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                今後の産業廃棄物対策の基本的方向について



                         平成8年9月

                  生活環境審議会廃棄物処理部会
                  産業廃棄物専門委員会

                           目  次


第1 はじめに

第2 現状と問題点
  1.大量に排出され続ける産業廃棄物
 2.最終処分場の逼迫
 3.不適正処理等産業廃棄物処理をめぐる問題
  (1)最終処分場等処理施設の問題
  (2)排出事業者の問題
  (3)処理業者の問題
  (4)行政の問題
  4.不法投棄の状況
  5.住民の不信感の高まりと地域紛争の多発
 6.地方公共団体による要綱規制
 7.原状回復の状況

第3 今後の施策の基本的な考え方
 1.循環型社会への転換
 2.悪循環を断ち切る総合的な対策の実施
 3.関係者の役割分担に応じた適切な取組みの推進

第4 今後の施策の具体的な方向
 1.廃棄物の減量化・リサイクルの推進
  (1)廃棄物減量化のための国の基本方針の策定等
  (2)リサイクル推進のための規制緩和
  (3)リサイクル市場の拡大等環境整備

 2.産業廃棄物処理に関する信頼性と安全性の向上
  (1)最終処分場等の安全対策の充実・強化
   1処理体系の見直しと基準の強化
   2最終処分場の閉鎖や跡地利用に係る規制の見直し
   3有害廃棄物対策の強化
  (2)施設の設置手続の明確化・透明化
  (3)情報公開の推進
  (4)最終処分場に係る長期的な維持管理の確保
  (5)処理業者の質の向上
  (6)排出事業者による委託処理の適正化
 3.不法投棄対策の強化
  (1)マニフェスト制度の拡充
  (2)罰則の強化等
  (3)排出事業者の責任強化
  (4)その他
 4.原状回復措置
  (1)仕組み
  (2)費用負担のあり方
    (3)その他
 5.その他
  (1)廃棄物処理法の運用の見直し
  (2)廃棄物処理センターの設置促進等
  (3)研究開発の推進
  (4)廃棄物問題に関する意識の向上

第5 おわりに

産業廃棄物専門委員会委員名簿
参考資料

              今後の産業廃棄物対策の基本的方向について


第1  はじめに

 我が国は物質面では世界の中で有数の豊かな国となったが、その過程で大量生産・大
量消費を基調とする経済活動や生活様式が定着し、資源の浪費につながる「使い捨て文
化」を生み出すこととなった。私たちが日々文化的な生活を営む上で欠かすことのでき
ない各種のインフラや製品は産業活動によってもたらされているが、こうした産業活動
に伴い必ず産業廃棄物は生じるものである。大量生産・大量消費社会の下で一般廃棄物
も含め廃棄物が大量に排出され続けており、私たちが今後とも現在享受している生活レ
ベルを維持し、より豊かな生活を営むためには廃棄物の存在を無視することはできなく
なっている。
  しかし、このような大量生産・大量消費社会については、ひとりわが国のみならず地
球環境の保全等の観点からの見直しが求められており、将来の世代のために私たちが預
かっている環境の保全や貴重な資源の節約を図り、将来にわたる持続的な発展を維持し
ていくことができる社会へ構造転換を図っていく必要がある。こうした中で、廃棄物の
処理についても、廃棄物の発生抑制を図るとともに、これを資源として有効に活用する
循環型の社会経済システムへ大転換を図っていく必要がある。
  このような循環型の社会経済システムへの転換を目指すとしても、現に廃棄物が生じ
ており、またどうしても最終処分等を行わざるをえない廃棄物もあり、これらの廃棄物
の適正な処理を確保していくことは、産業界のみならず国民的な課題として避けて通る
ことのできない重要な問題である。しかし、このような廃棄物の処理の問題については
「目の前から廃棄物がなくなりさえすればよい」というような意識が事業者のみならず
国民の間にも根強くあるところであるが、その一方では自分の近いところに処理施設が
できるのは反対との感情が極めて高くなっており、必要な処理施設の確保すら困難な状
況となっている。
  こうした中で、廃棄物の処理をめぐっては、不法投棄をはじめ不適正な処理がなされ
るケースが跡を絶たず、その結果、さらに最終処分場等処理施設の確保が困難になるな
ど適正処理を確保する環境整備が十分でないといった悪循環に陥っており、このままで
は生活環境や産業活動に重大な支障を生じかねないという深刻な問題を抱えるところと
なっている。
 廃棄物をめぐる様々な問題の解決は、21世紀に向けて、私たちがわが国の良好な生
活環境を次の世代に引き継いでいくのみならず、人類の生存基盤と一体的かつ不可分な
関係にある地球環境を保全していくとともに、私たちの豊かな社会を支える健全な産業
活動を維持していく上で、国民ひとりひとりにとって避けて通れない状況にあり、その
解決に向けて、まさに国民的課題として総力を挙げて取り組んでいかなければならない
。
 本委員会においては、このような認識の下、特に問題が山積しており早急な対応が求
められている産業廃棄物を中心に、今後の対策のあり方について検討を行い、今般、そ
の結果を取りまとめたものである。

