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第6章 判定・援助業務

第6章  判定・援助業務

1.  各種診断はどのようにたてるか
(1)  社会診断
[1]  社会診断とは何か
 児童相談所に持ち込まれる問題の効果的解決を図るには、担当者の価値観や人生観、好悪といった個人的性向を排除し、専門的な科学的知見に基づき問題の本質、性質を分析することにより、合理的・客観的見地から個々の事例について最善の援助を検討する必要がある。この過程が診断であり、診断には児童福祉司による社会診断、心理職員による心理診断、医師による医学診断、一時保護所の児童指導員や保育士による行動診断等がある。そして、これら各専門職がそれぞれの診断結果を持ち寄り、協議した上で総合的見地から児童相談所としての援助方針を立てるのが判定(総合診断)である。ここでは、判定の基礎となる社会診断のポイントについて述べる。
 社会診断は、調査結果を踏まえ、問題の性質、子ども、保護者等の置かれている環境および問題と環境との関連を社会学、社会福祉学的知見に基づき把握、分析することにより、最善の援助のあり方について判断するものであり、問題の様相、原因、援助に関する所見等が含まれる。

[2]  社会診断の内容
 下記の項目について具体的に把握、分析し、診断に盛り込む。
ア.  主訴は何か
 主訴を具体的に記述する。
イ.  主訴の背後にある本質的問題は何か
 他の種別の相談であっても、虐待状況が認められる場合もある。特に、保護者からの相談においては「遅れがある」「強情で育てにくい」「言うことを聞かない」「金品の持ち出しがある」等、子どもの性格・行動上の問題を主訴とした事例が少なくない。これら子どもの性格・行動上の問題があるため、これを治したいとの焦りから虐待している場合もある。このような事例では、保護者自身も虐待しているとの意識を持たない場合もあるので注意が必要である。また、事例によっては保護者による虐待の結果、子どもに性格上の問題や行動上の問題が現れている場合もある。いずれにしろ、主訴の背後に、むしろ援助目標をそこに置くべき本質的問題が潜んでいることも少なくないので注意する。
 なお、虐待が判明した場合、他のきょうだいも虐待を受けているおそれがあることにも留意する必要がある。
ウ.  虐待の内容、頻度、危険度
 家庭裁判所への審判申立てや行政不服審査等に備え、いつ誰が誰のどこをどのように叩き、その結果、どうなったのか等、具体的、客観的に記述する。そして、これらの事実から緊急に親子分離を図るべきか、在宅で経過を観察することとしてもよいのか(危険度の判断)等について記述する。この場合、そう判断した根拠を明記しておく必要がある。
エ.  虐待が子どもに与えていると考えられる影響
 虐待によって子どもがどのような影響を受けているのか、身体的・心理的影響を具体的に記述する。
オ.  なぜ虐待するに至ったか
 虐待発生のメカニズムについて、保護者の生育歴、家族歴、性格、価値観、子どもの性格・行動、家庭や近隣との人間関係等、種々の要因との関係について社会・心理学的観点から分析を加える。
カ.  他の家族の虐待および虐待する保護者に対する認識、感情、態度
 他の家族成員が虐待行為や虐待を加える保護者にどのような認識、感情、態度をとっているのかを記述する。このことは、虐待発生のメカニズムを分析する上で必要となるばかりでなく、援助を検討する上でも重要な資料となる。
キ.  家族内外におけるキーパーソンの有無
 虐待を行う保護者には援助を受ける動機づけがないばかりか、拒否的な者も多い。家族内外にキーパーソンがおれば介入に当たっての仲介役や緊急時の連絡を引き受けてもらうことができ、援助や介入が円滑に運びやすくなる。キーパーソンの氏名、連絡先等を具体的に明記する。
ク.  社会資源の活用の可能性
 経済的に困窮している場合の生活保護適用、アルコールや薬物依存の場合における保健所保健師や精神保健福祉相談員による援助、保護者の育児負担軽減のための保育所入所やショートステイの活用等、社会資源の活用が有用であると判断される場合、所管する機関との調整結果を含め当該資源の活用の可能性や制約等について明記する。
ケ.  援助形態および援助方法
 上記の情報や分析を踏まえながら、緊急保護の要否、親子分離の必要性の有無等について総合的な判断を加え、助言指導、児童福祉司指導、施設入所(施設種別)、里親委託等の援助形態を選択するとともに、その援助形態を選択した根拠を必ず明記する。
 面接指導を行うとした場合は援助目的や援助方法、施設入所措置を採るとした場合は、施設入所措置上の留意点や施設入所措置後の児童相談所としての援助方法等を具体的に明記し、援助指針に繋げるようにする。
 また、施設入所した子どもの保護者への指導については、必要に応じ児童福祉法第27条第1項第3号の措置に併せ、同法第27条第1項第2号及び児童虐待防止法第11条に基づく措置を実施する。
コ.  援助方針に対する子ども、保護者の意向
 援助方針に対する子ども、保護者の意向を具体的に明記する。
 なお、子どもや家庭の状況は常に流動的であり、また、ソーシャルワーク的関与によっても変化しうるものであるから、適宜社会診断を改める必要があることは言うまでもない。

(2)  心理診断
 心理診断は虐待を受けた子どもたちが、その不適切な関わりによって、発達や心理にどのような影響を受けたか、その状況について、どのように感じ、どのように受け止めているかを把握することにより、心理学的見地から、診断と予後の予測を行い、援助の方針をたてる。
[1]  心理診断の方法
 虐待を受けてきた子どもたちの多くは、虐待によって心身共に傷ついていることが多いのに加え、児童相談所という機関で、どのようなことがどのように行われるのか、何をされるのか、不安や緊張感を抱いている。また身柄を一時保護などの形で、保護者や慣れた環境から分離されている場合は、多くの場合、虐待に加え、分離体験という大きな心理的ダメージを受けることになる。
 子どもは人間関係の基本となるべき、養育者との愛情に基づく良い関係が築けず、虐待という不幸な環境で育っているため、無力感や自己防衛、周囲の大人への不信感が強い。したがって、自分の心の中を素直に表すことができない。そこで、子どもに関わった時点から「あなたが悪いのではない」「児童相談所はあなたの味方である」ことを十分に伝え、時間や回数を重ねて、子どもが安心して心の中を表すことが出来るような信頼関係を作っていかなければならない。
 そのような関係を築き上げた上で、初めて子どもたちの診断が可能になる。
 子どもたちが表出しにくい心の中を、的確に把握するためには面接だけではなく、行動観察や心理検査、関係者からの聴取等を行い、それぞれの結果を総合して心理診断を行う必要がある。したがって、いきなり虐待の事実を聞き出したり、即座に心理検査を行うことは却って心を閉ざすことになるので慎むべきである。

[2]  心理診断の内容
ア.  知的発達レベルとその内容
 虐待を受けている子どものなかにはしばしば、「扱いにくい子」と保護者から見られている場合がある。人の言うことが理解できない、場面理解が困難、スムーズな動きが困難、落ち着きがない、人への関心が乏しい、集中力が乏しい、多動であるなどで「扱いにくい子」と見られて、虐待の対象にされる場合がある。このような場合、知的発達レベルに遅れが見られたり、アンバランスが見られたりすることが多い。また、発達上は遅れがないにもかかわらず、情緒面に問題があり能力の発揮が十分でなく、学業においても授業についていけず、知的障害が疑われる場合がある。
 このような場合、保護者が子どもの発達の状況を知り、その対応方法を知ることによって虐待が軽減される場合もある。
 また一方、発達の遅れやアンバランスが生来的なものではなく、虐待に起因する場合がある。したがって、行動観察や知能検査を行うだけではなく、医師との協力体制をとってそのメカニズムや状態像を明らかにすることが望ましい。
イ.  情緒・行動面の特徴とその心的外傷体験の程度
 虐待された子どもたちは素直に甘えが表現できず、情緒面でのコントロールも悪い。また、大人の気持ちを逆撫でするような言動に出ることもある。要するに内面と外に表す行動に大きなギャップが見られる。そのため、保護者から「扱いにくい嫌な子だ」と評価され、更に虐待が繰り返されるという悪循環に陥っている場合がある。
 愛情を持って育てられていないため、自分自身に対して自信が持てない、周囲の人に注目してもらうためにはどのような態度を取るべきか分からない、そのようなことから来る不安定な行動のため、周囲の人たちからも理解されず、益々嫌われ、孤立してしまいがちになる。
 また、心的外傷体験に起因するものとして、不眠、食欲不振、頭痛、易疲労感等の身体症状の訴えがあったり、感情のコントロールができず、すぐに興奮したり、泣き易かったり、反対に無表情であったり、怯え、無気力、強い依存、強い緊張、乱暴な行動や、自信の欠如、集中力の欠如、対人関心の欠如などの症状等が見られたりする。
 これら、虐待を受けたことによる子どもの行動の特徴や心的外傷体験による傷の深さを把握することは、援助方針、治療方針を検討する上で重要なことである。
 また、これらの把握には精神科の医師との協力が欠かせない。
ウ.  親子関係・家族関係
 どのように虐待を受けていても、多くの場合、子どもたちは親の悪口は言わない。むしろ、年少の場合は、親を慕う発言が多く聞かれる。年長の場合でも親を許容したり、「自分が悪かったから」「自分のためを思ってくれている」というようにかばうような発言がきかれる。それは自分が悪いからと思い込まされていることの他に、自分が親を悪く言うことで、はかない親子の絆を断ち切ってしまうのではないか、という恐れの気持ちの表現とも考えられる。また、文章完成法テストなどで、「父は自分を大事にしてくれる」「母は優しい」等という表現が見られることがあるが、これは現実の親子関係と言うよりも、その子どもにとっての理想や願望であったりする。
 この子どもにとって、親子関係はどのようなものであるのか、家族のなかでこの子どもがどのような位置にあるのか、この子どもを支えているのは誰なのか、親子関係の修復のために親子それぞれがどのような援助を必要としているのか、子どもの表面に現れた発言だけにとらわれないで、きちんと押さえておくことが肝要である。
エ.  集団生活(学校、保育所等)の適応状況
 虐待を受けていた子どもにとって、家庭以外の場はどのような意味を持っていたのか。集団生活をどのように受け止めていたのか、自分にとってどのような意味を持っているのか、子どもからは面接や心理テストなどを通して把握する。
 家庭の外の、学校や保育所等の集団生活での行動状況については、担任や保育士などから聞き取る。
 家庭で十分に養育されていなければ、学校や保育所が安心できる生活の場になっていてもよいはずだが、必ずしも居心地のいい場として生活をしてはいない。集団に入っていけない、孤立している、周囲の友達に乱暴をしたり、意地悪をしたりする。器物を壊したり、周囲の人たちに迷惑をかけたりする。先生や保育士を独占しようとしたり、人にやたらとベタベタしたり、あるいは避けようとしたり、など対人関係で適当な距離をおくことができなかったりする。
 また一方、学校では明るく振る舞って、そのような暗い影の部分を周囲の人に感じさせないで頑張っている子どももいる。かなり無理をしていることもあって、一時保護所のような安全な場での生活に入ると、緊張が急激に解け、様々な不適応症状が出てきて、周囲を困惑させることもある。
オ.  虐待者の病理性
 虐待されている子どもだけではなく、虐待を行っている保護者についても状況を押さえておくことは必要である。虐待を行っている保護者は、自身、過去に虐待を受けている場合が少なくない。その心的外傷体験の影響により、精神的に不安定であったり、自信がないままに子育てをし、どうしてよいか分からないために、結果的に虐待をしてしまう。
 虐待を行っている保護者の精神症状を、医師との協力によって確かめることが出来ればよいが、大変困難なことである。
 保護者に対しては
どのような時虐待をするのか
子どもについてどのように思っているのか
子育てをどのように思っているのか
自分の行っていることが子どもにどのように影響していると考えているのか
親子関係、家族関係のなかでの自分の立場、葛藤、不安等
できればこのようなことも確かめたい。しかし、保護者からこのようなことを聞き出すことは大変困難を伴うことであるので、児童福祉司と協力して、子どもの面接や、関係者からの聞き取りなどを通して、情報を集めておくことが必要である。

