(別添1)
「キャリア健診研究会」報告書 概要
I はじめに
○ 企業や働く者を取り巻く状況が大きく変化する中、今後とも我が国が活力を維持していくためには、労働者が、自ら環境の変化に適応し、生涯を通じて能力を向上させ、意欲をもってやりがいや充足感を感じながら自律的にキャリアを形成しつつ、いきいきと働くことができる社会の実現が必要。
○ 本調査研究事業においては、企業における効果的な人材育成を促進する方法(企業向けキャリア健診)の作成及びキャリアの節目節目において生活上の問題も含めた従業員個人のキャリア形成に関する相談(個人向けキャリア健診)を行う事業の実施方法について検討。
○ 「キャリア健診」とは、
(1) 企業内において、従業員のキャリア形成が円滑に行われているかについての現状を把握し、改善の方向性を見出していくとともに、
(2) 個々の従業員においても、自身のキャリア形成についての現状を把握し、改善の方向性を見いだしていく
ものであり、これらの取組を通じ、従業員が意欲や目標を持っていきいきと働くことを支援するもの。
II 先進的な取組を行う企業に対するヒアリング(結果概要)
・ 従業員のキャリア形成について先進的取組を行っている企業においては、節目ごと又は随時のキャリア相談、節目ごとのキャリア研修、社内の良好でオープンなコミュニケーション、経営トップのキャリア形成方針の明示等が、複数の企業に共通する要素として見られた。
・ これらの企業が、キャリア形成について取り組んでいる内容は、狭義の「職業・仕事における能力開発」にとどまらず、広義の「人生と生き方の表現」、「可能性開発」、「生涯にわたって人生をトータルに強くすること」等を志向するものが多かった。
・ また、くり返し使われたキーワードとしては、「従業員の自律・自立」、「企業と従業員の共生・相互成長」、「コミュニケーション・対話」等が挙げられる。
・ 各先進企業においては、従業員のキャリア形成のために、大きく次の3つの点を意識した制度・取組の構築がうかがえる。
(1) 自己理解の機会
(2) キャリア目標を考える機会
(3) キャリアを形成するための行動についての機会
III 企業向けアンケート調査(結果概要)
企業向けキャリア健診の設計のため、企業における従業員のキャリア形成に関する施策の取組状況等について調査した結果は、以下のとおり。
1.企業によるキャリア形成支援の状況
・ 企業が最も取り組んでいるのは「スキルや専門知識の習得」に関する機能を果たす取組であり、次が「キャリア目標」に関する取組である。
・ 企業の取組が最も少ないのは、仕事や働き方の「選択肢」に関する機能を果たす取組である。しかし、「選択肢」に関する機能を果たす取組は、従業員の希望は高く、従業員の満足度が低い。
・ 企業の取組状況にかかわらず、企業のキャリア形成支援についての取組への従業員の満足度は全体的に低い。
・ 人事担当者が「離職率が低下した」と捉えている機能の上位に、働き方等の選択肢に関する機能が多く含まれている。
・ 人事担当者が「業績が向上した」と捉えている機能の上位に、従業員と企業の双方向のかかわり(情報提供、コミュニケーション)に関する機能が多く含まれている。
2.従業員から見たキャリア支援状況
・ 従業員から見て、各企業におけるキャリア形成支援状況は、期待している水準の約6割。男性に比べて女性の期待充足度は低い。
・ キャリア意識により分類すると、キャリアに無関心な層では、そもそも期待が低いことがあって、現実評価(満足度)は他の群と大差ないが、充足度が高い。次に充足度が高いのは、キャリア意識の高い層である。
3.企業から見たキャリア形成支援の意義
・ キャリア意識の高い層ほど、現在の仕事への意欲や新しいことへの積極性が高い傾向がある。
4.従業員の意識とキャリア形成施策との関係
・ 最もキャリア意識について積極的な回答をした群と最も消極的な回答をした群とを対比したところ、仕事への興味を高め、仕事に積極的に挑戦する姿勢等にはかなりの程度、関連が見られた。
・ 企業がキャリア研修を実施し、かつ、仕事内容の選択が可能である場合には、従業員の積極挑戦性、キャリア・デザイン明確性が高い傾向が見られた。
IV 個人向けキャリア健診についてのニーズ調査(結果概要)
従業員に対してモデル的にキャリア健診を行い、キャリア形成のニーズ等について調査した結果は、以下のとおり。
・ 多くの従業員において、キャリア健診により、キャリアへの関心が高まる傾向。
・ キャリア形成に対する意識を高める効果については集合研修、理解の度合いに関しては個人面談が優れている傾向。
・ 従業員全体で見ると、会社に望む支援としては、将来イメージに関する支援が最も多い。
V キャリア健診の概要
1.意義
○ キャリア健診は、企業において、従業員が意欲や目標を持っていきいきと働くことができるよう、企業におけるキャリア形成支援を促進し、経営者及び人事の施策としてのヒントを得てもらうとともに、従業員のキャリア意識を喚起することに寄与するもの。
○ キャリア健診の基盤となる考え方の一つは、「企業と従業員の共生」。従業員のキャリア形成が組織の業績を高める機能として特に重要な効果を発揮するのが、企業と従業員との「対話(コミュニケーション)」。
○ キャリア健診は、企業と従業員との「対話」を促進するもの。具体的には、
(1) 企業側から見て、自社内の人材育成の取組がどのように行われているか
(2) 従業員側から見て、自社内の人材育成の取組状況はどのように捉えられているか
