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第1章 児童相談所の概要

第1章   児童相談所の概要
第1節   児童相談所の性格と任務
1. 児童相談所の設置目的と相談援助活動の理念
(1)  児童相談所は、市町村と適切な役割分担・連携を図りつつ、子どもに関する家庭その他からの相談に応じ、子どもが有する問題又は子どもの真のニ−ズ、子どもの置かれた環境の状況等を的確に捉え、個々の子どもや家庭に最も効果的な援助を行い、もって子どもの福祉を図るとともに、その権利を擁護すること(以下「相談援助活動」という。)を主たる目的として都道府県、指定都市(地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市をいう。以下同じ。)及び児童相談所設置市(児童福祉法(昭和22年法律第164号。以下「法」という。)第59条の4第1項の児童相談所設置市をいう。以下同じ。)(以下「都道府県等」という。)に設置される行政機関である。
(2)  児童相談所における相談援助活動は、すべての子どもが心身ともに健やかに育ち、その持てる力を最大限に発揮することができるよう子ども及びその家庭等を援助することを目的とし、児童福祉の理念及び児童育成の責任の原理に基づき行われる。このため、常に子どもの最善の利益を考慮し、援助活動を展開していくことが必要である。
(3)  児童相談所は、この目的を達成するために、基本的に次の3つの条件を満たしている必要がある。
   [1]  児童福祉に関する高い専門性を有していること
   [2]  地域住民に浸透した機関であること
   [3]  児童福祉に関する機関、施設等との連携が十分に図られていること
(4)  児童相談所は、上記理念に基づき、子どもの問題に対し一貫した相談援助活動を行うとともに、都道府県等の児童福祉主管部局とも連携しつつ、相談援助活動を総合的に企画し、これを実施していくことが必要である。
(5)  近年、児童虐待が増加するなど、子どもや家庭をめぐる問題が複雑・多様化しており、問題が深刻化する前の早期発見・早期対応を図るとともに、地域におけるきめ細かな援助が求められている。こうした中、児童相談所については、児童虐待の防止等に関する法律(平成12年法律第82号。以下「児童虐待防止法」という。)の施行を契機として、一定の体制の充実が図られてきたが、深刻な児童虐待事例が依然として頻発している状況を踏まえ、平成16年には児童虐待の防止等に関する法律の一部を改正する法律(平成16年法律第30号)及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成16年法律第153号。以下「平成16年児童福祉法改正法」という。)が成立し、児童虐待の定義の明確化、国及び地方公共団体の責務等の強化、児童虐待の通告義務の範囲の拡大、子どもの安全の確認及び安全の確保に万全を期すための規定の整備、児童家庭相談に関する体制の充実、児童福祉施設、里親等の見直し、要保護児童に関する司法関与の見直しなど、児童虐待防止対策を始めとする要保護児童対策の充実・強化が図られたところである。
      児童相談所は、こうした法律改正の趣旨を踏まえ、児童虐待防止対策の一層の充実・強化を図っていくことが必要である。とりわけ、児童家庭相談に応じる市町村に対して適切な支援を行うとともに、効果的な援助が期待できるソーシャルワークの技法の開発や確立はもとより、医療、保健、法律その他の幅広い専門機関や職種との連携強化、司法関与の仕組みの有効活用等により、迅速かつ的確な対応を図るとともに、親子の再統合の促進への配慮その他の児童虐待を受けた子どもが良好な家庭的環境で生活するために必要な配慮の下、子どものみならず保護者も含めた家庭への支援に一層積極的に取り組むことが重要である。
(6)  児童虐待について、効果的な援助の実施を図るには、地域における関係機関がネットワークを形成し、相互に役割分担しながら一体となって援助活動を行うことが重要であるが、児童相談所は、児童福祉の中核的専門機関として、市町村における要保護児童対策地域協議会の設置や運営を支援するなど、関係機関等の連携に基づく地域援助活動の展開に向けて、市町村とともに中心的な役割を果たすことが求められる。
(7)  問題の早期段階での相談・通告等を促すため、あらゆる機会並びに多面的な媒介手段により、児童相談所を含む地域の児童家庭相談体制について、家庭、地域住民、関係機関等への周知に努める。
 
