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第4章 調査及び保護者・子どもへのアプローチ

第4章  調査及び保護者・子どもへのアプローチ

1.  調査(安全確認)における留意事項は何か
(1)  調査(安全確認)の意味
 一般の相談においては、調査(事実の聞取り)そのものがすでに治療的要素を含んでいるから、調査に当たっては客観的事実の把握・確認よりもむしろ来談者の訴えを傾聴し、受容的態度で臨む等、来談者主体(Client-centered)で行われる場合が多い。また、治療的観点に立脚すれば、客観的事実よりクライエントの主観的事実を重視すべきことも多い。虐待事例の調査においても信頼関係(ソーシャルワーク関係)を基本として行うことが原則であるが、保護者自身に相談への動機づけがない場合が多いこと、保護者への治療効果を期待する以前に子どもの福祉を最優先した迅速な対応が求められること等、他の一般的な面接調査とは異なる側面もある。
 虐待事例では、常に最悪の場合は子どもの生命が脅かされる事態も想定し調査しなければならない。場合によっては子どもの安全確認、緊急保護が優先されることもある。また、その後の対応で法的な措置を講じる場合の証拠・根拠を把握しておく調査でもあることに十分留意する必要がある。
 情報収集においては、現在子どもがおかれている状況だけでなく、将来起こることが予見される状況も視野に入れた、客観的・多角的な調査が望まれる。
 また、虐待を行っている保護者などへの対応の基本はあくまでも「援助的関わり」であることは当然であるが、子どもの人権・生命安全の確保という観点においては、調査の必要性の説明と同意に配慮しながらも、「子ども虐待の事実」という「証拠固め」を行わなければ一時保護や児童福祉法第28条の承認審判の申立ての手続、親権喪失宣告請求等法的対応が必要な事例の措置において説得力を持つ客観的な事実を十分そろえることができない。
 さらに、援助の過程で、保護者側からの訴訟や情報開示請求などが行われた場合にも、初期段階からの調査による情報収集とその整理・分析が適正な対応に資することになると言えよう。

(2)  調査(安全確認)で把握・確認すべき事項
 虐待の状況と生活環境を評価するに当たっては、他の相談種別の事例で調査する項目に加え、表4−1の事項は最低限把握する。
[1]  虐待の種類やレベル
 (「虐待」と断定できなくても、親子関係の様子やエピソードなど)
[2]  虐待の事実と経過
 (日時やその時の様子など、具体的に細かく)
[3]  子どもの安全確認と身体・心理・生活環境の把握
ア.  子どもの安全確認
 必要に応じ、近隣住民、学校の教職員、児童福祉施設の職員等の協力を得つつ、面会その他の手段により子どもの安全の確認に努める。特に、緊急保護の要否を判断する上で子どもの心身の状況を直接観察することが極めて有効であるため、子どもの安全確認を行う際には、子どもに直接会って確認することを基本とする。
イ.  子どもの身体的状況
 写真、ビデオ等の活用も含め傷害部位及びその状況を具体的に記録する。
ウ.  子どもの心理的状況
 心理的影響が表情や行動に表れている可能性があるので子どもの全体を写真・ビデオ等により記録に残すとともに、心理的状況を克明に記録する。
エ.  子どもが置かれている生活環境
 衣食住等の生活環境を写真・ビデオ等の活用も含め克明に記録する。
[4]  子どもと保護者の関係の把握
ア.  法的関係
戸籍謄本の請求により、親権者、養子縁組等の法的関係を把握する。
住民票(外国人登録票)の請求により、居所確認、同居家族関係等を把握する。
イ.  人間関係
子どもと保護者との人間関係の全体像を把握する。
[5]  保護者や同居人に関する情報の把握
保護者に関する情報については、できる限り両親の状況を把握するものとする。
ア.  虐待が疑われている保護者や同居人の年齢や職業、性格、行動パターン、生育歴、転居歴など(保護者や同居人自身の価値観、家族背景等を含む)
イ.  保護者の結婚のいきさつから現在までの家族の歴史
ウ.  夫婦の関係(配偶者からの暴力の有無等)
[6]  その他の関係者に関する情報の把握
ア.  家族全員の年齢や職業、性格、虐待との関わり
イ.  家族以外でキーパーソンとなりうる人、援助や介入の窓口になりそうな人
[7]  保健所、市町村保健センター、学校、保育所、民生・児童委員(主任児童委員)等関係機関からの情報収集
これまでの生活状況
過去の関係機関や諸制度の利用状況
通所・通学先での状況

(3)  調査(安全確認)の方法
[1]  通告者・保護者・子ども・他の関係者への聴き取り
 調査は原則として複数の職員で行うこと。多様な方法を複合的に用い、いずれの方法においても、調査・記録者、日時、場所をもらさず記録する。また、保護者等の面前で記録をとる場合は、保護者等の同意を得る。
 数回の面接において基本的に必要な事項は聴取できるようにする。インテークの時点から時間がたつと記憶があいまいになるだけでなく、職員との人間関係がある程度固まってしまい、改めて聞くことが困難になったり、当該行為を「虐待」であるとはっきり伝えることに躊躇してしまうことになりかねない。
 なお、平成16年児童虐待防止法改正法により、市町村又は都道府県の設置する福祉事務所の長及び児童相談所長は、必要に応じ、近隣住民、学校の教職員、児童福祉施設の職員等の協力を得つつ、面会その他の手段により子どもの安全の確認を行うよう努めることとされている。

[2]  関係機関への文書・口頭による照会
 より多くの情報を収集することが正確な状況把握と客観的な判断には不可欠である。状況把握のために関係機関への文書・口頭による照会も必要である。なお、虐待の事実がまだ未確定である段階では照会先への説明の仕方に配慮する。常にプライバシーへの最大限の配慮が求められる。

[3]  状況や環境の見取図
 虐待が起きた環境の家具、間取りなどの寸法を計測・記入した見取図は詳細で正確な状況の分析に有用である。例えば、「乳児がベビーベッドから落ちてけがをした」という保護者の説明とけがの程度や形態につじつまが合わない場合、ベビーベッドの高さを記録しておくことによって、その高さから落ちても実際に生じたけがの程度にはならないことなどの根拠の一つとなる。特に身体的虐待が起こった状況の記録には有用である。

[4]  写真・音声録音・ビデオテープ録画
 フィルムによる撮影を基本とするが、露光の失敗、フィルム紛失などに対処するため、フィルムによるものとデジタルカメラによるものの両方で撮影する。また日付・時間が入るタイプのものを使用する。また、必要な場合は、テープレコーダーやビデオレコーダーにより音声や画像を記録しておく。
 後になって、児童福祉法第28条の承認審判の申立ての手続を進める場合、写真等は裁判官に虐待の状況を理解してもらうために極めて有効である。医師がレントゲン写真等を撮影しカルテに添付したり図示するように、身体的虐待の場合の受傷の状況、ネグレクトの場合の生活状況、心理的虐待の場合の子どもの表情などを、虐待状況の把握に必要な程度において、写真等を撮影し児童記録に添付するなどの方法により具体的、客観的に記録しておくべきである。
 これは、身体的症状等は直ちに保全しておかなければ時間の経過、治療の実施などで変化するおそれがあり、また、子どもに対する虐待が疑われる場合に受傷の状況を記録しておくことは、子どもの利益に沿った援助を進める上でも、児童相談所のとった措置に対する不服申立てに応じる上でも、その必要性・相当性から許容されるものである。

(4)  調査(安全確認)に際しての留意事項
[1]  調査の迅速性の確保
 虐待は子どもの生命に関わる問題であり、迅速かつ的確な子どもの安全確認を行う必要がある。このため、児童虐待防止法においても、市町村や都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所が虐待通告等を受けた場合には、速やかに子どもの安全確認を行うよう努めなければならないものとされている。(児童虐待防止法第8条)。
 通告の段階で特に緊急性が予測される場合などには、直ちに対応すべきであるが、生命に関わるなど重大な事件が発生する前の対応を進める上で、休日や夜間に関わりなくできる限り速やかに対応することを原則とすべきである。
 こうした観点から、虐待通告(「送致」を含む。)を受けた場合であって、安全確認を必要と判断される事例については、速やかに緊急受理会議を開催し、緊急性など個々の事例の状況に応じて、安全確認の実施時期、方法等の対応方針を決定する。
 なお、安全確認は、児童相談所職員又は児童相談所が依頼した者により、子どもを直接目視することにより行うことを基本とし、他の関係機関によって把握されている状況等を勘案し緊急性に乏しいと判断されるケースを除き、通告受理後、各自治体ごとに定めた所定時間内に実施することとする。当該所定時間は、各自治体ごとに、地域の実情に応じて設定することとするが、迅速な対応を確保する観点から、48時間以内とすることが望ましい。
 また、こうした初期対応のほか、必要に応じて、後日、追加的なアセスメントを適切に実施する。

