ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 児童虐待防止対策・DV防止対策・人身取引対策等 > 子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月23日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知) > 子ども虐待対応の手引き > 第11章 関係機関との連携の実際

第11章 関係機関との連携の実際

第11章  関係機関との連携の実際

1. 各種機関との連携の重要性
(1)  子どもや家庭をめぐる問題は複雑・多様化しており、問題が深刻化する前の早期発見・早期対応、子どもや家庭に対するきめ細かな支援が重要となっている。そのためには、都道府県(児童相談所)、市町村間の連携はもちろんのこと、福祉事務所、知的障害者更生相談所、身体障害者更生相談所、発達障害者支援センター、児童福祉施設、里親、児童委員、児童家庭支援センター、婦人相談所、配偶者暴力相談支援センター、社会福祉協議会等福祉分野の機関のみならず、保健所、市町村保健センター、精神保健福祉センター、医療機関、学校、教育委員会、警察、民間団体、公共職業安定所等種々の分野の機関とも連携を図るとともに、各機関とのネットワークを構築して、その活用を図ることが必要である。

(2)  こうした関係機関の円滑な連携を図るためには、これらの機関の機能や仕組及び関連制度等について的確に把握するとともに、児童相談所の機能や仕組等についても関係機関の理解を求める等、各機関の相互理解に基づく一体的な連携が重要である。

(3)  複数の機関が連携しながら相談援助を進める場合、ケースの進捗状況や援助の適否、問題点、課題等について、特定の機関が責任をもって把握、分析、調整等(ケースマネージメント)を行う必要があるが、どの機関がこれを行うのか常に明らかにしておく必要がある。

(4)  特に、近年子どもに対する虐待が増加しているが、虐待は家庭内で行われることが多いため、早期発見が困難な場合が多く、また、同時に多くの問題を抱えている場合が多い。このため、関係機関が一堂に会し、情報交換を行うとともに、共通の認識に立ってそれぞれの役割分担を協議する等、各関係機関が連携しながら早期発見並びに効果的対応を図ることが極めて重要である。

(5)  このため、平成16年児童福祉法改正法により、地方公共団体は、要保護児童の適切な保護を図るため、関係機関等により構成され、要保護児童及びその保護者に関する情報等の交換や要保護児童等に対する支援内容の協議を行う地域協議会を置くことができることとされた。

(6)  また、虐待の早期発見については、平成16年児童虐待防止法改正法により、子どもの福祉に職務上関係のある者だけでなく、学校、児童福祉施設、病院等の児童の福祉に業務上関係のある団体も児童虐待の早期発見に責任を負うことが明確にされるとともに、通告の対象が「児童虐待を受けた児童」から「児童虐待を受けたと思われる児童」に拡大された。
 これを踏まえ、関係機関等は、虐待の早期発見のため、通告はためらうことなく幅広く行うことが必要である。

(7)  このほか、関係機関における子ども虐待に対する理解の促進を図る観点からも連携は重要である。特に「試しの行動」など虐待を受けた子どもの行動特性に対する理解や、暴力的行為や粗暴な言動などの問題行動の背景に子ども虐待が潜んでいる場合も少なくないとの認識は重要であり、児童福祉施設職員や学校職員を始め、その子どもとかかわりのある全ての関係者が十分に理解した上で対応していくことが求められる。問題となる言動の背後にある子どもの心理を読みとることが、「私を怒られようとしているように感じるね。だから、怒らないよ。」というような対応に結びつくのである。こうした子どもを理解した対応が子どもに「守られている感覚」を与えることになり、新しい人間関係の形成を図ることになるのである。

(8)  なお、個々のケースに関して他の機関に紹介する等の場合には、子どもや保護者等の了解を得ることを基本とし、やむを得ずこうした了解が得られない場合においても、参加機関に守秘義務が課せられる要保護児童対策地域協議会を活用するなど、プライバシ−保護に留意する。

(9)  また、個別ケースに関する援助方針の策定に当たっては、民間団体を含め、様々な連携する関係機関の意見を十分に踏まえるとともに、関係者による事後的な評価に努めることが重要である。

(10)  関係機関等から個別のケースに関する情報提供を求められた場合には、文書によるやりとりを基本とするなど、プライバシーの保護に十分配慮する。


2. 要保護児童対策地域協議会
(1)  要保護児童対策地域協議会とはなにか
[1]  平成16年度児童福祉法改正法の基本的な考え方
 虐待を受けている子どもの早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要である。このため、平成16年6月現在、全国3,123市町村の約40%にあたる1,243箇所で子ども虐待防止を目的とするネットワークが設置されている(参考事例:別添11−1参照)。
 しかしながら、こうした多数の関係機関の円滑な連携・協力を確保するためには、
ア.  運営の中核となって関係機関相互の連携や役割分担の調整を行う機関を明確にするなどの責任体制の明確化
イ.  関係機関からの円滑な情報の提供を図るための個人情報保護の要請と関係機関における情報共有の関係の明確化
が必要である。
 このため、平成16年児童福祉法改正法において、
ア.  関係機関等により構成され、虐待を受けた子どもをはじめとする要保護児童等に関する情報の交換や支援内容の協議を行う「要保護児童対策地域協議会」(以下、2において「地域協議会」という。)を法的に位置づけるとともに、
イ.  地域協議会を設置した地方公共団体の長は、地域協議会を構成する関係機関等のうちから、地域協議会の運営の中核となり、要保護児童等に対する支援の実施状況の把握や関係機関等との連絡調整を行う要保護児童対策調整機関を指定する
ウ.  地域協議会を構成する関係機関等に対し守秘義務を課すとともに、地域協議会は、要保護児童等に関する情報の交換や支援内容の協議を行うため必要があると認めるときは、関係機関等に対して資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる
こととされた。
 こうした改正により、
ア.  関係機関のはざまで適切な支援が行われないといった事例の防止や、
イ.  医師や地方公務員など、守秘義務が存在すること等から個人情報の提供に躊躇があった関係者からの積極的な情報提供
が図られ、虐待を受けた子どもの適切な保護に資することが期待されるものである。
 特に、地域協議会を構成する関係機関等に守秘義務が課せられたことにより、民間団体をはじめ、法律上の守秘義務が課せられていなかった関係機関等の積極的な参加と、積極的な情報交換や連携が期待される。

[2]  構成員
 地域協議会の構成員は児童福祉法第25条の2第1項に規定する「関係機関、関係団体及び児童の福祉に関連する職務に従事する者その他の関係者」であり、具体的には以下の者が想定されるが、これに限らず、地域の実情に応じて幅広い者を参加させることが可能である。
【児童福祉関係】
 ・ 市町村の児童福祉、母子保健等の担当部局
 ・ 児童相談所
 ・ 福祉事務所(家庭児童相談室)
 ・ 保育所(地域子育て支援センター)
 ・ 児童養護施設等の児童福祉施設
 ・ 児童家庭支援センター
 ・ 里親
 ・ 児童館
 ・ 民生・児童委員協議会、主任児童委員、民生・児童委員
 ・ 社会福祉士
 ・ 社会福祉協議会
【保健医療関係】
 ・ 市町村保健センター
 ・ 保健所
 ・ 地区医師会、地区歯科医師会、地区看護協会
 ・ 医療機関
 ・ 医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師
 ・ 精神保健福祉士
 ・ カウンセラー(臨床心理士等)
【教育関係】
 ・ 教育委員会
 ・ 幼稚園、小学校、中学校、高等学校、盲学校、聾学校、養護学校等の学校
【警察・司法関係】
 ・ 警察署
 ・ 弁護士会、弁護士
【人権擁護関係】
 ・ 法務局
 ・ 人権擁護委員
【配偶者からの暴力関係】
 ・ 配偶者暴力相談センター等配偶者からの暴力に対応している機関
【その他】
 ・ NPO
 ・ ボランティア
 ・ 民間団体

(2)  要保護児童対策地域協議会の運営
[1]  業務
ア.  地域協議会は、虐待を受けた子どもをはじめとする要保護児童等に関する情報その他要保護児童の適切な保護を図るために必要な情報の交換を行うとともに、要保護児童等に対する支援の内容に関する協議を行う。
イ.  地域協議会については、個別の要保護児童等に関する情報交換や支援内容の協議を行うことを念頭に、要保護児童対策調整機関や地域協議会の構成員に対する守秘義務が設けられており、個別の事例について担当者レベルで適時検討する会議(個別ケース検討会議)を積極的に開催することはもとより、構成員の代表者による会議(代表者会議)や実務担当者による会議(実務者会議)を開催することが期待される。
 現在、市町村で取組が進みつつある児童虐待防止ネットワークについては、市町村の規模や児童家庭相談体制にもよるが、以上のような三層構造となっていることが多い。
【代表者会議】
 ・  地域協議会の構成員の代表者による会議であり、実際の担当者で構成される実務者会議が円滑に運営されるための環境整備を目的として、年に1〜2回程度開催される。
 ・  ネットワークを構成する関係機関の円滑な連携を確保するためには、各関係機関の責任者(管理職)の理解と協力が不可欠であり、実務者レベルにとどまらず、責任者(管理職)レベルでの連携を深めることで、関係機関等の共通認識が醸成されるとともに、実務者レベルで人事異動があった場合においても、責任者(管理職)の理解があれば、連携の継続性が保たれ、支援の質の低下を最低限に抑えることが可能となる。
 ・  会議における協議事項としては例えば次のようなものが考えられる。
(1) 要保護児童等の支援に関するシステム全体の検討
(2) 実務者会議からの地域協議会の活動状況の報告と評価

【実務者会議】
 ・  実務者会議は、実際に活動する実務者から構成される会議であり、会議における協議事項としては例えば次のようなものが考えられる。
(1) 全てのケースについて定期的な状況のフォロー、主担当機関の確認、援助方針の見直し等
(2) 定例的な情報交換や、個別ケース検討会議で課題となった点の更なる検討
(3) 要保護児童等の実態把握や、支援を行っている事例の総合的な把握
(4) 要保護児童対策を推進するための啓発活動
(5) 地域協議会の年間活動方針の策定、代表者会議への報告

【個別ケース検討会議】
 ・  個別の要保護児童について、その子どもに直接関わりを有している担当者や今後関わりを有する可能性がある関係機関等の担当者により、その子どもに対する具体的な支援の内容等を検討するために適時開催される。その対象は、当然のことながら、虐待を受けた子どもに限られるものではない。
 ・  個別ケース検討会議の構成員も、地域協議会の構成員である以上、守秘義務が課せられているので、関係機関等の間で積極的な情報提供を行い、要保護児童に対する具体的な支援の内容等を検討することが期待される。
 ・  会議における協議事項としては次のようなものが考えられる。
(1) 関係機関が現に対応している虐待事例についての危険度や緊急度の判断
(2) 要保護児童の状況の把握や問題点の確認
(3) 支援の経過報告及びその評価、新たな情報の共有
(4) 援助方針の確立と役割分担の決定及びその認識の共有
(5) 事例の主担当機関とキーパーソン(主たる援助者)の決定
(6) 実際の援助、支援方法、支援スケジュール(支援計画)の検討
(7) 次回会議(評価及び検討)の確認
 ・  なお、個別ケース検討会議で決定した事項については、記録するとともに、その内容を関係機関等で共有することが重要である。
ウ.  児童虐待への対応は、多数の関係機関が関与し、また、児童相談所と市町村の間の役割分担が曖昧になるおそれもあることから、市町村内における全ての虐待ケースに関して地域協議会において絶えず、ケースの主担当機関及び主たる援助者(キーパーソン)をフォローし、ケースの進行管理を進めていくことが必要である。こうした観点から地域協議会の調整機関において、全ケースについて進行管理台帳(図11−1参照)を作成し、実務者会議等の場において、定期的に(例えば、3か月に1度)、状況確認、主担当機関の確認、援助方針の見直し等を行うことが適当である。
エ.  市町村の規模や関係機関の多寡等によっては、幅広い関係機関を構成員とし、代表者会議や実務者会議への参加を通じて問題意識の共有や必要に応じ的確な対応を取るための体制の確保を図りつつ、個別ケース検討会議については、対象とするケースの性質に応じて参加機関等を選定することも考えられる。
 例えば、教育関係機関については、代表者会議には教育委員会のみが出席し、会議において提供された情報については教育委員会から各小学校、中学校等に周知することとしつつ、個別ケース検討会議には、教育委員会に加え、検討の対象となるケースに直接関係する学校等の関係者を参加させるといった手法も考えられる。
 また、地域協議会の対象は、虐待を受けている子どものほか、非行児童や障害児なども含まれることも踏まえ、虐待、非行、障害などの分科会を設けて対応することも考えられる。
オ.  個別ケース検討会議においては、関係機関が対応している事例についての危険度や緊急度の判断、子どもに対する具体的な支援の内容について検討を行うことが適当である。また、個別ケース検討会議への個別の要保護児童等に関する情報の提供については、あらかじめ子どもや保護者の理解を得ておくことが望ましいが、その子どもの保護のために特に必要がある場合であって、これらの者の理解を得ることが困難であるときはこの限りではない。
カ.  地域協議会は、施設から一時的に帰宅した子どもや、施設を退所した子ども等に対する支援に積極的に取り組むことも期待されており、児童相談所や児童福祉施設等と連携を図り、施設に入所している子どもの養育状況を適宜把握するなど、一時的に帰宅した際や退所後の支援の円滑な実施に向けた取り組みを実施することが期待される。
キ.  また、支援が必要であるにもかかわらず、連絡先等が不明となってしまった子どもや保護者等に関する情報を共有し、これらの者を早期に発見し、必要な支援を行うことも期待される。

[2]  相談から支援に至るまでの流れ
 個別の相談、通告から支援に至るまでの具体的な流れについては、地域の実情に応じて様々な形態により運営されることとなるが、一つのモデルを示すと以下のとおりとなる。(図11−2参照)
【相談、通告受理】
 ・  関係機関等や地域住民からの要保護児童の相談、通告は事務局が集約する。
 ・  事務局は相談、通告内容を虐待相談・通告受付票(図11−3参照)に記録する。
 ・  事務局は、関係機関等に事実確認を行うとともに、子どもの状況、所属する集団(学校・保育所等)、親や子どもの生活状況、過去の相談歴等、短期間に可能な情報を収集する。
【緊急度判定会議(緊急受理会議)の開催】
 ・  緊急度判定会議を開催。虐待相談・通告受付票をもとに、事態の危険度や緊急度の判断を行う。
 ・  緊急度判定会議は、事例に応じ参加機関を考え、随時開催する。電話連絡などで協議するなど柔軟な会議運営に心がける。
 ・  会議の経過及び結果は、会議録に記載し保存する。
 ・  緊急の対応(立入調査や一時保護)を要する場合は、児童相談所に通告する。
 ・  緊急を要しないが地域協議会の活用が必要と判断した場合は、個別ケース検討会議の開催や参加機関を決定する。
【調査】
 ・  地域協議会において対応することとされた事例については、具体的な援助方針等の決定するに当たり必要な情報を把握するため、調査を行う。
【個別ケース検討会議の開催】
 ・  緊急度判定会議(緊急受理会議)で決定した参加機関を集め、個別ケース検討会議を開催する。
 ・  個別ケース検討会議において、支援に当たっての援助方針、具体的な方法及び時期、各機関の役割分担、連携方法、当該事例に係るまとめ役、次回会議の開催時期などを決定する。
 ・  会議の経過及び結果は、会議録に記入し、保存する。
【関係機関等による支援】
 ・  援助方針等に基づき、関係機関等による支援を行う。
【定期的な個別ケース検討会議の開催】
 ・  適時適切に相談援助活動に対する評価を実施し、それに基づき、援助方針等の見直しを行うとともに、相談援助活動の終結についてもその適否を判断する。

[3]  役割分担
 個別事例ごとの関係機関等の役割分担については、それぞれの事例に関する個別ケース検討会議で決定するべき事項であるが、主なものは以下のとおりである。
【主たる直接援助機能】
 ・  日常的に具体的な場面で子どもや家族を支援する機関(者)
 ・  当然ながら、子ども、保護者ともに同じ機関が支援を行うことや、複数の機関が子どもや保護者に対して支援を行うことが考えられる。
【とりまとめ機能(個別ケース検討会議の開催等の事務的な作業を行う)】
 ・  主たる援助機関等から要請を受けて、個別ケース検討会議を開催する。(会議の招集の実務は地域協議会の事務局が行う場合もある。)
 ・  個別ケース検討会議で決定された支援の進捗状況についての連絡調整や情報の整理を行う。
 ・  主たる援助機関等のうち、最も関わりの深いものが、この機関となることも考えられる。
【ケースマネジャー機能(危険度の判断等を行う)】
 ・  事例全体について責任を負い、危険度の判断や支援計画を作り、進行管理を行う。
 ・  必要に応じて、立入検査や一時保護の権限を有する児童相談所と連携を図りながら対応することが適当である。

【役割の例】

 事例A
事例Aの図


 事例B
事例Bの図


  事例Aの場合 事例Bの場合
ケースマネジャー 児童相談所 家庭児童相談室、
保健センター
とりまとめ役 事務局
直接援助者の長
事務局
主たる直接援助者 保育士
保健師
教師
児童委員
保育士
保健師
教師
児童委員 その他

[4]  関係機関に対する協力要請
ア.  こうした要保護児童等に関する情報の交換や支援の内容に関する協議を行うために必要があると認めるときは、地域協議会は、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができる。
イ.  この協力要請は、地域協議会の構成員以外の関係機関等に対して行うことも可能である。しかしながら、この要請に基づき当該関係機関等から地域協議会に対し一方的に情報の提供等が行われる場合はともかく、今後の支援の内容に関する協議など、当該関係機関等と地域協議会の構成員の間で双方向の情報の交換等を行うことが見込まれる場合には、協力要請時に、守秘義務が課せられる地域協議会の構成員となることについても要請することが適当である。
ウ.  なお、医師や地方公務員等については、他の法令により守秘義務が課せられているが、要保護児童の適切な保護を図るために、この規定に基づき情報を提供する場合には、基本的にはこれらの法令による守秘義務に反することとはならないものと考えられる。
エ.  また、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下「個人情報保護法」という。)においては、本人の同意を得ない限り、(1)あらかじめ特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないとともに、(2)第三者に個人データを提供してはならないこととされている。(個人情報保護法第16条及び第23条)
オ.  しかしながら、「法令に基づく場合」は、これらの規定は適用されないこととされており、法第25条の3に基づく協力要請に応じる場合は、この「法令に基づく場合」に該当するものであり、個人情報保護法に違反することにもならないものと考えられる。

(3)  要保護児童対策調整機関
[1]  趣旨
 多くの関係機関等から構成される地域協議会が効果的に機能するためには、その運営の中核となって関係機関の役割分担や連携に関する調整を行う機関を明確にするといった責任体制の明確化が重要であることを踏まえ、地域協議会にはこうした業務を担う要保護児童対策調整機関(以下単に「調整機関」という。)を置くこととした。
[2]  業務
ア.  調整機関は、地域協議会に関する事務を総括するとともに、要保護児童等に対する支援が適切に実施されるよう、要保護児童等に対する支援の実施状況を的確に把握し、必要に応じて、児童相談所その他の関係機関等との連絡調整を行う。
イ.  調整機関の業務として具体的に想定されるものは、以下のとおりである。
(ア)  地域協議会に関する事務の総括
協議事項や参加機関の決定等の地域協議会開催に向けた準備
地域協議会の議事運営
地域協議会の議事録の作成、資料の保管等
個別ケースの記録の管理
(イ)  支援の実施状況の進行管理
関係機関等による支援の実施状況の把握
市町村内における全ての虐待ケースについて進行管理台帳(図11−1参照)を作成し、実務者会議等の場において、定期的に(例えば、3か月に1度)、状況確認、主担当機関の確認、援助方針の見直し等を行う。
(ウ)  関係機関等との連絡調整
個々のケースに関する関係機関等との連絡調整(個別ケース検討会議におけるケースの再検討を含む。)

(4)  守秘義務
[1]  趣旨
 地域協議会における要保護児童等に関する情報の共有は、要保護児童の適切な保護を図るためのものであり、地域協議会の構成員および構成員であった者は、正当な理由がなく、地域協議会の職務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。守秘義務に反し、秘密を漏らした場合には、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が課せられる。
[2]  守秘義務の適用範囲
 守秘義務の適用範囲は、地域協議会を構成する関係機関等の種別に応じて以下のとおりである。法人格を有さない任意団体については、その会長のみが構成員になる場合は、当該団体の役職員は構成員とならない点に留意することが必要である。
【国又は地方公共団体の機関である場合】
 (1)  守秘義務の対象
 当該機関の職員又は職員であった者
 (2)  具体的な関係機関等の例
国の機関
地方公共団体の児童福祉等主管部局
児童相談所、福祉事務所、保健所・市町村保健センター
警察署、法務局
教育委員会
地方公共団体が設置する学校
【法人である場合】
 (1)  守秘義務の対象
 当該法人の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者
 (2)  具体的な関係機関等の例
医療機関の設置主体である医療法人
児童福祉施設の設置主体である社会福祉法人
私立学校の設置主体である学校法人
社会福祉協議会(社会福祉法人)
弁護士会
法人格を有する医師会、歯科医師会、看護協会等
NPO法人
【上記以外の場合】
 (1)  守秘義務の対象
 地域協議会を構成する者又はその職にあった者
 (2)  具体的な関係機関等の例
里親
民生・児童委員協議会、主任児童委員、民生・児童委員
医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士
社会福祉士
精神保健福祉士
カウンセラー(臨床心理士等)
人権擁護委員協議会、人権擁護委員
ボランティア
NPO(法人格を有しないもの)

(5)  その他
 要保護児童対策地域協議会の設置・運営については、「要保護児童対策地域協議会設置・運営指針について」(平成17年2月25日雇児発第0225001号)を参照のこと。


3. 児童相談所と市町村の役割分担・連携
(1)  児童相談所の概要(機能)
[1]  基本的機能
ア.  市町村援助機能
 市町村による児童家庭相談への対応について、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供その他必要な援助を行う機能
イ.  相談機能
 子どもに関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものについて、必要に応じて子どもの家庭、地域状況、生活歴や発達、性格、行動等について専門的な角度から総合的に調査、診断、判定(総合診断)し、それに基づいて援助指針を定め、自ら又は関係機関等を活用し一貫した子どもの援助を行う機能
ウ.  一時保護機能
 必要に応じて子どもを家庭から離して一時保護する機能
エ.  措置機能
 子ども又はその保護者を児童福祉司、児童委員(主任児童委員を含む。以下同じ。)、児童家庭支援センター等に指導させ、又は子どもを児童福祉施設、指定国立療養所等に入所させ、又は里親に委託する等の機能
[2]  民法上の権限
 親権者の親権喪失宣告の請求、未成年後見人選任及び解任の請求を家庭裁判所に対して行うことができる。
[3]  その他児童相談所は地域の必要に応じ、子どもや家庭に対する相談援助活動の総合的企画及びその実施を行う機関として、家庭、地域における児童養育を支援する活動を積極的に展開するとともに、地域における各機関が相互の役割や業務の内容等について正しく理解し、子どもや家庭の問題に対し共通の認識のもとに一体的な援助活動が行えるよう、市町村における地域協議会の設置や運営の支援など、市町村とともに関係機関のネットワーク化を推進する。

