第2部 雇用失業問題の解決に向けた先進国の取組

3 まとめ

(1)雇用失業間題の解決に向けた先進国の取組の意義
 主要先進国にとり、雇用失業問題が依然大きな問題であることは言を待たない。それは、単に失業率の大きさ、失業者数の多さにとどまらず、社会、雇用構造全体を含めた広い文脈で捉えられており、国によりその持つ問題点は異なっている。
 アメリカ、イギリスでは、好調な経済、柔軟な労働市場を反映して失業率の面では顕著な改善が見られる。とりわけ、アメリカでは「ニューエコノミー論」に見られるように雇用者数の増加、失業率の低下と低いインフレ率が同時に進行している。反面、両国では賃金格差、所得格差が拡大し、パートタイマー等不安定な労働が増加していると言われる。また、低い教育水準、低技能の労働者は依然失業の危機に面しているとも言われる。このような状況に対し、アメリカ、イギリスでは雇用対策として労働者の能力開発に重点を置き、教育制度、職業能力開発制度の改善に努めている。
 他方、ドイツ、フランス等ヨーロッパ大陸諸国は、依然失業率の高まり、失業者の増加に苦しみ、特に、若年失業者、長期失業者の増大が社会的な間題となっている。これに対し、従来手厚い社会保障制度が用意され、失業者の保護が図られてきたが、財政的にそれにも限界が見え始めている。また、職業紹介機能、能力開発の充実策と並んで、時短の促進によるワークシェアリングが進められているが、その効果に疑問無しとはしない。
 翻って日本では、これまで比較的低い失業率、好調な雇用状況を享受してきた。この理由としては、経済が好調であったこと、労働市場制度、慣行が社会に適合していたことがあげられよう。しかしながら、社会構造が変化しつつある中で雇用構造も同様に変革期を迎えつつある。
 このような各国それぞれの雇用状況を背景としつつ、先進諸国は共同して雇用失業問題の解決に取り組んできた。それは、G7(G8)としての取組であり、あるいはOECD、ILOの国際機関としての活動の一環としてであった。
 これら90年代にわたる一連の先進国共同の取組については、以下に述べる意義があると考えられる。第1に、経済の構造変化の中で、深刻化が予想される雇用失業問題について処方箋を提供していくため、先進各国政府の確固たる意志を内外に示してきた。第2に、各国が相互に率直に経験や情報を交換し、問題解決に向けて、政策を改善する場として欠かせない役割を果たしてきたことが挙げられる。第3に、先進国諸国間で緊密な協力を図ることは、成長と雇用のための新たな機会を世界中に広く生み出すグローバル化の過程から、できるだけ多くの利益を得るために役に立つものであり、アジア諸国を含む他の諸国と協力関係を進めていく上でも大きく貢献するものであった。

(2)今後の課題
 上述したように、先進国では、雇用失業問題について共同の取組を継続してきたなかで、雇用の安定、失業問題の解決という目的は共通としつつ、各国が抱える背景はそれぞれ異なっており、雇用失業問題解決のためには各国ごとにそれぞれ異なった問題を克服していくことが必要であることが明確に認識されている。
 雇用失業問題解決のために何をすべきか、幾つかの有効な選択肢は明らかになっている。これまでの政治的意志表明の段階から、先進各国がその置かれている状況に基づいて、それらの選択肢の最適な組み合わせが何かについて、すなわちどの選択肢をどのようなタイミングと重点により実行していくか、という個別具体策を各国において実行する段階に至っている。
 96年4月のリール雇用サミットで、シラク大統領は、アメリカ・モデル(社会保障の水準は低く、賃金上昇は小さく均等ではないが、雇用は大きく増加している)でも欧州モデル(社会保障は手厚く、賃金上昇も大きいが、雇用は増加していない)でもない「第3の選択肢」を探る決意を表明した。この方向は、「活力ある雇用社会の実現」をテーマとした97年の神戸雇用会議、「成長、雇用可能性及び社会的一体性」ヘの道を示した、98年バーミンガム・サミットヘ引き継がれ、各国が等しく目標とすべき課題となっている。同サミットで主要先進国は、社会的一体性を確保しつつ、雇用可能性の向上と新たな雇用創出を実現する決意を表明した。これは、先進諸国が雇用失業問題に取り組むに際し、目指すべき共通の方向が示されたものと言える。今後これをどのような手段で実現していくか、各国がそれぞれの実状を踏まえ、具体策を検討し、実行に移していかなければならない。今は各国ともそれぞれの国に応じた「第3の道」を模索している段階である。
 雇用失業問題に対する先進国共同の取組は、これまでの蓄積を基としつつ、相互に経験を共有し、より一層の情報交換を行うことにより、各国の政策の効果をより拡大するため、今後も継続されていくことが望まれる。



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