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あさコラム vol.61
感染症エクスプレス@厚労省 2017年7月7日

別れは突然に

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 福岡県、大分県をはじめ九州地方の豪雨災害により被害に遭われた皆様と
関係の皆様、心よりお見舞いを申し上げます。
 被害が落ち着いた後の衛生状態によっては、感染症の発症も心配されます。
 ぜひとも、ご留意を頂けるよう、関係各位にお願いを申し上げます。

 さて、去る6月28日、埼玉西武ライオンズ・森慎二投手コーチが多臓器不全
で亡くなられました。
 享年42歳。
 3人のお子さんを残して旅立たれた無念さを思うと、あまりにも急で早すぎ
ます。

 現役時代はパシフィック・リーグの最優秀中継ぎ投手を2度も獲得している、
速球とフォークボールが自慢のリリーフ投手でした。
 メジャーリーグへの挑戦や独立リーグなどを経て、2015年(平成27年)から
埼玉西武ライオンズの投手コーチに就任。
 兄貴分的な存在として投手陣から慕われ、ライオンズのブルペンを支えてい
ました。
 現役のプロ野球チームのコーチの突然の死は、西武球団関係者に留まらず、
各界に大きな衝撃を与えています。

 報道によりますと、森コーチが右肩、脇腹に激しい痛みを訴え、福岡市内の
病院に緊急入院したのが6月25日。
 そのわずか3日後での訃報です。
 死因は多臓器不全とのことですが、ご遺族によると、この背景には「毒性の
強い溶連菌の感染による敗血症」があったそうです。

 溶連菌は「溶血性連鎖球菌」の略称です。
 このうち、A群溶血性連鎖球菌は、急性咽頭炎や扁桃炎、上気道炎、また、
発疹を伴う猩紅熱の原因菌として、小児を中心によく見られます。
 典型的な苺舌が有名で、昔は死亡することもある感染症でしたが、現在では
抗菌薬による治療により、適切に治療できるようになりました。

 一方、劇症型溶血性連鎖球菌によるSTSS(Streptococcal Toxic Shock
Syndrome;劇症型溶血性連鎖球菌感染症)は、突発的に発症し、急速に多臓器
不全に進行し、敗血症性ショックを引き起こす生命に関わる感染症です。
 感染症法上の5類全数把握疾患で、免疫不全など重篤な基礎疾患を持ってい
ない方でも、四肢の疼痛、腫脹、発熱、血圧低下などで突然発病し、非常に急
激に進行します。
 発病してから数十時間後には、筋など軟部組織の壊死、急性腎不全、成人型
呼吸窮迫症候群(ARDS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、多臓器不全など
を引き起こし、死に至ることも多い感染症です。
 その発症機序、病態生理は未だに不明ですが、この急激な進行ゆえに「人食
いバクテリア」という強烈な記述も見受けられます。

 医学の進歩により、様々な感染症に対して予防や治療が可能になりましたが、
それでも、このような突然の別れを引き起こす感染症が身近に起こるのも現実
です。
 ご葬儀では、森コーチのお姉様が、
 「本当に人はいつ死ぬか分からない。だから毎日を丁寧に生きていきなさい。」
 と、ご自身のお子さん、そして残された森コーチの3人のお子さんに話かけて
いたそうです。
 このお姉様の言葉、深く胸を打たれます。

 ここに、森慎二コーチのご冥福を心よりお祈りいたします。

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