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第14章 虐待致死事例に学ぶ

第14章  虐待致死事例に学ぶ

1. 平成10年度「児童虐待に関する児童相談所の対応の実態に関する調査」
 厚生省では平成10年度、全国の児童相談所を対象に「児童虐待に対する児童相談所の対応の実態に関する調査」を実施した。この中で、児童相談所が受理した事例(受理年度不問)で平成9年度中に死亡を確認したものについて、事例の概要、児童相談所としての留意点等について報告・意見を求めているが、計15件の該当事例があった。
 以下、これら致死事例における児童相談所の対応の問題点を分析し、これを踏まえて対応に当たっての留意事項を述べる。

(1)  対応において問題のあった事例と留意事項
[1]  養育上の相談において「虐待を受けているのではないか」との認識が職員に希薄なため、十分な調査を行わず終結する等、対応に甘さが見られた事例
 主訴は他の問題であっても、その背後に虐待が絡んでいるケースが多い。虐待者本人や配偶者がわざわざ相談してくる背後には、深刻な問題が秘められている場合が多いことに留意すべきである。
 また、きょうだいの一人についての相談であっても、他のきょうだいが虐待を受けている場合もあること、また、虐待者とされている者の他にも虐待している家族がいることも考えられることから注意が必要。
 虐待を疑った場合は、速やかに幅広い情報収集を開始するとともに、子どもの身体の状況や表情等について直接観察を行うこと。

[2]  対応や援助について機関決定がなされず、担当者が一人で処理していた事例
 虐待事例には調査や判断の客観性がより強く求められること、虐待者による職員への加害の危険性があること、担当者の精神的負担が過大になりやすいこと等から、一人の担当者に調査や判断等を任せるのではなく、組織的対応を図ること。
 具体的には、随時ケース検討のための会議を開催する、逐次所長等に報告・相談させるとともに、複数職員で対応させる等の措置が必要。

[3]  介入に慎重なあまり迅速な対応ができなかった事例
 介入について学校や保健所等他機関の協力や理解が得られず介入を躊躇したり、児童相談所においても保護者等とのソーシャルワーク関係を重視するあまり、調査や一時保護等の介入に慎重になり過ぎる場合もあるが、事例によっては積極的介入が必要なものもあることに留意し、必要な場合は毅然とした対応を図ること。

[4]  関係機関との連携において中心的役割を果たすべき機関を明確にしなかったため、十分な調査や対応ができなかった事例
 虐待事例の場合、関係機関との連携が必要不可欠であるが、複数の機関が対応する場合、必ず主として対応する機関を明確にしておくこと。そうでないと、責任の所在が曖昧になり、調査や援助過程において一貫性、効率性を欠く等、適切な対応ができなくなる。特に、職権介入の必要性が予想される場合は、児童相談所が主たる対応機関となるか、主たる対応を他機関に委ねるとしても、その機関と常時緊密な連携を図る必要がある。

[5]  親子分離を図るべきか否かについて重大な判断ミスが見られた事例
 親子分離を図るべきか否かの判断には高度な専門性と客観性が求められる。このため、必要に応じケース検討の場に関係機関の参画を要請し、幅広い観点から検討するなど、的確な判断が行われるよう万全を期すこと。特に、低年齢児の場合、死亡等重大な結果につながる危険性が高いことを肝に銘じる必要がある。

[6]  措置解除の適否判断に誤りがあった事例
 措置解除の適否判断は、それまでの調査結果や関係機関からの情報はもとより、面会、外泊等を通じた親子の状況等も踏まえる等、総合的かつ慎重に行われるべきである。解除を決定する場合には、これを行う合理的理由が求められることは当然であって、いやしくも保護者の強引な引取要求に屈して、先の見通しがないまま引き取らせることがあってはならない。

[7]  措置解除後のフォローアップが不十分な事例
 親子関係の著しい改善が見られ措置解除を行った事例であっても、一定期間のフォローアップは不可欠である。その際、児童相談所だけでこれを行うには限界があるので、施設をはじめ、民生・児童委員(主任児童委員)、福祉事務所(家庭児童相談室)、児童家庭支援センター、保健所等、関係機関と密接な連携を図る必要がある。
 また、フォローアップ期間中に、管轄区域外に転出した場合は、新住所地を管轄する児童相談所にケース移管を行うべきことは言うまでもない。
 特に、他の都道府県に転居した場合については、転居先の居住地を管轄する児童相談所において、CA情報連絡表に基づく情報連絡システム等により情報を把握した場合は、転居元児童相談所に対し速やかに情報を確認し、新居住地での対応が円滑に行われるよう留意しなければならない。