(2)  児童相談所と市町村の連携
[1]  児童相談所と市町村の役割分担・連携の基本的考え方
ア.  従来、児童福祉法においては、あらゆる児童家庭相談について児童相談所が対応することとされてきた。しかし、児童虐待相談件数の急増等により、緊急かつより高度な専門的対応が求められる一方で、育児不安等を背景に、身近な子育て相談ニーズも増大しており、こうした幅広い相談全てを児童相談所のみが受け止めることは必ずしも効率的ではなく、市町村をはじめ多様な機関によるきめ細やかな対応が求められていた。
 こうした状況を踏まえ、「児童福祉法の一部を改正する法律」(平成15年法律第121号)により市町村が子育て支援事業を実施することとされたとともに、平成16年児童福祉法改正法により、平成17年4月から、
(ア)  児童家庭相談に応じることを市町村の業務として法律上明確にし、住民に身近な市町村において、虐待の未然防止・早期発見を中心に積極的な取組みを求めつつ、
(イ)  都道府県(児童相談所)の役割を、専門的な知識及び技術を必要とするケースへの対応や市町村の後方支援に重点化する
等の措置を講じ、児童家庭相談に関わる主体を増加させるとともに、その役割を明確化することにより、全体として地域における児童家庭相談体制の充実を図ることとされた。
イ.  このように、児福法においては、都道府県と市町村の間で適切な役割分担・連携を図りつつ、特に市町村に対しては、現在、市町村において実施されている母子保健サービスや一般の子育て支援サービス等をはじめ、虐待の未然防止や早期発見を中心に積極的な取組を行うことを期待するものである。
 具体的には、市町村については、
(ア)  住民等からの通告や相談を受け、一般の子育て支援サービス等の身近な各種の資源を活用することで対応可能と判断される比較的軽微なケースについては、市町村中心に対応する
(イ)  ケースの緊急度や困難度等を判断するための情報収集を行い、立入調査や一時保護、専門的な判定、あるいは児童福祉施設への入所等の行政権限の発動を伴うような対応が必要と判断される困難なケースについては児童相談所に直ちに連絡する
(ウ)  施設を退所した子どもが安定した生活を継続できるよう、相談や定期的な訪問等を行い子どもを支え見守るとともに、家族が抱えている問題の軽減化を図る
など、自ら対応可能と考えられる比較的軽微なケースへの対応や、重篤なケースに関する窓口、自ら対応してきたケースについて、行政権限の発動を伴うような対応が必要となった場合の児童相談所への連絡等の進行管理を担うことが求められる。
ウ.  他方、都道府県(児童相談所)については、こうした市町村相互間の連絡調整や情報提供、市町村職員に対する研修の実施等の必要な援助を行うほか、
(ア)  個別のケースに関する初期対応や支援の進捗状況の管理、行政権限の発動の必要性の判断も含め、児童家庭相談への市町村の対応について技術的援助や助言を行うとともに、
(イ)  一般の国民等から直接通告や相談を受け、あるいは市町村では対応が困難なケースの送致を受け、立入調査や一時保護、児童福祉施設への入所等の都道府県にのみ行使が可能な手段も活用しつつ、子どもやその保護者に対する専門的な支援を行う
(ウ)  施設を退所した子どもが安定した生活を継続できるよう、子どもやその保護者に対し、児童福祉司指導などの専門的な支援を行う
ことが求められる。
エ.  都道府県(児童相談所)と市町村の役割分担・連携の基本的考え方は以上のとおりであるが、児童家庭相談に関して「軽微」あるいは「専門的」と判断する具体的な基準については、市町村や都道府県の児童家庭相談体制にもよる。このため、当面、上記の考え方を踏まえつつ、自ら対応することが困難であると市町村が判断したケースについては、都道府県(児童相談所)が中心となって対応することを基本に、都道府県(児童相談所)と市町村の役割分担・連携の具体的なあり方について十分調整を図り、児童家庭相談への対応に万全を期すことが必要である。
 特に、子ども虐待は、子どもの生命に関わる問題であることから、ケースの緊急度や困難度等については、迅速かつ的確な判断が要求される。各市町村においては、このような要請に応えられるような体制を整えるとともに、悩ましいケースについては、早期に児童相談所に相談するなどの対応が求められる。

[2]  具体的な役割分担・連携
 具体的な役割分担・連携については、以下のとおり。
ア.  児童相談所への送致
 児福法第27条の措置を要すると認められる者並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を要すると認める者は、市町村から児童相談所に送致する(児福法第25条の7第1項第1号、第2項第1号)。
 なお、児童相談所に送致したケースについても、引き続き、市町村が実施する保健サービスや一般の子育てサービス等が必要である場合や、児童相談所の措置後に市町村が中心となって対応することとなる場合もある。このため、市町村は、児童相談所と十分に連携を図り、協働して支援をしていくことが重要である。
イ.  保育の実施等
 市町村は、助産の実施、母子保護の実施又は保育の実施が適当であると認める者として、児童相談所長から市町村の長に報告又は通知がなされるケースに対応する(児福法第26条第1項第4号)。
ウ.  子育て支援事業
 市町村は、里親に委託しているケースにおける子育て支援事業等の活用に協力する。また、子育て支援事業の調整を行う子育て支援コーディネーターの確保・育成を図るとともに、日頃から、同コーディネーターとの児童相談所の連携に努めておく。
エ.  乳幼児健康診査
 市町村は、自ら実施した1歳6か月児及び3歳児健康診査の結果、精神発達面に関して精密に健康診査を行う必要のある子どもについては、児童相談所に精密健康診査を依頼することができる。
 市町村は、児童相談所による専門的な助言・指導が必要と思われる在宅の子ども、保護者等については、児童相談所と連携を図りつつ、事後指導を行う。
オ.  見守り、フォローアップへの協力
 市町村は、児童相談所が援助している虐待ケースや施設を退所した子ども等の見守りやフォローアップに協力する。


4. 福祉事務所(家庭児童相談室)との連携
(1)  福祉事務所の概要
[1]  福祉事務所の業務
 福祉事務所は、生活保護、児童家庭、高齢者、障害者等地域住民の福祉を図るための第一線機関として、都道府県および市が設置義務を負い(町村は任意設置)、全国に約1200カ所ある。生活保護の実施や様々な手当、制度の窓口であり、母子生活支援施設や助産施設への施設入所措置権限を有する。
 また、都道府県の設置する福祉事務所は、児童虐待防止法第6条の子ども虐待に係る通告の受理機関であるとともに、児童福祉法第25条の要保護児童通告の受理機関でもある。
[2]  家庭児童相談室
 福祉事務所には、家庭児童の福祉に関する相談や指導業務の充実強化を図るため、全国約980カ所に家庭児童相談室が設置されている。その設置、運営については、「家庭児童相談室設置運営要綱」(「家庭児童相談室の設置運営について」昭和39年4月22日付厚生省発児第92号厚生事務次官通知)等によっている。地域に密着した援助機関として、軽易な相談を主に担当し、社会福祉主事と家庭相談員が相談に応じているが、児童相談所との関係等については「家庭児童相談室の設置運営について」(昭和39年4月22日付児発第360号厚生省児童家庭局長通知)に述べられている。

(2)  児童相談所との連携
[1]  福祉事務所(家庭児童相談室)との連携の必要性
ア.  平成16年児童福祉法改正法により、平成17年4月から、
(ア)  児童家庭相談に応じることを市町村の業務として法律上明確にし、住民に身近な市町村に積極的な取組みを求めつつ、
(イ)  都道府県(児童相談所)の役割を、専門性の高い困難なケースへの対応や市町村の後方支援に重点化し、
全体として地域における児童家庭相談体制の充実を図ることとされた。
イ.  このため、市の設置する福祉事務所は、市における児童家庭相談体制の一翼を担うと考えられ、他方、都道府県の設置する福祉事務所は、町村の後方支援や都道府県の担う専門的な相談を児童相談所とともに担うことが考えられる。
ウ.  このほか、法において福祉事務所は、法第22条、第23条に規定する助産施設、母子生活支援施設への措置を行うこととされている。
[2]  児童相談所への送致・児童相談所からの送致
ア.  次の場合には都道府県の設置する福祉事務所から児童相談所に送致される。
(ア)  児童福祉法第27条の措置を要すると認められる子ども
(イ)  医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を要すると認められる子ども
イ.  逆に、在宅指導等の援助において社会福祉主事等の指導が適当と考える事例について、児童相談所は福祉事務所に送致する。
[3]  主な連携事項と留意点
ア.  通告
 福祉事務所に通告のあった事例で、児童相談所による対応が必要と認めるものについては、速やかに児童相談所に送致してもらうよう徹底を図る。
イ.  調査の依頼
 虐待の通告を受けた場合、例えば家族構成(住民票)、家族関係(戸籍)、生活保護適用の有無、子どもの所属集団(保育所、学校等)等の基本的事項についての調査をまず依頼することが考えられる。
ウ.  制度の活用
 福祉事務所が有する様々な制度や機能を活用することで家族援助が可能と考えられる場合、その活用について紹介する。福祉事務所ではこれをきっかけに、家族への援助を開始する。この場合、窓口に保護者が来た時にスムーズに家族相談員につなぐなど、事前の打合せをしておく。
エ.  援助の依頼
(ア)  通所指導
 虐待事例でも在宅での援助が可能であったり、一時保護や施設入所後に家庭復帰する例も多い。その場合、継続的な保護者面接等が必要であるが、ある程度状態が落ち着いており、日常的な子育ての援助や家族関係の相談等であれば、必ずしも児童相談所まで行く必要はない。
 特に住居地から児童相談所まで距離が遠い場合は、継続的な援助の機関として福祉事務所(家庭相談室)の利用を勧めるのも一つの方法である。
 なお、この場合、福祉事務所(家庭児童相談室)と児童相談所の役割分担は重要で、保護者に伝える前に、十分に打合せを行うとともに、依頼後も引き続き情報交換を密にするなど、密接な連携が必要であり、福祉事務所(家庭児童相談室)に任せっぱなしにしてはならない。
(イ)  援助のきっかけ
 虐待事例の調査の場合、以前から福祉事務所(家庭児童相談室)で関わっている事例だけでなく、新規の場合でも児童相談所の職員等と一緒に家庭訪問してもらうようにし、必要があればその後も継続的な援助を依頼する。
 虐待事例の場合、複雑・困難な問題を同時に抱えていることが多く、児童相談所による援助のみならず総合的な援助が必要であること、また、緊急の場合、児童相談所に代わって必要な対応を依頼することも考えられるからである。
(ウ)  場所の提供
 児童相談所の職員が保護者と面接する場所として福祉事務所を使うことにより、児童相談所が地理的に遠い保護者に便宜を図ることができる。その際、家庭相談員等と合同で面接をすることにより、以後の継続的、日常的な援助につなげることもできる。

(3)  児童福祉施設との連携
[1]  福祉事務所(家庭児童相談室)と児童福祉施設の連携の必要性
 保護者や子どもへの援助は、施設と児童相談所のみの連携では十分ではない。特に、保護者宅が児童相談所から遠距離にある場合には、詳細な家庭状況や子どもの状況把握は困難である。そうした場合、福祉事務所(家庭児童相談室)との連携が不可欠になってくる。地域によっては、家庭相談員が個別の幅広い相談に応じながら、地域の子育て支援活動を進める役割を果たしてきている。こうした活動を通して、地域の関係者との対人的なつながりを形成してきて地域に密着している場合が多い。その意味からも、被虐待事例の対応のために、施設側としてこうした地域資源を活用するために、福祉事務所(家庭児童相談室)との積極的な連携方策を求めていくべきである。
[2]  施設入所中の連携
 施設に虐待を受けた子どもが入所してきた当初は、保護者は子どもを引き戻したいという強い気持ちにかられている場合が多い。なかには強引に子どもを引き取ろうとする保護者もいる。そうした場合の援助者として家庭相談員等の活用が有効である。あるいは、虐待を行った保護者への援助なしには、問題改善に結びつかないことから、こうした保護者へのソーシャルワーク的、あるいは心理的な援助を、施設との連携のもとに展開することが可能である。事例としても家庭相談員等のカウンセリングによって、保護者自身が守られているという安心感から、怒りなどの感情の適切な抑制が形成されるようになった例も報告されている。
 また、施設より一時帰省中の子どもの状況や、保護者の状況など観察結果の報告も期待でき、親子関係修復のプログラムに生かしていくことも可能である。あるいは、保護者が生活保護世帯の場合には、社会福祉主事の家庭訪問等が定期的にあるので、その結果について随時報告を受けることが可能であり、保護者の生活状況が適切に把握できる。こうした資料をもとに児童自立支援計画や家庭環境調整に活かしていけるのである。
[3]  家庭復帰をめぐる診断評価への参加
 虐待を受けた子どもの家庭復帰については、施設をはじめ関係機関の慎重な判断が求められる。最終的には児童相談所の判定によることだが、その診断資料として福祉事務所(家庭児童相談室)の観察報告が重要になってくる。保護者宅の情報を最も多く収集していることも多く、診断にとって貴重な資料になることは言うまでもない。こうした重要な評価への参加は連携の産物である。
[4]  家庭復帰後の状況把握と援助
 家庭環境、親子関係の調整が成功して家庭復帰をした場合、もちろん施設側も可能なかぎり家庭状況の把握に努めなくてはならないが、関係機関の連携によって的確な実態把握が可能となる。同時にさまざまな側面から虐待の再発防止のために援助していかなければならない。特に、保護者の居住地に近い福祉事務所(家庭児童相談室)の場合には、その役割に期待できることが大きい。
[事例]
   A地区には、中学校区を範囲とし地域の中に子育て支援のネットワークが確立されており、家庭相談員がコーディネーターとなっている。ネットワークを構成するメンバーは家庭相談員、児童相談所、民生・児童委員(主任児童委員)、保健師、児童館である。早期発見・早期対応を図るために情報交換を行い、危惧する事例があれば緊急に事例検討会が開かれる。
 場所はときには児童館であったり、保健所であったり、地域の集会所であったりする。そうしたA地区に児童養護施設から虐待を受けた子どもであったB子(中学2年生)が家庭復帰してきた。B子は、養父による性的虐待のため自分から保護を求めてきた子どもであった。実母は離婚し父子家庭であったが、B子が施設入所したことを知って、実母はB子と共に生活をしたいと引き取りを希望した。実母とB子との交流を半年間続けた後、A地区の母子住宅に家庭復帰させた。母子住宅は、家庭児童相談室の配慮に基づくものであった。養父にはこうした情報をいっさい漏らさないことを、施設をはじめ関係機関で決定した。家庭相談員は、B子に対して母親が不在のときに万一養父が出現したら、福祉事務所もしくは主任児童委員宅に避難するよう指示し、それぞれに案内をして説明した。中学校長にも事情を説明し支援を求めた。
 施設側に対しては、定期的に家庭相談員から情報提供がなされており、安定した母子生活が送られていることが報告されている。


5. 保健所、市町村保健センター等との連携
(1)  母子保健における子ども虐待への取り組み
 保健所や市町村保健センターは、「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」(平成6年厚生省告示第376号)等を踏まえ、母子保健活動、精神保健活動、障害児(者)への支援活動等様々な地域保健活動を行っている。また、これらの活動や医療機関との連携を通じて、養育支援が必要な家庭に対して積極的な支援を実施する等虐待の発生防止に向けた取り組みをはじめ、虐待を受けた子どもとその保護者に対して家族全体を視野に入れた在宅支援を行っている。これらの機能を十分に活用するため、日頃から保健所や市町村保健センターと密に連携を図っておくことが必要である。

[1]  母子保健における子ども虐待への取り組みについては、平成8年に「母子保健施策の実施について」(平成8年11月20日児発第933号厚生省児童家庭局長通知)の中で、乳幼児健康診査や相談等の母子保健事業において、虐待兆候の早期発見に努めるとともに、保護者の不安や訴えを受け止め、家庭環境等に配慮しながら、学校保健、福祉等の諸施策と連携して、子ども虐待の防止に努めることが明記されている。
 その後も、「地域保健における児童虐待防止対策の取組の推進について」(平成14年6月19日雇児発第0619001号厚生労働省健康局長、雇用均等・児童家庭局長通知)、「地域保健対策の推進に課する基本的な指針の一部を改正する告示について」(平成15年5月1日厚生労働省告示第201号)、「児童虐待防止対策における適切な対応について」(平成16年1月30日雇児総発第0130001号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知)、「『家庭の養育力』に着目した母子保健対策の推進について」(平成16年3月31日雇児母発第0331001号厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課長通知)などの通知が発出され、保健所や市町村保健センター等が、関係機関との適切な連携の下に、養育力の不足している家庭に対して早期に必要な支援を行い、子ども虐待防止対策の取り組みを推進することが明記されている。
 また、平成13年から開始された「健やか親子21(母子保健の2010年までの国民運動計画)」においても、保健所・市町村保健センター等ではこれまで明確ではなかった児童虐待対策を母子保健の主要事業の一つとして明確に位置付け、積極的な活動を展開するように提言されている。具体的な取組としては、一次予防として特にハイリスク母子に対して保健師、助産師等の周産期からの家庭訪問等による育児サポートとともに、乳幼児健康診査の場における母親の育児不安や親子関係の状況の把握に努め、未受診児の家庭に対して保健師による訪問指導等を行うなどの対応強化を求めている。また、医療機関と地域保健とが協力して虐待を受けた子どもの発見、保護、再発防止、子どもの心身の治療、親子関係の修復、長期のフォローアップについての取組を進めるよう求めている。
 なお、虐待の進行と予防の概念図については、図11−4参照

[2]  保護者と子どもの心身の健全育成、ハイリスク家庭の把握と援助、(一次予防・二次予防)
ア.  妊娠から分娩まで
 母子保健事業は、子ども虐待にとって、予防的な関わりができる重要なものである。
 育児不安が危惧されるハイリスク妊婦のスクリーニングによる早期発見と支援が重要である。母子健康手帳を発行する際に、各種の母子保健事業案内や妊娠出産に関するパンフレット等を渡し、妊婦が自己の健康管理を行っていくことの動機づけを行う。例えば、10代の妊娠で配偶者がいない場合、多胎児の妊娠の場合、妊娠の届け出が妊娠8ヶ月を過ぎてからの申請等手帳の申請時の情報から、出産後の育児不安の増大等、リスクを予測できることも多い。ハイリスク妊婦の把握の意味でも、また保健師とこれから保護者になろうとする住民との最初の出会いにもなることから、手帳の発行事務は、大切な機会と捉え、上手な活用が望まれる。
 また、母親(両親)学級などへの参加を勧める。平成14年では、99.8%の分娩が病院、診療所、助産所で行われており、多くの人たちは病院等においても、さまざまな教室の受講の機会がある。
 しかし、近隣社会と孤立しがちな母親たちにとっては、居住地域においてのお互いの出会いの場が必要である。母親(両親)学級は、正しい知識の提供や不安の軽減と友達作りをすることが重要な目的であり、講義はなるべく少なくし、グループワークやディスカッションなど、お互いに交流できる場の提供が望まれる。
 さらに、妊娠中の病院等で行われる健康診査の場や母親(両親)学級等でハイリスク妊婦が発見されることもあり、施設と地域との繋がりを基盤とした助産師、看護師、保健師によるフォローアップが今後期待される。
イ.  施設から家へ−新生児訪問・未熟児・低体重児訪問
 一般的に、産後1ヶ月間は、新しい家族を受け入れていくプロセスの中では、不安も大きくなりがちである。また、里帰り出産の場合には、産後1ヶ月に限らず、実家から自宅に戻った時期等に不安が増大し、母親が精神的に不安定になることもある。
 育児不安が増大しがちな産後1ヶ月間を重視して、その時期の親の心の状態を見極める手段としてEPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)を用い、産後うつ病の早期発見が行われている自治体も増えている。EPDS(エジンバラ産後うつ質問票)の活用は、母親とともに心の状態に向き合うことであり、母親に効果的にメンタルケアを行うことができる。
 また、未熟児や低体重児、障害児等を出産した場合は、母親は、自分を責める気持ちに押しつぶされそうになっていることがある。その中で、子どもを受け入れることが困難になったり、育児そのものの負担が増えるリスクを多く抱えることにもなる。このような場合は、NICU(新生児集中治療管理室)の医師や助産師、看護師は親子の愛着形成がスムースにできるように、母親や両親に対して援助することが望ましい。子どもの退院が決まれば、地域の保健所や市町村保健センター等と連携し、訪問を依頼したり、病院から直接訪問するなどして、母親に対するきめ細やかなメンタルケアを提要していくことが重要である。
 具体的な援助としては、子どもが入院中から、病院に一緒に行くことや病院の医師や助産師と顔合わせをしたり、電話相談やサービスの利用方法を紹介したり、さらには、母親を支える父親を支援することも含まれる。
ウ.  乳幼児健康診査
 主なものとして、3〜4か月児健康診査、1歳6か月児健康診査、3歳児健康診査がある。乳幼児健康診査については、従来からの発達・育児のチェックや異常・病気の早期発見という疾病中心の健診から子どもを取り巻く家族全体に目を向ける健診へと転換させていくことは、虐待予防の観点から大切である。
 健診に来る保護者は、それまでの育児の評価をされることに対する緊張感を持ちながら参加する。そして、その場では、否定されたくない、認めてほしい、理解して共感してほしいと考えている。健診場面では、「上手に子育てできていますね」等のように保護者達の日々の育児を認めることから始めることで、保護者は「今のままで大丈夫」と自信を高め、多少なりともその裏に隠している不安を、軽減あるいは解消に向かわせる力を発揮できるようになることも多い。
 これまでの健診では、医師や保健師の何げない一言、例えば「小さい」、「発育が悪い」、「母乳では不十分。ミルクを足した方が良い」、「言葉が遅い。発達に遅れがある可能性がある。」などの言葉が、認めてほしいと願い、緊張感を持ちながら参加する保護者の心に傷を与えていたこともある。援助者は、専門家の発する一言の重みを真摯に受け止め、言葉かけには十分な配慮が必要であることを認識するべきである。
 子育て中の親は、多かれ少なかれ、次のような悩みを経験するのである。
 母親らしく頑張らなければと思えば思うほど、子どもをガミガミ怒鳴りつけてしまう。
 子どもが自分の思いどおりにならないことで、自分自身の不安やいらだちを我慢できない。
 自分自身の残忍性や暴力性に気づき、弱い者(子ども)を支配してしまいたいとか、時には傷つけたいと思うことがある。悪いことだとは思うが、時々頭に浮かぶことがある。
 しかし、子育ては、そのことを通じて親自身が成長する機会を得ているともいえる。現代社会では、その機会を成長機会と捉えることができずに、ストレスを課す形になりやすい子育て環境であるため、全ての保護者が虐待行為に至る可能性を秘めているという共通理解を持つ必要がある。その上で、健診場面では、生活のあらゆるシーンから虐待のリスクを見つめ、その危機に陥りやすい家族や育児困難感を抱く保護者を早期に発見し、保護者の負担感や悩みに寄り添い、そのリスクを軽減させるための支援を提供していく体制を整えることが必要なのである。
 健康診査を受けていない親には、必ず連絡をとり、子どもの成長・発達の状況や養育環境を家庭訪問等で積極的に把握し、養育上の問題を抱えている家庭に対して支援を行っていくべきである。保健師だけで対応するのではなく、要保護児童対策地域協議会の構成員や児童委員等地域の支援者を活用することも一つの方法である。訪問を拒否したり、育児についての質問等に対して「何も困っていない」とか「相談することはない」というような拒絶的な態度をとる親は虐待が疑われることがある。その場合、親を避難したり、心理的に追いつめるのではなく、まず親の気持ちを受け止めることなどを通じて信頼関係を構築し、その上で必要な支援を適切に行うことが重要である。

[3]  虐待家族への対応による進行防止および再発防止・再調整(二次、三次予防)
 虐待する家族やその危険性のある家族は、地域の乳幼児をほぼ全数把握している母子保健活動の中で発見することは十分可能である。しかも、その機会は、妊娠期から3歳児健康診査までに、子どもの成長に合わせて数回にわたる。
 家庭訪問を行い生活場面を観察する場合は、子どもの身体・精神的状況と、家族の状況が重要なポイントである。
 情報を整理し、必要であれば適宜児童相談所等の関係機関と連絡しあい、要保護児童対策地域協議会の個別ケース検討会議を活用し、対応を進めていく。
 個別ケース検討会議では、情報の共有や認識の確認を行い、関係機関の役割分担を明確にし、子どもや家族に対して自立に至までの切れ目のない支援を行うことが必要である。調整役は、保健師をはじめ、地域の関係組織や職種の状況を把握しているものが望ましい。
 また、個別の援助だけでなく、全国の保健所や民間団体で行われる虐待する保護者や虐待をしそうと悩む保護者に対するグループミーティングも援助プログラムの一環として提供されており、重要な資源である。
子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の解消

 一般に、母と子の心の関係の成り立ちは、(1)母の心の状態、(2)育児に関する親の知識や技術、(3)社会や先輩や仲間からの育児の伝承、(4)育児の負担や楽しみを夫婦間で分かち合う、(5)生活基盤の安定、などによって支えられ、形成され、発達し、確立すると言われている。しかしながら、少子化、核家族化、国際化、長時間労働が恒常的な職場環境、父親が育児に参加しないことを是とするような社会風潮、地域の育児支援能力の低下等の社会環境は、これらの親子の健全な心の関係の確立の阻害要因となっている。そのための早急に有効な対策が取られなければ、育児への不安感や孤立感を持つ母親の数は今後増加していくことが予測され、その影響を受ける子どもの心の問題も増加し、深刻化するものと考えられる。
 児童虐待の研究から、虐待では、(1)多くの親は子ども時代に大人から愛情を受けていなかったこと、(2)生活にストレス(経済不安や夫婦不和や育児負担など)が積み重なって危機的状況にあること、(3)社会的に孤立し、援助者がいないこと、(4)親にとって意に添わない子(望まぬ妊娠・愛着形成阻害・育てにくい子など)であること、の4つの要素が揃っていることが指摘されている。
(健やか親子21検討会報告書より抜粋)