第2 現状と問題点

 1.大量に排出され続ける産業廃棄物
 産業活動に伴い排出される産業廃棄物の量は、大量生産・大量消費社会を背景に増え
続け、昭和60年度の排出量が約 3.1億tであったのに対し、平成5年度においては約4
億tとなっている。
 また、わが国は天然資源に恵まれないため、原材料を諸外国から輸入し、製品に加工
し、これを輸出することにより経済を維持していることもあり、その物質収支をみると
、毎年約 7.5億tの物質が輸入され、そのうち燃料や食料として消費、発散される分や
製品等として輸出される分を除くと、約   1.5億tが製品や建築物等の形で国内に蓄積
されており、これらはいずれ最終処分等何らかの形で廃棄物として処理されなければな
らないという経済構造になっているとの報告もある。
 こうした量の増大だけでなく、産業廃棄物の質の面についても、近年、産業の高度化
・ハイテク化に伴い、トリクロロエチレン等の新たな有害廃棄物の問題が発生するなど
その性状に変化がみられる。

 2.最終処分場の逼迫
 事業活動に伴い事業場等から排出される産業廃棄物は、焼却等の中間処理により全体
の約40%が減量化、約39%が工業原料、建設資材等としてリサイクルされ、残りの約21
%に相当する約8千万tが1年間で最終処分されている。最終処分量を減らし、循環型
の社会を形成するには、リサイクル等により減量化を進めていくことが重要であるが、
産業廃棄物のリサイクル率はここ10年間をみても約40%前後で頭打ちの状況が続いて
いる。
 こうした状況の中で、産業廃棄物の最終処分場は、新規立地が困難となっていること
から、その残余容量は逼迫しており、最終処分量との対比では、最終処分場残余容量は
全国平均で約 2.3年分となっている。また、これを首都圏でみると、約 0.8年分となっ
ており、圏域内での処理は事実上できない状況にある。
 さらに、近年、最終処分場の新規立地数は減少傾向にあり、新設数がこのままの状況
で推移すれば、廃棄物のリサイクルを徹底し最終処分量を一定に保ったとしても、2010
年頃には残余容量がゼロになるという推計もあり、我が国の健全な社会システムの維持
に重大な支障が生じかねない状況にある。

 3.不適正処理等産業廃棄物処理をめぐる問題

  (1)最終処分場等処理施設の問題
 産業廃棄物を適正に処理するため必要な最終処分場等の処理施設については、例えば
、安定型処分場に安定型廃棄物以外の廃棄物が混入し、周辺環境を汚染する等の例がみ
られることから、このような処理実態を踏まえて、施設や処理の基準の充実・強化を図
るべきとの声が強い。また、廃棄物処理施設の許可の対象外であるいわゆる「ミニ処分
場」がいくつもつくられ、そこで不適正処理が行われるケースが多いという指摘もある
。
 最終処分場については、特に管理型処分場について埋立終了後も水処理施設を稼働さ
せる等の長期的な維持管理が必要であることから、設置者の倒産等により維持管理が継
続できなくなった場合に対する住民の不安が大きい。しかし、現行法上そのような場合
に対する手当てがないことから、住民の不安に対し応えるものがなく、このことが施設
の立地を困難なものとする一因にもなっている。また、その跡地の利用についても、規
制が十分に整備されていないことにより、安易な跡地の土地開発に伴いガス発生のよう
なトラブルが発生するなどの例がみられる。
 また、中間処理施設についても施設の処理能力を超える廃棄物が受け入れられ、実質
上野積みと変わらないような不適切な保管が行われたり、「野焼き」が行われる等不適
正処理の事例もみられる。

   (2)排出事業者の問題
 排出事業者は、本来、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正
に処理しなければならず、自ら処理しない場合には処理業者への委託により処理を行う
こととされている。しかし、委託に際して、廃棄物の内容や処理方法等の必要な情報提
供が行われないために、処理業者において適正に処理できないというケースがみられる
。
 また、一部の排出事業者においては、処理料金のみを重視し、適正な処理を行うこと
のできる処理業者であるか十分な確認を行わないまま安易に委託し、不適正な処理が行
われたり、無許可業者へ委託を行うケースもみられ、企業規模の大小を問わず排出事業
者の適切な取組みが求められている。

