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自己点検・自己評価カテゴリー、下位項目 「評価の考え方」と「点検」 資料(データ)
I教育理念・教育目的
 社会の変化に対応し、医療・看護に対する人々のニーズを満たし、質の高い看護を提供する看護師等の養成は、看護師等養成所の責任である。科学技術が高度化・細分化し、価値観が多様化するなかで、看護の質の保障をどのように担っていくかの意識のもとに、看護師等の教育は行われなければならない。これらのことを捉え、各養成所の教育に対する考え方、教育活動全般に関する指針を示したものが教育理念・教育目的である。
教育理念・教育目的を表示した文書
教育理念・教育目的がどのような考えから導き出されたかを記述した文書
1法的整合性と独自性
 看護師等の教育は保健師助産師看護師法、教育基本法、学校教育法、専修学校設置基準、保健師助産師看護師学校養成所指定規則(以下、指定規則)に基づいており、これらの法律を遵守する必要がある。
 一方で、養成所は、時代の要請、地域の要請を把握することによって、自養成所の設置の必要性、存在意義を常に意識化し、自養成所の個性や特徴を明確にもつ必要がある。
関連する法律との整合性を検討した結果について記述した文書
養成所の個性・特徴・建学精神について記述した文書
2教育理念・教育目的の意義と周知
 教育理念・教育目的は、養成所が担う社会的責任から、誰にでもわかるように明示する必要がある。学生にとっては学習活動の指針を示すものであり、教員にとっては教育活動の指針を示すものである。両者がそれぞれの目的達成の方向性を理解できるように、具体的で実現可能なものを表示する必要がある。さらに、教育理念・教育目的の評価にあたり、以下3〜5に挙げる項目内容についても十分に検討する必要がある。
学生及び教員が教育理念・教育目的をどのように認知し、学修及び教育活動に活かしているかを示すデータ
3看護専門職についての考え方
 看護師等は看護学を修得した専門職である。看護師等の養成にあたり、看護専門職に求められる専門性、自律性、倫理性、判断力、実践力についての考え方を明らかにする必要がある。同時に、看護の対象である人間、健康、社会(環境)をどのように捉え、看護をどのように捉えるかについても教育理念に明確に示さなければならない。看護の捉え方が教育課程の編成を決定し、教育の結果としての看護専門職の像を決定する。
看護、看護専門職、看護基礎教育をどのように捉えているかを記述した文書
4看護教育についての考え方
 看護師等を養成するための看護基礎教育において、どのような人材を養成したいかを明確に示す必要がある。看護師等の教育は、人々の健康の保持・増進に関わる社会的責任を担っているという認識に立って行なわれなければならない。さらに、社会に対し、看護の質を保証するために、どのような教育内容、教育方法、教育環境を整えているかを示さなければならない。
 また、養成所が設置されている地域において、養成所は地域の将来の医療の質を左右する看護師等の養成を担っている。さらに養成所は、単なる看護師等の養成に止まらず、医療に関する様々な情報提供や学習の場としての役割も期待されている。
 養成所は、設置者の理念の実現の場である。設置者の理念の実現をどのように教育に具体化するか、地域との連携をどのように図っていくのかも、養成所の方針として重要である。
5学習・教育観と学生観
 学習・教育の捉え方によって学生への関わり方は異なってくる。学生は自ら学ぶ存在、一人の人として尊重される存在である。学生が自己教育力を身につけ、自ら積極的に看護を追求していく姿勢を育成することが重要である。また、社会人学生の増加傾向を考えると、個々の背景を尊重し、学生の多様化に対応することも必要である。
 学生が自ら学ぶことを支援するためには、学習環境(物的・人的環境、特に教員・職員)を整えることが大切である。つまり、教育理念・教育目的の実現を可能にするためには、学習環境の整備が重要であることを意味している。具体的に、誰が、何を用いて、どのような方法で教育理念・教育目的の実現を可能にするかを検討し、明示する必要がある。
学習者である学生の捉え方について記述した文書
学生の学びを支援するための学習環境(特に教員・職員)について記述した文書
6教育理念・教育目的の評価
 教育理念・教育目的は固定されたものではなく、継続的な改善を前提として設定されなければならない。社会的ニーズ、学生の背景は常に変化し、看護学も学問的な発展をしている。時代を担う看護師等を養成するために、それらの変化、発展の方向性を把握・分析・解釈した上で、教育理念・教育目的を評価することは必須のことである。  評価にあたっては、卒業時における学生の教育目的の達成状況が指標となる。教育の結果をどのように評価するのかについてのの考え方、具体的な方法を示し、効率的、効果的な評価計画を示す必要がある。
<点検>
教育理念・教育目的は自養成所の教育上の特徴を示しており、かつ、法との整合性があるか
教育理念・教育目的は、学生にとって学修の指針になるように具体的に明示され、実際に指針となっているか
養成する看護師等の質を保障するために、どのような教育内容、教育方法、教育環境を整えようとしているかを述べているか
看護、看護学教育、学生観について、教師の教育活動の指針になるように明示し、実際に指針となっているか
養成する看護師等が卒業時点においてどのような資質を有すべきかを明示し、その資質は、社会に対する看護の質を保障するのに妥当であるか
卒業時における学生の到達度を示す資料
10教育理念・教育目的の点検・評価計画