2. 児童相談所の任務、機能
(1)  従来は、あらゆる児童家庭相談について児童相談所が対応することとされてきたが、近年、児童虐待相談等の急増により、緊急かつより高度な専門的対応が求められる一方で、育児不安等を背景に、身近な子育て相談ニーズも増大しており、こうした幅広い相談全てを児童相談所のみが受け止めることは必ずしも効率的ではなく、市町村をはじめ多様な機関によるきめ細やかな対応が求められている。
      こうした状況を踏まえ、平成16年児童福祉法改正法により、平成17年4月から、
   [1]児童家庭相談に応じることを市町村の業務として法律上明確にし、住民に身近な市町村において、虐待の未然防止・早期発見を中心に積極的な取組みを求めつつ、
   [2]都道府県等(児童相談所)の役割を、専門的な知識及び技術を必要とする事例への対応や市町村の後方支援に重点化し、
   [3]さらに保護者に対する指導に家庭裁判所が関与する仕組みを導入するなど司法関与の強化を行う等の措置を講じ、児童家庭相談に関わる主体を増加させるとともに、その役割を明確化することにより、全体として地域における児童家庭相談体制の充実を図ることとされた。
(2)  具体的には、市町村は児童福祉法の施行に関し、次に掲げる業務を行うこととされている(法第10条第1項各号)。
[1]子ども及び妊産婦の福祉に関し、必要な実情の把握に努めること。
[2]子ども及び妊産婦の福祉に関し、必要な情報の提供を行うこと。
[3]子ども及び妊産婦の福祉に関し、家庭その他からの相談に応じ、必要な調査及び指導を行うこと並びにこれらに付随する業務を行うこと。
(3)  これに対し、都道府県等は次に掲げる業務を行うこととされ、児童相談所は、こうした業務のうち、子どもの福祉に関し、主として[1]及び[2]のイからオまでに掲げる業務を行うものとされている。(法第11条第1項各号及び第12条第2項)
[1](2)に掲げる市町村の業務の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供その他必要な援助を行うこと及びこれらに付随する業務を行うこと。
[2]子ども及び妊産婦の福祉に関し、主として次に掲げる業務を行うこと。
ア   各市町村の区域を超えた広域的な見地から、実情の把握に努めること。
イ   子どもに関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応ずること。
ウ   子ども及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行うこと。
エ   子ども及びその保護者につき、ウの調査又は判定に基づいて必要な指導を行うこと。
オ   子どもの一時保護を行うこと。
(4)  その上で、こうした市町村と都道府県の連携については、まず市町村長は、
[1](2)の[3]に掲げる業務のうち専門的な知識及び技術を必要とするものについては、児童相談所の技術的援助及び助言を求めなければならず(法第10条第2項)、
[2](2)の[3]に掲げる業務を行うに当たって、医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を必要とする場合には、児童相談所の判定を求めなければならない。(法第10条第3項)
(5)  他方、都道府県知事は、市町村の(2)に掲げる業務の適切な実施を確保するため必要があると認めるときは、市町村に対し、必要な助言を行うことができる。(法第11条第2項)
(6)  このように児童相談所は、相談援助活動の理念を実現するため、児童家庭相談に関する一義的な相談窓口である市町村との適切な役割分担・連携を図りつつ、次の機能等を十分に発揮、活用し、その任務を果たしていく必要がある。
ア   基本的機能
(ア)  市町村援助機能
市町村による児童家庭相談への対応について、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供その他必要な援助を行う機能(法第12条第2項)
(イ)  相談機能
子どもに関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものについて、必要に応じて子どもの家庭、地域状況、生活歴や発達、性格、行動等について専門的な角度から総合的に調査、診断、判定(総合診断)し、それに基づいて援助指針を定め、自ら又は関係機関等を活用し一貫した子どもの援助を行う機能(法第12条第2項)
(ウ)  一時保護機能
必要に応じて子どもを家庭から離して一時保護する機能(法第12条第2項、第12条の4、第33条)
(エ)  措置機能
子ども又はその保護者を児童福祉司、児童委員(主任児童委員を含む。以下同じ。)、児童家庭支援センター等に指導させ、又は子どもを児童福祉施設、指定医療機関に入所させ、又は里親に委託する等の機能(法第26条、第27条(法第32条による都道府県知事(指定都市又は児童相談所設置市の市長を含む。) の権限の委任)
イ   民法上の権限
親権者の親権喪失宣告の請求、未成年後見人選任及び解任の請求を家庭裁判所に対して行うことができる。(法第33条の6、第33条の7、第33条の8)
(8)  その他児童相談所は地域の必要に応じ、子どもや家庭に対する相談援助活動の総合的企画及びその実施を行う機関として、家庭、地域における児童養育を支援する活動を積極的に展開するとともに、地域における各機関が相互の役割や業務の内容等について正しく理解し、子どもや家庭の問題に対し共通の認識のもとに一体的な援助活動が行えるよう、市町村における要保護児童対策地域協議会の設置や運営の支援など、市町村とともに関係機関のネットワーク化を推進する。
 
