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V 個別の課題

1 標準的な年金(モデル年金)の考え方

1 標準的な年金(モデル年金)のこれまでの経緯

(1) 標準的な年金(モデル年金)の意味

 標準的な年金(モデル年金)は、被用者について標準的な被保険者像を想定し、その被保険者が世帯として得られる年金を示したものであり、年金水準を設定したり、制度的に保障される年金の姿を端的に示す際に標準として用いられる概念である。

片働き世帯を標準的な世帯として示してきた、これまでのモデル年金

 厚生年金のモデル年金は、これまで、片働き世帯、すなわち夫は財政再計算の基準年当時の現役男子の平均的な標準報酬月額を得ている被用者であって、厚生年金に標準的な期間加入しており、妻は厚生年金にまったく加入したことがないという夫婦世帯を標準的な世帯として、標準的な年金額を示してきている。
 モデル年金は、

(1) 昭和60年改正前は、夫に支給される厚生年金(定額部分+報酬比例部分+加給年金)、

(2) 昭和60年改正後は、基礎年金制度の導入により、夫と妻2人分の基礎年金と夫に支給される厚生年金(報酬比例年金)

で構成されている。

モデル年金の変遷

 いわゆる「1万円年金」が提唱された昭和40年以降、厚生年金のモデル年金額は、以下のような男子被用者をモデルとして設定されてきた。

(1) 昭和40年の「1万円年金」については、当時の男子の平均的な標準報酬月額で、制度的な加入期間である20年加入した場合をモデルとして設定。

(2) 昭和44年改正以降は、財政再計算時の当時の男子の平均的な標準報酬月額で、当時の男子新規裁定者の平均的な加入期間加入した場合をモデルとして設定(昭和44年「2万円年金」(平均加入年数は24年4ヶ月)、昭和48年「5万円年金」(平均加入年数は27年)、「男子平均の賃金の6割目途」)。

(3) 昭和60年改正以降は、将来的な加入期間の伸びを想定して、財政再計算時の男子の平均的な標準報酬月額で、成熟時における標準的な加入期間(40年)加入した場合をモデルとして設定。

給付水準の変遷

 また、給付水準は、以下のように設定されてきている。(資料V−1−1:モデル年金月額の推移

(1) 昭和40年、昭和44年には、標準的な世帯が受給する年金月額がそれぞれ1万円、2万円となるように、給付水準を設定。

(2) 昭和48年以降は、標準的な世帯が受給する年金月額が、現役男子の平均標準報酬月額の概ね6割となるように、給付水準を設定。

(2) 現在の標準的な年金(モデル年金)

 平成12年改正後の標準的な世帯が受給する年金額は、夫と妻それぞれ基礎年金67,017円、夫は報酬比例年金として104,092円、世帯全体で月額238,125円の年金を受給する形となっている。この標準的な年金額238,125円は、現役男子の推計手取り年収(月額換算)401,000円の概ね6割に相当している。(資料II−27:平成12年改正後の被用者の標準的な年金額


2 女性のライフスタイルの多様化とモデル年金のあり方

多くの女性が厚生年金に加入する被用者として就業する機会を持つようになってきている

 先に述べたように、女性のライフスタイルの多様化が進み、多くの女性が、期間の長短はあるものの、厚生年金に加入する被用者として就業する機会を持つようになってきており、このような動きは今後も拡大するものと見込まれる。65歳の女性における老齢厚生年金受給権者数を見てみると、近年着実に増加しており(平成3年度末現在で164,528人→平成11年度末現在で334,551人)、基礎年金の受給権を持つ者(平成3年度末現在で454,100人→平成11年度末現在で601,391人)のうち、近年では半数以上の者が、厚生年金の加入期間を有するようになっている。(資料V−1−2:老齢厚生年金の受給権を持つ女性の数の推移

モデルとして共働き世帯等を想定し、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定していくことが妥当

 こうした中、主たる生計維持者のみが厚生年金に加入するという、片働き世帯を標準として年金保障を組み立てるこれまでの考え方を再整理することが求められている。具体的には、モデルとして共働き世帯を想定し、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定していくことが妥当である。この場合、従来からの継続性という観点から、片働き世帯を想定したモデルも従来どおり提示していくことが必要である。また、世帯類型の多様化が進展する中では、単身世帯を想定したモデルについても併せて検討すべきである。