図

図3.教育理念・教育目的の設定に含むべき条件


自己点検・自己評価カテゴリー、下位項目 「評価の考え方」と「点検」 資料(データ)
II教育目標
   
1教育理念・教育目的との一貫性
 教育目標は、教育理念・教育目的を達成するために必要な教育内容を、目標として設定したものである。教育内容は、教育的に意図した学習経験のまとまりごとに区分され、科目−単元−1回ごとの授業の内容として組織化される。教育目標もそれに対応し、(分野別目標−領域別目標−)科目目標−単元目標−授業単位の目標へと展開していく階層的な構造を成す。
 教育目標は設定した教育内容を網羅し、目標階層の最上位に位置する。すなわち、すべての科目の授業を通して、最終的に修得してほしい能力を具体的に示すものであり、教育活動の最終的なゴールをあらわすものとして明示する必要がある。
 したがって教育目標はまず、教育理念・教育目的と一貫したものでなくてはならない。
11教育目標及びその目標設定の意図を記述した文書
→学則、履修要覧、養成所案内
2目標内容の側面と到達レベルの側面
 教育目標の設定にあたっては、教育理念・教育目的の実現のために、どのような内容をどのレベルまで到達させるか、目標内容の側面と達成レベルの側面からの検討が必要である。
 目標内容については、看護実践者としての能力の育成と、看護専門職としての生涯学習の視点から、自律した学習者としての能力の育成、つまり成長保障に関する検討が必要となる。具体的には、獲得しなければならない専門的な看護の知識・技術、多職種の人々とチームを組み、自ら意思決定し行動するために必要な倫理性、自律性、責任性、協調性、柔軟性、生涯教育の原動力となる探求性、グローバル化が進む社会に対応するための国際性等の側面から検討する必要がある。養成所は、これらの側面から検討した教育内容を教育できる体制を整えることや継続教育との関連を検討する必要がある。
 到達レベルについては、達成目標、向上目標、体験目標の区別を明確にし、目標内容と対応して表示する必要がある。
 
