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第1章 子ども虐待の援助に関する基本事項

第1章  子ども虐待の援助に関する基本事項

1.  虐待とは何か
(1)  子ども虐待への取り組みの沿革等
 我が国では、昭和8年に児童虐待防止法が制定されている。昭和22年には児童福祉法が制定され児童虐待防止法は廃止されたが、その第34条に児童虐待防止法の禁止事項が掲げられている。当時の子ども虐待の背景には絶対的な貧困と儒教的家父長的家族制度に基づく「私物的我が子観」があり、幼い子どもがその犠牲になっている。
 1973(昭和48)年には、厚生省が「児童の虐待、遺棄、殺害事件に関する調査」、1976(昭和51)年には大阪府児童相談所による「虐待をうけた児童とその家族の調査研究」、1983(昭和58)年には「児童虐待調査研究会による調査」、1988(昭和63)年と1996(平成8)年には全国児童相談所長会による「家庭内虐待調査」が実施されている。
 1989(平成元)年、国連総会で「児童の権利に関する条約」が採択された。その第19条1に「締約国は、児童が父母、法定保護者又は児童を監護する他の者による監護を受けている間において、あらゆる形態の身体的若しくは精神的な暴力、傷害若しくは虐待、放置若しくは怠慢な取扱い、不当な取扱い又は搾取(性的虐待を含む。)からその児童を保護するためすべての適当な立法上、行政上、および教育上の措置をとる。」と明記された。初めて国際条約の中に子ども虐待やネグレクトが明記されたことは画期的なことであった。
 厚生省でも、1990(平成2)年度から児童相談所における虐待を主訴とする相談処理件数を厚生省報告例により公表するとともに、1996(平成8)年度には「児童虐待ケースマネージメントモデル事業」を北海道、栃木県、神奈川県、愛知県、大阪府、山口県、香川県、北九州市の8道府県市において実施し、子ども虐待対応における機関連携を推進することとした。さらに同年度、「子ども虐待防止の手引き」を作成し、学校、保育所、保健所、警察、民生・児童委員(主任児童委員)等、関係機関による児童相談所への通告等を促すこととした。
 1997(平成9)年度には児童福祉法が制定後50年ぶりに大幅に改正され、児童相談所が施設入所等の措置を採るに当たって一定の場合には都道府県児童福祉審議会の意見を聴取することとされ、児童相談所における措置決定の客観化を図るとともに、子ども虐待等複雑・多様化する子ども家庭問題に児童相談所が的確に対応できるよう児童相談所を専門的にバックアップする仕組みが講じられた。さらに、同法の改正では、地域に密着したきめ細かな相談支援を通じて問題の早期発見・早期対応を図るための「児童家庭支援センター」が創設された。
 また、同年6月には一部疑義のあった児童福祉法について解釈の明確化を図るとともに、子どもの福祉を最優先した積極的な取り組みを促す通知が発出された(「児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用について」平成9年6月20日付児発第434号厚生省児童家庭局長通知)。さらに、1998(平成10)年3月にも、虐待問題に対する市町村による広報啓発活動や児童相談所における夜間休日の対応体制の必要性等を盛り込んだ通知が出されている(「児童虐待に関し緊急に対応すべき事項について」平成10年3月31日付児企第13号厚生省児童家庭局企画課長通知)。また、同時に法改正や子ども虐待の増加等に児童相談所が的確に対応できるよう「児童相談所運営指針」が大幅に改定された。
 1999(平成11)年3月には、子ども虐待の対応において中心的な役割を担う児童相談所や児童福祉施設における対応のあり方について、これまでの通知等の趣旨を踏まえつつ具体的に解説した本手引き書を作成した。
 また、同年5月18日に、18歳未満の子どもに対する性的搾取や性的虐待が子どもの権利を著しく侵害し、子どもの心身に有害な影響を及ぼすことから、児童買春や児童ポルノに係る行為等を禁止、処罰するとともに、子どもの権利を擁護するため「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」(以下、「児童買春・ポルノ禁止法」という。)(平成11年法律第52号)が成立し、5月24日に公布され、11月1日に施行された。
 さらに、児童相談所における虐待相談件数の急増、虐待によって最悪の場合生命を奪われ、生命を奪われないまでも心身に重大な被害を受ける子どもが後を絶たないことなどから、国会の衆議院青少年問題に関する特別委員会において、多数の参考人からの意見聴取、児童福祉施設への視察、精力的な集中審議等が実施され、2000(平成12)年5月17日に、子どもに対する虐待の禁止、児童虐待の定義、虐待の防止に関する国及び地方公共団体の責務、虐待を受けた子どもの保護のための措置等を定め、虐待の防止等に関する施策の推進を図ろうとする「児童虐待の防止等に関する法律」(平成12年法律第82号)(以下、「児童虐待防止法」という。)が成立し、5月24日に公布され、11月20日より施行された。
