戻る

ミレニアム・プロジェクト(新しい千年紀プロジェクト)について

平成11年12月19日
内閣総理大臣決定

I ミレニアム・プロジェクトの基本的な考え方

(1) 新しいミレニアム(千年紀)の始まりを目前に控え、人類の直面する課題に応え、新しい産業を生み出す大胆な技術革新に取り組むこととし、これを新しい千年紀のプロジェクト、すなわち「ミレニアム・プロジェクト」とする。具体的には、夢と活力に満ちた次世紀を迎えるために、今後の我が国経済社会にとって重要性や緊要性の高い情報化、高齢化、環境対応の三つの分野について、技術革新を中心とした産学官共同プロジェクトを構築し、明るい未来を切り拓く核を作り上げるものである。
 この度、ミレニアム・プロジェクトとして、以下の通り、各分野におけるテーマ毎に事業内容の詳細を構築する。

(2) 具体的な事業内容の構築に当たっては、省庁横断的な取り組みと官民の十分な連携を図ることはもとより、明確な実現目標の設定、複数年度にわたる実施のための年次計画の明示や有識者による評価・助言体制の確立を図るとの新たな試みを取り入れている。

(3) 本ミレニアム・プロジェクトの実効ある推進を図るため、平成12年度予算において、特別枠として設定された「情報通信・科学技術・環境等経済新生特別枠」(2500億円)において、特段の予算配分を行う。


II 各プロジェクトのテーマと概要

2 高齢化(−活き活きとした高齢化社会を目指して−)

(1) 高齢化社会に対応し個人の特徴に応じた革新的医療の実現(ヒトゲノム)

 豊かで健康な食生活と安心して暮らせる生活環境の実現(イネゲノム)

2004年度を目標に、
・痴呆、がん、糖尿病、高血圧等の高齢者の主要な疾患の遺伝子の解明に基づくオーダーメイド医療を実現し、画期的な新薬の開発に着手するとともに、生物の発生等の機能の解明に基づく、拒絶反応のない自己修復能力を利用した骨、血管等の再生医療を実現する。
・疾患予防、健康維持のための植物の高品質化によるアレルゲンフリー等高機能食物及び農薬使用の少ない稲作を実現する。

<プロジェクトの概要>

【ヒトゲノム解析】

・ヒトの遺伝子約10万個のうち、ヒトの体内で発現頻度が高い約3万個について解析を実施。[2001年度目標]

・ヒトゲノムの中で個人間で異なる部分(SNPs)15万個を目標に、遺伝子部分に焦点をあてて、探索・解析するとともに、どの程度の頻度で多様性が現われるかの解析を実施。[2001年度目標]

【五大疾患の克服】

 以下の五大疾患を中心に、

・疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子の発見
・患者個人に対する最適な治療・投薬(オーダーメイド医療)等による治療成績の向上
・入院患者数や死亡者数を削減する画期的新薬の開発に着手

(1) 痴呆(アルツハイマー病等)等神経疾患
(2) がん(悪性新生物)
(3) 糖尿病・高脂血症等代謝性疾患
(4) 高血圧等循環器疾患
(5) 気管支喘息等免疫・アレルギー性疾患

【自己修復能力を用いた再生医療の実現】

 ヒトの体細胞が有する自己修復能力のメカニズムを解析して応用することにより、以下の6分野を中心に、拒絶反応や後遺症の回避等、生体への負担を最小化するとともに、より自然な状態への修復を目指す再生医療の実現を図る。[2004年度目標]

(1) 骨・軟骨
(2) 血管
(3) 神経
(4) 皮膚・角膜
(5) 血液・骨髄
(6) 移殖技術・品質確保技術

【イネゲノムの解析による高機能作物及び低農薬作物の実現】

(1) イネゲノムの解析

・イネの遺伝子(完全長cDNA約3万個)を解析。[2004年度早期目標]

・機能性物質生成関連遺伝子や病虫抵抗性遺伝子などの有用遺伝子を100個以上発見。[2004年度目標]

(2) 機能性作物・食品等の開発目標(疾病の予防、健康維持)

 イネから血圧降下作用、痴呆症予防作用やコレステロール低下作用を有する物質、アレルゲンの生成等に関与する遺伝子を単離し、高血圧性疾患等の生活習慣病や痴呆症の予防、アレルゲンフリー等の機能を有する作物・食品等を開発。[2004年度目標]

