ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 児童虐待防止対策・DV防止対策・人身取引対策等 > 子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月23日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知) > 子ども虐待対応の手引き > 第5章 一時保護

第5章 一時保護

第5章  一時保護

1.   一時保護の目的は何か
 一時保護の第一の目的は子どもの生命の安全を確保することである。単に生命の危険にとどまらず、現在の環境におくことが子どものウェルビーイング(子どもの権利の尊重・自己実現)にとって明らかに看過できないと判断されるときは、まず一時保護を行うべきである。
 一時保護を行い、子どもの安全を確保した方が、子どもへの危険を心配することなく虐待を行っている保護者への調査や指導を進めることができ、また、一時的に子どもから離れることで、保護者も落ち着くことができたり、援助を開始する動機付けにつながる場合もある。
 子どもの観察や意見聴取においても、一時保護による安全な生活環境下におくことで、より本質的な情報収集を行うことが期待できる。
 以上の目的から必要とされる場合は、まず一時保護を行い、虐待の事実・根拠はそれから立証するという方が子どもの最善の利益の確保につながりやすい。


2.   一時保護の速やかな実施
 緊急一時保護が必要か否かは、第3章通告・相談への対応及び、第4章調査および保護者・子どもへのアプローチとの一連の流れの中で判断しなければならない。
 児童虐待防止法では、児童虐待に係る通告(児童虐待防止法第6条第1項)又は市町村等からの送致(児童福祉法第25条の7第1項第1号等)を受けた場合、子どもの安全の確認を行うよう努めるとともに、必要に応じ一時保護(児童福祉法第33条第1項)を行うものとされ、その実施に当たっては、速やかに行うよう努めなければならないとされている(児童虐待防止法第8条)。
 この場合の「速やかに」は、何時間以内などのといった具体的な期限を示すものではないが、事例によっては直ちに安全の確認、緊急保護の必要な場合もある。
 通告の段階で特に緊急性が予測される場合などには、直ちに対応すべきであるが、生命に関わるなど重大な事件が発生する前の対応を進める上で、休日や夜間に関わりなくできる限り速やかに対応する事を原則とすべきである。
 これまでも児童相談所においては早期の安全確認及び一時保護の努力がなされているが、児童虐待防止法に基づく努力義務が課せられていることに留意しなければならない。


3.   虐待が疑われる事例への対応の流れ
 虐待が疑われる事例の場合、緊急かつ組織的な対応が必要である。ことに、通告があったにも関わらず、安全の確認、一時保護などの対応の遅れにより子どもの生命に危険が及ぶようなことがあってはならない。そこで、通告から一時保護の要否を判断するまでの対応の流れを示したのが図5−1「子ども虐待対応・アセスメントフローチャート」である。

(1)  通告及び当面の方針決定
 虐待については、子ども本人や虐待を行っている保護者からの相談と近隣等個人や関係機関等からの文書又は口頭による通告のほか、匿名の通告もある。
 通告者が個人の場合には、「虐待でなかったらどうしよう」と通告することを躊躇する気持ちや、「恨まれたり、責任を問われるのではないか」と通告後の事態への危惧感から不安な心理状態で通告してくることが多い。一方で、児童相談所や市町村が、すぐに虐待をやめさせて問題を解決してくれると期待して、通告してくる場合もある。
 いずれの場合であっても、通告を受理した場合の対応の方法や情報源の秘匿について十分理解を求めるなど、不安や不信感を相手に与えない対応によって、通告・相談の内容を聴取し、確認しなければならない。
 虐待相談・通告受付票(表5−1)の記入方法や当面の方針を決定する緊急受理会議の持ち方については、第3章通告・相談への対応を参照のこと。

(2)  情報収集
 一般の相談援助の場合でも始めからすべての情報が得られるわけではないが、児童虐待が疑われる事例では特に、最初は不確実な情報から出発することが多い。したがって、児童相談所や市町村内部で情報を集約できる体制を整えることはもちろん、関係機関とも早い時期から情報を共有することが重要である。このため、子どもや保護者との面接だけでなく、子どもの通園・通学先、地域の民生・児童委員や主任児童委員、各専門機関など多面的な情報収集を行う。特に、子どもについては、所属集団への訪問など、把握しやすい方法を優先することを考慮する。
 家庭訪問にあたっては、複数の職員で行うとともに関係機関の職員に同行を依頼するなど、調査の客観性を確保する。子どもや保護者との面接では、事情聴取的な情報収集は避け、カウンセリングマインドを心がける。
 収集した情報は、情報を得た日時、調査者、同行者、調査先、具体的内容などを克明に記録に残す。また、口頭で得られる情報だけでなく、観察によって得られる情報も重要な判断材料となるので、観察結果を記録にとどめるように努める。法的対応をとる際の証拠資料・参考資料となる場合もあるので、調査結果は事実等について、具体的かつ克明に記録するとともに可能な限り文書や写真等を収集することも必要である。

(3)  速やかな安全確認および面接
 安全確認は、原則として伝聞でなく、児童相談所又は市町村の職員が直接子どもに会って確認することをを基本とする。
 この段階の訪問は子どもの安全確認や一時保護の要否判断など、緊急かつ客観的な判断が必要なため、児童相談所の心理職や管理職など、あるいは福祉事務所の職員等を交え複数の職員が立ち会うこととする。男女の職員を組み合わせることが対応に有効な場合もある。地区担当の枠にこだわらずに役割を分担することも重要である。
 通告受理後速やかに安全を確認することは、生命に関わるような事件が発生する前に対応する観点が重要である。したがって、通告の段階で特に緊急性が予測される場合など、特に早い対応が必要である。とりわけ乳幼児については速やかな対応が必要となる。
 また、休日や祝日に関わりなく対応すべきことは言うまでもない。

(4)  居所の情報欠落・不明への対応
 通告によっては、保護者や子どもの居所に関する情報が欠落していたり不明な場合もある。そのような時でも、記録は残すとともに、住所がわからなくても地域が判明している場合は、主任児童委員や民生・児童委員、警察、市町村児童福祉主管課、保健所・保健センターなど、必要と思われる機関には通告内容を伝え、注意を促すとともに、該当事例に関して情報を得た場合には速やかな連絡を依頼する。他の機関に、似たような訴えがなされる場合もしばしばあるからである。
 なお、情報収集における留意点や調査に際しての他機関との連携方法、調査に拒否的な親へのアプローチ、子どもからの事実確認の方法等について、本手引き第4章「調査および保護者・子どもへのアプローチ」を参照のこと。

(5)  立入調査
 事前に同行する職員や関係機関とで綿密な打ち合わせを行い、立入調査の目的や役割分担を明確にしておく。
 特に、保護者からの加害行為等に迅速に対応し、子どもや職員等の安全確保を図るため、必要があると認めるときは、警察に援助を依頼して事前協議を行い、これに基づく連携を図るよう努める。
 このほか、立入調査に当たっての留意点等については、本手引き第4章「調査および保護者・子どもへのアプローチ」を参照のこと。

(6)  アセスメントシートによる保護の要否判断
 表5−2および図5−2を参照のこと。

(7)  保護・安全確保の実施
 一時保護に際しての留意点等については、本手引き第5章「一時保護」を、また在宅指導における留意点等については同手引き第8章「援助(在宅指導)」を参照のこと。