 その後も、2002年(平成14年)には、虐待などにより心身に有害な影響を受けた子どもを養育する里親として、新たに専門里親制度が創設された。さらに2004年(平成16年)には、すべての児童養護施設等に、家庭復帰のための調整や相談を行う家庭支援専門相談員(ファミリーソーシャルワーカー)を配置できる措置が講じられた。
 一方、子どもの権利を擁護するための地方自治体における取り組みも活発化しており、1998(平成10)年10月1日からは神奈川県で「子どもの人権相談室事業(子どもの人権審査委員会)」が、同年11月1日からは東京都で「子どもの権利擁護システム(子どもの権利擁護専門員)」がスタートし、子ども虐待の予防、啓発、適切な社会的介入に大きく貢献している。
 なお、1996(平成8)年には、大阪で「日本子どもの虐待防止研究会」が結成され、以後毎年学術集会が開催されるなど、職域を超えた全国規模の学究的な取り組みも始まっている。
 また、従来の行政機関だけでなく、民間団体による取り組みも活発化してきており、1990(平成2)年には大阪で「児童虐待防止協会」が、1991(平成3)年には東京で「子どもの虐待防止センター」が設立されている。これらの動きが広まり、1995年(平成7)年までには和歌山、栃木、愛知、埼玉に同様の民間団体が設立された。その後も各地での民間団体の設立が相次いでいる。医療、保健、福祉、法曹、教育関係者等が活動の中心になり、子育てに悩む親や虐待されている子ども自身からの電話相談、虐待を受けた子どもや虐待をしてしまう親の法的な弁護、さらには、虐待防止に関する研究活動や研修会の開催など、多様な活動を行っている。
 また、民間団体が都道府県と協定書を結ぶことで、こども虐待の予防や早期発見、適切な対応を図るため、互いの立場を尊重し密接に連携協力するところも現れている。さらに、2004(平成16)年には、全国23の児童虐待防止民間団体が集まって、互いのノウハウを交換し相互協力の民間ネットワークを作るため、「日本子どもの虐待防止民間ネットワーク」が設立されている。(平成17年1月現在25団体)。
 このような取り組みが進められてきたが、その後も深刻な虐待事例が頻発している状況を踏まえ、2004(平成16)年には「児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律」(平成16年法律第30号。以下「平成16年児童虐待防止法改正法」という。)及び「児童福祉法の一部を改正する法律」(平成16年法律第153号。以下「平成16年児童福祉法改正法」という。)が成立し、子ども虐待の定義の明確化、国及び地方公共団体の責務等の強化、児童虐待の通告義務の範囲の拡大、子どもの安全の確認及び安全の確保に万全を期すための規定の整備、児童家庭相談に関する体制の充実、児童福祉施設、里親等の見直し、要保護児童に関する司法関与の見直しなど、子ども虐待防止対策の充実・強化が図られている。
 また、虐待防止への対応が地域に根づき、効果的に実施されていくためには、幅広い国民の理解を深めていくことが不可欠との観点から、2004(平成16)年には、児童虐待防止法の施行月である11月を「児童虐待防止推進月間」と位置付け、集中的な広報・啓発活動が実施された。
 さらに、2004(平成16年)12月に策定された「子ども・子育て応援プラン」においても、「虐待という親子間の最も深刻な事象に対応できる社会を創り上げていくことが、すべての子どもと子育てを大切にする社会づくりにつながる」との認識に立ち、「虐待により子どもが命を落とすことがない社会(児童虐待死の撲滅)」等の実現を目指し、虐待防止ネットワークの設置や児童相談所の夜間対応等の体制整備、施設の小規模化の推進や里親の拡充等について、具体的な目標を立てて、より積極的に施策を推進していくこととされた。
 本手引き書は、子ども虐待に関して基本的な対応ができるための手引きである。なお、児童福祉法上、一時保護や施設入所、里親委託等の行政権限は都道府県(児童相談所)のみに与えられており、また、市町村が児童家庭相談を行うに当たって、医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を必要とする場合には、児童相談所の判定を求めなければならないこととされていることから、第5章から第7章まで、第9章及び第10章では都道府県(児童相談所)の対応を中心に記述している。
 また、子ども虐待への対応については、本手引き書によるほか、児童相談所にあっては「児童相談所運営指針」(平成2年3月5日雇児発第133号)等を、市町村においては、「市町村児童家庭相談援助指針」(平成17年2月14日雇児発第0214002号)等を参照のこと。