  (3)処理業者の問題
 産業廃棄物の処理を行う処理業者は、産業廃棄物の扱いを一歩間違えると周辺の生活
環境保全上重大な問題を招くこともあり、環境を守る専門業者としての高いモラルと技
術力が求められるが、一部で不法投棄等の不適正処理を行う悪質な業者の例もあり、全
体的な質の向上が求められている。
 また、処理業者の中には、適正な処理コストを処理料金に十分に反映させずに受託す
る者もあり、その結果、不適正な処理が行われている例があるとの指摘もある。

  (4)行政の問題
 産業廃棄物の処理に関する国の基準や、業の許可に当たっての審査、排出事業者や処
理業者に対する都道府県の指導監督、不適正処理を行う者の取締りなどが必ずしも十分
ではないことから、不適正処理が生じてきたこと等の実態を踏まえ、適正処理を徹底す
るため、基準、指導監督、取締り体制及び審査体制の充実・強化を図るべきとの声も強
い。
 また、適正処理の確保に必要な環境整備に向けて、国は広域処理の実態を踏まえて処
理施設の適正配置を検討し、関連諸法制度との調整を図り、一方、地方自治体にあって
も、地域整備や産業立地の推進と併せて、産業廃棄物処理施設の整備を図るべきである
との指摘もある。

 4.不法投棄の状況
 産業廃棄物の不法投棄は、平成6年の検挙件数が 349件にのぼるなど依然として跡を
絶たず、住民の産業廃棄物に対する不信感を生じさせる大きな要因となっている。
 このような不法投棄の実行者の内訳は、平成6年度厚生省調査によると、その40%が
排出事業者、13%が無許可業者、6%が処理業者、残りの35%が投棄者不明のケースと
なっている。
 このように不法投棄が横行する背景には、罰金額に比較して、不法投棄に伴う不当利
得が大きいため、「棄て得」が生じており、罰則による抑止効果が十分働いていないこ
とがある。
 また、不法投棄の防止を図るため、平成3年の廃棄物処理法改正により導入されたマ
ニフェスト制度については、法律上その対象範囲が特別管理産業廃棄物に限定されてお
り、また、紙の帳票による管理であるため廃棄物の移動の把握に時間を要するなど排出
事業者や都道府県における管理が徹底せず、不法投棄の防止対策として必ずしも十分に
機能していないとの指摘も強い。

 5.住民の不信感の高まりと地域紛争の多発
 産業廃棄物処理施設の設置に当たっては、地域住民の理解が重要であるが、近年の環
境意識の高まりに伴い、処理施設に対して住民が求める水準が高まってきており、より
安全でクリーンな施設が求められている。
 他方、産業廃棄物や産業廃棄物処理施設については、不法投棄や不適正処理の横行等
によりイメージが悪化しており、国民の間に根強い不信感が生じている。
 こうしたことを背景に、産業廃棄物処理施設の設置をめぐり、この10年間に 200件
を超える紛争事例が生じており、また、平成8年7月時点で紛争継続中のものが 100件
近くにのぼるなど、全国各地で地域紛争が多発している。

 6.地方公共団体による要綱規制
 多くの都道府県においては、現行の廃棄物処理法上生活環境について住民の意見を反
映させる明確な規定がないことや不適正処理の横行、住民の不信感の高まり等を背景に
、地域の生活環境の保全を図るため、同法による規制に加え、要綱等に基づき、住民同
意の取得の義務づけや他県からの廃棄物の受入規制、施設の立地規制等の規制が行われ
ている。
 しかし、このような要綱等による規制については、産業界や処理業界からは、都道府
県ごとに処理方法や手続きが異なったり、他県からの廃棄物の受入規制が行われている
ためリサイクルを含め産業廃棄物の広域的な処理の推進が阻害されているとの意見や、
住民同意の取得等により、施設の設置許可に係る事前手続に4〜5年をかけても事業実
施の見込みが立たず、大きな投資の損失があるばかりでなく、結局、施設の設置ができ
なくなるなどの声がある。
 このような要綱等に基づく行政指導については、行政運営の公正の確保や透明性の向
上の観点から行政手続法が制定されたところでもあり、その趣旨を踏まえた適切な対応
が求められていることのほか、要綱等に基づく行政指導については、法律に基づくもの
ではないため都道府県からも事業者に対する指導に限界があるとの意見が出されている
状況にある。また、民間による最終処分場の設置の行き詰まりを打破し、モデル的な施
設を設置するものとして、平成3年の廃棄物処理法の改正により創設された廃棄物処理
センターは、平成4年の「産業廃棄物の処理に係る特定施設の整備の促進に関する法律
」の制定を背景に、わずか2〜3年のうちに8県で設立・指定され、設立を検討中の県
が10数県にのぼるなど計画は急速に進展してきているが、住民同意が得られないこと
から、最終処分場が設置されているところは1県のみとなっている。