(2)  児童相談所との連携
[1]  保健師ができることと役割
ア.  一定の地域を管轄し、住民の体と心の健康問題に対して病気の予防・早期発見からリハビリテーションまで幅広く、地域特性に応じた取り組みを行っている。
イ.  相談者からの聴き取りや家庭訪問などによって得た情報から、経過や状況を読み取り、判断し、援助目標を設定して、相談者に直接介入したり、あるいは他の家族メンバーに働きかけたり、必要に応じて福祉サービス等の社会資源を導入して、安全な在宅生活を支援する。
ウ.  保健師は医療や福祉、教育等の関係機関に直接働きかける等調整機能をもっている。この機能を活用し、要保護児童対策地域協議会等の関係者のネットワークの構築を行ってる。特に、医療機関を要保護児童対策地域協議会等のネットワークに組み込むときに、パイプ役になりやすい。
エ.  個人および家族を対象とし、家族内の関係の歪み、家族内力動を評価しながら対人関係の問題改善の個別相談あるいはグループワークの手法を使って援助する。
オ.  その他、地域の健康問題の分析、調査研究、企画・調整の機能を持つ。この機能を活用し、個別援助のみならず、地域の虐待予防ケアシステムの構築に向けた機関調整等を行う。
[2]  保健師との連携が必要な事例
ア.  児童相談所が保護者と対立し、保護者への援助的介入が困難な場合
イ.  乳幼児を持つ保護者への育児支援が必要になる場合
ウ.  ネグレクトケース
エ.  保護者に心の病がある場合
オ.  以前からのかかわりで保健師との信頼関係が保たれている場合
カ.  保護者支援を地域で継続し、子どもが良好な家庭的環境で生活するために支援していく場合

(3)  市町村(本庁)との連携
[1]  市町村は、乳幼児健康診査や妊産婦、新生児、乳幼児への家庭訪問等を行っている市町村保健センター等と連携を密にし、乳幼児及びその保護者に関する情報を収集するとともに、市町村保健センター等の職員が有する専門的知識や技術を有効活用して相談業務を行うことが必要である。また、支援システムの構築等広域的に行うサービスが必要な場合は、保健所と連携を図ることが必要である。
[2]  市町村が市町村保健センター等或いは保健所に支援を求める時期や具体的な支援内容について、あらかじめ組織的に基準を関係機関で検討し、調整を図っておくことが重要である。
[3]  子ども又は保護者について、何らかの理由により精神保健に関する問題が認められる場合には、保健所や市町村保健センター、精神保健福祉センターとよく連携を図ることも考えられる。
[4]  いずれの場合についても、市町村が保健所や市町村保健センター等から情報を収集する場合は、個人情報の保護に配慮することが必要である。

(4)  児童福祉施設との連携
[1]  連携の必要性
 施設入所措置は緊急避難措置と考えてよい。家庭復帰に向けた家庭環境調整は基本的に児童相談所が児童福祉施設と連携しながら行うことになるが、施設入所措置後も保健所や市町村保健センター等は保護者への関わりを続けていることも多く、家庭環境調整を行う上で、保健所や市町村保健センター等の役割は重要である。
 また、保護者への指導のあり方、親子の面会時の留意点等について、保護者に関する十分な情報を保有している保健所や市町村保健センター等の助言を直接仰ぐことも時には有用である。
 さらに、虐待を受けた子どもは、それまでの家庭環境等から保健上の特別な配慮を必要とする場合が少なくない。子どもを正しく理解し、適切な対応を図るためにも、保健所、市町村保健センター等の助言を仰ぐことが有用である。
[2]  連携上の留意点
ア.  施設が単独でこれら保健所や市町村保健センター等と連携を図る場合は、原則として児童相談所と事前に協議し、その了解を得ておく。
イ.  入所して1〜2カ月以内に、地域で関わっていた関係機関等に児童福祉施設に集まってもらい、ケース検討会議を開くよう要保護児童対策調整機関に求めることも有用となろう。虐待発生から保護に至るまでの各機関の関わりとその家族に関する情報の共有化、入所後の援助目標の設定と子どものトラウマ治療の必要性とその方法の検討、保護者への関わり方と治療的介入の目標設定と共有化、外出や外泊が可能であるかの検討、保護者の面会等の留意点等について関係機関、児童相談所、施設で話し合っておけば、お互いにこれからの見通しをもって関わることができる。


6. 児童委員との連携
(1)  児童委員の概要
[1]  児童委員
 児童委員は、児童福祉法に基づき市町村の区域に置かれている民間奉仕者であり、主として次の職務を行う。
ア.  子どもや妊産婦について、
(ア)  その生活と取り巻く環境の状況を適切に把握すること
(イ)  その保護、保健その他福祉に関し、サービスを適切に利用するために必要な情報の提供その他の援助及び指導を行うこと
イ.  保護を必要とする子どもの把握に努めるとともに、保護を必要とする子どもを発見した者からの通告を市町村、児童相談所等に仲介すること
ウ.  子ども及び妊産婦に係る社会福祉を目的とする事業を経営する者又は子どもの健やかな育成に関する活動を行う者と密接に連携し、その事業又は活動を支援すること
エ.  児童福祉司や社会福祉主事の行う職務に協力すること
オ.  子どもの健やかな育成に関する気運の醸成に努めること
なお、平成15年度における児童委員数は224,582人となっている。
[2]  主任児童委員の概要
 主任児童委員は、主として児童福祉に関する事項を専門的に担当し、児童福祉関係機関と区域を担当する児童委員との連絡・調整を行うとともに、区域を担当する児童委員に対する援助・協力等を行う児童委員である。
 主任児童委員は、児童委員の中から選任されることから、区域を担当する児童委員の職務も行い得るものである。この旨が平成16年児童福祉法改正法により明確化されており、主任児童委員をはじめ、十分に連携を図ることが適当である。
 なお、平成15年度における主任児童委員数は20,250人となっている。
(平成5年3月31日付児発第283号厚生省児童家庭、社会・援護局長連名通知「主任児童委員の設定について」)。
[事例]
   ある地区に父子2人の世帯があり、父親は子どもが幼児期から暴力的なしつけを行うと同時に、小遣いをふんだんに与えるなど溺愛的な面も見られた。子どもが小学校高学年になると、それまで一方的に叩かれていた状態から少しずつ反抗が見られ、物を投げたり、お互いが棒で殴りあったあげく近隣に逃げ込むなど、激しい物音と争いで、たびたび警察に通報する状態となった。
 父親から福祉事務所への援助依頼があったり、近隣の要請で児童委員や主任児童委員が家庭訪問を繰り返し、親子関係の調整や保護者指導、緊急時の通告役等を担当した。関係機関が集まっての事例検討会にも両者は参加した。その時の結論は「施設入所措置」になったが、父親は拒否し、子ども自身も施設入所を嫌い、児童相談所への一時保護を繰り返しながらの在宅援助を続けた。
 結果的には子どもの意思で施設入所措置となったが、措置後も児童委員らは父親自身の寂しさの話し相手や、身体的不調に伴う役所の諸手続や病院への同行等を通して、強制的な引取要求を回避することができた。
 またその後、別の虐待事例が同地区で発見されたが、その際には主任児童委員から直接児童相談所に通告があり、保育所での事例検討会にも参加し、その後も保護者に対する地域での日常的な援助を行っている。

(2)  児童相談所との連携
[1]  連携上の問題点
 上記のような事例もあるが、現実には民生・児童委員や主任児童委員と児童相談所の連携は密接とは言い難い。その原因としては以下のようなことがあると思われる。
ア.  民生・児童委員の行政側の窓口が市町村の社会福祉協議会や地域福祉課で、児童福祉部門と関わりが少なく、かつ最近は民生委員として高齢者対策に追われがちである。
イ.  児童相談所から見れば、児童委員の地域割りが細かく、担当者が分かりにくい。
ウ.  児童委員は高齢者が多いため、保護者への援助を依頼しても、説教調になったり、話が合わないのではないかと危惧される。
エ.  主任児童委員は児童福祉が専門とされているが、地区によっては他の児童委員や総務との関係で、十分に活躍しにくい事情がある。
オ.  今までもほとんど連携や協力の実績がないため、お互いに協力の仕方が分からない。
カ.  虐待事例の場合、保護者は安定した人間関係を保つことが困難であり、また援助の進め方にデリケートな面もあるため、援助に当たっては細かい配慮が必要で、児童相談所からの援助依頼を躊躇する児童委員もいる。
キ.  児童委員から見ると、児童相談所が物理的に遠いだけでなく心理的にも距離があり、権限や業務内容、援助の進め方などが分からず、近づきにくい。
ク.  児童委員から見ると「虐待」かどうかの見極めが難しく、いつの時点で通告するのか、どこまで関わるのか、判断に迷う。
[2]  連携上の留意点
 以上を見ると、お互いが良く知らないこと、および連携の「コツ」が分からない面が多い。
 複雑化、深刻化する児童問題への対応として、地域においてきめ細かな子ども虐待防止活動を進めるため、主任児童委員等に対し児童相談所が子ども虐待に関する研修を実施し、研修修了者を登録する等の方法により地域での子ども虐待の発見・通告の促進、調査及び在宅指導等の協力体制を整備する必要がある。
 また、「社会福祉の増進のための社会福祉事業法の一部を改正する等の法律」(平成12年法律第111号)の施行に伴い、児童委員に関して、児童福祉法、民生委員法、児童委員の活動要領等が改正された。
 要保護児童の通告について、児童相談所の迅速な対応のため、緊急の場合は市町村長を経由せず直接児童相談所長に通知し、また、地域住民の通告を促進するため児童委員を介して通告することができることとされた。
 なお、児童委員の活動要領において要保護児童通告受付票も様式として整備された。
 そのため、民生・児童委員や主任児童委員との連携強化に当っては以下のようなことに留意する。
ア.  児童委員等に子ども虐待について、継続的な研修会を開催し、体系的な知識の伝授を行う。
イ.  上記研修の修了者を中心に連絡網を整備し、児童相談所との密接な連携のもと、地域での援助を積極的に行ってもらうと同時に、いくつかモデル的な取り組みを実施する。
ウ.  市町村で行われる児童委員等の研修会に児童福祉司も参加し、連携のあり方について直接話し合うとともに双方の顔つなぎを行う。
エ.  子育て支援が必要な家庭に対し、コーチのように日々のきめ細かな子育て支援を行う。この場合、児童相談所との役割分担が重要である。
オ.  「安定した人間関係作り」の苦手な保護者に対し、深入りしすぎない声かけや援助を行う。
 なお、「エ」や「オ」については、児童相談所のスーパーバイズや双方の役割分担が必要である。
[3]  具体的な連携事項
ア.  調査の委託
 児童相談所は、その管轄区域内の児童委員に次のような調査を委託することができる。
(ア)  児童委員から通告等を受けた事例で判定のために更に必要な資料を得ようとする場合の調査
(イ)  保護を要する子どもの家庭、地域に関する調査
(ウ)  その他必要と認められる調査
イ.  児童委員指導等
(ア)  児童相談所長は、問題が家庭環境等にあり、児童委員による家族間の人間関係の調整又は経済的援助等により解決すると考えられる事例については児童委員指導措置を行う。
 特に、児童虐待事例等について在宅指導を行う場合、頻繁な家庭訪問等による濃密な指導と観察が必要となるが、児童相談所だけでこれを行うには限界がある場合が多いことから、児童委員指導と児童福祉司指導を併せて行うなど、両者の密接な連携に留意する。
(イ)  児童相談所長は児童委員の指導状況を常時把握し、適切な助言を行う。また、必要に応じ児童委員指導を行っている児童委員を含めた事例検討会議を行う。

(3)  市町村との連携
 市町村は、自らが開催する児童相談援助活動に関する研修などに児童委員の参加を求めたり、地域における児童委員の協議会等へ積極的に出席し情報交換を密にするなど、協力関係を築くことに努める。
 市町村が児童委員との協力を図る場合には、主任児童委員をはじめ、問題解決に最適と考えられるものの活用を図る。
 このため、定期的に(主任)児童委員との連絡会議を開く等の方法により常に連携を図り、地域の児童・家庭の実情の把握に努めることが重要である。
 また、地域における児童健全育成活動や啓発活動等を実施する場合には、(主任)児童委員に情報を提供し、その協力を求めることも考えられる。


7. 児童家庭支援センターとの連携
(1)  児童家庭支援センターの概要
 児童家庭支援センターは、児童相談所等の関係機関と連携しつつ、地域に密着したよりきめ細かな相談支援を行う児童福祉施設である(児童福祉法第44条の2第1項)。
 児童家庭支援センターの業務は児童福祉施設最低基準および「児童家庭支援センター設置運営要綱」(平成10年5月18日付児発第397号厚生省児童家庭局長通知)により下記とされている。
[1]  地域の子どもの福祉に関する各般の問題に関する相談、必要な助言
[2]  児童相談所長の委託に基づく法第26条第1項第2号、第27条第1項第2号の規定による指導
[3]  訪問等の方法による要保護児童および家庭に係る状況把握
[4]  児童相談所、福祉事務所、児童福祉施設、民生・児童委員(主任児童委員)、母子自立支援員、母子福祉団体、公共職業安定所、婦人相談員、保健所、市町村保健センター、学校等関係機関との連絡調整
[5]  要保護児童および家庭に係る援助計画の作成
[6]  その他子どもまたはその保護者等に対する必要な援助
 なお、児童家庭支援センターは、児童福祉施設の相談指導に関する知見や、夜間・緊急時の対応、一時保護等に当たっての施設機能の活用を図る観点から、乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設および児童自立支援施設に附置することとされている。

(2)  児童相談所との連携
[1]  「児童家庭支援センター指導措置」における連携
ア.  「児童家庭支援センター指導措置」が適当と考えられる事例
 平成2年3月5日付児発第133号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針について」により、「児童家庭支援センター指導措置」は法第26条第1項第2号、第27条第1項第2号による指導が必要と認める事例で、地理的要件や過去の相談経緯、その他の理由により児童家庭支援センターによる指導が適当と考えられるものについて積極的に行うこととされている。
 虐待事例について「児童家庭支援センター指導措置」が適当と考えられるものを下記に例示する。
(ア)  児童相談所の調査、判定の結果、虐待の程度や内容等から施設入所措置を採るほどでもないが、頻繁な家庭訪問により経過を見守るとともに、必要な指導を行うことが適当と考えられる事例で、地理的要件等から児童相談所が直接これを行うことが困難と思われるもの。
(イ)  在宅指導が適当と判断される事例で、かつて児童家庭支援センターへの相談歴があり、保護者と児童家庭支援センターとの信頼関係がすでに確立されているため、児童相談所が直接これを行うより児童家庭支援センターが行う方が円滑かつ適切な指導ができると見込まれるもの。
(ウ)  施設入所措置と並行して保護者等への指導を継続する事例で、地理的要件や過去の相談経緯等から、児童家庭支援センターによる指導が適当と考えられるもの。
イ.  連携上の留意点
(ア)  児童家庭支援センターに指導を委託するに当たっては、指導の一貫性等を確保するため、委託の趣旨、委託後の指導のあり方等について児童家庭支援センターと十分な協議を行う。「児童家庭支援センター指導措置」を採る場合、子ども、保護者にその旨十分説明し、了解を得ることを原則とするが、特に虐待事例の場合、一旦保護者の了解が得られてもその後の対応に問題があると、保護者の協力が得られにくくなるばかりか、却って虐待をエスカレートさせ、子どもの死亡等重大な事態を招きかねないことから、児童相談所と児童家庭支援センターとの打合せはとりわけ綿密に行う必要がある。
(イ)  計画的な援助の実施を図るため、援助を行うに当たり児童家庭支援センターは子どもおよび家庭に係る援助計画を作成することとされている。援助の一貫性・的確性を確保するため、児童家庭支援センターが援助計画を作成するに当たって、児童相談所は援助指針との整合性を図りながら児童家庭支援センターを指導することになる。援助計画には、虐待の内容や頻度等を含めた家族の問題点(主訴並びに主訴の背後に存在する真に解決すべき問題点)、援助目標、援助方法、援助計画の再評価等を盛り込むことになるが、特に援助目標や援助方法等については具体性が要求される。
(ウ)  児童相談所は、指導を委託した事例について、指導状況について定期的な報告を求める等、児童家庭支援センターの指導状況を常時把握するよう努めるとともに、必要な指示、指導、援助等を行う。また、必要に応じ児童家庭支援センター職員を含めた事例検討会を開催する。
(エ)  児童相談所は、指導を委託した事例について、必要に応じて施設入所措置や児童福祉司指導措置に切り替えたり、児童家庭支援センター指導措置に児童委員指導措置を加える等、柔軟な対応を図ることが重要である。
[2]  その他の連携
ア.  要保護児童の通告等
 児童家庭支援センターは広く地域・家庭等からの相談を受けるが、これらの内、複雑・困難および法的対応を必要とする事例については児童相談所等の関係機関に通告またはあっせんすることになる。これらが適切かつ円滑に行われるよう、児童相談所は日頃から児童家庭支援センターとの意思疎通、情報交換等に努めるとともに、必要な指導を行う。
イ.  夜間等の緊急の相談等
 児童家庭支援センターは、夜間等の緊急の相談等に迅速に対応できるよう、あらかじめ必要な関係機関等との連絡方法等の対応手順について附置される施設、児童相談所等の関係機関等と協議の上、定めることとされており(「児童家庭支援センター設置運営要綱」)、虐待事例等において迅速かつ適切な対応が図れるよう児童相談所は児童家庭支援センターの対応手順整備に積極的に協力する必要がある。
 特に、必要な場合は児童家庭支援センターが附置されている児童福祉施設において児童相談所による一時保護委託が円滑に行えるよう、児童家庭支援センター、児童福祉施設、児童相談所間の相談・連絡体制について万全を期す必要がある。
ウ.  児童相談所による技術的支援等
 地域住民に密着したきめ細かな相談・援助を通じて、子ども虐待の発生防止、早期発見・早期対応において児童家庭支援センターの果たす役割は極めて大きい。児童家庭支援センターがその役割を遺憾なく発揮できるよう、児童相談所は常に児童家庭支援センターと密接な連携を図るとともに、児童家庭支援センターに対し必要な技術的支援を行い、また、児童家庭支援センターが他の関係機関と円滑な連携が行えるようその仲介、調整等の協力を行うことが肝要である。