(2)  子ども虐待のとらえ方等
(1)  子ども虐待のとらえ方
 子ども虐待は、子どもの心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、次の世代に引き継がれるおそれもあるものであり、子どもに対する最も重大な権利侵害である。このことは、平成16年児童虐待防止法改正法においても確認されており、同法の目的として、子ども虐待が子どもの人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすことに鑑み、子ども虐待の防止等に関する施策を推進する旨が明記された。
 子ども虐待への対応に際しては、常にこうした認識に立ち、「子どもの権利擁護」を図るよう努めることが求められる。また、もとより、子ども虐待は、家庭内におけるしつけとは明確に異なり、懲戒権などの親権によって正当化されるものではないことは言うまでもない。
 平成16年児童虐待防止法改正法により、同法の目的として、子ども虐待が子どもの「人権を著しく侵害し、その心身の成長及び人格の形成に重大な影響を与えるとともに、我が国における将来の世代の育成にも懸念を及ぼすこと」にかんがみ、子ども虐待の防止等に関する施策を推進することが明記されたことに留意した対応が必要である。

(2)  子ども虐待の定義
 子ども虐待については様々な定義が試みられてきたが、児童虐待防止法においては、「児童虐待」を殴る、蹴るなどの身体的暴行や、性的暴行によるものだけでなく、心理的虐待やネグレクトも含むものであることを明確に定義している。
 具体的には、児童虐待防止法第2条において、「この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。」と規定され、
ア. 児童の身体に外傷が生じ、又は生じる恐れのある暴行を加えること。
イ. 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
ウ. 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前2号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
エ. 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
と4つの行為類型が規定された。具体的には、以下のものが児童虐待に該当する。
ア. 身体的虐待(第1号)
外傷とは打撲傷、あざ(内出血)、骨折、頭蓋内出血などの頭部外傷、内臓損傷、刺傷、たばこなどによる火傷など。
生命に危険のある暴行とは首を絞める、殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物をのませる、食事を与えない、冬戸外にしめだす、縄などにより一室に拘束するなど。
意図的に子どもを病気にさせる。
など
イ. 性的虐待(第2号)
子どもへの性交、性的暴行、性的行為の強要・教唆など。
性器を触る又は触らせるなどの性的暴力、性的行為の強要・教唆など。
性器や性交を見せる。
ポルノグラフィーの被写体などに子どもを強要する。
など
ウ. ネグレクト(第3号)
子どもの健康・安全への配慮を怠っているなど。例えば、(1)家に閉じこめる(子どもの意思に反して学校等に登校させない)、(2)重大な病気になっても病院に連れて行かない、(3)乳幼児を家に残したまま度々外出する、(4)乳幼児を車の中に放置するなど。
子どもにとって必要な情緒的欲求に応えていない(愛情遮断など)。
食事、衣服、住居などが極端に不適切で、健康状態を損なうほどの無関心・怠慢など。
 例えば、(1)適切な食事を与えない、(2)下着など長期間ひどく不潔なままにする、(3)極端に不潔な環境の中で生活をさせるなど。
親がパチンコに熱中している間、乳幼児を自動車の中に放置し、熱中症で子どもが死亡したり、誘拐されたり、乳幼児だけを家に残して火災で子どもが焼死したりする事件も、ネグレクトという虐待の結果であることに留意すべきである。
子どもを遺棄する。
祖父母、きょうだい、保護者の恋人などの同居人がア、イ又はエに掲げる行為と同様の行為を行っているにもかかわらず、それを放置する。
など
エ. 心理的虐待(第4号)
ことばによる脅かし、脅迫など。
子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど。
子どもの心を傷つけることを繰り返し言う。
子どもの自尊心を傷つけるような言動など。
他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする。
子どもの面前で配偶者やその他の家族などに対し暴力をふるう。
など

(3)  「保護者」及び「監護する」の解釈
 子ども虐待に係る「保護者」及び「監護する」については、基本的に児童福祉法第6条における「保護者」及び「監護する」と同様に解釈すべきである。
 すなわち「保護者」とは、親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護、保護している場合の者をいう。そのため、親権者や未成年後見人であっても、子どもの養育を他人に委ねている場合は保護者ではない。他方で、親権者や未成年後見人でなくても、例えば、子どもの母親と内縁関係にある者も、子どもを現実に監督、保護している場合には保護者に該当する。「現に監護する」とは、必ずしも、子どもと同居して監督、保護しなくともよいが、少なくともその子どもの所在、動静を知り、客観的にその監護の状態が継続していると認められ、また、保護者たるべき者が監護を行う意思があると認められるものでなければならない。
 また、子どもが入所している児童福祉施設の長は、子どもを現に監護している者であり、「保護者」に該当する。このため、児童福祉施設の長による虐待は児童虐待防止法第2条に規定する「児童虐待」に該当し、同居している施設職員が行う虐待を放置した場合は、ネグレクトと評価されることとなる。
 なお、施設長や職員によるいわゆる体罰は、児童虐待防止法第3条に規定する「虐待」に該当し許されるものではなく、また、児童福祉施設最低基準(昭和23年厚生省令第63号)により懲戒に係る権限の濫用として禁止されている。これに反する場合には最低基準違反として行政処分等の改善措置が図られることとなる。

(4)  虐待の判断に当たっての留意点
 個別事例において虐待であるかどうかの判断は、児童虐待防止法の定義に基づき行われるのは当然であるが、子どもの状況、保護者の状況、生活環境等から総合的に判断するべきである。その際留意すべきは子どもの側に立って判断すべきであるということである。
 虐待を判断するに当たっては、以下のような考え方が有効であろう。
 「虐待の定義はあくまで子ども側の定義であり、親の意図とは無関係です。その子が嫌いだから、憎いから、意図的にするから、虐待と言うのではありません。親はいくら一生懸命であっても、その子をかわいいと思っていても、子ども側にとって有害な行為であれば虐待なのです。我々がその行為を親の意図で判断するのではなく、子どもにとって有害かどうかで判断するように視点を変えなければなりません。」(小林美智子,1994)

