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2014年2月12日 実践的な手術手技向上研修事業に関する評価会議 議事録

医政局医事課

○日時

日時 平成26年2月12日(水)13:00~


○場所

場所 厚生労働省医政局第2会議室


○議事

○事務局 本日は大変お忙しい中、実践的な手術手技向上研修事業に関する評価検討会議に御出席賜りまして、ありがとうございます。
 これまで6団体の方から平成24年度、25年度の2年間、この事業を実施しまして、今年度は1つの節目として、これまでの成果等を評価、集約いたしまして、こういったものを今後やっていきたいという大学もかなり増えてきているようですので、そういったところに何かフィードバックできるような成果をまとめたいということで、今回、この会議に御協力いただいた次第です。
 では、1時から3時までという予定でございますが、大変短いところ、恐縮ですが、どうぞ御協力をお願いします。
 まず、お手元に資料があります。議事次第のとおり資料がありまして、また各大学から頂きました資料があります。そして本日、千葉大学から追加でいただきました資料があります。お確かめください。
 では、本日の出席者の御紹介をさせていただきますが、今回、発表者の方については発表のときに、顔合わせの機会があると思いますので、まず評価委員の先生を御紹介します。東北大学の呼吸器外科の教授の近藤先生です。
○近藤委員 近藤と申します。よろしくお願いします。
○事務局 自治医科大学先端医療技術開発センターの小林教授です。
○小林委員 小林です。どうぞよろしくお願いします。
○事務局 北海道大学消化器外科2、准教授の七戸先生です。
○七戸委員 七戸です。よろしくお願いします。
○事務局 順天堂大学解剖学第二講座の内山教授です。
○内山委員 内山です。よろしくお願いします。
○事務局 杏林大学解剖学教授の松村教授です。
○松村委員 松村です。よろしくお願いします。
○事務局 それでは、進めさせていただきます。評価委員の皆様にはお手元に評価表をお配りさせていただいておりますので、お気付きの点があれば、メモとして使いいただければと思います。のちほど事務局で回収させていただき、整理して、各大学のほうに評価の結果をお返ししたいと思っています。
 本日は、非公開の会議ですが、議事録と、今回御提出していただいている資料はホームページに後日公表したいと思います。また議事録と資料は、再度御確認をしていただく予定ですので、よろしくお願いします。
 以降は近藤先生に座長をお願いしたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
○近藤座長 御指名ですので、僭越ながら司会進行をさせていただきます。私は日本外科学会で、この件のガイドラインの検討委員会の委員長をさせていただいている都合上、こういった場でお仕事をさせていただくことになりました。元々、私は御紹介にありました呼吸器外科医ということで、解剖そのものについてはいろいろな意味で知識はそれほど深いわけではございませんが、このような医療技術における教育活動、特に耳鼻科、脳外科等を含めた外科領域での技術研修の重要性というのがこの先非常に重要になってくるのではないかと考えている次第です。
 本日は、一昨年にガイドラインができましてから、厚労省の補助金による事業が始まったわけですが、ただ今のお話にありましたように、今後に資する上でも皆様の成果をお伺いし、御意見などをうかがうことが非常に重要だろうと思いますので、本日はどうぞよろしくお願いいたします。
 それでは、議事次第に従い、まず、「1 各実施団体からのプレゼンテーション」として、本日御用意いただいているご発表を7分ぐらい、質疑3分程度という手順で、それぞれの御経験、問題点等々について御発表いただければと思います。
 リストの順番にしたがって進行させていただきますので、どうぞよろしくお願いします。最初は札幌医科大学の藤宮先生、よろしくお願いします。
○藤宮(札幌医科大) どうぞ、よろしくお願いします。
 では、早速始めさせていただきます。私は2008年から札幌医科大学に行ったわけですが、札幌医科大学は私の前任者の村上先生の時代からサージカルトレーニングをやっておりまして、どういう形でやっていたかということを、まず、紹介したいと思います。
 まず、インフォームドコンセントに関してですけれども、白菊会生存会員の全員に生前同意と、それから亡くなったときの献体時に3名以上の遺族の同意を取るということをしていました。また、当時は、凍結保存した遺体を、解凍して使うということで、バイオメカニクス研究や、または手術手技研修のために使っていたという経緯がございます。
 私は2008年6月に札幌医科大学に来たわけですが、まず、やりましたことは札幌医科大学の全学的な試みにするために倫理委員会の指針を作成しました。平成22年3月に倫理委員会を立ち上げて、特に遺体を使った研究、研修に関して全学的な事業として同意を取ろうということに至ったわけです。
 また、白菊会会員全員1,500名に対して、生前同意を再度取り直しまして、教育利用のみならず研究や研修に利用していいかどうかということを尋ねたわけです。ただし、凍結遺体というのはあくまでもバイオハザードでありますために、二次感染、一次感染と感染の危険性が非常に高いということで、特殊な実験室を作って、そこで封じ込めをするという試みをしました。
 そのあと、東京医科歯科大学の教授の秋田恵一先生から紹介していただいたオーストリアのグラーツ大学で開発された「Thiel法」という固定法を導入することができまして、これは感染性がなく、しかも生体に近い柔らかさが得られるということで、一気に手術手技研修が具体化していくわけです。
 献体の利用に関しては、卒前教育、卒後教育、生涯教育という3つの柱に分けられると思います。系統解剖実習と局所解剖、これは卒前・卒後教育としまして解剖学講座が行う事業であります。生涯教育としての医療技術研修やセミナーというものは、これは解剖学講座のみならず、全学的に取り組むべき課題と考えています。
 こうした流れの中で、近藤先生、七戸先生を中心にした日本外科学会及び解剖学会から平成24年3月に、「臨床医学の教育及び研究における死体解剖のガイドライン」が制定されたわけです。その結果、手術手技研修を、「社会的に見て正当な義務により成したる行為」という、結局、社会的な認識が得られる方向へ行ったわけです。
 札幌医大では、平成24年度と平成25年度との2年間にわたり、800万~870万円の予算をいただいております。この事業費のおかげで、恒常的な予算が確保でき、様々なインフラ整備、それから事務局職員を雇用したりとか、また熟練した講師陣を呼んだりとか、ということで、これまでのセミナーに比べて、かなり充実したセミナーが行えるようになりました。
 この助成金の中で行いました研修セミナーは、平成24年度では4個です。整形外科のみならず、外傷外科や腹部外科などのセミナーを行いました。平成24年度にセミナーをやって良い評価が得られまして、引き続いて平成25年度にも多くのセミナーを開催するに至りました。外傷外科は2回目です。肘、整形外科関係の卒後教育、産婦人科の手術手技の研修会などです。腹腔鏡下食道手術手技セミナー、鼠径ヘルニア手術手技セミナー、麻酔科ワークショップで、これはペインクリニックの超音波ガイド穿刺の手術手技です。
 これまでに行いました具体例をいくつかお見せしたいと思いますが、まず手外科カダバーワークショップです。これは昨年度に行ったものですが、整形外科教室、手外科学会及び解剖学講座で主催したものです。「Thiel法」の場合には、この血管の弾力性は非常に良いもので、こういう血管内に充填して血管の走行を見るということもできます。これが実際の実習風景です。
 このときにアンケート調査を行った結果ですけれども、「大変、有益であった」という回答を多くいただいておりまして、「また、是非、やって欲しい」ということで、かなり好評を得たわけです。
 これも昨年度試行したセミナーですけれども、腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術手技セミナーであります。
 解剖学講座と、それから斗南病院の外科のチーム、日本ヘルニア学会、この主催で行いまして、企業も協力に入っていただいております。
 参加施設は、このときには主として北海道の外科の先生方が来られて、こういうふうにThiel法の遺体を使ってセミナーをやったわけです。このときもアンケートでは結構好評を得ておりまして、かなり良かったと。独自にできると、自分の手技が非常にアップしたということでありまして、大変有益であったという意見をいただいています。新聞にも、取り上げられています。今年も定評を得まして、より一層、希望者が増加していて、全国規模で先生方に来ていただいているということです。
 今、説明しましたように、札幌医大はこのサージカルトレーニングに関してはかなり先発校でフロントランナーとしてやってきました。これも白菊会会員の方々のバックアップと、それとリスクのない固定法を導入したからです。
 以上です。ありがとうございました。
○近藤座長 どうもありがとうございます。もしこの御報告に何か質問等、ございましたらお受けしたいと思いますが、よろしいですか。特に何かございますか。
○内山委員 生前同意を取り直した理由は何ですか。
○藤宮(札幌医科大) 当時、村上先生が取られた同意では、具体的にどういう形で使うのかというのはあまりはっきりしていなかったわけです。かつて同意書を取られてから、もう既に5~6年経っていたわけなので、もう一度、札幌医大としてはどういう形で、この献体を使わせていただきたいのかということで、新たに同意を取り直したわけです。
○近藤座長 ほかにございますか。
○七戸委員 予算のことですが、先生は4つ書いておられます。1つは恒常的な予算、2番目がインフラ整備、3番目が専従の職員、4番目が熟練した講師陣ということですが、実際に外科学会と解剖学会のガイドライン委員会でも報告をいただいていて、大体、1万5,000円とか2万円ぐらいの参加料で開催されているということですが、海外の例を見ると、多分もっと高い値段で、(この額が)恐らく適正な値段だと思いますがいかがでしょうか?また、例えばインフラ整備は現時点で大体終わっているかどうかとか、あるいは専従の職員というのは恐らく解剖の先生がこの事業を副業としてやるには必要な職員だと思いますが、実際にそういうところにどのぐらい(事業費を)充てているかとか、実際の運営の予算の中での(それぞれの)予算の割合というものを教えていただきたい。
○藤宮(札幌医科大) 人を雇うのに大体、300万円ぐらいかけさせていただいております。講師料というのは各セミナーによって様々ですので、これは一概に各セミナーでいくらというのは言えないと思います。
 「インフラ整備」といいますのは、これもケースバイケースですけれども、まず機械のリース料とか、それから会場をセットアップするのにアルバイトを雇ったりとか、こういうふうなことで結構、出費があります。
 あと、固定法ですけれども、これもまた業者で作られた薬品を購入して、できるだけ、こちらとしては手間がかからないように、もう注入固定したら良いだけのようにして買っているんですけども、これも様々な費用の中に含まれております。
○近藤座長 それでは、後半に1時間ぐらい討論する時間がございますので、先に報告のほうを進めさせていただきたいと思います。どうもありがとうございます。
 続きましては東北大学からの報告をよろしくお願いします。
○北田(東北大学) 東北大学の北田と申します。本日は本学の整形外科から山本講師も参加させていただいております。まず、本学からの提案を採択していただきましたことを感謝申し上げます。ありがとうございました。
 私たちは、本事業の募集に先立ち、1年半ほど前から篤志献体の会、白菊会の方々にも御理解を賜るような、時間をかけた説明をしております。一番下に書いてありますが、最終的に文書を送付しまして、全会員への意向調査、それまでは教育がメインだったのですが、今回は手術手技研修ということで、意向調査を行って、返送(内容)を確認した上で、実際に手術手技研修に使わせていただいております。