(3)  行動診断
 医学診断、心理診断に際しても行動観察はなされるが、一時保護所での行動観察は子どもの生活態度、行動、対人関係等の状況を、共に生活するなかで客観的に、あるいは子どもに関わりながら全生活場面について観察し、それを基にして援助方針を立てる。
[1]  行動診断を立てる上での留意点
 行動診断の特徴は、日常生活場面に近い条件の下で、子どもに対し24時間の直接観察が出来ることである。一時保護所の生活は集団生活であり、家庭生活とは異なるルールの下にあり、また対応する職員もほとんどの場合交代制で関わるため、一般の日常生活とはかなり異なるが、多くの場合、日常生活場面の言動がそのままの形で出現しやすい。
 しかし、虐待を受けてきた子どもは、心身共に傷ついており、さらに慣れた生活の場からの分離体験により不安感や緊張感が大きいため、保護をしてすぐに日常生活と同様の言動が現れることは稀である。
 入所の当初は、自分の行動を必要以上に抑制したりして、自分のありのままを見せないことが多い。むしろ職員に対して迎合するような態度を見せたり、同情を誘うような振る舞いを見せたりする。したがって、初めのうちは「良い子」を演じているが、やがて職員や周囲の子どもに対し、顔色をうかがったり、試し行動や、裏切りとも取れるような行動を見せたりするようになる。一方、心的外傷体験による問題行動や、身体症状、精神症状が現れてくるのは時間がかかることが多い。したがって、短期間の一時保護中には、問題となる行動が現れにくいということがあるので、職員が受容的に関わりながら、子どもの行動を一面的にとらえることのないよう、また様々な変化を見逃さないような注意が必要である。
 生活場面で、危険を伴うような行動や、極度に他の子どもたちに迷惑をかけたり、不快な思いをさせたりする行動以外は、あまり禁止したり、制約したりすることなく、日課やルールについても子どもの状況に応じて柔軟に指導するなど受容的な対応が望まれる。
 子どもは安心して自分を表出しても大丈夫だということが分かって、次第に自分の内面を表せるようになるので、一時保護所が自分にとって安全で、安心できる場所と感じられるように、職員の対応も含めて環境を整えることが大切である。

[2]  診断のために行われる行動観察のポイント
 子どもの言葉、行動についてはできるだけていねいに観察し記録する。言葉はそのまま具体的に記録し、どのような場面で、どのような表情で、その話がされたか、またどのような行動が現れたのかも記録しておく。
 一時保護所では複数の職種の職員が関わることになるので、主担当の職員が中心になって、他の職員の観察結果についても十分に情報を得、多面的な観察がされることが望まれる。また、観察は生活場面だけではなく、時に応じて個別の面接等も併せて行うことが望ましい。
 子どもの状況によっては、児童福祉司、心理職員や医師に対し情報を提供し、子どもへの対応を依頼したり、一時保護所での対応の仕方、観察の視点等について助言を得たりするなど、協力を求めることも必要である。
 これらの観察の結果は観察会議で情報交換と検討を行い、行動診断の資料とする。
 診断のために行われる行動観察のポイントは次のようになるが、就学前の幼児と学齢児では若干異なっている。
ア.  幼児の場合
食事:過食・過度の偏食の有無、食事の習慣やマナーの習得状況
排泄:自立の度合い、予告の有無と方法、汚れても平気でいるかどうか
着脱衣:自立の度合い、介助あるいは点検すべき事柄
睡眠:寝つきの良し悪し・睡眠の深さ等の睡眠の状態、寝ぼけ・夜泣き・夜驚等の有無
午睡の習慣と睡眠の状態
夜尿の有無、夜尿をした後の様子
洗面、歯磨き等の習慣:習得の有無
入浴:習慣の有無
清潔:手洗い・うがいの習慣の有無、清潔への関心の有無
意思疎通:発語の状況、基本的概念(挨拶、簡単な要求、自分の名前など)の表出方法、言語理解の状況、指示の理解度
安全への意識:注意力、理解力の程度
遊び:好きな遊び、遊び方、他の子どもと遊べるか
対人関係:同年代の子どもとの関係、年長の子どもとの関係、大人との関係、自他の区別、人見知りの有無、大人に甘えられるか、萎縮していないか、他の子どもへの意地悪や乱暴の有無
習癖:習癖の有無とその程度
健康状態:栄養状態、アレルギーの有無、体質の特殊性等
入所時、退所時の様子:家族との分離時の様子、保護所の生活への慣れの状態
面会時の様子、面会後の様子:緊張の程度、喜ぶか否か、面会後の反応
イ.  学齢児の場合
入所初期の様子:入所時の様子、緊張の度合い、生活への慣れ、他児との会話・交流
起床:自ら起きるか、機嫌の良し悪し、身支度の様子
就寝:身支度、寝付きの良し悪し、寂しがり、特異な行動(就眠前儀式、特定の物へのこだわり等)、寝言・寝ぼけ・夜驚・夜尿等の有無
食事:態度、姿勢、マナーの有無、食事の量、偏食の状態
生活管理:身だしなみの状態、所持品の整理・整頓の状況、清潔への意識
健康管理:自分の健康を自分で管理する自覚があるか
自由時間:一人遊び、集団遊び、無気力、孤立、ごろ寝、おしゃべり、ウロウロ、騒ぐ、職員の手伝い、等どのような状況で、どの様にして過ごすか
集団行動への参加:呼びかけに対する反応、参加態度、勝手な行動の有無
行事への参加:参加態度、興味の持ち方、リーダーシップ
学習:学習進度、集中力の有無、自習能力
作業:参加態度、手抜きの有無、集中力の有無
指示に対する反応:素直に応じるか、拒否的か、空返事
ルールの守り方:守れるか、ルールに対する自覚の有無
褒められたときの様子:喜ぶ、照れる、得意になる、表情に出ない
叱られたときの様子:すぐに従う、文句を言う、責任転稼、相手により態度を変える、黙る、泣く、怯える、強い緊張、反抗、平然、不服
面会時・面会後の様子:喜ぶ、嫌がる、拒否、表情に出ない、面会後不安定になる
無断外出:実行計画があるか、誘われてどうしたか
要求:はっきりといえるか、我慢しているか、すぐ諦めるか、しつこく要求するか、相手を見るか、あまり要求はない、勝手に満たす
感情表現:喜怒哀楽の表情、すぐに怒る、泣く、大騒ぎする、表情を出さない
対人関係:同年齢児・年下・年上・大人に対して態度がどのように異なるか、他児から好かれるか、嫌われるか、他児への関心の有無、マイペース、いじめ、いじめられ、除け者にされる、特定の子を選ぶ、誰とでも付き合える
習癖:習癖の有無と内容、程度
不適応行動:孤立、無気力、乱暴、など

(4)  医学診断
 虐待の中でも死にいたる危険の高い乳幼児は自分の言葉で訴えることはなく、虐待かどうかの判断には医学的所見が非常に重要になる。心身の状態を医学的な面から詳細に捉えることで虐待の判断に寄与できることは大きい。しかし、虐待に関する医学的診断には高度の技術や検査が必要とされることが多く、児童相談所だけで診断が困難なときは、専門性の高い医療機関との連携が必要である。
[1]  母子健康手帳から把握しておくこと
 虐待で一時保護をしている場合などでは、保護者の協力が得られず、保護者への問診を取ることができないこともある。そのような場合には、母子健康手帳からの情報は貴重である。保護者の問診が取れるときでも母子健康手帳からの情報は必ず把握しておく必要がある。
ア.  成長曲線
 虐待を疑っている子どもに関しては、成長曲線を付けることは必須である。必ず、母子健康手帳以外にも幼稚園・小学校・中学校等の学校や保育所などでの身体計測の結果がある時にはそれも持参してもらう。体重や身長の曲線の傾きの変化は虐待の重要な所見である。
イ.  妊娠期の状態
 墜落分娩などでは母子健康手帳は出産後に発行されることもある。そのような妊娠・出産はそれ自体胎児に対するネグレクトであり、虐待ケースとしてのケアが必要になる。その他妊娠期に良いケアがなされているか、切迫流産や妊娠中毒などの妊婦への負担を把握することも大切である。
ウ.  周産期の状態
 在胎週数、出生体重、周産期障害の有無、退院の時期などに関しての情報を得る。そのことが育てづらさに繋がっていたり、出産早期の分離からの愛着の問題に影響していたりすることもあるので把握が必要である。
エ.  予防接種
 理由なく予防接種を受けていないことはネグレクトでは良く見られることである。ネグレクトの判断だけではなく、今後のケアの上でも、予防接種状況を把握することは大切である。
オ.  乳幼児健康診査
 ネグレクトでは乳幼児健康診査を受けていないことも多い。また、受けている場合には、その時の所見を照会することも出来る。
カ.  発達のチェック
 母子健康手帳には保護者が発達の状況を書き込む欄がある。子どもの発達の状況を判断する材料にするだけではなく、保護者の関心の状況を判断する材料にもなる。

[2]  問診・観察
 保護者、児童福祉司、児童委員、一時保護所職員など、子どもに関わっている人に問診を行う。問診で得なければならない情報は以下のとおりである。問診や観察はできるだけ保護者と子どもと別々に行うほうが良い。
<保護者への問診で把握すること>
現在の子どもの症状もしくは問題点
その経過
外傷のある時にはその機序
これまでの既往歴(外傷、脱水、入院、その他)
妊娠、出生、その後の発達に関して
発達障害の兆候の有無
子どもの行動の問題の有無
その他の子どもの育てにくさ
これまでのライフイベントに関して
現在の子どもの生活状況(睡眠、食事、リズム、その他)
家族の状況
家族歴(三世代前までのジェノグラムと身体疾患・精神障害の既往)
 など
<子どもの観察で把握すること>
障害の有無(歩行の困難など)
発達の状況(運動、言語、認知、精神)
過覚醒症状(過敏など)
集中力・注意力
こだわりの強さ
柔軟さ
他者とのかかわり方
 など
<子どもの問診で把握すること>
虐待に関して(誘導にならないオープンエンドの質問で簡単に把握)
根堀葉堀きかない。概ねどのようなことがあったのかを把握する。
家族に関して
子どもが家族をどう捕らえているか、保護者の関わり、その他
友達に関して
保育所、幼稚園・小学校・中学校等の学校に関して

[3]  身体的診察
 虐待が疑われるときには全身の診察が必要である。しかし、虐待を受けた子どもは洋服を脱いで無抵抗な状態になることに非常に強い不安を持つことがある。特に、性的虐待では、性器のみならず、身体の診察をするだけでもトラウマの再現になることが多いので注意を要する。何をするかを子どもがわかるように説明し、あせらせないでゆっくり診察をする必要がある。
ア.  身長・体重の測定
 その時点での身長・体重を測定し、成長曲線に書き入れる。曲線の傾きが変わっていないか注意する。
イ.  全身の診察
 意識状態、脱水、栄養障害、全体のバランス、小奇形などをチェックする。
ウ.  皮膚の診察
 皮脂の状態、皮膚の清潔さ、傷・熱傷の有無(身体の中心部の傷、新旧の傷の混在、同じ形の複数の傷、頭皮の傷、などの注意)
エ.  口腔内の診察
 口腔内の傷の有無、う歯の状態などの衛生状態
オ.  胸腹部の診察
 胸腹部に出血がある時の圧痛、栄養障害による肝腫大などに注意する。
カ.  神経学的診察
 頭部外傷後の神経的問題の可能性を考慮して診察をする。
キ.  診察時の行動観察や会話の内容
 おとなしく診察をさせない、痛みに年齢不相応な恐怖を示す、洋服を脱ぐことを極端に不安がったり抵抗する、診察時にぼーと一転を見つめて解離する、などの所見は虐待の結果として起きてくることがある。洋服を脱ぐことへの抵抗は性的虐待でよく見られることである。また、皮膚の傷などに関して子どもに訊ねて、どのように説明するかも重要な所見である。