(3) 農薬使用の少ない作物開発等の現実目標

 病虫害抵抗性遺伝子等を単離し、化学農薬の使用を50%削減できる作物(イネ、野菜等)を開発するとともに、化学農薬と同等の効果を有する新規生物農薬を開発。[2004年度目標]

【安全性の確保と国民の理解の増進】

(1) 疾患関連・薬剤反応遺伝子解析研究を実施するに当たって、必要な個人情報の保護及び生命倫理の確保を図るためのガイドラインを策定。[1999年度目途]

(2) バイオテクノロジーの安全性を確保し、国民理解の増進のため、安全性関連データの整備、安全性評価手法の高度化、ガイドラインの作成等を実施。[2004年度目標]

(3) DNA検出技術の高度化により遺伝子組換え食品の表示の適正化を図るとともに、消費者の疑問や要請に応える試験・実験と遺伝子組換え食品等に関する情報提供の仕組みを構築する等により、国民の理解を促進する。[前半:2004年度、後半:2000年度目標]


IV 高齢化社会に対応し個人の特徴に応じた革新的な医療の実現(ヒトゲノム)
豊かで健康な食生活と安心して暮らせる生活環境の実現(イネゲノム)

1.現状と課題

(1) 21世紀は、世界各国で高齢化社会が到来し、全人類にとっての課題となる。特に、我が国は、世界に例を見ない速度で高齢化社会を迎えることが予想されている。こうした中、高齢者が健康でかつ多様な形で参画できる活気ある社会を築くためには、高齢者が安心して暮らせる生活環境を実現するとともに、生命科学によって老人性疾患の原因解明・克服を行い、高齢者の健康を維持・増進することが重要である。これら課題を根本的に解決するためには、ヒトの遺伝子機能を解明し、自然界の生体機能を適切に利用することが最も有望であり、かつ不可欠と考えられる。

(2) 医療分野においては、ヒトの遺伝子情報の解析により、病気の発生原因や発病メカニズムを根本から解明し、痴呆、がん、糖尿病、高血圧等、従来の手法では解決することが難しかった疾病も克服することが可能となる。また、ヒトゲノム1の多様性2を解析することで、遺伝子レベルで個人の体質の違いを把握し、個人の特性にあった診断・治療・予防、薬の投与が可能となり、いわゆるオーダーメイド医療が実現できる。
 食料分野では、血圧降下作用や痴呆予防作用を有する物質の遺伝子を解明し、疾病の予防や健康維持に役立つ食品を開発したり、アレルギーを引き起こす物質を除去した(アレルゲンフリー)作物を生み出す等、バイオテクノロジーにより高機能で安全性が高い食品を開発することが可能となる。

(3) しかしながら、我が国のバイオテクノロジーに関する研究開発の現状は、特にヒトゲノム分野において研究の水準、研究者の層や民間投資のいずれにおいても、欧米に、特に米国に大きく水をあけられ、このままでは、我が国はバイオテクノロジーのもつ巨大な可能性を活用しえず、世界の流れに遅れをとるとともに、高齢化社会への準備を十全に整えられない可能性がある。2000年を境に、生命科学はDNAの構造解析主体の時代から生命現象の解明へと進み、世界の各国が本格的な競争へと入っていく。2000年からの数年間こそが、我が国が遅れを取り戻す数少ないチャンスである。

(4) 今次ミレニアム・プロジェクトにおいては、ゲノムに係る研究開発を国家のイニシアティヴの下に、研究者を結集して、強力に推し進めることにより、来るべき新世紀を高齢者にとって活気ある社会への道を切り拓き、安全性の確保と国民の理解の増進を図りつつ、バイオテクノロジーの応用によって幅広い分野における新しい産業の創出を図っていくことを目指すとともに、21世紀の人類社会の発展に、大きく貢献していくこととする。

2.プロジェクトの目標

2004年度を目標に、

・ 痴呆、がん、糖尿病、高血圧等の高齢者の主要な疾患の遺伝子の解明に基づくオーダーメイド医療を実現し、画期的な新薬の開発に着手するとともに、生物の発生等の機能の解明に基づく、拒絶反応のない自己修復能力を利用した骨、血管等の再生医療を実現する。

