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2 短時間労働者等に対する厚生年金の適用

1 年金保険(医療保険)における被保険者の区分
   (資料V−2−1:年金保険(医療保険)における被保険者の区分について

(1) 厚生年金の適用基準(いわゆる3/4要件)

 厚生年金の適用基準については、昭和55年以来、「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること」とされている。これは、当時の雇用保険法による短時間就労者の取扱い、及び人事院規則による非常勤職員の取扱いを参考として、示したものである。
 したがって、被用者の配偶者である者について考えると、労働時間が通常の就労者の概ね4分の3以上であれば、第2号被保険者となり、それに満たない場合であれば、収入に応じて第1号被保険者または第3号被保険者となる。(資料V−2−2:厚生年金の適用基準(4分の3基準)及び被扶養者認定基準(130万円基準)について

(2) 第3号被保険者の認定基準(いわゆる130万円要件)

 第3号被保険者の認定基準については、「年間収入が130万円未満」であることとされている。これは、昭和61年に第3号被保険者制度が導入された際に、健康保険の被扶養者認定基準と同額(当時90万円)に設定され、その後賃金の上昇等に応じて引き上げられてきたものである。
 したがって、被用者の配偶者である者について考えると、労働時間が通常の就労者の概ね4分の3に満たない場合に、年間収入が130万円以上であれば第1号被保険者、130万円未満であれば第3号被保険者となる。(資料V−2−2:厚生年金の適用基準(4分の3基準)及び被扶養者認定基準(130万円基準)について


2 短時間労働者等に対する年金制度の適用のあり方についての各種提言

 短時間労働者等に対する年金制度の適用のあり方については、近年、様々な場において、見直しを求める提言が行われている。特に、最近の雇用の多様化、短時間労働者等の増加を受け、これにふさわしいセーフティーネットを構築するとの観点から、「パート労働者、派遣労働者については、年金保障が十分でないなどの指摘があり、年金適用のあり方を見直していく。」(今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(平成13年6月26日))ことが閣議決定されている。
 このほか、「年金保険・医療保険における被扶養配偶者の取扱いや短時間労働者への適用のあり方等の検討を着実に進める。」(平成13年6月 産業構造改革・雇用対策本部 中間取りまとめ)、「年金・医療保険の適用においても、パートタイム労働者への適用拡大について早急に検討すべきである。派遣労働者については就業実態等を踏まえた健康保険組合の設立を認めるとともに、適用基準の明確化等を行うことについて早急に検討を進めるべきである。」(平成13年12月11日 総合規制改革会議答申)といった提言が、相次いで示されているところである。(資料V−2−3:短時間労働者等に対する年金制度の適用のあり方についての各種提言


3 女性の就労状況

 第II章でも述べたように、女性の労働力人口あるいは労働力率は、長期的には増加傾向にあり、ほとんどの女性が期間の長短はあるものの何らかの就業経験を有するようになってきていると考えられる。(資料II−3:労働力人口及び労働力率の推移資料II−4:女性の年齢階級別労働力率の推移資料II−5:男女別雇用者数の推移資料II−6:平均勤続年数の推移資料II−7:勤続年数階級別女性労働者構成比の推移資料II−8:女性の配偶関係、年齢階級別労働力率の推移
 特に、短時間労働者は、近年その増加が著しい。女性の雇用者に占める短時間雇用者の割合は、男女合わせた雇用者全体に占める短時間雇用者の割合と比べても、急激な伸びを示している。(資料II−10:短時間雇用者数の推移(非農林業)
 他方で、厚生年金の適用を受けない働き方が増えてきている。雇用者に占める第2号被保険者の割合は、近年減少を続けており、特に女性における減少は、男性に比べて大きい。(資料II−12:雇用者に対する第2号被保険者の割合の推移)また、短時間労働者(パートタイム労働者)のうち社会保険の適用を受けている者も、35%強にとどまっている。(資料II−13:社会保険の加入状況別パート労働者割合)さらに、女性の各年齢階級別に見た場合に、「雇用者比率」と「厚生年金被保険者比率」の乖離が、この10年間において全般的に拡大しており、特に40歳以降や20〜24歳層で顕著となっている。(資料II−14:女性の年齢階級別雇用者比率(対人口・非農業)及び厚生年金被保険者比率(対人口)の推移
 このように女性の短時間労働者の増加、特に被用者年金の適用を受けない働き方の増加を背景として、現行の厚生年金の適用基準について見直しすべきではないかという点が課題となっている。