8. 児童福祉施設との連携
(1)  児童相談所との連携
[1]  なぜ、連携が求められるか
 虐待を受けた子どもに対する施設入所措置を採るまでの児童相談所のファミリーソーシャルワークは、時に困難をきわめる。入所させた後は関わりが緩慢なように見られる場合があり、児童福祉施設側も措置入所した以上、児童相談所との距離が離れていて、そんな細かいことを話しても分かってもらえないと感じたり、施設にベテラン職員が配置されているからなどの理由から、連絡や相談を控えるなどの事例が見受けられる。
 しかし、児童相談所と児童福祉施設は車の両輪のようなもので、双方とも電話連絡、相互訪問による面接や連絡会議、援助内容検討のための会議などを通じて、共通した認識で同じ方向を目指さねばならない。虐待を受けた子どもの援助に当たっては、子どもが虐待関係の再現傾向を示し、逆転移に巻き込まれてしまう場合もあり、グループホームや家庭的養育の場合も個人プレーは禁物で、二人以上の職員で連絡、相談していくのと同様に、虐待を受けた子どもとその保護者に対する援助は一施設だけでは良い結果が得られない。児童福祉施設としては、措置入所である以上、児童相談所との密接な連携は当然のことである。児童相談所の援助方針と保護者・子どもの意向が異なる場合や困難な保護者対応が求められる事例において、児童相談所が児童福祉審議会への意見聴取するのと同じく、施設もまた、児童相談所と適切に役割分担をしながら、互いに助け合い連携しながら、虐待を行った保護者と子どもを援助することが重要である。なお、連携を進めるためには子ども、保護者の権利やプライバシーの保護への配慮をベースとした、両者の専門的信頼関係が求められる。
[2]  具体的な連携のあり方について
ア.  措置時の情報提供
 連携の基礎は情報の共有であり、有効な援助を行うためには、適切な情報の提供は不可欠である。今までも措置時に児童相談所から施設へ送られる児童記録票には、様々な情報が記載されている。
 しかし、虐待事例については、これら以外に次のような情報が必要となる。
(ア)  虐待の事実関係とその時間的経過
(イ)  虐待をする保護者の性格や児童相談所に対して示した態度
(ウ)  保護者への対応上の留意点
(エ)  虐待をする保護者以外の家族メンバーの性格と施設入所する子どもとの関係
(オ)  虐待が家庭内で起こり、継続したメカニズム
(カ)  子どもの性格や行動パターンと、一時保護中の他児や職員への態度
(キ)  子どもに対して特に必要な援助や対応上の留意点
(ク)  学校での子どもの様子、担任等の評価
(ケ)  今後、子どもが示すと予想される行動や症状
(コ)  子どもや家族の特徴を端的に表しているエピソード(出来事)
(サ)  家庭復帰の見通しと子どもへの説明内容
(シ)  施設(里親)と児童相談所の役割分担
イ.  入所直前の連携
 子どもの入所に備え、事前に施設での生活と援助(治療)の目的・方針、入所の期間(治療の見通し)、援助方法(親子関係の持ち方、面会・帰宅等)、家庭復帰後の援助などについて児童相談所と十分協議する。時には地域の学校や保健所など関係機関にも協力が得られるよう調整することも必要である。場合によっては子どもや保護者の不安を軽減するのに、施設長、保育士、児童指導員等が一時保護所を訪問したり、子どもや保護者に施設を事前に見学させるなども効果がある。
ウ.  援助指針と児童自立支援計画
 「児童養護施設等における入所者の自立支援計画について」(平成10年3月5日付児家法第9号)により、児童相談所からの援助指針に基づき、児童養護施設等では児童自立支援計画を策定することとされている。その作成や見直しにあたっては、児童相談所と十分連携を図る。児童相談所職員の施設訪問や連絡会、援助方針会議等を通じて、児童相談所と施設が子どもの援助について十分協議し、これを児童自立支援計画に盛り込む等、児童自立支援計画は定期的かつ必要に応じて見直していく。なお、児童福祉施設に対する措置が行われてから児童福祉施設が子ども等の実態把握・評価に基づき自立支援計画を策定するまでの数ヶ月間は、児童相談所の策定した援助指針を自立支援計画として活用し支援することも差し支えない。
エ.  入所当日の連携
 入所当日は子どもと保護者の緊張が高く、面識がある児童相談所職員と施設職員双方が協力して、歓迎している気持ちが伝わるように、あたたかな接触態度を心がけるべきである。面接途中、子どもと保護者にホームの見学などの時間を設定し、その間、施設と児童相談所が保護者対応において必要な事柄を再度点検・打合せしておくのもよい。
 保護者の同意が得られにくい状況での入所では、保護者が突然、子どもの面会や引取りを求めてくる場合があり、事前に児童相談所から最寄りの警察へ連絡をしてもらうなど、不測、不慮の事態にも対応出来るための方策や、夜間や休日にも児童相談所職員と緊急連絡が取れるための体制などについて十分打合せをしておく必要がある。
オ.  入所直後の連絡
 入所直後の子どもの様子、学校での生活、保護者の動きなど児童相談所と連絡を取り合うことは、その後の援助に必要である。
カ.  施設入所後の連携
 児童相談所は子どもを施設入所させた後も、施設から報告を聴取したり、定期的に訪問して子どもと面接する、施設と合同で事例検討会を開催するなど、施設と協働して子どもの自立を支援していく必要がある。また、児童相談所は、施設から得た子どもに関する情報を要保護児童対策地域協議会等を通じて関係機関等で共有するよう努めるものとする。
キ.  面会時における連携
 児童福祉施設は、面会に当たっては、親子の表情や双方の言葉のやりとり等を十分観察し、これらを具体的に記録しておくとともに、必要に応じて児童相談所に報告する。
 なお、ネグレクトや心理的虐待の場合、親子で楽しく遊んだ経験が少なかったり、適切な親子のコミュニケーションが成立していない例が多く見られる。このような親子の場合、当人同士だと交流パターンに変化がみられないため、面会時に施設職員が入って「親子の遊び方」や「会話の仕方」を練習することも有効な援助方法である。
 面接の制限については、児童虐待防止法第12条に基づき、児童福祉法第28条の措置により入所している場合については、児童相談所長又は施設長は、虐待の防止及び虐待を受けた子どもの保護の観点から、面会を制限することができることとされており、児童相談所と連携をし、子どもや保護者に対して十分に配慮、調整する必要がある。また、親権者の同意を得て施設入所している場合の面会の制限については、ケを参照のこと。
ク.  許可外泊時における連携
 児童福祉施設は、親子関係に一定の改善が見られ、許可外泊が適当と思われるときは、児童相談所と十分協議を行う。許可外泊中に観察や援助のため外泊先の訪問が必要と思われる事例については、事前に児童相談所と協議し、誰がいつ訪問しどのような指導や援助を行うのか綿密な打合せを行う。
 許可外泊を終え子どもが施設に戻って来たら、子どもや保護者から外泊中の様子を聞くとともに、子どもと保護者の様子や会話等を観察する。また、入浴時の身体観察等を自然な形で行う。これらを具体的に記録し、児童相談所に報告する。
ケ.  強引な引取要求等における連携
 施設に対する保護者からの強引な引取要求については断固として拒否し、児童相談所に行くように指示するが、以後の対応策については、施設と児童相談所で協議する必要がある。また、保護者の暴力的な言動や職員に対する脅し等がみられれば、警察との協力が必要だが、児童相談所の方から警察署に依頼をする方が協力が得られやすい。
 親権者の同意を得て施設入所している場合であっても、子どもが面会や通信を拒否したり、精神的に動揺したりあるいは保護者が子どもを威圧、脅迫したりする恐れがある場合には、施設長は、児童福祉法第47条第2項において、監護に関して入所している子どもの福祉のために必要な措置をとることができることとされている趣旨にもかんがみ、子どもの最善の利益を図る観点から、面会、通信を制限することについて、保護者の理解を得るよう努める、時には毅然とした態度で対応することが求められている。
 また、平成16年児童虐待防止法改正法により、保護者が子どもの引渡しを求め、かつ、これを認めた場合には再び児童虐待が行われること等が認められるときは、児童相談所長は、その子どもを一時保護できることとされている。そして、この措置を採った場合は、児童相談所長は、速やかに、児童福祉法第28条の規定による施設入所等の措置を要する旨を都道府県知事に報告しなければならないとされている。このため、保護者に対し説得を重ねたり毅然とした対応をとってもなお子どもの保護に支障をきたすと認められる場合などには、この手続きを採ることについて、児童相談所と連携を図り対応することが必要である。
 また、一時保護をしている子どもについて、家庭裁判所に対し法第28条第1項の規定に基づく承認に関する審判を申し立てた場合は、家庭裁判所は、申立てにより、審判前の保全処分として、承認に関する審判が効力を生ずるまでの間、保護者について子どもとの面会又は通信を制限することができる。このため、保護者に対し説得を重ねたり毅然とした対応をとってもなお子どもの保護に支障をきたすと認められる場合などには、児童相談所に本保全処分の申立てを検討するよう依頼することが適当である。
コ.  困難事例への共同の取り組み
 虐待された子どもが施設生活の中で不適応症状を見せたり、対応困難な行動を示すことは多い。以前は、児童福祉施設から児童相談所に援助を求める場合は、施設なりに努力を尽くして、いよいよ行き詰まってからが多かったと思われる。
 しかし、今日のように急激に子どもの様子が変わり対応に困る事例や、虐待を受けた子どもの入所の増加に伴い、施設内の努力の限界を超える事態が多発している。
 今後は行き詰まる前に、両者がもっと密接に連携していくことが必要である。
 児童相談所が持つ専門性を活かした施設援助の例をいくつか紹介する。
(ア)  施設内での事例検討会への出席
 施設内で様々な不適応行動が目立ち、職員の努力にもかかわらず収まる気配がない場合など、児童相談所の担当者や精神科医などが施設に出向き、その行動のメカニズムや本人の潜在的意図、対応方法などを一緒に考える。
(イ)  児童相談所への通所指導および訪問指導
 施設内で対応に困った事例について、児童相談所に定期的に通わせるか児童相談所職員が施設を訪問して個別の治療を心理職員等が行う。
(ウ)  児童相談所での一時保護
 施設内での対応に限界を感じたり、行動がパターン化して指導が効果を発揮しない場合など、子どもの行動観察や再判定、援助方針の再検討のために児童相談所に一時保護する。
(エ)  研修会への出席
 都道府県や施設関係団体等が主催する研修会に児童相談所からも積極的に出席し、虐待を受けた子どもの心理構造や集団不適応の対応方法について研修を行う。
 県によっては、児童相談所や施設での困難事例を集めて対応の事例集を作るなどの取り組みを行っているが、これらの積極的活用により、援助技術の共有化を図ることも有用である。
サ.  児童養護施設等から児童相談所に通所指導させる場合の効果と留意点
 児童養護施設等に入所している子どもを児童相談所に通所させて、心理職員等の定期・不定期の指導を継続した場合の効果と限界を施設側から整理すると、以下のようになる。
(ア)  通所指導の効果
 職員と子どもが1対1で通ってくるため、集団生活で見せない面を見ることができ、また個人的な関係形成ができる。
 専門家の目で現在の状況を説明されるので、状況の整理や子どもの内面の把握が容易になる。
 通所を繰り返し、子どもへの理解が進むと、事件が起きても原因を考えたり、有効な打開策を検討するなど、子どもへの対応が変わる。例えば、単に叱ったり、力で押さえ付けるのでなく、柔軟に対応できる。
 同様に、子どもの雰囲気や行動で心理状況が理解し易くなるため、事件を起こす前の先読みができ、予防的な対応ができるようになる。
 普段の子どもの様子が分かっているので、急な問題が起こっても心理職員等に電話で相談して指示を仰げる。
 児童相談所で聞いた話を他の職員にも継続して話し、子どもの理解を共有化する中で、職員全体の子どもの見方が変化する。
(イ)  子どもにとっての通所指導の意味
 施設での集団生活から解放され、「ガス抜き」につながる。
 自分のことを真剣に考え、話を聞いてくれるところとの認識がもてる。
 心の深層に触れる面接や治療により、心理的に疲れるが、反面心の問題が解決し、すっきりした気分になれる時もあるので、行くのは楽しいと思うようになる。
 行き帰りに寄り道したり、食事したりの非日常的体験が楽しみになる。
(ウ)  留意点
 一人の子どもに職員が一人ついて児童相談所まで出かけ、子どもへの指導が終るのを待ち、心理職員との面接を行うと、相当な時間が取られる。そのため「誰を」「どのタイミングで」「本人に何と言って」「誰が連れていくか」等の検討が必要となる。
 子どもによっては、児童相談所に行くことを他の子に秘密にしたがるので、その気持ちへの配慮を行う。
 常に施設長などに報告を行い、職員個人やチームの独走にせず、施設全体の理解を得るようにする。
シ.  帰りたがる子どもへの対応
 保護者から虐待され、時には生命の危険さえあった子どもでも、施設に入所すると、家庭内での楽しかった思い出や保護者の優しい面ばかりを思い出して、家に帰りたがる子どもがいる。特に虐待を受けて育った子どもの多くは、安定した人間関係を保つのが苦手で情緒的にも不安定なため、施設の集団生活の中で様々なトラブルを起こし、それがまた「施設を出たい、家に帰りたい」という発言にもつながる。
 この場合、子どもなりの意向も尊重すべきであるが、生命の危険もあり、安易に応じるわけにはいかない。このような場合、特に家庭内の状況や虐待の危険度、措置されたいきさつなど施設職員では分かりかねる部分もあるので、児童相談所の担当者との協力は欠かせない。
ス.  退所に当たっての連携
 家庭状況が改善され、家庭復帰が可能になると、その準備が始まる。その際には施設と児童相談所が頻繁に情報交換を行い、面会や外泊の頻度を調整する。
 許可外泊を繰り返し、親子関係が改善され、家庭環境も調整され養育機能の回復が見えてきたら、児童相談所と協議の上、措置停止を経由して措置解除すなわち退所となるが、この見極めが最重要課題である。第9章1(5)を参照して、慎重を期して連絡、相談を繰り返し、密接な連携のもとに決定される。
 なお、保護者からの強引な引取要求に児童相談所が押され、家庭復帰が決まりそうだが、施設として不安が強い場合は、施設長は児童福祉法施行令第28条に基づき、場合によっては公式な文書で「家庭復帰には反対」ないしは「児童福祉審議会の意見を聴取すべき」との意思を児童相談所に明確に伝えるべきである。
セ.  アフターケアについて
 退所が決定された場合は、要保護児童対策地域協議会等を活用し、保育所、学校、保健所等の関係諸機関と連携するとともに、個別ケース検討会議等に参加し、退所後も子どもが安心して生活出来る環境を整備するなど、必要なアフターケアに努める。
 なお、アフターケアについては、第9章1(7)、第9章2(9)を参照のこと。

(2)  市町村との連携
[1]  助産、母子保護、保育の実施
 市町村は、助産、母子保護、保育を実施することとされている。助産施設、母子生活支援施設、保育所と市町村は、十分な連携を図り、これらの事務を実施する。
[2]  子育て支援事業の実施
 市町村は子育て支援事業を実施しており、地域子育て支援センター等、当該事業に関連する児童福祉施設と市町村は十分な連携を図る。
[3]  児童福祉施設における相談援助業務
 乳児院、母子生活支援施設、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設及び児童自立支援施設については、子どもの養育に関する相談に応じ、助言を行う努力義務が規定されている。市町村とこれらの機関との間で積極的に連携を図り、これらの機関が相談援助業務の役割を担うことも考えられる。
[4]  児童福祉施設に関する状況の把握
 市町村が施設サービスについて相談者や住民に的確に情報提供を行うことを可能とするため、市町村の担当者と施設の連絡会議を適宜開催するなど、相互理解、相互信頼を深めておく。
[5]  施設に入所している子ども等に関する状況の把握
 市町村は、児童福祉施設と十分連携を図りつつ、入所している子ども及びその保護者あるいは妊産婦の状況等を継続して把握し、必要に応じて援助する。また、児童福祉施設が行う施設を退所した子どものアフターケアに対して協力する。


9. 里親との連携
(1)  里親の概要
 里親は、要保護児童を一時的又は継続的に自己の家庭に預かり養育する者であり(児童福祉法第6条の3)、養育里親、親族里親、短期里親、専門里親の4種類がある。子どもを里親に委託する措置は、児童福祉施設への入所と同様、児童相談所が決定することとなる。
 よりきめ細かい個別的な養育環境が必要な子どもや、施設における集団養護になじみにくい子どもが増えている中で、子どもを家庭において養育する里親制度は重要な役割を担っている。特に2002(平成14)年度から導入された専門里親制度は、家庭での親密な援助関係を必要とする虐待を受けた子ども等に対し、施設では提供できない家庭的な援助を提供することにより、家庭復帰を前提として問題性の改善や治療を図り、自立を支援することを目的とするものであり、虐待を受けた子どもが増加している中で、重要な役割を担っている。
 平成14年度において、子どもを受託している里親数は1,873人、里親に委託されている子どもの数は2,517人となっている。

(2)  里親との連携
 子ども虐待の場合、家族関係の歪みが子どもにしわ寄せされている。特に、言葉の暴力で人間としての尊厳が否定されたり、放置されて人間的な扱いを受けてこなかった子どもたちにとって、基本的な愛着関係の形成の場として里親が選択される場合がある。
 このような子どもたちは、情緒的には赤ちゃんからの育て直しが必要であり、かつトラウマにより安定した人間関係が困難で、様々な不適応行動を起こすことが予想される。そのような場合、児童養護施設以上に心理職員や精神科医などによる専門的な援助が継続的に必要である。里親との連携については、第9章3を参照のこと。


10. 保育所、幼稚園・小学校・中学校等の学校等との連携
(1)  保育所、幼稚園・小学校・中学校等の学校とは
 保育所、幼稚園・小学校・中学校等の学校では、昼間子どもたちが家庭から離れ、同年齢集団の中で学び、遊び、生活をする場である。特に義務教育段階においては、保護者は子どもを学校に就学させる義務がある。また3歳以上の子どものほとんどは保育所か幼稚園に通っている。
 子ども虐待について言えば、昼間だけでも家庭から離れ、安全な居場所を保障され、子どもの精神的な健康を保障するとともに、家庭での状態を日々観察することができる意義は大きい。

(2)  児童相談所及び市町村との連携
[1]  日常的な連携
 児童相談所は普段から所属集団からの相談にも積極的に応じ、日常的に連携を深めると同時に、虐待を受けた子どもの発見や対応方法の周知、また通告義務についても広報に努めなければならない。
[2]  発見通告時の現場のとまどい
 虐待されている子どもは、自分から「虐待されている」と訴えてくることはほとんどない。外傷等で明らかな場合を除けば、多くの場合、教師や保育士によって子どもの雰囲気や様子から虐待が発見される。
 しかし、保護者は「子どもが悪いことをしたので叱った」と言い張り、また教師等も虐待する現場を直接見たわけでない、伝聞・推測情報が中心になる。そのため現場では「どこまでが虐待か」「誰に相談すればいいか」「通告後にどうなるか」等について迷う。
 保育所については、「保育所保育指針」が平成11年10月29日児発第799号厚生省児童家庭局長通知をもって改訂され、第12章に「虐待などへの対応」の項目が立てられ、発見の具体的な手がかり、関係機関との連携等の必要性が強調されるとともに、第13章においても虐待が疑われる子どもや保護者への対応方法等が盛り込まれた。
 現在各県で様々な虐待防止マニュアルが作成され、虐待発見のチェックリストや重症度の判断基準が掲載されているが、虐待か否かの判断はある程度できても、その後の対応については十分明記されていない場合が多いので、現場にはとまどいや不安がある。連携を図る上で児童相談所はこのことに十分配慮するとともに、学校の教職員や児童福祉施設の職員等児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならないこと、発見した者は速やかに児童相談所等に通告しなければならないことを広報する必要がある(児童虐待防止法第4条第3項及び第5条)。
 したがって、「虐待かもしれないが迷っている。話を聞いて」というレベルでの相談(通告)が行える関係づくりがとても大切である。
[3]  通告の仕方
 子どもが所属している現場から通告するに当たっては、
ア.  「疑い」の段階でよいから早めに知らせる。
イ.  直接電話でかまわないが、電話通告の場合は、後日通告書を送付する。
ウ.  クラス担任等の担当者の判断でかまわないが、できれば組織としての判断があった方が調査の時などに混乱が少ない。
エ.  組織としては動かないが、子どもの様子が危険と判断した時には、「匿名の電話や手紙」を児童相談所に出すという方法もある。
オ.  診断書や写真等の虐待を証明する資料は、あった方がいいが、必ずしも必要ない。
カ.  虐待に関する事実関係は、できるだけ細かく具体的に記録しておく。
[4]  調査
 児童相談所等通告を受けた機関は直ちに調査に入る。その最初の調査対象は、通告をした所属集団である。調査に当たってはおおむね以下のようなことを聴取する。
ア.  虐待を疑った事実と経過
イ.  危険度の判断と当面の対応策
ウ.  さらに調査が必要なら、その役割分担
エ.  今後の見通し
[5]  緊急保護と保護者への通告
 虐待の通告の場合、生命・身体の危険性があり、通告と同時に子どもの身柄の保護を要請される場合がある。児童相談所や市町村としては生命・身体の安全を最優先して判断を行う。一時保護については児童相談所長の権限でできるため、必要に応じ身柄を保護した上で対応を考えるべきである。
 子どもを一時保護した後、児童相談所から保護者に対し、一時保護している旨の連絡を入れる。その場合、学校等との兼合いから以下のように説明することが多い。
 「どこからとは言えないが、お宅の子どもさんが危険な状態であると通告があり、調査の結果、今日、児童相談所が子どもさんをお預かりしました。保護者の方からもお話をお聞きしたいので、〇日〇時に児童相談所に来てください」と電話で話す。
 この際、通告者や調査内容については答えないが、長いソーシャルワーク実践の中では、児童相談所なりに虐待とその危険性を判断した根拠(例えば「首を絞めた」、「耳から血が出るくらい殴った」等)の説明はいずれ必要であろう。また多くの場合、緊急保護の後、保護者が学校等に押しかけて「学校が言い付けた」と言うことが多い。このような事態に備えて、学校等から得た情報をどの程度話すか、学校と児童相談所との関わりをどのように説明するか等は、事前に調査をした所属集団と十分に詰めておく必要がある。
 なお基本的には、「学校に調査した結果、いろいろ話を聞いたが、他からの情報と総合して、最終的には児童相談所が判断した」と責任を明確にしておく必要がある。
 また、施設入所に伴い転校が必要となる子どもの手続きが速やかに行えるよう、教育委員会と十分に連携を図ることが必要である。
[6]  措置(一時保護)解除後の受入れ
 施設入所措置や一時保護から子どもが家庭に復帰し、所属集団に戻る場合がある。時には保育所入所を家庭引取りの条件にする場合もある。
 家庭復帰前には、事前に所属集団への復帰を知らせると同時に、入所中の親子の様子や今後の連携の仕方について、打合せが必要である。特に初めてその集団に入る場合などでは、緊急保護の時の連携の経験がないので、児童相談所側から説明に出向き、以後の連携の方法等を確認する必要がある。
 なぜなら子ども虐待は家族システムとして発生し、繰り返すことがほとんどなので、「虐待は再発する」ことを前提に、しばらくの間はかなり注意して経過を見ていく必要があるからである。
 また、市町村は、保育所に入所する子どもを選考する場合には、児童虐待の防止に寄与するため、特別の支援を要する家庭の福祉に配慮をしなければならないこととされている(児童虐待防止法第13条の2第1項)。保育所にこの規定の趣旨を十分に説明するなど、保育所の理解も得ながら適切に対応することが必要である。
[7]  在宅援助中の連携(モニターに対して)
 虐待の危険度が低く、保護者にも虐待の自覚があり援助を自分から求めるような場合には、在宅のまま子どもが所属集団に通ってくる。
 児童相談所等に定期的に保護者と通ったとしても月に数回であり、ほとんどの時間を地域で過ごす。児童相談所は距離的にも遠い場合が多く、日常的な援助と緊急時の通告役としてのモニターを任された機関としては、毎日保護者や子どもと向かい合うストレスで大変である。そのため以下のような援助が必要になってくる。
ア.  日常における細かい対応についてのスーパーバイズ
イ.  当初は数カ月ごとに関係機関を集めた個別ケース検討会議を開催
ウ.  「何かあれば、児童相談所が責任を持つ」という姿勢
エ.  モニターを任された機関や人の不安な心理に対する理解

(3)  児童福祉施設との連携
 児童養護施設等にとって、虐待を受けた子どもの事例に限らず教育機関や保育所などとの連携は、子どもを援助していく上で不可欠なことである。学校、保育所、幼稚園での子どもの生活を通して保護者の状況や、子どもの家庭での生活状況の把握ができることから、施設側は入所前や入所中、退所後の学校等と情報交換や意見交換を行ったりすることが当然のこととなっている。とりわけ虐待を受けた子どもの事例では、子どもの心の癒しのためにも、再発防止のためにも学校等との連携は必須条件であり、児童福祉施設側から積極的に働きかけを行うべきである。
[1]  施設入所前の学校等との連携
 児童養護施設等における虐待を受けた子どもの自立支援計画の策定については、より慎重に行わなければならない。特に子どもの心の癒しを最優先に取り組まなければならないことから、入所前の情報をできるだけ正確に把握し、それを資料にして適切な援助を提供していくことが求められる。子どもの学校等での行動特徴や人間関係の形成能力、集団への参加・適応度などや教員との関係をはじめとして、親子関係、家族関係など収集すべき情報は多々ある。
 また、これらの情報は施設入所後の学校等における生活適応にも役立つ情報でもある。いずれにしても施設側がより望ましい援助を提供するためには、入所前の学校等との連携を積極的に行うべきである。
[2]  施設入所後の学校等との連携
 児童福祉法第28条の承認に基づく措置により施設へ入所してきた子どもについては、とりわけ学校等との密接な連携が必要になってくる。よくある事例としては、登下校において保護者が子どもを連れ去ったりとか、保護者であるといって、学校側に子どもの在籍の確認や面会や引戻しを要求したりする例もある。学校側がよく子どもの事情を理解していないと、保護者との対応にとまどうことが出てくる。
 こうした例もあることから、保護者が学校に現われた場合には、学校側の単独での判断をせず、施設に即連絡をするような申合せを事前にしておくということも必要である。性的虐待を行った養父が、子どもを取り戻そうと登下校に校門に待ち伏せしていた例があり、そのため数カ月間、子どもの登下校を職員が付き添ったという報告もされている。子どもの生命・安全のためにも、施設入所後の学校等との連携を強めなくてはならない。
 また、虐待を受けた子どものなかには人間関係が上手にとれず、学校の友人にも攻撃的になったり暴力的行為をする場合がたびたびある。また、教師に対しても、挑発的であったり、反抗的であったりして、指導困難に陥ることもある。そうした虐待を受けた子どもの心理や行動特性について、十分理解を得ることが円滑な学校生活のためには欠かせないことであり、施設としても積極的に協力していく必要がある。
[3]  施設退所後の学校等との連携
 家庭環境の調整等により、家庭復帰が可能になった場合には、子どもの通学する学校等と十分な連携を図ることがまず必要である。虐待の再発防止のために、また虐待の早期発見・早期対応のためには、子どもの通学する学校での観察が有効である。また、子どもが不安定な学校生活によって巻き起こすさまざまな問題が、虐待のきっかけになることもあることからも、学校との密接な連携が求められる。もちろん児童相談所との連携のもとに行うべきであることは、言うまでもない。
 より好ましい連携の仕方としては、学校両者が比較的遠方ではない場合、転校前の担任教師、転校後の担任教師と施設とが一堂に会し、子どもの学校生活の状況や保護者の状況について意見交換を行うことも効果的な方法である。特に子どもが学校生活で、虐待を受けた子どもによく見られるような友人関係の形成能力に問題があったり、教師の指導になかなか従えない行動があったりした場合には、転校前の教師の指導方法がかなり参考になる場合がある。
 また、施設側からこれまでの保護者や家族の状況、子どもの生活状況を差し支えない範囲内で情報提供しておくことも必要である。そして、子どもにささいなことでも異常があれば、施設側に連絡をとる方法を確立しておくとよい。いずれにしても、転校後の学校等との信頼関係の確立なしには、円滑な連携は期待できない。ややもすると、これまでの例では、プライバシーの尊重を理由に虐待受けた子どもの関係機関への通告・相談が積極的とは言えない学校もあることから、施設側の誠意と積極的な関わりが期待される。