3設定意図とその明確性、実現可能性
 教育目標は、学生にとっては、学習活動の明確な方向とその達成を評価する基準として欠くことができないものであり、教師にとっては、教育活動の指針となる。そのため、目標の羅列に終わらず、教育目標についての理解が得やすいように、設定意図を明確に示し、各養成所の独自性を明らかにすることが重要である。教育目標は、社会の人々や学生が理解できるように、期待する具体的行動や思考の特徴をわかりやすく、かつ、実現可能なものとして表示する必要がある。
4教育目標の評価
 教育理念・教育目的は不変のものではなく、社会の変化や看護・教育に関する捉え方の変化、あるいは、不断の評価活動によって検討され、修正されるものである。それに伴い、教育目標も常に点検・評価し、具体的な教育内容の抽出・精選、教育の方法論、教授・学習活動へと結びつけていく必要がある。教育目標は看護実践者としての能力、自律した学習者としての能力育成の到達目標を示していることから、目標到達度を把握し、教育活動にフィードバックすることが必要である。
継続教育との関連
 社会が期待する看護師等の養成は、看護基礎教育と卒業後の継続教育との一貫性によって初めて可能となる。看護基礎教育と継続教育との一貫性を保障するためには、看護専門職に必要などのような知識、技術、態度をどこまで看護基礎教育で獲得させる必要があるかを判断し、教育目標に反映させる必要がある。
 卒業時に獲得している能力が明確であれば、卒業生を受け入れた施設は効率的、効果的な教育プログラムを作成できる。逆に、養成所は施設側が看護基礎教育に何を求めているかの情報を提供してもらうことによって、より具体的な教育目標の設定が可能となる。
 さらに、大学への編入学等も視野に入れ、卒業後の発展的な学習につながるように教育目標を検討する必要がある。
 社会にとって必要な一専門職業人としてあり続けるためには、社会の変化に対応して看護のあり方を自ら思考し、生涯において学習を続ける能力を、看護基礎教育の段階で育成しておくことが必要である。自ら学び続けることが、看護の対象に対し看護の質を保障することにつながっていく。
 以上より、教育目標の設定にあたっては、看護の専門職教育全般を視野に入れ、基礎教育としての到達レベルをどこに置くかについて明確にしておく必要がある。
<点検>
教育理念・教育目的と教育目標が一貫しているか
教育目標は、設定した教育内容を網羅し、かつ、最上位の目標として、教育活動のゴールが読みとれるものとして示しているか
12 卒業時の看護実践力の到達状況
13国家試験の合格状況
14就業後の就労状況に対する施設側の評価
15卒業生の看護実践力についての自己評価
16卒業生の専門分野における認定資格の取得状況や大学・大学院への入学・編入学状況
17目標設定と継続教育との関連性について記述した文書