4.   リスクアセスメントシートによる一時保護の要否判断
(1)  客観的判断の必要性
 一時保護の要否判断は、子どもや家族の生活に大きな影響を与える。誤った判断により子どもの生命を守れずに終わる危険性もあるが、一方、必要のない親子分離により子どものトラウマの原因になったり、家族が子育てをする力を弱めてしまう危険性もある。過不足のない介入や援助のあり方を的確に判断しなければならない。
 保護の要否判断については、担当児童福祉司個人の判断であってはならず、所内会議等を通じた機関決定は無論のこと、外部との連携も含め、できる限り客観的で合理的な判断をしなければならない。そのためには、系統的かつ専門的な情報収集と情報整理、そして情報評価が必要である。
 具体的には、判断の客観性、的確性を高めるため、あらかじめ用意されたリスク度判定のための客観的尺度(リスクアセスメント基準)に照らし合わせて緊急介入の必要性や緊急保護の要否判断等を行うことにより、対応の遅れや判断の躊躇等を防止し、児童福祉の専門機関としての客観的な判断を定着させなければならない。
 平成9年度から取り組まれていた厚生科学研究「子ども虐待・ネグレクトリスクマネージメントモデルの作成に関する研究」(分担研究者 高橋重宏)において、虐待対応の先進国であるカナダ、オーストラリアにおけるリスクアセスメントやアメリカでの対応方法、国内研究等を参考に、日本版のリスク・アセスメントモデルが児童相談所での適用研究を経て示された。
 上記研究を参考に、リスクアセスメントシートによる保護の要否判断の方法を児童相談所での適用の参考として以下に示す。

(2)  情報収集
 一般の相談援助の場合でも始めからすべての情報が得られるわけではないが、児童虐待が疑われる事例では特に、最初は不確実な情報から出発することが多い。したがって、児童相談所や市町村内部で情報を集約できる体制を整えることはもちろん、関係機関とも早い時期から情報を共有することが重要である。たとえば、福祉事務所と保健所と児童相談所が把握している情報を総合化すれば、子どもの生命に危険があることが判ったはずなのに、それぞれが断片的な情報しか持っていなかったために判断を誤ったというようなことがあってはならない。情報の共有化を図るためには、電話連絡だけでなく、文書による連絡やネットワーク会議の開催など、様々な連携方法を工夫する必要がある。
 なお、お互いに守秘義務を持った専門家としての信頼関係に基づき情報を共有するのであり、交換した情報を不必要に外に漏らすことがあってはならない。
 虐待が疑われる場合、情報収集に許される時間が限られている場合もある。このため、当面の判断に必要な情報を優先して集める。表5−2に示した「一時保護決定に向けてのアセスメントシート」は、加藤曜子等が作成している「保護決定アセスメント指標」をもとに、項目を8群に分けて再編成したものであるが、どのような情報を優先的に集めるかを計画する際にも参考となるものである。
 緊迫した状況などで、児童相談所や市町村の職員が情報を聞き漏らしたり、尋ね忘れたりすることも起こりやすい。必要な情報を漏れの無いように収集するためにもこのアセスメントシートを活用すべきである。ただし、このシートは情報の整理と判断を目的としているので、情報収集のためには充分な記述欄が備えられてはいない。シートには要点のみを記すこととし、詳細な情報は別に記録する必要がある。

(3)  情報整理(アセスメントシートの記入)
 持ち寄った断片的な情報を一つに統合するためには、情報整理の枠組みが必要である。
 シートに記入する際には、まず、各群の中の小項目から記入する。それぞれの小項目について該当すれば□の中にチェックをつける。チェックを付けるかどうか迷うような場合は、まずはチェックを付けておいて、[4]の判断をする段階で十分に協議する。
 小項目に「例」が掲げられている場合には、該当するものを○で囲む。例に示されていない場合は( )内に記述する。
 各群の中で、一つでもチェックが付いた項目がある場合、その群の見出しとなっている質問について「はい」の方にチェックを付ける。たとえば、「外傷」という項目にチェックがあれば、その群の見出しとなっている「すでに虐待により重大な結果が生じている?」という質問に対し、「はい」の方にチェックを記入する。
 右側の自由記述欄には、小項目や見出し項目に関してチェックがついた状況を理解するのに必要な情報を記入する。

(4)  情報評価(アセスメントシートを用いた判断)
 上記のように記入すると、第1群から第8群までの各見出し項目に「はい」または「いいえ」のチェックが記入された状態となる。この結果に基づき、図5−2「一時保護決定に向けてのフローチャート」をたどる。
 以下、図5−2について解説する。
[1] 表5−2の第[1]〜第[3]群のいずれかで「はい」がある時
 直ちに一時保護を検討する必要がある。
[2] 表5−2の第[4]群に該当項目があり、かつ第[5]群にも該当項目がある時
 次の虐待が発生しないうちの保護を検討する必要がある。
[3] 第[1]〜[5]群のいずれにも「はい」がないが、第[6]群または第[7]群のいずれかで「はい」がある時=虐待やネグレクト発生につながる危険因子(リスク要因)がある。
 表面化していなくても深刻な虐待が起きている可能性がある。
 あるいは虐待が深刻化する可能性がある。
 リスクを低減するための集中的援助を計画する。その見通しによっては一時保護の検討が必要。
[4] 第[1]〜[7]群のいずれにも「はい」がなく、第[8]群のみに「はい」がある時
 現状では虐待やネグレクトを理由に一時保護するに足りる情報は得られていない。
 しかし、虐待やネグレクトの発生につながる家族内外のリスク要因はあるので、家族への継続的・総合的援助が必要。

 表5−2および図5−2は、一時保護の必要性をできるだけ客観的に判断するための補助的な道具として用いられるべきものであり、機械的に判断すべきではない。それぞれ、チェックが付いた項目について、基となった情報に戻り状況を十分に理解、分析することが的確な判断につながる。そして、表5−2および図5−2を参考にしつつ、児童相談所や市町村内で協議して一時保護の要否を判断し、決定する必要がある。
 また、一時保護の要否判定をできる限り的確に判断するためには、できる限り幅広く情報を集め、総合的な判断をすることが重要である。仮に第[1]群から第[5]群で「はい」にチェックがついた場合であっても、時間の許す限り、第(8)群までの項目を含めて情報収集に努めなければならない。しかし、一方で、緊急を要する状況なのに第[8]群までの情報がすべて集まっていないことを理由にして介入を遅らせるべきでもない。
 たとえば、乳幼児が頭部に外傷を負って複数回目の入院をしたとすれば、表5−2の第[3]群と第[4]群、[5]群に「はい」のチェックが記入されることになり、リスクアセスメントの結果としては、一時保護まで考える必要がある重大事態であることを示唆している。
 しかし、少なくとも退院までの時間的な余裕があるので、その間、関係機関へ照会するなどして、子どもや家族の状況についての情報収集を継続し、より的確な結論を出せるように努めるべきである。しかし、子どもが退院する時点で、保護者の生育歴に被虐待歴があるかどうか分からないなどリスクアセスメントが未完了だという理由で、判断を遅らせてはならない。
 いずれにしても、リスクアセスメントをすることにより、情報収集を綿密に行うことと、速やかに判断することとのバランスについても、的確な判断が必要である。


5.   職権による一時保護の留意点は何か
(1)  基本的留意事項
 職権による一時保護をするに当たって、まず留意すべきは、それが非常に強力な行政権限であるという認識を踏まえて適切に運用しなければならない、ということである。
 児童福祉法においては、従来一時保護の期間は定められていなかったが、児童虐待防止法において、児童福祉法に基づく一時保護の期間を原則として2月に限ることとされた。もっとも、施設入所のように児童福祉法第27条第4項のような保護者の同意を要する旨の規定はなく(すなわち職権で実施できる)、(児童福祉法第27条の3の規定からして、子どもの行動の自由を制限できると解されるので)子どもの意思にも反して実施できる。関係者の意思に反して行う強制的な制度は、通常は裁判所の判断を必要とするが、児童福祉法の一時保護については裁判所の事前事後の許可も不要である。このような強力な行政権限を認めた制度は、諸外国の虐待に関する制度としても珍しく、日本にも類似の制度は見当たらない。
 このような強力な制度であるがゆえに、職権一時保護は虐待を受けている子どもの救出のためには非常に有効であり、必要な場合には積極的に活用することが期待されているのであるが、同時にあまりに強力であるがゆえに保護者の反発も大きいことは避けられない。
 これまではややもすると、保護者の反発を怖れるあまり、職権一時保護を控える傾向があったことは否定できないが(例えば、職権一時保護は警察からの身柄を伴った通告の場合に限る、という運用をしていた児童相談所もあった)、それは誤りであって、あくまでも子どもの保護を重視しつつ、具体的な運用に配慮する、という姿勢が重要である。
 子どもが保護者と離れて学校や保育所にいる時に保護することもできるが、できれば敷地外で保護する等の配慮が必要なこともあり、また保護者への告知も速やかに(同時である必要はないであろう)行う必要がある。