[2]  保護者への十分な説明
 調査に当たっては、子どもと保護者に対し下記の点について十分に、また、繰り返し説明し理解を得るようにする。
ア.  職務に関する説明
児童相談所又は市町村、児童福祉司等の担当職員の職務に関して説明する。
守秘義務に関して説明する。
イ.  調査対象事項に関する説明
今回の調査の該当事項とその必要性について説明する。
ウ.  子どもの権利に関する説明
法的に保障されている子どもの権利とそれを擁護するために児童相談所や市町村が取り得る措置について説明する。

[3]  子どもや保護者の権利・プライバシーへの配慮
 調査において対象者の権利・プライバシーを侵さないよう十分に配慮する。
ア.  子どもの身体的状況を把握する際は本人の意思確認を経た上で家の個室、機関の診察室、面接室などで調査の心理的なダメージを最小限にするよう行う。
イ.  衣服を脱いで確認する部位については、小学生以上の場合、医師の診断を除き同性の職員により行うようにする。
ウ.  保護者の聴き取りにおいても第三者がいるような場面・場所では行ってはならない。
エ.  保護者の不在時に緊急に調査や保護を行った場合、調査や保護の事実と法的根拠、主旨、不服申立て手続の教示(保護を行った場合)および連絡先等を明記した文書を分かりやすい場所に提示しておく。
 その際、玄関の中など、帰宅後すぐに目につくところであると同時に近隣の住民など第三者の目に触れないところに置くべきである。やむをえない場合を除いて、不用意に児童相談所や市町村の名称が入った封筒を玄関のドアに貼り付けたりしない。

[4]  調査技法の柔軟な適用
 虐待を行っている保護者に対し、当該行為を「虐待」として宣告してから調査をする場合と「養育に関する相談」として調査を始める場合では進め方が異なるが、いずれの方法をとるかあらかじめ検討してから調査を始めることが肝要である。
 虐待が重篤で再発の可能性が高く、緊急保護が必要なケースでは、保護者の行為が虐待に当たることを明確に示した上で調査を行うことを原則とすべきである。しかし、虐待が軽度で保護者が援助を希望しているケースでは、「保護者が子どもの養育に悩んでいる」との立場から、あえて虐待を宣告することなく、保護者の主訴に沿った受容的面接による調査を進めることもあり得るものである。
 また、初回において聴取する事項と2回目、3回目で聴取する事項は、保護者のパーソナリティーをはじめとする多様な状況と調査者の技法や力量などでケースバイケースであり、聴取事項や順番を固定化して考えたり、無理に初回ですべてを把握するのはかえって効果的な援助を阻害することになることに十分留意して調査を進めたい。

[5]  他機関に調査(情報収集)する際の留意点
他機関に調査(情報収集)する際における重要な留意点を列挙する。
ア.  面接の原則
 情報収集に際しては直接出向き、面接することを原則とする。これは秘密を保持する上で重要であるばかりでなく、細かい情報を得るとともに以後の連携のためにも必要である。特に、初めての機関に対しては、お互いに慎重になりがちなので、是非訪問面接を心がける。
 ただ、緊急の場合には電話で情報収集を行うが、その際には誰かに仲介してもらう、電話をかけ直して機関の確認をしてもらう等の配慮が必要である。
イ.  複数対応の原則
 調査に当たっては、原則として複数の職員が同行する。調査項目に漏れをなくす、重要な話を正確に把握する、主観的な印象を修正する、共通認識を持つ等、調査の客観化を図るためである。
ウ.  守秘義務の保障
 調査結果に対する守秘は当然のことであるが、調査する相手機関の守秘義務についても理解が必要である。「口頭なら答えられる」「公文書が必要」という相手機関の事情等を尊重することが大切である。
エ.  保護者への伝達の範囲
 ソーシャルワークの過程で、保護者に対し児童相談所が介入する根拠として「こんな話を聞いたので子どもが危険と判断した」と話すことがある。情報源を秘匿しても、学校など子どもの所属集団に怒鳴り込んでくることもあるので、調査の際話せる内容や範囲等について情報提供者と事前に打ち合わせておく必要がある。

[6]  調査の継続性の確保
 子どもや保護者の状況は刻一刻と変化するものである。このため、一度調査を行い、子どもの安全や身体・心理・生活環境を把握した後も、定期的に訪問等を行い、これらの状況の変化を確認し、当該ケースが行政権限の発動を伴う対応が必要な状況になっているか否かを確認することが必要である。

(5)  調査において有用な身体医学的知識
 身体医学的所見は虐待された子どもの治療に必要なだけではなく、虐待の証明にも有用である。以下に虐待を強く疑わせる身体的所見を挙げたが、このような所見が同時に複数存在したり、何回も繰り返し存在する時には虐待の可能性は高まる。身体医学的所見は専門家でないと判断に苦しむこともある。小児病院や大学病院など比較的分化された専門家のいる病院と相談できる体制を取っておくことが望ましい。
[1]  皮膚所見
 皮膚所見は専門家でなくとも気付くことのできる所見である。しかし、その程度や時期などを特定するためには専門家に依頼して診察をしてもらうことも必要となる。以下に虐待を強く疑わせる皮膚所見の例を挙げる。
ア.  噛み跡:噛み跡は虐待を強く疑わせる皮膚所見である。歯の形に添った傷や内出血が見られる。保護者は「保育園で噛まれた」「きょうだいから噛まれた」と説明することが多い。発見されたときに大きさが分かる物差しなどを置いて写真を撮っておくことで、大人による噛み跡かどうかが特定できることもある。
イ.  道具によると見られる傷痕や内出血:直線的な傷痕やある形の傷痕が複数見られる時には道具による身体的虐待が強く疑われる。事故によってはそのような傷になることはほとんどないからである。
ウ.  柔らかい組織の内出血:一般に子どもが転んで起きる内出血は、膝や肘などの硬い組織が主である。腹部や大腿内側といった柔らかい組織にある傷や内出血が複数・頻回にある時には殴る、強くつかんで持ち上げる、などといった虐待が比較的強く疑われる。
エ.  皮下出血を伴う抜毛:髪の毛を強く引っ張って引きずったり持ち上げようとすると、一度に多くの髪が引っ張られ、皮下の血管が破れて皮下に出血が起きる。一本ずつ抜く心理的な抜毛ではこのような出血はほとんど見られない。したがって、皮下出血を伴う抜毛がある時には虐待が強く疑われる。
オ.  顔面の側部の傷:耳や頬やこめかみのあたりの傷は比較的強く虐待を疑わせる。眼周囲の内出血も殴られた結果であることが多い。また、乳幼児の唇の傷は直接殴ったり、食事中にスプーンなどで傷つけられた時に生じることが多い。子どもがハイハイをする前の唇の傷や、他の傷との合併は虐待を強く疑わせる。
カ.  首を絞めた跡:首に内出血がある時には、首を絞められた可能性を疑う。線状の出血などはその可能性が高い。また、実際に強く首を絞められると、顔が浮腫状になっていることもある。
キ.  境界鮮明な火傷の跡:上肢のグローブ状の火傷、下肢のソックス状の火傷、アイロンの跡、など境界が鮮明な火傷は虐待を強く疑わせる。
ク.  上記の皮膚所見が複数種類見られる:一つであれば事故の可能性も全く否定はできなくても、複数重なることは虐待の疑いが飛躍的に強くなる。

[2]  頭部外傷(頭蓋内出血が多い。)
ア.  硬膜下血腫(歩行開始前の乳児の硬膜下血腫の95%は虐待と言われている。)
イ.  揺さぶられっ子症候群(Shaken Baby Syndrome)
 子どもの首が激しく揺さぶられることで頭蓋内出血(硬膜下血腫が多い)や脳の断裂を起こすことがある。乳児期に多くほとんどが2歳以下である。
 眼底の出血を伴うことが多いので、眼科的診察が必要となる。肋骨骨折や四肢の微細な骨折を伴ったり、皮膚外傷を伴うこともあるが必ず見られるわけではない。虐待が疑われている保護者が子どもを激しく揺さぶっていることが目撃され、大事に至る前に分離に踏み切ることができた事例もある。
ウ.  頭蓋骨骨折
 乳児の家庭内の転落では、単純な頭頂部の骨折は起きるが、複雑骨折、多発骨折、骨折線の離解などがある時は虐待を疑う必要がある。
エ.  乳幼児の家庭内での一般的な転落事故(2階以上からの転落を除く。)
 乳幼児の家庭内での一般的な転落事故(2階以上からの転落を除く。)では、生命に関する頭部外傷になることはほとんどなく、その場合は虐待を疑わなければならない。(Nelson小児科学より)