3. 児童相談所の設置
(1)  児童相談所はその任務、性格に鑑み、都道府県(指定都市を含む。)に設置義務が課されている。(法第12条、第59条の4、地方自治法第156条別表5)
また、平成16年児童福祉法改正法により、平成18年4月からは、中核市程度の人口規模(30万人以上)を有する市を念頭に、政令で指定する市(児童相談所設置市)も、児童相談所を設置することができることとされた。(法第59条の4第1項)
この場合の設置数は、人口50万人に最低1か所程度が必要であり、各都道府県等の実情(地理的条件、利用者の利便、特殊事情等)に対応して設置されることが適当である。
児童相談所を設置し、又はその設備の規模及び構造等を変更したときは、児童福祉法施行規則(昭和23年厚生省令第11号。以下「則」という。)第3条に定める事項について厚生労働大臣に報告しなければならない。(児童福祉法施行令(昭和23年政令第74号。以下「令」という。)第3条)
なお、児童相談所を設置するに当たっては、住民、利用者の視点に立った保健・福祉サービスを推進する観点から福祉事務所、保健所、知的障害者更生相談所等の各事務所と統合を推進することも差し支えない。
(2)  児童相談所は管轄区域を有している。管轄区域は、その区域内に居住する子どもの数その他社会的環境等を考慮して定めなければならない。(則第5条の2条)
(3)  都道府県知事、指定都市の長及び児童相談所設置市の長(以下、「都道府県知事等」という。)は都道府県等内の連絡調整や相談援助活動を円滑に行うため、児童相談所のうちの一つを中央児童相談所に指定することができる。(則第4条第1項)
(4)  中央児童相談所は、都道府県等内の児童相談所の実情について把握し、また、連絡調整、技術的援助、情報提供、措置の調整等必要な援助を行っていかなければならない。また、中央児童相談所長は、それぞれ管轄区域をもつ児童相談所を援助しその連絡を図るため他の児童相談所長に対し、必要な事項を報告させることができる。(則第4条第2項、第5条)
(5)  児童相談所設置市に設置された児童相談所については、原則として一時保護所を設置するものとする。但し、都道府県が設置する児童相談所の一時保護所の活用や児童福祉施設への委託などにより、一時保護機能が十分に確保できる体制を整えている場合においてはこの限りではない。
(6)  都道府県知事は、児童相談所設置市の長に対し、その設置する児童相談所の円滑な運営が確保されるように必要な勧告、助言又は援助をすることができる。
具体的には、一時保護や施設入所に関して広域的な調整を行うことや、児童相談所の立ち上げ当初の支援、特に高度な専門的な知識及び技術を要する相談への対応に関して技術的援助や助言を行うことが考えられる。
 
第2節   児童相談所の業務
1. 相談の受付
(1)  児童相談所は子どもに関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を要するものに応ずることとされている(法第12条)。また、専門的な知識及び技術等を必要とする相談について、市町村から児童相談所の技術的援助や助言などを求められた場合、必要な措置を講じなければならない。
なお、子ども本人やその家族など一般の相談者が、自らの相談が専門的な知識及び技術等を要するものであるか否かを判断することは通常困難であり、児童相談所においては、相談の受付自体は幅広く行うこととしつつ、その内容に応じて、市町村等の関係機関中心の対応とする、あるいは自らが中心となって対応していくことが適当である。
(2)  また、要保護児童(保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認められる児童をいう。以下同じ。)を発見した者は、市町村、都道府県の設置する福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならないこととされている。
児童相談所は、地域住民や関係機関から直接通告を受けて、あるいは通告を受けた市町村や都道府県の設置する福祉事務所から送致を受けて援助活動を展開する。
(3)  このほか、少年法の規定に基づく家庭裁判所からの送致を受けて、援助活動を展開することもある。
(4)  児童相談所が対象とする子どもとは18歳未満の者をいうが、第3章第2節にみるようにいくつかの例外規定が設けられている。
(5)  相談の受付については来所、電話、文書等によるものがあるが、巡回相談や電話相談を活発に行う等、利用者の利便を図っていく。
 