・疾患予防、健康維持のための植物の高品質化によるアレルゲンフリー等高機能食物及び農薬使用の少ない稲作を実現する。

 上記の目標を実現するため、以下の通り、各事業に対応した実現目標を設定する。

【ヒトゲノム解析を突破口とした5大疾患の克服】

 2001年度までに、

・ヒトゲノム約10万個のうち、ヒトの体内で発現頻度が高い約3万個(完全長cDNA3)について解析を実施する。

・ヒトゲノムの中で個人間で異なる部分(一塩基多型(SNPs4))15万個を目標に、遺伝子部分に焦点をあてて探索、解析するとともに、SNPsの発現頻度の解析を実施する。

 上記のヒトゲノム解析を行うとともに、痴呆、がん、糖尿病、高血圧等の疾患を対象に、疾患遺伝子の解明に基づき、疾患対策、オーダーメイド医療の実現、画期的新薬の開発に着手する。
 これらの取り組みによって、2004年度までに下記の具体的目標を達成する。

(1) 痴呆(アルツハイマー病等)等神経疾患

(a) 疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子を合わせて20以上発見。
(b) 患者個人に対する最適な投薬(オーダーメイド医療)等による治療成績の向上。
(c) 重症化を遅延させて、痴呆の推計入院患者数を20%削減する等の画期的な新薬の開発に着手。

(2) がん(悪性新生物)

(a) 疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子を合わせて50以上発見。
(b) 患者個人に対する最適な投薬(オーダーメイド医療)等により、嘔吐、頭痛等抗がん剤による副作用の発生を50%削減。
(c) 患者個人に対する最適な投薬等による治療成績の向上。
(d) 5年生存率を20%改善する等の画期的な新薬の開発に着手。

(3) 糖尿病・高脂血症等代謝性疾患

(a) 疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子を合わせて30以上発見。
(b) 患者個人に対する最適な投薬(オーダーメイド医療)等による治療成績の向上。
(c) 糖尿病の推計入院患者数を20%削減し、糖尿病合併症である失明、下肢切断及び人工透析治療患者数を50%削減する等の画期的新薬の開発に着手。

(4) 高血圧等循環器疾患

(a) 疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子を合わせて30以上発見。
(b) 患者個人に対する最適な投薬(オーダーメイド医療)等による治療成績の向上。
(c) 循環器病の推計入院患者数を20%削減し、脳卒中の受療率を20%削る等の画期的新薬の開発に着手。

(5) 気管支喘息等免疫・アレルギー性疾患

(a) 疾患関連遺伝子・薬剤反応性関連遺伝子を合わせて20以上発見。
(b) 患者個人に対する最適な投薬(オーダーメイド医療)等による治療成績の向上。
(c) 喘息の死亡者数を20%削減する等の画期的新薬の開発に着手。

【自己修復能力を用いた再生医療の実現】

 ヒトの体細胞が有する自己修復能力のメカニズムを解析して応用することにより、拒絶反応や後遺症の回避等、生体への負担を最小化するとともに、より自然な状態への修復を目指す再生医療の実現を図る。
 2004年度までに目指す目標は、以下の通りとする。

(1) 骨・軟骨

(a) 骨、軟骨の採取、処理・加工・保存技術の確立。
(b) 組織工学技術により作製された培養骨・軟骨を、関節リウマチ、骨粗しょう症に伴う骨折に応用する技術の実現。

(2) 血管

(a) 老化とともに全身的な末梢の血管の循環不全をきたす疾病(糖尿病、高血圧等)の進行を遅らせる技術を確立。
(b) 心筋梗塞により機能の低下した組織を修復する基礎技術を確立。
(c) 動脈硬化症の進展を阻止し、血管の新生を図る技術を確立(2002年度まで)。

(3) 神経

(a) 自己の神経幹細胞(神経組織を形成する能力を有する細胞)を分離、培養する技術を確立(2002年度まで)。
(b) 寝たきりの原因となるパーキンソン病、脳梗塞等への自己の神経幹細胞(神経組織を形成する能力を有する細胞)を体外で培養し、体内に再び戻し生着させる技術等を用いた治療技術の確立。

(4) 皮膚・角膜

(a) 皮膚・角膜の採取、処理・加工・保存技術の確立。
(b) 他人からの皮膚移殖技術を確立(2002年度まで)。
(c) 床ずれ(褥そう)、熱傷等に対して、組織工学技術により培養した皮膚を用いた治療法の実現。

