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II 女性と年金問題とは?

 まず、検討会では、現在の女性のおかれている状況を確認し、年金制度に関してどのような点が課題として指摘されているのかについて、整理を行った。


1 女性のライフスタイルの多様化

 女性の社会進出、家族形態や就業形態の変化等、女性のライフスタイルの多様化が進展している。

(1) 女性の就労の多様化

(1) 女性の就労に対する意識

就労に対する積極的な意識の高まり

 女性に対する定期的な世論調査(総理府「男女共同参画社会に関する世論調査」等)の推移を見ると、「結婚をしても職業を持つ」という意識がかなり一般的となってきている。このうちで、「子供が大きくなったら再び職業を持つ方がよい」という意識がもっとも大きい割合を占めるものの、「子供ができてもずっと職業を続けている方がよい」という志向も、次第に高まってきている。(資料II−1:女性の年齢別就業意識の推移
 また、未婚女性の多くは、理想のライフコース(一生を生きていく道筋)として、「結婚し子供も持つが、仕事も一生続ける」(「両立コース」)、あるいは「結婚し子供も持つが、結婚出産時期にいったん退職し、子育て後に再び仕事を持つ」(「再就職コース」)をあげており、なかでも「両立コース」をあげる者は増えている。(資料II−2:未婚女性の理想と予定のライフコース
 こうした就労に対する積極的な意識の高まりが見られる一方で、就労の実態は、必ずしも上記のような希望どおりにはなっていない。未婚者の予定のライフコースをみると、理想のライフコースと比べて、「両立コース」を挙げる者は少なくなる。また、既に出産、子育てを終えた実際の既婚女性のライフコースを未婚者の理想のライフコースと比較してみると、「再就職コース」を歩んでいる者は少なく、「結婚あるいは出産の機会に退職し、その後は仕事を持たない」(「専業主婦コース」)を歩んでいる者は多くなっている。

(2) 女性の就労状況

女性の就労は増加してきている

 女性の労働力人口あるいは労働力率は、経済的な要因もあって最近は伸び悩みが見られるものの、昭和50年代以降、女子雇用者の増加及び就業期間の伸長に伴い、長期的には増加の傾向をたどってきている。また、女性の年齢階級別の労働力率は、我が国ではM字型カーブを描くが、このカーブ全体が上方にシフトしてきている。(資料II−3:労働力人口及び労働力率の推移資料II−4:女性の年齢階級別労働力率の推移資料II−5:男女別雇用者数の推移資料II−6:平均勤続年数の推移資料II−7:勤続年数階級別女性労働者構成比の推移
 未婚者は20歳代後半〜30歳代前半にかけて約9割が労働力化しており、晩婚化の傾向と合わせて考えると、ほとんどの女性が、期間の長短はあるものの何らかの就業経験を有するようになっていると考えられる。一方で、有配偶者に限った女性の労働力率について平成元年から平成11年の間の変化をみると、雇用者となる者の割合は多くなっているが、労働力全体ではほとんど変化がみられない。また、末子の年齢階級別に女性が週35時間以上の雇用者となる割合の推移を見ると、同期間でほとんど変化がみられない。これらのことから、結婚や出産、育児を機に仕事を辞めるというライフコースをたどる女性は依然として少なくないと考えられる。(資料II−8:女性の配偶関係、年齢階級別労働力率の推移資料II−9:末子の年齢階級別母の就業状態

女性の短時間雇用者等が増加

 女性の短時間雇用者は、近年増加が著しい(平成11年で773万人)。また、女性雇用者に占める短時間雇用者の割合(平成元年25.2%→平成11年37.4%)は、男女合わせた雇用者全体に占める短時間雇用者の割合と比べても、急激な伸びを示している。(資料II−10:短時間雇用者数の推移(非農林業)) また、派遣労働者についても、全体の雇用者に占める割合は、わずかではあるが近年増加を続けており、その7割強が女性となっている。(資料II−11:派遣労働者数の推移

