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第12章 電話相談の実際

第12章  電話相談の実際

 匿名性と手軽さという電話相談の特性は虐待に関わる相談ではとりわけ利用しやすい相談手段である。それゆえ電話相談には幅広く虐待関連の相談が寄せられ虐待を受けている子どもの発見のきっかけとなることも少なくない。しかし、反面その特性は電話相談の限界でもあり、そこを十分認識して相談に当たることが必要である。


1. 子ども本人からの相談
 子どもは自分がかなりひどい状態にあっても、あまりストレートにはそれを表現しないことが多く、はじめはふざけて電話してきたのか、あるいはいたずら電話かと疑う中に虐待の訴えが隠れていることがある。したがって、話の中に少しでも気になる点があったら事実関係を明らかにすることを急がず、とにかく受容的に話を聴くことが大切である。子どもは受け入れられている、安心して話せると感じた時、次第に本当のことを話し出す。
 また、自分自身のことをあたかも友人のことのように装って相談することもある。その時は追求することなく、受容の姿勢を崩さず、語りかけるように対応することが大切である。
 子ども本人からの相談で特に留意しなければならないのは、女子からの性的虐待の相談である。彼女たちは助けを求めていてもその事実を最初から直接的に訴えるようなことは決してしない。はじめは「生理が遅れているんだけど……」と言うような遠回しな表現から入る。これらの問いに表面的に答えたり他機関を紹介してしまうと肝心な虐待の話に行かないままに終わってしまう。急がずに話を聴いていく必要がある。性的な話になったとき事実関係を正確に把握しようとする必要はない。細かく尋ねると彼女たちは電話を切ってしまう。詳しいことは面接相談につないでから少しずつ判明すればよい。彼女たちは性的虐待を訴えることにより、家庭が壊れてきょうだいに迷惑をかけるのではないか、家から追い出され学校に行けなくなるのではないか等々の不安を強く持っているので、児童相談所が味方となって必ず助けることを伝えて心を開かせ、援助の手がかりとなる情報を把握していくことが大切である。


2. 養育者からの相談
 子ども虐待への関心の高まりとともに、自分は子どもを虐待しているのではないか、あるいは子どもを虐待してしまいそうだ、という電話相談が急増している。電話をしてくるのはほとんどが乳児や年少の幼児を持つ母親である。これらの相談には、一般的な子育て相談の範疇から、子ども虐待と思われるものまで非常に幅が広い。「子どもの寝顔をみると悪かったと反省する」「子どもはかわいいと思う」などの言葉を聞くと、どこからを虐待と考えるのか悩むところであるが、親の意図がどうであれ子どもの心身の発達に有害な行為は虐待であるという考えで対応すべきである。しかし、指導的に一方的に話をしても、責められたと思い、電話を切ってしまったり、二度と電話をかけてこないことにもなることから、その対応は慎重を期さなければならない。「今日はよく電話をしてくれましたね。」、「そのことでずっと悩まれていたのですね。」、「その行為を反省し、どうにかしたいと悩んだ末にお電話をかけてくれたのですね。」、「解決したいと思ってお電話をかけてくれたのですね。」等、相談者が勇気を出して相談の受話器を握ったことを受け止め、その行為を肯定するような言葉かけをする。その上で、相談者のペースで話を聴き、「あなたの気持ちはよく理解できました。そのことについて解決に向けて一緒に考えていけると思いますよ。」と、今後の継続につなげていく。
 また、対応者があわてて、相談者がパニックに陥ることのないよう、相手の話をじっくりと受け止め、相手のペースで話を聞く姿勢を持つ。相談者が落ち着くまで、詮索や特定するための質問をできるだけ控え、本人が語り始めるのを待つことも大切である。

 この種の相談には次のような傾向がみられる。
完璧な保護者を目指し育児マニュアル通りに子育てしようとする養育者が多い。
夫婦間の不和や祖父母との葛藤など家族間の問題で悩んでいる。
父親が家事・育児に協力しない。
母親が女性としての自立や社会参加から取り残されるという焦りを感じている。
泣いてばかりいる、あまり寝ない、ミルクの飲みが悪い、少食である、など育てにくい子の場合が多い。
母親自身が人付き合いが苦手で、子育ての悩みをうち明けたり話し合ったりする相手がいない。

 いずれにせよ相談者は躊躇の末、電話相談の持つ匿名性という特性ゆえに電話してきていることや、孤軍奮闘の結果、勇気を振り絞って電話相談してきたことを十分認識して、次のような対応を図ることが大切である。
悩みをそのまま受け止め、時間をかけて話を聴き共感を示す。相談者は話を聴いてもらえた、解ってもらえたと感じるだけで溜まっていたイライラが軽減され子どもに向かう攻撃性が多少なりとも弱まる。
「またいつでも電話して下さいね」と、何度でも電話してよいことを伝えて終わる。相談を重ねることにより子どもの見方や考え方が変わっていくことが期待できる。虐待が疑われる時には次回の電話を約束してもよい。
批判や説教じみたことは言わない。理解されないと感じると相談者は電話を切ってしまう。たとえ聞いていたとしてもそれで相談者の態度が変わることはない。むしろイライラがさらに高まりそれが子どもに向かい状況は更に悪くなる。
十分に話を聴いた上で保健所や児童相談所などに相談することや、保育所を利用して子どもと離れる時間を持つことを助言する。相談者はそれぞれの機関についてそれまでの体験から一定の先入観を持っていることが少なくないので、いくつかの機関を紹介し相談者の行きやすい所を利用するように勧めるのがよい。
明らかに虐待と思われ、早急な介入が必要と判断される時は、相談者を責めず根気よく話を聴きつつ、何とか子どもを特定できる情報を引き出し、できれば相談者の同意を得て関係機関に連絡する。状況によっては同意なしでも連絡すべきである。


3. 養育者以外からの相談
 養育者以外からの虐待に関わる相談としては親戚・近隣・関係機関(保育所、幼稚園・小学校等の学校、児童館、学童クラブ等)からの電話がある。いずれも担当の児童相談所や市町村の窓口につなぐことが基本である。親族や関係機関は面接担当者につなぐことにあまり問題はないが、近隣からの相談の場合は対応に注意を要する。電話を受けた者がきちんと相談を受け止め、その時点で出来るだけ多くの情報を把握すべきである。中には最初からその地区の担当者と話した方がよい場合もあろうが、担当の児童相談所や市町村の窓口を紹介しても相談者が必ず電話をかけ直すとは限らず、せっかくの虐待の発見の機会を逃してしまうかもしれない。相談者の中には虐待を受けている子どもを助けたいと思う反面、あまり深く関わりたくはない、面倒なことになってはいやだと思う人もいるので、相談者の住所や電話番号や名前は絶対に漏れないこと、相談者に迷惑がかかることはないことを約束する。匿名を希望するならそれでも構わない。大切なのは虐待を受けている子どもに関する情報を提供してもらうことである。子どもの住所・名前・年齢・性別などが正確にわからない場合も少なくない。そういう時は○○町○○丁目の○○マンションの○○階の左から○番目の家とか、○歳位の男の子とか、○○幼稚園に通っているようだなど、後から調査するときの手がかりとなるものを出来るだけ多く聞いておく。
 近隣からの相談には不正確な情報や実際には虐待ではなかったという場合もかなりあることも事実である。しかし、電話相談の段階でそれを見極めようとする必要はない。あくまで電話相談は訴えをそのまま受け止め、面接担当者につないでいくことである。近隣からの通告は虐待の早期発見に大変有効であり、その窓口として電話相談の果たす役割は大きい。

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