図

図4.教育課程における教育目標の位置づけと設定に含むべき条件


自己点検・自己評価カテゴリー、下位項目 「評価の考え方」と「点検」 資料(データ)
III教育課程経営
   
1教育課程経営者の活動
 教育課程経営とは、教育課程を編成し、運営する活動を意味している。教育課程編成は、教育課程編成委員会等によって組織的に行われ、組織の目的、機能、役割が明確に規定される必要がある。教育課程の運営は、養成所の教務主任等の職位にある者によって遂行される。教育課程の運営は教授・学習・評価過程(授業)と経営・管理過程をつなぐ活動である(図2参照)。編成した教育課程が授業としてどのように実践され、評価されるか、評価結果をどのように教育課程の改善につなげるかを明確にする必要がある。
 教育課程編成委員会、教育課程運営者、授業を実践する教員は連携し、教育目的、教育目標の達成に向けて、養成所全体が一貫した活動を行なわなければならない。
<点検>
教育課程編成者と教職員全体は、教育課程と授業実践、教育評価の関連性を明確に理解した上で、教育理念・教育目的の達成に向けて一貫した活動を行っているか
18教育課程編成委員会等の目的、機能、役割を示した文書
19編成した教育課程の評価と教育課程改善の考え方を示した文書
2教育課程編成の考え方と具体的な構成
 教育課程の編成にあたっては、基礎とする教育課程編成の考え方が明確でなければならない。指定規則に示された教育内容を単に遵守するだけではなく、また、伝統的な学問の体系に固執することなく、各養成所が主体的に教育課程を編成することが重要である。看護師等の養成のために、どのような教育課程が適切であるかを考える必要がある。
 また、学生の成長だけではなく、学習への動機づけ、学問への興味・関心、追究等を意図して、どのような内容を基本として設定するか、何を必修とするか、何を選択とするか等についても、考えが明確になっている必要がある。
<点検>
看護学の内容、求める学修の到達および学生の成長について明確な考え方と根拠をもって教育課程を編成しているか
20教育課程編成の考え方と具体的な構成を示した文書
3教育内容の階層的関連性と配分の考え方
 基礎分野、専門基礎分野、専門分野についての考え方と、各分野の具体的な内容についての考え方を明示する必要がある。つまり、基礎分野として設定した内容がなぜ基礎と位置づけられるか、何に対する基礎かが明確である必要がある。専門基礎分野についても同様に、設定した内容が専門分野のどの内容と、どのように関連するかが明確である必要がある。専門分野は、看護学の内容で構成されるが、看護師等を養成するために妥当な内容が選択されていること、基礎分野、専門基礎分野との関連が明確であることが必要である。
 指定規則には各分野の履修単位が明確に定められている。各養成所は、指定規則に従いつつ、養成所の裁量で各分野に設定した教育内容に、それぞれどれだけの単位と時間数を配当するかの根拠をもつ必要がある。単位数と授業にかける時間数は、設定した教育内容がどのように授業に具現化され、学生の学びの体験になるのかを予測して設定する必要がある。
21教育内容の階層的関連性、配分の考え方を明示した文書
→学生便覧、履修要覧等
4科目・単元構成
 設定された各分野の教育内容は、さらに、科目として区分・構成される。つまり、科目は、既存しているのではなく、教育理念・教育目的、教育目標との一貫性のもとに、意図的にまとまりをつけ、区分して構成されるものである。したがって、カリキュラム編成にあたっては、この科目構成の考え方が明確でなければならない。どのような科目を構成するか、設定された各分野の科目(群)が直接的に各養成所の教育理念・教育目的を反映し、養成所の特徴を示すものとなる。養成所独自のものであり、かつ、医療の現状や将来性を見据えた上で、看護師等の養成のための科目として妥当であることが、文献検討等を踏まえて十分に検討されなければならない。
 科目が構成されたならば、その科目の内容をさらに授業実践に向けて、より下位のまとまり(通常、単元といわれる)をつける。ここにおいても、単元間の重複や関連性が明確に意識され、単元は科目目標と整合性がなければならない。
<点検>
科目と単元の構成にあたって、明確な考えと根拠があり、その考え方は教育理念・教育目的、教育目標との整合性があるか
構成された科目と単元は看護師等を養成するのに妥当であり、かつ養成所の特徴をあらわしているか
22科目・単元構成の考え方を明示した文書
5教育計画
 1)単位履修の考え方
 養成所は、指定規則に定められた修業年限を遵守した上で、学生が効果的に学修できるように、科目の履修方法を考慮しなければならない。そのためには、単位制の基本的な考え方を十分に理解し、単位修得の期限、それに基づいた教育計画を立案する必要がある。
