ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 児童虐待防止対策・DV防止対策・人身取引対策等 > 子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月23日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知) > 子ども虐待対応の手引き > 第7章 児童福祉審議会の意見聴取

第7章 児童福祉審議会の意見聴取

第7章  児童福祉審議会の意見聴取

1. どのような事例を児童福祉審議会に諮るか
(1)  児童福祉審議会諮問の意義
 この手続は、児童相談所における援助決定の客観性の確保と専門性の向上を図るために、平成9年の児童福祉法改正により新たに規定されたものである。とかく外部から見えにくい児童相談所の援助決定プロセスについて、外部の目を導入することによりその客観化を目指すとともに、虐待を受けた子どものケース等多様な専門職の参加が求められる事例に対して、医師、弁護士等外部の専門家が児童相談所をバックアップすることが期待されている。
 なお、児童福祉審議会の運営や諮問の手続等については、児童福祉法、同法施行令および平成9年9月25日付児発第596号厚生省児童家庭局長通知「児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等の施行について」のほか平成2年3月5日付児発第133号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針について」等が基本となっている。

(2)  児童福祉審議会に諮問する事例
 児童相談所が相談に応じた事例について、都道府県児童福祉審議会の意見を聴取しなければならない場合とは、
子どももしくは保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないとき
児童相談所長が必要と認めるとき
のいずれかの要件に該当する場合である。
[1]  子どももしくは保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないとき
 「子どももしくは保護者の意向が児童相談所の措置と一致しないとき」とは、児童相談所運営指針によると、児童相談所の援助方針会議を経て出された援助方針と、子どももしくは保護者の双方もしくはいずれかの意向とが一致しない場合を指す。具体的には、
ア.  保護者が子どもの監護を怠っている場合や親子浮浪の事例で、児童相談所としては子どもを施設入所させる必要があると判断しているが、保護者や子どもに問題意識がなく、保護者、子どもの双方が、施設入所を拒んでいる場合
イ.  親が行方不明等のため子どもたちだけで生活している事例で、客観的に子どもの福祉が害されていると判断されるため、児童相談所としては施設入所を勧めているにもかかわらず、子どもが当該措置を強く拒んでいる場合
ウ.  触法・ぐ犯行為等相談において、児童相談所としては施設入所措置が適当と判断しているが、保護者の意向が定まらず、子どもも施設入所を強く拒んでいる場合
エ.  児童福祉法第28条に基づく施設入所措置に対する家庭裁判所の承認に関する申立てを行うべきかどうか、児童相談所としては判断しかねる場合
オ.  子ども並びに保護者の同意を得て施設入所措置を採った事例で、その後保護者等の意向が変化し、引取りを強く要求している場合
が挙げられている。これらの場合のうち、児童相談所が審議会の意見を聴くまでもなく児童福祉法第28条の家事審判申立てや同法第27条第1項第4号に基づく家庭裁判所送致が適当と判断した事例は、審議会意見聴取が除外される。

[2]  児童相談所長が必要と認めるとき
 児童相談所運営指針によれば、児童相談所長が必要と認める場合とは、措置決定または措置決定後の援助について、法律や医療等の幅広い分野における専門的な意見を求める必要があると判断する場合や、子どもまたは保護者の意向の確認が不可能または困難なため、子どもの最善の利益を確保する上でより客観的な意見を求める必要があると判断される場合等である。具体的には、
ア.  児童相談所の援助方針と子どもまたは保護者の意向は一致しているが、措置解除をめぐって、より幅広い観点からの客観的な意見を求めることが妥当と判断される場合
 特に、児童福祉法第28条の規定に基づく措置の解除については、保護者に対する指導措置の効果や子どもの心身の状態、地域のサポート体制などについての総合的な評価に基づき検討し、判断する必要がある。このため、措置解除の客観性と専門性の向上の観点から、できる限り児童福祉審議会の意見聴取を行うよう努めること。
イ.  保護者が行方不明等でその意向が確認できず、かつ子どもが幼少等の理由によりその意向を明確に把握しがたい場合
ウ.  措置変更の場合等で、保護者が行方不明等でその意向が確認できず、子どもは当該措置に同意の意を示しているが、子どもの最善の利益を確保する上で、より幅広い観点からの客観的な意見を求めることが妥当と判断される場合
が挙げられている。これらの例のほか、特に虐待相談や施設援助等に関わる子どもからの苦情相談等、一般的に権利侵害性が強いと考えられる事例についても、審議会の意見を求めることが望ましいとされている。なお、これらの事例について、緊急を要する場合で、あらかじめ諮問するいとまがないときは、事後報告することとされている(児童福祉法施行令第9条の8第1項)。
 各自治体では諮問事例について模索が続けられているが、たとえば、A自治体では、以下のような事例が諮問されている。
A自治体における児童福祉審議会諮問事例(例)