[3]  眼科的所見
 外傷性眼障害:眼底出血、網膜剥離、水晶体脱臼などが起きる。2歳未満で虐待が疑われるケース(虐待の種類は問わない)及び2歳以上で身体的虐待が疑われるケースでは、眼科的精査が必要である。

[4]  耳鼻科的所見
  鼓膜破裂 鼓膜破裂は強く殴られた時に起きる。虐待が強く疑われる。
  難聴 顔面を激しく殴られると耳小骨のずれが生じて難聴を来すことがある。
  鼻中隔骨折 やはり外傷によって起きる。転んで強く顔面を打ったという既往がない時には虐待が疑われる。顔面を殴られたことが疑われる時には耳鼻科受診が必要である。

[5]  骨折
 骨折は古くから虐待の所見として重要とされてきた。いろいろな治癒過程の複数の骨折跡が見られることは強く虐待が疑われる。また、一つ一つの骨折も、どのような状況で起きた骨折かを示唆する。それが保護者の説明と合わない時には強く虐待が疑われる。2歳未満の全ての虐待と2歳以上5歳未満の身体的虐待では全身骨撮影が必要だが、読影には技術が必要であり、小児病院や大学病院などの放射線科の医師に相談すべきである。

[6]  内臓出血
 腹部内臓の出血:腹腔内出血や腸管内出血などは外傷性で起きることがある。ECHOやCTの検査によって、外傷性の可能性が判断できる。虐待による内臓出血は受診の遅れを伴うことが多いので、致死率が高い。

[7]  溺水
 歩行開始前の乳児の溺水は虐待を強く疑わせる。また、幼児期であっても虐待を疑う必要がある。子どもを安全に護る監視を怠ったネグレクトの可能性もある。

[8]  発育障害
 基礎疾患のない低身長・低体重・低栄養などの医学的所見はネグレクトを疑わせる。表情の欠如などの他の症状がある時には特に強く疑わなければならない。

[9]  婦人科的所見
 性的虐待の場合には、妊娠の有無、性器の診察や性感染症の検査が必要である。性器の外傷や性感染症の存在は性的虐待を強く示唆する。


2.  調査に当たって他機関との連携をどう図るか
(1)  要保護児童対策地域協議会の活用
 虐待を受けている子どもの早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要である。このため、関係機関等により構成され、虐待を受けた子どもやその保護者に関する情報の交換や支援内容の協議を行う協議会であり、その構成員に守秘義務が課せられる要保護児童対策地域協議会を活用し、各機関の連携を深めていくことが適当である。

(2)  個別の相談、通告から支援に至るまでの流れ
 個別の相談、通告から支援に至るまでの具体的な流れについては、地域の実情に応じて様々な形態により運営されることとなるが、一つのモデルを示すと以下のとおりとなる。(図4−1参照)
[1]  相談、通告受理
ア.  関係機関等や地域住民からの保護を必要とする子どもの相談、通告は事務局が集約する。
イ.  事務局は相談、通告内容を虐待相談・通告受付票(別添4−1参照)に記録する。
ウ.  事務局は、関係機関等に事実確認を行うとともに、子どもの状況、所属する集団(学校・保育所等)、親や子どもの生活状況、過去の相談歴等、短期間に可能な情報を収集する。
[2]  緊急度判定会議(緊急受理会議)の開催
ア.  緊急度判定会議を開催。虐待相談・通告受付票をもとに、事態の危険度や緊急度の判断を行う。
イ.  緊急度判定会議は、事例に応じ参加機関を考え、随時開催する。電話連絡などで協議するなど柔軟な会議運営に心がける。
ウ.  会議の経過及び結果は、会議録に記載し保存する。
エ.  緊急の対応(立入調査や一時保護)を要する場合は、児童相談所に通告する。
オ.  緊急を要しないが地域協議会の活用が必要と判断した場合は、個別ケース検討会議の開催や参加機関を決定する。
[3]  調査
 地域協議会において対応することとされた事例については、具体的な援助方針等を決定するに当たり必要な情報を把握するため、調査を行う。
[4]  個別ケース検討会議の開催
ア.  緊急度判定会議(緊急受理会議)で決定した参加機関を集め、個別ケース検討会議を開催する。
イ.  個別ケース検討会議において、支援に当たっての援助方針、具体的な方法及び時期、各機関の役割分担、連携方法、当該事例に係るまとめ役、次回会議の開催時期などを決定する。
ウ.  会議の経過及び結果は、会議録に記入し、保存する。
[5]  関係機関等による支援
 援助方針等に基づき、関係機関等による支援を行う。
[6]  定期的な個別ケース検討会議の開催
 適時適切に相談援助活動に対する評価を実施し、それに基づき、援助方針等の見直しを行うとともに、相談援助活動の終結についてもその適否を判断する。

(3)  関係機関と連携して調査を行う事項
 以下の情報は、子ども虐待が疑われる家族につき、援助や介入の必要性を判断するために必要な範囲で収集するものであり、個人のプライバシーの保護には十分配慮が必要である。このため、構成員に守秘義務が係る要保護児童対策地域協議会を活用することが望ましい。
[1]  家族全員の住民票
 同居している家族構成を把握するための基礎資料であり、市町村から公文書にて取り寄せる。
[2]  戸籍謄本(付票を含み、保護者が離婚していれば両親とも)
 親権者の確認や家族の法的関係、転居歴等家族の歴史を知る上で重要。本籍地から公文書にて取り寄せる。
[3]  生活保護の有無
 本人家族が受給していれば、福祉事務所を通じて詳しい生活歴が分かる。また、援助を行う場合、福祉事務所との連携が図れる。
[4]  妊婦・新生児・乳幼児発達健康診査等の結果
 保健所や市町村保健センター(保健師)では妊娠中から新生児、乳幼児等各段階で健康診査があり、受診していれば母子関係や子どもの発達等について様々な情報が得られる。また、受診していなければ「健康診査のお誘い」を理由として家庭訪問ができる。
[5]  子どもが通っている(いた)保育所、幼稚園・小学校・中学校等の学校からの情報
 子どもがどこかに通っていれば、訪問し、保育士や担任教師、養護教諭等から虐待の状況、子どもの様子や家族関係、その他保護者に関する情報を得る。また、虐待と断定できなくても、以後の情報提供や協力を依頼する。
 また、過去に担任をしていた保育士や教師に会えれば、子どもの性格や行動、親子関係、家庭の雰囲気などを知ることができる。
[6]  きょうだいが通っている学校等からの情報
 他のきょうだいへの虐待の有無、親子関係や家族の価値観、家庭の雰囲気等の情報を得る。さらに、各機関が家庭訪問する際のきっかけを作ってもらうなどの協力を期待できる。
[7]  病院からの情報
 入院や通院の事実が分かれば、直接主治医に会って話を聞く。虐待に直接関係ないと思われても、病状については詳しく聞く。また受診時の親子の様子や保護者の態度などについても尋ねる。なお、保護者が信頼して今後も継続的に通うことが予想されれば、援助活動チームの一員として共同して家族援助を行うよう依頼する。
[8]  警察からの情報
 子どもや家族の状況、虐待の状況等について情報が得られる場合がある。また、援助や介入等について協力を依頼することができる。
[9]  民生・児童委員(主任児童委員)からの情報
 住民に最も身近な援助者であり、家族の状況等について具体的かつ詳細な情報が得られることがある。


3.  虐待の認識を保護者にどう持たせるか
(1)  子どもへの虐待が比較的軽い場合(ソーシャルワークアプローチ)
 虐待をしている保護者は「子どもの問題行動(盗癖、嘘をつく、自分の意見を言えない、盗み食いをする等)を治すためにやっていることだ」と自己を正当化したり、「自分の子どもなのでどうしようと勝手だ、他人にとやかく言われる筋合いはない」と他者の関与を否定する者も少なくない。
 虐待をしている保護者の生育歴を調べると、保護者自身も不遇な状況で育っている場合が非常に多い。このような状況を考慮に入れた上で、次の点に留意して対応することが大切である。
[1]  援助者の基本的立場
ア.  援助者自身が虐待をしている保護者への怒りや批判を持っていると言動に表れ、保護者は敏感にそれを感じ取ってしまう。このため、カウンセリングマインドを基本にして、どういうメカニズムで虐待が起こってきたのか、どうすればその悪循環を断ち切れるのかという観点で面接を進めることが大切である。
イ.  保護者との関係をつけようと思うあまり、虐待を仕方のないことと認めてしまったり、援助者が保護者の代理的に行動することになるような要求を受け入れたりすると、援助者の方がコントロールされてしまうので注意が必要である。保護者が子どもに対してどう関われるのか、援助者はそれをどう応援していけるのかという立場をいつも忘れないようにしなくてはいけない。