 従来の、通年で単位を修得する考え方だけではなく、生涯学習の理念を踏まえて、学生が単位を履修できる方法を可能な限り柔軟に取り入れ、学修支援の方法として提示する必要がある。どのような内容を、いつ、どのような頻度で履修させるかの考え方が明確でなければならない。単位履修の方法とそれに伴う制約は、教師、学生の双方に理解されるよう、明示されていなければならない。
23教育計画:単位履修の考え方を示した文書
→学生便覧、履修要覧等
 2)科目の配列
養成する看護師等の質を維持するためには、学生が科目間の関連を十分に理解すること、さらに、各科目で修得した知識・技術が統合されて理解に至っていることが重要である。この意味において、科目の配列(履修の順序性)は意図的に計画されなければならない
<点検>
単位履修の方法とその制約について、教師、学生の双方がわかるように明示し、その方法は学生の単位履修の支援となっているか
単位履修制の考え方を踏まえつつ、看護師等になるための学修の質を維持できるように科目の配列をしているか
6教育課程評価の体系
 1)単位認定の考え方
 単位認定は、養成所が設定した教育内容を修得したことを学生に対して認めるものであり、社会的には、卒業時に、看護師等として必要な能力を学修したことを保証するものである。したがって、単位認定の考え方には、教育理念・教育目的、教育目標との一貫性がなければならない。また、養成所が設定している全科目についての評価の時期、評価基準(認定基準)は明確に設定されていなければならず、これを各科目担当者が理解していることが重要である。
 単位認定の方法は、学修の支援になるように、学生に明示する必要がある。そして、生涯学習の観点から学修を支援する意味において、大学等、他の高等教育機関における履修単位が相互に認められる(単位互換)体制を整えることも必要である。
24単位認定の考え方、方法を明示した文書
 2)評価の体系
 教育課程の評価は、直接的には教育目的、教育目標の達成を見極め、改善していく活動である。したがって、個々の授業の結果としての学生の到達状況や、単位認定結果だけではなく、教師を対象とした評価、学習環境を対象とした評価、経営管理過程を対象とした評価等、多角的に資料を収集し、分析する必要がある。そのためには、何を評価対象とし、資料をどう収集するか、時期、具体的な手段等を明確にする必要がある。
 客観的な評価資料を多角的に得るためには、たとえば、教師を対象とした評価では学生による授業評価を、経営・管理過程の評価では第三者による評価を、意図的に取り入れる必要がある。
 そして、分析方法や評価結果の活用の仕方、データの蓄積方法等についても明確にしておく必要がある。
 また、評価結果によって、評価者が不利をこうむることのないように配慮することも必要である。
<点検>
単位認定の基準および方法は、看護師等に必要な学修を認めるものとして十分に根拠があり、また、妥当であるか
他の高等教育機関と単位互換が可能な体制を整えているか
教育課程を評価する体系が整っており、また、結果の活用における倫理規定が明確になっているか
25教育課程の評価をどのように行うかを示した資料
教員の教育・研究活動の充実
 1)教員の専門性を高める体制
 学生が専門分野において教育目標を達成するためには、教員が自らの専門領域を担当し、指導する体制を整えることが必要である。
 そのために、領域の特徴、学生数、履修形態等を考えあわせて、各領域の教員の配置人数、担当教育内容の割り振り、他の領域の教員との協力体制等を考慮し、指導体制を整える必要がある。また、教員が担当する授業科目数、時間数は、教員によって偏りがなく、授業に対する準備時間等を保障して、適切に配分される必要がある。
26教員の担当科目及び担当時間数
 2)教員の自己研鑽を保障するシステム
 教員は、それぞれ専門領域をもち、その領域の教育課程の運用の責任を担う。教員自らが専門領域について学問的に追究していく姿勢をもつことはもちろんであるが、一方で各教員の専門性の質の維持・向上を保障する支援システムをつくることも必要である。具体的には、研修や研究活動への取り組み、学会への参加等に対して、時間的、予算的な対応を明確にしておく必要がある。
27教員の自己研鑽を保障するシステム及び実施状況を記述した文書研修会・研究活動への経済的、時間的な支援システム及び参加状況研修日の設置及び運用
 3)教員の相互研鑽を保障するシステム
 教育目標の達成のために、教員には日々の授業を充実させ、常に評価していく能力、つまり自らの教育力を高めるための取り組みが求められる。教育課程の運用という視点から考えると、これは一人の教師の問題ではなく、教師集団として教育力を高めていくという捉え方をする必要がある。教育力を高めるためには、具体的には、日々の教育活動について、授業案、教育方法のあり方を情報交換したり、研究会等で互いに検討し合う機会を定期的に設定したりすることが考えられる。特に新任教員や経験の少ない教員にとっては学びの場に参加することは有意義である。これらの活動は、教員自身が問題意識をもって自主的に運営することが望ましい。