[4]  特別な診察
 頭部・顔面に暴力が振るわれた時、もしくはその危険性がある時、揺さぶられっこ症候群の可能性がある時には必ず眼科的診察を行い、幼児以降では耳鼻科的診察も行う。また、性的虐待が疑われるときには婦人科的診察が必要となる。
ア.  眼科的診察
 網膜出血、その他の出血、網膜はく離、水晶体脱臼、白内障などの外傷性眼障害の有無を調べる
イ.  耳鼻科的診察
 鼓膜破裂、耳小骨のずれによる難聴、鼻骨骨折、などの外傷による障害を調べる
ウ.  婦人科的診察
 妊娠の有無、性器の外傷、性器内の精液の存在の有無、その他の会陰部の外傷、性感染症のチェックなどの診察を行う。性器の所見は1週間−10日ぐらいで認めなくなってしまうため、早期に診察することが必要である。トラウマの再現にならないように、出来るだけ同性の医師が、子どもに十分な説明をして、診察を行う。心を打ち明けた児童福祉司や一時保護所の職員などが付き添う方が安心できることもある。

[5]  医学的検査
 虐待の可能性に伴い、必要な検査を行う。検査には、ア.虐待の証明に必要な検査、イ.子どもの治療に必要な検査、ウ.鑑別のために必要な検査、がある。2つ以上の目的を持った検査もある。以下に述べる検査の中には比較的大きな病院でなければ困難な検査もある。児童相談所では、このような検査を依頼できる病院を確保しておく必要がある。
ア.  虐待の証明に必要な検査
(ア)  全身骨撮影
 臨床的に骨折の所見がなくても、部位によっては新しい骨折があったり、陳旧骨折が存在することがあり、それは虐待の証明に非常に有用である。特に乳児期では激しく揺さぶられたり捻られたりすることで起きる四肢の長管骨の骨幹端骨折や、胸を強く締め付けることで起きる肋骨の後部や前側部の骨折は虐待に特異的であり、そのような骨折の存在は虐待の証明に役立つ。しかしながら、そのような骨折は小児放射線専門医でないと発見が困難であるため、全身骨撮影はできるだけ小児放射線科医のいる病院で行うか、そのような病院とコンサルトしながら行うことが望まれる。撮影の仕方から技術が必要なため、撮影前からのコンサルトが必要である。全身骨撮影の適用は以下のとおりである。
2歳未満では虐待の種別を問わず全例に行い、かつ2週間後に再検、
2歳以上5歳未満では身体的虐待が疑われるとき
5歳以上では本人の訴えあるいは臨床的に所見が明らかな部位
(イ)  CT又はMRI
 CT又はMRIの検査も全身骨撮影の適応に準じる。軽度の硬膜下出血や古い出血の跡、慢性硬膜下出血、古い虐待に特徴的な脳の断裂所見が発見されることがある。治療は安静だけでよいこともあるが、虐待の診断に有効である。なお、乳児期の頭蓋内出血に関しては、硬膜外出血は虐待の率は5%程度であるが、硬膜下出血は虐待の率が95%と高い。硬膜下出血が発見されたときには揺さぶられっ子症候群の可能性があるため、必ず眼底出血の有無を診察する。
(ウ)  その他の画像診断
 腹腔内出血が疑われるときには腹部エコーや腹部のCTをとるなど、その他の画像診断は疑いがあるときに行う。
(エ)  性感染症の検査・妊娠の検査
 性的虐待を疑ったときには性感染症の検査は欠かせない。出生時の母子感染の可能性を鑑別することは必要であるが、思春期前での性感染症は性的虐待を強く示唆するし、治療も必要になる。また、年齢が高いときには妊娠の検査が必要になることもある。これらの検査は治療にも必要である。
(オ)  毒物スクリーニング
 代理人によるほら吹き男爵症候群(Munchausen Syndrome by Proxy, MSBP)が疑われるときなど、何らかの薬物や毒物が使用された可能性があるときには毒物のスクリーニングが必要になる。治療にも必要なこともある。
イ.  治療に必要な検査
 基本的に症状に伴う検査が必要となる。この検査は一般の臨床と同じに検査が行われる。虐待の場合に良く行われることになる検査は以下のおとりである。
(ア)  貧血、脱水、栄養状態に関する血液・尿検査
(イ)  症状がある場合の画像診断(骨折部位の骨撮影、頭部CT・MRI、腹部CT・MRIなど)
(ウ)  てんかん症状があるときの脳波検査
(エ)  その他、症状に伴う検査
ウ.  鑑別のために必要な検査
 一見虐待に見えるが、実は何らかの病気であったという場合もある。そのための鑑別に必要な検査もある。それぞれの症状に応じて検査を行う。例としては以下のようなものがある。
(ア)  出血傾向の検査
 頭蓋内出血などがあるときにはそれが出血傾向によるものではないことを鑑別しなければならない。
(イ)  代謝性疾患の検査
 例えば、くる病で骨折しやすいなどの問題があるかどうかなど、代謝性疾患の検査が必要になることは多い。
(ウ)  感染症の検査
 乳児の低体温などの場合、ネグレクトによるものか敗血症などの感染によるものかの判断が必要になることもある。
(エ)  その他、症状に応じた鑑別に必要な検査

(6)  問診及び診察結果の記録のとり方
 問診及び診察結果は全て記録に残す。特に保護者や子どもとの会話はできるだけ質問内容も含めて逐語で残す。子どもの行動に関しても、気がついたことはもらさず記録する。身体的虐待と考えていた子どもが、診察への抵抗から性的虐待も明らかになることもある。身体的所見に関しては出来るだけ客観的な記録を残すため、カラーの写真撮影を行う。その際、かならず物差しを置いて撮影し、大きさが判別できるようにする。ただし、写真だけに頼らず、所見を記載することも忘れてはならない。

(7)  精神医学的診察
 診察室には子どもが「守られている」と安心できる雰囲気が必要である。服装や清潔さの外見に加えて表情、態度に注目する。感情表出が乏しかったり、年齢に比し言語的表現力に劣ることがよく認められる。また指示に従えず多動で落ち着きのなさが目立つ子どもも多い。
 問診を始めるに当たって意思表示ができる子どもに対しては、できるだけ自分の言葉で何が起きたかを説明させる。「どうしてここに来たの?」と尋ねると淡々と出来事を説明し始める子どももいるし、連れて来られたことに不満や不安があり、「親の元へ戻りたい」と泣きじゃくる子や自分が家の秘密を公にすれば家族が崩壊するのではないかと恐れ、口をつぐむ子どももいる。どんな場合であれ、まずは子ども自身の目に何が映りそれをどう受け止めているかを共感を持って知ることに努める。医師は事実関係よりも子どもの気持ちに関心があること、他の職種と異なった立場からの味方であることを診察を通して示す。
 初めの質問に自由に答えさせて、子どもの診察への協力度と理解力を大まかに把握し、それから生活上の細かな出来事を聞いていく。緊張が強ければ、当たり障りのない学校や好きな遊びの話題から始め、身体症状の有無、食欲、睡眠、そして家族のことや受けた虐待に話を移していく。話したくない様子が明らかな場合や性的虐待を受けた思春期の子どもに対しては、あらかじめ「今言いたくないことは、言わなくてよい」と保証し、無理強いは避ける。ほとんどの子どもは虐待について話すことで不安が高まるため、必要であれば質問を途中で中断することをためらってはならない。すでに得られている情報との食い違いを指摘しないよう、誘導尋問にならないよう配慮する。また、不用意に虐待を行っている保護者を非難する発言や態度を取るべきではない。それは子どもが虐待を行っている保護者を嫌悪していたとしても、身内を第三者から非難されることに傷つきやすいからである。
 虐待について尋ねる時には、具体的事実に加え子どもがその状況をどのように感じ、どう反応したかを明確にする必要がある。虐待される理由はあるのか、不当なものと感じているのか、逃げ出すことは考えたのか、誰かに相談できたか、あるいは逃げられないと絶望的になっていなかったかなどである。性的虐待に関する問診には細心の注意を払う。年少の子どもでは、基本的には子どもとの直接の面接からは、虐待を受けたことが疑われるかどうかまでが判断できればよく、子どもが以前使った言葉で確認する程度に止めた方が安全である。年長の子どもで性行為は隠すべきことと認識していたり、性的な刺激で快感を体験している場合には、行為に対しての嫌悪感と共に羞恥心や自責感が強いことが多い。繰り返し説明させることは、子どものイメージの中で虐待を再体験させることになるため極力避けなければならない。事実確認が強く求められる時は、子どもの了解を得た上でビデオ撮影をしながら問診することも必要で、他の関係者がビデオを利用することで同じ質問を避けることができる。
 抑うつ気分や不安感は外見から判断できない場合が多く、侵襲的にならない範囲で具体的に尋ねる。「悲しいことはよくあるか?」「泣きたくなる日は多いか?」「元気が出なかったり疲れていることは多いか?」「心配で眠れないことは?」「どこに居るとき一番気が休まるか?」「死にたいくらいつらい気持ちになったことはあるか?」などである。年長の子どもであれば集中力について「学校の授業を理解できるか?」「成績が落ちていないか?」「本を読んで内容がよくわかるか?」などと尋ねるのもよい。また「他の人とうまくやれているか?」「誰かに好かれていると思うか?」「ひとりぼっちだと思うことが多いか?」「自分が好きか?」「自分を悪い子と感じるか?」などと質問すると子どもの自己像について大まかに知ることができる。さらに心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状について確認する。「怖かった出来事を繰り返し思い出してしまうか?」「怖い夢をみることは多いか?」「ちょっとの音や刺激で驚いたり怖くなってしまうことはないか?」「いつもいらいらして怒りっぽくないか?」「楽しかったり嬉しいと感じられるか?」「忘れっぽくなったと感じることはあるか?」などである。年少の子どもの場合、典型的PTSDと診断できないことが多いが、診察時の所見を得ておくことは後の参考になる。その他あらかじめ問題行動や精神症状が知られていればそれについて問診する。
 最後に、面接で明らかにされた事実を踏まえ、どのような理由があるにしても大人の虐待行為は許されないこと、あなたは悪くないこと、勇気を持って話してくれたことで事態は必ずよい方向へ向かうことをわかりやすい言葉で強調する。子どもの自責感を軽減する働きかけは特に重要で、侵襲的になりがちな診察に少しでも治療的意味合いを持たせることができる。


2.  判定はどのように行うか
(1)  判定の意義
 判定は、事例の総合的理解を図るため、児童相談所専門職が行う各種診断をもとに、それらの担当者の協議により作成される総合診断である。それは、後に続く援助指針の作成と具体的な援助に直結する。
 児童相談所の相談援助活動の原則は、チーム・アプローチと合議制にある。児童相談所の専門性は、各種専門職のチームによる活動により維持される。また、児童相談所の専門性は、各種専門職のそれぞれの専門性を尊重した合議により作成する判定および援助指針並びにそれに基づく援助が大きな特徴となっている。これにより、子どもとその環境の総合的理解が可能となり、また、担当者の先入観、価値観、対人関係の特徴等にとらわれた事例理解や援助活動を排除できると考えられているからである。

(2)  判定の方法
 判定は、通常、判定会議において検討される。援助方針会議にあわせて実施されることもある。通常、判定会議においては、原則として児童相談所長、各部門の長、各担当者等が参加し、社会診断、心理診断、医学診断、行動診断、その他の診断等を総合的に検討し、判定を行い、これに基づき援助指針案を検討する。
 なお、高度に専門的な判断が必要な場合には、児童相談所外部の専門家の意見を積極的に求め、これを十分に踏まえて判定を行うこと。
 その際、子どもの特性のみならず、子どもの家族の特性、例えば入所を考える児童福祉施設の特性等を十分考慮に入れ、関係専門職間で十分に意見をたたかわせることが重要である。つまり、どの種別のどの施設に入所決定を行うことが「子どもの最善の利益」にかなうかは、それぞれの意見を出した専門職の協議によることが前提条件となる。児童福祉司が提出している「保護者の近くの施設」という意見が、心理職員の提出している「小舎制の施設」と両立しない場合、次善の策としてどちらを優先し、また、それを補完するどのような方法をとるかは、各専門職の協議により初めて達成されると考えられるからである。

