産業別最低賃金制度とその運用上の問題点等に関する検討部会報告
平成10年12月10日
1 基本的な考え方
(1) 産業別最低賃金制度のあり方について イ 産業別最低賃金については、「最低賃金額の決定の前提となる具体的事項に関する考え方について(昭和56年7月29日中央最低賃金審議会答申)」及び「現行産業別最低賃金の廃止及び新産業別最低賃金への転換等について(昭和61年2月14日中央最低賃金審議会答申)」の考え方にのっとり、関係労使のイニシアティブにより地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金を必要と認めたものについて設定することを基本としてきているものである。こうした中で、産業別最低賃金制度の見直しに関する使用者側からの問題提起を踏まえ、平成8年10月より産業別最低賃金制度について、その必要性等を含め、累次にわたり審議が行われてきたところであるが、付記にあるように労使の意見には大きな隔たりがあり、現時点では現行の基本的考え方の変更に至るような一定の結論を得るには至らず、取りあえず今回の検討はいったん終了させることとするものである。 ロ しかしながら、最低賃金制度を取り巻く環境を見ると、経済の国際化等に伴う競争の激化、情報化・技術革新の進展等に伴う産業構造の変化、バブル崩壊後の長期にわたる経済の深刻化等の変化が進み、諸外国においても最低賃金制度につき新たな動きが見られるなど、大きく変化しつつある。最低賃金制度の運営に当たっては、関係者の合意を前提として、より望ましい最低賃金制度を目指していくことは当然のことであり、こうした環境変化等を踏まえ、今後の最低賃金制度のあり方について模索すべき時期が到来しつつあると考える。このため、産業別最低賃金制度のあり方については今後時機を見てさらなる議論を深め、審議していくことが適当である。 (2) 現行の産業別最低賃金制度の運用について上記により、中央最低賃金審議会での産業別最低賃金制度のあり方についてのさらなる議論は、今後の機会にゆだねることとするが、それまでの間、各地方最低賃金審議会(以下「審議会」という。)においては、産業別最低賃金制度の運用面について一定の改善が図られることが適当である。すなわち、 @ 現行の産業別最低賃金を取り巻く環境や、とりわけ公正競争ケースの運用の実態をみると、旧産業別最低賃金からの転換時から10年が経過し、その間産業構造、就業構造等の変化やバブル崩壊後の厳しい経済情勢等の変化が顕著になっている。こうした中で産業や企業の実態を十分に踏まえた対応が求められていること、審議会での賃金格差の疎明状況にばらつきが見られるなど審議状況に改善すべき面も見られること等から、審議会の関係者において、新たな分野に関する申出がなされる場合を含め、個々の産業別最低賃金について現行の運用方針に基づいた一層の審議が行われることが必要である。 A また、審議会における産業別最低賃金制度の運用に当たっては、労使の自主性発揮、審議会の効率的運営等の観点から審議手続面等についても所要の改善が図られることが必要である。 2 運用面の改善についての具体的な対応
運用方針を踏まえた産業別最低賃金制度の運用については、関係労使の自主的努力と審議会の関係者による適切な運営にゆだねられるべきことは当然であるが、上記1の(2) の基本的考え方を踏まえ、次によりその改善が図られることを強く期待するものである。
(1) 個々の産業別最低賃金についての審議の促進等 イ 審議会においては、個々の産業別最低賃金について、次により一層の審議が行われるように努めることとする。 @ 審議会での審議に資するため、「産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての視点」(別紙1)及び「産業別最低賃金(公正競争ケース)の審議に当たっての審議参考資料」(別紙2)を提示するので、これを参考として個々の産業別最低賃金について十分な審議を行うこと。この場合、新分野における産業別最低賃金の設定に関する審議についても同様とすること。 A 産業構造の変化等に的確に対応するため、必要に応じ、適用除外業務及び業種のくくり方について見直しを行うこと。 ロ 公正競争ケースの場合においても、申出者は関係労使の合意が得られるよう労働協約の締結・機関決定等に努めることとされていることを踏まえ、公正競争ケースから労働協約ケースによる申出に向けての関係労使の努力を期待する。 (2) 産業別最低賃金の審議手続上の取扱いの改善審議会での産業別最低賃金の審議(申出を含む。)の手続において、次の事項の改善が図られるように努めることとする。 @ 中小企業関係労使の意見の反映
産業別最低賃金の設定による影響を受けやすい中小企業関係労使の意見が十分に反映されるようにするため、審議会委員の選任や参考人の意見聴取に当たって、中小企業関係労使からの選任や当該産業の中小企業関係労使からの意見聴取に配慮すること。
また、申出者は産業別最低賃金の決定等の申出に当たっても、合意の当事者に中小企業関係労使がより多く含まれるように努めることが望ましいこと。A 賃金格差疎明資料添付の徹底及び審議会の効率的運営審議会での適切な審議が行われるようにするため、申出者は公正競争ケースによる産業別最低賃金の決定等の申出の際の個別具体的な疎明に当たっては、賃金格差の存在の疎明のための資料の添付を徹底すること。
また、産業別最低賃金の改正の必要性の審議に当たっては、上記(1)のイの@の審議が十分に行われており、かつ、特に事業の競争関係、賃金格差の存在の疎明の内容等の状況に変化がなく、制度の趣旨を逸脱することがないと認められる場合には、一括して審議を行うこととする等、審議会の効率的運営に配慮すること。3 付記事項
今回の検討の過程で、労使各側から提出された主要な意見を次のとおり付記する。
イ 使用者側からは、以下の意見が表明された。
地域別最低賃金が47都道府県のすべてに設定され、その機能・役割を十分果たしてきている今日、屋上屋でかつ設定趣旨が極めて不透明な産業別最低賃金は廃止すべきである。現行産業別最低賃金の設定は56年、61年答申を踏まえ実施に移されたものであるが、従来から屋上屋の最低賃金は不必要である旨繰り返し主張してきたところである。
現在の経済情勢を見ると、低成長、グローバル経済化等による大競争時代の到来により、産業活動面や雇用創出面等から、規制の緩和、労使の自主性発揮が強く求められており、活力ある経済・経営システムをいかに導入するかが問われている。産業別最低賃金は、これらの基本的な諸問題を抱えているとともに、地方最低賃金審議会における審議の内容も曖昧かつ不透明な部分が多く、使用者側委員からも不満の声が出ている中で、法律をもって強制的に適用させることは問題である。
産業別最低賃金の廃止に向けての議論は、当然今後とも継続するべきである。ロ これに対し、労働者側からは、以下の意見が表明された。
我が国の最低賃金制度は、その歴史的土壌、風土を踏まえ、労使関係や労働運動の歴史的な発展との関係で、公労使の合意の下で形成されてきたものである。
また、産業別最低賃金は労働条件の向上や事業の公正競争確保の観点から、地域別最低賃金より金額水準の高い最低賃金の必要性が認められた産業について基幹的労働者を対象に設定されてきたものであり、社会的なナショナルミニマムとしての地域別最低賃金とは性格を異にしており、最低賃金制度として屋上屋を重ねるものではない。
さらに、産業別最低賃金は低賃金労働者の労働条件の確保や地域における産業別労使協議の進展に大きく寄与してきており、産業構造の転換の中で経済の低迷が継続し、不安定雇用の労働者が増加していること等からも、今後とも継続・発展させていくべきものであり、その立場から運用に関する改善に前向きに対応していくものである。