(5) 血液・骨髄

 がんに伴う貧血、再生不良性貧血等の患者へ、培養した造血幹細胞(白血球、赤血球又は血小板に分化する能力を持った細胞)を体内に入れ、生着させる技術等の確立と治療成績の向上。

(6) 移殖技術・品質確保技術

 大量に増やされた細胞・組織に混入するウイルス等の危険因子を迅速かつ効率的に検出する方法の確立(2002年度まで)を通じて、製造過程における品質管理技術の高度化を図る。
 なお、これらの治療法の実現を支えるため、拒絶反応の機構を解明し、移植組織等の生着を向上させる。

【イネゲノムの解析による高機能作物及び低農薬作物の実現】

・2004年度までの間のできるだけ早い時期に、イネの遺伝子(完全長cDNA約3万個)を解析する。

・2004年度までに、機能性物質生成関連遺伝子や病虫害抵抗性遺伝子などの有用遺伝子を100個以上発見する。

 上記のイネゲノムの解析を行うことにより、一定の健康維持・疾病予防効果を有する高機能食品の開発を行うとともに、農薬使用量の大幅削減が可能な稲作等を実現する。
 これらの具体的目標は以下の通りとする。

(1) 機能性作物・食品等の実現目標(疾病の予防、健康維持)

 2004年度までに、イネから血圧降下作用、痴呆症予防作用やコレステロール低下作用を有する物質、アレルゲンの生成等に関与する遺伝子を単離し、高血圧性疾患等の生活習慣病や痴呆症の予防、アレルゲンフリー等の機能を有する作物・食品等を開発する。

(2) 農薬使用の少ない作物開発等の実現目標

 2004年度までに、病虫害抵抗性遺伝子等を単離し、化学農薬の使用を50%削減できる作物(イネ、野菜等)を開発するとともに、化学農薬と同等の効果を有する新規生物農薬を開発する。

【安全性の確保と国民の理解の増進】

(1) 1999年度を目途に、疾患関連・薬剤反応遺伝子解析研究を実施するに当たって、必要な個人情報の保護及び生命倫理の確保を図るためのガイドラインを策定する。

(2) 2004年度までに、バイオテクノロジーの安全性を確保し、国民の理解の増進のため、安全性関連データの整備、安全性評価手法の高度化、ガイドラインの作成等を行う。

(3) 2004年度までに、DNA検出技術の高度化により遺伝子組換え食品の表示の適正化を図るとともに、消費者の疑問や要請に応える試験・実験と遺伝子組換え食品等に関する情報提供の仕組みを構築する(2000年度中)等により、国民の理解を促進する。

3.実施する事業の概要と推進体制

(1) プロジェクトの全体像

 (1) ヒトゲノム解析

【ヒト完全長cDNA構造・機能解析】

(a) 本研究開発においては、わが国が世界に対し優位性を持つ完全長cDNA取得技術(DNAの遺伝子領域を取得するための技術)を活用し、ヒトの遺伝子約10万個のうち約3万個に対応する完全長cDNAを効率的に解読し、ライブラリーを作成する。

(b) 比較ゲノム手法を用いて完全長cDNAが有する生体機能を特定するとともに、生体機能を担っているタンパク質の基本構造、タンパク質の相互作用及び発現情報について、タンパク質分離チップ5等を駆使して機能解析を行う。

(c) これらの成果から得られたヒトcDNA遺伝子情報と、その遺伝子産物タンパク質の生体機能の情報に基づいて、そのタンパク質の機能、活性をコントロール(制御)することにより、新しい治療法と創薬に結びつく研究を展開する。

(主たる実施機関)

 東京大学医科学研究所を中心に、各機関が協力して、cDNA解析及びcDNA解析に基づくタンパク質の機能解析を行う。

・cDNAコンソーシアム(民間企業からなる技術研究組合)
・民間企業から構成される研究組合−タンパク質分離チップ
・(財)癌研究会癌研究所
・東京大学
・大阪大学
・理化学研究所ゲノム科学総合研究センター
【標準SNPsの解析、体系的疾患SNPs研究】

(a) 個人間のヒトゲノムDNA配列上の異なる部分(SNPs)約15万箇所を目標にヒトのDNAの遺伝子部分に焦点をあてて探索、解析する。

(主たる実施機関)