2. 相談援助活動の展開
(1)  調査、診断(アセスメントを含む)、判定
児童相談所は、受け付けた相談について主に児童福祉司、相談員等により行われる調査に基づく社会診断、児童心理司等による心理診断、医師による医学診断、一時保護部門の児童指導員、保育士等による行動診断、その他の診断(理学療法士等によるもの等)をもとに、原則としてこれらの者の協議により判定(総合診断)を行い、個々の子どもに対する援助指針を作成する。援助指針の策定に際しては、児童相談所の方針を子ども及びその保護者並びに、必要に応じて祖父母等の親族に伝え、その意向を聴取するとともに、その策定過程においても、可能な限り子ども及びその保護者等(祖父母等の親族を含む)と協議を行うなど、これらの者の参加を得ることが望ましい。
また、児童福祉施設への入所措置が採られる場合には、当該施設は、児童相談所の援助指針を踏まえて自立支援を実施することとなる。このため、児童相談所は、個々の子ども等に対する援助指針を策定する際には、児童福祉施設と十分な協議を行うこととする。
(2)  援助
上記援助指針に基づいて児童相談所は子ども、保護者、関係者等に対して指導、措置等の援助を行う。 
(3)  業務遂行体制
この業務を遂行するため、児童相談所は原則として総務部門、相談・判定・指導・措置部門、一時保護部門の三部門制をとり、各々の専門職から成る受理会議、判定会議、援助方針会議において子ども、保護者等の援助について検討し、さらに検証していく作業を行う。特に困難事例、計画どおり進行していない事例及び虐待による死亡事例を始めとする状態が悪化した事例などについては、その原因や対策などについて関係者と十分に協議し、検証する必要がある。このチ−ム協議による判定と援助指針の作成、それに基づく援助が児童相談所の専門性を支える大きな柱であり、これにより、子どもとその環境を総合的に理解した援助活動が展開できると考えられる。
 
3. 相談援助活動の体系
児童相談所における相談援助活動の体系を概念的に示すと図−1のようになる。また、この業務は多くの関係機関との連絡協調の中で進められなければならないが、このことを考慮に入れ、児童相談所の業務系統図を示すとおおむね図−2のとおりである。
 
4. 家庭、地域に対する援助の展開
児童相談所は、地域の必要に応じ子どもの健やかな育成及び家庭、地域における児童養育を支援するため、市町村と役割分担・連携を図りつつ、次に掲げるような家庭、地域に対する援助活動を積極的に展開する。
[1]   住民のニ−ズを的確に把握するための情報収集、調査等
[2]   住民のニ−ズに対応した事業の企画及びその実施
ア   巡回相談、電話相談
イ   講演会やシンポジウムの開催、情報誌等の配付等による啓発的、予防的活動
ウ   関係機関との連絡会議の実施
エ   その他の事業
[3]   児童虐待防止のための活動
ア   児童虐待防止のための早期発見、通告についての普及啓発
イ   関係機関ネットワーク(要保護児童対策地域協議会など)の形成
ウ   児童虐待についての研修の実施など
[4]   子どもの福祉に関する多様なサ−ビスの調整
[5]   関係機関に対する児童福祉に関する助言等の技術的支援
[6]   住民に対する情報提供活動等
[7]   先駆的取組による相談援助方法の開発と啓発
 
5. 業務遂行上の配慮
(1)  児童相談所における相談援助活動は、子ども、保護者等の人権に十分配慮しながら行うとともに、常に子どもの最善の利益を図ることを最優先に行わなければならない。
(2)  子ども、保護者等に対する援助を行うに当たっては、その意向、意見を十分に聴くよう配慮する。
(3)  調査、診断等を実施する場合、他の機関にあっせん又は連携して援助に当たる場合等においては、原則として子ども、保護者等の同意を得る等、プライバシー保護に留意する。
(4)  職員は職務上知り得た秘密を正当な理由なく漏らしてはならない。
なお、これに反した場合には、法第61条又は地方公務員法第34条により処罰の対象となる。
 
第3節   相談の種類とその対応
1. 相談の種類
相談の種類は子どもの福祉に関する各般の問題にわたるが、大きくは養護相談、障害相談、非行相談、育成相談、その他の相談に分類される。
 