4 諸外国における短時間労働者に対する適用

 諸外国の年金制度における短時間労働者の適用を見ると、一定額以上の所得のある者を強制適用とすることが多く、また、その金額は我が国の被扶養者認定基準よりもかなり低い水準となっている。(資料V−2−4:諸外国における短時間労働者に対する適用
 なお、諸外国の年金制度においては、20歳から60歳までの全国民が強制加入対象となっている我が国の制度とは異なり、基本的には被用者を中心として制度が組み立てられており、所得がない場合には強制適用対象とはならず、自身の保険料納付による年金保障もないことから、できる限り低賃金の者であっても被用者年金の対象としていることがうかがわれる。このような違いはあるものの、我が国の厚生年金制度の適用基準が諸外国に比べて厳しくなっていることをどのように考えるかという点が課題である。


5 短時間労働者に対する厚生年金適用のあり方

短時間労働者に対する厚生年金の適用の拡大をすべきとの意見が多い

 短時間労働者について、以下の観点から、現在の厚生年金の適用基準及び被扶養者認定基準の見直しを行い、厚生年金の適用の拡大をしていくべきではないかとの意見が多い。
 なお、年金制度だけではなく、健康保険制度、税制及び企業の配偶者手当の制度についても、就業調整や短時間労働者の低賃金の原因となっており、見直しが必要であるとの指摘が多くあった。

(1) 被用者にふさわしい年金保障の確立

 就業形態の多様化が進む中で、被用者にふさわしい年金保障の確立が求められている。就業の形態が変わっても被用者として一貫した保障を受けることができ、働いた分が自らの年金に反映される仕組みとなるよう、短時間労働者に対する厚生年金の適用を拡大していくべきである。また、このことによって、短時間労働者が多い女性に対する年金保障の充実が図られることとなる。

(2) 就業に中立的な制度の構築

 個人が意欲と能力に応じて力を発揮できる社会を形成していく上で、就労意欲を阻害するような制度は見直していく必要がある。このような観点から、現在の厚生年金の適用基準及び被扶養者認定基準については、就業調整や短時間労働者の賃金抑制の要因の一つとなっているとの指摘も踏まえつつ、必要な見直しが行われるべきである。
 この場合、賃金に応じて定率の保険料を賦課する仕組みは、就労や就業形態の選択に対し、より中立的で公正な制度の実現に寄与することが期待できる。また、このことにより、短時間労働者の雇用管理の改善、短時間で勤務する者の能力の有効な発揮、企業における計画的な人員配置が図られるなど、企業としての利点も生じるのではないか。

(3) 年金制度の支え手の拡大

 労働力人口の減少が見込まれ、また就業形態の多様化が進展する中で、短時間労働者に対する厚生年金の適用を拡大することで、国民の能力の有効な発揮を支え、ひいては国民経済の発展と年金制度の支え手の拡大につなげることが重要である。また、その結果として、将来にわたる年金財政の安定化が図られ、安定的で信頼される年金制度の実現につながる。

(4) 保険料負担の公平性の確保

 厚生年金が応能負担の考え方に基づいた制度である中で、労働時間・日数が通常の3/4未満の被用者を賃金があるにもかかわらず応能負担の対象外としている現行制度については問題があり、公平性の観点から、賃金がある人には負担を求めていくという方向で応能負担の考え方を徹底していくことが必要である。このような観点から短時間労働者に対する厚生年金の適用を拡大することにより、年金制度内における保険料負担の公平性の一層の確保を図ることが求められる。

(5) 産業間・企業間の公平な競争の確保

 被用者の就業形態に応じて厚生年金の適用やそれに伴う保険料負担が異なる現行制度では、短時間労働者を雇用する割合が高い産業や企業ほど、保険料負担が軽減されることとなる。産業や企業の間における公平な競争を確保するという観点からも、被用者にはできるだけ厚生年金を適用する方向で見直しが図られるべきではないか。