(2)  その他の留意事項
 子どもが死亡する等、重大な結果を招いた事例については、その原因を徹底的に究明するとともに、改善策を明らかにすること。その際、担当者個人の責任に帰するのではなく、組織としての問題点、反省点等を明確にすること。なお、この場合、担当者は大きなトラウマ(精神的外傷)を抱えることになるので、その修復についても十分な配慮を行う必要がある。
[事例I]
   父の暴力に耐えかねた母が、長女(2歳)と次女(1歳)を父の元に置いたまま実家に戻ったが、「残してきた子どもたちのことが気がかりである」と児童相談所に相談。児童相談所の担当者は「必要であれば即応するので、まず母から父に連絡を取る」よう助言。同日、母から「父が『面倒を見ていく』と言っている。何かあれば児童相談所にまた相談する」との連絡があったが、半月後、栄養失調で長女が死亡、次女も緊急入院。食事を殆ど与えられていなかった。なお以前にも「父がベランダで子どもの足を持って振っている」旨の通告が福祉事務所に入り、福祉事務所は様子を見ることにしたが、このことは児童相談所には知らされていなかった。
(問題点)
 ・ 母が相談の電話をしてくるのは「よくよくのこと」と認識すべきであり、対応を母のみに任せるのではなく、児童相談所が中心となって事実関係の把握をすべきであったと思われる。特に乳幼児はハイリスクであることを十分認識すべきであった。
 ・ 虐待の通告を受けていた福祉事務所から児童相談所に連絡がないなど、関係機関のネットワーク化がなされていなかった。

[事例II]
   生後5カ月の時、父の虐待による大腿骨骨折で通告あり。母が本児を連れて別居。離婚を決意していたため、児童相談所は関与を中断。半月後、父の暴行により死亡。児童相談所には、父母が再度同居した等の情報は入っていなかった。
(問題点)
 ・ 来談時の保護者は精神的にも生活面においても極度の混乱状態に置かれている場合が多く、決心も揺らぎやすい。特に、バタードワイフの場合は一度夫と別れても再び同居する例が多いことが指摘されている。生活の安定を見極めるまでの間、フォローアップが必要である。

[事例III]
   福祉事務所から「6歳の男児。両目にあざ、円形脱毛あり、母の内縁の夫による虐待が疑われる」旨児童相談所に通告あり。3日後、市保健センターに家庭訪問を依頼するも、内縁の夫が暴力団員の可能性あり、アポなしの訪問に難色を示したため、本児宅周辺の様子を確認してもらうにとどめた。翌日、児童相談所、市福祉事務所、市保健センターの三者で対応協議、3歳児健診のフォロー等の理由で、市の保健師とソーシャルワーカーが家庭訪問を実施することになる。10日後、児童相談所が福祉事務所に家庭訪問結果を照会したところ、家庭訪問は未実施。4日後実母および内縁の夫の折檻により本児死亡。
(問題点)
 ・ 事前の情報では内縁の夫による虐待とのことであったが、実際には実母も虐待に加わっていた。
 ・ 通告があって約3週間後に本児が死亡するまで、どの機関も直接家庭や本児への調査を行っておらず、即応性に欠けていた。
 ・ 関係機関と連携する場合、相互の役割分担や日程等について具体的な打合せを行い、常に進捗状況を確認し合う必要がある。本事例の場合、児童相談所が主導性をもってケースマネージメントを行うべきであったと思われる。

[事例IV]
   2歳男児。父親による虐待からの保護を求めて母親から相談、乳児院入所措置に至る。その後両親は一旦離婚したが、再び復縁し、本児の引取りを要求するようになる。親族の葬儀のために外泊したことを機に、母親が引取りを主張、「父からの虐待はない」旨の確認を母から行い、そのまま措置解除としたが、その10日後に本児は両親の折檻により死亡。
(問題点)
 ・ 措置解除の理由が曖昧である。措置解除の合理的判断を下すまでは、引取り要求があっても拒否すべきであった。
 ・ 虐待の絡んだ事例は措置解除後もフォローアップを行うことが原則であるが、特に本事例のように、乳児であり、かつ保護者に押し切られる形で措置解除を行った場合はなおさらである。児童相談所だけでフォローアップを行うには限界があるので、児童相談所が中心となってセーフティーネットワークを構築すべきである。
 ・ 母からの相談では、父が虐待者とのことであったが、実際には母親も加担していた。当該虐待者以外の家族も虐待を行っている可能性があることを念頭において綿密な調査を行うべきであったと思われる。


2. 平成15年度「児童虐待死亡事例の検証と今後の虐待防止対策について」
 厚生労働省では、児童虐待防止法施行から平成15年6月末日までに新聞報道や都道府県・指定都市の報告により、厚生労働省が把握している125件(127人死亡)の虐待死亡事例について検証を行っている。具体的には、各都道府県・指定都市に対し調査を行い、養育支援が必要となりやすい要素をまとめるとともに、児童相談所が関わっていた事例、関係機関が養育力の不足している家庭として支援をしていたものの、虐待に至る可能性があるとの認識がなかった事例など、事例の分類ごとに、各自治体による検証結果や、それを踏まえた対策をまとめている。(別添14−1参照)
 特に近年の死亡事例の中には、虐待以外の相談として扱うことによって、虐待が背景にあるものの虐待を疑わず援助をしていたことが主な原因と思われる事例もあり、このような点についても注意が必要である。