2. 各種相談の対応の基本
(1)  養護相談
ア   家庭環境の評価が相当の比重をもつことが考えられ、保護者のいない場合、棄児の場合、離婚の場合、両親の病気の場合、虐待・放任の場合等それぞれの相談に応じて的確に判断する。
イ   特に虐待の場合には、地域の関係機関から構成され、子どもやその保護者に関する情報の交換や支援内容の協議を行う要保護児童対策地域協議会の市町村における設置や運営を支援するなど、虐待の予防・早期発見から虐待を受けた子どもの保護・自立支援に至るまでの関係機関による連携体制づくりに努める。通告等がありながらも、保護者等に相談を受ける動機づけが乏しい場合も多く、一方で判断や対応を誤ると死亡等の重大な事態を招きかねないため、とりわけ迅速な対応と的確な判断が求められる。このため、平成11年3月29日児企発第11号「子ども虐待対応の手引き」に示されている緊急保護の要否判断に関するアセスメントフローチャートの積極的な活用を図るとともに、子どもの安全確認を最優先し速やかに行うことが必要である。援助方針を検討するに当たっては、常に子どもの最善の利益に留意し、場合によっては、施設入所の承認を得るための家庭裁判所に対する家事審判の申立てや親権喪失宣告の請求も検討する。なお、この際においても保護者等に対して相談援助技術を駆使しながら十分な指導と調整を行う。
ウ   虐待及び長期にわたり要養護状態に置かれている子どもについては、その環境が子どもの心身の発達に及ぼす影響等に特に留意し、十分な調査、診断、判定、援助に配慮する。
(2)  障害相談
ア   障害相談は医師の診断を基礎として展開されることが考えられるが、生育歴、周産期の状況、家族歴、身体の状況、精神発達の状況や情緒の状態、保護者や子どもの所属する集団の状況等について調査・診断・判定をし、必要な援助に結びつける。
イ   専門的な医学的治療が必要な場合には、医療機関等にあっせんするとともに、その後においても相互の連携に留意する。
ウ   また、子どものみならず、子どもを含む家族全体及び子どもの所属集団に対する相談援助もあわせて考える。
(3)  非行相談
ア   通告等がありながらも、子ども、保護者等に相談を受ける動機付けが十分でないものもあるため、高度のソーシャルワーク技術が求められる。
イ   学校等所属集団からの相談や通告については、所属集団との連携が不可欠であり、事前の打合せを綿密に行い、相互の役割分担を明確にするとともに、子どもの最善の利益の確保並びに子どもの意向、保護者等の意思に十分配慮する。
ウ   個々の子どもや家庭にのみ焦点を当てるのではなく、その子どもを含む集団全体を対象とし、関係機関との十分な連携にも留意する。その際、各機関との情報交換を密にし、その子どもや家庭に対する共通の認識に立った一体的な援助活動が行えるよう努める。
エ   触法行為に係るものも含め非行少年に関する通告を受けた場合には、児童福祉の観点から必要な調査を十分に行うこと。
(4) 育成相談
ア   育成相談は性格行動、しつけ、適性、不登校等に関するものであり、子どもの生育歴、性格や欲求の状態、親子関係や近隣、所属集団等との関係が主として調査・診断・判定の対象となる。
イ   適切な助言指導で終結することもあるが、担当教師、施設職員等関係者との適切な連携による援助を必要とする場合には、相互理解を深めるよう留意する。
ウ   継続的な援助が必要な場合には、子ども、保護者等に対し、問題解決に対する動機付けを十分に行い、各種のソーシャルワーク、カウンセリング、心理療法等の技法による援助を行う。
エ   不登校に関する相談は、保護者が子どもの態様に応じた適切な監護を行っているか又はそれを期待できるか、特に次のような場合に該当していないかどうかに留意しつつ、学校や教育委員会等の関係機関と十分に連携を図りつつ対応する。
[1]   家庭内暴力や自殺企図、強度の摂食障害等、自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあり、保護者により適切な対応がなされていない場合
[2]   子どもが保護者から虐待等を受けているか、受けているおそれのある場合
(5)  その他の相談
児童相談所は、里親希望に関する相談、夫婦関係等についての相談等、上記(1) 〜 (4)のいずれにも含まれない相談を受けた場合にも、相談に来所した人の気持ちを十分理解したうえで対応し、児童相談所の役割を超えるものや、保健所等関係機関での援助が子ども、保護者等の福祉向上につながると考えられるものについては、適切な機関にあっせんすることも重要である。保健に関する相談については、特に医師や保健師との十分な連携を図る。
(6)  いじめ相談
上記の(1)〜(5)の各種相談の一環として行われる「いじめ」に関する相談に対応するに当たっては、
[1]   子どもの錯綜する気持ちに十分配慮して、安心できる雰囲気を作り、悩みを一緒に考えるという姿勢で相談に臨むとともに、保護者に対しても苦悩する心情に十分配慮することが重要である。
[2]   子ども本人や保護者への援助を行うとともに、いじめの原因、態様、程度等の状況に応じて、学校や教育委員会と十分な連携を図るとともに、必要に応じ、医療機関、警察等とも協力をしつつ対応を進めることが必要である。
 
