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あさコラム vol.44
感染症エクスプレス@厚労省 2017年3月3日

八重山熱

 こんにちは、厚生労働省健康局結核感染症課長の浅沼一成です。

 コラムの感想メールをいただいております。誠にありがとうございます。
 直接お返事はお出しはしてませんが、連載の励みになります。
 これからも、どうぞよろしくお願いいたします。

 さて、私は平成29年(2017年)3月3日(金)、4日(土) に開催される「第4
回日経アジア感染症会議」の討議者として参加するため、このコラム発信
日には沖縄県におります。
 日経アジア感染症会議とは、グローバル経済の発展にともない、感染症リ
スクへの対応は一国にとどまらず、国際社会全体にとって看過できない喫緊
の課題となっていることから、国内外より感染症対策に関連する行政機関・
団体・学会など、産官学すべてのステークホルダーが一堂に会し、具体的か
つ実効性のあるアクションプランを提案するという会議です。
 日本経済新聞社が主催する年に一度の会議で、厚生労働省も後援しており
ます。

 今回の会議の目玉の1つは、昨年発足した「マラリアコンソーシアム」。
 近年、わが国で確認されるマラリア感染者は、外国で感染したいわゆる輸
入感染例ばかりですが、日本発の診断・治療・予防技術を、官民パートナー
シップ(public–private partnership (PPP))でグローバルに提供できるよ
う、このコンソーシアムが土台となり、検討に取り組んでいるところです。
 世界規模で課題となっている感染症のひとつのマラリアですが、今回の会
議で大きく取り上げることについては、個人的に感慨深いものがあります。
 というのも、会場となる沖縄県には、かつてマラリアが生息した地域があ
るからです。

 沖縄本島の南400km、石垣島や西表島などの八重山群島には、古くからマ
ラリアが生息しており、「八重山熱」という風土病として恐れられていまし
た。
 明治27年(1894年)、帝国大学医科大学の三浦守治教授は、明治政府の命
をうけて、三角恂助手らとともに八重山の風土病調査を行い、その結果が翌
年の明治28年(1895年)に「八重山群島風土病研究調査報告」としてとりま
とめられました。
 この調査の結果、この風土病がマラリアであることが判明、その後、住民
に治療薬キニーネが配布されるなどの対策が取られましたが、契機となった
のは大正10年(1921年)。
 「マラリア予防班設置規則」に基づき、マラリア予防班事務所が八重山島
庁内に設置され、翌年から、有病地域での定期採血や治療の推進、蚊帳の使
用や除草などの防あつ作業が始まりました。

 こうして、少しずつマラリアの感染が抑えられてきましたが、転機になっ
たのは第二次世界大戦時の昭和20年(1945年)。
 当時の軍部の命令により、マラリアが蔓延していた山間部や西表島等へ住
民の疎開が強制的に行なわれた結果、人口の半数を上回る17,000人がマラリ
アに罹患、およそ3,600人の住民が生命を落としました。
 沖縄本島周辺で非常に激しい戦闘が行われましたが、当時の八重山では島
民の皆さんの尊い生命を数多く奪ったのは、実は戦闘ではなくマラリアだっ
たのです。
 これは「戦争マラリア」と称される、悲劇的なアウトブレイクでした。

 終戦後、進駐・統治した米軍政府の支援のもと「八重山民政府衛生部」が
設置され、戦前から地元で活躍する吉野高善医師や大浜信賢医師、防疫監吏
の黒島直規氏らが衛生部に参画。
 アテプリンという治療薬によるマラリア治療の推進や蚊の分布調査などに
取り組み、マラリア根絶に貢献されました。
 このマラリア撲滅活動は八重山群島で確実に奏効し、昭和36年(1961年)
の西表島での感染を最後に終息しました。
 ちなみに、大浜医師はマラリアを媒介する新種の蚊を発見、新種蚊は「オ
オハマハマダラカ」と命名されました。

 沖縄の地において、アジアにおけるマラリア対策について官民共同の貢献
を考える場に臨むためにも、わが国のマラリア対策の歴史を学んでおきたい
と思い、今回、八重山群島を中心に調べてみました。
 三浦教授や高野医師、大浜医師、黒島氏らが取り組んだ堅実な対策とマラ
リア撲滅への想いを、21世紀の今、日本発アジアで展開できるように、「第
4回日経アジア感染症会議」では熱く議論をしてきます。

 ゆたさるぐとぅ うにげーさびら。
 (※琉球方言で「よろしくお願いいたします」)


竹富町史だより 35号より(新城 知子氏 提供)

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