被用者年金の適用を受けない働き方が増加

 短時間雇用をはじめとして、被用者年金の適用を受けない働き方が増加している。雇用者に占める第2号被保険者の割合は、近年減少を続けており、特に女性における減少は、男性に比べて大きい(女性の場合、昭和61年度65.1%→平成11年度58.9%)。(資料II−12:雇用者に対する第2号被保険者の割合の推移
 また、「平成7年パートタイム労働者総合実態調査報告(労働大臣官房政策調査部)」によれば、短時間労働者(パートタイム労働者)のうち社会保険の適用を受けている者は、35%強にとどまっている。(資料II−13:社会保険の加入状況別パート労働者割合
 さらに、女性の各年齢階級別に「雇用者比率」と「厚生年金被保険者比率」を比較してみると、両者の乖離はこの10年間において全般的に拡大しており、特に40歳以降や20〜24歳層でこうした乖離が顕著となっている。これは短時間労働等、被用者年金が適用されない働き方の増加を反映していると考えられる。(資料II−14:女性の年齢階級別雇用者比率(対人口・非農業)及び厚生年金被保険者比率(対人口)の推移
 このように女性の就労は増加してきているが、必ずしも被用者年金の適用につながっておらず、女性にとって、被用者としての年金保障という観点から、このことをどのように考えるかが課題である。また、子育て期である20歳代後半から30歳代にかけて、被用者年金の被保険者比率が低下する傾向にも、変化はみられていない。

男女とも若齢層において、被用者年金の適用を受けない働き方が増加

 なお、厚生年金の適用率は全体的に低下傾向にあるが、特に10歳代後半や20歳代前半といった若齢層において、女性に限らず被用者年金の適用を受けない働き方が増加している。このことは、女性と年金という問題を超えて、年金制度全般に関わる問題として受け止める必要がある。(資料II−15:男性の年齢階級別雇用者比率(対人口・非農業)及び厚生年金被保険者比率(対人口)の推移

(2) 家族形態の変化

晩婚化、未婚率の上昇、離婚の増加

 晩婚化が進んでおり、各年齢層において未婚率の上昇がみられる。また、離婚件数が大きく増加しており、年齢別に見ると、若い世代に加えて、40歳代、50歳代という中高齢者で比較的同居期間の長い夫婦間の離婚も増加している。(資料II−16:年齢階級別未婚率の推移資料II−17:結婚・離婚件数の推移資料II−18:年齢階級別離婚件数の推移資料II−19:同居期間別にみた離婚件数と構成割合

核家族化と高齢化の進展の結果、老後の期間の長い女性に対する年金保障の重要性が高まる

 さらに、核家族化と高齢化の進展の結果、高齢者のみの世帯や単身高齢女性が増加しており、老後の期間の長い女性に対する年金保障の重要性は一段と高まっていると考えられる。(資料II−20:平均寿命等の推移資料II−21:単身世帯の年齢別割合と年齢階級・性別にみた原因別単身世帯数資料II−22:男女別65歳以上の単身世帯数及び単身世帯割合の推移


2 女性のライフスタイルの多様化に対応した近年の年金制度の動き

 こうした女性のライフスタイルの多様化に対応して、年金制度はこれまで様々な措置を講じてきている。(資料II−23:日本の年金制度における女性に関係する制度改正の経緯

(1) 基礎年金制度の導入等(昭和60年改正)

資料II−24:昭和60年改正による基礎年金制度(及び第3号被保険者制度)の導入

昭和60年改正前の年金制度の問題点

 昭和60年改正前の厚生年金制度は、家計の主たる生計維持者の長期間就労を前提に、家計の主たる生計維持者への年金で夫婦二人の老後生活をカバーするという考え方で設計されていた。したがって、長期間就労した被用者に対する年金給付が夫婦世帯をカバーする水準に設定され、また、被用者世帯の専業主婦は年金制度の強制加入対象とせず、自営業者等を対象とする国民年金に任意加入できる制度となっていた。
 このような制度について、

○ 共働き世帯や国民年金に任意加入した妻がいる世帯では、世帯として見た場合に過剰給付となる場合がある、

○ 被用者世帯の専業主婦が国民年金に任意加入していない場合、離婚したときや障害を負ったときに、年金保障が受けられない、

といった問題が指摘されていた。

昭和60年改正ー女性の年金権の確立、世帯類型に応じた給付水準の分化

 こうした問題を解決するため、昭和60年改正では、自営業者等を対象としていた国民年金を全被用者世帯に適用拡大した基礎年金制度を導入し、生活の基礎的な部分に対応する年金給付については、基礎年金として個人を単位として給付するとともに、以下のような形で第3号被保険者制度を創設した。