(5)  児童に対する虐待の禁止
 児童虐待防止法第3条は、「何人も、児童に対し、虐待をしてはならない」としているが、これは、保護者による虐待のみならず、そもそも本来保護すべき子どもに対して何人も「虐待」をすることは許されないことを規定したものである。
 本条でいう「虐待」とは、第2条で規定されている保護者による児童虐待のみならず、幅広く子どもの福祉を害する行為や不作為を含むものである。また、同法第3条において、何人も子どもに対する様々な虐待行為(児童福祉法第34条や児童買春・ポルノ禁止法に掲げる禁止事項や、暴行罪、傷害罪、保護責任者遺棄罪、強制わいせつ罪等はもちろん含まれる。)をしてはならないことが規定されていることに留意すべきである。
 なお、保護者以外の者からの虐待を受けている子どもについても、児童福祉法にいう「要保護児童」に該当し、同法に基づく通告および保護の対象になるものである。

(6)  虐待の子どもへの影響
 子ども虐待は、子どもに対するもっとも重大な権利侵害である。
 前述のように、子ども虐待はいくつかのタイプに分けられ、それぞれのタイプによる心身への影響は異なる面はあるが、いずれにおいても子どもの心身に深刻な影響をもたらすものである。また、多くの事例においては、いくつかのタイプの虐待が複合していることに注意しなければならない。
 虐待の子どもへの影響としては、死亡、頭蓋内出血・骨折・火傷などによる身体的障害、暴力を受ける体験からトラウマ(心的外傷)を持ち、そこから派生する様々な精神症状(不安、情緒不安定)、栄養・感覚刺激の不足による発育障害や発達遅滞、安定した愛着関係を経験できないことによる対人関係障害(緊張、乱暴、ひきこもり)、自尊心の欠如(低い自己評価)等、様々な内容、程度がある。

(参考)【マルトリートメント】
   諸外国では、「マルトリートメント」という概念が一般化している。諸外国における「マルトリートメント」とは、身体的、性的、心理的虐待及びネグレクトであり、日本の児童虐待に相当する。


2.   子ども虐待防止対策の基本的考え方
 1(2)で述べたように、子ども虐待は、子どもに対する最も重大な権利侵害であり、この点は、児童虐待防止法の目的にも明示されている。そして、その取り組みを推進するに当たっては、常に「子どもの最善の利益」への配慮を基本理念とし、平成16年児童虐待防止法改正法や平成16年児童福祉法改正法の趣旨を踏まえ、以下の視点を基本に据えて施策を展開することが必要である。

(1)  発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至るまでの切れ目のない支援
 子ども虐待防止対策の目標は、虐待という重大な権利侵害から子どもを守り、子どもが心身ともに健全に成長し、ひいては社会的自立に至るまでを支援することにある。
 早期発見・対応のみならず、発生予防から虐待を受けた子どもの自立に至るまでの各段階において、こうした「子どもの権利擁護」という理念に立脚した多様な関係機関による切れ目のない支援体制が必要である。
 この点に関連して、平成16年児童虐待防止法改正法において、国及び地方公共団体は、子ども虐待の発生予防から虐待を受けた子どもの自立の支援に至るまでの各段階において責務を有している旨が明記された。
 特に、子ども虐待の特性(家庭(地域)内で発生、虐待と認めない親が多いなど)にかんがみ、その解決に向け、親の意向や個人のプライバシ−には最大限配慮しつつも、幅広い関係機関が、積極的に親・子にアプロ−チする形での支援、すなわち、待ちの支援から要支援家庭への積極的なアプロ−チによる支援が必要である。

(2)  親子の再統合の促進への配慮その他の虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮をした、子どものみならず親を含めた家庭への支援
 子どもがその保護者から虐待を受けた場合、必要に応じて子どもを保護者から一時的に引き離すことがあるが、保護者が虐待の事実と真摯に向き合い、再び子どもとともに生活できるようになる(「親子の再統合」)のであれば、それは子どもの福祉にとって最も望ましい。
 しかしながら、深刻な虐待事例の中には、子どもが再び保護者と生活をともにすることが、子どもの福祉にとって必ずしも望ましいとは考えられない事例もある。このような場合まで親子の再統合を促進するものではない。
 いずれの場合であっても、子どもの健全育成には、良好な家庭的環境で生活することが望ましいものである。このため、良好な家庭的環境での生活の実現をめざし、幅広い関係機関が連携を図りつつ、子どもに対する支援はもとより親(里親を含む。)も含めた家族を支援していくことが必要である。
 この点については、平成16年児童虐待防止法改正法においても確認されており、虐待を行った保護者に対する指導については、親子の再統合への配慮その他の虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮の下に行われなければならないとされた。

(3)  虐待の発生予防・早期発見からその後の見守りやケア、親子の再統合の支援に至る関係機関の連携による支援
 虐待を受けている子どもの早期発見や適切な保護を図るためには、関係機関がその子ども等に関する情報や考え方を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要である。
 このため、平成16年児童福祉法改正法において、虐待を受けた子どもを始めとする要保護児童等に関し、関係者間で情報の交換と支援の協議を行う機関として「要保護児童対策地域協議会」を法的に位置づけるとともに、その運営の中核となる調整機関を置くことや、地域協議会の構成員に守秘義務を課すこととされた。
 各市町村において、要保護児童対策地域協議会を設置するなど、関係機関が適切な連携の下で、虐待の発生予防・早期発見からその後の見守りやケア、親子の再統合の支援に至る取り組みを進めていくことが期待されている。


