まえがき

 「海外労働情勢(海外労働白書)」は、先進国を中心に諸外国の労働情勢全般に関する情報を整理・分析し、広く提供することを目的として、各国の@経済及び雇用失業情勢、A賃金・労働時間等の状況、B労使関係の動向、などについて労働省国際労働課が毎年とりまとめ、公表しているものである。
 本年の「1997年海外労働情勢(海外労働白書)」では、先進国を始めアジア、大洋州各国の、97年から98年初頭にかけての労働情勢全般の最新の動向に関する情報を第1部としてとりまとめるとともに、97年に特に注目された雇用に関するトピックを取り上げ、分析を加えている。また、第2部では、現在先進国共通の課題であり、政治的社会的にも重要性の増している雇用失業問題について、その解決に向けた先進国の取組をまとめた。

 1997年の雇用・失業の動向は、先進国では、96年における状況が更に鮮明化した。すなわち、アメリカ、イギリスでは雇用・失業情勢が引き続き良好に推移したのに対して、ドイツ、フランス、イタリアでは戦後最悪の状況に改善の兆しは見られなかった。しかし、良好といわれるアメリカ、イギリスにおいても、所得・賃金格差が拡大しているとの指摘があるように、いずれの国においても依然問題を抱えている。他方、アジアNlEs、ASEAN諸国の一部では、通貨危機を端緒とする経済の混乱が雇用にも影響し始めており、98年以降の雇用・失業情勢の一層の悪化が懸念されている。

 現在の先進国の雇用失業問題は、景気の回復のみによって解決されるものではなく、その原因の多くが構造的な問題に根ざしており、各国の状況に合わせた構造改革が不可欠であるということが、各国の共通認識とされてきた。その構造改革の具体的な方策を探るための試みが、各国の共同作業として多様なチャネルを使って近年継続的に行われている。各年のサミット(先進国首脳会議)でも中心テーマの一つとして雇用問題が取り上げられるとともに、雇用問題に絞った閣僚会議がこれまで二度開かれてきた。
 そして、97年11月には、我が国において、日米欧とロシアの主要8カ国による神戸雇用会議が開催された。神戸雇用会議では、今後各国が共通して取り組むより具体的な政策の方向、指針について合意がなされるとともに、雇用問題解決のためにそれぞれの国において強い行動をとり続ける決意が表明された。
 このように、各国とも自国の状況を踏まえた、より具体的かつ効果的な政策の実施が希求されている中で、先進国共同の取組は、相互に経験や情報の交換を行うことを通じ、グローバル化の中でそれぞれの国が自国民の雇用を安定させ、促進するため、今後も継続されていくことが望まれる。
 翻って、我が国においても、失業率の水準は他の先進国と比較すると低いものの、最近では例をみない高い水準となったり、アジア通貨危機の影響が懸念されるなど、予断を許さない状況にある。また、経済構造、人口構造に大きな変化が生じつつあり、それらの影響により雇用構造にもこれまでに例のない大きな変化が生じることが予想される。このような中で、雇用問題解決に向け、先進各国が共同したこれまでの取組を整理し、今後を展望することは、我が国の労働市場のあり方を考える上で非常に有用なものとなろう。

 企業及び労使の関係者においても、その活動の場が国際的に広がるに伴い、海外の労働情報に対するニーズがますます高まっているものと思われる。本書が、そのようなニーズにいささかなりとも応えることができ、また海外の労働情勢全般に関する理解を深めることに貢献できるとすれば、幸甚である。同時に、内容のさらなる充実のため、各方面からのご教示、ご協力を頂くことを切に望むところである。

労働大臣官房総務審議官
野寺康幸



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