○ 自営業者等、従来の国民年金の適用対象を第1号被保険者、被用者年金の被保険者を第2号被保険者とするとともに、被用者(第2号被保険者)の被扶養配偶者も、第3号被保険者として国民年金の強制適用対象とする。

○ 片働き世帯の老齢年金は従来の水準を維持しつつ、「夫と妻それぞれの基礎年金+被用者の報酬比例年金」とする。

○ 通常は所得のない第3号被保険者に係る費用負担については、独自の負担を求めることとせず、被用者年金の被保険者全体の保険料拠出により賄う。

 このような整理を行ったことにより、

○ 単身世帯   基礎年金+報酬比例年金
○ 片働き世帯  夫と妻それぞれの基礎年金+報酬比例年金
○ 共働き世帯  夫と妻それぞれの基礎年金+夫と妻それぞれの報酬比例年金

という形で、世帯類型に応じた給付水準の分化が図られた。この結果、単身世帯や長期間就労する共働き世帯については、これまで夫婦二人の老後生活をカバーするように設計された年金が一人一人に給付されていたのが、基礎年金部分については一人分に整理され、年金水準の適正化が図られた。
 こうした基礎年金制度や第3号被保険者制度の導入は、基礎年金部分について専業主婦も含めた女性の年金権を確立するとともに、共働き世帯の増加等に対応し世帯類型に応じた給付水準の分化を図り、ライフスタイルの多様化に制度的にも一部対応したものである。

(2) 遺族年金の改善(昭和60年改正、平成6年改正)

昭和60年改正

 昭和60年改正では、従来の厚生年金制度において老齢年金の1/2とされていた遺族年金の給付水準について、生計維持者が死亡した場合に生計費が単純に1/2になるとはいえないことを考慮して、子を有する妻や中高齢の妻に対する給付の重点化を図り、その水準の改善を行った。(資料II−25:基礎年金制度の導入に伴う厚生年金の若齢の遺族配偶者に対する遺族年金の仕組みの変化

○ 基礎年金制度の導入に伴う2階建て年金への再編成により、子を有する妻に老齢基礎年金と同額の遺族基礎年金(及び子の加算額)を保障する。

○ 遺族厚生年金については、死亡した配偶者の報酬比例の老齢厚生年金の3/4相当額とした。(なお、高齢期の報酬比例年金は、自らの老齢厚生年金か遺族厚生年金のどちらかを選択する。)

平成6年改正

 平成6年改正では、共働き世帯の増加等を受け、自らの保険料納付実績が年金額に反映される方向で、遺族厚生年金と老齢厚生年金の併給調整の仕組みを改善することとした。具体的には、高齢期の報酬比例年金について、自らの老齢厚生年金の1/2と遺族厚生年金の2/3(=死亡した配偶者の老齢厚生年金の1/2相当)を併給するという選択肢を創設し、受給者が計3つの選択肢の中から選択できることとした。

(3) 育児期間に係る配慮措置(平成6年改正、平成12年改正)

平成6年改正

 平成6年改正では、育児に対する支援策として、育児休業法に規定する育児休業制度を利用する者を対象として、

○ 育児休業を取得した期間について、通常この間賃金がなくなることから、厚生年金保険料の被保険者本人負担分を免除し、

○ 当該保険料免除期間について、育児休業直前の標準報酬に基づいて年金額を算定する、

という配慮措置が講じられた。本来、賃金に応じた給付を行うことが報酬比例年金の原則であるが、育児支援の観点から、実態上賃金がない育児休業期間について、特例的に年金給付において配慮を加えたものである。

平成12年改正

 さらに平成12年改正では、当該育児休業期間中の厚生年金保険料の事業主負担分についても免除措置がとられることとなった。


3 年金制度において対応が必要と考えられる課題

 しかしながら、ライフスタイルが多様化している女性と、現役期の生活の履歴が反映する年金制度との間には、まだ次のような問題が存在している。(資料II−26:女性のライフスタイルの変化・多様化と年金制度