[2]  児童相談所や市町村の役割について理解を図る
 人に対する不信感が強く被害的にものごとを受け取りやすい保護者には、虐待の行為だけを取り上げて話し合っても親子関係の改善には結び付かず、保護者の苦労や苦しみを分からない人に話をしても仕方がないと関わりを拒否されてしまうことが多い。そのため、児童相談所や市町村が、保護者を責めたり育児に強制的に介入して親権を奪ってしまうために関わるのではないことを伝え、話し合える関係を作ることが大切である。その上で児童相談所や市町村の役割や機関として提供できるサービスなどについて理解が得られるよう誠意をもって話し合いを進めていく必要がある(ただし、子どもへの虐待がひどく、生命の危険がある場合は強制的な介入をせざるを得ないこともある)。

[3]  行為の背景にある目的を確認する
 子どもに暴力を振るったり顔も見たくないほどの拒否感を感じたとき、どうしてそういう行動になったのか、子どもをどうしたくて行ったのか等、保護者の感情や意図を確認して行くと、「こうあってほしい」という保護者なりの子ども像が分かってくる。援助者はその子ども像について話し合い、今取っている方法は、「こうあってほしい」と思う子どもにするためにはあまり役に立たないのではないかと伝えていく。また、子どもを虐待しているときの気持ちを確認していくと、保護者の過去の体験と重なり合っていたり、イライラしていた自分の気持ちを子どもにぶつけていたことに気付き自分の行為への理解が深まることもある。

[4]  虐待についての社会的判断を伝える
 穏やかに話ができるようであれば、今、保護者が取っている方法は社会的には虐待と考えられることであると説明する。虐待と言われるような方法でなく子育てができるよう応援していきたいという思いが伝わるようにしていく。保護者自身も多かれ少なかれ自分の養育の方法が他人から批判されるであろうことは分かっていることが多く、困っている面もあるため、援助者が責めずに関わると虐待を認めることもできるようになることが多い。虐待を保護者自身の問題として解決して行くためには、子どもの問題行動として関わりを始めても、時機をみて保護者による虐待であると気付かせることが大切である。

[5]  親であることを強要しない
 親だから愛情を持って育てなければならないとか、良い子に育てなければいけないというような「常識」に振り回されて、顔も見たくないほど憎んでいる子どもを育てていて虐待してしまう事例もある。親であるから育てなければいけないのではなく、親であっても子育てを休憩したり、時には子どもを育てたい人に任せることもできるという提案をしてみるのも良い。一時保護等により子どもと離れることで、子育てについてゆっくり考える機会ができる場合があることを知ってもらうことも有益である。

(2)  子どもへの虐待がひどく、早期に分離を考えた方がよい場合(行政介入によるアプローチ)
 子どもが病院に運び込まれるほどの大けがをしたり、生命に関わるほどの状況で放置されていたり、性的虐待を受けている場合等は、早急に一時保護につなぐことが大切である。このような場合、共感・受容的なアプローチをしていると、保護者だからとか、しつけだからという理由を強引につけて連れ帰られたりする可能性が高く、子どもへの虐待がさらにひどくなったり、児童相談所が子どもと接触できない状態になってしまうこともある。そのため次の点に留意して対応する必要がある。
[1]  子どもの身柄の安全が確保できている場合
 子どもの状態について、はっきりと保護者の虐待が原因であると伝える。強引に引取りを要求して来る保護者に対しては、一時保護は保護者の同意が必要でないことを伝える。この対処を行う場合には、児童福祉法第28条や同法第33条の6の手続をとる心づもりをしておかなければならない。状況によっては家庭裁判所の判断を仰ぐと伝えることによって施設入所の同意に転ずる保護者も少なくないが、保護者との関わりが可能となればソーシャルワークによる援助を展開して行けばよい。
 なお、保護者には、どのような状況になれば施設からの引き取りが可能であるか、そのためには保護者として何をしなければならないのか、児童相談所としては何をしたいのかを明確に伝えることが重要である。保護者が子どもの一時保護や施設入所等に強い拒否感を示す背景には、これら先の見通しが持てないことにより、このままずっと子どもを帰してもらえないのではないかとの不安があることに留意する必要がある。

[2]  子どもの身柄の安全が確保できていない場合
 子どもが保護者の元にいる間は、保護者を刺激するとさらに虐待がひどくなる可能性が高いため、虐待の認識を持たせることよりも子どもの身柄の保護を優先させた対処が必要である。保護者に何らかの納得のいく理由づけを行って一時保護につなげるか、児童相談所の職権による一時保護を行うべきである。


4.   調査に拒否的な保護者へのアプローチをどうするか
 調査や介入に対して拒否的な態度をとる保護者へのアプローチは、虐待に関する初期援助の中で最も難しい課題の一つであり、子どもの安全確認ができない場合は、立入調査という行政権限の発動も視野に入れつつ、様々な創意と工夫を用いてこの課題に対処する必要がある。
 この創意と工夫は緊急に介入しなければ子どもの身体・生命に危険がある場合を除き、原則から言えば保護者にとって違和感や抵抗の少ない方法、ときには保護者にとって何らかのメリットが得られる方法を優先的に検討し、それらのアプローチが効を奏さないか困難であるときに、行政権限発動や司法的手法を採択するという手順になる。以下に、実務上実践されているいくつかの方法を具体的に例示したい。

(1)  保健所、市町村保健センター等の保健活動を利用する方法
 被害を受けた子どもが乳幼児であれば、市町村保健センターの乳児健診、1歳6か月児健診、3歳児健診などに結びつけて、呼び出しや訪問をしてもらえれば違和感がないし、保健師等による子どもの状態の確認が可能である。そこで子どもの育てにくさや、保護者の子育ての大変さを受け止め、児童相談所の説明や精密検査へつなぎをしてもらうことができれば、児童相談所や市町村とのコンタクトもスムーズに行きやすい。

(2)  関わりのある機関を経由する方法
 保育所や幼稚園・小学校・中学校等の学校などの機関が関与していれば、それぞれの機関の職員が保護者の子育ての苦労に共感を示しながら対応することが考えられる。保護者が困難に感じている子どもの問題に対する児童相談所での検査の必要性や、場合によれば無料で一時預かりが可能であることなどを提示して一定の納得が得られると、児童相談所や市町村がコンタクトを取りやすくなる。

(3)  医療機関へつなぐ方法
 保護者に児童相談所や市町村など行政機関への拒否感があるときや、子どもに外傷、発育不良などの医療的課題があるときは、協力が得られやすい医療機関に一旦つないで、次の展開を考えることが適切なことがある。その際、医療機関には検査などの目的で入院させてもらえると次の対処がそれだけやりやすくなる。

(4)  親族、知人、地域関係者等を介する方法
 保護者と何らかの面識や関わりのある親族、知人、地域関係者等がいる場合は、保護者の子育ての困難さと子どもの側の問題などについて保護者の相談にのってもらうなどの方法も考えられる。何らかのコンタクトを取ってもらいながら子どもの現状確認と家族の状況把握、そして児童相談所や市町村へのつなぎの協力を求めると、機関が単独でいきなり接触するよりはずっとスムーズに関わりがもてることが少なくない。

(5)  警察との連携により保護者へのアプローチを進める方法
 児童虐待防止法第10条において、児童相談所長は子どもの安全確認又は一時保護を行おうとする場合において、都道府県知事は立入調査等の際に、その子どもの住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し、援助を求めることができることとされている。また、この援助要請は必要に応じ、適切に行わなければならないとされている。このため、より一層警察との連携を進めることが必要である。
 通告があった際の通告内容の正確な把握、被虐待状況の評価と緊急性の判断、関係機関に対する初期調査など子どもの安全確認のための調査や必要な場合の緊急保護、立入調査等は児童相談所がその専門的知識に基づき、主体的に実施するものであり、警察官の任務ではない。また、警察官は児童相談所長等の権限行使の補助者ではない。しかし、立入調査等の執行に際して援助の必要があると認めるときは、警察署長に対し、援助を求め、児童虐待防止法に基づき立入調査による安全の確認等が必要な場合もある。
 子どもの安全の確認、一時保護又は立入調査等の執行に際して「援助の必要があると認めるとき」とは、保護者又は第三者から物理的その他の手段による抵抗を受けるおそれがある場合、現に子どもが虐待されているおそれがある場合などであって、児童相談所長等だけでは職務執行することが困難なため、警察官の措置を必要とする場合をいう。
 なお、援助依頼の際には、緊急の場合を除き、児童相談所長から警察署長に対して、事例の概要や援助の必要性などを記載した文書(本章7(3)「警察への援助依頼様式」参照)で援助を依頼し、事前協議することを原則とすべきである。しかし、援助が円滑に行われるためには、警察との具体的事例の共有など日頃からの関係づくりが重要である。