(2)  一時保護の期間
 従来、期間の定めがないことから、保護者は「いつまで保護されるのかわからず、児童相談所に聞いても答えてくれない」と反発することが多かった。また保護者の不安を緩和するとともに、子どもとその保護者を引き離すという強制力を伴う措置を行う際に人権に配慮する必要があった。このため、一時保護の具体的期間については、原則として2月という期間が設けられた。このような背景を踏まえ、児童相談所としても短期の目標を設定し、それを保護者に告知するような運用が望ましい。
 一時保護の延長が必要な場合の例としては、
[1]  家庭裁判所に対し審判を申し立てており、決定が直ちに得られそうにない場合。
[2]  施設入所の方向であるが、当面の医療的なケアのために入院あるいは継続した通院が必要であるが、施設へは医療的なケアが必要な状況では入所できず、かつ、保護者のもとにはおいておけない場合。
[3]  既に親権者間等で親権者指定あるいは監護者指定などの調停又は審判が起こされており、その推移を見守っている場合。
[4]  保護者へのカウンセリングが軌道に乗ったとは言い難いものの、若干の時間的余裕があれば保護者の変化が十分期待でき、そうすれば保護者、子どもともに納得した援助が進められる見込みがあり、この時点で家庭裁判所への審判申立てを留保している場合。
[5]  共同親権者の意向が一致せず、まず親権者間の調整が必要で、施設入所、家庭裁判所への審判申立て等の方針が出せない場合。
[6]  子どもは一時保護しているものの、保護者がしばしば行方不明になったり、他府県との転居を繰り返したりするため、その都度連絡が途絶えたり管轄が変わったりする場合。
[7]  共同生活を行っていた特定集団から離れた子どもを一時保護したものの、その集団自体への接近が困難で保護者等の状況が確認できず援助方針が決められない場合。
などが考えられるが、個別事例で判断に迷う場合等については児童福祉審議会の意見を聴取して判断することも方法としては考えられる。
 また、一時保護の期間を延長する際には、原則として、その理由を子どもや保護者に説明するものとする。

(3)  広域的な対応や委託一時保護の活用
 一時保護が必要な子どもについては、その年齢も乳幼児から思春期まで、また一時保護を要する背景も非行、虐待あるいは発達障害など様々である。一時保護に際しては、こうした一人ひとりの子どもの状況に応じた適切な援助を確保することが必要である。
 しかしながら、近年、地域によっては一時的に定員を超過して一時保護所に子どもを入所させる事態が見られ、またこうした様々な背景等を有する子どもを同一の空間で援助することが一時保護所の課題として指摘されている。
 このため、一時保護については、
[1]  管轄する一時保護所における適切な援助の確保が困難な場合には、他の都道府県等の管轄する一時保護所を一時的に活用するといった広域的な対応や、
[2]  児童福祉施設、医療機関等に対する委託一時保護の活用
等により、適切な援助の確保に努めることが重要である。

(4)  警察との関係
 具体的な執行の場面でも、保護者の同意が得られそうもないときに児童相談所の責任ある決断として行うのであるから、保護者が抱きかかえているような時に単独でも執行できそうか、警察の協力が必要か等を的確に判断して、協力が必要と判断したら直ちに明確な要請をすべきである。保護者が家の中に閉じ込めているような時に立入調査と連動させて保護することもできるので、具体的な立入方法についても児童相談所の責任で決めるべきである。(なお、建物内部で暴行、傷害などの犯罪が行われていると警察が判断した場合には、警察の犯罪捜査が主になることもあり得る。)
 また、警察が先に警察官職務執行法によって保護し、児童相談所に電話で通告をしてきたものの、直ちに一時保護できないときには、暫時警察に一時保護を委託する場合があるが、どの時点で一時保護を決めて委託したのか、を明確にするべきである。
 なお、児童相談所においては、児童福祉施設等への一時保護委託の活用、広域的な対応等により、虐待を受けた子どもと非行児童の混合での援助等を回避し、すべての子どもに適切な援助を行うことが必要である。
 警察のもとにある子どもについて通告が行われた場合、一時保護所に虐待を受けた子どもと非行児童を共同で生活させないことを理由に、非行児童の身柄の引継を拒否することはできない。しかし、一時保護委託や広域的な対応等には一定の時間を要することや、児童相談所が遠隔地にある場合などやむを得ない事情により、児童相談所が直ちに引き取ることができないときは、警察に一時保護を委託することも考えられる。
 こうした警察が行う一時保護の取扱いについては、警察庁生活安全局少年課より平成13年3月8日付で各都道府県警察本部等宛に通知されている。

(5)  教育・学習指導
 一時保護している子どもの中には、学習をするだけの精神状況にない、あるいは学業を十分に受けていないために基礎的な学力が身についていない子どもなどがいる。このため、子どもの状況や特性、学力に配慮した指導を行うことが必要であり、在籍校と緊密な連携を図り、どのような学習を展開することが有効か協議するとともに、取り組むべき学習内容や教材などを送付してもらうなど、創意工夫した学習を展開する必要がある。
 また、特にやむを得ず一時保護期間が長期化する子どもについては、特段の配慮が必要であり、都道府県又は市町村の教育委員会等と連携協力を図り、具体的な対策について多角的に検討し、就学機会の確保に努めること。


6.   一時保護について子ども、保護者にどう説明するか
 一時保護の判断は、子ども自身の意思に反しても、あるいは保護者の同意が得られない場合にもこの処置は可能であるとされている。
 しかし、虐待事例が一時保護だけで解決することはまずなく、その後の保護者との関係を考えれば、当然同意を得るよう最大限の努力をすべきである。また、子ども自身も、親子分離の局面に立たされて明確に意思表示ができなかったり、同意しようとしない場合もあり、一時保護に当たって子どもおよび保護者にどう説明するかということは、その後の援助に大きな影響を及ぼす重要なポイントである。

(1)  子どもへの説明
[1]  子ども本人が、帰宅を拒否し保護を求めている場合
 子どもに対して虐待の事実関係や状況等を確認することはもちろんのことであるが、まず、子どもの話や言葉を十分に傾聴し、子どもに安心感を与えることが大切である。
 保護者の同意がなくても安全に生活できる場があることを伝え、一時保護所のパンフレットやアルバムなどを見せて具体的な情報を提供する。併設されている場合は、見学させてもよい。「少し親と離れて生活しながら、これからのことをいっしょに考えよう」などと話し、ひとりで問題に立ち向かうのではないということを伝え、不安な気持ちを少しでも取り除くような配慮が必要である。
 また、面会や引取りについても、子どもの意向を聞いて判断するということを説明し、児童相談所として「親には引き渡さない」という保証をする必要がある。

[2]  子ども本人が、家には帰りたくないが一時保護も躊躇している場合
 虐待を受けた子どもは、人間に対する不信感を抱いており、心を開いて本当の気持ちを表現できないことが多い。保護者の前では萎縮して保護者の意向にそった返事しかできないこともある。また、悪いのは自分だから仕方がないと思い込んでいたり、家を出ることで親から見捨てられるのではないかという不安から、自分からはなかなか判断できないでいるような場合もある。
 このような場合、子ども自身に決断を求めることは、保護者との分離を子ども自身が決定したという心理的負担を強いることになり、追い詰めてしまうことにもなりかねない。
 したがって、虐待の事実があり、保護者からの分離が必要と判断される事例で、子ども本人が一時保護を躊躇したり、拒否する場合は、児童相談所として「子どもの身の安全を確保するために、保護者には引き渡せない」という判断をしていることを伝える必要がある。
 「このまま家にいては、安心して生活できないと思う」「あなたが悪いから暴力を振るわれるのではない」などと話し、虐待を受けている子どもに対して、その原因が子ども自身にあるのではないということを分かりやすく説明する。
 その上で、[1]と同様に一時保護所について具体的な紹介をして、少しでも不安感の除去に努める。実際に見学などをして、自分より年少の子どもが生活しているのを見て安心する場合もある。
 いずれにせよ、子どもが同意している場合であっても、基本的には「あなたが帰りたくないと言うから保護する」のではなく、「子どもの最善の利益を守るために、児童相談所として保護者には引き渡せないという判断をした」という説明をすることが重要である。

