3.多様な個性や能力を発揮できる環境の整備


 女性の職場進出や地域社会における各種の活動への参加等が進み、社会において女性の果たす役割はますます重要になってきています。こうした中で、女性の働きやすい環境の整備及び職業生活と家庭生活との両立ができるような就業条件の整備が重要な課題となっています。

 このため、男女の均等な機会及び待遇の確保等対策を推進するほか、育児休業制度や介護休業制度の定着を図るなど労働者の職業生活と家庭生活との両立支援対策を進めています。また、パートタイム労働法の円滑な施行等パートタイム労働対策を推進しています。

 これらの女性行政を推進するため、労働省の地方機関として、各都道府県ごとに女性少年室が置かれており、働く女性、事業主に対する相談指導等を行っています。

(1)男女の雇用の機会均等のために

 働く女性が性により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備するとともに、働きながら安心して子供を産むことができる環境をつくることは、働く女性のためだけでなく、少子・高齢化の一層の進展の中で、今後引き続き我が国経済の活力を維持していくためにも、大変重要な課題です。

 このような課題に適切に対処し、雇用の分野における男女の均等な取扱いの一層の確保を図るため、改正男女雇用機会均等法が、平成11年4月1日から全面施行されています。

(イ)個別紛争の解決援助及び適切な行政指導の実施

 

 労働省では、労使をはじめ社会一般に対して、改正法の周知徹底を図るとともに、事業主や女性労働者からの相談を受け付け、女性労働者と事業主の間の個別紛争について解決の援助が求められた場合には、女性少年室長の助言、指導、勧告及び機会均等調停委員会の調停による紛争の迅速かつ円滑な解決を図っています。また、企業において均等法に沿った雇用管理が確実に実現されるよう、法に基づく指導を積極的に展開しています。

 女子学生の就職問題に対しては、女子学生が男子学生に比べ均等法上問題となるような不利な取扱いを受けることなく就職活動が進められるよう、女性少年室において年間を通し、相談に応じるとともに、問題のある企業に対しては指導を行っています。

 改正均等法をはじめ男女雇用機会均等への理解を深めるための機会として、特に、6月「男女雇用機会均等月間」において効果的な広報啓発活動を実施しています。

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第14回「男女雇用機会均等月間」ポスター
 
雇用者数の推移(全産業)
写真
資料出所:総務庁統計局「労働力調査」
 
女性雇用者の既婚率(単位%)
表
資料出所:総務庁統計局「労働力調査」

(ロ)職場におけるセクシュアルハラスメント防止のための取組

 

 職場におけるセクシュアルハラスメントに関する女性労働者からの相談にていねいに対応するとともに、均等法に照らし問題がある場合には、企業に対し適切な指導を行っています。また、相談者が精神的ダメージを受けているような場合については、室に設置されるセクシュアルハラスメントカウンセラーを活用し、必要な助言、指導を行っています。

 さらに、企業がセクシュアルハラスメント防止対策を効果的に実施することができるよう、具体的取組のノウハウを提供する講習会の実施等の事業を行っています。
 

(ハ)母性健康管理対策の推進

   女性労働者が妊娠中及び出産後も安心して健康に働くことができるよう、平成10年4月から事業主の義務とされた母性健康管理の措置について、事業主、女性労働者、医師等に対し、周知徹底を図っています。特に、事業主が母性健康管理の措置を適切に講ずることができるようにするため、医師の指導事項を事業主に明確に伝えるための「母性健康管理指導事項連絡カード」の利用を促進しています。
 

写真
「母性健康管理指導事項連絡カード」ポスター

(ニ)女性労働者が能力を発揮しやすい環境整備の促進

   男女労働者の間に事実上生じている格差の解消を目指し、女性労働者の能力発揮を促進する企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)を促すため、各事業所において選任されている機会均等推進責任者の活用を図るとともに、企業の具体的取組を援助しています。
 

(ホ)女性の地位向上のための施策の推進

   真の男女平等を推進していくためには、意識面で今なお根強く残っている男女の能力や役割に対する固定的な考え方を改めていくとともに、女性が男性に比べて不利な立場におかれているという状況を改善していくことが重要です。このため、平成11年度においては、働く女性に対する支援事業を総合的に展開するとともに、啓発活動を行い、あらゆる分野への女性の参画の促進に努めます。
 
1)「女性の歴史と未来館(仮称)」を通じた働く女性の能力発揮支援事業の展開
 

 「女性の歴史と未来館(仮称)」において、女性の能力発揮のためのセミナーや相談、女性起業家支援、女子生徒の適切な職業選択のための情報その他働く女性に関する情報の提供等を行い、働く上で男性に比べて困難な状況に直面することが少なくない女性の能力発揮を支援します。
 
