トップページ




在宅就労問題研究会報告−概要−


1 在宅ワークの現状と課題

 (1) 在宅ワークの現状

   (注) 労働省の委託により実施した日本労働研究機構の調査及び本研究会でのヒ
     アリング調査の結果等による。


 【主な職種】
    −文章入力、テープ起こし、データ入力−

   在宅ワークには多種多様なものが存在するが、主なものとしては、文章入力、テ
  ープ起こし、データ入力、設計・製図、デザイン、DTP・電算写植、プログラミ
  ング、翻訳、システム設計などがある。


 【在宅ワーカーの特性等】 
    −柔軟・弾力的な働き方ができるため、半数が子供のいる女性−

  ・ 日本労働研究機構テレワーク研究会が同機構への労働省委託調査をもとに行っ
   た推計によれば、情報通信機器を活用した在宅ワーカーは約17万4千人程度と想
   定される。
  ・ 比較的単純・定型的職種(文章入力、テープ起こし、データ入力)に就く者が
   多い。
  ・ 在宅ワーカーの7割が女性。特に在宅ワーカー全体の半数は子供のいる女性で
   、その過半数は末子が6歳以下の育児期にある。
  ・ 在宅ワークという働き方を選択した理由として、「自分のペースで柔軟・弾力
   的に働けるから」を挙げる者が6割である。
  ・ 企業が仕事を発注する理由は、専門的業務への対応と繁忙期への対応が最も多
   い。


 【契約・就労条件関係】
    −口頭契約が多く、短い納期設定、低下傾向にある報酬額−

  ・ 契約は、口頭によるものが半数近く、書面でも伝票形式やメモ程度のものが多
   い。
  ・ 発注打ち切りの事前予告を行う企業は半数に止まる。
  ・ 休日前受注、休日明け納期など短い納期の設定が少なくない。
  ・ 単純・定型的作業を中心に報酬額が低下傾向にある。困っている事項として、
   「単価が安い」を挙げる者が多い。半数近くの者が年収100万円未満。
  ・ VDT作業により眼精疲労(8割)、腰痛(5割)を感じる者が多い。


 【仕事確保関係】
    −仕事の確保が難しく、仕事成果の個人差が大−

  ・ 在宅ワーカーの仕事の確保ルート、発注者による募集ルート、ともに知人関係
   が多い。
  ・ 仕事が継続的にあるとする在宅ワーカーは半数以下に止まる。困っている事項
   として、「仕事の確保」を挙げる者が多い。
  ・ 研修・講習を行っている発注者は3割弱に止まる。
  ・ 発注者側は、仕事成果の個人差が大、必要時に必要量やってもらえない、優秀
   な人材の確保が難しい、などを指摘する者が多い。


 【トラブル】
    −報酬支払い、仕事の出来具合、納期に関するトラブル−

  ・ 報酬支払い等に関するトラブルがあるとする在宅ワーカーは少なくない。一方、
   発注者側からみたトラブルの内容は、仕事の出来具合、仕事の納期に関するもの
   が多い。



 (2) 在宅ワークの今後の見通し
       −在宅ワークは拡大する可能性大−

     在宅ワーカーにおいては9割近くが今後とも在宅ワークの継続を希望してい
    る。発注事業所においては3割強が今後発注を拡大させるとし、発注を行って
    いない事業所でも半数近くが今後の導入の可能性を指摘している。
     また、現在在宅ワークをしていない者のほとんどが、今後やってみたいと希
    望しており、今後、相当増加する可能性も大きいといえる。



 (3) 在宅ワークへの期待
       −仕事と家庭の両立が可能となる柔軟な就労形態−

     在宅ワークは、育児・介護期にある者を中心に仕事と家庭の両立が可能とな
    る柔軟な就労形態の一つとして、その発展への期待が高まっている。
     また、在宅ワーカーにおいても、仕事と家庭の両立だけでなく、専門性を活
     かしつつ自らのペースで柔軟・弾力的に働けるという魅力がある。
      一方、企業にとっては、柔軟な企業経営を行っていく上で、専門的能力を
     有する労働力を確保し、活用することができるという側面があり、今後、在
     宅ワークは企業の中で重要な位置を占めていく可能性がある。



 (4) 在宅ワークに係る問題点・課題

    @ 在宅ワーカーの契約条件をめぐる問題点
        −報酬額、納期等契約内容が不明確−

      ・ 契約条件の不明確さ
        契約締結時に、報酬額、その支払時期・方法、納期等契約の基本
       的な内容が明示されていないことが多い。
      ・ 契約内容上の問題
        例えば、継続的な契約関係の一方的打切り、長時間就労が必要となる
       無理な納期設定など、在宅ワーカー側が一方的に不利となる契約内容の
       事案がみられる。
      ・ 報酬決定手続上の問題等
        必ずしも当事者の交渉によらず、発注者が決定することが多い。報酬
       の決定に当たり考慮されるべき要素についても社会的認識の一致がない。
      ・ 健康管理上の問題
        VDT作業対策や腰痛防止対策など健康管理対策に取り組む発注者は
       少なく、就労時間に関する指示や配慮もほとんど行われていない。
      ・ 在宅ワークに係る個人情報の不正使用やプライバシーの侵害等