3. 「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」の設置
 また、平成16年10月には、社会保障審議会児童部会の下に児童部会の下に「児童虐待等要保護事例の検証に関する専門委員会」を設置し、虐待による死亡事例の総体的な分析を行い、その結果を年2回のペースで公表することとしている。


4. 地方自治体における検証
 平成16年児童虐待防止法改正法により、地方公共団体は、子ども虐待の防止等のために必要な事項についての調査研究及び検証を行うこととされた。このような状況も踏まえ、各地方公共団体においても、管内で発生した虐待による死亡事例を検証することが求められている。
 子どもの福祉に職務上関係のある者は、過去の事例を十分に学び、虐待による死亡という最悪の事態を二度と起こさぬよう万全を期すことが必要である。



別添14−1


児童虐待死亡事例の検証と今後の虐待防止対策について

平成16年2月27日
厚生労働省 雇用均等・児童家庭局
総務課 虐待防止対策室

【調査目的】
 平成12年11月20日に児童虐待の防止等に関する法律(以下、「児童虐待防止法」という。)が施行され、各自治体でも虐待防止に向けた様々な取り組みが行われているところであるが、児童虐待はあとを絶たず、その中には死亡に至る重篤な事例も含まれている。
 このため、児童虐待防止法施行後の虐待死亡事例についての各自治体における検証・再発防止へむけた取り組みを厚生労働省において整理し、虐待防止に資する対策をとりまとめた。

【対象事例及び調査・分析方法】
 児童虐待防止法施行から平成15年6月末日までに、新聞報道や都道府県・指定都市の報告により、厚生労働省が把握している125件(127人死亡)の虐待死亡事例について、各都道府県・指定都市の児童福祉主管課に対し、以下の項目について回答を求めた。
 基本的には、各都道府県・指定都市の回答を整理しているものであり、必ずしも全ての論点が検証されているものではない。
 なお、虐待に至りかねない大きな要素の一つに「養育力の不足」があると考えられる。このため、養育力を補うことによる虐待の未然の防止や養育力不足の家庭の早期発見による対応が重要であり、その効果的な取り組みの方策を見出すべく回答を基に情報の整理を行った。虐待は様々な要素が絡みあって起こるものであり、仮に養育支援が必要となりやすい要素を多く有していたとしても、直ちに虐待のおそれがある家庭と判断することは誤りである。

(調査内容)
 1.  事例概要
 2.  家族構成
 3.  事件までの経過、関係機関の関与状況
 4.  事件発生後の経過、対応
 5.  虐待発生の背景、考えられる要因
 6.  本事例における分析、検証結果
 7.  再発防止のために講じた施策、取り組み

【調査結果】
I. 事例の概要
1. 事例の特徴
 被虐待児の年齢構成は、0歳児38%、次いで1歳児16%であった。就学前の6歳未満児で約9割を占める。(表1)
 さらに、0歳児のうち、月齢4ヶ月未満児が5割であった。(表2)
 虐待者の続柄は、実母54%、次いで実父18%、内縁関係にある者15%であった。(表3)
 虐待者の年齢構成は20代53%、次いで30代30%であった。(表4)

表1  被虐待児の年齢構成
年齢 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15以上 合計
人数 48 20 16 16 7 4 5 3 3 0 3 1 0 0 1 0 127
割合(%) 37.8 15.7 12.6 12.6 5.5 3.1 3.9 2.4 2.4 0 2.4 0.8 0 0 0.8 0 (虐待事例数
125件)
 1事例に複数の被虐待児がおり、虐待事例数125件とは一致しない

表2  被虐待児の年齢構成 (0才児再掲)
ヶ月 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 合計
人数 8 5 7 4 4 5 1 4 3 2 3 2 48
割合(%) 16.7 10.4 14.6 8.3 8.3 10.4 2.1 8.3 6.3 4.2 6.3 4.2  

表3  虐待者の続柄
虐待者 実母 実父 養母 養父 内縁関係 その他 合計
人数 77 26 2 7 22 9 143
構成割合(%) 53.8 18.2 1.4 4.9 15.4 6.3  
 1事例に複数の虐待者がいる場合があり、虐待事例数125件とは一致しない

表4  虐待者の年齢構成
10代 20代 30代 40代 50代以上
実母 5 39 29 3 1
実父 2 17 4 1 2
養母 0 2 0 0 0
養父 0 5 2 0 0
内縁関係 1 13 6 2 0
その他 0 0 2 2 5
総数 8 76 43 8 8
構成割合(%) 5.6 53.1 30.1 5.6 5.6

2. 養育支援が必要となりやすい要素  ※ 主たる要素を掲載(複数計上)
 虐待死亡125事例でみられた支援が必要となりやすい要素の総数延べ440項目のうち、養育環境に関連する要素53.6%、養育者に関連する要素38.9%、子どもに関連する要素7.5%となっている。