2)女性起業家の支援施策の推進
 

 近年、就労機会が多様化する中で、自ら事業を起こすことを希望する女性が増加しつつあります。しかし、女性は、起業、事業運営に役立つ職業経験が少ないなど、困難に直面するケースが少なくありません。特に、育児等により職業生活を中断したことによるブランクが、起業、事業経営に当たっての困難をもたらす場合があります。

 このような状況を踏まえ、女性起業マニュアルの作成等起業を希望する女性等を対象に起業家支援セミナー、コンサルティング及び起業家交流会等の支援施策を展開しています。
 
3)女性週間(4月10日〜16日)の実施
 

 労働省では、我が国の女性が初めて参政権を行使した昭和21年4月10日を記念して、昭和24年以来この日に始まる1週間を「女性週間」と定め、女性の地位向上のための啓発活動を全国的に展開しています。

 平成11年は男女双方が互いを理解し、協力しあい、共に自分らしい生き方を実現できる社会を築いていくために努力することを目標として、「21世紀に向けて 自分らしい生き方ができる社会を創ろう」をテーマとして実施しました。また、静岡県と共催で、全国会議を開催しました。

「女性週間」ポスター 「女性週間」全国会議
平成11年「女性週間」
ポスター
平成11年「女性週間」
全国会議

(2)仕事と育児や家族の介護との両立を図るための施策の推進

(イ)育児・介護休業法の成立

 

 少子・高齢化が進む中で、労働者が生涯を通じて充実した職業生活を営むためには、仕事と育児や家族の介護とを両立させつつ、その能力や経験を活かすことのできる環境を整備することが極めて重要となっています。

 このため、労働省では、育児・介護休業法に基づき、職業生活と家庭生活との両立を支援する施策を総合的、体系的に推進しています。
 
育児・介護休業法の概要
     労働者は、その事業主に申し出ることにより、子が1歳に達するまでの間、育児休業をすることができます。

  1. 介護休業制度

     労働者は、その事業主に申し出ることにより、連続する3月の期間を限度として、常時介護を要する対象家族(配偶者、父母及び子(これらの者に準ずる者を含む。)、配偶者の父母)1人につき1回の介護休業をすることができます。

  2. 深夜業の制限

     事業主は、小学校入学までの子の養育や常時介護を要する対象家族の介護を行う一定範囲の労働者が請求した場合においては、事業の正常な運営を妨げる場合を除き、深夜に労働させてはなりません。

  3. 勤務時間の短縮等の措置

     事業主は、育児・介護休業をせずに育児や介護をしながら働き続ける労働者のために、短時間勤務制度、フレックスタイム制、始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ、所定外労働の免除(育児のみ)、託児施設の設置運営、育児・介護費用の援助措置などのうち、いずれかの措置を講じなければなりません。

  4. 国等による援助

     国は、事業主等に対する相談・助言等の援助、労働者に対する相談・講習等の措置及び再就職の援助を行います。地方公共団体は、労働者に対する相談・講習等の措置の実施及び勤労者家庭支援施設の設置に努めます。

 
育児・介護休業制度等の定着

 労働省では、あらゆる機会を通じて事業主、労働者をはじめ関係者に対し法の趣旨、内容の周知徹底を図り、仕事と育児や家族の介護との両立を容易にする環境整備について理解を深めるとともに、育児・介護休業制度及び勤務時間の短縮等の定着を図ることとしています。

 また、「仕事と家庭を考える月間」(10月)を中心に積極的な広報啓発活動を行うこととしています。
 

(ロ)職業生活と家庭生活との両立支援事業の推進

   育児や介護を行う労働者の雇用の安定に資する措置を講ずる事業主を総合的に支援する「育児・介護雇用安定助成金」制度を実施するなど、労働者の職業生活と家庭生活との両立を支援するためのさまざまな事業を行っています。
イ) 育児休業・介護休業を取得しやすく職場復帰しやすい環境づくりの推進

 職場復帰のためのプログラム(情報提供、講習)を実施する事業主に対する援助を行うことにより、育児休業又は介護休業を取得した労働者の円滑な職場復帰を援助しています。

ロ) 育児や家族の介護を行う労働者が働き続けやすい環境づくりの推進

 ベビーシッターやホームヘルパー等を育児や介護のために利用する従業員に対してその費用を補助する事業主に対し「育児・介護費用助成金(育児・介護雇用安定助成金)」を支給するほか、事業所内(労働者の通勤経路等を含む)に託児施設を設置する事業主等に対して「事業所内託児施設助成金(育児・介護雇用安定助成金)」を支給しています。さらに、「ファミリー・フレンドリー」企業を目指し、育児や家族の介護を行う労働者に配慮した雇用環境の整備等を行う事業主の団体に対し、「育児・介護雇用環境整備助成金(育児・介護雇用安定助成金)」を支給しています。