についての現状を把握し、その間のギャップを見ること、さらに、
(3) 従業員が意欲・目標を持ち、いきいきと働いているかどうか
を企業側が把握することから、企業と従業員の「対話」を促進し、企業内における人材育成についての課題の把握の契機とし、企業と従業員のより良い共生を実現していくためのもの。
2.個人のキャリア形成を促進するための要素
○ 個人のキャリア形成を促進するための要素としては、次の3つが考えられる。
1)自己理解
自分自身の「欲求・動機(モチベーション)」、「能力・才能」、「価値観」をどれくらい明確に理解しているか、自分自身のこれまでのキャリアについてどのように意味づけしているか等が含まれる。主観的な自己理解だけではなく、周囲からの評価とのすり合わせも含んだ現実的な自己理解である。
2)キャリア目標
仕事を中心とした人生における目標が明確であるか、目標へのモチベーション(それにどれくらい魅力を感じ、どれくらい実現したいと欲しているか)、組織目標との整合性(個人のキャリア目標と組織目標にどれくらい整合性があるか)等を指す。
3)キャリア形成行動
キャリア目標を達成するための具体的行動を起こせているか、それによりどのような成果が得られたか等を指す。
○ また、上記の要素に加え、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」や「健康」もキャリア形成促進のために重要。
3.企業において従業員のキャリア形成が促進される機能
○ 上記2の要素を踏まえると、企業内において従業員のキャリア形成が促進される機能としては、次の7つが考えられる。
1)必要な時に、生活・健康上の問題も含め、上司・同僚・社内外の専門家等に相談することができる。
2)会社の経営課題や会社から期待されている役割を知り、個人の意見とすり合わせる機会がある。また、自分自身について定期的に振り返り、自己管理することができる。
3)会社から「求める人材像」が示されており、従業員がキャリアの目標(短期・中期・長期)について考えたり、生活上の課題を踏まえてキャリアの目標を見直したりすることができる。
4)仕事の実施方法が分かりやすく伝えられており、必要なスキルや専門知識が明確である。
5)仕事内容・働き方・場所・勤務時間等についての選択肢を容易に知ることができ、選択することができる。
6)日常の業務を始め、研修の機会や勤務時間の短縮・休暇の取得によるキャリア形成のための時間の確保を通じ、キャリアの目標を具体的な行動につなげることができる。また、世代や階層に応じた経験や新しい経験を積むことができ、失敗しても再度挑戦することができる。
7)社内・外の交流を深める機会がある。
○ 上記の機能を具体的な取組として実施するに当たっては、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)」や「健康」といった観点も含めた取組とすることが重要。
4.企業向けキャリア健診の具体的実践方法
○ 企業向けキャリア健診は、各企業におけるキャリア形成支援の進捗度、課題等の評価・診断ツールとしての性格を持つもの。
一方、政策的な位置付けとしては、(1)企業、産業界全体としてのキャリア形成支援の取組の実態(進捗度)把握、属性・要因分析ツール、(2)各企業におけるキャリア形成支援のための総合的取組推進の契機提供ツールとしての性格を持つもの。
○ 企業向けキャリア健診の具体的実践方法は以下のとおり。特に(3)が重要。
(1) 「企業から見たキャリア形成支援状況についてのチェックシート」を使用し、企業側から見たキャリア形成への取組状況についての認識を把握。
(2) 「従業員から見たキャリア形成支援状況についてのチェックシート」を使用し、従業員側から見たキャリア形成への取組状況についての認識を把握。
(3) (1)及び(2)において把握した認識のギャップを見る。
(4) (3)により、既存の取組における各機能の充足状況や今後の取組の可能性を確認。
(5) 既存の取組の見直し
(6) 今後の課題の確認
(7) 併せて、「従業員のキャリア意識についてのチェックシート」を使用し、従業員のキャリア意識を把握。
5.個人向けキャリア健診プログラム
○ 個人向けキャリア健診プログラムは、個人から見ると、各労働者のキャリア意識啓発・自己啓発の進捗度、課題等の評価・診断ツールとしての性格を持つもの。
一方、政策的な位置付けとしては、(1)労働者全体としてのキャリア意識・実践の実態(進捗度)把握・属性・要因別分析ツール、(2)各労働者のキャリア意識啓発・自己啓発の取組の契機提供ツールとしての性格を持つもの。
○ 具体的には、「キャリアについての自己診断シート」を用いて、キャリアを考える枠組みを示し、これまで考えなかった視点や気づきを得られるようにするものであり、
(1) 自分自身のこれまでのキャリアについての振り返り
(2) 今後のキャリア形成に関する課題等の把握
等を行うもの。
○ キャリア健診の実施に当たっては、企業向けキャリア健診及び個人向けキャリア健診を一体として行うことにより、企業と従業員の「対話」が促進され、企業内におけるキャリア形成を促進。
また、キャリア健診の実施に当たっては、キャリア・コンサルタントがその主要な担い手となることが期待される。
○ 本調査研究事業が、企業内におけるキャリア形成支援促進の一助となり、企業内において、従業員が意欲や目標を持っていきいきと働く社会の実現のために寄与することを期待。