6 短時間労働者に対する厚生年金適用を行う際の論点

(1) 厚生年金の適用拡大に係る基準の提案

 検討会では、短時間労働者に対して厚生年金の適用を拡大する場合の具体的な新しい適用基準について、以下の2つの基準を設けてはどうかという提案がなされ,これをたたき台として議論が行われた。(資料V−2−5:短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大をする場合の新しい基準の提案

(1)「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上」という現在の基準については、「2分の1以上」とする。

(2)所定労働時間、所定労働日数が通常の2分の1未満の場合であっても、年間の賃金が「65万円以上」ならば厚生年金に適用するという、いわば収入基準を新たに設ける。

(2) 適用拡大に向けて今後議論を重ねていくべき論点

 短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大については、今後、以下に掲げる論点を踏まえた議論を重ねていくべきものと考える。

(1) 保険料負担の増加

保険料負担が増加する者の理解が得られるかどうか

 短時間労働者に対する厚生年金の適用に伴い、短時間労働者のうち、これまで第3号被保険者となっていた者、比較的高い賃金を得て第1号被保険者となっていた者、及び短時間労働者を雇用していた事業主については、各々の保険料負担が増加することとなるが、こうした保険料負担の増加について理解が得られるかどうかという論点がある。(資料V−2−6:短時間労働者に厚生年金を適用拡大した場合の給付と負担の変化

第1号被保険者とのバランス

 また、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大によって新たに第2号被保険者となる者は、第1号被保険者よりも少ない保険料負担で、第1号被保険者よりも手厚い年金給付(基礎年金+報酬比例年金)を受けることがあり得ることについて、どう考えるのかという論点もある。

(2) 年金財政への影響の検証

 短時間労働者に対して厚生年金の適用拡大を図ることにより、現状では賃金の低い被保険者が増加することとなるが、このことが年金財政に対してどのような影響を与えるのか、また、新たに適用拡大される者についての負担と給付の関係がどうなるのかについて、今後十分な検証が必要である。

年金財政への影響の定性的な整理

 年金財政に対する影響については、標準報酬下限の取扱い等、新たに厚生年金の適用を受ける者に係る給付と負担の関係の設計をはじめ、今後の労働力や賃金の見通し、適用拡大の範囲等、どのような前提条件の下で試算するかによって大きく結果が変わりうるものであり、今後の財政再計算において詳細に検討を行うこととなるが、定性的には以下のように整理できる。

長期的には、年金財政上は概ねバランス

 まず、長期的には、現在第3号被保険者である短時間労働者について、賃金は一般労働者に比べて低いものの、これらの者に対する基礎年金の給付を賄う負担が新たに生じないため、厚生年金財政上は、適用拡大はプラスの要素となる。一方、現在第1号被保険者である短時間労働者については、厚生年金においてこれらの者に係る基礎年金拠出金負担が新たに生じるが、短時間労働者の賃金は通常、一般労働者に比べて低いため、基礎年金拠出金に係る短時間労働者の保険料負担は小さいものとなり、結果として厚生年金財政上は、適用拡大はマイナスの要素となる。
 こうした長期的に見た場合のプラスの要素とマイナスの要素は、今後の賃金動向等にも左右されるが、基本的には相殺しあうことにより、年金財政上は概ねバランスがとれるのではないかと考えられる。

短・中期的には、当面の収支の安定化に貢献

 さらに、短・中期的には、保険料収入の増加が年金給付の増加に先行するため、当面は積立金が増加することとなり、年金財政的には、支え手の拡大により、当面の収支の安定化に貢献し、今後の計画的な年金制度運営に資するものと考えられる。

 いずれにしても、年金財政への影響については、具体的な前提条件を設定のうえ、今後十分な検証が必要であり、議論を重ねていくべきものである。

(3) 夫と妻ともに第1号被保険者である自営業等の夫婦世帯との関係

 夫と妻ともに第1号被保険者である自営業等の夫婦世帯は、現在、夫と妻ともに定額保険料(月額13,300円)を負担している。短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大により、妻(夫)が短時間、低賃金で勤務に出ることによって厚生年金が適用される場合、妻(夫)自身の保険料負担が軽減されるのみならず、その夫(妻)が第3号被保険者となって定額保険料負担を免れる可能性があるが、このような事態を防止するための措置について検討する必要がある。