 東京大学医科学研究所を中心に、各機関が協力して、標準SNPs解析を行う。

・科学技術振興事業団(標準SNPsマーカー解析)
・バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)、製品評価技術センター(標準SNPs頻度解析)

(b) 標準多型データベースを活用して、有用遺伝子部分全てのSNPs全体(約15万ヵ所)について、疾患関連遺伝子の探索、疾患とSNPsとの関連性、薬剤感受性とSNPsとの関連性について体系的に研究を実施し、新しい治療法と創薬に結びつく研究を展開する。

(主たる実施機関)

・理化学研究所遺伝子多型情報応用医科学研究センター
・東京大学医科学研究所
・国立遺伝学研究所
・京都大学化学研究所

【疾患・薬剤反応性遺伝子の解析と治療応用】

 痴呆、がん、糖尿病等の疾患関連遺伝子及び薬剤反応性関連遺伝子について、国立高度医療センター等国立医療機関、東京大学医科学研究所及び全国の大学病院とが連携して、ヒト一塩基多型解析(SNPs解析)手法等を用いて解明するとともに、新たな治療法、創薬に関する研究を実施する。

(主たる実施機関)

・痴呆 − 国立精神・神経センター、東京大学、新潟大学
・がん − 国立がんセンター、東京大学医科学研究所、(財)癌研究会癌研究所、日本医科大学、九州大学、大阪大学、熊本大学、東北大学、東京工業大学、東京大学分子細胞生物学研究所
・糖尿病 − 国立国際医療センター、群馬大学、千葉大学、神戸大学、徳島大学
・高血圧 − 国立循環器病センター、旭川医科大学、愛媛大学、筑波大学
・ぜんそく − 国立小児病院、筑波大学、順天堂大学、東京大学医科学研究所
・薬剤反応性 − 国立医薬品食品衛生研究所、北海道大学
・心筋梗塞 − 大阪大学、東京大学医科学研究所
・関節リウマチ − 大阪大学、九州大学、東京大学医科学研究所

【バイオインフォマティクス技術による遺伝子情報の分析・活用】

(a) ヒトゲノム関連データベース整備

 ヒトゲノムの解析に基づき、

(ア) 標準SNPsの開発とアレル頻度6解析に関する標準多型データベース
(イ) 公立試験研究機関を中心とする多型情報データベース
(ウ) 大学が収集・保存する生物遺伝資源に関するベータベース(遺伝資源データベース)
(エ) 生命科学の知識の体系化、自然法則と関連づけた生命システムに関する情報統合データベース
を構築し、ゲノム研究成果の共通研究基盤として、DNAデータバンクを含めてネットワーク化するとともに、バイオテクノロジー関連の膨大なデータの利用環境の高度化を図るため、統合データベースを開発・提供する。これらヒトゲノム関連データベースは、広く研究者、大学及び民間企業が利用できるようにする。

(主なデータベース構築機関)

統合データベース − バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)、工業技術院研究所
標準多型データベース、
多型情報ネットワーク −
科学技術振興事業団と東京大学医科学研究所の共同推進
遺伝資源データベース − 国立遺伝学研究所
生命システム情報統合データベース − 京都大学化学研究所、国立遺伝学研究所
日本DNAデータバンク(DDBJ)− 国立遺伝学研究所生命情報研究センター
疾患データベース − 国立がんセンター

(b) バイオインフォマティクス技術の開発

 情報技術と生命技術の融合領域であるバイオインフォマティクス技術の開発やバイオインフォマティクスを活用した研究開発支援機器の開発について民間活力を利用した技術の開発を行う。具体的には、コンピュータを活用して、タンパク質と薬となる低化合物との結合等をモデル化するための研究開発等を行うとともに、その開発内容、機器及び解析ツール(プログラム等)を広く公表する。
 また、分子レベルから個体レベルに至る様々なゲノム情報の相互関係等(ゲノム情報原理)の解明を目指した研究を行う。

(主たる実施機関)

・バイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)
・京都大学化学研究所他(アカデミックコンソーシアム)
・理化学研究所ゲノム科学総合研究センター

 (2) 再生医療

【自己修復能力を用いた治療法の実現】

 痴呆をもたらす脳梗塞、寝たきりに伴う床ずれ、骨粗しょう症による骨折、糖尿病に伴う動脈硬化症、高血圧に伴う虚血性心疾患等の高齢者の主要な疾患について、これら疾患の発生機構の解明に基づき、自己組織の自律的な修復能力を高めることによる治療方法の実現を目指す。