11. 医療機関との連携
(1)  児童相談所及び市町村との関係
 児童虐待防止法第5条において、病院や医師について児童虐待の早期発見の努力義務が課せられたことなどから、虐待の早期発見やその後のケアにおいて医療機関との連携は今後ますます重要になる。地域の医療機関に対し、虐待を受けたと思われる子どもを発見した場合の通告窓口を周知するなどにより、虐待の問題を医療機関が発見した場合には、速やかに市町村や児童相談所に通告されるよう体制を整えておくとともに、子どもの身体的・精神的外傷に対する治療や、精神医学的治療を必要とする保護者の治療が適切に行なわれるよう体制整備に努める。また、地域協議会による援助が適切かつ円滑に行われるためには、地域の医師会や医療機関との連携は必要不可欠であり、虐待について対応してもらえる医療機関の確保に努めることが必要である。
 このような医療機関との連携を円滑に行うためにも、ケース・マネージャーとしての役割を担う児童相談所や市町村としては、医療の特徴をもう少し理解しておく必要がある。以下に理解しておいた方がよいと思われる特徴を挙げておく。
[1]  子どもを扱う医療機関のリズムが早い……子どもを扱う医療機関では急性期の治療方針が立つまでのリズムは非常に早い。しかし、方針が決まって急性期が過ぎると比較的ゆっくりな対応となる。福祉機関での対応のリズムとはかなり異なる。このリズムの違いが認識のずれと不信を生むことがある。子どもの安全が確保されるまでの初期段階での意思決定をできるだけ早く行い、児童相談所又は市町村の方針を様々な条件を考えたフローシートとして説明することで医療機関の協力が得やすいものとなる。
[2]  医療の中でのキーパーソンは医師とは限らない……ソーシャルワーカーや保健師など、地域との連携を担当する職種が医療機関の中にいるときはよいが、そうでないときには、相手の医療機関の中で誰がキーパーソンであるかを考えて動かなければならない。必ずしも医師がキーパーソンとなるとは限らない。医師は治療の主体者であるが、生活の援助者は助産師や看護師である。看護職との連携が必要なことも多い。
[3]  医療機関は生物学的な客観的真実を重視し、社会的対応には慣れていない……その事例に対して医療機関がどのような役割を担う必要があるのかを明確に伝える必要がある。特に、診断書や意見書の提出を求める場合には、それがどのような意味を持つのかを伝えなければならない。医師には診断書や意見書は客観的な真実を書かねばならないという責任感がある。したがって、虐待であるという推定を含んだ診断書を書くことには抵抗がある。虐待であるという断定でなくても、その傷が不自然な外傷であり、虐待の可能性もあるという診断書でも十分であることを伝えることで、診断書や意見書は書きやすくなる。
<具体的な場面への対応>
 ア.  医療機関からの通告があったとき(身体的虐待を中心として)
 医療機関から虐待の可能性があるという通告があったときには、できるだけ素早い対応をする必要がある。まず、できるだけ早期に医療機関へ出向いて状況を把握することが望ましい。そこで、医師や看護師との連携が始まる。しかしながら、医師はかなり多忙な中での会話となる。その中で必要な情報を得るには、児童相談所や市町村として知りたい内容に関して、医師に対する質問をあらかじめ構想しておくとよい。例えば、(1)その医療機関にかかった経過や理由、(2)医療機関が虐待を疑った理由、(3)保護者が医師や保健師に行った説明、(4)子どもの現在の医学的な危険度、(5)医学的な予後、などについて順を追って尋ねるようにする。その際、医療用語で分からない部分があるときには、その場で質問するようにする。分からないところをそのままにしておくことはその後の誤解の元になる。
 その上で、児童相談所や市町村としては、今後、どのような対応をすることになるかについて説明する。そして、その日のうちに、(1)保護者への告知をどのようにするか、(2)虐待をした保護者と子どもの接触をどのようにするか(面会の制限など)、(3)警察との連携をどうするか、(4)緊急の法的対応(一時保護委託など)が必要か、等といった点について合意を得る。告知は非常に重要である。最初の告知が後々まで援助に響くことが多い。身体的虐待の場合には、医師からの告知が望ましいが、医師が慣れていない場合には、事故としては不自然な外傷であることを告げてもらい、虐待の可能性があるというところからの説明を児童相談所や市町村が引き受ける方がよいことも多い。医師と看護師と児童相談所や市町村の職員とが一緒に告知と説明をすることが望まれる。
 面会の制限が必要なときには、児童相談所がその点を明確に伝え、医療機関には児童相談所の許可がなければ面会をさせないよう依頼する。虐待をしていると考えられる保護者が強制的に退院させる可能性があるときには、それを防ぐ方法をあらかじめ考えておく。可能性が高いときには、児童福祉法第33条の一時保護とした上で、医療機関に入院させることも考慮する。なお、市町村にあっては、児童相談所と早急に連絡をとり、対応を検討することが必要である。
 警察との連携に関しては、傷害事件としての通報と同時に、保護者などによって医療機関や児童相談所や市町村職員に危害が及ぶ可能性があるときに、警察の対応を依頼する必要が生じる。医療機関、特に小児科では警察との連携になれていない。児童相談所や市町村が仲立ちをすることも望まれる。保護者からの脅しの電話や実力行使に対してどのように対応するかを警察を含めて合意しておく。
 最後に、これから予想される経過を説明し、医療機関に期待する役割を説明する。その上で、医師や看護師の記録が役に立つことを告げて、保護者の説明などについても記録をしてもらうようにする。また、その後の連携に関して、それぞれの機関のキーパーソン、または連絡の窓口となる人をお互いに明確にしておくことはその後の連携で非常に重要である。
 経過の中で関係者の個別ケース検討会議が必要になるときも多い。忙しい医療関係者の協力を得るには、効率のよい会議を行う必要がある。できるだけ関わる可能性のある人(保健師・施設職員など)を全員一堂に医療機関に集まってもらい、短時間のカンファレンスを行う(原則として1時間以上になることは避ける)。
 緊急対応が必要ではなく、外来対応となる時には、医療機関と関係機関とが合同でその後の対応計画を立てる。医療機関との連携を密にする上でも、頻回な連絡を心がける。
 イ.  虐待によると考えられる身体的問題や精神的問題の評価が必要なとき
 身体的虐待では、レントゲンで発見される骨折の跡があったり、網膜剥離などの眼科的問題や鼓膜破裂などの耳鼻科的問題が生じている可能性がある。性的虐待が疑われるときには、性器の診察とともに、性感染症の検査が必要となる。これらの問題は、医学的な評価を行わなければ発見されない。医学的評価は、子どもの治療に必要であると同時に、法的対応が必要になったときの、状況証拠の一つとなる。身体的虐待や性的虐待が疑われるときにはこれらの医療的に精密な診察や検査に基づく評価が必要となる。また、頻回な頭部外傷からてんかんを発症している子どももいる。時々ボーッとするなど急に行動が変化するといった症状は心理的な解離症状である可能性もあるが、てんかんの可能性もあり、脳波などの検査が必要になることも珍しくはない。児童相談所での心理的評価から精神医学的評価が必要となるときにも医療機関への依頼が必要な場合がある。これらの評価を依頼できる医療機関を確保しておく。
 ウ.  虐待をしている人や、虐待のある家族の精神的評価や治療が必要なとき
 虐待をしている保護者の精神医学的評価や治療が必要となることも多い。その結果が子どもの危険度の判定に影響し、ひいては援助に影響する。治療が必要なときには、主治医に子どもの危険を十分に伝え、主治医から保護者に養育が不可能であることを伝えてもらう必要が生じることも多い。
 エ.  虐待の後遺症と考えられる身体的・精神的問題の治療が必要なとき
 身体的問題や精神的問題の治療を継続する必要があるときには、その事例の全体的な援助計画の一部と位置付けて児童相談所が総合的なマネージメントをすることが重要である。医療機関には定期的に全体の状況を伝え、必要な場合には全体的援助の事例検討会に参加してもらう。医療機関で会議を行ったり、医師が忙しいときには看護師に参加を頼むことなどで医療機関の参加を得ることができる。会議の結果は必ず医療機関に報告する。

(2)  児童福祉施設との関係
[1]  もともと医療的援助が必要な疾患を抱えている場合
 虐待を受けた子どものなかには障害を持っていたり、慢性的な疾患を抱えている子どもたちが少なくない。障害や慢性疾患が虐待のリスク要因となっていることもある。近年、医療の分野では、できるだけ長期の入院を避けて在宅援助を行う傾向がある。したがって、これからは、リハビリが必要な子ども、自己導尿を行っている子ども、透析を行っている子ども、在宅酸素療法を行っている子ども、などが施設に入所する可能性も高い。医師や看護師から十分な情報を得て、児童福祉施設での医療援助を行わなければならない。医療援助の技術を習得するとともに、それぞれの疾患に関する知識も得て、日常生活の制限の仕方、子どもへの病気の説明の仕方、自立の支援などを行う必要がある。医療機関との一対一の連携を行うだけではなく、児童相談所をはじめ保健機関や学校などとも連携をしていかなければならない。
[2]  虐待によると考えられる症状に関して連携が必要となる場合
<身体的治療が必要な時>
   虐待による外傷から障害を生じていたり、てんかんを発症していたり、ということはよく見られる。また、ネグレクトによって低身長や低体重が見られることもある。このような症状があるときには、定期的な通院で医療的治療を受けるとともに、児童福祉施設での医療的援助についても学ぶ必要がある。
<発達の遅れがあるとき>
   虐待で保護された子どもに発達の遅れが見られることはよく経験される。そのような場合には、一度は専門の医療機関、もしくは療育機関に付属している医師の診察を受ける必要がある。背後に医学的原因が存在することが稀ではないからである。ネグレクトによって、新生児のスクリーニング検査で発見された甲状腺機能低下症の治療がなされていなかったケースもある。中耳炎からの聴力の問題や弱視などの眼科的問題は見逃されがちである。原因を検査した上で、必要な療育を行う。療育機関への通園が必要なこともあれば、その子の発達を促進する関わり方を学んで、児童福祉施設で実行することも必要である。虐待を受けた子どもの発達の遅れは頻度の高いものであり、発達の遅れに対応できる医療機関や療育機関と日ごろから連携しておくことが望まれる。
<精神的障害があるとき>
   虐待を受けた子どもは注意欠陥多動性障害などの行動の障害、学習の障害、排泄の障害、睡眠の障害、感情の障害、などといった精神的障害を持っていることが多い。そのような問題に対する医学的な評価と治療(薬物療法を含む)が必要になることは本来非常に多いと考えられる。しかし、これまでは児童福祉施設の認識の問題と子どもの精神障害に対応できる医療機関の不足から医療的対応がなされていないことが多いのが実状であった。頻度の高さから考えて、子どもの精神障害に対応できる医療機関を確保し、個別の通院だけでなく、相談を適宜行えるような連携が望ましい。
[3]  保護者の治療機関との連携
 保護者に精神障害があるときなどは、保護者の状態の変化に関する情報がないと、面接などの場面で子どもが精神的被害を被ることを防ぐことができない。保護者に精神障害があって、子どもに何らかの影響があることが考えられる時には、保護者の治療を行っている医療機関との連携が欠かせない。児童相談所が仲立ちをするか児童福祉施設が直接連絡を取り合うかは状況によるが、保護者の許可を得て連絡を取り合うことが必要である。保護者の精神状態によっては子どもとの接触を制限していく必要が生じる。一般に、保護者の治療者は保護者からの情報しか入らないため、保護者の側しか見ていないことが多い。子どもの状態や子どもと一緒の場面での保護者の状態に関する情報を、保護者の治療をしている医療機関に伝えることは、子どもを守る上で非常に重要である。治療者から面会の制限を伝えてもらう方が保護者を説得しやすいことも多い。


12. 警察との連携
(1)  連携体制
 子どもの保護に向けて、児童相談所と警察署、都道府県児童福祉担当部局と都道府県警察本部のそれぞれにおいて連携体制を整備し、相互に情報を交換し、衆知を集めた対応が行えるようにする。
(2)  児童相談所及び市町村との連携
[1]  日常の接触
 子ども虐待問題で有効な連携を行うためには、日常的な協力関係が重要である。
[2]  迷子とネグレクト
 幼児の迷子で長期間保護者が見つからない場合や、短い期間で繰り返し迷子になる場合は、家庭での養育が問題になる。夜中に子どもが一人でウロウロしたり、2〜3歳の幼児が日中長時間放置されているのは、ネグレクトが疑われるケースである。
 時には単に保護者の監護不行届というだけでなく、もっと深刻な放置(例えば食事を十分に与えない、数日家に帰ってこない)や、拒否(「いなくなればいい、事故にあって死ねばいい」と考える)の場合もある。
 警察としては、児童相談所や市町村へ通告を行うこととなる。
[3]  家出と虐待
 小学校に入るころから公園等に寝泊まりしたり、「家に帰りたくない」と言う子どもが時々いる。警察としては普通、要保護児童として保護者に注意をしたり、子どもに注意を与える。
 しかし、この年齢の子どもが家出を繰り返すのは、夜間に家庭に一人で置かれ寂しい思いをしている、ひどい身体的虐待がある、常に両親が夫婦喧嘩で子どもが辛い思いをする、厳しいしつけで子どもが息が詰まりそうなど、子どもにとって適切でない家庭環境が考えられる。
 つまり、虐待とまで言えない場合でも、家庭内で子どもに対して不適切な養育が行われている現れである。虐待が疑われる外傷やその跡が見られたり、不潔でネグレクトが疑われる場合などには、児童相談所や市町村へ通告されるものである。
[4]  警察への通告の依頼
 住民や地域の関係機関から、児童相談所や市町村へ「あの家庭で保護者が子どもを放置しており、子どもだけで夜ウロウロしている」との通告がある場合がある。
 児童相談所や市町村として、状況の調査、子どもの安全の確認を行い、児童相談所においては必要な場合には一時保護等を行う必要がある。調査の結果、直ちに一時保護までの必要がない場合についても、警察において発見や保護した場合には、児童相談所や市町村に通告してもらうよう管轄警察署に状況を伝えておくべきである。
[5]  立入調査の際の援助の依頼
 児童相談所は虐待事例において、児童福祉法及び児童虐待防止法により家庭等への立入調査が認められている。この調査等をより実効的に実施することのできるよう平成16年児童虐待防止法改正法において、児童相談所長等による警察署長に対する援助要請は、子どもの安全の確認及び安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じて適切に、求めなければならない義務である旨が明確にされた。
 また、警察官の援助の下で児童相談所長等が適切に子どもの安全確認等の職務を行うことを促すため、児童相談所長等から援助要請を受けた警察署長は、子どもの生命又は身体の安全を確認し、又は確保するため必要と認めるときは、速やかに、所属の警察官に、こうした職務の執行を援助するために必要な警察官職務執行法その他の法令の定めるところによる措置を講じさせるよう努めなければならないこととされた。
 このような法改正の経緯も踏まえ、立入調査に際して警察官の援助が必要と認められる場合には援助を依頼し、事前協議の上子どもの安全の確認、必要な場合の一時保護、適切な立入調査等を実施しなければならない。いずれにしろ、虐待への対応においては、警察の十分な理解を求めつつ、あくまで児童相談所が主体的に行動することが大切である。
 なお、児童虐待防止法第10条において子どもの安全の確認、一時保護又は立入調査等の執行に際して「援助の必要があると認めるとき」とは、保護者又は第三者から物理的その他の手段による抵抗を受けるおそれがある場合、現に子どもが虐待されているおそれがある場合などであって、児童相談所長等だけでは職務執行をすることが困難なため、警察官の援助を必要とする場合をいう。
[6]  虐待行為の犯罪性
 子ども虐待、特に身体的虐待は、刑法の「傷害罪」「暴行罪」に当たり、死に至れば「殺人罪」や「傷害致死罪」などに問われる。また性的虐待の場合は、「強姦罪」「強制わいせつ罪」「準強制わいせつ罪」などに問われる。児童相談所が行う立入調査や一時保護の執行が妨害されたり、職員に対し暴行、傷害、脅迫がなされれば、暴行罪、傷害罪、脅迫罪或いは児童福祉法第62条第1号に該当する。刑事訴訟法第239条では、公務員はその職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発する義務のあることが規定されている。
 子ども自身が「自分が悪いことをしたために家族がバラバラになり施設に入所せざるを得なくなった。」と否定的に受け止めないために、また、客観的な情報をもとに援助方針を決定するため、正確な事実関係を把握する上で告発が必要な場合もある。
 児童相談所は子どもと保護者を含めた家族全体を視野に入れた援助を行うための機関であり、子どもの最善の利益の観点から告訴、告発が必要な場合には躊躇なく行うべきものである。
 保護者には援助的に関わり、虐待のない家族関係の構築を目指すことが原則であるが、一方で「虐待は犯罪である」ことの自覚を援助者自身が持っておく必要があり、保護者の逮捕・勾留など警察との連携が必要な事例もあることに留意する。
 なお、告発の際には児童相談所が警察に提出した情報、資料について、開示を求められた場合には、警察の捜査に支障を及ぼさないよう、警察と十分協議し、対応しなければならない。
 また、立入調査の妨害については、立入調査自体が通常の福祉的援助が不可能な状況下で実施されるものであり、子どもの福祉上不可欠な措置として強制力を間接的に担保するため、児童福祉法第62条で罰則が規定されているものである。正当の理由なく立入調査の執行を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又はその質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をするなどの場合には、必要に応じ本規定の活用が図られるべきである。具体的には、保護者の立入調査への妨害等に対して、児童福祉法に違反する旨を告げ、調査への協力を説得し、調査の執行が円滑に行われるようにする。それでもなお、調査に応じない場合には、子どもの状況、虐待の蓋然性を総合的に判断し、警察等への告発等を検討する。

 〈参考〉
  ○  刑事訴訟法
239条(告発)
何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。
(2)  官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。
241条(告訴告発の方式)
告訴又は告発は、書面又は口頭で検察官又は司法警察員にこれをしなければならない。
(2)  検察官又は司法警察員は、口頭による告訴又は告発を受けたときは調書を作らなければならない。

[7]  警察への働きかけ
 何かあったとき突然に警察に援助を依頼するのではなく、情報を把握した場合には、緊急性、危険性の評価をするとともに対応方針を検討し、早い段階から相談するとともに、一時保護や児童福祉施設入所措置された子どもや保護者の状況についても警察との綿密な情報交換がなされるよう連携を強化する等、日頃からの情報の共有や意見交換の機会を持ち円滑な協力関係を作ることが必要である。

[8]  警察との連携事例
 以下、実際例を参考までに紹介する。
[事例I]
 警察が虐待との通報を受け、保護者と子どもを警察で事情聴取した。体罰が行われており、親もしつけに困っているとのことから、警察官から児童相談所に相談するよう助言があり、また、児童相談所への通告も行われた。通告に基づき児童相談所から保護者への指導が開始された。

[事例II]
 児童相談所で情報を把握している、ネグレクトが疑われる状態で徘徊する傾向がある子どもについて、警察での発見や保護が行われた場合には、児童相談所に通告をしてもらうよう、警察に連絡し協力を依頼。警察から通告があり児童相談所において一時保護。保護者に一時保護している旨伝え、保護者への指導の端緒が得られた。

[事例III]
 保護者への接近が困難な小学校高学年の虐待を受けた子ども。一時保護や施設で保護することが可能であること、また緊急の場合には、児童相談所や警察へ保護を申し出るように学校の場を利用してあらかじめ情報を伝達。児童相談所から警察へは状況を伝え緊急の場合の保護、児童相談所への通告等の協力を依頼。結局子ども自身が警察に保護を求め、警察からの通告により児童相談所が一時保護をした。

[事例IV]
 重度の知的障害児に対する身体的虐待及びネグレクトのケース。市ネットワークから警察署に、警察で保護した場合は、児童相談所に通告してもらうことを依頼していたが、この子どもが警察に保護されたため、警察から児童相談所へ通告がなされ、その子どもは2週間の一時保護となった。

[事例V]
 学校から、ネグレクトの疑いで子ども家庭支援センターに通告の入った小学生。食事も満足に与えられていない様子で、お菓子の万引きや、「道が判らなくなった」と言っては食べ物をねだる事が繰り返されていた。児童相談所に通告し、児童相談所・学校・警察と子ども家庭支援センターとで関係者会議を開催。児童相談所と支援センターで訪問すると同時に、警察にも保護が行なわれた場合の児童相談所への通告を依頼。警察からの通告で児童相談所による一時保護につながった。

(3)  児童福祉施設との連携
[1]  事前協議
 施設入所してきた虐待を受けた子どものうち、保護者が引取りや面会を強引に求める場合がある。そうした保護者に対して施設としては根気よく説得をし、理解させる努力を払うが、時にはその過程で思わぬ展開になることがある。特に激昂しやすい保護者が、説得する職員に対して暴力を振るう例もある。そうした保護者は、施設入所前にも加害行為をとっていることが多い。こうした保護者との対応については、児童相談所との連携のもとに地元警察署の協力を求めることが必要である。警察署に対しては事前協議をしておき、保護者の加害行為が予測される場合には、即応できる体制を確保しておくことが重要である。とりわけ施設側にとっては、地元警察署の少年係とは比較的緊密な関係にあることが多いことから、そうした係を仲介して協力関係を確立しておく方法もよい。
[2]  警察への通報
 保護者の強引な引取りをめぐって、保護者が職員等に危険な行為を起こすおそれがある場合や、実際に加害行為を行った場合には、毅然として早期に警察へ協力要請を行うべきである。もちろん原則的には、職員は保護者の態度変容を期待して、相手の態度を和らげるような接し方を基本とすることが必要である。保護者と対決することが目的ではなく、さまざまな援助方法によって保護者の気持ちを和らげることを目指して対応することはいうまでもないことである。
 子どもを多く抱える施設においては、子どもの面前で警察の協力を得ての対応についてはやや消極的になりやすい。できれば避けたいという態度をとりやすいが、警察の協力があれば、保護者は躊躇することは間違いない。再発防止のためにも、生命の安全の確保のためにもやむを得ないことであり、暴力行為をとることを常套手段とする保護者には警察の協力を求めることが適当である。
 施設において一時保護の委託を受けた子どもや措置を受け入所している子どもに対する保護者からの強引な引き取り要求に関しても児童虐待防止法の趣旨、目的からこれらの場合についても第10条に準じた対応を依頼することが適当である。なお、施設においても日頃から警察との情報の共有や意見交換の機会を持ち円滑な協力関係を作ることが必要であることは(1)と同様である。
 子どもの生命・安全を第一義的に考えて対処すべきである。


13. 弁護士との連携
 虐待問題に関する弁護士の関心はかなり高まってきたが、まだすべての地域に揃っているわけではなく地域差がある。
 弁護士は通常、社会的な要請、ニーズによって関心が育ち、研究するようになるので、児童相談所としては積極的に弁護士に問題提起をしていくのがよいであろう。その場合でも、関心を示しそうな弁護士を探すのも時間がかかるので、ストレートに最寄りの弁護士会に対して「子どもの虐待問題について共同研究会を開催したいので出席を呼びかけてほしい」と申し入れることもよい。あるいは日本弁護士会連合会子どもの権利委員会(子どもの福祉小委員会)の担当事務局に連絡し、「○○県ではどういう弁護士が関心を持っているだろうか」と問い合わせるのもよい。また、弁護士が弁護士会とは別に子どもの虐待に関するグループを結成している例もある(愛知県のCAPNA弁護団など。)
 弁護士と接触できるようになったら、まずは共同研究会をしっかり継続して、具体的な事例によって弁護士を教育するくらいの意気込みが望ましい。弁護士による法的介入が直ちに必要な事例ではなくとも、広く虐待の実情を弁護士が知ることは、非常に大きな力になるはずである。神奈川県や北九州市、大阪府、大阪市などをはじめ、弁護士会と児童相談所が共同研究会を継続して行っている地域も増えている。
 これらは任意の研究会であるが、そこで関心を持った弁護士を県の公的な対策委員会や児童福祉審議会などの審議会のメンバーに加えることもよい。(漫然と従来からの県の顧問弁護士を充てるというのは感心しない。)
 具体的な事例に弁護士が関わるようになると、連携は一段階進む。児童相談所として児童福祉法第28条申立ての代理人を依頼したり、申立てを支援してもらったりすることもあるし、親族による親権喪失宣告や親権者変更の申立ての代理人という形で実質的に児童相談所と連携する場合もある。大阪や神奈川など、弁護士が個々の児童相談所の虐待事例を恒常的に分担して相談に預かるようになっている自治体も少なくなく、香川県においては、立入調査や一時保護の際に、児童相談所の求めに応じて弁護士を派遣する協定を県の弁護士会と締結している。
 弁護士が動く場合にはそれなりの費用が問題となるが、非常勤職員として雇用したり、対策委員会や個別事例の作業委員会への参加日当等の形で賄われているようである。(ちなみに、親族による申立ての代理人となる場合には、その親族から費用まで出してもらえないこともあり、法律扶助制度を利用するのも一方法である。)