3.  虐待事例への援助の特質
(1)  保護者の意に反する介入の必要性
 虐待を受けた子どもに対しては、単に保護するだけでなく、心理的治療が不可欠となる。しかも、虐待事例においては、保護者が心配して来所する一般の相談とは異なり、保護者は虐待の事実を認めなかったり、否定したり、気付いていなかったりすることも多く、相談や子どもへのサービスを実施しにくい。虐待の場合には、子どもの生命や健全な成長・発達、ウェルビーイングを守るため、保護者の求めがなくとも、あるいは保護者の意に反しても、介入していかなければならない場合が少なくない。

(2)  諸機関(専門家)の連携の必要性
 このように保護者の同意が得られにくいこと、そしてそのような家庭には多くの困難な要因(条件)が複雑に関与しているために、一機関、一専門家では対応が困難で、相互の連携が不可欠といえる。例えば、保護者が子どもの施設入所に同意しない場合には、弁護士の関与により法的に対応する必要も出てくる。家庭が貧困であったり、病人を抱えていたり、保護者に精神的な問題があれば、福祉事務所や保健所、医療機関等との連携が必要となろう。

(3)  児童相談所と施設、里親との連携の必要性
 虐待事例では、児童福祉司や心理職員による家庭訪問や通所での相談・指導を行う一般の相談とは異なり、親子分離をせざるをえない場合が少なくない。子どもを虐待環境から離し、「安心できる」あるいは「安全である」と感じられる乳児院・児童養護施設や里親のもとに保護しなければならない事例も多い。しかし、通常これら親子分離は、援助の一過程にしか過ぎず、援助の目標は、基本的には家庭復帰である。このため、施設入所や里親委託後の家庭環境調整や子ども、虐待を行った保護者への援助が不可欠であり、入所後の児童相談所と施設の連携が強く求められる。

(4)  虐待をする保護者のリスク
 虐待をする保護者は、子どもにとって、安心できる、情緒的に深いつながりのある大人ではない。したがって、施設入所後、子どもの家庭復帰は慎重にすすめなければならない。「何と言っても親子だから」、「保護者が引き取りを求めているから」と、いわゆる「親子不分離の原則」に基づき、性急に家庭復帰を目指すのは、しばしば危険である。同じように、施設入所後、保護者の面会や自宅への外泊も慎重に計画すべきである。安易な面会、外泊により、子どもが虐待を再体験することもあることに十分留意する必要がある。

(5)  在宅での援助を継続する場合
 必ず子どもの安全が確保できる体制を組むべきであり、保健師、民生・児童委員(主任児童委員)、保育所の保育士、幼稚園・小学校・中学校等の学校の教諭、民間団体等との連携を図る必要がある。このためには、要保護児童対策地域協議会など、関係機関等によるネットワークの構築が必要である。


4.   援助に際しての留意事項
 個々の子ども虐待は極めて多様であるだけでなく、福祉、保健、医療、教育、司法など多岐にわたる問題を抱え、かつその背景やメカニズムも複雑である。したがって、援助に際しては個別的特性を十分に酌み取り、個々の問題に応じた複合的対処をしなければならないが、以下の事項は基本的なこととして留意することが大切である。

(1)  迅速な対応
 子ども虐待は、事例によっては猶予を許さない緊急な対応が必要であることが少なくない。児童相談所や児童福祉施設などの職員は日常業務に追われ多忙を常としていると思われるが、虐待の発見や通告がなされたときは他の業務に先んじて対応を行うことを原則としなければならない。初期の対応が緩慢であったり手間取ることによって取り返しのつかない事態に至る事例が少なからず生じている。このため、児童虐待防止法では、「前2項(第8条第1項及び第2項)の児童の安全の確認、児童相談所への送致又は一時保護を行う者は、速やかにこれを行うよう努めなければならない」(児童虐待防止法第8条第3項)と規定されたことに留意すべきである。
 また、夜間や休日に虐待が発生することもよくあり得ることなので、夜間や休日における相談や通告、あるいは緊急保護の体制を整備し、関係機関や住民に周知するよう努めなければならない。

(2)  組織的な対応
 子ども虐待への援助は、担当者一人の判断で行うことを避けなければならない。発見や通告があれば、即刻受理会議を開いて調査やアプローチの方法、あるいは一定の評価を機関として行わなければならない。その後も情報の収集や機関連携、援助の方向などを組織的協議に則って進めていく必要がある。特に困難な保護者への対応、ポイントとなる調査や機関協議などは複数の職員で対応することを心がけねばならない。担当者一人に負担がかかり過ぎないように組織としてサポートしなければならないし、一視点による判断の弱点を組織としてカバーすることに留意しなければならない。
 また、総合的、多面的に問題をとらえ、より的確な評価や判断を行うためにも、個別事例の取扱いを含め都道府県等の児童福祉担当部局との連携を密にするほか、児童福祉審議会や要保護児童対策地域協議会などを積極的に活用するよう心がけるべきである。