(a) 自己修復能力を用いた治療法の確立には、組織工学技術を用いて自己組織から人工的に組織を構築する方法と他人より採取された組織等を用いて、自己組織の修復を促す方法を検討する。これらの培養組織の品質を確保するために必要な技術開発及び他人より採取された組織等を用いる場合に必要な拒絶反応の克服に関する研究を行う。

(b) 自己修復能力を用いた治療法を実現するためには、細胞・組織を大量に増やす技術等の開発が必要であり、これらの開発を集中的かつ効率的に行う。

(主たる実施機関)

・骨・軟骨 − 北里大学、藤田保健衛生大学、京都大学再生医科学研究所
・血管 − 国立循環器病センター、東京大学、大阪大学、慶應義塾大学
・神経 − 国立精神・神経センター、東京大学、大阪大学、京都大学、
岡山大学
・皮膚・角膜 − 杏林大学、日本医科大学、北里大学、防衛医科大学、東京歯科大学
・血液・骨髄 − 国立がんセンター、名古屋大学、自治医科大学、名古屋第一赤十字病院
・移殖技術・品質確保技術 − 国立医薬品食品衛生研究所、九州大学、信州大学、京都大学再生医科学研究所、岡山大学

【発生・分化・再生科学総合研究】

(a) 高等生物の特徴的現象である、受精卵から個体への発生、細胞の機能分化、形態形成等に係る遺伝子制御システム等の解明を強力に推進し、先進的な再生医療の実現を図る。基礎的な成果をスムーズに医療等への応用に結びつけることを基本コンセプトとして、初期発生、組織・細胞の分化等の基礎的研究(発生のしくみ及び分化・再生のしくみの領域)から、ヒトの組織等の再生医療や遺伝子治療等を視野に入れた臨床応用研究(医療への応用の領域)までを、大学、研究機関、先端医療センター等との連携のもと、一貫して体系的に実施する。
 また、アルツハイマー病について、その発症・病体機構の解明、脳神経細胞の再生による根本治療技術の確立を図る。

(主たる実施機関)

・理化学研究所発生分化再生科学総合研究センター
・東京大学医科学研究所
・関西地区先端医療センター
・岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター
・熊本大学発生医学研究センター
・京都大学再生医科学研究所
・大阪大学細胞生体工学センター
・アルツハイマー病 − 理化学研究所脳科学総合研究センター、東京大学、大阪大学、順天堂大学

(b) ヒト由来の体細胞を出発点として、この細胞から他種類の細胞を三次元的に組織化培養し、高次な機能と構造を持つ細胞組織モジュール7を形成する技術及びその状態を評価・測定するための技術を確立する。

(主たる実施機関)

・産業技術融合領域研究所

 (3) イネゲノム

【イネゲノムの有用遺伝子解析】

 国の試験研究機関を中心にしてイネゲノムの有用遺伝子解明に必要な塩基配列の解析、完全長cDNAライブラリーの整備を行い、これらの成果を基に、産学官連携による機能性物質生成関連遺伝子や病虫害抵抗性遺伝子などの有用遺伝子の単離・機能解明、育種の効率化・高度化を促進する。

(主たる実施機関)

・農業生物資源研究所、(社)農林水産先端技術産業振興センターを中心に、理化学研究所、大学、民間の参画を得て実施

【実用化に向けた技術開発】

 イネゲノム研究の成果等の最新の知見を基に、産学官共同研究や民間等への委託研究などを活用しつつ、実現目標の達成に向けた実用化技術の開発を進める。

(主たる実施機関)

・生物系特定産業技術研究推進機構

 (4) 安全性の確保と国民の理解の促進

・疾患関連・薬剤反応遺伝子解析研究を実施するに当たって、必要な個人情報の保護及び生命倫理の確保を図るためのガイドラインを策定する。

・バイオテクノロジーの安全性を確保し、国民の理解の増進のため、安全性関連データの整備、安全性評価手法の高度化、ガイドラインの作成等を行う。

・DNA検出技術の高度化により遺伝子組換え食品の表示の適正化を図るとともに、2000年度中に、消費者の疑問や要請に応える試験・実験と遺伝子組換え食品等に関する情報提供の仕組みを構築する等により、国民の理解を促進する。