 組織ですが、各診療科から上がってきた提案に関して、「献体遺体使用の臨床医学教育・研究専門委員会」を立ち上げ、こちらで審議して、良となったものについて、手術手技研修を行います。実際にはこの専門委員会及び倫理委員会での審議等を経まして、手術手技研修が行われるということで、実施の3か月以上前に各診療科にアナウンスをしなければならないということが1つポイントになります。
 次に、目的です。平成24年度に関しましては、かねてから手術手技研修を行いたいという意向を示されていた整形外科学、神経外科学の2分野において、手術手技研修を行いました。平成25年度に関しましては、5分野からの提案を承って開始しています。整形外科分野はここに書かれているような手技に関しての習得、神経外科学分野に関しては更に低侵襲かつ安全な技法の体得及び脳神経外科等の解剖学的位置関係の把握を目的としています。ほかに整形外科からは臨床研究としてバイオメカニクス分野の研究も取り扱っています。
 実施規模は、整形外科では計9日間、のべ110名が参加しております。神経外科では2日間、のべ18名が参加、宮城・福島・山形・秋田・青森・岩手といった東北6県を全て網羅した形での参加者となりました。
 「臨床研究」に関しては4名の方が10件の研究に関して今も推し進めています。これが(手術手技研修の)実際の写真になります。いずれの場合も横に講師の先生が付いて指導するという形がお分かりいただけると思います。
 次に、研修の成果です。アンケートでは、9割の方が「満足」あるいは「非常に満足」ということで、成果が上がっています。「具体的に役立った点」は、関節鏡手術においては出血がなくて視野が確保しやすいから生体より手術を行いやすいし、解剖学的位置関係も分かりやすい。終了後に関節を開けて、自分自身で行った手術手技がきちっとできているか、確認が可能である。人工関節に関しては、何度も入れ直しが可能である。これによって適切な位置を吟味することができる。神経外科に関しては、実際の手術では絶対に触れてはならないような神経あるいは血管を触わり、その走行を追う事が出来るということで、これまでに増して安全・安心な手術が可能となる。実際の手術現場ではまだ執刀したことはないような医師が執刀医としての立場で実習ができた。これらのことは、御遺体を使った研修によって初めて可能になったことと考えております。更に詳細な内容はこちら(スライド)にまとめておりますので、適宜、御参照ください。
 次に、解決可能であった問題点に触れます。手術器具、消耗品、御遺体数の不足に関しましては、例えば手術器具に関しては、関連病院から(耐用年数を超えて廃棄予定の)中古のものを頂いたり、あるいはレンタルで安く済ませる。消耗品の不足については、実際の手術で使用不可能となったもの(のうち大学による費用負担となったもの)を利用したり、あるいは一度研修中に使用した埋込器具を抜去して、また別な御遺体に使うという形で対応しました。ほかにも、最初にたくさん多くの消耗品を納品してもらって、その後使った分だけ精算してもらうというような会計システムを導入しました。御遺体数の不足に関しては、前年度(平成24年度)は難しかったのですが、今年度(平成25年度)に関しては多くの御遺体を確保できるようになりました。
 次に、解決方法が難しかった課題点について述べます。備品が買えないということから、パソコンやプリンターを購入できませんでした。これは解剖学教室から持ち出しとするしかありませんでした。補助金依存体制については、今年度の手術手技研修は5診療科から提案があったわけですが、どの診療科も補助金なしではちょっとやりづらいですというような話を頂いています。予算確定は9月ですから、それまでの人員の雇用の問題、あるいは(それまでに用いる)消耗品などはどこから捻出するか。また、研修期間は先ほど申し上げたとおり、アナウンスしてから実際に行うまで3か月以上かかりますので、9月に確定となると、研修期間としては1月から3月までの時間しか使えないといった問題があります。できれば、予算の配分の時期等を前倒しとしていただければ、大変有り難いと考えています。教官の負担、あるいは解剖学教室の負担の軽減という問題は、なかなか解決が難しいと思います。
 また、この研修事業を今後どうしていくのか。これは私たちも考えなければならないですし、厚生労働省の方々にもお考えいただきたいところなのですが、予算配分というのは、恒常的にされていくのか、それともある時点で切られて、大学側で考えてやってくださいという形になるのか。その場合、費用負担はどうするのか。例えば受益者負担とした場合、参加者にお金をくださいという形で求めなければいけないのですが、その場合の規定を設けるのか。
 東北大学の前例としては、サージカルセンターというようなブタ等を使った研修の施設がありますが、その規定を作るのに1年半かかっているということがあり、そういった(実務的な)やり取りは誰が主体となって行うのかという問題もあります。例えば専任教官、あるいは専任技術職員を置く必要があるのではないかと考えているのですが、個人的な意見ではありますが、教官は解剖学の担当ではなくて、医学教育センター等の実務を担当するような所で専任あるいは兼任でしていただけると大変有り難いと考えています。専任技術職員に関しては、配置していただけるのであれば、円滑な事業の遂行も可能ではないかと考えています。以上です。御静聴いただきありがとうございました。
○近藤座長 ありがとうございました。いろいろ御意見はあろうかと思いますが、ただいまの東北大学からの報告に対し、質問、御意見等はございますでしょうか。
○内山委員 ちなみに解剖の先生は何人ぐらいですか。
○北田(東北大) 基本的には、教授が当然専門委員会等に出席しているのですけれども。
○内山委員 現実の場でどういう関係ですか。
○北田(東北大) 教官は基本的には私が主に担当して、あとは技術職員2名が担当しております。ほかに今回の予算で雇用した事務職員を1人という形です。
○内山委員 先生は解剖のスタッフですか。
○北田(東北大) そうです。
○松村委員 「専門委員会から倫理委員会へ」という形ですけれども、専門委員会と倫理委員会の位置付けはどうなっているのでしょう。
○北田(東北大) 倫理委員会は本当に倫理的な側面で、例えば「利益相反マネジメント」というのを(スライドに)記載させていただいておりますが、基本的には形式、あるいは白菊会との連絡はどうであるかとか、その辺りしか検討しない、あるいはできない部分があります。
 専門委員会においては、実際に提案されてきた内容が妥当であるかとか、今回、今年度については6診療科から(手術手技研修の)提案があったのですが、1診療科に関しては、内容に不備がありましたので、今回はお断りさせていただきました。そういった内容の妥当性に関する部分は倫理委員会では審査できませんので、専門委員会で検討します。
○松村委員 不備と判断されるような項目は具体的にどういう項目なのですか。
○北田(東北大) 具体的には、解剖学実習室から御遺体を持ち出してはならないと申し上げているのですが、申請書に「CT室」と書き加えられていたりといった部分があり、そういったものに関してはやはり難しいと判断します。
○松村委員 はい、分かりました。
○近藤座長 よろしいでしょうか。それでは、また後ほどで議論をしたいと思います。
 次に、千葉大学からの御報告をよろしくお願いします。
○鈴木(千葉大) 千葉大学から来ました鈴木崇根と言います。出身は整形外科ですが、今は環境生命医学ですが、解剖学教室のことです。変わった名前なのですが、千葉大はこれが正式名称なので、私はそこに所属して解剖の授業とCadaver Labをやっています。
 様々な要因で医療の難易度が上昇の一途をたどっております。しかし医師の持つ時間は限られており、効率のよい教育方法が望まれています。配布した資料は海外のCadaver Labのホームページのコピーなのですが、海外では欧米を中心に、これを日本以外ではかなり存在しています。アジアでも中国、韓国、台湾、シンガポール、マレーシア、タイでCadaver Labが活発に存在して、様々な手技教育が行われています。
 我々も日本にCadaver Labを立ち上げるために取り組んできました。2010年から稼働していますが、3年ぐらい前にかけて内情調査などをして、私は札幌医大さんと慶応大学にかなり足を運んで、いろいろ情報を伺っています。我々の組織はクリニカルアナトミーラボ(CAL)といいます。志を同じくする臨床の17講座と、解剖学教室、総合医療教育研修センターで構成されて、この仲間で運営費の捻出とラボの運営管理を行っています。所属講座の教員は、実施担当者としてCALを使用することができます。また、学外の利用者はCALの登録講座と共同でのみ参加可能となっています。
 運用方法は死体解剖のガイドラインに準拠しており、担当者と運営委員会の間で申請承認・実施報告を行っています。CALは手術シミュレーション室と研究室からなります。写真のように手術シミュレーション室は手術室と同等の設備を揃えることを目指しています。
 今回の委託研究研修事業で頂いた資金で開催された教育は、このように10件5講座にのぼり、総勢141名の医師が参加しました。本事業とは別にCALで通常のように行われているものが教育・研究・肉眼解剖を併せ、21件で、8講座で、合計131名の医師が参加しています。
 これらの開催を通じ明らかになった問題点を列挙させていただきます。それはまずマンパワー、開催毎の必要経費、書類審査、委託事業の形式の4点です。それぞれに対して問題点等を考えられる解決法を述べます。
 「マンパワー」に関する問題点は、土日開催が多く、指導監督者となる解剖学教室員が不足したことです。千葉大学では死体解剖保存法の定める解剖資格を有する者はわずか2名です。また、遺体が関与する部分の準備・片付け等というのは解剖学教室員がほとんどいないために、臨床講座の大学院生頼みでやっております。解決するには人を増やす以外にはありません。指導監督者を担当できる人を増やす、医師に死体解剖資格を与える。Cadaver Labに専属の人員を置くなどが考えられます。医師に自動的に死体解剖資格を与えるには、法律の改正が必要となります。
 「開催毎の必要経費」も大きな問題でした。手術用消耗品は非常に高額です。設備・備品はレンタルできない設備が存在すること、レンタルが可能でも1台5万~10万円と高額であり、開催に大きな足かせとなりました。「一番簡単な解決法」は消耗品を使わない術式に限定すること、器械をレンタルしないでできる術式に限定すること、若しくは1台レンタル代を支払ったら、できるだけ多くの人数を詰め込んで、たくさんの術式を長時間かけて行うという詰め込み型ワークショップにするというものです。しかし、こういったものは誰も望んではいません。
 「書類審査」にも問題を感じました。CAL運営委員会と倫理審査委員会の2つの組織の審査が必要です。委員会の開催間隔により、企画・申請から実施まで時間がかかります。申請から実施までの期間が長いと使わないまま遺体保管用のスペースを長期に占有してしまいます。もっと効率よく運営するために、手続の簡略化が必要です。
 最後に、「今回の委託事業という形式」に関してです。我が国のサージカルトレーニングをこういった事業として支援していくのであれば、2点ほど問題点を感じます。この事業が飽くまで情報収集を目的としているのであれば、少し的外れな指摘かもしれません。2点とは、公費の支給が単年ごとであること、開催回をできるだけ多く、参加者もできるだけ公募でという条件です。公費の支給に関しては、初夏までに申請し、10月頃に支給され、年度末締めの予算になりました。これは非常に運用しにくいです。
 先ほど述べたように、書類審査に時間が必要なため、半年前ぐらいからの申請準備が必要です。予算が得られるのかどうか分からない段階での申請は、結局訂正が必要となり、更に時間がかかるという悪循環が待っています。また、開催回数と公募については、主催者に向き不向きが存在します。主催する臨床講座と共催する学会・研究会と、参考までに主催能力はありませんが、医療機器メーカーを加えます。臨床講座の特徴は、正に関連病院ネットワークを駆使した卒後教育の主役です。学会・研究会の特徴は圧倒的なネームバリューです。医療機器メーカーなくして現在の手術は成り立ちません。