 養育環境(53.6%) ・・・
 ○ ひとり親家庭(未婚含む) 33
 ○ 内縁関係の家庭 29
 ○ 転居 27
 ○ 地域からの孤立 25
 ○ 子連れ再婚家庭 16
 ○ 長期分離あり 16
 ○ 定職無し(失業、無職) 16
 ○ 経済不安 16
 ○ 健康診査未受診 12
 養育者の状況(38.9%) ・・・
 ○ 育児不安 24
 ○ 第1子出産時、母親の年齢が10代 19
 ○ 養育者の性格的傾向(攻撃的・衝動的) 14
 ○ 養育者の感情、情緒不安定 13
 ○ 養育者の精神疾患 12
 子どもの状況(7.5%) ・・・
 ○ 未熟児 9
 ○ 子どもの疾患・障害 8
 ○ 発達の遅れ 7

※ これらの項目は、あくまで養育支援が必要となりやすい要素である。虐待は様々な要素が絡みあって起こるものであり、これらの要素を多く有していたとしても、直ちに虐待のおそれがある家庭と判断することは誤りである。

3. 事例の分類
児童相談所が関わっていた事例
 ※虐待以外の養護相談等で関わった事例も含む
24
(19.2%)
関係機関が虐待やその疑いを認識しながらも、児童相談所へ通告されないなど関係機関の連携が不十分であった事例 6
(4.8%)
関係機関が家庭に対して、養育力の不足している家庭として支援はしていたものの、虐待に至る可能性があるとの認識がなかった事例 56
(44.8%)
健康診査受診や保育所等の通所をしていたものの、その時点では明らかな問題が表出されておらず、養育支援を要する家庭として把握できなかった事例 22
(17.6%)
関係機関がまったく接点をもちえなかった事例 17
(13.6%)

4. 接点のあった関係機関  ※ 複数計上
 事例と接点のあった関係機関等として、延べ211機関のうち、保健・医療機関は47%、福祉機関は23%、保育・学校機関は14%、福祉担当窓口は8%、警察等機関は4%、その他の機関は3%であった。

〔保健・医療機関〕 100 (47.4%)
 ○ 保健機関 70(都道府県保健所7、市町村保健センター48、政令市保健機関 15)
 ○ 医療機関 30

〔福祉機関〕 49 (23.2%)
 ○ 児童相談所 24
 ○ 福祉事務所 12
 ○ 乳児院・児童養護施設 8
 ○ 民生児童委員 5

〔保育・学校機関〕 30 (14.2%)
 ○ 保育所・幼稚園 19
 ○ 小・中・高等学校 11

〔市町村福祉担当窓口〕 17 (8.1%)
 ○ 児童福祉担当課 8
 ○ 生活保護担当課 9

〔警察等機関〕 8 (3.8%)
 ○ 警察署・消防署 8

〔その他の機関〕 7 (3.3%)
 ○ 障害児通園施設 3
 ○ 婦人相談所(女性センター) 2
 ○ 母子生活支援施設 1
 ○ NPO(子育てサークル) 1


II. 事例の検証と対策
A.  児童相談所が関わっていた事例・・・24事例(19.2%)
【自治体による検証】
  ・ 虐待通告に対し、必要な情報収集や安全確認が不十分であった
  ・ 緊急受理会議も未実施のまま、担当者間での判断で動くなど、組織的対応がなされなかった
  ・ 子どもの状態が改善し、親族の援助も得られているといった状況から、危機的状況になっていることへの判断を誤った
  ・ 「大家族の中では、虐待は起こりにくい」との既成概念にとらわれ、介入が消極的になった
  ・ すでに多くの機関が関わっていたため、緊急性はないと判断し、児童相談所が中核的な役割をとらなかった
  ・ ケース協議の場で、具体的な役割分担がなされなかった
  ・ 施設からの一時帰宅や家庭引き取りにおける家族全体像の把握が十分でなかった、引き取り後のフォロー体制が構築されていなかった
【自治体が立てた対策】
  ・ 児童相談所体制の強化(児童福祉司の増員、虐待対応専門チームを設置)
  ・ 児童相談所における対応の強化(受理・措置会議における全員参加の徹底、児童虐待継続指導進行管理台帳を作成し1ヶ月ごとに進行状況を点検、休日の通告受理への対応マニュアルの作成、電話相談時間の延長、事例進行管理責任者の位置づけ、児童相談所職員による直接訪問での安否確認・調査を徹底)
  ・ 児童虐待をはじめとする単独の機関では対応が困難な事例に対し、児童相談所を中心に関係機関が共同して対応するサポートチームを各児童相談所に設置
  ・ 児童虐待対応専門総合アドバイザーの配置
  ・ 児童相談所と施設が連携した家庭復帰後の支援体制強化(家庭復帰支援員の設置)
  ・ 施設退所後のフォローを市町村に依頼する場合は、その内容を明示して依頼