 教育課程運用にあたっては、このような相互研鑚のシステムを背景に、教員それぞれが刺激し合い、学び合う文化を創りあげることが重要である。
<点検>
教員の担当科目と担当時間数は、専門性を発揮できるように配分し、かつ、授業の準備をする時間がとれる体制を整えているか
教育課程の実践者である教員が、自ら成長できるための自己研鑽、相互研鑽のシステムを整えているか
28教員の相互研鑽を保障するシステム及び活動状況について記述した文書
→授業案検討会研究会
学生の看護実践体験の保障
 1)実習施設の選択と開拓
 看護師等養成所の特徴として、臨地実習がある。臨地実習施設を選択する場合、看護学の教育施設として、養成所の教育理念・教育目的、教育目標を達成するのに適した施設であるかどうかを第一に考慮しなければならない。そのためには、医療施設としての理念、看護の考え方、看護体制等についての情報を得、分析しておく必要がある。
 実習施設の事情や他校の実習との重なりで、実習施設を変更しなければならない場合が往々にしてあるので、学生の学習の保障のために、新たな実習施設の開拓も視野に入れておくことが必要である
29臨地実習施設の選択、学生の配置についての方針および施設との連絡・調整をどのように得て指導体制を整備しているかを示す資料
 2)実習目標達成のための実習施設との協力体制
 臨地実習の場は、学生にとって看護の実践を学ぶ場であり、専門職業人としてのモデルを見出す場でもある。したがって、学生が看護への関心を高め、充実感を味わえるように、実習の場を調整することが必要である。そのためには、実習施設の責任者をはじめ、看護師長、臨地実習指導者から、実習目標についての理解を得るような働きかけが不断に必要である。連絡会、学習会を設けて情報交換を行うことによって、養成所と実習施設が同じ目標に向かって協力体制を整える必要がある。
 また、看護に必要な物品や実習中に必要な図書、カンファレンスルーム等の整備についても、実習施設の協力を得ることによって、臨地実習場における学習環境を整えることが可能になる。
 以上のように実習施設を整備する一方で、養成所は、学生が実習施設で確実に看護実践を学習できるように、実習施設の患者数、患者の健康段階や疾病構造、提供される看護の内容等を考慮して、適正な学生数を配置する必要がある。
 3)臨地実習指導者と教員の協働
 臨地実習において、臨地実習指導者と教員は、協力し合いながら学生に対する指導を行う。臨地実習指導者は看護の実践について豊富な経験をもつことから、看護の対象者の日々変化する状況に応じて、学生が適切なケアを提供できるように指導することを期待される。一方教員には、学生のレディネスに配慮し、臨地実習における学生の体験の意味づけを教育的視点に立って指導することが期待される。両者の指導によって学生の学習が成り立つので、学生、患者の日々の状況に合わせて、学習内容、指導方法の選択ができるよう連携を図ることが必要である。
 臨地実習指導者は、学生の学習に大きな影響を与えることから、的確に学生を指導できるように、実習指導者講習会等を受講していることが必要である。また、受け入れる学生数や学習段階に応じて適当数が配置されることも必要である。
 4)学生からケアを受ける対象者の権利の尊重
 学生が看護を実践することによって、看護の対象となる患者・家族等の権利やプライバシーが侵害されることのないように、養成所と実習施設は患者の権利とプライバシーの保護に関する基本的な考え方を明確にしておく必要がある。さらに、患者への協力依頼は、実習施設と養成所が行うだけではなく、学生自身が行うことができように教育する必要がある。また、患者に関する情報を記載した実習記録やケーススタディの資料等を安易に取り扱わないように教育することも重要である。このような看護の学習者としての基本的な態度や行動については、臨地実習前に計画的に身につけさせる必要がある。
30臨地実習で学生が受け持ちとなる患者の権利とプライバシーの保護について、養成所と実習施設の考え方を示した文書
 5)臨地実習における安全対策
 臨地実習において、学生自身が事故を起こしたり、巻き込まれたりしないとは言い切れない(事故には医療事故のみではなく感染に関する内容も含む)。また、学生が加害者になる可能性も考えておく必要がある。事故予防のため、学生に対して事故の考え方、実習に関連する事故の現状や対策について教える等、実習の進度に合わせて系統的に安全教育を実施していく必要がある。また学生の事故発生の実態を把握、分析し、安全対策に活かすシステムをつくることも重要である。さらに、事故が発生した場合、事故の関係者や学生への影響を可能な限り最小限に止めるよう、対策を講じる体制も整える必要がある。
31学生の臨地実習中に発生する事故への対応を示した文書