 (5) 関連する事業

(a) 微生物ゲノム解析

 有用アミノ酸製造等我が国が優位性を持つ分野で鍵となる産業有用微生物のゲノム解析を加速する。特に有用性の高い好熱菌及びコリネ菌8の解析を2001年までに終了し、データを公開する。

(主たる実施機関)

・製品評価技術センター
・奈良先端科学技術大学院大学

(b) ヒトモデル動物(マウス)ゲノム解析

 ヒトモデル動物(マウス)の完全長cDNAの構造・機能解析を行う

(主たる実施機関)

・理化学研究所ゲノム科学総合研究センター

(c) 植物ゲノム解析

 イネ以外の植物のゲノム解析及び関連研究を実施する。これにより、イネゲノム解析と相まって、高機能作物や低農薬作物の開発を行う。

(主たる実施機関)

・理化学研究所植物科学研究センター
・筑波大学遺伝子実験センター
・奈良先端科学技術大学院大学

(d) 生物遺伝資源の供給体制の整備

 生命科学の研究開発や事業化に必要な生物遺伝資源の収集と供給体制を整備するとともに、生物遺伝資源の種類ごとの専門性を踏まえた国の機関を整備する。

(主たる実施機関)

・実験動物等の収集・保存・提供 − 理化学研究所バイオリソースセンター
・産業上有用な微生物標準株の整備 − 製品評価技術センター

(2) 推進体制

 (1) 推進体制の整備

(a) 関係各省庁間の強固な連携体制の下、プロジェクトの円滑かつ効率的な実施のため、各個別事業の研究代表者から構成されるプロジェクト・チームを「ヒトゲノム多様性」、「疾患遺伝子」、「バイオ・インフォマティクス」、「発生・分化・再生」、「イネゲノム」の部門毎に設けるとともに、各プロジェクト・チーム・リーダーからなる「バイオ・ミレニアム実施会議(仮称)」を開催する。特に、「ヒトゲノム多様性」「疾患遺伝子」両プロジェクト・チームは、関連しており、合同開催等により密接な連携を図る。また、プロジェクトについて第三者の立場から評価・助言を行う「バイオ・ミレニアム評価・助言会議(仮称)」を開催する。(「評価・助言会議」については、評価の仕組みを参照。)

(b) 各プロジェクト・チームは、チームリーダーの下、個別事業毎の研究代表者により構成され、各事業間、各実施機関間の連携、進度調整や研究成果の相互利用等の事業調整、積極的な情報交換を行う。また、実施会議は、プロジェクト間の全体的な調整を行う。

(c) 実施会議、評価・助言会議及び5プロジェクト・チームを事務局として支えるとともに、プロジェクトに係る行政施策の調整を行うため、「バイオ・ミレニアム関係省庁連絡会議」を設ける。
 連絡会議は、内閣内政審議室、科学技術庁、文部省、厚生省、農林水産省及び通商産業省の担当局長レベルで構成し、内閣内政審議室の調整の下に運営する。また、課長レベルの幹事会を設ける。

 (2) 民間部門の参画方法について

【民間部門の結集】

・研究、実用化、データベース公開等ゲノム関連の全段階において、民間部門の参画を確実かつ効率的に行うために、関係民間企業が結集したバイオ産業情報化コンソーシアム(JBIC)が、本プロジェクトを機に、設立が決定されており、本コンソーシアムが窓口の中心的役割を担い、研究実施機関への企業研究者の派遣、共同研究等の円滑化を図る。

【研究段階】

・研究段階においては、研究実施機関への企業研究者の受け入れ、また、研究実施機関と企業との共同研究等により、研究活動を推進し、研究成果は、予め取り決められた契約等に従い、実施機関側と企業研究者もしくは企業との共有とする。

【実用化段階】

・実用化段階においては、実用化開発実施機関から企業への委託もしくは企業との共同研究により、企業化を推進する。特に、先端医療分野においては、ベンチャー企業の活躍の余地が大きいことから、ベンチャー企業の参画について留意する。

・企業との共同研究の結果、取得された特許権等については、予め取り決めた契約に従い、共有とするなどの措置を講じる。委託研究の場合は、可能な限り、産業活力再生特別措置法第30条の規定を適切に適用して民間企業に帰属させることを進める。

