくて、要望ということで出されたと理解してよろしいですか。

○新谷委員 はい。盛り込めるものは論点として盛り込んでいただければと思いますが、全体としては要望として申し上げておきます。

○鎌田部会長 これについて、高橋委員。

○高橋委員 これについてではなくて別のことなのですが。

○鎌田部会長 そうですか。では、今のことについて、論点としてできればという部分については特に御意見はありませんか。

○高橋委員 論点といっても、何が論点になるのかよく分かりません。それだけ取り上げて御発言されても、どういうお考えでそういうことをおっしゃられているのかがよく分からないので、それを論点として取り上げるかどうかという判断は、ちょっと留保させていただきたいと思います。

○鎌田部会長 では別でどうぞ。

○高橋委員 先ほど 1 つ言い忘れたことがありました。もう 1 つは事務局に質問です。 1 つ言い忘れたことは、先ほど労働側の委員の方が、労働契約申込みみなし制度に特定目的行為、という要件を加えるべきだという主張がありましたが、先ほどの私と事務局のやりとりを聞いていただいても分かるとおり、極めて裁量行政的なもの、要するに予見可能性が低いものを要件として加えることについては反対であるということを申し述べておきます。

 もう 1 つは、事務局に簡単な質問なのですが、昨日、今日と新聞報道で、厚生労働省が派遣法についての改正の方針を固めたという記事が、なぜか知らないのですが載っていまして、これは一体どういうことなのでしょうか。今朝なども新聞を見たら、厚労省が方針を固めたとありました。ではこの審議会で議論する必要はないのではないかとも思ったところなのですが、その辺りを、事務局のほうで分かっている範囲で教えていただければと思います。

○富田課長 新聞報道はいろいろとございますが、事務局として方針を固めた事実はございません。あえて推測で申し上げると、 9 27 日の労働政策審議会において、特定派遣事業については全て許可にという御意見が、労使双方からあったということを記者の方が聞かれて、それを記事にされたというだけだと思っております。

○鎌田部会長 部会長の私としても、固まったなどとは承知しておりません。私も新聞を見てびっくりという状態でありました。

○青木オブザーバー 先ほど新谷委員のほうからたくさん意見がありましたが、ちょっと一つ一つ細かくもう一度確認しなければ分かりませんが、今聞いた範囲で言えば、私としては現行法の範囲で十分ではないかと思っております。

 別件なのですが、「その他」ということで、前回言い漏れたところでちょっとお話したいことがあるのですが、この場は派遣法を検討する場ということで、多少は関係しているのですが、実は、派遣社員以外の非正規社員、アルバイトの方たちがなかなかスキルアップする機会がないために、派遣会社の充実したスキルアップのサポート体制に目を付けて、派遣会社に登録してスキルアップ関連のサービスを受けている人も少なからずいるのです、派遣で働いていなくても。その辺りは、登録している人に提供しているサービスもありますから。そういったことを考えて、向上心のある非正規社員の方々をサポートする仕組みを、もちろんこれは派遣社員も含めてなのですが、社会全体で考えなければいけないのではないかと思っております。

 例えばなのですが、研究会でも申し上げたのですが、派遣元に対するインセンティブの付与がとても重要だと書いていましたが、雇用保険を利用して、派遣労働者のキャリアアップや雇用の安定に取り組む派遣元などに対してインセンティブとして高率の助成を行うなども 1 つの方法なので、是非、有期雇用全体についてそういったことが考えられないかということをちょっと述べたいなと思って、すみません、補足ですが。

○鎌田部会長 そろそろ予定の時間がまいりましたが、これだけはということがありましたらどうぞ。よろしいですか。

 どうもありがとうございました。本日は、平成 24 年改正法を中心に非常に活発な御議論があって、私としても非常に考えさせられたことが多かったと思っております。こういった議論を今後も生かしながら、更に検討を深めていきたいと思っております。

 本日はここまでで終了させていただきたいと思いますが、事務局から連絡事項はありますか。

○亀井補佐 御連絡させていただきます。次回ですが、今回で主な論点について一通り御議論を頂きましたので、今後、部会長とも相談させていただいて、これまで御議論いただいた内容を論点項目ごとに整理しまして、更に深めるべき点がないかなどについて御議論を頂きたいと思っております。

 次回の日程ですが、 11 14 日、木曜日の 10 時から、場所は 6 階の専用第 23 会議室にて開催させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。以上です。

○鎌田部会長 ほかに何か御意見はありませんか。特になければ、以上をもちまして第 197 回労働力需給制度部会を終了させていただきます。

 本日の議事録の署名は、清水委員、高橋委員にお願いいたします。それでは、皆様お疲れ様でした。


(了)

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