 7.原状回復の状況
 廃棄物が不法投棄された場合には、都道府県知事が投棄者に対し措置命令を行う等に
より原状回復を行わせることとなっており、平成3年の廃棄物処理法の改正の措置命令
権の強化により、措置命令はそれまで年間数件しか発動されていなかったのに対し、改
正法施行後の件数は不適正処理に対するものも含め年間80件程度となっており大きく進
展しているが、投棄者が不明等であるため原状回復を行わせることができないケースも
多く、平成6年度厚生省調査によると、その件数は不法投棄全体の約35%を占めている
。
 こうした場合、不法投棄された廃棄物がそのまま放置されることとなれば地域の生活
環境保全上の支障が生じるため、やむを得ず地方公共団体が原状回復を行わざるを得な
い場合も多く、原状回復のシステムを確立し、これを円滑に推進するための基金の創設
を求める意見が強い。
 このような廃棄物が不法に処分された場合における適切かつ迅速な原状回復のための
方策については、平成3年の廃棄物処理法改正の際附則に規定されており、政府におい
ても廃棄物の処理の実態を勘案して速やかに検討することとなっている。


第3  今後の施策の基本的な考え方

  1.循環型社会への転換
 現在の最終処分場の逼迫や不適正処理など産業廃棄物をめぐる様々な問題を解決し、
生活環境の保全を図るとともに、地球環境への負荷を低減させていくためには、まず、
廃棄物として処理しなければならない量を減らしていくことが重要である。しかし、産
業廃棄物の減量化やリサイクルについては、その必要性が叫ばれて久しいにもかかわら
ず、必ずしも十分に進んでいるとは言えない状況にある。
 こうしたことから、今後、廃棄物の排出抑制をさらに徹底するとともに、リサイクル
を強力に推進し、廃棄物を可能な限り資源として有効に活用する「循環型社会」へ社会
経済システムの転換を図っていく必要がある。
 産業界においても、リサイクルを経営上の重要課題とし、廃棄物の削減やリサイクル
に取り組むこと等を内容とする環境アピールが採択されたところであり、今後、益々こ
のような事業者の自主的取組みが充実されることも大きく期待されるところである。

 2.悪循環を断ち切る総合的な対策の実施
 排出抑制やリサイクルを強力に推進したとしても、現在の科学技術水準を前提にすれ
ば最終処分等の必要な産業廃棄物をゼロにすることは困難であり、産業廃棄物処理施設
の確保は健全な産業活動や良好な生活環境を維持する上で不可欠であるが、処理施設の
確保が困難になるなどの問題の背景には、現在の施設・運営のあり方や不法投棄等の不
適正処理の横行等に起因する国民の産業廃棄物に対する不信感が極めて高くなっている
こともあり、産業廃棄物の処理に対する信頼回復を図り、この不信感を取り除いていく
必要がある。
 このような産業廃棄物に対する不信感の下で、施設の設置をめぐる地域紛争が激化し
ており、その結果、施設の立地がますます困難化し、施設の不足が不法投棄等の不適正
処理を惹起し、住民の不信感をさらに高めるという産業廃棄物の処理をめぐる悪循環に
陥っている。したがって、産業廃棄物の処理をめぐる諸問題を解決し、産業廃棄物に対
する国民の理解を得るとともに、処理に対する不安を解消し、信頼の回復を図るために
は、この悪循環を断ち切る総合的な対策を講じていく必要がある。
 また、現在の産業廃棄物をめぐる様々な問題は、産業廃棄物に対する規制や運用が処
理の実態や減量化・リサイクル推進の要請、環境意識の高まり等の産業廃棄物をめぐる
状況の変化に適合しない面が生じていることも一因となっていることから、これを根本
的に見直していく必要があると考えられる。
NO2に続く
    問い合わせ先 厚生省生活衛生局水道環境部計画課
     担 当 岩屋(内4007)
          電 話 (代)[現在ご利用いただけません]


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