第4節   援助指針の重要性
1. 援助指針の必要性
(1)  児童相談所は受理した相談について、種々の専門職員の関与による調査・診断・判定を行い、それに基づいて援助指針を作成し援助を行う。援助指針の決定は、できるだけ迅速に行うよう努める。
(2)  援助の内容としては、自らが有している機能を活用する指導のほか、児童福祉施設、里親への措置、他の機関への送致、あっせん等があるが、いずれの場合においても具体的援助指針の作成は必要不可欠であり、また、それに基づき行われた援助の結果を追跡、確認し、援助指針の検証や新たな指針の作成を進めていく。
児童福祉施設、里親への措置をする場合には、援助指針(里親への措置の場合は自立支援計画)を策定し、それに基づき行われた援助について定期的に検証を行い、必要に応じて、方針等の見直しを行うこと。
援助指針とは、子どもの最善の利益を追求するための指針であり、効果的な援助を実施するためには、個々の子どもとその家族の複雑な支援ニーズを適切に把握・評価し、具体的で実効性のある指針の策定が必要不可欠である。当該指針に基づき、支援を実施するからこそ、子どもの自立支援を効果的に推進することが可能となることに留意し、適切に対応すること。
(3)  援助指針は、児童相談所の果たす役割を明らかにするとともに、児童相談所と子ども、保護者、関係機関、施設等とをつなぐ橋渡しの役割を果たすものである。
 
2. 援助指針を定める過程
(1)  児童相談所は、相談を受理した時点において援助指針を作成することを予測して相談援助活動を進めていく。
(2)  児童福祉司又は相談員等は、問題の所在とその背景等についての調査を進め、相談者による主訴とその背後にある基本的な問題並びに問題と社会的環境との関連等を解明することにより、社会学や社会福祉学的視点から援助のあり方を明確にする。(社会診断)
(3)  児童心理司等は、心理学的諸検査や面接、観察等を通じて子どもの人格全体の評価及び家族の心理学的評価を行う。その際、子どもの能力や適性の程度、問題の心理学的意味、心理的葛藤や適応機制の具体的内容、家族の人間関係等について解明する。(心理診断)
(4)  医師は、医学的見地から子ども、保護者等の身体的・精神的な状態を診断・評価する。また、高度の専門性が要求される場合は、専門医療機関、施設等の医師の判断を求める。(医学診断)
(5)  必要がある場合には、一時保護等を通じて子どもの行動観察を実施し、観察会議の中で児童指導員、保育士等によって子どもの行動上の特徴や問題点を明らかにする。(行動診断)
(6)  その他必要に応じ、言語治療担当職員、理学療法士等の診断を求める。(その他の診断)
(7)  上記の社会診断、医学診断、心理診断、行動診断、その他の診断がなされた段階で各分野の担当者が協議の結果、判定と援助指針案を導き出す。なお、施設入所措置等を行う場合には、判定会議において行い、援助指針案を施設職員等の関係者と十分に協議して策定する。
(8)  援助指針案を策定するに当たっては、事前に子どもや保護者等に対して児童相談所の案について十分説明を行い、その意向等を踏まえて策定すること。
(9)  援助指針は援助方針会議等を経た後決定する。
(10)  援助指針を定める過程を概念的に図示すると図−3のとおりである。
 