(3)  機関連携による援助
 多様な複合的問題を抱える家族に対しては、一機関の自己完結的な援助で効果をあげることは困難である。したがって、問題に対する対応機能をもった機関との連携が援助にあたっての必須の条件になる。しかし、機関連携が効果を発揮するためにはお互いがそれぞれの立場と機能を十分に理解し、問題に対する認識と援助目標を共有化させる作業が必要である。
 そのためには、関係機関等の代表者による情報交換や個々の事例に則した担当者レベルによる個別ケース検討会議が必要となる。個別ケース検討会議では、相互の役割分担や援助のキーパーソンを定め、随時援助の評価や調整を行っていくことが大切になるが、会議に当たっては事前に機関内で十分に検討することや、必要に応じ機関としての決定権をもつ人の参加が重要になる。また、日ごろからの機関同士の協力関係の維持や職員の相互面識も大変重要な要素であるので、日常的なネットワークの構築や多職種研究会の取り組み等にも積極的に努力すべきである。

(4)  子どもの安全確保の優先
 我が国の制度においては、児童相談所が介入・保護の役割と後の指導・治療の役割を担うため双方のバランスが難しく、できれば保護者と摩擦を起こさないことに注意が注がれることになりがちである。しかし、個々の子どもにとっては安全確保こそが最優先課題であることを常に意識しておかなければならない。保護者との関係性に配慮が行き過ぎることによって介入や保護の判断が鈍り、結果として子どもが犠牲になってしまう事例が少なからず生じていることを援助に関わる者は十分、肝に銘じるべきである。関係者との協議や要保護児童対策地域協議会においても、危険性を最も懸念している人の判断に立った上で援助を展開していくことを原則とすべきである。また、保護者に対し一貫性のある毅然たる対応を採った結果、後に保護者との良好な信頼関係が形成されるケースも多いとの指摘があることにも留意する必要がある。

(5)  家族の構造的問題としての把握
 子ども虐待が生じる家族は、保護者の性格、経済、就労、夫婦関係、住居、近隣関係、医療的課題、子どもの特性等々、実に多様な問題が複合、連鎖的に作用し、構造的背景を伴っているという理解が大切である。したがって、単なる一時的な助言や注意、あるいは経過観察だけでは改善が望みにくいということを常に意識しておかなければならない。放置すれば循環的に事態が悪化・膠着化するのが通常であり、積極的介入型の援助を展開していくことが重要との認識が必要である。また、家族全体としての問題やメカニズムの把握の視点と、トータルな家族に対する援助が必要不可欠である。

(6)  保護者への援助
 虐待への対応において、これまでは、まず子どもの安全の確保、保護を中心とした対応が進められてきた。そのことは当然のこととして、虐待を行った者に対する対応も今後重要となる分野である。援助に際しては、在宅にせよ、親子分離にせよ、子どもと保護者の双方の自己実現への支援という観点も踏まえ、適切な親子関係を基本とする親子の再統合その他の良好な家庭的環境での生活が援助の際の究極の目標であり、その目標に沿った援助を進めることが必要である。

(7)  基本としてのカウンセリングマインド
 介入と保護とは一見矛盾するが、保護者も往々にして虐待の被害者であったり、様々な困難に直面している者であることが多いので、できるかぎり保護者の心情や背景を酌み取った面接や対応に心がけるべきである。その意味で保護者のニーズに沿う介入や援助を相手の特性や状況に応じて種々工夫し、相手にとってもメリットのある手立てや納得のいく方法をいろいろな角度から検討・吟味すべきである。しかし、その効果と全体的な虐待の状況、危険性、家族や保護者の特性などを総合的に勘案・評価し、受容的アプローチと介入型アプローチ、行政権限・司法的介入の手法選択を、極力早期に決断すべきである。

(8)  親権の制限と権限の行使
 行政権限による一時保護や家庭裁判所への審判申立てなどの手法は、何らかの形で親権の制限を伴うものであり、保護者との信頼関係に基づいて援助活動を展開する従来のソーシャルワークの基本から言えば違和感を感じることがあるかもしれないが、子ども虐待の援助においては必要不可欠な援助手法である。特に児童福祉法において唯一法的権限を与えられている児童相談所は、他の機関では代替できない権限を持った機関であることを強く認識し、権限発動の社会的使命を担っているとの自覚が必要である。
 したがって、状況に応じた速やかな決断と実行が求められることになるが、早い段階で保護者に仕組み(保護者と子どもや機関の意見が異なれば裁判所の判断を仰がなければならない)を伝え、かつ裁判所へ審判を申し立てることが事態の打開につながり、子どもにとって望ましい支援につながる場合があることや、後のソーシャルワーク関係回復にも良い結果をもたらす場合が多いことを認識すべきである。


5.   子どもの自立支援とは何か
(1)  自立とは
 平成6年の「児童の権利に関する条約」の批准、発効などを背景として、子どもを単に保護、養育の対象としてとらえるのではなく、その人格と主体性を尊重しつつ、調和のとれた成長発達を援助していくべきであるとの認識が高まってきた。
 自立をどのように考えるかは様々な意見があるが、一般に、●経済的職業的自立、●心理的社会的自立、●生活技術的自立などの側面があげられる。
 ただ、ここで強調したいことは、自立とは、何でもかんでも一人でやらなければならないということではないことである。自立するとは、できることは自分でし、できないことは人に頼れることといえる。
 大人でも子どもでも、日々生活していれば、自分の手に余ること、自分では解決困難な事態に、しばしば出会う。人の手、あるいは人の知恵を借りなければならないことはしばしば起きてくる。したがって、人の手、人の知恵を借りられることは生活する上で大事なことである。自立は孤立ではない。そのように考えると、自立するためには、困ったときには助けてもらえるという体験を重ねることが重要であり、自分にとって重要な人物との間に愛情と信頼のしっかりした絆(attachment)を確立することが前提となろう。
 近年の子育て状況をみると、子どもの個性が十分尊重されず、知情意の中で「知」のみが重視されがちである。他方、我が国では、我が子を私物視する傾向が根強く、その結果、子どもが自発性を発揮し、自ら試み、その結果に責任を持つという経験をする機会も乏しい。子育て観の変革が望まれる。