(3)  判定の視点
 判定は、子どもの身体的、心理的、社会的特性を十分考慮して行われることが必要である。また、子どもを含む家族、所属集団全体を視野に入れて行い、また、当事者の問題解決能力等についても考慮しなければならない。さらに、児童相談所の限界や援助を行う機関の能力に関する判断も考慮されなければならない。
 また、判定は、何より子どもとその家族の援助に活かされるものでなければならない。そのためには、子どもやその保護者の意向を踏まえたものでなければならない。また、具体的な援助を委託する機関・施設等に理解されるものでなければならない。わかりやすく、説得力を持ち、子どもの心や子どもを含む事例の全容が生き生きと浮かび上がるものでなければならない。さらに、子どもの生活場面も視野に入れた社会関係のなかで生きてくるものでなければならない。
 最後に、判定は、子どもの自己実現を援助するものでなければならない。そのためには、子どものもつ良い面、積極的な面にも着目することが必要である。いい判定は、子どもとその家族を支援するための材料を豊富に含むものであることを銘記しておきたい。

(4)  再判定の必要性
 子どもは、発達する存在である。また、子どもを囲む環境も変化していく。このため、判定は、援助の経過のなかで漸次修正されていくべきものである。そのためには、例えば6カ月ごとに援助チームの協議により、再判定を行っていくことが必要である。

(5)  虐待を受けた子どものケースの判定所見例
 判定は個別的なものであり、また、個々の子ども観や援助観等により多様なものであるため決まった形式、内容を示すことは困難であるが、具体性をもたせるために虐待を受けた子どものケースの判定所見を例示すると、例えば以下のようになる。
[事例]
  主訴:中学2年生女児、警察署から虐待を受けている子どもとして通告。実父による虐待。
社会診断、心理診断、行動診断等:(略)
判定:
[1] 実父からの虐待を受けている子ども。実父からの身体的暴力に耐え切れず、自ら警察に助けを求めたものである。
[2] 知的な能力は特に問題ないものの怠学の時期もあり、学習面の遅れは否めない。特に数学は、分数の計算や正負の概念がほとんど理解できていない。
[3] 情緒面、対人関係においては基本的な信頼感や感受性を備えているが、傷つきやすい繊細さや弱さもあわせもち、率直な感情表現や行動を抑制する傾向がある。一時非行に傾きかけたが、学校や地域の大人との信頼関係が歯止めになったものと思われる。
[4] 家族としての機能は極めて弱い。父が疾病のため就労できず長期にわたり生活保護を受給。父は飲酒癖があり、母にも暴力を振るうため、母は3カ月ほど前に家出し、その後行方不明。これまで、母にはよい感情を抱いていたが、本児らを見捨てて家を出たことへの恨みも抱いている。きょうだいへの愛着も薄い。しかし、妹には思いやりを示すこともある。父への嫌悪感は強く「あんなん死んだらええ」と吐き捨てる。母の家出後、父の暴力が本児に向かったのは、母への恨みや自己の無力感を克服する自己防衛によるのだろうが、本児も反撃するので悪循環になっている。本児は帰宅を強く拒否している。
[5] 父は酒を飲んでは本児を返せと威嚇的言動に出る。親族関係も疎遠で地域からも孤立しており、援助の可能性はない。
[6] 社会診断や本児の心理診断および本児の意向を踏まえると、現時点で本児を帰宅させても父と衝突し、家出することは目に見えている。母の消息も知れず、本児にとってはしばらく家を離れ、中学校卒業を目途に学習の遅れを取り戻し、父との関係調整を図り、自立への準備を進めることが望ましい。
(『児童相談事例集』第19集掲載事例より構成)


3.  援助指針はどのように作成するか
(1)  援助指針の意義
 援助指針は、相談に応じた子どもおよびその家族に対する児童相談所の援助の理念、基本的視点の表現である。それはまた、文字どおり児童相談所の専門性の表現でもあり、かつ、児童相談所における援助チームの共通理解を構成するものである。具体的な援助を関係機関や施設等に委託する場合には、児童相談所と子ども、保護者、関係機関・施設とをつなぐ橋渡しの役割を果たすものとなる。したがって、チームアプローチと合議制に基づく援助プログラムの作成とその実行を使命とする児童相談所のいのちともいうべきものであり、援助指針作成の重要性は、どれだけ強調してもし過ぎることはないであろう。

(2)  援助指針の内容
 援助指針は大きく二つに分かれる。一つは、個々の子ども、保護者等に対する具体的な援助の選択であり、二つは、選択された援助のなかで実行が期待される具体的援助の指針である。
[1]  援助の選択
 まず第一の援助の選択に当たっては、子どもや保護者の意向および具体的援助を行う者や社会資源の条件を考慮し、その子どもと保護者にもっとも適合する援助を選択するとともに、その理由を明確にしておくことが求められる。また、選択した援助に対する子どもの意向、保護者の意見を明記するとともに、第7章に述べる都道府県児童福祉審議会の意見を聴取した場合には、その意見も明記しておくことが求められる。
 援助の選択に当たっては、特に、援助を行う機関等の状況に関する情報を収集し、慎重に判断することが必要である。例えば、一般に児童福祉施設は、その歴史性や入所している子どもの多様性から各施設が特徴をもっているのが普通である。規模別にも大規模から小規模まであり、運営形態も小舎制、中舎制、大舎制等があり、また、入所している子どもについても年齢的に特徴をもっていたり、立地条件、運営方針も多様である。父から性的虐待を受けた子どもなど子どもによっては、家庭から離れた施設に入所させることの方が「子どもの最善の利益」にかなう場合もある。また、低学年中心の施設に高校生を1名入所させるより、高校生が多く、また、治療的援助ができる施設の方が、遠くても適当な場合がある。このように、援助の選択に当たっては、個々の子どもの最善の利益を常に念頭に置き、幅広い観点から選択を行っていくことが求められる。さらに、前節において述べたように、子どもにとって必要とされるすべての事項を実現する選択肢がない場合においては、次善の策の選択とそれによって生ずる課題を克服する方法についても検討しなければならない。

[2]  具体的援助の指針
 具体的援助の指針は、子どもやその保護者等が有するそれぞれの問題点や課題などについて、家庭環境調整を含めた援助の目標、援助方法、その他留意事項を短期的、長期的に明確にするとともに、活用し得る社会資源や人的資源、制度等についても明らかにする。特に、関係機関や施設等と連携し、あるいは委託して援助を行う場合には、それぞれの機関・施設等の役割について明確にしておくことが必要である。
 さらに、施設に援助を委託する場合は、施設での子どもに対する援助の具体的方向性、配慮事項等をでき得るかぎり具体的に作成することが望まれる。その際、一時保護所における行動観察所見や行動診断を活用することも必要である。具体的指針には問題点への対応だけではなく、子どもがもっている良い面を伸ばしていくという側面にも配慮しなければならない。児童相談所の援助の根本理念が子どもの自己実現の支援であることを思うとき、子どもがもっている健康な部分、得意な部分に着目する姿勢を忘れるわけにはいかない。児童相談所はこの援助指針を足がかりとして、子どもや保護者の真のニーズを、関係機関や施設等へとつないでいくのである。
 このため、児童福祉施設や里親に措置する場合、児童相談所は、事前に児童福祉施設や里親と協議を行った上で、援助指針を策定することが必要である。

(3)  援助指針作成の方法
 援助指針は、診断、判定プロセスをもとに、原則として援助方針会議を経て決定される。軽易な事例や緊急を要する事例等においては、児童福祉司や心理職員が単独で判定を行い援助を開始することがあるが、この場合においても他の専門職種の関与が必要がないという判断がその時点で行われた結果であり、そこで行われた行為もやはり判定行為であるということができる。したがって、その判断すなわち判定やその結果とられた援助や援助指針の成否は、必ず援助方針会議等において確認されなければならない。援助方針会議の方法は厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知である「児童相談所運営指針」(平成2年3月5日児発第133号)によるが、電話による相談も多い現在、効率的な運営を心がけることも必要とされるであろう。
 なお、援助指針の作成様式の標準については、「子ども自立支援計画ガイドライン」に提示されており別添6−1のとおりである。

(4)  援助指針の実行と再検討
 援助指針は一度立てればよいというものではない。事例は常に変化しうるものであり、これにともない援助における課題や援助の方法も変化することから、援助指針は定期的に見直すことが必要である。このため、判定と同様、次期の検証時期を明確にしておくことが必要である。関係機関や施設に援助を委ねる場合や連携して援助に当たる場合には、児童相談所の援助方針を十分伝え、中心となって対応する機関・施設を明らかにするとともにそれぞれの機関と打合せを行い、了解した事項についても援助指針に盛り込んでおくことが求められる。

(5)  援助指針と自立支援計画
 子どもが児童福祉施設に委ねられた場合には、児童相談所が策定した援助指針は、施設の作成する自立支援計画に引き継がれていく。自立支援計画は、施設が、子どもの入所時あるいは子どもの入所後数ヶ月間、児童相談所の援助指針を活用した後、アセスメントに基づき作成し、以後定期的に児童相談所等との協議のなかで見直していく子どもの自立支援のための計画である。具体的には、「子ども自立支援計画ガイドライン」に示されているとおりである。

(6)  援助指針と子ども、保護者の参加
 児童相談所が援助指針を決定するに当たっては、事前に子どもや保護者に十分説明を行い、その意向を確認することは当然のことであるが、援助指針はあくまで児童相談所長が決定するものである。しかし、問題解決の主体は子どもやその保護者であり、子どもや保護者の主体性、自発的な努力を尊重していくことが問題解決に有効である。このため、児童相談所と子ども、保護者の間で当面取り得る方策を検討し、それを書面等で確認する作業を行い、その書面の実行を援助指針に盛り込むなどの工夫もなされてよいのではないかと考えられる。
 例えば、施設入所中の虐待を受けた子どもの家庭復帰を望む保護者に対し、面会、外泊計画、家庭復帰後の通所、訪問計画、家庭での遵守事項、関係機関の関与と役割等について書面で確認し、児童相談所長と保護者双方の署名を行った文書を作成し、その実行を援助指針の一部として盛り込むことなども考えられる。利用者主権の時代、援助機関と利用者とのパートナーシップ形成の重要性を指摘しておきたい。

(7)  虐待を受けた子どもの指針例
 判定と同様、援助指針はすぐれて個別的なものであり、また、個々の子ども観や援助観等により多様なものであるため決まった内容を提示することは困難であるが、具体性をもたせるため、虐待を受けた子どものケースの援助指針を例示すると、別添6−2のとおりである。

(8)  市町村が策定する援助方針
[1]  市町村が策定する援助方針は、相談のあったケースについて、具体的にどのような支援をするのかを示すものであり、調査の結果をもとに、ケース検討会議において決定されるものである。
[2]  ケース検討会議は、調査の結果に基づき、子どもと保護者に対する最も効果的な相談援助方針を作成、確認するために行う。また、現に援助を行っているケースの終結、変更等についても検討を行うものとする。
 なお、ケース検討会議は要保護児童対策地域協議会(個別ケース検討会議)と一体のものとして開催することができる。
[3]  ケース検討会議は、検討すべき内容に基づき、その参加者を考え、適時に開催すること。
 なお、ケースの中には比較的軽易な検討で済むものから十分な協議を必要とするものまで含まれているので、柔軟な会議運営を心がける。
[4]  援助内容の決定に当たっては、子どもや保護者等に対して十分説明を行い、その意向等を踏まえて策定すること。
[5]  援助方針は、ケース検討会議の結果に基づきケースの主担当者が作成する。
[6]  会議の経過及び結果はケース検討会議録に記入し、保存する。
[7]  会議の結果を踏まえ、必要なケースについては、要保護児童対策地域協議会(実務者会議)で取り上げ、複数の機関が情報を共有し、適切な連携の下で対応していくこととする。