(1) 多様化する女性のライフスタイルと標準的な年金(モデル年金)の考え方との乖離

女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定し、給付と負担のあり方を考えていくことが課題

 現在の年金制度の被用者に対する給付設計は、40年間平均的な賃金で働いた夫及び全期間専業主婦だった妻からなる夫婦世帯を標準に、夫と妻二人の基礎年金を含めた世帯全体の年金額が、平均的な現役男子労働者の手取り年収の6割相当の水準となるように設定されている。(資料II−27:平成12年改正後の被用者の標準的な年金額)したがって、現在のモデル年金では、ライフスタイルの変化の大きい女性にとって、自分が働いて保険料を納付することによってどのような年金を受給できるのかが判りにくく、また、期間の長短はあるにせよ、多くの女性が就労期間を有するようになっている実態からも乖離している。
 女性の就業が増加し、そのライフスタイルが多様化する中で、女性の一定の厚生年金加入期間を前提としたモデル年金を想定し、給付と負担のあり方を考えていくことが課題となっている。

(2) 被用者年金の加入期間の短さ、低賃金に伴い相対的に低い水準にとどまる女性の年金

 女性の就業が増加しているものの、平均的に見た場合、男性と比較して、女性は被用者年金の加入期間が短く、また賃金も低い。結果として、女性が自ら保険料を納付して得ることのできる年金額は、男性に比べて低くなっており、また、遺族年金など夫の保険料納付による保障を含めて全体的に見ても、男性と比べて、女性が受けとる年金額は低くなっている。(資料II−28:老齢厚生年金新規裁定者における平均被保険者期間、平均標準報酬月額、年金額の比較資料II−29:公的年金・恩給の年齢別受給額の男女比較

(1) 短時間労働者等に対する厚生年金の適用

常用的使用関係に係る基準を見直し、短時間労働者等に対して厚生年金の適用を拡大することが課題

 このような女性の被用者年金の加入期間や賃金に係る問題については、雇用システムや雇用行動、税制、各種の社会保障制度、育児環境、さらには人々の意識といった様々な要素が影響しているものと考えられる。
 年金制度との関わりから言えば、女性の被用者年金の加入期間が短い点については、まず、現行制度において、短時間労働者の多くが厚生年金の適用を受けない扱いとなっていることの影響が考えられる。
 現在の厚生年金制度では、常用的使用関係のある雇用労働者に対する年金保障を目的としており、常用的使用関係があるかどうかについての基準、すなわち厚生年金の適用基準は、「通常の就労者の所定労働時間及び所定労働日数のおおむね4分の3以上である就労者については、原則として健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取り扱うべきものであること」とされている。
 前述のように、近年、女性の短時間労働者が増加するなど、就業形態の多様化が急速に進展する中で、被用者年金の適用を受けない働き方が増えており、その結果、女性の労働力率が高まり就業期間も伸びている一方で、平均的に見た女性の厚生年金の加入期間は、男性と比べて相対的に短い状態に留まっている。
 また、こうした厚生年金の適用基準が、被扶養者認定基準(年間収入が130万円未満であること)とも相まって、女性の間の就業調整や短時間労働者の賃金抑制の要因の一つとなっているとも指摘されている。(資料II−30:女子パートタイム労働者の年収分布(平成7年)
 こうした中で、労働政策の分野では、個人の能力が最大限に発揮され、人的資源が有効に活用されることが、国民経済の発展の上でも重要であるという観点から、短時間労働等の多様な就業形態について、パートタイム労働法、労働者派遣法等を通じ、適正な労働条件の確保等が図られているところである。
 年金制度においても、多様な就業形態の下で働く人々が必要な年金保障を受けられるよう、就業に中立的な仕組みとし、男性に比べて働き方が多様な女性の年金保障を充実したものとするとともに、制度の支え手を増やすとの観点から、常用的使用関係に係る基準を見直し、短時間労働者等に対する厚生年金の適用を拡大することが課題となっている。
 また、育児期における勤務時間の短縮措置や、いわゆるワークシェアリングとの関わりにおいても、当該基準の見直しが必要であるとの意見も出ている。さらに、零細事業所(常時5人未満の従業員を使用する個人の事業所等)に雇用される労働者に対する厚生年金の適用のあり方についても、検討を求める意見も出ている。