5.  子どもからの事実確認(面接・観察)はどのように行うか
(1)  虐待を行っている(または、行っていると思われる)保護者に内密で面接をする場合
 「子どもがオドオドしていて、時々なぐられたようなあざがある」とか「家に帰りたがらない」等虐待が疑われる特徴が見られるが、はっきり断定出来ないという相談が、保育所や学校等から入ることがある。
 このような場合、「子どもが育てにくい性格なのではないか。保護者が子育てに困っているのではないか」と話しかけてもらい、それをきっかけに相談を始めるという方法が一番自然である。しかし、保護者が、「何の問題もない」「家庭のことに口出しをしてほしくない」と言ったり、子どもも虐待を否定するなど、状況がはっきりしないようなときには、保護者に知らせずに子どもの状況を確認せざるを得ないことになる。
[1]  保護者も子どもも虐待を否定する場合(子どもが意思表示できない場合も含む)
 教職員等に子どもの様子を細かく観察してもらい、言動やあざ、けがの状態を記録しておいてもらうことが大切である(児童福祉法第28条の承認審判の申立て等のときに重要な資料になる)。児童相談所や市町村としては、その他の情報(過去の経過、病院や近隣等からの情報)と合わせて検討し、関わりのタイミングや方法などを工夫していくことになる。
[2]  保護者は否定するが、子どもが虐待を訴える場合
ア.  教職員等に子どもの気持ちを受け止めてもらいながら、児童相談所や市町村についてできるだけ具体的に説明をしてもらう。子どもが希望すれば保護者に内密で会うことが出来ることも話してもらい、学校等子どもの希望する場所で会う。ただし、子どもが児童相談所や市町村の職員と会ったことを保護者に秘密にできそうでなかったり、秘密を持つことがひどく負担になるときは勧めないほうがよい。その場合は、必要な情報を教職員等を通じて間接的に伝えていく方がベターである。
イ.  子どもは保護者から虐待について他人に話さないようにというメッセージを受けていることが多い。したがって、人に話すことによって不安になったり、ときには恐怖心が沸いてくる子どももあるので、無理に話を引き出すよりも子どもの気持ちを受け止めながら、子どものぺースで話を聞くように心がける方がよい。
ウ.  児童相談所や市町村の職員からは、児童相談所の機能(継続的に相談を受けることができること、保護者の同意がなくても一時保護ができること、保護者が同意しなくても家庭裁判所の承認を得て施設に入所できること等)や市町村の機能(継続的に相談を受けることができること、必要に応じて、児童相談所と連携して対応を採ること)について、子どもの年齢に応じた話し方で、具体的なイメージが伝わるようていねいに説明を行う。
エ.  できれば、次に会う場所や方法を決めておく。また、困ったときには身近に駆け込めるところを子どもと一緒に考えて決めておく。この場合には、当該関係者や関係機関にはある程度の事情を説明し、子どもが保護を求めて来れば児童相談所に連絡してくれるよう依頼し、相談に対する協力体制を作っておくことが大切である。

(2)  保護者が児童相談所や市町村の関わりを認めて、子どもと面接する場合
 保護者が児童福祉司等の関わりを認めていると、子どもは比較的安心して虐待の事実について話すことができるが、「自分が悪かったからではないか」という自責の念や不安等は持っている。それを和らげながら聞き出すことが大切である。また、子どもの面接者と保護者の面接者は出来る限り別々にし、それぞれが秘密を守られているという安心感を持てるように配慮することが大切である。
[1]  事実を確認しながら、どのようなメカニズムで虐待が起こったのかを確認する
 嘘をつく、約束を守らないということで虐待を受けることが多いが、どうして嘘をついたのか、約束を守らなかったのかをていねいに聞くと、子どもの年齢に不相応な約束であったり、他の子どもたちと比べてかなり厳しい規制であったりする。それが保護者の意識的、または無意識的な押付けとなり、子ども自身が自主的にした約束とされていることが多い。虐待が起こる前後の脈絡を確認しながら保護者側の問題であることにも気付かせて、子どもの自責の念を少しでも和らげていくことが大切である。嫌なこと、してほしくないことを話すことは悪いことではないと伝え、否定された自己の感情を肯定的に受け止められるように支える。そして、虐待を受けたことについて話し合える場所として児童相談所や市町村があることを分かってもらう。
[2]  子どもの安全に絶えず注意する
 在宅の子どもに関わる場合、児童相談所や市町村の職員が子どもの気持ちを支持すると、子どもは安心して保護者への攻撃性や不信、怒りを出してくる場合がある。保護者と児童相談所や市町村の職員の信頼関係が生じていて共に協力して受け止めて行くことができるときはよいが、そうでないときは、反対に保護者の怒りを引き出してしまい、虐待がひどくなったり突発的暴力となって表れることがある。危険が予想されるときは、タイミングを見て一時保護等を考える必要がある。

(3)  子どもを一時保護(または一時保護委託)した上で面接する場合
[1]  子どもの虐待が疑われるがはっきりせず、他の理由(子どもの問題行動、保護者の育児負担の軽減等)で一時保護した場合
 生活場面で過食や他の子どもへの乱暴やいじめがあるか、極端に甘えたり警戒したりしていないか等、虐待を受けている子どもにありがちな行動の特性を観察する。虐待を受けている子どもの中には、一時保護の間に身長や体重がぐっと伸びる子もある(キャッチアップ現象)。
 観察や心理検査の結果、虐待を受けている可能性が高ければ、子どもの安心感の確保を図る中で、徐々に日常の出来事の確認を行う。併せて保護者への愛着の有無や今後の生活の仕方など子どもの年齢や状況に応じた話を具体的に進めていかなければならない。
[2]  虐待を受けていると断定できる場合や子どもが援助を求めてきて帰宅を拒否している場合
 子どもの安全確保を第一に考える。子どもは保護者に連れ戻される不安や恐怖感が和らげば虐待について話すことができるようになるが、安心感が持てないときは保護者の意向に左右されたり、違うことを言うことがある。このような時は責めたりせず、子どもが不安に思っていることをじっくり聞き、安心できるように対応することが大切である。また、子どもが希望しなければ、保護者の要求に応じて帰すことはないという保証を始めに与えておくことが重要である。
 この場合、児童福祉法第28条等の法的対応の可能性が強いため、子どもの意向等については克明に記録にとどめておく。

(4)  性的虐待を受けた子どもからの事実確認について
 子どもは自分が虐待を受けているという事実を家族以外のものに話すこと(開示:disclosure)に強い抵抗感を持つ傾向があることは知られているが、性的虐待の場合には、子ども自身の認知(普通の子どもであれば経験しないことを経験したなど)や加害者からの脅迫(このことを他人に話したら家族が一緒に住めなくなるなど)が相まって、開示への抵抗感がより一層強くなる可能性がある。したがって、子どもから性的虐待の開示があった場合には、子どもが強い苦痛を覚えていたり、あるいはきわめて深刻な状況におかれている可能性が高いと認識し、慎重に対応すべきである。
[1]  子どもへの性的虐待が問題となる状況
 子どもが性的虐待を受けているのではないかとの疑いがもたれ、関係機関が関与する状況は様々であるが、子どもからの開示があったり、子どもの精神的な問題や行動上の問題から性的虐待の被害が推定されて児童相談所が子どもや家族に関わりを持つ場合と、別の問題で児童相談所が関わりを持ち始め、援助の経過中に性的虐待の事実が開示される場合の二つに大別される。
 前者では、子どもが家庭内での性的被害を家族(多くの場合、母親などの虐待者でない保護者)や学校の友人、あるいは担任や養護教諭といった関係者に開示し、関係者が児童相談所に助力を求めてくるといったケースが多い。また、子どもの性的な言動から周囲がその疑いを持って児童相談所につながる場合もある。
 後者としては、夜間の徘徊のために警察が保護し、子どもが家に帰りたくないと述べることで児童相談所に通告のあった小学校低学年の子どもや、家出や性的逸脱行動のために児童相談所が関わるようになった思春期の子どもなどが、援助経過のなかで性的虐待の事実を話し始めるといった場合などが考えられる。特に思春期の子どもの性的逸脱行動の背景には、家庭内での性的被害体験があることが少なくないので、対応に注意を要する。さらに、性的虐待以外の虐待の問題で保護したり、関わりを持っている子どもが性的虐待を開示するような場合もある。例えば、ネグレクトの問題を中心に援助を提供してきた家族で、子どもが性的虐待を受けていることが判明するといったケースなどは少なくない。また、性的虐待はDV(配偶者からの暴力)と同時に発生しやすいことが知られており、こうしたタイプの問題を抱えた家族の援助においては、性的虐待の可能性について意識しておくことが大切である。
[2]  開示への対応
 先述したように、性的虐待に対する子どもの秘密保持傾向は非常に強く、それだけに子どもからの開示があった場合には、よほど深刻な状態であると受け止めるべきである。子どもからの性的虐待の開示への対応の基本的事項として、以下の各点を示す。なお、詳しくは第13章を参照されたい。
子どもの話を丁寧に聞き、真剣に受け止めること。
性的虐待について話すことの子どもの心理的苦痛や恐怖、不安に共感すること。
子どものペースを尊重しながら話を聞いていくこと。
話を聞くことが子どもにとって『二次的被害』にならないよう注意すること。
守秘義務や問題の解決の可能性について非現実的な約束をしないこと。
子どもの年齢に応じて、話を聞く際に補助的道具(描画、人形など)を活用すること。
子どもの希望を聞きながら、予想される今後の展開を子どもに説明すること。
児童福祉法第28条による措置や加害者に対する告訴(告発)の可能性が考えられる場合には、裁判所における手続きにおいて、証拠として活用することができるような方法で子どもからの聴取を行うこと。