 マンパワーに関しては、臨床講座は「所属する大学院生」が使える立場にありますが、人数は講座毎に差があります。学会・研究会は下働きする人はほとんどいません。医療機器メーカーはそれなりに全国から動員する力はありそうです。
 資金に関しては臨床講座は奨学寄付金を持っていますが、潤沢ではありません。学会は学会費の一部の参加者のためだけに使用することが不公平になるため、サージカルトレーニングに使える予算は持ち合わせていません。医療機器メーカーは海外のラボに高額な施設利用料を支払っており、十分にありそうです。
 開催能力は臨床講座は小規模開催を複数回こなすことが向いており、学会は大規模ですが、年1回程度がせいぜいでしょう。これでは普及にはほど遠いです。医療機器メーカーは、限度はありますが、複数回の援助が可能です。
 公募能力は臨床講座は非常に限定的で、県内の関連病院に限ると言えます。それに対して学会・研究会はホームページや学会費を通じて広報し、公募する能力は全国規模です。医療機器メーカーも全ての病院に担当営業がいますので、直接、宣伝に訪れます。我々が海外のサージカルトレーニングに参加するときはほとんどこのケースです。主催者となる臨床講座に大規模な公募が難しいのが現状です。
 一言でサージカルトレーニングといっても3つの構成要素があります。「Cadaver Lab」と「主催者」と「参加者」です。それぞれの負担はこのようになります。Cadaver Labをは年間を通じての負担と、開催毎に生じる負担があり、主催者は開催毎に負担を請け負います。参加者は1回のみですが、受益者負担ということで参加費を支払います。サージカルトレーニングは必要経費が増えるほど、参加費を増やすか、参加者を無理に増やして1人当たりの参加費を減らすしか方法がありません。普及には参加費が個人の許容範囲にある必要があります。
 これにはこのようにCadaver Labに資金を投入し、個々の参加者の負担を減らさなければなりません。このためには医療機器メーカーをうまく導入しないとできないと思います。持続可能な事業にするために、Cadaver Labの施設を充実させ、開催毎のレンタル費を減らします。機器を更新するための財源を確保します。多くの手術手技に使用する備品・消耗品に精通するスタッフを配置します。医療機器メーカーが社会貢献・技術保証としてサージカルトレーニングに貢献できる道筋を作ることが必要です。これには非常に大きな資金が必要であり、個々の大学ではどうにもなりません。多くの資金が動く以上、国民の理解を得るために、サージカルトトレーニングが非営利目的であることを保証できるような仕組みが必要であると思います。その仕組みを是非行政に作っていただけたらと思っています。
○近藤座長 どうもありがとうございました。幾つか問題点を挙げていただきましたが、質問がありましたらお願いします。
○七戸委員 最後から2番目のスライドで、「医療機器メーカーが社会貢献・技術保証としてサージカルトレーニングに貢献する道筋を作る」ということが書いてあるのですが、ガイドラインの委員会のときも、かなり話題になりました。例えば非営利・営利というところでは、「利益相反あり・無」に関して、例えば寄附講座の教授がやるのはどうなのかとか、細かく言うと、きりがないような状況で、実際に、例えば札幌医大で(セミナー)されているときには企業が協力をして、内視鏡の手術であれば、カメラのデモ機を持ち込んだりとか、そういう形で協力をしているので、個々のサージカルトレーニングにおいては、利益相反をきちんと公表すれば、利益相反がもちろんあってもかまわないというように、確かガイドラインはなっていると思います。なおかつ大学で、それは十分問題がないかどうかということを検討して、オーケーを出すというような道筋になっていると思うのですけれども、先生の発表では、それを全部包括するのに国の仕組みが必要だということなのでしょうか。個々には全く問題なく実施できるのではないかなと思うのですが。
○鈴木(千葉大) まず、実際デモ機を借りてきたりとかというのも、無償でどこまでできるのかというと、通常、有償のほうが普通だと思います。今の医療機器の規約は、立合いが1回までとかいろいろ変わりましたね。あれを作っている所に電話で聞いたのですが、無償で貸してもらうのはオーケーなのですが、それは1か月以内というルールがあるらしいのです。ただ、例えば1つのメーカーから関節鏡を4台持ってきてくれるというのはなかなかないです。実際使われている千葉大では、4つのメーカーから全部ばらばらに借りてきて、それぞれ3人ぐらいずつ人が来て、先生たちと同じぐらいの数の業者の人たちが周りにいるみたいなケースもあります。
 あとは、消耗品ですが、今の段階だと、千葉大で開催する先生が言うと、タダで、デモですがというような形で持ってきてくれますが、それも業者の関連の規約の所に聞いたところ、金品の授受に当たる可能性が少しあって、2月の下旬に会議にかけてもらって聞いてもらうことにしています。金品の授受に当たるとすれば、メーカー側の主張としては、奨学寄附金をドーンと大学の医局に入れて、それで消耗品を買ってくださいと、それが一番フェアだというようなことなのです。
 そうすると、各大学の臨床講座がある業者から100万、200万、300万というお金を預かって、それをまたその会社のためにやるのですけれども、一般の人から見たときに、どう見てもそれは御遺体を使って何かやっていると思われる可能性はあるとは思うのです。臨床の先生は割り切る可能性は十分あると思うのですけれども、割り切ったときに、サージカルトレーニング全体のイメージが悪くなる可能性が少しあるなと。無条件で金額がどんどん上がる可能性がありますから。それを考えたら、何とか、もちろん業者からお金を預かって何かをするというのは、最終的に必要だと私は思っているのですけれども、各大学に任せていると、どこかで何かトラブルが起こって、サージカルトレーニング全体に悪影響が出るのではないか。それは何か国で文書化するか、何かでルールを作って、「それに則っています」と各大学で言えれば安心なのですが、ちょっとそこが心配です。
○近藤座長 この問題、結構大事なところではあると思うのですが、ここで議論を始めますと時間が足りなくなってしまいますので、後ほどに回したいと思います。どうもありがとうございました。
 報告のほうを先に進めさせていただきます。次は東京医科大学の本間先生、よろしくお願いします。
○本間(東京医科大) 東京医科大学救急医学の本間でございます。よろしくお願いいたします。
 初めに、配布資料に若干変更があることをお許しください。カテーテル手術等の保存的療法が主流となった今日、従来の体幹・四肢切開による外傷手術件数は減少しています。しかし、従来法手術でなければ助けられない外傷例は存在し、対応できる外科医の必要性は続いているにも関わらず、外傷手術を得意とする医師は多くありません。以上により外傷手術に対応できる外科医・救急医の養成が必要とされていますが、若手医師に充分な手術教育の場が与えられていないのが現状です。海外先進国でも状況は同じで、解決策として献体を用いた外傷手術トレーニングコースが開発・施行されています。
 我々は海外献体コース、DSTSを受講後、人体構造(解剖)学講座との協同で、2007年より学内関係者向けの解剖、研究会を開催してまいりました。2012年に、「臨床医学の教育研究における死体解剖のガイドライン」が公表されたことを受け、本研究会がガイドラインに沿ったものであるかの確認作業を行いました。そして、同年、平成24年度の本事業の委託事業者に応募・選定され、学外参加者も対象とした研究会を施行しました。
 「受講対象」は主に外科専門医を習得した医師経験年数10年目前後を意識しました。「受講料」は無料とし、受講生は日本救急医学会ホームページよりの公募、外科医と救急医で構成されるAcute Care Surgery学会評議員所属施設からの推薦、指導講師(本学、他学)による推薦で決定しました。
 「平成24年度の研修参加者概要」を転記します。計5回の研究会に対し、受講生60名、見学者11名、講師スタッフはのべ40名でした。実施は参加前のアンケート結果から、受講生の経験度レベルに応じて3つのグループ分けを行いました。計60名の参加者がいましたが、Aグループは上級者として計25名、Bグループは中級者として計21名、Cグループは初級者として計14名の参加者となっていました。
 受講生の評価には全21項目の手技に対して10段階の自己習熟度評価を使って、研究会の参加前と参加後で、どのように変化するかを検討しました。これは「輪状甲状靱帯切開」に対する具体的な参加前の質問シートですが、各手技に対して全く出来ないを0点、経験者が助手なら出来るを5点、一人若しくは初期研修医レベルの助手でも出来るを満点の10点として回答してもらいました。このように○を付けてもらうわけです。
 これが実施をした全21項目です。「基本手技」として、輪状甲状靱帯切開と胸腔ドレナージ術に始まって、左開胸術大動脈遮断をはじめとする「胸部外傷」に関する手技、「血管外傷」に関する手技、「腹部外傷」に関する手技、「四肢外傷」に関する手技、「下腿コンパートメント症候群に対する筋膜切開術」からなっています。
 これが具体的なスケジュールです。献体はホルマリン固定献体です。まず、午前中に基本手技と胸部外傷手技を行いました。各セッションの前には、スライドによる簡単な講義を行っています。午後は血管外傷後に、腹部外傷を行い、最後に下腿筋膜切開術を行いました。
 研究会の風景を提示します。
 受講生には研究会後に参加前と全く同じ自己評価質問を行いました。こんなふうにシートに○を付けてもらいました。研修終了半年後にもメールでアンケートを送付し、同じ質問をしています。そして全21手技項目に対して、研究会の参加前後、半年後で自己評価点数がどのように変化したかを比較検討しました。
 これがその結果のグラフです。検定は3群間の分散分析法で行っています。全60名の受講者の全21手技項目に関しての自己評価平均点は、受講後に有意に上昇していました。また、この上昇は半年後も保持されていました。
 次に経験度によって3つに分けたグループ毎に見た評価ですが、中級、初級ともに確かにその平均点は異なりますが、受講後に有意に上昇し、半年後も保持されています。また、特に中級グループでの上昇が顕著でした。上級グループでは、受講前の点数が既に高いために、受講後半年後に有意差は出ませんでしたが、その平均点は上昇していました。なお、昨年度の事業報告書では、半年後の結果が出ておらず、受講前後の2群間のみを検定しましたが、それでは上級グループでも有意差は出ております。
 アンケートの自由回答では、一般外科医、救急医が経験することの少ない、胸部外傷・血管外傷修復手技において、特に献体研修は有用であるという回答が多かったです。これを裏付けるものとして、胸部血管外傷手技に関する自己評価平均点は、全グループにおいて受講後に有意に上昇し、半年後も保持されていました。半年後に行ったアンケートでは、受講者より研修が実践で生かせたとの声も多く寄せられています。スライドにはわざわざ具体的症例まで付けて送ってくれた受講生の返信の一節を転記しました。なおこの転記に関しては本人の許可を得ています。献体研修で手技に対する自信を得たとし、定期的献体トレーニングの必要性を述べています。
 「総括」です。研修後、受講生全体で、全21手技に対する自己習熟度評価平均点は上昇しており、この評価は半年後も保持されていました。研修の効果は参加者のレベルを問わず認められましたが、特に中級レベルの外科・救急医で顕著でした。具体的な臨床手技としては、一般外科・救急医が経験することの少ない、胸部外傷修復手技や血管外傷修復手技において、特に有用であるという回答が多かったです。
 「事業の課題と解決法」です。まず、受講生との連絡や事務処理が煩雑で、これは研修を担当する事務員を雇用することで対処しました。また、献体準備や解剖実習室の後片付けの補助や、献体者の御遺族対応等を葬儀業者にお願いしました。これは人体構造学(解剖学)講座の負担軽減は当然ですが、御遺族様にも好評でした。