モデルとしての共働き世帯等の年金の給付水準がどうあるべきかは、別途議論されるべき問題

 本検討会では、女性と年金をめぐる問題という観点から、モデルとして共働き世帯等を想定していくことについて議論したものである。モデルとしての共働き世帯等の年金の給付水準がどうあるべきかという点については、年金制度全体の給付と負担の関係をどうするかといった観点から、別途議論されるべき問題である。


3 モデルとして共働き世帯等を想定する際の論点

 今後、モデルとして具体的な共働き世帯等を考えていく上で、例えば以下の論点について検討を行う必要がある。

(1) 共働き世帯等において女性のどのような厚生年金加入期間、賃金を想定してモデルとするか

 モデルとして共働き世帯を想定する際、夫婦ともに40年間常用雇用の世帯を想定するのかどうかという論点、また、女性の被保険者について、その厚生年金加入期間や賃金をどのように考えるかという論点について、議論が必要である。(資料V−1−3:様々な世帯類型でみた場合の現行制度の年金水準

平均標準報酬額、厚生年金平均加入期間には男女差が存在

 男女の被保険者の平均標準報酬額には差がみられる。また、厚生年金加入期間についても、継続的に就労し比較的加入期間の長い新規裁定者についての平均をみても、女子は男子に比べて10年以上短くなっている。

(平成11年度実績値) 男子 女子
平均標準報酬額 36.1万円 22.0万円
新規裁定者(老齢相当)
の平均加入期間(注)
418ヶ月
(34年10ヶ月)
285ヶ月
(23年9ヶ月)

(注)昭和60年改正前の厚生年金制度において他制度と通算せずに厚生年金制度への加入期間のみで受給資格期間を満たした者(原則20年以上の加入)及び昭和60年改正後の厚生年金制度でこれに相当する者について、加入期間を平均したもの

モデルにおける女性の厚生年金加入期間の取扱い

 現在のモデル年金の加入期間は、モデルとなる男子労働者の制度成熟時における標準的な加入期間(40年)を用いているが、モデルとして共働き世帯を想定する際には、

(1) 男女ともに40年間厚生年金に加入する世帯を想定することが可能なのかどうか。また、適当なのかどうか。

(2) あるいは実態に即した一定の加入期間をもって想定するのかどうか。

(3) また、将来に向かって加入期間の伸びをどのように考えるか。

モデルにおける女性の賃金の取扱い

 現在のモデル年金の賃金は、直近の男子の平均標準報酬額を用いているが、モデルとして共働き世帯を想定する際に、男性よりも低い女性の賃金水準をどのように扱うのか。この場合、

(1) 現在の女子被保険者の平均標準報酬22.0万円は、就労期間が短く結果として賃金が相対的に低い者も含めて算定されたものであるが、ある程度の期間就労するモデルを考えた場合には、この賃金水準についてどう考えるか。

(2) 男女の平均標準報酬の差を考慮するのか。あるいは、男女平均報酬を用いることとするのか。

(3) 将来に向かっての賃金水準についてどのように考えるか。

共働き世帯のモデルについて、これらの論点について今後綿密に検討

 これらの論点について今後綿密に検討を重ねて、ほとんどの女性が一定の厚生年金加入期間を持つ時代にふさわしい、モデルとしての共働き世帯を想定していくことが必要である。

単身世帯のモデルに係る論点

 また、単身世帯には様々な形態(生涯未婚や離婚、死別に伴うもの等)が考えられる中で、単身世帯のモデルを検討する場合には、どのようなライフコースを送る単身世帯をモデルとして想定することが可能なのか、適当なのか、その場合の賃金水準、就労期間についてどう考えるのかといった論点がある。

(2) 共働き世帯等を想定したモデルによって年金水準をどのように設定するか

 年金水準について、これまでは片働き世帯をモデルとして年金額が平均的な現役男子労働者の手取り賃金の一定割合(概ね6割)となるように設定してきたが、共働き世帯等を想定したモデルを検討するに当たって、適切な年金水準の設定についてどう考えるかが論点となる。具体的には、以下の論点が考えられ、これらについて今後さらに十分に議論を重ねていくことが必要である。

(1) 年金水準の設定に当たってどのモデルを基準に考えるか。

(2) 現役世代の共働き世帯等の平均的な賃金等を踏まえ、適切な年金水準をどのように設定するか。(資料V−1−4:勤労者世帯と高齢者夫婦世帯の消費支出

(3) 年金水準の設定に当たって、共働き世帯、片働き世帯、単身世帯のバランスや公平をどのように考えるか。



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