自己点検・自己評価カテゴリー、下位項目 「評価の考え方」と「点検」 資料(データ)
IV教授・学習・評価過程
   
授業内容と教育課程との一貫性
 授業内容は各科目の教育課程上の位置づけ・目標のみならず、養成所の教育理念・教育目標との一貫性を意識して設定する必要がある。
 教授・学習・評価過程は授業と同義であり、教師が教授し、学生が学習する過程は、教師と学生の双方向コミュニケーションにおいて成立することを前提にしている。また、授業としての教授・学習評価過程は、学生、教育内容、教師の3要件によって成り立つ。このような授業を受ける当該の学生は、学生一般ではなく、個別の特徴をもった存在であることを理解しておかなければならない。したがって、当該授業の内容は、当該学生に合わせたものであることが必要である。
 
2看護学としての妥当性
 授業内容が、看護学の内容として妥当性をもつためには、看護観、学習・教育観、学生観を明確にもつ看護師等の資格を有する教師によって設定される必要がある。また、担当教師の専門性や得意分野に偏った内容ではなく、今日の看護学を構成する科目や単元、当該授業の意図にそった内容であることが必要である。  
3授業内容間の関連と発展
 教師は授業を構成する際、他の授業との関連を明確に理解しておく必要がある。例えば、専門分野の内容が基礎分野あるいは専門基礎分野の内容とどう関連するか、専門分野の内容間ではどう関連するかについて理解していることが必要である。その上で学生の理解を効果的に助けるために、授業内容の発展性を考え、既習の内容を他の授業でも意図的に反復すること等により、内容間の関連を学生が理解できるように促す必要がある。
<点検>
当該授業の内容は、教育課程との関係において当該学生のための授業内容として設定しているか
授業内容のまとまりの考え方は、科目目標との整合性を踏まえて明確に述べているか
授業内容のまとまりは、看護学の教育内容として妥当性がある内容となっているか
当該授業の内容と他の授業内容との関連において、重複や整合性、発展性等について明確になっているか
32授業内容のまとまりの考え方各科目の教育課程上の位置づけ・目標を記述した文書
→学生便覧、履修要覧,シラバス


図

図5.教育課程における教授・学習・評価過程(授業)の位置づけと構成因子


自己点検・自己評価カテゴリー、下位項目 「評価の考え方」と「点検」 資料(データ)
4授業の展開過程
 1)授業形態の選択
 授業を展開するにあたっては、まず第一に授業形態が選択されなければならない。授業形態としては、講義、演習、実験、実習がある。
 教師は、各授業形態の特徴を十分に理解した上で、設定した授業内容に適した形態を選択し、ワンパターン化しないように工夫する必要がある。
33教育方法の考え方
具体的に授業の内容・方法を記述した文書
→シラバス
 看護基礎教育における実習という授業形態は、各看護学の講義・演習により得た知識・技術を看護の対象者に実践することで、既習の理論・知識・技術の統合を図ることが可能である。看護実践力を備えた学生を養成するために重要な授業形態であると言える。とはいえ、学習の段階や授業内容の関連性、授業内容との関係性が十分考慮された上での実習でなければ、理論・知識・技術が統合されないことはいうまでもない。
34具体的な授業の展開過程を示した資料
→講義計画・実施資料
 演習計画・実施資料
 実習計画・実施資料
 2)授業の対象学生の構成と指導方法
 授業を受ける学生の構成によって指導方法を分類すると、クラスや学年をひとまとまりとした一斉授業、小集団(グループ)指導、個別指導がある。教師は当該授業において、学生をどのように構成して指導を行うか、それぞれの特徴を十分に理解した上で選択する必要がある。  
 3)指導技術の工夫
 実際の授業の展開では、学生の理解や、学習意欲、課題の追究を支援するために、教師は多様な指導技術を駆使し、授業展開を工夫する必要がある。具体的な指導技術としては、説明、発問、指示、演示等がある。また、レポート課題の設定等において、学生が負担感のみを感じることがないように、自己学習能力の育成のために教師が支援することも教育方法の一つとして重要である。
35学生に課す課題や支援の内容を示した資料
 設定した授業は、常に一人の教師で指導する必要はない。各教師がもっている専門領域や経験を効果的に活用し、複数の教師で授業を行う方法等も考えられる。例えば、複数の教師が科目や単元を分担して受け持つ方法もあれば、当該授業を複数の教師が行う方法もある。看護技術教育においては、学生の技術の習得を確実なものにするために、複数の教師で行う演習形態の授業が効果的である。
 いずれの場合においても、授業内容の考え方、教育方法の一貫性や統一性について教師間で十分に検討し、協力体制を整えることが不可欠である。
36教員会議記録、領域別会議記録
 4)教材・教具の活用と開発
 教材・教具は先に述べた教師の指導技術の一環として、学生の理解を助け、深めるために欠くことができない。教師には、看護の各領域に適した教材を意図的に選択し、効果的に活用する能力や、既製の教材・教具の活用に止まらず、自ら教材を作成・工夫する能力も必要である。また、学生がシミュレーションモデル等を活用し、自己学習するように指導することも必要である。
<点検>
授業内容に応じた授業形態(講義、演習、実験、実習)を選択しているか
授業展開に用いる指導技術についての考え方を授業計画等に明示し、実践しているか
当該授業の展開過程の他に、学生の学習が深化、発展するための方法を意図的に選択し、学習を支援しているか
学生に対し効果的な教育・指導を行うために、教員間の協力体制が明確になっているか
 