4.  親子分離の要否判断はどう行うか
 一時保護後、親子分離を検討する際には、表6−1の事項について情報を収集し合議による評価を行う。
 なお、どうしても子どもが帰りたいとの意思が強く、年長で虐待行為から自力で逃げることが可能であると判断される場合、子どもに逃げ方、緊急の連絡先・連絡方法を教え、また関係者によるセーフティーネットワーク(安全網)を作ってから帰宅させるようにする。
 例えば、通所・通学先を休んだらすぐに児童相談所に連絡が入るようにするなど、近隣の機関や住民で当該家庭とつながりを持つことができ、日常的に観察できる立場の協力者からの連絡ルートを確保しておくことが必要となる。


5.  援助方針について保護者、子どもにどう説明するか
(1)  親子分離の場合
 虐待は家族の抱える様々な問題状況が、弱者である子どもに集約されるという意味で「家族病理」という共通要因をもっている。この「家族病理」を治療し、その家庭を子どもの養育にふさわしい場に変えるために、一定期間親子が離れて生活し、それぞれ自分を振り返ることが必要であることを伝える。
[1]  保護者への説明
子どもが起こしている問題行動は、長期にわたる過度のストレス状態から起こっていることを説明する。
子どもにストレスを与えている環境は何なのかを考えてもらう。
子どもが助けを求めても、それを得ることができない辛さがどんなものかを考えてもらい、保護者自身が子どもだったときに同じようなことがなかったか、保護者の生育歴を受容的に聞き、保護者が少しでも自分を振り返るような関わりを心がける。
現在はうまくいかない親子関係を、時間をかけて改善・修復するために施設入所が必要なこと、入所中に保護者に考えてもらいたいことや児童相談所として保護者を援助したいことがたくさんあることを説明する。
[2]  保護者の意向確認の方法
 保護者は施設がどんなところなのか、どのような生活をするところなのかを十分知らないために、不安になったり、入所に抵抗したりすることもある。施設にどのような年齢の子どもがいるか、部屋はどんな分け方をしているか、学校はどうなるのか、日課はどうなっているのか、どんな職種の職員がいるのか、どのような関わり方をしてくれるのか、面会や外泊のことはどうなっているのか、費用はどれだけかかるのか等、保護者の疑問については、納得がいくようパンフレットやアルバムなどを活用して理解を深めてもらう。
 保護者が入所を了解したら、書面で確認する(例えば承諾書に署名・捺印してもらう)。口頭だけの確認では、後から同意「した」「していない」でもめる危険性があること、承諾書の署名により保護者として子どもの施設入所に自らが同意したという責任の重さを自覚させることにもなるからである。
[3]  保護者への指示や約束ごと
 入所の同意をとるときには同時に今後の援助の方向も併せて提示できるようにしておく。
[事例]
 母から「妹が生まれたころから兄(6歳)が反抗的になり、イライラして首を絞めたり風呂に沈めたりしてしまう」との訴えがあり、一時保護した後施設入所。
 この事例では
 ・ 子どもは多弁で攻撃的であり情緒不安定になっている。
 ・ 母は「子どもを愛しているのに傷つけてしまい、母親失格だ」と自分を責めて落ち込んでいる。
 ・ また、母は自分の親から「お前が女の子と分かっていたら生まなかったのに」と言われたことが傷として残っており、親に甘えられずに今日に至っている。
 ・ 父は困ったことがあると家を出てしまい、母の支えになっていない。
 という事実があり、それに対し今後
 ◎ 子どもは施設から児童相談所のセラピーに定期的に通う
 ◎ 母はカウンセリングを受けにクリニックに通う
 ◎ 母のクリニック通院にはできるだけ父が同行する
 ことが必要であること、それを前提で
 ◎ 子どもが施設の生活に慣れたら(約1カ月)、施設および児童相談所の職員の立ち会いのもとで面会を行う。その後は双方の関係を見ながら面会を続け許可外出許可外泊と順次親子関係の改善を図る。
 ◎ 家庭復帰の時期については、子どもの状態、保護者の状態、相互の関係を総合的に判断して決定するが、6カ月ごとに点検・協議をする。
 ことを確認、約束して入所の同意を得る。
 これらの方針は「援助指針」として整理し、施設が策定する「自立支援計画」の内容に反映するよう入所予定の施設に伝えておく。

[4]  子どもへの説明
子どもにとって「毎日安心して暮らすことができる」ということはとても大切であるが、「どうすれば安心して暮らせるのかを一緒に考えよう」と伝える。
「安心して暮らす」とは具体的にどんなイメージを持つのかを子どもに語ってもらったり、子どもが一時保護されている場合は、家にいるときはできなかったのに、ここに来てできるようになったこと等を聞きながら、心地よい場所では自分のよいところが発揮できることを話したり、確認したりする。
施設入所は自分の良いところをたくさん見つけるために必要であることを説明するとともに、入所している間に保護者には「子どもが家で安心して暮らすためにはどうすればよいのか」を考えてもらうつもりであることも説明する。
子どもが施設入所を了解したら、施設の生活がどのようなものかをパンフレットや写真で説明する。保護者の了解がとれており、施設も了解すれば事前に見学をしたり、施設の職員に一時保護所で面会をしてもらうなどして、子どもの不安な気持ちを少しでも和らげる工夫も必要である。
虐待を受けている子どもは、親から見離されることへの不安が大きく、施設入所することに躊躇することもある。子どもの家族への複雑な思いを受けとめながら、施設入所は親子関係を改善・修復していくためのものであり、一定の約束のもとで面会や外泊をすることを伝える。

(2)  在宅指導の場合
[1]  保護者への説明
 虐待を行っている保護者およびその家族に対し、保護者がそうせざるを得ない問題の解決と、子どもの受けた身体的・心理的な傷を癒すための専門的な援助が必要であることを説明する。
 まず、虐待を行っている保護者が、虐待行為をどう認識しているかを把握する。
 虐待の内容や程度が比較的軽易なものであり、かつ保護者が虐待行為を自分自身の問題としてある程度認め、それをどうにかしたいと考え、周囲の援助を得る心づもりがあれば、在宅指導の方向で援助を検討する。
 援助方法については、児童相談所への親子通所指導、家庭訪問を中心とした児童福祉司指導、要保護児童対策地域協議会を活用した定期的な家庭訪問等がある。児童福祉司指導の場合は、書面にて児童福祉司指導の通知をする。どうしても子育てがつらくなれば、一時保護や施設利用もあることを、併せて紹介しておく。いずれも、保護者と子どもの状況に合わせて、「十分に話し合いながら進めていきたい」と提案し、柔軟な対応を心がける。通所指導、家庭訪問については定期的に実施することを双方で確認する。要保護児童対策地域協議会等を活用するなどにより、保健所等と連携して援助する場合で、そのことを保護者が了解していれば、共に訪問することも確認しておく。
 保護者の動機付けが低い場合は、約束の日時に来所しなかったり、訪問しても留守であったりすることがある。これらは、リスクの高さを示す要素と考えられる。このような場合、援助方針を親子分離に変更する場合もあり得ることを想定して、保護者への説明方法を考えておく必要がある。
 親の状況について以下の事項を観察する。
援助者を受け入れているか。率直に話せているか。
子どもに対することばかけ等関わりはどうか。
子どもに対し、どの程度攻撃的、否定的であり、それをどう認識しているか。
地域で孤立していないか。
家事ができているか。
仕事は順調か。経済的問題を抱えていないか。
夫婦関係がうまくいっているか。
健康管理はどうか。アルコール等の問題の有無。
その他、生活上のストレスはないか。

[2]  子どもへの説明
 児童相談所や市町村の機能について説明する。その上で「お父さん、お母さんは○○ちゃんの気持ちをもっとよくわかって、楽しく暮らせるようになりたいと思っている。そのために時々一緒にここに来てもらうことになった。」というように、通所指導や家庭訪問の目的や方法について話す。子どもが安心感を持てるように配慮する。
 子どもの状況について以下の事項を確認する。
外傷等がないか。
発育、発達の状況はどうか。
保護者に対する態度、行動はどうか。
保護者のいる場面といない場面での表情や行動面での差異が極端にないか。
保護者をいらだたせる要因(学業成績、性格行動、きょうだいとの葛藤、習癖、アレルギー、病気等)はどうか。


6.   法的分離にはどのようなものがあるか
 虐待を行っている保護者等から子どもを強制的に分離するためにとりうる法的手続としては、児童相談所長による一時保護、家庭裁判所による子どもの里親委託又は児童福祉施設等への入所の承認、家庭裁判所による親権喪失宣告、家庭裁判所による保全処分等がある。親権を一時的又は部分的に制約するものと、親権をなくすものである。
 以下、これらについて説明する。なお、一時保護については、第5章を参照のこと。


7.   家庭裁判所による子どもの里親委託または児童福祉施設等への入所の承認−いわゆる法第28条手続
 保護者が、その子どもを虐待し、著しくその監護を怠り、その他保護者に監護させることが著しくその子どもの福祉を害する場合において、児童福祉第27条第1項第3号の措置(児童福祉施設へ入所等の措置)を採ることが保護者の意に反するときは、家庭裁判所の承認を得て、児童福祉施設への入所等を行うことができることとされている(児童福祉法第28条第1項)。
 法第28条手続は、親権等を部分的に制約する措置である。すなわち、親権者の親権や未成年後見人が当該子どもに対して持つ権限のうち、監護権や居所指定権を制約するものである。また、承認審判に基づいて入所措置をとる結果、施設長は監護、教育や懲戒に関して必要な措置をとることができることになる。

(1)  虐待、監護懈怠、その他の福祉侵害について
[1]  法第28条第1項の解釈
 児童福祉法第28条第1項の要件として「虐待」と「監護懈怠」を挙げているのは、本条文の体裁から、それらが保護者が行う監護に関して「福祉侵害」がある典型的な行為についての例示であると解すべきである。したがって、虐待の存在が大きく推定される場合はもちろんのことであるが、法第28条手続は、(1)虐待そのものの有無のみに拘泥しなくても、現在、保護者に監護させることが子どもの福祉を著しく害する状況にあることと、(2)保護者にその子どもの監護を任せておいたのでは将来子どもの福祉を損なうおそれがあること、の2点があれば申立ての要件の一つを満たしていると考えられる。その意味では、産まれたばかりの子どもであっても、保護者がその子どものきょうだいに虐待を行っていたような場合には、きょうだいが虐待を受けた要因が継続しているか否か(養育環境の変化や子ども側の要因の有無等)、保護者の態度(児童相談所の指導に従っているか、妊産婦健康診査の受診状況等)、先の事例の状況(0歳段階で深刻な虐待に至っていたのか否か、きょうだいが児童福祉法第28条により施設に入所しているのか否か等)等を総合的に勘案し、この要件を満たすと考えられる場合には、家庭裁判所に児童福祉法第28条の規定に基づく申立てを行うことも考えられる。あとは、その要件を家事審判の手続の中で明らかにしていくことが必要である。

[2]  虐待、監護懈怠、その他の福祉侵害の認定について
 本条についての家庭裁判所の最近の審判例を整理した文献として釜井裕子論文(「児童福祉法28条1項1号の家庭裁判所の承認について」家庭裁判月報第50巻第4号)がある。これによると、申し立てられたうちの6割について虐待、監護懈怠、その他の福祉侵害のいずれかを認定して本条を認容しているが、その中で虐待そのものがあったと言い切った例は少なく、身体にかなりの危害が加えられていると思われる事例でも、福祉侵害を設定している例が多い。このように虐待の認定例が少ない理由は、虐待を窺わせるような傷痕等があっても、保護者や子ども自身がそれを否定したりして虐待の事実の認定が相当困難であるからだと考えられる。家庭裁判所では、虐待の事実の有無を認定することよりも結論として児童福祉法第27条第1項の入所等措置の承認ができるか否かを判断することがより重要であることから、少なくとも子どもに対する福祉侵害がある、あるいは措置権行使の事態にある等の認定を行っていると考えられる。
 したがって、本条申立てに当たっては、早急に親子分離が必要であるという観点から子どもに対する福祉侵害があることを明らかにして児童福祉法第28条の承認を得られるようにする。また、事例によっては、申立てに当たって弁護士の協力を求めることも必要であろう。