14. 家庭裁判所との連携
 (1)  子どもの虐待事件が発生した場合、児童相談所による援助や介入の仕方は、在宅指導、緊急一時保護、保護者の同意を得た施設入所の順に親子関係への介入が強まってくる。虐待が発生し、あるいは虐待が強く疑われて、子どもの福祉と最善の利益を実現するために保護者の意思に反してでも緊急に親子関係への介入が必要な場合、次に記すような事件を申し立てることによって親子の分離を図ることになる。
 なお、連携にあたり一般的に念頭におくべきこととしては第6章7から11までを参照のこと。
 (2)  家庭裁判所との関係では、事前の連携、迅速な申立て、虐待や福祉侵害の資料の追完、児童相談所職員を中心とした子どもを取り巻く関係機関ネットワークの人々と家庭裁判所調査官との円滑な連携、裁判官および家庭裁判所調査官への当該子どもの虐待理解を助ける資料の提出などに留意しておくとよい。
 なお、児童福祉法第28条事件の審理に臨むに当たっては、必ずしも明白な虐待の有無の証拠提出に拘泥せず、監護の著しい不適切さの有無の存在など、子どもの福祉侵害の状況を明らかにするように努めることでよい。
 (3)  児童福祉法第28条事件の平成11年から平成15年までの審理結果のうち、取下げは23パーセントである(司法統計による。)その中には、家庭裁判所に申し立てて審理を進める過程で、保護者が施設等への入所に同意し、実質的な解決を見た事例もある。その一方で、施設等入所の承認が得にくく、却下が予想されたためにやむなく取り下げた事例もある。しかし、子どもの福祉侵害が強く推認され、資料等をそろえて審理を受けても、家庭裁判所の理解が十分に得られずに却下される場合には、却下を恐れず、即時抗告して高等裁判所の判断を仰ぐことも必要であろう。福祉侵害の存在が強く疑われる場合には、高等裁判所の判例を積み重ねることによって、子どもの虐待や子どもの最善の利益を図ることへの認識が広く理解されていくことになる。
[事例I]
 親権喪失宣告、および事案によっては併せてこれを本案とする親権者の職務執行停止および職務代行者選任の保全処分の申立事件
 ア.  母33歳は離婚し、3年前に5歳年下の男性と再婚し、自分の9歳と5歳の女児は継父と養子縁組をしている。母は夜スナックに勤めているが精神障害があり、二人の子どもを殴る、蹴る、髪の毛を持って引き回すなどして、これまでも度々けがをさせて入院を繰り返していた。養父も定職がなく、粗暴性があり、子どもへの殴打のほか、母が深夜帰宅すると母を殴ったり、さらに2年前から寝ている二人の養女を触ったりして性的虐待を繰り返してきた。長女が夜間徘徊して警察に保護され、帰宅を嫌がったことから児童相談所に通告された。長女の話や身体のけがの跡や痣から父母の身体的虐待が強く推測され、養父の性的虐待も疑われた。
 イ.  父母は、子どもへの殴打はしつけの一環であると言い、長女の引取りを強く主張した。しかし、長女は帰宅を嫌がったことから児童相談所は長女に対して一時保護の措置をとり、長女と次女の身体的、性的虐待が強く疑われて緊急に二人の子どもを保護することが必要と認められた。そこで、児童相談所長は、弁護士に相談し、その協力を得て母の実母を申立人として家庭裁判所に親権喪失宣告の請求をした。また、緊急に子どもを親から分離する必要があると考え、翌日に親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の保全処分を追加して申し立て、弁護士に職務代行者になってもらうことにした。
 ウ.  児童相談所では、事前に家庭裁判所調査官に電話で事件の概要を説明し、間もなく親権喪失宣告事件を申し立てる予定であることを含めて連携をとった。家庭裁判所では、事件受理後、虐待が相当程度疑われ、かつ緊急性があり、親権喪失宣告(本案)の認容の蓋然性も高そうであるとの見通しのもと、まず親権者の職務執行停止および職務代行者の選任について調査を進めることとし、同時に第1回の審問期日を決めた。
 三人の家庭裁判所調査官による共同調査が決まり、家庭裁判所調査官は申立人である母の実母、児童相談所の職員、弁護士等と面接調査をし、保全処分の審理に必要な諸資料の提出を受けた。同時に、児童相談所は、裁判官が親権者の職務執行停止および職務代行者の選任を認容した場合に親権者の職務執行停止が父母に告知されるタイミングを踏まえ、父母と同居している次女をいかにタイミングよく父母から分離して一時保護するかを弁護士らと予め綿密に検討し、保全処分の審判がされた後、無事次女を父母から分離させた。
 エ.  その後、母や養父が再三児童相談所に押しかけて子どもへの面会や引取りを要求して職員を困らせた。三人の家庭裁判所調査官は、児童相談所において担当職員、弁護士、長女を委託一時保護した施設の担当職員、一時保護所の担当職員など、子どもを巡る関係者を対象に、本案の審理のための調査を進めた。
 裁判官は、家庭裁判所調査官の調査結果や児童相談所等から提出された諸資料、父母への審問の結果に加え、父母のこれまでの行為や養育への考え方、父母の将来の養育方針等を総合的に検討した結果、父母の下で養育されることは将来的にも二人の子どもの福祉に著しく反し、民法第834条の親権の濫用又は著しく不行跡に当たるものと判断して、親権喪失宣告の審判をした。二人の子どもは、実父に引き取られ、養父との養子縁組を解消した上で親権者を母から実父に変更して本件は最終的な決着を得た。
 (4)  虐待の事例が家庭裁判所に係属した場合、家庭裁判所調査官や裁判官に対して子どもを中心にした虐待に関する資料や情報をこまめに提出し、裁判官や家庭裁判所調査官等に子どもの福祉や最善の利益が得られるような判断をしてもらうことが必要であろう。
[事例II]
 親権者変更申立事件
 ア.  父37歳は離婚し、13歳の女児と古いアパートに住む父子家庭である。父は、肝臓を患って生活保護を受給し、女児を家に閉じこめて朝から酒を飲んでいることが多い。女児は不登校で中学校の教師が家庭訪問しても、父は戸を開けようともしない。福祉事務所の社会福祉主事の話によると、家の中は衣類や弁当の空き箱などが一面に散乱して足の踏み場もないほどであり、万年床が一枚敷いてあってそこに親子で寝ている様子だという。近隣の住人によれば、女児は不潔な服装で痩せて顔色も悪く、ひどくおびえている様子であったという。
 イ.  児童相談所に近隣の人から通告があり、保護の怠慢など子どもの虐待が疑われ、放置できないと判断されたため、父親の外出時に合わせて児童相談所と福祉事務所の職員が家を訪れ、女児を説得して戸を開けさせ、おびえて躊躇する女児を納得させて児童相談所に緊急一時保護した。父親は酒に酔って児童相談所に女児を返せと怒鳴りこんできて暴れたりした。女児は、食事も十分に与えられず、半ば監禁されているような状況であった。父は、女児の施設への入所には全く応じないため、児童相談所は、対応を検討し、女児の実母を見つけ出して実情を話した。実母は女児を引き取れる状況にはなかったが、女児の窮状を理解し、自分が親権者になると言って児童相談所の援助を得ながら家庭裁判所に親権者変更の申立てをすることにした。
 ウ.  児童相談所は,日ごろから協力を得ている弁護士と相談し、家庭裁判所に親権者変更の申立てをした。父は、女児の引取りと自分が養育することを繰り返し強く主張した。当初、実母が直接引き取って養育できないことから、家庭裁判所も、親権者変更の必要性と相当性について判断しかねたが、児童相談所の職員が子どもの福祉が侵害されていて虐待に当たることを客観的な資料を提出して説明し、福祉事務所の社会福祉主事も資料の提出や説明をし、女児自身も父と生活をともにしたくないと考えるようになり、自分の気持ちを書いた上申書を裁判所に提出したりしたことに加え、近い将来実母が家庭環境を整えて女児を引き取れる可能性が見えてきたことから、裁判所は、審問を開いて父母をはじめ児童相談所の職員等の意見を聴取して検討を加えたうえ、最終的に親権者変更を決定した。
 (5)  児童相談所と家庭裁判所が協議を行い、家庭裁判所が遵守事項を定めて保護者に約束させることにより、児童福祉法第28条申立てを取り下げた事例。
[事例III]
 施設入所の承認を求める児童福祉法28条申立て事件
 ア.  父は2人の連れ子を伴い、また母も2人の連れ子を伴って再婚し、さらに新たに生まれた乳児を抱え7人で生活を営んでいた家族。
 しかし、父は飲酒癖があり、仕事も転々として現在は失業中である。妻子に暴力を振るうほか、他人に対しても暴力・暴言を常習とし、過去に恐喝事件を起こしている。また、近隣では有名なトラブルメーカーとして親族も含め、周りの者が皆が関わりを避けている。
 イ.  父が妻子に対し頻繁に暴力をふるっている旨、近隣より通告が入る。長男が通っている学校に出向いて調査を行うと、父がしばしば学校に対しても無理難題を押しつけたり、子どもに命じて暴力行為をさせたり、また時に実子の幼児に足蹴りをしたりという事実が明らかになる。
 関係者による緊急ケース会議の場をもうけ協議を行うが、とうてい話し合いのできる親ではないとの意見により、立入調査と職権による子どもの一時保護を実行する旨、意志確認する。
 ウ.  打ちあわせた日に、児童相談所、警察、弁護士を交えて立入調査を実行。当初、生活保護費の支払いの機会をとらえ、福祉事務所において母だけに面接をして暴力の事実と逃げる意向を確認するが、母自身は夫と別れる意志がない旨判明。よって、学校、保育所、自宅と巡回し、上の4人の子どもを職権で保護するとともに、父母には施設入所につき同意が得られない場合、28条審判を申し立てる旨伝える。なお、末子の乳児には被虐待の兆候がなかったので、父母の意向を斟酌し、保護については保留の扱いとする。
 エ.  家庭裁判所には末子を除いた4人の子どもを事件本人として児童福祉法第28条の申立てを行う。
 一時保護を行った4人の子どもの観察では、母の連れ子を除いて、家庭への愛着が強く、子どもにより微妙に差異があることが明らかになる。
 父母もまた、いきなりの職権保護でこのまま施設に入所するのでは親として努力のチャンスが得られないと主張したこと、一定の枠組みを与えた上での在宅での指導と観察ができないかを見極める余地があったことなどから、父母が遵守事項を守るという約束のもとに、児童相談所が申立てを取り下げることとし、以降、在宅指導による経過観察ケースとして対処することになる。
 オ.  遵守事項は以下の通り。
 父○○及び母○○は、以下の事項を約束する。
 子どもたちに対して暴力を振るわない。
 子どもたちを学校や保育所に毎日通わせる。
 子どもをめぐって近隣等ともめごとを起こさない。抗議や口論の場に子どもたちを連れていったり、子どもたちをもめごとに巻き込んだりしない。
 以上1ないし3のほか、子どもたちが安心して落ち着いた生活を送ることができるよう、子どもたちを適切に監護養育する。
 児童相談所が子どもたちや家族の生活の様子について、電話や家庭訪問等によって確認を行う場合には、これに協力する。
 転居したり長期間自宅を不在にする場合には、事前に児童相談所にその旨を連絡する。
 父○○は、母○○に対し暴力を振るわないことを約束する。
 (6)  虐待に関する事件については、郵送による申立ては避け、事前に連携を取ったり、家庭裁判所に申立てに行き、家庭裁判所調査官に直接事件のポイントや状況、緊急に必要なことや申立て後の連携のとり方などについて十分打合せをすることが望ましい。
 子どもの虐待に関する事件は緊急性や流動性を持ち、虐待への深い理解、必要な資料の収集、虐待を行っている保護者や虐待を受けている子どもへの内面の理解、関係者個々の持つ問題性、同居の可否、親子の再統合の可能性の判断など、家庭裁判所で扱う他の家庭事件とはかなり違った要素を多く含む事件であるので、申立てに当たっては、このような虐待事案の特殊性を十分に考慮して、子どもの福祉実現のため、裁判官、家庭裁判所調査官、書記官などによりよく事案や問題点を理解してもらえるよう、種々の配慮と工夫をしていくことが必要である。


15. 配偶者暴力相談支援センターとの関係
(1)  配偶者暴力相談支援センターとは
[1]  配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るため、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(平成13年法律第31号。この節において「配偶者暴力防止法」という。)に基づき、配偶者からの暴力の被害者に対し次のような支援を行う行政機関である。
ア.  相談への対応、他の相談機関の紹介
イ.  医学的又は心理学的な指導その他の指導
ウ.  被害者及びその同伴家族の一時保護(ただし、婦人相談所のみ実施可能)
エ.  自立して生活することを促進するための制度(就業の促進、住宅の確保、援護等)の利用等に関する情報提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助
オ.  保護命令制度の利用についての情報提供、助言、関係機関への連絡その他の援助
カ.  被害者を居住させ保護する施設の利用についての情報提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助
[2]  都道府県は、当該都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設を配偶者暴力相談支援センターに指定することとされている。実際に配偶者暴力相談支援センターに指定されている機関としては、婦人相談所のほか、福祉事務所、女性センター等がある。また、平成16年の配偶者暴力防止法の改正により、市町村(特別区を含む。)も、当該市町村が設置する適切な施設を配偶者暴力相談支援センターに指定することができるとされた。

(2)  児童相談所及び市町村との連携
[1]  被害者が配偶者暴力相談支援センターに保護を求めた場合であって、その被害者に子どもがいる場合、児童相談所にあっては、当該配偶者暴力相談支援センターとよく連携して対応する。子どもが年長の男児であり、婦人相談所一時保護所で一時保護することがふさわしくない場合に一時保護を引き受けることはもちろん、その子どもにとって最善の援助がなされるよう児童相談所としても積極的に関与する。なお、市町村にあっては、当該配偶者暴力相談支援センターとよく連携しつつも、児童相談所を紹介する。
[2]  特に、平成16年児童虐待防止法改正法により、子どもが同居する家庭における配偶者に対する暴力も児童虐待の一種であるとされた趣旨も踏まえ、子どもが面前で配偶者に対する暴力が行われる等により有害な影響を受けていないか等について検討し、適切に対応すべきである。
[3]  なお、子ども又はその保護者に対応する場合、その対応によって配偶者からの暴力の被害者が配偶者からの更なる暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるなど、配偶者からの暴力の被害者及びその子どもの安全が損なわれることのないよう、事前に必ず配偶者暴力相談支援センターと十分な協議を行うことが必要である。


16. 民間虐待防止団体との連携
(1)  民間虐待防止団体について
 1990(平成2)年に大阪で「児童虐待防止協会」が、1991(平成3)年には東京に「子どもの虐待防止センター」が発足して以来、子どもの虐待に関心を持っている専門家やボランティアによる活動が全国各地に広がりつつある。
 各団体の組織や活動内容などについては、地域により異なるが、主なものは以下のとおりである。
[1]  目的・組織
 各団体には、福祉、保健、医療、心理、法律等の専門家も参加しており、子どもの虐待防止と子どもと家族への援助、関係機関・専門家のネットワークの形成等を目的としている。
[2]  活動内容
 具体的な活動の主なものは、子どもの虐待に関する電話相談や地域の関係機関への紹介・通告、学生や専門家向けの講演会・研修会の開催、虐待の早期発見や防止のための啓発活動、調査研究活動等である。
 虐待に悩む母親の治療グループや自助グループへの援助活動をしたり、危機介入時に弁護士を派遣しているところもある。
 電話相談では、相談者に対する心理的サポートや助言が中心であるが、継続的な電話カウンセリングを実施しているところもある。また、電話で受けた相談や通告で緊急対応が必要な場合など、地域の関係機関(児童相談所、保健所、市町村保健センター、福祉事務所(家庭児童相談室)等)に紹介・通告することもある。
 なお、1994(平成6)年に「国際児童虐待防止国際シンポジウム&セミナー」が東京で開催されたのを契機に、1996(平成8)年4月「日本子どもの虐待防止研究会(JaSPCAN)」が発足し、2004(平成16)年12月までに10回の全国大会が開催され、講演、シンポジウム、事例研究、各専門分野からの研究発表などが行われている。会員は、福祉、保健、医療、心理、教育、司法、行政等、幅広い領域から集まっており、会員数は、2005(平成17)年1月末現在、1,743人となっている。

(2)  児童相談所及び市町村との連携
 これら民間虐待防止団体は電話相談を活動の主要な柱としているが、電話という手段による簡便性、匿名性、民間団体の機動性、柔軟性といった利点から、多くの相談が寄せられており、効果を上げている。
 児童相談所の場合、関係機関からの通告に基づく親子分離を必要とする深刻な虐待問題が多いのに対し、これら民間団体に寄せられる相談は虐待をしている本人からのものが多く、その内容も「子どもの育て方がわからず、イライラする」「子どもに愛情が感じられない。このままだと虐待してしまうのではないか」といった虐待の前段階か早期の段階での相談が多いのが特徴である。
 子育て家庭の孤立が虐待の大きな要因となっている現在、これら民間団体による支援活動は虐待防止の観点から極めて重要な役割を果たしている。
 しかし、民間の虐待防止団体は法的権限を有しておらず問題解決において一定の限界がある。また、守秘や組織的対応等においても課題があると言わざるをえない。したがって、民間虐待防止団体の利点を活かしながら問題の効果的解決を図るには、民間の虐待防止団体、児童相談所がそれぞれの利点や限界を補完しあいながら一体的な援助活動を展開していく必要があり、そのためには相互の緊密な連携が不可欠となる。民間虐待防止団体との連携を図る場合には下記の点に留意する必要がある。
[1]  通告・紹介
 民間虐待防止団体の機能的限界を超えた法的対応等を要すると認めた場合は速やかに児童相談所に通告または紹介してもらえるよう、児童相談所は日頃から民間虐待防止団体との意思疎通、情報交換を密にしておくこと。
 民間虐待防止団体が児童相談所、保健所、福祉事務所(家庭児童相談室)などに呼びかけて定期的な連絡会を開催し、事例報告や情報交換等を行っているところもある。
 なお、民間虐待防止団体から児童相談所に通告、紹介してもらう場合は、原則として相談者本人の同意を得ておく必要があり、このことを民間虐待防止団体に周知しておく必要がある。
[2]  援助
 上述したように民間虐待防止団体には民間ゆえの気軽さがあり、児童相談所が係属している事例についても保護者が引き続き電話等によって民間虐待防止団体に相談することはあり得る。援助の実効性、一貫性を確保するためには、必要に応じ援助方針や援助内容等について情報・意見交換を行うことが重要である。
 特に、平成16年児童虐待防止法改正法により、民間団体との連携強化や民間団体への支援が国及び地方公共団体の責務として明記されたところであり、各地方公共団体においては、この改正の趣旨を踏まえ、適切な連携と支援が求められる。
 民間虐待防止団体には法上の守秘義務がないことに鑑み、連携に当たってはプライバシーの保護等が確保されるよう十分留意する必要がある。ただし、そのことのみを理由として、連携に消極的となるべきではない。情報共有と守秘に関する協定を締結したり、要保護児童対策地域協議会を活用するなど、個人情報の保護に配慮した具体的な連携方策を検討すべきである。



図11−1  ケース進行管理台帳

ケース進行管理台帳の図



図11−2
ネットワークのモデル的な実践例

ネットワークのモデル的な実践例の図



図11−3  虐待相談・通告受付票
虐待相談・通告受付票の図



図11−4

虐待の進行と予防

虐待の進行と予防の図

図は平成11年度厚生科学研究
「虐待の予防、早期発見及び再発防止に向けた地域における連携体制の構築に関する研究」
(主任研究者 松井一郎)から



別添11-1

【参考事例】児童福祉課中心型
 泉大津市児童虐待防止ネットワーク[愛称CAPIO]


1. 泉大津市の概要
1) 人口:77,902人(平成16年3月末現在)
2) 出生数(率):935人(平成15年)(1.52/平成14年)近年若い世代の流入により出生率が増加している。
3) 0歳から18歳までの児童数:0〜5歳/5,818人 6〜11歳/5,235人 12〜18歳/5,150人 合計16,203人(平成16年4月)
4) 市の特徴:大阪府の南部に位置し、かつては毛布繊維産業を中心とした地場産業都市であったが、近年、住宅都市になりつつある。

2. 児童虐待防止ネットワークの設立理由及び設立時期
 周辺都市において児童虐待の事例が急増したことを危惧した現場の関係者が中心となり、児童虐待の予防、早期発見から児童とその家族への援助に至るまで、関係機関での有機的な連携に基づいた援助を行うために、平成11(1999)年7月に設立された。

3. 泉大津市児童虐待防止ネットワークの特徴
 市児童福祉課にネットワークの事務局とし、虐待ケースの緊急度の判定を児童相談所とともにおこなうこと。

4. 児童虐待防止ネットワークのシステム
1) 組織
 「代表者会議」(各機関の代表者・管理職で構成)と「実務者会議」(各機関・職種の実務者の代表で構成)の2段構えである。

2) 構成メンバー
 医療分野(市立病院小児科・産婦人科、市医師会)、保健分野(府保健所、市健康推進課)、福祉分野(府児童相談所の地域育成室・家庭支援課・虐待対応課、市の児童福祉課・生活福祉課、児童福祉施設)、教育(市教育委員会の指導課、幼稚園、小学校、中学校)、警察署(生活安全課)、消防本部(警備課、救急救助係)等の関係機関や主任児童委員、弁護士等の関係者から構成されている。

3) 活動内容
(1) 被虐対児童の発見からサポートに至るシステムの構築及び実践
(2) 被虐待児童の実態把握
(3) 児童虐待についての地域社会への啓発活動
 リーフレットを市内小中学校、保育所児童を通じ配布し、ポスターを公共施設、病院に提示し、さらに市広報に掲載した。
(4) 児童虐待についての情報交換及び研修活動
(5) 幅広い関係機関・団体との連携
(6) その他児童虐待の解決に必要と認めること

4) 支援の流れ
(1)  関係機関や地域から寄せられた通報や情報は、まずネットワークの事務局である市児童福祉課に集められる。
(2)  寄せられた通報や情報に基づき、児童カルテを作成。
(3)  事務局、実務者会議の座長、児童相談所(子ども家庭センター)の3者で「緊急度判定会議」を開き、事務局が作成した児童カルテに基づき、危険度や緊急度を判断する。
緊急度が高いと判断された事例については、子ども家庭センターに子どもの保護等の対応を依頼する。
緊急度は低いが何らかの対応が必要と判断された事例については、臨時実務者会議の開催と招集するべき関係者を決定し、事務局が関係機関と調整を図り、臨時実務者会議を開催する。
(4)  事務局による臨時実務者会議の日程調整と召集
(5)  臨時実務者会議においては、事態解決にあたっての方針、方法、役割分担、各事例におけるリーダーの決定等を詰めていく。
(6)  臨時実務者会議終了後、各機関が会議で決められた方針に基づいてその家庭や子どもに対応していく。その際には、「いろいろな機関の職種が手をつなぎつつ、それぞれの立場から関わることによって、子どもとその家族を守るチームを作ることが重要」という考え方をもとに、ネットワークを最大限活用した対応を図ることとしている。

5. ネットワークの効果
(1)  実践によって機関同士の結びつきが強化され、日頃の連絡がとりやすくなり、各機関の虐待事例の通報・連絡・対処・解決に向けての協力度が高くなり、援助に対する評価や指示系統ができた。
(2)  「するべきこと」と「どこまでするべきか」が明確なので、自分の活動(役割分担)に専念できるようになった。
(3)  CAPIOの名称が住民に浸透したことで、通報・相談への抵抗感が少なくなった。


図



泉大津市児童虐待防止ネットワーク設置要綱
[愛称:CAPIO]

(趣旨)
 近年の都市化、核家族化の進展等、社会環境が大きく変化するなかで、子ども、また子育てに関する様々な問題が発生し、とりわけ児童虐待に関する問題は年々増加の一途をたどり、深刻な社会問題となっている。
 児童虐待は、子どもの心に深刻な影響を与えるばかりでなく、時として尊い命が親の虐待によって奪われるという痛ましい事件も発生しており、児童虐待を早期に発見し、早期に対応するためこの要綱を制定する。

(設置)
1条 泉大津市内の保健、福祉、医療をはじめ教育、警察等の関係機関が、児童虐待の予防、早期発見から児童とその家族への援助に至るまで、有機的な連携に基づいた援助方策、援助のシステムを検討する泉大津市児童虐待防止ネットワーク(以下、「ネットワーク」という。)を設置する。

(活動内容)
2条 ネットワークは、次に掲げる事項を活動内容とする。
(1)  被虐待児童の発見からサポートに至るシステムの構築及び実践
(2)  被虐待児童の実態把握
(3)  児童虐待についての地域社会への啓発活動
(4)  児童虐待についての情報交換及び研修活動
(5)  上記を推進するための、幅広い関係機関・団体との連携
(6)  前各号に掲げる活動のほか、児童虐待の解決に必要と認めること。

(構成)
3条 ネットワークは、次に掲げる機関等で構成する。
 (1)  大阪府中央子ども家庭センター
 (2)  大阪府和泉保健所
 (3)  泉大津市健康福祉部児童福祉課(家庭児童相談室、保育所)
 (4)  泉大津市健康福祉部健康推進課(保健センター)
 (5)  泉大津市健康福祉部生活福祉課
 (6)  泉大津市教育委員会(指導課、幼稚園、小学校、中学校)
 (7)  泉大津市立病院(小児科部、産婦人科部)
 (8)  泉大津市消防本部
 (9)  泉大津市主任児童委員
 (10)  児童福祉施設(和泉乳児院、和泉幼児院、助松寮)
 (11)  泉大津市医師会
 (12)  弁護士
 (13)  大阪府泉大津警察署(生活安全課)
 (14)  その他連絡、連携が必要と認められる機関

(運営)
4条 ネットワークは、前条に定める機関等の代表者で構成する代表者会議と、各機関の実務者で構成する実務者会議に分けて活動する。
 代表者会議は総括的事項を、実務者会議は具体的な事項について担当する。
 代表者会議、実務者会議にそれぞれ座長を置き、構成員の互選により選出する。
 座長は、会議の招集、進行及び活動推進の総合的な連絡調整を行う。
 座長に事故あるときは、座長があらかじめ指名するものが代行する。