6.  立入調査の要否をどう判断するか
(1)  立入調査の法的根拠
 立入調査については、児童福祉法第29条において、都道府県知事(委任により児童相談所長)が子どもの居所等への立入調査をさせることができることを規定しているが、従来、児童相談所は行政権限の発動としての立入調査に慎重であり、十分活用されてこなかった。
 このため、立入調査は、児童福祉法第28条に定める承認の申立てを行った場合だけでなく、虐待等の事実の蓋然性、子どもの保護の緊急性、保護者の協力の程度などを総合的に勘案して、柔軟に運用するよう「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」(平成9年6月20日付厚生省児童家庭局長通知)、「児童虐待に関し緊急に対応すべき事項について」(平成10年3月31日付厚生省児童家庭局企画課長通知)等により要請し、本書において具体的解説を行ってきた。
 児童虐待防止法第9条第1項において、虐待のおそれがあると認めるときの立入調査が法律上の規定として明記されていること、及び第10条に警察署長への援助要請等が規定されていることも踏まえ、是非本条等を活用し、立入調査を効果的に行うべきである。
 また、児童虐待防止法第9条第2項において、第1項に基づく調査質問を児童福祉法第29条の規定による調査質問とみなし、児童福祉法第62条第1項の規定を適用することにより、正当な理由なくしてこれを拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に答弁しなかったり、若しくは虚偽の答弁をし、又は子どもに答弁させなかったり、若しくは虚偽の答弁をさせたりした者は、20万円以下の罰金に処せられることとされている。この規定も必要に応じて活用が図られるべきである。

(2)  立入調査の制約
 立入調査については、実施上の制約があることも十分踏まえた上で、立入調査の要否や方法、あるいは警察等の関係機関への援助依頼のタイミングや内容等を判断する必要があることも当然である。
 また、保護者が立入調査を拒否し施錠してドアを開けない場合、鍵やドアを壊して立ち入ることを可能とする法律の条文がない以上、当然にできるとは解されていないということも理解しておかなければならない。
 正当な理由なく立入調査を拒否した保護者等は、児童福祉法により罰則規定が設けられているが、それはあくまで事後的な制裁であって、その場で何らかの強制的執行をみとめる趣旨ではない。
 したがって、立入調査権を発動することによって無条件に家屋内に立ち入れると思うのは早計であって、立入調査が失敗に終わらないための方法、例えば管理人によるあらかじめの合鍵の入手や部屋の出入りの時間帯・タイミングのキャッチ、あるいはドアを確実に開けてもらうための手段や人物の介在など、かなり綿密に計画を立てた上で実行しなければならない。また、ときには立入調査権とは別次元の判断、つまり事態の緊迫度によっては正当防衛等として許される場合にあたるのではないかとの判断や行動が必要になる可能性があることも心得ておくべきであろう。

(3)  立入調査の要否の判断
 ソーシャルワークアプローチが効果を発揮しそうなときや、知人・親族・地域関係者等が仲介する形でコンタクトが得られると判断されるときは、その方法を優先する方が相手にとり摩擦が少ないしより実務的である。
 しかし、それらの方法が困難で保護者等に接近する手立てがなく、かつ子どもの安否が気遣われるようなときには、立入調査権の発動を決断しなければならない。ただ、そのような場合であっても、本章4で例示されている各種の接近方法とどちらを採用すべきかは、そのときのタイミングや状況、また関係者の協力などを総合的に勘案して決めることになるだろう。
 一般的に立入調査が必要と判断されるのは以下のような場合である。
[1]  学校に行かせないなど、子どもの姿が長期にわたって確認できず、また保護者が関係機関の呼び出しや訪問にも応じないため、接近の手がかりを得ることが困難であるとき。
[2]  子どもが室内において物理的、強制的に拘束されていると判断されるような事態があるとき。
[3]  何らかの団体や組織、あるいは個人が、子どもの福祉に反するような状況下で子どもを生活させたり、働かせたり、管理していると判断されるとき。
[4]  過去に虐待歴や援助の経過があるなど、虐待の蓋然性が高いにもかかわらず、保護者が訪問者に子どもを会わせないなど非協力的な態度に終始しているとき。
[5]  子どもの不自然な姿、けが、栄養不良、泣き声などが目撃されたり、確認されているにもかかわらず、保護者が他者の関わりに拒否的で接触そのものができないとき。
[6]  入院や医療的手立てが必要な子どもを保護者が無理に連れ帰り、屋内に引きこもってしまっているようなとき。
[7]  施設や里親、あるいはしかるべき監護者等から子どもが強引に引き取られ、保護者による加害や子どもの安全が懸念されるようなとき。
[8]  保護者の言動や精神状態が不安定で、一緒にいる子どもの安否が懸念されるような事態にあるとき。
[9]  家族全体が閉鎖的、孤立的な生活状況にあり、子どもの生活実態の把握が必要と判断されるようなとき。
[10]  その他、虐待の蓋然性が高いと判断されたり、子どもの権利や、福祉、発達上問題があると推定されるにもかかわらず、保護者が拒否的で実態の把握や子どもの保護が困難であるとき。


7.  立入調査に当たっての留意点は何か
(1)  立入調査の手続上の留意点
 立入調査を円滑に実施するために、以下の2点にまず留意する必要がある。
[1]  身分証明証の交付
 立入調査に携行する身分証明証については、個々の事例について、その都度作成交付する必要がなく、民生・児童委員(主任児童委員)または子どもの福祉に関する事務に従事する吏員が、その職に就いた時に交付し、平素携帯させてよい旨の通知(昭和23年8月23日付児発第554号厚生省児童局長通知)が出されている。しかし、実情として証明証が交付されていないところも見受けられる。緊急事態に備えて、あらかじめ交付しておく必要がある。
[2]  都道府県知事の指示について
 立入調査は都道府県知事の指示の下に実施することと規定されているが、自治体レベルの施行規則等において、児童相談所長に権限が委任されているところもある。権限が委任されていない児童相談所においては、立入調査の必要性が認められたら速やかに、決裁を行う。通常、決裁には時間がかかるため、あらかじめ権限が委任されるように、規則等を整備しておくべきである。

(2)  立入調査の執行にあたる職員
 立入調査には予測される事態に備え、調査にあたる職員を複数選任する。児童福祉司、相談員、スーパーバイザー等を基本として、子どもの心身の状態や性別に配慮し、保護や入院の必要性を的確に診断することのできる医師(小児科医、児童精神科医等)や保健師の同行も有効である。
 また、これら児童相談所職員のほか、都道府県が設置する福祉事務所の社会福祉主事または都道府県において直接児童福祉に関する事務に従事する職員も立入調査の執行に当たることができる。