[3]  子どもが一時保護を拒否している場合
 子どもに対し、児童相談所の考え方を分かりやすく説明し、家を離れて生活することの必要性を理解してもらうよう努める。自分の状況がある程度理解できても、年少の子どもは一人で外泊する経験も乏しく、特に夜間になると、保護者と離れていることへの不安などから、帰宅を求める言動が現れることが予測される。
 その際には、職員ができるだけ生活場面や遊びの場面での緊密な関わりを持ち、少しでも不安を除去し、子どもが安心して生活できることを感じるような対応が求められる。

(2)  保護者への説明
[1]  保護者自ら、子どもを預かってほしいと希望する場合
 「イライラして子どもを叩いてしまう」「このままでは殺してしまいそう」など、養育に疲れ、「預かってほしい」と、保護者自身が電話や相談をしてくる事例がある。
 このような場合は、子どもや保護者の心身の状態を見極め、必要であれば、速やかに一時保護を行う。保護者の言いなりになって、簡単に預かっていいのだろうかと躊躇して判断のタイミングを逸すると、実際に虐待につながってしまったり、その後の援助の展開が難しくなることもあるので、迅速に対応することが重要である。「子育てに疲れておられるようだから、とりあえずお預かりしましょう」「しばらく離れて体や気持ちを休めてください」などと伝え、保護者の大変な気持ちを受容する。
 ただし、現に重大な虐待が発生しているため、一時保護が必要と判断されるケースでは、保護者の意を汲んだ形での対応をしてしまうと、保護者が「もう大丈夫だから子どもを引き取らせて欲しい」と要求してきた際に、時期尚早であると思われても保護者の要求を拒む理由がなくなってしまう可能性がある。このような事態を避けるためには、保護者の気持ちを受容しつつも、保護者や子どもの状況等が改善されるまでは、引き渡すことは難しい旨明言するとともに、引き取れるようになるためには保護者として何をすべきか、児童相談所としてはどのような援助が可能であるのかをはっきり伝えることが重要である。

[2]  関係機関からの通告で、調査の結果により一時保護が必要と判断した場合
 「これからのことをじっくり考えるためには、いったんお子さんをお預かりして、いっしょに相談していきましょう」「しばらくこちらで子どもの気持ちを聴きながら、親御さんの気持ちも伝えていきたいと思います」「子どもさんにも育てにくいところがあるようですから、行動を観察したりいろいろな検査もしてみようと思いますが」などと、まずは、保護者の気持ちを酌み取りながら説明する。
 すでに援助の過程にあり、保護者との関係ができている場合は、その時の状況や保護者の心情を踏まえて、説明する。
 保護者が自分でも養育態度が不適切だとわかっているはずだと思って、そのことを指摘したりするとそれまでの援助関係が切れてしまい、子どもの保護ができなくなる。
 「子どもさんにも育てにくさがありそうですし、親御さんのやりかたとうまく噛み合っていないように思われます。少し離れてみて、お互いにこれからのことを考えてみる時期にきているように思います」「集団生活をすれば、子どもさんにとってもいろいろ考える機会になるかもしれませんよ」など、保護者に抵抗の少ない形で保護につなげられるように説得する。
 保護者は「どのくらいの期間、入所するのか?」「その後はどうなるのか?」など尋ねてくるので、「子どもの様子を観察して、どういう援助がよいかを検討するには、おおむね3週間ぐらいかかると思います」「その間に今後のことをいっしょに考えましょう」「面会についても、子どもの気持ちを聴きながら考えます」など、一応の見通しを伝えておく。
 保護者の中には、先の見通しが持てず、いつまで経っても子どもを返してもらえないのではないかとの不安から、一時保護に反対する場合も多い。この点に留意し、先の見通しを伝えておくことが肝要である。
 法的には同意を必要としないからといって、強引に保護をしてしまうと保護者とは敵対関係になってしまい、その後の援助が非常に困難になってしまう。したがって、保護者を説得することが基本になる。
 「児童相談所としては、あなたの意図がどうであれ、これは児童虐待に当たり、保護が必要と判断しています」などと、毅然とした態度で伝え、とにかく一定の期間は保護が必要であることを、保護者に理解してもらうよう説得する。
 しかし、それでも納得しない時は、児童相談所長は保護者の同意がなくとも、職権で一時保護ができること、この決定に不服がある場合は行政不服審査法に基づき不服申立をすることができることを伝え、一時保護する。
 また、他の関係機関ですでに関わりがあり、一時保護を勧められるような関係が持てている場合は、協力を依頼してもよい。しかし、そのことでその機関と保護者との援助関係が切れてしまう危惧がある場合は差し控えなければならない。
 保護者や家族の状況がよくわからない場合、あるいは保護者が同意しそうにないと思われる場合は、関係機関の協力を得て子どもの安全の確認を早急に行わなければならない。
 緊急に保護が必要と判断される場合は、いずれにしても、関係機関の協力を得て、先に子どもの安全を確保した上で、保護者に伝えるようにする。
 連絡が遅れると、「なぜ連絡をしなかったのか」と攻撃されて説明がより困難になることもあるので、できるだけ早く連絡することが望ましい。


7.   保護者への一時保護告知について
 一時保護は施設入所と異なり、保護者の意思は要件とはなっていない。すなわち児童相談所の職権で実施することができる。したがって、意思を確かめ、同意を求めた上で、一時保護を行うことが原則であるが、法的には保護者の意思を確かめる必要はない。
 他方で一時保護は行政処分として行政不服申立ての対象となり、保護者には不服申立権があるので、児童相談所としては、保護者に一時保護の事実を告知する必要がある。その場合には、一時保護所の具体的な所在地までも記載するのが原則である。(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知「児童相談所運営指針の改定について」告知書面のひな型参照)
 他方で、実際問題として、職権一時保護をしたような時は、保護者も興奮しており、一時保護所から子どもを取り戻そうという気配を示すことも多い。取戻しの危険について言えば、一時保護所は福祉施設に比して閉鎖的な構造になっているところが多く、かつ公の施設であるという点で、保護者としても容易には取戻しに踏み切れない。しかし、小規模な一時保護所の場合には宿直体制も弱く、危険がないとは言えない。
 したがって、取り戻す危険が大きい時には、一時保護を決定した児童相談所所在地以外にある一時保護所に保護した上、告知事項から一時保護所の所在地を省略する、という扱いもありえよう。 また、遠方の福祉施設に一時保護委託をした上、同様に施設所在地を告知事項から省略する、という扱いも許されるであろう。一定の場合には具体的所在場所を告知しないことも許容されるべきとした判決も出ており、この判決は確定している(平成11年2月22日大阪地方裁判所第17民事部)。
  平成11年2月22日大阪地方裁判所第17民事部判決
 一時保護は児童を緊急に保護する必要性の観点から親権者の監護教育権を合理的限度で制限するものであるから、一時保護の原因となった事情や児童の意向その他の事情に鑑みて児童の福祉のためにその所在場所を知らせることが相当でないと判断される場合には、親権者に対して(児童)養護施設に一時保護委託をしている旨を告知するのみでその具体的所在場所を告知しないことも許容されるべきであり、それが適正手続ないし児童福祉法の精神に反するということはできない。