(ア)  集団不適応、親子関係不調の中学校1年男児の施設入所について
(イ)  実父からの身体的虐待が繰り返される中学校1年女児の施設入所について
(ウ)  被虐待により施設入所した3歳男児の保護者からの引取り希望について
(エ)  保護者からの虐待が繰り返される小学校4年女児および小学校2年女児のきょうだいの施設入所について
(オ)  子ども、保護者とも必要な医療を拒否する摂食障害の中学校2年女児の援助について
(カ)  分裂病と推定される実母によって家庭に閉じ込められている小学校2年女児に対し、立入調査および一時保護を行うことの可否について


2. 児童福祉審議会の意見聴取の手続はどのように行うか
(1)  意見聴取の手続
 審議会に対する意見聴取の手続について、児童相談所運営指針に基づいて略述すると以下のようである。
 まず、児童相談所において該当する事例があった場合、児童相談所長の考えを付して事前に児童福祉審議会に諮問することを原則とする。ただし、あらかじめ審議会の意見を聴くいとまがない場合はこの限りではないが、採った措置について速やかに審議会に報告しなければならない。
 審議会に諮問する際には、児童相談所長は原則として子どもや保護者に対してその旨の説明を行い、事例の概要や援助に関する意見、子どもおよび保護者等の意向等を記載した資料を作成し、これに基づき審議会に対して説明を行う。
 審議会の審議結果は諮問に対する答申として示されるが、児童相談所長は審議会の意見を尊重して援助の決定を行う。また、子どもや保護者等に対してその結果について説明を行う。さらに、審議会の意見と実際の措置とが異なった場合は、速やかに理由を付して審議会に報告する。また、審議会に諮った事例のその後の経過等について随時審議会に報告する。

(2)  A自治体の場合
 以上が運営指針にみられる標準的な手続であるが、児童福祉審議会の運営は都道府県が行うものであるため、都道府県が指針に基づき独自に取扱要領等を作成することとなる。ここでは、例としてA自治体の手続について紹介することとする。
A自治体における児童福祉審議会部会への諮問に係る手続(概要)

1. 諮問事項
(1)  子どもまたはその保護者の意向と児童相談所の措置とが一致しない事例
(2)  児童相談所が必要と認める事例
[1]  厚生省通知「児童相談所運営指針」に示されている具体例に該当するもの
[2]  特に、虐待理由で施設入所措置した子ども(子どもおよび保護者の同意を得て措置しているものを含む)を施設入所措置解除する事例については諮問するよう努める。
(3)  緊急を要する場合で、あらかじめ諮問するいとまがないときは、事後直近の部会に報告する。

2. 子どもまたはその保護者への意向の確認
(1)  子どもまたはその保護者への援助方針の説明や、施設入所に向けての説明および意向の確認は、原則として、援助方針会議の提案日前に担当の児童福祉司等から施設種別も含めて説明する。援助方針会議において援助方針や施設種別に変更があった場合は、その旨を改めて説明する。
(2)  子どもおよび保護者の意向や確認の方法は、児童記録票に記録する。

3. 諮問の依頼
(1)  諮問の依頼は、援助方針会議を経て児童相談所長が決定する。
(2)  児童相談所長は、原則として審議会開催日の10日前までに別添様式7−1(第7章末に添付)に必要事項を記載して中央児童相談所長に提出する。
(3)  措置を先行した事例の事後報告を行うときは、直近の部会開催日前までに、別添様式7−2(略)を中央児童相談所長に提出する。

4. 子どもまたはその保護者への諮問および答申の説明
(1)  担当の児童福祉司等は、子どもまたは保護者に対し、ソーシャルワークを行う中で、部会に諮問する旨および答申の内容について説明する。
(2)  担当の児童福祉司は、諮問日および答申について、児童記録票に記入する。また、子どもや保護者への説明経過についても記録しておく。


3. 児童福祉審議会運営の実際と活用はどのように行うか
(1)  児童福祉審議会の運営について
 児童福祉審議会運営の留意事項については、前述の「児童福祉法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令等の施行について」に述べられている。これによると、
[1]  都道府県児童福祉審議会の運営に当たっては、法律、医療等の専門家を含めた数名からなる専門の部会を設置して毎月審議を行うなど円滑な運営に配慮すること。
[2]  地域の実情に応じて、専門の部会は複数設置しても差し支えないものであること。
とされている。
 審議会の運営は、本制度の目的である児童相談所における援助の決定の客観化と専門性の向上に資するものでなければならない。そしてそのことが、結果的に子どもやその保護者の福祉向上に資するものでなければならない。そのためには、局長通知にも示されているように、なるべく頻回な開催が望ましいし、例えば、部会を一定エリアごとに複数設置するなど児童相談所の相談援助活動を鼓舞し、支援する運営が望まれる。

(2)  A自治体における運営の実際
 都道府県児童福祉審議会の運営については当該都道府県に属することであるので、国レベルのガイドラインは極めて簡潔である。したがって、運営のあり方は都道府県により異なっているが、ここではA自治体における運営の実際について紹介することとしたい。
A自治体における児童福祉審議会部会の運営とその実際