(4) 就業調整が残る可能性

 現在の厚生年金の適用基準及び被扶養者認定基準を引き下げる場合には、就業調整をとる短時間労働者はかなり限定されると考えられるものの、税制、企業の配偶者手当を要因とする調整行動のほか、新たな基準を免れるための調整行動も、なお一部残るのではないかという論点がある。この点に関しては、厚生年金の適用基準及び被扶養者認定基準を相当程度引き下げれば、調整行動の余地はほとんどなくなるのではないかとの意見があった。
 なお、短時間労働者への厚生年金の適用拡大を図る場合には、新たな基準に基づき適切な運用がなされ、適用漏れが生じないよう、事業主に対し十分な指導が行われるべきである。

(5) 企業行動や労働市場への影響・効果

 短時間労働者に対して厚生年金の適用を拡大することは、雇用コストの増加を伴うものであることから、就労形態、企業行動に与える影響等について、今後、さらに詳細な分析、検討を行うことが必要である。
 他方、短時間労働者の雇用管理の改善、短時間労働者の能力の有効な発揮、企業における計画的な人員配置が図られるといった、企業、さらに社会全体としてのメリットについても、分析、検討が必要である。

(6) 医療保険との関係

 厚生年金と健康保険は、被用者に対する社会保障制度として、どのような者を適用対象としていくかについては、共通の基準により運営されてきている。このような中で、厚生年金において適用対象を拡大していくとすれば、健康保険に対しても大きな影響を与えることとなるので、健康保険における取扱いも含めて検討していく必要がある。

(7) 標準報酬の下限の扱い

 現在の厚生年金の適用基準を引き下げる場合、厚生年金の標準報酬の下限が現行の月額98,000円のままであれば、例えば賃金の月額が5万円程度の者にとって重い保険料負担となってしまう。一方で、標準報酬の下限を引き下げるほど、既に述べた年金財政への影響は大きなものとなる。
 こうした点を踏まえつつ、短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大に伴う、標準報酬の下限のあり方についても検討する必要がある。


7 派遣労働者に対する厚生年金の適用

(1) 現行制度の適用の現状

派遣労働者に対する適用は通常の労働者と同様

 派遣労働者に対する社会保険の適用については、特別な定めはなく、通常の労働者と同様の適用基準にしたがって適用がなされている。

特定労働者派遣(常用型派遣)と一般労働者派遣(登録型派遣)

 派遣労働者には大きく特定労働者派遣(常用型派遣)と一般労働者派遣(登録型派遣)があるが、下記のような扱いとなっている。

○ 特定労働者派遣については、常用的使用関係のある雇用労働者としての要件を充たす場合(原則2か月以上の雇用期間があり、通常の就労者の概ね4分の3以上の労働日数、時間の者)は、厚生年金の被保険者となる。

○ 一般労働者派遣については、常用的使用関係のある雇用労働者としての要件を充たす場合は厚生年金の被保険者(第2号被保険者)となり、待機期間中は第1号被保険者又は第3号被保険者となる。

派遣労働者の厚生年金加入状況

 「労働者派遣事業実態調査結果報告」(平成13年9月 厚生労働省職業安定局)では、派遣元事業所調査結果において、特定労働者派遣、一般労働者派遣それぞれ、91.8%、61.2%の派遣労働者が厚生年金に加入しているとの結果が、また、派遣労働者調査において、67.4%の派遣労働者が厚生年金に加入しているとの結果が出ている。(資料V−2−7:派遣労働者等の厚生年金加入状況

(2) 今後の検討

各種の提言を踏まえた検討が必要

 派遣労働者に対する厚生年金の適用については、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」や総合規制改革会議等における提言を踏まえ、検討を行うことが必要である。(資料V−2−3:短時間労働者等に対する年金制度の適用のあり方についての各種提言



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