(3)  立入調査における関係機関との連携
[1]  警察との連携
 従来から、児童相談所長等による立入調査や一時保護に際して、必要な場合は事前協議の上警察官による支援が行われていたが、児童虐待防止法第10条において警察署長への援助要請等についての規定が設けられ、子どもの安全の確認及び安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ、適切に警察署長に対し援助を求めなければならないとされた。
 執行に当たって、保護者の妨害や現に子どもが虐待されているおそれがある場合などであって児童相談所長等のみでは立入調査が困難であると考えられる場合には、警察署長に対し援助を依頼することが望ましい。立入調査等は児童相談所がその専門的知識に基づき、主体的に実施するものであり、警察官の任務ではない。警察官は警察法、警察官職務執行法等の法律により与えられている任務と権限に基づいた措置を行うということを承知しておく必要がある。
 また、警察官は、児童相談所長等の権限行使の補助者ではない。しかし、立入調査等の執行に際して援助の必要があると認めるときは、警察署長に対し援助を求め、法に基づき立入調査による安全の確認、必要な場合の一時保護等を適切に行う必要がある。警察官は、立入調査においては、不測の事態に備えて児童相談所長等に同行し現場付近で待機するなどの援助を行うことが多いと考えられるが、必要に応じて警察官職務執行法、刑事訴訟法等に基づき必要な措置を取る。援助を求められた警察官は、具体的には
ア.  職務執行の現場に臨場したり、現場付近で待機したり、状況により児童相談所長等と一緒に立ち入ること
イ.  保護者等が暴行、脅迫等により職務執行を妨げようとする場合や子どもへの加害行為が現に行われようとする場合等において、警察官職務執行法第5条に基づき警告を発し又は行為を制止し、あるいは同法第6条第1項に基づき住居等に立ち入ること
ウ.  現に犯罪に当たる行為が行われている場合に刑事訴訟法第213条に基づき現行犯として逮捕するなどの検挙措置を講じることなどの措置を取ることが考えられる。
 なお、上記イの警察官職務執行法第6条第1項に基づく立入りについては、例えば、家の中で子どもが暴行を受けて悲鳴が聞こえるなど、子どもの生命、身体に危害が切迫し、あるいは現に危害が加えたれているようなときで、同項の立入りの要件を満たす場合は、立入りのため必要があれば、社会通念上相当と認められる範囲で、鍵を壊すなどして立ち入ることができる。また、上記ウの現行犯逮捕において、必要があれば認められる住居等への立入り(刑事訴訟法第220条第1項第1号)についても同様である。
 警察署長への援助要請は、緊急の場合を除き、文書(別添4−2「警察への援助依頼様式」参照)により事前に組織上の責任者から行うことを原則とする。
 なお、緊急の場合においては、事後に上記援助依頼様式を参考に、文書により警察署長宛送付する。
 援助の依頼に係る警察側の窓口は、少年部門(警察署生活安全課等)である。
 依頼に際して具体的には、
ア.  保護者、虐待を受けている子どもその他の家族、同居人等の状況
イ.  保護者の性格、行動特徴
ウ.  虐待の態様及び虐待を受けている子どもの状況
などについて、可能な範囲で情報を共有しなければならない。
 その上で、子どもの保護を最優先課題として、児童相談所と警察との間の適切な連携と役割の分担が実現されるように、必要な警察官の援助の内容やその時期、体制等について具体的に事前協議を行う必要がある。
 事前協議においては、特に、児童相談所と警察の持つ情報の突き合わせなどを確実に行い、状況判断に誤りのないようにしなければならない。
 子どもの安全の確認、一時保護又は立入調査等の執行に際して「援助の必要があると認めるとき」とは、保護者又は第三者から物理的その他の手段による抵抗を受けるおそれがある場合、現に子どもが虐待されているおそれがある場合などであって、児童相談所長等だけでは職務執行をすることが困難なため、警察官の援助を必要とする場合をいう。
 なお、児童相談所長等からの援助の求めの有無にかかわらず、警察が子どもの保護等のため必要と認める場合は、所要の警察上の措置をとることがあり得ることは言うまでもない。

<参考>
 警察官職務執行法
 < 第5条>(犯罪の予防及び制止)
   警察官は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときは、その予防のため関係者に必要な警告を発し、又、もしその行為により人の生命若しくは身体に危害が及び、又は財産に重大な損害を受ける虞があって、急を要する場合においては、その行為を制止することができる。

 < 第6条>(立入)
 1  警察官は、前二条に規定する危険な事態が発生し、人の生命、身体又は財産に対し危害が切迫した場合において、その危害を予防し、損害の拡大を防ぎ、又は被害者を救助するため、已むを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において他人の土地、建物又は船車の中に立ち入ることができる。
 (以下省略)

 刑事訴訟法
 < 第212条>
 [1]  現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
 [2]  左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
  一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。
 < 第213条>
   現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
 < 第220条>
   検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第199条(逮捕状による逮捕)の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第210条(緊急逮捕)の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。

 一  人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
 二  逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。
 (以下省略)

(2)  その他の関係者との連携
 保護者に精神的な疾患が疑われる場合は、保健所や市町村保健センター、精神保健福祉センターと連携し、精神保健福祉相談員の同行が考えられる。同行しない場合においても、事前の情報によっては、入院を要する事態も想定し、精神保健指定医診察や入院先の確保などの手配をあらかじめ行っておく必要がある。
 その他、福祉事務所の職員や民生・児童委員(主任児童委員)など、保護者や家族との関係において有効であると思われる人を同行することも可能である。あるいはまた、子どもとなじみのある保育所の保育士や、学校の教師等が同行するか、保護後に備えて待機することで、子どもを安心させたり、落ち着かせたりする方法も考えられる。更には、協力関係にある弁護士の同行もありうる。
 ただ、いずれの場合も、事前に周到な打ち合わせを行い、種々の事態を想定した柔軟な役割分担を決めておくことが必要である。

(4)  立入調査の執行手順
[1]  立入調査を事前に相手に知らせるべきか
 立入調査はその必要性が認められる状況からして、それまでにソーシャルワークアプローチが効を奏さなかったり、緊急逼迫している場合等に執行されることを考慮すると、事前に通知することは適当でない。相手が事前に察知することにより、鍵を厳重にして調査を妨げたり、虐待の事実を覆い隠そうとするような結果をもたらせば、調査の目的を達成することができない。
[2]  どのようなタイミングで執行するか
 執行のタイミングは非常に重要なポイントである。個々の事例の入念な検討、関係者の協議に基づく判断によることとなる。比較的緊急性がないと判断される場合は、法文の規定とは順序が逆になるかもしれないが、在宅により児童福祉法第28条の承認審判を待って行う方法もある。
 虐待を行っている保護者と子どもが、共に在宅しているときと、保護者が外出して子どものみ在宅しているときの、いずれが良いのかも慎重に検討を要する。仮に立入調査によって逆上した保護者が子どもに危害を加えるおそれがあるようなときは、警察官が同行するとしても、なるべく同室時を避け、子どもの身柄の安全な確保を先行させることが適切であろう。
[3]  拒否的な事例に対する執行手順
 正攻法で玄関から呼びかけても応じそうにない場合は、いろいろな工夫が必要である。例えば、親族などの協力を得て、玄関を開けさせたり、家主や管理人に合鍵を借りる方法がある。居住者の権利を理由に、貸すことを渋る家主等もあろうが、児童福祉法の趣旨を説明し、子どもの権利と福祉を守るための理解を求め、協力を得る必要がある。時には子どもを救済するために、やむなく錠などを壊さなければならない事態が生じることも予測される。児童福祉法第29条の解釈としてそれらの行為が法的に当然可能であるとは容認されにくいが、子どもの生命や権利侵害の状況によれば、緊急避難の判断が必要なこともあり、実際に現場における踏み込んだ判断が、良い結果をもたらした事例もある。
[4]  立入調査時の対応と留意点
 まず相手に調査は法律に基づいた行政行為であることを説明し、冷静な対応を心がける必要がある。その上で、調査者が何を目的とし、どういうことを確認したいのか、なぜ今回の立入調査を行ったのかなどを誠意をもって説明しなければならない。また子どもに対しても、突然の訪問の意図を年齢に応じて、分かりやすく説明し、安心感を与える配慮が必要であろう。
ア.  保護についての的確な判断と実行
 子どもの身体的な外傷の有無やその程度、発育状況、保護者や大人に対する態度、脅えの有無などを観察すると共に、できれば同行の医師による診断的チェックを受けることが望ましい。可能であれば、子ども自身の気持ちを聴取した方が良いが、その時は保護者から離れた場所で聴取する必要がある。
 子どもの養育環境を判断するためには、室内の様子に注意をはらうことも重要で、極めて不衛生・乱雑であるなど、特徴的な様相があれば、写真の撮影をしておくと、後に児童福祉法第28条の承認審判における証拠資料として有効である。
 保護者の態度、子どもの心身の状態、室内の様子等総合的に判断して、子どもに保護の必要性が認められれば、一時保護をしなければならないことを伝え、多少摩擦があったとしても実行に踏み切らなければならない。課題を残したままで一時保護がなされないと、次の接触が困難になったり、子どもの状態がより悪くなることを銘記すべきである。その後、状況によって、保護者に対して児童福祉法第28条の承認の申立て等の法的対応を行う旨を説明したり、子どもの状態によっては入院の措置を採るなどの対応が必要である。
イ.  一時保護が必要でないと判断された時
 差し当たって、保護の必要が認められない時は、関係者の不安が今回の調査で解消されてよかったということを率直に保護者に伝え、突然の立入調査で驚かせたことに対する相手の心情に配慮したソーシャルワークフォローを十分行っておくことが大切である。加えて、各機関のサービス機能の説明や、社会から孤立的になりすぎた場合、子どもの安全や健康の確認が社会的に要請されることになるという仕組みについても、十分理解を求めるようにしなければならない。