(秘密の保持)
5条 ネットワークの構成者は、会議及びこの活動を通じて知り得た個人の秘密に関する事項について、他に漏らしてはならない。

(事務局)
6条 ネットワークの事務局は、泉大津市福祉部児童福祉課に置く。

(その他)
7条 この要綱に定めるもののほか必要な事項は、別に定める。

   附 則
 この要綱は、平成11年7月1日から施行する。
   附 則
 この要綱は、平成12年5月1日から施行する。
   附 則
 この要綱は、平成14年4月1日から施行する。



【参考事例】子ども家庭支援センター中心型
 東京都三鷹市の児童虐待防止ネットワーク


1. 三鷹市の概要
1) 人口:173,217人(平成16年12月1日現在)
2) 出生数:1,443人(平成15年)
3) 0歳から18歳までの児童数:(平成16年12月1日現在)
 0〜4歳  6,808人
 5〜9歳  7,048人
 10〜14歳  6,562人
 15〜19歳  7,538人
4) 市の特徴:東京都のほぼ真中に位置した住宅都市

2. 子ども家庭支援センターの設立
 東京都児童福祉審議会が、住民が身近なところでどのようなことでも気軽に相談できる適切な援助やサービスを利用できる総合的な相談体制を整える必要があると指摘し、平成7年10月より「子ども家庭支援センター事業」を開始、区市町村で子ども家庭支援センターの設置を進めてきた。子育てに関する実務者会議が必要という認識から子ども相談連絡会が平成2年に立ち上がっていた三鷹市では、これを基盤に平成9年から子ども家庭支援センターをスタートさせた。

3. 三鷹市のネットワークの特徴
 東京都の事業である「子ども家庭支援センター」が中核機関となり、乳幼児の子育て、不登校やいじめ、思春期の子どものことなど、子どもと家庭に関するあらゆる相談に応じるほか、地域の子どもと家庭に関する総合的な支援を目的にファミリーソーシャルワークの視点から地域の援助機関やサービスをネットワークでつなぎ、を市全体での子ども家庭支援システムの強化に取り組んでいる。

4. ネットワークのシステム
1) 組織
 連絡会、定例会、ケース検討会で構成され、連絡会は年1回、定例会は月1回程度、ケース検討会は随時(年平均50回程度)開催することとしている。
2) 構成メンバー
 健康福祉部(子ども家庭支援センター、子育て支援室、総合保健センター、生活福祉課、ハピネスセンター、市立保育園)、企画部企画経営室女性担当、母子自立支援員、教育委員会(指導室、教育相談室、小中学校,市立幼稚園、生涯学習課、児童館、)社会福祉協議会(学童保育所担当)、保健所、児童相談所、母子生活支援施設、児童養護施設、医師会、警察、助産師会、私立保育園、私立幼稚園、主任児童委員、民生児童委員
3) 活動内容
(1)   子ども家庭支援センター事業
親子ひろばによる精神的サポート、グループでの活動支援、相談、ネットワーク事業
(2)   子育て連絡会(子ども家庭支援センターの所管)
子ども家庭支援センターを中心とし、関係機関相互の連携を含め、相談内容の充実や質の向上を目指す
事例検討会、ケース会議、サービス調整会議も行う。
北野ハピネスセンター(療育センター)中心の障害児支援ネットワークとも連携(障害児保育プログラムや親への対応を支援。通園、通所訓練、相談、療育訓練事業、交流、研修、乳幼児の子育て支援事業)

5. ネットワークの効果
 (1)   迅速に対応できるようになった。
 (2)   総合的な状況把握により、問題を家庭全体で捉えた援助が可能になった。
 (3)   関係機関相互の役割や機能が理解でき、関係機関の力量アップにもつながった。
 (4)   どこが発見したりどこに通報が入ったりしても、支援センターにつなぐ事で同じ対応が取れるようになった。



 三鷹市子ども家庭支援ネットワークに関する規則
平成14年3月29日
規則第26号

   改正 平成15年6月12日規則第30号 平成16年4月1日規則第17号
 (目的)
1条 この規則は、子どもと子育てに関する関係組織等の相互の連絡及び調整を行うため、三鷹市子ども家庭支援センター条例(平成9年三鷹市条例第6号)第3条第2号に規定するネットワークを設置し、もって関係組織等が連携して子どもと家庭を支援することを目的とする。
 (名称等)
2条 ネットワークの名称は、三鷹市子ども家庭支援ネットワーク(以下「支援ネット」という。)とする。
 支援ネットは、児童虐待防止区市町村ネットワーク事業実施要綱(平成14年3月29日付け13福子計第1754号)に定める児童虐待防止協議会を兼ねるものとする。
  一部改正〔平成15年規則30号〕
 (構成)
3条 支援ネットは、別表に掲げる組織等の代表者及び子育て支援担当者をもって構成する。
  一部改正〔平成15年規則30号〕
 (運営)
4条 連絡会の運営は、子ども家庭支援センター長(以下「センター長」という。)が行う。
 (会議)
5条 センター長は、次の会議を開催する。
(1)  連絡会
(2)  定例会
(3)  ケース検討会
 連絡会は、各年度の支援ネットの運営方針を定めるため、支援ネットの構成員により各年度1回開催する。
 定例会は、ネットワークの運営に関する情報交換を行うため、別表に掲げる組織等の子育て支援担当者により月1回開催する。
 ケース検討会は、問題を抱える子どもと家庭を支援するため、各事案に関わる組織等の子育て支援担当者により随時開催する。
  一部改正〔平成15年規則30号〕
 (プライバシーの保護)
6条 連絡会の構成員は、プライバシーの保護に最大の注意を払わなければならない。
 市長は、支援ネットに関するプライバシーの保護のため、必要な措置をとるものとする。
 (庶務)
7条 連絡会の庶務は、子ども家庭支援センターが行う。
 (委任)
8条 この規則の施行について必要な事項は、市長が別に定める。
   附 則
 この規則は、平成14年4月1日から施行する。
   附 則(平成15年6月12日規則第30号)
 この規則は、公布の日から施行する。
   附 則(平成16年4月1日規則第17号)
 この規則は、公布の日から施行する。
別表(第3条関係)
 
子ども家庭支援センター 社会教育会館
健康福祉部子育て支援室 市立小学校、中学校及び幼稚園
市立保育園 東京都杉並児童相談所
児童館 東京都三鷹武蔵野保健所
むらさき子どもひろば 警視庁三鷹警察署
市立母子生活支援施設 母子自立支援員(三鷹市担当)
健康福祉部生活福祉課 民生委員・児童委員及び主任児童委員
健康福祉部健康推進課 社団法人三鷹市医師会
北野ハピネスセンター 三鷹市助産師会
企画部企画経営室 三鷹市内の私立保育園及び保育室
教育委員会事務局教育部指導室 三鷹市内の私立幼稚園
教育委員会事務局教育部生涯学習課 社会福祉法人朝陽学園
教育センター教育相談室  
  全部改正〔平成15年規則30号〕、一部改正〔平成16年規則17号〕



【参考事例】
 神奈川県相模原市の児童虐待防止ネットワーク


1. 相模原市の概要
1) 人口:620,599人(平成16年4月1日現在)
2) 出生数(率):6,068人(平成15年)
3) 0歳から18歳までの児童数(平成16年1月1日現在)
0〜4歳  30,360人
5〜9歳  30,183人
10〜14歳  28,660人
15〜19歳  30,773人
4) 市の特徴:北東側を東京都に接する神奈川県北部に位置し、優れた技術集積により次世代産業を担う内陸工業都市として発展を続けている。

2. 相模原市児童虐待防止ネットワーク設立理由と時期
  平成12年の虐待防止法成立以降、児童虐待防止ネットワークの設置について検討していたところ、虐待死亡事件が発生。これを契機に「児童虐待防止ネットワーク」が平成13年5月に発足した。

3. 相模原市のネットワークの特徴
  子育て支援課、福祉事務所、保健所が連携して中核機関の役割を担っている。保健所では、乳幼児について独自に作成したチェックリストを基にケースの重症度の評価を行いランク分けした上で初期対応に当たる。ケースの進行管理においても、市ネットワークで独自に作成した各機関共通のツールである支援評価シートを活用して対応にあたっている。

4. ネットワークのシステム
1) 組織
 児童虐待防止ネットワークは「児童虐待防止協議会」と「児童虐待防止連絡会議」によって構成される。
2) 構成メンバー
(1) 「児童虐待防止協議会」は相模原市(保健福祉部長、保健所長、学校教育部長)と児童相談所、児童養護施設、民生・児童委員、医師、歯科医師、保育園、弁護士、人権擁護委員、警察署、幼稚園、小・中学校などの市内の関係機関・団体から推薦された者で構成されている。
(2) 「児童虐待防止連絡会議」には、「全体会議」と「ケース会議」が設置され、全体会議は、保健福祉、教育、消防などにおける市の関係機関の長と児童相談所指導課長で構成されている。ケース会議は、個別ケースの関係機関の担当者で構成されている。
3) 活動内容
(1) 「児童虐待防止協議会」
年2回程度開催し、児童虐待への取り組みに関する情報交換、協議、連携等を所掌する。
(2) 「児童虐待防止連絡会議」(全体会議)
年3回程度開催し、児童虐待防止対策事業の方向性の検討や、庁内関係機関のスムーズな連携などについての事項を所掌する。
(3) 「児童虐待防止連絡会議」(ケース会議)
個々の事例に対する情報の共有、具体的な対処方法や役割分担を検討する。また随時のケース会議以外にも、新規ケースの報告、終結ケースの検討などを行う「ケース確認会議」を月1回開催。全ケースについて対応方法の確認を行う「定例ケース会議」を年2回開催。児童相談所と連携して対応しているケースについて対応方法の確認を行う「児童相談所との定例ケース会議」を年1回開催。
(4) 「事務担当者会議」
ネットワーク運営上の事務的な課題などについて、各機関の担当者で検討する「事務担当者会議」を月1回開催。

5. ネットワークの効果
(1)   関係機関を超えての情報共有が可能となり、早期に効果的な対応が可能になった。
(2)   複数の機関、複数の職種の幅広い視点で、対応方法を検討できるようになった。
(3)   全体会議で関係各課の課長にネットワークの動きを報告し、承認を受けているため、メンバーが課を超えて活動しやすくなっている。
(4)   定期的に児童虐待を担当している職員が集まることで課題の共有や検討ができるようになり、職員のスキルアップや独自の取り組みなどにつながっている。



相模原市児童虐待防止ネットワーク設置要綱

(目的)
1条 この要綱は、本市における児童虐待の防止並びに早期発見及び早期対応のための関係機関相互間における連携を図ることを目的とする。

(設置)
2条 前条の目的を達成するため、児童虐待防止協議会(以下「協議会」という。)及び児童虐待防止連絡会議(以下「連絡会議」という。)を設置し、これらを相模原市児童虐待防止ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)と総称する。
(協議会)
3条 協議会は、別表1二掲げる構成員をもって組織する。
2  協議会は、児童虐待への取組みに関する情報交換、協議、連携等に係る事項を所掌する。
3  協議会に座長及び副座長を置き、構成員がこれを互選する。
4  座長は、会議の招集及び進行並びに総合的な連絡調整を行う。
5  副座長は、座長を補佐し、座長に事故あるとき、又は座長が欠けたときは、その職務を代理する。

(連絡会議)
4条 連絡会議に、次に掲げる会議を設置する。
(1) 全体会議
(2) ケース会議
(全体会議)
5条 全体会議は、別表2に掲げる構成員をもって組織する。
2  全体会議は、次に掲げる事項を所掌する。
(1) 事例に係る情報の共有及び対応方法の検討
(2) 児童虐待の対応方法についての助言
3  必要があると認めるときは、全体会議に会議の当該構成員以外の者を出席させることができる。
(ケース会議)
6条 ケース会議は、個別の事例に関係する課の担当者及び関係機関に所属する者をもって構成する。
2  ケース会議は、次に掲げる事項を所掌する。
(1) 個々の児童虐待に対応するケース対応チームの編成
(2) ケースの情報、経過及び問題の把握
(3) 役割分担及び対処方法の検討
(4) 家庭支援を含めた援助方法の検討
(招集)
7条 協議会は、座長が招集し、年2回以上開催するものとする。
2  連絡会議は、市長が招集し、必要に応じて開催するものとする。

(秘密の保持)
8条 協議会及び連絡会議の構成員は、職務上知り得た個人の情報について、他に漏らしてはならない。

(庶務)
9条 ネットワークの庶務は、保健福祉部子育て支援課で行う。

(その他)
10条 この要綱に定めるもののほか必要な事項は、市長が別に定める。

  附則
1  この要綱は、平成13年5月22日から施行する。
2  この要綱施行後最初の協議会の会議は、市長が招集する。

  附則
この要綱は、平成14年4月1日から施行する。

  附則
この要綱は、平成15年8月1日から施行する。

  附則
この要綱は、平成16年4月1日から施行する。

別表1 (第3条関係)
相模原市 保健福祉部長
保健福祉部保健所長
学校教育部長
関係機関 相模原児童相談所長
児童養護施設中心子どもの家所長
相模原市民生委員児童委員協議会から推薦された者
相模原市医師会から推薦された者
相模原歯科医師会から推薦された者
相模原市私立保育園長会から推薦された者
横浜弁護士会相模原支部から推薦された者
相模原市人権擁護委員会から推薦された者
相模原警察署から推薦された者
相模原南警察署から推薦された者
相模原市幼稚園関係団体から推薦された者
相模原市公立小学校校長会から推薦された者
相模原市公立中学校校長会から推薦された者

別表2 (第5条関係)
相模原市 企画部 男女共同参画課長
保健福祉部 保健福祉総務課長
地域福祉課長
保健福祉総合相談課長
地域医療課長
子育て支援課長
保育課長
相模原福祉事務所長
南福祉事務所長
陽光園所長
保健福祉部保健所 地域保健課長
保健予防課長
中央保健センター所長
教育委員会管理部 学務課長
教育委員会学校教育部 指導課長
青少年相談センター所長
消防本部 救急対策課長
関係機関 相模原児童相談所 指導課長



【参考事例】子ども虐待予防相談センター中心型
 神奈川県横須賀市の児童虐待防止ネットワーク


1. 横須賀市の概要
1) 人口:434,990人(平成16年10月1日現在)
2) 出生数(率):3730人(8.57)(平成15年7月〜平成16年6月)
3) 0歳から18歳までの児童数:(平成16年10月1日現在)
0〜4歳  14,415人
5〜9歳  19,098人
10〜14歳  19,033人
15〜19歳  22,211人
4) 市の特徴:神奈川県の南東、三浦半島の中央部にあって、東周は東京湾、西周は相模湾にそれぞれ面している。平成13年に中核市へ移行。

2. 子ども虐待予防相談センターの設立
 若い母親らの育児に関する悩みやストレスの解消を手助けすることで、子どもに対する虐待を未然に防ごうと、保健師や保育士、専門家らによる「子ども虐待予防相談センター」を開設。対象は就学前の子どもを持つ保護者で、スタッフは保健師(常勤、非常勤)、保育士(非常勤)、心理相談員(非常勤)、精神科医(非常勤)。ネットワークミーティングやMCG、メンタルヘルス相談、緊急一時保護、緊急一時入院、母親のメンタルヘルスチェック、従事者研修を実施している。

3. 横須賀市のネットワークの特徴
 母子保健の中の子育てネットワークが健康福祉センターを中心に機能していた。平成12年度から、児童虐待防止ネットワークミーティング事業を立ち上げ、全体会(代表者会議)と部会(個別ケース会議)の二重構造となっている。児童虐待という狭いネットワークだけではなく、子育て支援として予防的なより広いネットワークと有機的に連携することにより、児童虐待防止ネットワークが有効に機能している。

4. ネットワークのシステム
1) 組織
 全体会は年2回開催し、相互の情報交換や各機関の役割の明確化、連携強化、啓発活動等について検討する。部会は、個々のケースの情報を共有し、今後の方針、役割分担を明確にすることを目的とし、事務局長が必要と認めた時に随時開催している。

2) 構成メンバー
 教育委員会、医療機関、児童相談所、民生委員・児童委員、主任児童委員、民間保育園、民間幼稚園、弁護士、健康福祉部、その他市長が必要と認める関係機関・団体の代表者

3) 活動内容
(1)   電話相談・面接相談(一般相談)
保健師や心理相談員、保育士が従事し、タイムリーな相談を行っている。
(2)   ネットワークミーティング
横須賀市内における児童虐待の防止と早期発見・早期対応を図るため、児童虐待防止ネットワークミーティングを設置。具体的には関係機関相互の情報の共有と連携の強化を目指す「全体会」と、個々のケースを共有し、今後の方針と役割分担を明確にするための「部会」により構成されている。
(3)   MCG
子どもへの虐待が危惧される親、虐待をしてしまっている親のために、同じ立場の親同士気持ちを話し合い、自分自身を見つめ、ストレスを軽減し、育児を支え、子どもへの虐待を予防する場の提供をする。
(4)   心理相談
虐待問題などで混乱した保護者の気持ちを整理する手助けをする。具体的には、数回のセラピーで整理のつく方・他のケアを紹介した方がよい方、あるいは併用した方がよい方、精神科受診につなげる必要のある方など、保護者の心理状況のアセスメントを行い適切な対応計画を立てて実施する。
(5)   メンタルヘルス相談
虐待問題に悩む当時者・親族お呼び関係機関の相談を受ける。また、関係機関(職員)のメンタルヘルスケアも行う。
(6)   緊急一時入院・保育
親の同意を得ることを条件とし、緊急一時入院・保育を実施することで虐待を受けている、又は受ける可能性のある子どもの安全を確保し、保護者を指導、親子関係の緊張緩和、重症化を防ぐ。また、利用中に関係機関及び保護者と話し合い、利用後の生活、子育てについて準備する。
(7)   従事者研修・啓発活動
関係者の虐待問題に取り組むスキルを上げ、より連携がスムーズにとれるようにする。また、地域からの依頼も積極的に受理し、虐待に対する偏見をなくし、虐待問題に協力的なまちづくりを目指す。

5. ネットワークの効果
(1)   虐待の相談が増え把握がしやすくなったと同時に早期対応が可能となった。
(2)   関係機関の役割が明確になり、相互の機能を理解することができた。それにより連携がスムーズになった。



児童虐待防止ネットワークミーティング実施要領

(総則)
1条 児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「法」という。)第4条第1項の規定に基づき、児童虐待の防止と早期発見・早期対応を図り、これからの時代を担う子どもたちを虐待から守るために、児童虐待防止ネットワークミーティング(以下、「ネットワークミーティング」という。)を設置する。ネットワークミーティングにはネットワークミーティング全体会(以下、「全体会」という。)とネットワークミーティング部会(以下、「部会」という。)を設置する。

(事務局)
2条 ネットワークミーティングの事務局は、健康福祉部子育て支援課内に置き、事務局長は子育て支援課長をもってあてる。

(全体会の目的)
3条 全体会は、関係機関相互の情報の共有と連携の強化を目的とし、次の関係機関・団体の代表者で構成する。
  教育委員会、医療機関、児童相談所、民生委員・児童委員、主任児童委員、民間保育園、民間幼稚園、弁護士、健康福祉部、その他市長が必要と認める関係機関・団体の代表者

(全体会の開催)
4条 全体会は年に2回開催し、次の事項について検討する。
(1) 関係機関・団体相互の情報交換に関すること
(2) 各関係機関・団体の役割の明確化と、連携の強化に関すること
(3) 啓発活動に関すること
(4) 現在活動中の事例に関すること
(5) その他児童虐待防止策に関すること

(部会の目的)
5条 部会は、個々のケースの情報を共有し、今後の方針・役割分担を明確化することを目的とし、ケースに関わる関係機関・団体で構成する。

(部会の開催)
6条 部会は、事務局長が必要と認めた時に随時開催する。

(個人情報の保護)
7条 ネットワークミーティングに関わる構成員は、個人情報保護条例(平成5年横須賀市条例第4号)を遵守し、ネットワークミーティングで知り得た個人の情報について、正当な理由なく、他人に漏らしてはならない。やむをえず情報を提供する場合は、活動に必要な最低限度の者に、最低限度の情報提供でなければならない。

(その他の事項)
8条 この要領について必要な事項は、子育て支援課長が定める。

  附則
この要領は、平成12年(2000年)5月1日から施行する。

  附則
この要領は、平成13年(2001年)11月1日から施行する。



【参考事例】保健師中心型
 静岡県浜岡町(現御前崎市)子育て支援ネットワーク


1. 浜岡町の概要
1)
人口: 24,037人(平成15年3月末現在)。なお、現御前崎市人口は35,305人。
2)
出生数(率): 268人(11.1)(平成14年)
平成10〜14年の合計特殊出生率1.79
3)
0歳から18歳までの児童数: (平成16年3月末)
 0〜4歳  1,307人
 5〜9歳  1,185人
 10〜14歳  1,235人
 15〜19歳  1,416人
 合計  23,854人
4)
町の特徴: 原子力発電所があるため、その関連企業が集まっている市。

2. 子育てネットワークの設立理由及び設立時期
 若い世代の流入が多く、人口規模の割に出生数も多い。また、転入者は近隣との関係が希薄で孤立した育児をしている人も多く、虐待に近い状況が見られる等母子への支援は大きな課題となっている。
 平成8年度から母子保健関係の「子育て支援連絡会」を年3回開催している。平成11年に、4件の虐待事例に対応したことがきっかけで、児童相談所の地区担当児童福祉司が各機関に定例的な会議の必要性を提起・提案をした。これを受け、平成12年3月から「子育て支援情報連絡会議」が発足した。

3. 子育て支援ネットワークの特徴
 町の保健師が町内の関係機関同士の連携の要となって機能させている。また必ず県職員が参加し、様々な判断が会議上でなされるため、児童相談所との連携がうまくいっている。
 県や町の行政機関の人事異動があっても、町の保健師や保育所職員等地域の関係者が不変なので、機能は維持されている。

4. 子育て支援ネットワークのシステム
1) 組織
 子育て支援ネットワークは、「子育て支援ネットワーク連絡協議会」とその下部組織の「子育て支援情報連絡会議」と「子育て支援連絡会」と「食育連絡会」によって組織されている。

2) 構成メンバー
(1) 「子育て支援ネットワーク連絡協議会」は、関係機関の代表者で構成されている。
(2) 「子育て支援情報連絡会議」は、町内の保育園(各3ヶ所)、子育て支援センター職員(各保育所と兼務)、児童館、町立幼稚園代表(1園)、主任児童委員、町(福祉係職員・健康増進係保健師、教育委員会教育相談員)、県(児童相談所児童福祉司、保健所保健師、福祉事務所家庭児童相談員)の子育て支援に関係する町内の23機関の関係者から構成されている。構成員でなくても事例にかかわる機関は参加。
(3) 「子育て連絡会」は、主任児童委員、中学校、各小学校、学校給食センター、ことばの教室、町立幼稚園代表(2園)、各保育所、子育て支援センター、児童館、こども発達センター、総合病院、県(保健所保健師、福祉事務所家庭児童相談員)、図書館、教育委員会(学校教育課、社会教育課)、健康福祉課福祉係、健康増進係
(4) 「食育連絡会」は、町内の学校や保育所の栄養士から構成されている。

3) 活動内容
(1) 「子育て支援ネットワーク連絡協議会」
 年2回開催され、参加機関の情報交換や連絡調整、各部会の報告を行っている会議。
(2) 「子育て支援情報連絡会」(子育て支援情報部会)
 育児が健全に営まれるように年12回の他、緊急時は随時開催している会議。主に町の機関がそれぞれ抱えている新規及び継続事例について実名で報告し、家族背景や問題点、経過等を報告し、支援方針を検討。多機関が関係している事例については、その場で情報交換を行われると同時に、同席している県職員等から虐待の危険度の判断や援助の方向性を示唆されるため、地域での援助の役割分担が明確になっている。検討した事例については翌月、経過と援助結果を報告、再検討している。年1回(2月)、全事例を一覧表にし、経過報告している。
 また、年2回は障害児を中心に実施。
(3) 「子育て支援連絡会」
 年3回開催し、子どもの健康問題に対する情報交換や学習の場としている。
(4) 「食育連絡会」
 年3回開催し、子どもの食の問題に対する情報交換や学習の場としている。