 「今後の課題と関係者で共有すべき参考事項」です。献体によるサージカルトレーニングは明らかに有効ですが、まだ世間的に認知されていません。これらの啓発はどのようにしたらよいでしょうか。ガイドラインは発表されましたが、やはり「医師による研修目的利用」を銘記した法的整備が必要だと思います。献体サージカルトレーニングの定期的開催には、人体構造学(解剖学)講座の協力は必要不可欠です。しかし、準備や遺族対応を含め、これらは大きな負担となります。如何に負担をかけずに開催をするかが、本事業を広げていく大きなポイントだと思います。
 最後に、平成25年度の事業状況の途中経過ですが、全10回のうち7回までが終了しています。以上です。ありがとうございました。
○近藤座長 どうもありがとうございます。この御報告に対して何か御質問などございますか。
○七戸委員 学会とリンクしてというか、学会のホームページで公募したりしているのですが、実際に公募される方と受講できる方のギャップというのはありますか。全員受講できるような状況なのですか。
○本間(東京医科大) まだこの事業は始まって間もないということと、興味本位とか崇高な目的を持っていないで受講される方を防ぐために、ハードルを高くしています。具体的に言いますと、救急学会の専門医と外科学会の専門医の両方、ダブルの専門医を持っているというような応募条件を付けることによって、結構これが高いハードルになって、応募者は意外と少なかったです。応募された方は全員採択いたしまして、やはりそういった意気込みで受講される方々の意欲は非常に高くて感銘を受けました。
○近藤座長 ほかによろしいですか。
○内山委員 献体の実務以外に、解剖のスタッフが関与している所はどこにあるのですか。
○本間(東京医科大) まず、解剖のスタッフと一緒に、年数回の白菊会の会合において、このサージカルトレーニングの必要性に関してお話をして、私もそれに出席をしております。定期的な会誌もお配りして、その報告をしています。それから、遺骨返還式等で、実際に遺骨をご遺族にお返しするときに、このような成果が上がったことを報告させてもらっています。
○内山委員 こういう内容に関しても会合のスタッフの間でディスカッションというのはかなりありますか。
○本間(東京医科大) かなり、これは密にやっておりまして。
○内山委員 先ほどの千葉大もそうですが、実際に白菊会という今の献体法の元で動いている組織から独立して、違う組織を標榜するということを望んでおられるのですか。先ほどのお話を聞いていて、ガイドラインを確実に施行するのはかなり危ういですね。その辺はどうなのですか。後でこの点について、問題になると思いますが。
○本間(東京医科大) 私の個人的な見解ですけれども、解剖学教室に専任のスタッフを組み入れることによって、現行システムの、いわゆる医学生の教育を目的として使っているような、カテゴリーの中に一緒に入れてやっていけるのではないかと思っています。
○近藤座長 後でまた議論いたしましょう。よろしいでしょうか。それでは、次に進みたいと思います。
 次は岡山大学の武田先生、よろしくお願いします。
○武田(岡山大学) 岡山大学では、昨年度と今年度、実践的な手術手技向上研修事業に参加しました。昨年度の結果です。整形外科、呼吸器外科、歯学部補綴科、消化器外科、耳鼻科、麻酔科が臨床応用解剖を行い、トータルで112名の参加者がありました。その多くが学外の参加者でした。
 アンケート結果を示します。「わかりやすかったか」「他の人に受講を薦めるか」「毎年継続すべきか」、5段階評価で5点満点です。ほぼ全ての項目において満点に近い結果をいただくことができました。昨年度、大変好評で評価がよかったものですから、今年は全部で7つの診療科が参加しています。現在進行中ですが、今年度は225名の参加を予定しています。
 今までの「運用上経験した課題と解決策」を示します。まず、私は麻酔科医ですが、麻酔科では、エコーガイドとかの神経ブロックを行うことがあります。そのエコーガイドの神経ブロックで、エコー画像が、一体解剖上何を示しているのかを大変私たちは知りたいのですが、ホルマリン固定をした御遺体にはエコーのビームが入りません。そこで、今回私たちは、Thiel法によるSoft fixationを採用しました。Thiel法でも最初の1か月ぐらいはビームが入るのですが、1か月以上経つとだんだん表皮が硬くなってビームが入らなくなります。その場合は、解剖前日に、4~10Lの生理食塩水を輸液することによって皮膚が柔らかくなってビームが入ることができました。実際のこれが映像を示します。内転筋群を示しているのですが、上から長内転筋、短内転筋、大内転筋と、ほぼ健常者と同様のエコー画像を得ることができました。これによって、エコーガイド下の神経ブロックの臨床応用解剖を行うことが可能となりました。
 次の問題点は、臨床応用解剖実習の指導者の確保が困難だったことにあります。例えば、麻酔科は参加者72名の会を開催します。そのときには、解剖テーブル12台を使用するため、各テーブルに1人の指導者と前段のスーパーバイザーを考えると、12名から18名の指導者を確保する必要があります。なかなか、臨床医でなおかつ解剖に詳しい人をこれだけ集めることは困難です。
 そこで、私たちは、2009年からパナソニックと一緒に解剖映像のデータベース化を進めています。そのデータベースを使うことにしました。今、写真でお見せしているのが実際の解剖実習室ですが、各解剖テーブルに3Dディスプレーを設置しています。これは拡大図です。各テーブルの頭側に3Dディスプレーを設置して、そこに3D映像を投影しています。両脇に神経ブロックのためのエコーを設置しています。こちらが実際の映像です。今日は2Dですが、この映像では、このように自分の見たい方向から、そして拡大、縮小しながら自分の見たい深度で見ることができます。レイヤー毎に自分の見たい方向から見たり、それが何を示しているのか、ラベルを見たりすることができます。一種の解剖のシミュレーターでもあるわけですが、こういう物を使うことによって、決められた短時間で見たいものを確実に解剖することができるようになりました。
 次に、今後関係者で共有すべきと考えられる課題について述べたいと思います。
 まず第1に、ほかの先生方も言われていましたが、「継続的運用に必要な透明性の高い経済基盤」を構築する必要があると考えられます。例えば消化器外科は内視鏡手術の臨床解剖を行いますし、整形外科の先生は人工関節を用いた臨床解剖を行います。こういう低侵襲手術では、そういう医療機器は大変高価です。なおかつ、そういうものを購入しても年々新しい機械が開発されています。古い機械を使った臨床解剖の実施をしても余り教育効果は上がりません。今回の実習でも、我々のほとんどがお金とかそれら労力はこういう機械を集めることに費やされています。また、Soft fixationそのものもコストは高く、全体としてお金がかかる形態となっています。今現在、臨床応用解剖はこの補助事業で全て賄われていますが、将来的には、受益者である参加者もしくは企業による産学連携、こういうものが必要になると考えています。
 この産学連携で特徴的なものを示します。フランスの財団(IRCAD)というのがあります。この財団は、もともとコンピュータを用いた最先端医療システムの教育開発を目的に、1994年にフランスのStrasbourg大学で作られた産学連携の教育研究機関です。現在のスポンサーはSPORTとCOVIDIENです。彼らこのIRCADというのは、フランス本国だけではなくて、台湾とかブラジルにこのような巨大な組織を作っています。実際、台湾のIRCADを訪問したときの写真です。広いフロアーの中に10台以上の手術用解剖テーブルが並んで、それぞれの解剖テーブルにSPORTやCOVIDIENの最新鋭の機械が全部付いています。中には、まだ発売されていない開発段階の新しい機械もあります。 
 なぜ彼らはそのような投資をするのか。まず第1に、自社製品を用いた最先端の医療技術を発展途上国に教えることによって、長い目で見た営業利益があります。そして、そういう国々において必要とされている医療技術を彼らが知ることができます。また、未承認の医療機器を評価できたり、新しい医療機器を開発することができます。こういうことで、フランスではそういうメーカーが参加して産学連携が行われています。これは産学連携の典型例ですが、1つの方向性を示していると私は考えています。
 次の課題は「粉塵対策と感染対策」です。臨床応用解剖では、特に歯科では、骨組織を製作することがありますが、解剖実習室の排気装置はそういう物を除去するようには設計されていません。また、Soft fixationは、ホルマリン濃度が低いためウイルスや細菌がどこまで不活化されているか、そういうものを検証されたデータを私は知りません。そういうことを参加者に説明して、ゴーグルとマスクを配布して使用を推奨していますが、こういうもので対策が万全なのかは今後いつか検証が必要であろうと考えています。
 最後に、「手続の標準化」です。岡山大学では、今までの正常解剖の同意に加えて、生前同意を「ともしび会」の会員全員に配布して同意をいただいています。そして、臨床応用解剖専門委員会という学内組織を立ち上げて、委員長、大塚先生の下に各診療科が参加して、その年の臨床解剖のプロトコールを策定しています。そのプロトコールを学内の倫理委員会に提出して了解をいただいた後に、実際に臨床解剖を行っています。例えば、この手続の中で、各大学によって生前同意の文書が違うと思うのですが、その中で必要なキーワード、学内組織では、これは最低限必要なのだという、そういうクライテリヤ、そういうものを標準化することによって、より確実で簡潔な手続ができるのではないかと考えています。また、そういうものがある程度クライテリヤを超えたものに関しては、各大学ごとの倫理委員会で評価をいただくのではなくて、例えば解剖学会の倫理委員会等で包括的な評価をいただければ、より簡潔にできると考えています。以上、ありがとうございました。
○近藤座長 どうもありがとうございます。何か御意見とか御質問はございますか。
○内山委員 感染の具体例は何件ですか。
○武田(岡山大学) いや、感染の具体例はありません。
○大塚(岡山大学) ちょっと補足。別に感染の具体例があるわけではないけれど。総合遺体の。
○内山委員 黴ですか。
○大塚(岡山大学) いや、黴ではなくて、時間的に長く観察していると、腸管が膨らんできたり、あるいは自己融解を起こしたとか、こちらの技術がまだ試行段階で、未熟だったせいもあるかもしれないですが。
○内山委員 時間はどのくらいですか。
○大塚(岡山大学) それは1週間とかそれくらいのレベルで、それまでの時間は既定の部分では取っているのですが、酵素活性そのものが完全に不活性化されてはいなかったのではないかという推測をしています。ですから、蛋白が本当に不活化されているのかどうかは、ちょっと怪しいなというのが私の印象です。
○近藤座長 よろしいですか。
○内山委員 はい。
○近藤座長 それでは、最後、愛媛大学のプレゼンをお願いします。
○松田(愛媛大学) 愛媛大学の解剖学の松田です。よろしくお願いします。2年間の支援をいただきまして、どうもありがとうございます。
 まず、現状報告からいたします。平成24、25年度をやっていますが、開催をしている講座は9講座から15講座に増えました。外科講座です、産婦人科以外の外科講座が全部入っています。それからナンバー講座、一、二、三内科が入っていまして、あと歯科が入っていて、多分これ以上は増えないだろうと思われます。開催回数は年間31回です。5か月の土、日曜の中で使える日にちが34日ぐらいしかありませんので、ほとんどマックスに達しています。平成24年度から平成25年度は学外参加者が倍増しました。学外の参加者は、中四国以外に京都、大阪、神戸、横浜、それからメッカの札幌医科大からも来ていただいています。四国ですので、四国4県の大学を集めたこういうセミナーを盛んにやっています。数講座がこれをやっています。