B.  関係機関が虐待やその疑いを認識しながらも、児童相談所へ通告されないなど関係機関の連携が不十分であった事例・・・6事例(4.8%)
【自治体による検証】
  ・ 虐待やその疑いを認識しながらも、子どもの状態、家族の状況、養育環境の把握が不十分であり、緊急度の判断が適切でなかった
  ・ 子どもにあざなどが見られたが、虐待の事実の確信がもてず、児童相談所への通告が徹底されなかった
  ・ 転居前の居住地では、虐待情報交換会などを行い、ケースに関わっていたものの、転居先への情報提供等がなされず、継続支援が行われていなかった
【自治体が立てた対策】
  ・ 市町村虐待防止ネットワークの整備
  ・ 他県に転居したケースの移管・情報提供を徹底
  ・ 虐待通告の徹底(関係機関・住民に対し通告の徹底を周知、医療機関への通告徹底依頼)
  ・ 子どものケガが虐待によるものかどうかの判断をより的確に行うために地域の児童虐待に精通した医師との連携

C.  関係機関が家庭に対して、養育力の不足している家庭として支援はしていたものの、虐待に至る可能性があるとの認識がなかった事例・・・56事例(44.8%)
【自治体による検証】
  ・ 未熟児訪問指導、養育者の疾患、養育医療、育成医療、生活保護、児童扶養手当等で、関わりがあったものの、虐待につながる可能性があるとの認識が足りなかった
  ・ 母子保健事業での健康診査等が未受診であったものの、そのフォローがなされていなかった
  ・ 養育者の拒否等により、十分な情報収集や継続支援ができなかった
  ・ 複数の養育支援が必要となりやすい要素を抱える家庭であったにもかかわらず、関係機関の連携が不十分であったため、情報が共有されず、支援の必要な家庭と認識されなかった
  ・ きょうだい等の障害等の支援で関わっていたものの、その家族やきょうだいの状況把握が不十分であった
【自治体が立てた対策】
  ・ ケース情報管理システムの構築による情報の共有化
  ・ 児童虐待防止マニュアル、医療機関用児童虐待防止マニュアルの作成
  ・ 研修の充実と強化(虐待対応マニュアルの研修、医師・児童相談所職員への外傷識別研修、虐待通告対応の模擬訓練研修)
  ・ 母子保健事業における虐待防止対策の強化(健診における支援が必要となりやすい要素のある家庭の把握、健康診査未受診者への訪問、医療給付申請時での面接を徹底)

D.  健康診査受診や保育所等の通所をしていたものの、その時点では明らかな問題が表出されておらず、養育支援を要する家庭として把握できなかった事例・・・22事例(17.6%)
【自治体による検証】
  ・ 保健センターや医療機関での健康診査は全て受診していたものの、健康診査時には特に異常等は認められていなかった
  ・ 保育所や小中学校に通っていたが、子どもの状況に特別な変化等はみられていなかった
【自治体が立てた対策】
  ・ 産婦人科、小児科連携のもと、妊産婦健康診査や乳幼児健康診査の問診票に心の悩みをたずねる項目を追加

E.  関係機関がまったく接点をもちえなかった事例・・・17事例(13.6%)
【自治体による検証】
  ・ 子どもを車中に放置するといった、予測しえない状況での事件であり、関わりがもてなかった
  ・ 妊娠届を出さず、自宅で出産したため、事前の関わりがもてなかった
  ・ 養育者の住民票が未登録で、子どもの出生届けも未届けであり、子どもの戸籍がなかったため、関わりがもてなかった
  ・ 借金を理由として、親子が行方不明となり、住民基本台帳や学籍等を確認するも所在をつきとめることができず、関わることができなかった
【自治体が立てた対策】
  ・ 車内放置防止キャンペーン(県広報、新聞、テレビ、リーフレット配布)を実施し、市町村、喫茶環境衛生同業組合、商工会、遊戯業協同組合への協力依頼
  ・ パチンコ店内及び駐車場での事故防止のため、ポスター掲示、店内及び駐車場の定期的なパトロール等を要請する通知文を発出
  ・ 市内の区全てに虐待対策担当を配置


今後の虐待防止対策について
 虐待防止対策等の中核である児童相談所に関わる事例は多くの場合、極めて厳しい状況である場合が多いことから、そこでの迅速かつ組織的な対応を徹底すること、またその迅速かつ組織的対応の重要性について、所長以下全ての職員が自覚することが必要である。
 また、虐待事例の中には、児童相談所が接点をもちえていない事例が多くあった。「養育力 の不足している家庭」をあらゆる機会を通じて早期に把握し、さらに、一歩進めてそうした家庭にも必要な支援を必要な時期に行えるよう、虐待対策の担い手を増やすなど、支援体制の強化を図っていくことが重要である。