(5)  調査記録の作成と関係書類等の整備
 立入調査を執行した後は、調査記録の作成を行う必要がある。とりわけ、家庭裁判所における審判が予定される事例については、詳細な記録が求められる。子ども、保護者の両方と室内の様子について、前項(4)(4)ア.に記したチェックポイントを中心に、具体的で綿密な記録を作成する。
 関係書類については、子どもの外傷の状況を撮影した写真や、医師の診断書、調査に同行した関係者による記録などの入手、保存に努め、上記記録と共に整備しておくことが大切である。


8.  児童相談所や施設の職員に対して暴力的な保護者にはどう対応すべきか
(1)  組織的対応をどう図るか
[1]  複数の職員による対応
 原則として複数の職員で対応すべきである。困難な保護者への対応は、児童福祉司や施設の職員が単独で行うことを避け、複数の職員がその攻撃や難題の圧力を分散して受け止めることが重要である。非常事態に対しても対処できる体制をとりつつ、必要に応じて協議を交えながら、要求に対する組織的受け答えを行うように努めるべきである。
 やむをえず単独で対応する場合は、事務所に近い面接室を利用し、怒声が聞こえるなどの不穏な事態が生じたら、他の職員が様子をうかがったり、すかさず面接場面に立ち会うなどの応援体制を取れるよう、普段から心がけておかなければならない。相手の興奮を抑えるため、いったん面接を中断させた方がよいと判断される場合は、他の職員が電話等を口実に面接者を呼び出すなどの方法も実践的工夫のひとつである。
 また面接室においては、職員が必ず入り口に近い席に座り、あらかじめ灰皿等の凶器になりそうな物を撤去しておくなどの状況に対する細かい配慮も必要である。
 なお、感情的な保護者の挑発行為には決して乗らないように注意しなければならない。応じると、相手の駆け引きにはまってしまったり、抑制のきかない保護者の暴力をまともに受けてしまうことにもなりかねない。
 家庭訪問においても、複数で対応することを鉄則とすべきである。必ずしも児童相談所や市町村、施設の職員同士でなくとも、保健師、児童委員等の関係者との同行も有効である。状況によれば、携帯電話の持参も、一定の時間に他の職員がコールしたり、非常時の通信手段にできるなどのメリットがある。

[2]  保護者の性格や心情に配慮したチーム対応
 暴力的な言動を繰り返す保護者は、自らの被虐待体験や困難な生育歴等、複雑な背景を持っており、社会的に未熟で円滑な対人関係を持ちにくい人が多い。劣等感や対人不信が強く、物事を力関係で支配しようとする傾向があるが、対応の基本はやはり、カウンセリングマインドによる相手の心情に対する配慮である。これらの保護者は固有のこだわりを持っていることも多いので、その内容を見極めながら、一定相手の意図を酌む姿勢も示しつつ、現実的な解決方法を提案すると、案外援助者の期待する同意が得られることも少なくない。また、子どもに対する期待と現実の養育の難しさの狭間で虐待的状況に陥っている保護者の苦しい心情に理解を示すことにより、態度が軟化する場合もある。このような保護者の特性と心情を的確に把握するためには、児童福祉司の対応だけに終始することなく、心理職員や精神科医などによるチーム対応も積極的に取り入れて、より有効な対処を工夫すべきである。

[3]  関係機関との連携と法的対応
 保護者の暴力的言動が限界を越え、機関内で対処することが困難と判断したら、速やかに警察に通報し、協力を求めることが望ましい。警察に協力を求めることによって、ソーシャルワーク関係が難しくなるとの考えもあるが、何をしても警察が介入することはないという印象を相手に与えることは、より暴力的言動を継続させる素地を作りやすくするものである。
 児童相談所や施設の職員に対して暴力的な保護者に対しては、無理な要求が続けば、法的対応を検討することを率直に伝えた方がよい。問題の進捗や相手の特性によっては、弁護士との連携を図り、本章8(2)に示すような法的対応を行うことも視野に入れ、毅然とした対応を図ることが混乱を長引かせない最善の対処方法といえるであろう。
 また、精神的に不安定な保護者に対しては、保健所との連携を密にし、精神保健福祉相談員などの協力を得ながら、医療サイドによる働きかけを考慮することも重要である。

(2)  法的対応にはどのようなものがあるのか
 一時保護や施設入所に対して不満な保護者が児童相談所や施設の職員に暴力的な態度をとることは、少なくない。
[1]  最も強力な法的対応は、警察等への告訴又は告発である。児童相談所の立入調査や一時保護の執行の際に警察の援助を求めることができるが、その際に児童相談所の職員に暴行・脅迫が向けられれば、公務執行妨害罪が成立する。児童相談所や市町村の窓口におしかけて暴行・脅迫行為をすれば威力業務妨害罪が成立する。また、施設におしかけて暴行・脅迫行為をすればやはり威力業務妨害罪が成立する。それ以外の場合でも児童相談所や市町村、施設の職員に暴行・傷害・脅迫がなされれば、暴行罪・傷害罪・脅迫罪が成立する。
 虐待への対応については、児童相談所や市町村として毅然とした対応が求められるが、その一つとして犯罪行為が疑われる場合については、客観的事実に基づき告訴又は告発することも必要となる。
 告訴又は告発に際しては、写真や録音テープなどの証拠をそろえることが重要である。
[2]  地方裁判所に民事仮処分命令の申立てをするのも有効である。暴行・脅迫行為の禁止だけでなく、一時保護所や施設の職員に対して面会を強要すること、電話をしつこくかけること等を禁止してもらい、違反があれば制裁金を支払わせることができる。児童相談所や市町村、施設の職員が申し立てることもできるし、業務の妨害を受けている児童相談所長や施設長が申し立てることもできる。いろいろな立場の人から、自分の行為が違法である、と評価されることは、暴力を鎮めることにつながる場合もある。
[3]  一時保護や施設入所そのものに対する不服申立てを促すことも有効であろう。自分の不満を別な立場の人に表明する場を保障することは、やはり暴力を鎮めることになるであろう。
[4]  弁護士を代理人につけるよう促すことも同様に有効である。
 なお一時保護や施設入所前の介入段階で暴力的な傾向が見られる時には、早い時期にこれら法的介入方法をとることも効果がある。その後の不服申立ても含めて、きちんとした枠組みと発言の場をつくる、という意味があるからである。



図4−1
ネットワークのモデル的な実践例

ネットワークのモデル的な実践例の図




表4−1  子ども虐待評価チェックリスト(確認できる事実および疑われる事項)

評価 3:強くあてはまる 2:あてはまる 1:ややあてはまる 0:あてはまらない
子どもの様子(安全の確認) 評価
不自然に子どもが保護者に密着している  
子どもが保護者を怖がっている  
子どもの緊張が高い  
体重・身長が著しく年齢相応でない  
年齢不相応な性的な興味関心・言動がある  
年齢不相応な行儀の良さなど過度のしつけの影響が見られる  
子どもに無表情・凍りついた凝視が見られる  
子どもと保護者の視線がほとんど合わない  
子どもの言動が乱暴  
総合的な医学的診断による所見  
保護者の様子 評価
子どもが受けた外傷や状況と保護者の説明につじつまが合わない  
調査に対して著しく拒否的である  
保護者が「死にたい」「殺したい」「心中したい」などと言う  
保護者が子どもの養育に関して拒否的  
保護者が子どもの養育に関して無関心  
泣いてもあやさない  
絶え間なく子どもを叱る・罵る  
保護者が虐待を認めない  
保護者が環境を改善するつもりがない  
保護者がアルコール・薬物依存症である  
保護者が精神的な問題で診断・治療を受けている  
保護者が医療的な援助に拒否的  
保護者が医療的な援助に無関心  
保護者に働く意思がない  
生活環境 評価
家庭内が著しく乱れている  
家庭内が著しく不衛生である  
不自然な転居歴がある  
家族・子どもの所在が分からなくなる  
過去に虐待歴がある  
家庭内の著しい不和・対立がある  
経済状態が著しく不安定  
子どもの状況をモニタリングする社会資源の可能性  



(別添4−1)   虐待相談・通告受付票 聴取者(                     )
虐待相談・通告受付票


(別添4−2) 
〈警察への援助依頼様式〉
虐待相談・通告受付票

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