・研究成果の企業化については、企業化に必要な追加的な研究開発を実施したり、当該研究成果を基にしたベンチャー企業の設立を支援するなどの措置を講じていく。

【解析データ】

・標準多型情報データベースをはじめネットワーク化された各種情報データベースは、速やかに一般に公開し、広く成果を民間に還元する。

 (3) 新たな研究体制の整備

(a) 新たな研究開発システムの導入

 研究者の独創性を最大限に発揮するとともに、基礎から応用までを関係機関の連携のもと、一貫して行い、成果を迅速に実用化することを目指す研究開発システムを構築する。

(主たる実施機関)

・理化学研究所遺伝子多型情報応用医科学研究センター、発生・分化・再生科学総合研究センター、植物科学研究センター

(b) 先導的な研究拠点等の整備

 戦略的・重点的研究開発プロジェクトを関係機関とタイアップして行う大学等の研究機関及び関連研究推進体制を重点的に整備する。また、優れた研究開発能力を持つ私立大学とベンチャー企業等とが行う産学共同研究を推進する。

(主な研究拠点)

・東京大学医科学研究所
・京都大学再生医科学研究所
・岡崎国立共同研究機構統合バイオセンター
・熊本大学発生医学研究センター
・筑波大学遺伝子実験センター
・奈良先端科学技術大学院大学

(c) 優れた若手研究者や外国人研究員の積極的活用を図る。

 (4) 年次計画

「ヒトゲノム、イネゲノム」の年次計画図

4 評価の仕組み

(1) 評価機関

 プロジェクトの効率的、効果的な実施を担保し、厳格かつ透明性を確保した評価・助言を行うため、「プロジェクト評価・助言会議(仮称)(以下、評価会議)」を設ける。
 委員会は、関係審議会等の代表とその他の有識者から構成される。議長は科学技術会議の委員が担当する。

(2) 評価の内容

 (1) 各プロジェクトの実施にあたって、作成される目標及び進め方に関する計画(実施計画)について、助言するとともに、これを基に中間評価を毎年実施し、プロジェクト終了後に最終評価を行う。
 プロジェクト毎に進捗状況報告書を作成し、評価委員会に説明する。これを受け評価委員会は、内外の技術動向や経済・社会の動向を踏まえて、実施の妥当性とその進捗を客観的な評価基準により評価する。
 中間評価では目標達成に向けた進捗度を、最終評価では目標が達成されたか否かと達成されなかった場合はその原因を明らかにする。

 (2) 中間評価については、評価結果を次年度予算等に反映させるため、各省庁が予算要求を行う前の春頃に毎年実施する。最終評価については、プロジェクト終了後の平成17年度の春頃に実施する。

 (3) 評価結果の取扱い

 評価の結果は報告書を作成し、公表し、透明性を確保する。
 評価の結果を受けて、各省庁を含めプロジェクト実施者は速やかに事業の見直し等に着手し、実行に移すこととし、その内容を評価委員会に報告することとする。
 評価・助言委員会における評価は、プロジェクト実施者の見直し等が適切に実施されなかったと判断した場合における、プロジェクトの即時中止までを含む。


1 【ヒトゲノム】人間の遺伝情報の基本的な一組
2 【多様性】遺伝子の塩基配列の個人差
3 【完全長cDNA】complementary DNA(相補デオキシリボ核酸)の略。cDNAはDNAのうち遺伝子領域のみにより構成され、完全長DNAは、1つの遺伝子情報を全てを含んだもの。
4 【SNPs】Single Nucleotide Polymorphisms(一塩基多型)の略。ゲノム上の塩基配列の中で人種や個人(例えば健康な人と病気の人)間で異なる塩基を持っている現象及びゲノム上のその部位。
5 【タンパク質分離チップ】シリコンなどの基板上で、細胞内の極微量のタンパク質を効率よく分離することを可能とする措置。
6 【アレル頻度解析】標準SNPsマーカー解析により発見されたSNPsについて、どの程度の頻度で多様性が現れるかについての解析。
7 【細胞組織モジュール】生体組織の高度な機能が発現された細胞を複数種培養し、三次元的に構築したもの。
8 【コリネ菌】好気性、無胞子、非運動性の槹菌(棒状又は円筒形の細菌の総称)。



健康で安心して暮らせる高齢化社会の実現




医療分野




プロジェクト実施機関


戻る