1. 児童相談所をはじめとする児童相談体制の強化について
 児童相談所の関与がありながら死亡に至った事例を検証すると、通告を受理した際に担当者間の判断のみでその後の対応が決定され、組織的な対応がなされていなかったり、親以外に支え手がいる、他の機関が関わっているので虐待は起こらない「だろう」と判断してしまうなどの不適切な対応が行われていた。
 児童相談所には立入調査や一時保護、さらには家庭裁判所の承認を得た上で子どもを親の意思にかかわらず施設等に入所させるといった強力な行政権限がなぜ与えられているのかを考えれば、児童相談所の判断が子どもの生命や安全・安心を守る最後の砦であるという強い自覚とそうした限界状況での判断を求められているという意識を再度確認することが必要である。その上で、そうした危機的な局面でも的確な対応ができるよう、子どもの安全最優先の考えに立ち、迅速な対応、組織的対応、機関連携に配慮した児童相談体制の確保が求められている。具体的にはそうした対応をとることができるだけの(1)人員の配置、(2)多様な人材の確保、(3)児童相談所内の組織的対応、(4)関係機関との日頃からの意志疎通と児童相談所を支える幅広い機関の参画、(5)関係機関も含めた危機管理意識の醸成、が必要である。
(1) 人員の配置
 児童虐待防止法施行直前の平成11年度における地方交付税上の標準団体の児童福祉司は16人であったが、総務省の理解を得て、平成15年度には23人であり、さらに平成16年度においても増員が講じられる方向で、総務省において調整されているところである。しかしながら、実際にはこの交付税の基準を下回る配置に留まっている自治体が55%(平成15年5月時点)にのぼっている。児童相談所は各自治体の機関であり、その体制整備については自治体の判断ではあるが、交付税はあくまで基準であり、地域における子どものおかれた状況を踏まえ、最適な人員配置が必要である。
(2) 多様な人材の確保
 虐待という困難な案件に的確に対応するためには、複眼の視点が重要である。こうした観点からも今般の児童福祉法の見直しにおいては、児童福祉司をより幅広い分野から登用することができるよう要件の見直しを図ることとしている。また、最終責任者たる児童相談所長の責任の重さにかんがみ、新任児童相談所長の研修参加を義務付けることを考えており、こうした動向も念頭に多様な職員確保など一層、質の高い相談体制の確保が必要である。
 なお、今般の児童福祉法の見直しにおいて、市町村に児童相談の役割を明確化するとともに児童相談所を専門的な案件に対応する機関と位置づけることとしているのは、現行体制では全ての案件にきめ細かく対応しきれていないという実態を踏まえ、市町村にも可能な範囲での積極的な参加を求めることとしたことによる。児童相談所が対応する件数は、この制度が定着した段階では現在に比して落ち着くことが期待されるが、それをもって児童相談所の体制が当然に縮小することは今回の見直しが意図するところではない。より困難事例に対する深い支援や市町村に対するきめ細かい支援ができるような体制の確保が重要である。
(3) 児童相談所内の組織的対応
 組織的対応の重要性について、改めて申し述べるまでもないが、児童虐待、非行などの児童問題が生じる家庭は、親子関係、夫婦関係、きょうだい関係、経済状況、養育者の精神状態、子どもの特性など、種々な背景を持っている場合が多いという理解が大切である。したがって、児童相談に当たっては、家庭全体の問題としてとらえるとともに、担当者のみの判断ではなく、調査に当たっては、複数の職員で行ったり、状況の把握や対応の方向性については、多面的なとらえ方を行うなど、複眼の視点での議論を踏まえた確実な意思決定を行うよう組織的対応の徹底が重要である。
(4) 関係機関との日頃からの意志疎通と児童相談所を支える幅広い機関の参画
 虐待防止の取り組みに当たっては、幅広い関係機関の取り組みが必要であり、各機関の相互の連携が極めて重要である。ここでいう「連携」を進めるに当たっては、それぞれの機関が(1)虐待に関する深い理解を持ち、(2)自らの立場や果たしうる役割を明確にし、(3)そうした役割や考え方を相互に共有するということが重要である。こうした児童相談所を中心とした関係機関・団体、さらには地域住民も含めた継続的な日頃からの意志疎通が虐待の未然防止や早期発見に大きく貢献するものと考えている。
 また、虐待対策の担い手としてより多くの者の参画を得ることは重要である。このため、後述の要保護児童対策地域協議会(いわゆる市町村虐待防止ネットワーク)への関係機関の一層の参加を求めることはもとより、児童相談に深く関わっている社会福祉法人(児童家庭支援センター)やNPOなども含めた幅広い関係者の参加を促すとともに、これらの子育て支援等を行う拠点の創設に向けた取り組みが必要である。
(5) 関係機関も含めた危機管理意識の醸成
 上記のような観点から、制度を見直し、体制を整えたとしても最終的にはその制度を活用するのは職員一人一人であり、危機管理意識の醸成が不可欠である。「one for all,all for one」という言葉があるが、まずこの問題に職員一人一人が高い意識をもった上で、共通の目的に向かい、目的を達成することが重要である。
 再度、児童相談所の業務・判断は子どもの命、一生に直接関わる極めて責任ある厳しいものであることを職員一人一人が自覚し、高い危機管理意識を持ち続けることが重要である。国においても、日本虐待・思春期問題情報研修センター(子どもの虹情報研修センター)を立ち上げ研修機会の確保に努めているところであるが、そうした過程においても単に技術的な研修のみならず基本的な意識の持ちようなどについても、研修の実施を行っていきたいと考えており、積極的な職員の参加、さらに地域での事情を踏まえるとすれば、各地域における独自の研修の実施も必要である。