 これで得られた結果ですが、たくさん書いてありますが、まず一般外科です。省略させていただきます。これがマイナーの外科です。それから、内科系はカテーテルとか内視鏡です。これがちょっと面白いと思うのですが、臨床医の研修にこういうシミュレーターを持ち込んで、それと同時に、これをやった後にCadaverを使ってやるということで、研修医の間では非常に高い評価を得ています。あと、(歯科が)インプラントとかを中心にやっています。2つ資料があると思うのですが、1ページの下のほうに全部まとめて書いてあります。これは「止血以外の全ての臨床手技の研修に使用できる」ということで、ほとんど9割以上の人が非常に有益だったと、1割ぐらいの人が有益だったということで、有益でなかったという人はゼロでした。それから、実際の手術手技よりも役立つとあって、時間の制限、それから手術失敗のリスクがないことでしっかりできるということです。ベテランの先生方からは、新しい術式の開発ができて自由にできるのでいいということです。さらに、普通の手術では切ってはいけない部分を、更に進めて削除して確認をしたりということもできるというコメントもありました。
 それから、今後、これが増えてくると思われるのは、手術チームが実際にカンファレンス室で手術のシミュレーションをするわけですが、その後で、手術手技研修センターのほうに来て、そのチームでシミュレーションを行うと非常に手術が早く完璧にできることを聞いています。
 「3 事業の立ち上げ等での課題と解決策」です。これはガイドラインに沿ってやったので非常にスムースに行っています。役員会、総会、それから地区懇談会3回で白菊会の会員に説明を行って、計5回の説明を行った後に全員に同意書を配布したら、今のところ900名の同意が得られています。十分な数だと思います。あと、専門委員会を立ち上げ、倫理委員会には各講座が責任をもって個別に申請する方針を取っています。
 施設としては、臨床解剖実習室という、実習台が4台ぐらいしか入らない部屋を使おうと思っていたのですが、これはちょっと狭すぎました。どうしても学部生の解剖実習室を使わなければならなくなったわけですが、ここは感染対策ができていないのでどうしようかということで、一番大きなブレークスルーとなったのが、今日も来ている札幌医科大学の藤宮教授から、3年前の解剖学会でThiel法が非常に優れていると聞きまして、これを取り入れたところ、非常に効果的でした。今は全御遺体、これを使っています。
 感染対策です。まず、同意書のある御遺体が入ったら、血液を採取して、迅速血液診断を行います。同時にThiel固定を始めていますが、検査の結果、感染があることが分かれば、すぐに従来のホルマリン固定液で再固定をして別のほうに使います。無感染であればこの研修に使っています。あと、放射線取扱い、これはCTとCアームを使うので解剖の技官が国家資格を取得しています。
 あと、この厚生労働省の研修事業に関してですが、効果としては、何よりも厚生労働省、国からの支援があるということで、これが錦の御旗になっていて、事業に対して非常に慎重派の方の説得の拠り所になっています。講座を増やす1つの方法として、ちょっとやってみたいという所にもすぐに最低20万円の分配をして確かめていただいています。それで途中で止めた講座はありませんでした。備品に使用できないことが最初困ったと思ったのですが、むしろよかったと思います。実際に購入するとなると、やはり中古でも200万円とか300万円する物が多いので、そういう所に使ってしまったら、多分一部の講座にしか行かなかっただろうと思われます。規模は解剖実習室程度の広さがやはり必要であると思っています。御遺体は非常に不足しています。入会制限を撤廃したが、未だに10体ぐらい足りません。今、私がこれをいろいろ効率的に分けてやっていますが、なかなか大変です。
 今後の課題です。一般公募をした場合に外からの応募はほとんどありませんでした。そこで、臨床各科での受入れを推進するために、学外の参加者を受け入れた場合にはその旅費等は別枠で上限なしで分配する方針を取ったところ、学外の参加者が倍増しています。 あと、御遺体のCT撮影、これは倫理委員会で許可を取っています。ここが問題なのですが、student doctorに手術手技に参加させてほしいということがありますが、これに関しては、後で御議論をお願いしたいと思います。あとは、ほとんどの土、日曜に技官と教員が出勤しています。
 最後、手術手技研修センターです。これを12月に開所したら、驚くほどの報道陣が入ってきました。これはCT室と法医学剖検室です。何度も説明しましたが、もともとこの臨床解剖実習室は70平米ぐらいのものでやろうとしていたのですが、どんどん増えてくると、やはり学部学生の解剖実習室を使わなければならないということで、もう全部をセンターとして使用しています。なぜかというと、30台ある実習台のうちの20台ぐらいを使って研修をしなければならない状況になっています。以上です。ありがとうございます。
○近藤座長 ありがとうございます。いかがでしょうか、何か御質問ありますか。
○北田(東北大) ちょっと教えていただきたいのです。「御遺体から血液を採取して、迅速診断」ということですが、これは何に関する疾患ですか。
○松田(愛媛大学) 1番は肝炎と結核とエイズです。
○北田(東北大) その3つですね。
○松田(愛媛大学) 3つだと思います。詳しいことは臨床の先生でないので。多分セットか何かがあるのではないかと思いますが。
○北田(東北大) そうですか、ありがとうございます。
○近藤座長 ほかによろしいですか。いろいろと問題点を挙げていただきました。松田先生、どうもありがとうございます。
○松田(愛媛大学) ありがとうございます。
○近藤座長 それでは、少し時間も押しておりますので、続けてフリーのディスカッションに入りたいと思います。本会の目的は、実際に研修を行っていただいた施設からご発表をいただき、問題点を提示していただいて、さらに御意見もお聞きして、今後このような仕組みの普及等に役立てていきたいということがありますので、ある程度問題点を整理して議論をしなければならないと思います。
 問題点をいろいろ挙げていただきましたが、ガイドラインのこと、それからやはり資金関係のことが大きいかなとは思うのですが、補助金の支給時期とか資金の裏付け、業者の支援の問題等ということもありました。そのほかには、やはり指導者の確保の問題、今お話もありましたが、感染症の問題。通常の学生実習室では感染症に対応できる設備がないという問題点、御遺体の数の確保の問題点、それから最後に、卒前といいますか、学生の研修に幅を広げられないかという問題。現在、学生の卒前教育には解剖実習という形で行われているわけですが。
 そこで、このような事業を実施した施設からその実状と御意見を伺うというのは今回初めてですので、はじめに、全体的なこととしてガイドラインについて議論を行いたいと思います。ガイドラインは2年前に作りあげ、それに則って実施していただくようにしているわけですが、これに則って行った結果、何かこういうところに不都合があるとか、あるいは、こういうことを改善したほうがいいのではないかといった、御意見がございましたらお伺いしたいと思います。
○鈴木(千葉大) ガイドラインで書いてある倫理申請の「個別に」という点です。報告書を出したときにも個別にやったほうがよさそうな返事をいただいているのですが、ガイドライン検討委員会の皆さんのほうには直接声は行かないと思うのであえて申し上げます。ほとんどの先生から何で倫理が必要なのかと、まずそういう次元の質問がきます。そして、倫理審査委員会のほうからも、なぜ倫理が必要なのかという質問を頂きました。私が最初の面談のときに、何が駄目なサージカルトレーニングなのですかと。
 強いて言えば、法律に書いていないという点を鑑みれば、御遺体をサージカルトレーニングに使うか否かという1点、あるいは同意書がある状態でというチェックがあればいいのではないかと思います。個々の申請は日時と主催講座と参加人数とやる手技が違うということが書いてあるだけで、もうほとんど同じ内容のものを全部申請していることになります。「何をもって駄目な申請になりますか」というのを倫理委員会のほうからも聞かれたのです。実際海外では、アメリカに留学している友達に聞く範囲ですと、まず御遺体に関しては、研究も教育も倫理は必要ないというものらしいのです。生きている人の不利益にならないための倫理審査だということなので、御遺体に関して、本人の生前同意さえあれば別に何でもいいのではないかというのが欧米の考え方のようです。それをイコールで日本に持ち込むのが厳しいのだろうなとはちょっと思うのです。札幌医科大学や慶応大学は、「後ろ盾が何もない状態だったので倫理審査をきちんと通してやった」と言われていたのですが、ガイドラインとかをせっかく作るのであれば、生前同意がきちんとあれば、あるいは、先ほど東北の方も言われていたと思うのですが、「サージカルトレーニングに言及していること」というのがきちんとガイドラインに書いてあるのですが、本人と遺族から同意があれば、個々のものは必要ないというようなことを明言してもいいのではないかなと。
 実際、個々の研修で違う内容になるのはCOIだけです。どの企業が何人来る、それは明らかにしておいたほうがいいと思っていますので、それはやります。倫理審査に関してはほとんど同じ内容なので、書類だけ増えてしまっている感じです。私は、いろいろな先生にこの書類もこの書類も全部書いてくださいとお願いしているのを、みんなになぜですかと聞かれるのがちょっとストレスです。「ガイドラインがそう言っているからです」としか答えられないのが現状です。
○近藤座長 ガイドライン上ではそのように定めましたが、倫理審査につきましては、個別ではなくシステム全体としての承認で十分なのではないかという御意見かと思いますが、いかがでしょうか。
○北田(東北大) 確かにそういう(簡略化できないのかという)声はあるのですが、私たちの倫理審査委員会に審査申請書を出す前に、確認をしないといけないのはお金の流れです。この部分は、倫理審査委員会が一番気にするところです。今回は補助金ということで資金を頂きましたが、各診療科の予算については、運営費交付金であったり、あるいは寄附金であったりとかいろいろとありますから、そういうものについてのお金の流れはどうであるか。例えば業者が何名来る、どういう形で入ってくる、そのときに無償で労働力を提供するのか、(機器の)レンタル(に付随する)という形にするのかとか、そういった部分に倫理審査が関わってきて、ちょっとこれでは詰めが甘いとなった場合は、利益相反マネジメント委員会のほうに返して、そちらのほうで審議して、オーケーとなったものをもう一回倫理審査するわけです。ですから、非常に手間も時間もかかってくることとなります。それで、私たちは3か月前以上に専門委員会のほうでまず審議をしています。
 ですから、倫理審査は、確かに御遺体を使ってこれ(手術手技研修)を行うことの何が悪いという考えもあるとは思うのですが、お金の流れに関しては、やはり透明性を明らかにしていかないといけませんから、その意味でも、倫理審査は必要なのかなと考えています。
○近藤座長 ほかに何かありますか。
○松田(愛媛大学) 今の議論が実は大学の中でもあって、むしろ、倫理委員会の委員長である学部長から、一括で解剖学から出してくれないかとかいう話がありました。私はそれを断りました。なぜかというと、臨床の先生方は、御遺体を扱うことに対しての倫理的な考え方というのが非常に弱いと考えています。ですから、全科が、個々の科がやることを全て理解しながら、必ず倫理規定に基づいて行うべきだと私は考えました。でなければ、解剖学はとても責任をもてないと突っ撥ねて、全科に書いていただいています。以上です。
○近藤座長 ほかに何か御意見はございますか。
○小林委員 自治医科大の小林です。大変僭越ですがちょっと発言をお許しいただきたいことがございます。本事業のガイドラインの制定の流れについて、多くの先生方にその経緯を、一番コアになる所を分かってほしいのです。本来、ばらばらで日本で行われていたこのCadaverに関して、また社会的批判が起こるのも困るし、それだからといって、海外では自由に皆さん方はお金を払ってやっているという現実がある。今でもインターネットでその申し込みや参加者の感想がどんどん入ってくると、これは日本で何とかしないといけないという政策上の問題がございました。近藤先生(北大、故人)が班長になって、いわゆる委託研究の形で行われ始めたのです。そのときに七戸先生と私が委員に入っておりました。このCadaverを用いた医療技術トレーニングの我が国の現状の経緯について何度も議論があったのです。そのときに、日本ではこれを定着させるためには解剖学会の理解なくして進めないと結論しました。そして厚生労働省からの委託研究を修了し、学会レベルのガイドラインにしようということで、解剖学会と日本移植学会が協力して、学会ガイドラインを作りほかの科にも影響があるようにしましょうという流れだったのです。