    A 在宅ワーク希望者が良質な仕事を確保する上での障害
        −技能レベルのミスマッチ、能力開発機会の不足−

      ・ 需給のミスマッチ
        発注される仕事と在宅ワーカーの技能レベルのミスマッチが生じてい
       る。
      ・ 仕事の安定的確保の困難さ
        需給調整システムの未整備や発注が平準化されないため、仕事の繁閑
       の差が大きい。
      ・ 能力開発機会の不足等
        在宅ワーカーは高い専門性や能力が期待されているが、能力開発を受
       ける機会が少ないため、知識・技能の維持、より高度な職種へのステッ
       プアップが難しい。
      ・ 能力評価システムの未整備
        能力評価に係る広範かつ客観的な基準がないため、在宅ワーカーが自
       らの能力水準を対外的に明らかにしにくく、発注者側においても在宅ワ
       ーカーの能力が把握できないことから人材の安定的確保に困難をきたし
       ている。


    B 各種トラブルの発生
        −相談・指導体制の未整備−

      仕事のトラブルが生じた場合の相談・指導体制が未整備のため、在宅ワー
     カーにとって問題解決に不利な状況になっている。



2 今後の施策のあり方及び当面講ずべき具体的な措置

  在宅ワークという働き方が、個々人による自由かつ適切な選択の結果として可能と
 なるよう健全に発展していくためには、@契約に係る最低限のルールを確立して、関
 係当事者の自主的な遵守を促すとともに、A在宅ワーク希望者が良質な仕事を確保す
 るための公的支援を行うことが必要である。
  その際、育児、介護などの家庭等の事情により在宅ワークを必要とする者について
 は、一般的に情報源が限られているため適正な情報を入手することが難しい状況にあ
 ることから、当面は、そのような者を中心として次の施策を講ずることが必要である
 と考えられる。

 (1) 在宅ワークの適正な実施を確保するためのガイドラインの策定、周知・啓発

     当面、行政としては、在宅ワークの契約締結に当たって最低限確保されるべ
    き事項を盛り込んだガイドラインを策定、周知・啓発して、発注者及び仲介業
    者に自主的な遵守を促すことが適切である。

    @ ガイドラインの内容

      第1 趣旨

         このガイドラインは、在宅ワークを安心して行うことができるよう
        にし、かつ、後に紛争が起こることを未然に防止するため、在宅ワー
        クの契約条件の文書明示や契約条件の適正化などについて必要な事項
        を示すものである。在宅ワークの仕事を 注文する者は、契約を締結
        する際には、在宅ワーカーと協議した上で契約の内容を決定するとと
        もに、以下に示す内容を守っていくことが求められる。


      第2 定義

         このガイドラインにおける以下の用語の意味は、それぞれに定める
        ところによる。

        (1) 在宅ワーク

          情報通信機器を活用して請負契約に基づきサービスの提供等を行
         う在宅形態での就労のうち、主としてその報酬が単価により決めら
         れているものをいい、例えば文章入力、テープ起こし、データ入力
         、ホームページ作成などの作業を行うものがこれに該当する場合が
         多い。ただし、法人形態により行っている場合や他人を使用してい
         るような場合などを除く。

        (2) 在宅ワーカー

          在宅ワークを行う者をいう。

        (3) 注文者

          在宅ワークの仕事を在宅ワーカーに注文する者をいう。

 
      第3 注文者が守っていくべき事項

        (1) 契約条件の文書明示及びその保存

          イ 契約条件の文書明示

            注文者は、在宅ワーカーと在宅ワークの契約を締結するとき
           には、在宅ワーカーと協議の上、在宅ワーカーに対して、次の
           @からFの事項を明らかにした文書を交付すること。
            ただし、契約関係が一定期間継続し、受発注が繰り返される
           ような場合、各回の受発注に共通する事項を包括的な契約とし
           、納期等各回の個別の事項をその都度の契約内容として、それ
           ぞれ明示することも可能であること。

            @ 注文者の氏名、所在地、連絡先
            A 注文年月日
            B 注文した仕事の内容
            C 報酬額、報酬の支払期日、支払方法
            D 注文した仕事にかかる諸経費の取扱い
            E 成果物の納期、納品先、納品方法 
            F 成果物が不完全であった場合やその納入が遅れた場合の
             取扱い(補修が求められる場合の取扱いなど)

            なお、文書を交付する際には、別添のモデル契約様式の活用
           が望ましい。

          ロ 契約条件の文書保存

            注文者は、在宅ワーカーとの契約条件をめぐる紛争を防止す
           るため、上記イの事項を記載した文書を3年間保存すること。

          ハ 電子メールによる明示

            上記イの@からFの事項は、文書の交付に代えて電子メール
           により明示してもよい。ただし、その場合でも、在宅ワーカー
           から文書の交付を求められたときは、速やかに文書をその在宅
           ワーカーに交付すること。