2. 連携の強化について
(1) 要保護児童対策地域協議会(いわゆる市町村虐待防止ネットワーク)の構築と機能強化
 虐待の対応は、単独機関で対応できるものではない。重要なことは情報を抱え込ま ず、関係機関の連携により支援を行うことである。本調査において、虐待通告が徹底されなかった事例や、ある機関での接点があったが、そこに情報が留まっていたため、養育支援が必要な家庭であるにもかかわらず、手厚い支援が必要である家庭との認識につながらなかった事例がみられた。複数機関での関わりがあれば、より多くの異なった視点から養育支援が必要な要素を認識し、未然に防ぐことができた可能性も考えられる。
 そのため、家庭の状況を把握しやすく家庭の支援に対し迅速に対応することができる、住民に最も身近な市町村において、子ども・家庭に関わる多くの機関が参加した要保護児童対策地域協議会(以下「協議会」という。)を構築することが一つの有効な手段と考えられる。今般の児童福祉法の見直しにおいては、協議会を法定化した上で、協議会の参加者に守秘義務を課すことにより、必要な支援を行う目的の限りにおいて、協議会内で情報の円滑な提供も可能となる。
 また、本調査の事例において、協議会は開催されていたものの、具体的な役割分担がなされず、有効な支援が行われなかった事例もみられた。支援の内容については、機関ごとの役割分担を明確化し、個々の家庭に応じた有効な支援が提供されることが重要である。こうした観点から、協議会での支援内容を一元的に把握する、いわゆる中核機関の選定等を定めることとしており、これによりこうした「はざま」に陥る事例を防ぐこととしている。
(2) 継続支援の確保
 本調査において、転居後に事件に至った事例が27事例あり、中には関係機関が支援をしている最中に転居し、支援が途切れてしまった事例もみられた。虐待防止の支援を行っている家庭について、(1)転居先がわかっている状況であれば、転居前に関わりのあった児童相談所において、当該家庭へ積極的にアプローチし、転居先所管の児童相談所への情報提供について、同意を得た上で、継続支援の確保を行うことが重要である。また、情報提供に応じなかった場合であっても、虐待防止に向けた支援の継続が必要と判断された場合には、転居前の児童相談所より、転居先の児童相談所へ通告を行うといった対応も必要になってくる。(2)さらに、転居先が不明のまま、支援が途切れたような事例においては、全国の児童相談所間でそうした事例の情報を共有するための、情報連絡システム(CA情報)が既に確立しているが、この一層の活用を図り、全国的に支援の網をはることも必要である。
(3) 従来、虐待と関わりの薄かった機関からの要支援家庭の把握の拡充
 事例と接点のあった関係機関として、保健・医療機関は47%、福祉機関は23%、保育・学校機関は14%であった。また、児童福祉(児童扶養手当担当含む)・生活保護担当窓口の関わりも8%みられた。さらに、養育環境の状況として、ひとり親家庭が33事例、経済不安の家庭が16事例みられたことからも、今まで直接的には虐待対策と関わりの薄かった相談窓口においても、養育力不足が複雑に絡みあい虐待に至ることがあるという虐待に関する理解を深める等、積極的な把握が重要である。このような観点からも従来直接的には虐待対策とは関わりの薄かった窓口においても、支援が必要な家庭が判断できるような一定の参考指標の提示を行っていく予定であり、この指標を参考に養育力が不足し、何らかの支援が必要な家庭を把握することが重要である。

3. 養育力不足への支援
 本調査でみられた、養育支援が必要となりやすい要素のうち、養育環境の要素は53.6%、養育者の要素は38.9%、子どもの要素は7.5%、となっており、虐待防止には養育者への支援や養育環境の改善に向けた取り組みを強化することが重要であると考えられる。平成16年度の予算案において、様々な理由で養育支援が必要な家庭に対して、子育てOB等による育児、家事の援助や保健師、保育士等の専門職による具体的な育児に関する技術支援を行う訪問型育児支援サービス(育児支援家庭訪問事業)を創設する。本事業を積極的に活用し、養育支援の強化を図ることが重要である。
 さらに、次世代育成支援対策における行動計画には一般の子育て支援策を盛り込むことはもとより、児童虐待などの要保護児童やその家庭をめぐる諸問題に適切に対応できる具体的な取り組みを盛り込むことも重要である。
 また、本調査において、転居後に死亡事件に至った事例が27事例、地域からの孤立が25事例みられたことからも、市町村においては、子育て家庭が困ったり、悩んだりした時に相談できる機関を明確にして周知するとともに、転居直後は地域から孤立し、社会的な支援が得られにくい状況であることを認識し、積極的な関わりを行うことが重要である。