(2)  児童福祉法第27条第1項第3号の措置(児童福祉施設へ入所等の措置)を採ることが子どもの親権を行う者又は未成年後見人の意に反することについて
 施設入所等については(一時保護と異なり)親権を行う者等の意思に反しないことが要件とされている。すなわち親権者が施設入所等に反対するかどうかは親権の行使の一場面ということになる。
 子が父母の共同親権に服する(父母が婚姻中)場合には、父母双方の意思に反しないことが要件であるが、積極的な同意は必要でないから、一方が同意し、他方が黙っていれば、児童福祉法第27条第1項第3号の措置でよい。その場合でも措置決定に対する不服申立てはできるので、措置決定がなされた旨の告知は双方に必要である。一方が同意し、一方が反対であれば児童福祉法第28条でいくしかない。
 以上が原則である。他方、例えば民法においては、父母がともに親権を持つため親権の具体的な行使を共同ですべき場合であっても、「父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う」との例外が認められている(民法第818条第3項)。これを参考にして、例外的に、父母の一方のみの意思を確認することで足りる場合もあると解する。具体的には、一方が行方不明、刑務所に服役中、長期の海外旅行中、など事実上親権の行使が不可能な場合が挙げられる。
 別居していて事実上一方が監護している、というだけでは例外事由にあたるとは言い難いが、父母が別居していて家庭裁判所がその一方のみを監護者に指定しているときや、一方が子どもの養育を放棄しているとき(例えば「遺棄」しているとして児童扶養手当が支給されているようなとき)には例外事由にあたる場合もあると考えられるのではないか。監護していない親が第三者と同棲している場合に例外事由にあたるとした家事審判例もある。
 したがって児童相談所としては、監護に関わりのない「親権者」の意思を確認せず、監護している親の意思によって児童福祉法第27条による措置が認められる場合もあると解する。その後に監護していない親が施設入所を知って、親権の行使として反対の意思を表明したときは、あらためて法第28条手続をとればよい。

(3)  法第28条手続の進め方
[1]  家庭裁判所への申立権者は、都道府県(児童福祉法第28条第1項)又はその委任を受けた児童相談所長(地方自治法第153条)である。
[2]  管轄は、子どもの住所地の家庭裁判所である(特別家事審判規則第18条)。家庭裁判所への申立てと連携については、次の点に留意して進めるとよい。
[3]  申立ては、申立ての趣旨及び事件の実情、児童福祉法第27条第1項第3号の措置が適切である理由やその子どもに係る援助指針、施設入所後の自立支援計画などの書類(措置期間の更新の場合は保護者指導の効果(これまでの保護者指導措置の経過や保護者の現状等)などを明らかにする書類を含む。)とともに、証拠書類がある場合には証拠書類も添えて行う。
[4]  後述する保全処分をはじめ、子どもの虐待に関しては、迅速に家庭裁判所の審理を仰ぐ必要のある場合が多い。家庭裁判所では、児童相談所や社会福祉機関などの連絡に当たる家庭裁判所調査官を定めている。そこで、機関同士の連携を円滑に図るためにも、家庭裁判所への申立てが予想された時点で、いつごろどのような事件を申し立てる予定かなど、連絡担当の家庭裁判所調査官とあらかじめ連携をとっておくと、その後の審理が円滑に運ぶことにつながる。
[5]  家庭裁判所に申立てをした場合、最初から裁判官による審問がなされる場合もあるが、家庭裁判所調査官による調査が先行することが多い。そこで、申し立てた後は、ただ審判期日を待つといった姿勢でなく、緊密に家庭裁判所調査官と連絡をとり、調査への協力や必要な資料の追完等によって、迅速な審理に協力していく姿勢を示し、速やかに審判が開始され、子どもの福祉の観点から時機にかなった適正な審判が得られるように努めることが必要である。
[6]  家庭裁判所に新たに申立てのあった児童福祉法第28条事件は、平成15年で152件である(司法統計による)。しかし、従来から申立て件数が少ないために、担当する裁判官や家庭裁判所調査官のすべてが、子どもの虐待に対して十分な知識と適切な対応への見通しを持っているとは必ずしも言い切れない場合もある。そのような場合には、必要な認識が得られるように、子どもの虐待に関して参考となる種々の資料や文献などを積極的に提出して、十分な知識と認識に基づいて適正な判断をしてもらえるように努めることが必要であろう。
[7]  多くの保護者は虐待の事実を否定しがちであり、虐待の明確な証明には困難を伴うことが多い。また、児童福祉法第28条が承認された審判例を見ると、虐待があったと言い切った例は少なく、福祉侵害を認定している例が多い。これを考慮すれば、虐待の有無を明白にすることのみに拘泥しなくても、子の養育状況の顕著な問題点や、保護者にその子どもの監護を任せておくと将来子の福祉を損なうおそれがあることに力点を置き、それを明確化することによって、児童福祉法第28条の承認が得られるように努めることが必要と考えられる。
[8]  子どもの虐待について家庭裁判所に一層の理解を深めてもらうためには、法第28条手続が必要と判断されたときは、ためらわずに申立てをし、家庭裁判所と児童相談所とが、子どもの虐待や子どもの福祉侵害に対する適切な対応についての共通認識を深めていくことが必要である。
[9]  児童福祉法第28条事件の平成11年から平成15年までの審理結果のうち、認容は74パーセント、取下げは23パーセント、却下は3パーセントである(司法統計による。)。取下げの内訳としては、事実上解決したり、解決の方向が見出せた結果の取下げも多くあろうが、中には認容できそうにないということで取り下げた場合も考えられる。しかし、家庭裁判所の判断が却下になりそうである場合でも、児童相談所としては福祉侵害が明らかにできると判断した場合には、却下の審判に対して高等裁判所に即時抗告し、福祉侵害の存否の判断を仰いで新しい判例を得ていくことも時には必要であろう。

(4)  措置の期間の更新について
[1]  児童福祉法第28条の規定による措置の期間は、当該措置を開始した日から2年を超えてはならない。このため、児童相談所においては、この間に親子の再統合その他の子どもが良好な家庭的環境で生活することができるようにすることに向けて、保護者に対する指導や施設や里親に措置(委託)された子どもの訪問面接等に努めるものとする。
[2]  このように入所措置の期間は2年を超えてはならないとされているが、当該入所措置に係る保護者に対する指導措置の効果等に照らし、これを継続しなければ保護者がその子どもを虐待し、著しくその監護を怠り、その他著しくその子どもの福祉を害するおそれがあると認めるときは、家庭裁判所の承認を得て、その期間を更新することができる(児童福祉法第28条第2項)。
 特に、入所措置の更新について、保護者に対する指導措置の効果等に照らし判断する旨の規定は、衆議院において全会一致で修正・追加され、更新に際しては、指導措置の効果や子どもの心身の状態等を考慮することが明確化されたものであり、その経緯を踏まえ、都道府県(児童相談所長)は、適切に対応する必要がある。
 なお、この2年の期間制限は、児童福祉法第28条の規定による措置を対象とするものであるため、例えば、児童福祉法第28条の規定による措置を開始し、保護者に対する指導等に努めたものの、保護者に将来にわたり子どもを引き取る意思が全くない状態になったことなどから、措置を児童福祉法第28条に基づくものから保護者の同意に基づくものに変更した場合などには、その制限は及ばないものである。
[3]  措置の期間の更新に係る申立ては、子どもの住所地の家庭裁判所に対して行う。
[4]  措置の期間の更新に際して行う申立てについては、保護者に十分な説明を行った上で行うことが望ましい。また、家庭裁判所において審理が行われ、かつ、その審判が確定するためには一定の期間を要することから、事案ごとに、措置開始(又は更新措置開始)から2年が経過する日から審理及び審判の確定に要する期間(2〜3か月程度)を見込んだ上で前もって、所要の資料を準備し、申立てを行う。
 しかしながら、この申立てを行ったにもかかわらず、やむを得ない事情から、措置開始(又は更新措置開始)から2年が満了するまでの間に、家庭裁判所の審判がされない場合や審判がされた場合であっても確定しない事態が発生することも考えられる。このため、都道府県等は、この申立てを行った場合において、やむを得ない事情があるときは、当該措置の期間が満了した後も、当該申立てに対する審判が確定するまでの間、引き続き当該措置を採ることができることとされている(児童福祉法第28条第4項本文)。
[5]  家庭裁判所において申立てを却下する審判(措置の期間の更新を認めない判断)がされたケースであっても、この審判について児童相談所側が不服申立てをし高等裁判所で争っている間(家庭裁判所の審判が確定するまでの間)は、児童福祉法第28条第4項本文に基づき引き続き当該措置を採ることができる。ただし、確定していない下級審の審判とはいえ措置の期間の更新を不相当とする司法判断が出ていることは一定程度尊重されるべきであり、このようなケースで当該措置を継続することができるのは、申立てを却下する下級審の判断が出ていることを考慮してもなお必要があると認める場合に限られている(児童福祉法第28条第4項ただし書き)。このため、継続の要否については慎重に検討する必要がある。

(5)  保護者指導に関する報告・意見の聴取等
 家庭裁判所は、児童福祉施設への入所等の措置又は措置の期間の更新の承認に関する審判の申立てがあった場合は、都道府県等に対し、期間を定めて、当該申立てに係る保護者に対する第27条第1項第2号の措置に関し報告及び意見を求め、又は当該申立てに係る子ども及びその保護者に関する必要な資料の提出を求めることができる。
 この家庭裁判所による報告・意見の聴取については、(1)審判の申立前に行った保護者指導措置の結果に関する報告・意見のほか、(2)事例によっては審判の過程において一定期間保護者指導措置を継続し、その結果に関する報告・意見を求めることもある。
 いずれの場合も、こうした報告・意見の聴取を行うか否かは家庭裁判所の判断によるが、まず(1)の場合については、家庭裁判所から求められるまでもなく、その迅速かつ適正な審理を期すため、申立時あるいは申立後速やかに児童相談所から家庭裁判所に提出することが望ましい。
 (2)の場合については、虐待事例の中には、申立ての段階では児童福祉法第28条の要件が整っているものの、家庭裁判所の審判の過程で子どもとの分離を目前にすれば、それを契機に保護者が児童相談所の指導に従い、養育態度等の改善につながる可能性があると判断する事例も存在すると考えられる。
 こうした事例については、審判の過程においても一定期間保護者指導措置を継続し、その結果に関する報告や意見を児童相談所から聴取した上で、最終的に判断することが適当である旨の意見を、保護者指導措置の内容及びこれにより期待される効果などとあわせて申立時に提出することが適当である。また、家庭裁判所から求められた場合には、定められた期間内に保護者指導措置の結果及び意見を報告することが必要である。

(6)  保護者に対する勧告
 家庭裁判所は、児童福祉施設への入所等の措置又は措置の期間の更新を承認する審判をする場合において、当該措置の終了後の家庭その他の環境の調整を行うため当該保護者に対し指導措置を採ることが相当であると認めるときは、当該保護者に対し指導措置を採るべき旨を、都道府県等に勧告することができる。
 こうした勧告を行うか否かは、家庭裁判所の判断によるが、児童相談所としてこうした勧告が効果的であると判断する場合には、家庭裁判所への審判の申立時にその旨の意見を述べることが適当である。この場合、予定している保護者指導措置の内容とこれにより期待される効果などについても、併せて提出することが必要である。

(7)  法第28条手続に伴う保全処分の申立てについて
 一時保護をしている子どもについて、家庭裁判所に対し児童福祉法第28条第1項の規定に基づく承認に関する審判を申し立てた場合は、家庭裁判所は、申立てにより、審判前の保全処分として、承認に関する審判が効力を生ずるまでの間、保護者について子どもとの面会又は通信を制限することができる。このため、保護者に対し説得を重ねたり毅然とした対応をとってもなお子どもの保護に支障をきたすと認められる場合などには、本保全処分の申立てを検討することが必要である。
 保全処分の具体的な手続等については、後述のとおりである。