 なお、告知は必ず両親あてにしなければならないか、という問題がある。例えば、母親と子どもが父親の暴力から逃れて家出している場合に、母親の希望(一時保護願)によって一時保護する時には、児童相談所としては、わざわざ父親にも告知する必要があるだろうか。告知した場合に父親は子の所在ひいては母親の所在を知って追及するであろう。告知するにせよしないにせよ、児童相談所としては父母のいずれかに加担せざるを得ない立場に置かれる。
 一時保護の制度が、保護者すなわち現に子どもを監護している者から子どもを分離する制度であって、上記の場合には母親のみを保護者として扱えば足りる、という考えをとれば、不服申立権も母親のみに認めればよく、その方が子どもの安全に資することになる。しかし、従来から父親と母子が別居していればともかく、上記のような場合であれば父親に不服申立権がないとは言いがたいので、父親にも一時保護を告知した上、一時保護所または一時保護委託先の所在地を告知事項から省略する、という扱いにとどめるのが相当であろう。


8.   一時保護中の子どもに対する援助はどうあるべきか
 一時保護所に入所することは、子どもにとって家族から分離されて新しい環境に入ることである。とりわけ、虐待を受けた子どもにとっては、緊急避難場所として安心して生活できる場であるとともに、親子関係を見つめなおし、その後の生活の方向を決定する場でもあり、一時保護所での生活は非常に重要な役割を担っている。
 一時保護所では、ゆるやかで規則正しい生活の中での保育や学習、スポーツやレクリェーション等を通して、行動面の観察や生活指導を行うが、この間に、児童福祉司の面接や心理職員による心理検査、精神科医の診察なども並行して実施する。

(1)  入所時の対応
 入所時は、即座に子どもの健康・身体状況を把握しておくことが重要である。
[1]  虐待による外傷・発熱・栄養状態等の身体状況を正確に把握し、子どもの表情や顔色にも注意を払う。
[2]  顔や手足等、露出している部分だけでなく、衣服で隠れた部分の傷のチェックも必要である。衣服の着替えの時、入浴時、身体検査等を利用して確認する。
[3]  発熱していたり、身体に痛み等を訴える場合は、応急処置をした後に、医療を受けさせる。診察の結果、即入院となることもある。医師の診断書を取得する。
[4]  必要に応じて、虐待の状況を示す写真を撮る。
[5]  性的虐待を受けた子どもについては、ソーシャルワーカーの調査や子ども本人の話などから、妊娠や性病の疑いがある場合は、早急に産婦人科で受診させる必要がある。子どもには不安を与えないよう十分に説明をし、了解をとっておく。

(2)  子どもに援助を行う際の留意点
[1]  虐待を受けた子どもは基本的に大人への不信感や恐怖心を抱いているので、受容的に接し、不安や緊張をやわらげることが必要である。
 入所時は特に緊張感が高いが、入所時の面接が終わり、保護者や児童福祉司が帰った後、着替えをする時などに少しホッとした表情を見せたり、話をする子どももいる。「嫌なことは言わなくてもいいよ」「ゆっくりといっしょに考えていこう」などと伝え、まず、不安感をやわらげる。
[2]  「誰にでも安心して生活する権利がある」「安心して生活するためにここに来ることになった」など、「安心して暮らす大切さ」を分かりやすく話す。そして、「ここで安心した感じがするかどうか」を聴き、常に安心感が守られ、それを子どもが実感できているかどうかを確認していく。
[3]  子どもを守るためにこれからみんなで考えていくことを、できるだけ分かりやすく伝える。そのために、今後どんな人と会ったり、診察を受けたりするのかなどについて説明する。
[4]  子どもの気持ちを徐々に引き出し、気持ちの整理をできるように支えていくことが必要であるが、無理強いするのではなく、自然な感じで対応するよう心がける。
 職員との交換日記などで、自分の思いや気持ちの変化を引き出していったり、慣れてきたら職員が散歩に連れだすなどして、1対1でゆっくりと子どもが気持ちを出せるような機会をつくる。子どもが心配ごとを表出してきた時に、しっかり受け止めてじっくりと関わるのが重要なポイントである。
[5]  虐待の状況については、「大変なときには、どこでどんなふうにがんばっていたの?」などと子どもがこれまでどのようにして適応してきたかを聞くと、子どもも話しやすい。
[6]  子どもの行動面の特徴や問題行動をよく観察する。情緒不安定、集団不適応、攻撃的行動などの問題行動に巻き込まれることなく、まず大人との信頼関係を築き、情緒の安定を図りながら個別指導をしていくことが必要である。
過食、拒食、小食、偏食等の問題があることが多い。まず、子どもの情緒的な安定を図りながら、徐々に指導していく。
子どもたちがおおぜい集まっているところを避けて部屋の隅や壁際などで過ごすこともあるが、無理に集団に入れようとせず、居場所を確保してやることが必要である。
職員によって態度をかえたり、大人を逆なでするような行動をとることがあるが、こうした行動には相手をコントロールすることで自分が安定するという心理的な背景がある。
 その行動の意味や心理を理解しながら、職員間でよく連絡をとりあって大人が子どもの行動をどのように理解したかを子ども自身に伝えていく。
大人に対して独占的に甘えてくるなどの退行的な行動に対しては、まずは子どもの行動をありのまま受け止め、安心感を与えることが重要である。
物への執着や攻撃的な行動で他児とのトラブルになることも多いが、「抱きかかえ」(holding)などの方法で怒りの感情を受け止め、まず行動を制止し、決して一方的に注意したり叱責しないで、基本的なルールを守る必要性を説明する。
[7]  安心感に伴い、悪夢、不眠、物音や人影に対する脅え、フラッシュバック、突然の怒りの爆発などの症状が現れることがある。子ども自身がそれに驚き、混乱しないように十分に対応する。話をよく聴き、「誰にでも起きることで、少しずつおさまっていく」と安心感をもたせる。
[8]  性的虐待の事例では、子どもが性に対する誤った認識や非行文化への親和性を持っている場合があるので、子どもを十分に理解した上で援助する必要がある。
[9]  保護者の面会や電話には、基本的に子どもの意思を尊重して対応する。面会時は必ず職員が同席して、できるだけ短時間で終えるようにする。また、電話応対でも、子どもが自分の思いを言えることは少なく、一方的に言われていることが多いので時間を見計らって適当な時間で切り上げるように配慮することが必要である。
[10]  保護者の子どもに対するそれまでの対応が、攻撃と受容の両極端であればあるほど、子どもの保護者に対する思いも一貫性を失っている。「家に帰りたい。帰りたくない。」と気持ちが揺れ動くこともあると認識しておくことが必要である。
[11]  ネグレクトの事例など、それまで社会的な常識に従った生活体験ができていない場合があることを理解する必要がある。掃除や入浴の仕方など十分にできなくても、配慮して、生活上の基本的なルールを少しずつ指導していく。