 このような経緯の中で、若干ばらばらに行われているのを社会がきちんと受け入れられるように軟着陸させるにはどうしたらいいかという論議がたくさんあった中で、今回の先生方の発表を聞いても、どこの施設も遜色のないぐらい素晴らしいものをやっていると思いました。ですので本会議で、今あるガイドラインをどこかいじったほうがいいかというのは、これから変えていかなければいけないということでご理解下さい。包括同意に関しては、これまでの研究・教育に関する我が国のガイドライン等の倫理の中で議論がありました。例えば病理標本を取ったら遺伝子解析から何でも有りと言ったら包括同意ではいけないかと言って大騒ぎになっている時期でしたし、慎重に進んでほしいという経緯があったことを分かっていただきたいと思います。むしろ、本ガイドラインがあるから、先生方の事業が厚生労働省の委託事業の中でお墨付きをもらってやっていたということなので、ここでガイドライン論議よりも、実質的な経験からこうあって変えてほしいという意見が拝聴できればいいかと思います。その上でどうやって包括同意的にもって行ったらいいのかとそれともいけないのかとかの議論をご自身で提示していただきたいと思います。
 もう一つ特別研究班の時に論議になったのは、外傷学(トラウマトロジー)教育のことです。今回皆さま非常に慎重にやられています。専門医で非常に高い人でないといけないと言う点、初心者が単に技術を磨くために単純に穿刺針で突いたらご遺体に対する敬意としてはよくないのではないかとかいう論議がありました。皆さん非常に慎重にやられているのが私は現状だと思うので、さらにこう改善したらいいなという意見をいただきたい。近藤委員長が先生方に求めているのはこのような点です。口幅ったいようですが、御理解いただいて助言をいただきたいと思います。
○近藤座長 おっしゃるように、ここで議論をしてここで何かを決めようということではなく、皆さんの御意見を拝聴して改善できる点があれば改善していこうということですので、御意見をいろいろ言っていただいて構いません。倫理審査に関しては、私が関係している臓器移植、全く違う領域ではありますが、臓器移植の事例1件1件について倫理審査を行っています。先生のご意見と同じようなに、同じことをやるのだから包括的審査でよいのではないか、システムとしてきちんと倫理的にクリアされているかどうか審査されればよいのではないかなという考え方があります。私も同様な考えを持つものですが、しかしながら、世の中の注目度が高い時期というのは、体制が整えられていることを示すというか、それがかなり煩雑な作業になることは誰しも分かっていることですが、ある程度そのようなことをやっていかなくてはいけない時期というのが特に初期にはあるのかなとは思います。ご意見、参考にさせていただきたいと思います。ほかによろしいでしょうか。ガイドラインで、ほかに何かございますか。
○北田(東北大) ガイドラインの中では、確か「広く公募すること」という文言があったと思うのですが、これはなかなか難しくて、どなたかの発表にもあったと思いますが、実は参加者の質を保つというのは大変重要なことで、ちょっとこういう言い方は失礼ですが、医師にも人物として問題となる方がいないわけではなく、何をするか分からないような人も出てくる可能性があるということで、私たちは2点注意しました。1つは、公募をかけるときに、例えば今回整形外科の先生に出席をしていただいていますが、同門会からアナウンスして、例えば同門会に所属している人で、この人は大丈夫という担保が取れるような人をまず公募するのが1つ。もう1つは、参加の2週間前までに感染に関する同意書を取っています。何かの問題があって感染が後で判明した場合も、私たち(大学側)には責任がないことを明示する、というような同意書を取っています。その2点について担保を取っている次第です。
 実はもう1つ、守秘義務に関する誓約書も取っているのですが、それに関しては一部の診療科しか取っていません。今、医療に関わるような専門学校等、あるいは医学部の学生もあるかもしれませんが、ツイッターとかフェースブックで写真アップして、このようなことがあった、あのようなことがあったという人たちが学部学生でもいるわけです。これを医者がしないかどうかについては何の担保もないわけで、私たち解剖学教室としては、そういうことは絶対にしませんという守秘義務に関する誓約書を取りたかったのですが、専門委員会を作ったと言いましたが、その専門委員会の先生方、解剖の人間以外の基礎医学の教授が3名、臨床医学が3名という形で専門委員会を構成していますが、その専門委員会の中で臨床医学の先生方から、いや、医者は基本的には守秘義務があるのだから、そのようなものを取る必要はないと突っ撥ねられてしまったのです。ただ、私たち(解剖学の人間)としては、そういう誓約書を取りたいわけです。やはり、どういう方が参加されるか分からないので。ただ、突っ撥ねられてしまったので、診療科の各担当の先生方に、「(守秘義務の誓約書を)取れるようであればお願いします」とか、そのような言い方になってしまっているところです。ですから、その参加者の質と、ちょっと言葉は悪いですが、その担保というのも実は大事なところだろうと思うので、「広く公募すること」とガイドラインに書かれているのは、私たちは少し気になっているところです。
○小林委員 責任者・指導員は医師ですか?
○北田(東北大) もちろんそうです。もちろんそうなのですが。
○小林委員 入っていてもそれでも足りないということですね。
○北田(東北大) いや、結局、どういう人が応募してくるか分からないという点がありまして、その点がちょっと難しいのです。例えば、それがツイッターでアップされたと、こんなことをやりましたと、写真を出して、個人が特定できるような顔の所を出されたりしたら、主催者側としては、もうそれだけで次年度以降は中止とせざるを得なくなってくると思います。ただ、それは法に引っかかる部分であるのかないのか私たちは分からないのですが、そういう1人の軽率な行為だけで終わってしまうので、広くというのが少し引っかかるものになります。私たちは、独自に同門会からの案内であるとか、あるいは同意書等で少し担保をかけているところではあるのですが、なかなか難しい問題でもあるかとは思います。
○内山委員 先生の今の指摘は、今全国の医学部の解剖の先生方が常に持っている危機感で、現実に色々な所から問題が生じています。具体例は挙げませんが、本当に同じことが起こっています。同意書等は医者以外の人がもし入るようなことがあれば、なおさら絶対に取らなければいけないことだと思います。非常に重要な問題です。
 それからもう1つ、先ほど千葉大の先生が言われていましたが、外国の例についてですが、ヨーロッパは国によって違います。これは一覧表になっています。もう1つ、アメリカは州によって違います。それから、アメリカでハーバード大学の教育ですが、一般の学生とMD-PhDコースの学生で解剖実習のあり方が異なります。全米の中でも選抜されているMD-PhDコースの学生は、1体を2人で解剖しますが、一般の学生は、解剖実習に使われる遺体の数は少ないようです。これは、一体に要する経費が高価になっていることによるとのことです。アメリカで、なぜそうなったかということですが、遺体を扱う業者が入っていることによります。自由競争になっていることに基づいています。州によって全然値段が違いますが、それでもかなり高いのが現状のようです。それから次の基礎と臨床でリーダーとなる学生に対しては十分な投資をするのが、ハーバード方式です。ヨーロッパは、一般に教育にはお金がかかりません。サージカルトレーニングは積極的に取り入れて教育の一環として実施しているけれども、やはり一番困るのは、商業主義との関係であると、ヨーロッパの仲間が基本的に言っていることです。
 ですから、現在の日本で、サージカルトレーニングの現場にいろいろな会社が参入することは非常に難しいと考えます。この点、特に手術手技に関わる機器については、サージカルトレーニングを標榜する臨床サイドともっと討論する必要があるものと考えます。原則的には、リースが良いと考えます。しかし、現在の献体法の元に活動している各大学の組織(献体に関する団体)を維持することと、相容れない組織(企業の参入)を標榜することは解剖学会は望んでおりません。ボランティアの精神に支えられています。献体法を作るのに努力してこられた諸先輩やこれまで努力してこられた関係者の方々の努力が無駄にならないように、することが解剖学会の総意と思います。これまで、ガイドラインの作成に努力してこられた方々もそのように考えていると思いますし、このガイドラインを外しては、サージカルトレーニングの実施は困難であろうと、解剖学会の執行部も考えているものと思います。
○事務局 ちょっと補足だけさせていただくと、先ほど全国から広く公募については、私どもの補助金の交付要綱に、そのように記載させていただいております。
 その趣旨としては、私どもも予算の限りがありまして、全国でも限られた拠点的な所しか交付できないということでしたので、そういった意味で、その施設だけではなく、広く行われていれば望ましいのではないかということで、我々の補助金としての交付要綱の条件です。
○七戸委員 この件については、ガイドラインを作ってくる経緯の中では、配布の追加資料に全国医学部長病院会議の資料があると思いますが、この中で、医学部あるいは大学としては、こういった(サージカルトレーニングに対する)要望を囲い込むわけではなくて、地域のドクターに対しても、機会を与えるようにとの、趣旨があり、それを受けてガイドラインの中でも広く公募するという一文を加えさせていただいております。
 そのときにいろいろな経緯はあるのですが、先ほど先生がおっしゃられたように、解剖とは別な団体がこのような御遺体を集めたトレーニングするというような動きもあり、それは多分、いわゆる大学とは関係のない組織、私立の病院で中心にやられることになるので、大学があるいは医学部が囲い込むと、必ずや批判がくるのであろうということも、予測されました。全国医学部長・病院長会議でもワーキンググループが開かれて、こちら(日本外科学会・解剖学会)のガイドラインでよいけれども、広く公募するという趣旨を取り入れてくれと言われて、ガイドラインに取り入れています。
○事務局 ありがとうございました。
○七戸委員 あと、追加ですが、先ほどの(鈴木先生(千葉大)の倫理申請に関する意見で)包括的な審査か、あるいは個別な審査かという所に関しては、これもガイドラインを作る過程でいろいろ議論されていて、(ガイドライン委員会には)慶応大学も参加されており、慶応大学は、包括的な審査で動いております。今も恐らくそうだと思います。ただし、いろいろ事情が分からなかったり、ちょっと変わった方がされると、やはりおかしなことが起こり得るということであれば個別の審査が必要で、慶応大学とか、千葉大学に関しては、クリニカルアナトミラボ(CAL)というかなりしっかりしたものがあって、そこが中心になってやっているので、包括的審査でも構わないと思いますが、これから新たに始める場合には、それぞれの臨床科が事情を充分理解して始めなければいけないと思います。
 これは個人的な意見になると思うのですが、個別に倫理委員会以外の所で審査する適切な場所も実際にはないので、そこで審査していただくというのが、今の現実に合っていると思う。
○近藤座長 ガイドラインというものの性格上、そういう制約が結構あることは、ある程度仕方ないように思います。公募に関しては、そういった精神であるということを理解していただければと思います。
 ガイドラインの話ばかりになってしまいますが、ただ、この補助金上の事業の評価ということではやはり重要なポイントですので、ガイドラインについて、もし御意見等ありましたら、いつでも外科学会宛に御意見を頂ければと思います。