1. 会議の運営
(1)  開催日は、原則として月1回第○月曜日の○時から開催する。
(2)  部会は委員7名で構成し、定足数はA自治体審議会規定に基づき4名とする。
 また、議決は出席委員の過半数で決定する。
(3)  児童相談所長から諮問がない場合は、原則として部会を開催しない。
(4)  会議は非公開とし、会議資料は非開示とする。
(5)  資料説明は、諮問を行う児童相談所長または児童福祉司等が行う。
(6)  司会および記録は、中央児童相談所が行う。
(7)  委員および各児童相談所への通知は、児童福祉審議会事務局が行う。
(8)  答申の通知は、児童福祉審議会事務局が別添様式7−3(第7章末に添付)により委員長名で各児童相談所長に通知する。
(9)  その他必要事項は、児童相談所長会および児童福祉審議会事務局等と協議して決定する。
 なお、部会は、諮問事例に対して答申するとともに、子どもの権利擁護に関する提言を行う役割も担っている。

2. 会議運営の実際
(1)  委員構成
 大学教員4(児童福祉2、心理1、精神科医師1)、小児科医師、弁護士、教育相談員
(2)  開催場所:児童福祉審議会事務局(本庁児童福祉所管部局)
(3)  委員会審議の流れ
[1]  事務局より審議について説明(出欠、提出事例等の確認)
[2]  部会長が議事を進行
[3]  各委員は、事前に送付された諮問並びに報告事例の概要を読んだ上で出席
[4]  諮問事例担当児童相談所長、担当者から諮問事例1について概要説明
[5]  諮問事例に関する質疑および諮問事項に関する協議
[6]  結論
[7]  諮問事例5〜について担当児童相談所長等から説明
[8]  協議および結論
[9]  事後報告事例に関する説明および協議
[10]  部会長より議事のまとめ
[11]  事務局より既諮問、事後報告事例のその後の経過報告等および次回日程等の確認
(4)  諮問および事後報告事例数
 5月(1)、6月(1)、7月(2)、8月(1)、10月(4)、11月(2)、12月(3):計14事例(複数回諮問された事例を含む)
(5)  諮問事例と答申の例(抜粋:一部改編)
[1]  事例の概要
 子どもは小学2年女児A子。母子2人の家庭。母は無職で生活保護受給、被害妄想が強く昼間はA子と家庭に閉じこもっているためA子は登校できない状態が続いている。母は精神分裂病か。室内は極めて不潔な状況。栄養状態も悪い。家庭訪問するも鍵をかけ中に入れない状況。関係機関や親族、近隣の関与を一切断っている。A子は母の妄想の影響を受け、共生関係を強めている。
[2]  諮問の事由
 母親が関係機関との関わりを一切拒否し、外部との接触を遮断し、学校に行けない状況が続いている中で、児童福祉法第29条による立入調査および同法第33条によるA子の一時保護の可否について諮問する。
[3]  答申
 児童福祉法第29条の立入調査およびA子の一時保護は妥当である。登校禁止状態およびネグレクト、さらに被害妄想のある母との共生関係が強まることが心配されるため、早い時期の親子分離が必要である。また、母に対しても医療の必要性がある。場合によって施設入所の同意が取れないことが予想されるため、その場合には児童福祉法第28条の適用も検討することが適当である。

(3)  児童福祉審議会の答申の活用について
 A自治体の事例はあくまで一つの方法である。児童相談所も部会委員も、模索の状態が続いているといってよい。
 児童福祉法第27条第8項は、同法第27条第1項第4号による家庭裁判所送致及び同法第28条による施設入所承認のための家庭裁判所への家事審判申立てについて、審議会の意見聴取から除外している。したがって、児童相談所が法令を消極的に解すれば、審議会の意見を聴取すべき事例は限りなくゼロに近づくこととなる。しかし、積極的に解すれば多様な活用が考えられる。審議会の開催場所や開催方法、運営方法も工夫されてよい。審議会委員の適切な選定も重要である。本制度を形式的なものとしてしまうのではなく、援助決定の客観性の確保と専門性の向上の観点から児童福祉審議会への意見聴取の制度が導入されたという趣旨を十分に踏まえ、この制度を積極的に活用することが望まれる。



別添様式7−1: 児童福祉審議会に対する諮問事例の記載様式(A自治体)

児童福祉審議会に対する諮問事例の概要

児童福祉審議会に対する諮問事例の記載様式(A自治体)の図



別添様式7−3: 児童福祉審議会の答申様式(A自治体)

児童福祉審議会の答申様式(A自治体)の図

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 児童虐待防止対策・DV防止対策・人身取引対策等 > 子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月23日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知) > 子ども虐待対応の手引き > 第7章 児童福祉審議会の意見聴取

ページの先頭へ戻る