9.  保護者が一時保護中に面会を希望する場合の対応について
(1)  対応上の留意点
 虐待事例の一時保護は、保護者と分離して子どもの生命および安全の確保と情緒的な安定等を図る目的がある。一時保護して問題となるのは保護者の面会や引取要求への対応である。
 面会は子どもの福祉を最優先して実施する。保護者の強引な面会要求には、子どもの福祉と権利を守る公的機関としての児童相談所の立場を伝えて対応する。
[1]  面会の連絡調整
ア.  一時保護に当たっての児童福祉司等と一時保護所との連絡調整
 担当の児童福祉司等は子どもの意向と一時保護に至る経過を考慮して、一時保護所の児童指導員、保育士等と家庭復帰を目指した面会や外出外泊等の対応について連絡調整する。一時保護所の職員は直接的に家庭訪問や保護者等と行き来する機会は少なく、児童福祉司等の情報が保護者への対応の判断材料となるため、保護者の細部にわたる情報を提供する。
イ.  窓口は担当の児童福祉司とする
 保護者の連絡調整の窓口は担当の児童福祉司であることを徹底する。保護者の執拗な連絡等により複数の職員で対応する場合、保護者を微妙な言い回し等で混乱させる可能性が予測されるため、事前に保護者に対し窓口となる児童相談所職員の氏名を伝える。
ウ.  直接一時保護所に保護者から面会要求が出された場合の対応
 直接、保護者の面会希望の申し出が一時保護所にあった場合、一時保護所の職員は保護者に対し、児童福祉司に連絡して了解を求めるよう説明するとともに、児童福祉司に保護者の状況について連絡する。保護者の強引な面会要求には「上司と検討して連絡します」などと対応し、「児童相談所としてお断りします」といった即答は避ける。
エ.  担当者が判断を躊躇する場合の対応
 虐待事例の保護者は児童福祉司等に「俺は親権者だ」「面会させなければお前を訴えてやる」等と攻撃的な態度を見せたり、理不尽な筋の通らない面会要求を突き付ける場合がある。判断を躊躇する場合、担当者の恣意的な行動は理不尽な面会要求を強化する可能性があるため、援助方針会議や臨時援助方針会議を開催して組織として面会の適否を検討する。

[2]  面会の適否の判断材料
ア.  子どもの側の判断材料
(ア)  子どもの感情や意思
 子どもの保護者に対する感情や意向を確認する。子どもは保護者の虐待行為により恐怖感や拒否感がある。不安解消の認められない時期の面会は時期尚早と判断する。
(イ)  児童福祉司、心理職員による保護者と子どもとの面接内容
(ウ)  一時保護所の児童指導員、保育士と子どもとの面接内容
(エ)  一時保護所における行動観察
 掃除、食事、遊び、入浴等は保護者の子どもに対する関わり方を具体的に知る機会となるため、留意して行動観察する。
 特に、子どもは保護者との虐待的人間関係を再現するため、一時保護所の職員に対して暴言を吐いたり、反抗的な態度をとったりする場合がある。また、子ども集団では支配・服従の力関係に敏感に反応してトラブルメーカーとなったりする。
(オ)  子どもの描く家族画、作文や日記等の保護者像を参考にする。また、類似した体験を有する子ども同士の会話は自然と本音を漏らすこともある。
イ.  保護者側の判断材料
(ア)  児童福祉司との信頼関係(ラポール)が樹立されており、面会の回数、制限の範囲等を説明して理解が得られる場合はプラス材料となる。
(イ)  保護者自身、虐待行為を認めるとともに、子どもとの関わりに葛藤、不安を訴えており、親子関係を修復したいと児童相談所の指導に応じる場合はプラス材料となる。
(ウ)  保護者が児童福祉司等の説得を受け入れず、強引な面会要求および引取要求のある場合、面会は制限あるいは拒否する。
(エ)  保護者の優柔不断な態度や精神的不安定が認められる場合、子どもの精神的な動揺が大きくなるため、面会は制限する。また、飲酒、酩酊状態の面会は拒否する。

[3]  面会の留意事項
ア.  面会は必ず児童福祉司、一時保護所の職員等が同席する
 面会中の保護者と子どもの状況観察、並びに突発的な事態に備えるため、児童福祉司、心理職員、一時保護所の職員等が同席する。同席した児童相談所職員は保護者と子どもの状況により面会時間の設定等の配慮を行う。また、面会前、事前に子どもに面会日時等を伝えて不安を取り除く。
イ.  面会の中断、中止
 保護者は子どもに「自分が悪かった」「お前の帰る日を待っている」等と一見非を認める発言を繰り返したり、「何で児童相談所へ行った」「親を訴えるお前は悪魔の子だ」等と怒ったり、虐待を正当化したりする。子どもに動揺を与えたり、不安感をもたらしていると判断した場合は面会を中断、中止する。
ウ.  面接中の子どもの言動に留意する
 子どもは一時保護所の職員に「家は嫌だ」「絶対に施設へ行きたい」等と発言していても、保護者を目の前にすると虐待場面を思い出して怖くなり、攻撃を回避するため「家に帰りたい」「殴らないなら帰る」と逆の発言をすることも多い。このため、保護者はそれを家庭復帰の意思として受け止めるので、状況により直接保護者に子どもの真意を伝える必要もある。
エ.  面会は家庭復帰の判断材料となる
 面会の状況によっては、今後の援助方針が左右される可能性もあり、面会前、面会中、面会後の保護者と子どもの変化に留意する。面会による親子関係の変化は以後の家庭復帰を目指した面会、外出、外泊訓練と家庭復帰を考えるための重要な判断材料となる。

[4]  強引な面会の対応等について
ア.  職権による一時保護における保護者の面会
 児童相談所長の職権により一時保護した事例では、面会要求への対応は常に子どもの福祉を最優先して対応する。保護者が面会を希望して強引に来所する場合や刃物等を持参して児童福祉司等を威嚇する場合があるが、複数の職員で組織的対応を図るとともに、保護者に子どもと面会させられない事情を説明して拒否する。
 なお、一時保護中の強引な面会についても、警察に対し、児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼するのが適当である。
イ.  家庭裁判所による審判前の保全処分
 家庭裁判所に対し児童福祉法第28条の規定による承認に関する審判を申し立てた後、承認の審判が出るまでの間一時保護している子どもについては、家庭裁判所は、審判前の保全処分として、保護者について子どもとの面会又は通信を制限することができる。このため、保護者に対し説得を重ねたり毅然とした対応をとってもなお子どもの保護に支障をきたすと認められる場合などには、本保全処分の申立てを検討するのが適当である。
ウ.  保護者の攻撃的態度への対応
 保護者は面会拒否に対する抗議として、深夜に来所したり、一時保護所の外壁に抗議文を貼る等の行動に出る場合がある。強引な保護者への対応として、一時保護所の施錠を徹底し、保護者の侵入を食い止める。保護者が暴言あるいは玄関の扉を蹴る、窓硝子を割る等の攻撃を繰り返す場合、警察へ緊急通報する。また、そのようなおそれがある場合には、警察に対して児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼することが適当である。
エ.  保護者からの子どもの所在確認への対応について
 保護者から子どもの所在を尋ねる電話が一時保護所にあった場合、一時保護所としては回答を避け、担当児童福祉司に連絡するよう説明する。保護者の加害行為や強引な引取り等が予測されたり、子どもが怖えていたり、面会を拒否している場合は、一時的に子どもの所在を知らせないこともあり得る。
オ.  面会初期の外出希望への対応
 保護者によっては児童相談所の指示を守る素振りを見せながら、実際に外出させると一時保護所に子どもを戻さない場合もある。原則的に面会初期の外出は控えることとする。

(2)  面会に対する基本的な考え方
 一時保護の目的として[1]緊急保護、[2]行動観察、[3]短期入所指導などがあるが、いずれの場合でも子どもの生活の場所を保護者の家庭から分離することが基本的な要請であり、それ以上に親子の接触をどの程度制限するかは、各々の目的によって異なる。
 本来、親子はともに生活する権利があり、やむを得ず分離される場合でも親子の交流は保障されなければならない。
 一時保護制度は、行政機関だけの権限で実施できる強大な制度であるだけに、具体的な運用においては、子どもにとっても保護者にとっても過剰な制限にならないように、十分配慮すべきである。犯罪被疑者を拘束するための勾留制度においても、第三者との面会を禁止するには裁判所の別個の許可が必要であることも留意すべきであろう。
 ところで、虐待の場合の一時保護は[1]に該当し、子どもの安全の保障が第一目的となることはいうまでもない。生活の場の物理的分離はもちろん必要であるが、子どもとしては保護者への怯えなど虐待による精神的動揺や不安が強く、これらを治療することも一時保護の重要な課題であるから、保護者との接触(面会・電話・手紙)をある程度制限することはやむを得ない。精神科医、児童福祉司、心理職員、一時保護所の職員の協議により、面会が子どもに精神的なマイナスを及ぼすおそれがあれば、禁止することもやむを得ない。
 また、保護者は「子どもに『会いたいかどうか』の意見を聞いてほしい」と要求することもあるが、「子どもの意見を聞いた結果、面会させない」という対応をすることは避けるべきである。子どもに聞くにしても、その回答は保護者にはそのままは伝えない、という形で子どもに安心感を保障してやる必要があるからである。
 したがって、保護者に対しては、「客観的な判断として面会は子どもにとってマイナスである」という説明ができなくてはならない。そのためにも保護者に対して、一時保護の理由をきちんと説明しておく必要がある。虐待と判断できるのに「育児が大変でしょうから、しばらく預かってあげましょう」という説得の仕方も有効な場合も多いが、いつまでもそのままでは、面会を拒否する理由にはならないので、配慮を要する。