(2)  自立支援の理念
 自立支援の理念は、厚生省児童家庭局家庭福祉課監修の「児童自立支援ハンドブック(P.18)」に、次のように適切にまとめられている。
 「児童の自立を支援していくとは、一人ひとりの児童が個性豊かでたくましく、思いやりのある人間として成長し、健全な社会人として自立した社会生活を営んでいけるよう、自主性や自発性、自ら判断し、決定する力を育て、児童の特性と能力に応じて基本的生活習慣や社会生活技術(ソーシャルスキル)、就労習慣と社会規範を身につけ、総合的な生活力が習得できるよう支援していくことである。」
 問題は、ここに述べられていることをどう実現していくか、ということである。自立のキーワードは「自主性や自発性、自ら判断し、決定する力」と考えられるが、こうした「力を育て」るためには、子どもが選択をし、そのことに責任を持つという体験が不可欠といえよう。つまり、自己決定と自己責任の機会を子どもが持てるようにすることが重要である。
 従来、我が国では、子どものことは保護者が決めるという文化的伝統が根強くあった。それは、日々の生活においても、また両親が離婚してどちらのもとで子どもを暮らさせるかということや施設入所の判断など、子どもの生活に直接関わる重大事でも、そうであった。つまり、子どもの考えを聞き、意向を確認するという作業をすることは少なかった。しかし、子どもの自立を支援するためには、大人の子どもへの関わり方を変えなければならない。
 ここで重要なことは、第1に、子どもの考えをよく聞く機会を持つこと、第2に、選択し、判断し、決定するためには、子どもに分かるように、必要な情報が提供されなければならないということである。例えば、子どもが有する権利について分かりやすく解説したガイドブックである「子どもの権利ノート」のようなものが施設入所に当たっては必要になるであろう。


6.   守秘義務について
(1)  児童相談所職員及び市町村職員の守秘義務について
 児童相談所職員及び市町村職員の守秘義務についての規定をみると、児童福祉法第61条に「児童相談所において、相談、調査および判定に従事した者が、正当の理由なく、その職務上取り扱つたことについて知得した人の秘密を漏らし(てはならない)」とあり、また地方公務員法第34条に「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」という規定がある。
 したがって、児童相談所職員又は市町村職員が職務上知り得た情報を第三者に提供することは、正当な理由がないかぎり(地方公務員法にはこの言葉はないが同様に解されている)、守秘義務に違反し、刑事処罰の対象になる。
 そこで「正当な理由」の意味が問題となるが、[1]他の法律で(提供することが)義務とされている場合、[2]本人の承諾がある場合、[3]他人の正当な利益を保護することとの比較において、秘密を提供する方が重要である場合、と解されている。
 医療関係者や公務員が、職務上知った虐待の事実を児童相談所へ通告しても守秘義務違反にならないのは、[1]の理由、すなわち児童福祉法第25条の通告義務を果たすことになるからである。
 しかし、現実には守秘義務違反に当たるのではないかと通告者が躊躇することがあり得たことから、児童虐待防止法第6条において児童虐待を発見した者が児童相談所に通告することは守秘義務違反に当たらないことを法律上明記し、躊躇なく通告を行うことを促進している。
 一方、他の法律で(提供することが)義務とはされていない場合に児童相談所職員又は市町村職員が第三者へ情報を提供することについては、[3]の要件を満たせば、違反とはならない。例えば、施設入所措置に伴い子どもの養育に必要な情報を施設に提供する場合や家庭裁判所へ児童福祉法第28条による承認の申立て等をするための資料とする場合が、その典型であるが、虐待事例の解決のため、民間団体を含む関係機関へ情報を提供する場合も含まれる。
 関係機関への情報提供の延長として、例えば(児童相談所でなく)親族が親権喪失宣告申立てや親権者変更申立てをする場合でも、児童相談所として問題解決のために相当と判断できる時には、家庭裁判所への資料提供に協力することも許されるであろう。
 以上のとおり、虐待の予防や解決のために必要な範囲で情報を第三者に提供することは、守秘義務違反に当たらず、刑事処罰の対象になることはない。
 なお、児童虐待防止法第7条においては、「・・・市町村、都道府県の設置する福祉事務所又は児童相談所の所長、所員その他の職員及び当該通告を仲介した児童委員は、その職務上知り得た事項であって当該通告をした者を特定させるものを漏らしてはならない。」と規定されている。
 これは、虐待を行っている親等に対して通告をしたことが漏れることにより、近隣住民などが、通告を躊躇することがあってはならないとの趣旨から設けられたものである。
 虐待を受けた子どもの保護のために通告を受けた市町村、都道府県の設置する福祉事務所又は児童相談所等が、警察、学校、保健所、医療機関、家庭裁判所等関係機関と密接な連携を行い、情報を共有し、子どもの保護が円滑適切に行われるための情報交換、協議を妨げるものではない。
 なお、守秘義務違反は刑事処罰の問題にだけでなく、民事責任の問題にもなり得る。すなわち、その情報が保護者の名誉やプライバシーに関する事項であれば、保護者から民事の損害賠償請求を起こされる可能性もあり得るが、虐待またはその疑いが十分にあった時は、「正当な理由」がある場合として、賠償義務を負うことはないと考えられる。