4. 虐待予防への取り組み
(1) 保育所、幼稚園、学校における取り組み
 保育所、幼稚園、小中高等学校は、子どもが毎日通う機関であるため、子どもの状態やその変化を察知しやすい。また、本調査において事例と接点のあった機関として、保育・学校機関は14%あったことから、養育力の不足等が複雑に絡みあい虐待に至ることがあるという虐待に関する知識や理解を有した上で、その子どもに表出された変化や行動などに着目することは、虐待の早期発見とその防止に寄与することになる。保育士・教諭においても、そうした視点をもつことが必要であり、虐待に関する研修を充実することが重要である。また、得られた情報を市町村や児童相談所に的確に提供するための関係機関の連携協力体制を確立することが重要であり、積極的に協議会への参加が求められる。また、虐待の未然防止の観点から例えば、外部と接する機会を増やすということが、虐待の早期発見と防止に寄与するとすれば、地域子育て支援センター等における子育て相談等を推進していくことも重要である。
(2) 市町村の母子保健事業における取り組み
 死亡事例においては乳児の割合が38%と高く、うち4ヶ月未満児が5割であったことから、特に乳児期における虐待予防対策の充実が求められている。
 母子保健事業は母子健康手帳の交付、訪問、健康診査、相談、健康教育など多くの機会を通して全ての乳児に対応していることから、養育力の不足した家庭を把握しやすく、また、養育支援が必要となりやすい要素の状況に応じた適切な対応を行うことができるという重要な役割を持っている。このため、本調査で示された養育者の状態や子どもの状況など養育支援が必要となりやすい要素について十分な認識をもって対応する必要がある。
 特に、健康診査未受診事例が12事例みられており、健康診査未受診者への対応を徹底することや、新生児期に訪問を実施し早期に養育支援が必要となりやすい要素を認識することなど各自治体の状況に応じた体制での新生児期・乳児期への支援の重点化が重要である。
 また、養育者の状況において、第1子出産時に母親の年齢が10代といった事例が19事例みられたことから、10代の妊産婦への養育支援を妊娠期から強化するなどの工夫が重要である。
(3) 都道府県保健所における取り組み
 保健所においては、未熟児養育医療、育成医療、小児慢性特定疾患治療研究事業等の事業を担っている。本調査においても、未熟児が9事例、子どもの疾患・障害が8事例あったことからも、保健所においては、一層、養育力の不足等が複雑に絡みあい虐待に至ることがあるとの認識を深めた上で事業を行っていくことが必要である。
 また、養育者の精神疾患も12事例見られたが、この事例の中には事件後に虐待者の精神疾患が明らかになった事例もあり、支援者に精神疾患に対する適切な認識・対応があれば、虐待を防ぐことができた可能性もあったと考えられる。保健所は精神保健の専門的支援機関として、精神保健相談事業において精神疾患のコントロールがうまくできていない場合は、養育力が不足しやすい状況に至ることもあるという認識をもった上で、支援に取り組むことが重要である。
 さらに、精神保健福祉センター等専門機関は、子育て支援に係る関係者に対し、産後うつ病やマタニティ・ブルーズ等の子育て期にある養育者が罹患しやすい精神疾患の対応に関する啓発・支援を行うことも重要である。
 児童福祉法の見直しにおいて、児童相談所と保健所の協力体制が明記されることからも、虐待予防対策について、専門性を活かして積極的に関わることが必要である。
(4) 医療機関における取り組み
 医療機関は、虐待を受けた子どもを早期に発見しやすいことはもとより、出産や子どもの疾患、養育者の疾患等を理由に、養育力の不足している家庭状況を早期に把握可能な機関である。特に、約4割の虐待死亡事例が乳児期に集中しており、また、養育者も産後間もない時期は過重な負担がかかりやすいことから、この時期に無理なく接点が持てる医療機関が、養育支援が必要となりやすい要素を把握し、積極的に地域の関係機関へ情報提供を行うことは、重要な意味をもつ。
 医師の守秘義務に関連して、今般の児童福祉法の改正に基づく法定化された協議会からの求めに応じた情報提供は、基本的には医師の守秘義務には反しないと考えられることから、これにより、医療機関からの情報提供が容易になるものと考えており、積極的に医療機関の協議会参加を促進することが重要である。
 医療機関の中でも、特に産科・小児科は直接的に子どもと養育者に関わる診療科でもあることから、虐待への理解が深いものと認識されている。加えて、本調査において、養育者の精神疾患を背景にもつ事例が12事例あったことから、精神科での診療においても、今まで以上に虐待に関する認識をもち、家族背景にも注目し、疾患により養育力が不足していないかについても目を向け、必要に応じ、地域の関係機関と連携することが重要である。
(5) 児童虐待への正しい理解の促進
 事前に関係機関による接点がなかった事例への対応策は、一般の人々への児童虐待への関心を高めることが主たる対策となる。例えば、児童虐待防止月間の創設等メリハリのある重点的な対策を取ることにより、虐待に関する国民の正しい理解の推進をしていくことが重要である。それと同時に、広報紙やリーフレット、回覧板等によって児童虐待に関する周知を図り、継続的に啓発を行っていくことが必要である。

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