 電話により育児、介護等に関する相談を受け付け、地域の具体的な情報を提供する「フレーフレー・テレフォン事業」を実施するとともに、保育サービスの提供者である「保育サポーター」を養成しています。また、仕事をしながら育児や介護を乗り切ることに役立つ知識や心構え等を身につけるための「両立支援セミナー」を労働者を対象に実施しています。

 さらに、急な残業や子供の病気の際などの変則的、変動的な保育需要に対応するために、地域における育児の相互援助活動を行うファミリー・サポート・センターを設置する市町村等に対し補助を行っています。また、現在働く婦人の家が有する機能を拡充し、男女労働者の職業生活と家庭生活との両立支援のための地域密着型の施設として勤労者家庭支援施設を設置する地方公共団体に対し、補助を行うこととしています。
 

奨励金・助成金制度

奨励金・助成金一覧
 
ファミリー・サポート・センター

「ファミリー・サポート・センター事業」
リーフレット

  「介護休業制度」ポスター

「介護休業制度」ポスター

 
 
ハ) 育児、介護等のために退職した方に対する再就職支援対策の推進

 育児や介護等のため退職した方で、将来的に再就職を希望する方に対し、情報提供、自己啓発への援助等を行う「再就職希望登録者支援事業」を実施するとともに、育児、介護等の理由により退職した者に対する「再雇用制度」の普及を促進しています。

 さらに就職を希望する女性に対し、就業に関する相談・指導、情報提供及び技術講習を行う「女性就業援助促進事業」を実施しています。

ニ) 母子家庭の母等及び寡婦に対する就業援助
 母子家庭の母等及び寡婦の就業を援助するため、公共職業安定所では、寡婦等職業相談員が職業相談を行うとともに、公共職業訓練等の訓練手当を支給する等の援助を行っています。

(3)パートタイム労働対策の推進

 パートタイム労働者は近年増加しており、質的にみても勤続年数の伸長や就業分野の拡大の傾向がみられるなど重要な労働力の1つとなっています。  労働省では、パートタイム労働を魅力ある良好な就業形態として確立するため次のような対策を進めています。

  1. パートタイム労働法及び指針の周知徹底

     パートタイム労働者の福祉の増進を図ることを目的として平成6年4月からパートタイム労働法が施行されました。また、この法律に基づき、「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」が定められていますが、事業主が講ずべき措置の一層の明確化を図るために、平成11年2月に改正され、平成11年4月から適用されています。

     これらの定着を図るため、11月1日〜10日の「パートタイム労働旬間」を中心として、中小企業を重点対象とした集団説明会を実施するほか、あらゆる機会を通じて周知徹底に努めています。

    写真

    「パ−トタイム労働指針」ポスタ−

    写真

    「パ−トタイム労働旬間」ポスタ−

    短時間雇用者の産業別構成比(非農林業)

    表

    資料出所:総務庁統計局「労働力調査」(平成10年)

    短時間雇用者(週間就業時間が35時間未満の者)数の推移
    (非農林業)

    表

    資料出所:総務庁統計局「労働力調査」
    (注)雇用者は休業者を除く。

  2. (財)21世紀職業財団による短時間労働者の雇用管理改善等援助事業の実施

     (財)21世紀職業財団では、パートタイム労働者の雇用管理の改善等に関する助成金の支給、パートタイム労働者に係る情報提供・相談援助、パートタイム労働者雇用管理自主的改善事業及びパートタイム労働者の能力活用に関する業種別使用者会議等を実施しています。

(4)家内労働対策

 家内労働従事者は、全国に約44万人おり、その大部分は女性で内職的な作業をしています。家内労働の作業内容は、需要や生産方法等の変化により、昔ながらの編物・洋裁から最近増えているワープロ作業など、多岐にわたっています。

 これら家内労働者の労働条件の向上と生活の安定を図るため、家内労働法に基づいて次の対策を推進しています。

 [1]委託条件を明確にするための家内労働手帳の普及
 [2]工賃の通貨払、全額払、1ヵ月以内払等工賃支払の確保
 [3]労働条件改善を図るための最低工賃の決定及び周知
 [4]危険・有害業務に従事する家内労働者の安全及び衛生の確保
 [5]特定の危険・有害業務に従事する家内労働者の労災保険特別加入の促進

 また、高収入をうたう内職広告に応募した人から種々の名目で高いお金を支払わせ、仕事の内容や収入が約束と違うという、いわゆる「インチキ内職」について、被害防止のための広報啓発を積極的に行っています。

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「家内労働旬間」ポスタ−