(2)  関係者の守秘義務について
 (1)でふれたように、児童相談所や市町村以外の関係者が児童相談所や市町村から、あるいは関係機関の協議の場を通じて他の機関から提供された情報については、(情報公開の対象となっていない限り)関係者も守秘義務を負う。関係者が公務員であれば職務上知り得た情報ということになるので、公務員法により当然守秘義務を負うことになる。
 関係者が民間団体メンバーであれば、ストレートに守秘義務を定めた法律の規定はないが(したがって、刑事責任の問題にはならないが)、正当な理由なく他人に秘密を漏らした場合には、名誉やプライバシーの侵害として民事責任を負うことはあり得る。
 したがって、児童相談所としては、秘密を保持できる意思と能力のある民間団体でなければ、連携の対象として情報を提供することはできない。
 この点で参考になるのは、北海道の子どもの虐待防止協会が北海道児童相談所長等協議会との間で取り交わした「被虐待児童の相談援助に関する覚書」である。この覚書では双方の具体的な連携をうたったうえで、第4条(プライバシー保護)として「児童相談所および防止協会は(情報の)保管および事例検討会の運営に当たって、相談援助活動上知り得た個人のプライバシーの保護に細心の注意をする。」と定めている。この場合には防止協会の守秘義務は契約(覚書)に基づく義務になった、ということができる。
 また、民間団体では自らの活動として虐待に関する相談を受ける中で情報を収集しているが、医療機関の守秘義務に準じて、(条理上の)守秘義務を負っている、といってよいであろう。相談者もそれを信頼して情報を提供しているのであるから、「正当の理由」がない限り(児童相談所への提供や関係機関の協議の場での提供はこれに当たる)、他へ漏洩してはならない。
 実際には、各地の虐待防止の民間団体では、入手した情報の管理について気を配っており、事例について法的介入が必要であるとして複数の弁護士にファックスで応援を求める場合でも、保護者と子の氏名住所等の特定事項は記載せず、確定的に応援が決まった段階で、完全な情報を提供するようにしている。(この時点で弁護士は職務上の守秘義務を負うことになる。)

(3)  要保護児童対策地域協議会の構成員の守秘義務について
 要保護児童の適切な保護を図るためには、市町村において取組が進められてきた虐待防止ネットワークのように、関係機関がその子ども等に関する情報や認識を共有し、適切な連携の下で対応していくことが重要である。
 しかしながら、個人情報保護の要請が高まる中、関係機関における情報の共有と個人情報保護の関係が明確ではないため、関係機関から子どもの保護に必要な情報が円滑に提供されず、子どもの適切な保護を図る上で支障をきたしているとの指摘もあった。また、民間団体による活動は子ども虐待防止対策において重要な役割を果たしているにもかかわらず、守秘義務を負わないことから虐待防止ネットワークへの参加を懸念する指摘もあった。
 このため、要保護児童対策地域協議会に係る規定の整備に当たっては、関係機関が個人情報保護に関する懸念を抱くことなく、情報の共有ができるよう、要保護児童等に関する情報の交換等を行う要保護児童対策地域協議会の構成員に守秘義務をかけることとした。
 また、要保護児童対策地域協議会は、保護を要する子ども等に関する情報の交換や支援の内容に関する協議を行うために必要があると認めるときは、関係機関等に対し、資料又は情報の提供、意見の開陳その他必要な協力を求めることができることとされている(児童福祉法第25条の3)。
 この協力要請は、要保護児童対策地域協議会の構成員以外の関係機関等に対して行うことも可能であるが、この要請に基づき当該関係機関等から協議会に対し一方的に情報の提供等が行われる場合はともかく、今後の支援の内容に関する協議など、当該関係機関等と協議会の構成員の間で双方向の情報の交換等を行うことが見込まれる場合には、協力要請時に守秘義務が課せられる要保護児童対策地域協議会の構成員なることについても要請することが適当である。
 なお、医師や地方公務員等については、他の法令により守秘義務が課せられているが、保護を要する子どもの適切な保護を図るために、この規定に基づき情報を提供する場合には、基本的にはこれらの法令による守秘義務に反することとはならないものと考えられる。
 また、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)においては、本人の同意を得ない限り、[1]あらかじめ特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱ってはならないとともに、[2]第三者に個人データを提供してはならないこととされている。(個人情報の保護に関する法律第16条及び第23条)
 しかしながら、「法令に基づく場合」は、これらの規定は適用されないこととされており、児童福祉法第25条の3に基づく協力要請に応じる場合は、この「法令に基づく場合」に該当するものであり、個人情報保護法に違反することにもならないものと考えられる。

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