8.    家庭裁判所による親権喪失宣告(民法第834条、児童福祉法第33条の6)と失権宣告の取り消し(民法第836条)
 [1]  民法第820条には、「親権を行う者は、子の監護および教育をする権利を有し、義務を負う」と定めている。しかし、親権の概念は時代とともに変遷してきており、親子法も家のためから親のため、さらに子のためへと展開してきている。また、児童の権利に関する条約を念頭に置いて、その視点から親権と子どもの権利について見ていく必要がある。
 親権の具体的な内容としては、子どもを監護、教育する権利と義務のほか、子どもの居所指定権、懲戒権、職業許可権、財産管理権等がある。
 [2]  民法第834条には、「父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所が当該親の親権の喪失を宣告することができる」と規定している。親権喪失は「子どもの福祉や利益」を基準に考える必要があり、親権の濫用とは、子どもに対する身体的・性的虐待やネグレクト(保護の怠慢・拒否)等が考えられる。また、著しい不行跡とは、単に保護者の性的不品行や飲酒を言うのでなく、著しい不行跡の結果、保護者の子どもに対する暴力(身体的虐待)やネグレクト(保護の怠慢・拒否)等が親権喪失理由とされるべきであろう。
 保護者が居所指定権を濫用して再三にわたって子どもを強引に施設等から連れ戻し、虐待を続けているような場合にも親権喪失宣告請求が考えられよう。
 [3]  したがって、親権喪失宣告の請求が必要と考えられるのは、保護者の子どもに対する著しい虐待により、子どもの生命や身体への重大な危害が予測されたり、監護や養育の著しい懈怠があり、子どもへの福祉が侵害されていて、将来的にもその状況の継続が予測され、あるいは改善が期待できないなどの場合であろう。
 [4]  通常は、虐待が発見された場合、(ア)在宅指導、(イ)緊急一時保護、(ウ)保護者の同意による施設入所等の措置、(エ)法第28条手続などを順次検討し、それでも足りないときに親権喪失宣告の申立てを考えることになる。
 従来、児童相談所において親権喪失宣告の申立を行うことは
ア.  一旦親権喪失の宣告がなされると、その後、虐待を受けた子どもとその家族との再統合が困難である。
イ.  児童相談所で扱う件数が他の措置と比べ極端に少ないためノウハウも少なく、申立てをしても宣告されるかどうか分からず、もし宣告されなければその後の援助が極めて困難になる。
ウ.  社会的にも親権喪失の宣告は親と子にとって重大な出来事である。
エ.  従って、児童相談所が親権喪失宣告の申立てを行うのは最後の手段である
といった考え方により、慎重に取り扱われてきた。
 親権喪失の宣告制度については、喪失制度のみ(民法834条、児童福祉法第33条の6)が強調されてきたが、民法の親権喪失の制度は、親権喪失の宣告と同時に、管理権喪失の宣告、失権宣告の取り消し、すなわち親権の回復(民法836条)、親権・管理権の辞任と回復の制度と一体で運用されるものである。このため、児童虐待防止法第15条において、親権喪失の制度は、児童虐待防止及び児童の保護の観点からも適切に運用されなければならないと規定されたものである。
 民法の親権喪失の制度が、広く子どもの福祉のために運用されるべきであることに加えて、児童虐待の防止及び子どもの保護の観点からも適切に運用されるべきものであるという趣旨であり、福祉的援助によっては子どもの福祉が十分確保できないときは、児童相談所は法的介入制度の一環として親権喪失及び親権の回復制度の有効な活用について検討し、ノウハウを蓄積する必要がある。
 具体的な事例としては、心臓疾患を有する乳児で、緊急手術の必要性が高いにもかかわらず、親権者が手術を拒否したため、児童相談所長が親権喪失宣告請求及び弁護士を候補者とする未成年後見人選任の請求を行い、後見人の同意により手術を終えた事例があり、あくまで解釈に委ねられる問題ではあるが、参考となるものと考えられる。

〈参考〉
 ○  民法
834条(親権の喪失の宣告)
 父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができる。
836条(親権又は管理権の喪失の宣告の取消し)
 前二条に定める原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、失権の宣告を取り消すことができる。

 [5]  親権喪失宣告手続
ア.  家庭裁判所への請求権者は、子の親族又は検察官(民法第834・835条)、児童相談所長(法第33条の6)である。なお、従来、親権喪失の宣告については、18歳以上の未成年者の場合に請求できるのは、その親族又は検察官のみとされ、児童相談所長は請求できないこととされていた。しかし、18歳以上の未成年者の場合であっても、親権者と関わりを持ちたがらないなど親族が請求を躊躇することも多いことから、平成16年児童福祉法改正法により、こうした場合にも適切に対応できるよう、児童相談所長の親権喪失宣告請求権が18歳以上の未成年者にも拡大された。
イ.  管轄は、事件本人(親権者)の住所地の家庭裁判所である(家事審判規則第73条)。
 [6]  この親権喪失宣告を本案とする親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の審判前の保全処分の申立てができるため、本案の審判手続の進行と並行して、親権者が子どもに対して生命や身体的に重大な危険が及ぶ虐待を行う(あるいは行っている)可能性が高い場合(かつ、本案の認容の蓋然性が高い場合)には、すみやかに上記の保全処分の申立てを認容することによって、当面子どもを保護者から分離することが可能となる。


9.  家庭裁判所による審判前の保全処分(特別家事審判規則第18条の2)
(1)  審判前の保全処分
 家庭裁判所が審判を行うためには、一定の手続のための日時を要するが、現に虐待を受けている現実があれば、とり急ぎ虐待を行っている保護者から緊急に子どもを引き離す必要がある。家庭裁判所は、一定の種類の事件において、審判を求める事項(これを本案という。)の結論が出る前に一定の事項について仮の処分としての保全処分を命ずることができる。
 親子の分離を図る事件のうち家事審判規則で保全処分が明記されているのは、親権喪失宣告、親権者変更、子の監護者の指定・監護についての必要な事項(面接交渉等)の定め、監護者の変更・監護についての相当な処分(子の引渡し等)などである。また、特別家事審判規則では、一時保護中の子どもに係る児童福祉法第28条措置に関する審判前の保全処分が規定されている。

(2)  審判前の保全処分の内容
 本人の職務の執行停止または職務代行者の選任の保全処分ができるものとしては、a.親権・管理権の喪失宣告、b.未成年後見人・未成年後見監督人の解任、c.親権者の指定・変更などがある。
 事実上の行為を禁止し、または命ずる仮処分(いわゆる仮の地位を定める仮処分ともいう)は、急迫な危険を防止するための子の生活の妨害禁止、子の連れ去りの禁止、子の就学手続をとるべきことの命令、親子の面接交渉等の処分などがある。このような保全処分ができるものとしては、a.子の監護、b.親権者の指定・変更などがある。
 また、一時保護中の子どもに係る法第28条手続きに関しては、家庭裁判所は、申立てにより、本案の審判が効力を生ずるまでの間、保護者について子どもとの面会又は通信を制限することが可能とされている。

(3)  親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の保全処分(家事審判規則第74条第1項)
(1)  上述のとおり、親権喪失宣告の請求をした場合に、これを本案として、親権者の職務執行停止および職務代行者の選任の申立てができる。本申立てをした場合、家庭裁判所は、本案の認容の蓋然性が高く、かつ親権者の職務執行停止の必要性があると認めた場合には、本案である親権喪失宣告請求についての審判の効力が生ずるまでの間、親権者の職務執行停止および職務代行者の選任を認容することになる。
(2)  申立権者は、本案親権喪失宣告事件の申立人である。
(3)  管轄は、本案親権喪失宣告事件が係属している家庭裁判所である。
(4)  本保全処分によって親権の職務代行者に選任された者は、親権者に代わって虐待を受けていた当該子どもの居所を指定するなど、必要な措置をとることができる。

(4)  いわゆる法第28条手続を本案とする審判前の保全処分
(1)  上述のとおり、一時保護中の子どもに係る法第28条手続きについては、これを本案として、保護者について子どもとの面会又は通信を制限する審判前の保全処分を申し立てることができる。
ア.  申立権者は、本案である児童福祉法第28条の申立人である。
イ.  管轄は、本案である児童福祉法第28条による申立事件が係属している家庭裁判所である。


10.   家庭裁判所におけるその他の家事事件の申立てによる対応
 家庭裁判所に対して、上述の事件の他に、親権者変更(民法第819条第6項)、子の監護者の指定・監護についての必要な事項(面接交渉等)の指定(民法第766条第1項)、監護者の変更・監護についての相当な処分(子の引渡し等)(民法第766条第2項)等の事件を申し立てることによって虐待を行っている保護者と子どもとの分離を図ったり、両者の関係を調整する働きかけをしてもらうことも一つの方法として活用できる場合がある。
 具体的に家事事件として扱えるかどうかということについては、家庭裁判所の担当者と連携をとって相談をすることがよい。


11. 法的分離手続の実際
(1)  各種申立書はどのように記載するか
[1]  家庭裁判所への家事審判事件の申立て
ア.  申立てに当たっては、その趣旨および事件の実情を明らかにし、証拠書類がある場合には、同時にその原本又は謄本を提出する。
イ.  書面で申立てをする場合には、申立書に(ア)当事者の氏名、住所、代理人があるときは代理人の氏名、住所、(イ)申立ての趣旨およびその実情、(ウ)申立年月日、申立裁判所、を記載して、申立人または代理人が署名押印する。
ウ.  申立てに当たっては、定型の申立書式があるが、必要な内容が記載されていれば、必ずしも定型書式を使用しなくてもよい。

[2]  児童福祉法第28条による子どもの里親委託または児童福祉施設等への入所措置の承認
ア.  根拠 児童福祉法第28条第1項
イ.  申立権者 都道府県(地方自治法第153条により児童相談所長に委任)
ウ.  管轄 子どもの住所地の家庭裁判所
エ.  申立費用 収入印紙800円、郵便切手約800円(各家庭裁判所によって異なる。)
オ.  添付書類 子ども、親権を行う者または保護者等の戸籍謄本
 児童相談所長が申し立てる場合には、所長個人の戸籍抄本および資格証明(児童相談所への任命辞令の写し、申立権が委任されている旨の知事名の公文書等)が必要である。家庭裁判所によっては、次回からの申立てでは、初回の申立事件番号を付記し、戸籍抄本と資格証明のコピー添付でよいと取り決めている庁もある。
カ.  申立ての趣旨欄には、児童養護施設への入所等、何を求めるのかを簡潔に記載する。
キ.  申立ての実情欄には、事件の概要、経過、子どもが虐待を受け、あるいは著しく子どもの福祉が害されている状況および問題点、解決課題等、必要な事項を簡潔に摘記し、重要な参考になる事項を付記する。
ク.  提出書類 虐待または保護者の監護が不適切で子どもの福祉が著しく害されており、保護者に子どもの監護を任せておいては将来子どもの福祉を損なう恐れがある旨の証明に役立つと思われる証拠資料を整えて提出する。証拠資料は、申立て時に間に合わなければ、順次追完して提出すればよい。
ケ.  留意点 本件の申立ては、虐待の有無の証明について家庭裁判所と争うことでなく、子どもの福祉を著しく害する状況があるので、施設入所措置の承認を得ることに目的がある。そこで、虐待の存在のみを強調し過ぎるより、虐待が疑われる状況も含めて子どもの福祉を著しく害する状況の存在により、早急に保護者から分離して施設への入所が必要な点に力点を置いて説明することがよい。