(2) 育児期間等に係る年金制度上の配慮措置

育児等を理由とする休業や離職、短時間労働の選択等に対する年金制度上の配慮措置が課題

 現在、女性が育児等の家族的責任を主に担っているという実態があるため、休業、離職したり、短時間労働者となることを選択するという事態が生じており、その結果として、女性の被用者年金の加入期間が短くなったり、賃金が低くなっていると指摘されている。
 前述のように、現行の年金制度では、育児・介護休業法(「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)に規定する育児休業制度を利用する者を対象として、育児期間に係る配慮措置がとられている。
 一方で、30歳代〜40歳代前半の有配偶の女性の労働力率にはほとんど変化がみられない。結婚や出産、育児を機に仕事を辞めるというパターンは依然として多く、子供を産み育てる女性の被用者年金への加入期間が短いという実態にも変化は見られない。
 今後、少子高齢化の進展が見込まれる中で、安心して子供を産み、育てるための社会環境の整備が重要な政策課題となっており、特に仕事と育児等の家庭生活との両立を可能とするための支援策が求められている。世代間扶養の仕組みを基本として成り立っている公的年金制度においても、女性に対する年金保障の充実という観点から、また、将来の年金制度を担う次世代の育成を図る観点から、育児を理由とする休業や離職、短時間労働の選択等に対して年金制度上の配慮措置をさらに講じるかどうかという点が課題となっている。
 介護休業期間についても、育児休業期間と同様の措置を求める意見も出ている。

(3) 様々なライフスタイルを選択する女性の間での不公平感

 現在の年金制度が、被扶養の女性を優遇しているのではないか、様々なライフスタイルを選択する女性の間で給付と負担の関係が公平となっていないのではないかとの声が、近年高まっている。

(1) 第3号被保険者制度

第3号被保険者制度の廃止又は見直しを求める様々な意見

 第3号被保険者は、本人自身が保険料を納付することなく年金(基礎年金)が保障されているが、昭和60年改正による制度創設後における女性の就労の進展等、経済社会情勢の多様な変化の中で、

(@) 第3号被保険者を抱える片働き世帯を優遇する制度であり、共働き世帯や単身世帯(ひとり親世帯を含む。)と比べて、老齢年金や遺族年金について給付と負担の関係が不公平となっているほか、短時間労働者が第3号被保険者に留まろうとして就業調整を行う原因となり、女性の就労や能力発揮の障害となっている、

(A) 第3号被保険者の中には、短時間労働により賃金を得ている者もおり、また、所得のない者であっても、夫婦は婚姻費用を分担して負担する義務があること等を考えると、配偶者が第2号被保険者で賃金を有しているのだから、第3号被保険者にも保険料負担能力はある。また、家事労働による帰属所得を考慮することによっても、保険料負担能力があると考えることはできる、

(注)婚姻費用とは、婚姻共同生活を維持するために必要な費用のことであり、夫婦間において資産、収入その他一切の事情を考慮して分担すべきことが定められている(民法第760条)。

(注)帰属所得とは、持ち家などの自己の財産の利用や家事労働等から得られる経済的な利益を所得と観念するもの。

(B) 第3号被保険者は世帯を維持し得る賃金を一人で獲得できる第2号被保険者により扶養される者であり、所得のない者ととらえる必要はない。このような第3号被保険者は減少傾向にあり、また、夫の賃金が高くなると専業主婦世帯の割合が高まるという実態がある中で、第3号被保険者を第2号被保険者全体で支えることは社会的に受容されない、

(C) 第1号被保険者である自営業者の妻や母子家庭の母は、個別に保険料を納めなければ給付が受けられず、保険料免除を受けても給付は減額されるのに対し、第3号被保険者のみ保険料を払わなくてよいのは不公平である、

(D) 育児・介護等を行っている者はともかくとして、そうした事情のない者は、自ら働かないことを選択しているにもかかわらず、保険料を納付する者と同じ基礎年金給付が保障されるのは不公平である、