3. 援助指針の内容
(1)  援助指針には、次の内容を含める。
ア   個々の子ども、保護者等に対する援助の選択及びその理由
子どもの意向、保護者等の意見及び具体的援助を行う者や社会資源等の条件を考慮し、その子どもに最も適合する援助を選択するとともに、その理由を明確にしておく。
また、選択した援助に対する子どもの意向、保護者等の意見を明記するとともに、都道府県児童福祉審議会の意見を聴取した場合はその意見を明記する。
イ   具体的援助の指針
子どもや保護者等が持つそれぞれの問題点や課題について、家庭環境調整を含めた援助の目標、援助方法、その他留意点等を短期的、中長期的に明確にするとともに、活用し得る社会資源や人的資源、制度等についても明らかにするなど、具体的かつ広範な指針作成を行う。
特に、他機関等と連携しながら援助を行う場合には、それぞれの機関の役割等について明確にしておく。
ウ   援助指針の検証時期
事例は常に変化しうるものであり、これに伴い援助における課題や援助の方法等も変化することから、援助指針は定期的に見直す必要がある。このため、次期検証の時期を明確にしておく。
(2)  児童福祉施設、里親等へ措置する場合、及び児童委員指導や児童家庭支援センター指導等他機関に指導を委ねるか他機関と連携しながら指導を行う場合は、事前に当該事例における問題点や課題、児童相談所の援助方針等を十分伝え、中心となって対応する機関を明らかにするとともに、それぞれの役割や援助方針等について綿密な打合せを行い、了解した事項等について援助指針に盛り込んでおく。
(3)  関係機関へあっせんする場合にも、誰が中心となるのか、役割分担をどうするのか等についても、相手機関と十分協議の上、援助指針に盛り込んでおく。
(4)  児童福祉司指導、継続指導等であっても担当者の恣意的判断によるものでなく、児童相談所の責任の下に実施するということを確認しておく。
(5)  比較的軽易な事例、緊急対応が必要な事例については綿密な指針を立てることなく、援助を行うこともあると考えられるが、その内容の可否については援助方針会議等の中で確認する。
(6)  立てられた援助指針については、子ども及び保護者に説明し、可能な限り了解を得ておく。虐待をした保護者など、保護者の中には説明すら聞こうとしない者もいると思われるが、その場合でも説明を聞く機会を待つなど時間をかけて対応する。
(7)  子どもや保護者が説明を受けても、取り組むべき課題が難しすぎたり、多すぎたりすると、取り組む意欲をそぐことにもなるため、子どもや保護者の性格や心身の状況などに応じた課題設定をする。
(8)  そのためには、判定会議等で、その子どもや保護者が取り組むべき具体的な優先的重点的課題を検討し、明らかにするとともに、これらを子どもや保護者に提示しておくことが望ましい。
 
4.援助指針の実行及び再検討
(1)  児童福祉施設、里親に措置する場合、児童相談所は、援助方針に基づき、事前に児童福祉施設、里親と協議を行った上で、援助指針を策定すること。
(2)  その後の援助により、子どもや家庭の有する問題等が軽減され、又は新たな方向に問題が展開する等、子どもや家庭の問題は変化する。この変化に対応するため、援助指針については、児童福祉施設等の意見も踏まえながら、一定の期間をおいて再検討を加えていく。その際、子ども及びその保護者の意向を聴取するなど、これらの者の参加を得て再検討を加えていくことが望ましい。
(3)  措置や指導等を終結するときは、その理由を明確にし、援助方針会議等で検討し、援助指針、自立支援計画及び援助の具体的内容の適否について評価する。評価の結果については、原則として子どもや保護者に対する影響などに配慮しつつ、子ども及び保護者に説明する。
 
第5節   関係機関との連携の重要性
(1)  児童相談所は、判定、援助指針作成の面での専門機関であると同時に、子どもの問題解決のために多様なサービスを調整し、家庭や地域に対する児童養育を支援する役割を果たしていくことが必要である。
(2)  このため、地域にある各種相談機関、施設等の実情について十分把握するとともに、児童相談所の業務や役割について理解を促すなど、常に円滑な連携が図れるための体制の整備に努める。特に、子どもや家庭が抱える問題が複雑化、多様化し、関係機関が多く整備されてきている今日においては、各機関が共通の認識に立って一体的な援助活動ができるようその調整機能が重要となっており、的確にその役割を果たしていく。
(3)  児童相談所が連携を図るべき主な機関は表−1に示したとおりである。なお、各機関との具体的連携のあり方については第7章を参照すること。
 
 

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