[3]  児童福祉法第28条による措置の期間の更新の承認
ア.  根拠 児童福祉法第28条第2項
イ.  申立権者 都道府県知事(地方自治法第153条により児童相談所長に委任)
ウ.  管轄 子どもの住所地の家庭裁判所
エ.  申立費用 収入印紙800円、郵便切手約800円(各家庭裁判所によって異なる)
オ.  添付書類 子ども、親権を行う者または保護者等の戸籍謄本
 児童相談所長が申立てる場合には、所長個人の戸籍抄本および資格証明(児童相談所への任命辞令の写し、申立権が委任されている旨の知事名の公文書等)が必要である。家庭裁判所によっては、次回からの申立てでは、初回の申立事件番号を付記し、戸籍抄本と資格証明のコピー添付でよいと取り決めている庁もある。
カ.  申立ての趣旨欄には、児童福祉法第28条による措置の期間の更新の承認を求める旨を簡潔に記載する。
キ.  申立ての実情欄には、(ア)事件の概要、(イ)経過、(ウ)これまで行ってきた保護者に対する指導措置の内容及びその効果、(エ)子どもの心身の状態、(オ)保護者指導の効果や子どもの心身の状態等に照らし措置を継続しなければ子どもが虐待を受け、あるいは著しく子どもの福祉が害されるおそれがある旨、(カ)今後の解決課題等必要な事項を簡潔に摘記し、重要な参考になる事項を付記する。
ク.  提出書類 保護者指導の効果(これまでの保護者指導措置の経過や保護者の現状等)や子どもの心身の状態など、措置を継続しなければ子どもの福祉が著しく害されるおそれがある旨の証明に役立つと思われる証拠資料を整えて提出する。
ケ.  留意点 家庭裁判所において審理が行われ、かつ、その審判が確定するためには一定の期間を要することから、事案ごとに、措置開始(又は更新措置開始)から2年が経過する日から審理及び審判の確定に要する期間(2〜3か月程度)を見込んだ上で前もって、所要の資料を準備し、申立てを行う。

[4]  児童福祉法第28条申立てに伴う保全処分の申立て
ア.  根拠 特別家事審判規則第18条第の2
イ.  申立権者 本案申立事件の申立人
ウ.  管轄 本案申立事件が受理され、審理されている家庭裁判所
エ.  申立費用 収入印紙不要、郵便切手約3000円(各家庭裁判所によって異なる)
オ.  添付書類 本案申立認容の蓋然性、保全処分の必要性を疎明する資料
カ.  求める保全処分 保護者について子どもとの面会もしくは通信又はその両方を制限することを求める旨を簡潔に記載する。
キ.  保全処分を求める事由 本案認容の蓋然性および緊急に保全処分を必要とする事情を簡潔に記載する。
ク.  留意点 迅速に審理をしてもらうために、本案認容の蓋然性及び保全の必要性に関する疎明資料を逐次迅速に用意する。
 本案認容の蓋然性については,児童福祉法28条1項の承認申立てに際して提出するものと重なる部分が多いが、本案と保全は別事件であることから、資料は別途用意する。保全の必要性については、一時保護を加えてもなお児童を十分に保護することができないとき(すなわち、説得を重ねたり、毅然とした対応を取ったりしても、保護者からの面会や通信の要求がやまず、これに応じることにより、児童の福祉を害するようなとき)に認められることから、これらの事情を疎明する資料を用意する。

[5]  親権喪失宣告請求
ア.  根拠 民法第834条
イ.  申立権者 子の親族・検察官(民法第834条)、児童相談所長(児童福祉法第33条の6)
ウ.  管轄 事件本人(親権者)の住所地の家庭裁判所
エ.  申立費用 収入印紙(子1人につき)800円、郵便切手約800円(各家庭裁判所によって異なる)
オ.  添付書類 申立人、事件本人・子の戸籍謄本
 児童相談所長が申立てる場合には、所長個人の戸籍抄本および資格証明(児童相談所への任命辞令の写し、申立権が委任されている旨の知事名の公文書等)が必要である。家庭裁判所によっては、次回からの申立てでは、初回の申立事件番号を付記し、戸籍抄本と資格証明のコピー添付でよいと取り決めている庁もある。
カ.  申立ての趣旨欄 どの事件本人(親権者)のどの子どもに対する親権の喪失を求めるかを明確に記載する。
キ.  申立ての実情欄には、(ア)同居の有無を含めて申立人、子ども、事件本人等の家族関係、(イ)簡単な事件の経過と虐待の事実を含めた問題状況の推移、(ウ)子どもの現状と早急に手を打たなければならない状況、(エ)親権を喪失させなければならない虐待行為の事実および理由、などを記載する。主張は簡潔に、証拠となるべき事実や状況は詳しく記載する。

[6]  親権喪失宣告請求に伴う親権者の職務執行停止および職務代行者選任
ア.  根拠 民法第834条・家事審判法第15条の3・家事審判規則第74条
イ.  申立権者 本案審判事件の申立人
ウ.  管轄 本案審判事件が受理され、審理されている家庭裁判所
エ.  申立費用 収入印紙不要、郵便切手約3000円(各家庭裁判所によって異なる)
オ.  添付書類 本案請求認容の蓋然性、保全処分の必要性を疎明する資料
カ.  求める保全処分 子どもの親権者につき、職務の執行を停止することと職務代行者の選任を求めることを簡潔に記載する。併せて、事案によっては、事件本人は職務代行者の職務を妨害してはならないこと、あるいは、職務代行者が同意した施設等から子どもを引き取ってはならない、などの具体的な事項を明示してもらうことも考えられる。
キ.  保全処分を求める事由 本案請求の主張に併せて、本案についての結論がでるまでの間に、親権者が親権を引き続き行使した場合に、子どもの福祉が著しく害され、子どもにとって回復が困難なほどに不利益が生じることを具体的事実を示して、緊急に仮の処分を要することを記載する。

[7]  親権者変更の申立て
ア.  根拠 民法第819条第6項
イ.  申立権者 子の親族(民法第819条第6項)
ウ.  管轄 調停の場合は、相手方の住所地の家庭裁判所または当事者が合意で定める家庭裁判所。審判の場合は、子の住所地の家庭裁判所
エ.  申立費用 収入印紙(子1人につき)1200円(調停の場合)郵便切手約800円(各家庭裁判所によって異なる)
オ.  添付書類 申立人、相手方、子の戸籍謄本
カ.  申立ての趣旨欄 未成年者の親権者を相手方から申立人へ変更することの調停(または審判)を求める。
キ.  申立ての実情欄には、相手方の子どもに対する虐待や著しく子どもの福祉を害している行為を明らかにし、相手方が親権者として子どもの養育をすることが著しく不適切であることを明確にする。同時に、申立人が親権者となった場合に、子どもの福祉のためにどのようなことをしてやれるかを具体的に記載する。

(2)  虐待の疎明、証明はどうすればよいか
[1]  証拠の準備
 家庭裁判所が審判や審判前の保全処分の審理を行うに当たっては、虐待の事実、あるいは福祉を侵害していることが証拠によって認定されなければならない。申立てに当たっては、裁判官が理解しやすく、虐待や福祉侵害の事実を認定しやすいようにできるだけ具体的で簡明な証拠となる資料を提出する必要がある。
[2]  資料源の秘密の保持について
 家庭裁判所の記録は原則非公開とされている(家事審判規則第12条第1項)。虐待は密室で行われることが多く、これを明らかにするためには、子どもを取り巻く種々の関係機関や近隣の人などが、微細と思われる情報や資料を提供し集積することによって次第に明確化してくる。記録の閲覧等の許可は資料の所持人の意向のみで決定されるものではないが、近隣住民や民生・児童委員(主任児童委員)の陳述の記録は、家庭裁判所に提出されることの了解を得ておくとともに、虐待を行っている保護者と直接利害関係が生じてくるので、これらの陳述書は保護者等に対して非開示扱いとしてもらえるように家庭裁判所に申し入れておく必要があろう。
[3]  提出資料の作成
 以下に列挙された資料は,どのような事件についても必ずすべて必要というわけではないが,事実を正確に家庭裁判所に知ってもらうことにより迅速な審理に役立つため,事案に応じて提出することが適当である。
ア.  写真
 外傷、着衣の状態、家屋内の様子、子どもの表情や行動等を写真、ビデオカメラ(ビデオテープは、撮影されている当該部分の箇所と内容が分かるよう書面で明示する。)などで撮影し、撮影者、日時、場所、角度等と何を証明しようとする写真であるかの説明を加えた写真撮影報告書を作成する。
イ.  診断書、カルテの記載内容、レントゲン写真
 診断名のほか、カルテに客観的事実、通常起こり得ない外傷等か、身体の成育状況(低身長、低体重)、親の弁解、医師の感想、所見などの記載があれば、後日裁判所の職権調査や弁護士法による照会(弁護士の協力を求めた場合)で、カルテに基づく回答を得ることもできる。
ウ.  報告書、各種の記録、陳述書、日記、業務記録等
 各書類は、作成者(住所、氏名、職業)、作成日を記載する。児童相談所が収集できる資料としては次のものがあげられよう。
(ア)  児童記録票、虐待に関する調査票、行動観察記録
(イ)  通告者、親戚、近隣者、民生・児童委員(主任児童委員)、保育所の保育士、幼稚園・小学校・中学校等の学校の担任、医師、保健師等の陳述書または面接聴取書
(ウ)  警察等からの通告の場合は、要保護児童通告書や担当の警察官との面接聴取書
(エ)  学校照会書
(オ)  子どもからの面接聴取書、子どもの日記、作文、意見書等
(カ)  保護者の暴力、飲酒、夫婦仲、監護態度等の性癖、態度に関する面接記録、保護者との電話対応録、保護者に対する診断書等
(キ)  身体的発育(低身長、低体重)、知能や情緒面に関する診断、発達の遅れの有無、生活態度・問題行動についての児童記録票、医師の診断書・意見書等
(ク)  過去の児童記録票
 これらの中から、虐待および福祉侵害の証拠となり得る資料を選択の上、提出する。
(ケ)  保護者指導の内容及びその効果
(コ)  家庭裁判所の審理の進行状況に応じた種々の上申書
エ.  事情聴取書、電話録取書
 関係者(医師、保健師、児童福祉施設、近隣住民、保育所、幼稚園、小学校の担任)や虐待を受けた子どもから事情聴取して事情聴取書を作成する。面会を求めて事情を聞く場合には、聴取書の形で家庭裁判所等に提出することを事前に伝えておくとよい。
オ.  福祉侵害の状況報告書
 福祉侵害の状況については、子どもが適切な監護・養育を受けられず、ネグレクト(保護の怠慢や拒否)すなわち食事、衣料、健康、衛生、愛情に基づく養育などが与えられていない状況等、保護者の監護の不適切さがあれば、それに関する具体的な資料を集めて状況報告書を作成する。
[4]  提出資料作成上の留意点
ア.  保育所や学校での虐待を受けた子どもの生活の記録(欠席・遅刻の状況、けがや身体の異常・健康状態、着衣や衛生状態、その他目立った言動等)など、客観的に記録されているものがあれば、その写しまたはそれに基づいて作成した客観的な記録が役に立つ。
イ.  保護者の言動や態度などは、言い訳や説明なども含めて、事実をできるだけ簡潔かつ客観的に記述することがよい。
ウ.  うわさ程度の資料は、証拠として扱うことは難しい。



表6−1  親子分離の要否評価チェックリスト(現在の状況および将来予測される状況)

下記の事項に該当する場合親子分離の必要性が高い
在宅では子どもの生命に危険が及ぶ
在宅では子どもの心身の発達を阻害する
子どもが帰ることを拒否する
家族・子どもの所在がわからなくなる可能性が強い
性的虐待である
繰り返し虐待の事実がある
子どもの状況をモニタリングするネットワークを構築できない
保護者が定期的な訪問・来所指導を拒む
家庭内の著しい不和・対立がある
絶え間なく子どもを叱る・罵る
保護者が虐待行為や生活環境を改善するつもりがない
保護者がアルコール・薬物依存症である
(高橋重宏・田中島晁子・中谷茂一)



(別添6−1) 児童相談所援助指針票

児童相談所援助指針票(記入例)

児童相談所援助指針票(記入例)
児童相談所援助指針票の図




(別添6−2) 児童相談所援助指針票(記入例)

児童相談所援助指針票(記入例)

児童相談所援助指針票(記入例)

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