10.   保護者の強引な引取要求への対応について
 一時保護は保護者の意思にかかわりなく職権で実施できる。したがって、当初同意していた保護者が途中で引取りを要求したとしても、応ずる必要はない。一時保護決定が都道府県知事またはその委任を受けた児童相談所長によって解除されない限り、その効力は継続しているのであって、担当職員の判断で引取りに応ずることはできない。
 また、保護者による実力行使や担当職員に対する暴力行為等が予想されるときには、警察と連絡をとって、児童虐待防止法第10条に準じた対応を依頼することが適当である。(本手引き第4章参照)
 なお、保護者に不服申立てを促すことも有意義である。


11.   家庭復帰させる場合の子ども、保護者への指導上の留意点について
 子どもの家庭復帰は、子どもの意思を尊重しつつ、虐待の再発の危険性が認められないことと、再発を防ぐ家族周辺の援助体制のネットワークが形成されているか否かにより判断する。
 なお、一時保護後に家庭復帰させる場合の子どもや保護者に対する指導上の留意点については、施設入所後に家庭復帰させる場合の留意点と基本的に同様であることから、第9章親子分離(5)を参照の上、対応されたい。

(1)  家庭復帰の適否判断に際して把握する事項
[1]  保護者の発言の真相を調査確認する
 保護者によっては、子どもを早く引き取りたいために、「仕事を見つけました」「病院に受診しました」等虚偽の発言をする場合がある。ところが、家庭周辺の調査をすると事実と反する場合もあるので、必ず事実確認の調査を実施する。
[2]  保護者の子どもに対する責任ある行動は家庭復帰の際の重要な判断材料となる
 子どもに「面会に来るよ」「外泊の迎えに来るわね」等と約束しながら、実際には来所しない保護者もいる。このような場合、子どもは保護者に対して絶望感と裏切られ感を持ち、心の傷を深める危険性がある。保護者の責任ある態度と子どもの保護者に対する感情等を十分見極める。
 また、一時保護を繰り返しているような場合は、特に留意が必要である。
[3]  面会を通じて親子関係の変化を確認する
 通所、家庭訪問等により保護者に一定の改善が見られた場合は、親子関係再構築の作業として面会を実施することとなるが、面会前、面会中、面会後の保護者と子どもの言動等を行動観察して、子どもの心身の安全が確保されると判断できれば、家庭復帰を目指した外泊を実施する。
[4]  外泊時の状況は家庭復帰の最終的な判断材料となる
 保護者は「子どもも変わりました」、子どもは「お父さん、お母さん、優しくなった」等と、双方とも面会の一瞬を捉えて問題解決されたと錯覚することが多い。外泊は一時保護後の親子の変化を相互に体験する機会となる。親子関係修復のため、面会、外泊等の回数および期間を変える等、個別の事例に応じて課題内容を検討して実施する。

(2)  家庭復帰に際しての確認事項
[1]  社会資源の有無を確認するとともに、親戚、近隣知人等による援助の可能性を確認する
 社会資源を利用することは、保護者の精神的・物理的な負担の軽減につながる。例えば、要保護児童対策地域協議会を活用したり、家庭の養育機能の補完として保育所や放課後児童健全育成事業等を利用することは在宅生活を維持する上で重要であり、同時に虐待の再発を早期発見することにもつながる。また、在宅生活を維持する上で、親戚、近隣知人等の家族周辺の援助は重要な意味を有する。
[2]  家族の状況観察と家族援助のためのネットワーク作りを進める
 家族の状況観察と家族援助を実施する場合、緊急時に即応できる相談援助体制、すなわち、セーフティーネットワークを整備する必要性がある。例えば、要保護児童対策地域協議会を活用し、子どもの欠席が続く場合、保育所、学校等に家庭訪問を依頼して家族の状況観察を実施する。そのようなことを想定して家庭復帰前に関係機関との個別ケース検討会議等を開催して役割分担を決定しておく。
[3]  保護者と子どもに在宅指導を実施することを確認する
 保護者に在宅指導の目的を伝えると同時に、子どもには安心感を与えるため、継続して児童福祉司等が関わると伝える。家庭復帰後も在宅指導を実施することを保護者、子どもに理解させることが重要である。
[4]  児童相談所の立地的・物理的限界を考慮する
 交通手段等の事情により定期的な家庭訪問等が困難な場合、要保護児童対策地域協議会の活用や、福祉事務所の社会福祉主事、区域担当の児童委員等に指導依頼を通じて対応する。その際、保護者に協議会の活用や社会福祉主事、児童委員等が関わることを説明して同意を得るとともに、保護者と子どもに紹介する。この場合、福祉事務所送致、児童委員指導と併用して児童福祉司指導とするなど、児童相談所としては、指導を他機関に依頼した後も引続き進捗状況を把握するとともに必要な指導を行う。

(3)  子どもに対する留意事項
[1]  子どもの意見を聴き、無理のない家庭復帰を考える
 子どもは「お父さん、変わるなんて嘘だ」「お母さん、優し過ぎて変な感じ」等と家庭復帰を拒む場合もある。児童福祉司と心理職員、一時保護所の職員等がチームを組んで、子どもの意見を聴き、不安を取り除く。また、子どもに無理のない緩やかな家庭復帰プログラムを検討する。
[2]  子どもにも考えさせる
 子どもは一時保護所の生活に慣れると「保護所は楽しい」「家より施設に行きたい」等と話すことがある。保護者の不適切な関わりの結果、子どもも自分本位な態度をとったり、ささいな刺激に感情的に反応しやすくなっており、子どもの保護者に対する感情等に配慮しながら自分のことを自分で考える体験を積ませる必要性がある。
[3]  子どもに家庭復帰後も関わることを知らせる
 子どもは、家庭復帰と同時に児童相談所との関わりがなくなるのではないかと不安を募らせるから、家庭復帰後も、通所、家庭訪問等により保護者や子どもの相談にのっていく旨伝え、安心感を持たせる。また、家庭復帰後、子どもは保育所および幼稚園、小学校、中学校等の学校に復帰するが、保育所、学校等は児童相談所と密接な関係にあり子どもを心配する存在であることを理解させるため、一時保護中に保育所、学校職員等に子どもの面会を求める。
[4]  子どもに身近な相談相手と緊急避難先を知らせる
 家庭復帰は虐待の再発の危険性が解消されたとの判断から実施するが、家庭復帰後、新たな要因により再発する可能性もある。子どもには虐待が再発した場合、親戚、近隣知人あるいは学校、福祉事務所、民生・児童委員(主任児童委員)等の緊急避難先を知らせる。幼児、小学校低学年の子どもの場合、自ら連絡したり、緊急避難することは難しく、緊急避難対策を事前に関係者間で検討しておく。