(E) 第3号被保険者が自ら保険料を納めないことで、年金制度への関心が薄れがちとなり、夫の転職や退職等により年金制度上の地位が変更された場合の手続漏れ等も生じている、

といった意見があり、第3号被保険者制度の廃止又は見直しを求める声も、近年強くなってきている。

(2) 遺族年金制度

遺族年金制度の廃止又は見直しを求める様々な意見

 遺族年金制度についても、

(@) 年金制度において個人単位化の考え方を貫き、将来的には、遺族年金制度を廃止する、又は希望する者だけが加入する別建ての制度とすべきである、

(A) 高齢の遺族配偶者に対する遺族厚生年金については、夫婦世帯で現役期の賃金の合計額が同じ場合、片働き世帯の遺族の方が共働き世帯の遺族よりも受給できる遺族年金額が大きくなり、給付と負担の関係が同一とならない。また、働いて払った保険料が、配偶者の死後は何の給付にもつながらない場合があるのはおかしい、

(B) 男性と女性で遺族年金の支給要件に違いがあるのは適切ではない、

(C) 夫婦が高齢になって離婚し、その後元の夫が別の女性と再婚した場合に、元の夫が働いている間生計をともにしていた元の妻には遺族年金が支給されず、高齢になってから結婚して妻となった者には支給されるのはおかしい、

といった意見があり、遺族年金制度の廃止又は見直しを求める声も出ている。

(4) 女性の長い老後期間に対する保障

 平均寿命の男女差等から女性の老後期間は長く、核家族化の傾向と相まって、女性が人生の最後を単身で過ごすことになる可能性が高まっている。一方、高齢の単身女性の所得水準は高齢の単身男性や高齢者夫婦等に比べて低くなっており、このような老後期間の長い女性に対して、年金制度においてどのような老後の保障を行うかは重要な課題である。(資料II−31:65歳以上の者のいる世帯の平均所得金額資料IIー32:高齢者における生活保護適用状況について(平成12年)

(1) 離婚時の年金分割

離婚時に夫婦の間で年金の分割が可能となるような制度整備が課題

 近年、離婚件数、特に中高齢者等の比較的同居期間の長い夫婦における離婚件数が増加している。このような状況の中で、男女の間の年金受給額には大きな差があり、十分な就労所得を得ることも難しい中高齢期に離婚した女性は、老後も低い所得に甘んじなければならないことが多いと指摘されている。
 現行制度では、生活の基礎的な費用に対応する基礎年金部分は夫と妻それぞれに支給されるが、報酬比例年金部分については、被保険者本人のみに支給され、離婚した配偶者には、報酬比例部分について直接的には何の権利もない仕組みとなっている。また、離婚の際の財産分与時の年金の取扱いについても、判例において確立された取扱いはみられない。
 こうした中で、現役期と大きく変わらない老後の生活を保障するという年金制度の趣旨に鑑み、離婚時に夫婦の間で年金の分割が可能となるような制度整備をすべきではないかという点が課題となっている。

(2) 遺族年金の役割

自ら働いて保険料を納付したことができる限り給付額に反映される仕組みの構築が課題

 夫の死亡後に老後の相当期間を単身で過ごす可能性の高い中で、被用者の妻にとって、その高齢期の所得保障を充実させる上で、遺族年金は重要な役割を果たしている。
 前述のように、高齢期の遺族厚生年金は、夫の保険料納付に基づく老齢厚生年金が夫亡き後遺族厚生年金に転ずる仕組みであり、これまで充実が図られてきたところであるが、女性の就業の増加、多様化が進展する中で、自ら働いて保険料を納付したことができる限り給付額に反映される仕組みを構築することが課題となっている。

(5) 6つの課題

 女性のライフスタイルの多様化に対して、これまでも年金制度は対応を講じてきているが、以上見てきたように、なお以下のような6つの分野において、年金制度設計上検討していくべき具体的な課題がある。

(1) 標準的な年金(モデル年金)の考え方
(2) 短時間労働者等に対する厚生年金の適用
(3) 第3号被保険者制度
(4) 育児期間等に係る配慮措置
(5) 離婚時の年金分割
(6) 遺族年金制度


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