5目標達成の評価とフィードバック
 1)評価の計画性
 当該授業を進める過程において、学生の理解の状況をどのように把握し、授業の目標をどのように達成するか、そのための形成的評価を授業の流れの中でどのように行うか等、授業における評価は、授業の進め方を判断するために必要である。授業の評価は、単元の教授・学習過程を計画的に評価し、必要に応じて授業展開を修正・改善することにつながるものである。
37授業の展開過程における評価の考え方とその計画を記述した文書
 2)評価結果の活用
 学生は看護の専門教育を受ける者として、自らの学習の経過や成果を認識し、主体的に学習し続けることが期待される。したがって、教師からの評価結果は、自らの学習をより深めるために活用されなければならない。
38授業評価の結果を整理した資料
 したがって、評価結果が公正で明確であれば、学生は自己の学習課題を把握しやすくなり、学習意欲を向上させることができる。提出されたレポートや試験成績、実習記録等は、適切な時期に返却され、学生が自己の学習活動に活用できるようにすることが重要である。
<点検>
評価計画を立案、実施し、評価結果に基づいて実際に授業を改善しているか
学生および教育活動を多面的に評価するために、多様な評価の方法を取り入れ、目標の達成状況を明確に捉えているか
評価の方法について、特に単位認定のための評価については、学生に公表(認定基準等)し、公平性があるか
39教授・学習過程における評価のフィードバック状況がわかる資料
40提出物・試験結果の返却状況
→レポート・実習記録等


図

図6.教育課程における単元評価のフィードバックシステム


自己点検・自己評価カテゴリー、下位項目 「評価の考え方」と「点検」 資料(データ)
6学習への動機づけと支援
 1)シラバスの提示
 学生が授業を受けるにあたって、授業のねらい、進め方、参考文献等を予め知ることは、授業への主体的参加を促し、興味・関心を高め、理解を深める上で重要である。そのために、シラバスの提示が必要である。シラバスは、授業内容がどのような意図で、どのような内容として設定されているか等を、学生が理解しやすいように、また、興味・関心をもてるように、具体的に記述されていることが重要である。
 さらに、シラバスを教師間で共有できるように整えておくことは、学習への支援が、養成所全体としての一貫性をもつ上で必要である。
41授業のねらい、内容、テキスト、文献等を明示している授業の計画を示す文書
→シラバス等
 2)学習の支援体制
 学習への動機づけをより確かなものにするために、学生は、授業前にも、授業後にも、当該授業に対する興味・関心や理解がより深まるような支援を必要とする。そのためには、必要時、教師の助言・指導を受けられる体制を整えておく必要がある。学生が教員に対して、いつでも自由に疑問を投げかけ学び合う文化を形成していくことは重要である。特に、実習期間中は日々の実習終了後に自己学習することが必須であり、学生が抱える多様な問題を教師が共有し、指導する時間を保障することが学習の支援体制につながる。また、図書室や情報処理室を開放する等、自己学習ができる環境を提供することも求められる。
<点検>
シラバスの提示や学習への指導は、養成所全体としての一貫性をもち、学生の学習への動機づけや支援になっているか
42学習の支援体制を示す資料


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