(4)  保護者に対する留意事項
[1]  保護者の家庭復帰の判断材料は問題意識と問題解決能力の有無である
 保護者自らが虐待に至る要因に対して問題解決する意識を持っていると、第三者の援助を受け入れる可能性は高くなり、問題解決に向けて進展する。問題意識を持たせるため、保護者との関わりでは虐待に至るストレスの受容と、精神的・物理的な負担を軽減させることに力点を置く。
 また、保護者に精神疾患やアルコール依存症、薬物依存症が疑われる場合には、医療機関と十分に連携を図りつつ対応することが必要である。
[2]  虐待は世代間連鎖の問題がある
 保護者自身の被虐待歴を確認する。被虐待歴のある場合、保護者の辛さ、苦しさを共感する。また、保護者との面接中、子どもにとって肯定的な関わりと否定的な関わりを判別して、保護者の自己評価を高めるとともに否定的な関わりを排除するため、肯定的な関わりは賛成、同調して安定した親子関係を強化する。
[3]  家族援助の際の留意事項
 保護者と児童福祉司等の間で信頼関係を結べるようになると、具体的な虐待要因の問題解決を図る段階へ移行する。例えば、経済困窮、保育所利用等の場合は福祉事務所を保護者に紹介するが、保護者と他機関との信頼関係が樹立されていない場合が多い。このため、児童福祉司が保護者に付き添い、他機関を紹介する等の配慮を要する。
[4]  家庭訪問して一時保護前後の家庭環境の変化を調査する
 子どもの一時保護により家庭内の関係に変化が生じる。家庭訪問して夫婦関係および家族関係、親戚関係、保護者の内面的な変化等を把握するとともに、必要に応じ親戚および近隣知人、学校、民生・児童委員(主任児童委員)等から事実関係を確認する。それらの状況の変化を考慮しながら家庭復帰を目指した面会、外泊等の具体的な家庭復帰のプログラムを作成する。


12.   委託一時保護の留意点は何か
 原則として一時保護は児童相談所の一時保護所を活用する。ただし、一定の場合には医療機関、児童福祉施設、里親、警察署その他適当な者に委託一時保護できることとなっている。
 その他適当な者とは民生・児童委員(主任児童委員)、親戚、近隣知人、学校の職員宅等が考えられる。

(1)  主な委託一時保護先の性格と留意事項
[1]  民生・児童委員(主任児童委員)
ア.  夜間、休日における子どもの緊急一時保護も、原則的に児童相談所による対応となるが、遠隔地および交通手段等の事情により緊急対応が困難な状況もある。そのような場合、区域担当の民生・児童委員あるいは、保護者との関係で家庭より離して一時保護することが望ましいと判断する時は主任児童委員への委託一時保護も考えられる。
 また、在宅指導中の事例で子どもの緊急避難先として児童相談所職員が駆け付けるまでの間、民生・児童委員(主任児童委員)宅に委託一時保護を行う場合もある。
イ.  民生・児童委員(主任児童委員)に委託一時保護する場合は、当該家庭が個人宅であることに鑑み、緊急やむを得ない場合に限定的に実施する。
[2]  児童福祉施設
ア.  乳児や重度の障害を有する子ども等は、児童相談所における一時保護が困難な場合がある。このような場合は、その子どもに対応できる施設への委託一時保護を検討する。
イ.  一時保護所における行動観察、短期治療等を終えたものの、親権者等からの施設入所の同意が得られず、児童福祉法第28条第1項の申立て等により一時保護期間が相当長期化すると予測される場合は、子どもの生活環境や公教育等を考慮して児童福祉施設等への委託一時保護を検討する。
[3]  医療機関
ア.  専門的な治療や検査が必要な子どもは、児童相談所における一時保護が困難な場合がある。このような場合は、その子どもに対応できる施設への委託一時保護を検討する。

(2)  委託一時保護する一定の理由
 子どもへの虐待は常に昼間一時保護所に近い場所で発生するとは限らず、夜間や遠隔地で発生することもあり得る。子どもの年齢や心身の状況、地理的要件等を勘案して、やむを得ない場合は委託一時保護を考慮する。
 「児童相談所運営指針の改定について」(平成10年3月31日付児発第247号厚生省児童家庭局長通知)では、委託一時保護を行う一定の理由として下記のものを挙げている。
[1]  夜間発生した事例等で、直ちに一時保護所に連れてくることが著しく困難な場合。
[2]  乳児、基本的な生活習慣が自立していないため一時保護所において行うことが適当でないと判断される幼児の場合。
[3]  自傷、他害のおそれがある等行動上監護することが極めて困難な場合。
[4]  非行、情緒障害あるいは心的外傷などの子どもの抱えている問題の状況を踏まえれば、一時保護後に、児童自立支援施設、情緒障害児短期治療施設あるいは医療機関などのより専門的な機関において対応することが見込まれる場合
[5]  これまで育んできた人間関係や育ってきた環境などの連続性を保障することが必要な場合(例えば、その子どもが住んでいる地域の里親・児童委員、その子どもが通っている保育所の保育士、学校(幼稚園、小学校等)の教員などに委託することが適当な場合)
[6]  現に児童福祉施設への入所措置や里親への委託が行われている子どもであって、他の種類の児童福祉施設や里親あるいは専門機関において一時的に援助を行うことにより、その子どもが抱える問題について短期間で治療効果が得られることが期待される場合
[7]  その他特に必要があると認められる場合。
 また、現に児童相談所において一時保護している子どもで、児童福祉法第28条第1項の申立て等により一時保護期間が相当長期化すると推測される場合においても、児童養護施設等への委託一時保護を検討する。

(3)  委託一時保護する際の留意事項
[1]  委託一時保護はあくまで緊急的な措置であり、その目的を終えた場合、速やかに施設入所等他の援助を実施する。特に里親、民生・児童委員(主任児童委員)、親戚、近隣知人、学校職員の家庭等、個人の家庭に委託一時保護を実施する場合は早急な対応を要する。
[2]  委託一時保護は行政処分であり、処分権者(都道府県知事または児童相談所長)の解除を要件とするため、保護者が強く子どもの引取りを求めても委託一時保護受託者の判断で家庭に戻すことはできないことを徹底しなければならない。

(4)  委託一時保護の通知
 委託一時保護を行うに当たっては、一時保護の期間等について保護者と委託一時保護先に通知する。委託一時保護を解除した場合も同様である。
 なお、保護者に委託一時保護を通知する際には、行政不服審査法第57条の規定に基づく不服申立ての方法等を教示する。
 通知は文書で行うが、緊急を要する場合は、保護者等に対し口頭による通知および教示を行って、委託一時保護後速やかに文書通知する。なお、上記のような個人の家庭に委託一時保護する場合は、保護者等に個人の家庭について通知することとなるため、必要最小限の一時保護期間とし、場合によっては所在地を記載しないことも検討する。




図5−1  子ども虐待対応・アセスメントフローチャート
子ども虐待対応・アセスメントフローチャートの図



表5−1  虐待相談・通告受付票
聴取者(                     )
虐待相談・通告受付票



表5−2  一時保護決定に向けてのアセスメントシート

一時保護決定に向けてのアセスメントシートの図



図5−2  一時保護に向けてのフローチャート

一時保護に向けてのフローチャートの図

(解説)
A   [1][2][3]のいずれかで「はい」がある時→緊急一時保護の必要性を検討
B   [4]に該当項目がありかつ[5]にも該当項目があるとき→次の虐待が発生しないうちに保護する必要性を検討
C   [1]〜[5]いずれにも該当項目がないが[6][7]のいずれかで「はい」がある場合
  → 表面化していなくても深刻な虐待が起きている可能性
  → あるいは虐待が深刻化する可能性
  → 虐待リスクを低減するための集中的援助。その見通しによっては一時保護を検討
A〜Cのいずれにも該当がなく、[8]のみに「はい」がある場合
  → 家族への継続的・総合的援助が必要。場合によっては、社会的養護のための一時保護の必要性を検討する

ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 子ども・子育て > 子ども・子育て支援 > 児童虐待防止対策・DV防止対策・人身取引対策等 > 子ども虐待対応の手引きの改正について(平成19年1月23日雇児発第0123003号厚生労働省雇用均等・児童家庭局総務課長通知) > 子ども虐待対応の手引き > 第5章 一時保護

ページの先頭へ戻る