5. ネットワークの効果
(1)  会議で顔を合わせることで、参加者の信頼関係が構築され、日常的に情報交換されるようになった。また事例への対応する機関の役割が明確化され、参加者のスキルアップと情報収集力アップにつながった。虐待の相談が増え把握がしやすくなったと同時に早期対応が可能となった。
(2)  健診や遊びの場面で気になった親子に対しては、事前に連絡した後保健師や保育士が早期の軽いレベルから丁寧に援助を行う体制ができた。
(3)  「日本版エジンバラ産後うつ病自己評価表」を乳児家庭訪問の場で全員に記入してもらうことで、保健師が最初からきめ細かい対応ができるようになった。

6. ネットワークの促進要因
(1) 人口が2〜3万人で、関係機関同士の連携がとりやすいこと。
 こども虐待のみでなく、虐待予備軍、育児不安、障害児(障害が考えられる幼児含む)についても検討。
(2) 県専門職員(児童相談所の児童福祉司、保健所の保健師、福祉事務所の家庭相談員)の毎月の参加とバックアップ。
 地域の実情にあわせたタイムリーなきっかけづくり
 町のレベルに合わせた対応、話しやすい雰囲気づくりと機関の対応の評価、ねぎらい
 虐待の危険度の判断や統一した援助方針への助言
 機関の役割に沿った具体的支援方法の助言
(3) 構成員の毎月の継続的、積極的参加。福祉事務職員と保健師との相互理解(垣根をこえた活動)



御前崎市役所での取り組み

ネットワークについて
   事務局は、主に福祉事務所であるが、健康長寿課(保健)も一緒に実施。「浜岡町子育て支援ネットワーク連絡協議会」は、DV対策も含めた「御前崎市子育て支援・DV防止ネットワーク会議」に改める。
 部会は、
  (1)
子育て支援情報部会… 「子育て支援情報連絡会(こども虐待、育児不安など)」
「子育て支援情報連絡会(発達支援)」
  (2)
母子保健部会… 「子育て支援連絡会」
  (3)
食育部会… 「食育連絡会」
 旧御前崎町には、ネットワーク組織がなかったため、旧浜岡町の実施方法をベースに開催。

子育て支援情報連絡会(子育て支援情報部会)について…平成16年5月から、旧浜岡町ベースで実施。
 4月:打ち合わせ会実施。
 4月:定例の子育て支援情報連絡会実施。
 5月:全事例の一覧表作成、報告。区分主担当を決める。
 6月〜定例の子育て支援情報連絡会実施。


子育て支援情報連絡会(子ども虐待、育児不安など)について

(1) 合併したときに問題となった点
 旧御前崎町には、ネットワーク組織がなかったことと、合併前から旧浜岡町の連絡会に参加していた。そのため、情報連絡会の必要性が理解され、事例も事前に把握することができたため、合併後の活動に繋がりやすくなった。そのため、特別問題になった点はなかったような気がする。

(2) 合併するときに工夫した点
 上記のことと、4月に打ち合わせ会を実施し、内容を検討した。

(3) 合併したことで変化した点
  旧浜岡町 御前崎市
事務局 保健と福祉が合同 福祉事務所
内容 検討事例 子ども虐待、育児不安、障害児(年2回、障害児を中心に連絡会実施) 子ども虐待、育児不安など(障害児は、別日で連絡会を開催)
  全事例の連絡 年度末(2月)に、1日かけ全事例連絡を行う。 年度初め(4月)に、1日かけ全事例の区分、主担当を決め、主訴、経過連絡実施。
  緊急重症事例 緊急連絡会随時実施。 主担当が個別にケース検討を実施、連絡会では経過報告、情報交換。

今年度、保健と福祉の課、場所が離れ、福祉には福祉事務所、家庭児童相談室が設置され、保健と福祉の役割がより明確、専門的になった。それまで、保健と福祉は同一の課、同じフロアーにいたことで常に連絡が取れ、自然に連携をとりあった活動に結びついていたように感じる。現在、互いに連絡を密にとりあうとともに、福祉保健担当者の合同カンファレンスを持ち、早期の対応を心がけている。



浜岡町子育て支援ネットワーク連絡協議会設置要綱

(設置)
1条 全ての子どもたちの人権を守り、安心して子ども生み育てられる地域づくりを目指すため浜岡町子育て支援ネットワーク連絡協議会(以下「協議会」という。)を設置する。

(所掌事項)
2条 協議会は、次に掲げる事項を所掌する。
次の各号に関する支援体制の整備及び関係機関との連絡調整
(1) 子育て環境
(2) 子どもの健康問題
(3) 子ども虐待及びその防止
(4) 障害児とその家族

(組織)
3条 協議会は、会長・副会長及び委員をもって組織する。
2  会長は委員の互選とする。
3  副会長は、委員の中から会長が指名する。
4  委員は、別表に掲げる者のうちから町長が委嘱又は任命する。

(会議)
3条 協議会は、会長が招集する。
2  会長は会議の議長となり、会務を総理する。
3  副会長は、会長を補佐し、会長に事故があるとき又は会長が欠けたときは、その職務を代理する。
4  会長は、必要あると認めるときは、委員以外の者を会議に出席させ、又は委員以外の者に説明を求めることができる。

(委員の職務)
5条 委員は、第2条の所掌事項について審議に参画するほか、協議会での協議の趣旨・結果等をその所属団体に周知する。

(部会)
6条 第2条を遂行するため協議会に、次の部会を置く。
(1) 母子保健部会(子育て支援連絡会)
(2) 食育部会(食育連絡会)
(3) 子育て支援情報部会(子育て支援情報連絡会)

(部会の所掌事項)
7条 母子保健部会(子育て支援連絡会)は、次に掲げる事項を所掌する。
(1) 子どもの健康問題に対する援助体制と関係機関の調整に関すること。
(2) 子育ての情報提供に関すること。
(3) 母子保健計画に必要な調査及び研究に関すること。
2  食育部会(食育連絡会)は、次に掲げる事項を所掌する。
(1) 子どもの食の問題に対する援助体制と関係機関の調整に関すること。
(2) 食育の情報提供に関すること。
3  子育て支援情報部会(子育て支援情報連絡会)は、次に掲げる事項を所掌する。
(1) 育児不安・子ども虐待、障害児など、処遇困難ケースの相談に関すること。
(2) 育児不安・子ども虐待、障害児など、処遇困難ケースの事例検討に関すること。
(3) 育児不安・子ども虐待、障害児など、処遇困難ケースの処遇・支援に関すること。
(4) 育児不安・子ども虐待などの予防に関すること。
(5) 育児不安・子ども虐待、障害児などの情報提供に関すること。

(庶務)
8条 協議会及び部会の庶務は、健康福祉課において処理する。

(委任)
9条 この要綱に定めるもののほか、協議会の運営に関して必要な事項は、会長が別に定める。

  附則
この要綱は、平成13年4月1日から施行する。


別表(第3条第2項関係)
浜岡町子育て支援ネットワーク連絡協議会委員
1 議会 代表
2 民生・児童委員 代表
3 主任児童委員 代表
4 町内会総代 代表
5 人権擁護委員 代表
6 保護司会 代表
7 更生保護婦人会 代表
8 菊川警察署 代表
9 浜岡町医師会 代表
10 町立浜岡総合病院 代表
11 町PTA 代表
12 母親クラブ 代表
13 児童館 代表
14 子育て支援センター 代表
15 中学校 代表
16 小学校 代表
17 幼稚園 代表
18 保育所 代表
19 町立図書館 代表
20 こども発達センターめばえ 代表
21 西部児童相談所 代表
22 静岡県中東遠健康福祉センター 児童部門代表
23 静岡県中東遠健康福祉センター 保健部門代表
24 家庭相談室 代表
25 浜岡町 助役  
26 浜岡町 社会教育課 代表
27 浜岡町 学校教育課 代表
28 浜岡町 健康福祉課 福祉係
29 浜岡町 健康福祉課 健康増進係
  その他会長が適当と認めた者
部会の構成委員については、別に記する。



浜岡町子育て支援ネットワーク連絡協議会
 子育て支援情報部会『子育て支援情報連絡会』実施要領



目的:  子どもに関わる関係機関が集まり、処遇困難(子ども虐待・障害児・育児不安など)な事例の情報提供と検討、相談、処遇・支援や予防を考えていくことにより連携を深め、関係者が共通の認識を持つ中で、それぞれが機関の専門性を生かした関わりを検討していく。

所掌事項:
 (1)  育児不安・子ども虐待、障害児など、処遇困難ケースの相談に関すること
 (2)  育児不安・子ども虐待、障害児など、処遇困難ケースの事例検討に関すること
 (3)  育児不安・子ども虐待、障害児など、処遇困難ケースの処遇・支援に関すること
 (4)  育児不安・子ども虐待などの予防に関すること
 (5)  育児不安・子ども虐待、障害児などの情報提供に関すること

参加機関:  主任児童委員、浜岡保育所、佐倉保育所、高松保育所・子育て支援センター、幼稚園、中東遠健康福祉センター掛川支所 保健所部門・児童部門、家庭相談室、学校教育課、健康福祉課福祉係・健康増進係、他(障害児を主にテーマとしてあげる時は、子ども発達センターめばえ、幼児ことばの教室が加わる。また、とりあげる事例によっては、その機関及び関係機関が加わる)

事務局:  浜岡町健康福祉課

実施方法:
 (1) 内容
事例検討
 事例提供者は資料作成し、出席すること
情報交換

 (2) 日時
毎月第1火曜日 13:30〜16:00(2月は9:00〜16:00)
  4月15日・5月6日・6月3日・7月1日・8月5日・9月2日・10月7日・11月4日・12月2日・1月6日・2月3日・3月2日
 4月は、第3火曜日に実施。
6、9月は主に障害児について会を開催。
2月は、一日かけて全ての事例連絡を行う。

 (3) 場所: 浜岡町総合保健福祉センター 1階



【参考事例】児童少年相談センター中心型
 福岡県水巻町の児童虐待防止ネットワーク[いきいき子どもネット]


1. 水巻町の概要
1)
人口: 31,482人(平成16年3月末日現在)
2)
出生数(率): 250人(7.9)(平成15年)
3)
0歳から18歳までの児童数: (平成16年10月1日現在)
 0〜4歳  1,187人
 5〜9歳  1,433人
 10〜14歳  1,636人
 15〜19歳  1,935人
4)
町の特徴:  北九州市の西側に隣接した旧産炭地の町。北九州市のベッドタウンとして街づくりを進めているが生活保護世帯や母子家庭が多い。一方、田んぼがあったり、新興住宅地があったり、静かな町であるが住民の質はさまざまである。

2. 町立児童少年相談センターの設立
 不登校対策や、若い世代の子育て支援が大きな課題となっており、町民の子どもへの関心が高い。また議員より子育て支援や不登校問題などをバラバラに行うのではなく一括して対応できる機関の設置の要望が出され、教育委員会生涯学習課に平成13(2001)年4月「水巻町児童少年相談センター」が独立の施設として設置された。
 相談センターは、0歳から19歳までの児童を対象とし、児童虐待防止に関する業務、いじめ、不登校、引きこもり、非行防止に関する業務、その他青少年の健全育成に関する業務を行っている。
 また、相談センターには相談機能、ネットワーク機能、居場所機能があり、平成16年4月に新築後愛称を「ほっとステーション」としてそれぞれの機能を充実している。
 相談センターの職員構成は、カウンセラー資格を持つ町職員、ソーシャルワーカーなどの相談経験豊富な女性嘱託相談員、教員資格を持つ男性嘱託相談員、事務を補佐する臨時職員の4名体制で相談にあたっている。

3. 水巻町のネットワークの特徴
 町の教育委員会生涯学習課に所属し、日程の調整や関係機関との連絡など事務局の役割を児童少年相談センターが担っている。また、幼稚園や小学校、中学校との日常的な連携がとれており、児童虐待の早期発見、早期対策に寄与している。

4. ネットワークのシステム
1) 組織
 関係機関の代表者が集まる「いきいき子どもネット」を年2〜4回開催し、町内の子ども達の状況を理解してもらう。このいきいき子どもネットの下部組織として、中学校区協議会や保育所幼稚園連絡会議などの実務者会議や、具体的な事例に対応する事例検討会議などを設置している。
 中学校区協議会では、中学校と校区内の小学校が参加する年2回の協議会を行い、家族情報や友人関係などについて実名での情報交換を行っている。

2) 構成
 保健医療機関、教育関係機関、福祉関係機関、司法関係機関、議会行政機関、その他民生児童委員協議会など子どもに関わる機関をほぼ網羅し、32名の委員で構成されている。

3) 活動内容
イ、 児童相談所との関係
 必要に応じて事例検討会に参加を要請する。検討会後の役割分担として、日常的な家庭訪問、家族との面接などはセンターの相談員が行うことも多い。
 地域の関係機関からセンターに相談を持ちかけた事例のうち、児童虐待の恐れどセンターとして判断に迷う場合は、児童相談所の参加のもと関係機関会議を開催し緊急性の判断を行うほか、見守りや訪問などの役割分担を行っている。
 また、関係機関に対して見守りなどの状況について適時確認を行っている。
ロ、 保健師との関係
 相談事例があった場合、保健師に家族関係、予防接種の状況などの情報を確認、共有化したり、虐待にかかるリスクの程度等について協議している。

5. ネットワークの効果
1)  水巻町における0〜19歳までの子どもの問題、課題などについて同時に研修でき、子どもに関わる機関の役割の理解と事例の共有化ができる。また、センターの具体的な機能と活動についての理解が深まる。
2)  相談センターが連絡調整を行うことで、迅速に会議を開催できるようになり、事例を提出した機関の事務的な負担が軽減できている。
3)  守秘義務の範囲内で事例に関する情報を交換することで、支援の方向が共有でき、関係機関で連絡を取りながら、協働して日常的に事例へのアプローチができるようになる。



水巻町児童少年相談センター設置及び運営条例

(目的)
1条 この条例は、未成年者にかかる虐待、いじめ、不登校、引きこもり及び非行等を防止し、その健全な育成を図るために水巻町児童少年相談センターを設置し、あわせて運営について必要な事項を定めることを目的とする。

(名称及び位置)
2条 施設の名称及び位置は次のとおりとする。
名称  水巻町児童少年相談センター(以下「相談センター」という。)
位置  福岡県遠賀郡水巻町古賀二丁目5番8号

(定義)
3条 この条例において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
(1) 未成年者   民法(明治29年法律第89号)に規定する20歳未満の者をいう。
(2) 児童虐待   児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号)第2条に規定する児童虐待をいう。

(業務内容)
4条 相談センターは次に掲げる業務を行うものとする。
(1) 児童虐待の防止に関する業務
 児童虐待にかかる相談、紹介等に関すること。
 児童虐待及び児童虐待に陥ると思われる児童の不安・不適切養育介護の発生の把握に関すること。
 関係機関との連携による児童虐待の早期発見、早期対策のための支援及び援助に関すること。
 啓発等に関すること。
(2) いじめ、不登校、引きこもり、非行等の防止に関する業務
 補導及び相談に関すること。
 調査、研究及び資料の収集に関すること。
 関係機関、団体等との連携及び協力に関すること。
 水巻町青少年問題協議会に関すること。
 その他未成年者の健全育成に関すること。

(子どもネットの設置)
5条 第4条の規定による業務を円滑に実施するために、地方自治法(昭和22年法律第67号)第138条の4第3項の規定に基づき、相談センターに水巻町いきいき子どもネット(以下「子どもネット」という。)を設置する。
2  子どもネットは、35名以内の委員をもって組織する。
3  子どもネットの委員は、次の各号に掲げる者のうちから、教育委員会が委嘱うる。
(1) 保健・医療関係の代表者
(2) 教育関係機関の代表者
(3) 福祉関係機関の代表者
(4) 司法関係機関の代表者
(5) 議会・行政職員
(6) その他教育委員会が必要と認める者
4  子どもネットに、会長及び副会長を置く。
5  会長及び副会長は、委員の互選により選出する。

(会長の職務)
6条 会長は、会務を総理し、子どもネットを代表する。
2  副会長は、会長を補佐し、会長に事故あるとき、又は会長が欠けたときは、その職務を代理する。

(任期)
7条 委員の任期は、2年とする。ただし、委員が欠けた場合における補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とし、再任を妨げない。

(会議)
8条 子どもネットの会議は、会長が招集し、会長が議長となる。

(事務局)
9条 子どもネットの事務局は、相談センターに置く。

(報酬及び費用弁償)
10条 委員の報酬及び費用弁償は、水巻町特別職職員の給与等に関する条例(昭和31年条例第9号)により支給する。

(職員)
11条 相談センターに所長その他必要な職員を置く。

(職務)
12条 所長は、相談センターの業務を統括し、職員を指揮監督する。

(個人情報の保護)
13条 町長及び教育委員会は、関係機関と連携して行う事務については、個人情報の保護に関し必要な措置を講じなければならない。
2  町長及び教育委員会から情報の提供を受けた関係機関は、次の各号に掲げる事項を遵守しなければならない。
(1) 提供を受けた情報は、この条例の趣旨に基づき利用し、それ以外の目的のために利用しないこと。
(2) 提供を受けた情報に係る漏えい及び改ざんの防止その他の適正な管理のために必要な措置を講じること。
(3) 提供を受けた情報は、提供を受けた目的に使用する必要がなくなったときは、速やかに廃棄すること。
3  職員及び関係機関の職員は、職務上知り得た事項について秘密を保持し、業務にかかわる関係者以外のものにこれを漏らしてはならない。

(委任)
14条 この条例に定めるもののほか必要な事項は、規則で定める。

  附則
この条例は、公布の日から施行する。



水巻町いきいき子どもネット運営規則

(目的)
1条 この規則は水巻町児童少年相談センター設置及び運営条例(平成13年条例第25号。以下「条例」という。)第5条に規定する水巻町いきいき子どもネットの運営について必要な事項を定めることを目的とする。

(事業内容)
2条 水巻町いきいき子どもネット(以下「子どもネット」という。)は、次に掲げる事務を所掌する。
(1) 児童虐待及び児童虐待に陥ると思われる児童の不安・不適切養育介護の発生の把握に関すること。
(2) 未成年者の健全育成のための関係機関との連携による、児童虐待等の早期発見・早期対策のための支援及び援助に関すること。
(3) 町民の意識向上を図るための啓発に関すること。

(委員)
3条 条例第5条第3項に規定する各機関等の代表者とは、次のものをいう。
(1) 保健・医療関係の代表者
   医師  1名
(2) 教育関係機関の代表者
   町内の各小・中学校の校長または教諭  4名
   町内の各幼稚園の園長または教諭  3名
(3) 福祉関係機関の代表者
   児童相談所の職員  1名
   保健福祉環境事務所の職員  1名
   町内私立保育所の園長又は保育士  3名
(4) 司法関係機関の代表者
   保護司  1名
   弁護士  1名
   警察官  1名
(5) 議会・行政職員
   水巻町議会  3名
   健康福祉課長  
   生涯学習課長  
   いきいきほーる保健師  1名
(6) その他教育委員会が必要と認める者
   区長  1名
   公民館長  1名
   民生児童委員協議会委員  1名
   社会教育委員  1名
   主任児童委員  3名
   青少年問題協議会委員  1名
   小・中学校PTA委員  2名

(会議)
4条 子どもネットは、第2条の業務の目的を達成するために、次の会議を設置する。
(1) 地域連絡会議(未成年者の現況に対する認識を深めるための研修の実施及び情報交換を行う)
(2) 事例検討会議(具体的事例の迅速な対応及び関係機関との連絡調整を図る)

(秘密の保持)
5条 子どもネットの委員は、会議において知り得た事項について、秘密を厳守し、これを他に漏らしてはならない。

  附則
 この規則は、公布の日から施行し、改正後の水巻いきいき子どもネット運営規則の規定は、平成15年4月1日から適用する。



【参考事例】
 静岡県韮山町の児童虐待防止ネットワーク


1. 韮山町の概要
1) 人口:19,686人(平成16年7月現在)
2) 出生数(率):174人(8.85)(平成14年)
3) 0歳から18歳までの児童数(平成12年)
0〜4歳  907人
5〜9歳  956人
10〜14歳  1,003人
15〜19歳  1,059人
4) 町の特徴:静岡県伊豆半島の北部に位置し、歴史が古く、史跡が多く存在する。主な産業はいちごをはじめとする施設園芸が盛んな土地。大家族が多く、近郊の三島市や沼津市に勤務する若い世帯がアパートに越してくるケースも増えている。

2. 児童虐待防止連絡会設立理由と時期
 児童虐待ケースや親の養育に問題のあるケースについて民生児童委員と学校の情報交換会を年1回開催。緊急に対応が必要なケースもあり、専門のネットワーク(連絡会)の設置を求められる。主任児童委員の育児相談事業ではケース会議を行うが、 専門家によるアドバイスや相談者のストレスなどを考慮した上で緊急介入、児童の一時保護等、児童相談者や警察との連携が必要となり、平成14年に韮山町社協児童虐待防止連絡会を設置、平成15年度より家庭内の暴力が弱者を対象に連鎖する現状への対応としてDV防止事業も加わった。

3. 韮山町のネットワークの特徴
 社会福祉協議会がコーディネートし、行政の縦割り部分(教育委員会、健康福祉、児童相談所、警察等)や地域で活動している民生児童委員、保護士等を結ぶ役割を取っている。

4. ネットワークのシステム
1) 組織
 代表者部会、実務者部会、ケース会議の3層構造にて実施。事務局は社会福祉協議会相談員が健康福祉課担当職員の協力を得て担う。
2) 構成メンバー
 代表者会議は各組織、団体の管理職、代表者から構成。実務者会議は各組織、団体の担当者らにより構成。ケース会議はケースの担当者や関係者があつまりカンファレンスを行う。
3) 活動内容
(1) 「代表者部会(全体会議)」
年2回程度開催され、児童虐待問題について地域での取り組みや課題等の報告を受ける。
(2) 「実務者部会」
年2回程度開催され、事例に関する情報の共有及び研修活動、啓発活動等を行う。
(3) 「ケース会議」
通告、相談を受けたケースについて、今後の処遇を検討する。事務局が招集し随時開催されるが、ケース会議の要望やケースの状況変化についても事務局が把握し調整する。

5. ネットワークの効果
(1)   関係機関が定期的に集まることでケースの見直しをすることができる。
(2)   関係機関の対応が確認でき、そこでの課題や対応方法について情報交換ができる。それにより虐待事例での対応方法について技術向上を図ることができる。
(3)   各機関の役割を明確にすることができ、過度な対応や重複した対応を避けることができる。
(4)   代表者部会を設置することで管理職レベルでも連携が深まり、活動の継続性が保てる。またネットワークにより責任の所在が分散化されがちになるが、代表者部会にてケース把握することで部署ごとのリスクの把握とその対処を明確にすることができる。
(5)   社会福祉協議会が主体となることで、地域住民への啓発活動と民生委員児童委員及び関連機関への連絡調整をスムーズに展開することができる。(社会福祉協議会は、 地域福祉の推進役としてのミッションを持ち、相互関係をもつ地域のネットワーク作りのプロフェッショナルが存在すること)小規模な市町村についても行政が社会福祉協議会へ委託することで、地域のネットワーク作りから児童虐待防止への効果を上げることができる。



韮山町社協児童虐待、DV防止及び子育て支援連絡会設置要綱



平成16年7月5日
要綱第2号

(設置)
1条 韮山町における児童虐待、配偶者などからの暴力(以下「DV」という。)及び子育て支援等を検討するために、韮山町社協児童虐待、DV防止及び子育て支援連絡会(以下「連絡会」という。)を設置する。

(任務)
2条 連絡会は、韮山町の児童虐待防止、DV防止及び子育て支援について必要な事項を調査し検討する。

(構成)
3条 連絡会は、児童の教育、福祉等に関し優れた見識を有する者のうちから社会福祉協議会長が委嘱する。
2  連絡会に、施設等代表者から構成される代表者部会と実務者から構成される実務者部会、ケースごとの担当者から構成されるケース会議を設置する。

(任期)
4条 会員の任期は、委嘱の日から平成17年3月31日までとする。
2  会員に任期途中で異動があったときは、新任者の任期は前任者の残任期間とする。

(会長)
5条 この連絡会に、会長を1名置く。
2  会長は、社会福祉協議会長をもって充てる。

(会議)
6条 連絡会は、会長が招集し、会長は会議の議長となる。

(庶務)
7条 連絡会の庶務は、社会福祉協議会において行う。

(委任)
8条 この要綱に定めるもののほか、連絡会の運営その他に関して必要な事項は連絡会で協議して決める。

  附則
この要綱は、告示の日から施行する。

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 児童虐待防止対策・DV防止対策・人身取引対策等 > 子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月23日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知) > 子ども虐待対応の手引き > 第11章 関係機関との連携の実際

ページの先頭へ戻る