        (2) 契約条件の適正化

          イ 報酬の支払い

           @ 報酬の支払期日

             報酬の支払期日については、注文者が在宅ワーカーから成
            果物を受け取った日から起算して30日以内とし、長くても
            60日以内とすること。

           A 報酬の額

             報酬の額については、同一又は類似の業務に従事する在宅
            ワーカーの報酬及び地域の最低賃金を参考にするとともに、
            注文した仕事の難易度、納期の長短、在宅ワーカーの能力等
            を考慮することにより、在宅ワーカーの適正な利益の確保が
            可能となるように決定すること。

          ロ 納期

            納期については、通常の労働者の1日の労働時間(8時間)
           を目安とし、在宅ワーカーの作業時間が長時間に及ばないよう
           にすること。

           ハ 継続的な注文の打切りの場合における事前予告

             同じ在宅ワーカーに、例えば6月を超えて毎月1回以上在
            宅ワークの仕事を注文しているなど継続的な取引関係にある
            注文者は、在宅ワーカーへの注文を打ち切ろうとするときは
            、速やかに、その旨及びその理由を予告すること。

           ニ その他

             成果物が不完全であったことやその納入が遅れたことによ
            り損害が生じた場合に、上記(1)のイに基づきあらかじめ契
            約書において在宅ワーカーが負担すると決めている範囲を超
            えて責任を負わせないようにすること。

        (3) その他

           イ 個人情報の保護

             注文者は、業務上知り得た在宅ワーカーの個人情報につい
            て、本人の同意なく無断で、目的外の使用、第三者への提供
            その他漏洩行為を行わないこと。

           ロ 健康確保措置

             VDT作業(注)の適正な実施方法、腰痛防止策などの健
            康を確保するための手法について、注文者が在宅ワーカーに
            情報提供することが望ましいこと。

           ハ 能力開発機会の付与

             注文者は、在宅ワーカーの能力の維持向上を図ることを目
            的として必要な能力開発機会を付与することが望ましいこと。

           ニ 担当者の明確化

             注文者は、予め、在宅ワーカーから問い合わせや苦情等が
            あった場合にそれを受け付ける担当者を明らかにすることが
            望ましいこと。

      (注)VDT作業とは、CRT(ブラウン管や液晶)ディスプレイ、キー
        ボード等により構成されるVDT機器を使用して、データの入力・検
        索・照合等、文書の作成・編集・修正、プログラミング等を行う作業
        をいう(昭和62年12月労働省「VDT作業のための労働衛生上の指針
        」)。
  


    A ホームページ等の活用によるガイドラインの周知・啓発
      ガイドラインの内容をわかりやすく説明したホームページやパンフレット
     等を活用するほか、ガイドラインと併せてモデル契約様式の周知・啓発を図
     る。



 (2)  在宅ワークの健全な発展のための支援策
        −情報提供、相談体制の整備等−

    @ 在宅ワーカー等に対する各種情報提供

      ・ 在宅ワークに必要な技能レベル、需給の動向、報酬相場
      ・ 在宅ワークを始めるに当たってのノウハウ
      ・ ガイドライン、モデル契約様式
      ・ トラブル発生時の解決処理策
      ・ 健康確保のための措置
      ・ 能力向上の方法、能力評価制度
      ・ 雇用労働者としての再就職等の将来設計 等

      これらの事項については、在宅ワーカーの知識、理解を深めるために不可
     欠であることから、可能な範囲で早急に取りまとめ、ホームページへの掲載
     やハンドブックのような形での配付が行われることが求められる。

    A 在宅ワーカー等に対する相談体制の整備

      ・ 適正な契約締結の方法
      ・ 契約時やトラブル発生時の法律的取扱い   等


    B 能力開発・能力評価に係る支援

      イ 在宅ワーク希望者に対する基礎的セミナーの実施
        在宅ワークを始めるに当たってのノウハウ、契約締結に当たっての基
       礎知識、初歩的な技能等の付与するセミナーを実施することが必要であ
       る。
      ロ 能力向上への支援のあり方、在宅ワークに係る能力評価制度の整備等
        在宅ワークの職務内容、在宅ワーカーの要望等をさらに十分把握・分
       析した上で、能力向上への支援のあり方や能力評価制度、能力開発を行
       った者への就労支援のあり方などについて早急に検討を行い、実施に移
       していくことが必要である。

3 家内労働法との関係

 (1) 相違点

    家内労働 =物品の製造、加工等に係るもの
    在宅ワーク=情報通信機器を用いてデータ入力等の役務の提供に係るもの


 (2) 類似点

    請負契約に基づいて在宅で自営的に行われる就労形態


 (3) 在宅ワークについての法的な措置の可能性

    在宅ワークは、なお成熟途上の働き方であることから、当面は、上記2の措置
   を講じることにし、法的な措置については今後の検討に待つこととする。
 



                       TOP

                      トップページ