 そのほかにもいろいろ御要望や御意見がございました。今まで実施されてきて、お金の問題などいろいろあったと思います。今後継続して実施していくうえで、補助金医業により実施してきた経験から、こういうところが改善されるとよいのだがなど、改めて御意見を頂ければと思いますが、いかがでしょうか。
○北田(東北大) お金(補助金)が使えるようになるのが9月というのが非常に厳しいのです。いずれの大学もそうと思うのですが、結局そうなってくると、アナウンスをして実際に行うとなると、1月から3月の時期にまとめてワァーッとやるしか、もう打つ手がなくなってくるのです。
 この問題は非常に大きくて、というのは、お金(補助金が使用可能となる時期)が9月になりますと、「では、アナウンスします、やります」というやりとりがなされた後に各診療科が参加者の公募をかけるのですが、公募をかけるときには講師も確保しなければいけないので、(開催時期までの期間が短いので)おのずと休日に開催されることになります。休日に解剖学の教室の人間が出張って行かないといけなくなり、これが非常に負担になるのです。また、お金の使い方にしても、4月から8月までの雇用の人をどうするのかという問題もあります。結局、それ(補助金)が採択させるかどうかは分からないのですが、その人員を雇うためには、やはり解剖学教室からの持ち出しになっているのです。
 それから、当初ですが、採択になって、では、パソコンを買いましょう、プリンターも買いましょうと言ったら、それは備品ですから駄目ですという話があります。例えば800万の予算で、300万、400万の物を買うとかは、それはやはり難しい部分はあると思うのですが、そうではなく、プロジェクターやプリンターを1個買うのもできないとかの部分については、要するにお金の使い道として、備品は全て駄目というところの改善を考えていただければと。あとは、なるべく早い時期に公募をかけていただき、なるべく早い時期に採択し、お金を使えるようになる時期も早くしていただけると、休日開催に関してはなるべく平日にしてくださいということも言いやすくなることもありますし、また、雇用の部分に関しても手が打ちやすくなるので、なるべく早いアナウンス(公募)と採択をお願いしたいと考えております。
○事務局 現在は、予算の成立を待ってから公募の手続きをしておりましたので、8~9月にようやく事業が進むということだったのですが、今後は、予算が成立する前でもできる準備は前倒しでできるように調整をし、具体的には3月ぐらいから公募を開始して、予算の成立と同時にこの事業者の決定通知を出せるようにしたいと思います。
 予算の成立は、例年ですと、4月、5月ぐらいには予算が決まっておりますので、恐らくその時期に、各事業者に決定した旨を通知ができるので、それ以降、お金を使えるのではないかと考えております。
○北田(東北大) ありがとうございます。
○近藤座長 回答が出ました。
○内山委員 厚労科研ではできないの。
○事務局 厚労科研についても、決定通知は予算が成立してからなので、今回の事例も厚労科研と同じように内部審査の所を前倒しするものです。
○内山委員 昔から比べれば、かなり早くなりましたね。
○事務局 これも同じルートに乗せるようなイメージで考えています。
○本間(東京医科大) 公開レビューを見ると、一応、来年度も計画に上がっているようなのですが、来年度もこの事業の継続という方向ではあるのですか。
○事務局 はい。政府予算案は閣議決定がされて、現在、国会で審議されていますので、項目としては載っております。
○近藤座長 この事業だけではなく、ほかのものも秋口になってから採択結果が来たりすることも結構ありますが、今言っていただいたような改善をしていただけるということです。ほかに何かありますでしょうか。
○大塚(岡山大) 是非、継続してやっていただきたいというのがあれなのですが。
 それと1つ、予算の使途なのですが、解剖体を収集して保管、保存することは、多分、表に現れていないと思うのです。そこのところへの予算の使途は、この経費では賄えていないと思うのです。大体、我々、試算をすると、1体当たり搬送であるとか、火葬とかのもろもろの諸経費が、1体当たり、15万ないし20万程度ぐらいなものが掛かっているはずです。それはひとえに、部局の解剖体経費に食い込んでいることが現状です。それをこの手術手技研修の部分で食ってもいいのかという、そういう問題点は最初から感じております。
 これがもしも、いわゆる卒業教育で必ず必要なものであるという行政でお考えいただけるのであれば、そこの部分を一般的な部局の教育経費のところに負担が掛からないような仕組みというか、あるいは増額していただくとか、そのようなことを考えていただきたいと思っています。難しいのかもしれませんが。
○事務局 ちょっと細かい点は後で担当者から回答させていただきますが、いわゆる学生実習に使う分と、この実習に使う分の切り分けを整理していただき、この事業に使った分の費用補填については、上限額がありますが、支払われるように手続は可能なのではないかと思います。
○事務局 研修に掛かる経費、役務費という形で対象経費となっており、研修に御遺体の搬送とかの費用も、現在、こちらの補助事業で経費の対象となっています。
○近藤座長 経費として入れてよろしいということですね。
○事務局 はい。基本的にはそのような形で、個別案件はまた事務局まで相談いただければと。
○近藤座長 備品などのお話もありましたが。
○大塚 その行き違いがちょっとあるのかもしれないのですが、実際にそれを大学の中で経費をやり繰りをしようと言ったときに、それがうまくできるのかどうかの部分があると思うのですが、予算を付けている側からのロジックと、実際に運用している側のロジックが、うまくかみ合っているのかどうかという、そこの部分も。
○事務局 そうですね。先生方の思いと、また大学の経理の考えが違う場合もあるので。
○大塚 かもしれないです。
○事務局 また、そこは確認しなければいけない。
○大塚 ですから、その三者のロジックがそれぞれ微妙に違っていると、うまく予算執行が、しかるべきところへ、しかるべく使われないというそういうことが起こってしまうのではないかと。
○事務局 先に備品について、回答させてもいいですか。
○事務局 備品については、毎年公募をやっている事業ということで、毎年事業実施者が変わる可能性があるので、残るものを国の税金を使って買うということは、なかなか現状難しく、消耗品とか、運営に掛かる費用だけが補助対象になっております。
○北田(東北大) プリンターを1個買ってはいけないというところの解釈は。
○事務局 例えば備品、毎年実施者が変わる公募事業において何で残るようなものを買うのだと、後から実施者の方が監査されたときに困るのではないかということもありますし、補助対象は消耗品だけとなります。
○北田(東北大) 今、単年度でというお話がありましたが、結局、どのような形で続いていくのかというのが非常に問題だと思いまして、私の発表の一番最後に書かせていただきましたが、これが恒常的に続いていくのか、あるいはアナウンスがなくブツッと切られるのか、私たち分からなくて、切られた段階で多分、実施はもう不可能になると思います。そのときに費用負担をどうするのか、大学の機能として、医学部には(この事業が)必要なのだからやりなさいという形になるのか、あるいは、やりたければやればいいという形になるのかは分からないのですが、他大学、私もこの世界に入るまで知らなかったのですが、慶応大学や杏林大学であるとか、参加者に費用負担を求めてやっているということなのですが、私たち東北大、国立大学法人で、そのお金を参加者から取るためには規定を決めなければいけないという話なので、内規ですね。
 例えばサージカルセンターという形でブタ等を使ったものが、今立ち上がっているのですが、その内規を決めるのに1年半掛かり、その理由は、なぜその額になるのだという決定の理由を付けていかなければいけないということで、その点が非常に問題となっています。では、その場合、誰が面倒を見て内規を作るのか。解剖学の教員がやるとなると、私も全く別の研究活動をしていまして、(手術手技研修とは)全く関係のない研究活動ですから、研究・教育活動を行いながら(内規をつくるための実務にも携わる)となると、非常に負担が大きいです。
 では、例えばもうこの先は大学個々でやってほしいという場合も、これこれこういうものについては、この程度の負担額を求めるのは正当であるというような、ちょっと難しいと思いますが、そういったものを厚生労働省の方、あるいはガイドラインを作成した先生方等に少し考えていただければ、こちら(東北大学)でも、例えば内規を決めるときにやりやすいと思っております。
○近藤座長 厚労省というか、国として、どういう見通しでこういう事業を推進しているのかということですね。そこから先のお話は少し細かな議論になりますので別にするとしてはどうでしょうか。
○事務局 これは予算の性格上、事前予告なくというのは、当然あり得ることだと思っております。ですから、この事業について、私どもとしても、何が公益に資する目的なのかということをこの事業を通じてしっかりと明らかにしていかないと、たとえこの事業が継続するにしても、なかなか目的がはっきりしない中で難しくなっていくのかと思っております。
 また、更にこれが有効である、公的な目的にも達せるものだとしたときに、今は6施設でやっていますが、今後、いろいろな施設でやっていきたいのが増えてくる可能性があります。そのときに国が全てを支援するのか、若しくは一部の受益者負担も考えながら、この事業を継続的に回していく必要があるのか、ということも考えていかなければいけないと思っています。正に今回、第一歩として、これまでこういう評価の会議が全くなかったので、その点を今後、私どもとしては詰めていかなければいけないと思っています。
○近藤座長 例えば業者の支援を受ける場合でも、いろいろなやり方があるかと思います。実際に臨床研究などには相当な金額がある講座に流れ込むといったことは珍しいことではないのですが、ただ、そのようなことは利益相反をはっきりさせなければいけない義務がありますよね。
○北田(東北大) 難しい点としては、解剖学講座としては白菊会との折衝を全面で行っているという点があります。臨床口座にお金が流れて臨床研究をしている場合においては、別に問題はないと思いますが、白菊会の方々は無償で御遺体を提供しているのです。それについて、例えば10万円、5万円とかの参加費を取ることを納得していただけるかというのがかなり難しい部分がある。もちろん地域の問題もあると思うのですが、その点について、お金を取ることが、日本において全ては無理とは思いますが、広くコンセンサスが得られるかというのは、臨床研究とは全く違う点があると思います。
○小林委員 本ガイドラインを順守してCadaverトレーニングを継続して行うことに対する要望とともに、経費の継続性の運営に関して短時間で済むような問題ではありません。自治医科大学は生きた動物、ブタを使った医療技術トレーニング施設が設立されましたが、公的研究費で何億ものビッグセンターを建てています。研究費がある間は利用者になっている内部者は、安くブタを使い活発に教育・研究をしているのですが、これが入って来なくなるなり個人で研究費を取らなくなると、どうしても受益者負担という話になるのです。
 私からもう1点だけお願いがあります。事務局・厚労省のお話も含めて今後の予算組みの中で、ちょっとお話したほうがよかったかなと思う点がございます。大塚先生が言われるように、大学の学生教育は文科省の中からお金で運営されます。したがって大学付属の実験動物センターは、大学経費の中だけにぶらさがっているのが現実です。しかし付属病院で働く研修医の研修で、何で大学病院がそれを一生懸命やるのだと、何で病院が払わないのだという論議が、私どもの所に5、6年前からありました。医療安全や卒後教育と言う面で病院がお金を出しなさいという仕組みを作っています。そういうことの知恵を出し合えば補助金だけにいずれ頼っていられなくなる。料金をある程度設定しないと、先生が言われるように事業が継続せずせっかく良いことでも変な目で見られてしまう。これは無償の自らのご遺体を提供してくださっている白菊会の方々に失礼ではないかという論議を是非、活発化させてほしいと思います。
○近藤座長 いずれそういう議論は必要になってくるでしょうね。
○小林委員 是非、今回の先駆的におやりの先生方にも何回か足を運んでいただいて、その点をがっちりやるようなことを早目にやってほしいと思います。補助金が切れます、この事業をどうするの、みたいな話には決してしてはいけないと思います。
○事務局 分かりました。
○内山委員 非常に今の所が重要で、厚労省関係と文科省関係の両方に関わっています。というのは、先生が御指摘のように、どこの大学も同様ですが、教育者の育成はものすごく重要で、これは絶対に欠かせません。大学の教員の数を増やす、スタッフの数を増やすことは、個々の大学が独立しているわけですから、独自に進めなくてはいけないことですが、やはり文科省のサポートがあったほうが絶対的に有利です。技術員と同様に教員の育成はものすごく大事だと思います。そのような専門の人達がいたら、解剖教室はものすごく助かりますね。ですから、そういう意味では、臨床から独立しながら、なおかつサージカルトレーニングにタッチできる人材を学部教育の一環として育てることは重要です。解剖学教育と卒後教育の両者にタッチできる有能な解剖学者を育てることに解剖学会の中で反対する人はいないと思います。ですから、この点については、厚労省から文科省に働き掛けていただけたらすごく助かります。
 先ほどからの一番の問題は、将来的にある程度独立したというのは、このトレーニングの運営のためには、要するに、参加費が必要になるかどうかというのは各大学かなり違いますね。それの考え方や、委員長が言っておられるように、どこかでディスカッションしなければいけないと思います。その時に一番大事なのは、運営に業者参入させるのかということについては、先ほど言ったように、アメリカの現状を考えますと、非常に難しいと思います。というのは、企業が入ると、ボランティアの精神で現在運営されている組織が、壊滅状態になると考えるからです。 それからもう1つ重要な点は、このサージカルトレーニングを実施すると、大学に卒業生が回帰するだろうということです。要するに、大学で外科の研修、あるいは先ほどの内科も研修に参加することとなると、必要な人材である若い人たちは外の病院にでていますが、(今は大学に戻る傾向にありますが)その人達を大学に戻すことをもっと加速する可能性もあるということです。大学は、特に、臨床が中心ではありますが、もっとこの研修制度を推進するというか、自分たちの立場をはっきりさせて、人材を集めるということが、ものすごく重要なことだと思います。
○近藤座長 東北大で動物のトレーニングセンターを立ち上げたときも、先ほど小林先生がおっしゃられていましたが、教育をする対象が誰ということが問題で、医学部の学生が対象ではないのに医学部の中にそういう施設があるという状況から、誰が施設の管理をするのかということについて解決するのにかなり時間が掛かったということがあります。最終的には、先生がおっしゃられたように、東北大も病院で管理をすることにしました。卒後教育の一環となることなので病院が管理する形にしたのですが、そこら辺は議論を突き詰めていくと、それでは学生もその中に入れるとなるとどうなるのかなど、いろいろと細かな問題も出てきます。しかも、おっしゃられたように、医学部と病院は別々の管理になりますので、その辺をうまく調整してやっていくことが必要になってきます。現実問題として、こういった補助金がもし出なくなったようなときにどうやってこのような事業を継続していくのか、ということを今から議論をし、また、それぞれの施設でも考えておかなければいけないことではないかなと思います。
 この議論もし始めますとエンドレスになってしまいますので、こういう問題点がありますというを認識を共有していただくことで、本日のところはよろしいかと思います。
余り時間がなくなってきましたが、他にどうでしょう。
○鈴木(千葉大) あと、1点だけ。私もやっていくのに、附属病院の予算とかをうまく使っていかないと、厚生労働省の予算がなくなった瞬間に、日本からなくなってしまうということが危惧されます。最後は病院との連携なのだと思っているのです。
 先ほど言った医療機器業の規約を作っている所に問い合わせると、教育施設としての医学部に貸し出すのができるものと、病院、医療機関ではいけない縛りがかなりあるらしいのです。その機械を貸すから買うとか、病院として購入するとか、それのリベートになってしまうことになり得るので、医学部附属病院が経営母体になってしまった場合に、関節鏡なり、何か機械を貸してくれとか言った場合、問題ありますかと、ちょっと今はないのですが、将来あり得るのでと聞いてみました。医療機関だと途端に厳しくなりますよという話がありました。もし、それもまた、多分、どこかの大学が、うまく附属病院と話をまとめて、ポッと作ってしまったときに、途端にがんじがらめになってしまう可能性があるので、それも行く行く議論の中にうまく入れないと危ないなと思っています。
○小林委員 先生、そのことに私の知っている範囲で答えていいですか。
○近藤座長 はい。
○小林委員 公取法に反しない透明性の高い組織のことなのですが、私が言ったのは、病院側と大学側で協力にして、中間体を作ればいいと思うのです。鈴木先生が言われるように、公正取引法で、医療用機器の立合い、貸し出しも含めて、例えば立合いは2~3回以上は駄目と、公正取引法で決まっていると思います。これは販売促進のための人的資源提供としてコンフリクトしていることではないかと言われます。しかし、開発研究は違うレベルと思います。開発研究に携わった医療機器に関しては、その開発に携わった企業の方も、いい製品に仕上がるまで入り込む必要があります。このような透明性の高いNPOでは、貸し出ししてもいいというものをどう扱うのかなど、海外の例、ストラスブルグなど参考にすべき点が多々あります。
 私が言いたかったのは、そういう運営の方針というのは、結構いろいろな知恵があって、是非、文科省や厚労省も出てきていただいて医学教育という共通点で議論してほしいと思います。近藤先生には引き続いてこの委員会をやっていただくことが一番いいかなというのが僕の最後の発言です。
○辰巳(札幌医科大) これの火付け役になった札幌医科大学なのですが、2002年の事件があってからやってきたわけなのですが、そこでの経験は何かというと、ここまで皆さんにやっていただいて非常に有り難いのですが、無理されないようにというか、無理してやっていると、札幌医科大学の二の舞と言うと悪いのですが、心臓移植の件もあります。だから慎重になり過ぎたところもあります。問題の教授は辞めました。つらかったのですね。今、こういうような仕事をやっている方々が、世の中で評価されない。それで無理をしてやっていると、どこかでプッツンします。というので、皆さんにここまでやっていただいて、これから慎重に情報交換をしながら、ちょっと不幸なことがあると途端にストップになります。
 先ほど1つは、コンセンサスを得るというか、皆さん方があちらこちらでアピールを頂いて、1つは国民というか、大学というか、みんなにこれは必要なものであると、だから僕らがつらかったのは止まれなかったのですね。この後を引き継いで辞めるのも1つです。それも考えました。でも、白菊会の人たちはどんどんやれと言われるので、止まれない。止まるには理由がいるわけなので、では、やってよいかというと、それは慎重にやらなければいけないということで、こういう形になっております。
 いろいろな方の理解度が非常にまだまだ低いです。特に2008年に市民フォーラムをやったのです。これはちょっとやり過ぎかなと思ったのですが、700名以上入りました。それで初めて厚労省が心を動かして、近藤先生の前の先生の研究費が付きました。とにかく、あちらこちらからこれは必要だ、特に外科学会でも言ってほしいと思うのですが、解剖の先生に負担が掛かり過ぎるのですね。これが評価されて教授になれるのであったら、これまた、よしとするのですが、外科学会からも必要であるので、解剖の先生方も無理しない範囲の中で頑張っていただく。
 先ほどの御遺体の話は文科省と厚労省の話があって、多分、国立大学は解剖した御遺体について、先ほど言われた10万円か20万円の補助が付いています。ところがこういうのに付くかというと、ここは厚労省ですね。実は使った分だけ困ることなく文科省からその分を付けてもらったら、全然問題がないわけです。ところが、多分そういう理解になっていない。というので、それは今、チャンスなのでお話いただいて、実績だと思うのですね。これで本当に良いお医者が出来てくれば、最初はちょっと評価されないと思うのですが、絶対そういうときが来るかと思います。ただし、それは焦らないで、1つは僕らが法律をつくる方法もあります。そういうアイデアもありました。なくてもよいわけです。どちらでもよくて、うまいこと世の中が動く方向で、皆さん方で知恵を出していただいて、やっていただければよいかなと期待しておりますので、僕が火付け役として、変な方向に向いて爆発でもしてしまうと困りますので、いろいろな形で応援したいと思いますし、何かできることがあればと思います。
○本間(東京医科大) 最後に1つお聞きしたいのですが、このガイドラインができたわけですが、今後、死体解剖保存法の改定という方向には動かれるのでしょうか。そのことだけを確認したいのですが。
○事務局 これは、別に法律の改正を否定しているわけではないので、せっかくガイドラインもできまして、この運用状況を見ながら検討していく必要があるのかと思っております。
○本間(東京医科大) 分かりました。献体サージカルトレーニングに否定的な方々もいますので、ガイドラインというのは飽くまでもガイドラインですけれども、やはり法的に我々を守ってくれるものが必要だと、私は思っていますので、是非とも法改正に向けて動いていただければというのが、私の思いです。
○内山委員 これ、法律を動かさないというところがガイドラインの一番の重要なところです。そこの所を動かすようなことがあったら、先ほども言いましたが、恐らく解剖の諸先輩が昭和50年から続いた努力が無に帰することになります。なぜ私達がこれだけ必至になっているのかということを、やはり解剖に関わる人達がサージカルトレーニングに協力して、後継者を作らなければいけないと考えているからです。このことは「献体」がこれほどスムースに運営されている国は世界中で、日本しかないことを良く認識しているからです。そのことだけはよくご承知おきいただければと思います。
○辰巳(札幌医科大学) 法律が悪いというわけではなくて。
○内山委員 悪い、悪くないですよ。
○辰巳(札幌医科大学) 今、すぐは。
○近藤座長 その議論はとりあえず置いておきたいと思いますが、例えば実際に法律を改正するにせよ何にせよ、先程もお話がありましたが、まず、こういうシステムが世の中に認知されないといけません。そのうえで、こういうものが必要であり、今後も円滑に実施をする上で、もし何か変えなければいけないものがあるのであればそこで議論をするという、そのようなロジックで話が進みませんと、なかなかうまくはいかないのだろうなと思います。
 背景には無償で提供された死体を使わせていただくシステムだということがある、ということを考えてやっていかなければいけないのかと思います。
 本日は、いろいろな御意見を伺うことができて、非常に良かったのではないかと思います。先ほどのお話にもありましたが、無理し過ぎては確かによろしくない。皆さん、いろいろな情報をこういう場も利用して共有し、お互いのことを参考にしつつ、より良いシステムを作っていっていただければと思います。
 本日は時間になりましたので、これでこの会議は終わりにしたいと思いますが、また、来年度も続くことと思いますので、是非、皆様のお力添えをよろしくお願いしたいと思います。
 本日は、どうもありがとうございました。
○事務局 冒頭も申し上げたとおり、議事録については、皆様の確認の上で公表することとし、資料についても、皆様に確認をして頂き、公表していいものを公表させていただくという段取りにさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
 また、本日の評価については、後ほど文書で各大学に送らせていただきます。
 本日は、どうもありがとうございました。


(了)

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